(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048284
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H04B 5/48 20240101AFI20240401BHJP
H01L 21/822 20060101ALI20240401BHJP
H01F 38/14 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
H04B5/02
H01L27/04 L
H01F38/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154240
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 孝行
(72)【発明者】
【氏名】中柴 康隆
【テーマコード(参考)】
5F038
5K012
【Fターム(参考)】
5F038AC05
5F038AZ04
5F038AZ05
5F038CD14
5K012AA01
5K012AA03
5K012AA07
5K012AB03
5K012AC06
5K012AC08
5K012AC10
(57)【要約】
【課題】半導体装置の性能を向上する。
【解決手段】半導体チップCHP3は、異電位間の非接触通信を行うトランスフォーマを有する半導体チップである。この半導体チップCHP3は、p型の半導体基板SUB3と、半導体基板SUB3の表面に形成されたp型半導体領域PR1と、半導体基板SUB3の上方に設けられたトランスフォーマと、を備える。ここで、トランスフォーマは、下層インダクタ300と、下層インダクタ300と電気的に接続された引出配線部と、下層インダクタ300と磁気結合された上層インダクタ100と、を含み、引出配線部は、p型半導体領域PR1と対向する配線10aを有する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異電位間の非接触通信を行うトランスフォーマを有する半導体装置であって、
第1導電型の半導体基板と、
前記半導体基板の表面に形成された前記第1導電型の第1半導体領域と、
前記半導体基板の上方に設けられた前記トランスフォーマと、
を備え、
前記トランスフォーマは、
下層インダクタと、
前記下層インダクタと電気的に接続された引出配線部と、
前記下層インダクタと磁気結合された上層インダクタと、
を含み、
前記引出配線部は、前記第1半導体領域と対向する第1配線を有する、半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1半導体領域は、前記半導体基板よりも高い不純物濃度を有する、半導体装置。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記下層インダクタは、スパイラル状のインダクタ配線から構成され、
前記第1配線の幅は、前記インダクタ配線の幅よりも大きい、半導体装置。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記引出配線部は、
前記下層インダクタと接続された前記第1配線と、
前記第1配線と接続された下層パッドと、
前記下層パッドと接続された多層構造体と、
前記多層構造体と接続された上層パッドと、
を有し、
前記下層パッドは、前記多層構造体と重なる配線であり、
前記第1配線は、前記多層構造体と重ならないように構成され、
前記上層パッドは、ボンディングワイヤと接続可能に構成されている、半導体装置。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体装置において、
前記下層インダクタ、前記第1配線および前記下層パッドは、同層に形成され、
前記多層構造体は、前記下層パッド上に形成されている、半導体装置。
【請求項6】
請求項4に記載の半導体装置において、
互いに対向する前記第1半導体領域と前記第1配線によって容量が形成され、
前記ボンディングワイヤのインダクタンスと前記容量によってローパスフィルタが構成可能である、半導体装置。
【請求項7】
請求項4に記載の半導体装置において、
前記半導体基板上に形成された層間絶縁膜をさらに有し、
前記層間絶縁膜は、前記半導体基板と前記下層インダクタの間、前記半導体基板と前記第1配線の間、および前記半導体基板と前記下層パッドの間に配置されている、半導体装置。
【請求項8】
請求項4に記載の半導体装置において、
前記上層パッドおよび前記上層インダクタを覆うように形成された表面保護膜をさらに有し、
前記表面保護膜は、前記上層パッドの表面の一部を露出する開口部を有する、半導体装置。
【請求項9】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1半導体領域は、前記第1配線と平面的に重なる領域を含む、半導体装置。
【請求項10】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1半導体領域は、前記下層インダクタと平面的に重なる領域を含む、半導体装置。
【請求項11】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1半導体領域は、前記半導体基板の前記表面全体に形成されている、半導体装置。
【請求項12】
請求項4に記載の半導体装置において、
第1電位が印加されるように構成された第1回路が形成された第1チップと、
第2電位が印加されるように構成された第2回路が形成された第2チップと、
前記トランスフォーマが形成された第3チップと、
をさらに有する、半導体装置。
【請求項13】
第1電位が印加されるように構成された第1回路が形成された第1チップと、
第2電位が印加されるように構成された第2回路が形成された第2チップと、
異電位間の非接触通信を行うトランスフォーマが形成された第3チップと、
前記第1チップと前記第3チップを電気的に接続する第1ボンディングワイヤと、
前記第2チップと前記第3チップを電気的に接続する第2ボンディングワイヤと、
を有し、
前記第3チップは、
第1導電型の半導体基板と、
前記半導体基板の表面に形成された前記第1導電型の第1半導体領域と、
前記半導体基板の上方に設けられた前記トランスフォーマと、
を有し、
前記トランスフォーマは、
下層インダクタと、
前記下層インダクタと電気的に接続された引出配線部と、
前記下層インダクタと磁気結合された上層インダクタと、
を含み、
前記引出配線部は、前記第1半導体領域と対向する第1配線を含む、半導体装置。
【請求項14】
請求項13に記載の半導体装置において、
前記第1ボンディングワイヤは、前記第1回路と前記下層インダクタとを電気的に接続するように構成され、
互いに対向する前記第1半導体領域と前記第1配線によって容量が形成され、
前記第1ボンディングワイヤのインダクタンスと前記容量によってローパスフィルタが構成されている、半導体装置。
【請求項15】
請求項13に記載の半導体装置において、
前記第1半導体領域は、前記半導体基板よりも高い不純物濃度を有する、半導体装置。
【請求項16】
請求項13に記載の半導体装置において、
前記引出配線部は、
前記下層インダクタと接続された前記第1配線と、
前記第1配線と接続された下層パッドと、
前記下層パッドと接続された多層構造体と、
前記多層構造体と接続された上層パッドと、
を有し、
前記下層パッドは、前記多層構造体と重なる配線であり、
前記第1配線は、前記多層構造体と重ならないように構成され、
前記上層パッドは、ボンディングワイヤと接続可能に構成されている、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、例えば、誘導結合した一対のインダクタを利用して、異なる電位の間での信号伝送を可能とする半導体装置に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2011-82212号公報(特許文献1)には、トランスフォーマを構成するコイルの寄生抵抗成分の大部分を占める直列抵抗を低減するために、微細化を妨げることなく、コイル断面積を大きくすることが可能な技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、誘導結合した一対のインダクタを利用して非接触の信号伝送を可能とするトランスフォーマ(デジタルアイソレータ)がある。このトランスフォーマによれば、非接触の状態での信号伝送が可能となるため、一方の回路からの電気的ノイズが他方の回路に悪影響を及ぼすことを抑制できる利点が得られる。このことから、トランスフォーマを有する半導体装置を使用することにより、信号伝達品質を向上することができる。
【0005】
この点に関し、トランスフォーマを有する半導体装置では、回路とトランスフォーマとを電気的に接続するために、ボンディングワイヤを使用している。このことから、ボンディングワイヤに存在する寄生インダクタンスに起因して高周波ノイズが発生し、この高周波ノイズが信号伝達品質を劣化させるおそれがある。したがって、トランスフォーマを有する半導体装置においては、信号伝達品質を向上する観点から改善の余地がある。言い換えれば、トランスフォーマを有する半導体装置においては、ボンディングワイヤの寄生インダクタンスに起因する信号伝達品質の劣化を抑制する工夫が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施の形態における半導体装置は、異電位間の非接触通信を行うトランスフォーマを有する半導体装置である。この半導体装置は、第1導電型の半導体基板と、半導体基板の表面に形成された第1導電型の第1半導体領域と、半導体基板の上方に設けられたトランスフォーマと、を備える。ここで、トランスフォーマは、下層インダクタと、下層インダクタと電気的に接続された引出配線部と、下層インダクタと磁気結合された上層インダクタと、を含み、引出配線部は、第1半導体領域と対向する第1配線を有する。
【0007】
一実施の形態における半導体装置は、第1電位が印加される第1回路が形成された第1チップと、第2電位が印加される第2回路が形成された第2チップと、異電位間の非接触通信を行うトランスフォーマが形成された第3チップと、第1チップと第3チップを電気的に接続する第1ボンディングワイヤと、第2チップと第3チップを電気的に接続する第2ボンディングワイヤと、を有する。ここで、第3チップは、第1導電型の半導体基板と、半導体基板の表面に形成された第1導電型の第1半導体領域と、半導体基板の上方に設けられたトランスフォーマと、を有する。このとき、トランスフォーマは、下層インダクタと、下層インダクタと電気的に接続された引出配線部と、下層インダクタと磁気結合された上層インダクタと、を含み、引出配線部は、第1半導体領域と対向する第1配線を含む。
【発明の効果】
【0008】
一実施の形態によれば、半導体装置の性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】負荷回路を駆動する駆動制御部の構成例を示す図である。
【
図5】「2チップ構成」の半導体装置を示す概念図である。
【
図6】「3チップ構成」の半導体装置を示す概念図である。
【
図7】ローパスフィルタの構成を示す回路図である。
【
図8】トランスフォーマを有する「3チップ構成」の半導体装置に基本思想を適用する概念図である。
【
図9】具現化態様における半導体装置の模式的な構成を示す断面図である。
【
図10】具現化態様における半導体チップの平面レイアウトを示す平面図である。
【
図11】具現化態様における半導体チップを模式的に示す断面図であり、
図10のA-A線で切断した断面図である。
【
図12】下層インダクタと、この下層インダクタと接続される配線と、配線と接続される下層パッドを示す平面図の一例である。
【
図13】下層インダクタと、この下層インダクタと接続される配線と、配線と接続される下層パッドを示す平面図の他の一例である。
【
図14】下層インダクタと、この下層インダクタと接続される配線と、配線と接続される下層パッドを示す平面図のさらなる他の一例である。
【
図15】
図11に示す具現化態様の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0011】
<回路構成>
図1は、モータなどの負荷回路を駆動する駆動制御部の構成例を示す図である。
【0012】
図1に示すように、駆動制御部は、制御回路CCと、トランスフォーマTR1と、トランスフォーマTR2と、駆動回路DRと、インバータINVとを有し、負荷回路LODと電気的に接続されている。
【0013】
送信回路TX1および受信回路RX1は、制御回路CCから出力される制御信号を駆動回路DRに伝達するための回路である。一方、送信回路TX2および受信回路RX2は、駆動回路DRから出力される信号を制御回路CCに伝達するための回路である。制御回路CCは、駆動回路DRを制御する機能を有する回路である。駆動回路DRは、制御回路CCからの制御に基づいて、負荷回路LODを制御するインバータINVを動作させる回路である。
【0014】
制御回路CCには、電源電位VCC1が供給され、制御回路CCは接地電位GND1により接地される。一方、インバータINVには、電源電位VCC2が供給され、インバータINVは接地電位GND2により接地される。このとき、例えば、電源電位VCC1は、インバータINVに供給される電源電位VCC2よりも小さい。言い換えれば、インバータINVに供給される電源電位VCC2は、電源電位VCC1よりも大きい。
【0015】
送信回路TX1と受信回路RX1との間には、誘導結合(磁気結合)したコイル(インダクタ)CL1aとコイルCL1bからなるトランスフォーマTR1が介在している。これにより、送信回路TX1から受信回路RX1に、トランスフォーマTR1を介して信号を伝達することができる。この結果、駆動回路DRは、トランスフォーマTR1を介して、制御回路CCから出力された制御信号を受信することができる。
【0016】
このように、誘導結合を利用して電気的に絶縁したトランスフォーマTR1によって、制御回路CCから駆動回路DRへの電気的ノイズの伝達を抑制しながら、制御回路CCから駆動回路DRに制御信号を伝達することができる。このことから、制御信号への電気的ノイズの重畳に起因する駆動回路DRの誤動作を抑制することができ、これによって、半導体装置の動作信頼性を向上することができる。
【0017】
トランスフォーマTR1を構成するコイルCL1aおよびコイルCL1bは、それぞれインダクタとして機能する。トランスフォーマTR1は、誘導結合したコイルCL1aとコイルCL1bからなる磁気結合素子として機能することになる。
【0018】
同様に、送信回路TX2および受信回路RX2の間には、誘導結合したコイルCL2bとコイルCL2aとからなるトランスフォーマTR2が介在している。これにより、送信回路TX2から受信回路RX2に、トランスフォーマTR2を介して信号を伝達することができる。この結果、制御回路CCは、トランスフォーマTR2を介して、駆動回路DRから出力された信号を受信することができる。
【0019】
このように、誘導結合を利用して電気的に絶縁したトランスフォーマTR2によって、駆動回路DRから制御回路CCへの電気的ノイズの伝達を抑制しながら、駆動回路DRから制御回路CCに信号を伝達することができる。このことから、信号への電気的ノイズの重畳に起因する制御回路CCの誤動作を抑制することができ、これによって、半導体装置の動作信頼性を向上することができる。
【0020】
トランスフォーマTR1は、コイルCL1aとコイルCL1bとにより構成されており、コイルCL1aとコイルCL1bとは、導体によっては繋がっておらず、磁気的に結合している。このことから、コイルCL1aに電流が流れると、その電流の変化に応じてコイルCL1bに誘導起電力が発生して誘導電流が流れるようになっている。このとき、コイルCL1aが一次コイルであり、コイルCL1bが二次コイルである。このように、トランスフォーマTR1は、コイルCL1aとコイルCL1bとの間に生じる電磁誘導現象を利用している。すなわち、送信回路TX1からトランスフォーマTR1のコイルCL1aに信号を送って電流を流した結果、トランスフォーマTR1のコイルCL1bに生じた誘導電流を受信回路RX1で検知することにより、受信回路RX1は送信回路TX1から出力された制御信号に対応した信号を受信できる。
【0021】
同様に、トランスフォーマTR2は、コイルCL2aとコイルCL2bとにより構成されており、コイルCL2aとコイルCL2bとは、導体によっては繋がっておらず、磁気的に結合している。このことから、コイルCL2bに電流が流れると、その電流の変化に応じてコイルCL2aに誘導起電力が発生して誘導電流が流れるようになっている。このように、送信回路TX2からトランスフォーマTR2のコイルCL2bに信号を送って電流を流した結果、トランスフォーマTR2のコイルCL2aに生じた誘導電流を受信回路RX2で検知することにより、受信回路RX2は送信回路TX2から出力された制御信号に対応した信号を受信することができる。
【0022】
送信回路TX1からトランスフォーマTR1を経由して受信回路RX1に至る経路と、送信回路TX2からトランスフォーマTR2を経由して受信回路RX2に至る経路とにより、制御回路CCと駆動回路DRとの間の信号の送受信が行なわれる。すなわち、送信回路TX1が送信した信号を受信回路RX1が受信し、送信回路TX2が送信した信号を受信回路RX2が受信することにより、制御回路CCと駆動回路DRとの間で信号の送受信を行うことができる。上述のように、送信回路TX1から受信回路RX1への信号の伝達には、トランスフォーマTR1が介在する一方、送信回路TX2から受信回路RX2への信号の伝達には、トランスフォーマTR2が介在する。これにより、駆動回路DRは、制御回路CCから送信された信号に応じて、負荷回路LODを動作させるためのインバータINVを駆動することができる。
【0023】
制御回路CCと駆動回路DRとは、基準電位の電圧レベルが異なっている。すなわち、制御回路CCでは、基準電位が接地電位GND1に固定されている一方、
図1に示すように、駆動回路DRは、インバータINVと電気的に接続されている。インバータINVは、例えば、ハイサイド用IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ:Insulated Gate Bipolar Transistor)とローサイド用IGBTとを有している。そして、インバータINVでは、ハイサイド用IGBTのオン/オフ制御と、ローサイド用IGBTのオン/オフ制御を駆動回路DRで行なうことにより、インバータINVによる負荷回路LODの制御が実現される。具体的に、ハイサイド用IGBTのオン/オフ制御は、駆動回路DRによって、ハイサイド用IGBTのゲート電極に印加する電位を制御することによって行なわれる。同様に、ローサイド用IGBTのオン/オフ制御は、駆動回路DRによって、ローサイド用IGBTのゲート電極に印加する電位を制御することによって行なわれる。
【0024】
ここで、例えば、ローサイド用IGBTのオン制御は、接地電位GND2と接続されているローサイド用IGBTのエミッタ電位(0V)を基準として、「エミッタ電位(0V)+しきい値電圧(15V)」をゲート電極に印加することにより実現される。一方、例えば、ローサイド用IGBTのオフ制御は、接地電位GND2と接続されているローサイド用IGBTのエミッタ電位(0V)を基準として、「エミッタ電位(0V)」をゲート電極に印加することにより実現される。
【0025】
したがって、ローサイド用IGBTのオン/オフ制御は、0Vを基準電位として、ゲート電極にしきい値電圧(15V)を印加するか否かによって行なわれる。
【0026】
一方、例えば、ハイサイド用IGBTのオン制御も、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位を基準電位として、この基準電位に対して、ゲート電極に「基準電位+しきい値電圧(15V)」を印加するか否かによって行なわれる。
【0027】
ところが、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位は、ローサイド用IGBTのエミッタ電位のように接地電位GND2に固定されているわけではない。すなわち、インバータINVにおいては、電源電位VCC2と接地電位GND2との間に、ハイサイド用IGBTとローサイド用IGBTとが直列接続されている。そして、インバータINVでは、ハイサイド用IGBTがオンする際には、ローサイド用IGBTをオフする一方、ハイサイド用IGBTがオフする際には、ローサイド用IGBTをオンする制御が行なわれる。したがって、ハイサイド用IGBTがオフしている際には、ローサイド用IGBTがオンしていることから、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位は、オンしているローサイド用IGBTによって、接地電位GND2となる。
【0028】
一方、ハイサイド用IGBTがオンしている際には、ローサイド用IGBTがオフしていることから、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位は、IGBTバス電圧となる。このとき、ハイサイド用IGBTのオン/オフ制御は、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位を基準電位として、ゲート電極に「基準電位+しきい値電圧(15V)」を印加するか否かによって行なわれる。
【0029】
上述したように、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位は、ハイサイド用IGBTがオンしている場合とオフしている場合で変動する。すなわち、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位は、接地電位GND2(0V)から電源電位VCC2(例えば、800V)まで変動する。したがって、ハイサイド用IGBTをオンするためには、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位を基準電位として、ゲート電極に「IGBTバス電圧(800V)+しきい値電圧(15V)」を印加する必要がある。このことから、ハイサイド用IGBTのオン/オフ制御を行なう駆動回路DRにおいては、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位を把握する必要がある。このため、駆動回路DRは、ハイサイド用IGBTのエミッタ電位を入力するように構成されている。この結果、駆動回路DRには、800Vの基準電位が入力され、駆動回路DRは、この800Vの基準電位に対して、15Vのしきい値電圧(15V)をハイサイド用IGBTのゲート電極に印加することによって、ハイサイド用IGBTのオンするように制御する。したがって、駆動回路DRには、800V程度の高電位が印加される。
【0030】
このように、駆動制御部は、低電位(数十V)を取り扱う制御回路CCを有するとともに、高電位(数百V)を取り扱う駆動回路DRを有している。このことから、制御回路CCと駆動回路DRとの間での信号の伝達は、異電位回路間での信号の伝達を行なうことが必要とされる。
【0031】
この点に関し、制御回路CCと駆動回路DRとの間での信号の伝達は、トランスフォーマTR1とトランスフォーマTR2を介在して行なわれるため、異電位回路間での信号の伝達が可能である。
【0032】
上述したように、トランスフォーマTR1とトランスフォーマTR2とにおいては、一次コイルと二次コイルとの間に、大きな電位差が発生する場合がある。逆に言えば、大きな電位差が発生する場合があるため、導体では繋がずに磁気結合させた一次コイルと二次コイルを信号の伝達に用いている。したがって、トランスフォーマTR1を形成するにあたって、半導体装置の動作信頼性を向上する観点から、コイルCL1aとコイルCL1bとの間の絶縁耐圧をできるだけ高くすることが重要である。同様に、トランスフォーマTR2を形成するにあたって、半導体装置の動作信頼性を向上する観点から、コイルCL2bとコイルCL2aとの間の絶縁耐圧をできるだけ高くすることが重要である。
【0033】
<信号の伝送例>
図2は、信号の伝送例を示す説明図である。
【0034】
図2において、送信回路TX1は、送信回路TX1に入力された方形波の信号SG1のエッジ部分を取り出して一定パルス幅の信号SG2を生成し、トランスフォーマTR1のコイルCL1a(一次コイル)に信号SG2を送る。この信号SG2による電流がトランスフォーマTR1のコイルCL1a(一次コイル)に流れると、それに応じた信号SG3が誘導起電力によりトランスフォーマTR1のコイルCL1b(二次コイル)に流れる。この信号SG3を受信回路RX1で増幅し、更に方形波に変調することで、方形波の信号SG4が受信回路RX1から出力される。これにより、送信回路TX1に入力された信号SG1に対応した信号SG4を受信回路RX1から出力することができる。このようにして、送信回路TX1から受信回路RX1に信号を伝達することができる。送信回路TX2から受信回路RX2への信号の伝達も同様に行なうことができる。
【0035】
<2チップ構成>
上述した駆動制御部のうちの送受信回路部は、例えば、2つの半導体チップに分けて形成される。具体的に、
図3は、2チップ構成を示す図である。
図3において、半導体チップCHP1には、送信回路TX1とトランスフォーマTR1と受信回路RX2とが形成されている。一方、半導体チップCHP2には、受信回路RX1と駆動回路DRと送信回路TX2とトランスフォーマTR2とが形成されている。このような2チップ構成では、例えば、トランスフォーマTR1が送信回路TX1と受信回路RX2と同一の半導体チップCHP1に形成される。したがって、トランスフォーマTR1と送信回路TX1と受信回路RX2の集積化が可能となる。同様に、トランスフォーマTR2が駆動回路DRと受信回路RX1と送信回路TX2と同一の半導体チップCHP2に形成される。このため、トランスフォーマTR2と駆動回路DRと受信回路RX1と送信回路TX2の集積化が可能となる。
【0036】
ただし、2チップ構成では、例えば、トランスフォーマTR1と送信回路TX1と受信回路RX2とを1つの半導体チップに形成することが必要なため、半導体チップCHP1の製造プロセスが複雑化する。同様に、2チップ構成では、例えば、トランスフォーマTR2と駆動回路DRと受信回路RX1と送信回路TX2とを1つの半導体チップに形成することが必要なため、半導体チップCHP2の製造プロセスが複雑化する。この結果、半導体チップCHP1および半導体チップCHP2の製造コストが上昇してしまう。
【0037】
<3チップ構成>
そこで、上述した送受信回路部を2チップ構成ではなく、3チップ構成で実現することが検討されている。以下では、新規な3チップ構成について説明する。
【0038】
図4は、3チップ構成を示す図である。
図4において、半導体チップCHP1には、送信回路TX1と受信回路RX2とが形成されている。また、半導体チップCHP2には、駆動回路DRと受信回路RX1と送信回路TX2とが形成されている。すなわち、半導体チップCHP1には、第1電位が印加されるように構成された第1回路(送信回路TX1や受信回路RX2)が形成されている。また、半導体チップCHP2には、第2電位が印加されるように構成された第2回路(駆動回路DRや受信回路RX1や送信回路TX2)が形成されている。一方、半導体チップCHP3には、トランスフォーマTR1とトランスフォーマTR2とが形成されている。
【0039】
これにより、3チップ構成では、トランスフォーマTR1とトランスフォーマTR2だけが形成された半導体チップCHP3を有している。すなわち、3チップ構成では、半導体チップCHP1および半導体チップCHP2の構成に関わらず、半導体チップCHP3を使用することができる。このことから、3チップ構成によれば、使用可能な半導体チップCHP1および半導体チップCHP2のバリエーションを増加させることができる利点が得られる。言い換えれば、トランスフォーマTR1およびトランスフォーマTR2が形成された半導体チップCHP3の汎用性を高めることができる。さらに、トランスフォーマTR1およびトランスフォーマTR2が形成された半導体チップCHP3は、トランジスタを含んでいないため、配線工程だけで形成することができる結果、製造プロセスの簡素化を図ることができる。したがって、3チップ構成によれば、製造コストの削減が可能となり、これによって、競争力の高い製品を製造できる。
【0040】
<改善の検討>
上述したように、一方の回路が形成された第1半導体チップあるいは他方の回路が形成された第2半導体チップのいずれかにトランスフォーマを搭載した、いわゆる「2チップ構成」の半導体装置がある。
図5は、「2チップ構成」の半導体装置を示す概念図である。
図5において、半導体チップCHP1には、送信回路TX1とトランスフォーマTR1が形成されている一方、半導体チップCHP2には、受信回路RX1が形成されている。そして、半導体チップCHP1と半導体チップCHP2は、ボンディングワイヤW2で電気的に接続されている。つまり、受信回路RX1とトランスフォーマTR1がボンディングワイヤW2によって電気的に接続されているが、送信回路TX1とトランスフォーマTR1は、半導体チップCHP1内に設けられた配線によって電気的に接続されている。このようにして、「2チップ構成」の半導体装置が構成される。
【0041】
ただし、近年では、トランスフォーマを回路が形成されたチップとは別のチップに形成することによって、回路の製造工程に関係なくトランスフォーマの製造工程を最適化することが検討されている。なぜなら、トランスフォーマを回路とは独立のチップに設けてトランスフォーマの製造工程を最適化することにより、半導体装置の製品原価を低減することができる結果、競争力のある製品を提供することができると考えられるからである。
【0042】
すなわち、競争力のある製品を製造するために、一方の回路を第1半導体チップに形成するとともに、他方の回路を第2半導体チップに形成し、さらに、トランスフォーマを第3半導体チップに形成し、これらの第1半導体チップと第2半導体チップと第3半導体チップから半導体装置を構成する、いわゆる「3チップ構成」の半導体装置を製造することが検討されている。
図6は、「3チップ構成」の半導体装置を示す概念図である。
図6において、半導体チップCHP1には、送信回路TX1が形成されている一方、半導体チップCHP2には、受信回路RX1が形成されている。また、半導体チップCHP3には、トランスフォーマTR1が形成されている。そして、半導体チップCHP1と半導体チップCHP3は、ボンディングワイヤW1で電気的に接続されている一方、半導体チップCHP2と半導体チップCHP3は、ボンディングワイヤW2で電気的に接続されている。このようにして、「3チップ構成」の半導体装置が構成される。
【0043】
以上のように、「3チップ構成」の半導体装置では、半導体チップCHP1と半導体チップCHP3とがボンディングワイヤW1で電気的に接続されるとともに、半導体チップCHP2と半導体チップCHP3とがボンディングワイヤW2で電気的に接続される。つまり、受信回路RX1とトランスフォーマTR1がボンディングワイヤW2によって電気的に接続されているだけでなく、送信回路TX1とトランスフォーマTR1がボンディングワイヤW1によって電気的に接続されている。
【0044】
このことから、「3チップ構成」の半導体装置では、「2チップ構成」の半導体装置よりもボンディングワイヤの本数が多くなるため、ボンディングワイヤの寄生インダクタンスが増加する。つまり、「3チップ構成」の半導体装置では、信号伝達経路に加わる寄生インダクタンスが増加する。したがって、「3チップ構成」の半導体装置では、寄生インダクタンスの増大に起因して高周波ノイズの増加が生じる結果、信号伝達品質が劣化することが懸念される。すなわち、「3チップ構成」の半導体装置では、「2チップ構成」の半導体装置に比べて寄生インダクタンスの影響が大きくなる結果、寄生インダクタンスに起因する信号伝達品質の劣化が特に顕在化する。
【0045】
このように、「3チップ構成」の半導体装置は、競争力のある製品を提供できるポテンシャルを秘めている点で魅力的であるが、信号伝達品質の向上に代表される半導体装置の性能を向上する観点から改善の検討が必要である。すなわち、「3チップ構成」の半導体装置では、寄生インダクタンスの増加に伴う高周波ノイズの発生を抑制して、半導体装置の性能を向上することが望まれている。
【0046】
そこで、本実施の形態では、「3チップ構成」の半導体装置において顕在化する改善の余地を克服するための工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明する。
【0047】
<実施の形態における基本思想>
本実施の形態における基本思想は、高周波ノイズを発生させる要因である寄生インダクタンスを低減するのではなく、逆に高周波ノイズを発生させる要因である寄生インダクタンスを利用して高周波ノイズを低減する工夫を施す思想である。具体的に、基本思想は、寄生インダクタンスを利用してローパスフィルタを構成することにより、トランスフォーマを有する半導体装置での高周波ノイズの伝達を抑制して、信号伝達品質の向上を図る思想である。この基本思想によれば、ローパスフィルタによって高周波ノイズが減衰することから、信号伝達品質の向上を図ることができる。
【0048】
図7は、ローパスフィルタLFの構成を示す回路図である。
【0049】
図7において、ローパスフィルタLFは、入力端子INと出力端子OUTとの間に設けられたインダクタILと、出力端子OUTとグランドとの間に設けられた容量CPから構成されている。このように構成されているローパスフィルタLPでは、入力端子INから入力された信号に高周波ノイズが重畳しているとしても、この高周波ノイズは、容量CPを介してグランドに流れる。この結果、出力端子OUTから出力される信号に含まれる高周波ノイズが低減される。なぜなら、容量CPは、静電容量をC、角振動数をω(=2πf:fは周波数)とすると、容量CPのインピーダンスは、1/ωCとなるからである。
【0050】
すなわち、容量CPのインピーダンスは、周波数を高くなると低くなり、このことは、容量CPでは、信号やノイズが高周波であるほど流れやすくなることを意味している。したがって、ローパスフィルタLPを通過することによって、信号に含まれる高周波ノイズは容量CPを介してグランドに流れる結果、ローパスフィルタLPから出力される信号から高周波ノイズを低減することができる。このようにして、ローパスフィルタLPを信号伝達経路に挿入することにより、信号伝達品質を向上することができる。
【0051】
図8は、トランスフォーマを有する「3チップ構成」の半導体装置に基本思想を適用する概念図である。
図8において、トランスフォーマTR1を有する半導体チップCHP3と送信回路TX1を有する半導体チップCHP1とを電気的に接続するボンディングワイヤW1が、
図7に示すローパスフィルタLFのインダクタとして機能する。一方、半導体チップCHP3に形成されているトランスフォーマTR1とグランドとの間に新たに容量CPを設ける。この容量CPが
図7に示す容量CPである。これにより、
図8において、トランスフォーマTR1が形成された半導体チップCHP3にローパスフィルタを搭載することができ、これによって、基本思想が実現される。
【0052】
この結果、
図8において基本思想が実現されることから、
図8に示す「3チップ構成」の半導体装置では、たとえ、高周波ノイズの発生要因となる寄生インダクタンスを有するボンディングワイヤW1が追加されたとしても、ローパスフィルタによって高周波ノイズを減衰することができる。これにより、
図1に示す「3チップ構成」の半導体装置によれば、信号伝達品質の向上を図ることができる。
【0053】
以下では、基本思想を具現化した具現化態様について説明する。
【0054】
<具現化態様>
<<半導体装置の構成>>
図9は、具現化態様における半導体装置の模式的な構成を示す断面図である。
【0055】
図9において、半導体装置は、半導体チップCHP1、半導体チップCHP2およびトランスフォーマが形成された半導体チップCHP3を有している。半導体チップCHP1は、例えば、チップ搭載部であるダイパッドDP1上に導電性接着材PST1を介して搭載されている。一方、半導体チップCHP2は、例えば、チップ搭載部であるダイパッドDP2上に導電性接着材PST2を介して搭載されている。また、半導体チップCHP3は、上述したダイパッドDP2上に導電性接着材PST3を介して搭載されている。
【0056】
ここで、ダイパッドDP1およびダイパッドDP2のそれぞれは、例えば、銅材から構成されている。また、導電性接着材PST1および導電性接着材PST2のそれぞれは、例えば、銀ペーストや半田から構成されている。
【0057】
半導体チップCHP1には、
図4に示す送信回路TX1や受信回路RX2が形成されている。この半導体チップCHP1は、
図9に示すように、半導体基板SUB1と、半導体基板SUB1上に形成された多層配線層MWL1を有している。半導体基板SUB1には、複数のトランジスタQ1が形成されており、複数のトランジスタQ1が形成された半導体基板SUB1の上方に多層配線層MWL1が形成されている。そして、多層配線層MWL1のそれぞれの層には、配線が形成されており、この配線は、トランジスタQ1と電気的に接続されている。互いに電気的に接続されたトランジスタQ1と配線によって、送信回路TX1や受信回路RX2が構成されている。多層配線層MWL1には複数の層間絶縁膜が積層されているが、
図9では一体化して示されている。
【0058】
次に、半導体チップCHP2には、
図4に示す駆動回路DR、受信回路RX1および送信回路TX2が形成されている。半導体チップCHP2は、
図9に示すように、半導体基板SUB2と、半導体基板SUB2上に形成された多層配線層MWL2を有している。半導体基板SUB2には、複数のトランジスタQ2が形成されており、複数のトランジスタQ2が形成された半導体基板SUB2の上方に多層配線層MWL2が形成されている。そして、多層配線層MWL2のそれぞれの層には、配線が形成されており、配線は、トランジスタQ2と電気的に接続されている。互いに電気的に接続されたトランジスタQ2と配線によって、駆動回路DR、受信回路RX1および送信回路TX2が構成されている。多層配線層MWL2には複数の層間絶縁膜が積層されているが、
図9では一体化して示されている。
【0059】
続いて、
図9に示すように、半導体チップCHP3には、異電位間の非接触通信を行うトランスフォーマが形成されている。具体的に、半導体チップCHP3は、例えば、p型(第1導電型)の半導体基板SUB3と、半導体基板SUB3の表面に形成されたp型半導体領域PR1と、半導体基板SUBの上方に設けられたトランスフォーマと、を備える。このとき、p型半導体領域PR1は、半導体基板SUB3よりも高い不純物濃度を有している。また、トランスフォーマは、下層インダクタ300と、この下層インダクタ300と対向配置された上層インダクタ100とを含んでいる。これにより、下層インダクタ300と上層インダクタ100は、磁気結合可能に構成されている。半導体チップCHP3においても、半導体基板SUB3上に複数の層間絶縁膜が積層されているが、
図9では一体化して示されている。
【0060】
上層インダクタ100は、ボンディングワイヤW2を介して、半導体チップCHP2に設けられた回路(第2回路)と電気的に接続されている。また、
図9に示すように、下層インダクタ300は、ボンディングワイヤW1を介して、半導体チップCHP1に設けられた回路(第1回路)と電気的に接続されている。
【0061】
例えば、
図9において、上層インダクタ100は、スパイラルインダクタから構成されており、同様に、下層インダクタ300も、スパイラルインダクタから構成されている。
【0062】
以上のようにして、具現化態様における半導体装置が構成されている。
【0063】
<<半導体チップの平面レイアウト構成>>
続いて、半導体チップCHP3の平面レイアウト構成を説明する。
【0064】
図10は、半導体チップCHP3の平面レイアウト構成を示す平面図である。
【0065】
図10において、半導体チップCHP3の平面形状は、矩形形状をしており、半導体チップCHP3の周縁部にシールリングSRが設けられている。そして、平面視において、シールリングSRに囲まれるように、上層インダクタ100および上層インダクタ200が設けられている。ここで、上層インダクタ100は、タップパッド1aと、タップパッド1aと接続された渦巻配線1bと、渦巻配線1bと接続されたトランスパッド1cを有する。同様に、上層インダクタ200は、タップパッド2aと、タップパッド2aと接続された渦巻配線2bと、渦巻配線2bと接続されたトランスパッド2cを有する。
【0066】
また、平面視において、シールリングSRに囲まれるように、タップパッド3aおよびトランスパッド3cと、タップパッド4aおよびトランスパッド4cが設けられている。
タップパッド3aおよびトランスパッド3cは、上層インダクタ100の下方に形成されている下層インダクタ(図示せず)のタップパッドおよびトランスパッドである。すなわち、上層インダクタ100と対になる下層インダクタが、上層インダクタ100の下方に形成されており、この下層インダクタから配線を介して引き出されたタップパッド3aおよびトランスパッド3cが上層インダクタ100と同層に形成されている。
【0067】
同様に、タップパッド4aおよびトランスパッド4cは、上層インダクタ200の下方に形成されている下層インダクタ(図示せず)のタップパッドおよびトランスパッドである。すなわち、上層インダクタ200と対になる下層インダクタが、上層インダクタ200の下方に形成されており、この下層インダクタから配線を介して引き出されたタップパッド4aおよびトランスパッド4cが上層インダクタ200と同層に形成されている。
【0068】
ここで、例えば、上層インダクタ100および上層インダクタ200には、約800V程度のハイサイド側の基準電位が印加される。これに対し、下層インダクタ(タップパッド3aおよびトランスパッド3c)と下層インダクタ(タップパッド4aおよびトランスパッド4c)には、0V程度のローサイド側の基準電位が印加される。つまり、上層インダクタ100と対になる下層インダクタには、上層インダクタ100に印加される基準電位とは異なる基準電位が印加される。同様に、上層インダクタ200と対になる下層インダクタには、上層インダクタ200に印加されるハイサイド側の基準電位とは異なるローサイド側の基準電位が印加される。
【0069】
<<半導体チップの断面構造>>
次に、半導体チップCHP3の断面構造について説明する。
【0070】
【0071】
図11において、半導体チップCHP3は半導体基板SUB3を有する。半導体基板SUB3は、例えばp型不純物を含む単結晶シリコンからなり、半導体基板SUB3の不純物濃度は、例えば、1×10
15/cm
3である。半導体基板SUB3の表面には、半導体基板SUB3よりも高い不純物濃度を有するp型半導体領域PR1が形成されている。p型半導体領域PR1は、半導体基板SUB3にp型不純物が導入された領域であり、p型半導体領域PR1の不純物濃度は、例えば1×10
20/cm
3である。このp型半導体領域PR1上には、複数層からなる配線層が形成されている。そして、複数層からなる配線層には、複数の層間絶縁膜、複数の配線、複数のプラグおよびシールリングSRが形成されている。
図11では、複数の層間絶縁膜の図示は省略されている。また、複数層からなる配線層内には、渦巻配線3bを有する下層インダクタ300が形成されている。この下層インダクタ300は、例えば、1層または2層にわたって形成されており、引出配線部と電気的に接続されている。
【0072】
半導体基板SUB3上に層間絶縁膜が形成され、下層インダクタ300および引出配線部は、その層間絶縁膜上に形成されている。つまり層間絶縁膜は、半導体基板SUB3と下層インダクタ300の間、半導体基板SUB3と配線10aの間、および半導体基板SUB3と下層パッド11aの間に配置されている。層間絶縁膜、下層インダクタ300、配線10aおよび下層パッド11a上に、複数の層間絶縁膜および複数の配線が積層されている。引出配線部は、配線10aと配線10bを有し、配線10aと配線10bは、例えば、プラグで接続されている。また、引出配線部は、配線10aと接続された下層パッド11aと、配線10bと接続された下層パッド11bを有し、下層パッド11aと下層パッド11bは、例えば、プラグで接続されている。さらに、引出配線部は、下層パッド11b上に形成され、かつ下層パッド11bと接続された多層構造体12と、多層構造体12と接続された上層パッドであるトランスパッド3cと電気的に接続されている。
【0073】
多層構造体12は、下層パッド11bとトランスパッド3cとを接続する、複数の配線と複数のプラグからなる構造体である。なお、下層パッド11aは、配線10aを含む配線のうち、多層構造体12と重なる部分である。下層パッド11bは、配線10bを含む配線のうち、多層構造体12と重なる部分である。配線10aと配線10bは、多層構造体12と重ならないように構成されている部分である。
【0074】
すなわち、下層インダクタ300は、複数層からなる配線層内に形成された引出配線部を介して、トランスパッド3cと電気的に接続されている。さらに、複数層からなる配線層上には、上層インダクタ100が形成されている。すなわち、下層インダクタ300と重なるように上層インダクタ100が形成されており、この上層インダクタ100は、渦巻配線1bとトランスパッド1cとを有している。下層インダクタ300の上部、配線10bおよび下層パッド11bは、同層に形成され、下層インダクタ300の下部、配線10aおよび下層パッド11aは、同層に形成されている。
【0075】
そして、上層インダクタ100、トランスパッド1cおよびトランスパッド3cを覆うように表面保護膜PASとポリイミド樹脂膜PIが形成されている。表面保護膜PASおよびポリイミド樹脂膜PIには、トランスパッド3cの表面の一部およびトランスパッド1cの表面の一部を露出する開口部が設けられている。なお、表面保護膜PASは、窒化シリコン膜または酸化シリコン膜と窒化シリコン膜の積層膜から構成されている。
【0076】
例えば、開口部から露出するトランスパッド3c(上層パッド)には、ボンディングワイヤW1が電気的に接続される(
図9参照)。すなわち、上層パッドであるトランスパッド3cは、ボンディングワイヤW1と接続可能に構成されている。
【0077】
ここで、
図11において、配線10aは、p型半導体領域PR1と対向するように配置されており、互いに対向するp型半導体領域PR1と配線10aによって容量CPが形成される。言い換えれば、p型半導体領域PR1は、配線10aと平面的に重なる領域を含むように構成されており、互いに平面的に重なるp型半導体領域PR1の領域と配線10aの領域によって容量CPが形成される。そして、この容量CPと、トランスパッド3cと接続されるボンディングワイヤW1のインダクタンスとによってローパスフィルタが構成される。
【0078】
続いて、
図12は、下層インダクタ300と、この下層インダクタ300と接続される配線10aと、配線10aと接続される下層パッド11aを示す平面図である。
図12に示すように、下層インダクタ300は、スパイラル状のインダクタ配線から構成されており、この下層インダクタ300は、配線10aと接続されている。そして、配線10aは、下層パッド11aと接続されている。ここで、配線10aの幅(Y方向の幅)は、インダクタ配線の幅Lよりも大きくなっている。インダクタ配線の幅Lとは、インダクタ配線の延在方向と直交する直交方向における、インダクタ配線の長さである。
図12では、
図12に示される延在方向に延在しているインダクタ配線の一部の幅Lの一例が示されている。例えば、インダクタ配線の他の一部が
図12に示される直交方向に延在している場合、インダクタ配線の他の一部の幅Lは、
図12に示される延在方向におけるインダクタ配線の長さである。例えば、インダクタ配線の幅Lは約7μm程度であるのに対し、配線10aの幅は約70μm程度である。
【0079】
以上のようにして、半導体チップCHP3が構成されている。
【0080】
<<具現化態様における特徴>>
次に、具現化態様における特徴点について説明する。
【0081】
具現化態様における第1特徴点は、例えば、
図11に示すように、p型半導体領域PR1と配線10aとが互いに対向する領域を有するように、p型半導体領域PR1を半導体基板SUB3の表面に形成する点にある。言い換えれば、具現化態様における特徴点は、p型半導体領域PR1と配線10aとが互いに重なる領域を有するように、p型半導体領域PR1を半導体基板SUB3の表面に形成する点にある。
【0082】
これにより、具現化態様における第1特徴点によれば、互いに対向するp型半導体領域PR1と配線10aとによって容量CPが形成される。言い換えれば、p型半導体領域PR1は、配線10aと平面的に重なる領域を含むように構成されており、互いに平面的に重なるp型半導体領域PR1の領域と配線10aの領域によって容量CPが形成される。そして、この容量CPと、トランスパッド3cと接続されるボンディングワイヤW1のインダクタンスとによってローパスフィルタが構成される。この結果、第1特徴点によれば、「3チップ構成」の半導体装置において、たとえ、高周波ノイズの発生要因となる寄生インダクタンスを有するボンディングワイヤW1が追加されたとしても、ローパスフィルタによって高周波ノイズを減衰することができる。これにより、具現化態様における第1特徴点によれば、「3チップ構成」の半導体装置において、信号伝達品質の向上を図ることができる。
【0083】
続いて、具現化態様における第2特徴点は、例えば、
図12に示すように、配線10aの幅(Y方向の幅)を下層インダクタ300のインダクタ配線の幅Lよりも大きくする点にある。これにより、配線10aと、この配線10aの下方に位置するp型半導体領域PR1との間の対向面積を大きくすることができる。このことは、互いに対向するp型半導体領域PR1と配線10aとによって形成される容量CPの静電容量値を大きくすることができることを意味する。この結果、具現化態様における第2特徴点によれば、ローパスフィルタに必要な容量CPの静電容量値を容易に確保することができる。さらに、配線10aの幅を調整することにより、ローパスフィルタによる遮断周波数を調整することができる。例えば、
図13に示すように、配線10aの幅(Y方向の幅)は、下層パッド11aの幅(Y方向の幅)よりも大きくてもよい。また、
図14に示すように、配線10aは、Y方向の幅が第1幅L1の部分と、Y方向の幅が第1幅L1よりも小さい第2幅L2の部分の組み合わせから構成されていてもよい。すなわち、
図14に示すように、配線10aは、Y方向の幅が異なる部分を有するように構成されていてもよい。
【0084】
<<変形例>>
例えば、p型半導体領域PR1は、配線10aと平面的に重なる領域を有するだけでなく、下層インダクタ300のスパイラル配線と平面的に重なるように形成されてもよい。さらに、p型半導体領域PR1は、例えば、
図15に示すように、半導体基板SUB3の表面全体に形成されていてもよい。この場合、p型半導体領域PR1を形成するためのパターニング工程が不要となる。このことから、半導体基板SUB3の表面全体にp型半導体領域PR1を形成する構成は、半導体装置の製造工程を簡略化しながら、半導体装置の信号伝達品質を向上できる点で有用である。
【0085】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0086】
1a タップパッド
1b 渦巻配線
1c トランスパッド
2a タップパッド
2b 渦巻配線
2c トランスパッド
3a タップパッド
3b 渦巻配線
3c トランスパッド
4a タップパッド
4c トランスパッド
10a 配線
10b 配線
11a 下層パッド
11b 下層パッド
12 多層構造体
100 上層インダクタ
200 上層インダクタ
300 下層インダクタ
CC 制御回路
CHP1 半導体チップ
CHP2 半導体チップ
CHP3 半導体チップ
CL1a コイル
CL1b コイル
CL2a コイル
CL2b コイル
CP 容量
DP1 ダイパッド
DP2 ダイパッド
DR 駆動回路
GND1 接地電位
GND2 接地電位
IL インダクタ
INV インバータ
LOD 負荷回路
LP ローパスフィルタ
MWL1 多層配線層
MWL2 多層配線層
PAS 表面保護膜
PI ポリイミド樹脂膜
PR1 p型半導体領域
PST1 導電性接着材
PST2 導電性接着材
PST3 導電性接着材
Q1 トランジスタ
Q2 トランジスタ
RX1 受信回路
RX2 受信回路
SG1 信号
SG2 信号
SG3 信号
SG4 信号
SR シールリング
SUB1 半導体基板
SUB2 半導体基板
SUB3 半導体基板
TR1 トランスフォーマ
TR2 トランスフォーマ
TX1 送信回路
TX2 送信回路
VCC1 電源電位
VCC2 電源電位
W1 ボンディングワイヤ
W2 ボンディングワイヤ