(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048398
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】水田メタン削減支援装置、水田メタン削減支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/02 20240101AFI20240401BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240401BHJP
G06V 20/13 20220101ALI20240401BHJP
【FI】
G06Q50/02
G06T7/00 640
G06V20/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023166100
(22)【出願日】2023-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2022153851
(32)【優先日】2022-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安達 知世
(72)【発明者】
【氏名】楠本 敏晴
(72)【発明者】
【氏名】谷 直人
【テーマコード(参考)】
5L049
5L096
【Fターム(参考)】
5L049CC01
5L096BA20
(57)【要約】
【課題】水田のメタンの排出量を削減するための水管理の状態及び期間を客観的に検出する。
【解決手段】水田メタン削減支援装置は、水田に関する水田情報、前記水田で作物を栽培するための農作業に関する作業情報、及び観測装置により観測された前記水田を含む地域の観測画像のデータを取得する取得部と、前記水田情報と前記作業情報と前記観測画像のデータとに基づいて、前記作物の栽培中に前記水田から排出されるメタンを削減するための前記水田の水管理の状態と当該水管理の状態が継続した期間とを特定して、当該水管理の状態及び期間を示す特定水管理情報を生成する制御部と、前記特定水管理情報を記憶する記憶部と、を備え、前記制御部は、前記水田及び前記地域の少なくともいずれかに対応する観測条件で前記観測装置により観測された前記観測画像のデータを前記取得部により取得する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水田に関する水田情報、前記水田で作物を栽培するための農作業に関する作業情報、及び観測装置により観測された前記水田を含む地域の観測画像のデータを取得する取得部と、
前記水田情報と前記作業情報と前記観測画像のデータとに基づいて、前記作物の栽培中に前記水田から排出されるメタンを削減するための前記水田の水管理の状態と当該水管理の状態が継続した期間とを特定して、当該水管理の状態及び期間を示す特定水管理情報を生成する制御部と、
前記特定水管理情報を記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記水田及び前記地域の少なくともいずれかに対応する観測条件で前記観測装置により観測された前記観測画像のデータを前記取得部により取得する水田メタン削減支援装置。
【請求項2】
前記作業情報には、予め入力された前記水田の前記水管理の状態及び期間を示す入力水管理情報が含まれ、
前記制御部は、前記入力水管理情報で示される前記水管理の期間に、前記観測条件で前記観測装置により観測された複数の前記観測画像のデータを前記取得部により取得し、
前記複数の観測画像のデータから前記水田の前記水管理の状態及び期間を特定する請求項1に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記水田情報と前記作業情報とに基づいて、所定の期間に前記観測条件で前記観測装置により観測された複数の前記観測画像のデータを前記取得部により取得し、
前記複数の観測画像のデータから前記水田の前記水管理の状態及び期間を特定する請求項1に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項4】
前記制御部は、
飛翔体又は飛行体に搭載された前記観測装置が有する合成開口レーダにより前記観測条件で観測された複数の前記観測画像のデータを前記取得部により取得し、
前記複数の観測画像のそれぞれから前記水田を示す1つ以上の画素を抽出して、当該画素の画素値に対応付けられた後方散乱係数を検出し、
検出した前記後方散乱係数に基づいて前記水田の前記水管理の状態及び期間を特定する請求項2又は3に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記合成開口レーダから照射されるマイクロ波及び前記観測画像の少なくともいずれかに関する前記観測条件で、前記観測装置により観測された複数の前記観測画像のデータを前記取得部により取得する請求項4に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記マイクロ波の波長、入射角、偏波、及び前記観測画像の分解能の少なくともいずれかの最適値を示す前記観測条件を、前記記憶部から読み込み、又はデータベースから前記取得部により取得する請求項5に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項7】
前記複数の観測画像のデータに基づいて、前記作業情報に含まれる入力水管理情報で示された前記水管理の状態及び期間を検証して、当該検証の結果を示す検証情報を前記記憶部に記憶させ、
前記入力水管理情報で示される前記水管理の状態及び期間が正当である場合に、前記入力水管理情報を前記特定水管理情報として前記記憶部に記憶させる請求項2又は3に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項8】
前記記憶部には、前記水田からのメタン排出量を算出するためのモデルデータが記憶されており、
前記制御部は、前記水田情報、前記作業情報、前記特定水管理情報、及び前記モデルデータに基づいて、前記水田の所定の基本メタン排出量から削減されたメタン削減量を算出して、当該メタン削減量を前記記憶部に記憶させる請求項1に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項9】
前記取得部は、通信インタフェイスから構成され、
前記制御部は、
前記水田に対応する農業者に関する農業者情報を前記通信インタフェイスにより取得し、
前記水田の前記メタン削減量と前記農業者情報とを含む報告情報を前記通信インタフェイスによりクレジット管理装置に送信し、
前記メタン削減量に応じて前記クレジット管理装置から発行された電子的なクレジットを示すクレジット情報を前記通信インタフェイスにより取得し、
前記農業者情報に基づいて前記クレジット情報を前記農業者に通知する請求項8に記載の水田メタン削減支援装置。
【請求項10】
作物を栽培する水田からのメタンの排出量の削減を支援する水田メタン削減支援装置と、
前記水田と前記水田で行う農業に関する情報を格納したデータベースが構築された農業管理装置と、を含み、
前記水田メタン削減支援装置は、
前記農業管理装置及び前記水田に対応する農業者が利用する農業者端末装置のうちの少なくともいずれかから、前記水田に関する水田情報及び前記水田で前記作物を栽培するための農作業に関する作業情報を取得し、且つ地上を観測する観測装置の観測データを記憶する観測管理装置から、前記観測装置により観測された前記水田を含む地域の観測画像のデータを取得する取得部と、
前記水田情報と前記作業情報と前記観測画像のデータとに基づいて、前記作物の栽培中に前記水田から排出されるメタンを削減するための前記水田の水管理の状態と当該状態が継続した期間とを特定して、当該水管理の状態及び期間を示す特定水管理情報を生成する制御部と、
前記特定水管理情報を記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記水田及び前記地域の少なくともいずれかに対応する観測条件で前記観測装置により観測された前記観測画像のデータを、前記取得部により取得する水田メタン削減支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田から排出されるメタンの削減を支援する水田メタン削減支援装置及びメタン削減支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の一因となっている温室効果ガスには、メタンが含まれている。メタンは、水稲などの作物を栽培する水田から排出されることが知られている。例えば非特許文献1及び非特許文献2に開示されているように、水田からのメタンの排出を削減するには、水田の水管理及び有機物施用などの農作業を変更することが有効である。また、非特許文献2などには、稲作水田からのメタンの排出量を算出するモデル(DNDC-Riceモデル)と算出式などが記載されている。
【0003】
一方、人工衛星又は航空機などに搭載された観測装置により地上を観測したリモートセンシングデータに基づいて、地域レベルで水稲が作付けされた圃場を把握する技術が開発されている。例えば特許文献1及び非特許文献3に開示されているように、合成開口レーダを用いて圃場を含む地域を観測した場合、合成開口レーダから照射されたマイクロ波が湛水状態の圃場の水面で反射すると、後方散乱波の強度(後方散乱係数)が低くなり、マイクロ波が地表面又は生長した水稲の葉で反射すると、後方散乱波の強度が高くなる。特許文献1及び非特許文献3に開示された技術では、当該特性に着目し、演算処理装置などが、田植え期と圃場準備期と水稲成長期に合成開口レーダによりそれぞれ観測された複数の観測画像の画素値が表す後方散乱強度に基づいて、水稲圃場を特定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】平成24年8月(独)農業環境技術研究所、「水田メタン発生抑制のための新たな水管理技術マニュアル」(改訂版)、[ON LINE][令和4年4月28日検索]インターネット(URL:https://www.naro.affrc.go.jp//archive/niaes/techdoc/methane_manual.pdf)
【非特許文献2】環境省ホームページ、温室効果ガス排出・吸収量等の算定と報告、3.C稲作、「3.C.1 灌漑田(Rice Cultivation - Irrigated Intermittently Flooded)(CH4)」、[ON LINE][令和4年4月28日検索]インターネット(URL: https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/methodology/material/methodology_3C1.pdf)
【非特許文献3】石塚直樹、「マイクロ波衛星画像と地理情報システムを利用して水稲作付け地を高い精度で推定する」、独立行政法人農業環境技術研究所平成18年度革新的農業技術習得研修テキスト、[ON LINE][平成21年11月18日検索]インターネット(URL:http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/inovlec2006/4_ishitsuka.pdf)
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、メタンの排出量を削減するために行われた水田の水管理の状態と当該状態が継続した期間を、農業者の申告又は作業日誌の記録から検出する場合、当該記録の客観性と証拠性が不十分で、間違っていたり改ざんされたりするおそれがある。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑み、水田のメタンの排出量を削減するための水管理の状態及び
期間を客観的に検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記技術的課題を解決するための本発明の技術的手段は、以下に示す点を特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係る水田メタン削減支援装置は、水田に関する水田情報、前記水田で作物を栽培するための農作業に関する作業情報、及び観測装置により観測された前記水田を含む地域の観測画像のデータを取得する取得部と、前記水田情報と前記作業情報と前記観測画像のデータとに基づいて、前記作物の栽培中に前記水田から排出されるメタンを削減するための前記水田の水管理の状態と当該水管理の状態が継続した期間とを特定して、当該水管理の状態及び期間を示す特定水管理情報を生成する制御部と、前記特定水管理情報を記憶する記憶部と、を備え、前記制御部は、前記水田及び前記地域の少なくともいずれかに対応する観測条件で前記観測装置により観測された前記観測画像のデータを前記取得部により取得する。
【0010】
本発明の一態様では、前記作業情報には、予め入力された前記水田の前記水管理の状態及び期間を示す入力水管理情報が含まれ、前記制御部は、前記入力水管理情報で示される前記水管理の期間に、前記観測条件で前記観測装置により観測された複数の前記観測画像のデータを前記取得部により取得し、前記複数の観測画像のデータから前記水田の前記水管理の状態及び期間を特定する。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記水田情報と前記作業情報とに基づいて、所定の期間に前記観測条件で前記観測装置により観測された複数の前記観測画像のデータを前記取得部により取得し、前記複数の観測画像のデータから前記水田の前記水管理の状態及び期間を特定してもよい。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、飛翔体又は飛行体に搭載された前記観測装置が有する合成開口レーダにより前記観測条件で観測された複数の前記観測画像のデータを前記取得部により取得し、前記複数の観測画像のそれぞれから前記水田を示す1つ以上の画素を抽出して、当該画素の画素値に対応付けられた後方散乱係数を検出し、検出した前記後方散乱係数に基づいて前記水田の前記水管理の状態及び期間を特定してもよい。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記合成開口レーダから照射されるマイクロ波及び前記観測画像の少なくともいずれかに関する前記観測条件で、前記観測装置により観測された複数の前記観測画像のデータを前記取得部により取得してもよい。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記マイクロ波の波長、入射角、偏波、及び前記観測画像の分解能の少なくともいずれかの最適値を示す前記観測条件を、前記記憶部から読み込み、又はデータベースから前記取得部により取得してもよい。
【0015】
本発明の一態様では、前記制御部は、前記複数の観測画像のデータに基づいて、前記作業情報に含まれる入力水管理情報で示される前記水管理の状態及び期間を検証して、当該検証結果を示す検証情報を前記記憶部に記憶させ、前記入力水管理情報で示される前記水管理の状態及び期間が正当である場合に、前記入力水管理情報を前記特定水管理情報として前記記憶部に記憶させてもよい。
【0016】
また、本発明の一態様では、前記記憶部には、前記水田からのメタン排出量を算出するためのモデルデータが記憶されており、前記制御部は、前記水田情報、前記作業情報、前記特定水管理情報、及び前記モデルデータに基づいて、前記水田の所定の基本メタン排出量から削減されたメタン削減量を算出して、当該メタン削減量を前記記憶部に記憶させて
もよい。
【0017】
また、本発明の一態様では、前記取得部は、通信インタフェイスから構成され、前記制御部は、前記水田に対応する農業者に関する農業者情報を前記通信インタフェイスにより取得し、前記水田の前記メタン削減量と前記農業者情報とを含む報告情報を前記通信インタフェイスによりクレジット管理装置に送信し、前記メタン削減量に応じて前記クレジット管理装置から発行された電子的なクレジットを示すクレジット情報を前記通信インタフェイスにより取得し、前記農業者情報に基づいて前記クレジット情報を前記農業者に通知してもよい。また、前記制御部は、前記検証情報も前記報告情報に含めて、前記取得部によりクレジット管理装置に送信してもよい。
【0018】
本発明の一態様に係る水田メタン削減支援システムは、作物を栽培する水田からのメタンの排出量の削減を支援する前記水田メタン削減支援装置と、前記水田と前記水田で行う農業に関する情報を格納したデータベースが構築された農業管理装置と、を含み、前記水田メタン削減支援装置は、前記農業管理装置及び前記水田に対応する農業者が利用する農業者端末装置のうちの少なくともいずれかから、前記水田に関する水田情報及び前記水田で前記作物を栽培するための農作業に関する作業情報を取得し、且つ地上を観測する観測装置の観測データを記憶する観測管理装置から、前記観測装置により観測された前記水田を含む地域の観測画像のデータを取得する前記取得部と、前記水田情報と前記作業情報と前記観測画像のデータとに基づいて、前記作物の栽培中に前記水田から排出されるメタンを削減するための前記水田の水管理の状態と当該状態が継続した期間とを特定して、当該水管理の状態及び期間を示す特定水管理情報を生成する前記制御部と、前記特定水管理情報を記憶する前記記憶部と、を備え、前記制御部は、前記水田及び前記地域の少なくともいずれかに対応する観測条件で前記観測装置により観測された前記観測画像のデータを、前記取得部により取得する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水田のメタンの排出量を削減するための水管理の状態及び期間を客観的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】水田メタン削減支援システムの一例の構成図である。
【
図2】水田で水稲を栽培する場合の時期と水位の一例を示す図である。
【
図3】水田メタン削減支援装置の概略動作の一例を示すフローチャートである。
【
図4】水田メタン削減支援装置の初期設定動作の一例を示すフローチャートである。
【
図5】水田メタン削減支援装置のモデル式の一例を示した図である。
【
図6】水田メタン削減支援装置のメタン評価動作の一例を示すフローチャートである。
【
図7】水田の中干期間とメタン削減量の相関関係を示す第1相関データの一例を示す図である。
【
図8】水田メタン削減支援装置の中干提案動作の一例を示すフローチャートである。
【
図9】水田メタン削減支援装置の算出式更新動作の一例を示すフローチャートである。
【
図10】水田メタン削減支援装置のクレジット化動作の一例を示すフローチャートである。
【
図11】水田メタン削減支援装置のクレジット化動作の他例を示すフローチャートである。
【
図12】水田メタン削減支援装置のクレジット買取動作の一例を示すフローチャートである。
【
図13】水田メタン削減支援装置のクレジット取引動作の一例を示すフローチャートである。
【
図14A】合成開口レーダから湛水状態の水田に照射したXバンドのマイクロ波の反射状態の一例を示す図である。
【
図14B】合成開口レーダから落水状態の水田に照射したXバンドのマイクロ波の反射状態の一例を示す図である。
【
図15A】複数の水田を含む地域の中干期間前のSAR画像の一例を示す図である。
【
図15B】複数の水田を含む地域の中干期間中のSAR画像の一例を示す図である。
【
図15C】複数の水田を含む地域の中干期間後のSAR画像の一例を示す図である。
【
図16A】中干期間前と中干期間中のSAR画像における水田に対応する後方散乱係数のヒストグラムを示すグラフである。
【
図16B】中干期間後と中干期間中のSAR画像における水田に対応する後方散乱係数のヒストグラムを示すグラフである。
【
図17】中干期間前後のSAR画像における水田に対応する後方散乱係数の割合の推移を示すグラフである。
【
図18】水田メタン削減支援装置の水管理特定動作の一例を示すフローチャートである。
【
図19A】水田メタン削減支援装置の検証特定動作の一例を示すフローチャートである。
【
図20A】水田メタン削減支援装置の画像特定動作の一例を示すフローチャートである。
【
図21A】合成開口レーダから湛水状態の水田に照射したLバンドのマイクロ波の反射状態の一例を示す図である。
【
図21B】合成開口レーダから落水状態の水田に照射したLバンドのマイクロ波の反射状態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、水田メタン削減支援システム100の一例の構成図である。水田メタン削減支援システム100において、水田メタン削減支援装置1及び農業管理装置2は、例えば、管理センタに設置されたコンピュータ及びサーバなどの少なくともいずれかで構成されている。
【0023】
水田メタン削減支援装置1は、水田から排出されるメタンの削減を支援する装置であって、制御部1a、記憶部1b、通信部1c、及び入出力インタフェイス1dを備えている。制御部1aはコントローラであり、CPU(又はマイクロコンピュータ)とメモリなどから構成されている。
【0024】
記憶部1bはストレージであり、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、又はハードディスクなどから構成されている。記憶部1bには、制御部1aが実行するソフトウェアプログラムが記憶され、制御部1aが利用する各種の制御データが読み書き可能に記憶されている。また、記憶部1bには、水田から排出されるメタンの排出量を算出するためのモデルデータが記憶されている。制御部1aは、記憶部1bに記憶されたモデルデータに基づいて、水田のメタン排出量及びメタン削減量などを算出する。
【0025】
通信部1cは、公衆通信網とインターネットなどを介して外部装置と通信するための通信インタフェイスである。また、通信部1cは、外部装置から情報を取得する取得部である。入出力インタフェイス1dは、マウス、キーボード、又はタッチパネルなどの入力インタフェイスと、ディスプレイ、スピーカ、又はタッチパネルなどの出力インタフェイスなどから構成されている。
【0026】
農業管理装置2は、農業に関する種々の情報を管理する装置である。
図1では、農業管理装置2を1台例示しているが、農業管理装置2は2台以上あってもよい。農業管理装置2にも、制御部、記憶部、通信部、及び入出力インタフェイスが備わっている(図示省略)。また、農業管理装置2には、複数の水田と、水田で作物を栽培する複数の農業者に関する各種情報を格納したデータベース2dが構築されている。詳しくは、データベース2dには、農業者に関する農業者情報、水田に関する水田情報、及び水田で作物を栽培するために実施された農作業に関する作業情報などが複数格納されている。また、農業者情報と水田情報と作業情報とは、農業者毎又は水田毎に対応付けられて、データベース2dに格納されている。
【0027】
農業者情報には、農業者の個人情報、農業者のアカウントなどの識別情報、農業者が利用する農業者端末装置3のIPアドレスなどの情報が含まれている。水田情報には、水田の識別情報、水田がある地域、水田の位置(緯度、経度など)、面積、輪郭形状、土壌状態、排水性、栽培されている作物、及び水田に設置されたセンサと装置などの情報が含まれている。作業情報には、水田で作物を栽培するための農作業計画、農作業の内容、及び農作業の実施状態などが含まれている。また、作業情報に含まれる農作業には、例えば、水田における湛水、灌水、及び落水といった水管理作業があり、当該水管理作業とこれの実施状態(水管理状態)とを示す水管理情報が、作業情報に含まれている。
【0028】
水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、通信部1cにより農業管理装置2と通信して、データベース2dから農業者情報と水田情報と作業情報とをそれぞれ取得(受信)する。また、制御部1aは、水田からのメタンの削減に関する情報を、通信部1cにより農業管理装置2へ送信して、データベース2dに格納させる。
【0029】
農業者端末装置3は、農業者が利用するパーソナルコンピュータ、タブレット端末装置、又はスマートフォンなどから構成されている。
図1では、農業者端末装置3を2台例示しているが、農業者端末装置3は3台以上あってもよい。農業者端末装置3にも、制御部、記憶部、通信部、及び入出力インタフェイスが備わっている(図示省略)。農業者は、農業者端末装置3に農業者情報と水田情報と作業情報などの各種情報を入力する。農業者端末装置3は、入力された農業者情報と水田情報と作業情報などを、農業管理装置2又は水田メタン削減支援装置1に送信する。
【0030】
農業管理装置2は、農業者端末装置3から送信された農業者情報と水田情報と作業情報などを受信した場合、当該各情報をデータベース2dに格納する。水田メタン削減支援装置1(制御部1a)は、農業者端末装置3から送信された農業者情報と水田情報と作業情報などを通信部1cにより受信した場合、当該各情報を記憶部1bに記憶させる。
【0031】
水管理装置4は、水田の畔又は水田内に設置されている、水位センサ5は、水田内に設置されている。水管理装置4と水位センサ5とは、有線又は無線で電気的に接続されている。
図1では、水管理装置4と水位センサ5とを1台ずつ例示しているが、水管理装置4と水位センサ5とは、水田毎にそれぞれ1台以上設置されている。水管理装置4にも、制御部、記憶部、及び通信部が備わっている(図示省略)。また、水管理装置4には、操作
スイッチ、アクチュエータ、蓄電池、及び太陽光発電デバイスなどが備わっている。水管理装置4は、アクチュエータにより水田の水門を開閉して、水田に対して給水又は排水する。
【0032】
水位センサ5は水田の水位を検出して、当該検出結果を水管理装置4に送信する。水管理装置4は、水位センサ5の検出結果に基づいて、水田における湛水、灌水、又は落水などの水管理状態を検出する。そして、水管理装置4は、水位センサ5の検出結果及び水田の水管理状態に応じて、アクチュエータの作動を制御し、水田に対して給水又は排水して、水田の湛水、間断灌漑、及び落水を行う。
【0033】
また、水管理装置4は、水位センサ5の検出結果と水田の水管理状態とを示す水管理情報を、農業管理装置2又は水田メタン削減支援装置1に送信する。農業管理装置2は、水管理装置4から送信された水管理情報を受信した場合、当該水管理情報を対応する水田の作業情報に含めるように(関連付けて)、データベース2dに格納する。水田メタン削減支援装置1(制御部1a)は、水管理装置4から送信された水管理情報を受信した場合、当該水管理情報を記憶部1bに記憶させる。
【0034】
地球観測衛星7は飛翔体及び観測装置の一例であり、地表面を観測する。水田メタン削減支援システム100では、地球観測衛星7は、SAR(Synthetic Aperture Radar)衛星から構成され、合成開口レーダにより水田を観測する。モニタリング装置6は、地球観測衛星7の観測結果を取得する。モニタリング装置6にも、制御部、記憶部、通信部、及び入出力インタフェイスが備わっている(図示省略)。
図1では、モニタリング装置6と地球観測衛星7とを1台ずつ例示しているが、モニタリング装置6と地球観測衛星7はそれぞれ2台以上あってもよい。
【0035】
モニタリング装置6は、地球観測衛星7の観測結果から、水田における湛水、灌水、落水などの水管理状態を検出する。具体的には、モニタリング装置6は、地球観測衛星7に搭載された合成開口レーダにより観測された水田のSAR画像(観測画像)を取得し、当該SAR画像に基づいて水田の凹凸(でこぼこ)部分を検出する。そして、モニタリング装置6は、例えば水田の表面積に対する凹凸部分の面積の割合を算出して、当該割合が所定値未満の場合に、水田の表面が水面であり、水田が湛水状態であると判断する。また、モニタリング装置6は、水田の表面積に対する凹凸部分の面積の割合が所定値以上の場合に、水田の表面が水面ではなく(水田の水位がゼロの状態)、水田が落水状態であると判断する。さらに、モニタリング装置6は、水田の表面積に対する凹凸部分の面積の割合の変化から、水田が灌水状態であると判断してもよい。
【0036】
合成開口レーダのSAR画像による水田の湛水、灌水、落水などの水管理状態の判断は、上記に限定されず、その他の方法で判断されてもよい。また、水田メタン削減支援装置1にAI(Artificial Intelligence)を備えて、当該AIで機械学習により、合成開口レーダのSAR画像から水田の水管理状態を検出してもよい。
【0037】
モニタリング装置6は、水田の水管理状態を示す水管理情報を、農業管理装置2又は水田メタン削減支援装置1に送信する。農業管理装置2は、モニタリング装置6から送信された水管理情報を受信した場合、当該水管理情報を対応する水田の作業情報に含めるように(関連付けて)、データベース2dに格納する。水田メタン削減支援装置1(制御部1a)は、モニタリング装置6から送信された水管理情報を受信した場合、当該水管理情報を記憶部1bに記憶させる。
【0038】
水田の水管理状態を検出するため、水位センサ5と水管理装置4とを含む第1検出構成と、地球観測衛星7とモニタリング装置6とを含む第2検出構成とのうち、少なくともい
ずれかの検出構成を、水田メタン削減支援システム100に適用すればよい。また、上記第1検出構成と第2検出構成のうちの少なくともいずれかに加えて又は代えて、農業者が農業者端末装置3により水田の水管理状態を入力してもよい。また、地球観測衛星7以外の飛翔体、又はドローン若しくはUAV(Unmanned Aerial Vehicles)などの飛行体に、合成開口レーダ、3次元レーザ測量器、或いは撮像装置などの観測装置を搭載して、水田を観測してもよい。
【0039】
クレジット管理装置8は、温室効果ガスの削減量に応じた電子的なクレジットを管理する装置であり、クレジット管理業者により利用される。クレジット管理装置8にも、制御部、記憶部、通信部、及び入出力インタフェイスが備わっている(図示省略)。
図1では、クレジット管理装置8を1台例示しているが、クレジット管理装置8は2台以上あってもよい。また、クレジット管理業者は、複数あってもよい。
【0040】
水田メタン削減支援装置1(制御部1a)は、水田のメタン削減量と当該水田に対応する農業者情報とを含む報告情報を、クレジット管理装置8に送信する。クレジット管理装置8は、水田メタン削減支援装置1から受信した報告情報に含まれる水田のメタン削減量に応じてクレジットを発行し、当該クレジットを示すクレジット情報を水田メタン削減支援装置1に送信する。水田メタン削減支援装置1(制御部1a)は、クレジット管理装置8からクレジット情報を受信すると、当該クレジット情報を対応する農業者が利用する農業者端末装置3に送信(転送)する。また、水田メタン削減支援装置1(制御部1a)は、農業者からクレジットを買い取るための処理を実行する。
【0041】
需要者端末装置9は、クレジットを売買する企業、団体、又は個人などの需要者が利用する端末装置である。需要者端末装置9にも、制御部、記憶部、通信部、及び入出力インタフェイスが備わっている(図示省略)。
図1では、需要者端末装置9を1台例示しているが、需要者端末装置9は2台以上あってもよい。また、需要者は複数いてもよい。水田メタン削減支援装置1(制御部1a)は、需要者端末装置9との間で、クレジットの取引(売買)するための処理を実行する。
【0042】
図2は、水田Hで水稲Rを栽培する場合の時期と水位WLの一例を示す図である。水田Hで作物として水稲Rを栽培する場合、代掻き期から水田Hに灌水して、田植え期と活着期には、水田Hを深水状態にする。そして、分げつ期からしばらくの間、水田Hに間断灌水をして、水田Hを浅水状態にした後、水田Hから落水させて、水田Hをしばらくの間中干し(水田の水位がゼロの状態)する。この中干期間に、ヒビが入るまで水田Hの土壌を乾かすことで、土壌に酸素が補給され、水稲Rの根が土壌に強く張る。また、気温の高い分げつ期に、水田Hの湛水状態が続くと、土壌の還元が進み、土壌中のメタン生成菌の活動が活発になり、稲わらなどの有機物を基質として、メタン(温室効果ガス)が生成される。生成されたメタンは、水稲Rの器官を通じて大気中に排出される。
【0043】
このような水田Hからのメタンの排出量を削減するため、例えば水田Hを間断灌漑したり中干ししたりして、酸素を土壌に取り込むことで、土壌を還元状態から酸化状態に変化させる。また、水田Hの中干期間を延長することで、水田Hからのメタンの排出量がより削減される。然るに、水稲Rの幼穂形成期の前後は、水田Hに間断灌漑(間断灌水)する。水田Hの分げつ期から幼穂形成期までの間に、水稲Rの幼穂形成に悪影響を与えることなく、メタンの排出量を削減するには、中干期間を後倒し(幼穂形成期側)で延長するよりも、前倒し(分げつ期側で)延長する方が有効である。
【0044】
出穂期の前後は、水田Hに湛水して、水田Hを深水状態にする。その後、水稲Rの登熟期には、水田Hに間断灌水し、成熟期には、水田Hから落水して、水田の水位をゼロにして、水田の土壌を乾かす。水稲Rの収穫後に、稲わらを土壌にすき込むことでも、水田H
からのメタンの排出量が削減される。また、そのすき込み(秋すき込み)の際に、堆肥を施用することで、水田Hからのメタンの排出量が一層削減される。
【0045】
図3は、水田メタン削減支援装置1の概略動作の一例を示すフローチャートである。各処理は、制御部1aが実行する。(後述する他のフローチャートの各処理(各ステップ)も、制御部1aが実行する。)
【0046】
水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、まずメタンの排出量を削減する農業者と水田を登録する(
図3のS1)。次に、制御部1aは、水田からのメタンの削減を評価するための設定を行う(S2)。そして、制御部1aは、農業者による水田での農作業の実施状態に基づいて、水田からのメタンの削減状況を評価する(S3)。当該評価時に、制御部1aは、水田のメタン削減量を算出する。その後、制御部1aは、水田のメタン削減量をクレジット管理装置8によりクレジット化し(S4)、当該クレジットを、農業者端末装置3を介して農業者と取引したり、需要者端末装置9を介して需要者と取引したりする(S5)。
【0047】
図4は、水田メタン削減支援装置1の初期設定動作(初期設定時の動作)の一例を示すフローチャートである。
図4の初期設定動作は、
図3の処理S1、S2の詳細を示している。例えば、農業者が農業者端末装置3により水田メタン削減支援装置1に接続して、メタンを削減する水田の識別情報などを入力する。すると、農業者端末装置3が、当該水田の識別情報と農業者の識別情報とを含む登録情報を生成して、当該登録情報を水田メタン削減支援装置1に送信する。
【0048】
水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、農業者端末装置3からの登録情報を通信部1cにより受信する(
図4のS11)。すると、制御部1aは、当該登録情報に含まれる農業者の識別情報と水田の識別情報とに対応する農業者情報と水田情報と作業情報の送信を要求する情報要求信号を、通信部1cにより農業管理装置2に送信する(S12)。
【0049】
農業管理装置2は、水田メタン削減支援装置1からの情報要求信号を受信して、データベース2dを検索する。要求された農業者の識別情報と水田の識別情報とに対応する農業者情報と水田情報と作業情報とがデータベース2dに格納されていれば、農業管理装置2は、当該農業者情報と水田情報と作業情報とを水田メタン削減支援装置1に送信する。水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、農業者端末装置3からの農業者情報と水田情報と作業情報とを通信部1cにより受信(取得)すると(S13:YES)、当該農業者情報と水田情報と作業情報とを記憶部1bに記憶させる(S18)。このとき、制御部1aが取得した農業者情報と水田情報と作業情報とは対応している。
【0050】
一方、農業管理装置2は、水田メタン削減支援装置1から要求された農業者の識別情報と水田の識別情報とに対応する農業者情報と、過去の水田情報と、作業情報とがデータベース2dに格納されていなければ、対応する情報が無いことを水田メタン削減支援装置1に通知する。水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、対応する情報が無いことを示す通知を通信部1cによる受信すると(S14)、農業者の識別情報に対応する農業者端末装置3に農業者情報と水田情報と作業情報とを要求する情報要求信号を通信部1cにより送信する(S15)。
【0051】
農業者端末装置3は、水田メタン削減支援装置1からの情報要求信号を受信すると、農業者情報と水田情報と作業情報とを入力する画面を入出力インタフェイスのディスプレイに表示させる。そして、農業者端末装置3は、入出力インタフェイスのキーボードなどにより農業者情報と水田情報と作業情報とが入力されると、当該農業者情報と水田情報と作業情報とを水田メタン削減支援装置1に送信する。水田メタン削減支援装置1の制御部1
aは、農業者端末装置3からの農業者情報と水田情報と作業情報とを通信部1cにより受信すると(S16)、当該農業者情報と水田情報と作業情報とを農業管理装置2に送信してデータベース2dに格納させる(S17)。また。制御部1aは、当該農業者情報と水田情報と作業情報とを記憶部1bに記憶させる(S18)。このとき、制御部1aが取得した農業者情報と水田情報と作業情報も対応している。
【0052】
次に、制御部1aは、農業管理装置2又は農業者端末装置3から受信(取得)した水田情報と作業情報、並びに記憶部1bに記憶されたモデルデータに基づいて、水田のメタン排出量を算出する算出式を設定する(S19a)。モデルデータには、例えば
図5に示すような、公知のモデル式(1)、(2)と、当該モデル式(1)、(2)中の変数A、fd、fw、fo、EF、α、a、X、bを設定するためのテーブルデータ(図示省略)などが含まれている。モデル式(1)は、水田のメタン排出量Eを算出するための式である。モデル式(2)は、モデル式(1)に含まれる排出係数を算出するための式である。
【0053】
制御部1aは、水田の水田情報と作業情報と対応するテーブルデータとに基づいて、モデル式(1)、(2)の変数A、fd、fw、fo、α、EF、X、a、b(A;地域別水稲作付面積、fd;排水性割合、fw:水管理割合、fo:有機物割合、α:補正係数、EF:排出係数、X:地域別・施用有機物別有機物施用量、a:地域別・排水性別・水管理別傾き、b:地域別・排水性別・水管理別切片)を設定することにより、水田のメタン排出量を算出する算出式(変数確定後の式(1)、(2))を確定する。
【0054】
モデル式(2)の変数fw、EF、a、bは、水田の水管理状態によって定まる値である。制御部1aは、農業管理装置2又は農業者端末装置3から受信(取得)した水田の作業情報に含まれる従来の水管理情報に基づいて、水田の基本中干状態を設定する(
図4のS19b)。従来の水管理情報は、例えば水田のある地域で慣習的に行われていた水田の水管理状態を示している。基本中干状態には、中干の実施の有無と、中干期間(例えば水田の水位がゼロである状態の継続期間)とが含まれている。
【0055】
また、制御部1aは、基本中干状態とモデルデータに含まれる所定の傾き算出式に基づいて変数aを設定する。また、制御部1aは、基本中干状態とモデルデータに含まれる所定の切片算出式に基づいて変数bを設定する。また、制御部1aは、基本中干状態とモデルデータに含まれる所定のテーブルデータに基づいて変数fwを設定する。そして、制御部1aは、設定した変数a、b、fwをモデル式(1)、(2)に当てはめて、算出式(1)、(2)を確定し、当該確定した算出式(1)、(2)により水田の基本メタン排出量を算出する(S19c)。即ち、制御部1aは、確定した算出式(1)、(2)と基本中干状態とに基づいて、水田の基本メタン排出量を算出する。さらに、制御部1aは、確定した算出式(1)、(2)と基本中干状態と基本メタン排出量とを記憶部1bに記憶させる(S19d)。
【0056】
水田のメタン排出量を算出するためのモデルデータ及び算出式は、上記に限定されず、
図5の式(1)、(2)以外の式又はデータであってもよい。また、気象情報のような、水田の水田情報と作業情報以外の情報も考慮したモデルデータ及び算出式により、水田のメタン排出量を算出してもよい。さらに、AIで機械学習により、水田のメタン排出量の算出式を設定したり、水田のメタン排出量を算出したりしてもよい。
【0057】
図6は、水田メタン削減支援装置1のメタン評価動作(メタン評価時の動作)の一例を示すフローチャートである。
図6のメタン評価動作は、水田からのメタンの削減状況を評価する動作であって、
図3の処理S3の詳細を示している。例えば、農業者が水田からのメタンを削減するため、水田における水管理作業などの農作業を変更し、その後水田の作物(水稲)を収穫して、今年度の農作業を終える。そして、農業者が農業者端末装置3に
より水田メタン削減支援装置1に接続して、水田のメタン評価の実行を指示すると、農業者端末装置3がメタン評価指令を水田メタン削減支援装置1に送信する。
【0058】
水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、農業者端末装置3からのメタン評価指令を通信部1cにより受信する(
図6のS21)。すると、制御部1aは、当該メタン評価指令に含まれる農業者の識別情報と水田の識別情報とに対応する農業者情報と水田情報と作業情報を農業管理装置2又は農業者端末装置3から取得する(S22)。この情報を取得する処理S22は、
図4の処理S12~S18と同様の手順で実行される。(後述する
図8の処理S31と
図9の処理S41の情報取得処理も同様である。)
【0059】
次に、制御部1aは、取得した作業情報に含まれる農作業の実施状態を読み込み、当該作業情報に含まれる水管理情報に基づいて、実施された水田の中干状態を特定する(S23)。このとき特定される中干状態には、水田における中干の実施の有無と中干期間とが含まれる。次に、制御部1aは、水田に対応する算出式(前述の確定した式(1)、(2))を記憶部1bから読み出し、当該算出式と、読み込んだ農作業の実施状態と、特定した水田の中干状態とに基づいて、水田のメタン排出量を算出する(S24)。次に、制御部1aは、水田に対応する基本メタン排出量を記憶部1bから読み出し、当該基本メタン排出量から水田のメタン排出量を減算することにより、水田のメタン削減量を算出する(S25)。即ち、制御部1aは、水田での農作業が変更されたこと、又は特定した中干状態の基本中干状態に対する変更により削減された水田のメタン削減量を算出する。
【0060】
そして、制御部1aは、算出した水田のメタン削減量を含む評価情報を生成し、農業者情報に基づいて農業者端末装置3に対して、当該評価情報を通信部1cにより送信する(S26)。評価情報には、水田のメタン削減量だけでなく、特定した中干期間又は算出したメタン排出量などが含まれていてもよい。
【0061】
図6に示したメタン評価動作では、水田に対応する算出式によりメタン排出量を算出して、当該メタン排出量を基本メタン排出量から減算することにより、メタン削減量を算出する例を示した。然るに、それ以外に、例えば予め算出式に基づいて水田の中干期間とメタン削減量の相関関係を導出し、当該相関関係と特定した中干期間とに基づいて、メタン削減量を算出してもよい。
【0062】
具体的には、例えば制御部1aは、予め初期設定動作などにおいて、シミュレーションで水田の基本中干状態に含まれる基本中干期間を前後(前倒し又は後倒し)に所定間隔で延長する毎に、当該延長後の中干期間と水田に対応する算出式とに基づいてメタン排出量を算出する。また、制御部1aは、当該メタン排出量を前記基本メタン排出量から減算して、水田のメタン削減量を算出する。そして、制御部1aは、水田の中干期間とメタン削減量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第1相関データを記憶部1bに記憶させる。
【0063】
図7は、水田の中干期間とメタン削減量の相関関係を示す第1相関データの一例を示す図である。
図7に示す第1相関データでは、水田の中干期間とメタン削減量の相関関係とをテーブル形式で示している。また、第1相関データでは、水田の基本中干期間(5日間)の場合のメタン削減量、基本中干期間を前倒しで7日間及び14日間それぞれ延長した場合のメタン削減量、基本中干期間を後倒しで7日間及び14日間それぞれ延長した場合のメタン削減量、基本中干期間を前倒し7日間及び後倒し7日間それぞれ延長した場合のメタン削減量、基本中干期間を前倒し14日間及び後倒し14日間それぞれ延長した場合のメタン削減量を示している。
【0064】
この場合、制御部1aは、メタン評価動作において、水田の中干状態を特定し、当該中
干状態に含まれる中干期間と第1相関データとに基づいて、水田のメタン排出量を算出することなく、メタン削減量を算出する。具体的には、例えば、水田の中干期間を基本中干期間よりも前倒しで10日間延長した場合、制御部1aは、第1相関データの前倒し7日間の場合のメタン削減量Yaと、前倒し14日間の場合のメタン削減量Ycとに基づいて、前倒し10日間の中干期間のメタン削減量を算出する。
【0065】
水田のメタン削減量の算出方法は、上述した算出方法に限定されず、他の演算式又はデータに基づいて、水田のメタン削減量を算出してもよい。また、水田のメタン削減量(及びメタン排出量)として、水田全体のメタン削減量(及びメタン排出量)及び水田の単位面積当たりのメタン削減量(及びメタン排出量)のうちの少なくともいずれかを算出してもよい。或いは、水田のメタン削減率(%)を、メタン削減量として算出してもよい。また、気象情報のような、水田の水田情報と作業情報以外の情報も考慮したモデルデータ及び算出式により、水田のメタン削減量を算出してもよい。さらに、AIの機械学習により、水田のメタン削減量を算出してもよい。
【0066】
図8は、水田メタン削減支援装置1の中干提案動作の一例を示すフローチャートである。
図8の中干提案動作は、水田からのメタンを有効且つ有益に削減する推奨中干期間を提案する動作である。例えば、農業者が水田の中干作業を開始する前に、水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、水田に対応する農業者情報と水田情報と作業情報を農業管理装置2又は農業者端末装置3から取得する(
図8のS31)。この情報取得の処理S31は、
図4の処理S12~S18と同様の手順で実行される。
【0067】
次に、制御部1aは、前述したように、シミュレーションで水田の基本中干状態に含まれる基本中干期間を前後に所定間隔で延長する毎に、水田のメタン削減量を算出して、水田の中干期間とメタン削減量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第1相関データを記憶部1bに記憶させる(
図8のS32)。
【0068】
また、制御部1aは、シミュレーションで水田の基本中干期間を前後に所定間隔で延長する毎に、水田の作物の減収量を算出して、水田の中干期間と作物の減収量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第2相関データを記憶部1bに記憶させる(S33)。
【0069】
具体的には、例えば制御部1aは、水田の基本中干期間と水田情報と作業情報とに基づいて、水田の作物の基本収量を推定する。また、制御部1aは、シミュレーションで水田の基本中干期間を前後に所定間隔で延長する毎に、当該延長後の中干期間と水田の水田情報と作業情報とに基づいて、水田の作物の収量を推定する。水田の中干期間が長くなるほど、作物の収量は減少する。このため、制御部1aは、延長した中干期間毎に算出した作物の収量を基本収量から減算することにより、作物の減収量を算出して、水田の中干期間と作物の減収量の相関関係を導出し、当該相関関係を示す第2相関データを生成する。第2相関データは、テーブル形式のデータであってもよいし、或いは演算式であってもよい。
【0070】
次に、制御部1aは、第1相関データと第2相関データとに基づいて、メタン削減量が第1所定値以上で且つ作物の減収量が第2所定値以下である水田の推奨中干期間を判断する(S34)。そして、制御部1aは、判断した推奨中干期間を含む作業提案情報を、通信部1cにより水田に対応する農業者端末装置3に送信する(S35)。基本中干期間が0日であった場合、即ち従来水田で中干が実施されていなかった場合、制御部1aは、処理S35で中干の実施を勧める旨の情報を作業提案情報に含めてもよい。基本中干期間が1日以上であった場合、即ち従来水田で中干が実施されていた場合、制御部1aは、処理S35で従来からの中干期間の延長日時を作業提案情報に含めてもよい。また、制御部1aが、推奨する中干期間の開始日と終了日の少なくともいずれかを判断して、当該開始日
と終了日の少なくともいずれかを作業提案情報に含めてもよい。
【0071】
農業者端末装置3は、水田メタン削減支援装置1からの作業提案情報を受信して、当該作業提案情報で示される水田の推奨中干期間を、入出力インタフェイスのディスプレイなどに表示する。
【0072】
他の例として、制御部1aが、第1相関データと第2相関データのうちのいずれかを導出して、当該導出した相関データと、特定した水田の中干期間とに基づいて、最適な推奨中干期間を判断してもよい。また、他の例として、水田のメタンを削減するため、制御部1aが、水田の中干の実施と中干期間の延長に加えて或いは代えて、水田の間断灌漑などの水管理作業、作物の収穫後の稲わらのすき込み又は堆肥施用などの農作業の実施を提案してもよい。また、さらに、AIで機械学習により、水田の推奨中干期間、推奨水管理作業、稲わらのすき込み、又は堆肥施用などの提案を導出してもよい。
【0073】
図9は、水田メタン削減支援装置1の算出式更新動作の一例を示すフローチャートである。
図9の算出式更新動作は、水田のメタン排出量の算出式を更新する動作である。例えば、水田メタン削減支援装置1の管理者が入出力インタフェイス1dにより、ある水田に対応する算出式の更新指示を入力すると(
図9のS41)、制御部1aは、水田に対応する水田情報と作業情報を農業管理装置2又は農業者端末装置3から取得する(S42)。そして、制御部1aは、取得した水田情報及び作業情報に含まれる情報のうち、水田のメタン排出量の算出に関係する情報に変更があった場合(S43:YES)、当該情報の変更に応じて水田のメタン排出量の算出式を更新する(S44)。
【0074】
具体的には、例えば、水田情報に含まれる水田の排水性又は作業情報に含まれる施用有機物に変更があった場合、制御部1aは、当該変更に応じて、水田のメタン排出量の算出式(
図5)の変数fd、fo、EF、a、bを変更することにより、算出式を更新する(S44)。
【0075】
また、上記算出式の更新に伴って、制御部1aが、基本メタン排出量も更新してもよい。また、オペレータが水田メタン削減支援装置1の入出力インタフェイス1d(マウス、キーボードなど)を操作し、メタン測定器により測定された水田のメタンの濃度又は排出量の実測値に基づいて、記憶部1bに記憶されたモデルデータを更新してもよい。
【0076】
図10は、水田メタン削減支援装置1のクレジット化動作の一例を示すフローチャートである。
図10のクレジット化動作は、水田のメタン削減量を電子的なクレジットに変えるときの動作であり、
図3の処理S4の詳細を示している。水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、水田のメタン削減量の算出後に、水田のメタン削減量と、水田に対応する農業者情報とを含む報告情報を生成し、当該報告情報を通信部1cによりクレジット管理装置8に送信する(
図10のS51)。
【0077】
クレジット管理装置8は、水田メタン削減支援装置1から報告情報を受信すると、当該報告情報に含まれる水田のメタン削減量に応じてクレジットを発行し、当該クレジットを示すクレジット情報を水田メタン削減支援装置1に送信する。クレジット情報には、クレジットの値、識別情報(管理番号)、及びクレジットの所有者などの情報が含まれている。制御部1aは、クレジット管理装置8からクレジット情報を受信すると(S52)、当該クレジット情報で示されるクレジットの所有者である農業者を特定し、当該農業者が利用する農業者端末装置3に受信したクレジット情報を送信する(S53)。
【0078】
図10のクレジット化動作では、水田毎にメタン削減量をクレジット化したが、これ以外に、例えば
図11に示すように、複数の水田のメタン削減量を一括してクレジット化し
てもよい。
【0079】
図11は、水田メタン削減支援装置1のクレジット化動作の他例を示すフローチャートである。水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、複数の水田のメタン削減量を合算して(
図11のS54)、当該合算したメタン削減量を含む報告情報を生成し、当該報告情報を通信部1cによりクレジット管理装置8に送信する(S51a)。
【0080】
そして、制御部1aは、合算したメタン削減量に応じてクレジット管理装置8から発行されたクレジットを示すクレジット情報を通信部1cにより受信(取得)すると(S52a)、当該クレジット情報で示されるクレジットを、複数の水田のメタン削減量に応じて分配する(S55)。また、制御部1aは、分配したクレジットを示すクレジット情報を新たに生成して、当該クレジット情報を通信部1cにより、複数の水田に対応する農業者の農業者端末装置3に送信する(S53a)。
【0081】
図12は、水田メタン削減支援装置1のクレジット買取動作の一例を示すフローチャートである。
図12のクレジット買取動作は、農業者からクレジットを買い取るときの動作であり、
図3の処理S7の一例を示している。例えば、農業者が所有するクレジットを売却したい旨を示す情報を農業者端末装置3に入力すると、農業者端末装置3は、当該クレジットを売却したい旨を示す売却希望情報を生成して、当該売却希望情報を水田メタン削減支援装置1に送信する。売却希望情報には、クレジットを売却したい旨だけでなく、クレジットの値と識別番号などを示すクレジット情報も含まれている。
【0082】
水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、農業者端末装置3からの売却希望情報を通信部1cにより受信すると(S61)、当該売却希望情報で示されるクレジットの代価を決定し、当該代価を所定の取引者に支払わせる指示を示す支払指示情報を、入出力インタフェイス1dにより出力(S62)。このとき、例えば制御部1aは、入出力インタフェイス1dに含まれるディスプレイに、支払指示情報を表示させる。又は、所定の取引者が利用する取引者端末装置(図示省略)に、支払指示情報を転送してもよい。
【0083】
その後、取引者が代価を農業者に支払ったことを示す支払完了情報が、入出力インタフェイス1d(マウス、キーボードなど)により入力されると(S63)、制御部1aは、対応するクレジットの所有者を農業者から取引者に変更して、取引者に代わってクレジットを管理する(S64)。また、制御部1aは、対応するクレジットを示すクレジット情報と、当該クレジットの所有者が農業者から取引者に変更されたことを示す情報とを含む変更報告情報を生成し、当該変更報告情報を通信部1cによりクレジット管理装置8に送信する(S65)。
【0084】
クレジット管理装置8は、水田メタン削減支援装置1からの変更報告情報を受信すると、当該変更報告情報で示されるクレジットの所有者の変更を受け付けて、当該クレジットの管理情報を更新する。
【0085】
図13は、水田メタン削減支援装置1のクレジット取引動作の一例を示すフローチャートである。
図13のクレジット取引動作は、需要者にクレジットを売却するときの動作であり、
図3の処理S7の一例を示している。例えば、水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、管理するクレジットを買い取りたい旨を示す買取希望情報を、需要者が利用する需要者端末装置9から通信部1cにより受信すると(S71)、当該買取希望情報で示されるクレジットの代価を決定し、当該代価を需要者に支払わせる支払指令を、需要者端末装置9に送信する(S72)。
【0086】
その後、制御部1aは、需要者が代価を取引者に支払ったことを示す支払完了情報を、
需要者端末装置9から通信部1cにより受信すると(S73)、対応するクレジットの所有者を取引者から需要者に変更して(S74)、当該クレジットを管理対象から外す。また、制御部1aは、そのクレジットを示すクレジット情報と、当該クレジットの所有者が取引者から需要者に変更されたことを示す情報とを含む変更報告情報を生成し、当該変更報告情報を通信部1cによりクレジット管理装置8に送信する(S75)。
【0087】
以上の実施形態では、農業管理装置2及び農業者端末装置3が、水田メタン削減支援装置1に対して外部装置である例を示したが、これに限定しない。例えば、水田メタン削減支援装置1と農業管理装置2とを同一のコンピュータ又はサーバなどで構成したり、水田メタン削減支援装置1と農業者端末装置3とを、同一のコンピュータ又は端末装置で構成したりしてもよい。また、水田メタン削減支援装置1、農業管理装置2、及び農業者端末装置3をクラウド上に設けて、クラウド上で互いに情報を入出力するようにしてもよい。またこの場合、水田のメタン削減量を示す評価情報、水田の推奨中干期間を含む作業提案情報、及びメタン削減量に応じたクレジットを示すクレジット情報を、同一のコンピュータなど或いはクラウド上で入出力してもよい。
【0088】
以上の実施形態では、水田での作物の栽培中に、水田から排出されるメタンを削減するための水田の水管理状態を、水管理装置4が水位センサ5の検出結果などに基づいて検出したり、モニタリング装置6が地球観測衛星7の合成開口レーダによる観測結果に基づいて検出したり、農業者が農業者端末装置3により入力したりするなどの例を示した。
【0089】
然るに、水管理装置4又は水位センサ5が水田に設置されておらず、当該水田がモニタリング装置6のモニタリング対象になっていない場合、当該水田の水管理状態を検出することができない。また、農業者が農業者端末装置3により入力した水田の水管理状態の情報(記録)は、客観性と証拠性が不十分で、間違っていたり改ざんされたりするおそれがある。
【0090】
上記問題の対策として、水田メタン削減支援装置1が、地球観測衛星7の合成開口レーダによるSAR画像(観測画像)のデータに基づいて、水田のメタンを削減するための水管理の状態及び当該状態が継続した期間を特定するように構成する。この場合の実施形態を以降詳述する。
【0091】
図14Aは、地球観測衛星7の合成開口レーダから湛水状態の水田Hに照射したマイクロ波の反射状態の一例を示す図である。
図14Aに示すように、湛水状態の水田Hに地球観測衛星7の合成開口レーダからマイクロ波Waが照射された場合、マイクロ波Waが水田Hの平滑な水面Hwで反射する。このため、湛水状態の水田Hでは、マイクロ波Waの前方散乱波Wfの強度が高くなり、後方散乱波の強度が低くなる、即ち後方散乱係数σが小さくなる。
【0092】
図14Bは、地球観測衛星7の合成開口レーダから落水状態の水田Hに照射したマイクロ波の反射状態の一例を示す図である。
図14Bに示すように、落水状態の水田Hに地球観測衛星7の合成開口レーダからマイクロ波Waが照射された場合、マイクロ波Waが水田Hのでこぼこした(凹凸がある平滑でない)或いはひび割れた地表面Hgで反射する。このため、落水状態の水田Hでは、湛水状態の水田Hの場合(
図14A)よりも、マイクロ波Waの前方散乱波Wfの強度が低くなり、マイクロ波Waの後方散乱波Wbの強度(後方散乱係数)が高くなる、即ち後方散乱係数σが大きくなる。
【0093】
また、水田Hで作物(水稲)Rが栽培されている場合、地球観測衛星7の合成開口レーダからXバンドのマイクロ波Waが水田Hに照射されると、
図14A及び
図14Bに示すように、Xバンドのマイクロ波Waは、水田Hの水面Hw或いは地表面Hgで反射するだ
けでなく、作物Rの生長した葉などでも反射する。このように、Xバンドのマイクロ波Waが作物Rで反射すると、当該マイクロ波Waの前方散乱波Wfの強度が低くなり、マイクロ波Waの後方散乱波Wbの強度が高くなるので、後方散乱係数が大きくなる。
【0094】
図15A~
図15Cは、地球観測衛星7の合成開口レーダにより作物(水稲)栽培中の複数の水田Hを含む地域を観測したSAR画像の一例を示す図である。特に、
図15Aは、複数の水田Hを含む地域の中干期間前(観測日:2021年6月21日)のSAR画像を示している。
図15Bは、複数の水田Hの中干期間中(観測日:2021年7月3日)のSAR画像を示している。
図15Cは、複数の水田Hの中干期間後(観測日:2021年7月15日)のSAR画像を示している。
【0095】
図15A~
図15Cに示す各SAR画像は、合成開口レーダからXバンドのマイクロ波を照射した場合の後方散乱波の強度を示している。図示の便宜上、各SAR画像において、ハッチングを付した部分に複数の水田Hが含まれていて、視認可能な水田Hを破線で区切って示している。
【0096】
SAR画像の各画素の色の濃淡及び明るさの少なくともいずれかを表す画素値を検出し、当該各画素値を予め記憶部1bに記憶された所定のLUT(Look Up Table)又は演算式などの変換データにより変換することで、各画素が示す水田Hなどの実際の箇所における後方散乱波の強度、即ち後方散乱係数を求めることができる。
【0097】
SAR画像では、後方散乱係数が小さい箇所ほど、黒色が濃く映し出される。即ち、各SAR画像では、後方散乱係数が小さい湛水状態の水田Hは、黒っぽく表示され、後方散乱係数が大きい落水状態の水田Hは、白っぽく表示される。
図15A~
図15Cでは、ハッチングの間隔が狭いほど、黒色が濃いことを示している。
【0098】
図15Aに示す水田Hの中干期間前のSAR画像と、
図15Cに示す水田Hの中干期間後のSAR画像では、水田Hが湛水状態にあるので黒っぽく表示されている。対して、
図15Bに示す水田Hの中干期間中のSAR画像では、水田Hが落水状態にあるので白っぽく表示されている。
【0099】
図16A及び
図16Bは、
図15A~
図15Cに示したSAR画像に含まれる、ある1つの水田H1の後方散乱係数のヒストグラムを示すグラフである。詳しくは、
図16Aは、中干期間前のSAR画像の水田H1を示す複数の画素にそれぞれ対応する後方散乱係数のヒストグラムGbと、中干期間中のSAR画像の水田H1を示す複数の画素にそれぞれ対応する後方散乱係数のヒストグラムGcとを示すグラフである。
図16Bは、ヒストグラムGcと、中干期間後の水田H1を示す複数の画素にそれぞれ対応する後方散乱係数のヒストグラムGaとを示すグラフである。
【0100】
図16A及び
図16Bでは、横軸に後方散乱係数の範囲を示し、縦軸に水田H1を示す全画素数に対する各後方散乱係数が対応付けられた画素数の割合を示している。
図16A及び
図16Bに示すように、中干期間前の水田H1の後方散乱係数のヒストグラムGb、中干期間中の水田H1の後方散乱係数のヒストグラムGc、及び中干期間前の水田H1の後方散乱係数のヒストグラムGaは、それぞれ正規分布を示している。
【0101】
図16Aに示すように、中干期間前の水田H1の後方散乱係数のヒストグラムGbは、中干期間中の水田H1の後方散乱係数のヒストグラムGcよりも、後方散乱係数が小さい範囲に広がっていて、分布範囲も大きくなっている。また、中干期間前のヒストグラムGbの最頻値Gbmは、中干期間中のヒストグラムGcの最頻値Gcmよりも小さくなっている。中干期間前のヒストグラムGbの平均値及び中央値も、中干期間中のヒストグラム
Gcの平均値よりも小さくなっている(符号図示省略)。
【0102】
図16Bに示すように、中干期間後の水田H1のSAR画像の後方散乱係数のヒストグラムGaは、中干期間中の水田H1のSAR画像の後方散乱係数のヒストグラムGcよりも、後方散乱係数が小さい範囲に広がっている。また、中干期間後のヒストグラムGaの最頻値Gamは、中干期間中のヒストグラムGcの最頻値Gcmよりも小さくなっている。中干期間後のヒストグラムGaの平均値及び中央値も、中干期間中のヒストグラムGcの平均値よりも小さくなっている(符号図示省略)。
【0103】
上記のような各ヒストグラムGa~Gcに基づいて、水田H1の水管理状態を判断するための閾値を設定する。例えば
図16Aに示すように、中干期間前のヒストグラムGbと中干期間中のヒストグラムGcとが重複する部分の頂点P1の後方散乱係数を検出する。また、
図16Bに示すように、中干期間後のヒストグラムGaと中干期間中のヒストグラムGcとが重複する部分の頂点P2の後方散乱係数を検出する。そして、頂点P1の後方散乱係数と頂点P2の後方散乱係数とに基づいて、水田H1が中干状態にあることを判断するための第1閾値σ1を設定する。このとき、例えば頂点P1の後方散乱係数と頂点P2の後方散乱係数との最頻値、平均値、中央値、最大値、及び最小値のいずれかを、第1閾値σ1として設定してもよい。第1閾値σ1により、水田H1の落水状態の有無及び湛水状態の有無を判断することができる。
【0104】
また他の例として、各ヒストグラムGa~Gcに対応する正規分布カーブをそれぞれ算出して、当該正規分布カーブに基づいて第1閾値σ1を設定してもよい。具体的には、中干期間前のヒストグラムGbの正規分布カーブと、中干期間中のヒストグラムGcの正規分布カーブとの交点の後方散乱係数を検出する。また、中干期間後のヒストグラムGaの正規分布カーブと、中干期間中のヒストグラムGcの正規分布カーブとの交点の後方散乱係数を検出する。そして、それら2つの交点の後方散乱係数の最頻値、平均値、中央値、最大値、及び最小値のいずれかを、第1閾値σ1として設定してもよい。
【0105】
また、
図16A及び
図16Bに示す中干期間中のヒストグラムGcが示す後方散乱係数の最小値(
図16A及び
図16Bの最左点P3の後方散乱係数)に基づいて、水田H1が湛水状態にあることを判断するための第2閾値σ2を設定する。このとき、例えばヒストグラムGcの最小値、又は最小値よりも所定の余裕値だけ小さい値を、第2閾値σ2に設定してもよい。第2閾値σ2により、水田H1が落水状態にないことと、中干状態にないことも判断することができる。
【0106】
上記のような第1閾値σ1と第2閾値σ2の設定は、例えばオペレータがコンピュータを操作することによって実行してもよいし、又は、水田メタン削減支援装置1の制御部1aが、ソフトウェアプログラムに従って実行してもよい。また、AI(人工知能)による機械学習によって、第1閾値σ1と第2閾値σ2を設定してもよい。但し、第1閾値σ1及び第2閾値σ2は、水田メタン削減支援装置1の記憶部1b(
図1)に記憶される。
【0107】
第1閾値σ1及び第2閾値σ2の設定手法は、上記に限定するものではない。例えば、オペレータ、水田メタン削減支援装置1、他のコンピュータ、及びAIのうち、少なくとも1つ以上が、水田のSAR画像と、作業者などが視認した実際の水田で確認湛水、落水、中干などの水管理の状態及び期間とを参照して、第1閾値σ1及び第2閾値σ2を設定してもよい。
【0108】
また、水田毎に第1閾値σ1及び第2閾値σ2を設定してもよいし、又は複数の水田に対して共用の第1閾値σ1及び第2閾値σ2を設定してもよい。また、合成開口レーダにより複数の地域をそれぞれ観測して得た複数のSAR画像から、当該各地域に含まれる複
数の水田をそれぞれ示す画素を抽出し、当該複数の画素の画素値に対応する後方散乱係数に基づいて、第1閾値σ1及び第2閾値σ2を設定してもよい。
【0109】
さらに言えば、第1閾値σ1及び第2閾値σ2は、水田のSAR画像と実証データとに基づいて、統計的又は類型的に設定されてもよい。また、第1閾値σ1と第2閾値σ2とを、異なる水田のSAR画像及び実証データに基づいて設定してもよいし、異なるアルゴリズムで設定してもよい。また、第1閾値σ1と第2閾値σ2とを異なる値に設定してもよいし、又は同一値に設定してもよい。また、第1閾値σ1と第2閾値σ2の少なくともいずれかを設定してもよい。また、所定の年数毎に、それまでに収集した水田のSAR画像と実証データとに基づいて、第1閾値σ1及び第2閾値σ2を更新してもよい。
【0110】
図17は、中干期間前後のSAR画像の水田H1に対応する後方散乱係数の割合の推移を示すグラフである。詳しくは、
図17は、2021年の6月9日、6月21日、7月3日、7月15日、及び7月27日に、地球観測衛星7の合成開口レーダにより観測された水田H1のSAR画像の各画素に対応する後方散乱係数を3段階に区分けした場合の、各区の割合をそれぞれ示している。6月9日と21日は水田H1の中干期間前の観測日であり、7月3日は水田H1の中干期間中の観測日であり、7月15日と27日は水田H1の中干期間後の観測日である。
図17の横軸は日付を示し、縦軸は割合を示している。
【0111】
6月9日と7月27日のSAR画像については、図示を省略されている。然るに、6月9日のSAR画像では、
図15Aに示した6月21日のSAR画像のように、湛水状態にある水田Hが黒っぽく表示されている。また、7月27日のSAR画像では、
図15Cに示した7月15日のSAR画像のように、落水状態にある水田Hが白っぽく表示されている。
【0112】
図17では、第1閾値σ1より大きい後方散乱係数σの段階を、中干区Cmと設定している。第2閾値σ2より小さい後方散乱係数σの段階を、湛水区Cfと設定している。第2閾値σ2以上で且つ第1閾値σ1以下の後方散乱係数σの段階を、一部湛水区Cpと設定している。また、第1閾値σ1を「-14[db]」に設定し、第2閾値σ2を「-20[db]」に設定している。
図17のグラフでは、中干区Cmの後方散乱係数の割合を実線で示し、一部湛水区Cpの後方散乱係数の割合を2点鎖線で示し、湛水区Cfの後方散乱係数の割合を1点鎖線で示している。
【0113】
図17に示すように、水田H1の中干期間前(6月9日と21日)には、湛水区Cfに属する後方散乱係数σの割合(6月9日は99.36%、21日は61.37%)が、中干区Cmと一部湛水区Cpとにそれぞれ属する後方散乱係数σの割合(中干区Cmの6月9日は0.02%で21日は10.09%、一部湛水区Cpの6月9日は0.03%で21日は28.54%)より高くなっている。また、水田H1の作物Rがある程度生長した中干期間の約1週間前(6月21日)には、中干区Cmに属する後方散乱係数σの割合が、一部湛水区Cpに属する後方散乱係数σの割合より低くなっている。
【0114】
水田H1の中干期間中(7月3日)には、中干区Cmに属する後方散乱係数σの割合(88.5%)が、湛水区Cfと一部湛水区Cpとにそれぞれ属する後方散乱係数σの割合(湛水区Cfは0.72%、一部湛水区Cpは10.78%)より著しく高くなっている。
【0115】
水田H1の中干期間後(7月15日と27日)には、中干区Cmに属する後方散乱係数σの割合(7月15日は3.17%、27日は0.75%)が、湛水区Cfと一部湛水区Cpとにそれぞれ属する後方散乱係数σの割合(湛水区Cfの7月15日は55.24%で27日は81.68%、一部湛水区Cpの7月15日は41.59%で27日は17.
57%)より低くなっている。また、水田H1の中干期間後には、湛水区Cfに属する後方散乱係数σの割合が、一部湛水区Cpに属する後方散乱係数σの割合より高くなっている。
【0116】
上記のように、中干区Cm及び湛水区Cfにそれぞれ属する後方散乱係数σの割合が、水田H1の実際の中干期間であるか否かに応じて顕著に変動するので、中干区Cmを定める第1閾値σ1と湛水区Cfを定める第2閾値σ2とが水田H1の中干状態を判断する閾値として適切であることが実証されたと言える。
【0117】
図18は、水田メタン削減支援装置1の水管理特定動作の一例を示すフローチャートである。
図18の水管理特定動作は、水田のメタンを削減するための水管理の状態と当該状態が継続した期間とを特定する動作であって、前述した
図6の処理S22の後に、処理S23に代えて水田メタン削減支援装置1の制御部1a(
図1)により実行される。
【0118】
図6に示したメタン評価動作において、水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、前述したように通信部1c(通信インタフェイス)により、農業者端末装置3からのメタン評価指令を受信する(
図6のS21)。そして、制御部1aは、メタン評価指令に含まれる農業者の識別情報と水田の識別情報とに対応する農業者情報と水田情報と作業情報とを、農業管理装置2又は農業者端末装置3から通信部1cにより取得(受信)する(S22)。通信部1cは、情報を取得する取得部の一例である。これ以外に、記憶媒体を介して情報及びデータを水田メタン削減支援装置1に入力可能な入力インタフェイスにより取得部を構成してもよい。
【0119】
図6の処理S22の後、制御部1aは、
図18の水管理特定動作を実行する。まず制御う1aは、取得した水田情報と作業情報とを読み込んで(
図18のS81)、水田情報で示された対象水田の水管理情報が作業情報に含まれているか否かを確認する。例えば、水管理装置4など(
図1の水位センサ5を含んでもよい。)が対象水田に設置されている場合、制御部1aは、水管理装置4により検出された対象水田の湛水、灌水、又は落水などの水管理状態を示す情報である水管理情報(以下、「検出水管理情報」という。)が作業情報に含まれていることを確認する(
図18のS82:YES)。
【0120】
また、対象水田がモニタリング装置6(
図1)に登録されたモニタリング対象に含まれている場合、制御部1aは、モニタリング装置6により検出された対象水田の水管理情報(以下、「検出水管理情報」という。)が作業情報に含まれていることを確認する(
図18のS82:YES)。
【0121】
次に、制御部1aは、検出水管理情報に基づいて、対象水田のメタンを削減するために実施された水管理の状態(有無)及び期間を特定し、当該中干の状態及び期間を示す特定水管理情報を記憶部1bに記憶させる(S83)。そして、制御部1aは、特定水管理情報を特定するために基づいた検出水管理情報を、根拠情報として特定水管理情報と関連付けて記憶部1bに記憶させる(S84)。
【0122】
具体的には、処理S83において、例えば制御部1aは、まず水田情報と作業情報とに基づいて、対象水田に作付けされた作物(水稲)の分げつ期と幼穂形成期とを特定する。次に、制御部1aは、検出水管理情報を読み込んで、分げつ期から幼穂形成期までの間に、対象水田の湛水されていない状態が所定日数(例えば5日)以上継続されたか否かを確認する。
【0123】
例えば制御部1aは、対象水田の湛水されていない状態(落水状態)が所定日数(例えば5日)以上継続されたことを、検出水管理情報から確認した場合、対象水田で中干の実
施があったと判断する。そして、制御部1aは、対象水田が湛水されていない状態の開始日と最終日とをそれぞれ中干開始日と中干終了日として特定し、当該中干開始日から中干終了日までの期間を中干期間として特定する。さらに、制御部1aは、対象水田の中干が実施されたことと中干期間とを示す特定水管理情報を生成して、当該特定水管理情報を記憶部1bに記憶させる(S84)。
【0124】
なお、対象水田で中干が実施されなかった場合、制御部1aは、処理S83で検出水管理情報に基づいて対象水田の中干状態を特定することができない。この場合、制御部1aは、処理S84において、対象水田での実施が無かったことを示す特定水管理情報を生成して、当該特定水管理情報を記憶部1bに記憶させる。
【0125】
上記のように処理S84が実行されて、
図18の水管理特定動作が終了した場合、次に制御部1aは、対象水田に対応する算出式と、作業情報に含まれる対象水田での農作業の実施状態と、記憶部1bに記憶された特定水管理情報とに基づいて、水田のメタン排出量を算出する(
図6のS24)。そして、制御部1aは、前述したように対象水田のメタン削減量を算出して(S25)、当該メタン削減量を記憶部1bに記憶させ、当該メタン削減量を含む評価情報を、農業者情報に基づいて農業者端末装置3に送信する(S26)。
【0126】
一方、水位センサ5と水管理装置4とが対象水田に設置されておらず、対象水田がモニタリング装置6のモニタリング対象に含まれていないことがある。この状況において、例えば農業者が、対象水田の湛水、灌水、落水、及び中干などの水管理状態を示す情報である水管理情報を、農業者端末装置3により入力する。
【0127】
その場合、制御部1aは、作業情報に検出水管理情報が含まれておらず(
図18のS82:NO)、農業者が農業者端末装置3により入力した水管理情報(以下、「入力水管理情報」という。)が作業情報に含まれていることを確認する(S85:YES)。そして、制御部1aは、地球観測衛星7の合成開口レーダによるSAR画像のデータに基づいて、対象水田の入力水管理情報の検証と、メタンを削減するために実施された水管理の状態及び期間の特定とを実行する(S86)。
【0128】
図19A及び
図19Bは、水田メタン削減支援装置1の検証特定動作の一例を示すフローチャートである。
図19A及び
図19Bに示す検証特定動作は、
図18の処理S86の詳細を示している。本検証特定動作において、制御部1aは、入力水管理情報に基づいて、地球観測衛星7の合成開口レーダにより観測された複数のSAR画像のデータを取得し、当該複数のSAR画像のデータに基づいて対象水田の水管理の状態及び期間を判断し、当該判断した水管理の状態及び期間に基づいて、入力水管理情報で示された対象水田の水管理の状態及び期間を検証し、対象水田のメタンを削減するための水管理の状態及び期間を特定する。本検証特定動作について、以下詳述する。
【0129】
対象水田の作業情報に含まれる入力水管理情報には、対象水田のメタンを削減するための水管理の状態及び期間として、中干状態と中干期間が含まれている。このため、まず水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、入力水管理情報で示される対象水田の中干期間のうち、中干開始日と中干最終日とを判断する(
図19AのS91)。なお、中干開始日とは、対象水田が中干されるために、湛水状態から落水状態に変化した日のことである。中干最終日とは、中干されている対象水田が落水状態から湛水状態に変化した日の前日のことである。
【0130】
次に、制御部1aは、通信部1cにより、地球観測衛星7の合成開口レーダにより観測されたデータを記憶しているモニタリング装置6と通信して、対象水田の中干開始日と中干最終日のそれぞれに合成開口レーダにより観測された対象水田を含む地域のSAR画像
のデータを取得(受信)する(S92)。
【0131】
なお、合成開口レーダの観測データが、モニタリング装置6ではなく、例えば観測データサーバ(図示省略)に記憶されている場合には、制御部1aは、対象水田の中干開始日と中干最終日に合成開口レーダにより観測された対象水田を含む地域のSAR画像のデータを、観測データサーバから通信部1cにより取得する。モニタリング装置6と観測データサーバは、観測管理装置の一例である。
【0132】
また、対象水田と対象水田を含む地域の位置(緯度、経度)は、対象水田の水田情報で示されている。制御部1aは、当該水田情報に基づいて対象水田を含む地域の位置を判断し、当該位置を観測した合成開口レーダのSAR画像をモニタリング装置6又は観測データサーバから取得する。
【0133】
次に、制御部1aは、対象水田の中干開始日に観測されたSAR画像から対象水田を示す1つ以上の画素を抽出し、当該画素の画素値に対応する後方散乱係数を検出する(S93)。このとき、制御部1aは、検出した後方散乱係数の数、即ち対象水田の後方散乱係数の全数Naを数える。
【0134】
なお、SAR画像中の対象水田を示す画素数は、SAR画像の解像度(観測幅)によって変わる。このため、対象水田の面積と後方散乱係数の抽出数などを考慮して、適切な解像度のSAR画像をモニタリング装置6などから水田メタン削減支援装置1に取得する。
【0135】
次に、制御部1aは、中干開始日のSAR画像に基づいて検出した対象水田の後方散乱係数と、記憶部1bに記憶された第1閾値σ1とを比較して、第1閾値σ1より大きい後方散乱係数の該当数Nbを数える。そして、制御部1aは、水田の後方散乱係数の全数Naに対する該当数Nbの割合Rs(Rs=Nb/Na×100[%])を算出する(S94)。
【0136】
次に、割合Rsが、記憶部1bに記憶された所定の第3閾値Rt(例えば80%)以上である場合(S95:YES)、制御部1aは、入力水管理情報で示された中干開始日に、対象水田が落水状態で且つ中干状態にあると判断して、当該判断結果を記憶部1bに記録する(S96)。
【0137】
対して、割合Rsが第3閾値Rt未満である場合(S95:NO)、制御部1aは、入力水管理情報で示された中干開始日に、対象水田が落水状態になく、中干状態にもなかったと判断して、当該判断結果を記憶部1bに記録する(S97)。第3閾値Rtは、例えば
図17に示したような、水田の後方散乱係数の実証データに基づいて設定されている。
【0138】
次に、制御部1aは、中干最終日のSAR画像から対象水田を示す画素を抽出し、当該画素の画素値に対応する後方散乱係数を検出する(
図19BのS98)。また、制御部1aは、上述したように抽出した対象水田の後方散乱係数の全数Naに対する、第1閾値σ1より大きい後方散乱係数の該当数Nbの割合Reを算出する(S99)。
【0139】
そして、割合Reが第3閾値Rt以上である場合(S100:YES)、制御部1aは、入力水管理情報で示された中干最終日に対象水田が落水状態で且つ中干状態にあると判断して、当該判断結果を記憶部1bに記録する(S101)。
【0140】
対して、割合Reが第3閾値Rt未満である場合(S100:NO)、制御部1aは、入力水管理情報で示された中干最終日に対象水田が落水状態になく、中干状態にもなかったと判断して、当該判断結果を記憶部1bに記録する(S102)。
【0141】
上述したように制御部1aは、
図19Aの処理S96及び
図19Bの処理S101で、中干開始日と中干最終日に対象水田が中干状態であったと判断した場合、SAR画像のデータから判断した対象水田の中干の状態及び期間と、入力水管理情報で示された対象水田の中干の状態及び期間とが対応していると判断する(
図19BのS103:YES)。そして、制御部1aは、入力水管理情報で示される水管理の状態及び期間が正当であると判断して(S104)、入力水管理情報を特定水管理情報として記憶部1bに記憶させる(S105)。
【0142】
上記の例では、制御部1aが、SAR画像のデータから判断した対象水田の中干の状態及び期間と、入力水管理情報で示された対象水田の中干の状態及び期間とが一致している場合に対応していると判断した例を示したが、これに限定するものではない。例えば、入力水管理情報で対象水田の落水日と湛水日とが示されていて、当該落水日から湛水日までの日数が所定日(例えば5日)以上ある場合に、制御部1aが、落水日から湛水日までを対象水田の入力された中干期間と推定してもよい。そして、制御部1aが、対象水田が落水日に落水状態にあり且つ湛水日に湛水状態にあることをSAR画像のデータから確認することができたときに、SAR画像のデータから判断した対象水田の中干の状態及び期間と、入力水管理情報で示された対象水田の中干の状態及び期間とが対応していると判断してもよい。
【0143】
また、例えば、対象水田の水位を低下させる作業の実施日と、対象水田の水位を略0まで低下させる排水作業の実施日と、対象水田の水位を上昇させる給水作業の実施日とが、入力水管理情報で示されている場合に、制御部1aが、対象水田の排水性に基づいて水位が略0まで低下する合理的な落水所要時間を推定し、対象水田の給水性に基づいて水位が上昇して湛水状態になる合理的な湛水所要時間を推定してもよい。そして、制御部1aが、排水作業の実施日から落水所要時間の経過後に対象水田の水位が略0まで低下していることと、給水作業の実施日から湛水所要時間の経過後に対象水田の水位が上昇して湛水状態にあることとを、SAR画像のデータから確認することができたときに、SAR画像のデータから判断した対象水田の中干(又は間断灌水)の状態及び期間と、入力水管理情報で示された対象水田の中干(又は間断灌水)の状態及び期間とが対応していると判断してもよい。即ち、制御部1aは、入力水管理情報で示される対象水田の水管理状態と、SAR画像のデータから得られた対象水田の水管理状態とが適切な関係にある場合に、これらが対応していると判断すればよい。
【0144】
上述したように制御部1aは、入力水管理情報で示される水管理の状態及び期間が正当であると判断して(
図19BのS104)、入力水管理情報を特定水管理情報として記憶部1bに記憶させた(S105)後、特定水管理情報と、入力水管理情報と、特定水管理情報と入力水管理情報とが対応していることを示す情報と、入力水管理情報が正当であることを示す情報とを含む検証情報を生成し、当該検証情報を記憶部1bに記憶させる(S106)。このとき、制御部1aは、対象水田の中干開始日と中干最終日のSAR画像のデータのうち、
図15A~15Cに示したようなSAR画像の表示データ又は当該SAR画像から抽出した対象水田の画像の表示データを検証情報に含めてもよい。またこの場合、SAR画像或いは対象水田の画像の解説若しくは凡例などを、検証情報に含めてもよい。
【0145】
上記のように処理S104~S106が実行されて、
図19A、
図19Bの検証特定動作及び
図18の水管理特定動作が終了することで、入力水管理情報が検証されて、対象水田の中干状態と中干期間とが制御部1aにより特定された状態となる。この場合、次に制御部1aは、対象水田に対応する算出式と、作業情報に含まれる対象水田での農作業の実施状態と、特定水管理情報とに基づいて、水田のメタン排出量を算出する(
図6のS24
)。そして、制御部1aは、前述したように対象水田のメタン削減量を算出し(S25)、当該メタン削減量を記憶部1bに記憶させ、当該対象水田のメタン削減量を含む評価情報を、農業者情報に基づいて農業者端末装置3に送信する(S26)。
【0146】
一方、制御部1aは、
図19の処理S97で中干開始日に対象水田が中干状態でなかったと判断した場合、又は
図19Bの処理S102で中干最終日に対象水田が中干状態でなかったと判断した場合、SAR画像のデータから水田の中干期間を判断することができない。このため、制御部1aは、SAR画像のデータから判断した対象水田の水管理状態と、入力水管理情報で示された対象水田の水管理状態とが対応していないと判断する(
図19BのS103:NO)。上記以外に、SAR画像のデータから判断した対象水田の水管理状態と、入力水管理情報で示された対象水田の水管理状態とが適切な関係にない場合にも、制御部1aは、SAR画像のデータから判断した対象水田の水管理状態と、入力水管理情報で示された対象水田の水管理状態とが対応していないと判断してもよい(S103:NO)。
【0147】
そして、制御部1aは、入力水管理情報で示される水管理の状態及び期間が不当であると判断し、SAR画像のデータから判断した対象水田の水管理状態を示す画像水管理情報を生成して、当該画像水管理情報を記憶部1bに記憶させる(S107)。このとき、画像水管理情報には、中干開始日と中干最終日の少なくともいずれかの日に、対象水田が落水状態及び中干状態でなかったことが示されている。
【0148】
次に、制御部1aは、対象水田の画像水管理情報と、入力水管理情報と、画像水管理情報及び入力水管理情報が対応していなかったことを示す情報と、入力水管理情報が不当であることを示す情報とを含む検証情報を生成し、当該検証情報を記憶部1bに記憶させる(S108)。このときも、制御部1aは、対象水田の中干開始日と中干最終日のSAR画像のデータのうち、
図15A~15Cに示したようなSAR画像の表示データ又は当該SAR画像から抽出した対象水田の画像の表示データを検証情報に含めて記憶部1bに記憶させてもよい。
【0149】
さらに、制御部1aは、農業者情報に基づいて、農業者が使用する農業者端末装置3に検証情報を通信部1cにより送信し、農業者端末装置3を介して農業者に検証情報を通知する(
図19BのS109)。詳しくは、検証情報を受信した農業者端末装置3が、当該検証情報をディスプレイに表示させることにより、当該検証情報の内容が農業者に通知される。また、制御部1aは、検証情報とともに、対象水田の入力水管理情報の再入力を求める要求情報を、農業者端末装置3に送信して、農業者端末装置3のディスプレイに表示させるようにしてもよい。これにより、要求情報も農業者端末装置3を介して農業者に通知される。
【0150】
上記のように処理S107~S109が実行されて、
図19A、
図19Bの検証特定動作が終了することで、入力水管理情報が検証されて、対象水田が中干状態にあったと特定されず、中干期間も特定されていない状態となる。この場合、制御部1aは、
図6の処理S24(メタン排出量の算出)を実行せず、
図18の処理S81から以降の処理を再度実行する。
【0151】
例えば、
図19Bの処理S109で通知された検証情報などを見た農業者が、農業者端末装置3を操作して、対象水田の入力水管理情報を再入力(変更)する。これにより、制御部1aは、
図18の処理S85で、作業情報に入力水管理情報が含まれていることを確認し(S85:YES)、処理S86に対応する
図19の検証特定動作を再度実行する。このように、制御部1aは、対象水田の中干状態及び中干期間を特定することができない間は、対象水田のメタン排出量及びメタン削減量を算出せず、評価情報を農業者端末装置
3に送信することもない。
【0152】
また、例えば、水位センサ5と水管理装置4とが対象水田に設置されておらず、対象水田がモニタリング装置6のモニタリング対象に含まれていない状況で、対象水田の入力水管理情報が農業者により農業者端末装置3に入力されない場合がある。この場合、制御部1aは、作業情報に対象水田の検出水管理情報及び入力水管理情報が含まれていないことを確認する(
図18のS82:NO、S85:NO)。そして、制御部1aは、地球観測衛星7の合成開口レーダによるSAR画像のデータに基づいて、対象水田のメタンを削減するために実施された水管理の状態及び期間の特定を実行する(S87)。
【0153】
図20A及び
図20Bは、水田メタン削減支援装置1の画像特定動作の一例を示すフローチャートである。
図20A及び
図20Bに示す画像特定動作は、
図18の処理S87の詳細を示している。本画像特定動作において、制御部1aは、水田情報と作業情報とに基づいて、所定の期間に地球観測衛星7の合成開口レーダにより観測された複数のSAR画像のデータを取得し、当該複数のSAR画像のデータに基づいて、対象水田のメタンを削減するための水管理の状態及び期間を特定する。本画像特定動作について以下詳述する。
【0154】
水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、水田情報と作業情報とに基づいて、対象水田に作付けされた作物(水稲)の分げつ期と幼穂形成期とを判断する(
図20AのS111)。次に、制御部1aは、分げつ期から幼穂形成期までの期間に地球観測衛星7の合成開口レーダにより観測された対象水田を含む地域の複数のSAR画像のデータを、通信部1cによりモニタリング装置6又は観測データサーバから取得する(S112)。
【0155】
処理S112において、例えば制御部1aは、分げつ期から幼穂形成期までの期間に、地球観測衛星7の合成開口レーダにより複数回観測された対象水田を含む地域の全てのSAR画像のデータを取得してもよい。この場合、地球観測衛星7の回帰日数に応じた数のSAR画像のデータが、水田メタン削減支援装置1に取得される。
【0156】
処理S111、S112に代えて、制御部1aが、作業情報で示される特定期間に地球観測衛星7の合成開口レーダにより観測された対象水田を含む地域の複数のSAR画像のデータを、通信部1cによりモニタリング装置6などから取得してもよい。また、特定期間は、例えば農業者が農業者端末装置3により入力した水田の中干を予定している期間であってもよいし、又は地域で一般的な水田の中干期間より所定日数前の日から当該中干期間より所定日数後の日までの期間であってもよい。
【0157】
制御部1aは、モニタリング装置6などから取得した複数のSAR画像のデータのうち、観測日が最古のSAR画像のデータを読み込んで(S113)、当該読み込んだSAR画像のデータから対象水田を示す画素を抽出し、当該画素の画素値に対応する後方散乱係数を検出する(S114)。このとき、制御部1aは、抽出した対象水田の後方散乱係数の全数Naを数える。次に、制御部1aは、読み込んだSAR画像のデータから抽出した対象水田の後方散乱係数のうち、第1閾値σ1より大きい後方散乱係数の該当数Nbを数え、対象水田の後方散乱係数の全数Naに対する該当数Nbの割合Rsを算出する(S115)。
【0158】
そして、割合Rsが第3閾値Rt以上である場合(S116:YES)、制御部1aは、読み込んだSAR画像のデータの観測日に、対象水田が落水状態で且つ中干状態にあると判断して、当該判断結果を記憶部1bに記録する(S117)。対して、割合Rsが第3閾値Rt未満である場合(S116:NO)、制御部1aは、読み込んだSAR画像のデータの観測日に、対象水田が落水状態になく、中干状態にもなかったと判断して、当該判断結果を記憶部1bに記録する(S118)。
【0159】
次に、制御部1aは、取得した全てのSAR画像のデータを未だ読み込んでいない場合(
図20BのS119:NO)、観測日が次に古いSAR画像のデータを読み込む(S120)。そして、制御部1aは、当該読み込んだSAR画像から対象水田を示す画素を抽出し、当該画素の画素値に対応する後方散乱係数を検出して(
図20AのS114)、上述したように処理S115~S118を実行する。
【0160】
また、制御部1aは、取得した全てのSAR画像のデータを読み込むまでは(
図20BのS119:NO)、上述したように処理S114~S120を繰り返し実行する。これにより、制御部1aは、モニタリング装置6などから取得した複数のSAR画像のデータの観測日に、対象水田が中干状態であったか否か及び落水状態であったか否かをそれぞれ判断して、当該判断結果を記憶部1bに記憶させることができる。
【0161】
そして、制御部1aは、取得した全てのSAR画像のデータを読み込んだことを確認すると(S119:YES)、記憶部1bに記憶された各観測日の対象水田の中干状態及び落水状態の有無を示す情報を参照して、対象水田の中干状態(中干が実施されたか否か)及び中干期間を特定する(S121)。
【0162】
このとき、例えば制御部1aは、記憶部1bに記憶された各観測日の対象水田の中干状態及び落水状態の有無を示す情報を観測日が古い方から順に参照する。そして、制御部1aは、中干状態及び落水状態が連続する複数の観測日のうち、最古の観測日から最新の観測日までの日数が所定日数(例えば5日)以上であれば、対象水田の中干が実施され、当該最古の観測日から最新の観測日までの期間を中干期間として特定する。
【0163】
そして、制御部1aは、特定した対象水田の中干の状態及び期間を示す特定水管理情報を生成して、当該特定水管理情報を記憶部1bに記憶させる(S122)。また、制御部1aは、特定水管理情報を特定するために基づいたSAR画像の表示データなどを含む根拠情報を生成し、当該根拠情報を特定水管理情報と関連付けて記憶部1bに記憶させる(S123)。このとき、制御部1aは、特定水管理情報を特定するために基づいたSAR画像から抽出した対象水田の画像の表示データを、根拠情報に含めてもよい。また、上記SAR画像或いは対象水田の画像の解説若しくは凡例などを、根拠情報に含めてもよい。
【0164】
上記のように処理S121、S122が実行されて、
図20A及び
図20Bの画像特定動作が終了することで、対象水田の中干状態と中干期間とが制御部1aにより特定された状態となる。この場合も、次に制御部1aは、対象水田に対応する算出式と、農作業の実施状態と、特定水管理情報とに基づいて、対象水田のメタン排出量を算出する(
図6のS24)。そして、制御部1aは、対象水田のメタン削減量を算出して(S25)、当該メタン削減量を記憶部1bに記憶させ、当該メタン削減量を含む評価情報を農業者端末装置3に送信する(S26)。
【0165】
また、制御部1aは、
図20Bの処理S123又は
図18の処理S84と、
図6のメタン評価動作とを実行した後に、
図10のクレジット化動作を実行する。この場合、
図10の処理S51で、制御部1aは、対象水田に対応する農業者情報と、対象水田のメタン削減量と、
図20の処理S123又は
図18の処理S84で記憶した根拠情報とを含む報告情報を生成し、当該報告情報をクレジット管理装置8に送信する。
【0166】
また、制御部1aは、
図19の処理S106と
図6のメタン評価動作とを実行した後にも、
図10のクレジット化動作を実行する。この場合は、
図10の処理S51で、制御部1aは、対象水田に対応する農業者情報と、対象水田のメタン削減量と、
図19の処理S106で記憶した検証情報とを含む報告情報を生成し、当該報告情報をクレジット管理装
置8に送信する。
【0167】
図18~
図20Bなどに示した実施形態では、水田のメタンを削減するための水管理の状態及び期間として、中干状態(中干の実施の有無)及び中干期間を特定する例を示したが、これに限定するものではない。水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、水田の中干だけでなく、例えば間断灌水のような、水田のメタンを削減するための他の水管理の実施の有無及び実施期間を、合成開口レーダのSAR画像のデータに基づいて特定するようにしてもよい。
【0168】
例えば間断灌水の場合、制御部1aは、SAR画像のデータから抽出した対象水田の後方散乱係数を、対象水田が落水状態にあることを判断するための第1閾値σ1だけでなく、対象水田が湛水状態にあることを判断するための第2閾値σ2と比較してもよい。
【0169】
具体的には、例えば制御部1aは、SAR画像のデータから抽出した対象水田の後方散乱係数の全数Naに対する、第1閾値σ1より大きい後方散乱係数の該当数Nbの割合Rs(Rs=Nb/Na)だけでなく、第2閾値σ2より小さい後方散乱係数の該当数Ncの割合Rf(Rf=Nc/Na)も算出してもよい。そして、制御部1aは、割合Rsが第3閾値(例えば80%)Rt以上の場合に、SAR画像のデータの観測日に対象水田が落水状態にあったと判断し、割合Rfが所定の第4閾値(例えば50%)Ru以上の場合に、SAR画像のデータの観測日に対象水田が湛水状態にあったと判断してもよい。第4閾値Ruも、
図17に示したような水田の実証データに基づいて設定されて、記憶部1bに記憶されればよい。
【0170】
また、水田メタン削減支援装置1の制御部1aが、ある第1水田に設置された水位センサ5の検出結果、監視カメラ(光学カメラなど)による第1水田の画像、及び農業者などが記録若しくは入力した第1水田の実際の水位のうちのいずれかの情報を取得部1cにより取得して、当該取得した情報から第1水田の水稲栽培中の実際の水位の時系列変化を示す水位変化情報(即ち実証データ)を特定してもよい。そして、制御部1aが、当該水位変化情報と、第1水田の水稲栽培中に複数回観測されたSAR画像のデータとを関連付けて記憶部1bに記憶(保存)させてもよい。さらに、制御部1aが、上記の第1水田の水位情報とSAR画像のデータとの相関関係(即ち、水位情報で示される水位と複数のSAR画像のデータで示される後方散乱係数との相関関係)を検出し、当該相関関係とSAR画像のデータとから第1閾値σ1及び第3閾値Rtなど(第2閾値σ2及び第4閾値Rgが含まれてもよい。)を設定し、当該第1閾値σ1及び第3閾値Rtなどの適性を検証(実証)してもよい。
【0171】
また、制御部1aが、上記のように検証(実証)した第1閾値σ1及び第3閾値Rtなどを、上記の第1水田の水位情報及び複数のSAR画像のデータと関連付けて記憶部1bに記憶(保存)させてもよい。さらにその後、制御部1aが、上記の第1水田の水位情報とSAR画像のデータとの相関関係と、第1閾値σ1及び第3閾値Rtなどを適用して、実際の水位情報を得られない第2水田の水管理状態(水位、中干状態、間断灌水などを含む。)を特定してもよい。また、上記のような第1水田の水位情報とSAR画像のデータとの相関関係の検出を、水田メタン削減支援装置1の制御部1aに代えて、オペレータがコンピュータ及びAIの少なくともいずれかを用いて行ってもよい。
【0172】
また、例えば制御部1aは、対象水田が落水状態にあると判断したSAR画像のデータの観測日が連続し、そのうち最古の観測日から最新の観測日までの期間が所定日数以上の場合に、対象水田が中干状態にあって、当該最古の観測日から最新の観測日までを中干期間と特定してもよい。さらに、制御部1aは、あるSAR画像のデータに基づいて対象水田が落水状態にあると判断し、それより新しいSAR画像のデータに基づいて対象水田が
湛水状態にあると判断したことを所定回数繰り返した場合に、対象水田が間断灌水状態にあったと特定してもよい。
【0173】
上記のように、対象水田で間断灌水が行われた場合には、制御部1aは、例えば
図5に示したモデル式(1)、(2)などに基づいて、間断灌水の場合のメタン排出量を算出する算出式を設定する。そして、制御部1aは、当該間断灌水の場合の算出式により対象水田のメタン排出量を算出し、当該メタン排出量を予め設定した基本メタン排出量から減算することにより、メタン削減量を算出すればよい。
【0174】
水田メタン削減支援装置1に取得するSAR画像については、当該SAR画像を観測する合成開口レーダを搭載した地球観測衛星7の回帰日数、又は合成開口レーダから照射されるマイクロ波の波長などに基づいて、適宜選択してもよい。
【0175】
例えば、
図14A及び
図14Bに示したように、合成開口レーダからXバンドのマイクロ波Waが照射された場合には、当該マイクロ波Waが水田Hで栽培している作物(水稲)Rの葉などで反射することがある。また、合成開口レーダからCバンドのマイクロ波Waが照射された場合にも、当該マイクロ波Waが水田である程度生長した作物Rの茎などで反射することがある。このため、作物Rの生長が進行するに連れて、Xバンド又はCバンドのマイクロ波Waの後方散乱波Wbの強度、即ち後方散乱係数が大きくなり、当該後方散乱係数に基づいて作物Rの生育の進行状況を検出することもできる。
【0176】
また、合成開口レーダからLバンドのマイクロ波Waが照射された場合、
図21Aに示すように水田Hが湛水状態にあるときは、当該マイクロ波Waが水田Hの作物Rの葉などを透過して、水面Hwで反射する。このため、後方散乱波Wbの強度、即ち後方散乱係数が小さくなり、当該後方散乱波Wbに基づいて水田Hが湛水状態にあることを検出し易くなる。
【0177】
対して、
図21Bに示すように水田Hが落水状態にあるときは、当該マイクロ波Waが水田Hの作物Rの葉などを透過して、地表面Hgで反射する。このため、後方散乱波Wbの強度、即ち後方散乱係数が大きくなり、当該後方散乱波Wbに基づいて水田Hが落水状態にあることを検出し易くなる。
【0178】
然るに、大半のマイクロ波Waは、水稲Rと水稲Rとの間の水田Hの水面Hw又は地表面Hgに到達する。また、幼穂形成期までの水稲Rの葉及び茎の大きさは、Xバンド、Cバンド、及びLバンドの各マイクロ波のうち、最も短いXバンドのマイクロ波Waの波長の四分の1程度か又はそれ未満である。このため、マイクロ波Waが水稲Rの葉及び茎を透過して、水田Hの水面Hw又は地表面Hgに到達し易い。よって、水稲Rの生育状態の影響を受けずに、マイクロ波Waの後方散乱波Wbに基づいて、水田Hの落水状態の有無及び湛水状態の有無を判断することができる。
【0179】
上記のような特性を考慮して、マイクロ波の波長が適宜選択され、当該波長のマイクロ波を照射する合成開口レーダのSAR画像が、水田メタン削減支援装置1に取得してもよい。
【0180】
また、複数の地球観測衛星7にそれぞれ搭載された合成開口レーダの仕様(諸元)及び観測モード(SAR画像の撮像モード)などに基づいて、SAR画像が適宜選択されて水田メタン削減支援装置1に取得されてもよい。詳しくは、観測モード毎に、マイクロ波の波長、入射角、偏波、SAR画像の分解能などの観測条件が異なるので、これらの観測条件に基づいて、モニタリング装置6などからSAR画像が適宜選択されて水田メタン削減支援装置1に取得される。
【0181】
より具体的には、例えば対象水田Hの中干開始日と中干終了日の少なくともいずれかに異なる複数の観測モードで観測された複数のSAR画像が取得され、複数のSAR画像の解像度(観測幅と画素数など)及び後方散乱係数の分布などが比較されて、対象水田Hの水管理状態(落水状態、湛水状態)を特定するのに最適な観測モード及び観測条件が、複数の観測モードから決定(選択)される。又は、上記比較結果から、マイクロ波の波長、入射角、偏波、SAR画像の分解能などの少なくともいずれかを定める観測モードの最適値が導出されて、当該最適値を含む観測条件及び観測モードが複数の観測モードなどから決定(選択)され、又は当該最適値を含む最適な観測条件及び観測モードが新たに決定されてもよい。
【0182】
例えば、Lバンド(1~2GHz)及びPバンド(0.25~0.5GHz)のマイクロ波よりも、Cバンド(4~8GHz)のマイクロ波の方が、SAR画像の解像度が高く(細かく)、Cバンドのマイクロ波よりも、Xバンド(8~12GHz)のマイクロ波の方が、SAR画像の解像度が高くなる。即ち、マイクロ波の波長が短いほど、SAR画像の解像度が高くなる。このため、例えばXバンドがマイクロ波の波長の最適値として決定される。また、マイクロ波の波長が短いほど、SAR画像の透過性が小さくなり、自然物だけでなく人口物の撮像し易くなるので、これらも加味してマイクロ波の波長の最適値を決定してもよい。また、水田Hの落水及び湛水の状態を判断するのに必要なSAR画像の分解能に応じて、マイクロ波の波長の最適値が決定されてもよい。
【0183】
また、SAR画像の分解能が高いほど、後方散乱係数の検出数が多くなる。このため、例えば水田Hの落水及び湛水の状態を判断するのに必要な後方散乱係数の検出数に応じて、SAR画像の分解能を定める観測モードが決定される。又は、1つ以上の地球観測衛星7で設定可能な複数のSAR画像の撮影モードの中から、最適な撮影モードを選択することによって、SAR画像の分解能が決定される。
【0184】
また、マイクロ波の入射角が小さいほど、マイクロ波が作物Rに当たらず、水田面(水面又は地表面)まで到達し易い。このため、例えば地球観測衛星7に搭載された合成開口レーダで照射可能なマイクロ波の入射角のうち、最小の入射角が最適値として決定される。
【0185】
また、HH偏波によると、SAR画像から検出される後方散乱係数が、他の単偏波より高くなる。VV偏波によると、作物Rの繁茂によるマイクロ波の散乱とSAR画像の基になる信号の飽和とが、他の単偏波より抑制される。このため、例えばVV偏波が偏波の最適値として決定される。単偏波だけでなく、HH/VV偏波などの二重偏波も候補に含めて、偏波の最適値を決定してもよい。また、各偏波の水田における散乱プロセス(鏡面反射、表面散乱、体積散乱、コーナー反射)を検証して、最適な偏波を決定してもよい。
【0186】
また、対象水田Hの作物Rの生育状態(作物Rの丈、茎束の径など)、メタン削減に貢献する中干などの水管理期間を特定する対象日(中干開始日、中干終了日など)、対象水田Hがある地域の地形(平地、山間部など)、SAR画像取得にかかる費用なども加味して、最適な観測条件及び観測モード(ベストモード)を決定してもよい。また、マイクロ波の波長、入射角、偏波、SAR画像の分解能などの各パラメータに重み付けしたり優先順を付けたりして、最適な観測条件及び観測モードを決定してもよい。また、AIを用いた機械学習により、最適な観測条件及び観測モードを決定してもよい。
【0187】
また、制御部1aが特定のマイクロ波の波長、入射角、偏波、SAR画像の分解能などの各パラメータを定める観測モードなどに基づいて取得したSAR画像によって、水田の水位情報、灌水状態、及び落水状態の少なくともいずれかを判断する際に、当該判断の確
実性を示す確実性情報を地点(例えば水田)ごとに計算して、対応する確実性情報と地点を示す地点情報(水田情報など)とを対応付けて記憶部1bに記憶させたり、農業管理装置2によりデータベース2dに記憶させたりしてもよい。また、上記確実性情報を水田メタン削減支援装置1及び農業管理装置2の少なくともいずれかから、農業者端末装置3及びクレジット管理装置8の少なくともいずれかに送信するようにしてもよいし、上記確実性情報を受信した農業者端末装置3及びクレジット管理装置8の少なくともいずれかにおいて、上記確実性情報をディスプレイなどの表示部に表示された地図上に、対応する水田と共に表示させてもよい。
【0188】
また、制御部1aが観測モードなどに基づいて取得したSAR画像によって、水田の水位情報、灌水状態、及び落水状態の少なくともいずれかを判断することができない場合、又は当該判断の確実性を示す数値が予め定められた所定値を下回る場合には、対応する地点の地点情報と、上記判断ができなかったことを示すエラー情報又は上記確実性情報とを、記憶部1b又はデータベース2dに記憶させたり、農業者端末装置3及びクレジット管理装置8の少なくともいずれかに送信させたりしてもよい。
【0189】
また、制御部1aが観測モードなどに基づいて取得したSAR画像によって、水田の水位情報、灌水状態、及び落水状態の少なくともいずれかを判断ることができない場合、又は当該判断の確実性を示す数値が所定値を下回る場合に、マイクロ波の波長、入射角、偏波、SAR画像の分解能などの各パラメータを変更してSAR画像を取得してもよいし、又は上記各パラメータ及び観測モードが異なる別の地球観測衛星7により撮像されたSAR画像を取得してもよい。
【0190】
前述のように決定した最適な観測条件及び観測モードを示す情報は、対象水田Hに対応する観測条件及び観測モード(観測条件)として、また対象水田Hがある地域に対応する観測条件及び観測モードとして、水田メタン削減支援装置1の記憶部1b又は農業管理装置2のデータベース2dに記憶される。この際、最適な観測モード、観測モードの各パラメータ、及び観測条件の決定と記憶とを、水田メタン削減支援装置1の制御部1aが自動で実行してもよいし、又は人が水田メタン削減支援装置1などのコンピュータを用いて実行してもよい。上述した確実性情報などの記憶と送信も同様である。
【0191】
次年度以降、水田メタン削減支援装置1の制御部1aは、対象水田又は対象水田がある地域に対応する観測条件を、記憶部1bから読み込みし、又はデータベース2dから通信部1cにより取得する。そして、制御部1aは、入力水管理情報で示される対象水田の中干期間(特に中干開始日と中干最終日)に、上記観測条件で観測された対象水田のSAR画像のデータを、モニタリング装置6と観測データサーバのいずれかから通信部1cにより取得する。又は、制御部1aは、対象水田の水田情報と作業情報とに基づいて特定した所定の期間(対象水田に作付けされた前記作物の分げつ期から幼穂形成期までの期間)に、上記観測条件で観測された対象水田のSAR画像のデータを通信部1cにより取得する。
【0192】
その際、観測モード又はマイクロ波の波長、入射角、偏波、SAR画像の分解能などの各パラメータが異なる複数の条件で取得した複数のSAR画像のデータを重ね合わせる演算及び当該複数のSAR画像のデータの差分をとる演算の少なくともいずれかを行うことによって補正されたSAR画像のデータを、制御部1aが取得してもよい。また、上記各パラメータが異なる複数の地球観測衛星7で撮像された複数のSAR画像のデータを重ね合わせる演算及び当該複数のSAR画像のデータの差分をとる演算の少なくともいずれかを行うことによって補正されたSAR画像のデータを、制御部1aが取得してもよい。
【0193】
また、干渉SAR技術が適用された合成開口レーダにより水田を観測してもよい。これ
により、地表面の変化が数センチレベルで合成開口レーダにより観測されるので、水田メタン削減支援装置1では、合成開口レーダにより観測されたSAR画像に基づいて、水田の一部湛水状態及び一部落水状態も詳細に検出することができる。
【0194】
以上の実施形態で述べた合成開口レーダのSAR画像に基づく水田の水管理の状態及び期間の特定手法は一例であって、限定するものではない。水田メタン削減支援装置1が他の手法で、合成開口レーダに基づいて、水田の中干又は間断灌水などの水管理の状態及び期間を特定してもよい。
【0195】
また、合成開口レーダを地球観測衛星7ではなく、他の航空機やドローンなどの飛行体、又は他の飛翔体に搭載して、水田を観測してもよい。また、合成開口レーダのSAR画像以外に、飛翔体又は飛行体に搭載された撮像装置により観測(撮像)した光学画像のデータに基づいて、水田の水管理の状態及び期間を特定してもよい。
【0196】
図18~
図19Bに示した実施形態では、農業者が農業者端末装置3により入力した水田の水管理情報を、SAR画像のデータに基づいて検証した例を示したが、これ以外に、例えば水管理装置4が水位センサ5などにより検出して、農業管理装置2に入力(送信)した水田の水管理状態などを示す情報を、SAR画像のデータに基づいて検証してもよい。即ち、農業者が使用する検出装置又はセンサにより検出されて、農業管理装置2などに入力された水田の検出水管理情報も、入力水管理情報とみなして、SAR画像のデータに基づいて検証してもよい。
【0197】
さらに、水田メタン削減支援装置1において、メタンの排出量及び削減量を算出するために水田の特定水管理情報を用いる以外に、例えば、水田で栽培している作物の生育状況、水田での水管理作業の実施状況、又は水田の給排水状況などのような、他の目的で特定水管理情報を用いることもできる。また、水田のような圃場から排出されるメタン以外の温室効果ガス(二酸化炭素など)の排出量及び削減量を算出するために、水田メタン削減支援装置1を構成するコンピュータなどを用いてもよい。この場合、温室効果ガスの排出量及び削減量を算出するモデルデータを用いればよい。
【0198】
以上説明した本実施形態の水田メタン削減支援装置1及び水田メタン削減支援システム100は、以下の構成を備え、効果を奏する。
【0199】
本実施形態の水田メタン削減支援装置1は、水田に関する水田情報、水田で作物を栽培するための農作業に関する作業情報、及び観測装置(地球観測装置)7により観測された水田を含む地域の観測画像のデータを取得する取得部(通信部、通信インタフェイス)1cと、水田情報と作業情報と観測画像のデータとに基づいて、作物の栽培中に水田から排出されるメタンを削減するための水田の水管理の状態と当該水管理の状態が継続した期間とを特定して、当該水管理の状態及び期間を示す特定水管理情報を生成する制御部1aと、特定水管理情報を記憶する記憶部1bと、を備え、制御部1aは、水田及び水田を含む地域の少なくともいずれかに対応する観測条件で観測装置7により観測された観測画像のデータを取得部1cにより取得する。
【0200】
本実施形態の水田メタン削減支援システム100は、作物を栽培する水田からのメタンの排出量の削減を支援する水田メタン削減支援装置1と、水田と水田で行う農業に関する情報を格納したデータベース2dが構築された農業管理装置2と、を含み、水田メタン削減支援装置1は、上記の制御部1a、記憶部1b、及び取得部1cを備え、農業管理装置2及び水田に対応する農業者が利用する農業者端末装置3のうちの少なくともいずれかから水田情報及び作業情報を取得部1cにより取得し、且つ地上を観測する観測装置7の観測データを記憶する観測管理装置(モニタリング装置6又は観測データサーバ)から、水
田及び水田を含む地域の少なくともいずれかに対応する観測条件で観測装置7により観測された当該地域の観測画像のデータを取得部1cにより取得する。
【0201】
上記構成により、水田及び水田を含む地域の少なくともいずれかに対応する観測条件で観測装置7により観測された観測画像のデータから、水田のメタンの排出量を削減するための水管理の状態及び期間を客観的且つ適正に検出することができる。また、その検出した水田の水管理の状態及び期間を示す特定水管理情報の高い証拠性と正当性を確保することができ、改ざんを防止することもできる。さらにこの結果、水田のメタンの排出量を削減するための農業者による水管理作業が客観的に認められ、当該取り組みが農業者により推進され易くなる。
【0202】
本実施形態では、作業情報には、予め入力された水田の水管理の状態及び期間を示す入力水管理情報が含まれており、制御部1aは、入力水管理情報で示される水管理の期間に、観測条件で観測装置7により観測された観測画像のデータを取得し、前記複数の観測画像のデータから水田の水管理の状態及び期間を特定する。これにより、入力水管理情報を検証するために取得する観測装置7の観測画像のデータの数を限定的且つ適切に減少させて、当該データの取得に要する費用を低減することができる。
【0203】
また、本実施形態では、制御部1aは、水田情報と作業情報とに基づいて、所定の期間に観測条件で観測装置により観測された複数の観測画像のデータを取得部により取得し、複数の観測画像のデータから水田の水管理の状態及び期間を特定する。これにより、入力水管理情報が入力されなくても、所定の期間に観測された水田を含む地域の複数の観測画像のデータを取得して、水田のメタンの排出量を削減するための水管理の状態及び期間を客観的且つ適正に特定することができる。また、取得する観測画像のデータ数を限定的且つ適切に減少させて、当該データの取得に要する費用を低減し、水田の水管理の状態及び期間を効率良く特定することができる。さらに、水田に水管理装置4又は水位センサ5などの検出装置を設置しなくても、水田の水管理の状態及び期間を特定することができるので、当該検出装置の設置にかかるコストを削減することができる。
【0204】
また、本実施形態では、制御部1aは、飛翔体又は飛行体に搭載された観測装置7が有する合成開口レーダにより観測条件で観測された複数の観測画像のデータを取得部1cにより取得し、当該複数の観測画像のそれぞれから水田を示す1つ以上の画素を抽出して、当該画素の色の濃淡及び明るさの少なくともいずれかを表す画素値に対応付けられた後方散乱係数を検出し、検出した後方散乱係数に基づいて水田の水管理の状態及び期間を特定する。これにより、天候及び雲の影響を受けずに、水田及び水田を含む地域の少なくともいずれかに対応する観測条件で合成開口レーダにより観測された複数の観測画像のデータから、水田の湛水・落水の状態と当該状態が継続した期間とを検出して、中干又は間断灌水などの水管理の状態及び期間を客観的且つ適正に特定することができる。
【0205】
また、本実施形態では、制御部1aは、合成開口レーダから照射されるマイクロ波及び観測画像の少なくともいずれかに関する観測条件で、観測装置7により観測された複数の観測画像のデータを取得部1cにより取得する。これにより、複数の観測画像のデータから、水田の湛水・落水の状態と当該状態が継続した期間とを検出して、中干又は間断灌水などの水管理の状態及び期間を客観的且つより適正に特定することができる。
【0206】
また、本実施形態では、制御部1aは、マイクロ波の波長、入射角、偏波、及び観測画像の分解能の少なくともいずれかの最適値を示す観測条件(観測モード)を、記憶部1bから読み込み、又はデータベース2dから取得部1cにより取得する。これにより、当該観測条件で観測装置7により観測された複数の観測画像のデータを取得した後、当該複数の観測画像のデータから水田の湛水・落水の状態と当該状態が継続した期間とを精度良く
検出することができ、当該検出結果から水田の中干又は間断灌水などの水管理の状態及び期間を一層適正に特定することが可能になる。
【0207】
また、本実施形態では、制御部1aは、複数の観測画像のデータに基づいて、作業情報に含まれる入力水管理情報で示される水管理の状態及び期間を検証して、当該検証の結果を示す検証情報を記憶部1bに記憶させ、入力水管理情報で示される水管理の状態及び期間が正当である場合に、入力水管理情報を特定水管理情報として記憶部1bに記憶させる。
【0208】
上記により、例えば農業者が農業者端末装置3により入力した入力水管理情報に関連する複数の観測画像のデータを取得し、当該入力水管理情報で示される水田の水管理の状態及び期間を示す入力水管理情報が正当であるか又は不当であるかを確認することができる。そして、正当な入力水管理情報が特定水管理情報として記憶部1bに記憶されるので、以降特定水管理情報を信頼して活用することができる。また、例えば農業者が使用する水管理装置4又は水位センサ5などの検出装置により検出された水田の水管理状態を示す情報が農業管理装置2などに入力された場合にも、当該情報を入力水管理情報とみなして、当該入力水管理情報に関連する複数の観測画像のデータを取得し、当該入力水管理情報が正当であるか又は不当であるかを確認することができる。さらにこの場合、検証結果から、検出装置の異常を判断することが可能になる。
【0209】
また、本実施形態では、制御部1aは、複数の観測画像のデータから水管理の状態を判断して、当該判断した水管理の状態と、入力水管理情報で示される水管理の状態とが対応している場合、入力水管理情報が正当であることを示す情報を検証情報に含め、且つ入力水管理情報を特定水管理情報として記憶部1bに記憶させる。これにより、入力水管理情報及び特定水管理情報の高い証拠性及び正当性をより確保することができる。
【0210】
また、本実施形態では、制御部1aは、水田に対応する農業者、即ち水田で農作業を行う農業者又は入力水管理情報を入力した農業者に関する農業者情報を取得部1cにより取得し、複数の観測画像のデータから水管理の状態を判断して、当該判断した水管理の状態と、入力水管理情報で示される水管理の状態とが対応していなかった場合、当該検証結果を示す検証情報を農業者情報に基づいて農業者に通知する。このとき、制御部1aは、農業者情報に基づいて、農業者が使用する農業者端末装置3に検証情報を通信インタフェイス(通信部1c)により送信して、農業者端末装置3を介して農業者に検証情報を通知する。これにより、入力水管理情報で示される水田の水管理の状態及び期間が不当であることを農業者に認識させて、入力水管理情報の再入力を促すことができる。
【0211】
また、本実施形態では、制御部1aは、水田情報と作業情報とに基づいて、水田に作付けされた作物の分げつ期から幼穂形成期までの期間を判断し、当該判断した期間に観測装置により観測された複数の観測画像のデータを取得部により取得する。これにより、水田からのメタンを削減するのに有効な水管理作業が実施される分げつ期から幼穂形成期までの期間に、観測装置7により観測された水田の複数の観測画像のデータを取得することができる。そして、取得した複数の観測画像のデータから、水田のメタンの排出量を削減するための水管理の状態及び期間を特定することができる。また、取得する観測画像のデータ数をより限定的に減少させて、当該データの取得に要する費用をより低減し、水田の水管理の状態及び期間をより効率良く特定することができる。
【0212】
また、本実施形態では、記憶部1bには、予め設定された1つ以上の閾値(第1閾値σ1、第2閾値σ2、第3閾値Rt、第4閾値Ru)が記憶されており、制御部1aは、複数の観測画像のデータから検出した後方散乱係数と閾値とを比較した結果に基づいて、水田が中干状態であるか否かと、水田が湛水状態であるか否かのうちの、少なくともいずれかを判断する。これにより、水田の中干又は間断灌水などの水管理の状態及び期間を特定することができる。
【0213】
また、本実施形態では、制御部1aは、取得部1cにより取得した水田の実際の水位を示す情報から、水田の実際の水位の時系列変化を示す水位変化情報を特定し、取得部1cにより取得した複数の観測画像のデータから、水田に対応する後方散乱係数をそれぞれ検出し、水位変化情報で示される水田の実際の水位と、水田に対応する後方散乱係数との相関関係を検出し、水田に対応する後方散乱係数と相関関係とから閾値を設定して記憶部1bに記憶させる。これにより、水田の中干又は間断灌水などの水管理の状態及び期間を特定するための閾値の適性を向上させることができる。
【0214】
また、本実施形態では、制御部1aは、記憶部1bに記憶された閾値を、他の水田の中干状態及び湛水状態の少なくともいずれかを判断するために適用する。これにより、水田毎に閾値を設定する必要がなく、水位センサ5などで実際の水位を確認することができない水田に対しても、当該水田の中干又は間断灌水などの水管理の状態及び期間を特定することができ、利便性を向上させることが可能となる。
【0215】
また、本実施形態では、記憶部1bには、水田からのメタン排出量を算出するためのモデルデータが記憶されており、制御部1aは、水田情報、作業情報、特定水管理情報、及びモデルデータに基づいて、水田の所定の基本メタン排出量から削減されたメタン削減量を算出して、当該メタン削減量を記憶部1bに記憶させる。これにより、水田の水田情報、作業情報、観測装置7の観測画像のデータにより特定した信頼性の高い水管理の状態及び期間、及びモデルデータに基づいて、水田からのメタンの削減量を算出することができ、当該メタンの削減量の信頼性を高めることが可能となる。また、水田のメタン削減量を定量的に評価して、利便性を向上させることができ、水田からのメタンを削減する水管理が農業者によって推進され、農業分野でのメタンの削減を活性化させることが可能となる。
【0216】
また、本実施形態では、制御部1aは、水田情報と作業情報とモデルデータとに基づいて、水田のメタン排出量を算出する算出式を設定し、水田の従来の水管理の状態及び期間を示す従来水管理情報を取得部1cにより取得し、従来水管理情報と算出式とに基づいて、水田の基本メタン排出量を算出し、水田の特定水管理情報と算出式とに基づいて、水田のメタン排出量を算出し、水田の基本メタン排出量からメタン排出量を減算して、水田のメタン削減量を算出する。これにより、水田の従来のメタン排出量(基本メタン排出量)と、水田からのメタンを削減するために実施した水管理の状態及び期間を示す特定水管理情報に応じた取り組み後のメタン排出量とを算出して、取り組み後のメタン排出量の従来のメタン排出量に対する削減量を算出することができる。
【0217】
また、本実施形態では、取得部1cは、通信インタフェイス(通信部1c)から構成され、制御部1aは、水田に対応する農業者に関する農業者情報を、農業管理装置2及び農業者端末装置3のうちの少なくともいずれかから通信インタフェイス1cにより取得し、水田のメタン削減量と農業者情報とを含む報告情報を通信インタフェイス1cによりクレジット管理装置8に送信し、メタン削減量に応じてクレジット管理装置8から発行された電子的なクレジットを示すクレジット情報を通信インタフェイス1cにより取得し、農業者情報に基づいてクレジット情報を農業者に通知する。このとき、制御部1aは、農業者情報に基づいて農業者端末装置3にクレジット情報を通信インタフェイス1cにより送信して、農業者端末装置3を介して農業者にクレジット情報を通知する。これにより、水田に対応する農業者は、煩雑な手続きを行わなくても、水田での水管理作業の変更に伴って生じたメタン削減量に応じたクレジットを得ることができ、農業者の利便性及び有益性を向上させることが可能となる。
【0218】
さらに、本実施形態では、制御部1aは、前述したように入力水管理情報で示される水田の水管理の状態及び期間を検証した場合には、クレジット管理装置8に送信する報告情報に、水田のメタン削減量と農業者情報とに加えて検証情報を含める。これにより、水田のメタンの排出量を削減するために実施した水管理の状態及び期間を示す特定水管理情報と、当該特定水管理情報に基づいて算出されたメタン削減量との高い正当性及び証拠性を、クレジット管理装置8を介してクレジット管理業者に証明することができる。またこの結果、水田のメタン削減量に応じたクレジットが発行され易くなり、農業者の利便性、有益性、及び信用性を向上させることが可能となる。
【0219】
以上、本発明について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0220】
1 水田メタン削減支援装置
1a 制御部
1b 記憶部
1c 通信部(取得部、通信インタフェイス)
2 農業管理装置
2d データベース
7 地球観測衛星(観測装置)
8 クレジット管理装置
100 水田メタン削減支援システム