(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048253
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/08 20060101AFI20240401BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240401BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
H01G9/08 C
H01G9/00 290E
H01G9/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154185
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】513244753
【氏名又は名称】カーリットホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】合川 史登
(72)【発明者】
【氏名】和田 直人
(57)【要約】
【課題】温度や湿度が高い環境において、コンデンサの特性低下を抑制する。
【解決手段】誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置されたセパレータと、前記誘電体酸化皮膜上に形成された固体電解質層とを有するコンデンサ素子を備えた固体電解コンデンサにおいて、前記コンデンサ素子上に、金属酸化物を含む外層部を形成することで、耐熱性と耐湿熱性に優れる固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置されたセパレータと、前記誘電体酸化皮膜上に形成された固体電解質層とを有するコンデンサ素子を備えた固体電解コンデンサであり、前記コンデンサ素子上に、金属酸化物を含む外層部を有することを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記金属酸化物が、ケイ素、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム、インジウムからなる群より選ばれる少なくとも一つ以上の元素からなる酸化物が含まれている外層部を有することを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記金属酸化物がナノ粒子の集合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記ナノ粒子がコロイダルシリカ又はコロイダルアルミナであることを特徴とする請求項3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記外層部に、水溶性高分子が含まれており、金属酸化物と水溶性高分子の重量比が、金属酸化物:水溶性高分子=97:3から3:97であることを特徴とする請求項3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記外層部に、酸化防止剤が含まれていることを特徴とする請求項3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記酸化防止剤が、パラニトロフェノール、リン酸アンモニウム、亜リン酸トリブチル、亜リン酸ジブチルからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含むことを特徴とする請求項6に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
ケイ素、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム、インジウムからなる群より選ばれる少なくとも一つ以上の元素からなる金属酸化物を含有する外層コーティング剤。
【請求項9】
誘電体酸化皮膜が形成された陽極金属上に固体電解質層を形成させる工程と(a)、次いで金属酸化物が含まれている外層部を形成させる工程と(b)、を少なくとも有する固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項10】
前記金属酸化物が含まれている外層部を形成させる工程(b)が、外層コーティング剤により固体電解質層上に外層部を形成させる工程であることを特徴とする請求項9に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサとして、誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、陽極および陰極の間に配置されたセパレータとを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収納された外装体とを備えた電解コンデンサが知られている(特許文献1参照)。特許文献1には、陽極と陰極との間に導電性高分子および液剤が存在する固体電解コンデンサが記載されている。
【0003】
特許文献1には、本体ケースの底面側は封口体によって封止されているが、封口体と本体ケースの間から空気等の酸化性物質が経時的に本体ケースに侵入すること、液剤としてポリアルキレングリコール等が入っている場合はポリアルキレングリコール等の熱酸化劣化によってポリアルキレングリコール等の蒸散が起こること、酸化性物質が導電性高分子を酸化させることでコンデンサの特性低下を起こすことが記載されている。この課題を解決するため、特許文献1ではポリアルキレングリコール等にフェノール系酸化防止剤を含有させた液剤を用いることで、ポリアルキレングリコール等の熱酸化劣化を抑え、導電性高分子の酸化が抑制されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
温度や湿度が高い環境において、常温よりも熱酸化劣化が促進されるとともに、水蒸気が空気等の酸化性物質と共に本体ケース内に侵入した場合、水分が触媒となりポリアルキレングリコール等の液剤や導電性高分子の酸化を促進するため、フェノール系酸化防止剤を含有させた液剤が収容されたる特許文献1の前記固体電解コンデンサでは、導電性高分子の酸化抑制効果が不十分であることが本発明者らの検討により判明した。そのため、水分や空気等の酸化性物質が導電性高分子に接触することを防ぐことで、導電性高分子の酸化を抑制することが望まれる。
従って、本発明は、温度や湿度が高い環境において、コンデンサの特性低下を長期に亘って抑制することが可能な固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、誘電体酸化皮膜が形成された陽極金属上に導電性高分子からなる固体電解質層を有し、固体電解質層上に少なくとも金属酸化物が含まれている外層部を形成することで、温度と湿度が高い環境において、コンデンサの特性低下を長期に亘って抑制することが可能な固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0008】
[1]誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置されたセパレータと、前記誘電体酸化皮膜上に形成された固体電解質層とを有するコンデンサ素子を備えた固体電解コンデンサであり、前記コンデンサ素子上に、金属酸化物を含む外層部を有することを特徴とする固体電解コンデンサ。
[2]前記金属酸化物が、ケイ素、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム、インジウムからなる群より選ばれる少なくとも一つ以上の元素からなる酸化物が含まれている外層部を有することを特徴とする[1]に記載の固体電解コンデンサ。
[3]前記金属酸化物がナノ粒子の集合体であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の固体電解コンデンサ。
[4]前記ナノ粒子がコロイダルシリカ又はコロイダルアルミナであることを特徴とする[3]に記載の固体電解コンデンサ。
[5]前記外層部に、水溶性高分子が含まれており、金属酸化物と水溶性高分子の重量比が、金属酸化物:水溶性高分子=97:3から3:97であることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の固体電解コンデンサ。
[6]前記外層部に、酸化防止剤が含まれていることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の固体電解コンデンサ。
[7]前記酸化防止剤が、パラニトロフェノール、リン酸アンモニウム、亜リン酸トリブチル、亜リン酸ジブチルからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含むことを特徴とする[1]~[6]のいずれかに記載の固体電解コンデンサ。
[8]ケイ素、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム、インジウムからなる群より選ばれる少なくとも一つ以上の元素からなる金属酸化物を含有する外層コーティング剤。
[9]誘電体酸化皮膜が形成された陽極金属上に固体電解質層を形成させる工程と(a)、次いで金属酸化物が含まれている外層部を形成させる工程と(b)、を少なくとも有する固体電解コンデンサの製造方法。
[10]前記金属酸化物が含まれている外層部を形成させる工程(b)が、外層コーティング剤により固体電解質層上に外層部を形成させる工程であることを特徴とする[9]に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、温度や湿度が高い環境において、コンデンサの特性低下を長期に亘って抑制することが可能な固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサの分解斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明について説明する。
【0012】
本発明によって製造される固体電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜を形成させた陽極金属上に固体電解質層を有し、固体電解質層上に少なくとも金属酸化物が含まれている外層部が形成されてなる固体電解コンデンサである。
【0013】
[固体電解コンデンサ]
用いる陽極金属の種類、形状により、固体電解コンデンサはチップ型、巻回型とすることができる。
【0014】
本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサは、
図1に示すように、本体ケース2および本体ケース2の開口を封止した封口体3を有する外装体4と、外装体4に収容されたコンデンサ素子5とを備えることが好ましい。外装体4には、コンデンサ素子5が収容されていることが好ましい。
【0015】
コンデンサ素子5は、
図2に示すように、陽極11と陰極12とをセパレータ13および14を介して円筒形に巻回して形成されていることが好ましい。
【0016】
陽極11および陰極12にはそれぞれ図示しないリードタブが接続されていることが好ましい。陽極11は、リードタブを介して、リード端子21に接続されていることが好ましい。陰極12は、リードタブを介して、リード端子22に接続されていることが好ましい。リード端子21およびリード端子22は、それぞれ、
図1に示すように、封口体3に形成された孔を通って外部に引き出されていることが好ましい。
【0017】
[誘電体酸化皮膜を形成させた陽極金属]
陽極金属としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン等の陽極金属を例示することができる。陽極金属の形状としては、微細な粒子を焼結させた焼結体、エッチング等により粗面化処理した箔状あるいは板状の形状で用いられる。
これらの陽極金属の中でも、本発明の作用効果を呈し易いという面からエッチング等により粗面化処理した箔状のアルミニウムが極めて好適である。
【0018】
陽極金属に公知の化成処理を施すことによって陽極金属の表面に誘電体酸化皮膜を形成することができる。例えば、アジピン酸二アンモニウム等の水溶液中で陽極酸化処理を行い、陽極金属上に誘電体酸化皮膜を形成することができる。
【0019】
[固体電解質]
前記固体電解質層を形成させる工程に用いられる導電性高分子は、好ましくはドーパントをドープした重合体である。重合体を製造するのに用いるモノマー化合物としては、特に制限されるものではなく、例えば、ピロール類、チオフェン類、アニリン類等を用いることができるが、導電性に優れることから、下記一般式(1)で表されるチオフェン化合物であることがより好ましい。
【0020】
【0021】
上記一般式(1)中、R21は水素原子又は炭素数1~6の直鎖又は分岐状のアルキル基を示し、Xはそれぞれ同一でも異なっていても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。
【0022】
上記一般式(1)で表されるチオフェン化合物として、具体的には、3,4-エチレンジオキシチオフェン、メチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、エチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、プロピル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン、メチル-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、エチル-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、プロピル-3,4-プロピレンジオキシチオフェン、3,4-エチレンジチアチオフェン、メチル-3,4-エチレンジチアチオフェン、エチル-3,4-エチレンジチアチオフェン、プロピル-3,4-エチレンジチアチオフェン、3,4-プロピレンジチアチオフェン、メチル-3,4-プロピレンジチアチオフェン、エチル-3,4-プロピレンジチアチオフェン、プロピル-3,4-プロピレンジチアチオフェン等が挙げられる。
【0023】
これらの中でも特に固体電解コンデンサにおける電気特性に優れる点より、3,4-エチレンジオキシチオフェン、メチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン、エチル-3,4-エチレンジオキシチオフェンが特に好ましく挙げられる。
【0024】
本発明に用いることができる導電性高分子は、上記一般式(1)で表されるチオフェン化合物等のモノマー化合物を、上記ドーパントの存在下で化学酸化重合することによって得ることができる。化学酸化重合のための酸化剤は例えばパラトルエンスルホン酸第二鉄等の公知の酸化剤を用いることができる。
【0025】
該ドーパントとしては、高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基を有していればよく、硫酸エステル基、リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシル基、スルホ基等が好ましく挙げられる。これらの中でも、ドープ効果の点より、硫酸エステル基、カルボキシル基、スルホ基がより好ましく挙げられ、スルホ基が特に好ましく挙げられる。
【0026】
ドーパントとして、例えば、ヨウ素、臭素、塩素等のハロゲンイオン、ヘキサフルオロリン、ヘキサフルオロヒ素、ヘキサフルオロアンチモン、テトラフルオロホウ素、過塩素酸等のハロゲン化物イオン、又はメタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸等のアルキル置換有機スルホン酸イオン、カンファースルホン酸イオン等の環状スルホン酸イオン、又はベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸等のアルキル置換もしくは無置換のベンゼンモノもしくはジスルホン酸イオン、2-ナフタレンスルホン酸、1,7-ナフタレンジスルホン酸等のスルホン酸基を1~4個置換したナフタレンスルホン酸のアルキル置換もしくは無置換イオン、アントラセンスルホン酸イオン、アントラキノンスルホン酸イオン、アルキルビフェニルスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸等のアルキル置換もしくは無置換のビフェニルスルホン酸イオン、ポリスチレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合体等の高分子スルホン酸イオン等、またはモリブドリン酸、タングストリン酸、タングストモリブドリン酸等のヘテロポリ酸イオン、メトキシベンゼンスルホン酸、エトキシベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸が挙げられる。これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メトキシベンゼンスルホン酸、エトキシベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種がより好ましく挙げられ、パラトルエンスルホン酸が特に好ましく挙げられる。
【0027】
[固体電解質層を形成させる工程]
前記固体電解質層を形成させる工程を次に述べる。上述したモノマー化合物とドーパント及び酸化剤を含む混合溶液を、陽極金属に接触させた後、重合させることで、陽極金属に、導電性高分子を形成させたコンデンサ素子を作製する。接触させる方法は、任意の方法でよいが、好ましくは、上述したモノマー化合物とドーパント及び酸化剤を含む混合溶液に浸漬させる方法が挙げられる。
【0028】
つまり、陽極金属を、上述したモノマー化合物とドーパントを含む溶液に浸漬し引き上げた後加熱して、誘電体酸化皮膜を有する陽極金属上で化学酸化重合し導電性高分子を形成させる工程を有することが好ましく挙げられる。
【0029】
誘電体酸化皮膜を有する陽極金属を、上述したモノマー化合物とドーパント及び酸化剤を含む混合溶液に浸漬し、引き上げた後、乾燥する工程を複数回繰り返してもよい。
【0030】
固体電解質を形成させる工程は、モノマー化合物とドーパントを含む酸化剤溶液を交互に接触させる化学重合法や、電解重合法や、導電性高分子分散液を前記陽極金属に接触させる方法も挙げられる。
【0031】
乾燥は室温での自然乾燥から加熱乾燥までのいずれでもよいが、導電性高分子分散液に高沸点有機溶媒を含有させている場合には、150℃以上に加熱して乾燥させるのが好ましく挙げられる。
【0032】
[コンデンサ素子]
コンデンサ素子は、誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置されたセパレータとを有する。
【0033】
[外層部]
外層部とは、コンデンサ素子の固体電解質層より外側にある層を指し、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を外層コーティング剤に浸漬することによって形成される層のことを指す。
図2の巻回コンデンサの例では、コンデンサ素子の固体電解質層に接し、本体ケース及び封口体側に存在する層が外層部である。メカニズムの詳細は明らかではないが、外層部は空気等の酸化性物質や水分を通さないため、空気等の酸化性物質や水分が導電性高分子に接触することを防ぎ、導電性高分子の酸化を抑制することができるため、温度と湿度が高い環境において、コンデンサの特性低下を長期に亘って抑制することが可能になるものと推察される。
微粒子酸化物、微粒子金属、金属アルコキシド等を溶媒にて所定濃度に希釈した外層コーティング剤を、固体電解質が形成された誘電体酸化皮膜上に接触させた後、乾燥し溶媒を除去、脱水縮合等させることで、固体電解質上に金属酸化物を形成させることができる。接触させる方法は、任意の方法でよいが、好ましくは、固体電解質が形成された誘電体酸化皮膜を有する陽極金属を外層コーティング剤中に浸漬させる方法が挙げられる。
【0034】
固体電解質が形成された誘電体酸化皮膜を有する陽極金属を、上記外層コーティング剤に浸漬し、引き上げた後、乾燥する工程を複数回繰り返してもよい。
【0035】
乾燥は室温での自然乾燥から加熱乾燥までのいずれでもよいが、80℃以上に加熱して乾燥させるのが好ましく挙げられる。
【0036】
より具体的な工程の一例として、外層コーティング剤に固体電解質が形成された誘電体酸化皮膜を有する陽極金属を30秒間浸漬後、125℃にて30分乾燥する工程を例示することができる。
【0037】
[外層コーティング剤]
金属酸化物を溶媒にて所定濃度に希釈した前記外層コーティング剤は、金属酸化物1重量部に対し、溶媒0.1~10000重量部で希釈したものが好ましく、金属酸化物1重量部に対し、溶媒0.5~5000重量部であることがより好ましく、金属酸化物1重量部に対し、溶媒1.0~1000重量部であることが特に好ましく挙げられる。該範囲にすることで、金属酸化物を固体電解質上に効率よくコーティングすることができ、温度と湿度が高い環境において、長期に亘って抑制することが可能な固体電解コンデンサを製造することができる。
【0038】
[金属酸化物]
金属酸化物とは、ケイ素、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム、インジウムからなる群より選ばれる少なくとも一つ以上の元素からなる酸化物を指す。
【0039】
[ナノ粒子]
金属酸化物はナノ粒子の集合体であることが好ましい。ナノ粒子とは粒径が1~1000nmのものである。ナノ粒子としては、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナが好ましく用いられる。
【0040】
<コロイダルシリカ>
コロイダルシリカとは、SiO2又はその水和物のコロイドで、粒径が1~300nmで一定の構造をもたないものである。ケイ酸塩に希塩酸を作用させた後に、透析で得ることができる。粒径が小さくなるほどゲル化は進行しやすくなるが、粒径が大きくなるほどゲル化しにくくなる。本発明に用いるコロイダルシリカの粒径は、10~50nmが好ましく挙げられ、より好ましくは10~30nmが好ましく挙げられる。該粒径のコロイダルシリカを用いることで、緻密な金属酸化物を形成することができる。
【0041】
本発明に用いるコロイダルシリカは、ナトリウム安定型コロイダルシリカでも、酸性コロイダルシリカでも、アンモニア安定型コロイダルシリカでもよい。
ナトリウム安定型コロイダルシリカは、コロイダルシリカの表面がONa基となっている。酸性コロイダルシリカは、コロイダルシリカの表面が、Naを除去したOH基となっているコロイダルシリカであり、アンモニア安定型コロイダルシリカは、Naを除去してOH基にした後、アンモニアを含有させて安定化させたコロイダルシリカである。
これらの中でも、ナトリウムイオンの含有量が少ない酸性コロイダルシリカ又はアンモニア安定型コロイダルシリカが好ましく挙げられる。
【0042】
外層コーティング剤中におけるコロイダルシリカの含有量は、0.01~20質量%、より好ましくは0.03~15質量%が挙げられ、特に好ましくは0.05~10質量%が挙げられる。
【0043】
コロイダルシリカの平均粒径は、いずれのものでもよく、好ましくは1~100nmであり、より好ましくは10~50nmであり、特に好ましくは10~30nmである。該粒径のコロイダルシリカを用いることで、緻密な金属酸化物を形成することができる。
【0044】
コロイダルシリカの形状は、球状タイプ、鎖状タイプ、コロイダルシリカが環状に凝集して溶媒に分散した環状タイプのいずれであってもよい。
【0045】
コロイダルシリカの市販品としては、例えば、日産化学株式会社製のスノーテックスシリーズ、酸性ゾル「ST-OXS」、「ST-OS」、「ST-O」、「ST-O40」、「ST-OL」、「ST-OYL」、「ST-OUP」、「ST-PS-MO」、「ST-N40」、NH4
+安定型アルカリ性ゾル「ST-NXS」、「ST-NS」、「ST-N」、「ST-N-40」、Na+安定型アルカリ性ゾル「ST-XS」、「ST-S」、「ST-30」、「ST-50-T」、「ST-30L」、「ST-YL」、「ST-ZL」、「MP-1040」、「MP-2040」、「MP-4540M」、「ST-UP」、「ST-PS-S」、「ST-PS-M」、中性域での安定性を高めたゾル「ST-CXS」、「ST-C」、「ST-CM」、表面カチオン性の酸性ゾル「ST-AK」、「ST-AK-L」、「ST-AK-YL」、特殊珪酸塩水溶液「ST-K2」、「LSS-35」、「LSS-45」、「LSS-75」等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0046】
<コロイダルアルミナ>
コロイダルアルミナとは、Al2O3又はその水和物のコロイドで、粒径が1~5000nmで一定の構造をもたないものである。
【0047】
コロイダルアルミナの市販品としては、例えば、日産化学株式会社製の「アルミナゾル-100」、「アルミナゾル-200」、「アルミナゾル-520」等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0048】
[水溶性高分子]
外層コーティング剤による外層部の形成工程において、外層部のクラックや欠陥等を抑制でき、コンデンサの特性低下を抑制することが可能になるという観点から、外層コーティング剤及び外層部には水溶性高分子が含まれていることが好ましい。
【0049】
本発明に用いる水溶性高分子は、通常入手可能な水溶性高分子なら何でも用いることが可能である。好ましくは水酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基を有する水溶性高分子が挙げられ、より好ましくはポリビニルアルコール、水溶性ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0050】
水溶性ポリエステル樹脂の市販品としては、例えば、三菱ケミカル株式会社製の「ニチゴーポリエスター」、ユニチカ株式会社製の「エリーテルKT」、「エリーテルKA」、高松油脂株式会社製の「ペスレジンAシリーズ」、互応化学株式会社製の「プラスコート」、等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。金属酸化物と水溶性高分子の重量比は、金属酸化物:水溶性高分子=97:3から3:97が好ましく外層部のクラックや欠陥等を抑制するという観点では、金属酸化物:水溶性高分子=95:5から10:90がより好ましく、より好ましくは金属酸化物:水溶性高分子=90:10から20:80である。
【0051】
[酸化防止剤]
固体電解質層表面に酸化防止剤が接することにより、金属酸化物内を通ったわずかな空気等の酸化性物質による導電性高分子の酸化が抑制されるため、本発明の外層コーティング剤及び外層部には、酸化防止剤が含まれていることが好ましい。
【0052】
本発明に用いる酸化防止剤は、アミン系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等の通常電解コンデンサに使用される酸化防止剤なら何でも用いることが可能である。好ましくはフェノール系酸化防止剤やリン系酸化防止剤からなる群から選ばれる1種以上の化合物を含むことが挙げられる。より好ましくはパラニトロフェノール、リン酸アンモニウム、亜リン酸トリブチル、亜リン酸ジブチルからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含むことが挙げられる。金属酸化物と酸化防止剤の重量比は酸化被膜の構造を崩さないという観点から、金属酸化物:酸化防止剤=99:1から10:90が好ましく、より好ましくは98:2から30:70である。
【実施例0053】
(実施例1)
陽極金属として大きさが7×100mmのアルミニウム陽極箔を準備し、セパレータ紙を介して対向させた陰極箔とともに巻回し、陽極箔、陰極箔にそれぞれリードを取り付けることでコンデンサ素子を準備した。なお、アルミニウム陽極箔には誘電体酸化皮膜を形成するために予め化成処理を施した。
【0054】
(導電性高分子モノマーとドーパント及び酸化剤を含む混合溶液の製造)
4部の2-エチル-2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-1,4-ジオキシン(2-エチル-EDOT)と10部の50%パラトルエンスルホン酸第二鉄/エタノール溶液を混合し、導電性高分子モノマーとドーパント及び酸化剤を含む混合溶液を得た。
【0055】
(固体電解質層を形成する工程)
次に、上記で得られた導電性高分子モノマーとドーパント及び酸化剤を含む混合溶液に、上記コンデンサ素子を30秒間浸漬し、85℃で30分乾燥させる工程を行った。
【0056】
(外層コーティング剤の製造)
金属酸化物としてコロイダルシリカ(日産化学社製、スノーテックスO-40、水分散液、固形分40%、平均粒径20~30nm、pH2.0~4.0)2重量部とを、水98重量部で希釈し外層コーティング剤を得た。
【0057】
(外層部を形成する工程)
次に、上記外層コーティング剤に、上記固体電解質層が形成されたコンデンサ素子を30秒間浸漬し、素子をゆっくり引き上げた後、125℃で30分送風乾燥させた。さらに230℃で3分間熱処理を行い、コンデンサ素子を製造し、評価に供した。なお、サンプルによる差を明確にするため、本体ケースによる封止を行わなかった。
【0058】
(実施例2)
金属酸化物としてコロイダルアルミナ(川研ファインケミカル社製、アルミゾルCSA-310AD、水分散液、固形分5.7~6.3%、粒径サイズ10×50nm、pH3.1~3.9)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0059】
(実施例3)
金属酸化物としてコロイダルシリカ(日産化学社製、スノーテックスO-40、水分散液、固形分40%、平均粒径20~30nm、pH2.0~4.0)2重量部と水溶性高分子としてポリビニルアルコール500(富士フイルム和光純薬株式会社、完全ケン化型)2重量部、水96重量部で希釈した外層コーティング剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0060】
(実施例4)
金属酸化物としてコロイダルシリカ(日産化学社製、スノーテックスO-40、水分散液、固形分40%、平均粒径20~30nm、pH2.0~4.0)2重量部と水溶性高分子として水溶性ポリエステル樹脂(互応化学株式会社製、プラスコートZ-561)2重量部、水96重量部で希釈した外層コーティング剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0061】
(実施例5)
金属酸化物としてコロイダルシリカ(日産化学社製、スノーテックスO-40、水分散液、固形分40%、平均粒径20~30nm、pH2.0~4.0)2重量部と酸化防止剤としてリン酸アンモニウム2重量部、水96重量部で希釈した外層コーティング剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0062】
(実施例6)
金属酸化物としてコロイダルシリカ(日産化学社製、スノーテックスO-40、水分散液、固形分40%、平均粒径20~30nm、pH2.0~4.0)2重量部と酸化防止剤としてパラニトロフェノール2重量部、水96重量部で希釈した外層コーティング剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0063】
(実施例7)
金属酸化物としてコロイダルシリカ(日産化学社製、スノーテックスO-40、水分散液、固形分40%、平均粒径20~30nm、pH2.0~4.0)2重量部と酸化防止剤として亜リン酸トリブチル2重量部、水96重量部で希釈した外層コーティング剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0064】
(実施例8)
金属酸化物としてコロイダルシリカ(日産化学社製、スノーテックスO-40、水分散液、固形分40%、平均粒径20~30nm、pH2.0~4.0)2重量部と酸化防止剤として亜リン酸ジブチル2重量部、水96重量部で希釈した外層コーティング剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0065】
(実施例9)
金属酸化物としてコロイダルシリカ(日産化学社製、スノーテックスO-40、水分散液、固形分40%、平均粒径20~30nm、pH2.0~4.0)2重量部と水溶性高分子としてポリビニルアルコール500(富士フイルム和光純薬株式会社、完全ケン化型)2重量部と酸化防止剤としてリン酸アンモニウム2重量部、水94重量部で希釈した外層コーティング剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0066】
(比較例1)
実施例1に記載の外層部を形成する工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0067】
(比較例2)
水溶性高分子としてポリエチレングリコール400(富士フイルム和光純薬株式会社)2重量部、水98重量部で希釈した外層コーティング剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0068】
(比較例3)
水溶性高分子としてポリエチレングリコール400(富士フイルム和光純薬株式会社)2重量部、酸化防止剤として4,4'-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)2重量部、水96重量部で希釈した外層コーティング剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして固体電解コンデンサを製造した。
【0069】
<固体電解コンデンサの評価>
実施例1~9及び比較例1~3より得られた固体電解コンデンサについて、アジレント・テクノロジー株式会社製プレシジョンLCRメーターE4980Aを使用して、120Hzにおける静電容量(μF)およびtanδを測定し、100kHzにおける等価直列抵抗(ESR)を測定した。その後、135℃で48時間無負荷にて放置する耐熱性試験または85℃85%rhで48時間無負荷にて放置する耐湿熱性試験を行った後、静電容量(μF)およびtanδを測定し、100kHzにおける等価直列抵抗(ESR)を測定した。耐熱性試験および耐湿熱性試験の測定結果を表1に示す。
【0070】
【0071】
上記のとおり、実施例においては、耐熱性と耐湿熱性に優れる固体電解コンデンサを得ることができた。
本発明の固体電解コンデンサは温度と湿度が高い環境において、コンデンサの特性低下を長期に亘って抑制することが可能なため、高周波数のデジタル機器や車載用等に適用できる。