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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048359
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/02 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
B01D63/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023142468
(22)【出願日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2022154216
(32)【優先日】2022-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】中元 浩平
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006HA02
4D006JA13A
4D006JA13C
4D006JA14A
4D006JA18A
4D006JA23A
4D006JA25A
4D006JA25C
4D006JA27A
4D006JA30A
4D006JB06
4D006KA12
4D006KE06R
4D006MA01
4D006MA21
4D006MA31
4D006MA33
4D006MB16
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC24
4D006MC29
4D006MC33
4D006MC34
4D006MC39
4D006MC46
4D006MC54
4D006MC61
4D006MC62
4D006MC63
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB08
4D006PC01
4D006PC11
(57)【要約】
【課題】熱サイクルが繰り返し負荷された場合にも破損するのを抑制することができる中空糸膜モジュールを提供する。
【解決手段】中空糸膜モジュール1は、複数本の中空糸膜11からなる中空糸膜束と、中空糸膜束を収容し且つ側面にノズル部18を有する筒状ケース13と、筒状ケース13内の中空糸膜束の両端部において、中空糸膜11の外面同士及び当該外面と筒状ケース13の内面との隙間を封止するポッティング材からなる一対の接着固定部12と、一対の接着固定部12よりも筒状ケース13の長手方向の中心側において、中空糸膜束の両端部をそれぞれ全周に渡って囲むように配置された一対の整流筒36とを備える。ここで、整流筒36における接着固定部12側の一端部と接着固定部12とが離間されていることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の中空糸膜からなる中空糸膜束と、
前記中空糸膜束を収容し且つ側面にノズル部を有する筒状ケースと、
前記筒状ケース内の前記中空糸膜束の両端部において、前記中空糸膜の外面同士及び当該外面と前記筒状ケースの内面との隙間を封止するポッティング材からなる一対の接着固定部と、
前記一対の接着固定部よりも前記筒状ケースの長手方向の中心側において、前記中空糸膜束の両端部をそれぞれ全周に渡って囲むように配置された一対の整流筒と、
を備え、
前記整流筒における前記接着固定部側の一端部と前記接着固定部とが離間されていることを特徴とする中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記整流筒の前記一端部と前記接着固定部との離間距離が1mm以上20mm以下である、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記整流筒の前記一端部と前記接着固定部との前記離間距離が1mm以上10mm以下である、請求項2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記整流筒の前記一端部と前記接着固定部との離間距離が前記整流筒の周方向に沿って変動しており、前記離間距離の最長距離と最短距離との差が5mm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記整流筒の長手方向の幅が前記整流筒の周方向に沿って変動しており、前記幅の最長値と最短値との差が0mm以上20mm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
前記整流筒の側面に複数の貫通孔が設けられており、
前記貫通孔の開口率が5%以上40%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項7】
前記貫通孔は、前記筒状ケースの内部を前記ノズル部の軸方向から見た際に、前記ノズル部の内部の領域と前記貫通孔とが重複しない位置に設けられている、請求項6に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項8】
前記整流筒と前記接着固定部との間の離間空間において、該離間空間に存在しない前記整流筒の側面の面積をSg、前記複数の貫通孔の面積の合計をShとしたとき、SgおよびShがSg≦Shの関係を満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項9】
前記ノズル部の内径断面積をSnとしたとき、Sn≦Sg+Shの関係を満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項10】
前記整流筒の前記筒状ケースの中心部側の他端部にツバ部が設けられており、
前記ツバ部の一部分に前記整流筒の回転を規制する規制部が設けられている、請求項1~3のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上下水処理、医薬品製造、半導体製造、及び食品工業等の分野において、気液吸収、脱気、ろ過等の用途で、複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束をモジュールケース内に収容した中空糸膜モジュールが広く使用されている。
【0003】
中空糸膜モジュールには、数百本~数万本の中空糸膜を束ねた中空糸膜束が長さ200~2000mmの筒状のモジュールケースに収容されており、ポッティング材によって、中空糸膜束の両端部がモジュールケースの内壁に接着固定されている。そして、処理対象の被処理水をモジュールケース内に供給し、被処理水を中空糸膜内に透過させることによって、ろ過水が得られるように構成されている。
【0004】
上記中空糸膜モジュールには、被処理水を中空糸膜の内側表面(以下、「内面」と言う。)から外側表面(以下、「外面」と言う。)へ透過させてろ過水を得る内圧式のもの(例えば、特許文献1参照)および外面から内面へ透過させる外圧式のもの(例えば、特許文献2参照)が存在する。
【0005】
図1は、従来の内圧ろ過方式の中空糸膜モジュールの一例を示している。図1に示した中空糸膜モジュール10は、複数本の中空糸膜11からなる中空糸膜束と、中空糸膜束を収容し且つ側面にノズル部18を有する筒状ケース13と、筒状ケース13内の中空糸膜束の両端部において、中空糸膜11の外面同士及び当該外面と筒状ケース13の内面との隙間を封止するポッティング材からなる一対の接着固定部12と、一対の接着固定部12よりも筒状ケース13の長手方向の中心側において、中空糸膜束の両端部をそれぞれ囲むように配置された一対の整流筒26とを備える。
【0006】
上記整流筒26は、洗浄時にノズル部18から液体を中空糸膜モジュール10内に導入した際に、中空糸膜11が洗浄液によって負荷を受けて破損するのを抑制するために設けられた部材であり、その一端部26aが接着固定部12内に埋没している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/043679号
【特許文献2】国際公開第2018/143250号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、中空糸膜モジュールはバイオ医薬品の培養工程や注射用水の製造に使用されることがある。バイオ医薬品とは遺伝子組み替えを施した大腸菌や酵母、動物細胞を培養することによって産生される抗体などの物質を指す。また注射用水とは、精製水を蒸留または限外ろ過により精製し、発熱性物質が除去されたものを指す。これらの用途においては、使用前の洗浄、および製造バッチ間に中空糸膜モジュールを洗浄し、繰り返し使用する場合がある。上記洗浄においては、熱水(例えば、80℃以上)や蒸気を利用して中空糸膜モジュール内の殺菌が行われ、それにより、中空糸膜モジュールには、高温と低温との間の熱サイクルが負荷される。
【0009】
ところが、図1に示した従来の中空糸膜モジュール10においては、接着固定部12の線膨張係数と、接着固定部12に一端部26aが埋没している整流筒26の線膨張係数とは一般に異なる。そのため、中空糸膜モジュール10に熱サイクルが繰り返し負荷されると、整流筒26の埋没箇所を起点として接着固定部12内にクラックが発生して中空糸膜モジュール10が破損するおそれがある。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熱サイクルが繰り返し負荷された場合にも破損するのを抑制することができる中空糸膜モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]複数本の中空糸膜からなる中空糸膜束と、
前記中空糸膜束を収容し且つ側面にノズル部を有する筒状ケースと、
前記筒状ケース内の前記中空糸膜束の両端部において、前記中空糸膜の外面同士及び当該外面と前記筒状ケースの内面との隙間を封止するポッティング材からなる一対の接着固定部と、
前記一対の接着固定部よりも前記筒状ケースの長手方向の中心側において、前記中空糸膜束の両端部をそれぞれ囲むように配置された一対の整流筒と、
を備え、
前記整流筒における前記接着固定部側の一端部と前記接着固定部とが離間されていることを特徴とする中空糸膜モジュール。
【0012】
[2]前記整流筒の前記一端部と前記接着固定部との離間距離が1mm以上20mm以下である、前記[1]に記載の中空糸膜モジュール。
【0013】
[3]前記整流筒の前記一端部と前記接着固定部との前記離間距離が1mm以上10mm以下である、前記[2]に記載の中空糸膜モジュール。
【0014】
[4]前記整流筒の前記一端部と前記接着固定部との離間距離が前記整流筒の周方向に沿って変動しており、前記離間距離の最長距離と最短距離との差が5mm以下である、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【0015】
[5]前記整流筒の長手方向の幅が前記整流筒の周方向に沿って変動しており、前記幅の最長値と最短値との差が0mm以上20mm以下である、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【0016】
[6]前記整流筒の側面に複数の貫通孔が設けられており、
前記貫通孔の開口率が5%以上40%以下である、前記[1]~[5]のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【0017】
[7]前記貫通孔は、前記筒状ケースの内部を前記ノズル部の軸方向から見た際に、前記ノズル部の内部の領域と前記貫通孔とが重複しない位置に設けられている、前記[6]に記載の中空糸膜モジュール。
【0018】
[8]前記整流筒と前記接着固定部との間の離間空間において、該離間空間に存在しない前記整流筒の側面の面積をSg、前記複数の貫通孔の面積の合計をShとしたとき、SgおよびShがSg≦Shの関係を満たす、前記[1]~[7]のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【0019】
[9]前記ノズル部の内径断面積をSnとしたとき、Sn≦Sg+Shの関係を満たす、前記[1]~[8]のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【0020】
[10]前記整流筒の前記筒状ケースの中心部側の他端部にツバ部が設けられており、
前記ツバ部の一部分に前記整流筒の回転を規制する規制部が設けられている、前記[1]~[9]のいずれか一項に記載の中空糸膜モジュール。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、中空糸膜モジュールに熱サイクルが繰り返し負荷された場合にも、中空糸膜モジュールが破損するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】従来の内圧ろ過方式の中空糸膜モジュールの一例を示す図である。
図2】本発明による内圧ろ過方式の中空糸膜モジュールの一例を示す図である。
図3】(a)は遠心接着法により接着固定部を形成する際の方向を説明する図、(b)は(a)における(A)-(B)方向の接着固定部の厚み、(c)は(a)における(C)-(D)方向の接着固定部の厚みを示す図である。
図4】整流筒の例の展開図である。
図5】貫通孔を有する整流筒の一例を示す図である。
図6】貫通孔を有する整流筒の別の例を示す図である。
図7】ツバ部に規制部を有する整流筒の例を示す図である。
図8】本発明による中空糸膜モジュールの運転方法を説明する図である。
図9】本発明による中空糸膜モジュールの逆圧洗浄方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本発明による中空糸膜モジュールは、複数本の中空糸膜からなる中空糸膜束と、上記中空糸膜束を収容し且つ側面にノズル部を有する筒状ケースと、上記筒状ケース内の中空糸膜束の両端部において、中空糸膜の外面同士及び当該外面と筒状ケースの内面との隙間を封止するポッティング材からなる一対の接着固定部と、上記一対の接着固定部よりも筒状ケースの長手方向の中心側において、中空糸膜束の両端部をそれぞれ全周に渡って囲むように配置された一対の整流筒とを備える。ここで、上記整流筒における接着固定部側の一端部と接着固定部とが離間されていることを特徴とする。
【0024】
図2は、本発明による内圧ろ過方式の中空糸膜モジュールの一例を示している。なお、図1に示した中空糸膜モジュール10と同じ構成には、同じ符号が付されている。図2に示した中空糸膜モジュール1と図1に示した中空糸膜モジュール10との相違点は、中空糸膜モジュール1においては、整流筒36における接着固定部12側の一端部36aと接着固定部12とが離間されていることである。
【0025】
上述のように、図1に示した従来の中空糸膜モジュール10においては、整流筒26の一端部26aが接着固定部12内に埋没している。そのため、中空糸膜モジュール10をバイオ医薬品の製造などに使用して洗浄時に中空糸膜モジュール10に熱サイクルが繰り返し負荷されると、接着固定部12内にクラックが発生して中空糸膜モジュール10が破損するおそれがある。
【0026】
そこで、本発明者は、熱サイクルが繰り返し負荷された場合にも破損するのを抑制することができる中空糸膜モジュールについて鋭意検討した。その結果、整流筒における接着固定部側の一端部と接着固定部とを離間する構成とすることに想到し、本発明を完成させるに至ったのである。これにより、中空糸膜モジュール1に熱サイクルが繰り返し負荷された場合にも、中空糸膜モジュール1が破損するのを抑制することができる。同時に、内圧ろ過方式で使用される中空糸膜モジュール1の洗浄工程には、中空糸膜11の外面側から内面側に洗浄操作を実施する逆圧洗浄工程が含まれることがあるが、整流筒36と接着固定部12との離間距離を調整することにより、逆圧洗浄時の液体の流れに対しても耐久性を向上させることができる。
【0027】
このように、本発明による中空糸膜モジュール1は、整流筒36の接着固定部12側の一端部36aが接着固定部12から離間されていることを特徴とするものであり、その他の構成については従来公知の構成を適宜用いることができ、限定されない。以下、本発明について具体的に説明するが、それに限定されない。
【0028】
中空糸膜11は多孔質であり、通過する流体をろ過する。本発明においては、中空糸膜11は、複数本の中空糸膜11からなる中空糸膜束として筒状ケース13に挿入された状態で収容されている。
【0029】
なお、中空糸膜11の材質は特に制限されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、アクリロニトリル、ならびに酢酸セルロース等が用いられている。中でも、結晶性を有する、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、及びポリフッ化ビニリデン等の結晶性熱可塑性樹脂は、強度発現の面から好適に用いることができる。さらに好適には、疎水性ゆえ耐水性が高く、通常の水系液体のろ過において耐久性が期待できる、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等を用いることができる。特に好適には、耐薬品性等の化学的耐久性に優れるポリフッ化ビニリデンを用いることができる。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマーや、フッ化ビニリデンの比率が50モル%以上であるフッ化ビニリデン共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニリデンと、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンまたはエチレンから選ばれた1種以上との共重合体が挙げられる。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマーが最も好ましい。
【0030】
中空糸膜11のサイズは特に限定しないが、中空糸膜11の内径0.4~3mm、外径0.8~6mm、膜厚0.2~1.5mm、中空糸膜11の阻止孔径0.02~1μm、膜間差圧0.1~1.0MPaの耐圧性を備えたものが好ましく用いられる。
【0031】
接着固定部12は、ポッティング材からなり、中空糸膜11の少なくとも一部を筒状ケース13に固定している。本発明においては、接着固定部12は、中空糸膜11の両端部と一体化して、後述する筒状ケース13のケース本体14に固定されている。本発明において、接着固定部12は、中空糸膜11の外面とケース本体14の内面との間にポッティング材を充填して硬化させることにより、形成されている。
【0032】
なお、接着固定部12を構成するポッティング材の材質は特に制限されないが、例えば、二液混合型硬化性樹脂が適用され、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びシリコン樹脂等が好適に用いられている。ポッティング材は、粘度、可使時間、硬化物の硬度や機械的強度、及び被処理水に対する物理的及び化学的安定性、中空糸膜11との接着性、ケース本体14との接着性を勘案して、適切に選定することが望ましい。例えば、製造時間の短縮化及び生産性の向上の観点からは、可使時間の短いウレタン樹脂を用いることが好ましい。また、機械的強度が求められる場合は、機械的耐久性を有するエポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、ポッティング材にはこれらの樹脂を複数用いてもよい。
【0033】
筒状ケース13は、中空糸膜11を収容している。筒状ケース13のサイズは特に限定しないが、全長700~2500mm、外径20~250mmであることが好ましい。筒状ケース13の肉厚は2~20mmであることが望ましく4~18mmであることがより望ましい。筒状ケース13は、ケース本体14および2つのキャップ部材15を備えている。
【0034】
ケース本体14は、本発明においては、全体として筒状の筒状体であり、当該筒状体の内部に中空糸膜11を収容している。ケース本体14は、本発明においては、別部材である、パイプ状部16および2つのヘッダ部17を備えている。ただし、パイプ状部16およびヘッダ部17は分割されない単一の部材であってもよい。
【0035】
パイプ状部16は、本発明において、筒状をなしている。パイプ状部16の軸方向の両端部それぞれに、ヘッダ部17が係合している。本実施形態においては、パイプ状部16と両ヘッダ部17とを接着することにより、一体化されたケース本体14が形成されている。
【0036】
また、本発明において、ヘッダ部17には、整流筒36が固定されて一体化されている。整流筒36は、その内部とパイプ状部16の内部とが連通し、かつ互いに軸線が一致するように、パイプ状部16に係合されている。つまり、整流筒36とパイプ状部16の内径の差が1mm以内であり、かつ両者の中心が重なるように係合されているとよい。これにより、中空糸膜11が揺動によって係合部に接触したとしても、係合部で発生する段差が極めて低く抑えられているため、中空糸膜11が整流筒36とパイプ状部16との係合部で擦れたり破損したりすることを防止できる。
【0037】
ヘッダ部17は、本発明において、ノズル部18を有している。ノズル部18は、整流筒36の軸方向に対して垂直に突出するように、整流筒36の側面外側の位置に設けられている。ノズル部18は、ヘッダ部17の軸方向において接着固定部12よりもパイプ状部16側に設けられている。
【0038】
ノズル部18は、ヘッダ部17の内部と外部との間で流体を通過させるポートとして機能する。したがって、ノズル部18は、ケース本体14の内面、各中空糸膜11の外面、および接着固定部12のケース本体14の中心部側の露出面によって画定される内部空間に外部から流体を流入させることができ、また当該内部空間から外部に流体を流出させることができる。
【0039】
キャップ部材15は、本発明において、一端が開放された筒状又はテーパ形状をなしている。キャップ部材15の開放された一端は、ケース本体14の軸方向の両端において、ケース本体14に係合している。本発明において、キャップ部材15は、ナット19によりケース本体14に固定されている。なお、キャップ部材15と接着固定部12およびケース本体14の少なくとも一方との間にはOリング20が設けられ、キャップ部材15およびケース本体14により画定される内部空間が液密に密封されている。
【0040】
キャップ部材15の閉鎖端またはテーパ形状部の細径部側に、管路21が設けられている。管路21は、ケース本体14の軸方向に平行に突出している。管路21は、キャップ部材15の内部及び外部間で流体を通過させるポートとして機能する。したがって、管路21は、キャップ部材15及び接着固定部12によって画定される内部空間に外部から流体を流入させることができ、また当該内部空間から外部に流体を流出させることができる。
【0041】
整流筒36は、洗浄時にノズル部18から液体を中空糸膜モジュール1内に導入した際に、液体の流れを抑制して、中空糸膜11が洗浄液によって負荷を受けて破損するのを抑制するために設けられた部材である。
【0042】
本発明においては、従来の中空糸膜モジュール10においては接着固定部12内に埋没していた一端部36aが、接着固定部12から離間されていることが肝要である。これにより、中空糸膜モジュール1に熱サイクルが繰り返し負荷された場合にも、接着固定部12にクラックが発生して、中空糸膜モジュール1が破損するのを抑制することができる。
【0043】
上記整流筒36の一端部36aと接着固定部12との離間距離は、1mm以上20mm以下であることが好ましい。これにより、中空糸膜モジュール1に熱サイクルが繰り返し負荷された場合における中空糸膜モジュール1の破損抑制効果と、洗浄時にノズル部18からの導入された液体による中空糸膜の破損抑制効果とを良好に両立させることができる。整流筒36の一端部36aと接着固定部12との離間距離は、1mm以上10mm以下であることがより好ましい。
【0044】
ところで、中空糸膜束を筒状ケース13に固定する接着固定部12は、例えば遠心接着法により形成すると、その厚みが均一にならない場合がある。遠心接着法により中空糸膜11の外面同士及び当該外面と筒状ケース13の内面との隙間を封止する場合、中空糸膜モジュール1をその軸が水平になるように配置した状態で、中空糸膜束の両端部にポッティング材を供給し、中空糸膜モジュール1を鉛直方向に平行な軸の周りに回転させて、中空糸膜11の外面同士及び当該外面と筒状ケース13の内面との隙間を封止する。その際、ポッティング材にかかる重力および遠心力の影響によって、接着固定部12の厚みは均一にならない。
【0045】
具体的には、図3(b)に示すように、図3(a)の(A)-(B)方向については、中心部よりも周囲の厚みの方が大きくなる場合がある。また、図3(c)に示すように、図3(a)の(C)-(D)方向については、下方の(D)側の厚みの方が、上方の(C)側の厚みよりも大きくなる場合がある。
【0046】
このように、例えば遠心接着法により中空糸膜11の外面同士および当該外面と筒状ケース13の内面との隙間を封止すると、接着固定部12の厚みが均一にならない場合がある。接着固定部12の厚みが均一でない場合には、整流筒36による洗浄時の液体の整流効果が整流筒36の周方向に均一にならず、洗浄時の中空糸膜11の破損防止効果が低減するおそれがある。
【0047】
そこで、整流筒36の接着固定部12側の一端部36aは、接着固定部12の厚みに応じた形状を有するように構成して、整流筒36の一端部36aと接着固定部12との離間距離を、整流筒36の周方向に沿って均一にすることが好ましい。具体的には、整流筒36の一端部36aの形状を接着固定部12の厚みに応じて整流筒36の周方向に沿って変動させて、整流筒36の一端部36aと接着固定部12との離間距離の最長距離と最短距離との差を5mm以下とすることが好ましい。これにより、整流筒36による洗浄時の液体の整流効果を整流筒36の周方向により均一にして、中空糸膜11の破損抑制効果を整流筒36の周方向により均一にすることができる。
【0048】
整流筒36の一端部36aの形状を整流筒36の周方向に沿って変動させる場合(例えば、一端部36aの形状を整流筒36の周方向に沿って波状にする場合)、整流筒36の長手方向(軸方向)の幅の最長値と最短値との差が0mm超20mm以下であることが好ましい。これにより、接着固定部12の周方向における厚みの違いに対応することが可能となり、整流筒36の一端部36aと接着固定部12との離間距離の最長距離と最短距離との差を一定の範囲内に制御することができる。
【0049】
図4は、整流筒36の例の展開図を示しており、36aは接着固定部12側の一端部、36bは、中空糸膜モジュール1の中心側の他端部36bを示している。図4(a)および(b)に展開図を示した整流筒36は、接着固定部12側の一端部36aの形状が均一に構成されている。これに対して、図4(c)に展開図を示した整流筒36は、接着固定部12の不均一な厚みに合わせて、接着固定部12側の一端部36aの形状が周方向に沿って変動している。整流筒36の一端部36aの形状は、接着固定部12の厚みの変動度合いに応じて適宜選択することができる。一般的に、遠心接着工程における、遠心時の回転半径が短いと遠心力の影響による接着固定部12の周方向の厚みの差が増大することがある。また遠心接着時の回転数を少なく設定した場合、言い換えると遠心力が小さくなると、重力の影響が無視できなくなり、接着固定部12の厚みの変動要因となる。
【0050】
図5に示すように、整流筒36の側面36cに複数の貫通孔36dを設けてもよい。これにより、整流筒36内に導入される液体の流速を制御し、洗浄時に中空糸膜11が破損すること、特にノズル部18付近に存在する中空糸膜11が破損することを抑制することができる。その際、貫通孔36dの開口率(すなわち、(側面36cの面積に対する複数の貫通孔36dの面積の合計)×100)が5%以上40%以下であることが好ましい。これにより、整流筒36内に導入される液体の流速をより低減して、洗浄時に中空糸膜11が破損することをより抑制することができる。開口率を5%以上とすることにより、液体の移動を必要以上に制限するのを抑制することができる。また開口率を40%以下とすることにより、液体の流速が必要以上に向上するのを抑制して、接着固定部12付近の中空糸膜が揺動することを抑制し、中空糸破断に対する耐久性を確保することができる。
【0051】
また、整流筒36の側面36cに貫通孔36dを設ける場合、図5に示すように、筒状ケース13の内部をノズル部18の軸方向から見た際に、貫通孔36dを、ノズル部18の内部の領域と貫通孔36dとが重複しない位置に設け、ノズル部18からの液体が中空糸膜11に直接接触しうる位置に貫通孔36dを設けないことが好ましい。これにより、ノズル部18から導入される液体が貫通孔36dを経由して中空糸膜11に直接接触するのを防止して、中空糸膜11が破損するのをより抑制することができる。
【0052】
また、図6に示すように、整流筒36の側面36cに貫通孔36dを設けない2つの領域を対向して配置することにより、ノズル部18から導入される液体が貫通孔36dを経由して中空糸膜11に直接接触するのを防止して中空糸膜11が破損するのを抑制する効果をより向上させることができる。ここで、「整流筒36の側面36cに貫通孔36dを設けない2つの領域を対向して配置する」とは、貫通孔36dを設けない2つの領域のうちの一方の領域を、整流筒36の軸の周りに180°回転させた際に、貫通孔36dを設けない他方の領域の少なくとも一部に重複することを意味している。
【0053】
さらに、整流筒36の筒状ケース13の中心部側の他端部36bにツバ部36eが設けられており、ツバ部36eの一部分に整流筒36の回転を規制する規制部36fが設けられていることが好ましい。これにより、中空糸膜モジュール1の運転時に整流筒36が周方向に回転して移動するのを防止することができる。規制部36fは、ツバ部36eにおいて1か所設けられていてもよく、2カ所以上の複数の箇所に設けられていてもよい。
【0054】
整流筒36の一端部36aと接着固定部12との間の離間空間において、該離間空間に存在しない整流筒36の側面36cの面積をSg、整流筒36の側面36cに実際に設けられている複数の貫通孔36dの面積の合計をShとしたとき、SgおよびShがSg≦Shの関係を満たすことが好ましい。これにより、逆圧洗浄を行った際、つまり内圧ろ過タイプの中空糸膜モジュールであれば、中空糸膜11の外面側から内面側の方向の液体の流れによる洗浄操作を行った際に、整流筒36の一端部36aと接着固定部12との間の隙間から流れ込む液体によって、中空糸膜11が大きな負荷を受けて破損するのを抑制することができる。なお、上記「離間空間に存在しない整流筒36の側面36cの面積Sg」は、仮に整流筒36を接着固定部12側に延ばして整流筒36の一端部36aを接着固定部12内に埋没させた場合に、離間空間に占める整流筒36の側面36cの面積を意味している。
【0055】
また、ノズル部18の内径断面積をSnとしたとき、Sn≦Sg+Shの関係を満たすことが好ましい。これにより、ノズル部18から流入した液体を整流筒36内部へ導入する際の圧力損失を抑制することができる。
【0056】
このような構成の中空糸膜モジュール1において、一方の管路21(例えば、図2における下側の管路21)から中空糸膜モジュール1に被処理水を導入すると、他方の管路21(例えば、図2における上側の管路21)に向かって中空糸膜11の中空部内を通過しながら、被処理水の一部が中空糸膜11によってろ過される。ろ過されて得られたろ過水は、ケース本体14の内面、中空糸膜11の外面、及び両接着固定部12の露出面により画定される内部空間に流入し、ノズル部18から排出される。一方、中空糸膜11の中空部内を他方の管路21まで通過した被処理水は、濃縮液として当該他方の管路21から排出される(内圧ろ過)。
【0057】
次に、上述した本発明による中空糸膜モジュール1の運転方法について説明する。図8は、本発明による中空糸膜モジュール1の運転方法を説明する図である。まず、中空糸膜モジュール1をろ過装置に取り付ける。次に、上側の管路21に接続された濃縮水排出配管42のバルブ42aおよびろ過水回収配管45のバルブ45aを開いた状態で、下側の管路21に接続された被処理水供給配管41のバルブ41aを開き、被処理水を中空糸膜モジュール1の内部に供給する。すると、被処理水は、中空糸膜モジュール1内の中空糸膜束の各中空糸膜11の内部に導入される。中空糸膜11の内部に導入された被処理水は、中空糸膜11の内面から外面に透過してろ過される。得られたろ過水は、ノズル部18に接続されたろ過水排出配管43、44から中空糸膜モジュール1の外部に排出され、ろ過水排出配管43、44に接続されたろ過水回収配管45から回収される。一方、中空糸膜11の内部に導入された被処理水の一部は、濃縮され、上側の管路21に接続された濃縮水排出配管42から排出される。こうして、中空糸膜モジュール1を用いて被処理水をろ過することができる。
【0058】
続いて、上述した本発明による中空糸膜モジュール1の逆圧洗浄方法について説明する。図9は、本発明による中空糸膜モジュール1の逆圧洗浄方法を説明する図である。まず、中空糸膜モジュール1をろ過装置に取り付ける。次に、上側の管路21に接続された濃縮水排出配管42のバルブ42aおよび被処理水供給配管41のバルブ41aを開いた状態で、ろ過水回収配管45のバルブ45aを開き、ろ過水などの清浄水を逆圧洗浄液としてろ過水回収配管45からろ過水排出配管43、44および上側および下側のノズル部18を介して中空糸膜モジュール1の内部に供給する。すると、逆圧洗浄水は、中空糸膜モジュール1内の中空糸膜11間の空間に導入される。導入された逆圧洗浄水は、中空糸膜11の外面から内面に透過し、中空糸膜11が洗浄される。洗浄後の逆圧洗浄水は、中空糸膜11の内部を通って、上側および下側の管路21から逆圧洗浄廃液として、被処理水供給配管41および濃縮水排出配管42から排出される。こうして、中空糸膜モジュール1内の中空糸膜11を洗浄することができる。
【0059】
続いて、上述した中空糸膜モジュール1を使用した注射用水の製造方法について説明する。まず、予め、被処理水の固形物質やコロイド物質を精密ろ過膜によって取り除いた後、不純物や電解質をイオン交換膜によって除去し、脱イオン水としておく。次に、脱イオン水を、図8に示したろ過装置に取り付けられた中空糸膜モジュール1に導入し、上述した中空糸膜モジュール1の運転方法に従って、脱イオン水に含まれる微細な固形物、ウイルスを含む微生物及びエンドトキシンを除去する。こうして、注射用水を製造することができる。中空糸膜モジュール1は定期的に蒸気を用いて洗浄することにより、清浄性を保つことが可能となる。
【0060】
続いて、上述した中空糸膜モジュール1を使用したバイオ医薬品の製造方法について説明する。バイオ医薬品の製造は、目的物質を培養によって産生するアップストリームプロセスと、目的物質を精製、濃縮するダウンストリームプロセスとが存在する。本発明による中空糸膜モジュール1は、アップストリームプロセスおよびダウンストリームプロセスの両方に使用することができる。アップストリームプロセスの培養方法には、一定期間培養した後に目的物質を一度に回収するバッチ培養と、目的物質を連続的に回収するパーフュージョン培養とが存在する。バッチ培養においては、培養完了後の培養液を中空糸膜モジュール1の下部の管路21から培養液を中空糸膜11の内面側の領域へ導入する。培養液中に含まれる抗体等の産生物は中空糸膜11の肉厚部を通じて外面側にろ過されることで回収できる。パーフュージョン培養においては、培養途中の培養液を中空糸膜モジュール1の下部の管路21へ導入し、バッチ培養と同様の手順で抗体等の産生物を回収することができる。一方、ダウンストリームにおいて、主に限外ろ過膜が用いられ、被処理液は中空糸膜モジュール1の下部の管路21から培養液を中空糸膜11の内面側の領域へ導入する。培養液中に含まれる抗体等の産生物は中空糸膜11の上部側管路21を通過する一方、孔径よりも細かな不純物や塩成分は中空糸膜11の肉厚部を通じて外面側にろ過され、排出されることで、被処理液の精製、濃縮、脱塩を行うことが可能となる。中空糸膜モジュール1はどちらの培養方法においても好適に用いることができる。一定期間の培養期間が経過した後、中空糸膜モジュール1は上述した逆圧洗浄、酸やアルカリを使用した薬品洗浄、そして熱水や蒸気を使用した洗浄が実施される。その後、中空糸膜にリークの発生がないことを確認後、再び培養された医薬品のろ過工程に使用される。
【実施例0061】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0062】
以下の実施例および比較例においては、中空糸膜モジュールを使用した。その特性および測定方法を以下に示す。
【0063】
[中空糸膜について]
(膜種1)
材質:PVDF
孔径:0.2μm
内径/外径:1.4mm/2.2mm
使用膜本数:2150本
(膜種2)
材質:ポリスルホン
分画分子量:6000Da(球状タンパク質の阻止率90%で定義)
内径/外径:0.75mm/1.35mm
使用膜本数:5000本
【0064】
[中空糸膜の外径、内径]
多孔質中空糸膜を、長さ方向に直交する断面でカミソリを使って薄くスライスし、100倍拡大鏡にて、外径および内径を測定した。一つのサンプルについて、長さ方法に30mm間隔で60箇所の切断面で測定を行い、平均値を中空糸膜の外径および内径とした。
【0065】
[中空糸膜の阻止孔径並びに分画分子量]
多孔質中空糸膜の阻止孔径は、以下のようにして測定した。一定径の粒子が分散した粒子分散液を中空糸膜中空部へ流入しろ過を行った。この時、粒子径を0.1μmから0.1μm刻みで変えながらろ過液の濃度を測定し、ろ過前の粒子分散液の濃度と比較することで粒子のろ過阻止率を求めた。ろ過阻止率が90%であるときの粒子径を阻止孔径と定めた。また、限外ろ過膜の分画分子量は、分子量の異なる球状タンパク質の除去性能を測定し、ろ過前の濃度とろ過後の濃度とを比較し、ろ過阻止率が90%であるときの分子量を分画分子量と定めた。
【0066】
[中空糸膜のリークの有無の判定方法]
以下の手順で中空糸膜のリークの有無を判定した。まず、中空糸膜モジュール内部の水を排水した後、中空糸膜モジュールの1次側に位置する管路、及び中空糸膜モジュールの2次側に位置するノズル部の1か所を盲キャップで密閉した。その後、2次側のもう一方の管路から最大0.2MPaのエアを加圧し、固定部の端面における中空糸膜の開口からの気泡の発生有無を確認した。この時点で気泡の発生が無かったサンプルは、リークの発生なしと判定した。
【0067】
[冷熱サイクル試験]
中空糸膜モジュールを、ろ過装置に取り付けた後、冷水(最高25℃)と熱水(90℃)とを30分毎に交互に通水した。この温度サイクルを必要回数繰り返した。当該温度サイクルを100サイクルそれぞれ施した中空糸膜モジュールに対して、上述の中空糸膜のリークの有無の判定方法を適用して、リークの有無を判定した。
【0068】
[蒸気洗浄サイクル試験]
中空糸膜モジュールをオートクレーブ装置内に長手方向を床面に対して水平に静置した。装置内部へ蒸気を供給し、装置内部を121℃まで昇温した後蒸気を導入し、30分間維持した。その後、徐々に常温まで降温させた。以上を1サイクルとして目標回数まで試験を実施した。
【0069】
[高流量負荷試験]
(膜種1の場合)
中空糸膜モジュールをろ過装置に取り付け、以下の方法で高流量負荷試験を実施した。まず、下側の管路21から清浄水を10m/hrで供給し、ろ過水を上側のノズル部18から8m/hrで排出し、上側の管路21から濃縮液を2m/hrで排出させる運転を行った。試験時の水温は50℃に設定した。下側のノズル部18は盲キャップを装着して封止した。1日1回、1回5分程度のリーク検査作業の他は連続的に上記の運転を実施し、目標時間まで運転を実施した。
(膜種2の場合)
中空糸膜モジュールをろ過装置に取り付け、以下の方法で高流量負荷試験を実施した。まず、下側の管路21から清浄水を5m/hrで供給し、ろ過水を上側のノズル部18から4m/hrで排出し、上側の管路21から濃縮液を1m/hrで排出させる運転を行った。試験時の水温は50℃に設定した。下側のノズル部18は盲キャップを装着して封止した。1日1回、1回5分程度のリーク検査作業の他は連続的に上記の運転を実施し、目標時間まで運転を実施した。
【0070】
[逆圧洗浄試験]
(膜種1の場合)
中空糸膜モジュール1をろ過装置に取り付け、以下の方法で逆圧洗浄試験を実施した。まず、下側の管路21から清浄水を5m/hrで供給し、ろ過水を上側のノズル部18から4m/hrで排出し、上側の管路21から濃縮液をあわせて1m/hrで排出させる運転を30秒間実施後、一旦運転を停止した。その後、上側のノズル部18から逆圧洗浄液としての清浄水を5m/hrで供給し、ろ過水を上側の管路21と下側の管路21からそれぞれ略2.5m/hrずつ排出する運転を30秒間実施し、これを逆圧洗浄試験の1サイクルと定めた。下側のノズル部18は盲キャップを装着して封止した。1日1回、1回5分程度のリーク検査作業の他は連続的に上記の運転を実施し、目標サイクル数に到達するまで上述の試験を継続した。
(膜種2の場合)
中空糸膜モジュール1をろ過装置に取り付け、以下の方法で逆圧洗浄試験を実施した。まず、下側の管路21から清浄水を4m/hrで供給し、ろ過水を上側のノズル部18から3m/hrで排出し、上側の管路21から濃縮液をあわせて1m/hrで排出させる運転を30秒間実施後、一旦運転を停止した。その後、上側のノズル部18から逆圧洗浄液としての清浄水を4m/hrで供給し、ろ過水を上側の管路21と下側の管路21からそれぞれ略2m/hrずつ排出する運転を30秒間実施し、これを逆圧洗浄試験の1サイクルと定めた。下側のノズル部18は盲キャップを装着して封止した。1日1回、1回5分程度のリーク検査作業の他は連続的に上記の運転を実施し、目標サイクル数に到達するまで上述の試験を継続した。
【0071】
[エンドトキシン濃度測定]
中空糸膜モジュール1に供した被処理水および得られたろ過水をサンプリングして、被処理水およびろ過水のエンドトキシン濃度を測定した。エンドトキシン濃度測定は、日本薬局方におけるエンドトキシン試験法のうち、比濁法を用いた。
【0072】
(実施例1)
[中空糸膜モジュールの製造]
ポリスルホン製の筒状ケース13には予め整流筒36が固定されており、整流筒36の最も短い部分の幅は50mm、最も長い部分の幅は60mm、最長部と最短部の幅の差は10mmとなり、整流筒36の幅は、図4(c)に示すように、曲線状に変化したものを採用した。整流筒36の側面36cには貫通孔36dが設けられており、開口率は14%であった。そしてノズル部18と相対する箇所に、貫通孔36dが設けられていない、最も短い幅の部位(図4(c)における180°付近の部位)が位置するように配置した。また、図7に示したように、整流筒36の他端部36bに設けたツバ部36eの一部分に規制部36fを設け、ヘッダ部17の内部に固定することによって、整流筒36が回転することを防止した。ヘッダ部17に設けられたノズル部18の内径断面積は855mmであった。膜種2を使用した中空糸膜束は、その両端部を閉塞させた状態でポリスルホン製筒状ケース13に挿入した。中空糸膜モジュール1の長手方向中心部を回転軸として、遠心接着によって接着剤を注入し、接着剤の硬化反応が進行して流動化が停止した時点で遠心機の回転を停止して取り出し、オーブン中で50℃にて40時間、次いで90℃にて8時間加熱してキュアーし、接着固定部12を形成した。
その後、接着固定部12の端部を切断することによって中空糸膜11の両端部を開口した状態とした。その後、上下のヘッダ部17に対して、ナット19を用いてキャップ部材15をそれぞれ固定した。こうして、本発明による中空糸膜モジュール1を得た。
【0073】
次いで、中空糸膜モジュール1中へアルコール水溶液を通水し、中空糸膜11の細孔部を濡らした状態とし、ろ過運転が実施可能な状態とした。
続いて、中空糸膜モジュール1をろ過装置に取り付け、その状態で清浄水を中空糸膜モジュール1の内部へ供給し、流量負荷試験を実施した。その結果、2000時間経過後もリークの発生が無いことを確認した。
その後、同じくろ過装置に取り付けた状態で、逆圧洗浄試験を実施した。100サイクル、500サイクル完了後もリークの発生が無いことを確認した。
次いで、冷熱サイクル試験を実施し、100サイクル経過後もリークの発生が無いことを確認した。
また、蒸気洗浄サイクル試験を実施し、10サイクル経過後もリークの発生が無いことを確認した。
また、全ての試験を実施後にろ過水のエンドトキシン濃度を測定したところ、被処理水におけるエンドトキシン濃度が0.045EU/mLであったのに対し、ろ過水のエンドトキシン濃度が0.005EU/mL未満であることを確認した。
以上の負荷試験およびリーク結果、およびエンドトキシン濃度測定の結果より、本発明の中空糸膜モジュールがバイオ医薬品および注射用水の製造用途に使用するための十分な性能と耐久性を有していることが確認できた。
上記試験の後、製造した中空糸膜モジュール1を解体し、整流筒36と接着固定部12との離間距離を測定したところ、最長離間距離は3mm、最短離間距離は2mmであり、最長離間距離と最短離間距離の差は1mmであった。また整流筒36と接着固定部12との隙間の面積は1068mmであった。
【0074】
【表1】
【0075】
(実施例2~9、比較例1および2)
実施例1と同様に、表1に示す構成で、実施例2~9、比較例1および2の中空糸膜モジュールを構成した。実施例2~9では、膜種1を使用して中空糸膜モジュール1を構成した。そして、実施例1と同様に、中空糸膜モジュール1に対して冷熱サイクル試験、蒸気洗浄サイクル試験、高流量負荷試験および逆圧洗浄試験を行った。得られた結果を表1に示す。また、比較例1では膜種2を使用して中空糸膜モジュールを構成した。使用後の中空糸膜モジュールを用いて被処理水、ろ過水のエンドトキシン濃度をそれぞれ測定したところ、両者の値はともに0.06EU/mLとなり、差がなかった。蒸気洗浄サイクル試験において発生したリーク箇所の影響でエンドトキシンの除去ができなかったものと考えられる。また、比較例2では膜種1を使用して中空糸膜モジュールを構成した。
また、実施例9では、整流筒36の他端部36bに設けたツバ部36eに規制部36fを設けない仕様とし、ヘッダ部17の内部に設置した。その他の仕様や試験は実施例2と同じ構成とした。高流量負荷試験が完了後にリーク検査を実施したところ、リークの発生はなかったが、整流筒36の設置位置を確認したところ、試験開始前と比較して整流筒36が長手方向を軸としたときに15度程度回転しており、整流筒36に設けられた側面36cの貫通孔36dがノズル部18と相対する箇所に存在していた。この状態で逆圧洗浄試験を500サイクル実施後にリーク検査を実施したところ、ノズル部18付近の中空糸にリークが発生していた。ノズル部18付近に流れた大流量の水が直接中空糸膜11に接触してしまったことが原因と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、中空糸膜モジュールに熱サイクルが繰り返し負荷された場合にも、中空糸膜モジュールが破損するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0077】
1,10 中空糸膜モジュール
11 中空糸膜
12 接着固定部
13 筒状ケース
14 ケース本体
15 キャップ部材
16 パイプ状部
17 ヘッダ部
18 ノズル部
19 ナット
20 Oリング
21 管路
26,36 整流筒
26a,36a 一端部
36b 他端部
36c 側面
36d 貫通孔
36e ツバ部
36f 規制部
41 被処理水供給配管
41a,42a,45a バルブ
42 濃縮水供給配管
43、44 ろ過水排出配管
45 ろ過水回収配管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9