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特開2024-48272細胞外小胞の製造方法及び細胞外小胞含有組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048272
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】細胞外小胞の製造方法及び細胞外小胞含有組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/02 20060101AFI20240401BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20240401BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C12N1/02
C12N5/0775
C12N1/00 L
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154219
(22)【出願日】2022-09-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516143802
【氏名又は名称】セルソース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135862
【弁理士】
【氏名又は名称】金木 章郎
(72)【発明者】
【氏名】裙本 理人
(72)【発明者】
【氏名】山木 琢生
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB01
4B065BB19
4B065BB31
(57)【要約】
【課題】 培養中の細胞外小胞の確認に煩雑な手段を要さずに、充分量の細胞外小胞を確保できる適切なタイミングで細胞外小胞の分泌を終了でき、且つ、簡便な分離方法を適用できる細胞外小胞の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のある態様は、幹細胞を細胞外小胞分泌用培地に存在させて幹細胞から細胞外小胞を分泌させる分泌工程と、
前記細胞外小胞分泌用培地中の成分の物理的指標に基づいて前記分泌工程の終了の可否を判断する判断工程と、
を含む細胞外小胞の製造方法である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞を細胞外小胞分泌用培地に存在させて幹細胞から細胞外小胞を分泌させる分泌工程と、
前記細胞外小胞分泌用培地中の成分の物理的指標に基づいて前記分泌工程の終了の可否を判断する判断工程と、
を含む細胞外小胞の製造方法。
【請求項2】
前記細胞外小胞分泌用培地が、使用前の状態において、粒子径が1~1000nmである微粒子の個数が、1×10個/mL未満の培地である、請求項1に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項3】
前記細胞外小胞分泌用培地が、使用前の状態において、TNF-α及びTRAIL/APO2Lを含む培地である、請求項1又は2に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項4】
前記細胞外小胞分泌用培地が、使用前の状態において、総タンパク質量が100μg/mL以下の培地である、請求項1又は2に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項5】
前記分泌工程の前工程として、用意した培地が、使用前の状態において、粒子径が1~1000nmである微粒子の個数が、1×10個/mL未満であることを確認する確認工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項6】
前記判断工程における前記分泌工程の終了可能条件が、
分泌工程開始時を基準として、培養上清1mLにおける粒子径1~1000nmの微粒子の個数が3倍以上であることである、請求項1又は2に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項7】
前記判断工程における前記分泌工程の終了可能条件が、
培養上清1mL中の粒子について、横軸に1nm刻みで粒子径を、縦軸に粒子数をそれぞれプロットしたとき、粒子径1~200nmの領域に、粒子数3×10個以上のピークが1つ以上存在することである、請求項1又は2に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項8】
前記判断工程における前記分泌工程の終了可能条件が、
培養上清1mL中の粒子について、横軸に1nm刻みで粒子径を、縦軸に粒子数をそれぞれプロットしたとき、粒子径1~200nmの領域に、粒子数3×10個以上のピークが1つ以上存在することである、請求項6に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項9】
前記幹細胞が、間葉系幹細胞である、請求項1又は2に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項10】
前記分泌工程の前工程として、前記幹細胞を増殖させる培養工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項11】
前記分泌工程の後工程として、前記細胞外小胞分泌用培地中の前記細胞外小胞を回収する回収工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項12】
前記回収工程で得られた細胞外小胞含有組成物において、粒子径1~1000nmの微粒子数に対する細胞外小胞マーカーの発現量が5.0×10-9pg/particle以上である、請求項11に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の方法により得られた、細胞外小胞含有組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外小胞の製造方法及び細胞外小胞含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトを含む多細胞生物は、種々の多様な細胞から構成されている。これらの細胞は、細胞間コミュニケーションをとることにより、互いに協働して生理機能を維持している。細胞間コミュニケーションの手段としては、細胞間接着のような物理的な手段や、ホルモン、サイトカイン、成長因子等を介したシグナル伝達による手段が知られている。
【0003】
近年、この細胞間コミュニケーションにおいて、細胞外小胞が重要な役割を果たしていることが明らかにされてきた。細胞外小胞は、細胞由来の脂質二重膜で囲まれた核を持たない(複製できない)粒子であり、由来する細胞の種類や環境ごとに、種々のDNA、RNA、タンパク質等を内包している。生体内で分泌された細胞外小胞は、血液等を通じて他の細胞へと運ばれ、その内包物等が様々な細胞応答を引き起こす。このような細胞外小胞の特徴を鑑み、現在、疾患の診断や、ドラックデリバリーシステムに応用するための技術開発が盛んに行われている。特許文献1には、エクソソーム(細胞外小胞の1種)を用いて、対象細胞に外来物質を導入する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報2016/076347号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、細胞外小胞は細胞の培養上清から得られるが、本発明者らは、従来公知の方法により得られた培養上清中には、細胞外小胞と同等の粒径を有する細胞外小胞様粒子が多く含まれていることを見出した。したがって、培養中に細胞外小胞の存在を確認するためには、細胞外小胞マーカーの検出等の煩雑な手段が必要である。また、これらの細胞外小胞様粒子のみを取り除くことは困難である。本発明は、上述の課題を鑑みてなされたものであり、培養中の細胞外小胞の確認に煩雑な手段を要さずに、充分量の細胞外小胞を確保できる適切なタイミングで細胞外小胞の分泌を終了でき、且つ、不純物が低減された細胞外小胞の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、この細胞外小胞様の粒子が培地由来の成分により構成されていることを見出した。そこで、本発明者らは、このような成分をできるだけ含まない培地を用い、さらに、物理的指標によって培養終了可否を判断することで、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の第一の態様によれば、
幹細胞を細胞外小胞分泌用培地に存在させて幹細胞から細胞外小胞を分泌させる分泌工程と、
前記細胞外小胞分泌用培地中の成分の物理的指標に基づいて前記分泌工程の終了の可否を判断する判断工程と、
を含む細胞外小胞の製造方法が提供される。
【0008】
前記第一の態様において、前記細胞外小胞分泌用培地は、使用前の状態において、粒子径が1~1000nmである微粒子の個数が、1×10個/mL未満の培地であってもよい。
【0009】
前記第一の態様において、前記細胞外小胞分泌用培地は、使用前の状態において、TNF-α及びTRAIL/APO2Lを含む培地であってもよい。
【0010】
前記第一の態様において、前記細胞外小胞分泌用培地は、使用前の状態において、総タンパク質量が100μg/mL以下の培地であってもよい。
【0011】
前記第一の態様において、前記分泌工程の前工程として、用意した培地が、使用前の状態において、粒子径が1~1000nmである微粒子の個数が、1×10個/mL未満であることを確認する確認工程をさらに含んでもよい。
【0012】
前記第一の態様において、前記判断工程における前記分泌工程の終了可能条件が、
分泌工程開始時を基準として、培養上清1mLにおける粒子径1~1000nmの微粒子の個数が3倍以上であることであってもよい。
【0013】
前記第一の態様において、前記判断工程における前記分泌工程の終了可能条件が、
培養上清1mL中の粒子について、横軸に1nm刻みで粒子径を、縦軸に粒子数をそれぞれプロットしたとき、粒子径1~200nmの領域に、粒子数3×10個以上のピークが1つ以上存在することであってもよい。
【0014】
前記第一の態様において、前記幹細胞は、間葉系幹細胞であってもよい。
【0015】
前記第一の態様において、前記分泌工程の前工程として、前記幹細胞を増殖させる培養工程をさらに含んでもよい。
【0016】
前記第一の態様において、前記分泌工程の後工程として、前記細胞外小胞分泌用培地中の前記細胞外小胞を回収する回収工程をさらに含んでもよい。
【0017】
前記第一の態様において、前記回収工程で得られた細胞外小胞含有組成物において、粒子径1~1000nmの微粒子数に対する細胞外小胞マーカーの発現量が5.0×10-9pg/particle以上であってもよい。
【0018】
上述した第一の態様の方法によって、細胞外小胞含有組成物が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、培養中の細胞外小胞の確認に煩雑な手段を要さずに、充分量の細胞外小胞を確保できる適切なタイミングで細胞外小胞の分泌を終了でき、且つ、不純物が低減された細胞外小胞の製造方法が提供できる。さらに、本発明によれば、細胞外小胞マーカー発現率の高い細胞外小胞含有組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本実施形態に係る細胞外小胞の製造方法の概略工程図である。
図2図2は、細胞外小胞製造システムの概略構成を示すブロック図である。
図3図3は、細胞外小胞製造システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、使用前の状態における、細胞外小胞分泌用培地及び従来培地の様子を示す写真である。
図5図5は、使用前の状態における、細胞外小胞分泌用培地及び従来培地の粒度分布である。
図6図6は、細胞外小胞分泌用培地の添加直後及び48時間経過後の細胞の形態を示す写真である。
図7図7は、基礎培地及び細胞外小胞分泌用培地を添加したときの、各培養上清における、単位体積あたりの細胞外小胞マーカー量を示すグラフである。
図8図8は、分泌工程開始時及び所定時間経過後の、各培養上清における粒度分布である。
図9図9は、分泌工程開始後の、各培養上清における、粒子径1~1000nmの微粒子数を基準とした、細胞外小胞マーカー量の比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳述する。
なお、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下であることを表す。また、複数の上限値と複数の下限値とが別々に記載されている場合、これらの上限値と下限値とを自由に組み合わせて設定可能な全ての数値範囲が記載されているものとする。
【0022】
本実施形態に係る細胞外小胞の製造方法は、幹細胞を培地に存在させて幹細胞から細胞外小胞を分泌させる分泌工程と、前記培地中の成分の物理的指標に基づいて前記分泌工程の終了の可否を判断する判断工程と、を含むことが好ましい。
【0023】
(幹細胞)
本実施形態で使用する細胞は、幹細胞であれば特に限定されない。「幹細胞」は、自己複製能及び多分化能を有する細胞である。また、幹細胞は分化能の違いから、全能性幹細胞(受精卵等)、多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞等)、体性幹細胞の3種類に大別される。上述の通り、細胞外小胞は分泌される細胞の種類によって内包物が異なるため、幹細胞の種類は、必要とする細胞外小胞に応じて、任意に選択できる。例えば、体性幹細胞の1種である間葉系幹細胞が分泌する細胞外小胞は、免疫機構や抗炎症作用を調節できる。間葉系幹細胞を含む組織としては、例えば、脂肪組織、臍帯、骨髄、臍帯血、子宮内膜、胎盤、羊膜、絨毛膜、脱落膜、真皮、骨格筋、骨膜、歯小嚢、歯根膜、歯髄、歯胚等が挙げられる。ここで、例えば、脂肪組織由来間葉系幹細胞(脂肪組織由来間質細胞と称してもよい)とは、脂肪組織に存在する(又は存在した)間葉系幹細胞を意味する。免疫性疾患、肝疾患及び関節症等の治療に対する有効性の観点から、本実施形態に係る間葉系幹細胞としては、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、胎盤由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞及び歯髄由来間葉系幹細胞が好ましく、脂肪組織由来間葉系幹細胞及び臍帯由来間葉系幹細胞が好ましい。このうち、簡便且つ大量に取得できることから、脂肪組織由来間葉系幹細胞が特に好ましい。なお、本実施形態に係る間葉系幹細胞は、ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞を分化誘導して作製された間葉系幹細胞を含む。
【0024】
(細胞外小胞分泌用培地)
本実施形態に係る培地は、特に断らない限り、細胞に細胞外小胞を分泌させるときに使用する細胞外小胞分泌用培地を意味する。以下では、本実施形態に係る培地を特に「細胞外小胞分泌用培地」と呼び、それ以外の、例えば細胞を増殖させるための培地を「増殖用培地」等と呼ぶ。
【0025】
本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地を構成する基本成分は、幹細胞増殖用培地(例えば間葉系幹細胞増殖用培地)に含まれる成分と同じであってもよい。本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地の基本成分として、例えば、アミノ酸、ビタミン、無機塩類及びその他成分を挙げることができる。具体的には、アミノ酸として、必須アミノ酸であるイソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン(スレオニン)、トリプトファン、バリン及びヒスチジン、並びに、非必須アミノ酸であるチロシン、システイン、アスパラギン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、プロリン、グリシン、アラニン及びアルギニン;ビタミンとして、アスコルビン酸、コリン、ミノイノシトール、ナイアシンアミド、パントテン酸、ピリドキシン、ピリドキサール、チアミン、プトレシン、ビオチン、シアノコバラミン、葉酸及びリボフラビン;無機塩類として、FeSO、CuSO、MnSO、NaSiO、ZnSO、MgSO、CaCl、NaHPO、NaHPO、NaCl、KCl及びNaHCO;その他成分として、HEPES等の緩衝剤、グルコースやピルビン酸等の炭素源、及びグルタチオン(還元型)等の抗酸化物質を挙げることができる。
【0026】
ただし、本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地は、好適には、使用前の当該細胞外小胞分泌用培地1mLあたりの、粒子径が1~1000nmである微粒子の個数が、1×10個未満である。従来培地(基礎培地に血清を添加した培地、又は基礎培地にホルモン及び特定の栄養成分等を添加した培地(無血清培地ともいう)等)は、分泌される細胞外小胞と同等の粒径を有する細胞外小胞様粒子を多く含む。分泌工程の際に、このような細胞外小胞様粒子を含む培地を用いた場合、後述の物理的指標によっては細胞外小胞の分泌の有無及び分泌量を確認できない。したがって、本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地は、細胞外小胞様粒子を極力排除した培地であり、使用前の状態において、粒子径が1~1000nmである微粒子の個数が、好適には5×10個/mL未満である。また、粒子径は、目的の細胞外小胞に合わせて設定することができ、後述するエクソソームを回収する場合、10~500nmが好ましく、30~200nmがさらに好ましく、50~150nmが特に好ましい。微粒子の個数がこのような範囲内であると、物理的指標による細胞外小胞の検出の際に、妨害(細胞外小胞様粒子が細胞外小胞と共に検出されること)の程度が許容範囲内となる。なお、培地中に存在する微粒子の個数の測定方法は、後述する。
【0027】
本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地は、好適には、脂質類を含まない、又は、脂質類を100nM未満(好適には50nM未満、より好適には10nM未満)含む。脂質類は、培地内に微粒子を形成させる原因となり得るからである。加えて、脂質類は、細胞が増殖する際に細胞膜の構成成分として必要とされるが、本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地は細胞増殖を前提としていないのでそもそも不要である。ここで、細胞増殖用培地に含まれ得る脂質類は、典型的には、不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸及びステロールから選択される少なくとも一つである。また、間葉系幹細胞の細胞膜を構成する主な脂質類として、オレイン酸、アラキドン酸、リノール酸、ステアリン酸及びパルミチン酸が挙げられる。したがって、本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地は、オレイン酸、アラキドン酸、リノール酸、ステアリン酸及びパルミチン酸の合計濃度が、100nM未満であることがより好適であり、50nM未満であることがさらに好適であり、10nM未満であることが特に好適であり、5nM未満であることが最も好適である。
【0028】
また、本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地は、好適には、界面活性剤を含まない、又は、界面活性剤を臨界ミセル濃度未満で含む。従来培地においては、前述の脂質類や一部の栄養成分等の不溶性成分を培地に可溶化させるため、又は細胞増殖を促すために界面活性剤が添加されている。物理的指標による細胞外小胞の検出では、この可溶化により形成されたミセルが、細胞外小胞様粒子として細胞外小胞と共に検出され得る。また、本発明者らは、培地中の界面活性剤が臨界ミセル濃度未満であっても、細胞外小胞様粒子が形成される事象を確認している。これは、ミセル様体(培地中の脂質の周りを包み込むように形成されたミセルのようなもの)が形成されたためと推定される。当該ミセル様体の形成による細胞外小胞の検出への影響を抑えるため、界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度の10倍希釈濃度(臨界ミセル濃度の1/10の濃度)以下が好適であり、50倍希釈濃度以下がより好適であり、100倍希釈濃度以下がさらに好適であり、500倍希釈濃度以下が特に好適であり、1000倍希釈濃度以下が特に好適である。界面活性剤としては、例えば、Tween80、SDS、Tergitol7、Irgasan及びモネシンを挙げることができる。なお、界面活性剤の臨界ミセル濃度は、例えば以下の方法で測定可能である:表面張力計Sigma(KSV Instruments社製)を用いて、Sigmaシステム中の解析プログラムを用いて解析を行う。界面活性剤を水系媒体に対して0.01%ずつ滴下し、攪拌、静置後の界面張力を測定する。得られた表面張力カーブから、界面活性剤の滴下によっても界面張力が低下しなくなる界面活性剤濃度を臨界ミセル濃度として算出する。この手法にて、水系媒体に対するTween80の臨界ミセル濃度を表面張力計Sigmaで測定を行ったところ、15mg/Lであった。
【0029】
さらに、本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地は、好適には、TNF(tumor necrosis factor;腫瘍壊死因子)ファミリーに属するサイトカインを含む。具体的には、本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地は、好適には、サイトカインとしてTNF-α及びTRAIL/APO2Lを含む。これらのサイトカインは細胞死の誘導等に寄与するため、細胞を増殖又は維持するための培地には添加されない。通常、細胞外小胞の分泌時には、細胞が高い生存率を示す、細胞の増殖又は維持に適した培地を使用する。しかしながら、上述の通り、本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地は、細胞増殖を前提としていない。細胞外小胞分泌用培地がこれらのサイトカインを含むことで、これらのサイトカインを含まない場合に比べて細胞の増殖や維持が抑制されるにも関わらず、細胞から分泌される細胞外小胞の量が増える。TNF-α及びTRAIL/APO2Lの含有量は、使用前の状態において、それぞれ、0.0001~2.0mg/Lが好ましく、0.001~1.0mg/Lが特に好ましい。TNF-α及びTRAIL/APO2Lの含有量がこのような範囲内であると、細胞へのダメージが最小限になり、且つ、細胞から効率的に細胞外小胞が分泌される。なお、本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地は、上述の理由から、従来培地に含まれ得る成長因子(例えば、bFGF、EGF、PDGF及び/又はTGF-β1)を含有していなくてもよい。なお、培地の構成成分が未知の場合は、従来公知のタンパク質検出法(例えば、ELISA法、ウエスタンブロッティング法)等により上記タンパク質含有の有無を判断することができる。
【0030】
本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地は、好適には、使用前の状態において、総タンパク質量が100μg/mL以下である。従来培地は、細胞の増殖又は維持のために多様且つ大量のタンパク質を含む。しかしながら、これらのタンパク質は細胞外小胞を精製する際に不純物として製品中に残存し得る。したがって、本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地は、細胞外小胞の分泌に不要なタンパク質を極力排除した培地であり、使用前の当該細胞外小胞分泌用培地1mLあたりの、総タンパク質量が好適には50μg/mL以下であり、さらに好適には30μg/mL以下であり、特に好適には20μg/mL以下である。総タンパク質量がこのような範囲であると、精製時の不純物が許容範囲内となる。培地中の総タンパク質量は、従来公知の測定方法により測定できる。総タンパク質量の測定方法としては、例えば、Bradford法、WST法、Biuret法、Lowry法及びBCA法が挙げられる。なお、これらの測定方法は、培地中の界面活性剤等により干渉され得るため、培地を適宜希釈して測定に供する必要がある。
【0031】
本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地は、動物由来成分(例えば、ウシ胎児血清のようなウシ血清、ヒト血清)を含まないことが好適である。血清には、大量のタンパク質が含まれることに加えて、ロット間で性能が異なること、さらには狂牛病等への感染といったリスクがある。このような生体に悪影響を及ぼし得る成分を含まない細胞外小胞分泌用培地とすることにより、本実施形態に係る製造方法で製造された細胞外小胞は臨床試験等にも利用できる。
【0032】
(細胞外小胞の製造方法)
本実施形態に係る細胞外小胞の製造方法について、図1を用いて説明する。以下で参照する図面において、寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。また、以下の実施形態で引用する図面は、説明の都合上、構成の簡略化又は模式化して示したり、一部の構成要素を省略したりしている。図1は、本実施形態に係る細胞外小胞を製造する際の概略工程図である。
【0033】
まず、図1(a)に示すように、幹細胞10、増殖用培地20、及び培養容器30を用意して、細胞を増殖させるための培養工程を行う。ただし、本工程を省略してもよい。本工程における増殖用培地20は、幹細胞の増殖に適した、従来公知の培地を使用できる。使用できる増殖用培地20としては、例えば、基礎培地に血清を添加した培地、及び無血清培地が挙げられる。なお、血清には、細胞培養用添加剤{増殖因子やサイトカインを含有するウシ血清を原料としたもの:例えば、JAPAN BIOMEDICAL社製のNeoSERA(登録商標)}も含まれる。また、培養工程中に、基礎培地に血清を添加した培地で培養した後、無血清培地に置換して再度培養してもよい。なお、培養容器30として一般的な細胞培養用フラスコ又はディッシュを使用できる。培養には、所望の温度及び所望の二酸化炭素濃度に調整したインキュベータや、恒温槽等を使用することができる。培養工程の一実施形態は、例えば、DMEM/Ham’s F-12培地に、NeoSERA(登録商標)を2%量添加して増殖用培地20を調製するステップ、使用前に当該増殖用培地20を室温~37℃に温めるステップ、幹細胞10を当該増殖用培地20に所望の密度になるように懸濁するステップ、細胞培養用フラスコ等の培養容器30に幹細胞を播種するステップ、当該培養容器30を37℃、5%CO条件下で培養するステップを含む。また、別の実施形態では、さらに、増殖用培地20を無血清培地(例えば、コージンバイオ株式会社製のKBM ADSC-4)に置換するステップを含む。増殖用培地20の置換の際は、既存の培地を除去して新しい培地を培養容器30に直接添加してもよく、新しい培地中に幹細胞10を懸濁して新たな培養容器30に播種してもよい。増殖用培地20として、血清を添加した培地を使用した場合は、このような無血清培地への馴化作業を含むことが好ましい。本工程で、幹細胞10を80~90%コンフルエントまで増殖させることが好ましい。なお、「コンフルエント」とは、培養容器の培養表面全体に対して細胞の占める面積の割合が約100%であること、すなわち培養表面いっぱいに隙間なく細胞が増殖した状態を意味する。
【0034】
続いて、図1(b)に示すように、細胞外小胞分泌用培地40を用意し、分泌工程を行う。ここで、分泌工程の前工程として、用意した培地が細胞外小胞分泌用培地40であることを確認する確認工程を行ってもよい。確認工程の手段としては、例えば、(1)培地1mLあたりの、粒子径が1~1000nmである微粒子の個数が、1×10個未満であること、(2)TNF-α及びTRAIL/APO2Lを含有すること、(3)培地1mLあたりの、総タンパク質量が100μg/mL以下の培地であること、のうち、少なくとも1つ以上、好適には2つ以上、さらに好適には全てに該当することを確認する。分泌工程においては、例えば、培養工程で増殖させた幹細胞10を、細胞外小胞分泌用培地40で培養して、幹細胞10から細胞外小胞を分泌させる。なお、培地を増殖用培地20から細胞外小胞分泌用培地40に置換する際は、例えば、上述の増殖用培地20の置換と同様の方法を採用できる。
【0035】
次に、図1(b)の分泌工程中の細胞外小胞分泌用培地40の少なくとも一部を採取し、判断工程を行う。判断工程は、具体的には、採取した細胞外小胞分泌用培地40中の成分の物理的指標に基づいて分泌工程の終了の可否を判断する。なお、本明細書において「物理的指標」とは、例えば、粒子径、粒度分布等を指し、細胞外小胞マーカーの検出等の生物的指標を除く。具体的には、例えば、終了可能条件(1)分泌工程開始時を基準として、培養上清1mLにおける粒子径1~1000nmの微粒子の個数が3倍以上である、及び(2)培養上清1mL中の粒子について、横軸に1nm刻みで粒子径を、縦軸に粒子数をそれぞれプロットしたとき、粒子径1~200nmの領域に、粒子数3×10個以上のピークが1つ以上存在する、のうち、少なくとも1つ、好適には全てに該当していれば、分泌工程を終了可能と判断する。なお、(1)における「分泌工程開始時」とは、分泌工程前又は分泌工程開始直後を指し、使用前の細胞外小胞分泌用培地40、及び分泌工程開始直後に採取した細胞外小胞分泌用培地40のどちらを基準としてもよい。また、(1)の粒子径は、目的の細胞外小胞に合わせて設定することができ、後述するエクソソームを回収する場合、10~500nmが好ましく、30~200nmがさらに好ましく、50~150nmが特に好ましい。さらに、(1)において、分泌工程開始時を基準として、培養上清1mLにおける粒子径1~1000nmの微粒子の個数は5倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、30倍以上であり得る。本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地40を使用した場合、例えば、分泌工程開始時(培養開始時)から24~72時間後に、培養上清1mLにおける粒子径1~1000nmの微粒子の数が、培養開始時を基準として、3倍以上になる。本実施形態によれば、充分量の細胞外小胞を確保できる適切なタイミングで分泌工程を終了することができる。
【0036】
物理的指標の測定に使用する細胞外小胞分泌用培地40は、採取したものをそのまま使用してもよく、細胞デブリ等を除去したものであってもよい。細胞外小胞分泌用培地40中の粒子数及び粒子径の測定には、例えば、光(例えば、ナノトラッキング法、動的光散乱法)、電子(例えば、走査型電子顕微鏡)、電気{Tunable resistive pulse sensing法;ナノサイズの小孔をナノ粒子が通過する際の電気抵抗を測定}等を用いた測定手法を利用でき、具体的には、Malvern Panalytical社製のNANOSIGHT(登録商標)LM10-HS、及びZetasizer(登録商標)Nano ZS等を使用して測定できる。したがって、本実施形態によれば、細胞外小胞の存在を確認するために、ELISA法やウエスタンブロッティング法等による細胞外小胞マーカーの検出等の煩雑な手段が不要である。
【0037】
また、本実施形態に係る細胞外小胞の製造方法は、分泌工程の後工程として、細胞外小胞分泌用培地中の細胞外小胞を回収する回収工程をさらに含んでもよい。回収工程は、分泌工程終了後の培養上清(細胞外小胞含有組成物)を培養容器30から回収する工程を含む。通常、培地中に含まれる細胞外小胞様粒子やタンパク質等は取り除くことができない。しかしながら、本実施形態によれば、不純物が比較的少ない細胞外小胞含有組成物を取得できる。
【0038】
(細胞外小胞含有組成物)
本実施形態に係る細胞外小胞含有組成物は、細胞外小胞を含む。ここで、「細胞外小胞」とは、幹細胞内で生産され幹細胞から分泌される小胞である。細胞外小胞としては、例えば、膜粒子、膜小胞、微小胞、ナノ小胞、マイクロベシクル(microvesicles、平均粒子径30~1000nm)、エクソソーム様小胞、エクソソーム(exosome、平均粒子径30~200nm)、エクトソーム様小胞、エクトソーム(ectosome)及びエキソベシクルが挙げられる。このうち、エクソソームはmiRNA等の核酸物質や、タンパク質等を内包しており、本実施形態に係る細胞外小胞は、臨床研究等の観点から、エクソソームであることが好ましい。したがって、本実施形態に係る細胞外小胞のサイズとしては、粒子径が1~1000nmであり、10~500nmが好ましく、30~200nmがさらに好ましく、50~150nmが特に好ましい。また、幹細胞由来の細胞外小胞は、細胞内起源、スクロース中での細胞外小胞の密度、形状、沈降速度、脂質組成、マーカータンパク質及び分泌の様式に基づいても区別される。さらに、細胞外小胞は、その構成脂質としてフォスファチジルセリン、フォスファチジルコリン、コレステロール、スフィンゴミエリン及びセラミドのいずれかを含有する。
【0039】
本実施形態に係る細胞外小胞含有組成物は、好適には、粒子径1~1000nmの微粒子数に対する細胞外小胞マーカーの発現量が5.0×10-9pg/particle以上であり、さらに好適には1.0×10-8pg/particle以上である。従来培地には、細胞外小胞マーカーを有さない細胞外小胞様粒子が多く含まれるため、得られる細胞外小胞含有組成物の、微粒子数に対する細胞外小胞マーカー量が比較的低い値となる。一方、本実施形態に係る細胞外小胞含有組成物は、培地由来の細胞外小胞様粒子がほとんど存在しないため、得られる細胞外小胞含有組成物の、微粒子数に対する細胞外小胞マーカー量が比較的高い値となる。換言すると、本実施形態に係る細胞外小胞含有組成物は、高純度の細胞外小胞を含有する。細胞外小胞マーカーの有無は、従来公知のELISA法やウエスタンブロッティング法等により測定できる。なお、本明細書における「細胞外小胞マーカー量」とは、CD9/CD63融合タンパク質(標準タンパク質)を基準とした、サンドイッチELISAによる測定値であり、具体的には、CD9/CD63 Exosome ELISA Kit(EXH0102EL;コスモバイオ株式会社製)を用いた測定値である。
【0040】
(細胞外小胞製造システム)
図2は、本実施形態に係る細胞外小胞製造システム100の概略構成を示すブロック図である。図2に示すように、細胞外小胞製造システム100は、細胞外小胞製造装置200及び細胞外小胞製造管理装置300を備える。
【0041】
細胞外小胞製造装置200は、庫内を所定温度に維持可能な培養機器であり、例えば、インキュベータや、恒温槽等である。細胞外小胞製造装置200の庫内に、培養容器30が格納される。培養容器30には、細胞外小胞分泌用培地40及び幹細胞10が収容されている。
【0042】
細胞外小胞製造管理装置300は、一般的なパーソナルコンピュータ(以下、PCともいう)機器、ノートPC、スマートフォン又はタブレット端末等である。細胞外小胞製造管理装置300は、培地情報入力部310、分泌工程終了可能判断部320、表示部340を備える。また、一実施形態において、細胞外小胞製造管理装置300は、さらに細胞外小胞分泌用培地確認部330を備える。
【0043】
培地情報入力部310は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなどの操作入力手段であってもよい。また、ある態様において、培地情報入力部310は、後述する培地情報取得部210との通信を行うためのインターフェース回路に接続されたメモリであってもよい。
【0044】
分泌工程終了可能判断部320及び細胞外小胞分泌用培地確認部330は、CPU(Central Processing Unit)、並びにROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などの半導体メモリ、HDD(Hard Disk Drive)又は、SSD(Solid State Drive)などを含む不揮発性のメモリ等により構成されている。メモリには、分泌工程終了可能判断や細胞外小胞分泌用培地確認の際に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム、及び、データ等が記憶されている。メモリに記憶されるプログラムは、当該プログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体(図示略)により提供されてもよい。記録媒体として、例えば、CD-ROM、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)カード、マイクロSDカード、コンパクトフラッシュ(登録商標)などの可搬型メモリが挙げられる。
【0045】
培地情報入力部310には、培養容器30内の細胞外小胞分泌用培地40に関する情報等がユーザによって入力され得る。細胞外小胞分泌用培地40に関する情報としては、例えば、培地中の微粒子数、成分及び濃度、及び総タンパク質量等が挙げられる。さらに、幹細胞10に関する情報(例えば、幹細胞10の種類、播種数等)が入力されてもよい。また、細胞外小胞製造装置200内に、細胞外小胞分泌用培地40に関する当該情報を検出するための培地情報取得部210をさらに設けてもよい。
【0046】
培地情報取得部210は、培地サンプリング部212、及び培地情報検出部214を備える。培地サンプリング部212により、培養容器30内の細胞外小胞分泌用培地40の一部が採取され、培地情報検出部214で培地中の微粒子数、成分、濃度、及び総タンパク質量等の情報を取得する。あるいは、細胞外小胞分泌用培地40内に直接センサー等を存在させて細胞外小胞分泌用培地40に関する当該情報を取得してもよい。これらの方法により取得された情報が、無線又は有線にて通信可能に接続された培地情報入力部310に入力されてもよい。
【0047】
分泌工程終了可能判断部320は、培地情報入力部310に入力された情報をもとに、分泌工程が終了可能か判断する。分泌工程終了可能の判断は、物理的指標に基づいて行われ、具体的には、例えば、(1)分泌工程開始時を基準として、培養上清1mLにおける粒子径1~1000nmの微粒子の個数が2倍以上である、及び(2)培養上清1mL中の粒子について、横軸に1nm刻みで粒子径を、縦軸に粒子数をそれぞれプロットしたとき、粒子径1~200nmの領域に、粒子数3×10個以上のピークが1つ以上存在する、のうち、少なくとも1つ、好適には全てに該当していれば、分泌工程を終了可能と判断する。
【0048】
一実施形態においては、細胞外小胞分泌用培地確認部330は、培地情報入力部310に入力された情報をもとに、培地が細胞外小胞分泌用培地であるかを確認する。細胞外小胞分泌用培地であるかの判断は、具体的には、例えば、(1)培地1mLあたりの、粒子径が1~1000nmである微粒子の個数が、1×10個未満であること、(2)TNF-α及びTRAIL/APO2Lを含有すること、(3)培地1mLあたりの、総タンパク質量が100μg/mL以下の培地であること、のうち、少なくとも1つ以上、好適には2つ以上、さらに好適には全てに該当することが確認される。
【0049】
表示部340は、ディスプレイ(図示せず)に必要な情報を表示する。表示部340によって表示される情報としては、分泌工程終了可能判断部330によって判断された判断結果、及び確認結果等が挙げられる。
【0050】
図3は、細胞外小胞製造システム100の動作の一例を示すフローチャートである。以下に示す例は、確認工程(S10及びS20)を含む実施形態であるが、別の実施形態において、確認工程(S10及びS20)は省略され得る。
まず、培地情報取得部210によって得られた分泌工程開始前の培地情報が培地情報入力部80に入力される(S10)。分泌工程開始前の培地情報としては、培地1mLあたりの、粒子径が1~1000nmである微粒子の個数、TNF-α及びTRAIL/APO2Lの含有の有無、培地1mLあたりの総タンパク質量等が挙げられる。なお、当該分泌工程開始前の培地情報はユーザによって培地情報入力部310に入力されてもよい。
次に、入力された分泌工程開始前の培地情報に基づき、当該培地が細胞外小胞分泌用培地であるか(具体的には、例えば、(1)培地1mLあたりの、粒子径が1~1000nmである微粒子の個数が、1×10個未満であること、(2)TNF-α及びTRAIL/APO2Lを含有すること、(3)培地1mLあたりの、総タンパク質量が100μg/mL以下の培地であること、のうち、少なくとも1つ以上、好適には2つ以上、さらに好適には全てに該当すること)が確認される(S20)。当該培地が細胞外小胞分泌用培地である場合には(S20のyes)、分泌工程を開始する(S30)。当該培地が細胞外小胞分泌用培地でない場合には(S20のno)、細胞外小胞の製造を終了する。
次に、培地情報取得部210によって得られた分泌工程中の培地情報が培地情報入力部80に入力される(S40)。分泌工程中の培地情報としては、培養上清1mLにおける粒子径1~1000nmの微粒子の個数、培養上清1mLにおける、粒子径1~200nmの範囲における1nm刻みでの粒子数等が挙げられる。なお、当該分泌工程中の培地情報はユーザによって培地情報入力部310に入力されてもよい。
次に、入力された分泌工程中の培地情報に基づき、分泌工程終了可能条件を満たすかどうか(具体的には、例えば、終了可能条件(1)分泌工程開始時を基準として、培養上清1mLにおける粒子径1~1000nmの微粒子の個数が2倍以上である、及び(2)培養上清1mL中の粒子について、横軸に1nm刻みで粒子径を、縦軸に粒子数をそれぞれプロットしたとき、粒子径1~200nmの領域に、粒子数3×10個以上のピークが1つ以上存在する、のうち、少なくとも1つ、好適には全てに該当すること)を判定する(S50)。分泌工程終了可能条件を満たす場合には(S50のyes)、細胞外小胞の製造を終了する。分泌工程終了可能条件を満たさない場合には(S50のno)、S40の分泌工程中の培地情報入力に戻る。
【0051】
本実施形態に係る細胞外小胞製造システム100によれば、培地情報に応じて細胞外小胞の分泌工程を管理することができる。すなわち、細胞外小胞製造システム100によれば、簡便な操作で細胞外小胞を得ることができる。
【0052】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれる。
【実施例0053】
1.使用前培地中の粒子及び総タンパク質量の測定
使用前の各培地成分を測定した。具体的には、本実施形態に係る細胞外小胞分泌用培地(培地1000mLあたりの組成は表1を参照)及び従来培地{無血清培地:KBM(登録商標)ADSC-4(コージンバイオ株式会社製)}について、粒度分布及び総タンパク質量を測定した。なお、表1より、当該細胞外小胞分泌用培地は、TNF-α及びTRAIL/APO2Lの含有量が、使用前の状態において、それぞれ、0.01mg/Lであった。
【0054】
【表1】
【0055】
(粒度分布の測定)
各培地について、NANOSIGHT(登録商標)LM10-HS(Malvern Panalytical社製)を用いて、培地中の粒子数及び粒子径を測定した。なお、各培地はそれぞれ20~200倍に希釈した。図4に、測定時に観察された各培地の写真を示す。図4より、従来培地は使用前の時点で多量に含まれている一方、細胞外小胞分泌用培地はほとんど粒子を含まないことが分かった。また、このときの培地1mLあたりの粒径1~1000nmにおける粒度分布(横軸に1nm刻みで粒子径を、縦軸に粒子数をそれぞれプロットした)を図5に、各粒径範囲における粒子数を表2に、それぞれ示す。
【0056】
【表2】
【0057】
図5より、使用前の状態において、従来培地は粒子径が1~1000nmの微粒子を多量に含むのに対し、細胞外小胞分泌用培地はほとんど当該微粒子を含まなかった。具体的には、表2により、細胞外小胞分泌用培地は、使用前の状態において、粒子径が1~1000nmである微粒子の個数が、1×10個/mL未満であった。
【0058】
(総タンパク質量の測定)
各培地について、総タンパク質測定キットQubit(登録商標)タンパク質アッセイキット(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、総タンパク質量を測定した。具体的には、0.5~5%量の総タンパク質測定試薬を添加し、ボルテックスミキサーにより混合した。このとき、標準タンパク質濃度液及びその段階希釈液についても、同様に総タンパク質測定試薬を添加、混合した。各サンプルについて、Qubit 4 Fluorometer(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて蛍光強度を測定した。標準タンパク質濃度液及びその段階希釈液の蛍光強度から、各サンプルの総タンパク質濃度を算出した。その結果を、表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3より、使用前の状態において、従来培地は多量のタンパク質を含むのに対し、細胞外小胞分泌用培地の総タンパク質量は検出限界(12.5μg/mL)未満であった。
【0061】
2.細胞外小胞分泌用培地による細胞外小胞の分泌
基礎培地{D-MEM / Ham's F-12(富士フイルム和光純薬製)}に細胞培養用添加剤{NeoSERA(登録商標)(JAPAN BIOMEDICAL社製)}を2%量添加した増殖用培地を室温~37℃に昇温した。続いて、ヒトから採取した脂肪由来間葉系幹細胞(検体1及び2)を、それぞれ、細胞培養用フラスコ底面積に対して3×10cells/cm2の密度になるように懸濁し、細胞培養用フラスコに播種した。各細胞培養用フラスコを、37℃、5%COに調整したインキュベータ内に静置して、培養工程を開始した。
【0062】
続いて、各脂肪由来間葉系幹細胞をトリプシンで剥離し、無血清培地{KBM(登録商標)ADSC-4(コージンバイオ株式会社製)}に懸濁して、新たな細胞培養用フラスコにそれぞれ播種した。このとき、細胞の密度が、細胞培養用フラスコ底面積に対して3×10cells/cm2になるように播種した。各細胞培養用フラスコを、37℃、5%COに調整したインキュベータ内に静置して再度培養し、80~90%コンフルエントまで増殖させた。
【0063】
各細胞培養フラスコ中の培地を除去した後、PBS緩衝液による洗浄(PBS緩衝液の添加及び除去)を2回行った。洗浄後、検体1には細胞外小胞分泌用培地(組成は表1を参照)を、検体2には基礎培地を、それぞれ添加した。各細胞培養用フラスコを、37℃、5%COに調整したインキュベータ内に静置した。48時間経過後に、各培養上清(細胞外小胞含有組成物)の一部を回収した(以下では、検体1及び2からサンプリングした細胞外小胞含有組成物サンプルを、それぞれ、実施例1及び比較例1とする)。ここで、図6に、検体1の細胞外小胞分泌用培地を添加した直後及び48時間経過後の細胞の形態を示す。また、検体1の48時間経過後における細胞生存率をトリパンブルー法を用いて測定したところ、96%であった。したがって、細胞外小胞分泌用培地に含まれるTNF-α及びTRAIL/APO2Lは、細胞にダメージをほとんど与えないことが分かった。
【0064】
各サンプルについて、細胞デブリを除去した後、ELISA法により、細胞外小胞マーカーを検出した。具体的には、CD9/CD63 Exosome ELISA Kit(コスモバイオ株式会社製)を用いて、CD9とCD63が両方とも発現されている細胞外小胞を検出した。このときの、単位体積当たりの細胞外小胞マーカー量を図7に示す。
【0065】
図7より、細胞外小胞分泌用培地を添加した場合、TNF-α及びTRAIL/APO2Lを含まない基礎培地に比べて細胞外小胞の量が増加することが分かった。
【0066】
3.分泌工程における微粒子の粒度分布
2.と同様に、増殖用培地を用いて脂肪由来間葉系幹細胞(検体3~7)を培養工程に供した後、無血清培地に懸濁して37℃、5%COに調整したインキュベータ内に静置して再度培養し、80~90%コンフルエントまで増殖させた。
【0067】
各細胞培養フラスコ中の培地を除去した後、PBS緩衝液による洗浄(PBS緩衝液の添加及び除去)を2回行った。洗浄後、検体3~5には細胞外小胞分泌用培地(組成は表1を参照)を、検体6及び7には従来培地{KBM(登録商標)ADSC-4(コージンバイオ株式会社製)}を、それぞれ添加した。各細胞培養用フラスコを、37℃、5%COに調整したインキュベータ内に静置して、分泌工程を開始した。
【0068】
各検体について、分泌工程開始時及び所定の経過時間ごとに各培養上清(細胞外小胞組成物)の一部をサンプリングした(以下では、検体3~7からサンプリングした各培養上清サンプルを、それぞれ、実施例2~4、比較例2及び比較例3とする)。
【0069】
各サンプルについて、細胞デブリを除去した後、1.と同様に、粒子数及び粒子径を測定した。このときのサンプル1mLあたりの粒径1~1000nmにおける粒度分布(横軸に1nm刻みで粒子径を、縦軸に粒子数をそれぞれプロットした)を図8に示す。図8より、従来培地は分泌工程開始時点で既に多量の粒子が含まれているため、培地由来の粒子と細胞外小胞が区別できないことが分かった。一方、細胞外小胞分泌用培地は、培地由来の粒子をほとんど含まないため、物理的指標により細胞外小胞の分泌を検出できることが分かった。具体的には、培養上清1mL中において、粒子径1~200nmの領域に、粒子数3×10個以上のピークが1つ以上存在することを指標に、充分量の細胞外小胞の分泌を検出できることが分かった。本実施例においては、上記指標に基づいた場合、実施例3は48時間経過後以降、実施例4及び実施例5では24時間経過後以降に充分量の細胞外小胞が分泌されたことが分かった。
【0070】
続いて、各粒径範囲における、分泌工程開始時の粒子数、及びこれを基準とした各所定時間経過後の粒子数の比を表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
表4より、細胞外小胞分泌用培地では、分泌工程開始時を基準として、培養上清1mLにおける粒子径1~1000nmの微粒子の個数が3倍以上であることを指標に、細胞外小胞の分泌を検出できることが分かった。換言すると、分泌工程の終了の可否を判断できることが分かった。
【0073】
4.粒子数に対する細胞外小胞マーカー量の測定
上述の2.と同様に、検体8及び9を培養工程及び分泌工程に供した。ただし、検体6には細胞外小胞分泌用培地(組成は表1を参照)を、検体7には従来培地{KBM(登録商標)ADSC-4(コージンバイオ株式会社製)}を、それぞれ添加して分泌工程を行った。分泌工程開始時から所定の経過時間ごとに、各培養上清(細胞外小胞含有組成物)の一部を回収した(以下では、検体8及び9からサンプリングした細胞外小胞含有組成物サンプルを、それぞれ、実施例5及び比較例4とする)。
【0074】
各サンプルについて、細胞デブリを除去した後、1.と同様に、粒子数及び粒子径を測定した。さらに、各サンプルについて、ELISA法により、細胞外小胞マーカーを検出した。具体的には、CD9/CD63 Exosome ELISA Kit(EXH0102EL;コスモバイオ株式会社製)を用いて、CD9とCD63が両方とも発現されている細胞外小胞を検出した。このときの、粒子径1~1000nmの微粒子数を基準とした、細胞外小胞マーカー量の比を図9に示す。
【0075】
図9から、本実施形態に係る細胞外小胞含有組成物は、従来培地を用いた場合に得られる細胞外小胞組成物に比べて細胞外小胞様粒子が少なく、高純度であった。具体的には、本実施形態に係る細胞外小胞含有組成物は、粒子径1~1000nmの微粒子数に対する細胞外小胞マーカーの発現量が5.0×10-9pg/particle以上であることが分かった。
【符号の説明】
【0076】
10 幹細胞、20 増殖用培地、30 培養容器、40 細胞外小胞分泌用培地、100 細胞外小胞製造システム、200 細胞外小胞製造装置、210 培地情報取得部、212 培地サンプリング部、214 培地情報検出部、300 細胞外小胞製造管理装置、310 培地情報入力部、320 分泌工程終了可能判断部、330 細胞外小胞分泌用培地確認部、340 表示部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-07-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞を細胞外小胞分泌用培地に存在させて幹細胞から細胞外小胞を分泌させる分泌工程と、
前記細胞外小胞分泌用培地中の成分の物理的指標に基づいて前記分泌工程の終了の可否を判断する判断工程と、
を含
前記細胞外小胞分泌用培地が、使用前の状態において、粒子径が1~1000nmである微粒子の個数が、1×10 個/mL未満、かつ、TNF-α及びTRAIL/APO2Lを含む培地であり、前記判断工程における前記分泌工程の終了可能条件が、下記条件(a)または条件(b)の少なくとも1つを満たすことである、細胞外小胞の製造方法。
条件(a)分泌工程開始時を基準として、培養上清1mLにおける粒子径1~1000nmの微粒子の個数が3倍以上である。
条件(b)培養上清1mL中の粒子について、横軸に1nm刻みで粒子径を、縦軸に粒子数をそれぞれプロットしたとき、粒子径1~200nmの領域に、粒子数3×10 個以上のピークが1つ以上存在する。
【請求項2】
前記細胞外小胞分泌用培地が、使用前の状態において、総タンパク質量が100μg/mL以下の培地である、請求項1に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項3】
前記分泌工程の前工程として、用意した培地が、使用前の状態において、粒子径が1~1000nmである微粒子の個数が、1×10個/mL未満であることを確認する確認工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項4】
前記幹細胞が、間葉系幹細胞である、請求項1又は2に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項5】
前記分泌工程の前工程として、前記幹細胞を増殖させる培養工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項6】
前記分泌工程の後工程として、前記細胞外小胞分泌用培地中の前記細胞外小胞を回収する回収工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項7】
前記回収工程で得られた細胞外小胞含有組成物において、粒子径1~1000nmの微粒子数に対する細胞外小胞マーカーの発現量が5.0×10-9pg/particle以上であり、
前記細胞外小胞マーカーがCD9およびCD63である、請求項に記載の細胞外小胞の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の方法により得られた、細胞外小胞含有組成物。