IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

特開2024-48305衝撃波検知システム、衝撃波検知方法及び航空機
<>
  • 特開-衝撃波検知システム、衝撃波検知方法及び航空機 図1
  • 特開-衝撃波検知システム、衝撃波検知方法及び航空機 図2
  • 特開-衝撃波検知システム、衝撃波検知方法及び航空機 図3
  • 特開-衝撃波検知システム、衝撃波検知方法及び航空機 図4
  • 特開-衝撃波検知システム、衝撃波検知方法及び航空機 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048305
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】衝撃波検知システム、衝撃波検知方法及び航空機
(51)【国際特許分類】
   G01P 5/18 20060101AFI20240401BHJP
   G01P 5/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
G01P5/18 F
G01P5/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154275
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良亮
(72)【発明者】
【氏名】高谷 亮太
(57)【要約】
【課題】多数のデバイスを配置することなく衝撃波の位置を検出できるようにすることである。
【解決手段】実施形態に係る衝撃波検知システムは、衝撃波が伝搬する可能性のある空気の流れ方向に対して斜めに光線を発射する光線発射器と、前記空気を通過した前記光線を受信する光線受信器と、前記光線受信器による前記光線の受信位置の変化に基づいて衝撃波の有無及び位置を検出する解析装置とを備えるものである。また、実施形態に係る衝撃波検知方法は、衝撃波が伝搬する可能性のある空気の流れ方向に対して斜めに光線を発射するステップと、前記空気を通過した前記光線を受信するステップと、前記光線の受信位置の変化に基づいて衝撃波の有無及び位置を検出するステップとを有するものである。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃波が伝搬する可能性のある空気の流れ方向に対して斜めに光線を発射する光線発射器と、
前記空気を通過した前記光線を受信する光線受信器と、
前記光線受信器による前記光線の受信位置の変化に基づいて衝撃波の有無及び位置を検出する解析装置と、
を備える衝撃波検知システム。
【請求項2】
前記解析装置は、前記光線が通過する前記衝撃波の位置の時間変化に対応する前記光線の前記受信位置の時間変化に基づいて、前記衝撃波の位置の時間変化を検出するように構成される請求項1記載の衝撃波検知システム。
【請求項3】
波長が740nm以上780nm未満のレーザ光を前記光線発射器から発射し、
複数の光検出素子を2次元配列した光線受信器で前記レーザ光を受信することによって前記レーザ光の受信位置の時間変化を検出するようにした請求項1記載の衝撃波検知システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の衝撃波検知システムを備えた航空機。
【請求項5】
衝撃波が伝搬する可能性のある空気の流れ方向に対して斜めに光線を発射するステップと、
前記空気を通過した前記光線を受信するステップと、
前記光線の受信位置の変化に基づいて衝撃波の有無及び位置を検出するステップと、
を有する衝撃波検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、衝撃波検知システム、衝撃波検知方法及び航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音速航空機のエンジンインテーク等に生じる衝撃波の位置を検知するための様々な技術が知られている(例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。衝撃波の位置を測定できれば、エンジンに適切な衝撃波が生じるようにエンジンの制御を行うことができる。
【0003】
特許文献1に記載されている衝撃波の位置検出方法は、衝撃波の進行方向に対して垂直にレーザビームを照射し、衝撃波の波面とレーザビームが重なった場合にレーザビームが振られるという現象に着目して、照射したレーザビームの振れ量を測定することによって衝撃波の位置を検出する方法である。また、特許文献2に記載されている手法は、ビデオカメラで色彩分布を観察することによって衝撃波の反射位置を特定する技術である。
【0004】
特許文献2に記載されている手法は、典型的な従来の衝撃波の位置検出方法であり、衝撃波が発生する壁面に圧力孔等の圧力センサを設けて圧力を計測することによって衝撃波の位置を検出する方法である。具体的には、衝撃波が圧力センサを通過する前後において圧力差が生じることを利用して衝撃波の位置が特定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009-516855号公報
【特許文献2】特開平05-180689号公報
【特許文献3】特開2006-153549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の衝撃波の位置検出方法で衝撃波の位置を正確に検出するためには、衝撃波が移動する範囲に多数のレーザビームや圧力センサを配置することが必要となる。特に、圧力孔を壁面上に形成すると壁面に段差が生じ、圧力孔近傍における空気の流れ場に影響が及んでしまうという問題がある。空気が超音速で流れる場合には、壁面の段差によって衝撃波が生じ、壁面付近はもちろん、壁面から離れた広い範囲における空気の流れ場に悪影響が及ぶ恐れがある。
【0007】
そこで本発明は、多数のデバイスを配置することなく衝撃波の位置を検出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る衝撃波検知システムは、衝撃波が伝搬する可能性のある空気の流れ方向に対して斜めに光線を発射する光線発射器と、前記空気を通過した前記光線を受信する光線受信器と、前記光線受信器による前記光線の受信位置の変化に基づいて衝撃波の有無及び位置を検出する解析装置とを備えるものである。
【0009】
また、本発明の実施形態に係る航空機は、上述した衝撃波検知システムを備えたものである。
【0010】
また、本発明の実施形態に係る衝撃波検知方法は、衝撃波が伝搬する可能性のある空気の流れ方向に対して斜めに光線を発射するステップと、前記空気を通過した前記光線を受信するステップと、前記光線の受信位置の変化に基づいて衝撃波の有無及び位置を検出するステップとを有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態に係る衝撃波検知システムの構成図。
図2図1に示す衝撃波検知システムが設けられる超音速航空機の一例を示す図。
図3図1に示す光線受信器の構成例を示す平面図。
図4】典型的な超音速航空機のエンジンに設けられるバイパスの一例を示す図。
図5】本発明の第2の実施形態に係る衝撃波検知システムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る衝撃波検知システム、衝撃波検知方法及び航空機について添付図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
(衝撃波検知システム及び航空機の構成と機能)
図1は本発明の第1の実施形態に係る衝撃波検知システムの構成図であり、図2図1に示す衝撃波検知システムが設けられる超音速航空機の一例を示す図である。
【0014】
衝撃波検知システム1は、真空に対する衝撃波S内の屈折率が衝撃波S外における真空に対する空気Aの屈折率と異なることを利用して衝撃波Sの有無と位置を検出する光学式のシステムである。このため、衝撃波検知システム1は、光線発射器2、光線受信器3及び解析装置4を有する。また、衝撃波検知システム1は、衝撃波Sが伝搬する可能性のある空気Aの流路5に取り付けられる。位置の検出対象となる衝撃波Sは、空気A中を伝搬する圧力波である。
【0015】
衝撃波検知システム1は、例えば、図2に例示されるような超音速航空機10のエンジン11に空気Aを取り込むためのエアインテーク12に設けることができる。尚、図2に示す例では、エンジン11が超音速航空機10の下方に配置されているが、上方に配置されるタイプや胴体の側面に配置されるタイプもある。
【0016】
もちろん、衝撃波Sの位置を検出すべき空気Aの流路5であれば、超音速航空機10のエアインテーク12に限らず、超音速航空機10のエアインテーク12以外の部分や亜音速航空機等の航空機に衝撃波検知システム1を備えても良い。
【0017】
光線発射器2は、流路5内において衝撃波Sが伝搬する可能性のある空気Aの流れ方向Fに対して斜めに光線Lを発射する光学装置である。従って、光線発射器2は、光源2Aを有し、流路5内を流れる空気Aに向けて光線Lを発射できるように流路5の壁面5Aに配置される。
【0018】
衝撃波Sが無い状態では流路5内を流れる空気Aの屈折率を一定とみなせるため、光線発射器2から発射された光線Lは直進する。すなわち、光線Lは光線発射器2から発射される光線Lの発射方向として空気A内に形成される直線的な光路に沿って空気A内を透過する。
【0019】
これに対して密度分布を有する衝撃波S内における屈折率は衝撃波S外における空気Aの屈折率と異なる。従って、図1に例示されるように光線発射器2から発射される光線Lの発射方向として空気A内に形成される直線的な光路を衝撃波Sが横切った場合には、光線Lが衝撃波Sにおいて屈折する。その結果、衝撃波Sを通過した光線Lは、屈折した光路に沿って空気A内を透過する。つまり、光線発射器2から発射される光線Lの発射方向に衝撃波Sが存在する場合には、光線Lが衝撃波Sの屈折率に応じた屈折角で屈折することになる。
【0020】
衝撃波Sが流路5の壁面5Aに沿って空気Aの流れ方向Fに伝搬すると、衝撃波Sの位置は時間とともに空気Aの流れ方向Fに変化する。従って、光線Lが屈折する位置も時間とともに流れ方向Fに変化することになる。このため、衝撃波Sが流路5の壁面5Aに沿って進行している場合には、光線Lの経路が時々刻々と変化することになる。従って、流路5の内部で時間的に伝搬経路が変化する光線Lを光線受信器3で検出すれば、衝撃波Sの位置を検出することが可能となる。
【0021】
衝撃波Sの位置が変化した場合に光線Lの経路を衝撃波Sの位置に応じて変化させるためには、光線Lの発射方向と空気Aの流れ方向Fとのなす角度θを鋭角又は鈍角にすることが必要である。すなわち、図1に示す例では、光線Lの発射方向と空気Aの流れ方向Fとのなす角度θが鋭角となっているが、鈍角としても良い。尚、光線Lの発射方向と空気Aの流れ方向Fとのなす角度θを90度から差し引いた角度が、衝撃波Sへの光線Lの入射角となる。
【0022】
光線Lの発射方向と空気Aの流れ方向Fとのなす角度θが90度に近づく一方、衝撃波Sへの光線Lの入射角が0度に近づくと、光線Lが衝撃波Sで屈折する角度が小さくなり、光線Lの光路の変化量も減少する。その結果、衝撃波Sの位置の変化を検出するための分解能が減少する。従って、衝撃波Sの位置の変化に対応して光線Lの光路が検出可能な程度に十分な変化量で変化するように、衝撃波Sへの光線Lの入射角を確保することが重要である。
【0023】
逆に衝撃波Sへの光線Lの入射角が大き過ぎると、衝撃波Sを通過した光線Lの進行方向が空気Aの流れ方向Fとなってしまう。この場合、衝撃波Sを通過した光線Lが光線受信器3に到達しないことになる。従って、衝撃波Sへの光線Lの入射角をスネルの法則(屈折の法則)に基づくシミュレーションや試験によって適切な角度に決定することが重要である。
【0024】
また、衝撃波Sの位置を高精度に検出するためには、光線Lの広がり、すなわちビーム径の増加をできるだけ少なくし、光線Lの位置を高精度に検出することが重要である。このため、光線発射器2から発射される光線Lとしてレーザ光を使用することが現実的である。すなわち、光源2Aとしてレーザ光源を用いることが現実的である。
【0025】
一方、衝撃波Sの位置を高感度に検出するためには、衝撃波Sにおいてできるだけ大きい角度で光線Lを屈折させることに加えて、ノイズとなり得る無関係な光が光線受信器3にできるだけ入射しないようにすることが重要である。そこで、波長が740nm以上780nm未満の光線Lを光線発射器2から発射することができる。波長が740nm以上780nm未満の光は、波長が380nmから780nmの光を可視光と定義すると、可視光に分類される。
【0026】
波長が740nm以上780nm未満の可視光を光線Lとして発射する理由は、波長が780nm以上である赤外線は二酸化炭素や水蒸気を含む空気Aに吸収され易いだけでなくエンジン11のエアインテーク12内には熱放射等によってノイズとなり得る赤外線が存在する可能性がある一方、逆に波長が短い可視光は波長が長い可視光に比べて空気Aに対する屈折率が小さいためである。
【0027】
以上の理由から波長が740nm以上780nm未満の可視光からなるレーザ光を光線発射器2から発射することが衝撃波Sの位置を高精度かつ高感度に検出する観点から好ましい条件であると考えられる。
【0028】
光線受信器3は、衝撃波Sの有無を問わず、光線発射器2から発射され、流路5内を流れる空気Aを通過した光線Lを受信可能な位置に配置される。従って、光線受信器3も流路5内を横切った光線Lを受光できるように流路5の壁面5Aに配置される。
【0029】
上述したように光線Lの発射位置は固定であるのに対して、光線Lの受光位置は衝撃波Sの位置が移動することから一定とはならない。具体的には、図1に示すように光線Lの発射方向と空気Aの流れ方向Fとのなす角度θが鋭角である場合には、衝撃波Sが空気Aの流れ方向Fに進行するにつれて、光線Lが屈折する位置が空気Aの流れ方向Fに移動することから、光線Lの受光位置については空気Aの流れ方向Fと逆方向に移動することになる。
【0030】
従って、光線受信器3は、衝撃波Sの発生と移動によって光線Lの受光位置が変化したとしても光線Lを受光できるように、空気Aの流れ方向Fに適切な長さの受光エリアを有していることが重要である。具体的には、衝撃波Sがどの位置にあっても光線受信器3で光線Lを受光できるようにするためには、図1に示すように衝撃波Sが存在しない場合における光線Lの受光位置と、光線発射器2から発射された直後の光線Lが衝撃波Sで屈折した場合における光線Lの受光位置をカバーできるように、光線受信器3の受光エリアを決定することが必要である。
【0031】
そのためには、空気Aの流れ方向Fに多数の光検出素子を配列した光線受信器3を、光線発射器2に対して相対的に適切な位置に配置することが必要である。また、流路5は空気Aが流れる3次元の空間を形成するため、厳密には光線Lは衝撃波Sにおいて3次元的に屈折する。すなわち、衝撃波Sの断面位置と、光線Lの光路が同一平面上になるとは限らないため、衝撃波Sで屈折した光線Lの受光位置は、空気Aの流れ方向Fのみならず、空気Aの流れ方向Fに垂直な方向にも振れる可能性が高い。
【0032】
このため、光線受信器3には、複数の光検出素子を2次元的に配列することが現実的である。すなわち、光線受信器3に2次元の光検出面を形成することが現実的である。
【0033】
図3図1に示す光線受信器3の構成例を示す平面図である。
【0034】
図3に示すように光線受信器3の検出面には、複数の光検出素子3Aを2次元配列することができる。これにより、光線Lが衝撃波Sで屈折し、光線Lの受光位置が空気Aの流れ方向Fに垂直な方向に変化したとしても、光線受信器3の検出面に2次元配列されたいずれかの光検出素子3Aで光線Lを受光することが可能となる。
【0035】
光線受信器3の各光検出素子3Aは、フォトダイオードやフォトトランジスタ等の光電変換素子で構成することができる。光電変換素子は、入射した光を光量に応じた強度の電気信号に変換して出力する素子である。従って、光線受信器3の各光検出素子3Aからは、入射した光の強度に応じた強度を有する電気信号が光の検出信号として出力される。
【0036】
光検出素子3Aで検出可能な光の波長の範囲は、光線発射器2から発射される光線Lの波長に合わせて決定される。具体例として、760nmの可視光からなる光線Lが光線発射器2から発射される場合であれば、760nmの可視光を感度領域とする光検出素子3Aが光線受信器3に配列される。
【0037】
波長が760nmの光は可視光に分類されるものの、波長が780nmから2500nmとして定義される近赤外線に波長が近い光である。入手が容易な近赤外線用の光検出素子の中には、波長が近赤外線に近い可視光を受光できるものも多い。このため、波長が760nm付近の可視光領域に感度を有する近赤外線用の検出素子を用いて光線受信器3を構成しても良い。
【0038】
解析装置4は、光線受信器3による光線Lの受信位置の変化に基づいて衝撃波Sの有無及び位置を検出する装置である。そのために、光線受信器3は、各光検出素子3Aにおいて検出された光の検出信号を解析装置4に出力するように構成される。すなわち、光線受信器3の出力側は、解析装置4と接続される。
【0039】
光線受信器3から出力される光の検出信号は電気信号であることから、解析装置4は、コンピュータ等の電子回路で構成することができる。光線受信器3から出力される光の検出信号がアナログ信号である場合には、A/D(analog-to-digital)変換器も解析装置4に備えられる。もちろん、光線受信器3から出力される光の検出信号を光信号に変換して解析装置4に伝送したり、ノイズフィルタ等の様々な信号処理を行うための信号回路を解析装置4に設けたりしても良い。
【0040】
解析装置4では、図3に例示されるように2次元配列された各光検出素子3Aにおいて検出された光の検出信号が収集される。具体的には流路5を横切った光線Lが入射した光検出素子3Aからは、入射した光線Lの強度に応じた強度を有する光の検出信号が取得される。一方、光線Lが入射していない光検出素子3Aからは、ノイズ相当の強度を有する信号が出力され、光の検出信号が取得されない。
【0041】
従って、光の検出信号が取得された光検出素子3Aを特定することによって光線Lが光線受信器3の検出面に入射した位置を同定することができる。衝撃波Sが光線Lを横切っていない場合には、光線Lは誤差や揺らぎを無視すれば常に同じ光検出素子3Aに入射すると考えられる。これに対して、衝撃波Sが光線Lを横切っている場合には、上述したように衝撃波Sにおいて光線Lが屈折し、衝撃波Sの位置に対応して一意に定まる光線受信器3の受光位置において受光される。すなわち、衝撃波Sの位置が変化すると、光線Lが入射する光検出素子3Aが変化する。
【0042】
従って、衝撃波Sが光線Lを横切っていない場合に光線Lが入射する光検出素子3Aの位置をリファレンス位置とし、光線Lが入射する光検出素子3Aが変化した場合には、光線Lが入射した光検出素子3Aの位置の、リファレンス位置からの距離を求めることによって衝撃波Sの位置を求めることができる。
【0043】
衝撃波Sの位置は、空気Aに対する衝撃波Sの屈折率をパラメータとする屈折の法則に基づいて求めることができる。空気Aに対する衝撃波Sの屈折率は、試験を行って求めたり、文献値を採用したりすることができるが、実際に衝撃波Sの屈折率を求めずに、衝撃波Sの位置と、光検出素子3Aの受光面における光線Lの受光位置、すなわち、光線Lが入射する光検出素子3Aとの関係を試験によって求めるようにしても良い。実用的な例として、風洞試験で離散的なデータを取得して補間すれば、光線Lが入射した光検出素子3Aの識別情報をパラメータとする関数として衝撃波Sの位置を表すことができる。
【0044】
衝撃波Sの位置と光線Lの受光位置との関係を風洞試験等によって求める場合には、図1に例示されるように、光線Lの受光位置を衝撃波Sの位置に変換するためのテーブルや関数等の変換情報を衝撃波位置データベース4Aに保存し、解析装置4に内蔵することができる。換言すれば、解析装置4に備えられる記憶装置内に衝撃波位置データベース4Aを構築することができる。そうすると、解析装置4では、空気Aに対する衝撃波Sの屈折率をパラメータとする演算を行うことなく、光線Lの受光位置に対応する光検出素子3Aの識別情報から直接衝撃波Sの位置を求めることが可能となる。
【0045】
衝撃波Sの位置は時々刻々と変化するため、解析装置4において求められる衝撃波Sの位置は、衝撃波Sの1次元の座標位置の時間変化を表す時系列データとなる。つまり、解析装置4では、光線Lが通過する衝撃波Sの位置の時間変化に対応する光線Lの受信位置の時間変化を表す信号波形に基づいて、衝撃波Sの位置の時間変化が検出される。
【0046】
解析装置4において衝撃波Sの位置の時間変化が求められると、求めた衝撃波Sの位置の時間変化に基づく航空機の飛行制御を行うことができる。このため、衝撃波Sの位置の時間変化が、解析装置4から対応する装置に出力される。
【0047】
実用的な例として、衝撃波検知システム1が図2に例示されるような超音速航空機10のエンジン11に設けられる場合であれば、図1に例示されるように空気Aの流路5を形成するエアインテーク12内における衝撃波Sの位置の時間変化に基づいて、エンジン11に備えられるタービン20の回転数を自動調整することができる。
【0048】
より具体的には、エンジン11には、エンジン11を制御するためのECU(Engine Control Unit)21が備えられており、ECU21からの制御信号によってタービン20の回転数が制御される。タービン20の回転数を制御することによってエンジン11の燃焼器内に供給される空気Aの流量が調整され、エンジン11の出力を制御することができる。すなわち、タービン20の回転数を大きくすると、エンジン11の燃焼器内に供給される空気Aの流量が増加するため、エンジン11の出力を上昇させることができる。
【0049】
ECU21は超音速航空機10のパイロットによる手動操作によって制御することができるが、パイロットの誤操作によってエンジン11の出力が不足すると、エアインテーク12内において衝撃波Sの速度や頻度が異常となる。そこで、解析装置4において求められた衝撃波Sの位置の時間変化が異常値である場合には、衝撃波Sの位置の時間変化が許容範囲となるようにECU21を通じてタービン20の回転数を増加させ、エンジン11の出力を最大値等にすることができる。これにより、超音速航空機10の安全性を向上させることができる。
【0050】
また、衝撃波Sの位置の時間変化に基づく制御対象の例として、エンジン11のエアインテーク12からダクトに流入した空気Aから余分な空気Aを逃がすためのバイパスを流れる空気Aの流量が挙げられる。
【0051】
図4は、典型的な超音速航空機10のエンジン11に設けられるバイパス22の一例を示す図である。
【0052】
超音速航空機10の場合、超音速から減速する際に、エンジン11のエアインテーク12からダクト23に流入する空気Aの流量がエンジン11に必要な流量より過剰となる。このため、図4に示すように燃焼器に向かうダクト23の途中に、余分な空気Aを逃がすためのバイパス22が設けられる。
【0053】
そこで、衝撃波Sの位置の時間変化に基づいて、エンジン11の回転数だけでなく、バイパス22を流れる空気Aの流量を制御することができる。バイパス22を流れる空気Aの流量は、バイパス22に設けられる弁24の開度をECU21で調整することによって制御することができる。このため、衝撃波Sの位置の時間変化に対応する適切な流量の空気Aがバイパス22を流れるように弁24の開度を自動調整することができる。これにより、バズと呼ばれる空気Aの流れ場の振動現象の発生を抑制し、エンジン11の推力を安定的に維持することが可能となる。
【0054】
(衝撃波検知方法)
次に図1に例示される衝撃波検知システム1を用いた衝撃波検知方法について説明する。
【0055】
超音速航空機10のエンジン11に空気Aを取り込むためのエアインテーク12等の流路5を流れる空気Aを伝搬する可能性がある衝撃波Sの位置を衝撃波検知システム1で検知する場合には、図1に例示されるように光線発射器2の光源2Aから流路5内を流れる空気Aに向けて、実用的にはレーザ光からなる光線Lが連続的に発射される。但し、光線Lの発射方向は、空気Aの流れ方向Fに対して傾斜する方向とされる。
【0056】
このため、光線Lの照射方向に配置される光線受信器3で、空気Aを通過した光線Lが受信される。光線Lが通過する範囲において衝撃波Sが空気Aを伝搬していない場合には、屈折率が一定と見做せる空気Aを光線Lが直進するため、光線Lはリファレンス位置にある光検出素子3Aで検出される。リファレンス位置にある光検出素子3Aで光線Lが検出されると、光線Lの検出信号は、解析装置4に出力される。
【0057】
解析装置4では、光線受信器3に2次元配列された複数の光検出素子3Aのうちのどの光検出素子3Aから光線Lの検出信号が出力されたのかが常時判定される。そして、光線Lの検出信号がリファレンス位置にある光検出素子3Aから出力されたと判定される場合には、流路5内に衝撃波Sが生じていないと判定される。
【0058】
一方、光線発射器2から発射された光線Lが通過する範囲において衝撃波Sが空気Aを伝搬している場合には、衝撃波Sにおいて光線Lが屈折し、光線Lの進行方向が変化する。このため、光線Lはリファレンス位置と異なる位置にある光検出素子3Aで検出される。従って、リファレンス位置と異なる位置にある光検出素子3Aから光線Lの検出信号が解析装置4に出力される。
【0059】
そうすると、解析装置4では、光線Lの検出信号がリファレンス位置以外の位置にある光検出素子3Aから出力されたと判定される。この場合には、解析装置4が流路5内に衝撃波Sが生じたと判定する。そして、衝撃波位置データベース4A内に保存されている、光線Lが検出された光検出素子3Aと、衝撃波Sの位置との関係を表す情報が解析装置4により参照される。これにより、衝撃波Sの位置が特定される。すなわち、光線Lが検出された光検出素子3Aの識別情報が、衝撃波Sの位置に変換される。
【0060】
衝撃波Sが空気Aを伝搬して進行すると、光線Lが屈折する位置が変化するため、光線受信器3による光線Lの受信位置が変化する。具体的には、光線Lを検出する光検出素子3Aが時間とともに変化する。このため、解析装置4では、光線Lの検出信号が出力されたと判定される光検出素子3Aの識別情報が変化する。従って、解析装置4では、衝撃波位置データベース4Aを参照することによって、衝撃波Sの位置の時間変化を求めることができる。
【0061】
衝撃波Sの位置の時間変化が求められれば、衝撃波Sの伝播速度を算出することができる。また、複数の衝撃波Sの検出時刻の差に基づいて衝撃波Sの時間的な発生間隔や発生頻度を求めることもできる。
【0062】
解析装置4で求められた衝撃波Sの位置の時間変化はエンジン11の自動制御に利用することができる。例えば、衝撃波Sの位置の時間変化をECU21に出力し、ECU21による制御下において、衝撃波Sの位置の時間変化に基づくタービン20の回転数やバイパス22を流れる空気Aの流量の自動調整を行うことができる。
【0063】
(効果)
以上のような衝撃波検知システム1、衝撃波検知方法及び衝撃波検知システム1を備えた超音速航空機10等の航空機は、衝撃波Sで光線Lが屈折することを利用して、光線Lの受信位置に基づいて衝撃波Sの位置を測定するようにしたものである。
【0064】
このため、衝撃波検知システム1、衝撃波検知方法及び衝撃波検知システム1を備えた超音速航空機10等の航空機によれば、多くの圧力孔や光源等のデバイスを配置することなく衝撃波Sの位置を検出することができる。特に、流路の壁面に圧力孔を設けると、壁面の段差によって空気の流れ場に影響が生じてしまうが、光学式とすることにより空気の流れ場に影響を与えずに衝撃波Sの位置を検出することができる。
【0065】
加えて、空気Aの流れ方向Fに対して垂直に光線Lを発射すると衝撃波Sの有無しか検知できないが、空気Aの流れ方向Fに対して斜めに光線Lを発射することによって衝撃波Sの有無のみならず、衝撃波Sの位置の時間変化を検知することができる。また、空気Aの流れ方向Fに対して斜めに光線Lを発射することによって、衝撃波Sを検出することが可能な領域を広くすることができる。
【0066】
(第2の実施形態)
図5は本発明の第2の実施形態に係る衝撃波検知システムの構成図である。
【0067】
図5に示された第2の実施形態における衝撃波検知システム1Aは、空気Aに対する衝撃波Sの屈折率が変化しても衝撃波Sの位置を検出できるようにセンサユニット30を設けた点が第1の実施形態における衝撃波検知システム1と相違する。第2の実施形態における衝撃波検知システム1Aの他の構成及び作用については第1の実施形態における衝撃波検知システム1と実質的に異ならないため同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0068】
真空に対する空気A及び衝撃波Sの屈折率は、雰囲気等によって変化する。空気A及び衝撃波Sの屈折率の変化に支配的なパラメータとしては、空気Aの温度、圧力及び湿度の他、空気Aに含まれる二酸化炭素の濃度や光線Lの波長が挙げられる。そこで、予め風洞試験を行ったり、文献値を採用したりすることによって、空気A及び衝撃波Sの屈折率が依存性を有するパラメータごとに屈折率を求めておくことができる。
【0069】
そして、空気Aの温度、圧力及び湿度等のパラメータの値の組合せごとに、光線Lの受光位置を衝撃波Sの位置に変換するためのテーブルや関数等の変換情報を衝撃波位置データベース4Aに保存することができる。そうすると、空気A及び衝撃波Sの屈折率が依存性を有するパラメータの値が変化しても、光線Lの受光位置に基づいて衝撃波Sの位置を求めることが可能となる。
【0070】
尚、空気Aに対する衝撃波Sの屈折率をパラメータとする屈折の法則に基づく演算によって衝撃波Sの位置を計算する場合には、空気Aに対する衝撃波Sの屈折率が依存性を有するパラメータの値と、空気Aに対する衝撃波Sの屈折率の値との関係を表すテーブルや関数等の変換情報を風洞試験等によって求め、屈折率データベースとして解析装置4に内蔵することができる。すなわち、衝撃波位置データベース4Aに代えて屈折率データベースを解析装置4に備えられる記憶装置内に構築することができる。
【0071】
他方、空気A及び衝撃波Sの屈折率が依存性を有するパラメータの値を測定するためのセンサユニット30が空気Aの流路5に設けられる。すなわち、空気Aの温度、圧力及び湿度を測定するための温度計、気圧計及び湿度計や、空気Aに含まれる二酸化炭素の濃度を測定するための二酸化炭素濃度計等のセンサ群からなるセンサユニット30を適切な位置に配置することができる。
【0072】
もちろん、図5に例示されるように1箇所にセンサ群を配置せずにセンサごとに適切な位置に配置することができる。また、流路5に元々備わっているセンサについては衝撃波検知システム1Aの構成要素として新たに設けずに利用することができる。
【0073】
センサユニット30の各センサで測定された空気Aの温度、圧力及び湿度並びに空気Aに含まれる二酸化炭素の濃度等の各パラメータの測定値は、解析装置4に出力される。このため、解析装置4では、衝撃波位置データベース4Aを参照することによってセンサユニット30の各センサで測定されたパラメータの値の組合せに対応する衝撃波Sの位置を求めることができる。すなわち、光線Lが入射した光検出素子3Aの識別情報として特定される光線Lの受光位置に加えて、空気A及び衝撃波Sの屈折率が依存性を有する各パラメータの測定値の組合せに基づいて衝撃波Sの位置を求めることができる。
【0074】
或いは、屈折率データベースを参照することによってセンサユニット30の各センサで測定されたパラメータの測定値の組合せに対応する空気Aに対する衝撃波Sの屈折率の値を求めることができる。この場合には、空気Aに対する衝撃波Sの屈折率の値をパラメータとする屈折の法則に基づく演算によって衝撃波Sの位置を求めることができる。
【0075】
また、空気Aに対する衝撃波Sの屈折率は光線Lの波長にも依存性を有することから、衝撃波Sの位置を光線Lの波長ごとに求めて衝撃波位置データベース4Aに保存したり、空気Aに対する衝撃波Sの屈折率を光線Lの波長ごとに求めて屈折率データベースに保存したりすることもできる。
【0076】
そうすると、衝撃波Sの位置が検出し易くなるように空気Aの温度等の条件に応じて光線Lの波長を変更することが可能となる。或いは、異なる波長を有する光を重ねて光線Lとして発射することも可能となる。そして、解析装置4では、複数の波長の中から選択した波長を有する光線Lを検出した光検出素子3Aの位置及び識別情報に基づいて衝撃波Sの位置を求めることができる。
【0077】
以上の第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な効果に加えて、空気Aの温度等の変化によって空気Aに対する衝撃波Sの屈折率が変化しても衝撃波Sの位置の時間変化を検出することができるという効果が得られる。また、衝撃波Sの位置や空気Aに対する衝撃波Sの屈折率を光線Lの波長ごとに求めれば、衝撃波Sの位置検出に使用する光線Lの波長を変化させることが可能となる。
【0078】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0079】
1、1A 衝撃波検知システム
2 光線発射器
2A 光源
3 光線受信器
3A 光検出素子
4 解析装置
4A 衝撃波位置データベース
5 流路
5A 壁面
10 超音速航空機
11 エンジン
12 エアインテーク
20 タービン
21 ECU(Engine Control Unit)
22 バイパス
23 ダクト
24 弁
30 センサユニット
A 空気
F 空気の流れ方向
L 光線
S 衝撃波
図1
図2
図3
図4
図5