(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048306
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】バッチ式加熱炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/70 20060101AFI20240401BHJP
C21D 11/00 20060101ALI20240401BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20240401BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C21D9/70 A
C21D11/00 102
C21D9/00 101Q
F27D19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154276
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森 健太
(72)【発明者】
【氏名】北野 拓真
(72)【発明者】
【氏名】久保 泰史
(72)【発明者】
【氏名】青木 利一
【テーマコード(参考)】
4K038
4K056
【Fターム(参考)】
4K038AA05
4K038BA02
4K038CA01
4K038DA01
4K038DA02
4K038EA01
4K038EA02
4K056AA08
4K056BA02
4K056BB01
4K056CA02
4K056FA03
(57)【要約】
【課題】生産性のよいバッチ式加熱炉の操業方法を提供する。
【解決手段】バッチ式加熱炉(10)の操業方法は、装入工程(#5)と、主加熱工程(#10)と、連続抽出工程(#15)と、を備える。装入工程(#5)では、カバー(30)を開いて、炉体(20)内に複数の鋳片(60)を装入する。主加熱工程(#10)では、カバー(30)を閉じて、炉体(20)内の雰囲気を加熱する。連続抽出工程(#15)では、バーナー(40)の出力を基準値(N
0)に設定するとともに、カバー(30)を開いて、炉体(20)内の複数の鋳片(60)のうちの1本を搬出する搬出工程(#15A)と、カバー(30)を閉じるとともに、バーナー(40)の出力を基準値(N
0)よりも大きい値に設定して、炉体(20)内の雰囲気を加熱する補助加熱工程(#15B)と、を交互に繰り返す。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳片を加熱するバッチ式加熱炉の操業方法であって、
前記加熱炉は、カバーによって開閉される炉体と、前記炉体内の雰囲気を加熱するバーナーと、を備え、
前記加熱炉の操業方法は、
前記カバーを開いて、前記炉体内に複数の鋳片を装入する装入工程と、
前記カバーを閉じて、前記バーナーにより前記炉体内の前記雰囲気を加熱する主加熱工程と、
搬出工程と補助加熱工程とを交互に繰り返す連続抽出工程であって、前記搬出工程では、前記バーナーの出力を基準値に設定するとともに、前記カバーを開いて、前記炉体内の前記複数の鋳片のうちの1本を搬出し、前記補助加熱工程では、前記カバーを閉じるとともに、前記バーナーの前記出力を前記基準値よりも大きい値に設定して、前記炉体内の前記雰囲気を加熱する、前記連続抽出工程と、を備える、バッチ式加熱炉の操業方法。
【請求項2】
請求項1に記載のバッチ式加熱炉の操業方法であって、
前記主加熱工程における前記炉体内の前記雰囲気の温度をT1(℃)とし、前記補助加熱工程における前記炉体内の前記雰囲気の温度をT2(℃)としたとき、T2は下記の式(1)の条件を満たす、バッチ式加熱炉の操業方法。
T1-50≦T2≦T1+30 (1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バッチ式加熱炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼での分塊圧延工程において、ブルーム、スラブ、及びビレット等(以下、これらを総称して鋼片と言う。)は、鋳造により得られた鋳片に熱間圧延を施して製造される。熱間圧延の際、鋳片は圧延可能な温度に加熱される。鋳片を所定の温度に加熱するための炉として、バッチ式加熱炉(均熱炉と呼ばれることもある)や種々の形式の連続式加熱炉が知られている。例えば、バッチ式加熱炉は特許文献1に記載されている。
【0003】
バッチ式加熱炉(以下、加熱炉と略す場合がある。)は、鋳片を収容可能な炉体と、炉体内の雰囲気を加熱するバーナーとを備える。一般に、炉体の上部は開口しており、移動可能なカバーで閉塞されている。カバーの移動により、炉体は開閉される。加熱炉を用いて鋳片を加熱する手順は以下の通りである。まず、カバーを開いた状態で炉体内に複数の鋳片を装入する。その後、カバーを閉じ、バーナーで炉体内の雰囲気を加熱する。これにより、炉体内の鋳片は、圧延可能な温度(例えば、1300℃)まで昇温される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加熱炉において鋳片の昇温が完了すると、バーナーの出力を下げ、炉体内の鋳片を連続抽出する。鋳片の連続抽出は、以下の手順で行う。まず、加熱炉のカバーを開き、クレーン等を用いて1本の鋳片を搬出する。鋳片が搬出されると、一旦カバーを閉じ、この状態で次の搬出まで待機する。加熱炉から搬出された鋳片は、熱間圧延を実施する圧延機に搬送される。これを繰り返し行い、炉体内の鋳片を全て搬出する。加熱炉から搬出されて圧延機に搬送された鋳片は、都度、圧延機で圧延される。
【0006】
ここで、連続抽出の際、カバーが繰り返し開閉されるため、炉体内の雰囲気温度は次第に低下する。カバーが開いているときに炉体内の熱が炉体外に放出されるからである。鋳片の連続抽出が進行して、炉体内の雰囲気温度が低下すると、それに応じて炉体内の鋳片の温度も低下し、温度低下した鋳片が加熱炉から搬出される。搬出された鋳片は、圧延機に向けて搬送される過程で多少冷え、さらに圧延機による圧延の過程で多少抜熱されて鋼片となる。そのため、鋳片の連続抽出が進行すると、炉体内の鋳片の温度低下に伴って、圧延時の鋳片の温度が圧延可能な温度を下回る場合がある。温度の低い鋳片が圧延されれば、圧延機の許容値を超過する過大な荷重が圧延機に負荷される等の操業トラブルが発生する恐れがある。又は、表面割れ等が発生し、鋼片の品質が低下する恐れがある。
【0007】
従来、このような操業トラブルの発生や鋼片の品質低下を防止するため、連続抽出がある程度進行して、圧延時の鋳片の温度が圧延可能な温度を下回りそうなとき、鋳片の連続抽出を停止して、バーナーで炉体内の雰囲気を再加熱する。この再加熱により、圧延時の鋳片の温度を上昇させるべく、炉体内の鋳片の温度を上昇させる。そして、炉体内の鋳片が十分に昇温した後に、連続抽出を再開する。
【0008】
図1は、鋳片を連続抽出したときの、熱間圧延直後の鋼片の温度推移を示す模式図である。
図1において、縦軸は鋼片の表面温度を表し、横軸は連続抽出する鋳片の本数(連続抽出本数)を表す。
図1では、再加熱を行わなかった場合の鋼片の温度推移を点線で示し、再加熱を行った場合の鋼片の温度推移を実線で示す。なお、熱間圧延直後の鋼片の表面温度は、圧延時の鋳片の温度に相当する。それらの表面温度推移の傾向は、加熱炉から搬出される鋳片の温度推移の傾向と実質的に一致する。したがって、熱間圧延直後の鋼片の表面温度をもって、加熱炉内の鋳片の温度、及び加熱炉から搬出される鋳片の温度を類推することができる。以下、熱間圧延直後の鋼片の表面温度をもって、鋳片の温度について説明する。
【0009】
図1を参照して、連続抽出本数の増加に伴って鋼片の表面温度(鋳片の温度)が低下する。例えば、再加熱を行わなかった場合、連続抽出する鋳片の本数が12本になったとき、12番目の鋼片の温度は、前述の操業トラブルの発生や鋼片の品質が低下する恐れのある温度(以下、圧延不能温度域とも言う。)付近まで低下する。この状態で連続抽出を続けると、熱間圧延直後の鋼片の温度が圧延不能温度域に達すると予想される。一方、連続抽出の途中で上記の再加熱を行った場合、連続抽出する鋳片の本数が16本になっても、鋼片の温度が圧延不能温度域に達しないことが分かる。
【0010】
しかしながら、連続抽出の途中で上記の再加熱を行った場合、連続抽出を停止した時間の分、連続抽出に要する総時間が増加する。そのため、加熱炉の操業において、連続抽出に要する総時間の延長を抑制して、生産性を確保することが求められている。
【0011】
本開示の目的は、生産性のよいバッチ式加熱炉の操業方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示に係る操業方法は、鋳片を加熱するバッチ式加熱炉の操業方法である。加熱炉は、炉体と、バーナーと、を備える。炉体は、カバーによって開閉される。バーナーは、炉体内の雰囲気を加熱する。加熱炉の操業方法は、装入工程と、主加熱工程と、連続抽出工程と、を備える。装入工程では、カバーを開いて、炉体内に複数の鋳片を装入する。主加熱工程では、カバーを閉じて、バーナーにより炉体内の雰囲気を加熱する。連続抽出工程では、搬出工程と補助加熱工程とを交互に繰り返す。搬出工程では、バーナーの出力を基準値に設定するとともに、カバーを開いて、炉体内の複数の鋳片のうちの1本を搬出する。補助加熱工程では、カバーを閉じるとともに、バーナーの出力を基準値よりも大きい値に設定して、炉体内の雰囲気を加熱する。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係るバッチ式加熱炉の操業方法によれば、生産性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、鋳片を連続抽出したときの、熱間圧延直後の鋼片の温度推移を示す模式図である。
【
図2】
図2は、従来の連続抽出時の炉体内の雰囲気温度及びバーナーの出力の推移をそれぞれ示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る操業方法で用いられる加熱炉の断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る加熱炉の操業方法を示すフロー図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る操業方法で用いられる加熱炉の断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る操業方法で用いられる加熱炉の断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る操業方法における連続抽出時の炉体内の雰囲気温度及びバーナーの出力の推移をそれぞれ示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記の課題を解決するために本発明者らは鋭意検討を重ね、その結果、下記の知見を得た。
【0016】
上述した通り、従来の鋳片の連続抽出では、バーナーで炉体内の雰囲気を加熱した後、炉体のカバーを開いて炉体内から1本の鋳片を搬出する工程(以下、工程Aとも言う。)と、カバーを閉じて次の鋳片の搬出まで待機する工程(以下、工程Bとも言う。)と、を交互に繰り返す。連続抽出時、バーナーの出力は、所定の基準値に設定されて維持される。つまり、バーナーの出力は、バーナーで炉体内の雰囲気を加熱したときから実質的に下げられる。バーナーの出力が大きいと、バーナーの火炎が鋳片の搬出作業の妨げになるからである。ここで、バーナーの出力は、バーナーから吹き出される燃料ガスの流量に対応する。燃料ガスの流量を調整することにより、バーナーの出力は調整される。
【0017】
図2は、従来の連続抽出時の炉体内の雰囲気温度及びバーナーの出力の推移を示す模式図である。
図2において、縦軸は炉体内の雰囲気温度及びバーナーの出力をそれぞれ表し、横軸は経過時間を示す。
【0018】
図2を参照して、工程Aの期間は加熱炉のカバーが開いているため、炉体内の雰囲気温度が次第に低下する。一方、工程Bの期間は、炉体内の雰囲気温度が次第に上昇している。これは、カバーが閉じられている期間に、炉壁及び炉体内の鋳片が保有する熱により、炉体内の雰囲気が復熱していると推察される。しかしながら、従来の連続抽出では、炉体内の雰囲気温度が十分に上昇する前に次の鋳片の搬出が行われるため、カバーが繰り返し開閉される度に炉体内の温度が低下する。そうすると、連続抽出において、加熱炉のカバーが閉じられている期間に、炉体内の雰囲気温度を十分に上昇させることができれば、カバーが繰り返し開閉されても、炉体内の雰囲気温度の低下を抑制することができると考えられる。
【0019】
本開示の実施形態に係る加熱炉の操業方法は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0020】
本実施形態に係る操業方法は、鋳片を加熱するバッチ式加熱炉の操業方法である。加熱炉は、炉体と、バーナーと、を備える。炉体は、カバーによって開閉される。バーナーは、炉体内の雰囲気を加熱する。加熱炉の操業方法は、装入工程と、主加熱工程と、連続抽出工程と、を備える。装入工程では、カバーを開いて、炉体内に複数の鋳片を装入する。主加熱工程では、カバーを閉じて、バーナーにより炉体内の雰囲気を加熱する。連続抽出工程では、搬出工程と補助加熱工程とを交互に繰り返す。搬出工程では、バーナーの出力を基準値に設定するとともに、カバーを開いて、炉体内の複数の鋳片のうちの1本を搬出する。補助加熱工程では、カバーを閉じるとともに、バーナーの出力を基準値よりも大きい値に設定して、炉体内の雰囲気を加熱する(第1の構成)。
【0021】
第1の構成の操業方法において、連続抽出工程では、搬出工程と補助加熱工程とを交互に繰り返す。搬出工程では、カバーを開いた状態で鋳片を搬出する。このため、搬出工程では、炉体内の熱が炉体外に放出され、炉体内の雰囲気温度が低下する。また、搬出工程の期間、バーナーの出力を基準値に設定する。これにより、搬出工程時、主加熱工程と比較して、バーナーの出力が実質的に下げられ、バーナーによる加熱は行われない。これに対して、補助加熱工程では、カバーを閉じた状態で、バーナーの出力を基準値よりも大きい値に設定する。これにより、補助加熱工程時、搬出工程と比較して、バーナーの出力が上げられ、バーナーによる加熱が行われる。要するに、補助加熱工程では、従来の連続抽出において次の鋳片を搬出するまで待機していた期間に、バーナーの出力が搬出工程のときよりも上げられ、炉体内の雰囲気が加熱される。
【0022】
このような連続抽出工程では、鋳片を1本抽出するたびに、補助加熱工程で炉体内の雰囲気が十分に復熱する。炉体内の雰囲気は、炉体内の鋳片が保有する熱を与えられ、さらにバーナーによって加熱されるからである。このため、連続抽出工程においてカバーが繰り返し開閉されても、炉体内の雰囲気温度の低下を抑制することができ、炉体内の雰囲気温度が高い状態に保たれる。そうすると、炉体内の鋳片の温度も高い状態に保たれ、温度の高い鋳片が加熱炉から搬出される。温度の高い鋳片が圧延されれば、圧延直後の鋼片の温度が圧延不能温度域に達する事態は生じない。この場合、連続抽出を停止して行う従来の再加熱は不要となる。したがって、第1の構成の操業方法によれば、連続抽出に要する総時間の延長を抑制することができ、その結果、生産性を確保することができる。
【0023】
第1の構成の操業方法は、好ましくは、主加熱工程における炉体内の雰囲気の温度をT1(℃)とし、補助加熱工程における炉体内の雰囲気の温度をT2(℃)としたとき、T2は下記の式(1)の条件を満たす(第2の構成)。本明細書において、温度T1を第1の温度と言い、温度T2を第2の温度と言う場合がある。
T1-50≦T2≦T1+30 (1)
【0024】
第2の構成の操業方法では、補助加熱工程で加熱された炉体内の雰囲気の温度(第2の温度T2)は、主加熱工程で加熱された炉体内の雰囲気の温度(第1の温度T1)との関係で、式(1)の条件を満たす。つまり、第2の温度T2は、(T1-50)以上であり、(T1+30)以下である。要するに、搬出工程の期間に低下した炉体内の雰囲気温度が、主加熱工程で加熱したときの雰囲気温度と同程度まで上昇する。したがって、第2の構成によれば、連続抽出工程においてカバーの開閉を繰り返しても、炉体内の雰囲気温度の低下をより確実に抑制することができる。
【0025】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0026】
〔加熱炉〕
図3を参照して、本実施形態に係る操業方法で用いられる加熱炉10の構成を説明する。
図3は、本実施形態に係る操業方法で用いられる加熱炉10の断面図である。加熱炉10は、炉体20と、カバー30と、バーナー40と、温度計50とを備える。炉体20は、例えば箱型形状を有し、複数の鋳片を収容可能である。
図3には、炉体20内に鋳片を収容する前の状態が示されている。
【0027】
炉体20は、炉底21と、炉壁22と、を有する。本実施形態の例では、炉体20に対する鋳片の搬出入のため、炉体20の上部が開口している。つまり、炉体20は、上壁を有しない。しかしながら、炉体20の開口部の位置はこれに限定されない。例えば、炉壁22の一部が開口していてもよい。
【0028】
炉体20の上部(開口部)は、カバー30で閉塞されている。カバー30は、加熱炉10の上下方向に垂直な水平方向にスライド可能である。カバー30のスライド移動により、炉体20の上部は開閉される。すなわち、炉体20は、カバー30の移動によって開閉される。要するに、カバー30をスライドさせることにより、炉体20の上部は、開放された状態と、閉塞された状態とに切り替えられる。
図3には、カバー30が閉じた状態、すなわち、炉体20の上部が閉塞された状態が示されている。
【0029】
バーナー40は、炉壁22に設けられる。バーナー40は、炉壁22を貫通し、その先端が炉体20内に表出している。バーナー40は、その先端から燃焼ガスを吹き出して火炎を放つ。加熱炉10において、炉体20内の雰囲気は、炉体20内に複数の鋳片が収容された状態で、バーナー40により加熱される。これにより、鋳片は圧延に適した温度に昇温される。
【0030】
バーナー40は、好ましくは、炉壁22の上部に配置される。鋳片が炉体20内に収容された状態でバーナー40により炉体20内を加熱する際、バーナー40の火炎が鋳片に直接当たらないようにするためである。バーナー40の出力は、バーナー40から吹き出される燃料ガスの流量に対応し、適宜設定可能である。燃料ガスの流量を調整することにより、バーナー40の出力は調整される。
【0031】
炉壁22の下部には、煙道23が設けられている。バーナー40で炉体20内の雰囲気が加熱されると、燃焼排ガスが発生する。この燃焼排ガスは、煙道23を通じて炉体20の外へ排出される。
【0032】
炉体20内には、温度計50が設けられる。温度計50は、例えば、炉壁22に取り付けられる。温度計50は、炉体20内の雰囲気温度を測定することができる。温度計50により、炉体20内の雰囲気温度は監視される。温度計50は、例えば熱電対である。
【0033】
〔操業方法〕
図4は、本実施形態に係る加熱炉10の操業方法を示すフロー図である。
図4に示すように、本実施形態の操業方法は、装入工程(#5)と、主加熱工程(#10)と、連続抽出工程(#15)と、を含む。連続抽出工程(#15)は、搬出工程(#15A)と補助加熱工程(#15B)とを含む。本実施形態の操業方法では、後工程の圧延で鋼片の温度が圧延不能温度域に達しないように、複数の鋳片は圧延可能な温度に加熱される。加熱された鋳片は、1本ずつ炉体20から搬出されて、熱間圧延を施される。連続抽出工程(#15)では、搬出工程(#15A)と補助加熱工程(#15B)とが交互に繰り返される。搬出工程(#15A)では、バーナー40の出力は極力小さくされる。補助加熱工程(#15B)でのバーナー40の出力は、搬出工程(#15A)でのバーナー40の出力よりも大きくされる。以下、
図4に示す各工程を具体的に説明する。
【0034】
〔装入工程(#5)〕
図5は、本実施形態に係る操業方法で用いられる加熱炉10の断面図である。
図5には、装入工程(#5)完了時の状態、すなわち、複数の鋳片60が炉体20内に装入された状態が示されている。装入工程(#5)では、
図3に示すようにカバー30が閉じた状態から、カバー30を水平方向にスライドさせて炉体20の開口部が開放された状態にする。
図5に示すように、カバー30を開いた後、炉体20内に複数の鋳片60を装入する。複数の鋳片60の材質は特に限定されるものではない。
【0035】
各鋳片60は、炉体20の開口部から装入される。本実施形態では、炉体20の上部が開口しているため、炉体20の上方から各鋳片60が装入される。各鋳片60の装入には、例えば、図示しないクレーンを用いることができる。装入工程(#5)で炉体20内に装入される鋳片60の本数は、加熱炉10の仕様やその他の操業条件にも関わるもので、特に限定されない。ただし、装入される鋳片60の本数が少ない場合は、連続抽出工程(#15)でカバー30の開閉回数が少なくなり、炉体20内雰囲気の温度低下が小さくなる。この場合、連続抽出工程(#15)の補助加熱工程(#15B)でバーナー40の出力を敢えて上げる必要はなく、バーナー40の出力を従来のように下げた状態で連続抽出した方が経済的といえるかもしれない。本実施形態の操業方法では、ある程度以上の本数が装入されている方が、生産性の面での効果を期待できる。なお、本実施形態の操業方法では、従来の再加熱を省略することができるため、再加熱での燃料消費を削減することができる。しかしながら、補助加熱工程(#15B)でバーナー40の出力を上げる必要がある。そのため、本実施形態の連続抽出に必要な燃料は、従来の連続抽出と同程度である。
【0036】
〔主加熱工程(#10)〕
図6は、本実施形態に係る操業方法で用いられる加熱炉10の断面図である。
図6には、主加熱工程(#10)の際の様子が示されている。主加熱工程(#10)では、
図5に示すようにカバー30が開いた状態から、カバー30を水平方向にスライドさせて炉体20の開口部が閉塞された状態にする。
図6に示すように、カバー30を閉じた後、バーナー40により炉体20内の雰囲気を加熱する。これにより、炉体20内の雰囲気は、設定された第1の温度T
1(℃)に加熱される。
【0037】
主加熱工程(#10)の完了時には、炉体20内の各鋳片60の温度は、炉体20内の雰囲気温度(第1の温度T1)と同じになる。つまり、主加熱工程(#10)により、炉体20内の各鋳片60は、圧延可能な温度まで昇温される。第1の温度T1は、鋳片60の材質等に応じて適宜設定してもよく、例えば1200℃~1300℃である。
【0038】
主加熱工程(#10)において、バーナー40の出力は、特に限定されるものではなく、炉体20内の雰囲気を第1の温度T1に加熱することができる範囲で適宜設定してもよい。バーナー40の出力は、炉体20内の雰囲気が第1の温度T1に達するまでの期間、次第に大きくなってもよいし、一定であってもよい。また、バーナー40の出力は、炉体20内の雰囲気が第1の温度T1に達した後、後述する連続抽出工程(#15)を開始するまでの期間、炉体20内の雰囲気を第1の温度T1に保つことができる範囲で徐々に小さくなってもよい。
【0039】
〔連続抽出工程(#15)〕
上述した通り、連続抽出工程(#15)では、搬出工程(#15A)と補助加熱工程(#15B)とを交互に繰り返す。搬出工程(#15A)では、バーナー40の出力を、バーナー40の火が消えない程度に極力小さい値に設定する。このときのバーナー40の出力を基準値N0と言う。搬出工程(#15A)時、バーナー40の出力を基準値N0に設定することにより、主加熱工程(#10)と比較してバーナー40の出力が実質的に下げられ、バーナー40による加熱は行われない。バーナー40の出力が大きいと、バーナー40の火炎が鋳片60の搬出作業の妨げになるからである。
【0040】
搬出工程(#15A)では、バーナー40の出力を基準値N0に設定するとともに、カバー30を開いて、炉体20内の複数の鋳片60のうちの1本を搬出する。鋳片60の搬出には、例えば図示しないクレーンを用いる。クレーンは、装入工程(#5)で用いたものと同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0041】
搬出工程(#15A)で搬出された鋳片60は、図示しない圧延機に搬送され、熱間圧延が施されて鋼片となる。鋼片は、例えばブルーム、スラブ、及びビレット等である。鋳片60を圧延している期間、次の鋳片60が炉体20から搬出されることは通常はない。仮に、鋳片60を圧延している期間に次の鋳片60が搬出されると、搬出された鋳片60は炉体20外で待機することになり、その待機時間に鋳片60の温度が著しく低下する。従来の連続抽出では、搬出された鋳片60が炉体20外で待機するのを防止するため、鋳片60を圧延している期間、加熱炉10において、単にカバー30を閉じてバーナー40の出力を基準値のままにして、鋳片60を保温していた。この保温工程が上記の工程B(
図2参照)である。
【0042】
本実施形態に係る操業方法では、従来の連続抽出の工程Bの代わりに、補助加熱工程(#15B)を実施する。補助加熱工程(#15B)では、カバー30を閉じるとともに、バーナー40の出力を基準値N0よりも大きい値(設定値N)に設定する。これにより、補助加熱工程(#15B)時、搬出工程(#15A)と比較してバーナー40の出力が上げられ、バーナー40による加熱が行われる。
【0043】
補助加熱工程(#15B)では、炉体20内の雰囲気を第2の温度T
2(℃)に加熱する。
図7は、本実施形態に係る操業方法における連続抽出時の炉体20内の雰囲気温度及びバーナー40の出力の推移を示す模式図である。
図7には、主加熱工程(#10)及び連続抽出工程(#15)(搬出工程(#15A)及び補助加熱工程(#15B))における炉体20内の雰囲気温度及びバーナー40の出力の推移がそれぞれ示されている。
【0044】
図7を参照して、搬出工程(#15A)時には、カバー30が開いているため、炉体20内の雰囲気温度が次第に低下する。このとき、上述した通り、バーナー40の出力は基準値N
0に設定される。一方、補助加熱工程(#15B)では、カバー30を閉じた上で、バーナー40の出力が設定値Nに設定される。設定値Nは、基準値N
0よりも大きいため、補助加熱工程(#15B)時には、炉体20内がバーナー40により加熱される。したがって、補助加熱工程(#15B)を行うと、従来の連続抽出における工程Bを行う場合と比較して、炉体20内の雰囲気がより大きく復熱する。補助加熱工程(#15B)では、炉体20内の雰囲気は、炉体20内の鋳片60が保有する熱を与えられ、さらにバーナー40によって加熱されるからである。
【0045】
搬出工程(#15A)と補助加熱工程(#15B)とを交互に繰り返す中で、炉体20内の雰囲気は、毎回同じ温度に加熱されてもよいし、都度異なる温度に加熱されてもよい。要するに、第2の温度T2は、連続抽出工程(#15)で何度も行われる補助加熱工程(#15B)の中で全て同じ値でもよいし、毎回異なる値でもよい。
【0046】
図7に示す例では、第2の温度T
2は、主加熱工程(#10)のときの雰囲気温度(第1の温度T
1)との関係で、T
1-50≦T
2≦T
1+30を満たすように設定される。つまり、炉体20内の雰囲気温度は、補助加熱工程(#15B)を行うたびに、第1の温度T
1と同程度の温度まで加熱される。第2の温度T
2がT
1-50(℃)以上であれば、連続抽出工程(#15)の中で搬出工程(#15A)と補助加熱工程(#15B)とを交互に繰り返しても、確実に炉体20内の雰囲気温度が高い状態に保たれる。また、第2の温度T
2がT
1+30(℃)以下であれば、鋳片60を加熱しすぎて鋳片60の品質が悪化するのを防止することができる。
【0047】
〔効果〕
本実施形態に係る操業方法において、連続抽出工程(#15)では、搬出工程(#15A)と補助加熱工程(#15B)とを交互に繰り返す。連続抽出工程(#15)では、搬出工程(#15A)で鋳片60を1本抽出するたびに、補助加熱工程(#15B)で炉体20内の雰囲気が十分に復熱する。このため、連続抽出工程(#15)においてカバー30が繰り返し開閉されても、炉体20内の雰囲気温度の低下を抑制することができ、炉体20内の雰囲気温度が高い状態に保たれる。そうすると、炉体20内の鋳片60の温度も高い状態に保たれ、温度の高い鋳片60が加熱炉10から搬出される。温度の高い鋳片60が圧延されれば、圧延直後の鋼片の温度が圧延不能温度域に達する事態は生じない。この場合、連続抽出を停止して行う従来の再加熱は不要である。したがって、本実施形態に係る操業方法によれば、連続抽出に要する総時間の延長を抑制することができ、その結果、生産性を確保することができる。
【0048】
補助加熱工程(#15B)では、第2の温度T2は、第1の温度T1との関係で、T1-50≦T2≦T1+30を満たすように設定される。つまり、搬出工程(#15A)の期間に低下した炉体20内の雰囲気温度が、主加熱工程(#10)で加熱したときの雰囲気温度と同程度まで上昇する。したがって、本実施形態に係る操業方法によれば、連続抽出工程(#15)においてカバー30の開閉を繰り返しても、炉体20内の雰囲気温度の低下をより確実に抑制することができる。
【0049】
上述した通り、本実施形態に係る操業方法では、連続抽出を停止して行う従来の再加熱が不要である。そのため、本実施形態に係る操業方法では、再加熱を行わない分バーナー40の燃料ガスの消費を削減できる。一方、補助加熱工程(#15B)では、従来の連続抽出における工程Bと比較して、バーナー40の出力を高めるために燃料ガスの消費が大きくなる。したがって、連続抽出工程(#15)全体での燃料ガスの消費量は、従来の連続抽出での燃料ガスの消費量と同程度である。このことから、本実施形態に係る操業方法によれば、燃料ガスの消費は従来の連続抽出と同程度のままで、連続抽出に要する総時間の延長を抑制し、その結果、生産性を確保することができる。
【実施例0050】
本実施形態に係る加熱炉10の操業方法の効果を確認するため、実際に鋳片60の連続抽出を実施した。本実施例では、本発明例及び比較例の2回の連続抽出を実施した。本発明例では、まず、炉体20内に12本の鋳片60を装入した(装入工程(#5))。そして、炉体20内をバーナー40で550分加熱した(主加熱工程(#10))。その後、1本の鋳片60を搬出する搬出工程(#15A)と、加熱炉10のカバー30を閉じ、炉体20内をバーナー40で3分加熱する補助加熱工程(#15B)とを交互に繰り返した(連続抽出工程(#15))。搬出工程(#15A)で搬出された各鋳片60は、速やかに所定形状の鋼片となるように熱間圧延された。圧延直後の各鋼片について表面温度を測定し、その推移を調べた。
【0051】
比較例では、従来の連続抽出における、熱間圧延後の鋼片の表面温度の推移を調べた。比較例では、炉体20内の鋳片60を加熱した後、1本の鋳片60を搬出する工程Aと、次の鋳片60の搬出まで待機する工程Bとを交互に繰り返した(
図2参照)。比較例において、その他の条件は本発明例と同様とした。
【0052】
図8は、実施例の結果を示す図である。
図8では、縦軸は鋼片の表面温度を表し、横軸は連続抽出する鋳片60の本数を表す。
図8を参照して、本発明例の場合、鋳片60の搬出を繰り返しても、鋼片の温度は、一度も900℃を下回ることなく、高い温度が維持されていた。一方、比較例では、連続抽出が進行するにつれて次第に温度が低下しており、連続抽出する鋳片60の本数が7本になったとき、鋼片の温度は、圧延不能温度域付近まで低下していた。このことから、本実施形態に係る操業方法を採用した本発明例の連続抽出工程(#15)によれば、鋳片60の温度の低下を抑制できることが分かる。
【0053】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。