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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048259
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】ジュール加熱鍋
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/00 20060101AFI20240401BHJP
   B01F 23/43 20220101ALI20240401BHJP
   B01F 23/53 20220101ALI20240401BHJP
   B01F 35/21 20220101ALI20240401BHJP
   B01F 35/213 20220101ALI20240401BHJP
   B01F 35/221 20220101ALI20240401BHJP
   B01F 35/93 20220101ALI20240401BHJP
   A47J 27/00 20060101ALI20240401BHJP
   B01F 101/06 20220101ALN20240401BHJP
【FI】
H05B3/00 340
B01F23/43
B01F23/53
B01F35/21
B01F35/213
B01F35/221
B01F35/93
A47J27/00 104B
B01F101:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154195
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000138288
【氏名又は名称】株式会社ヤナギヤ
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】藤本 晃広
(72)【発明者】
【氏名】今井 健
【テーマコード(参考)】
3K058
4B055
4G035
4G037
【Fターム(参考)】
3K058AA86
3K058BA06
3K058CA22
3K058CA54
3K058CB09
3K058CE13
3K058CE19
3K058FA03
4B055AA01
4B055AA12
4B055BA63
4B055CA71
4B055CB01
4B055CB24
4B055DB01
4G035AB38
4G035AB46
4G035AE02
4G035AE15
4G037CA20
4G037EA02
(57)【要約】
【課題】製造コストが安く、食材を均一に加熱することが可能なジュール加熱鍋を提供する。
【解決手段】本発明のジュール加熱鍋1は液体の状態又はそれに固形物が混合された状態の食材を通電加熱する装置であり、食材が内部に収容され内壁面2aの輪郭線が平面視正六角形をなす容器2と、一対ごとに互いに平行をなすとともに内壁面2aに対してそれぞれ密着した状態で設置された三対の電極板3a~3cを備えており、三対の電極板3a~3cの上部には電源ケーブルが接続される三対のケーブル接続部4a~4cがそれぞれ設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の状態又は固形物と前記液体が混合された状態の食材を通電加熱するジュール加熱鍋であって、
nを2以上の整数とした場合に、平面視して内壁面の輪郭線が正2n角形をなして前記食材が内部に収容される容器と、
一対ごとに互いに平行をなすように前記容器内に設置された少なくともn対の電極板と、
電圧を印加すべき一対の前記電極板をn対の前記電極板の中から順次選択する配線切替器と、
この配線切替器によって選択された一対の前記電極板の間に電圧を印加する電源部と、を備え、
前記電極板は前記容器の前記内壁面に対して平行に近接配置されていることを特徴とするジュール加熱鍋。
【請求項2】
前記電極板は前記内壁面に密着した状態で前記容器に設置されていることを特徴とする請求項1に記載のジュール加熱鍋。
【請求項3】
前記電源部は、交流電源と、この交流電源の出力電圧を変化させる電圧調整器を備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のジュール加熱鍋。
【請求項4】
前記容器内の前記食材の温度を検出する温度センサと、
この温度センサの検出結果に基づいて前記電圧調整器の動作を制御する制御部と、を備え、
前記電圧調整器は、前記制御部の指示に従って前記交流電源の前記出力電圧を変化させることを特徴とする請求項3に記載のジュール加熱鍋。
【請求項5】
所望の時刻から経過した時間を計測するタイマーと、
このタイマーの計測結果に基づいて前記電圧調整器の動作を制御する制御部と、を備え、
前記電圧調整器は、前記制御部の指示に従って前記交流電源の前記出力電圧を変化させることを特徴とする請求項3に記載のジュール加熱鍋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状の食材やそれに固形物が混合された食材の加熱にジュール熱を利用するジュール加熱鍋に係り、特に、食材を間に挟むように対向配置された一対の電極間に電流を流し、それによって発生するジュール熱を用いて食材を加熱調理するジュール加熱鍋に関する。
【背景技術】
【0002】
食材の加熱方法の一つに、食材自身に通電することによって発生するジュール熱を利用する方法(ジュール加熱法)がある。この方法は、食材が液状のものか、あるいはそれに固形物が混合されたものであれば、適用することができるが、このような形態の食材は加熱中に自然対流が生じ難く、また、食材の種類や配置によって食材に対する電気の通り易さが異なることから、均一に加熱されない可能性が高い。そのため、回転する羽根を備えた撹拌装置が用いられることが多い。しかしながら、容器が角型の場合には、撹拌が不十分となるような領域(いわゆる、デッドスペース)が角部に生じるため、食材を均一に加熱できないという課題があった。
【0003】
このような課題に対処するものとして、例えば、特許文献1には「通電加熱装置」という名称で、容器内に対をなすように設置された電極部の間に電圧を印加することにより処理対象物を通電加熱する装置に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明は、有底円筒形状をなす容器と、この容器の中心軸の周りに回転する撹拌部材と、対をなすように容器内に設置された電極部と、を備えており、対をなす電極部のそれぞれが、上記中心軸を含む平面を挟んでその両側に、容器の内周面との間に所定の隙間が形成されるように、かつ、上記中心軸の周りで複数に分割され、その分割された各電極の隣接間に処理対象物が移動可能な隙間が形成されるように配置されていることを特徴とする。
このような構成によれば、撹拌部材を用いて容器内を撹拌することで、隣接した各電極の間を通って、各電極の外側と容器の内周面との間に形成された隙間に処理対象物を次々と強制的に移動させることができる。すなわち、特許文献1に開示された発明では、隙間内の処理対象物を流動化させることで、未加熱状態の処理対象物が当該隙間に滞留しないようにしている。
【0004】
また、特許文献2には「通電加熱方法、通電加熱用容器および通電加熱装置」という名称で、被加熱物に直接電流を流して加熱する方法と装置に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された通電加熱装置は、被加熱物と接触するように配置された少なくとも3つの電極と、その電極間に2通り以上の電位差が同時に生ずるように各電極に電位を印加する電源を備えたことを特徴とする。
このような構造の通電加熱装置によれば、被加熱物が直方体でない場合でも、電極の数や位置、あるいは電位などを適切な値に設定することにより、電流密度が均一な電流によって被加熱物を均一に加熱することができる。
【0005】
さらに、特許文献3には「流動性食品材料の通電加熱装置」という名称で、粘性の高い液状の食品材料やそれに固形物が混合された食品材料などの流動性食品材料の加熱に適した装置に関する発明が開示されている。
特許文献3に開示された発明は、円筒の底部が閉じられた形状をなす容器と、この容器の内周面に、周方向へ連続するように形成された外側電極と、容器の中心軸線に対して直交する平面内に所定の軌跡を描くように旋回可能な状態で容器内に挿入される内側電極と、を備え、内側電極における流動性食品材料中に浸漬される部分の外面が、実質的にエッジ部が存在しない平滑な面によって形成されていることを特徴とする。
このような構造によれば、内側電極の外面におけるエッジの存在に起因する局部的な電力集中を防ぐことができる。また、容器が円筒状をなしており、角部が存在しないため、内側電極を用いて容器内を撹拌する際に、デッドスペースが生じ難い。
【0006】
そして、特許文献4には「流動性食品の加熱撹拌装置」という名称で、液体状態若しくは液体-固体混合状態の流動性を有する食品材料を撹拌しながら加熱するための装置に関する発明が開示されている。
特許文献4に開示された発明は、内面が電気絶縁性を有する円筒状の容器と、この容器内に互いに間隔を置いて挿入された2本以上の撹拌電極と、この撹拌電極を容器内で旋回させる旋回手段と、撹拌電極間に電圧を加えるための電源装置と、を備えたことを特徴とする。
このような構成によれば、容器の側に湾曲状の電極を設ける必要がないため、低コスト化を図ることができる。また、各撹拌電極間の距離が一定に保たれるため、撹拌電極間の電流密度を均一化して、流動性食品材料を効率良く通電加熱することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-84348号公報
【特許文献2】特開2000-182753号公報
【特許文献3】特開2004-178840号公報
【特許文献4】特開平11-206575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された発明は、容器が円筒形状をなしているため、撹拌部材を用いて容器内を撹拌した際に撹拌が不十分となるような領域(デッドスペース)が生じ難いというメリットがあるものの、対をなす電極間の等電位面が平行になるように各電極に印加する電圧の大きさを調節することが難しいという課題があった。
また、特許文献2に開示された発明は、少なくとも3つの電極が設けられており、被加熱物内の等電位面が平行になるように各電極の電位を設定することにより被加熱物をその形状に関わらず均一に加熱することができるものの、被加熱物の形状や電気抵抗値が異なる場合には、各電極の電圧を設定し直さなければならないという課題があった。
さらに、特許文献3に開示された発明では、内側電極と外側電極がいずれも平板状をなしていないため、電極間に等電位面が互いに平行をなすような状態に形成されないため、場所によって食品材料の加熱が不十分になる、いわゆる「加熱ムラ」という現象が生じ易いという課題があった。また、撹拌手段の機能を有する内側電極を回転させる機構を設ける必要があることから、装置が大掛かりな構造となり、製造コストが高くなってしまうという課題があった。
そして、特許文献4に開示された発明では、一対の撹拌電極が棒状をなす場合、それらの電極間に等電位面が互いに平行をなすような状態に形成されず、加熱ムラが生じるおそれがある。また、一対の撹拌電極が板状をなす場合には、それらが棒状をなす場合に比べて電極間の距離が短くなるため、容器内を撹拌できる範囲が狭くなるという課題があった。
また、これらの発明では、撹拌装置を有する構造が基本となっているため、魚の姿煮などのように煮崩れを起こしてはいけない食材には適用できないという課題もあった。
【0009】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、食材を均一に加熱することが可能で、製造コストの安いジュール加熱鍋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、第1の発明は、液体の状態又は固形物と液体が混合された状態の食材を通電加熱するジュール加熱鍋であって、nを2以上の整数とした場合に、平面視して内壁面の輪郭線が正2n角形をなして食材が内部に収容される容器と、一対ごとに互いに平行をなすように容器内に設置された少なくともn対の電極板と、電圧を印加すべき一対の電極板をn対の電極板の中から順次選択する配線切替器と、この配線切替器によって選択された一対の電極板の間に電圧を印加する電源部と、を備え、電極板は容器の内壁面に対して平行に近接配置されていることを特徴とする。
なお、本発明における「容器を平面視して内壁面の輪郭線が正2n角形をなす場合」には、「容器を平面視して内壁面の輪郭線が略正2n角形をなす場合」も含まれるものとする。
【0011】
このような構造の第1の発明においては、電圧が印加される一対の電極板が配線切替器によって順次選択されるため、容器内のあらゆる部分に存在する食材に対しても余すところなく電流が流れるという作用を有する。さらに、容器内の食材が異なる2つ以上の方向に流れる電流によって加熱されるため、食材の種類や配置に起因する加熱ムラが生じ難いという作用を有する。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、電極板は内壁面に密着した状態で容器に設置されていることを特徴とする。
電極板が容器の内壁面から離れている場合、一対の電極板の間に流れる電流は電極板と容器の内壁面の間には流れないため、当該箇所に存在する食材は加熱が不十分になるおそれがある。これに対し、第2の発明では、電極板が容器の内壁面に密着しており、その間に食材が入り込むことがないため、第1の発明の作用に加え、加熱ムラが更に発生し難いという作用を有する。
【0013】
第3の発明は、第1の発明又は第2の発明において、電源部は、交流電源と、この交流電源の出力電圧を変化させる電圧調整器を備えていることを特徴とする。
このような構造の第3の発明においては、第1の発明又は第2の発明の作用に加え、食材の種類に応じて適切な電圧が一対の電極板の間に印加されるという作用を有する。
【0014】
第4の発明は、第3の発明において、容器内の食材の温度を検出する温度センサと、この温度センサの検出結果に基づいて電圧調整器の動作を制御する制御部と、を備え、電圧調整器は、制御部の指示に従って交流電源の出力電圧を変化させることを特徴とする。
このような構造の第4の発明においては、第3の発明の作用に加え、食材の温度に応じて交流電源の出力電圧が変化するという作用を有する。
【0015】
第5の発明は、第3の発明において、所望の時刻から経過した時間を計測するタイマーと、このタイマーの計測結果に基づいて電圧調整器の動作を制御する制御部と、を備え、電圧調整器は、制御部の指示に従って交流電源の前記出力電圧を変化させることを特徴とする。
このような構造の第5の発明においては、食材が設定温度に達した時刻からの経過時間がタイマーによって計測される場合、その計測結果に基づいて交流電源の出力電圧が変化するため、第3の発明の作用に加え、食材を加熱し過ぎたり、食材の加熱が不十分になってしまったりするおそれがないという作用を有する。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、ジュール熱によって加熱する際に加熱ムラが生じ難いため、容器内の食材を均一に加熱することができる。そして、第1の発明では、このような効果が簡単な構造によって発揮されるため、製造コストを安く抑えることが可能である。
【0017】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加え、加熱ムラが更に発生し難いため、食材を均一に加熱できるという効果がより確実に発揮される。
【0018】
第3の発明によれば、第1の発明又は第2の発明の効果に加え、食材の種類に適した加熱を行うことができるという効果を奏する。
【0019】
第4の発明によれば、第3の発明の効果に加え、食材の温度に応じて交流電源の出力電圧が変化するため、食材を加熱し過ぎたり、加熱が不足したりするという事態を防ぐことができる。
【0020】
第5の発明によれば、第3の発明の効果に加え、食材を加熱し過ぎたり、食材の加熱が不十分になってしまったりするおそれがないため、食材を適切に加熱できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(a)は本発明の実施の形態に係るジュール加熱鍋の外観を示した斜視図であり、(b)は同図(a)に示した容器の平面図である。
図2】(a)はジュール加熱鍋の機能を説明するためのブロック図であり、(b)は電極板と電源部の配線の状態を示した模式図である。
図3】(a)及び(b)は図1(a)に示したジュール加熱鍋の容器内に流れる電流の状態を模式的に示した図である。
図4】(a)及び(b)は内壁面の輪郭線が平面視正方形をなす容器内を流れる電流の状態を模式的に示した図である。
図5】(a)及び(b)は図1(a)に示したジュール加熱鍋の容器内に流れる電流の状態を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態に係るジュール加熱鍋の構造とその作用及び効果について、図1乃至図5を参照しながら具体的に説明する。なお、本実施の形態に係るジュール加熱鍋は、水平を基本として装置の本体が設置された状態で使用されるものであるため、以下の説明では実際に使用される状態を想定して、「上部」や「下方」などの表現を用いている。
【実施例0023】
図1(a)は本発明の実施の形態に係るジュール加熱鍋1の外観を示した斜視図であり、図1(b)は図1(a)に示した容器2の平面図である。なお、図1(a)ではケーブル接続部4a~4cに接続される電源ケーブルの図示を省略している。
本発明のジュール加熱鍋1は液体の状態又はそれに固形物が混合された状態の食材を通電加熱する装置であり、図1(a)及び図1(b)に示すように、食材が内部に収容される容器2と、この容器2の内部に設置された三対の電極板3a~3cを備えている。そして、容器2は内壁面2aの輪郭線が平面視正六角形をなしており、三対の電極板3a~3cは一対ごとに互いに平行をなすとともに内壁面2aに対してそれぞれ密着した状態で容器2に設置されている。なお、三対の電極板3a~3cの上部には電源ケーブル(図示せず)が接続される三対のケーブル接続部4a~4cがそれぞれ設けられている。
【0024】
図2(a)はジュール加熱鍋1の機能を説明するためのブロック図であり、図2(b)は電極板と電源部の配線の状態を示した模式図である。なお、図2(b)では電圧調整器13の図示を省略している。
図2(a)に示すように、ジュール加熱鍋1は、電圧を印加すべき一対の電極板を三対の電極板3a~3cの中から順次選択する配線切替器5と、この配線切替器5によって選択された一対の電極板に対して電圧を印加する電源部6と、容器2に収容された食材の温度を検出する温度センサ7と、食材が設定温度d1に達した時刻からの経過時間を計測するタイマー8と、温度センサ7の検出結果及びタイマー8の計測結果に基づいて電源部6の出力を制御する制御部9と、設定温度d1及び許容値d2並びに設定時間d4及び配線切替速度d5などのデータが格納されるメモリ部10と、このメモリ部10に格納されるデータや制御部9に対するコマンドが入力される入力部11を備えている。
また、電源部6は、交流電源12と、この交流電源12の出力電圧を変化させる電圧調整器13を備えている。
【0025】
作業者が入力部11を操作してジュール加熱鍋1のスイッチをONの状態にすると、入力部11は制御部9に動作開始信号a1を送る。動作開始信号a1を受け取った制御部9は、入力部11から入力され制御部9を経由してメモリ部10に予め格納されている設定温度d1、許容値d2、設定電圧d3、設定時間d4及び配線切替速度d5をメモリ部10から読み出した後、容器2の内部に収容されている食材の温度を示す検出値d6を温度センサ7から受け取るとともに、食材が設定温度d1に達した時刻からの経過時間を示す計測値d7をタイマー8から受け取る。
検出値d6が設定温度d1に達していない場合、制御部9は電源部6に設定電圧d3と動作開始信号a2を送るとともに、配線切替器5に配線切替速度d5と動作開始信号a3を送る。一方、タイマー8から送られてくる計測値d7に基づいて、制御部9は検出値d6が設定温度d1の許容範囲に入った後、設定時間d4が経過したと判断すると、電源部6に動作停止信号a4を送るとともに、配線切替器5に動作停止信号a5を送る。
【0026】
電源部6は設定電圧d3と動作開始信号a2に従って、交流電源12の出力を電圧調整器13によって調整し、配線切替器5は配線切替速度d5と動作開始信号a3に従って、三対の電極板3a~3cと電源部6の間の配線を予め定められたタイミングで切り替える。これにより、三対の電極板3a~3cの中から配線切替器5によって選択された一対の電極板に対して予め定められた大きさの電圧が印加されるとともに、当該電圧が印加される一対の電極板が予め定められた速度で切り替わる。さらに、温度センサ7によって食材が予め定められた温度に達したことが検出された後、その状態が予め定められた時間維持されていることがタイマー8によって検出されると、交流電源12の出力は停止する。
【0027】
このようにジュール加熱鍋1は、交流電源12と、その出力電圧を変化させる電圧調整器13を備えており、三対の電極板3a~3cの中から配線切替器5によって選択された一対の電極板に対し、食材の種類に応じて適切な電圧が印加されるため、食材の種類に適した加熱を行うことが可能である。また、ジュール加熱鍋1では、食材の温度に応じて交流電源12の出力電圧が変化し、さらに、食材が設定温度d1に達した後、設定時間d4が経過すると、交流電源12の出力が停止することから、食材を加熱し過ぎたり、食材の加熱が不十分になってしまったりするおそれがない。したがって、食材を適切に加熱することができる。
【0028】
配線切替器5は、2つの回路を有するように2段に重ねられたロータリスイッチ(図示せず)からなり、これを回転させることにより、2つの回路のそれぞれの第1の固定端子16a~16c及び第2の固定端子17a~17c(図2(b)を参照)に対する可動切片14、15(図2(b)を参照)の接続が切り替わるように構成されている。そして、このロータリスイッチはモータ(図示せず)によって回転駆動され、そのモータの回転速度は制御部9によって制御されている。すなわち、ロータリスイッチは、固定端子16a~16c及び固定端子17a~17cに対する可動切片14、15の接続を予め定められたタイミングで切り替える構造となっている。
【0029】
図2(b)に示すように、ロータリスイッチの可動切片14は端子14aが交流電源12の電源端子12aに配線接続された状態で、三対の電極板3a~3cにそれぞれ配線接続されている第1の固定端子16a~16cのいずれかに接続可能となっており、可動切片15は端子15aが交流電源12の電源端子12bに配線接続された状態で、三対の電極板3a~3cにそれぞれ配線接続されている第2の固定端子17a~17cのいずれかに接続可能となっている。
ただし、可動切片14、15は連動しており、可動切片14が第1の固定端子16aに接続されているときは可動切片15が第2の固定端子17aに接続され、可動切片14が第1の固定端子16bに接続されているときは可動切片15が第2の固定端子17bに接続される。そして、可動切片14が第1の固定端子16cに接続されているときは可動切片15が第2の固定端子17cに接続される。このようにして、ジュール加熱鍋1では、配線切替器5によって三対の電極板3a~3cの中から電圧を印加すべき一対の電極板が順次選択される構造となっている。なお、配線切替器5は機械式のロータリスイッチのような構造に限定されるものではなく、例えば、マグネットスイッチやリレー回路などのように回路が電気的に切り替えられる構造であっても良い。
【0030】
図3(a)及び図3(b)並びに図5(a)及び図5(b)はジュール加熱鍋1の容器2の内部に流れる電流の状態を模式的に示した図である。また、図4(a)及び図4(b)はジュール加熱鍋1において容器2の代わりに内壁面の輪郭線が平面視正方形をなす容器19を備えたジュール加熱鍋1aについて、容器19の内部を流れる電流の状態を模式的に示した図である。
なお、図3乃至図5ではケーブル接続部4a~4cと電源ケーブルの図示を省略している。また、図3(a)及び図3(b)並びに図4(a)及び図4(b)に示した小さな円は固形物の食材(以下、固形食材18という。)を表している。ただし、図が煩雑になるのを避けるため、それらの図では固形食材の一部についてのみ符号を付している。
【0031】
上記構造のジュール加熱鍋1において、配線切替器5によって一対の電極板3a、3aが交流電源12に接続されると、電圧調整器13によって出力を調整された交流電源12の電圧が一対の電極板3a、3aの間に印加される。その結果、等電位面が互いに平行をなすような電流が一対の電極3a、3aの間において図3(a)に破線の矢印で示す方向に流れる。
固形食材18が全て同じ種類の場合、それらの固形食材18に対する電気の通り易さは、ほぼ同じと考えられるが、図3(a)に示すように、1本の破線の矢印で貫かれる固形食材18の数(すなわち、1本の破線の矢印で表される電流によって加熱される固形食材18の数)が場所ごとに異なると、全ての固形食材18を均一に加熱することが難しくなり、場所によっては固形食材18の加熱が不十分となる、いわゆる「加熱ムラ」という現象が発生する。
【0032】
配線切替器5によって一対の電極板3b、3bが交流電源12に接続されると、電圧調整器13によって出力を調整された交流電源12の電圧が一対の電極板3b、3bの間に印加される結果、等電位面が互いに平行をなすような電流が一対の電極3b、3bの間において図3(b)に破線の矢印で示す方向に流れる。
また、配線切替器5によって一対の電極板3c、3cが交流電源12に接続されると、電圧調整器13によって出力を調整された交流電源12の電圧が一対の電極板3c、3cの間に印加される結果、等電位面が互いに平行をなすような電流が一対の電極3c、3cの間において図3(b)に破線の矢印で示す方向に流れる。
【0033】
このように、三対の電極板3a~3cのうちのいずれか一対の電極板と交流電源12との接続が配線切替器5によって順次切り替えられると、容器2の内部に流れる電流の方向が切り替わるため、図3(b)に示すように固形食材18は異なる3つの方向に流れる電流によって加熱されることになる。
この場合、図3(a)に示したように1つの方向に流れる電流のみによって固形食材18が加熱される場合とは異なり、1本の破線の矢印で貫かれる固形食材18の数(すなわち、1本の破線の矢印で表される電流によって加熱される固形食材18の数)が場所ごとに異なるという事態が起こり難い。そのため、ジュール加熱鍋1では、食材の配置に起因する加熱ムラが生じ難い。
また、一般に固形の食材は液状の食材よりも電気が通り難いが、ジュール加熱鍋1では3方向に流れる電流によって食材が加熱されるため、固形の食材でも十分に加熱することが可能であり、食材の種類に起因する加熱ムラも発生し難い。したがって、ジュール加熱鍋1によれば、加熱ムラを防いで食材を均一に加熱することができる。
このように、食材の配置を変える必要が無いことから、ジュール加熱鍋1aは、特に、魚の姿煮などのように煮崩れを起こさない方が良い食材にとっては有効である。
【0034】
図4(a)及び図4(b)に示すように、ジュール加熱鍋1aは、ジュール加熱鍋1において容器2の代わりに内壁面の輪郭線が平面視正方形をなす容器19と、二対の電極板3a、3bを備えるとともに、上記内壁面に対し、二対の電極板3a、3bがそれぞれ密着するようにして容器19に設置された構造となっている。
このような構造のジュール加熱鍋1aにおいて、配線切替器5によって一対の電極板3a、3aが交流電源12に接続されると、等電位面が互いに平行をなすような電流が一対の電極3a、3aの間において図4(a)に破線の矢印で示す方向に流れる。この場合、図4(a)に示すように1本の破線の矢印で貫かれる固形食材18の数(すなわち、1本の破線の矢印で表される電流によって加熱される固形食材18の数)が場所ごとに異なる状態となり、場所によって固形食材18の加熱が不十分となる「加熱ムラ」が発生し易い。
【0035】
一方、二対の電極板3a、3bのうちのいずれか一対の電極板と交流電源12との接続を配線切替器5によって順次切り替えると、容器2の内部に流れる電流の方向が切り替わるため、図4(b)に示すように固形食材18は異なる2つの方向に流れる電流によって加熱されることになる。この場合、図4(a)に示したように1つの方向に流れる電流のみによって固形食材18が加熱される場合とは異なり、1本の破線の矢印で貫かれる固形食材18の数(すなわち、1本の破線の矢印で表される電流によって加熱される固形食材18の数)が場所ごとに異なるという事態が起こり難いため、加熱ムラが発生し難い。
これに対し、一対の電極板によって矩形状の容器内の食材を加熱する従来のジュール加熱鍋では、食材が図4(a)に示したような状態で加熱される。すなわち、ジュール加熱鍋1aによれば、従来のジュール加熱鍋に比べて加熱ムラが発生し難いため、食材を均一に加熱することが可能である。
【0036】
図3(a)を用いて既に説明したように、ジュール加熱鍋1において、配線切替器5によって一対の電極板3a、3aが交流電源12に接続されると、等電位面が互いに平行をなすような電流が一対の電極3a、3aの間に流れる。この場合、図5(a)に破線の矢印で示した方向に電流が流れることになるが、この電流の影響は二対の電極板3b、3cの近くに存在する食材では、効果が小さい。
つぎに、配線切替器5によって一対の電極板3b、3bが交流電源12に接続されると、等電位面が互いに平行をなすような電流が一対の電極3b、3bの間に流れるが、この電流の影響は二対の電極板3a、3cの近くに存在する食材では、効果が小さい。さらに、配線切替器5によって一対の電極板3c、3cが交流電源12に接続されると、等電位面が互いに平行をなすような電流が一対の電極3c、3cの間に流れるが、この電流の影響は二対の電極板3a、3bの近くに存在する食材では、効果が小さい。
【0037】
ジュール加熱鍋1では、交流電源12の電圧が印加される一対の電極板が配線切替器5によって三対の電極板3a~3cの中から順次選択され、その配線が予め定められたタイミングで切り替わる構造となっている。そのため、ジュール加熱鍋1では、図5(b)に示すように容器2の内部のあらゆる部分に存在する食材に対して余すところなく電流が流れることになる。したがって、ジュール加熱鍋1によれば、加熱ムラを防いで食材を均一に加熱することが可能である。
なお、このようなジュール加熱鍋1の作用及び効果は、内壁面の輪郭線が平面視正多角形をなす容器と、その内壁面に密着するようにして設置される複数対の電極板と、その電極板の中から電圧を印加すべき一対の電極板を順次選択して切り替える配線切替器5という簡単な構造によって発揮されるため、ジュール加熱鍋1では、製造コストを安く抑えることが可能である。
【0038】
ジュール加熱鍋1では、三対の電極板3a~3cが内壁面2aに対して密着した状態で容器2に設置されているが、三対の電極板3a~3cは内壁面2aに対して平行に近接配置されていても良い。このような構造であってもジュール加熱鍋1について説明した前述の作用及び効果は、ほぼ同様に発揮される。ただし、三対の電極板3a~3cが容器2の内壁面2aに密着している場合には、その間に食材が入り込むことがなく、加熱ムラが一層発生し難くなるため、食材を均一に加熱できるという効果がより確実に発揮される。
また、ジュール加熱鍋1では、食材が設定温度d1に達した時刻からの経過時間を計測するタイマー8を備えているが、タイマー8は、上記時刻以外の所望の時刻からの経過時間を計測するものであっても良い。このような構造であれば、温度センサ7とタイマー8によって食材の温度変化のパターンを調べることにより、三対の電極板3a~3cに印加する電圧の大きさについて、上記パターンに応じた適正な値を決定することができる。
なお、液状の食材に関しては成分の比重の関係で上下方向に加熱ムラが生じる場合もある。このような場合には、容器内の食材を均一化するために撹拌装置を追加することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、液状の食材やそれに固形物が混合された食材を加熱する場合に適用できるため、食品の加工分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1、1a…ジュール加熱鍋 2…容器 2a…内壁面 3a~3c…電極板 4a~4c…ケーブル接続部 5…配線切替器 6…電源部 7…温度センサ 8…タイマー 9…制御部 10…メモリ部 11…入力部 12…交流電源 12a、12b…電源端子 13…電圧調整器 14、15…可動切片 14a、15a…端子 16a~16c…第1の固定端子 17a~17c…第2の固定端子 18…固形食材 19…容器 a1~a3…動作開始信号 a4、a5…動作停止信号 d1…設定温度 d2…許容値 d3…設定電圧 d4…設定時間 d5…配線切替速度 d6…検出値 d7…計測値
図1
図2
図3
図4
図5