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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048280
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/04 20060101AFI20240401BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20240401BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20240401BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240401BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
F02D41/04
F02D43/00 301B
F02D41/34
F02D45/00 376
F02D43/00 301J
F02P5/15 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154236
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 岳
(72)【発明者】
【氏名】山崎 祥史
【テーマコード(参考)】
3G022
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G022CA02
3G022DA01
3G301HA01
3G301HA04
3G301HA06
3G301JA21
3G301KA05
3G301LB04
3G301MA26
3G301NC04
3G301NE11
3G301PA01Z
3G301PD02Z
3G301PE08Z
3G301PF01Z
3G301PF03Z
3G301PF05Z
3G384AA01
3G384AA06
3G384AA07
3G384BA18
3G384BA24
3G384CA03
3G384DA04
3G384DA14
3G384EB03
3G384EE33
3G384FA01Z
3G384FA06Z
3G384FA37Z
3G384FA58Z
3G384FA71Z
3G384FA79Z
(57)【要約】
【課題】エンジンの状態に応じて噴射段数を多段化した場合であっても点火時期を好適化できる、エンジン制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン制御装置の制御システムには、エンジン運転点ごとに点火時期が設定されている点火時期マップとして、インジェクタの第1噴射段数に対応する第1点火時期マップと、前記第1噴射段数よりも多い第2噴射段数に対応する第2点火時期マップと、が記憶されており、制御システムは、インジェクタの噴射段数を判定し(S15、S16)、噴射段数が第1噴射段数である場合に、第1点火時期マップに基づいて点火プラグの点火時期を制御し(S17、S20、S21)、噴射段数が第2噴射段数である場合に、第2点火時期マップに基づいて点火プラグの点火時期を制御する(S18又はS19、S20、S21)。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室内に燃料を噴射するインジェクタと、前記燃焼室内の混合気に点火する点火プラグと、を備えるエンジンを制御するエンジン制御装置であって、
互いに通信可能に接続されるメモリおよびプロセッサを有し、前記点火プラグの点火時期を制御する制御システムを有し、
前記制御システムには、エンジン運転点ごとに点火時期が設定されている点火時期マップとして、前記インジェクタの第1噴射段数に対応する第1点火時期マップと、前記第1噴射段数よりも多い第2噴射段数に対応する第2点火時期マップと、が記憶されており、
前記制御システムは、
前記インジェクタの噴射段数を判定し、
前記インジェクタの噴射段数が前記第1噴射段数である場合に、前記第1点火時期マップに基づいて前記点火プラグの点火時期を制御し、
前記インジェクタの噴射段数が前記第2噴射段数である場合に、前記第2点火時期マップに基づいて前記点火プラグの点火時期を制御する、
エンジン制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
前記第2点火時期マップの点火時期は、前記第1点火時期マップの点火時期よりも、進角側に設定されている、
エンジン制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
前記制御システムは、前記エンジンの冷却水温に応じて、前記インジェクタの噴射段数を制御する、
エンジン制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のエンジン制御装置において、
前記エンジンは、前記燃焼室を有する気筒を複数備え、
前記制御システムは、前記インジェクタの噴射段数を前記気筒ごとに判定する、
エンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃焼室内に燃料を多段噴射して、燃料の気化潜熱で燃焼室内の温度を下げることにより圧縮比を高めた、ガソリン直噴エンジンが知られている。このエンジンでは、エンジン回転数とエンジン負荷とで定められるエンジン運転点に応じて、燃料の噴射段数が設定されており、またエンジン運転点に応じて、燃料への点火時期が設定されているので、噴射段数に適した点火時期となるように制御されている。特許文献1~4には、噴射段数を切り替える際に、点火時期を進角側又は遅角側にシフトさせる、エンジン制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-227706号公報
【特許文献2】特開2009-121255号公報
【特許文献3】特開2016-121539号公報
【特許文献4】特開2016-053322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エンジンの状態(例えば冷却水温)に応じて噴射段数を多段化すると、MBT(Minimum advance for the Best Torque)がシフトすることが判明した。図10は、縦軸にトルク、横軸にクランク角を取ったグラフであり、アクセル開度一定かつエンジン回転速度一定のもとで理論混合気が供給されているとしたときの、点火時期とトルクとの関係を示している。図10において、1段噴射(L1)の場合のMBTは、ピストンの上死点(TDC:Top Dead Center)よりも進角したMBT1である。これが多段噴射(L2)になると、MBTは、MBT1よりも進角側にシフトしたMBT2となる。この多段噴射の場合に、1段噴射の場合と同じ時期に点火を行うと、MBT2となる点火時期から見てリタードしていることになるため、好適な点火時期とならない。
本発明の目的は、エンジンの状態に応じて噴射段数を多段化した場合であっても点火時期を好適化できる、エンジン制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態のエンジン制御装置は、燃焼室内に燃料を噴射するインジェクタと、前記燃焼室内の混合気に点火する点火プラグと、を備えるエンジンを制御するエンジン制御装置であって、互いに通信可能に接続されるメモリおよびプロセッサを有し、前記点火プラグの点火時期を制御する制御システムを有し、前記制御システムには、エンジン運転点ごとに点火時期が設定されている点火時期マップとして、前記インジェクタの第1噴射段数に対応する第1点火時期マップと、前記第1噴射段数よりも多い第2噴射段数に対応する第2点火時期マップと、が記憶されており、前記制御システムは、前記インジェクタの噴射段数を判定し、前記インジェクタの噴射段数が前記第1噴射段数である場合に、前記第1点火時期マップに基づいて前記点火プラグの点火時期を制御し、前記インジェクタの噴射段数が前記第2噴射段数である場合に、前記第2点火時期マップに基づいて前記点火プラグの点火時期を制御する。
【発明の効果】
【0006】
一実施形態のエンジン制御装置によれば、噴射段数に応じた点火時期マップに基づいて点火時期が制御されるので、エンジンの状態に応じて噴射段数を多段化した場合であっても点火時期を好適化できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】エンジンが搭載される車両の一例を示す図である。
図2】エンジンの一例を示す図である。
図3】制御システムの一例を示す図である。
図4】エンジン制御ユニットの基本構造の一例を示す図である。
図5A】通常運転中における噴射段数マップの一例を示す図である。
図5B】低水温中における噴射段数マップの一例を示す図である。
図6A】1段噴射用点火時期マップの一例を示す図である。
図6B】2段噴射用点火時期マップの一例を示す図である。
図6C】3段噴射用点火時期マップの一例を示す図である。
図7】点火制御の一例を示すフローチャートである。
図8】各気筒におけるクランク角と噴射および点火の確定タイミングとの関係を示す図である。
図9A】低水温中における噴射段数マップの変形例を示す図である。
図9B】3段噴射用点火時期マップの変形例を示す図である。
図10】点火時期とトルクとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一または実質的に同一の構成や要素については、同一の符号を付して繰り返しの説明を省略する。
【0009】
[車両]
図1は、エンジン10が搭載される車両11の一例を示す図である。図1に示すように、車両11には、エンジン10を備えたパワートレイン12が搭載されている。エンジン10には、燃料噴射装置13が設けられている。車両11には、ガソリン等の燃料を溜める燃料タンク14が設けられている。燃料タンク14とエンジン10とは、燃料供給経路15を介して互いに接続されている。なお、図示するエンジン10は、水平対向エンジンであるが、これに限られることはなく、直列エンジンや、V型エンジンであってもよい。また、エンジン10は、4気筒エンジンであるが、これに限られることはなく、5気筒以上のエンジンや、3気筒以下のエンジン(単気筒エンジンを含む)であってもよい。
【0010】
[エンジン]
図2は、エンジン10の一例を示す図である。図2に示すように、エンジン10は、一方のシリンダバンクを構成するシリンダブロック20と、他方のシリンダバンクを構成するシリンダブロック21と、一対のシリンダブロック20,21に支持されるクランク軸22と、を有している。各シリンダブロック20,21には、シリンダ(気筒)23が形成されており、各シリンダ23にはピストン24が収容されている。クランク軸22とピストン24とは、コネクティングロッド25を介して互いに連結されている。
【0011】
各シリンダブロック20,21には、動弁機構30等を備えたシリンダヘッド31が取り付けられている。シリンダヘッド31は、シリンダ23毎の燃焼室32を備えている。また、シリンダヘッド31には、燃焼室32に連通する吸気ポート33が形成されているとともに、吸気ポート33を開閉する吸気バルブ34が組み付けられている。また、シリンダヘッド31には、燃焼室32に連通する排気ポート35が形成されているとともに、排気ポート35を開閉する排気バルブ36が組み付けられている。さらに、シリンダヘッド31には、燃焼室32内に燃料を噴射するインジェクタ37が設けられているとともに、燃焼室32内の混合気に点火する点火プラグ38が設けられている。燃料タンク14とインジェクタ37とは、前記燃料供給経路15を介して互いに接続されている。
【0012】
[制御システム]
図3は、制御システム80の一例を示す図である。燃料噴射装置13には、図3に示すように、エンジン制御ユニット83からなる制御システム80が設けられている。エンジン制御ユニット83に接続されるセンサとして、車速を検出する車速センサ84、アクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ85、およびブレーキペダルの操作量を検出するブレーキセンサ86がある。また、エンジン制御ユニット83に接続されるセンサとして、クランク軸の回転角度を検出するクランク回転センサ87、エンジン10の冷却水温を検出する水温センサ88、エンジン10の吸入空気量を検出するエアフローセンサ89、および排出ガスの酸素濃度から空燃比を検出する空燃比センサ90がある。さらに、エンジン制御ユニット83には、制御システム80の起動時や停止時に手動操作される起動スイッチ91が設けられている。
【0013】
図4は、エンジン制御ユニット83の基本構造の一例を示す図である。図4に示すように、電子制御ユニットであるエンジン制御ユニット83は、プロセッサ100およびメインメモリ(メモリ)101等が組み込まれたマイクロコントローラ102を有している。メインメモリ101には、所定のプログラムが格納されており、プロセッサ100によって、プログラムが実行される。プロセッサ100とメインメモリ101とは、互いに通信可能に接続されている。なお、マイクロコントローラ102に複数のプロセッサ100を組み込んでも良く、マイクロコントローラ102に複数のメインメモリ101を組み込んでも良い。
【0014】
また、エンジン制御ユニット83には、入力回路103、駆動回路104、通信回路105、外部メモリ106、および電源回路107等が設けられている。入力回路103は、各種センサから入力される信号を、マイクロコントローラ102に入力可能な信号に変換する。駆動回路104は、マイクロコントローラ102から出力される信号に基づき、インジェクタ37や点火プラグ38等の各種デバイスに対する駆動信号を生成する。通信回路105は、マイクロコントローラ102から出力される信号を、他の電子制御ユニットに向けた通信信号に変換する。また、通信回路105は、他の電子制御ユニットから受信した通信信号を、マイクロコントローラ102に入力可能な信号に変換する。電源回路107は、マイクロコントローラ102、入力回路103、駆動回路104、通信回路105、および外部メモリ106等に対し、安定した電源電圧を供給する。不揮発性メモリ等からなる外部メモリ106には、プログラムおよび各種データ等が記憶される。
【0015】
[点火制御]
本実施形態に係るエンジン制御装置は、エンジンの状態に応じて噴射段数を多段化した場合であっても点火時期を好適化できる点に特徴がある。エンジンの状態としては、例えば冷却水温が挙げられる。
【0016】
背景として、エンジンの排気ガスには粒子状物質(PM:Particulate Matter)が含まれることから、排気ガス中の粒子状物質数(PN:Particulate Number)を低減することが求められている。従来より、エンジンの冷却水温が低い状態では、燃料の1段噴射が行われていたが、PNを低減するために、噴射段数を多段化したいという要求があった。
【0017】
しかしながら、従来の制御方法で、PN低減用に多段化した場合、エンジン運転点が同じでも水温によって噴射段数が切り替わるため、多段化の有無に応じた点火時期の設定を行うことができなかった。また、従来の制御方法では、噴射と点火の切り替えタイミングを同期できないため、噴射段数を切り替えた直後の数サイクルは、適切な点火時期にならない可能性があった。さらに、上記「発明が解決しようとする課題」で記載したように、MBTがシフトすることでリタードしていることになるため、好適な点火時期とならないという課題もあった。
【0018】
そこで、本発明に係るエンジン制御装置では、噴射段数の多段化によるPN低減と燃焼安定性とを両立できるようにすべく、制御システム80が、エンジン10の冷却水温に応じた2種類の噴射段数マップ(図5A図5B)と、インジェクタ37の噴射段数に応じた3種類の点火時期マップ(図6A図6B図6C)とを記憶しており、これらのマップのいずれかを選択して(すなわち、これらのマップを切り替えて)点火制御(図7)を行うこととした。
【0019】
図5Aは、通常運転中における噴射段数マップの一例を示す図であり、図5Bは、低水温中における噴射段数マップの一例を示す図である。噴射段数マップは、縦軸にエンジン負荷、横軸にエンジン回転数を取ったグラフであり、これらエンジン負荷とエンジン回転数とで定められるエンジン運転点毎に、インジェクタ37の噴射段数が定められている。なお、噴射段数マップでは、図示していないが、エンジン運転点毎に、燃料を噴射する時間を表す噴射パルス幅も定められている。
【0020】
図5Aは、暖機運転終了後、すなわちエンジン10の冷却水温が高くなった状態で選択されるマップである。図5Bは、暖機運転中、すなわちエンジン10の冷却水温が低い状態で選択されるマップである。エンジン10の冷却水温は、水温センサ88で検出される。両マップの切り替えタイミング(すなわち、何度で切り替えるか)は、任意に設定可能である。
【0021】
通常運転中においては、図5Aに示されるように、エンジン負荷が高くてエンジン回転数が高い領域E3の各エンジン運転点で、3段噴射が行われる。また、エンジン負荷が中程度以上でエンジン回転数が中程度以上の領域E2(ただし領域E3を除く)の各エンジン運転点で、2段噴射が行われる。さらに、領域E3および領域E2を除いた領域E1(すなわち、エンジン負荷が低くてエンジン回転数が低回転から高回転の領域と、エンジン回転数が低くてエンジン負荷が低負荷から高負荷の領域)の各エンジン運転点で、1段噴射が行われる。
【0022】
一方、低水温中においては、図5Bに示されるように、領域E3で3段噴射、領域E2で2段噴射が行われるが、領域E1では、PN低減と燃焼安定性とを両立できるようにすべく、2段噴射が行われる。すなわち、図5A図5Bとを比較して、低水温中においては、領域E1で噴射段数が多段化されている。
【0023】
図6Aは、1段噴射用点火時期マップの一例を示す図であり、図6Bは、2段噴射用点火時期マップの一例を示す図であり、図6Cは、3段噴射用点火時期マップの一例を示す図である。点火時期マップは、縦軸にエンジン負荷、横軸にエンジン回転数を取った表であり、これらエンジン負荷とエンジン回転数とで定められるエンジン運転点毎に、点火プラグ38の点火時期が定められている。点火時期は、上死点から進角している度数で表される。
【0024】
図6Aに示されるように、1段噴射の場合の点火時期は、X°に設定されている。この図6Aは、第1噴射段数に対応する第1点火時期マップである。図6Cに示されるように、3段噴射の場合の点火時期は、Z°に設定されている。
【0025】
図6Bに示されるように、2段噴射の場合の点火時期は、領域E2について、Y°に設定されているとともに、2段噴射に多段化された領域E1については、図6AのX°からα°進角側に設定されている。この図6Bは、第1噴射段数よりも多い第2噴射段数に対応する第2点火時期マップである。このように、第2点火時期マップのうちの、噴射段数が多段化された領域E1の点火時期は、第1点火時期マップの点火時期よりも、進角側に設定されているので、好適な点火時期となっている。
【0026】
図7は、点火制御の一例を示すフローチャートである。図7のフローチャートに示される各ステップには、制御システム80を構成するプロセッサ100によって実行される処理が示されている。
【0027】
プロセッサ100は、ステップS11で、エンジン10の冷却水温が低水温であるか否かを判定する。具体的に、プロセッサ100は、水温センサ88の検出結果が、あらかじめ設定された水温以下であるか否かを判定する。S11で低水温である(Yes)と判定した場合には、噴射段数マップとして、図5Bの低水温中噴射段数マップを選択して、ステップS14に進む。一方、S11で低水温でない(No)と判定した場合には、噴射段数マップとして、図5Aの通常運転中噴射段数マップを選択して、ステップS14に進む。
【0028】
プロセッサ100は、ステップS14で、次に点火確定する気筒を特定する。ここで図8は、各気筒におけるクランク角と噴射および点火の確定タイミングとの関係を示す図である。4気筒の各シリンダ23(第1~第4シリンダ)では、白矢印で示されるように、排気行程の途中(BTDC390°)でインジェクタ37による噴射が確定して、黒矢印で示されるように、圧縮行程の前(BTDC180°)で点火プラグ38による点火が確定する。よって、クランク回転センサ87の検出結果に基づいて、次に点火確定する気筒を特定できる。例えば、A-A線に示すタイミングだと、次に点火確定する気筒は第3シリンダである。このように、噴射確定済みの気筒については、噴射段数に応じた点火時期を確定することができる。
【0029】
プロセッサ100は、ステップS15およびステップS16で、ステップS14にて特定された気筒の噴射段数が1段であるか、2段であるか、それ以外であるかを判定する。具体的に、プロセッサ100は、ステップS12またはステップS13にて選択された噴射段数マップで、エンジン運転点毎に設定されている噴射パルス幅に基づいて、噴射段数を判定する。
【0030】
プロセッサ100は、ステップS15で、ステップS14にて特定された気筒の噴射段数が1段であるか否かを判定する。ステップS15で1段噴射である(Yes)と判定した場合には、ステップS17で、図6Aの1段噴射用点火マップを選択し、ステップS20で、該1段噴射用点火マップに基づいて、現在のエンジン運転点における点火時期を特定して、ステップS21で、該特定した点火時期での点火を点火プラグ38に指令して、処理を終了する。
【0031】
プロセッサ100は、ステップS15で1段噴射でない(No)と判定した場合には、ステップS16で、ステップS14にて特定された気筒の噴射段数が2段であるか否かを判定する。ステップS16で2段噴射でない(No)と判定した場合には、ステップS19で、図6Cの3段噴射用点火マップを選択し、ステップS20で、該3段噴射用点火マップに基づいて、現在のエンジン運転点における点火時期を特定して、ステップS21で、該特定した点火時期での点火を点火プラグ38に指令して、処理を終了する。
【0032】
プロセッサ100は、ステップS16で2段噴射である(Yes)と判定した場合には、ステップS18で、図6Bの2段噴射用点火マップを選択し、ステップS20で、該2段噴射用点火マップに基づいて、現在のエンジン運転点における点火時期を特定して、ステップS21で、該特定した点火時期での点火を点火プラグ38に指令して、処理を終了する。この2段噴射の場合、図6Bに示されるように、通常運転中の点火時期は、領域E2のY°であり、低水温中の点火時期は、領域E1のX°からα°進角している。
【0033】
以上に説明したように、本実施形態の制御システム80は、インジェクタ37の噴射段数を判定し(S15、S16)、噴射段数が第1噴射段数(1段)である場合に、第1点火時期マップ(図6A)に基づいて点火プラグ38の点火時期を制御し(S17、S20、S21)、噴射段数が第2噴射段数(2段)である場合に、第2点火時期マップ(図6B)に基づいて点火プラグの点火時期を制御する(S18又はS19、S20、S21)。
【0034】
これによれば、噴射段数に応じた点火時期マップに基づいて点火時期が制御されるので、エンジンの状態に応じて噴射段数を多段化した場合であっても点火時期を好適化できる。また、第2点火時期マップの点火時期は、第1点火時期マップの点火時期よりも、進角側に設定されているので、意図せずにリタードすることを防止して、好適な点火時期とすることができる。またエンジン10の冷却水温に応じて、インジェクタ37の噴射段数を制御するので、PN低減と燃焼安定性とを両立できる。また、噴射段数を複数の気筒ごとに判定するので、的確な制御を行うことができる。
【0035】
[変形例]
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0036】
上記の実施形態では、図5Bに示すように、領域E1の全域で噴射段数が多段化(1段から2段に変更)されている例について説明したが、領域E1の一部のみで多段化されていてもよい。
【0037】
上記の実施形態では、図5Bに示すように、領域E1における噴射段数の多段化が、1段から2段への変更である例について説明したが、該多段化が、3段への変更であってもよい。
【0038】
上記の実施形態では、図6Bに示すように、領域E1での点火時期が、エンジン運転点によらず一律にα°進角している例について説明したが、エンジン運転点ごとに進角の度数が異なっていてもよい。
【0039】
上記の実施形態では、図6Bに示すように、低水温において、領域E1が1段噴射から2段噴射になる例について説明したが、図9Aに示すように、領域E2も2段噴射から3段噴射になってもよい。図9Aは、低水温中における噴射段数マップの変形例を示す図である。
【0040】
この場合には、図9Bに示すように、領域E2での点火時期が、X°からβ°進角している。図9Bは、3段噴射用点火時期マップの変形例を示す図である。なお、領域E2での点火時期は、エンジン運転点によらず一律にβ°進角している例には限られず、エンジン運転点ごとに進角の度数が異なっていてもよい。
【0041】
この場合には、図6Bに示される2段噴射用点火時期マップが、前記第1点火時期マップであり、図9Bに示される3段噴射用点火時期マップが、第1噴射段数よりも多い第2噴射段数に対応する前記第2点火時期マップである。
【0042】
上記の実施形態では、エンジン10の状態に応じた噴射段数の制御が、冷却水温に応じて行われる例について説明したが、例えば他の状態に応じて行われてもよい。
【符号の説明】
【0043】
10 エンジン
11 車両
32 燃焼室
37 インジェクタ
38 点火プラグ
80 制御システム
83 エンジン制御ユニット
87 クランク回転センサ
88 水温センサ
100 プロセッサ
101 メインメモリ(メモリ)
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9A
図9B
図10