(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048436
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】時計用部品、時計、および、時計用部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G04B 19/06 20060101AFI20240402BHJP
G04B 19/10 20060101ALI20240402BHJP
G04B 19/04 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
G04B19/06 B
G04B19/06 A
G04B19/10 A
G04B19/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154332
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】藤 飛翔
(57)【要約】
【課題】僅かな明度の違いによる黒色の模様を形成した時計用部品を提供すること。
【解決手段】時計用部品は、表面に複数の第1凹部が形成される第1領域と、表面に複数の第2凹部が形成される第2領域とを有する基材と、第1領域および第2領域の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備え、基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の第1凹部は、第1辺と、第1辺に対して傾けられ、端部で第1辺と当接する第2辺とにより規定され、断面視で、複数の第2凹部は、第3辺と、第3辺に対して傾けられ、端部で第3辺と当接する第4辺とにより規定され、断面視において、基材の厚さ方向と直交する方向に対する第2辺の傾きの角度と、基材の厚さ方向と直交する方向に対する第4辺の傾きの角度とが異なり、第1領域および第2領域は、基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が5以上、かつ、20以下であることを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数の第1凹部が形成される第1領域と、前記表面に複数の第2凹部が形成される第2領域とを有する基材と、
前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備え、
前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記第1凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、
前記断面視で、複数の前記第2凹部は、第3辺と、前記第3辺に対して傾けられ、端部で前記第3辺と当接する第4辺とにより規定され、
前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第2辺の傾きの角度と、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第4辺の傾きの角度とが異なり、
前記第1領域および前記第2領域は、前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が5以上、かつ、20以下である
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項2】
請求項1に記載の時計用部品において、
前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第2辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第2辺の長さの比は1/6よりも大きく、かつ、1よりも小さく、
前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第4辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第4辺の長さの比は1/6よりも大きく、かつ、1よりも小さい
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項3】
請求項1に記載の時計用部品において、
前記時計用部品は文字板として構成され、
前記第1領域はアワーマーク部として構成され、
前記第2領域は文字板本体部として構成される
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項4】
請求項1に記載の時計用部品において、
前記時計用部品は文字板として構成され、
前記第1領域は記号部として構成され、
前記第2領域は文字板本体部として構成される
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項5】
請求項1に記載の時計用部品において、
前記時計用部品は文字板および指針として構成され、
前記第1領域は指針として構成され、
前記第2領域は文字板本体部として構成される
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項6】
請求項1に記載の時計用部品において、
前記多層膜は、Ta2O5、SiO2、TiO2、Al2O3、ZrO2、Nb2O5、HfO2、Na5Al3F14、Na3AlF6、AlF3、MgF2、CaF2、BaF2、YF3、LaF3、CeF3、および、NdF3の少なくとも1種を含む材料から構成される色調整膜を備える
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項7】
請求項6に記載の時計用部品において、
前記多層膜は、Cr、Ag、Pt、Au、Cu、Al、Cr、Sn、Fe、Tiの少なくとも1種を含む材料から構成される色吸収膜を備える
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項8】
請求項7に記載の時計用部品において、
前記色吸収膜は、Crを含む材料から構成される膜を3層以上備える
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項9】
請求項8に記載の時計用部品において、
Crを含む材料から構成される前記色吸収膜と、Al2O3を含む材料から構成される前記色調整膜と、が積層される箇所を複数備える
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項10】
表面に複数の第1凹部が形成される第1領域と、前記表面に複数の第2凹部が形成される第2領域とを有する基材と、
前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備え、
前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記第1凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、
前記断面視で、複数の前記第2凹部は、第3辺と、前記第3辺に対して傾けられ、端部で前記第3辺と当接する第4辺とにより規定され、
前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第2辺の傾きの角度と、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第4辺の傾きの角度とが異なり、
前記多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでいる
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項11】
請求項1または請求項10に記載の時計用部品を備える
ことを特徴とする時計。
【請求項12】
表面に複数の第1凹部が形成される第1領域と、前記表面に複数の第2凹部が形成される第2領域とを有する基材と、前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備える時計用部品の製造方法において、
前記基材の表面に複数の前記第1凹部および前記第2凹部を形成する工程と、
複数の前記第1凹部および複数の前記第2凹部が形成された前記基材の前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部に、前記多層膜を積層させる工程と、を備え、
前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記第1凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、
前記断面視で、複数の前記第2凹部は、第3辺と、前記第3辺に対して傾けられ、端部で前記第3辺と当接する第4辺とにより規定され、
前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第2辺の傾きの角度と、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第4辺の傾きの角度とが異なり、
前記第1領域および前記第2領域は、前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が5以上、かつ、20以下である
ことを特徴とする時計用部品の製造方法。
【請求項13】
表面に複数の第1凹部が形成される第1領域と、前記表面に複数の第2凹部が形成される第2領域とを有する基材と、前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備える時計用部品の製造方法において、
前記基材の表面に複数の前記第1凹部および前記第2凹部を形成する工程と、
複数の前記第1凹部および複数の前記第2凹部が形成された前記基材の前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部に、前記多層膜を積層させる工程と、を備え、
前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記第1凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、
前記断面視で、複数の前記第2凹部は、第3辺と、前記第3辺に対して傾けられ、端部で前記第3辺と当接する第4辺とにより規定され、
前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第2辺の傾きの角度と、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第4辺の傾きの角度とが異なり、
前記多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでいる
ことを特徴とする時計用部品の製造方法。
【請求項14】
請求項12または請求項13に記載の時計用部品の製造方法において、
前記第1凹部および前記第2凹部は、切削加工、レーザー加工、パターニング加工、化学除去加工、研磨加工、および、鍛造・鋳造加工のいずれか一つを用いて形成される
ことを特徴とする時計用部品の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の時計用部品の製造方法において、
前記第1凹部および前記第2凹部は、フェムトレーザー加工、または、ピコレーザー加工を用いて形成される
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項16】
請求項12または請求項13に記載の時計用部品の製造方法において、
前記多層膜は、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、および、スパッタリング法のいずれか一つを用いて形成される
ことを特徴とする時計用部品の製造方法。
【請求項17】
請求項12または請求項13に記載の時計用部品の製造方法にて製造された時計用部品を用いて構成される
ことを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用部品、時計、および、時計用部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基材にレーザー加工を施して突起部を形成し、当該突起部の周囲に被複層を形成した時計用文字板が開示されている。特許文献1の時計用文字板では、レーザー加工によって突起部を形成することにより、意図した凹凸模様を作ることができ、装飾性、デザイン性を高くできるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、基材の表面に意図した凹凸模様を形成させることはできるものの、僅かな明度の違いによる黒色の模様を形成するのが難しいといった問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の時計用部品は、表面に複数の第1凹部が形成される第1領域と、前記表面に複数の第2凹部が形成される第2領域とを有する基材と、前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備え、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記第1凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視で、複数の前記第2凹部は、第3辺と、前記第3辺に対して傾けられ、端部で前記第3辺と当接する第4辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第2辺の傾きの角度と、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第4辺の傾きの角度とが異なり、前記第1領域および前記第2領域は、前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が5以上、かつ、20以下であることを特徴とする。
【0006】
本開示の時計用部品は、表面に複数の第1凹部が形成される第1領域と、前記表面に複数の第2凹部が形成される第2領域とを有する基材と、前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備え、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記第1凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視で、複数の前記第2凹部は、第3辺と、前記第3辺に対して傾けられ、端部で前記第3辺と当接する第4辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第2辺の傾きの角度と、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第4辺の傾きの角度とが異なり、前記多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでいることを特徴とする。
【0007】
本開示の時計は、前記時計用部品を備えることを特徴とする。
【0008】
本開示の時計用部品の製造方法は、表面に複数の第1凹部が形成される第1領域と、前記表面に複数の第2凹部が形成される第2領域とを有する基材と、前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備える時計用部品の製造方法において、前記基材の表面に複数の前記第1凹部および前記第2凹部を形成する工程と、複数の前記第1凹部および複数の前記第2凹部が形成された前記基材の前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部に、前記多層膜を積層させる工程と、を備え、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記第1凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視で、複数の前記第2凹部は、第3辺と、前記第3辺に対して傾けられ、端部で前記第3辺と当接する第4辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第2辺の傾きの角度と、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第4辺の傾きの角度とが異なり、前記第1領域および前記第2領域は、前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が5以上、かつ、20以下であることを特徴とする。
【0009】
本開示の時計用部品の製造方法は、表面に複数の第1凹部が形成される第1領域と、前記表面に複数の第2凹部が形成される第2領域とを有する基材と、前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備える時計用部品の製造方法において、前記基材の表面に複数の前記第1凹部および前記第2凹部を形成する工程と、複数の前記第1凹部および複数の前記第2凹部が形成された前記基材の前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部に、前記多層膜を積層させる工程と、を備え、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記第1凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視で、複数の前記第2凹部は、第3辺と、前記第3辺に対して傾けられ、端部で前記第3辺と当接する第4辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第2辺の傾きの角度と、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第4辺の傾きの角度とが異なり、前記多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでいることを特徴とする。
【0010】
本開示の時計は、前記時計用部品の製造方法にて製造された時計用部品を用いて構成されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】第1実施形態の文字板の第1領域の要部を示す断面図。
【
図4】第1実施形態の文字板の第1領域の要部を示す拡大断面図。
【
図5】第1実施形態の文字板の第1領域の要部を示す斜視図。
【
図6】第1実施形態の文字板の第1領域の要部を示す断面図。
【
図7】第1実施形態の文字板の第2領域の要部を示す拡大断面図。
【
図8】第1実施形態の文字板の第2領域の要部を示す斜視図。
【
図9】基材の厚さ方向の斜辺の長さVと基材の厚さ方向と直交する方向の斜辺の長さHとの比と、明度L*との関係を示す図。
【
図10】第2実施形態の文字板の第1領域の要部を示す断面図。
【
図11】第2実施形態の文字板の第1領域の要部を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1実施形態]
以下、本開示の実施形態の時計1を図面に基づいて説明する。
図1は、時計1を示す正面図である。本実施形態では、時計1は、ユーザーの手首に装着される腕時計として構成される。
図1に示すように、時計1は、金属製のケース10を備える。そして、ケース10の内部には、円板状の文字板2と、秒針3、分針4、時針5と、りゅうず6と、Aボタン7と、Bボタン8とを備える。また、ケース10には、バンド9が取り付けられている。
また、ケース10は、ケース本体11と、かん12とを備える。ケース本体11は、前述した文字板2、秒針3、分針4、時針5等を内部に収納する。かん12は、ケース本体11の6時方向および12時方向にそれぞれ設けられている。そして、それぞれのかん12には、図示略のバネ棒等にて、バンド9が取り付けられている。
なお、文字板2は、本開示の時計用部品の一例である。
【0013】
図2は、文字板2の概略を示す正面図である。
図2に示すように、本実施形態では、文字板2は、視認される色が異なる第1領域21、および、第2領域22を備えている。
なお、第1領域21および第2領域22は、明度の低い黒色として視認されるが、
図2においては、第1領域21を格子模様で表現し、第2領域22を縞模様で表現している。
【0014】
図3は、第1領域21の要部を示す断面図であり、
図4は、第1領域21の要部を示す拡大断面図であり、
図5は、第1領域21の要部を示す拡大斜視図である。なお、
図3、
図4は、文字板2における基材30を厚さ方向に切断した断面図である。
図3~
図5に示すように、文字板2の第1領域21は、基材30と、下地層31と、多層膜32と、保護層33とを備えて構成される。本実施形態では、基材30は、全体にわたって下地層31、多層膜32、および、保護層33に覆われている。すなわち、下地層31、多層膜32、および、保護層33は、基材30の表面301全体を覆うように積層されている。
なお、第1領域21は、上記構成に限られるものではなく、例えば、基材30の表面301の一部を覆うように下地層31、多層膜32、および、保護層33が積層されていてもよい。
【0015】
[基材]
基材30の材質は、鉄、真鍮、アルミニウム等の金属や、樹脂や、または、ガラス等から構成される。なお、基材30を樹脂により構成する場合、当該樹脂は、光を透過させない非透光性樹脂であってもよく、あるいは、光を透過させる透光性樹脂であってもよい。
そして、本実施形態では、第1領域21における基材30の表面301には、複数の第1凹部302が形成されている。
【0016】
[第1凹部]
第1凹部302は、基材30を厚さ方向に切断した断面視で、第1直線辺L1と、第1直線辺L1に対して傾けられ、端部で第1直線辺L1と当接する第1斜辺D1とにより規定されている。そして、第1直線辺L1は、基材30の厚さ方向に延びる対称軸A1に対して、第1斜辺D1と線対称となるように傾けられている。より具体的には、本実施形態では、
図5に示すように、第1凹部302は、表面301に円錐状の突起物が複数形成されるように形成されている。
また、基材30の厚さ方向と直交する方向に対する第1斜辺D1の角度はθ1とされている。
なお、第1直線辺L1は、本開示の第1辺の一例であり、第1斜辺D1は、本開示の第2辺の一例である。
【0017】
そして、本実施形態では、第1凹部302は、基材30の厚さ方向と直交する方向に沿った第1斜辺D1の長さH1に対する、基材30の厚さ方向に沿った第1斜辺D1の長さV1の比が1/6よりも大きく、かつ、1よりも小さくなるように形成されている。すなわち、V1とH1との比が、1:6よりも大きく、かつ、1:1よりも小さくなるように第1凹部302が形成されている。
換言すると、基材30の厚さ方向に対する第1斜辺D1の長さV1を1とした場合に、基材30の厚さ方向と直交する方向に対する第1斜辺D1の長さH1が6よりも小さく、かつ、1よりも大きくなるように、すなわち、H1がV1の6倍よりも小さく、かつ、1倍よりも大きくなるように第1凹部302が形成されている。
【0018】
[下地層]
下地層31は、基材30の表面301に積層されている。本実施形態では、下地層31は、例えば、Ni等のメッキにより構成されている。本実施形態では、基材30の表面301に下地層31を積層させることにより、多層膜32を積層しやすくすることができる。
【0019】
[多層膜]
多層膜32は、色吸収膜321と色調整膜322とを備えて構成され、下地層31に積層される。
色吸収膜321は、金属を用いて形成される。なお色吸収膜321を構成する金属としては、Ag、Pt、Au、Cu、Al、Cr、Sn、Fe、Ti等や、これらの合金等が好ましい。
色吸収膜321の形成方法としては、特に限定されないが、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等が挙げられる。これにより、多層膜32の層構成を任意に変化させることができる。
【0020】
ここで、本実施形態では、色吸収膜321は、Crを含む材料から構成されるクロム色吸収膜3211を3層有している。これにより、多層膜32に入射される光の反射率を低くすることができる。
【0021】
色調整膜322は、光学干渉により色調を調整する膜である。本実施形態では、色調整膜322は、無機膜を含む多層膜で構成される。具体的には、色調整膜322は、Ta2O5、SiO2、TiO2、Al2O3、ZrO2、Nb2O5、HfO2、Na5Al3F14、Na3AlF6、AlF3、MgF2、CaF2、BaF2、YF3、LaF3、CeF3、および、NdF3の少なくとも1種を含む材料から構成されることが好ましい。これにより、これらの無機物は化学的安定性が高いので、時計用部品としての外観の安定性や耐久性を高くすることができる。さらに、明度L*の値が低い黒色のバリエーションの幅を増やすことができる。
【0022】
ここで、本実施形態では、色調整膜322は、Al2O3を含む材料から構成される酸化アルミ色調整膜3221と、SiO2を含む材料から構成される二酸化ケイ素色調整膜3222と、を有している。そして、酸化アルミ色調整膜3221には、クロム色吸収膜3211が積層されている。すなわち、本実施形態では、多層膜32は、Crを含む材料から構成されるクロム色吸収膜3211と、Al2O3を含む材料から構成される酸化アルミ色調整膜3221と、が積層される箇所を複数備えている。これにより、多層膜32に入射される光の反射率をより低くすることができるので、より明度L*の値が非常に低い黒色を達成することができる。
なお、多層膜32は、上記構成に限られるものではなく、色吸収膜321と色調整膜322との順は任意に設定することができる。
【0023】
なお、色調整膜322の形成方法としては、特に限定されないが、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等が挙げられる。これにより、多層膜32の層構成を任意に変化させることができる。
【0024】
[保護層]
保護層33は、多層膜32の表面に積層される透明層である。本実施形態では、保護層33は、アクリル等の透明樹脂によって形成されている。
【0025】
[第2領域22]
図6は、第2領域22の要部を示す断面図であり、
図7は、第2領域22の要部を示す拡大断面図であり、
図8は、第2領域22の要部を示す拡大斜視図である。なお、
図6、
図7は、文字板2における基材30を厚さ方向に切断した断面図である。
図6~
図8に示すように、文字板2の第2領域22は、前述した基材30と、下地層31と、多層膜32と、保護層33とを備えて構成される。
そして、本実施形態では、第2領域22における基材30の表面301には、複数の第2凹部303が形成されている。
【0026】
[第2凹部]
第2凹部303は、基材30を厚さ方向に切断した断面視で、第2直線辺L2と、第2直線辺L2に対して傾けられ、端部で第2直線辺L2と当接する第2斜辺D2とにより規定されている。そして、前述した第1凹部302と同様に、第2直線辺L2は、基材30の厚さ方向に延びる対称軸A1に対して、第2斜辺D2と線対称となるように傾けられている。より具体的には、本実施形態では、第2凹部303は、
図8に示すように、表面301に円錐状の突起物が複数形成されるように形成されている。
また、基材30の厚さ方向と直交する方向に対する第2斜辺D2角度はθ2とされている。
なお、第2直線辺L2は、本開示の第3辺の一例であり、第2斜辺D2は、本開示の第4辺の一例である。
【0027】
また、前述した第1凹部302と同様に、第2凹部303は、基材30の厚さ方向と直交する方向に沿った第2斜辺D2の長さH2に対する、基材30の厚さ方向に沿った第2斜辺D2の長さV2の比が1/6よりも大きく、かつ、1よりも小さくなるように形成されている。すなわち、V2とH2との比が、1:6よりも大きく、かつ、1:1よりも小さくなるように第2凹部303が形成されている。
換言すると、基材30の厚さ方向に対する第2斜辺D2の長さV2を1とした場合に、基材30の厚さ方向と直交する方向に対する第2斜辺D2の長さH2が6よりも小さく、かつ、1よりも大きくなるように、すなわち、H2がV2の6倍よりも小さく、かつ、1倍よりも大きくなるように第2凹部303が形成されている。
【0028】
ここで、本実施形態では、第1凹部302における第1斜辺D1の角度θ1は、第2凹部303における第2斜辺D2の角度θ2よりも大きくなるように、第1凹部302および第2凹部303が形成されている。
すなわち、第1凹部302におけるH1に対するV1の比と、第2凹部303におけるH2に対するV2の比とが異なるように、第1凹部302および第2凹部303が形成されている。
例示すると、第1凹部302におけるH1に対するV1の比が1/3であり、第2凹部303におけるH2に対するV2の比が1/4であるように、第1凹部302および第2凹部303が形成されている。
ここで、本実施形態では、第1斜辺D1の角度θ1が第2斜辺D2の角度θ2よりも大きくなるように、第1凹部302および第2凹部303が形成されているので、第1凹部302に入射された光のほうが、第2凹部303に入射された光よりも、凹部の内側で反射を繰り返すことになる。そのため、第1凹部302のほうが第2凹部303よりも光の反射率が低くなる。これにより、第2領域22に比べて第1領域21の方が明度L*の値が小さくなる。換言すると、より明度の低い黒色にしたい箇所では、凹部における斜辺の角度をより大きくする。
【0029】
[文字板の製造方法]
次に、文字板2の製造方法について説明する。
先ず、文字板2の第1領域21における基材30の表面301に、前述した第1凹部302を複数形成させる。例えば、基材30の表面301を、切削加工、レーザー加工、化学除去加工、研磨加工、鍛造・鋳造加工等の加工を用いて第1凹部302を形成する。この際、基材30の厚さ方向と直交する方向に沿った第1斜辺D1の長さH1に対する、基材30の厚さ方向に沿った第1斜辺D1の長さV1の比が1/6よりも大きく、かつ、1よりも小さくなるように第1凹部302を形成することで、表面301に複数の円錐状の突起物を形成する。
【0030】
次に、文字板2の第2領域22における基材30の表面301に、前述した第2凹部303を複数形成させる。例えば、基材30の表面301を、切削加工、レーザー加工、化学除去加工、研磨加工、鍛造・鋳造加工等の加工を用いて第2凹部303を形成する。この際、基材30の厚さ方向と直交する方向に沿った第2斜辺D2の長さH2に対する、基材30の厚さ方向に沿った第2斜辺D2の長さV2の比が1/6よりも大きく、かつ、1よりも小さくなるように第2凹部303を形成することで、表面301に複数の円錐状の突起物を形成する。
なお、第1凹部302および第2凹部303を形成するための加工方法については問わない。
【0031】
ここで、本実施形態では、前述したように、第1凹部302における第1斜辺D1の角度θ1が、第2凹部303における第2斜辺D2の角度θ2よりも大きくなるように、第1凹部302および第2凹部303を形成する。換言すると、第1凹部302におけるH1に対するV1の比と、第2凹部303におけるH2に対するV2の比と、が異なるように、第1凹部302および第2凹部303を形成する。
【0032】
そして、第1領域21、および、第2領域22における基材30の表面301に、下地層31、多層膜32、および、保護層33を積層させる。具体的には、表面301に下地層31を形成した後、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等により色吸収膜321および色調整膜322を有する多層膜32を形成する。その後、多層膜32の表面に保護層33を積層させる。これにより、文字板2を製造することができる。
さらに、このような製造方法で製造された文字板2を時計1に用いることにより、時計1を製造することができる。
そして、本実施形態では、第1凹部302および第2凹部303を切削加工、レーザー加工、化学除去加工、研磨加工、鍛造・鋳造加工等の加工を用いて形成することで、第1凹部302および第2凹部303における斜辺D1,D2の傾きを任意に変化させることができる。
【0033】
図9は、基材の厚さ方向の斜辺Dの長さVと基材の厚さ方向と直交する方向の斜辺Dの長さHとの比と、明度L*との関係を示す図である。
図9では、真鍮を用いて形成される基材に対して、基材の厚さ方向の斜辺の長さVと基材の厚さ方向と直交する方向の斜辺の長さHとの比が1:1~1:10となるように凹部を形成し、基材の表面に下地層、多層膜、および、保護層を積層させて明度L*を測定した。なお、明度L*の測定は分光測色計を用いて行い、測定条件としては、正反射光測定、光源D65、視野角10°とした。
【0034】
ここで、
図9では、多層膜は、
図4、
図7に示す色吸収膜321および色調整膜322と同様の構成とし、当該多層膜を平面に配置した場合において、多層膜の厚さ方向から見た平面視で明度L*の値が20となるように形成されている。すなわち、多層膜のみによって、明度L*の値を20よりも小さくすることは難しい。また、凹部を形成した基材は、多層膜が積層されていない状態において、基材の厚さ方向から見た平面視で明度L*の値が32となるように形成されている。
なお、本開示において、明度L*とは、CIE(Commission Internationale d'Eclairage;国際照明委員会)で規定されるL*a*b*色空間における明度の値である。L*の値が「0」の場合は全く光を反射しない(光を完全に吸収する)物体の明度であり、L*の値が「100」の場合は光を完全反射する白の明度の値を表す。
【0035】
図9に示すように、基材30の厚さ方向と直交する方向の斜辺Dの長さHに対する基材30の厚さ方向の斜辺の長さVの長さの比が大きくなるのに従って、明度L*の値が小さくなることが示唆された。特に、基材30の厚さ方向と直交する方向の斜辺Dの長さHに対する基材30の厚さ方向の斜辺の長さVの長さの比が1:6よりも大きく、かつ、1:1よりも小さい場合、(
図9においてV:H比を示す横軸の1~6の間の領域)すなわち、基材30の厚さ方向と直交する方向に沿った斜辺Dの長さHに対する、基材30の厚さ方向に沿った斜辺Dの長さVの比が1/6よりも大きく、かつ、1よりも小さい場合、明度L*の値を5以上、かつ、20以下とできることが示唆された。これは、基材の厚さ方向と直交する方向の斜辺の長さHに対する基材の厚さ方向の斜辺の長さVの長さの比を大きくすることにより、直線辺Lに対する斜辺Dの傾きが大きくなるので、凹部に入射される光の反射率を低くすることができることによるものと推察される。
【0036】
さらに、多層膜は、Crを含む材料から構成されるクロム色吸収膜を3層含んでいる上、クロム色吸収膜と酸化アルミ色調整膜とが積層される箇所を複数備えるので、多層膜に入射された光の反射率を低くすることができて、多層膜自体の明度L*の値を18と低い値にできるものと推察される。
これにより、本実施形態では、基材の厚さ方向から見た平面視で、基材における第1領域および第2領域は、明度の低い黒色を呈する。
【0037】
ここで、本実施形態では、前述したように、第1凹部302におけるH1に対するV1の比と、第2凹部303におけるH2に対するV2の比と、が異なるように、第1凹部302および第2凹部303が形成される。これにより、第1凹部302に入射される光の反射角度と、第2凹部303に入射される光の反射角度とが異なることから、第1凹部302と第2凹部303とで入射される光の反射率を変えることができる。そのため、第1領域21と第2領域22とで僅かな明度の違いによる黒色の模様を形成することができる。
【0038】
[実施形態の作用効果]
このような本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、基材30は、複数の第1凹部302が形成される第1領域21と、複数の第2凹部303が形成される第2領域22とを有する。そして、第1領域21および第2領域22は、基材30の厚さ方向から見た平面視で、明度L*の値が5以上、かつ、20以下である。これにより、基材30における第1領域21および第2領域22は、明度が低く、黒色を呈する。ここで、第1領域21における第1凹部302は、第1直線辺L1と、第1直線辺L1に対して傾けられ、端部で第1直線辺L1と当接する第1斜辺D1とにより規定されている。また、第2領域22における第2凹部303は、第2直線辺L2と、第2直線辺L2に対して傾けられ、端部で第2直線辺L2と当接する第2斜辺D2とにより規定されている。そして、基材30の厚さ方向と直交する方向に対する第1斜辺D1の傾きの角度θ1と、基材30の厚さ方向と直交する方向に対する第2斜辺D2の傾きの角度θ2とが異なる。これにより、第1凹部302に入射される光の反射角度と、第2凹部303に入射される光の反射角度とが異なることから、第1凹部302と第2凹部303とで入射される光の反射率を変えることができる。そのため、第1領域21と第2領域22とで僅かな明度の違いによる黒色の模様を形成することができる。
【0039】
本実施形態では、第1凹部302は、基材30の厚さ方向に対する第1斜辺D1の長さV1と、基材30の厚さ方向と直交する方向に対する第1斜辺D1の長さH1との比が、1:6よりも大きく、かつ、1:1よりも小さくなるように形成されている。基材30の厚さ方向と直交する方向に沿った第1斜辺D1の長さH1に対する、基材30の厚さ方向に沿った第1斜辺D1の長さV1の比が1/6よりも大きく、かつ、1よりも小さくなるように形成されている。また、第2凹部303は、基材30の厚さ方向と直交する方向に沿った第2斜辺D2の長さH2に対する、基材30の厚さ方向に沿った第2斜辺D2の長さV2の比が1/6よりも大きく、かつ、1よりも小さくなるように形成されている。これにより、第1凹部302および第2凹部303に入射される光の反射率を低くすることができるので、第1領域21および第2領域22において明度の低い黒色を呈することができる。
【0040】
本実施形態では、多層膜32は、Ta2O5、SiO2、TiO2、Al2O3、ZrO2、Nb2O5、HfO2、Na5Al3F14、Na3AlF6、AlF3、MgF2、CaF2、BaF2、YF3、LaF3、CeF3、および、NdF3の少なくとも1種を含む材料から構成される色調整膜322を備えているので、文字板2としての外観の安定性や耐久性を高くすることができる。さらに、明度L*の値が低い黒色のバリエーションの幅を増やすことができる。
【0041】
本実施形態では、多層膜32は、Cr、Ag、Pt、Au、Cu、Al、Cr、Sn、Fe、Tiの少なくとも1種を含む材料から構成される色吸収膜321を備えているので、文字板2として高級感のある外観を得ることができる。
【0042】
本実施形態では、多層膜32は、Crを含む材料から構成されるクロム色吸収膜3211を3層以上含んでいるので、多層膜32に入射された光の反射率を低くすることができる。そのため、第1凹部302および第2凹部303に入射される光の反射率を低くすることができるので、第1領域21および第2領域22において明度の低い黒色を呈することができる。
【0043】
本実施形態では、多層膜32は、クロム色吸収膜3211と酸化アルミ色調整膜3221とが積層される箇所を複数備えるので、多層膜32に入射される光の反射率をより低くすることができ、より明度L*の値が非常に低い黒色を呈することができる。
【0044】
本実施形態では、第1凹部302および第2凹部303は、切削加工、レーザー加工、化学除去加工、研磨加工、および、鍛造・鋳造加工のいずれか一つを用いて形成されている。これにより、第1凹部302における第1斜辺D1、および第2凹部303における第2斜辺D2の傾きを任意に変化させることができる。
【0045】
本実施形態では、多層膜32は、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、および、スパッタリング法のいずれか一つを用いて形成されている。これにより、多層膜32の層構成を任意に変化させることができる。
【0046】
[第2実施形態]
次に、本開示の第2実施形態について、
図10、
図11に基づいて説明する。第2実施形態では、第1領域21Aの第1凹部302Aが、湾曲する第1辺L3および第2辺D3により規定される点で、前述した第1実施形態と異なる。
なお、第2実施形態において、第1実施形態と同一または同様の構成には同一符号を付し、説明を省略または簡略する。
【0047】
[第1領域]
図10は、第1領域21Aの要部を示す断面図であり、
図11は、第1領域21Aの要部を示す拡大断面図である。なお、
図10、
図11は、第1領域21Aにおける基材30Aを厚さ方向に切断した断面図である。
図10、
図11に示すように、第1領域21Aは、前述した第1実施形態と同様に基材30Aと、下地層31Aと、多層膜32Aと、保護層33Aとを備えて構成される。
【0048】
[第1凹部]
第1凹部302Aは、基材30Aを厚さ方向に切断した断面視で、第1辺L3と、第1辺L3に対して傾けられ、端部で第1辺L3と当接する第2辺D3とにより規定されている。そして、本実施形態では、第1辺L3および第2辺D3は湾曲している。
また、前述した第1実施形態と同様に、第1凹部302Aは、表面301Aに円錐状の突起物が複数形成されるように形成されている。
なお、図示は省略するが、本実施形態では、第2領域における第2凹部を規定する第1辺および第2辺も湾曲している。
【0049】
そして、前述した第1実施形態と同様に、第1凹部302Aは、基材30Aの厚さ方向と直交する方向に沿った第2辺D3の長さH3に対する、基材30Aの厚さ方向に沿った第2辺D3の長さV3の比が1/6よりも大きく、かつ、1よりも小さくなるように形成されている。すなわち、V3とH3との比が、1:6よりも大きく、かつ、1:1よりも小さくなるように第1凹部302が形成されている。
ここで、本実施形態では、基材30Aの厚さ方向と直交する方向に対する第2辺D3の中点における接線の角度はθ3とされている。そして、当該角度θ3は、第2領域の第2辺の中点における接線と基材30Aの厚さ方向と直交する方向とが成す角度θよりも大きくなるように、第1凹部302Aおよび第2凹部が形成されている。
【0050】
[第2実施形態の作用効果]
このような本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、第1凹部302Aを規定する第1辺L3および第2辺D3は湾曲している。これにより、第1凹部302Aを規定する辺は直線に限られないので、第1凹部302Aを形成するための加工の自由度を高くすることができる。
【0051】
[変形例]
なお、本開示は前述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本開示に含まれるものである。
【0052】
前述した各実施形態では、第1凹部302,302Aおよび第2凹部303は、切削加工、レーザー加工、化学除去加工、研磨加工、および、鍛造・鋳造加工のいずれか一つを用いて形成されていたが、これに限定されない。例えば、第1凹部および第2凹部は、フェムトレーザー加工、または、ピコレーザー加工を用いて形成されていてもよい。これにより、第1凹部における第2辺の傾き、および、第2凹部における第4辺の傾きをより高精度に変化させることができる。
【0053】
前述した各実施形態では、文字板2の本体部に第1領域21および第2領域22が形成されていたが、これに限定されない。例えば、第1領域はアワーマーク部として構成され、第2領域は文字板本体部として構成されていてもよく、あるいは、第1領域は社名等を示す記号部として構成され、第2領域は文字板本体部として構成されていてもよい。さらに、本開示の時計用部品が文字板および指針として構成され、第1領域は指針として構成され、第2領域は文字板本体部として構成されていてもよい。
【0054】
前述した各実施形態では、第1領域21の第1凹部302における第1斜辺D1の角度θ1が、第2領域22の第2凹部303における第2斜辺D2の角度θ2よりも大きくなるように、第1凹部302および第2凹部303が形成されていたが、これに限定されない。例えば、第2領域の第2凹部における第2辺の角度が、第1領域の第1凹部における第1辺の角度よりも大きくなるように、第1凹部および第2凹部が形成されていてもよい。
【0055】
前述した実施形態では、本開示の時計用部品は文字板2として構成されていたが、これに限定されない。例えば、本開示の時計用部品は、ケース、ダイヤルリング、ガラス縁、ムーブメント、針、略字、および、回転錘のいずれか一つとして構成されていてもよい。
【0056】
[本開示のまとめ]
本開示の時計用部品は、表面に複数の第1凹部が形成される第1領域と、前記表面に複数の第2凹部が形成される第2領域とを有する基材と、前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備え、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記第1凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視で、複数の前記第2凹部は、第3辺と、前記第3辺に対して傾けられ、端部で前記第3辺と当接する第4辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第2辺の傾きの角度と、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第4辺の傾きの角度とが異なり、前記第1領域および前記第2領域は、前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が5以上、かつ、20以下であることを特徴とする。
本開示では、基材は、複数の第1凹部が形成される第1領域と、複数の第2凹部が形成される第2領域とを有する。そして、第1領域および第2領域は、基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が5以上、かつ、20以下である。これにより、基材における第1領域および第2領域は、明度が低く、黒色を呈する。ここで、第1領域における第1凹部は、第1辺および当該第1辺に対して傾けられ、端部で第1辺と当接する第2辺とにより規定され、第2領域における第2凹部は、第3辺と、当該第3辺に対して傾けられ、端部で第3辺と当接する第4辺とにより規定される。そして、基材の厚さ方向と直交する方向に対する第2辺の傾きの角度と、基材の厚さ方向と直交する方向に対する第4辺の傾きの角度とが異なる。これにより、第1凹部に入射される光の反射角度と、第2凹部に入射される光の反射角度とが異なることから、第1凹部と第2凹部とで入射される光の反射率を変えることができる。そのため、第1領域と第2領域とで僅かな明度の違いによる黒色の模様を形成することができる。
【0057】
本開示の時計用部品において、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第2辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第2辺の長さの比は1/6よりも大きく、かつ、1よりも小さく、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第4辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第4辺の長さの比は1/6よりも大きく、かつ、1よりも小さくてもよい。
これにより、第1凹部および第2凹部に入射される光の反射率を低くすることができるので、第1領域および第2領域において明度の低い黒色を呈することができる。
【0058】
本開示の時計用部品において、前記時計用部品は文字板として構成され、前記第1領域はアワーマーク部として構成され、前記第2領域は文字板本体部として構成されていてもよい。
【0059】
本開示の時計用部品において、前記時計用部品は文字板として構成され、前記第1領域は記号部として構成され、前記第2領域は文字板本体部として構成されていてもよい。
【0060】
本開示の時計用部品において、前記時計用部品は文字板および指針として構成され、前記第1領域は指針として構成され、前記第2領域は文字板本体部として構成されていてもよい。
【0061】
本開示の時計用部品において、前記多層膜は、Ta2O5、SiO2、TiO2、Al2O3、ZrO2、Nb2O5、HfO2、Na5Al3F14、Na3AlF6、AlF3、MgF2、CaF2、BaF2、YF3、LaF3、CeF3、および、NdF3の少なくとも1種を含む材料から構成される色調整膜を備えていてもよい。
これにより、これらの無機物は化学的安定性が高いので、時計用部品としての外観の安定性や耐久性を高くすることができる。さらに、明度L*の値が低い黒色のバリエーションの幅を増やすことができる。
【0062】
本開示の時計用部品において、前記多層膜は、Cr、Ag、Pt、Au、Cu、Al、Cr、Sn、Fe、Tiの少なくとも1種を含む材料から構成される色吸収膜を備えていてもよい。
これにより、時計用部品として高級感のある外観を得ることができる。
【0063】
本開示の時計用部品において、前記色吸収膜は、Crを含む材料から構成される膜を3層以上備えていてもよい。
これにより、多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでいるので、多層膜に入射された光の反射率を低くすることができる。そのため、第1凹部および第2凹部に入射される光の反射率を低くすることができるので、第1領域および第2領域において明度の低い黒色を呈することができる。
【0064】
(請求項9)
本開示の時計用部品において、Crを含む材料から構成される前記色吸収膜と、Al2O3を含む材料から構成される前記色調整膜と、が積層される箇所を複数備えていてもよい。
これにより、多層膜に入射される光の反射率をより低くすることができるので、より明度L*の値が非常に低い黒色を呈することができる。
【0065】
本開示の時計用部品は、表面に複数の第1凹部が形成される第1領域と、前記表面に複数の第2凹部が形成される第2領域とを有する基材と、前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備え、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記第1凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視で、複数の前記第2凹部は、第3辺と、前記第3辺に対して傾けられ、端部で前記第3辺と当接する第4辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第2辺の傾きの角度と、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第4辺の傾きの角度とが異なり、前記多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでいることを特徴とする。
本開示では、基材は、複数の第1凹部が形成される第1領域と、複数の第2凹部が形成される第2領域を有する。そして、第1領域および第2領域は、少なくとも一部が多層膜によって覆われる。この際、当該多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでいるので、多層膜に入射された光の反射率を低くすることができる。これにより、基材における第1領域および第2領域は、明度が低く、黒色を呈する。ここで、第1領域における第1凹部は、第1辺および当該第1辺に対して傾けられ、端部で第1辺と当接する第2辺とにより規定され、第2領域における第2凹部は、第3辺と、当該第3辺に対して傾けられ、端部で第3辺と当接する第4辺とにより規定される。そして、基材の厚さ方向と直交する方向に対する第2辺の傾きの角度と、基材の厚さ方向と直交する方向に対する第4辺の傾きの角度とが異なる。これにより、第1凹部に入射される光の反射角度と、第2凹部に入射される光の反射角度とが異なることから、第1凹部と第2凹部とで入射される光の反射率を変えることができる。そのため、第1領域と第2領域とで僅かな明度の違いによる黒色の模様を形成することができる。
【0066】
本開示の時計は、前記時計用部品を備えることを特徴とする。
【0067】
本開示の時計用部品の製造方法は、表面に複数の第1凹部が形成される第1領域と、前記表面に複数の第2凹部が形成される第2領域とを有する基材と、前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備える時計用部品の製造方法において、前記基材の表面に複数の前記第1凹部および前記第2凹部を形成する工程と、複数の前記第1凹部および複数の前記第2凹部が形成された前記基材の前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部に、前記多層膜を積層させる工程と、を備え、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記第1凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視で、複数の前記第2凹部は、第3辺と、前記第3辺に対して傾けられ、端部で前記第3辺と当接する第4辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第2辺の傾きの角度と、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第4辺の傾きの角度とが異なり、前記第1領域および前記第2領域は、前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が5以上、かつ、20以下であることを特徴とする。
本開示では、基材は、複数の第1凹部が形成される第1領域と、複数の第2凹部が形成される第2領域を有する。そして、第1領域および第2領域は、少なくとも一部が多層膜によって覆われる。この際、当該多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでいるので、多層膜に入射された光の反射率を低くすることができる。これにより、基材における第1領域および第2領域は、明度が低く、黒色を呈する。ここで、第1領域における第1凹部は、第1辺および当該第1辺に対して傾けられ、端部で第1辺と当接する第2辺とにより規定され、第2領域における第2凹部は、第3辺と、当該第3辺に対して傾けられ、端部で第3辺と当接する第4辺とにより規定される。そして、基材の厚さ方向と直交する方向に対する第2辺の傾きの角度と、基材の厚さ方向と直交する方向に対する第4辺の傾きの角度とが異なる。これにより、第1凹部に入射される光の反射角度と、第2凹部に入射される光の反射角度とが異なることから、第1凹部と第2凹部とで入射される光の反射率を変えることができる。そのため、第1領域と第2領域とで僅かな明度の違いによる黒色の模様を形成することができる。
【0068】
本開示の時計用部品の製造方法は、表面に複数の第1凹部が形成される第1領域と、前記表面に複数の第2凹部が形成される第2領域とを有する基材と、前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備える時計用部品の製造方法において、前記基材の表面に複数の前記第1凹部および前記第2凹部を形成する工程と、複数の前記第1凹部および複数の前記第2凹部が形成された前記基材の前記第1領域および前記第2領域の少なくとも一部に、前記多層膜を積層させる工程と、を備え、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記第1凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視で、複数の前記第2凹部は、第3辺と、前記第3辺に対して傾けられ、端部で前記第3辺と当接する第4辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第2辺の傾きの角度と、前記基材の厚さ方向と直交する方向に対する前記第4辺の傾きの角度とが異なり、前記多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでいることを特徴とする。
本開示では、基材は、複数の第1凹部が形成される第1領域と、複数の第2凹部が形成される第2領域を有する。そして、第1領域および第2領域は、少なくとも一部が多層膜によって覆われる。この際、当該多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでいるので、多層膜に入射された光の反射率を低くすることができる。これにより、基材における第1領域および第2領域は、明度が低く、黒色を呈する。ここで、第1領域における第1凹部は、第1辺および当該第1辺に対して傾けられ、端部で第1辺と当接する第2辺とにより規定され、第2領域における第2凹部は、第3辺と、当該第3辺に対して傾けられ、端部で第3辺と当接する第4辺とにより規定される。そして、基材の厚さ方向と直交する方向に対する第2辺の傾きの角度と、基材の厚さ方向と直交する方向に対する第4辺の傾きの角度とが異なる。これにより、第1凹部に入射される光の反射角度と、第2凹部に入射される光の反射角度とが異なることから、第1凹部と第2凹部とで入射される光の反射率を変えることができる。そのため、第1領域と第2領域とで僅かな明度の違いによる黒色の模様を形成することができる。
【0069】
本開示の時計用部品の製造方法において、前記第1凹部および前記第2凹部は、切削加工、レーザー加工、パターニング加工、化学除去加工、研磨加工、および、鍛造・鋳造加工のいずれか一つを用いて形成されていてもよい。
これにより、第1凹部における第2辺の傾き、および、第2凹部における第4辺の傾きを任意に変化させることができる。
【0070】
本開示の時計用部品の製造方法において、前記第1凹部および前記第2凹部は、フェムトレーザー加工、または、ピコレーザー加工を用いて形成されていてもよい。
これにより、第1凹部における第2辺の傾き、および、第2凹部における第4辺の傾きをより高精度に変化させることができる。
【0071】
本開示の時計用部品の製造方法において、前記多層膜は、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、および、スパッタリング法のいずれか一つを用いて形成されていてもよい。
これにより、多層膜の層構成を任意に変化させることができる。
【0072】
本開示の時計は、前記時計用部品の製造方法にて製造された時計用部品を用いて構成されることを特徴とする。
【符号の説明】
【0073】
1…時計、2…文字板(時計用部品)、3…秒針、4…分針、5…時針、6…りゅうず、7…Aボタン、8…Bボタン、9…バンド、10…ケース、11…ケース本体、12…かん、30,30A…基材、31,31A…下地層、32,32A…多層膜、33,33A…保護層、301,301A…表面、302,302A…第1凹部、303…第2凹部、321…色吸収膜、322…色調整膜、3211…クロム色吸収膜、3221…酸化アルミ色調整膜、3222…二酸化ケイ素色調整膜、D1…第1斜辺(第2辺)、D2…第2斜辺(第4辺)、L1…第1直線辺(第1辺)、L2…第2直線辺(第3辺)。