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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048242
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】内燃機関の燃料供給装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/022 20060101AFI20240401BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240401BHJP
   F02M 31/125 20060101ALI20240401BHJP
   F02B 47/02 20060101ALI20240401BHJP
   F02D 19/12 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
F02M25/022 K
F02D45/00 368A
F02D45/00 360A
F02M31/125 D
F02B47/02
F02M25/022 C
F02D19/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154171
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169111
【弁理士】
【氏名又は名称】神澤 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100098176
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 訓
(72)【発明者】
【氏名】細江 広記
【テーマコード(参考)】
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G092AB05
3G092AB17
3G092DE01
3G092DE15
3G092DG07
3G092FA13
3G092FA16
3G092HB05
3G092HC05
3G092HD01
3G384AA15
3G384BA37
3G384DA55
3G384FA45
(57)【要約】
【課題】内燃機関のノッキングを抑制するとともに排気系部品の損傷を防止し、内燃機関や燃料供給装置全体の肥大化・重量化を抑制し、コスト低減可能な内燃機関の燃料供給装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の燃料供給装置において、吸水性を有する燃料を少なくとも一部含む燃料を貯留する燃料タンク21と、燃料噴射装置22と、燃料タンク21に連通し燃料噴射装置22へ燃料を導出するための燃料供給管23と、燃料供給管23内に配設され少なくとも水を吸着できる吸着材24とを有し、内燃機関1の要求に応じて吸着材24に吸着された水分を燃料供給管23に排出する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(1)に燃料を供給する内燃機関の燃料供給装置において、
吸水性を有する燃料を少なくとも一部含む燃料を貯留する燃料タンク(21)と、
前記燃料を噴射する燃料噴射装置(22)と、
前記燃料タンク(21)に連通し、前記燃料噴射装置(22)へ前記燃料を導出するための燃料供給管(23)と、
前記燃料供給管(23)内に配設され、少なくとも水を吸着できる吸着材(24)と、
を有し、
前記内燃機関(1)の要求に応じて、前記吸着材(24)に吸着された水分を前記燃料供給管(23)に排出することを特徴とする内燃機関の燃料供給装置。
【請求項2】
前記内燃機関の要求に応じて作動して、前記吸着材(24)を加熱する加熱手段(25)を備え、
前記吸着材(24)は、前記加熱手段(25)により加熱されて水分を排出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃料供給装置。
【請求項3】
前記内燃機関(1)の燃焼室(6)内でのノッキングの有無を判定するノッキング判定手段(31)を備え、
前記ノッキング判定手段(31)により、前記内燃機関(1)においてノッキングが発生していると判断された場合に、前記吸着材(24)に吸着された水分を排出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃料供給装置。
【請求項4】
前記排気ガス温度検出手段(32)により、排気ガスが所定温度以上と判断された場合に、前記吸着材(24)に吸収された水分を排出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃料供給装置。
【請求項5】
前記吸水性を有する燃料はアルコール燃料であり、
前記吸着材(24)は、単位温度当たりの水の離脱量が、単位温度当たりのアルコールの離脱量よりも多いことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の燃料供給装置。
【請求項6】
前記吸着材(24)は、少なくともゼオライトまたはシリカゲルのどちらか一方を含むことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の燃料供給装置。
【請求項7】
前記吸着材(24)は、水と燃料を吸着可能な部材であり、
前記吸着材(24)は、水の脱離量が燃料の脱離量よりも多くなるまで、前記加熱手段(25)により加熱されることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の燃料供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性燃料を少なくとも一部含む燃料を用いる内燃機関の燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関のノッキングの発生を低減させるために、燃料とは別に燃焼室内に水を噴射する方法が知られている。さらに、この手法は内燃機関の排気が高温となることによる排気系部品の損傷を防止する手段としても用いられている。
また、内燃機関の排気通路にエタノールを吸着するエタノール吸着材を設け、エタノール吸着材に吸着したエタノールを、潤滑流路を介して内燃機関の吸気側に還流させるものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-109743
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関のノッキングの抑制や、排気系部品の損傷を防止させるため、内燃機関の燃焼室に水を供給するには、上述のように、燃焼室に水を噴射するための噴射装置や水を貯留する部品、排気通路から吸気通路へのこの噴射装置に水を供給するための機構が必要となり、内燃機関や燃料供給装置全体が肥大化して、重量が増大し、また内燃機関の電気的負荷が増大するため、燃費悪化を招いてしまうといった課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、内燃機関に燃料を供給する内燃機関の燃料供給装置において、
吸水性を有する燃料を少なくとも一部含む燃料を貯留する燃料タンクと、
前記燃料を噴射する燃料噴射装置と、
前記燃料タンクに連通し、前記燃料噴射装置へ前記燃料を導出するための燃料供給管と、
前記燃料供給管内に配設され、少なくとも水を吸着できる吸着材と、
を有し、
前記内燃機関の要求に応じて、前記吸着材に吸着された水分を前記燃料供給管に排出することを特徴とする内燃機関の燃料供給装置である。
【0006】
前記構成によれば、燃料供給管内に水を吸着することのできる吸着材が配設され、内燃機関の要求に応じて吸着材から水分を燃料中に排出するので、燃料中の水の有する潜熱により、内燃機関のノッキングの抑制や、高温の排気による排気装置の損傷を防ぐので、別途水噴射装置やこれに関する装置を設ける必要が無く、内燃機関の構造を簡素化し小型化することができ、内燃機関の電気的負荷を増大させることなく、燃費を向上させることができる。
【0007】
前記構成において、前記内燃機関の要求に応じて作動して、前記吸着材を加熱する加熱手段を備え、
前記吸着材は、前記加熱手段により加熱されて水分を排出するようにしてもよい。
【0008】
前記構成によれば、内燃機関から水に対する要求があった際に、加熱手段によって燃料に含まれる水分量を増加させることができ、別途、水を供給する装置を設けて内燃機関に水噴射を行った場合と同様なノッキング低減効果や、排気ガス温度低減効果を奏することができる。
【0009】
また前記構成において、前記内燃機関の燃焼室内でのノッキングの有無を判定するノッキング判定手段を備え、
前記ノッキング判定手段により、前記内燃機関においてノッキングが発生していると判断された場合に、前記吸着材に吸着された水分を排出するようにしてもよい。
【0010】
前記構成によれば、ノッキングが発生した場合に、吸着材から水分を排出して、吸気に水分を加えるので、筒内ガス温度を低下させてノッキングの発生を抑制することができる。
【0011】
さらに前記構成において、前記排気ガス温度検出手段により、排気ガスが所定温度以上と判断された場合に、前記吸着材に吸収された水分を排出するようにしてもよい。
【0012】
前記構成によれば、排気ガスが所定温度以上となった場合に、吸着材から水分を排出して、吸気に水分を加えるので、筒内ガス温度を低下させて、排気ガス温度を下げることができ、NOxの発生を抑制することができる。さらに、排気管に用いられる部品を熱から保護することが可能となる。
【0013】
さらにまた前記構成において、前記吸水性を有する燃料はアルコール燃料であり、前記吸着材は、単位温度当たりの水の離脱量が、単位温度当たりのアルコールの離脱量よりも多くなるようにしてもよい。
【0014】
前記構成によれば、吸着材の温度上昇において、アルコールより水の方が多く離脱することから、燃料中の水の割合を増やすことができるので、ノッキングの抑制、排気温度を低下させることが可能となる。
【0015】
また前記構成において、前記吸着材は、少なくともゼオライトまたはシリカゲルのどちらか一方を含むこともできる。
【0016】
前記構成によれば、吸着材にゼオライトまたはシリカゲルが含まれることで、効率よく吸着材が水分を排出できるので、発生熱量の大きな内燃機関においても、燃焼温度を下げることができる。
【0017】
さらに前記構成において、前記吸着材は、水と燃料を吸着可能な部材であり、
前記吸着材は、水の脱離量が燃料の脱離量よりも多くなるまで、前記加熱手段により加熱するようにしてもよい。
【0018】
前記構成によれば、燃料より多くの水分を吸着材によって排出できるので、発生熱量の大きな内燃機関においても、さらに燃焼温度を下げることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、燃料供給管内に吸着材が配設され、内燃機関の要求に応じて吸着材から水分を燃料中に排出するので、燃料中の水の有する潜熱により、内燃機関のノッキングの抑制や、高温の排気よる排気装置の損傷を防ぐので、別途水噴射装置やこれに関する装置を設ける必要が無く、内燃機関の構造を簡素化し小型化することができ、内燃機関の電気的負荷を増大させることなく、燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施の形態の燃料供給装置が適用された内燃機関の構成を示す概略図である。
図2】吸着材の吸着量の温度依存性を説明するグラフである。
図3】吸着材の吸着量の温度依存性を説明するグラフである。
図4】一実施の形態の燃料供給装置が実行するECUのフローで図ある。
図5】排気温度を推定するマップを示した図である。
図6】ノッキングの有無を推定するマップを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態の内燃機関の燃料供給装置20および、該燃料供給装置20が適用された内燃機関1を示す概略図である。内燃機関1は、車両(不図示)に搭載される内燃機関であって、シリンダ4、ピストン5、吸気弁7、排気弁8、点火プラグ9、燃料供給装置20、およびエンジンコントロールユニット30(以下、ECU30という)等を備えている。内燃機関1は、燃料として、吸水性のある燃料を少なくとも一部含むものが用いられ、アルコールや、ガソリンとアルコールとの混合燃料等が用いられる。アルコールの一例としてとして、バイオエタノールが用いられる。
【0022】
内燃機関1のシリンダブロック2にはシリンダ4が形成されており、シリンダ4内にはシリンダ4内を往復動するピストン5が摺動自在に嵌合されている。シリンダ4と、ピストン5の頂面と、ピストン5の頂面が対向するシリンダヘッド3の下面とにより、燃焼室6が構成される。シリンダヘッド3に、点火プラグ9が、その先端が燃焼室6に臨むように取り付けられている。内燃機関1のシリンダ4には、ノッキング判定手段としてのノックセンサ31が取り付けられており、燃焼室6においてノッキングが発生しているか否かの信号が、ECU30に送られる。
【0023】
シリンダヘッド3には、燃焼室6に連なる吸気ポート10および排気ポート11が形成されている。吸気ポート10には外気を吸入する吸気管12が、排気ポート11には燃焼室からの排気ガスを排出する排気管13がそれぞれ接続されている。シリンダヘッド3には、吸気弁7および排気弁8が配設されており、吸気管12から燃焼室6に流れる吸気と、燃焼室6から排気管13に流れる排気を制御している。
【0024】
吸気管12内には、吸気流量を制御するスロットルバルブ14が配設され、上流側からの吸気量を調節している。排気管13の途中には、三元触媒等が内蔵された触媒装置15が配設され、排気ガスを浄化する。排気管13の触媒装置15の上流側には、排気温度検出手段としての排気温度センサ32が取り付けられており、燃焼室6から排気管13に送られる排気ガスの温度を検知して信号をECU30に送る。
【0025】
燃料供給装置20は、燃料を貯留する燃料タンク21を備えている。燃料タンク21内に貯留されたガソリン等の燃料は、燃料タンク21から燃料供給管23を介して、燃料噴射装置としての燃料噴射弁22に送られる。燃料噴射弁22は、スロットルバルブ14より下流側の吸気管12に取り付けらており、ECU30からの信号に基づいて燃料を噴射する。
【0026】
燃料供給管23の途中には、燃料中の水やアルコールを吸着する吸着材24が設けられている。吸着材24としては、例えば、ゼオライト、シリカゲル等が用いられ、少なくともゼオライトまたはシリカゲルのどちらか一方を含んでいればよい。吸着材24には、吸着材温度検出手段としての吸着材温度センサ33が設けられており、吸着材24の温度を計測して電気信号に変換して、ECU30に送るようになっている。
【0027】
燃料供給装置20は、吸着材24を加熱するヒータ25を備えている。ヒータ25は、ECU30の信号に基づいて、電源がON /OFFされる。
【0028】
次に、図2および図3に基づいて、燃料供給管23の途中に配設された吸着材24の、水および、燃料としてのアルコールの吸着量の温度依存性について説明する。
【0029】
図2は、吸着材24として、物理吸着により水およびアルコールを吸着するものが用いられたグラフである。横軸を温度、縦軸を吸着材24の吸着量を重量で表している。実線Awは水の吸着量、破線Aeはエタノールの吸着量をそれぞれ示している。
【0030】
図2は、物理吸着の代表的な吸着材24として、ゼオライトなどが用いられているグラフを示している。ゼオライトの中でも、特に親水性ゼオライト、例えば酸化チタン-ゼオライト複合材が本発明の目的を効果的に発揮できる。図2に示されるように、吸着材24は、水、アルコールともに、温度Tが低い程、吸着可能な重量が大きく、温度Tが高くなるにつれて、吸着可能な重量が低下する。
【0031】
燃料供給装置20に、ECU30からヒータ25をONにする指示が送られてきていない内燃機関1の通常運転時では、ヒータ25はOFFの状態となっており、吸着材24は加熱されていない。燃料は外気温に近いT1の温度で燃料供給管23を流れており、吸着材はT1の温度となっており、吸着材24には、水はAw1、アルコールはAe1、の重量が吸着される。
【0032】
燃料供給装置20に、ECU30からヒータ25をONにする指示が送られてきた内燃機関1の燃料加熱運転時では、ヒータ25はONの状態とされ、吸着材24は加熱される。吸着材24は、外気温に近いT1より高い温度T2に加熱されるので、吸着材24には、水はAw2、アルコールはAe2、の重量が吸着可能である。
【0033】
吸着材24がT1となり、水、アルコールが吸着材24に吸着された後、吸着材24が温度T2に加熱されると、それぞれの吸着可能な重量が低下して、水は、Aw1-Aw2の量が離脱し、アルコールは、Ae1-Ae2、の量が離脱して、それぞれが燃料中に放出される。
この場合に、
(Aw1-Aw2)>(Ae1-Ae2)
であると、燃料中に含まれる水濃度が上昇して、効果を得ることができる。
【0034】
図3は、吸着材24として、化学吸着により水を吸着するものが用いられたグラフであり、化学吸着の吸着材24の一例として、シリカゲルが用いられているグラフを示している。横軸を温度、縦軸を吸着材24の吸着量を重量で表しており、実線Awは水の吸着量を示している。化学吸着は、所定温度Tw以下では、水と反応して水和物を作るが、所定温度Tw以上となると、脱水して吸着している水を分離する。
【0035】
燃料供給装置20に、ECU30からヒータ25をONにする指示が送られてきていない内燃機関1の通常運転時では、ヒータ25はOFFの状態となっており、吸着材24は加熱されていない。燃料は外気温に近いT3の温度で燃料供給管23を流れており、吸着材は、所定温度Twより低いT3の温度となっており、吸着材24には、水はAw1、アルコールはAe1、の重量が吸着される。
【0036】
燃料供給装置20に、ECU30からヒータ25をONにする指示が送られてきた内燃機関1の燃料加熱運転時では、ヒータ25はONの状態とされ、吸着材24は加熱される。吸着材24は、外気温に近いT3より高くかつ所定温度Twより高いT4に加熱されるので、吸着材24に吸着することのできる水の重量は、Aw4となる。
【0037】
吸着材24が温度T3にされて、水が吸着材24に吸着された後、吸着材24が所定温度Twより高いT4に加熱されると、水の吸着可能な重量が低下して、水は、Aw3-Aw4、放出される。
【0038】
本実施の形態の燃料供給装置20の吸着材24では、物理吸着が行われる吸着材であっても、化学吸着が行われる吸着材であってもよい。また、吸着材としては、物理吸着と化学吸着が同時におこるものもあるが、吸着材24の温度が上昇することで、吸着材24からアルコールよりも水が多く排出されれば、内燃機関に燃焼室に水を供給して、内燃機関のノッキングを低減させることができる。
【0039】
本実施の形態の内燃機関の燃料供給装置20では、温度差を利用して、吸着材24からの水の吸脱着を行ったが、吸着材24の吸収量が変化する作用があれば、圧力変化等により水の吸脱着を行うものでもよい。
【0040】
図4は、本実施の形態の内燃機関の燃料供給装置20の上記の機能を実現するために、ECU30が実行するルーチンのフローチャートである。排気温度が所定値以上であるか否かを判定するための閾値Tおよび吸着材24の温度が所定値以上であるか否かを判定する閾値Tが、予めECU30に記憶されている。
排気温度を判定する閾値Tは、例えば、これ以上の温度になると触媒装置15内の排気触媒の急激な劣化を招く温度、もしくは排気管13の損傷が生じる温度など、車両の特性に応じて設定されている。この閾値Tは、車両の特性に応じた固定された値が記憶されていてもよいが、図5に示されるように、予め、エンジン回転数とスロットル開度との関係から、排気系部品がT以上となって排気系部品の保護が必要となる領域を示したマップをECU30に記憶させておき、運転中のエンジン回転とスロットル開度からマップを参照して、排気系部品が閾値T以上となっているか否か(排気温度が閾値T以上となっているか否か)を判定する手法を採用してもよい。
吸着材の温度の閾値Tは、吸着材の水吸着特性より設定される。すなわち、吸着材の温度がT以下の場合に、ヒータ25をONにして、発明の効果が得られるだけの充分な水が燃焼室に供給される温度を、閾値Tとして設定している。
【0041】
内燃機関1が始動すると本フローが開始されて、ステップ1(S1)に進む。
【0042】
ステップ1(S1)では、内燃機関1において、ノッキングが発生しているか否かを判定する。ノッキングの発生の有無は、シリンダブロック2に取り付けられたノックセンサ31が、シリンダブロック2の振動を電気信号に変えてECU30に送る。ECU30はこの信号に基づいて、内燃機関1においてノッキングが発生しているか否かを判定する。
ノッキングの発生の有無の判定するノッキング判定手段として、上記態様ではノックセンサ31の値に基づいて判定しているが、図6に示されるように、予め、エンジン回転数とスロットル開度との関係から、ノッキングが発生する領域を示したマップをECU30に記憶させておき、運転中のエンジン回転とスロットル開度に基づいてマップを参照し、内燃機関1がノッキング発生領域において運転されている場合には、ノッキングが発生していると判定する手法を採用してもよい。
内燃機関1において、ノッキングが発生していないと判定されるとステップ2(S2)に進む。ノッキングが発生していると判定されるとステップ4(S4)に進む。
【0043】
ステップ2(S2)では、排気温度が閾値Tより高いか否かを判定する。排気温度は、排気管13の触媒装置15より上流側に取り付けられた排気温度センサ32により計測され、電気信号によりECU30に送られて、閾値T以上か否かを判定する。閾値Tは、上述したように、例えば、これ以上の温度になると触媒装置15内の排気触媒の急激な劣化を招く温度、もしくは排気管13の損傷が生じる温度など、車両の特性に応じて設定されており、ECU30に記憶されている。排気温度が閾値T以上でないと判定されるとステップ3(S3)に進み、排気温度が閾値T以上であると判定されるとステップ4(S4)に進む。
【0044】
ステップ3(S3)に進むと、吸着材24を加熱するヒータ25の電源がOFFにされる。ステップ1(S1)において、ノッキングが発生していないと判定され、さらにステップ2(S2)において、排気温度が閾値T以下であることが判定されているので、燃焼室6の温度を低下させることが不要であり、吸着材24に吸着させた水を排出する必要がないので、吸着材24を加熱することによる水の排出が不要であるからである。吸着材24は加熱されていないので吸着材24の温度が低下し、次に燃料中に水を排出する必要がある場合に備えて、吸着材24は燃料中の水やアルコールを吸着する。
【0045】
ステップ1(S1)において、ノッキングが発生していると判定されるとステップ4(S4)に進む。また、ステップ1(S1)においてノッキングが発生していないと判定されていても、ステップ2(S2)において、排気温度が閾値T以上であると判定された場合にも、ステップ4(S4)に進む。
【0046】
ステップ4(S4)では、吸着材24の温度が、吸着材温度センサ33により計測され、ECU30により、予め定められた閾値Tと比較して判定する。
吸着材24の温度が、閾値T以上高いと判定された場合には、ステップ3(S3)に進み、ヒータ25はOFFにされ、閾値Tより低いと判定された場合には、ステップ5(S)に進み、ヒータ25はONにされる。
【0047】
ステップ4(S4)に進んでいる場合は、ステップ1(S1)でノッキングが発生していると判定された場合か、ステップ1(S1)でノッキングが発生していないと判定された後ステップ2(S2)に進み、排気温度が閾値T以上であると判定された場合である。すなわち、内燃機関1でノッキングが発生している場合か、排気温度が閾値T以上である場合に、ステップ4(S4)に進んでいる。これらの場合は、吸着材24から水を排出して燃料に供給し、燃焼室6の温度の低下を図る必要がある。そこで、ステップ4(S4)において、吸着材24が、内燃機関のノック抑制や、排気温度の低下に有効な量の水を離脱することが可能であるT以上の温度となっているかを判定している。
【0048】
吸着材24の温度が、閾値T以上であると判定された場合には、吸着材24を加熱することによる効果が有効でないので、ステップ3(S3)に進み、ヒータ25はOFFにされる。ノッキングが生じる場合には点火時期を遅角させる等、また排気温度が高い場合には燃料噴射量を増大させることによって燃料による冷却を行う等、従来から用いられている手段が適用される。
また、吸着材24の温度が、閾値Tより低いと判定された場合には、ステップ5(S)に進み、ヒータ25はONにされるので、吸着材24は暖められて、吸着材24から水を排出して燃料に供給し、燃焼室6または排気の温度の低下を図ることができる。
【0049】
ステップ3(S3)または、ステップ5(S5)が実行されると、フローは完了して、ステップ1(S1)に戻り、内燃機関1の運転中、このフローが繰り返し行われ、ECU30の判定に応じて、ヒータ25のON/OFFが実行される。
【0050】
本実施の形態の内燃機関の燃料供給装置20は上記したように構成されているので、以下のような効果を奏する。
【0051】
本発明の一実施の形態の内燃機関の燃料供給装置20は、内燃機関1に燃料を供給する燃料供給装置20であって、吸水性を有する燃料を少なくとも一部含む燃料を貯留する燃料タンク21と、燃料を噴射する燃料噴射弁22と、燃料タンク21に連通し、燃料噴射装置22へ燃料を導出するための燃料供給管23と、燃料供給管23内に配設され、少なくとも水を吸着できる吸着材24と、を有し、内燃機関1の要求に応じて、吸着材24に吸着された水分を燃料供給管23に排出するものである。
【0052】
前記したように構成されているので、燃料供給管23内に吸着材24が配設され、内燃機関1の要求に応じて吸着材24から水分を燃料中に排出するので、燃料中の水の有する潜熱により、内燃機関1のノッキングの抑制や、高温の排気よる排気装置の損傷を防ぐので、別途水噴射装置やこれに関する装置を設ける必要が無く、内燃機関1の構造を簡素化し小型化することができ、内燃機関1の電気的負荷を増大させることなく、燃費を向上させることができるとともに、吸水性燃料から完全に水を除去する必要がなくなり、コストを低減することができる。
【0053】
また、内燃機関1の要求に応じて作動して、吸着材24を加熱する加熱手段としてのヒータ25を備え、吸着材24は、ヒータ25により加熱されて水分を排出するので、内燃機関1から水に対する要求があった際に、ヒータ25によって燃料に含まれる水分量を増加させることができ、別途、水を供給する装置を設けて内燃機関1に水噴射を行ったのと同様なノッキング低減効果や、排気ガス温度低減効果を奏することができる。
【0054】
さらに、内燃機関1の燃焼室6内でのノッキングの有無を判定するノッキング判定手段としてのノックセンサ31を備え、ノックセンサ31により、内燃機関1においてノッキングが発生していると判断された場合に、吸着材24に吸着された水分を排出して吸気に水分を加えるので、筒内ガス温度を低下させてノッキングの発生を抑制することができる。
【0055】
また、内燃機関1の燃焼室6からの排気を排出する排気管13に設けられ、排気ガスの温度を計測する排気ガス温度検出手段としての排気温度センサ32を備え、排気温度センサ32により、排気ガスが所定温度以上と判断された場合に、吸着材24に吸着された水分を排出して、吸気に水分を加えるので、筒内ガス温度を低下させて、排気ガス温度を下げることができ、NOxの発生を抑制することができる。さらに、排気管13に用いられる部品を熱から保護することが可能となる。
【0056】
さらにまた、吸着材24は、単位温度当たりの水の離脱量が、単位温度当たりのアルコールの離脱量よりも多いので、より多くの水分を吸着材24によって排出できるので、発熱量の大きな内燃機関においても、燃焼室温度を低下させることができる。
【0057】
また、吸着材24は、少なくともゼオライトまたはシリカゲルのどちらか一方を含むので、効率よく吸着材24より水分を排出できるので、発生熱量の大きな内燃機関においても、燃焼温度を下げることができる。
【0058】
吸着材24は、水と燃料を吸着可能な部材であり、吸着材24は、水の脱離量が燃料の脱離量よりも多くなるまで、加熱手段としてのヒータ25により加熱されるので、燃料より多くの水分を吸着材24によって排出できるので、発生熱量の大きな内燃機関1においても、さらに燃焼温度を下げることができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能であり、本発明の要旨の範囲で、車両、内燃機関等が、多様な態様で実施されるものを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0060】
1…内燃機関、6…燃焼室、12…吸気管、13…排気管、
20…燃料供給装置、21…燃料タンク、22…燃料噴射弁、23…燃料供給管、24…吸着材、25…ヒータ、
30…ECU、31…ノックセンサ、32…排気温度センサ、33…吸着材温度センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6