(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004832
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】酵素入り油脂を使用したベーカリー製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 13/00 20170101AFI20240110BHJP
A21D 8/04 20060101ALI20240110BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20240110BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A21D13/00
A21D8/04
A21D2/16
A23D7/00 506
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104691
(22)【出願日】2022-06-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 泉
(72)【発明者】
【氏名】堀山 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】飯岡 宏之
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG20
4B026DL09
4B026DP01
4B026DX02
4B032DB01
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK51
4B032DK54
4B032DK70
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP25
4B032DP28
4B032DP33
4B032DP40
4B032DP54
4B032DP80
(57)【要約】
【課題】製パン性に影響を与えずに、油脂を多く含む成分をパンに染み込ませつつ、ベーカリー製品に、部分的に滑らかで口溶けの良い食感を付与することのできるベーカリー製品の製造方法を提供すること。
【解決手段】アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼから選択される酵素を含有する油脂組成物をベーカリー製品生地の一部分に載置、又は塗布することにより接触させ、かかるベーカリー製品生地を必要に応じて成形したベーカリー製品生地を、攪拌又は圧延することなく、焼成、蒸し、フライから選択される一つ以上の工程により加熱する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程A~Cを備えたことを特徴とするベーカリー製品の製造方法。
1)アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びプロテアーゼからなる群から選択される1種又は2種以上の酵素を含有する油脂組成物を調製する工程A;
2)工程Aで調製した酵素含有油脂組成物を、ベーカリー製品生地の表面に、載置又は塗布することにより接触させ、酵素・油脂添加ベーカリー製品生地を調製する工程B;
3)工程Bで調製した酵素・油脂添加ベーカリー製品生地を、攪拌又は圧延することなく、焼成、蒸し、フライから選択される一つ以上の加熱工程を経ることによりベーカリー製品を得る工程C;
【請求項2】
工程Bにおいて、酵素含有油脂組成物をベーカリー製品生地の表面に載置又は塗布することにより接触させた後、成形して酵素・油脂添加ベーカリー製品生地を調製することを特徴とする請求項1記載のベーカリー製品の製造方法。
【請求項3】
巻込み成形して酵素・油脂添加ベーカリー製品生地を調製することを特徴とする請求項2記載のベーカリー製品の製造方法。
【請求項4】
酵素を含有する油脂組成物が、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びプロテアーゼからなる群から選択される酵素を0.1~1.0%含有することを特徴とする請求項1又は2記載のベーカリー製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びプロテアーゼからなる群から選択される1種又は2種以上の酵素を含有する油脂組成物を、ベーカリー製品生地の表面に、載置又は塗布することにより接触させ、攪拌又は圧延することなく、焼成するベーカリー製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酵素を利用したベーカリー製品の製造方法が知られている。これらの方法は、酵素をパン生地中に直接練り込む方法と、酵素を添加した油脂をパン生地中に直接練り込む方法と、酵素を添加した油脂をパン生地ロールイン用途として使用する方法がそれぞれ知られている。
【0003】
例えば、酵素をパン生地中に直接練り込む方法や、酵素を添加した油脂をパン生地中に直接練り込む方法に関しては、特定のα-アミラーゼとヘミセルラーゼを添加した製パン生地(特許文献1)、酵素を含有する製パン用練り込み油脂組成物を含有させたパン生地(特許文献2)、特定のトリグリセリド及びα-アミラーゼを添加したパン生地(特許文献3)、αアミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼ、及びエステル化度が23~75%であるアルギン酸エステルを含む油脂組成物、穀粉、及び水を含有する製菓製パン用生地(特許文献4)、キサンタンガム、グルコマンナン、及びアミラーゼ類を含有するパン生地(特許文献5)、タンパク質分解酵素を含有する製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物(特許文献6)、油脂類と酵素を含有するパン生地(特許文献7)、食用油脂中にグルコースオキシダーゼ、アミラーゼ類、セルラーゼ類、増粘安定剤を含有するパン生地用油脂組成物(特許文献8)、酵素含有油脂組成物を配合したパン生地(特許文献9)、リパーゼ及びグルコースオキシダーゼを含んでなるパン生地改良用組成物(特許文献10)、ヘミセルラーゼ酵素及びアミラーゼ酵素を含有する油脂組成物からなる冷凍パン生地改良剤(特許文献11)、α-アミラーゼを含む糖類が界面活性剤を使用して油脂中に油中水型に乳化されているパン老化防止用組成物(特許文献12)等が知られている。
【0004】
また、酵素を含む油脂組成物を製菓製パンに対してロールイン用途として使用するものとしては、例えば、糖質分解酵素及びリン脂質分解酵素を含有する特定のトリグリセリドからなる製パン練り込み用又はロールイン用可塑性油脂組成物(特許文献13及び14)、マルトース生成αアミラーゼ及びαアミラーゼを含有するロールイン用油脂組成物(特許文献15)、プロテアーゼを含有するロールイン油脂組成物(特許文献16)が知られている。
【0005】
酵素を含む油脂組成物を練り込み用途として使用すると、油脂組成物に含まれる酵素が生地中に均一に練り込まれ、生地調製時から酵素が生地に徐々に作用し始めて生地物性に影響を与えるため、酵素による生地物性の変化を考慮して生地配合や工程管理を工夫する必要がある。酵素を含む油脂組成物をロールイン用途として使用した場合にも、圧延工程を経て層状に薄く折り込まれた油脂組成物に含まれる酵素が生地と接触するため、練り込み用途と同様に生地物性に影響を及ぼすことになる。
【0006】
一方で、ベーカリー製品生地の全体ではなく一部分にバターやマーガリン、ファットスプレッドを接触させ、加熱焼成することで得られる、独特の食感を有するベーカリー製品が知られている。例えばバターやマーガリン等を生地に巻き込んで焼成するものとして、油脂組成物が生地で巻かれた状態にある巻きパン生地(特許文献17)、ラウリン系油脂を含む注入用油脂組成物(特許文献18)、生地の上に載せて、又は塗って焼成するものがある。これらのベーカリー製品は、溶けた油脂がベーカリー製品の一部分に局部的に広がり、染み込んでおり、部分的にジューシー感が付与されたり、またバターやマーガリン由来の風味が強く付与されるため好まれる。
【0007】
上記独特の食感を有するベーカリー製品に、さらなるジューシー感を付与したり、滑らかな食感を付与することを目的として、ベーカリー生地の一部分に対して局部的に酵素を直接接触させ、作用させることも可能であるが、ベーカリー生地に局部的に酵素を直接接触させた場合には、焼成前に生地に酵素が作用してしまい、生地物性が変わるため焼成品の形状やボリュームに影響を与えることがある。また、酵素を含有する油脂組成物を多層にロールインする工程を含む層状膨化食品の製造方法においても、酵素による食感の改良効果が製品全体に影響を及ぼすことが懸念される。また、本発明者らの検討によると、製品全体において滑らかで口溶けの良い食感を付与することを目的として、酵素を含有する油脂組成物を多層にロールインする工程を採用した場合には、従来技術よりも酵素を多く配合することとなり、製造工程中に酵素が生地物性に影響を与え、生地がべたついたり、膨化が阻害されることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-186811号公報
【特許文献2】特開2018-64500号公報
【特許文献3】特開2016-189724号公報
【特許文献4】特開2016-054680号公報
【特許文献5】特開2014-59号公報
【特許文献6】特開2010-200696号公報
【特許文献7】特開2006-304693号公報
【特許文献8】特開2005-102588号公報
【特許文献9】特開2002-281898号公報
【特許文献10】特開2002-272357号公報
【特許文献11】特開2000-83573号公報
【特許文献12】特開昭61-63232号公報
【特許文献13】特開2018-11577号公報
【特許文献14】特許第6227088号公報
【特許文献15】特開2015-192638号公報
【特許文献16】特許第3194990号公報
【特許文献17】特開2022-11509号公報
【特許文献18】特開2018-57325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、製パン性に影響を与えずに、油脂を多く含む成分をパンに染み込ませつつ、ベーカリー製品に、部分的に滑らかで口溶けの良い食感を付与することのできるベーカリー製品の製造方法を提供すること、すなわち、生地物性に影響を与えることなく、滑らかで口溶けの良い食感を局部的に有するベーカリー製品を得ることのできるベーカリー製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼから選択される1種以上の酵素を含有する油脂組成物をベーカリー製品生地の一部分に載置、又は塗布することにより接触させ、かかるベーカリー製品生地を必要に応じて成形したベーカリー製品生地を、攪拌又は圧延することなく、焼成する、蒸す、又はフライすることにより、焼成等の加熱工程の前には酵素がベーカリー製品生地に作用しないため生地物性が保たれて製パン性が影響を受けず、焼成後には油脂がベーカリー製品の一部に局部的に染み込んでおり、かつ、その部分に酵素が作用して滑らかで口溶けの良い食感を付与することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明特定事項により特定される発明に関する。
[1]以下の工程A~Cを備えたことを特徴とするベーカリー製品の製造方法。
1)アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びプロテアーゼからなる群から選択される1種又は2種以上の酵素を含有する油脂組成物を調製する工程A;
2)工程Aで調製した酵素含有油脂組成物を、ベーカリー製品生地の表面に、載置又は塗布することにより接触させ、酵素・油脂添加ベーカリー製品生地を調製する工程B;
3)工程Bで調製した酵素・油脂添加ベーカリー製品生地を、攪拌又は圧延することなく、焼成、蒸し、フライから選択される一つ以上の加熱工程を経ることによりベーカリー製品を得る工程C;
[2]工程Bにおいて、酵素含有油脂組成物をベーカリー製品生地の表面に載置又は塗布することにより接触させた後、成形して酵素・油脂添加ベーカリー製品生地を調製することを特徴とする上記[1]のベーカリー製品の製造方法。
[3]巻込み成形して酵素・油脂添加ベーカリー製品生地を調製することを特徴とする上記[2]のベーカリー製品の製造方法。
[4]酵素を含有する油脂組成物が、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びプロテアーゼからなる群から選択される酵素を0.1~1.0%含有することを特徴とする上記[1]又は[2]のベーカリー製品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
製パン性に影響を与えずに、油脂を多く含む成分をパンに染み込ませつつ、ベーカリー製品に、部分的に滑らかで口溶けの良い食感を付与することのできるベーカリー製品、すなわち、生地物性に影響を与えることなく、滑らかで口溶けの良い食感を局部的に有するベーカリー製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の「ロールパン巻込み」の切断面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びプロテアーゼからなる群から選択される1種又は2種以上の酵素を含有する油脂組成物(「酵素含有油脂組成物」ということもある)を調製する工程A;工程Aで調製した酵素含有油脂組成物を、ベーカリー製品生地の表面に、載置又は塗布することにより接触させ、酵素・油脂添加ベーカリー製品生地(「酵素・油脂添加生地」ということもある)を調製する工程B;及び、工程Bで調製した酵素・油脂添加生地を、攪拌又は圧延することなく、焼成、蒸し、フライから選択される一つ以上の加熱工程を経ることによりベーカリー製品を得る工程C;を順次備えたベーカリー製品の製造方法であれば特に制限されず、上記工程Bにおいては、酵素含有油脂組成物をベーカリー製品生地の表面に載置又は塗布することにより接触させた後、成形して酵素・油脂添加生地を調製することもできる。
【0015】
上記工程Aにおける酵素含有油脂組成物に含まれる、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びプロテアーゼからなる群から選択される酵素は、ベーカリー製品生地焼成等の加熱工程前は、油脂によって生地との接触が遮断されているが、ベーカリー製品生地焼成等の加熱工程後は、油脂の溶融に伴い生地と接触し、酵素が生地に作用することになる。生地焼成等の加熱工程において油脂が溶融した時点で酵素が生地に作用することから、至適温度が高く、耐熱性の酵素が好ましい。
【0016】
上記アミラーゼとしては、生地物性に影響を与えることなく、滑らかで口溶けの良い食感を局部的に有するベーカリー製品を得ることのできるアミラーゼが好ましく、種類は特に限定されないが、αアミラーゼ、βアミラーゼ、グルクアミラーゼ、イソアミラーゼを挙げることができ、中でもαアミラーゼを好適に例示することができる。より具体的には、スミチームAH、スミチームA10、スミチームAS、スミチームL(以上、新日本化学工業社製)、ビオザイムA、クライスターゼT10S(以上、天野エンザイム社製)、ノバミル3DBG(ノボザイム社製)等を挙げることができる。これらの中でも、至適温度が85~105℃の範囲にあるアミラーゼ、例えば、スミチームAH(95~105℃)やスミチームA10(85~90℃)、クライスターゼT10Sが特に好ましい。
【0017】
上記ヘミセルラーゼとしては、生地物性に影響を与えることなく、滑らかで口溶けの良い食感を局部的に有するベーカリー製品を得ることのできるヘミセルラーゼが好ましく、より具体的には、スミチームSNX(以上、新日本化学工業社製)、ベイクザイムBXP5001、ベイクザイムHS20000(以上、DSM社製)、ヘミセルラーゼ「アマノ」90(以上、天野エンザイム社製)を挙げることができる。
【0018】
上記プロテアーゼとしては、生地物性に影響を与えることなく、滑らかで口溶けの良い食感を局部的に有するベーカリー製品を得ることのできるプロテアーゼが好ましく、より具体的には、スミチームOP、スミチームDPP-G、スミチームFP、スミチームMP(以上、新日本化学工業社製)、ペプチターゼR(以上、天野エンザイム社製)、フレーバーザイム(ノボザイム社製)を挙げることができるが、少なくとも1種類のエンドプロテアーゼと、少なくとも1種類のエキソプロテアーゼの組み合わせとすることもできる。
【0019】
アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びプロテアーゼからなる群から選択される酵素は、単独でも用いることができるが、2種以上を併用することもできる。かかる酵素は、酵素の力価や耐熱性、至適温度によって適宜選択することができ、適宜必要な量を使用することができる。例えば、酵素含有油脂組成物中に、0.005~2.0質量%、好ましくは0.01~1.5質量%や、0.05~1.3質量%、より好ましくは0.08~1.2質量%や、0.1~1.0質量%含ませることができる。
【0020】
工程Aの油脂組成物としては、マーガリン、ファットスプレッドやショートニング等を具体的に例示することができ、油相を連続相とする可塑性油脂組成物が好ましく、可塑性油中水型乳化油脂組成物であることがより好ましい。また、油脂組成物に原料として用いられる油脂としては、食用に適する油脂であれば特に限定されず、例えば、なたね油、ヤシ油、パーム油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、コーン油、こめ油、大豆油、ヒマワリ油、パーム軟質油、パーム核油等の植物性油脂;ラード、牛脂、乳脂、魚油等の動物性油脂;及びそれらの水素添加油、分別油、エステル交換油等を挙げることができる。これらの油脂は、単独で用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0021】
上記油脂組成物は、油脂以外のその他の成分を含有することもできる。その他の成分としては、乳化剤、増粘安定剤、食塩、塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β‐カロテン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料等の食品添加物を挙げることができる。
【0022】
本発明の油脂組成物を製造する方法としては特に限定されないが、例えばショートニングやマーガリン、ファットスプレッドといった可塑性油脂組成物に酵素を混合し、可塑性油脂組成物中に分散させる方法や、酵素を水に分散させたものを可塑性油脂組成物中に分散又は乳化させる方法を挙げることができる。また、融解した油脂に、酵素又は酵素を分散させた水相を、分散又は乳化させたものを、冷却、練りを加えて可塑性を有する油脂組成物を得る方法も挙げることができる。あるいは、融解した油脂、又は融解した油脂に水相を加え乳化させたものを、冷却、練りを加えて可塑性を有する油脂組成物を得る工程のいずれかの時点において、酵素若しくは酵素を水に分散させたものを加えて混合する方法も挙げることができる。具体的には、冷却をする前や、練りを加える前、練りを加えた後にラインから油脂組成物を取り出す前などに、酵素、もしくは酵素を油脂や水に分散させたものをライン中に注入しインラインミキサーで混合する方法を挙げることができる。
【0023】
上記工程Bにおいては、酵素含有油脂組成物をベーカリー製品生地の表面に載置又は塗布することにより接触させ、酵素・油脂添加生地を調製する。かかる酵素・油脂添加生地としては、ロールパン生地の上部に切れ目を入れ、かかる切れ目部分に酵素含有油中水型乳化油脂組成物を塗布した生地を例示することができる。
【0024】
上記ベーカリー製品生地としては、穀粉(小麦、大麦、ライ麦、とうもろこし、米、そばなど)、油脂(ショートニング、マーガリン、バター等)、糖類(砂糖等)、乳製品(牛乳、粉乳、クリーム等)、卵類(全卵、卵黄、卵白等)、塩類(食塩等)、膨張剤(重曹、ベーキングパウダー等)、乳化剤(レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等)、イースト、水等を原料としたベーカリー製品生地を挙げることができる。これらベーカリー製品生地は常法により調製することができる。
【0025】
本発明の工程Bにおいて、酵素を含有する油中水型乳化油脂組成物をベーカリー製品生地の表面に載置又は塗布することにより接触させた後、成形して油脂添加ベーカリー製品生地を調製することもできる。かかる成形としては、攪拌又は圧延することのない、巻き込む、包む、挟む、注入する、埋没する等の成形を挙げることができる。例えば、パン生地をナマコ成型した後に平らに伸ばし、酵素含有油脂組成物を巻き込む方法や、パン生地を平らにし、酵素含有油脂組成物を包あんする方法を例示することができる。
【0026】
本発明の工程Cにおいては、工程Bで調製した酵素・油脂添加生地を、攪拌又は圧延することなく、焼成、蒸し、フライから選択される一つ以上の加熱工程を経ることによりベーカリー製品を得る。加熱工程のうち、特に焼成、蒸しが好適に選択され、より好ましくは焼成が選択される。ここで、攪拌又は圧延することなくの意味するところは、酵素を添加した油脂をパン生地中に直接練り込む操作や、酵素を添加した油脂をパン生地ロールイン用途として使用することを排除している。「圧延する」とは、より具体的には、酵素を含有する油脂組成物が生地の表面に載置又は塗布されたあと生地に巻き込まれたり、生地が折り畳まれたりすることで、当該油脂組成物が生地と生地の間に挟まれた状態となった後、厚さ方向に圧力をかけ、生地と当該油脂組成物の厚さの総和が圧縮前の1/2以下になるまで圧縮すること、を例示することができる。
【0027】
工程Bで載置された酵素含有油脂組成物の厚みや、酵素含有油脂組成物を巻き込みや包あん等の方法でベーカリー生地に包み込まれた場合には包み込まれた空間の大きさ、加熱の方法、条件等により、加熱工程における温度履歴は異なる。アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼの種類や添加量は、実際の温度履歴の条件に合わせて適宜選択することができる。より詳細に述べれば、加熱工程において本発明の油脂組成物中の連続相である油脂が溶融し始める温度から、加熱工程における最も高い温度までの範囲に含まれる、いずれかの温度帯において酵素活性を有していることが好ましい。さらには油脂組成物の融点以上の温度から100℃までの範囲に含まれるいずれかの温度帯において活性を有することがより好ましく、該温度帯の下限が40℃であることがさらに好ましく、45℃であることが最も好ましい。また、該温度帯の上限が95℃であることがさらに好ましく、90℃であることが最も好ましい。
【0028】
例えば油脂組成物をベーカリー生地に塗布し、加熱工程をオーブン等で行う場合には、塗布された面の温度は焼成前の温度から上昇し、最高で100~200℃程度までに達するが、その温度履歴の間に油脂が溶融し、酵素がベーカリー焼成品に作用することにより効果を発揮することができる。例えば、油脂組成物をベーカリー生地に巻き込み又は包あんし、加熱工程をオーブン等で行う場合には、ベーカリー生地内部の温度が焼成前の温度から上昇し、40~100℃程度までに達するが、その温度履歴の間に油脂が溶融し、酵素がベーカリー製品に作用することにより効果を発揮することができる。
【0029】
本発明でベーカリー製品とは、酵素・油脂添加生地を、焼成することで得られる製品のことをいい、具体的には、酵素含有油脂組成物が添加されたロールパン、フランスパン、テーブルロール、食パン、菓子パン、バンズ、ベーグル、デニッシュ、ペストリー、スポンジケーキ、パウンドケーキ、パイ、タルト、ドーナツ等を例示することができる。特に、本発明は酵素含有油脂組成物を載置又は塗布する工程をとりやすいことから、ロールパン、フランスパン、テーブルロール、食パン、菓子パン、バンズ、デニッシュ、ペストリーといったパン類やイーストドーナツ類に好適に適用される。
【実施例0030】
[実施例1]酵素含有油脂組成物の調製
おいしいソフトマーガリン(月島食品工業社製;融点34℃)に、以下のロールパントッピング用[表1]及びロールパン巻込み用[表2]として、α-アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、及びプロテアーゼをそれぞれ0.01質量%、0.1質量%、1.0質量%となるように混合して、酵素含有油脂組成物を調製した。
【0031】
【0032】
【0033】
[実施例2]ベーカリー製品生地の組成
以下、ロールパンの配合を[表3]に示す。
【0034】
【0035】
[実施例3]ロールパントッピングの製造例
上記[表3]の生地の組成のうち、マーガリン以外の原料をミキサーボウルに入れ、フックを用いて縦型ミキサーにて低速で3分、中高速で5分ミキシングした後、マーガリンを投入し、低速で3分、中高速で6分ミキシングしベーカリー製品生地を調製した。生地を27℃で1時間発酵した後、60gずつに分割し、ベンチタイムを20分とり、平らに伸ばして、半分に折りたたみ、成形した。34℃で50分ホイロをとったのち、生地の上部に切れ目を入れ、切れ目の部分に酵素含有油脂組成物を6g塗布した。上火200℃、下火200℃で12分焼成した。焼成直後の上部の表面温度は100℃~120℃であった。
【0036】
[実施例4]ロールパン巻込みの製造例
上記[表3]の生地の組成のうち、マーガリン以外の原料をミキサーボウルに入れ、フックを用いて縦型ミキサーにて低速で3分、中高速で5分ミキシングした後、マーガリンを投入し、低速で3分、中高速で6分ミキシングしベーカリー製品生地を調製した。生地を27℃で1時間発酵した後、60gずつに分割し、ベンチタイムを20分とり、平らに伸ばした生地に、酵素含有油脂組成物を6g絞り、半分に折りたたみ、巻込み成形した。34℃で50分ホイロをとったのち、上火200℃、下火200℃で12分焼成した。
焼成直後の内部温度は98℃前後であった。
【0037】
[実施例5]官能検査
上記[表1]の酵素含有油脂組成物がトッピングされた「ロールパントッピング」及び[表2]の酵素含有油脂組成物が巻き込まれた「ロールパン巻込み」について食感の官能検査を行った。一昼夜常温で保管した焼成品を、4人のパネラーにより官能にて食感を合議で以下に示す4段階で評価した。トッピングの製造例の場合には、特にトッピングされた部分の食感、巻き込みの製造例の場合には、特に焼成品内部の食感についてそれぞれ評価した。結果を上記[表1]及び[表2]の「官能」の欄に示す。
3点;酵素無添加品と比べて、とても滑らかで口溶けがよい
2点;酵素無添加品と比べて、滑らかで口溶けがよい
1点;酵素無添加品と比べて、やや滑らかで口溶けがよい
0点;酵素無添加品と比べて、滑らかさや口溶けの食感に変化なし
【0038】
その結果、「ロールパントッピング」においては、アミラーゼの内、至適温度が高いスミチームAH(95~105℃)や、スミチームA10(85~90℃)の添加量が0.1%及び1.0%においてとても滑らかで口溶けがよい「ロールパントッピング」が得られることがわかった。また「ロールパン巻込み」においても、アミラーゼの内、至適温度が高いスミチームAH(95~105℃)や、スミチームA10(85~90℃)の添加量が0.1%及び1.0%においてとても滑らかで口溶けがよい「ロールパントッピング」が得られることがわかった。
工程Bにおいて、酵素含有油脂組成物をベーカリー製品生地の表面に載置又は塗布することにより接触させた後、成形して酵素・油脂添加ベーカリー製品生地を調製することを特徴とする請求項1記載のベーカリー製品の製造方法。