IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧

特開2024-48275アルカリ水電解用電極の評価用サンプルおよびその製造方法
<>
  • 特開-アルカリ水電解用電極の評価用サンプルおよびその製造方法 図1
  • 特開-アルカリ水電解用電極の評価用サンプルおよびその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048275
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】アルカリ水電解用電極の評価用サンプルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/052 20210101AFI20240401BHJP
   C25B 11/053 20210101ALI20240401BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20240401BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20240401BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240401BHJP
【FI】
C25B11/052
C25B11/053
C25B11/077
C25B11/081
C25B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154222
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】新納 英明
(72)【発明者】
【氏名】柳 洋之
(72)【発明者】
【氏名】河島 晋
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA30
4K011AA68
4K011BA07
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BB03
4K021BB05
4K021DA09
4K021DA13
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】本発明は、アルカリ水電解用電極の評価試験において、従来と同様の電解性能の経時変化評価をより簡便に、かつ低強度の基材でも行うことができるアルカリ水電解用電極の評価用サンプルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基材と、SiN薄膜またはSiC薄膜と、結着剤を含まない電極触媒層とを具え、これらがこの順に積層されていることを特徴とする、アルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、SiN薄膜またはSiC薄膜と、結着剤を含まない電極触媒層とを具え、これらがこの順に積層されていることを特徴とする、アルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
【請求項2】
前記電極触媒層が、ペロブスカイト型金属酸化物、ブラウンミラーライト型金属酸化物、およびスピネル型金属酸化物から選択される少なくとも一種類の金属酸化物を含む、請求項1に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
【請求項3】
白金薄膜または金薄膜が、前記SiN薄膜またはSiC薄膜と前記電極触媒層との間にさらに積層されている、請求項1に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
【請求項4】
前記電極触媒層が、前記白金薄膜または金薄膜の上に直接積層されている、請求項3に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
【請求項5】
Ti薄膜またはCr薄膜が、前記SiN薄膜またはSiC薄膜と前記白金薄膜または金薄膜との間にさらに積層されている、請求項3に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
【請求項6】
クロノアンペロメトリー、サイクリックボルタンメトリー、および電気化学的インピーダンス分光法のいずれかの評価に用いる、請求項1~5のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
【請求項7】
請求項1に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルの製造方法であり、
基材の上にSiN薄膜またはSiC薄膜を形成する工程と、
前記SiN薄膜またはSiC薄膜の上に、結着剤を含まない電極触媒前駆体を被覆して、評価用サンプル中間体を得る工程と、
前記評価用サンプル中間体を焼成する工程と
を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項8】
請求項3に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルの製造方法であり、
基材の上にSiN薄膜またはSiC薄膜を形成する工程と、
前記SiN薄膜またはSiC薄膜の上に、白金薄膜または金薄膜を形成する工程と、
前記白金薄膜または金薄膜の上に、結着剤を含まない電極触媒前駆体を被覆して、評価用サンプル中間体を得る工程と、
前記評価用サンプル中間体を焼成する工程と
を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルの製造方法であり、
基材の上にSiN薄膜またはSiC薄膜を形成する工程と、
前記SiN薄膜またはSiC薄膜の上に、Ti薄膜またはCr薄膜を形成する工程と、
前記Ti薄膜またはCr薄膜の上に、白金薄膜または金薄膜を形成する工程と、
前記白金薄膜または金薄膜の上に、結着剤を含まない電極触媒前駆体を被覆して、評価用サンプル中間体を得る工程と、
前記評価用サンプル中間体を焼成する工程と
を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項10】
前記基材の上にSiN薄膜またはSiC薄膜を形成する工程において、前記SiN薄膜またはSiC薄膜を形成した後、ヒートクリーニングすることをさらに含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記評価用サンプル中間体を得る工程において、前記結着剤を含まない電極触媒前駆体の被覆がスピンコート法により行われる、請求項7~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記電極触媒層の厚みが200nm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
【請求項13】
前記電極触媒層がボイドを有する、請求項12に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水電解用電極の評価用サンプルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、COによる地球温暖化、化石燃料の埋蔵量の減少等の問題を解決するためのクリーンエネルギーとして、再生可能エネルギーを利用して製造した水素が注目されている。再生可能エネルギーを利用した水素製造においては、従来の化石燃料の改質による水素製造に匹敵する安価なコストが求められている。そのため、再生可能エネルギーを利用した水素製造には、従来の技術では達成できなかった水準の高いエネルギー効率と安価な設備が求められる。
【0003】
上記の要求に応え得る水素の製造方法として、水の電解分解(水電解)が挙げられる。例えば、風力または太陽光等の自然エネルギーによる発電を利用した水電解により、水素を製造し、貯蓄あるいは運搬する構想がいくつも提案されている。
【0004】
水の電気分解では、水に電流を流すことにより陽極において酸素が発生し、陰極において水素が発生する。電解における主なエネルギー損失の要因として、陽極および陰極の過電圧が挙げられる。この過電圧を低減することで、効率よく水素を製造することが可能になるため、陽極および陰極(以下、両者を区別しない限り「アルカリ水電解用電極」と呼ぶ。)の過電圧を下げるための研究開発が広く進められている。
例えば、ペロブスカイト型構造を有する酸化物の中には、高い酸素発生能を有する材料が知られており、水電解用陽極材料として着目されている(非特許文献1)。
【0005】
酸素発生能の高い粉体状のペロブスカイト型構造の酸化物触媒の評価法として、非特許文献1および2に開示されているとおり、従来、粉体状のペロブスカイト型構造の酸化物触媒を、ナフィオンと共にグラッシーカーボン等の導電性基材に塗布することで電極を作製し、電気化学測定を行う評価法が知られていた。
また、特許文献1には、導電性基材に触媒を圧着させて得られたアルカリ水電解用電極を用いることにより、検出精度および検出の再現性を高めた評価法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開第2019-143235号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Science,2011,334,1383
【非特許文献2】Materials Horizons,2015,2,495
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、非特許文献1および2に記載された電極は、実用的な高電流密度域においては、触媒の剥離が起こる等して、評価試験の検出結果が不安定であり、検出精度および検出の再現性が低く、電極の物性の評価が困難であった。
また、特許文献1に記載された評価法では、検出精度および検出の再現性は高いものの、導電性基材に触媒を圧着させてアルカリ水電解用電極を製造するため、基材には強度が必要であり、かつ時間と手間を要するという課題があった。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、アルカリ水電解用電極の評価試験において、従来と同様の電解性能の経時変化評価をより簡便に、かつ低強度の基材でも行うことができるアルカリ水電解用電極の評価用サンプルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述の課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、SiN薄膜またはSiC薄膜を具えた評価用サンプルとすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
基材と、SiN薄膜またはSiC薄膜と、結着剤を含まない電極触媒層とを具え、これらがこの順に積層されていることを特徴とする、アルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
[2]
前記電極触媒層が、ペロブスカイト型金属酸化物、ブラウンミラーライト型金属酸化物、およびスピネル型金属酸化物から選択される少なくとも一種類の金属酸化物を含む、[1]に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
[3]
白金薄膜または金薄膜が、前記SiN薄膜またはSiC薄膜と前記電極触媒層との間にさらに積層されている、[1]または[2]に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
[4]
前記電極触媒層が、前記白金薄膜または金薄膜の上に直接積層されている、[3]に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
[5]
Ti薄膜またはCr薄膜が、前記SiN薄膜またはSiC薄膜と前記白金薄膜または金薄膜との間にさらに積層されている、[3]または[4]に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
[6]
クロノアンペロメトリー、サイクリックボルタンメトリー、および電気化学的インピーダンス分光法のいずれかの評価に用いる、[1]~[5]のいずれかに記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
[7]
[1]または[2]に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルの製造方法であり、
基材の上にSiN薄膜またはSiC薄膜を形成する工程と、
前記SiN薄膜またはSiC薄膜の上に、結着剤を含まない電極触媒前駆体を被覆して、評価用サンプル中間体を得る工程と、
前記評価用サンプル中間体を焼成する工程と
を含むことを特徴とする、製造方法。
[8]
[3]または[4]に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルの製造方法であり、
基材の上にSiN薄膜またはSiC薄膜を形成する工程と、
前記SiN薄膜またはSiC薄膜の上に、白金薄膜または金薄膜を形成する工程と、
前記白金薄膜または金薄膜の上に、結着剤を含まない電極触媒前駆体を被覆して、評価用サンプル中間体を得る工程と、
前記評価用サンプル中間体を焼成する工程と
を含むことを特徴とする、製造方法。
[9]
[5]に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルの製造方法であり、
基材の上にSiN薄膜またはSiC薄膜を形成する工程と、
前記SiN薄膜またはSiC薄膜の上に、Ti薄膜またはCr薄膜を形成する工程と、
前記Ti薄膜またはCr薄膜の上に、白金薄膜または金薄膜を形成する工程と、
前記白金薄膜または金薄膜の上に、結着剤を含まない電極触媒前駆体を被覆して、評価用サンプル中間体を得る工程と、
前記評価用サンプル中間体を焼成する工程と
を含むことを特徴とする、製造方法。
[10]
前記基材の上にSiN薄膜またはSiC薄膜を形成する工程において、前記SiN薄膜またはSiC薄膜を形成した後、ヒートクリーニングすることをさらに含む、[7]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]
前記評価用サンプル中間体を得る工程において、前記結着剤を含まない電極触媒前駆体の被覆がスピンコート法により行われる、[7]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]
前記電極触媒層の厚みが200nm以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
[13]
前記電極触媒層がボイドを有する、[12]に記載のアルカリ水電解用電極の評価用サンプル。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルカリ水電解用電極の評価試験において、従来と同様の電解性能の経時変化評価をより簡便に、かつ低強度の基材でも行うことができるアルカリ水電解用電極の評価用サンプルおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例A4のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルについて、X線回折測定のスペクトルを示す図である。
図2】実施例D4のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルについて、断面のTEM画像示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明を限定する趣旨ではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0015】
[アルカリ水電解用電極の評価用サンプル]
本実施形態のアルカリ水電解用電極の評価用サンプル(以下、単に「評価用サンプル」ともいう。)は、基材と、SiN薄膜またはSiC薄膜と、結着剤を含まない電極触媒層(以下、単に「電極触媒層」ともいう。)とを具え、これらがこの順に積層されている。
本実施形態の評価用サンプルは、基材と、SiN薄膜またはSiC薄膜と、電極触媒層とがこの順に積層されていれば特に限定されず、基材と、SiN薄膜またはSiC薄膜との間に他の薄膜または層を有していてもよく、SiN薄膜またはSiC薄膜と、電極触媒層との間に他の薄膜または層を有していてもよい。また、基材の、SiN薄膜またはSiC薄膜等が積層されている側とは反対側の面上に、他の薄膜または層が積層されていてもよい。
本実施形態の評価用サンプルは、基材と電極触媒層との間にSiN薄膜またはSiC薄膜を有することにより、電極触媒層を形成する際に、電極触媒層の原料溶液(塗布液)がはじかれることなく塗布可能であるため電極触媒層の形成が簡便(容易)であるとともに、電極触媒層が剥離することなく従来と同等の6時間程度の通電評価を行うことができる。
【0016】
(基材)
基材としては、特に限定されず、例えば、シリコンウェハ、サファイヤ、ジルコニア等が挙げられる。
基材の形状は、評価用サンプルを使用する評価方法に応じて適宜設定されてよく、例えば、四角形平板状、円形平板状とすることができる。また、例えば、窓(開口部)を有する平板状であって、窓においてSiN薄膜またはSiC薄膜が露出する評価用サンプルが得られるような形状の、低強度の基材を用いてもよい。この場合、評価用サンプルは、窓を軟X線透過部として、軟X線オペランド測定用のオペランドチップとして用いることができる。
基材の大きさについても、評価用サンプルを使用する評価方法に応じて適宜設定されてよいが、取り扱いの簡便さの観点から、厚みは0.2~1.0mmであることが好ましい。
【0017】
(SiN薄膜またはSiC薄膜)
SiN(窒化ケイ素)薄膜は、特に限定されないが、厚みが10~400nmであるものが好ましく、より好ましくは50~300nm、さらに好ましくは100~200nmである。SiN薄膜の厚みが上記範囲であると、結着剤を含まない電極触媒前駆体をはじかれることなく被覆し、焼成により電極触媒層を形成することが容易となる傾向にある。
なお、窒化ケイ素は一般にSi組成を持つが、実際にはSi:N比が3:4からずれることもあるので、本開示においては略字としてSiNを使用する。
SiC(炭化ケイ素)薄膜は、特に限定されないが、厚みが10~400nmであるものが好ましく、より好ましくは50~300nm、さらに好ましくは100~200nmである。SiC薄膜の厚みが上記範囲であると、結着剤を含まない電極触媒前駆体をはじかれることなく被覆し、焼成により電極触媒層を形成することが容易となる傾向にある。
【0018】
(電極触媒層)
電極触媒層の材質としては、結着剤を含まないものであれば特に限定されず、従来公知の電極触媒原料を用いることができる。
なお、本開示で、「結着剤を含まない」とは、電極触媒層中の結着剤の含有量が1質量%以下であることを意味する。発明者が鋭意検討した結果、電極触媒層中の結着剤の含有量が1質量%以下であると、電気化学測定中に触媒の脱離が低減されることを見出した。この理由は明らかではないが、結着剤の含有量が1質量%以下であると、結着剤由来の疎水性に起因する気泡の触媒への吸着が抑制され、吸着した気泡の成長により生じる応力に起因する電極触媒層の脱落が低減されるためであると推測している。
結着剤としては、例えば、ナフィオン等の有機化合物、カーボン等が挙げられる。
【0019】
電極触媒層は、ペロブスカイト型酸化物、ブラウンミラーライト型酸化物、およびスピネル型酸化物から選択される少なくとも一種類の金属酸化物を含むことが好ましい。
【0020】
ペロブスカイト型金属酸化物は、一般的にABO(AはAサイト、BはBサイトを表す)で表される組成を有する。
Aサイトの元素としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素等が挙げられる。
Bサイトの元素としては、Ni、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Y、Sb、Ti、Zr、Zn、Ta等が挙げられる。
なお、上記ABOにおけるO(酸素)の数は3に限定されることなく、存在するAサイトの元素およびBサイトの元素の原子価条件を満足させるのに必要な数であればよい。
【0021】
本実施形態においては、ペロブスカイト型構造の金属酸化物として、Bサイトの少なくとも一部に、酸素発生電位で安定な酸化物を形成するNiを配置することが、高い耐久性を実現することができるため、好ましい。Niと共にBサイトに配置される元素としては、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Y、Sb、Ti、Zr、Zn、Taが好ましい。これらの元素が配置されることで、酸素伝導性が向上し、酸素発生能が増加する効果が得られる。
【0022】
BサイトにNiとともに、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Y、Sb、Ti、Zr、Zn、Taのいずれかが配置される場合、Aサイトには、ペロブスカイト型結晶構造を形成するために、少なくとも1種類以上のアルカリ金属、アルカリ土類金属および/または希土類元素が配置される。その組成は、以下の式(1)で表される。
A’(1-x)NiB’(1-y)(3-z) ・・・(1)
(式(1)において、AおよびA’は、それぞれ独立にアルカリ土類金属または希土類元素であり、B’はCr、Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Y、Sb、Ti、Zr、Zn、Taから選択される少なくとも1つであり、0≦x≦1であり、0<y≦1であり、0≦z≦1である。)
【0023】
式(1)の場合、AサイトはLaを含んでいることが好ましい。Aサイトは希土類元素のみで構成されていてもよいし、希土類元素を含む複数種類の元素で構成されていてもよい。例えば、Aサイトが主に希土類元素であり、その一部が、SrやBaといったアルカリ土類金属の元素等に置換されることで、導電性を向上させることが期待できる。Aサイトを構成する元素の割合に限定はない。
【0024】
BサイトにNiを含む式(1)の場合、さらにNiの価数を適正な範囲に制御することで、高い酸素発生能をより安定に実現することができる。Niの価数は2.5以上3.0以下が好ましく、2.5以上3.0未満がより好ましい。
【0025】
式(1)において、xの値は0以上1以下の値でよい。yの値は0より大きく1以下でなければならず、0.2以上が好ましく、より好ましくは0.4以上、さらに好ましくは0.5以上である。zの値は0以上1以下の値としてよく、0より大きく1以下の値としてもよい。
【0026】
ブラウンミラーライト型金属酸化物は、一般的にA(AはAサイト、BはBサイトを表す)で表される組成を有し、ABO2.5と表すこともできる。
Aサイトの元素としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素等が挙げられる。
Bサイトの元素としては、Ni、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Y、Sb、Ti、Zr、Zn、Ta等が挙げられる。
なお、上記AにおけるO(酸素)の数は5に限定されることなく、存在するAサイトの元素およびBサイトの元素の原子価条件を満足させるのに必要な数であればよい。
【0027】
本実施形態においては、ブラウンミラーライト型構造の金属酸化物として、Bサイトの少なくとも一部に、酸素発生電位で安定な酸化物を形成するCoを配置することが、高い耐久性を実現することができるため、好ましい。Coと共にBサイトに配置される元素としては、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu、Nb、Y、Sb、Ti、Zr、Zn、Taが好ましい。これらの元素が配置されることで、酸素伝導性が向上し、酸素発生能が増加する効果が得られる。
【0028】
BサイトにCoとともに、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu、Nb、Y、Sb、Ti、Zr、Zn、Taのいずれかが配置される場合、Aサイトには、ブラウンミラーライト型結晶構造を形成するために、少なくとも1種類以上のアルカリ金属、アルカリ土類金属および/または希土類元素が配置される。その組成は、以下の式(2)で表される。
A’(2-x)NiB’(2-y)(5-z) ・・・(2)
(式(2)において、AおよびA’は、それぞれ独立にアルカリ土類金属または希土類元素であり、B’はCr、Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Y、Sb、Ti、Zr、Zn、Taから選択される少なくとも1つであり、0≦x≦2であり、0<y≦2であり、0≦z≦2である。)
【0029】
式(2)の場合、AサイトはCaを含んでいることが好ましい。Aサイトはアルカリ土類金属元素のみで構成されていてもよいし、アルカリ土類金属元素を含む複数種類の元素で構成されていてもよい。例えば、Aサイトが主にアルカリ土類金属元素であり、その一部が、LaやCeといった希土類金属の元素等に置換されることで、導電性を向上させることが期待できる。Aサイトを構成する元素の割合に限定はない。
【0030】
BサイトにCoを含む式(2)の場合、さらにCoの価数を適正な範囲に制御することで、高い酸素発生能をより安定に実現することができる。Coの価数は2.5以上3.0以下が好ましく、2.5超3.0以下がより好ましい。
【0031】
式(2)において、xの値は0以上2以下の値でよい。yの値は0より大きく2以下でなければならず、0.2以上が好ましく、より好ましくは0.4以上、さらに好ましくは0.5以上である。zの値は0以上2以下の値としてよく、0超2未満の値としてもよい。
【0032】
スピネル型金属酸化物は、一般的にAB(AはAサイト、BはBサイトを表す)で表される組成を有する。
Aサイト、Bサイトの元素としては、Ni、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Y、Sb、Ti、Zr、Zn、Ta等が挙げられる。
なお、上記ABにおけるO(酸素)の数は4に限定されることなく、存在するAサイトの元素およびBサイトの元素の原子価条件を満足させるのに必要な数であればよい。
【0033】
本実施形態においては、スピネル型構造の金属酸化物として、AサイトおよびBサイトの少なくとも一部に、酸素発生電位で安定な酸化物を形成するNiを配置することが、高い耐久性を実現することができるため、好ましい。Niと共にAサイトおよびBサイトに配置される元素としては、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Y、Sb、Ti、Zr、Zn、Taが好ましい。これらの元素が配置されることで、酸素伝導性が向上し、酸素発生能が増加する効果が得られる。
【0034】
AサイトおよびBサイトにNiとともに、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Y、Sb、Ti、Zr、Zn、Taのいずれかが配置される場合、その組成は、以下の式(3)で表される。
A’(1-x)NiB’(2-y)(4-z) ・・・(3)
(式(3)において、A、A’およびB’はCr、Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Y、Sb、Ti、Zr、Zn、Taから選択される少なくとも1つであり、0≦x≦1であり、0<y≦2であり、0≦z≦2である。)
【0035】
式(3)において、xの値およびyの値は0以上1以下の値でよい。zの値は0以上2以下の値としてよく、0超2未満の値としてもよい。
【0036】
ペロブスカイト型金属酸化物、ブラウンミラーライト型金属酸化物、およびスピネル型金属酸化物から選択される少なくとも一種類の金属酸化物の含有量は、電極触媒層を100質量%として、40~100質量%であることが好ましく、より好ましくは60~100質量%、さらに好ましくは80~100質量%である。
【0037】
電極触媒層は、上記金属酸化物(および1質量%以下の結着剤)の他に、他の無機化合物、金属、または合金等のその他の成分を含んでいてもよい。また、その他の成分の含有量は、特に限定されないが60質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0038】
電極触媒層は、電解面積を増加させるために、ボイドを有していてもよい。一方、ボイドが多過ぎると、電極触媒層の機械的強度が低下することにより耐久性が低下する場合があるため、電極触媒層中のボイドの体積割合は、10~40%であることが好ましく、より好ましくは20~30%である。
なお、電極触媒層中のボイドの体積割合は、例えば、電極触媒層の断面のTEM画像を、画像解析ソフトを用いて2値化することで求めることができる。
【0039】
電極触媒層の厚みは、電極触媒層の200nm以下であることが好ましく、より好ましくは180nm以下、さらに好ましくは150nm以下である。電極触媒層の厚みが200nm以下であると、電極触媒層の機械的強度が良好となり、十分な検出精度と再現性とが得られる傾向にある。また、電極触媒層の厚みは10nm以上であることが好ましく、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは30nm以上である。電極触媒層の厚みが10nm以上であると、十分な反応活性点が存在し、十分な検出精度と再現性とが得られる傾向にある。
なお、電極触媒層の厚みは、例えば、電子顕微鏡にて評価用サンプルの断面を観察することにより測定することができる。具体的には、電子顕微鏡で、評価用サンプルの評価に用いる部分の電極触媒層の断面を観察し、その電極触媒層の厚みを5点測定した値の平均値を触媒の層の厚みとする。
【0040】
(白金薄膜または金薄膜)
本実施形態の評価用サンプルは、SiN薄膜またはSiC薄膜と電極触媒層との間に、白金薄膜または金薄膜がさらに積層されていてもよい。白金薄膜または金薄膜は、評価用サンプルにおいて導電層として機能する。
白金薄膜または金薄膜は、SiN薄膜またはSiC薄膜と電極触媒層との間に存在すれば特に限定されず、基材/SiN薄膜またはSiC薄膜/白金薄膜または金薄膜/電極触媒層の4層構造であってもよく、SiN薄膜またはSiC薄膜と白金薄膜または金薄膜との間に他の薄膜または層を有していてもよく、白金薄膜または金薄膜と電極触媒層との間に他の薄膜または層を有していてもよい。
【0041】
白金薄膜は、特に限定されず、通常の電極材料として使用されるものを用いることができる。
白金薄膜の厚みは、1~50nmであるものことが好ましく、より好ましくは2~40nm、さらに好ましくは5~30nmである。白金薄膜の厚みが上記範囲であると、結着剤を含まない電極触媒前駆体をはじかれることなく被覆することが容易となる傾向にある。
【0042】
金薄膜は、特に限定されず、通常の電極材料として使用されるものを用いることができる。
金薄膜の厚みは、1~50nmであるものが好ましく、より好ましくは2~40nm、さらに好ましくは5~30nmである。金薄膜の厚みが上記範囲であると、結着剤を含まない電極触媒前駆体をはじかれることなく被覆することが容易となる傾向にある。
【0043】
(Ti薄膜またはCr薄膜)
本実施形態の評価用サンプルは、SiN薄膜またはSiC薄膜と白金薄膜または金薄膜との間に、Ti薄膜またはCr薄膜がさらに積層されていてもよい。Ti薄膜またはCr薄膜は、評価用サンプルにおいて密着層として機能する。
Ti薄膜またはCr薄膜は、SiN薄膜またはSiC薄膜と白金薄膜または金薄膜との間に存在すれば特に限定されず、基材/SiN薄膜またはSiC薄膜/Ti薄膜またはCr薄膜/白金薄膜または金薄膜/電極触媒層の5層構造であってもよく、SiN薄膜またはSiC薄膜とTi薄膜またはCr薄膜との間に他の薄膜または層を有していてもよく、Ti薄膜またはCr薄膜と白金薄膜または金薄膜との間に他の薄膜または層を有していてもよい。
【0044】
Ti薄膜は、特に限定されず、通常の電極材料として使用されるものを用いることができる。
Ti薄膜の厚みは、1~20nmであることが好ましく、より好ましくは1~10nm、さらに好ましくは1~5nmである。Ti薄膜の厚みが上記範囲であると、結着剤を含まない電極触媒前駆体をはじかれることなく被覆することが容易となる傾向にある。
【0045】
Cr薄膜は、特に限定されず、通常の電極材料として使用されるものを用いることができる。
Cr薄膜の厚みは、1~20nmであることが好ましく、より好ましくは1~10nm、さらに好ましくは1~5nmである。Cr薄膜の厚みが上記範囲であると、結着剤を含まない電極触媒前駆体をはじかれることなく被覆することが容易となる傾向にある。
【0046】
[アルカリ水電解用電極の評価用サンプルの製造方法]
本実施形態の評価用サンプルは、基材の上にSiN薄膜またはSiC薄膜を形成する工程と、形成したSiN薄膜またはSiC薄膜の上に、結着剤を含まない電極触媒前駆体を被覆して、評価用サンプル中間体を得る工程と、得られた評価用サンプル中間体を焼成する工程とを含む製造方法により製造することができる。
なお、本開示で、「基材の上に」とは、「直接基材に」という場合だけでなく、「基材よりも上方(に位置する薄膜または層)に」という場合も含む。同様に、本開示で、「SiN薄膜またはSiC薄膜の上に」とは、「直接SiN薄膜またはSiC薄膜に」という場合だけでなく、「SiN薄膜またはSiC薄膜よりも上方(に位置する薄膜または層)に」という場合も含む。
【0047】
SiN薄膜またはSiC薄膜の形成方法は、特に限定されず、例えば、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法、抵抗加熱蒸着法等の蒸着法、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等のCVD法等が挙げられる。
【0048】
電極触媒前駆体の被覆方法としては、電極触媒層の原料溶液である塗布液を塗布し、乾燥、仮焼成を行うことにより所定質量の電極触媒前駆体を形成する方法が挙げられる。
塗布液の塗布法としては、簡便であることから、スピンコート法が好ましい。スピンコートの条件としては、回転速度を20~8000rpm、回転時間を1~999秒間とすることが好ましく、回転速度を100~6000rpm、回転時間を5~500秒間とすることがより好ましく、回転速度を500~4000rpm、回転時間を10~300秒間とすることがさらに好ましい。
【0049】
塗布液を塗布後、乾燥する温度は、50℃以上200℃以下が好ましい。50℃以上であれば、乾燥が3分以上1時間以内で完了し、生産性の観点から好ましい。200℃以下であれば、乾燥後基材の冷却時間が短くなり、生産性の観点から好ましい。
【0050】
塗布液は、ペロブスカイト型酸化物、ブラウンミラーライト型酸化物、およびスピネル型酸化物から選択される少なくとも一種類の金属酸化物の原料溶液を含むことが好ましい。
上記金属酸化物の原料溶液としては、上記金属酸化物を構成する金属の金属塩溶液が挙げられ、金属塩としては、硝酸塩、オキシ硝酸塩、塩化物、シュウ酸塩、酒石酸塩、酢酸塩、硫酸塩等の水溶性の塩を用いることができる。金属塩は、無水塩でも含水塩でも構わない。また、金属塩の代わりに、酸化物または水酸化物の水分散性のゾルを使用してもよい。
また、金属酸化物の原料溶液は、電極触媒層の原料溶液(塗布液)をはじかれることなく塗布することを容易にする観点から、グリシン等のアミノ酸、クエン酸、シュウ酸や酒石酸等のカルボン酸等、有機配位子を含むことが好ましく、中でもグリシンおよびクエン酸が好ましい。
塗布液における金属酸化物の濃度は、金属酸化物基準の質量モル濃度で0.01mol/kg溶媒以上4.0mol/kg溶媒以下が好ましい。0.01mol/kg溶媒以上では、少ない塗布・焼成回数で所定の膜厚の電極触媒層の調製が可能となり、生産性の観点から好ましい。4.0mol/kg溶媒以下では、金属塩や有機配位子の溶解が容易となり、塗布液の生産性の観点から好ましい。より好ましくは、0.02mol/kg溶媒以上2.0mol/kg溶媒以下であり、さらに好ましくは0.03mol/kg溶媒以上2.0mol/kg溶媒以下であり、さらにより好ましくは0.035mol/kg溶媒以上2.0mol/kg溶媒以下であり、よりさらに好ましくは0.04mol/kg溶媒以上1.0mol/kg溶媒以下である。
塗布液に用いられる溶媒は、水でもよいし、水と水に可溶な有機溶媒の混合溶媒でも構わない。
【0051】
乾燥後に仮焼成する温度は、200℃以上500℃以下が好ましい。200℃以上であれば、仮焼成が3分以上1時間以内で完了し、生産性の観点から好ましい。500℃以下であれば、乾燥後の冷却時間が短くなり、生産性の観点から好ましい。
【0052】
塗布、乾燥、仮焼成は、所望の膜厚の電極触媒層を形成するために繰り返し行なってもよい。
【0053】
評価用サンプル中間体(基材、SiN薄膜またはSiC薄膜、電極触媒前駆体がこの順に積層された積層体)を焼成する工程により、電極触媒前駆体を本焼成し、電極触媒層を形成する。
電気化学測定における検出精度および検出の再現性が高まることから、焼成温度は、200℃以上1000℃以下が好ましく、より好ましくは300℃以上950℃以下、さらに好ましくは350℃以上900℃以下である。焼成の継続時間は、10分以上24時間以下であることが好ましく、より好ましくは20分以上10時間以下、さらに好ましくはである30分以上5時間以下である。
焼成雰囲気は、空気でもよいが、SiN薄膜またはSiC薄膜と電極触媒層との界面に電気抵抗の高い酸化物被膜を形成しない観点から、アルゴンや窒素といった不活性ガス雰囲気を選択してもよい。
このようにして調製した電極触媒層のうち、評価に用いない部分を除去あるいは接着剤等により被覆しマスキングすることで、電極面積を規定したものを、アルカリ水電解用電極の評価用サンプルとしてもよい。
【0054】
本実施形態の評価用サンプルがSiN薄膜またはSiC薄膜と電極触媒層との間に白金薄膜または金薄膜をさらに有する場合、評価用サンプルは、基材の上にSiN薄膜またはSiC薄膜を形成する工程と、形成したSiN薄膜またはSiC薄膜の上に、白金薄膜または金薄膜を形成する工程と、形成した白金薄膜または金薄膜の上に、結着剤を含まない電極触媒前駆体を被覆して、評価用サンプル中間体を得る工程と、得られた評価用サンプル中間体を焼成する工程とを含む製造方法により製造することができる。
なお、本開示で、「白金薄膜または金薄膜の上に」とは、「直接白金薄膜または金薄膜に」という場合だけでなく、「白金薄膜または金薄膜よりも上方(に位置する薄膜または層)に」という場合も含む。
【0055】
SiN薄膜またはSiC薄膜の形成、結着剤を含まない電極触媒前駆体の被覆、および評価用サンプル中間体の焼成は、上述のとおりとしてよい。
【0056】
白金薄膜または金薄膜の形成方法は、特に限定されず、例えば、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法、抵抗加熱蒸着法等の蒸着法、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等のCVD法等が挙げられる。
【0057】
本実施形態の評価用サンプルがSiN薄膜またはSiC薄膜と白金薄膜または金薄膜との間にTi薄膜またはCr薄膜をさらに有する場合、評価用サンプルは、基材の上にSiN薄膜またはSiC薄膜を形成する工程と、SiN薄膜またはSiC薄膜の上に、Ti薄膜またはCr薄膜を形成する工程と、Ti薄膜またはCr薄膜の上に、白金薄膜または金薄膜を形成する工程と、白金薄膜または金薄膜の上に、結着剤を含まない電極触媒前駆体を被覆して、評価用サンプル中間体を得る工程と、評価用サンプル中間体を焼成する工程とを含む製造方法により製造することができる。
なお、本開示で、「Ti薄膜またはCr薄膜の上に」とは、「直接Ti薄膜またはCr薄膜に」という場合だけでなく、「Ti薄膜またはCr薄膜よりも上方(に位置する薄膜または層)に」という場合も含む。
【0058】
SiN薄膜またはSiC薄膜の形成、白金薄膜または金薄膜の形成、結着剤を含まない電極触媒前駆体の被覆、および評価用サンプル中間体の焼成は、上述のとおりとしてよい。
【0059】
Ti薄膜またはCr薄膜の形成方法は、特に限定されず、例えば、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法、抵抗加熱蒸着法等の蒸着法、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等のCVD法等が挙げられる。
【0060】
上述の各評価用サンプルの製造方法において、基材の上にSiN薄膜またはSiC薄膜を形成する工程で、SiN薄膜またはSiC薄膜を形成した後、ヒートクリーニング(焼成)してもよい。
ヒートクリーニングの温度は、100℃以上500℃以下が好ましい。また、ヒートクリーニングの時間は、1分間上1時間以下が好ましい。
【0061】
(評価方法)
本実施形態の評価用サンプルは、例えば、クロノアンペロメトリー、サイクリックボルタンメトリー、電気化学的インピーダンス分光法等の評価に用いることができる。
【0062】
本実施形態の評価用サンプルを用いてクロノアンペロメトリーを行う場合は、可逆水素電極(RHE)に対し0V以上2.3V以下で測定することが好ましい。RHEに対し0V以上であれば、導電性基材の還元等に起因すると思われる、検出精度や検出の再現性の低下が起こらず、好ましい。RHEに対し2.3V以下であれば、発生する気泡に起因すると思われる、検出精度や検出の再現性の低下が起こらず、好ましい。
【0063】
本実施形態の評価用サンプルを用いてサイクリックボルタンメトリーを行う場合は、可逆水素電極(RHE)に対し0V以上2.3V以下の範囲で行うことが好ましい。RHEに対し0V以上であれば、導電性基材の還元等に起因すると思われる、検出精度や検出の再現性の低下が起こらず、好ましい。RHEに対し2.3V以下であれば、発生する気泡に起因すると思われる、検出精度や検出の再現性の低下が起こらず、好ましい。
【0064】
本実施形態の評価用サンプルを用いて電気化学的インピーダンス分光法を行う場合は、1.5V以上1.7V以下で測定することが好ましい。1.5V以上では、十分な電流密度下で測定できるため、酸化物抵抗や電気二重層容量の算出において、検出精度や検出の再現性の観点から、好ましい。1.7V以下では、発生する気泡による妨害が少なく、検出精度や検出の再現性の観点から、好ましい。
【実施例0065】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々変形して実施することができることはいうまでもない。
【0066】
実施例、比較例で用いた測定・評価方法は以下のとおりである。
【0067】
(結着剤の含有量)
アルカリ水電解用電極の評価用サンプルから電極触媒層を剥離し、剥離した電極触媒層を、セイコーインスツルメンツ製示差熱分析・熱天秤(TG-DTA)装置(型式:EXSTAR6000)を用いて、空気中、昇温速度10℃/minで900℃まで昇温してTG-DTA測定を行い、100℃以上800℃以下の範囲での質量減少(質量%)を結着剤の含有量(質量%)とした。
結果を表1~4に示す。なお、質量減少が1質量%以下、あるいは質量減少が無い場合は、結着剤の含有量を「1質量%以下」と表記した。1つの評価用サンプルから測定に必要な質量の電極触媒層を回収できない場合は、実施例・比較例の要領に従って複数の評価用サンプルを作製し、複数の評価用サンプルから電極触媒層を回収して測定を実施した。
【0068】
(X線回折測定)
X線回折測定は、株式会社リガク製の全自動多目的X線回折装置「SmartLab」を用いた。試料であるアルカリ水電解用電極の評価用サンプル(電極触媒層が平坦面表面に薄く形成されたX線フィルタ容器)は、バックグラウンドを避けるために無反射試料板の上に載せた。X線の試料からのはみだしが低減されるよう、試料の長手方向を光軸と平行になるように置き、試料上部に設置したカメラ像を参照し、試料の中心がX線ビームの中央になるようにした。その後、試料の高さ調整を行い、測定を実施した。測定は回転対陰極としてCuターゲットを用い、CuKα線を用いて行った。X線出力は管電圧45kV、管電流200mAとした。光学配置は、入射側に多層膜ミラーを用いた反射型の平行光学系とし、X線フィルタ容器の基材として用いられているSiの(00L)反射を低減させる目的で、入射X線の角度を5度に固定した非対称配置測定にて実施した。入射角度を5度に固定することは、X線フィルタ容器表面に薄く形成された電極触媒層を効率よく検出させる目的もある。入射側光学素子は、2.5度ソーラースリット、5mm幅の縦発散スリットを用い、発散スリット幅は1mmとした。受光側光学素子は、0.5度のPSA(Parallel Slit Analyzer)およびハイブリッド型多次元ピクセル検出器HyPix-3000を用いた。測定はX線入射方向と出射角度のなす角で定義される2θ軸のみを10度から90度の範囲で走査した。角度ステップは0.05度、走査速度は2度/分とした。
実施例のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルの通電前のX線回折測定の結果、スペクトルに近いパターンを示す結晶相およびPDFカード番号を、表1~4に示す。
なお、X線フィルタ容器由来のSiやAuの結晶相は表1~4より除外した。
【0069】
(サイクリックボルタンメトリー(CV)、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)、クロノアンペロメトリー(CA)試験)
アルカリ水電解用電極の評価用サンプルの平坦面(電極触媒層の表面)に銅製の導線をエポキシ樹脂(商品名:ハイスーパークリア3、セメダイン株式会社製)で接着後、平坦面の中央部の縦2mm、横13mmの領域以外の部分、側面、エッチング面、および液中に浸漬される導線部のすべてをエポキシ樹脂で完全にマスキングすることで作用極とした。参照極に銀-塩化銀(Ag/AgCl/3M NaCl)電極、対極に白金メッシュを使用し、電解液として25℃、20%のKOH水溶液を用いて、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)製の三電極式セルを用いて、電気化学測定を行った。測定装置としては、電気化学測定システム(VМP3、バイオロジック社製)を用いた。
サイクリックボルタンメトリー(CV)測定として、RHEに対し1.2V以上1.65V以下の範囲で、走査速度10mVs-1のCV測定を3サイクル行ない、3サイクル目の1.65Vでの電流値(μA)を記録した。
次に、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)測定を、保持電位を1.65V vs RHE、AC振幅を10mV、0.1Hz以上10kHz以下の周波数域で行い、反応抵抗(Ω)を算出した。
さらに、クロノアンペロメトリー(CA)測定として、保持電位を1.65V vs RHEとして6時間通電し、通電6時間後の電流値(μA)を記録した。
結果を表1~4に示す。
【0070】
(透過電子顕微鏡(TEM)を用いた断面観察による電極触媒層の膜厚測定)
アルカリ水電解用電極の評価用サンプルの評価に用いる部分の電極触媒層表面へ厚さ100~200nmのカーボン保護膜を蒸着した後、集束イオンビーム(FIB)装置を用いてタングステン(W)保護膜を厚さ500~1000nmにて蒸着した。次に、FIB装置を用いて、Siウエハ基材上のSiN薄膜またはSiC薄膜/(Ti薄膜またはCr薄膜/白金薄膜または金薄膜/)電極触媒層からなる多層膜を短冊状切片の高さ方向に含む、高さ2~15μm、幅10~20μm、切片厚さ1~3μmの短冊状切片を切り出してTEM用メッシュに固定した。短冊状切片の厚さを50~200nmになるまでFIB装置により薄片化した。作製した断面TEM観察用の短冊状切片試料の透過電子像は、株式会社日立ハイテクノロジーズ製走査型TEM装置「HD-2300」を用いて、入射電子線の加速電圧を200kVとし、電子線の入射方向をSiウエハ基材の晶帯軸とあわせて観察した。短冊状切片試料内5点で電極触媒層の厚さを測定し、平均値として電極触媒層の厚さを求めた。
結果を表1~4に示す。
【0071】
(実施例A1)
純水400gにNi(NO・6HOを23.26g、La(NO・6HOを34.64g、グリシン(CNO)を4.50g溶解し、実施例A1の電極触媒層の原料溶液(塗布液)を調製した。
Siウエハ基材/SiN薄膜チップであるX線フィルタ容器「FIL-SIN-10-303」(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)を、エッチングにより窓が形成されているエッチング面(Siウエハ基材表面)とは反対側の平坦面(SiN薄膜表面)を上にして耐熱温度1100℃の磁性平皿に載せ、マッフル炉(ヤマト科学株式会社製「FP412」)内で400℃10分焼成後、取出して冷却し、X線フィルタ容器をヒートクリーニングした。
縦10cm、横10cm、厚み0.5mmのステンレス製板を温度120℃のホットプレート上に載せて加温し、中央部にワックス(Ted Pella,Inc.製「PELCO(登録商標)Quickstick 135」)を融解付着させ、その上に平坦面(SiN薄膜表面)を上にしてX線フィルタ容器を載せた後、ステンレス製板をホットプレートから降ろして冷却し、ワックスを冷却固化することにより、ステンレス製板中央にX線フィルタ容器を固定した。
X線フィルタ容器を固定したステンレス製板をスピンコーター(ミカサ株式会社製「MS-A100」)のステージに載せて吸着固定し、実施例A1の塗布液を、X線フィルタ容器の平坦面(SiN薄膜表面)全面を覆うようにピペットにて滴下後、コーターの蓋をして密閉し、回転数2000rpmで1分間ステージを回転させ、スピンコートによりX線フィルタ容器表面に実施例A1の塗布液の塗膜を形成した。
その後、ステンレス製板をスピンコーターのステージから取り外し、温度120℃のホットプレート上に載せて加温し、ワックスを融解することにより塗布済みX線フィルタ容器を取り外し、塗布された平坦面(塗膜表面)を上にして磁性平皿に載せ、マッフル炉内で400℃10分仮焼成し、取り出した。
その後、仮焼成済みX線フィルタ容器を平坦面(電極触媒前駆体表面)を上にして磁性平皿に載せ、室温のマッフル炉内に入れ、昇温速度5℃/分で700℃まで昇温し700℃で1時間焼成後、室温まで徐冷して取り出し、実施例A1のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルを得た。
X線回折測定、CV、EISおよびCA試験の結果を表1に示す。
【0072】
(実施例A2~A10)
Siウエハ基材/SiN薄膜チップを以下のチップに変更したこと以外は実施例A1と同様にして、評価用サンプルを得た。
実施例A2:Siウエハ基材/SiC薄膜チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社「FIL-SIC-20-303」)
実施例A3:Siウエハ基材/SiN薄膜/Ti薄膜/白金薄膜チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-PTTI-SIN-10-303」)
実施例A4:Siウエハ基材/SiN薄膜/Ti薄膜/金薄膜チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUTI-SIN-10-303」)
実施例A5:Siウエハ基材/SiC薄膜/Ti薄膜/金薄膜チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUTI-SIC-20-303」)
実施例A6:Siウエハ基材/SiC薄膜/Cr薄膜/金薄膜チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUCr-SIC-20-303」)
実施例A7:Siウエハ基材/SiN薄膜/Ti薄膜/白金薄膜チップ、エッチング面側にTi薄膜あり(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-PTTI-SIN-10-303_rTI」)
実施例A8:Siウエハ基材/SiN薄膜/Ti薄膜/金薄膜チップ、エッチング面側にTi薄膜あり(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUTI-SIN-10-303_rTI」)
実施例A9:Siウエハ基材/SiC薄膜/Ti薄膜/金薄膜チップ、エッチング面側にTi薄膜あり(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUTI-SIC-20-303_rTI」)
実施例A10:Siウエハ基材/SiC薄膜/Cr薄膜/金薄膜チップ、エッチング面側にTi薄膜あり(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUCr-SIC-20-303_rTI」)
X線回折測定、CV、EISおよびCA試験の結果を表1に示す。また、実施例A4のX線回折測定のスペクトルを、図1に示す。
【0073】
(比較例A1~A6)
Siウエハ基材/SiN薄膜チップを以下のチップ(SiN薄膜またはSiC薄膜を有しない、エッチングにより形成された窓を有しない縦1cm×横2cmのチップ)に変更したこと以外は実施例A1と同様にして、評価用サンプルの作製を試みたが、電極触媒層の原料溶液(塗布液)がはじかれ塗布が不可能であったため、電極触媒層を形成できず、評価用サンプルを得ることができなかった。
比較例A1:Siウエハ基材チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
比較例A2:Siウエハ基材/白金薄膜(膜厚11nm)チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
比較例A3:Siウエハ基材/金薄膜(膜厚11nm)チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
比較例A4:Siウエハ基材/Ti薄膜(膜厚3nm)/白金薄膜(膜厚11nm)チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
比較例A5:Siウエハ基材/Ti薄膜(膜厚3nm)/金薄膜(膜厚11nm)チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
比較例A6:Siウエハ基材/Cr薄膜(膜厚3nm)/金薄膜(膜厚11nm)チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
【0074】
(比較例A7~A16)
塗布液の塗布方法(電極触媒前駆体の形成方法)、焼成条件を以下のように変更したこと以外は実施例A1~A10と同様にして、評価用サンプルの作製を試みたが、いずれの場合も低強度の、チップ中央部の窓部が破損し、評価用サンプルを得ることができなかった。
チップを蒸発皿に載せ、405℃で10分間、ヒートクリーニングした。
ボールミルにより粉砕したLaNiO(株式会社豊島製作所製)の粉体100mgをエタノール500μLに混合し、30分間超音波分散を行い、塗布液を調製した。
塗布液を、チップの平坦面に滴下し、風乾させた。塗布LaNiO粉体質量が5mgとなるよう、この滴下および風乾を繰返し、評価用サンプル中間体を得た。評価用サンプル中間体を樹脂フィルムにて真空ラミネートを行いCIP(Cold Isostatic Pressing:冷間等方圧加圧)処理後、空気中にて650℃で1時間焼成した。
【0075】
(実施例B1)
純水200gにNi(NO・6HOを23.26g、La(NO・6HOを34.64g、グリシン(CNO)を4.50g溶解し、実施例B1の電極触媒層の原料溶液(塗布液)Xを調製した。
Nb濃度0.36mol/kg溶液のシュウ酸ニオブアンモニウム水溶液4.44g、30%過酸化水素水(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級)0.91g、純水194.6gを混合し、実施例B1の電極触媒層の原料溶液(塗布液)Yを調製した。
実施例B1の塗布液X2.62gに対し、実施例B1の塗布液Y2.00gを混合し、実施例B1の塗布液とした。
Siウエハ基材/SiN薄膜チップであるX線フィルタ容器「FIL-SIN-10-303」(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)を、実施例A1と同様の方法でヒートクリーニングした後、ステンレス製板中央に固定した。X線フィルタ容器を固定したステンレス製板をスピンコーターのステージに載せて吸着固定し、実施例B1の塗布液を用いて、実施例A1と同様の方法でスピンコートし、X線フィルタ容器表面に実施例B1の塗布液の塗膜を形成した。
その後、実施例A1と同様の方法で塗布済みX線フィルタ容器を取り外し、塗布された平坦面(塗膜表面)を上にして磁性平皿に載せ、マッフル炉内で400℃10分仮焼成し、取り出した。
その後、仮焼成済みX線フィルタ容器を平坦面(電極触媒前駆体表面)を上にして磁性平皿に載せ、室温のマッフル炉内に入れ、昇温速度5℃/分で700℃まで昇温し700℃で1時間焼成後、室温まで徐冷して取り出し、実施例B1のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルを得た。
X線回折測定、CV、EISおよびCA試験の結果を表2に示す。
【0076】
(実施例B2~B10)
Siウエハ基材/SiN薄膜チップを以下のチップに変更したこと以外は実施例B1と同様にして、評価用サンプルを得た。
実施例B2:Siウエハ基材/SiC薄膜チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社「FIL-SIC-20-303」)
実施例B3:Siウエハ基材/SiN薄膜/Ti薄膜/白金薄膜チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-PTTI-SIN-10-303」)
実施例B4:Siウエハ基材/SiN薄膜/Ti薄膜/金薄膜チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUTI-SIN-10-303」)
実施例B5:Siウエハ基材/SiC薄膜/Ti薄膜/金薄膜チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUTI-SIC-20-303」)
実施例B6:Siウエハ基材/SiC薄膜/Cr薄膜/金薄膜チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUCr-SIC-20-303」)
実施例B7:Siウエハ基材/SiN薄膜/Ti薄膜/白金薄膜チップ、エッチング面側にTi薄膜あり(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-PTTI-SIN-10-303_rTI」)
実施例B8:Siウエハ基材/SiN薄膜/Ti薄膜/金薄膜チップ、エッチング面側にTi薄膜あり(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUTI-SIN-10-303_rTI」)
実施例B9:Siウエハ基材/SiC薄膜/Ti薄膜/金薄膜チップ、エッチング面側にTi薄膜あり(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUTI-SIC-20-303_rTI」)
実施例B10:Siウエハ基材/SiC薄膜/Cr薄膜/金薄膜チップ、エッチング面側にTi薄膜あり(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUCr-SIC-20-303_rTI」)
X線回折測定、CV、EISおよびCA試験の結果を表2に示す。
【0077】
(比較例B1~B6)
Siウエハ基材/SiN薄膜チップを以下のチップ(SiN薄膜またはSiC薄膜を有しない、エッチングにより形成された窓を有しない縦1cm×横2cmのチップ)に変更したこと以外は実施例B1と同様にして、評価用サンプルの作製を試みたが、電極触媒層の原料溶液(塗布液)がはじかれ塗布が不可能であったため、電極触媒層を形成できず、評価用サンプルを得ることができなかった。
比較例B1:Siウエハ基材チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
比較例B2:Siウエハ基材/白金薄膜(膜厚11nm)チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
比較例B3:Siウエハ基材/金薄膜(膜厚11nm)チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
比較例B4:Siウエハ基材/Ti薄膜(膜厚3nm)/白金薄膜(膜厚11nm)チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
比較例B5:Siウエハ基材/Ti薄膜(膜厚3nm)/金薄膜(膜厚11nm)チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
比較例B6:Siウエハ基材/Cr薄膜(膜厚3nm)/金薄膜(膜厚11nm)チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
【0078】
(実施例C1)
純水200gにNi(NO・6HOを23.26g、La(NO・6HOを34.64g、グリシン(CNO)を4.50g溶解し、実施例C1の電極触媒層の原料溶液(塗布液)Xを調製した。
Nb濃度0.36mol/kg溶液のシュウ酸ニオブアンモニウム水溶液11.11g、30%過酸化水素水(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級)2.27g、純水186.6gを混合し、実施例C1の電極触媒層の原料溶液(塗布液)Yを調製した。
実施例C1の塗布液X2.62gに対し、実施例C1の塗布液Y2.00gを混合し、実施例C1の塗布液とした。
Siウエハ基材/SiN薄膜チップであるX線フィルタ容器「FIL-SIN-10-303」(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)を、実施例A1と同様の方法でヒートクリーニングした後、ステンレス製板中央に固定した。X線フィルタ容器を固定したステンレス製板をスピンコーターのステージに載せ吸着固定し、実施例C1の塗布液を用いて、実施例A1と同様の方法でスピンコートし、X線フィルタ容器表面に実施例C1の塗布液の塗膜を形成した。
その後、実施例A1と同様の方法で塗布済みX線フィルタ容器を取り外し、塗布された平坦面(塗膜表面)を上にして磁性平皿に載せ、マッフル炉内で400℃10分仮焼成し、取り出した。
その後、仮焼成済みX線フィルタ容器を平坦面(電極触媒前駆体表面)を上にして磁性平皿に載せ、室温のマッフル炉内に入れ、昇温速度5℃/分で700℃まで昇温し700℃で1時間焼成後、室温まで徐冷して取り出し、実施例C1のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルを得た。
X線回折測定、CV、EISおよびCA試験の結果を表3に示す。
【0079】
(実施例C2~C10)
Siウエハ基材/SiN薄膜チップを以下のチップに変更したこと以外は実施例C1と同様にして、評価用サンプルを得た。
実施例C2:Siウエハ基材/SiC薄膜チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社「FIL-SIC-20-303」)
実施例C3:Siウエハ基材/SiN薄膜/Ti薄膜/白金薄膜チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-PTTI-SIN-10-303」)
実施例C4:Siウエハ基材/SiN薄膜/Ti薄膜/金薄膜チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUTI-SIN-10-303」)
実施例C5:Siウエハ基材/SiC薄膜/Ti薄膜/金薄膜チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUTI-SIC-20-303」)
実施例C6:Siウエハ基材/SiC薄膜/Cr薄膜/金薄膜チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUCr-SIC-20-303」)
実施例C7:Siウエハ基材/SiN薄膜/Ti薄膜/白金薄膜チップ、エッチング面側にTi薄膜あり(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-PTTI-SIN-10-303_rTI」)
実施例C8:Siウエハ基材/SiN薄膜/Ti薄膜/金薄膜チップ、エッチング面側にTi薄膜あり(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUTI-SIN-10-303_rTI」)
実施例C9:Siウエハ基材/SiC薄膜/Ti薄膜/金薄膜チップ、エッチング面側にTi薄膜あり(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUTI-SIC-20-303_rTI」)
実施例C10:Siウエハ基材/SiC薄膜/Cr薄膜/金薄膜チップ、エッチング面側にTi薄膜あり(NTTアドバンステクノロジ株式会社製「FIL-AUCr-SIC-20-303_rTI」)
X線回折測定、CV、EISおよびCA試験の結果を表3に示す。
【0080】
(比較例C1~C6)
Siウエハ基材/SiN薄膜チップを以下のチップ(SiN薄膜またはSiC薄膜を有しない、エッチングにより形成された窓を有しない縦1cm×横2cmのチップ)に変更したこと以外は実施例C1と同様にして、評価用サンプルの作製を試みたが、電極触媒層の原料溶液(塗布液)がはじかれ塗布が不可能であったため、電極触媒層を形成できず、評価用サンプルを得ることができなかった。
比較例C1:Siウエハ基材チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
比較例C2:Siウエハ基材/白金薄膜(膜厚11nm)チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
比較例C3:Siウエハ基材/金薄膜(膜厚11nm)チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
比較例C4:Siウエハ基材/Ti薄膜(膜厚3nm)/白金薄膜(膜厚11nm)チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
比較例C5:Siウエハ基材/Ti薄膜(膜厚3nm)/金薄膜(膜厚11nm)チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
比較例C6:Siウエハ基材/Cr薄膜(膜厚3nm)/金薄膜(膜厚11nm)チップ(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)
【0081】
(実施例D1)
純水400gにNi(NO・6HOを23.26g、Co(CHCOO)・4HOを39.85g溶解し、実施例D1の電極触媒層の原料溶液(塗布液)を調製した。
X線フィルタ容器「FIL-AUTI-SIN-10-303_rTI」(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)を、実施例A1と同様の方法でヒートクリーニングした後、ステンレス製板中央に固定した。X線フィルタ容器を固定したステンレス製板をスピンコーターのステージに載せて吸着固定し、実施例D1の塗布液を用いて、実施例A1と同様の方法でスピンコートし、X線フィルタ容器表面に実施例D1の塗布液の塗膜を形成した。
その後、実施例A1と同様の方法で塗布済みX線フィルタ容器を取り外し、塗布された平坦面(塗膜表面)を上にして磁性平皿に載せ、マッフル炉内で400℃10分仮焼成し、取り出した。
その後、仮焼成済みX線フィルタ容器を平坦面(電極触媒前駆体表面)を上にして磁性平皿に載せ、室温のマッフル炉内に入れ、昇温速度5℃/分で400℃まで昇温し400℃で1時間焼成後、室温まで徐冷して取り出し、実施例D1のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルを得た。
X線回折測定、CV、EISおよびCA試験の結果を表4に示す。
【0082】
(実施例D2)
純水200g、エタノール200gの混合溶媒に、Pr(NO・6HOを4.35g、Ba(NOを2.61g、Co(NO・6HOを5.82g、無水クエン酸(C)4.20gを溶解し、実施例D2の電極触媒層の原料溶液(塗布液)を調製した。
X線フィルタ容器「FIL-SIN-10-303」(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)を、実施例A1と同様の方法でヒートクリーニングした後、ステンレス製板中央に固定した。X線フィルタ容器を固定したステンレス製板をスピンコーターのステージに載せて吸着固定し、実施例D2の塗布液を用いて、実施例A1と同様の方法でスピンコートし、X線フィルタ容器表面に実施例D2の塗布液の塗膜を形成した。
その後、実施例A1と同様の方法で塗布済みX線フィルタ容器を取り外し、塗布された平坦面(塗膜表面)を上にして磁性平皿に載せ、マッフル炉内で400℃10分仮焼成し、取り出した。
その後、仮焼成済みX線フィルタ容器を平坦面(電極触媒前駆体表面)を上にして磁性平皿に載せ、室温のマッフル炉内に入れ、昇温速度5℃/分で800℃まで昇温し800℃で1時間焼成後、室温まで徐冷して取り出し、実施例D2のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルを得た。
X線回折測定、CV、EISおよびCA試験の結果を表4に示す。
【0083】
(実施例D3)
純水400gにNi(CHCOO)・4HOを39.81g、Fe(NO・9HOを32.32g溶解し、実施例D3の電極触媒層の原料溶液(塗布液)を調製した。
X線フィルタ容器「FIL-AUCr-SIC-20-303_rTI」(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)を、実施例A1と同様の方法でヒートクリーニングした後、ステンレス製板中央に固定した。X線フィルタ容器を固定したステンレス製板をスピンコーターのステージに載せて吸着固定し、実施例D3の塗布液を用いて、実施例A1と同様の方法でスピンコートし、X線フィルタ容器表面に実施例D3の塗布液の塗膜を形成した。
その後、実施例A1と同様の方法で塗布済みX線フィルタ容器を取り外し、塗布された平坦面(塗膜表面)を上にして磁性平皿に載せ、マッフル炉内で400℃10分仮焼成し、取り出した。
その後、仮焼成済みX線フィルタ容器を平坦面(電極触媒前駆体表面)を上にして磁性平皿に載せ、室温のマッフル炉内に入れ、昇温速度5℃/分で400℃まで昇温し400℃で1時間焼成後、室温まで徐冷して取り出し、実施例D3のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルを得た。
X線回折測定、CV、EISおよびCA試験の結果を表4に示す。
【0084】
(実施例D4)
純水400gにNi(NO・6HOを23.26g、La(NO・6HOを34.64g、グリシン(CNO)を30.03g溶解し、実施例D4の電極触媒層の原料溶液(塗布液)を調製した。
X線フィルタ容器「FIL-PTTI-SIN-10-303」(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)を、実施例A1と同様の方法でヒートクリーニングした後、ステンレス製板中央に固定した。X線フィルタ容器を固定したステンレス製板をスピンコーターのステージに載せて吸着固定し、実施例D4の塗布液を用いて、実施例A1と同様の方法でスピンコートし、X線フィルタ容器表面に実施例D4の塗布液の塗膜を形成した。
その後、実施例A1と同様の方法で塗布済みX線フィルタ容器を取り外し、塗布された平坦面(塗膜表面)を上にして磁性平皿に載せ、マッフル炉内で400℃10分仮焼成し、取り出した。
その後、仮焼成済みX線フィルタ容器を平坦面(電極触媒前駆体表面)を上にして磁性平皿に載せ、室温のマッフル炉内に入れ、昇温速度5℃/分で800℃まで昇温し800℃で1時間焼成後、室温まで徐冷して取り出し、実施例D4のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルを得た。
X線回折測定、CV、EISおよびCA試験の結果を表4に示す。
また、実施例D4のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルの断面TEM画像を図2に示す。電極触媒層の膜厚は90nmであり、電極触媒層内にボイドを有していた。
【0085】
(実施例D5)
純水400gにCa(NO・4HOを18.89g、Fe(NO・9HOを16.16g、Co(NO・6HOを11.64g、無水クエン酸(C)33.62gを溶解し、実施例D5の電極触媒層の原料溶液(塗布液)を調製した。
X線フィルタ容器「FIL-AUTI-SIC-20-303」(NTTアドバンステクノロジ株式会社製)を、実施例A1と同様の方法でヒートクリーニングした後、ステンレス製板中央に固定した。X線フィルタ容器を固定したステンレス製板をスピンコーターのステージに載せて吸着固定し、実施例D5の塗布液を用いて、実施例A1と同様の方法でスピンコートし、X線フィルタ容器表面に実施例D5の塗布液の塗膜を形成した。
その後、実施例A1と同様の方法で塗布済みX線フィルタ容器を取り外し、塗布された平坦面(塗膜表面)を上にして磁性平皿に載せ、マッフル炉内で400℃10分仮焼成し、取り出した。
その後、仮焼成済みX線フィルタ容器を平坦面(電極触媒前駆体表面)を上にして磁性平皿に載せ、室温のマッフル炉内に入れ、昇温速度5℃/分で600℃まで昇温し600℃で1時間焼成後、室温まで徐冷して取り出し、実施例D5のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルを得た。
X線回折測定、CV、EISおよびCA試験の結果を表4に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のアルカリ水電解用電極の評価用サンプルは、従来と同様の電解性能の経時変化評価をより簡便に、かつ低強度の基材でも行うことができるため、アルカリ水電解用電極の評価試験において好適に使用することができる。
図1
図2