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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048347
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】製造方法及び精度管理方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 39/02 20060101AFI20240401BHJP
   B21D 19/08 20060101ALN20240401BHJP
【FI】
B21D39/02 Z
B21D19/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116580
(22)【出願日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】202211185199.0
(32)【優先日】2022-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】井上 祐太朗
(72)【発明者】
【氏名】小林 康太
(57)【要約】
【課題】サブコンプ部品のポイント毎の評価に基づいてコンプ部材の精度を調整することが可能になる製造方法及び精度管理方法を提供する。
【解決手段】計測データを第1解析工程により算出した特定の評価部位に対する特定の評価部位以外の評価部位の変形量の割合に応じて、平均化する平均化工程と、第1解析工程と第2解析工程の解析結果から算出される第2部材と第1部材との剛性比と、平均化工程により平均化された計測データから算出される計測データの第2部材と第1部材との移動比率と、の相関関係が高くなるように割合を調整する調整工程と、コンプ部材の評価部位の計測データの値が許容値を超えた場合に、調整工程によって調整された相関関係に基づいて、第2部材の剛性を、当該計測データの値が許容値内に収まるように変更する剛性変更工程と、を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材のフランジ部を、第2部材の縁部に面接触するまで、ヘミング加工により折り返すことによって折り返し部を形成し、前記第1部材と前記第2部材とが接合されたコンプ部材の製造方法であって、
前記コンプ部材のモデルを用いて、前記折り返し部に設けられた複数の評価部位のうち、特定の評価部位に荷重をかけた際の前記特定の評価部位の変形量と、前記特定の評価部位に荷重をかけた際の前記特定の評価部位以外の評価部位の変形量との割合を有限要素法により解析する第1解析工程と、
前記第2部材のモデルを用いて、前記第2部材の縁部の端部に設けられた複数の評価部位に対して荷重をかけた際の前記特定の評価部位の変形量を有限要素法により解析する第2解析工程と、
前記ヘミング加工前の前記第1部材及び前記第2部材の前記複数の評価部位に相当する部位の計測データと、前記ヘミング加工により形成されたコンプ部材の前記折り返し部の複数の評価部位の計測データと、を取得する計測データ取得工程と、
前記計測データを前記第1解析工程により算出した前記特定の評価部位に対する前記特定の評価部位以外の評価部位の変形量の割合に応じて、平均化する平均化工程と、
前記第1解析工程と第2解析工程の解析結果から算出される前記第2部材と前記第1部材との剛性比と、前記平均化工程により平均化された前記計測データから算出される前記計測データの第2部材と第1部材との移動比率と、の相関関係が高くなるように前記割合を調整する調整工程と、
前記コンプ部材の評価部位の計測データの値が許容値を超えた場合に、前記調整工程によって調整された相関関係に基づいて、前記第2部材の剛性を、当該計測データの値が前記許容値内に収まるように変更する剛性変更工程と、
前記剛性変更工程によって剛性を変更した前記第2部材を用いて前記コンプ部材を製造する製造工程と、を有する、製造方法。
【請求項2】
第1部材のフランジ部を、第2部材の縁部に面接触するまで、ヘミング加工により折り返すことによって折り返し部を形成し、前記第1部材と前記第2部材とが接合されたコンプ部材を形成する際の前記折り返し部の精度を管理する精度管理方法であって、
前記コンプ部材のモデルを用いて、前記折り返し部に設けられた複数の評価部位のうち、特定の評価部位に荷重をかけた際の前記特定の評価部位の変形量と、前記特定の評価部位に荷重をかけた際の前記特定の評価部位以外の評価部位の変形量との割合を有限要素法により解析する第1解析工程と、
前記第2部材のモデルを用いて、前記第2部材の縁部の端部に設けられた複数の評価部位に対して荷重をかけた際の前記特定の評価部位の変形量を有限要素法により解析する第2解析工程と、
前記ヘミング加工前の前記第1部材及び前記第2部材の前記複数の評価部位に相当する部位の計測データと、前記ヘミング加工により形成されたコンプ部材の前記折り返し部の複数の評価部位の計測データと、を取得する計測データ取得工程と、
前記計測データを前記第1解析工程により算出した前記特定の評価部位に対する前記特定の評価部位以外の評価部位の変形量の割合に応じて、平均化する平均化工程と、
前記第1解析工程と第2解析工程の解析結果から算出される前記第2部材と前記第1部材との剛性比と、前記平均化工程により平均化された前記計測データから算出される前記計測データの第2部材と第1部材との移動比率と、の相関関係が高くなるように前記割合を調整する調整工程と、
前記コンプ部材の評価部位の計測データの値が許容値を超えた場合に、前記調整工程によって調整された相関関係に基づいて、前記第2部材の剛性を、当該計測データの値が前記許容値内に収まるように変更する剛性変更工程と、を有する、精度管理方法。
【請求項3】
前記計測データ取得工程において、
前記計測データは複数のワークの測定結果の中央値を用いる、
請求項2に記載の精度管理方法。
【請求項4】
前記調整工程において、
前記第1解析工程の前記コンプ部材の解析結果から前記第2解析工程の前記第2部材の解析結果の差分が前記第1部材の解析結果として算出される
請求項2又は3に記載の精度管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に用いられる部品の製造方法及び精度管理方法に関する。特には、ヘミング加工される部品を対象としたフレーム剛性と建付精度の予測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、本体部と該本体部の端部位置から延伸するフランジ部とを有するアウターパネルの前記フランジ部を、インナーパネルの縁部に面接触するまで、金型を用いてヘミング加工により折り返すことによって、前記アウターパネルと前記インナーパネルとが接合されるヘミング構造に対し、前記金型による拘束が解除された後のスプリングバックを、容易に解析する方法が開示されている。
【0003】
具体的には、ヘミング加工の完了時におけるアウターパネルとインナーパネルとの形状データのうち、アウターパネルの所定の箇所とインナーパネルの所定の箇所とを接合することによってインナーパネルとアウターパネルとの面接触により生じる摩擦及び充填されたシール剤による接着を近似して、スプリングバックを解析する。これによって、スプリングバックの解析が容易となって、スプリングバックが生じた後のインナーパネルとアウターパネルとの形状を迅速に予測することが可能になる。その結果、ヘミング加工後の製品形状と設計形状との間の面差が基準値以内になるようなヘミング加工の条件を事前検討することができる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-15394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヘミング加工の工程では、複数のサブコンプ部品がマリッジされた状態、すなわちあわされた状態でヘミング加工が行われる。例えば、対象の部品がドア部材部品である場合、インナーパネルとアウターパネルとがあわされた状態でヘミング加工が行われる。そして、ドア部材部品の例では、インナーパネル及びアウターパネルの剛性及び精度が、ドア部材部品の見切り位置、すなわち段差を決める重要な要因となる。
【0006】
しかしながら、従来の技術では、シミュレーションによる解析や評価と現物とが必ずしも一致しない。そのため、サブコンプ部品のポイント毎の剛性と、そのポイントのプロセスにおける移動量との間に関係性が見られない。そこで本発明は、サブコンプ部品のポイント毎の評価に基づいてコンプ部材の精度を調整することが可能になる製造方法及び精度管理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の製造方法は、第1部材のフランジ部を、第2部材の縁部に面接触するまで、ヘミング加工により折り返すことによって折り返し部を形成し、第1部材と第2部材とが接合されたコンプ部材の製造方法であって、コンプ部材のモデルを用いて、折り返し部に設けられた複数の評価部位のうち、特定の評価部位に荷重をかけた際の特定の評価部位の変形量と、特定の評価部位に荷重をかけた際の特定の評価部位以外の評価部位の変形量との割合を有限要素法により解析する第1解析工程と、第2部材のモデルを用いて、第2部材の縁部の端部に設けられた複数の評価部位に対して荷重をかけた際の特定の評価部位の変形量を有限要素法により解析する第2解析工程と、ヘミング加工前の第1部材及び第2部材の複数の評価部位に相当する部位の計測データと、ヘミング加工により形成されたコンプ部材の折り返し部の複数の評価部位の計測データと、を取得する計測データ取得工程と、計測データを第1解析工程により算出した特定の評価部位に対する特定の評価部位以外の評価部位の変形量の割合に応じて、平均化する平均化工程と、第1解析工程と第2解析工程の解析結果から算出される第2部材と第1部材との剛性比と、平均化工程により平均化された計測データから算出される計測データの第2部材と第1部材との移動比率と、の相関関係が高くなるように割合を調整する調整工程と、コンプ部材の評価部位の計測データの値が許容値を超えた場合に、調整工程によって調整された相関関係に基づいて、第2部材の剛性を、当該計測データの値が許容値内に収まるように変更する剛性変更工程と、剛性変更工程によって剛性を変更した第2部材を用いてコンプ部材を製造する製造工程と、を有する。
【0008】
このような製造方法によれば、平均化工程を設けることにより、従来のポイント、すなわち評価部位毎の評価に比べて周辺部位の影響を考慮した関係性を評価することが可能となる。また、調整工程により移動比率と剛性比に相関性を持たせることによって、解析結果からコンプ部材の精度を予測することが可能となる。この評価に基づいてインナーパネルなどの第2部材の剛性を変更することによって、コンプ部材の精度の調整を行うことがより正確にかつ容易に行うことが可能となる。さらには、より高い精度を有するコンプ部材を製造することができる。
【0009】
本発明の精度管理方法は、第1部材のフランジ部を、第2部材の縁部に面接触するまで、ヘミング加工により折り返すことによって折り返し部を形成し、第1部材と第2部材とが接合されたコンプ部材を形成する際の折り返し部の精度を管理する精度管理方法であって、コンプ部材のモデルを用いて、折り返し部に設けられた複数の評価部位のうち、特定の評価部位に荷重をかけた際の特定の評価部位の変形量と、特定の評価部位に荷重をかけた際の特定の評価部位以外の評価部位の変形量との割合を有限要素法により解析する第1解析工程と、第2部材のモデルを用いて、第2部材の縁部の端部に設けられた複数の評価部位に対して荷重をかけた際の特定の評価部位の変形量を有限要素法により解析する第2解析工程と、ヘミング加工前の第1部材及び第2部材の複数の評価部位に相当する部位の計測データと、ヘミング加工により形成されたコンプ部材の折り返し部の複数の評価部位の計測データと、を取得する計測データ取得工程と、計測データを第1解析工程により算出した特定の評価部位に対する特定の評価部位以外の評価部位の変形量の割合に応じて、平均化する平均化工程と、第1解析工程と第2解析工程の解析結果から算出される第2部材と第1部材との剛性比と、平均化工程により平均化された計測データから算出される計測データの第2部材と第1部材との移動比率と、の相関関係が高くなるように割合を調整する調整工程と、コンプ部材の評価部位の計測データの値が許容値を超えた場合に、調整工程によって調整された相関関係に基づいて、第2部材の剛性を、当該計測データの値が許容値内に収まるように変更する剛性変更工程と、を有する。
【0010】
このような精度管理方法によれば、平均化工程を設けることにより、従来のポイント、すなわち評価部位毎の評価に比べて周辺部位の影響を考慮した関係性を評価することが可能となる。また、調整工程により移動比率と剛性比に相関性を持たせることによって、解析結果からコンプ部材の精度を予測することが可能となる。この評価に基づいてインナーパネルなどの第2部材の剛性を変更することによって、コンプ部材の精度の調整を行うことがより正確にかつ容易に行うことが可能となる。
【0011】
本発明の精度管理方法は、計測データ取得工程において、計測データは複数のワークの測定結果の中央値を用いる。
【0012】
クランプなどで強制変位をさせないように計測の対象であるワークを平置きした状態で変位量を測定した場合に、セットずれが生じる場合がある。このような精度管理方法によれば、このセットずれの影響による誤差を少なくすることができる。
【0013】
本発明の精度管理方法は、調整工程において、第1解析工程のコンプ部材の解析結果から第2解析工程の第2部材の解析結果の差分が第1部材の解析結果として算出される。
【0014】
このような精度管理方法によれば、アウターパネルなどの第1部材の単体の解析結果を用いるのではなく、コンプ部材と、インナーパネルなどの第2部材との差異から解析結果が算出される。そのため、解析結果をインナーパネルなどの第2部材により変形される影響を加味した解析として扱うことができるので、実際の変形を考慮した解析結果を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、サブコンプ部品のポイント毎の評価に基づいてコンプ部材の精度を調整することが可能になる製造方法及び精度管理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】コンプ部材の断面を示す図である。
図2】コンプ部材の評価部位を示す図である。
図3】(a)はコンプ部材モデルを示し、(b)は、コンプ部材の断面を示す図である。
図4】コンプ部材について、第1解析工程による解析の結果を示す図である。
図5】(a)は第2部材モデルを示し、(b)は、第2部材の断面を示す図である。
図6】(a)は計測データを取得するための固定治具を示し、(b)は計測データを取得する点の例を示す図である。
図7】計測データ取得工程で取得された計測データを示す図である。
図8】計測の対象物を示し、(a)はSKINを示し、(b)はSUBを示し、(c)はFULLを示す図である。
図9】剛性比と移動比率との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一つの実施形態では、例えば車両のドア部材部品のような蓋物部材において、蓋物部材に含まれるインナーパネルの剛性を高めることにより、折り返し部の位置を修正する方法において、CAE(Computer Aided Engineering)解析を行うことで、特定部位の周辺への影響度を計算し、その影響度に応じて実測値を平均化する。これにより、相関性のあるモデルを構築することができるとともに、そのモデルを基に修正箇所と修正量を算出することができる。
【0018】
本発明の実施形態の精度管理方法及び製造方法の概要について説明する。以下の説明では、サブコンプ部材としての第1部材及び第2部材があわされることで、コンプ部材が形成される場合を例とする。精度管理方法は、第1解析工程、第2解析工程、計測データ取得工程、平均化工程、調整工程及び剛性変更工程を順に含む。製造方法は、精度管理方法が備えるこれらの各工程に加えて製造工程を含む。製造工程は、剛性変更工程の後に配置される。
【0019】
第1解析工程では、モデルを用いて、コンプ部材において、荷重がかけられた部位と、それ以外の評価部位との変化量の割合を解析する。第2解析工程では、モデルを用いて、第2部材に荷重がかけられた際の変化量を解析する。計測データ取得工程では、第1部材、第2部材及びコンプ部材について、設計値とのずれ量を計測データとして取得する。平均化工程では、第1部材、第2部材及びコンプ部材の計測データを、コンプ部材の変化量の割合で平均化する。調整工程では、第2部材と第1部材との剛性比と、第2部材と第1部材との移動比率との相関関係が高くなるように、平均化に用いる割合を調整する。剛性変更工程では、コンプ部材の計測データが許容値を超えた場合に、調整工程で調整された相関関係に基づいて、第2部材の剛性を変更する。製造方法では、さらに、製造工程において剛性が変更された第2部材を用いてコンプ部材を製造する。
【0020】
本発明の実施形態の精度管理方法及び製造方法では、平均化工程が含まれることで、周辺部位の影響を考慮した評価を行うことができる。そして、この評価に基づいて第2部材の剛性を変更することによって、コンプ部材の精度をより正確に調整することができる。
【0021】
以下、図面を参照しながら、各工程について順に説明する。本実施形態の精度管理方法及び製造方法は、第1部材のフランジ部を、第2部材の縁部に面接触するまでヘミング加工により折り返すことによって折り返し部を形成し、第1部材と第2部材とが接合されたコンプ部材を製造することに関する。
【0022】
図1は、コンプ部材1の断面を示す図である。以下の説明では、コンプ部材1の一例として、コンプ部材1が自動車のドア部材である場合を説明する。図1に示すように、コンプ部材1は、第1部材10と第2部材20とを備える。コンプ部材1が自動車のドア部材である場合、第1部材10は、ドア部材のアウターパネルとなる。また、第2部材20は、ドア部材のインナーパネルとなる。第1部材10は、そのフランジ部12がヘミング加工により折り返されることで、第2部材20の縁部の端部22と面接触している。また、第1部材10には、そのフランジ部12が折り返されることで、折り返し部14が形成されている。
【0023】
<第1解析工程>
第1解析工程では、コンプ部材1のモデルであるコンプ部材モデルを用いて、荷重がかけられた際の変化量が解析される。図2は、コンプ部材1及びコンプ部材1における第1の評価部位40を示す図である。荷重は、第1の評価部位40にかけられる。そして、荷重がかけられたことによる第1の評価部位40の変化量が求められる。図2に示すように、第1の評価部位40は、コンプ部材1の縁部3に複数個設けられている。コンプ部材1の縁部3は、第1部材10の折り返し部14(図2に不図示、図1に図示)に対応する。第1の評価部位40は、例えば、10mmピッチでコンプ部材1の縁部3に網目状に配置することができる。
【0024】
図3は、コンプ部材モデルを説明するための図である。図3(a)は、コンプ部材モデル50を示す。コンプ部材モデルとは、コンプ部材1の変位などを評価するための評価モデルである。図3(b)は、コンプ部材1の断面を示す。図3(a)に示すように、コンプ部材モデルには、複数個の第1の評価部位40が図2と同様の位置に配置されている。そして、各第1の評価部位40において、荷重がかけられた際の変位が求められる。図3(b)には、入力としての荷重が矢印A1で示されている。また、図3(b)には、出力としての変位が矢印A2で示されている。図3(b)の矢印A1に示すように、荷重は、コンプ部材1の外側からコンプ部材1に加えられる。そして、図3(b)の矢印A2に示すように、コンプ部材1の内側への変位が求められる。この変位の量が変形量となる。なお、コンプ部材1の外側とは、コンプ部材1がドア部材である場合に、ドア部材の車外側の側である。また、コンプ部材1の内側とは、コンプ部材1がドア部材である場合に、ドア部材の車内側の側である。なお、解析する際の拘束条件としては、後述する計測データ取得工程において、固定治具に固定した条件と同等の条件に設定している。
【0025】
変位の求め方は次の通りである。まず、1つの第1の評価部位40に荷重がかけられる。それに対する変形量が、荷重がかけられた第1の評価部位40、及び、荷重がかけられなかった他の第1の評価部位40において求められる。そして、折り返し部14に設けられた複数の第1の評価部位40において、同様の評価が行われる。このようにして、特定の第1の評価部位40に荷重をかけた際の当該特定の第1の評価部位40の変形量と、特定の第1の評価部位40に荷重をかけた際の当該特定の第1の評価部位40以外の第1の評価部位40の変形量との割合を有限要素法により解析する。
【0026】
図4は、コンプ部材1について、第1解析工程による解析の結果を示す図である。図4に示す表の縦列及び横列は、第1の評価部位40の位置を示す。詳しくは、縦列は、荷重がかけられた第1の評価部位40を示す。横列は、その際に変形量が求められた第1の評価部位40を示す。表内の数値は、変形量を示す。数値の単位は、mmである。図4の中の7Hや6Tなどは、第1の評価部位40の位置を示す。また、FULLは、評価の対象がコンプ部材1であることを示す。FULLについては、図8に示す。また、FR、Side及びRRは、第1の評価部位40の位置の区分を示す。FRは前側を示し、Sideは横側を示し、RRは後側を示す。
【0027】
図4に示す表の中の色の濃いい部分(斜線部分)は、特定の第1の評価部位40に荷重をかけた際の当該特定の第1の評価部位40の変形量を示す。また、それと同じ行の他の数値は、特定の第1の評価部位40に荷重をかけた際の当該特定の第1の評価部位40以外の第1の評価部位40の変形量を示す。このような複数の測定値を用いて、第1解析工程では、折り返し部14に設けられた複数の第1の評価部位40のうち、特定の第1の評価部位40に荷重をかけた際の当該特定の第1の評価部位40の変形量と、特定の第1の評価部位40に荷重をかけた際の当該特定の第1の評価部位40以外の第1の評価部位40の変形量との割合を有限要素法により解析する。なお、図4に示す変形量は、前述のようにコンプ部材1についての変形量である。第1解析工程では、図4に示す解析結果と同様の解析結果を、第2部材20についても取得してもよい。
【0028】
<第2解析工程>
第2解析工程では、第2部材モデル52を用いて、荷重がかけられた際の変化量が解析される。第2部材モデル52とは、第2部材20の変位などを評価するための評価モデルである。第1解析工程では、コンプ部材モデル50を用いて、コンプ部材1についての変形量が解析された。第2解析工程では、解析の対象が第2部材20となる。また、第1解析工程では、荷重をかけた第1の評価部位40と、それ以外の第1の評価部位40との変形量の割合が解析された。第2解析工程では、荷重をかけた第2の評価部位42の変形量が解析される。
【0029】
図5は、第2部材モデル52を説明するための図である。図5(a)は、第2部材モデル52を示す。図5(b)は、第2部材20の断面を示す。本実施形態では、第2部材20は、インナーパネルである。そのため、第2部材モデル52は、インナーパネルモデルとも称される。図5(a)に示すように、第2部材モデル52には、第2部材20の縁部の端部22にコンプ部材の第1の評価部位40に相当する位置に複数個の第2の評価部位42が配置されている。そして、各第2の評価部位42において、荷重がかけられた際の変位が求められる。図5(b)には、入力としての荷重が矢印A1で示されている。また、図5(b)には、出力としての変位が矢印A2で示されている。図5(b)の矢印A1に示すように、荷重は、第2部材20の外側から第2部材20に加えられる。そして、図5(b)の矢印A2に示すように、第2部材20の内側への変位が求められる。この変位の量が変形量となる。なお、第2部材20の外側及び内側とは、第2部材20がドア部材に組み立てられた際の、ドア部材の外側及び内側に対応する。
【0030】
具体的には、荷重は、各第2の評価部位42にかけられる。そして、それに対する変形量が、荷重がかけられた第2の評価部位42において求められる。そして、第2部材20の縁部の端部22に設けられた複数の第2の評価部位42に対して荷重をかけた際の、当該特定の第2の評価部位42の変形量を有限要素法により解析する。
【0031】
<計測データ取得工程>
計測データ取得工程では、ヘミング加工前の第1部材10の評価部位に相当する部位、及びヘミング加工前の第2部材20の評価部位に相当する部位について計測データを取得する。ここで、評価部位に相当する部位とは、第2解析工程で第2部材モデル52において設定されていた第2の評価部位42を意味する。また、これらの第2の評価部位42に加えて、第1解析工程でコンプ部材モデルにおいて設定されていた第1の評価部位40を含めることもできる。
【0032】
加えて、計測データ取得工程では、ヘミング加工により形成されたコンプ部材1の折り返し部14の複数の評価部位の計測データを取得する。なお、計測データ取得工程で取得される計測データとは、設計値に対する位置のずれ量を意味する。
【0033】
計測データの取得は、その対象を固定治具80に固定した状態で行うこともできる。図6(a)及び図6(b)は、計測データを取得する際に用いることができる固定治具80を示す図である。図6(a)は、固定治具80、及び固定治具80に固定された第2部材20としてのインナーパネルの上面図を模式的に示す。固定治具80とは、計測の対象物を固定できるものであれば特には限定されない。固定治具80は、例えば、インナーパネルのような基準孔が配置されているワークでは、基準孔及び基準面を用いてワークを固定治具80に載置することができ、アウターパネルのような測定用の基準孔を配置できない場合には、図6に示すような立体型のフレームのような治具を用いてアウターパネルの2辺を突き当てることによって測定基準を設けるような構造であってもよい。また、固定治具80は、図6(b)に示すような保持用のクランプ82を備えていてもよい。
【0034】
図7は、計測データ取得工程で取得された計測データを示す図である。図7に示す表の縦列は、計測の対象物を示している。上から順にSKIN、SUB、FULLである。図8にそれぞれの対象物を図示する。図8は、計測の対象物を示す図である。図8(a)はSKIN、すなわち第1部材10としてのアウターパネルを示し、図8(b)はSUB、すなわち第2部材20としてのインナーパネルを示し、図8(c)はFULL、すなわちコンプ部材1としてのドア部材を示す。また、図7に示す段差とは、設計値に対する位置のずれ量を示す。表中の数値は、段差の値をmmで示している。図7の中の7Hや6Tなどは、図4と同様に計測位置を示す。また、FR、Side及びRRも、図4と同様に、計測位置の区分を示す。FRは前側を示し、Sideは横側を示し、RRは後側を示す。
【0035】
計測データ取得工程において取得する計測データは、複数のワークの測定結果の中央値を用いることが好ましい。ここで、ワークとは、第1部材、第2部材及びコンプ部材1の各々をさす。計測データとして、複数のワークの測定結果の中央値を用いることで、ワークを平置きした状態で変位量を測定した場合に起こるセットずれの影響による誤差を少なくすることができる。なお、平置きした状態とは、クランプなどでワーク強制変位させられていない状態を意味する。図7の中のSKINとは、平置きした状態で計測されたことを示している。
【0036】
<平均化工程>
平均化工程では、計測データ取得工程で取得された計測データを平均化する。この平均化は、第1解析工程で算出された特定の第1の評価部位40に対する特定の第1の評価部位40以外の第1の評価部位40の変形量の割合に応じて行われる。図7に示す矢印A3は、例えば、変形量の割合を30%以上とした場合に平均化される計測データの範囲を示す。この場合は、ある第1の評価部位40について、その第1の評価部位40からの変形量の割合が30%以上の範囲の第1の評価部位40の計測データを平均して、そのある第1の評価部位40の計測データとしている。なお、平均化の際に用いられる変化量の割合は、次の調整工程で調整される。
【0037】
<調整工程>
調整工程では、平均化工程で用いられる割合を調整する。調整は、第2部材と第1部材とについて、その剛性比と移動比率との相関が高くなるように調整される。そのため、調整工程では、まず、第2部材と第1部材との剛性比を求める。剛性比は、第1解析工程でのコンプ部材モデルを用いた解析結果、及び第2解析工程での第2部材モデルを用いた解析結果から求められる。
【0038】
剛性比を求める際、第1解析工程のコンプ部材の解析結果から第2解析工程の第2部材の解析結果の差分が第1部材の解析結果として算出される。すなわち、第1部材(アウターパネル(SKIN))の変位=コンプ部材(ドア部材(FUL))の変位-第2部材(インナーパネル(SUB))の変位、であり、剛性比=第2部材(インナーパネル(SUB))の変位/第1部材(アウターパネル(SKIN))の変位=第2部材(インナーパネル(SUB))の変位/(コンプ部材(ドア部材(FUL))の変位-第2部材(インナーパネル(SUB))の変位)となる。
なお、剛性比の求め方としては、実施例としては解析の際に評価部位に掛ける荷重を第1解析工程と第2解析工程で変化させず、評価部位毎にかける荷重も同じ荷重とした場合について、変位量を用いた剛性の算出方法を記載しているが、剛性は、荷重と移動量の割合を指す。例えば、0.5mm変位させるのに必要な荷重「N」を剛性としてもよい。
【0039】
このように、第1部材単体の解析結果を用いるのではなく、コンプ部材1と第2部材20との差異からの解析結果として、第1部材10の単体の値を算出することによって、第2部材20、すなわちインナーパネルによって変形される影響を加味した解析結果として第1部材10の単体の値を扱うことができる。これにより、実際の変形を考慮した解析結果を得ることができる。
【0040】
移動比率は、平均化工程で平均化された計測データを用いて算出される。具体的には、平均化された第1部材(アウターパネル(SKIN))の移動量、及び、平均化された第2部材(インナーパネル(SUB))の移動量から、移動比率が算出される。すなわち、移動比率=平均化された第1部材(アウターパネル(SKIN))の移動量/平均化された第2部材(インナーパネル(SUB))の移動量、となる。ここで、移動量はヘミングによる変形量を意味する。
【0041】
図9は、第1部材10と第2部材20との剛性比と、第2部材20と第1部材10との移動比率との相関を示す図である。図9に示すグラフのX軸は、第1部材10と第2部材20と剛性比を示す。図9に示すグラフのY軸は、第2部材20と第1部材10と移動比率、すなわち、移動量の比を示す。剛性比と移動比率との相関関係が高くなるように、平均化工程で用いる割合を調整する。具体的には、評価部位とごとの複数個のプロットPが1つの関係性に相関良く帰されるように、割合を調整する。ここで、相関良くとは、例えば、図9に示す線Lのように、複数個のプロットPの関係性が、予想式を示す一つの線Lに近似されることなどをいう。
【0042】
<剛性変更工程>
剛性変更工程では、コンプ部材1の計測データが許容値の範囲内に収まるように第2部材20の剛性を変更する。そして第2部材20でコンプ部材1を矯正することで、コンプ部材1の計測データ(移動比率)を許容値の範囲内に収める。コンプ部材1がドア部材であり、第2部材20がインナーパネルである場合、アウターパネルは意匠に関わることから剛性を変更が容易でないため、インナーパネルの剛性を変更することにより、コンプ部材の位置を変更することが、好ましい。しかし、昨今、アウターパネルの剛性が高まってきているため、コンプ部材1の形態を第2部材20で矯正することが重要になってきている。第2部材の剛性を変更する際、調整工程によって調整された相関関係に基づいて、剛性を決定する。この剛性の変更により、コンプ部材1の第1の評価部位40の計測データ(移動比率)の値を許容値内に収まるようにする。例えば、図9に示す点P1を、第2部材20の剛性を変更することで、線Lの関係に沿って、矢印A4のように、点P2に移動させることができる。すなわち、剛性を調整することで移動量を調整することができる。なお、剛性を変更する部材は、第2部材20に限定されるものではない。第1部材10の剛性を変更することで、移動量を調整することもできる。
【0043】
本実施形態の精度管理方法には、前述の第1解析工程から剛性変更工程までが含まれる。本実施形態の製造方法は、第1解析工程から剛性変更工程までに加えて、剛性変更工程の後に、製造工程を含む。以下、製造工程について説明する。
【0044】
<製造工程>
製造工程では、剛性変更工程によって剛性を変更した第2部材20を用いてコンプ部材1を製造する。これにより、計測データの値が許容値内に収まったコンプ部材1を製造することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 コンプ部材(ドア部材、FULL)
3 コンプ部材の縁部
10 第1部材(アウターパネル、SKIN)
12 フランジ部
14 折り返し部
20 第2部材(インナーパネル、SUB)
22 縁部の端部
40 第1の評価部位(評価部位)
42 第2の評価部位(評価部位)
50 コンプ部材モデル
52 第2部材モデル
80 固定治具
82 クランプ
A1 荷重(入力)
A2 変位(出力)
A3 平均化の範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9