IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人理化学研究所の特許一覧

<>
  • 特開-光音響顕微鏡及び光音響計測方法 図1
  • 特開-光音響顕微鏡及び光音響計測方法 図2
  • 特開-光音響顕微鏡及び光音響計測方法 図3
  • 特開-光音響顕微鏡及び光音響計測方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048176
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】光音響顕微鏡及び光音響計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/06 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
G01N29/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154072
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 真幸
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 究
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 徳人
(72)【発明者】
【氏名】和田 智之
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA08
2G047BB06
2G047BC03
2G047CA04
2G047FA01
2G047GD02
2G047GE01
(57)【要約】
【解決手段】光音響顕微鏡は、近赤外光源から出射した近赤外光を計測対象に照射する照明光学系と、前記計測対象が近赤外光を吸収したことにより前記計測対象で発生した音響波を検出する音響波センサと、前記音響波センサと前記計測対象との間に設けられた音響整合材と、を備え、前記音響整合材は、前記照明光学系から前記計測対象に照射される近赤外光の光路中にあり、近赤外の波長域における光吸収率が予め定められた値より低い液体である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外光源から出射した近赤外光を計測対象に照射する照明光学系と、
前記計測対象が近赤外光を吸収したことにより前記計測対象で発生した音響波を検出する音響波センサと、
前記音響波センサと前記計測対象との間に設けられた音響整合材と、
を備え、
前記音響整合材は、前記照明光学系から前記計測対象に照射される近赤外光の光路中に設けられ、近赤外の波長域における光吸収率が予め定められた値より低い液体である
光音響顕微鏡。
【請求項2】
前記音響整合材は、フッ素系不活性液体である
請求項1に記載の光音響顕微鏡。
【請求項3】
前記音響整合材は、オイル類である
請求項1に記載の光音響顕微鏡。
【請求項4】
近赤外の波長領域において、前記音響整合材の光吸収率は水の光吸収率より低い
請求項1から3のいずれか一項に記載の光音響顕微鏡。
【請求項5】
前記音響整合材は、前記計測対象に応じて決定される粘度を有する
請求項1から3のいずれか一項に記載の光音響顕微鏡。
【請求項6】
前記照明光学系は、
前記近赤外光源から出射した近赤外光が入射し、リング状の近赤外光を出射する第1光学系と、
前記リング状の光を集光して前記計測対象に照射する第2光学系と、
を備え、
前記音響整合材は、前記第2光学系から前記計測対象に照射される近赤外光の光路中に設けられる
請求項1から3のいずれか一項に記載の光音響顕微鏡。
【請求項7】
前記照明光学系から前記計測対象に照射される近赤外光の光路中であり、前記音響整合材との境界に設けられるガラス部材
をさらに備える請求項5に記載の光音響顕微鏡。
【請求項8】
前記近赤外光源から出射する前記近赤外光の波長は1350nmから1650nmのうちのいずれかの波長であり、前記計測対象はセルロース繊維添加バイオプラスチックである
請求項1から3のいずれか一項に記載の光音響顕微鏡。
【請求項9】
音響波センサと計測対象との間に、音響整合材を設ける段階と、
近赤外光源から出射した近赤外光を前記計測対象に照射する段階と、
前記計測対象が近赤外光を吸収したことにより前記計測対象で発生した音響波を前記音響波センサで検出する段階と、
を備え、
前記音響整合材は、前記計測対象に照射される近赤外光の光路中に設けられ、近赤外の波長域における光吸収率が予め定められた値より低い液体である
光音響計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響顕微鏡及び光音響計測法に関する。
【背景技術】
【0002】
光を物体に照射することにより生じる物体の応答に基づいて画像化する技術が知られている。例えば、物体に光を照射し、照射した光によって生じた音響波を検出して画像化する光音響顕微鏡が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
[先行技術文献]
[非特許文献]
[非特許文献1] Muhammad Rameez Chatni et al., 「Functional photoacoustic microscopy of pH」, Journal of Biomedical Optics, 2011年10月, Vol. 16(10), pp.100503-1-100503-3
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1の態様においては、光音響顕微鏡が提供される。光音響顕微鏡は、近赤外光源から出射した近赤外光を計測対象に照射する照明光学系と、前記計測対象が近赤外光を吸収したことにより前記計測対象で発生した音響波を検出する音響波センサと、
前記音響波センサと前記計測対象との間に設けられた音響整合材と、を備える。前記音響整合材は、前記照明光学系から前記計測対象に照射される近赤外光の光路中に設けられ、近赤外の波長域における光吸収率が予め定められた値より低い液体である。
【0004】
前記音響整合材は、フッ素系不活性液体であってよい。
【0005】
上記いずれかの光音響顕微鏡において、前記音響整合材は、オイル類であってよい。
【0006】
上記いずれかの光音響顕微鏡において、近赤外の波長領域において、前記音響整合材の光吸収率は水の光吸収率より低くてよい。
【0007】
上記いずれかの光音響顕微鏡において、前記音響整合材は、計測対象に応じて決定される粘度を有してよい。
【0008】
上記いずれかの光音響顕微鏡において、前記照明光学系は、前記近赤外光源から出射した近赤外光が入射し、リング状の近赤外光を出射する第1光学系と、前記リング状の光を集光して前記計測対象に照射する第2光学系と、を備え、前記音響整合材は、前記第2光学系から前記計測対象に照射される近赤外光の光路中に設けられてよい。
【0009】
上記いずれかの光音響顕微鏡は、前記照明光学系から前記計測対象に照射される近赤外光の光路中であり、前記音響整合材との境界に設けられるガラス部材をさらに備えてよい。
上記いずれかの光音響顕微鏡において、前記近赤外光源から出射する前記近赤外光の波長は1350nmから1650nmのうちのいずれかの波長であり、前記計測対象はセルロース繊維添加バイオプラスチックであってよい。
【0010】
本発明の第2の態様においては、光音響計測方法が提供される。光音響計測方法は、 音響波センサと計測対象との間に、音響整合材を設ける段階と、近赤外光源から出射した近赤外光を前記計測対象に照射する段階と、前記計測対象が近赤外光を吸収したことにより前記計測対象で発生した音響波を音響波センサで検出する段階と、を備える。前記音響整合材は、前記計測対象に照射される近赤外光の光路中に設けられ、近赤外の波長域における光吸収率が予め定められた値より低い液体である。
【0011】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る光音響顕微鏡10の構成を概略的に示す。
図2】光吸収係数の波長依存性を示すグラフである。
図3】他の実施形態に係る光音響顕微鏡30の構成を概略的に示す。
図4】一実施形態における光音響計測方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
図1は、一実施形態に係る光音響顕微鏡10の構成を概略的に示す。光音響顕微鏡10は、いわゆるAR-PAM(音響分解能光音響顕微鏡)である。計測対象190は、光音響顕微鏡10の計測対象となる物体である。光音響顕微鏡10は、近赤外光源12と、光ファイバ14と、照明光学系100と、ガラス部材150と、音響波センサ160と、音響整合材170とを備える。
【0015】
照明光学系100は、反射型コリメータ110と、アキシコンレンズ120と、アキシコンレンズ130と、集光鏡140とを備える。反射型コリメータ110、アキシコンレンズ120及びアキシコンレンズ130は、近赤外光源12から出射した近赤外光が入射し、リング状の近赤外光を出射する第1光学系の一例である。集光鏡140は、第1光学系が出射したリング状の光を集光して計測対象190に照射する第2光学系の一例である。
【0016】
近赤外光源12は、近赤外光を発する。近赤外光源12は、例えば、近赤外の波長域のレーザ光を発するレーザ光源を含む。照明光学系100は、近赤外光源12が発した近赤外光を照射光として計測対象190に入射させる。
【0017】
具体的には、近赤外光源12が発した近赤外光は、光ファイバ14の一方の端部に入射し、光ファイバ14の他方の端部から発散光として出射する。反射型コリメータ110は、入射される発散光を反射することによってコリメートする。反射型コリメータ110は、発散光をコリメートする曲面形状の反射面を有する。反射型コリメータ110は入射光を反射することによってコリメートするので、異なる波長の照射光を使用する場合でも、波長の違いによって光軸AX方向で焦点がずれることを抑制することができる。
【0018】
反射型コリメータ110によってコリメートされた光は、アキシコンレンズ120に入射する。アキシコンレンズ120は、入射した光から、発散するリング状の光を形成して出射する。
【0019】
アキシコンレンズ120から出射したリング状の光は、アキシコンレンズ130に入射する。アキシコンレンズ130は、アキシコンレンズ130の円錐面132がアキシコンレンズ120の円錐面122に対向するように設けられる。アキシコンレンズ120及びアキシコンレンズ130は実質的に光学的対称性を有する。これにより、アキシコンレンズ130は、アキシコンレンズ120によって形成された発散するリング状の光から、リング状のコリメート光を形成する。コリメート光とは、実質的にコリメートされた光を意味してよい。アキシコンレンズ130は、少なくとも、アキシコンレンズ130に入射するリング状の光より平行度が高い光を形成する。
【0020】
照明光学系100によれば、反射型コリメータ110によってコリメートした光を、光学的対称性を有するアキシコンレンズ120及びアキシコンレンズ130に入射するので、実質的にコリメートされたリング状の光が得られる。これにより、照明光として波長域が異なる光を用いても、アキシコンレンズ130から出射する光をコリメートすることができる。アキシコンレンズ130から出射するリング状のコリメート光の内径や外径は、照射光の波長によって異なり得るが、波長による平行度の違いは小さい。
【0021】
集光鏡140は、アキシコンレンズ130により形成されたリング状のコリメート光を集光する。集光鏡140は、例えば放物面鏡である。集光鏡140は、入射した平行光を一点に集光するように、放物線の回転体で表される反射面142を持してよい。これにより、集光鏡140は、アキシコンレンズ130により形成されたリング状のコリメート光を、反射によって対象物の特定位置に集光させることができる。これにより、リング状のコリメート光の 集光位置や集光度の波長依存性を低減することができる。
【0022】
ガラス部材150は、照明光学系100から計測対象190に照射される近赤外光の光路中に設けられる。ガラス部材150は、音響整合材170に接触し得るように設けられる。具体的には、ガラス部材150は集光鏡140に設けられる。より具体的には、ガラス部材150は、集光鏡140の計測対象190側に設けられる。ガラス部材150は、近赤外光を透過する材料で形成される。音響波センサ160はガラス部材150に固定される。音響波センサ160は、音響波が入射する部位がガラス部材150から露出するように設けられる。集光鏡140からの光は、音響波センサ160の周囲のガラス部材150を通過した後、音響整合材170を通過して、音響整合材槽172内の計測対象190に入射する。
【0023】
音響整合材170は、少なくとも計測対象190と音響波センサ160との間に設けられる。具体的には、音響整合材170は、音響整合材槽172内に配された液体である。計測対象190は、音響整合材170に浸すように設けられる。音響波センサ160は、音響波センサ160において音響波が入射する部位が音響整合材170に接触するように設けられる。これにより、音響波センサ160は、音響整合材170によって計測対象190に音響的に結合する。
【0024】
音響波センサ160及び照明光学系100は、集光鏡140から計測対象190への光の集光位置と、音響波センサ160が有する音響レンズの焦点位置とが一致するように、位置合わせされる。例えば、光軸AX方向及び光軸AXに垂直方向におけるガラス部材150の位置を調整することにより、音響波センサ160の焦点位置と照明光学系100の集光位置とを位置合わせする。なお、本実施形態では、音響波センサ160が音響焦点を有するものとする。具体的には、音響波センサ160は、音響焦点を有する音響レンズを備えるものとする。しかし、音響波センサ160が音響焦点を有しない形態を採用してもよい。例えば、音響波センサ160が無限大の焦点距離を有する音響レンズを備える形態、又は、音響波センサ160が音響レンズを備えない形態を採用してもよい。
【0025】
集光鏡140からの光が計測対象190に入射すると、計測対象190内の集光位置に対応する特定の計測位置から、音響波としての超音波が発生する。計測対象190内で発生した音響波は、音響整合材170を伝搬して音響波センサ160に到達する。音響波センサ160は、音響レンズの焦点位置で発生した音響波の強度に応じた電気信号を生成する。音響波センサ160が生成した電気信号に基づいて、計測位置における音響波の強度を計測することができる。計測対象190内の計測位置を変えて音響波を計測することによって、計測対象190内の複数の計測位置のそれぞれで発生した音響波の強度に基づいて計測対象190の内部の画像を生成することができる。
【0026】
音響整合材170は、例えば、フッ素系不活性液体である。音響整合材170は、例えば、3M(登録商標)社から販売されるフロリナートシリーズのフッ素系液体、3M(登録商標)社から販売されるNOVEC(登録商標)シリーズのフッ素系液体、ソルベイ社から販売されるガルデン(登録商標)シリーズのフッ素系液体等であってよい。ガラス部材150は、BK7(ボロシリケートクラウンガラス)系材料、合成石英等のガラス材料で形成される。一般に、少なくとも近赤外の波長域においては、フッ素系不活性液体及びBK7等のガラス材料の光吸収率は、水の光吸収率より低い。そのため、光音響顕微鏡10によれば、音響整合材として水を使用する場合に比べて、計測対象190に入射する近赤外光の光量を高めることができる。
【0027】
計測対象190は、バイオマス素材を含む部材である。一例として、計測対象190は、バイオマス素材を含む樹脂である。例えば、計測対象190はセルロース繊維等のバイオマス繊維を含む樹脂である。具体的には、計測対象190は、セルロースナノファイバー強化樹脂等の、セルロース繊維添加バイオプラスチックである。計測対象190がセルロース繊維添加バイオプラスチックである場合、近赤外光源12から出射する近赤外光の波長は1350nmから1650nmのうちのいずれかの波長であってよい。一般に、セルロース繊維等のバイオマス素材は、近赤外の波長域の光を比較的に強く吸収する。そのため、近赤外光を照射光として用いることによって、計測対象190内のセルロース繊維の分布及び配向の計測精度を高めることができる。
【0028】
図2は、光吸収係数の波長依存性を示すグラフである。線210は、計測対象190として用いられ得る、20重量%のセルロース繊維を有するセルロース繊維添加バイオプラスチック(ポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート](P(3HB)))の光吸収係数の波長依存性を表す。線220は、セルロース繊維が添加されていないバイオプラスチック(P(3HB))の光吸収係数の波長依存性を表す。
【0029】
線210及び線220から理解されるように、波長1500nm付近の波長域において、セルロース繊維添加バイオプラスチックの光吸収係数とセルロース繊維が添加されていないバイオプラスチックの光吸収係数とに顕著な差が存在する。この光吸収係数の差は、セルロース繊維が波長1500nm付近の光を吸収することに起因する。したがって、計測対象190がセルロース繊維添加バイオプラスチックである場合、波長1500nm付近の波長域の照射光をセルロース繊維添加バイオプラスチックに入射させたときに生じた音響波を音響波センサ160で計測することで、セルロース繊維添加バイオプラスチック内におけるセルロース繊維の分布及び配向を示す情報を取得することができる。
【0030】
線200は、音響整合材170として使用され得るフッ素形不活性液体の光吸収係数の波長依存性を示す。線250は、ガラス部材150として使用され得るN-BK7の光吸収係数の波長依存性を示す。比較のため、水の光吸収係数の波長依存性を線280によって示す。
【0031】
線200、線250及び線280から理解されるように、水の光吸収係数と比較すると、フッ素形不活性液体及びN-BK7の光吸収係数は、少なくとも波長1500nm付近の波長域において極めて低い値を持つ。そのため、計測対象190がセルロース繊維添加バイオプラスチックである場合、フッ素形不活性液体を音響整合材170として用い、N-BK7をガラス部材150として用い、波長1500nm付近の波長域の光を照射光として用いることで、計測対象190に比較的に高い強度の照射光を入射させることができる。これにより、計測対象190で生じる音響波の強度を高めることができるので、セルロース繊維添加バイオプラスチック内におけるセルロース繊維の分布及び配向を示す情報を、より高い精度で取得することができる。
【0032】
図3は、他の実施形態に係る光音響顕微鏡30の構成を概略的に示す。光音響顕微鏡30は、近赤外光源12と、光ファイバ14と、照明光学系300と、音響波センサ160とを備える。光音響顕微鏡30が備える構成要素のうち、光音響顕微鏡10が備える構成要素に対応する構成要素については、光音響顕微鏡10が備える対応する構成要素に付された符号と同一の符号を付し、その説明の一部又は全てを省略する場合がある。
【0033】
照明光学系300は、コリメータレンズ310と、アキシコンレンズ320と、円錐台プリズム340とを備える。コリメータレンズ310及びアキシコンレンズ320は、近赤外光源12から出射した近赤外光が入射し、リング状の近赤外光を出射する第1光学系の一例である。円錐台プリズム340は、第1光学系が出射したリング状の光を集光して計測対象190に照射する第2光学系の一例である。
【0034】
近赤外光源12から光ファイバ14の一端に入射した照射光は、光ファイバ14の端部から出射し、コリメータレンズ310に入射する。コリメータレンズ310に入射した光は、コリメータレンズ310によって実質的にコリメートされた光を出射する。コリメータレンズ310から出射した光は、アキシコンレンズ320に入射する。アキシコンレンズ320は、入射した光から、発散するリング状の光を形成して出射する。
【0035】
アキシコンレンズ320から出射したリング状の光は、円錐台プリズム340に入射する。円錐台プリズム340は、円錐台の形状を有する。円錐台プリズム340は、例えばPMMA(ポリメチルメタクリレート)樹脂等の樹脂で形成され得る。円錐台プリズム340に入射したリング状の光は、円錐台プリズム340の内側面で全反射する。円錐台プリズム340の内側面で全反射した光は、円錐台プリズム340の光入射側の面とは反対側の面から出射して、音響整合材槽172内の計測対象190に入射する。
【0036】
音響波センサ160は、音響波が入射する部位が円錐台プリズム340の光出射側の面から露出するように、円錐台プリズム340に固定される。光音響顕微鏡10に関連して説明したように、計測対象190に入射した光を計測対象190が吸収することによって音響波が発生する。計測対象190で発生した音響波は、音響整合材槽172内の音響整合材170を伝搬して音響波センサ160に到達する。音響波センサ160は、検出した音響波の強度に応じた電気信号を生成する。音響波センサ160が生成した電気信号に基づいて、計測位置における音響波の強度を計測することができる。計測対象190内の計測位置を変えて音響波を計測することによって、計測対象190内の複数の計測位置のそれぞれで発生した音響波の強度に基づいて、計測対象190の内部の画像を生成することができる。
【0037】
光音響顕微鏡30によれば、光ファイバ14から出射した光をコリメートするためにコリメータレンズ310が使用される。加えて、計測対象190に向かう照射光は、円錐台プリズム340の内側面の反射によって形成される。そのため、光音響顕微鏡10と比べて、照射光の波長によって照射光の光軸AX方向の集光位置が変わり得る。加えて、光音響顕微鏡10と比べて、照射光の集光範囲が大きくなり得る。
【0038】
しかし、光音響顕微鏡30においても、光音響顕微鏡10に関連して説明したように、音響整合材170としてフッ素系不活性液体が使用されるので、音響整合材として水を使用する場合に比べて、計測対象190に入射する近赤外光の強度を高めることができる。これにより、近赤外光による計測対象190の計測精度を高めることができる。例えば、計測対象190がセルロース繊維添加バイオプラスチックである場合、計測対象190内のセルロース繊維の分布及び配向の計測精度を高めることができる。
【0039】
上記において、円錐台プリズム340を形成する材料としてPMMA樹脂を例示したが、円錐台プリズム340を形成する材料はPMMA樹脂に限られない。PMMA樹脂は、フッ素系不活性液体に比べると、近赤外の波長域における光吸収率が高い。PMMA樹脂に替えて、近赤外の波長域における光吸収率がより低い材料で形成された円錐台プリズム340を使用すれば、近赤外光による計測対象190の計測精度を更に高めることができる。
【0040】
光音響顕微鏡10及び光音響顕微鏡30に関連して、音響整合材170がフッ素系不活性液体である場合を取り上げて説明した。フッ素系不活性液体は、金属や樹脂等との適合性が高い。加えて、フッ素系不活性液体は粘度も低く、計測後に計測対象190に付着したフッ素系不活性液体を除去するための洗浄の手間がかからない。さらに、フッ素系不活性液体は毒性も低いため、取り扱いが容易になる。そのため、フッ素系不活性液体は、光音響顕微鏡で使用される音響整合材170に適している。
【0041】
しかし、音響整合材170はフッ素系不活性液体に限られない。音響整合材170として、近赤外の波長域において光吸収率が水の光吸収率より低い液体を適用してよい。例えば、音響整合材170は重水であってよい。重水は生体適合性が低いものの、計測対象190によっては重水を音響整合材170に適用し得る。その他、音響整合材170は、シリコーンオイル又は鉱油等のオイル類であってよい。オイル類は粘度が比較的高く、計測対象190によっては適合性が低くなり得る。しかし、例えばシリコーンオイル等のオイル類は粘度がある程度調整可能であり得る。そのため、計測対象190が粘度の影響を考慮しなくてよい場合は、オイル類を音響整合材170に適用し得る。このように、計測対象190に応じて音響整合材170を選択することで、音響整合材170の粘度が決定され得る。
【0042】
一般に、水素原子を含む官能基(OH、CH、NH)を含む材料の光吸収率は近赤外の波長域において高くなる。そのため、水素原子を重水素原子やフッ素原子等に置き換えたものを音響整合材170として適用することによって、音響整合材170が吸収する光の波長域をより長波長側へシフトさせることができるので、近赤外光を用いた光音響計測に適した材料となり得る。
【0043】
従来、光音響顕微鏡は、赤血球等の生物系の観測に使用され、照射光には可視光が用いられていた。これに対し、光音響顕微鏡10又は光音響顕微鏡30が備える構成によれば、照射光として近赤外光を適用することが可能になる。近赤外光は、可視光に比べて、計測対象内の深部まで到達し得る。そのため、照射光として近照射光を用いることで、上述したように近赤外光を吸収する部材を計測対象とする場合に好適となるだけでなく、計測対象内の深部を計測する場合にも好適となる。
【0044】
図4は、一実施形態における光音響計測方法400の一例を示すフローチャートである。光音響計測方法400は、音響波センサ160と計測対象190との間に、音響整合材170を設ける段階(S410)と、近赤外光源12から出射した近赤外光を計測対象190に照射する段階(S420)と、計測対象190が近赤外光を吸収したことにより計測対象190で発生した音響波を音響波センサ160で検出する段階(S430)とを備える。上述したように、音響整合材170は、計測対象190に照射される近赤外光の光路中に設けられ、近赤外の波長域における光吸収率が予め定められた値より低い液体である。
【0045】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0046】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0047】
10、30 光音響顕微鏡
12 近赤外光源
14 光ファイバ
100、300 照明光学系
110 反射型コリメータ
120、130、320 アキシコンレンズ
122、132 円錐面
140 集光鏡
142 反射面
150 ガラス部材
160 音響波センサ
170 音響整合材
172 音響整合材槽
190 計測対象
310 コリメータレンズ
340 円錐台プリズム
図1
図2
図3
図4