(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048183
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】固体組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/12 20060101AFI20240401BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240401BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240401BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20240401BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240401BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240401BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
A61K31/12
A23L33/105
A61P9/10
A61P9/10 101
A61P39/06
A61K47/26
A61K47/32
A61K47/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154084
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩木 徹
(72)【発明者】
【氏名】門 柚里
(72)【発明者】
【氏名】松本 恒平
(72)【発明者】
【氏名】中川 和典
(72)【発明者】
【氏名】近藤 啓
(72)【発明者】
【氏名】金沢 貴憲
(72)【発明者】
【氏名】照喜名 孝之
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018MD08
4B018MD18
4B018MD30
4B018MD35
4B018ME06
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4B018MF02
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4C076AA29
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4C076GG01
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4C206MA72
4C206NA02
4C206ZA36
4C206ZA45
4C206ZC21
(57)【要約】
【課題】難水溶性ポリフェノールの水に対する溶解性を向上する。
【解決手段】実施形態に係る固体組成物は、非晶質の難水溶性ポリフェノール、モノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステル、及び、水溶性高分子、を含有する。固体組成物は、例えば、難水溶性ポリフェノール、モノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステル、及び水溶性高分子を溶媒に溶かし、得られた溶液から前記溶媒を除去することにより調製することができる。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質の難水溶性ポリフェノール、
モノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステル、及び、
水溶性高分子
を含有する固体組成物。
【請求項2】
前記難水溶性ポリフェノールに対する前記ショ糖脂肪酸エステルの質量比が0.2~30である、請求項1に記載の固体組成物。
【請求項3】
前記難水溶性ポリフェノールに対する前記水溶性高分子の質量比が0.1~10である、請求項1に記載の固体組成物。
【請求項4】
前記ショ糖脂肪酸エステルに対する前記水溶性高分子の質量比が0.1~10質量部である、請求項1に記載の固体組成物。
【請求項5】
前記ショ糖脂肪酸エステルが構成脂肪酸として炭素数12~22の脂肪酸を含む、請求項1に記載の固体組成物。
【請求項6】
前記水溶性高分子が、N-ビニルラクタムのホモポリマー及びそのコポリマー、セルロースエーテル、並びにセルロースエステルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の固体組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の固体組成物を含む経口組成物。
【請求項8】
難水溶性ポリフェノール、モノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステル、及び水溶性高分子を、溶媒に溶かして溶液を得ること、及び、
前記溶液から前記溶媒を除去すること、
を含む、固体組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ポリフェノールを含む固体組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェノールは、動脈硬化や脳梗塞等を防ぐ抗酸化作用を持つことが知られているが、難水溶性のものが多い。消化管内でのポリフェノールの吸収効果を高めるために、難水溶性ポリフェノールの水に対する溶解性を高めることが求められる。そのための方策として、難水溶性ポリフェノールを結晶状態から非晶質化させることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、非晶質の難水溶性ポリフェノールと、親水性ポリマーと、非イオン界面活性剤とを含む固体組成物が開示されている。また、親水性ポリマーとしてポリビニルピロリドンが用いられること、及び、非イオン界面活性剤としてHLB値が10以上のショ糖脂肪酸エステルが用いられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
難水溶性ポリフェノールを水溶性高分子及びショ糖脂肪酸エステルとともに非晶質化した固体組成物は、水への溶解性を向上させることができるが、その溶解性は必ずしも十分ではなく、溶解性の更なる向上が求められる。
【0006】
本発明の実施形態は、難水溶性ポリフェノールの水に対する溶解性を向上することができる固体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 非晶質の難水溶性ポリフェノール、モノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステル、及び、水溶性高分子、を含有する固体組成物。
[2] 前記難水溶性ポリフェノールに対する前記ショ糖脂肪酸エステルの質量比が0.2~30である、[1]に記載の固体組成物。
[3] 前記難水溶性ポリフェノールに対する前記水溶性高分子の質量比が0.1~10である、[1]又は[2]に記載の固体組成物。
[4] 前記ショ糖脂肪酸エステルに対する前記水溶性高分子の質量比が0.1~10質量部である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の固体組成物。
[5] 前記ショ糖脂肪酸エステルが構成脂肪酸として炭素数12~22の脂肪酸を含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の固体組成物。
[6] 前記水溶性高分子が、N-ビニルラクタムのホモポリマー及びそのコポリマー、セルロースエーテル、並びにセルロースエステルからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の固体組成物。
[7] [1]~[6]のいずれか1項に記載の固体組成物を含む経口組成物。
[8] 難水溶性ポリフェノール、モノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステル、及び水溶性高分子を、溶媒に溶かして溶液を得ること、及び、前記溶液から前記溶媒を除去すること、を含む、固体組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、難水溶性ポリフェノールの水に対する溶解性を向上することができる固体組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図11】実施例1及び比較例1~4の固体組成物の溶出試験結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る固体組成物は、(A)非晶質の難水溶性ポリフェノール、(B)モノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステル、及び、(C)水溶性高分子、を含有する。
【0011】
[(A)非晶質の難水溶性ポリフェノール]
非晶質の難水溶性ポリフェノールとは、一般に結晶質でありそのため水に難溶性(不溶性である場合も含む。)である難水溶性ポリフェノールが非晶質化されたものである。ここで、ポリフェノールは、複数のフェノール性ヒドロキシ基を分子内に持つ化合物である。難水溶性ポリフェノールは、25℃において純水に対する溶解性(最大溶解濃度)が1mg/mL以下であるポリフェノールである。難水溶性ポリフェノールの純水(25℃)に対する溶解性は、100μg/mL以下でもよく、10μg/mL以下でもよく、1μg/mL以下でもよい。
【0012】
本実施形態において難水溶性ポリフェノールとしては、特に限定されず、例えば、クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン等のクルクミノイド; テトラヒドロクルクミン; クロロゲン酸、ヒドロキシ桂皮酸(例えばコーヒー酸)、ヒドロキシ安息香酸(例えば没食子酸、エラグ酸)、ロスマリン酸等のフェノール酸; フラボン(例えばルテオリン、アピゲニン、バイカレイン)、フラバノン(例えばヘスペレチン、ナリンゲニン、ヘスペリジン)、フラボノール(例えばケルセチン、ミリセチン、シリビニン、ルチン、イソクエルシトリン)、フラバン-3-オール(例えばカテキン、エピカテキン、テアフラビン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、プロシアニジン)、イソフラボン(例えばゲニステイン、ダイゼイン、エクオール)、アントシアニジン(例、シアニジン、デルフィニジン、マルビジン、ペラルゴニジン、ペオニジン)、プロアントシアニジン、オリゴメリックプロアントシアニジン(OPC)等のフラボノイド; レスベラトロール等のスチルベノイド; 並びに、これらのアグリコン、及び、これらのアセチル化物、マロニル化物、メチル化物、配糖体等の誘導体が挙げられる。これらはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
これらの中でも難水溶性ポリフェノールとしては、クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン、及びテトラヒドロクルクミンからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0014】
難水溶性ポリフェノールとしては天然物由来の抽出物を用いてもよい。例えば、上記で例示した難水溶性ポリフェノールを1種又は2種以上含む植物抽出物を用いてもよい。あるいはまた、該難水溶性ポリフェノールを1種又は2種以上含む微生物発酵代謝産物を用いてもよい。
【0015】
本実施形態の固体組成物は、難水溶性ポリフェノールとして非晶質のものを含む。難水溶性ポリフェノールの非晶質状態は、X線回折(XRD)又は示差走査熱量測定(DSC)により確認することができる。固体組成物は、非晶質の難水溶性ポリフェノールとともに、結晶質の難水溶性ポリフェノールを含有してもよい。但し、結晶質の難水溶性ポリフェノールの量はできるだけ少ないことが好ましく、実質的に又は全く含有しないことが好ましい。
【0016】
固体組成物における非晶質の難水溶性ポリフェノールの含有量は、特に限定されないが、1~50質量%であることが好ましく、より好ましくは3~40質量%であり、より好ましくは4~40質量%であり、より好ましくは5~30質量%であり、更に好ましくは6~20質量%である。
【0017】
[(B)ショ糖脂肪酸エステル]
本実施形態ではモノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステルが乳化剤として用いられる。ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖のヒドロキシ基に脂肪酸をエステル結合させたものである。ショ糖1分子には8個のヒドロキシ基があり、脂肪酸がエステル結合した数に応じて、モノエステルからオクタエステルまである。本実施形態では、1個のヒドロキシ基に脂肪酸が結合したモノエステルの比率が、ショ糖脂肪酸エステル100質量%に対して85質量%以上であるものが用いられる。モノエステルの比率が85質量%以上であることにより難水溶性ポリフェノールの水に対する溶解性を向上することができる。
【0018】
ショ糖脂肪酸エステルにおけるモノエステルの比率は、90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは95質量%以上であり、更に好ましくは97質量%以上であり、更に好ましくは99質量%以上であり、100質量%でもよい。従って、ジエステル以上のエステルの比率は、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下である。
【0019】
ショ糖脂肪酸エステルにおけるモノエステルの比率は、GPC(ゲル濾過クロマトグラフィー)によりショ糖脂肪酸エステルのエステル分布を分析することにより求めることができ、全ピーク面積に対するモノエステル由来のピーク面積の比として求められる。GPCの分析条件は以下のとおりである。
〈GPC条件〉
・装置:(株)島津製作所製「LC-6A」
・カラム:日本分光(株)製「Megapak GEL201」
・溶媒:THF
・流量:3mL/min
・試料濃度:6質量体積%
・試料注入量:50μL
・カラム温度:25℃
【0020】
ショ糖脂肪酸エステルは、構成脂肪酸として炭素数12~22の脂肪酸を含むことが好ましい。すなわち、ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数12~22の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐を持つものが好ましく用いられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。構成脂肪酸の炭素数は14~18であることが好ましく、より好ましくは16~18である。また、構成脂肪酸としては、飽和脂肪酸が好ましく、直鎖の飽和脂肪酸が好ましい。好ましい一実施形態において構成脂肪酸は、ステアリン酸を主成分とすることであり、ステアリン酸とパルミチン酸の混合物が好ましく用いられる。
【0021】
ショ糖脂肪酸エステルのHLB値は特に限定されず、10以上でもよく、13以上でもよく、16以上でもよい。
【0022】
[(C)水溶性高分子]
水溶性高分子は、水に溶ける性質を持つ天然又は合成高分子である。水溶性高分子の水に対する溶解性は、25℃において純水に対する溶解性(最大溶解濃度)が0.001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上であり、1質量%以上でもよい。
【0023】
水溶性高分子の具体例としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、コポビドン(即ち、N-ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体)、N-ビニルピロリドンとプロピオン酸ビニルの共重合体等のN-ビニルラクタムのホモポリマー及びそのコポリマー; アルキルセルロース(例えばメチルセルロース、エチルセルロース)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えばヒドロキシプロピルセルロース(HPC))、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC))等のセルロースエーテル; フタル酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロースエステル; ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体等のポリアルキレンオキシド; メタクリル酸/アクリル酸エチルコポリマー、メタクリル酸/メタクリル酸メチルコポリマー、メタクリル酸ブチル/メタクリル酸2-ジメチルアミノエチルコポリマー、ポリ(ヒドロキシアルキルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)等のポリ(メタ)アクリレート; ポリアクリルアミド; ポリビニルアルコール; カラギーナン、ガラクトマンナン、キサンタンガム等のオリゴ糖及び多糖が挙げられる。これらはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
これらの中でも水溶性高分子としては、N-ビニルラクタムのホモポリマー及びそのコポリマー、セルロースエステル、並びにセルロースエーテルからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。より好ましくは、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される少なくとも1種を用いることである。
【0025】
水溶性高分子の分子量は特に限定されず、例えば、重量平均分子量(Mw)が1000~600,000でもよく、1000~100,000でもよく、5000~80000でもよく、10000~60000でもよい。ここで、重量平均分子量(Mw)は、GPC法により測定した値である。
【0026】
水溶性高分子のK値は特に限定されず、例えば、5~100が好ましく、10~70が好ましく、15~50が好ましく、15~35が好ましい。K値は、フィケンチャー法による分子量の大きさを表わす値であり、公知の測定方法と下記フィケンチャーの式によって求めることができる。
K値={[300ClogZ+(C+1.5ClogZ)2]1/2+1.5ClogZ-C}/(0.15C+0.003C2)
式中、Cは試料の濃度(質量%)を示し、下記実施例のPVPのK値は試料濃度1質量%として測定した。Zは濃度Cの溶液の相対粘度(ηrel)を示す。相対粘度ηrelは次式より得られる。
ηrel=(溶液の流動時間)÷(水の流動時間)
【0027】
[固体組成物]
本実施形態に係る固体組成物において、難水溶性ポリフェノールはショ糖脂肪酸エステル及び水溶性高分子により非晶質化された状態で含まれている。詳細には、水溶性高分子が乳化剤であるショ糖脂肪酸エステルとともに難水溶性ポリフェノールの分子間に入り込んで、難水溶性ポリフェノールの結晶性を崩壊させ、非晶質化させる。このようにして非晶質化された難水溶性ポリフェノールが、不活性担体である水溶性高分子に分子レベルで分散している。そのため、一実施形態において、該固体組成物は固体分散体である。固体分散体では、難水溶性薬剤が非晶質化し、不活性担体に分子レベルで分散しているため、水に溶けやすい。
【0028】
固体組成物において、(A)難水溶性ポリフェノールの質量に対する(B)ショ糖脂肪酸エステルの質量の比である、質量比(B)/(A)は、0.2~30が好ましく、より好ましくは0.2~20であり、更に好ましくは0.2~15であり、更に好ましくは0.5~13であり、更に好ましくは0.7~12であり、更に好ましくは1.0~11であり、更に好ましくは1.2~10.5である。
【0029】
固体組成物において、(A)難水溶性ポリフェノールの質量に対する(C)水溶性高分子の質量の比である、質量比(C)/(A)は、0.1~10であることが好ましく、より好ましくは0.5~8.0であり、更に好ましくは0.7~5.0であり、更に好ましくは1.0~5.0であり、更に好ましくは2.0~5.0であり、更に好ましくは2.5~5.0であり、更に好ましくは3.0~5.0である。
【0030】
固体組成物において、(B)ショ糖脂肪酸エステルの質量に対する(C)水溶性高分子の質量の比である、質量比(C)/(B)は、0.1~10であることが好ましく、より好ましくは0.2~8.0であり、より好ましくは0.3~5.0であり、更に好ましくは0.3~3.0であり、更に好ましくは0.3~2.5である。
【0031】
本実施形態に係る固体組成物は、上記(A)~(C)成分に加えて、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、特に限定されず、例えば、賦形剤、結合剤、充填剤、滑沢剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、調味料、及び香料が挙げられる。
【0032】
固体組成物の形態は特に限定されず、粉末状でもよく、当該粉末を造粒した粒状でもよく、各種固形製剤の形態をとることができる。
【0033】
[固体組成物の製造方法]
本実施形態に係る固体組成物を製造する方法は特に限定されない。一実施形態において、固体組成物の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)難水溶性ポリフェノール、モノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステル、及び水溶性高分子を、溶媒に溶かして溶液を得る工程、及び、
(2)得られた溶液から溶媒を除去する工程。
【0034】
工程(1)において、溶媒としては、難水溶性ポリフェノール、上記ショ糖脂肪酸エステル及び水溶性高分子を溶解可能な溶媒が用いられ、特に限定されない。溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等のアルコール、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン、酢酸エチル、酢酸メチル等の酢酸エステル、ジエチルエーテル等のエーテル、プロパン、ブタン、ヘキサン等のアルカン、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、シクロヘキサン、ジクロロエタン等の有機溶媒や、食用油脂などが挙げられ、これらのいずれか1種又は2種以上の混合溶媒を用いてもよい。また、これら有機溶媒と水との混合溶媒を用いてもよい。
【0035】
工程(1)では、溶媒を加温しながら、難水溶性ポリフェノール、ショ糖脂肪酸エステル及び水溶性高分子を溶解させる。その際、攪拌したり、超音波装置により超音波振動を付与したりして溶解させることが好ましい。溶媒を加温する際の温度は、特に限定されず、例えば60~90℃であることが好ましい。
【0036】
工程(1)で調製する溶液において、各成分の濃度は特に限定されない。例えば、難水溶性ポリフェノールの濃度は、0.1~5質量%でもよく、0.2~3質量%でもよい。上記ショ糖脂肪酸エステル及び水溶性高分子の各濃度は、製造する固体組成物における上記各成分の質量比(B)/(A)、(C)/(A)及び(C)/(B)に応じて設定してもよい。
【0037】
工程(2)では、上記工程(1)で得られた溶液から溶媒を除去することにより固体組成物を得る。溶媒を除去する方法は特に限定されず、減圧乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥、加熱乾燥、自然乾燥等が挙げられる。溶媒を除去した後、粉砕処理を行ってもよい。
【0038】
[固体組成物の用途]
本実施形態に係る固体組成物は、医薬品、医薬部外品、保健機能食品(例えば特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等)、健康食品、栄養補助食品、サプリメント等の食品、ペットフード、化粧品等の用途に好適に用いられる。好ましくは、経口用製剤として用いられることである。すなわち、好ましい一実施形態に係る経口組成物は、上記固形組成物を含むものである。
【0039】
経口組成物は、上記固形組成物のみで構成されてもよいが、固形組成物とともに、他の食品素材、他の活性成分、及び/又は、添加剤等を含んでもよい。添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、充填剤、滑沢剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、調味料、香料、及び着色剤等が挙げられる。
【0040】
経口組成物の形態は特に限定されず、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、丸剤、及びカプセル剤等が挙げられる。
【0041】
本実施形態に係る固体組成物は、難水溶性ポリフェノールの水への溶解性に優れるため、経口投与又は摂取された場合に、難水溶性ポリフェノールの体液への高い溶出性を発揮することが期待でき、難水溶性ポリフェノールの効率的な摂取を可能にする。
【実施例0042】
以下、実施例および比較例に基づいて、より詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0043】
[実施例1及び比較例1~3]
下記表1に示す配合(質量部)に従い、(A)難水溶性ポリフェノールとしてのクルクミンと、(B)ショ糖脂肪酸エステルと、(C)水溶性高分子としてのポリビニルピロリドン(PVP)と、溶媒を合計20gになるように50mLスクリュー管に仕込んだ。(1)該スクリュー管を75℃湯浴に4分間漬ける加温処理と、(2)該スクリュー管を小型超音波装置の50℃の浴槽に漬ける4分間の超音波処理とを行い、クルクミンとショ糖脂肪酸エステルとポリビニルピロリドンが全て溶解するまで上記(1)と(2)を繰り返した。次いで、得られた溶液について、エバポレーターで溶媒を留去した。エバポレーターによる処理は、75℃で、400hPaから160hPaまで減圧して、溶媒がほぼなくなるまで留去し、更に40~60hPaでその後30分間継続した。スクリュー管の壁面に付着した固形物をスパチュラで削り取り、該固形物をメノウ乳鉢で粉砕して、固体組成物を得た。
【0044】
表中の成分についての詳細は以下のとおりである。
・クルクミン:富士フイルム和光純薬株式会社製「クルクミン」、純水への溶解度は1μg/mL未満。
【0045】
・ショ糖脂肪酸エステルSS:第一工業製薬(株)製「DKエステルSS」、構成脂肪酸が炭素数18のステアリン酸を主成分とするショ糖脂肪酸エステル。モノエステルの比率が99質量%、残部のジエステル及びトリエステルの比率が1質量%。HLB=19
【0046】
・ショ糖脂肪酸エステルF160:第一工業製薬(株)製「DKエステルF-160」、構成脂肪酸が炭素数18のステアリン酸を主成分とするショ糖脂肪酸エステル。モノエステルの比率が70質量%、残部のジエステル及びトリエステルの比率が30質量%。HLB=15
【0047】
・ショ糖脂肪酸エステルF50:第一工業製薬(株)製「DKエステルF-50」、構成脂肪酸が炭素数18のステアリン酸を主成分とするショ糖脂肪酸エステル。モノエステルの比率が30質量%、残部のジエステル以上のエステルが70質量%。HLB=6
【0048】
・PVP:第一工業製薬(株)製「アイフタクトK-30PH」(Mw=45,000、K値=30)
【0049】
得られた固体組成物について、非晶質化の評価として、示差走査熱量測定(DSC)とX線回折(XRD)を行った。また、水に対する溶解性の評価として、溶出試験1を行った。各測定・評価方法は以下のとおりである。
【0050】
(非晶質化評価:DSC)
(株)リガク製の熱分析装置「Thermo Plus EVO DSC8230」を用いて、固体組成物のDSCチャートを得た。DSCの測定条件は、基準物質:Al、測定雰囲気:N2 40mL/min、昇温速度:10.0℃/min、温度範囲:25~205℃とした。得られたDSCチャートから下記基準に従い、難水溶性ポリフェノールが非晶質化されているか否かを評価した。
A:クルクミンの融点ピーク無し(非晶質状態)
B:180℃付近にクルクミンの融点ピーク有り(結晶質のものを含む)
【0051】
(非晶質化評価:XRD)
(株)リガク製「RINT UltimaIII 水平ゴニオメータ(D/teX-25)」を用いて、固体組成物のXRDチャートを得た。XRDの測定条件は、集中法、X線:Cu/40kV/40mA、走査範囲:3.0~50.0°、走査軸:2θ/θとした。
図6~10のXRDチャートにおいて縦軸はX線強度を示す。得られたXRDチャートから下記基準に従い、難水溶性ポリフェノールが非晶質化されているか否かを評価した。
A:クルクミン特有のピーク無し(非晶質状態)
B:クルクミン特有のピーク有り(結晶質のものを含む)
【0052】
(溶出試験1)
500mLセパラブルフラスコにイオン交換水300mLを仕込み、攪拌を行って、水温を37℃±0.5℃に調整した。クルクミン換算で5mgの固体組成物をセパラブルフラスコに添加した。即ち、固体組成物を、実施例1及び比較例1,2では30mg、比較例3では25mg、比較例4では5mg、それぞれ添加した。所定時間攪拌した後、セパラブルフラスコの水を採取し、メンブレンフィルターでろ過した。メンブレンフィルターとしては、ADVANTEC社製「13HP045AN」(フィルター材質:PTFE、目開き:0.45μm)を用いた。得られたろ液について、(株)日立ハイテクサイエンス製の紫外可視分光光度計「U-3900H」を用いて、吸光度を測定した。吸光度の測定条件は、波長スキャン、波長:220~500nm、スキャン速度:300nm/minとした。得られた吸光度からクルクミンの濃度を算出し、溶出量(μg/mL)とした。表1には、固体組成物を水に添加してから60分後及び120分後の溶出量を示した。
【0053】
【0054】
結果は表1及び
図1~11に示すとおりである。比較例4はクルクミンを乳鉢粉砕した粉末であり、
図5に示すようにDSCチャートにはクルクミンの融点ピークがあり、また
図10に示すようにXRDチャートにクルクミン特有のピークがあった。そのため、クルクミンは結晶状態にあり、
図11に示されるように溶出試験1において水にほとんど溶解しなかった。
【0055】
比較例3はクルクミンをPVPとともにエタノールに溶解して調製した固体組成物であり、
図4に示すようにDSCチャートにクルクミンの融点ピークがなく、また
図9に示すようにXRDチャートにクルクミン特有のピークがなかった。そのため、クルクミンは非晶質状態にあり、固体組成物は固体分散体であった。溶出試験1において、比較例の固体組成物は水に溶解したものの、クルクミンの水への溶出量は2μg/mL未満と少ないものであった。
【0056】
比較例1及び比較例2はPVPとともにショ糖脂肪酸エステルを用いて調製した固体組成物であり、
図2、
図3、
図7、
図8に示すように、DSCチャート及びXRDチャートにクルクミン特有のピークがなかった。そのため、クルクミンは非晶質状態にあり、固体組成物は固体分散体であった。溶出試験1において、クルクミンの水への溶出量は比較例1及び比較例2ともに4μg/mL未満であり、比較例3に対して水への溶解性が改善されていた。しかしながら、使用したショ糖脂肪酸エステルのモノエステル比率が85質量%未満であるため、溶解性の改善効果に劣っていた。
【0057】
実施例1では、
図1及び
図6に示すように、比較例1及び比較例2と同様、クルクミンが非晶質状態にあり、固体組成物は固体分散体であった。また、実施例1では、モノエステル比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステルを用いて調製されたものであるため、
図11に示すように溶出試験1において水への溶出量が6μg/mLを超えており、比較例1~4に対して、溶解性が顕著に改善されていた。
【0058】
[実施例2~6及び比較例5~6]
下記表2に示す配合(質量部)に従い、(A)難水溶性ポリフェノールとしてのクルクミンと、(B)ショ糖脂肪酸エステルと、(C)水溶性高分子としてのポリビニルピロリドン(PVP)又はヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)と、溶媒を合計20gになるように50mLスクリュー管に仕込んだ。(1)該スクリュー管を75℃湯浴に4分間漬ける加温処理と、(2)該スクリュー管を小型超音波装置の50℃の浴槽に漬ける4分間の超音波処理とを行い、クルクミンとショ糖脂肪酸エステルと水溶性高分子が全て溶解するまで上記(1)と(2)を繰り返した。但し、水溶性高分子としてHPMCを用いる場合、溶媒としての水は添加せずに上記(1)と(2)を繰り返すことで、クルクミンとショ糖脂肪酸エステルをエタノールに溶解させた後、水を添加してHPMCを溶解させて溶液を調製した。得られた溶液について、上記実施例1と同様にしてエバポレーターによる溶媒の留去、及び固形物の粉砕を行って、固体組成物を得た。
【0059】
表2中の成分について、表1と同じ成分は上記のとおりである。HPMCとしては、信越化学工業(株)製「メトローズSE-06」(表示粘度6mm2/s(20℃、2%水溶液)、置換度:メトキシ基28.0~30.0%、ヒドロキシプロポキシ基7.0~12.0%)を用いた。
【0060】
得られた固体組成物について、非晶質化の評価として、示差走査熱量測定(DSC)とX線回折(XRD)を行った。また、水に対する溶解性の評価として、下記水溶性試験を行った。実施例1についても水溶性試験を実施した。なお、実施例4~6及び比較例5については非晶質化評価が未実施であり、表2において「-」と表示した。また比較例6については非晶質化できていなかったので水溶性評価が未実施であり、表2において「-」と表示した。非晶質化評価方法は実施例1と同じであり、水溶性試験の方法は以下のとおりである。
【0061】
(水溶性試験)
エバポレーターで溶媒を留去する前の溶液0.2gを水20gに滴下した。30分後、目視観察し、糸状析出物の有無を確認した。糸状析出物無しの場合をA、糸状析出物有りの場合をBとして表中に結果を示した。この水溶性試験は、固体組成物自体に対する評価ではないが、固体組成物の水に対する溶解性の目安になる簡易評価である。溶液を水に滴下したときに糸状析出物が生成されない場合、溶液から溶媒を除去して固体組成物としたときの水溶性に優れると推測される。
【表2】
【0062】
結果は表2に示すとおりである。比較例6では水溶性高分子を用いずに固体組成物を調製したため、クルクミンを適正に非晶質化することはできていなかった。これに対し、実施例2~3では、DSC及びXRD測定によりクルクミンが非晶質状態であり、固体分散体であることが確認された。また、これら実施例2~3では実施例1と同様、水溶性試験において糸状析出物が生成されず、そのため固体組成物の水溶性に優れると推測される。水溶性高分子としてPVPに代えてHPMCを用いた実施例4~6でも、実施例1~3と同様に水溶性試験において糸状析出物が生成されず、そのため固体組成物の水溶性に優れると推測される。
【0063】
これに対し、比較例5では水溶性高分子としてHPMCを用いたもののショ糖脂肪酸エステルを用いていないため、水溶性試験において糸状析出物が生成された。溶媒を除去する前の溶液の段階で糸状析出物が生成されたことに鑑みると、当該溶液から溶媒を除去して粉体としたとしても、水溶性が低いことは明らかであり、即ち、固体組成物の水溶性に劣ると推測される。
【0064】
[実施例7,8]
下記表3に示す配合(質量部)に従い、(A)クルクミンと、(B)ショ糖脂肪酸エステルと、(C)PVPと、溶媒を合計20gになるように50mLスクリュー管に仕込んだ。(1)該スクリュー管を75℃湯浴に4分間漬ける加温処理と、(2)該スクリュー管を小型超音波装置の50℃の浴槽に漬ける4分間の超音波処理とを行い、クルクミンとショ糖脂肪酸エステルとPVPが全て溶解するまで上記(1)と(2)を繰り返した。得られた溶液について、上記実施例1と同様にしてエバポレーターによる溶媒の留去、及び固形物の粉砕を行って、固体組成物を得た。表3中の成分について、表1と同じ成分は上記のとおりである。
【0065】
得られた固体組成物について、水に対する溶解性の評価として、溶出試験2を行った。実施例2及び比較例3についても同様に溶出試験2を実施した。溶出試験2の方法は以下のとおりである。
【0066】
(溶出試験2)
溶出試験器として富山産業(株)製「NTR-6600AST」を用い、そのベッセルにイオン交換水900mLを仕込み、脱気のため、水温37℃±0.2℃で一晩、攪拌した。クルクミン換算で15mgの固体組成物をゼラチンカプセルに充填し、ベッセルに投入した。所定時間後にベッセルからサンプリングを行い、0.45μmメンブレンフィルターでろ過した。所定時間としては60分及び120分のそれぞれについて実施した。0.45μmメンブレンフィルターとしては、ADVANTEC社製「13HP045AN」(フィルター材質:PTFE、目開き:0.45μm)を用いた。ろ液をエタノールで2倍希釈し、0.20μmメンブレンフィルターでろ過し、HPLCでクルクミンを定量した。0.20μmメンブレンフィルターとしては、ADVANTEC社製「13HP020AN」(フィルター材質:PTFE、目開き:0.20μm)を用いた。HPLC条件は、カラム:オクタデシルシリルカラム、溶媒:メタノール/10mM酢酸アンモニウム水溶液の混合液、波長:430nmとした。
【0067】
【0068】
結果は表3に示すとおりである。比較例3では、表1における溶出試験1と同様、溶出試験2において、水への溶解性に劣っていた。実施例2,7,8であると、溶出試験2において溶出量が比較例3に対して高く、水への溶解性が顕著に改善されていた。実施例7,8については、非晶質化評価は実施していないが、実施例2に対して同等以上の溶出量であることから、クルクミンが非晶質状態にあることは明らかである。
【0069】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0070】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。