(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048425
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】鉄道車両の車体傾斜制御システム
(51)【国際特許分類】
B61F 5/22 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
B61F5/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154315
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信之
(72)【発明者】
【氏名】谷川 安彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳平
(72)【発明者】
【氏名】角南 浩靖
(72)【発明者】
【氏名】岡田 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】田中 寿樹
(57)【要約】
【課題】曲線通過時の乗り心地を向上させるとともに、電磁弁の作動回数及び空気消費量を低減することができる鉄道車両の車体傾斜制御システムを提供すること。
【解決手段】コントローラ11が電磁弁12a,12bを作動させ、空気バネ3a,3bへの給排気を制御することにより、空気バネ12a,12bの高さを変化させて車体4を必要な傾斜角に傾斜させる鉄道車両1の車体傾斜制御システム10において、コントローラ11は、空気バネ3a,3bの高さが、制御指令値Cに対して所定幅で設定された不感帯域Dを超えた場合に、電磁弁12a,12bを作動させて空気バネ3a,3bに対する給排気を行うことにより、空気バネ3a,3bの高さを変化させて車体4の傾斜角を制御し、円曲線区間以外にて、制御指令値Cに対して不感帯域Dをオフセットさせる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の空気バネと、前記空気バネへの給排気を行う電磁弁と、曲線区間における線路の形状データと走行速度から必要な車体傾斜角度を得るための制御指令値を算出するとともに、前記制御指令値に応じて前記電磁弁を作動させる制御部とを備え、前記制御部が前記電磁弁を作動させ、前記空気バネへの給排気を制御することにより、前記空気バネの高さを変化させて車体を必要な傾斜角に傾斜させる鉄道車両の車体傾斜制御システムにおいて、
前記制御部は、前記空気バネの高さが、前記制御指令値に対して所定幅で設定された不感帯域を境にして設けられた給気域又は排気域に入った場合に、前記電磁弁を作動させて前記空気バネに対する給排気を行うことにより、前記空気バネの高さを変化させて車体の傾斜角を制御し、円曲線区間以外にて、前記制御指令値に対して前記不感帯域をオフセットさせる
ことを特徴とする鉄道車両の車体傾斜制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載する鉄道車両の車体傾斜制御システムにおいて、
前記制御部は、曲線区間のうち前記制御指令値が前記空気バネを伸ばす方向に変化する区間にて、前記不感帯域を車両傾斜角が大きくなるように前記制御指令値より前記空気バネを伸ばす方向へオフセットさせる
ことを特徴とする鉄道車両の車体傾斜制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載する鉄道車両の車体傾斜制御システムにおいて、
前記制御部は、曲線区間のうち前記制御指令値が前記空気バネを縮める方向に変化する区間にて、前記不感帯域を車両傾斜角が小さくなるように前記制御指令値より前記空気バネを縮める方向へオフセットさせる
ことを特徴とする鉄道車両の車体傾斜制御システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3に記載するいずれか1つの鉄道車両の車体傾斜制御システムにおいて、
前記制御部は、前記制御指令値が前記空気バネを伸ばす方向に変化する区間直前の直線区間にて、前記不感帯域を車両傾斜角が大きくなるように前記制御指令値より前記空気バネを伸ばす方向へオフセットさせる
ことを特徴とする鉄道車両の車体傾斜制御システム。
【請求項5】
請求項2に記載する鉄道車両の車体傾斜制御システムにおいて、
前記制御部は、前記制御指令値が前記空気バネを伸ばす方向に変化する区間における前記不感帯域を、上限最大値が円曲線区間における前記不感帯域の上限値に、下限最大値が円曲線区間における前記制御指令値になるように、前記制御指令値より前記空気バネを伸ばす方向へオフセットさせる
ことを特徴とする鉄道車両の車体傾斜制御システム。
【請求項6】
請求項3に記載する鉄道車両の車体傾斜制御システムにおいて、
前記制御部は、前記制御指令値が前記空気バネを縮める方向に変化する区間における前記不感帯域を、上限最小値が直線区間における前記制御指令値に、下限最小値が直線区間における前記不感帯域の下限値になるように、前記制御指令値より前記空気バネを縮める方向へオフセットさせる
ことを特徴とする鉄道車両の車体傾斜制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両が曲線路走行時に、左右の空気バネの高さを変えることによって車体を曲線路内側に傾斜させて、速度の向上と乗り心地の改善を図った鉄道車両の車体傾斜制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車体傾斜制御システムとして、台車の枕木方向両側にそれぞれ配置され、車体を支持する空気バネの高さを変化させることにより、車体を傾斜させるものがある。具体的には、車体を傾斜させる必要がある曲線区間において、曲線路の形状データと走行速度から必要な車体傾斜角度を演算して、それに対応する制御指令値を算出し、その制御指令値に応じて電磁弁を作動させて、曲線路外側の空気バネに給気して曲線路外側の空気バネを高くして車体を傾斜させ、その後、空気バネから排気して水平状態に復帰させている(特許文献1,2参照)。
【0003】
このような車体傾斜制御システムでは、空気バネの空気量を電磁弁の動作により調節して、空気バネの高さをフィードバック制御しており、制御指令値に応じて空気バネへの給排気が段階的に行われるようになっている。つまり、空気バネの高さが、例えば
図4に示すように、制御指令値に対して±α(所定幅)で設定された不感帯域を超えたときに、電磁弁を作動させて空気バネに対する給排気が行われる。
【0004】
具体的には、空気バネの高さが給気1(又は給気2)の領域に入ると、電磁弁が作動して空気バネへの給気が行われる。また、空気バネの高さが排気1(又は排気2)の領域に入ると、電磁弁が作動して空気バネからの排気が行われる。なお、給気1(排気1)の領域と給気2(排気2)の領域では、給気(排気)量が異なっており、給気1(排気1)の領域より給気2(排気2)の領域の方が給気(排気)量が多くなるように電磁弁が作動する。
【0005】
このようにして、車体傾斜制御システムでは、制御指令値に応じて電磁弁を作動させて空気バネへの給排気を行うことにより、空気バネの高さを変化させて、車体の傾斜角が目標角になるようにフィードバック制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-310130号公報
【特許文献2】特開2009-096351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の車体傾斜制御システムでは、制御指令値が変化する緩和曲線区間において、車体傾斜の制御遅れが発生して必要な車体の傾斜角にすることができずに十分な乗り心地を確保できないおそれがある。また、制御指令値に追従させるために電磁弁が頻繁に作動するので、電磁弁の作動回数、及び空気消費量が増加してしまう。
【0008】
ここで、車体傾斜の制御遅れ、及び電磁弁の頻繁な作動を回避するために、緩和曲線区間における制御指令値を変化させる(例えば、ゲインを大きくする等)ことも考えられる。ところが、制御指令値を変化させると、車体傾斜角の制御上限値及び制御下限値も変化する。そのため、車体傾斜動作時に車体傾斜角が大きくなりすぎたり、車体水平復帰動作時に水平状態を行き過ぎて逆側に傾斜したりする可能性があるので、乗り心地が悪化するおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、曲線通過時の乗り心地を向上させるとともに、電磁弁の作動回数及び空気消費量を低減することができる鉄道車両の車体傾斜制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明の一形態は、
左右一対の空気バネと、前記空気バネへの給排気を行う電磁弁と、曲線区間における線路の形状データと走行速度から必要な車体傾斜角度を得るための制御指令値を算出するとともに、前記制御指令値に応じて前記電磁弁を作動させる制御部とを備え、前記制御部が前記電磁弁を作動させ、前記空気バネへの給排気を制御することにより、前記空気バネの高さを変化させて車体を必要な傾斜角に傾斜させる鉄道車両の車体傾斜制御システムにおいて、
前記制御部は、前記空気バネの高さが、前記制御指令値に対して所定幅で設定された不感帯域を境にして設けられた給気域又は排気域に入った場合に、前記電磁弁を作動させて前記空気バネに対する給排気を行うことにより、前記空気バネの高さを変化させて車体の傾斜角を制御し、円曲線区間以外にて、前記制御指令値に対して前記不感帯域をオフセットさせる
ことを特徴とする。
【0011】
この鉄道車両の車体傾斜制御システムでは、制御部により、空気バネの高さが、制御指令値に対して所定幅で設定された不感帯域を超えた場合、つまり不感帯域を境にして設けられた給気域又は排気域に入った場合に、電磁弁が作動させられて空気バネに対する給排気が行われて、空気バネの高さが変えられて車体の傾斜角が制御される。つまり、制御部により、制御指令値を目標値として空気バネの高さがフィードバック制御されて車体の傾斜制御が行われている。
【0012】
そして、制御部により、円曲線区間以外、例えば、制御指令値が変化する緩和曲線区間にて、制御指令値に対して不感帯域がオフセットされる。そのため、従来より早めに車体の傾斜/水平復帰動作が行われるように電磁弁を制御することができる。これにより、車体傾斜動作の制御遅れ、及び電磁弁の頻繁な作動を回避することができるため、曲線区間での乗り心地を向上させるとともに、電磁弁の作動回数及び空気消費量を低減することができる。
【0013】
具体的には、上記の鉄道車両の車体傾斜制御システムにおいて、
前記制御部は、曲線区間のうち前記制御指令値が前記空気バネを伸ばす方向に変化する区間にて、前記不感帯域を車両傾斜角が大きくなるように前記制御指令値より前記空気バネを伸ばす方向へオフセットさせればよい。
【0014】
このようにすることにより、制御指令値が空気バネを伸ばす方向に変化する区間において、車体傾斜動作の制御遅れを確実に解消することができ、円曲線区間で必要とされる車体傾斜角を得ることができる。従って、曲線通過時の乗り心地を向上させることができる。
【0015】
また、上記のいずれかの鉄道車両の車体傾斜制御システムにおいて、
前記制御部は、曲線区間のうち前記制御指令値が前記空気バネを縮める方向に変化する区間にて、前記不感帯域を車両傾斜角が小さくなるように前記制御指令値より前記空気バネを縮める方向へオフセットさせればよい。
【0016】
このようにすることにより、制御指令値が空気バネを縮める方向に変化する区間において、車体の水平復帰動作の制御遅れを確実に解消することができ、スムーズに車体を水平復帰させることができる。従って、曲線通過時の乗り心地を向上させることができる。
【0017】
さらに、上記のいずれかの鉄道車両の車体傾斜制御システムにおいて、
前記制御部は、前記制御指令値が前記空気バネを伸ばす方向に変化する区間直前の直線区間にて、前記不感帯域を車両傾斜角が大きくなるように前記制御指令値より前記空気バネを伸ばす方向へオフセットさせるようにしてもよい。
【0018】
このようにすることにより、制御指令よりも確実に早く傾斜動作を開始することができるので、車体傾斜の制御遅れを確実に解消することができる。従って、曲線通過時の乗り心地を向上させることができる。
【0019】
そして、上記のいずれかの鉄道車両の車体傾斜制御システムにおいて、
前記制御部は、前記制御指令値が前記空気バネを伸ばす方向に変化する区間における前記不感帯域を、上限最大値が円曲線区間における前記不感帯域の上限値に、下限最大値が円曲線区間における前記制御指令値になるように、前記制御指令値より前記空気バネを伸ばす方向へオフセットさせる
ことが好ましい。
【0020】
このように、制御指令値が空気バネを伸ばす方向に変化する区間における不感帯域の下限最大値が円曲線区間における制御指令値になるように不感帯域をオフセットさせることにより、車体傾斜動作の制御遅れを解消するとともに、制御指令値が空気バネを伸ばす方向に変化する区間の終盤において、円曲線区間で必要とされる車体傾斜角を確実に得ることができる。また、制御指令値が空気バネを伸ばす方向に変化する区間における不感帯域の上限最大値が円曲線区間における不感帯域の上限値になるように不感帯域をオフセットさせることにより、車体傾斜動作時に車体傾斜角が大きくなりすぎることを確実に防止することができる。従って、曲線区間での乗り心地を確実に向上させることができる。
【0021】
また、上記のいずれかの鉄道車両の車体傾斜制御システムにおいて、
前記制御部は、前記制御指令値が前記空気バネを縮める方向に変化する区間における前記不感帯域を、上限最小値が直線区間における前記制御指令値に、下限最小値が直線区間における前記不感帯域の下限値になるように、前記制御指令値より前記空気バネを縮める方向へオフセットさせる
ことが好ましい。
【0022】
このように、制御指令値が前記空気バネを縮める方向に変化する区間における不感帯域の上限最小値を直線区間における制御指令値になるように不感帯域をオフセットさせることにより、車体水平復帰動作の制御遅れを解消するとともに、制御指令値が空気バネを縮める方向に変化する区間の終盤において、車体を確実に水平状態に戻すことができる。また、制御指令値が空気バネを縮める方向に変化する区間における不感帯域の下限最小値を直線区間における不感帯域の下限値になるように不感帯域をオフセットさせることにより、車体水平復帰動作時に車体が水平状態を行き過ぎて逆側に傾斜することを防止することができる。従って、曲線出口での乗り心地をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る鉄道車両の車体傾斜制御システムによれば、曲線通過時の乗り心地を向上させるとともに、電磁弁の作動回数及び空気消費量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】車体傾斜制御システムが適用された鉄道車両を概念的に示した全体構成図である。
【
図2】電磁弁に対する制御指令値を示した図である。
【
図3】空気バネの高さについて従来例との比較結果を示した図である。
【
図4】従来の電磁弁に対する制御指令値を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る鉄道車両の車体傾斜制御システムの実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、車体傾斜制御システム10が適用された鉄道車両1を概念的に示した正面図である。この鉄道車両1においては、前後方向に二台設けられた台車2に左右一対の空気バネ3a,3bを介して車体4が搭載されており、車体傾斜制御システム10によって、曲線区間においてはコントローラ11からの指令に基づき、左右の空気バネ3a,3bの高さを変えることにより、車体4の台車2に対する傾斜角を制御するようになっている。
【0026】
この車体傾斜制御システム10は、フィードバック制御によって車体4を目標角へ傾斜させる制御系であって、コントローラ11と、電磁弁12a,12bと、空気バネ3a,3bとを備えている。電磁弁12a,12bは、空気バネ3a,3bへの給排気を制御する制御弁である。電磁弁12a,12bは、3ポートの切換弁であり、空気バネ3a,3b及びタンク13に接続されている。すなわち、空気バネ3aが、電磁弁12aを介してタンク13に接続されているとともに、空気バネ3bが、電磁弁12bを介してタンク13に接続されている。また、電磁弁12a,12bには、複数の絞りが設けられており、それらの絞りの組み合わせを変更できるようになっている。これらの電磁弁12a,12bは、コントローラ11に接続されており、コントローラ11からの指令によって、それぞれが独立してポート切り換えや絞りの組み合わせ変更が行われるようになっている。
【0027】
この電磁弁12a,12bのポート切り換えにより、タンク13からは、空気バネ3a,3bへ圧縮空気の供給(給気)が行われ、あるいは空気バネ3a,3bから大気への圧縮空気の放出(排気)が行われる。そして、電磁弁12a,12bにおける絞りの組み合わせの変更により、給排気量の調整が行われる。このような電磁弁12a,12bの作動により、空気バネ3a,3bの給排気及びそのときの給排気量が制御されて、空気バネ3a,3bの高さ及びその変化速度が調整される。つまり、空気バネ3a,3bへの給気により空気バネ3a,3bの高さが高くなり、空気バネ3a,3bからの排気により空気バネ3a,3bの高さが低くなる。また、そのときの給排気量が少ない場合には、空気バネ3a,3bの高さの変化速度が遅くなり、給排気量が多い場合には、空気バネ3a,3bの高さの変化速度が速くなる。
【0028】
そして、車体4の傾斜角は、左右の空気バネ3a,3bの高さの差(左右車高差)と空気バネ3a,3bの設置間隔(一定値)とから定まる。そのため、車体傾斜制御システム10では、左右の空気バネ3a,3bの給排気を行って左右の空気バネ3a,3bの高さを調整することにより、車体4の傾斜角を制御している。
【0029】
コントローラ11は、電磁弁12a,12bの作動を制御するために、線路の形状データと走行速度から曲線区間における必要な傾斜角を得るための制御指令値を算出する。そして、コントローラ11は、空気バネ3a,3bの高さが、制御指令値Cに対して所定幅で設定された不感帯域Dを超えた場合、言い換えると、給気域Sあるいは排気域Eに入った場合に、電磁弁12a,12bを作動させて空気バネ3a,3bの給排気を行うことにより、空気バネ3a,3bの高さを変化させて車体4の傾斜角を制御する(
図2参照)。
【0030】
そこで、電磁弁12a,12bに対する制御指令値について、
図2を参照しながら説明する。本実施形態における制御指令値Cは、従来例の制御指令値と同じものであり、公知の手法により線路の形状データと走行速度から算出される。この制御指令値Cは、車体4の左右車高差が必要な傾斜角となるように各空気バネ3a,3bで個別に算出され、例えば
図2に示すように、直線区間ではゼロであり、円曲線区間では必要な傾斜角を得るための目標値(一定値)であり、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間(
図2では入口緩和曲線区間)ではゼロから目標値に向かう上昇直線であり、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを縮める方向に変化する区間(
図2では出口緩和曲線区間)では目標値からゼロに向かう下降直線となる線形の指令値である。このような制御指令値Cに対して、不感帯域D、給気域S(S1,S2)及び排気域E(E1,E2)が設定されている。給気域S(S1,S2)及び排気域E(E1,E2)は、不感帯域Dを境にして設けられている。そして、コントローラ11は、空気バネ3a,3bの高さが、制御指令値Cに対して不感帯域Dを超えた場合、言い換えると、給気域S(S1,S2)あるいは排気域E(E1,E2)に入った場合に、電磁弁12a,12bを作動させている。
【0031】
なお、給気域Sには、給気1の領域S1と給気2の領域S2が含まれている。給気1の領域S1より給気2の領域S2の方が、タンク13からの圧縮空気の供給量(給気量)を多く必要とする領域である。給気量の変更は、コントローラ11により、電磁弁12a,12bに備わる絞りの組み合わせが変更されることにより行われる。同様に、排気域Eには、排気1の領域E1と排気2の領域E2が含まれている。排気1の領域E1より排気2の領域E2の方が、空気バネ3a,3bからの空気の放出量(排気量)を多く必要とする領域である。排気量の変更も、コントローラ11により、電磁弁12a,12bに備わる絞りの組み合わせが変更されることにより行われる。
【0032】
本実施形態では、コントローラ11において、曲線区間のうち制御指令値Cが変化する緩和曲線区間では、制御指令値Cに対して不感帯域D(給気域S及び排気域E)をオフセットさせている。なお、円曲線区間では従来と同様である。具体的には、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間において、車両4の傾斜角が大きくなるように不感帯域D(給気域S及び排気域E)を制御指令値Cより空気バネ3a又は3bを伸ばす方向(
図2ではプラス側)へオフセットさせている。これにより、給気域S及び排気域Eも空気バネ3a又は3bを伸ばす方向へオフセットされている。そのため、制御指令値Cが不感帯域Dではなく給気域Sに存在する。これにより、鉄道車両1が制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間に進入すると即座に、曲線外側の空気バネ3a(又は3b)への給気が行われる。従って、従来より早めに車体4の傾斜動作が開始される。これにより、車体傾斜動作の制御遅れが解消する。また、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間では、曲線外側の空気バネ3a(又は3b)への給気が継続して行われるため、電磁弁12a(又は12b)の頻繁な作動を回避することができる。
【0033】
また、本実施形態では、コントローラ11により、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間直前の直前直線区間においても、不感帯域Dを車両傾斜角が大きくなるように制御指令値Cより空気バネ3a又は3bを伸ばす方向へオフセットさせている。これにより、制御指令よりも確実に早く傾斜動作を開始することができるので、車体傾斜の制御遅れを確実に解消することができる。
【0034】
そして、コントローラ11により、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間における不感帯域Dの下限最大値が、円曲線区間における制御指令値Cになるように、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間における不感帯域Dを制御指令値Cより空気バネ3a又は3bを伸ばす方向へオフセットさせている。これにより、車体傾斜動作の制御遅れを解消するとともに、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間の終盤において、円曲線区間で必要とされる車体傾斜角(目標角)を確実に得ることができる。
【0035】
また、コントローラ11により、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間における不感帯域Dの上限最大値が、円曲線区間における不感帯域Dの上限値になるように、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間における不感帯域Dを制御指令値Cより空気バネ3a又は3bを伸ばす方向へオフセットさせている。これにより、車体傾斜動作時に車体傾斜角が目標角を大きく越えることを確実に防止することができる。
【0036】
このように、車体傾斜制御システム10では、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間及びその直前の直線区間における不感帯域Dをオフセットさせているため、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間での車体傾斜動作の制御遅れが解消されて、車体傾斜動作時に車体傾斜角が大きくなりすぎることなく、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間の終盤にて円曲線区間で必要とされる車体傾斜角(目標角)を確実に得ることができる。そして、円曲線区間では、必要とされる車体傾斜角(目標角)を維持することができる。従って、曲線区間前半での乗り心地を確実に向上させることができる。また、電磁弁12a(又は12b)の作動回数が減る(不必要な排気がなくなる)ため、空気消費量を低減することができる。
【0037】
さらに、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを縮める方向に変化する区間において、コントローラ11により、車両4の傾斜角が小さくなるように不感帯域Dを制御指令値Cより空気バネ3a又は3bを縮める方向(
図2ではマイナス側)へオフセットさせている。これにより、排気域E及び給気域Sも空気バネ3a又は3bを縮める方向へオフセットされている。そのため、制御指令値Cが不感帯域Dではなく排気域E(E1)に存在する。これにより、鉄道車両1が制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを縮める方向に変化する区間に進入すると即座に、曲線外側の空気バネ3b(又は3a)から排気が行われる。従って、従来より早めに車体4の水平復帰動作が開始される。これにより、車体水平復帰動作の制御遅れが解消する。また、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを縮める方向に変化する区間では、曲線外側の空気バネ3b(又は3a)からの排気が継続して行われるため、電磁弁12b(又は12a)の頻繁な作動を回避することができる。
【0038】
そして、コントローラ11により、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを縮める方向に変化する区間における不感帯域Dの上限最小値が、直線区間における制御指令値Cになるように、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを縮める方向に変化する区間における不感帯域Dをオフセットさせている。これにより、車体水平復帰動作の制御遅れを解消するとともに、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを縮める方向に変化する区間の終盤において、車体4を確実に水平状態に戻すことができる。
【0039】
また、コントローラ11により、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを縮める方向に変化する区間における不感帯域Dの下限最小値が、直線区間における不感帯域Dの下限値になるように、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを縮める方向に変化する区間における不感帯域Dをオフセットさせている。これにより、車体水平復帰動作時に車体4が水平状態を行き過ぎて逆側に傾斜することを防止することができる。
【0040】
このように、車体傾斜制御システム10では、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを縮める方向に変化する区間における不感帯域Dをオフセットさせているため、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを縮める方向に変化する区間での車体水平復帰動作の制御遅れが解消されて、車体水平復帰動作時に、車体4が水平状態を行き過ぎて逆側に傾斜することなく、スムーズに車体4を水平復帰させることができる。従って、曲線区間後半での乗り心地を確実に向上させることができる。また、電磁弁12a(又は12b)の作動回数が減る(不必要な給気がなくなる)ため、空気消費量を低減することができる。
【0041】
そして、本実施形態の車体傾斜制御システム10と従来の車体傾斜制御システムで制御性を評価したので、その結果を
図3に示す。
図3では、横軸に時間を示し、縦軸に曲線路外側の空気バネの高さを示しており、実線が本実施形態の結果であり、破線が従来例の結果である。なお、
図3における一点鎖線は、制御指令値である。
図3から明らかなように、本実施形態の車体傾斜制御システム10によれば、従来例に比べて、車体傾斜動作及び車体水平復帰動作が早く開始されており、車体傾斜の制御遅れが解消されているとともに、円曲線区間において、制御指令値と空気バネの高さが一致しており、必要な傾斜角が得られている。これらのことから、曲線通過時の乗り心地が向上していることがわかる。
【0042】
以上、詳細に説明したように本実施形態に係る鉄道車両の車体傾斜制御システム10によれば、コントローラ11により、円曲線区間以外の制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを縮める方向に変化する区間、及び制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間直前の直線区間にて、制御指令値に対して不感帯域をオフセットさせている。そのため、従来より早めに車体4の傾斜/水平復帰動作が行われるように電磁弁12a(又は12b)を制御することができる。これにより、車体傾斜の制御遅れ、及び電磁弁12a(又は12b)の頻繁な作動を回避することができるため、曲線通過時の乗り心地が向上するとともに、電磁弁の作動回数及び空気消費量が低減される。
【0043】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、制御指令値Cが空気バネ3a又は3bを伸ばす方向に変化する区間の終盤において、電磁弁の制御に時素(制御遅れ)を設定してもよい。これにより、車体傾斜角のオーバーシュートを確実に防止するとともに、電磁弁の作動回数の更なる低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 鉄道車両
2 台車
3a,3b 空気バネ
4 車体
10 車体傾斜制御システム
11 コントローラ
12a,12b 電磁弁
13 タンク
C 制御指令値
D 不感帯域
E 排気域
S 給気域