(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048371
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】イオン性化合物、吸収剤、および吸収装置
(51)【国際特許分類】
C07D 487/08 20060101AFI20240401BHJP
B01D 53/28 20060101ALI20240401BHJP
B01D 53/26 20060101ALI20240401BHJP
C07F 9/09 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C07D487/08
B01D53/28
B01D53/26 300
C07F9/09 Z CSP
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023154946
(22)【出願日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】63/410,367
(32)【優先日】2022-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】111148282
(32)【優先日】2022-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】No.195,Sec.4,ChungHsingRd.,Chutung,Hsinchu,Taiwan 31040
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 偉智
(72)【発明者】
【氏名】陳 奕翔
(72)【発明者】
【氏名】陳 志豪
(72)【発明者】
【氏名】劉 ▲あい▼瑜
(72)【発明者】
【氏名】彭 及青
(72)【発明者】
【氏名】陳 鈞振
【テーマコード(参考)】
4C050
4D052
4H050
【Fターム(参考)】
4C050AA03
4C050BB08
4C050CC08
4C050EE02
4C050FF01
4C050GG01
4C050HH01
4D052AA08
4D052CF00
4D052DA00
4D052GA04
4D052GB12
4D052HA49
4D052HB01
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB90
(57)【要約】 (修正有)
【課題】イオン性化合物、高い吸湿能力及び低い脱着温度を示す吸収剤並びに吸収装置。
【解決手段】イオン性化合物は式(I)で表される構造を有する。AB
n式(I)
式中、Aは下記のいずれかである。
式中、Bは下記のいずれかである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される構造を有するイオン性化合物。
AB
n 式(I)
(式中、Aは下記のいずれかである。
【化1】
Bは下記のいずれかである。
【化2】
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、およびR
6は独立にH、C
1-6アルキル基であり、nは1または2である。)
【請求項2】
Aが下記のいずれかである、請求項1に記載のイオン性化合物。
【化3】
【請求項3】
Bが下記のいずれかである、請求項1に記載のイオン性化合物。
【化4】
【請求項4】
Aが下記であり、
【化5】
Bが下記のいずれかであり
【化6】
nが1であり、R
1、R
4、R
5、およびR
6が独立にH、C
1-6アルキル基である、請求項1に記載のイオン性化合物。
【請求項5】
Aが下記であり、
【化7】
Bが下記のいずれかであり、
【化8】
nが2であり、R
2、R
3、R
4、R
5、およびR
6が独立にH、C
1-6アルキル基である、請求項1に記載のイオン性化合物。
【請求項6】
イオン性化合物を含む吸収剤であって、
前記イオン性化合物が、請求項1~5のいずれか1項に記載のイオン性化合物である、吸収剤。
【請求項7】
溶媒をさらに含み、
前記イオン性化合物と前記溶媒との重量比が1:9から9:1である、請求項6に記載の吸収剤。
【請求項8】
チャンバーと、
前記チャンバー中に配置される吸収剤と、
を含む吸収装置であって、
前記吸収剤が請求項6に記載の吸収剤である、吸収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はイオン性化合物、吸収剤、およびその吸収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吸収剤はいくつかの利点を有する。液体吸収剤は、高吸湿性、低再生温度、および低エネルギー消費である。液体吸収剤は、輸送がしやすく、排熱の長距離利用が可能である。よって、液体吸収剤は広く除湿システムに用いられている。液体吸収剤除湿システムは、炭素放出を低減するキー的な設備であり、かつ将来において企業のESGスコアを高める助けとなり得るものである。
【0003】
液体吸収剤は、空気中から水蒸気を直接吸収して除湿効果を達成することのできる液体材料である。その駆動力は、空気中の水蒸気圧と、液体吸収剤表面の飽和蒸気圧との差である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0235574A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の液体吸収剤は、臭化リチウム(lithium bromide)、塩化リチウム(lithium chloride)、塩化カルシウム(calcium chloride)、および塩化マグネシウム(magnesium chloride)の水溶液を含む。しかし、これらの塩溶液は、金属に対して強い腐食性を有するため、除湿システムの信頼性と寿命に大きな影響を及ぼし得る。腐食を回避するため、熱交換体としてチタンを用いることができるが、こうすると除湿システム構築のコストが大幅に増加してしまう。加えて、従来の塩溶液は飽和するときに結晶化および析出し易いため、除湿パフォーマンスの低下、およびシステムの深刻なメンテナンスの問題、例えば循環ポンプの詰まり等が引き起こされてしまう。
【0006】
学術界および産業界はいずれもイオン性化合物を液体吸収剤として用いることを提案している。しかしながら、液体吸収剤として用いられる従来のイオン性化合物もやはり金属に対して腐食性を有しており、かつそれらの水蒸気吸収および脱着能力は依然として改善が求められるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示はイオン性化合物を提供する。イオン性化合物は式(I)で表される構造を有する。
【0008】
ABn 式(I)
【0009】
式中、Aは下記のいずれかである。
【0010】
【0011】
Bは下記のいずれかである。
【0012】
【0013】
R1、R2、R3、R4、R5、およびR6は独立にC1-6アルキル基である。nは1または2である。
【0014】
本開示の実施形態によれば、本開示は吸収剤も提供する。吸収剤は本開示のイオン性化合物を含む。
【0015】
本開示の実施形態によれば、本開示は吸収装置も提供する。吸収装置はチャンバー、および本開示の吸収剤を含み、吸収剤はチャンバー中に配置される。
【発明の効果】
【0016】
本開示は、イオン性化合物、吸収剤、およびこれを用いた吸収装置を提供する。本開示の実施形態によれば、イオン性化合物はカチオン部Aおよびアニオン部Bからなり、カチオン部Aは、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンから誘導された四級アンモニウムカチオン部であってよく、アニオン部Bは、アルキルホスフェートまたはアルキルサルフェートから誘導されたアニオン部であってよい。特定のカチオン部Aと特定のアニオン部Bとの組み合わせにより、本開示のイオン性化合物を用いる液体吸収剤は、より高い吸湿能力およびより低い脱着温度(60℃以下で脱着可能)を示すため、本吸収剤を用いる吸収装置の除湿効率が高まる。また、本開示のイオン性化合物を用いる液体吸収剤は、無臭、抗菌、低腐食性、流動性、および優れた室温安定性等の各種利点を備えるため、各種除湿装置に広く適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
添付の図面を参照にしながら以下の詳細な説明および実施例を読むことで、本発明をより十分に理解することができる。
【
図1】本開示の一実施形態による吸収装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の記載において、本開示のイオン性化合物、吸収剤、および吸収装置を詳細に説明する。以下の詳細な記載では、説明の目的で、本開示がよりよく理解されるよう、多数の特定の詳細および実施形態が示される。以下の詳細な説明において記載される特定の構成要素および構成は、本開示を明確に説明するために示される。しかしながら、ここに示される例示的な実施形態は、説明の目的で用いられるに過ぎず、本発明概念が、それら例示的な実施形態に限定されることなく、様々な形で具体化され得るということは明らかであろう。加えて、それぞれ異なる実施形態の図面では、本開示を明確に説明するため、類似および/または対応する数字を用いて類似および/または対応する構成要素を示すことがある。ただし、それぞれ異なる実施形態の図面における類似および/または対応する数字の使用は、異なる実施形態間における何らの相関性も示唆しない。本明細書中で使用される場合、量に関する用語における「約」という語は、当業者にとって通常かつ妥当な量を増やす、または減らすことを指す。
【0019】
本開示の実施形態によれば、本開示はイオン性化合物を提供する。イオン性化合物は式(I)で表される構造を有する。
【0020】
ABn 式(I)
【0021】
式中、Aは下記のいずれかであってよい。
【0022】
【0023】
Bは下記のいずれかであってよい。
【0024】
【0025】
R1、R2、R3、R4、R5、およびR6は独立にH、C1-6アルキル基であり、nは1または2である。
【0026】
本開示の実施形態によれば、C1-6アルキル基は直鎖または分岐アルキル基であってよい。例えば、本開示のC1-6アルキル基は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、ペンチルまたはヘキシルであってよい。故に、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は独立に、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、ペンチルまたはヘキシルであってよい。
【0027】
本開示の実施形態によれば、イオン性化合物は、カチオン部Aおよびアニオン部Bからなるものであってよい。本開示の実施形態によれば、カチオン部Aは、例えば下記のいずれかのような1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンから誘導される一価の四級アンモニウムカチオン部であってよい。
【0028】
【0029】
加えて、本開示の実施形態によれば、カチオン部Aは、例えば下記のいずれかのような1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンから誘導される二価の四級アンモニウムカチオン部であってよい。
【0030】
【0031】
本開示の実施形態によれば、アニオン部Bは、例えば下記のいずれかのようなアルキルホスフェートから誘導されるアニオン部であってよい。
【0032】
【0033】
加えて、本開示の実施形態によれば、アニオン部Bは、例えば下記のいずれかのようなアルキルサルフェートから誘導されるアニオン部であってよい。
【0034】
【0035】
本開示の実施形態によれば、イオン性化合物は、式(I)で表される構造を有する。
【0036】
ABn 式(I)
【0037】
式中、Aは下記であってよい。
【0038】
【0039】
Bは下記のいずれかであってよい。
【0040】
【0041】
nは1であり得る。R1、R4、R5、およびR6は独立にH、C1-6アルキル基であってよい。
【0042】
例えば、本開示のイオン性化合物は下記のいずれかであってよい。
【0043】
【0044】
本開示の実施形態によれば、一価の四級アンモニウムカチオン部を有するイオン性化合物を作製するための方法は、次のステップを含み得る。先ず、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンおよびアニオン前駆体を混合して、混合物を得る。本開示の実施形態によれば、アニオン前駆体は、アルキルホスフェート(例えば
【化12】
、式中、R
7、R
8、およびR
9は独立にH、C
1-6アルキル基であってよい。)、またはアルキルサルフェート(例えば
【化13】
、式中R
10およびR
11は独立にH、C
1-6アルキル基であってよい。)であり得る。本開示の実施形態によれば、一価の四級アンモニウムカチオン部を有するイオン性化合物を形成するため、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンとアニオン前駆体とのモル比は1:1から1:1.2とすることができる。次いで、その混合物に加熱プロセスを行って、本開示のイオン性化合物を得る。本開示の実施形態によれば、加熱プロセスの温度は約50℃から150℃、例えば60℃、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、または140℃とすることができる。本開示の実施形態によれば、加熱プロセスの時間は1時間から24時間、例えば2時間、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、16時間、または20時間とすることができる。
【0045】
本開示の実施形態によれば、混合物に加熱プロセスを行う前に、混合物と溶媒とを混合して、溶液を得る。本開示の実施形態によれば、溶媒は、トルエン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、酢酸エチル、アニソール、酢酸ブチル、またはこれらの組み合わせであってよい。本開示の実施形態によれば、溶液の固形分は約5wt%から95wt%、例えば10wt%、20wt%、30wt%、40wt%、50wt%、60wt%、70wt%、80wt%、または90wt%である。ここで、固形分は、溶液の総重量に対する、溶媒を除いた溶液の成分の重量百分率のことを意味する。
【0046】
本開示の実施形態によれば、イオン性化合物は式(I)で表される構造を有する。
【0047】
ABn 式(I)
【0048】
式中、Aは下記であってよい。
【0049】
【0050】
Bは下記のいずれかであってよい。
【0051】
【0052】
nは2である。R2、R3、R4、R5、およびR6は独立にH、C1-6アルキル基であってよい。
【0053】
例えば、本開示のイオン性化合物は下記のいずれかであってよい。
【0054】
【0055】
本開示の実施形態によれば、二価の四級アンモニウムカチオン部を有するイオン性化合物を作製するための方法は、次のステップを含み得る。先ず、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンとアニオン前駆体とを混合して、混合物を得る。1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンとアニオン前駆体とのモル比は1:2から1:3(例えば1:2.2、1:2.3、1:2.4、1:2.5、または1:2.8)である。本開示の実施形態によれば、アニオン前駆体は、アルキルホスフェート(例えば
【化17】
、式中、R
7、R
8、およびR
9は独立にH、C
1-6アルキル基であってよい。)またはアルキルサルフェート(例えば
【化18】
、式中、H、R
10およびR
11は独立にC
1-6アルキル基であってよい。)であり得る。次いで、混合物に加熱プロセスを行って、本開示のイオン性化合物を得る。本開示の実施形態によれば、加熱プロセスの温度は約50℃から150℃、例えば60℃、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、または140℃である。本開示の実施形態によれば、加熱プロセスの時間は1時間から24時間、例えば2時間、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、16時間、または20時間である。
【0056】
本開示の実施形態によれば、混合物に加熱プロセスを行う前に、先ず混合物を溶媒と混合して、溶液を得る。本開示の実施形態によれば、溶媒は、トルエン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、酢酸エチル、アニソール、酢酸ブチル、またはこれらの組み合わせであってよい。本開示の実施形態によれば、溶液の固形分は約5wt%から95wt%、例えば10wt%、20wt%、30wt%、40wt%、50wt%、60wt%、70wt%、または80wt%であり得る。ここで、固形分は、溶液の総重量に対する、溶媒を除いた溶液の成分の重量百分率のことを意味する。
【0057】
本開示の実施形態によれば、本開示は吸収剤も提供する。本開示の実施形態によれば、吸収剤は本開示のイオン性化合物からなるものであってよい。
【0058】
本開示の実施形態によれば、本開示のイオン性化合物が溶媒中に均一に分散または溶解するように、本開示の吸収剤は本開示のイオン性化合物および溶媒を含む。本開示の実施形態によれば、イオン性化合物と溶媒との重量比は約1:9から9:1、例えば、2:8、3:7、4:6、5:5、6:4、7:3、または8:2であってよい。本開示の実施形態によれば、溶媒は、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アンモニア、またはこれらの組み合わせであってよい。
【0059】
本開示の実施形態によれば、本開示の吸収剤は、イオン性化合物および水を含み、イオン性化合物と水との重量比は4:1である。ここで、吸収剤の粘度は15℃で50cPから220cP、例えば60cP、80cP、100cP、120cP、150cP、180cP、または220cPであってよい。
【0060】
本開示の実施形態によれば、5℃から90℃の温度範囲において、吸収剤の状態は液体、つまり、吸収剤の粘度は10cPから1,500cPの範囲にある。
【0061】
本開示の実施形態によれば、特定の温度範囲(例えば、15℃から50℃の範囲、または15℃から60℃の範囲)において、本開示の吸収剤の蒸気圧差は比較的大きく、本吸収剤は低温で高い除湿効率および高い脱着能力を示す。
【0062】
本開示の実施形態によれば、本開示は吸収装置も提供する。図に示されるように、吸収装置100はチャンバー10および本開示の吸収剤20を含んでいてよく、吸収剤20はチャンバー中に配置される。本開示の実施形態によれば、チャンバーは吸収チャンバーであってよく、水蒸気は吸収チャンバー中の吸収剤によって吸収されて、水蒸気含量を低減するという目的が達成される。本開示の吸収剤の金属腐食性は極めて低いため、吸収装置の設置コストを低くすることができる。また、本開示の吸収剤は5℃から90℃の温度範囲において流体であることから、スプレーまたは液体流動(liquid flow)プロセスを採用する吸収装置に用いるのに適したものとなる。
【0063】
以下に、当該分野において通常の知識を有する者に容易に理解されるよう添付の図面を参照にしながら、例示的な実施形態を詳細に説明する。本発明概念は、ここに示される例示的な実施形態に限定されることなく、様々な形式で具体化され得る。周知の部分についての説明は省かれ、かつ全体を通して類似する参照数字は類似する構成要素を示すものとする。
【実施例0064】
イオン性化合物(1)の作製
【0065】
実施例1
トリメチルホスフェート(0.20mol)および1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(0.20mol)を反応瓶に入れ、トルエン(60mL)(溶媒として用いる)をその反応瓶に加えた。100℃で12時間加熱した後、その反応瓶を室温まで冷却し、得られた固体を収集した。次いで、その得られた固体を水(50mL)に溶解し、水およびトルエンを回転式濃縮装置により除去した。次いで、得られたものに凍結乾燥プロセスを行って、イオン性化合物(1)を得た(下記の構造を有する。)(白色の固体、収率98%)
【0066】
【0067】
上記の反応の合成経路は次のとおりであった。
【0068】
【0069】
イオン性化合物(1)の核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。1H NMR(400MHz,ppm,CD3OD):δ3.50(d,J=8.4Hz,6H),3.354(t,J=6.0Hz,6H),3.20(t,J=6.0Hz,6H),3.04(s,3H)
【0070】
実施例2
トリメチルホスフェート(0.84mol)および1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(0.8mol)を反応瓶に入れ、1-ブタノール(n-BuOH)(50mL)(溶媒として用いる)をその反応瓶に加えた。60℃で12時間加熱した後、その反応瓶を室温まで冷却した。次いで、1-ブタノールを回転式濃縮装置により除去した。次いで、得られたものを真空オーブンに入れ、110℃で12時間ベークした後、イオン性化合物(1)を得た(白色の固体、収率98%)上記の反応の合成経路は次のとおりであった。
【0071】
【0072】
イオン性化合物(1)の核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。1H NMR(400MHz,ppm,CD3OD):δ3.50(d,J=8.4Hz,6H),3.354(t,J=6.0Hz,6H),3.20(t,J=6.0Hz,6H),3.04(s,3H)
【0073】
イオン性化合物(2)の作製
【0074】
実施例3
トリメチルホスフェート(0.22mol)および1,4-ジアザビシクロ[2.2.2オクタン(0.10mol)を反応瓶に入れ、トルエン(40mL)(溶媒として用いる)をその反応瓶に加えた。100℃で12時間加熱した後、その反応瓶を室温まで冷却し、得られた固体を収集した。次いで、その得られた固体を水(50mL)に溶解し、水およびトルエンを回転式濃縮装置により除去した。次いで、得られたものに凍結乾燥プロセスを行って、イオン性化合物(2)を得た(下記の構造を有する。)(白色の固体、収率92%)
【0075】
【0076】
上記の反応の合成経路は次のとおりであった。
【0077】
【0078】
イオン性化合物(2)の核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。1H NMR(400MHz,ppm,CD3OD):δ4.02(s,12H),3.58(s,6H),3.56(s,6H),3.36(s,6H)
【0079】
実施例4
トリメチルホスフェート(0.44mol)および1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(0.2mol)を反応瓶に入れ、1-ブタノール(n-BuOH)(50mL)(溶媒として用いる)をその反応瓶に加えた。60℃で12時間加熱した後、その反応瓶を室温まで冷却した。次いで、1-ブタノールを回転式濃縮装置より除去した。次いで、得られたものを真空オーブンに入れ、110℃で12時間ベークした後、イオン性化合物(2)を得た(白色の固体、収率98%)。上記の反応の合成経路は次のとおりであった。
【0080】
【0081】
イオン性化合物(2)の核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。1H NMR(400MHz,ppm,CD3OD):δ4.02(s,12H),3.58(s,6H),3.56(s,6H),3.36(s,6H)
【0082】
イオン性化合物(3)の作製
【0083】
実施例5
トリエチルホスフェート(0.2mol)および1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(0.2mol)を反応瓶に入れ、トルエン(60mL)(溶媒として用いる)をその反応瓶に加えた。100℃で12時間加熱した後、その反応瓶を室温まで冷却し、その下層液を収集した。次いで、その得られた下層液を水(100mL)に溶解した。ジエチルエーテル(60mL)を用いて3回抽出した後、水相を収集し、活性炭(1g)を加えた。50℃で4時間加熱した後、得られたものをろ過した。次いで、そのろ過液を濃縮し、脱水し、凍結乾燥プロセスを行って、イオン性化合物(3)を得た(下記の構造を有する)(淡黄色の液体、収率93%)。
【0084】
【0085】
上記の反応の合成経路は次のとおりであった。
【0086】
【0087】
イオン性化合物(3)の核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。1H NMR(400MHz,ppm,CD3OD):δ3.94-3.82(m,4H),3.31-3.27(m,8H),3.18-3.14(m,6H),1.32(t,J=5.6Hz,3H),1.21(t,J=5.6Hz,6H)
【0088】
実施例6
トリエチルホスフェート(0.42mol)および1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(0.4mol)を反応瓶に入れ、1-ブタノール(n-BuOH)(40mL)(溶媒として用いる)をその反応瓶に加えた。100℃で12時間加熱した後、その反応瓶を室温まで冷却した。次いで、酢酸エチル(50mL)を用いて3回抽出し、その下層液を収集し、溶媒を回転式濃縮装置で除去した。次いで、得られたものを真空オーブンに入れ、110℃で12時間ベークした後、イオン性化合物(3)を得た(淡黄色の液体、収率92%)。上記の反応の合成経路は次のとおりであった。
【0089】
【0090】
イオン性化合物(3)の核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。1H NMR(400MHz,ppm,CD3OD):δ3.94-3.82(m,4H),3.31-3.27(m,8H),3.18-3.14(m,6H),1.32(t,J=5.6Hz,3H),1.21(t,J=5.6Hz,6H)
【0091】
イオン性化合物(4)の作製
【0092】
実施例7
トリエチルホスフェート(0.25mol)および1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(0.1mol)を反応瓶に入れ、トルエン(40mL)(溶媒として用いる)をその反応瓶に加えた。100℃で12時間加熱した後、その反応瓶を室温まで冷却し、その下層液を収集した。次いで、その下層液を水(80mL)に溶解した。ジエチルエーテル(50mL)を用いて3回抽出した後、水相を収集し、活性炭(1g)を加えた。50℃で4時間加熱した後、得られたものをろ過した。次いで、そのろ過液を濃縮し、脱水し、凍結乾燥プロセスを行って、イオン性化合物(4)を得た(下記の構造を有する)(淡黄色の液体、収率90%)。
【0093】
【0094】
上記の反応の合成経路は次のとおりであった。
【0095】
【0096】
イオン性化合物(4)の核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。1H NMR(400MHz,ppm,CD3OD):δ3.95(s,12H),3.88(quint,J=5.6Hz,8H),3.64(q,J=5.6Hz,4H),1.43(t,J=5.6Hz,6H),1.23(t,J=5.6Hz,12H).
【0097】
実施例8
トリエチルホスフェート(0.25mol)および1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(0.1mol)を反応瓶に入れ、1-ブタノール(n-BuOH)(20mL)(溶媒として用いる)をその反応瓶に加えた。140℃で12時間加熱した後、その反応瓶を室温まで冷却した。次いで、酢酸エチル(40mL)を用いて3回抽出し、その下層液を収集し、溶媒を回転式濃縮装置で除去した。次いで、得られたものを真空オーブンに入れ、110℃で12時間ベークした後、イオン性化合物(4)を得た(淡黄色の液体、収率92%)。上記の反応の合成経路は次のとおりであった。
【0098】
【0099】
イオン性化合物(4)の核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。1H NMR(400MHz,ppm,CD3OD):δ3.95(s,12H),3.88(quint,J=5.6Hz,8H),3.64(q,J=5.6Hz,4H),1.43(t,J=5.6Hz,6H),1.23(t,J=5.6Hz,12H)
【0100】
比較例1
トリエチルホスフェート(0.3mol)および1-メチルイミダゾール(0.3mol)を反応瓶に入れた。140℃で12時間加熱した後、その反応瓶を室温まで冷却し、得られたものを水(80mL)に溶解した。ジエチルエーテル(50mL)を用いて3回抽出した後、水相を収集し、活性炭(1g)を加えた。50℃で4時間加熱した後、得られたものをろ過した。次いで、そのろ過液を濃縮し、脱水し、凍結乾燥プロセスを行って、イオン性化合物(5)を得た(下記の構造を有する)(淡黄色の液体、収率90%)。
【0101】
【0102】
上記の反応の合成経路は次のとおりであった。
【0103】
【0104】
イオン性化合物(5)の核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。1H NMR(400MHz,ppm,CD3OD):δ8.95(s,1H),7.66(s,1H),7.59(s,1H),4.27(q,J=6.0Hz,2H),3.94(s,3H),3.91(quint,J=5.6Hz,4H),1.55(t,J=6.0Hz,3H),2.26(t,J=5.6Hz,6H)
【0105】
比較例2
2-(N,N-ジメチルアミノ)エタノール(DMAE)(0.1mol)を反応瓶に入れた。次いで、トリメチルホスフェート(0.1mol)をその反応瓶に滴下した。55℃で24時間加熱した後、その反応瓶を室温まで冷却し、白色の固体を得た。その固体を水(50mL)に溶解した。ジエチルエーテル(30mL)を用いて3回抽出した後、水相を収集した。回転式濃縮装置で脱水した後、得られたものを真空オーブンに60℃、12時間入れ、イオン性化合物(6)を得た(下記の構造を有する)(淡黄色の液体、収率92%)。
【0106】
【0107】
上記の反応の合成経路は次のとおりであった。
【0108】
【0109】
イオン性化合物(6)の核磁気共鳴スペクトルの測定結果を以下に示す。1H NMR(400MHz,ppm,CD3OD):δ3.99-3.96(m,2H),3.55(s,3H),3.53(s,3H),3.48-3.46(m,2H),3.20(s,9H)
【0110】
吸収剤の作製
【0111】
実施例9
イオン性化合物(1)と水とを混合した。イオン性化合物(1)と水との重量比は4:1である。均一に撹拌した後、吸収剤(1)を得た。
【0112】
実施例10~12
イオン性化合物(1)をそれぞれイオン性化合物(2)~(4)に置き換えたことの他は、実施例9と同じ方式で実施例10~12を行って、吸収剤(2)~(4)を得た。
【0113】
比較例3および4
イオン性化合物(1)をそれぞれイオン性化合物(5)および(6)に置き換えたことの他は、実施例9と同じ方式で比較例3および4を行って、吸収剤(5)および(6)を得た。
【0114】
比較例5
イオン性化合物(7)(下記の構造を有する)を準備した。イオン性化合物(7)と水とを混合した。イオン性化合物(7)と水との重量比は4:1である。均一に撹拌した後、吸収剤(7)を得た。
【0115】
【0116】
比較例6
イオン性化合物(8)(下記の構造を有する)を準備した。イオン性化合物(8)と水とを混合した。イオン性化合物(8)と水との重量比は4:1である。均一に撹拌した後、吸収剤(8)を得た。
【0117】
【0118】
比較例7
イオン性化合物(9)(下記の構造を有する)を準備した。イオン性化合物(9)と水とを混合した。イオン性化合物(9)と水との重量比は4:1である。均一に撹拌した後、吸収剤(9)を得た。
【0119】
【0120】
比較例8
塩化リチウム(LiCl)を準備した。塩化リチウムと水とを混合した。塩化リチウムと水との重量比は1:2である。均一に撹拌した後、吸収剤(10)を得た。
【0121】
水蒸気圧の測定
吸収剤(1)~(4)の水蒸気圧を5℃、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、および60℃で測定し、各温度における吸収剤(1)~(4)の蒸気圧差を決定した。その結果が表1に示されている。さらに、吸収剤(5)~(10)の水蒸気圧を5℃、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、および60℃で測定し、各温度における吸収剤(5)~(10)の蒸気圧差を決定した。その結果が表2に示されている。
【0122】
吸収剤の蒸気圧を測定する方法は、融点モデル(melting-point model)(参考文献: J. Chem. Eng. Data 2004, 49, 1550-1553)を用いたものであり、かつ次のステップを含む。吸収剤を容器中に置き、温度を5℃まで冷却した。水蒸気の蒸発が始まるまで真空を印加し、その後、真空システムを切り、容器を加熱した。圧力計(EJX310A, YOKOGAWA)を用い、5℃ごとに蒸気圧を測定した。
【0123】
【0124】
【0125】
本開示の吸収剤(10)(塩化リチウム水溶液)の測定された水蒸気圧は、関連文献(Applied Thermal Engineering 2017, 124, 271-278)において報告された値と一致している。
【0126】
吸収剤の除湿能力は、その水蒸気圧により評価することができる。吸収剤は、吸収装置において作動するとき、周囲環境から水蒸気を吸収して湿度を低減するが、それは空気中の水蒸気圧と吸収剤表面の飽和蒸気圧との差によって駆動される。吸収剤による空気除湿の最低相対湿度は、吸収剤の水蒸気圧に基づいて評価することができる。吸収剤の水蒸気圧が低いほど、その特定の温度における吸収剤(つまり、イオン性化合物水溶液)の吸湿能力はより強い。
【0127】
表1に示されるように、本開示のイオン性化合物から作製された吸収剤は、5~20℃において水蒸気圧が1.1kPa以下であることが観察された。
【0128】
加えて、水蒸気圧が低いほど、水に対する親和性がより強く(水を脱着しにくい)、かつ水蒸気圧は温度の上昇と共に増加する。よって、吸収剤は、特定の温度範囲内における蒸気圧差がより大きいほど、その特定の温度範囲内おいて水を吸収および脱着する能力により優れるということである(つまり、除湿能力がより高い)。したがって、吸収剤が特定の温度範囲内においてより大きい蒸気圧差を示すとき、その除湿効率はより高いということである(つまり、吸収剤の除湿能力がより高い)。
【0129】
表2に示されるように、塩化リチウム水溶液は低温において水蒸気圧が低い(つまり、水親和力が良い)が、蒸気圧差(Vp60-15)は低い。このことは、塩化リチウム水溶液が60℃においても水蒸気を保持するということを示しており、有効な脱着のためにはより高い温度までさらに加熱することが要されるため、吸収剤再生のためのエネルギー消費が増加してしまう。
【0130】
表1および2に示されるように、本開示のイオン性化合物から作製された吸収剤(つまり、吸収剤(1)~(4))は、塩化リチウム水溶液(吸収剤(10))と比べ、15℃から50℃の間(Vp50-15)、および15℃から60℃の間(Vp60-15)の蒸気圧差がより大きい。よって、本開示のイオン性化合物は、吸収剤の再生に要されるエネルギー消費を低減し、かつ吸収剤の除湿効率を高めるポテンシャルを有している。
【0131】
腐食試験
銅箔(C1100P)(サイズは10×10×2mm3)を準備し、重さを量った。次いで、銅箔を、各吸収剤(つまり、吸収剤(1)~(10))(8mL)および水道水がそれぞれ入ったサンプルバイアル中に入れた。80℃で2日撹拌した後、その銅箔を取り出し、乾燥して、重さを量り、銅箔の重量の増減率を決定した。その結果が表3に示されている。次いで、銅箔をアルミニウム箔(A5052)(サイズは10×10×2mm3)およびステンレススチール箔(SUS304)(サイズは10×10×2mm3)に替えた上で、上述のステップを繰り返し行った。その結果が表3に示されている。
【0132】
【0133】
図3に示されるように、ステンレススチール箔、アルミニウム箔、および銅箔に対し、塩化リチウムおよび吸収剤(5)~(10)はそれぞれ異なる腐食性の程度を示している。さらに、表3によれば、本開示のイオン性化合物から作製された吸収剤(吸収剤(1)~(4))は、ステンレススチール箔およびアルミニウム箔に対して最小限の腐食性を示し、銅箔に対してもより低い腐食性を示している。
【0134】
粘度測定
各温度における吸収剤(1)~(4)の粘度を粘度計(DV-II+Pro, Brookfield)により測定した。その結果が表4に示されている。
【0135】
【0136】
粘度も吸収剤を評価するための重要なパラメータである。吸収剤の粘度が低すぎると、液体のキャリーオーバー(carryover)が生じ、空気に液体が巻き込まれて運び出されてしまい易くなり、結果として環境汚染が引き起こされる。一方、吸収剤の粘度が高すぎると、吸収剤の流動性が低下して、ポンプのエネルギー消費が高まってしまう。表4に示されるように、本開示のイオン性化合物から作製された吸収剤は、15℃における粘度が50cPから220cPであり、スプレーまたは液体流動プロセスを採用する除湿システムへの使用に適している。
【0137】
臭気および分解評価
除湿システムにより引き入れられた空気は吸収剤と直接接触するため、イオン性化合物が臭気を生じる場合は、空調システムへの使用には適さないと言える。本開示のイオン性化合物から作製された吸収剤(1)~(4)を、室温および常圧下で180日保管した。そして、評価を行ったところ、吸収剤(1)~(4)は分解(degradation)を生じず、何ら気になる臭いも生じなかった。
【0138】
以上まとめると、本開示のイオン性化合物を含む吸収剤は、吸湿能力がより高く、かつ脱着温度がより低いため、この吸収剤を用いる吸収装置の除湿効率は向上する。加えて、本開示のイオン性化合物を含む液体吸収剤は、無臭、抗菌、低腐食性、流動性、および優れた室温安定性等のような利点を提供することから、各種の除湿装置に広く適用され得る。
【0139】
開示された方法および物質に様々な変更および変化を加え得るということは明らかであろう。明細書および実施例は単に例示とみなされることが意図されており、本開示の真の範囲は、以下のクレームおよびそれらの均等物によって示されるものである。