(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048458
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】斜交トラス架構のスライド工法および補強部材取付構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/32 20060101AFI20240402BHJP
E04B 1/35 20060101ALI20240402BHJP
E04B 1/342 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
E04B1/32 102H
E04B1/35 D
E04B1/342 B
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154376
(22)【出願日】2022-09-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-15
(71)【出願人】
【識別番号】000153616
【氏名又は名称】株式会社巴コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】小西 秀和
(72)【発明者】
【氏名】向山 洋一
(72)【発明者】
【氏名】高山 秀勝
(57)【要約】 (修正有)
【課題】斜交トラス梁の架構から成る大梁間建物の屋根架構をスライド工法にて建方する場合に、スライド工事中の前記屋根架構の部分架構が構造的安定を保てる工法および補強材取付構造を提供する。
【解決手段】ひし形状に組まれたトラス単位u、u、…が連続して、梁間方向に架け渡される1列のトラス梁である斜交トラス梁Cを含む前記屋根架構の部分架構は、スライド移動に際して、斜交トラス梁Cに張弦材Tおよび束材S、Sが取付けられる。かつ、ひし形状に組まれたトラス単位u、u、…の張間方向と直交する対角線に合わせて、全部もしくは一部の斜交トラス梁C下弦面の相隣接する下弦節点間に、ターンバックル付きブレースのような長さ調整機構付きの引張り材v、v、…が取付けられる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜交トラス梁の架構から成る大梁間の屋根架構をスライド工法にて建方する場合に、ひし形状に組まれたトラス単位が連続して梁間方向に架け渡される斜交トラス梁が、少なくとも1列は含まれる前記屋根架構の部分架構において、
(1)一定場所において、第1の部分架構が仮設支保工により支持されて組立てられる工程。
(2)組立てられた前記第1の部分架構の前記斜交トラス梁の下弦面、または下弦面および上弦面において、前記ひし形状に組まれたトラス単位の張間方向と直交する対角線に合わせて、全部もしくは一部の前記下弦面、または下弦面および上弦面の相隣接する節点間に、引張り材が取付けられる工程。
(3)前記工程(2)の後、組立てられた前記第1の部分架構を支持する前記仮設支保工による支持が解除される工程。
(4)前記工程(3)の後、組立てられた前記第1の部分架構が、所定の距離だけスライド移動される工程。
(5)組立てられた前記第1の部分架構の前記斜交トラス梁の下弦材の下方に、張弦材が設置され、当該張弦材に、前記下弦面の節点間に取付けられた前記引張り材に一定以上の引張り軸力が作用するまで、所定の張力が導入される工程。
(6)前記第1の部分架構のスライド移動により空いた前記一定場所において、第2の部分架構が、前記工程(1)~(2)の要領により組立てられ、先行してスライド移動済の前記第1の部分架構に接続され、一体的に次回スライドされる前記屋根架構の部分架構が準備される工程。
(7)前記工程(6)の後、前記工程(3)~(5)の要領により、前記第2の部分架構に対応する張弦材の取付けおよび張力導入が実施される工程。
(8)以下、第3以降の部分架構について、前記工程(6)~(7)の要領により、スライド対象とする前記屋根架構の範囲が全て完了するまで繰り返される工程。
以上の工程を含むことを特徴とする、斜交トラス架構のスライド工法。
【請求項2】
斜交トラス梁の架構から成る大梁間の屋根架構をスライド工法にて建方する場合に、ひし形状に組まれたトラス単位が連続して梁間方向に架け渡される斜交トラス梁が、少なくとも1列は含まれる前記屋根架構の部分架構において、
(1)一定場所において、第1の部分架構が仮設支保工により支持されて組立てられる工程。
(2)組立てられた前記第1の部分架構の前記斜交トラス梁の下弦面、または下弦面および上弦面において、前記ひし形状に組まれたトラス単位の張間方向と直交する対角線に合わせて、全部もしくは一部の前記下弦面、または下弦面および上弦面の相隣接する節点間に、引張り材が取付けられる工程。
(3)前記第1の部分架構の前記斜交トラス梁の下弦材の下方に、張弦材が設置される工程。
(4)前記工程(2)および(3)の後、前記第1の部分架構を支持する前記仮設支保工による支持が解除される工程。
(5)前記工程(3)または(4)の後、前記張弦材に、前記下弦面の節点間に取付けられた前記引張り材に一定以上の引張り軸力が作用するまで、所定の張力が導入される工程。
(6)前記工程(5)の後、所定の距離だけ前記第1の部分架構がスライド移動される工程。
(7)前記第1の部分架構のスライド移動により空いた前記一定場所において、第2の部分架構が、前記工程(1)~(3)の要領により組立てられ、先行してスライド済の前記第1の部分架構に接続され、一体的に次回スライドされる前記屋根架構の部分架構が準備される工程。
(8)前記工程(7)の後、前記工程(5)の要領により、前記第2の部分架構に対応する張弦材に張力導入が実施される工程。
(9)前記工程(8)の後、接続完了した前記第1および第2の部分架構が、所定の距離だけスライド移動される工程。
(10)以下、第3以降の部分架構1について、前記工程(7)~(9)の要領にて組立てられ、スライド対象とする前記屋根架構の範囲が全て完了するまで繰り返される工程。
以上の工程を含むことを特徴とする、斜交トラス架構のスライド工法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の斜交トラス架構のスライド工法において、前記部分架構の斜交トラス梁を構成するひし形状に組まれたトラス単位の下弦面、または下弦面および上弦面において、張間方向と直交する対角線に合わせて、相隣接する下弦面の節点間に引張り材が取付けられており、かつ、前記部分架構の斜交トラス梁の両端部を繋ぐ張弦材が、前記部分架構の斜交トラス梁の下弦材の下方に設置されていることを特徴とする、斜交トラス架構のスライド工法に用いる補強部材取付構造。
【請求項4】
請求項3に記載の前記部分架構の斜交トラス梁の両端部を繋ぐ張弦材が、前記部分架構の斜交トラス梁の両端部において、前記斜交トラス梁を構成する上下弦材を合わせた断面の重心位置よりも下弦材寄りに所定寸法だけ偏芯して取付けられていることを特徴とする、斜交トラス架構のスライド工法に用いる補強部材取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリーナ建築のような大梁間建物の屋根架構を構築するために使用されるスライド工法に関する。
【背景技術】
【0002】
アリーナ等の屋内運動施設あるいは石炭や廃棄物等を貯蔵する施設(以下、アリーナ等と称す。)のような、大梁間で桁行が長い建物の屋根架構を建方する工法として、スライド工法が採用されることがあった。スライド工法は、桁行が長いこれら建物の屋根架構をいくつかに分割し、その部分架構を一定場所にて組立て、順次送り出すので仮設材が少なくて済み、また仕上げ材等を取付けた状態でも送り出しが可能なので、施工効率がよいとされている。
【0003】
また、前記のような大梁間の屋根架構に用いられる構造として、平面トラス梁を平行に設置して組立てる在来構法だけでなく、平面トラス梁を斜めに交差させた斜交トラス梁(
図1参照)が用いられることがあった。
【0004】
スライド工法では、仮設スライドレールを先行して敷設し、一定場所において屋根の部分架構を組立てて所定距離だけ送り出し、空いた前記一定場所にて次の部分架構を組立て、先行する前記部分架構に接続して所定距離だけ送り出す、以上の作業を順次繰り返すが、次の点を考慮する必要があった。
【0005】
一定場所において組立てられる部分架構は、仮設支保工で支持された状態で組み立てられるが、先行して送り出された前記部分架構は、前記仮設支保工による支持は解除されているので、自重によるたわみが生じている。
【0006】
在来の平面トラス梁の場合、一定場所において組立てられた部分架構は、前記仮設支保工による支持が解除されても、各平面トラス梁が設計上負担すべき鉛直荷重を全て支持でき、たわみ量も設計上の許容範囲内に納まる。即ち、前記仮設支保工による支持が解除された前記部分架構は構造的に許容範囲内で安定しているため、先行して送り出された部分架構(ここでは平面トラス梁)との変位(たわみ)差はほぼないので、隣接する平面トラス梁同士の接続は問題なく行うことが出来る。
【0007】
一方、
図1に図示のような平面トラス梁を斜めに交差させた斜交トラス梁の架構の場合は、三次元構造であるため、屋根架構全体が組み上がらないと、設計で予定した応力・変形状態にならないという特徴がある。
【0008】
斜交トラス梁の架構の場合、スライド移動中の部分架構は、
図2に図示のような、ひし形状に組まれたトラス単位uが1列に連続した斜交トラス梁Cを、少なくとも1本含んで構成される。
【0009】
ここで、
図2は、ひし形状に組まれたトラス単位uが1列に連続した斜交トラス梁Cの特性を説明する図であり、(a)は斜交トラス梁Cの張間方向断面軸組の1例を示し、(b)は(a)のイ-イ断面視であって、斜交トラス梁Cの下弦材の形態を示す。また、(c)は、(b)の斜交トラス梁Cの下弦材が圧縮力N
cを受けて変位δ
cが生じている状態を、(d)は、(b)の斜交トラス梁Cの下弦材が引張力N
tを受けて変位δ
tが生じている状態を表す。
【0010】
図2(b)~(d)は斜交トラス梁Cの下弦材の説明図であるが、上弦材も同様の特性を有しているため、斜交トラス梁Cを含むの部分架構が、
図2(b)に図示のような状態のままでは、前記仮設支保工による支持が解除されると、斜交トラス梁Cはスライド移動中に、あたかも「パンタグラフ」のように伸び縮み(
図2(c)、(d))が生じるため、上述した平面トラス梁のように構造的に許容範囲内で安定した部分架構になり難い。
【0011】
従って、斜交トラス梁の架構から成る屋根架構をスライド工法にて架設する場合は、斜交トラス梁Cを含む部分架構が、前記仮設支保工による支持が解除された後、スライド移動中において、構造的に許容範囲内で安定するように工夫する必要があった。
【0012】
但し、ひし形状に組まれたトラス単位uが1列に連続した斜交トラス梁Cでも、屋根架構全体として組み上がると、両妻面および両側面がトラス梁で囲まれるため、架構として安定する特徴があるので、前記の工夫は撤去可能となる。
【0013】
スライド工法において、スライド移動中の部分架構を構造的に安定させる方法に関する先行技術としては、例えば、特許文献1、2記載の発明がある。
【0014】
特許文献1には、屋外貯蔵物が存置された状態で上屋架構を構築する工法としてスライド工法を用いる場合に、前記屋外貯蔵物に干渉することなく、かつ前記上屋架構のスライド移動中における柱脚部の水平反力(スラスト)を抑制するためのテンション材を配置する仕方について記載されている。
【0015】
また、特許文献2には、アーチ形架構を上層部に持つ重層建物をスライド工法を用いて構築する場合において、前記上層部をスライドレールに乗せてスライド移動する際に、前記アーチ形架構の足元同士を繋ぎ梁で連結することにより、前記アーチ形架構の足元に作用するスラストを処理(自己吊り合い系を形成)して、スラスト(水平反力)支持用のスライドレールを不要とする技術が開示されている。
【0016】
しかし、これら特許文献1、2に開示のスライド工法において、前記上屋架構の柱脚部あるいは前記アーチ形架構の足元のスラストを抑えるテンション材もしくは繋ぎ梁は、前記架構の張間方向の変形を抑制するために設けられる部材であって、本発明が対象とする前記斜交トラス梁のように、あたかも「パンタグラフ」のように伸び縮み(
図2(c)、(d)参照)する変形を抑制する方法については、全く記述がなく示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第6749793号公報
【特許文献2】特開平6-316975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、斜交トラス梁の架構から成るアリーナ等大梁間建物の屋根架構をスライド工法にて建方する場合に、前記斜交トラス梁を含む前記屋根架構の部分架構がスライド工事中、構造的に許容範囲内で安定した状態を保てるようにした、斜交トラス架構のスライド工法および補強部材取付構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記課題を解決するための本発明の手段は、斜交トラス梁の架構から成る大梁間の屋根架構をスライド工法にて建方する場合に、ひし形状に組まれたトラス単位が連続して梁間方向に架け渡される斜交トラス梁が、少なくとも1列は含まれる前記屋根架構の部分架構において、
(1)一定場所において、第1の部分架構が仮設支保工により支持されて組立てられる工程。
(2)組立てられた前記第1の部分架構の前記斜交トラス梁の下弦面のみ、または下弦面および上弦面において、前記ひし形状に組まれたトラス単位の張間方向と直交する対角線に合わせて、全部もしくは一部の前記下弦面のみ、または下弦面および上弦面の相隣接する節点間に、例えばターンバックル付きブレースのように長さ調整機構付きの引張り材が取付けられる工程。
(3)前記工程(2)の後、組立てられた前記第1の部分架構を支持する前記仮設支保工による支持が解除される工程。
(4)前記工程(3)の後、組立てられた前記第1の部分架構が、所定の距離だけスライド移動される工程。
(5)組立てられた前記第1の部分架構の前記斜交トラス梁の下弦材の下方に、張弦材が設置され、当該張弦材に、前記下弦面の節点(下弦節点)間に取付けられた前記引張り材に一定以上の引張り軸力が作用するまで、所定の張力が導入される工程。
なお、張力導入はジャッキ等を用いて行えばよい。
(6)前記第1の部分架構のスライド移動により空いた前記一定場所において、第2の部分架構が、前記工程(1)~(2)の要領により組立てられ、先行してスライド移動済の前記第1の部分架構に接続され、一体的に次回スライドされる前記屋根架構の部分架構が準備される工程。
(7)前記工程(6)の後、前記工程(3)~(5)の要領により、前記第2の部分架構に対応する張弦材の取付けおよび張力導入が実施される工程。
(8)以下、第3以降の部分架構について、前記工程(6)~(7)の要領により、スライド対象とする前記屋根架構の範囲が全て完了するまで繰り返される工程。
以上の工程を含むことを特徴とする、斜交トラス架構のスライド工法である。
【0020】
また、前記課題を解決するための本発明の手段は、斜交トラス梁の架構から成る大梁間の屋根架構をスライド工法にて建方する場合に、ひし形状に組まれたトラス単位が連続して梁間方向に架け渡される斜交トラス梁が、少なくとも1列は含まれる前記屋根架構の部分架構において、
(1)一定場所において、第1の部分架構が仮設支保工により支持されて組立てられる工程。
(2)組立てられた前記第1の部分架構の前記斜交トラス梁の下弦面のみ、または下弦面および上弦面において、前記ひし形状に組まれたトラス単位の張間方向と直交する対角線に合わせて、全部もしくは一部の前記下弦面のみ、または下弦面および上弦面の相隣接する節点間に、例えばターンバックル付きブレースのように長さ調整機構付きの引張り材が取付けられる工程。
(3)前記第1の部分架構の前記斜交トラス梁の下弦材の下方に、張弦材が設置される工程。
(4)前記工程(2)および(3)の後、前記第1の部分架構を支持する前記仮設支保工による支持が解除される工程。
(5)前記工程(3)または(4)の後、前記張弦材に、前記下弦面の節点間に取付けられた前記引張り材に一定以上の引張り軸力が作用するまで、所定の張力が導入される工程。
なお、張力導入はジャッキ等を用いて行えばよい。前記張力導入が前記工程(4)の後であれば、前記部分架構の自重による自然張力導入方法も有効と考えられるが、ジャッキを用いる強制張力導入方法の方が、前記張弦材の張力調整が容易である点で望ましい。
(6)前記工程(5)の後、所定の距離だけ前記第1の部分架構がスライド移動される工程。
(7)前記第1の部分架構のスライド移動により空いた前記一定場所において、第2の部分架構が、前記工程(1)~(3)の要領により組立てられ、先行してスライド移動済の前記第1の部分架構に接続され、一体的に次回スライドされる前記屋根架構の部分架構が準備される工程。
(8)前記工程(7)の後、前記工程(5)の要領により、前記第2の部分架構に対応する張弦材に張力導入が実施される工程。
(9)前記工程(8)の後、接続完了した前記第1および第2の部分架構が、所定の距離だけスライド移動される工程。
(10)以下、第3以降の部分架構について、前記工程(7)~(9)の要領にて組立てられ、スライド対象とする前記屋根架構の範囲が全て完了するまで繰り返される工程。
以上の工程を含むことを特徴とする、斜交トラス架構のスライド工法である。
【0021】
また、本発明は、前記斜交トラス架構のスライド工法において、前記部分架構の斜交トラス梁を構成するひし形状に組まれたトラス単位の下弦面のみ、または下弦面および上弦面において、張間方向と直交する対角線に合わせて、相隣接する下弦節点間に、例えばターンバックル付きブレースのように長さ調整機構付きの引張り材が取付けられており、かつ、前記部分架構の斜交トラス梁の両端部を繋ぐ張弦材が、前記部分架構の斜交トラス梁の下弦材の下方に設置されていることを特徴とする、斜交トラス架構のスライド工法に用いる補強部材取付構造である。
【0022】
また、本発明は、前記部分架構の斜交トラス梁の両端部を繋ぐ張弦材が、前記部分架構の斜交トラス梁の両端部において、前記斜交トラス梁を構成する上下弦材を合わせた断面の重心位置よりも下弦材寄りに所定寸法だけ偏芯して取付けられていることを特徴とする、斜交トラス架構のスライド工法に用いる補強部材取付構造である。
【0023】
本発明は、以上のように、前記部分架構の斜交トラス梁を構成するひし形状トラス単位の下弦面のみ、または下弦面および上弦面において、張間方向と直交する方向に相隣接する下弦節点間にターンバックル付きブレースのように長さ調整機構付きの引張り材が取付けられ、かつ張弦材が設けられているので、前記張弦材に、前記斜交トラス梁を含む部分架構の自重による自然張力導入、もしくはジャッキによる強制張力導入がなされると、前記斜交トラス梁には付加圧縮力と同時に付加曲げモーメントが作用する。
【0024】
この付加圧縮力および付加曲げモーメントは、前記張弦材が無かった場合の前記自重のみによる曲げモーメントおよびたわみ量を低減する方向に作用し、その結果、前記斜交トラス梁の下弦材の引張り軸力が低減され、前記斜交トラス梁の上弦材の圧縮軸力も低減される。もし、前記張弦材による付加圧縮力および付加曲げモーメントが一定以上に大きければ、前記下弦材の引張り軸力は圧縮軸力に反転することになる。
【0025】
前記付加圧縮力および付加曲げモーメントの作用を、
図3および
図4にて説明する。
図4は、斜交トラス梁Cに作用するモーメント分布を簡略的に表示したもので、符号の「+」は斜交トラス梁Cの下弦材に引張り軸力(上弦材に圧縮軸力)が作用している状態、「-」は斜交トラス梁Cの下弦材に圧縮軸力(上弦材に引張り軸力)が作用している状態を示す。
【0026】
図4の(a)は斜交トラス梁Cの自重w(
図3(a)参照)による曲げモーメントM
D 分布を示し、(b)は張弦材Tの取付け位置が、前記斜交トラス梁Cの両端部において、前記斜交トラス梁Cを構成する上下弦材を合わせた断面の重心位置である(偏芯が無い)場合の曲げモーメントM
T 分布である。(c)は張弦材Tの取付け位置が前記重心位置よりも下弦材寄りに所定の離隔寸法e(
図3(a)参照)だけ偏芯している場合に生じる、偏芯曲げモーメントMe=Nc×eを表す。
【0027】
従って、
図3(a)に図示のように、束材S、Sによって下に凸配置となっている張弦材Tに、十分な張力が導入された状態では、斜交トラス梁Cの自重wによる曲げモーメントM
D(
図4(a))を打ち消す方向に作用して、張弦材Tから下弦材に作用する圧縮力Ncによる曲げ効果および束材S、Sからの突上げ効果による曲げモーメントM
T(
図4(b))、および偏芯曲げモーメントMe(
図4(c))の重ね合わせによって、最終的には
図4(d)に図示のような曲げモーメント分布になる。但し、下弦材が圧縮状態になるには、十分な張弦材Tへの張力導入が必要である。
【0028】
なお、張弦材Tは、張力導入によって下弦材が十分な圧縮状態になるのであれば、束材S、Sの突き上げ効果のない水平配置であってもよい。
【0029】
前記下弦材が圧縮状態になれば、
図3に図示のように、ひし形状のトラス単位u、u、…の下弦面において、張間方向と直交する方向に相隣接する下弦節点間が広がろうとする変形を生じるため(
図2(c)参照)、当該下弦節点間を繋いで取り付けられた引張り材v、v、…には引張り軸力が作用し、結果として前記ひし形状のトラス単位u、u、…の前記変形が抑制されるので、前記斜交トラス梁Cとしての曲げ剛性が向上する。
【0030】
即ち、引張り材v、v、…が全く無い場合、張弦材Tによる付加圧縮力および付加曲げモーメントが作用すると、下弦面の前記ひし形状のトラス単位u、u、…は圧縮力を受けて、前記相隣接する下弦節点間が容易に広がるので、斜交トラス梁Cは梁として許容範囲を超える変形を生じ得ることになるが、引張り材v、v、…があることにより、前記ひし形状のトラス単位u、u、…の前記相隣接する下弦節点間の広がりが抑制されるため、斜交トラス梁Cを含む部分架構のたわみ変形が抑制され、構造的な許容範囲内に安定が保たれる。
【0031】
なお、引張り材v、v、…は、斜交トラス梁Cの上弦面にも設置してよく、斜交トラス梁Cの上弦材が圧縮状態であれば、前記下弦面と同様に、引張り材v、v、…に引張軸力が作用し、ひし形状のトラス単位u、u、…の相隣接する上弦節点間の広がりが抑制されるので、斜交トラス梁Cとしての曲げ剛性はより向上し、斜交トラス梁Cを含む部分架構のたわみ変形は更に少なくなる。
【0032】
屋根架構全体が組立て完了した後においては、引張り材v、v、…は、支障がなければ撤去しなくてもよく、長さ調整機構(ターンバックル等)により張力を全て開放しておけばよい。
【0033】
また、張弦材Tは、仮設であれば撤去する。張弦材Tが屋根架構を構成する本設の部材であれば、前記部分架構の張弦材Tとして利用した後は、そのまま本設となる。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、以上のような手段によるので、斜交トラス梁の架構から成る大梁間建物の屋根架構をスライド工法にて建方する場合に、スライド移動される部分架構の斜交トラス梁が、当該斜交トラス梁を構成するひし形状のトラス単位の張間方向と直交する対角線に合わせて、下弦面のみ、または下弦面および上弦面の相隣接する節点間を繋ぐ引張り材と、前記斜交トラス梁の下弦材の下方に設けられた張弦材との組合せによって、前記斜交トラス梁の曲げモーメントおよびたわみ変形を抑制することが可能となり、スライド移動中における前記部分架構の構造的安定性が確保され、前後に連なる前記部分架構同士の接続を容易にすることが出来る。よって、スライド工法による斜交トラス架構の建方の確実性および安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】斜交トラス梁の架構から成る大梁間建物の屋根架構の1例を示す。
【
図2】ひし形状に組まれたトラス単位が1列に連続した斜交トラス梁の特性を説明する図であり、(a)は当該斜交トラス梁の張間方向断面軸組の1例を示し、(b)は(a)のイ-イ断面視であって、当該斜交トラス梁の下弦材の形態を示し、(c)は当該斜交トラス梁の下弦材が圧縮力N
cを受けて変位δ
cが生じている状態を、(d)は当該斜交トラス梁の下弦材が引張力N
tを受けて変位δ
tが生じている状態を表す。
【
図3】
図2の前記斜交トラス梁に張弦材と束材および引張り材が取付けられた場合を説明する図であり、(a)は当該斜交トラス梁の張間方向断面軸組の1例を示し、(b)は(a)のロ-ロ断面視であって当該斜交トラス梁の下弦面に引張り材を取付けた状態を示し、(c)は当該斜交トラス梁が圧縮力N
cを受けて変位δ
cが生じている状態における、前記下弦材および引張り材の軸応力状態を示す。
【
図4】
図3において張弦材に導入された張力により生じる前記斜交トラス梁の曲げモーメントと、前記斜交トラス梁の自重wによる曲げモーメントとの重ね合わせを説明する図である。
【
図5】本発明の第1実施例によるスライド途中の状態を示す部分架構の伏図であり、(a)は第1の部分架構のスライド直前の状態、(b)は2回目スライド直前の状態、(c)は3回目スライド直前の状態を示す。
【
図6】
図5(c)のハ-ハ断面視であり、張弦材および束材が取付いた状態を示す図である。
【
図7】屋根架構のスライド対象全範囲のスライドが完了した後に取付ける、残りの周辺部材を示す説明図である。
【
図8】本発明の第2実施例によるスライド途中の状態を示す部分架構の伏図であり、(a)は第1の部分架構のスライド直前の状態、(b)は2回目スライド直前の状態を示す。
【
図9】
図8(b)のニ-ニ断面視であり、張弦材および束材が取付いた状態を示す図である。
【
図10】屋根架構のスライド対象全範囲のスライドが完了した後に取付ける、残りの部分架構および周辺部材を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明に係るスライド工法は、
図1に図示のように、平面トラス梁を斜めに交差させた斜交トラス梁C、C、…から成る屋根架構を対象としており、斜交トラス梁Cの形態は、
図3(b)に図示のような、平面視ひし形状に組まれたトラス単位u、u、…が連続して、梁間方向に架け渡される1列のトラス梁である。斜交トラス梁Cを含む前記屋根架構の部分架構は、スライド移動に際して、
図3(a)に図示の張間方向の軸組図のように、斜交トラス梁Cに張弦材Tおよび束材S、Sが取付けられる。
【0037】
このような斜交トラス梁Cを含む前記屋根架構の部分架構を対象とする本発明に係るスライド工法の第1実施例は、以下のような工程(1)~(9)を含むことを特徴とするスライド工法である(
図3、
図5~7参照)。
(1)一定場所に設置された構台Aにおいて、第1の部分架構1が仮設支保工2、2、…(
図6参照)により支持されて組立てられる工程(
図5(a))。
(2)組立てられた第1の部分架構1を構成する斜交トラス梁Cの下弦面において、ひし形状に組まれたトラス単位u、u、…の張間方向と直交する対角線に合わせて、全部もしくは一部の前記下弦面の相隣接する下弦節点間に、ターンバックル付きブレースのような長さ調整機構付きの引張り材v、v、…が取付けられる工程(
図3(b))。
なお、引張り材v、v、…は上弦面にも取付けてもよい。
(3)前記工程(2)の後、組立てられた第1の部分架構1を支持する仮設支保工2、2、…による支持が解除される工程。
【0038】
因みに、部分架構1の両側面には本設の部材g、g、…が必ず取付けられるので、斜交トラス梁Cを含む部分架構1は構造的に不安定架構ではない。
【0039】
また、前記工程(2)において仮設支保工2、2、…による支持が解除された時、斜交トラス梁Cの上弦面のトラス単位u、u、…の上弦材には圧縮軸力が作用するので、上弦面に引張り材v、v、…が取付けられている場合、上弦面の引張り材v、v、…に引張り軸力が発生し、
図3(c)に図示と同様な状態になることから、結果として、未だ張弦材Tおよび束材S、Sが取付けられていない状態における斜交トラス梁Cの曲げ剛性が向上するという効果が得られる。
【0040】
(4)前記工程(3)の後、組立てられた第1の部分架構1が、スライドレール(図示省略)の上を、所定の距離だけ矢印方向(
図5(a)参照)にスライド移動される工程。
ここで、張弦材Tおよび束材S、Sの取付け前に第1の部分架構1を所定距離だけスライド移動するので、第1の部分架構1のたわみ量が過大にならないことを、計算により事前に確認する必要がある。
(5)組立てられた第1の部分架構1の斜交トラス梁Cの下弦材の下方に、仮設もしくは本設の張弦材Tおよび束材S、Sが取付けられ、張弦材Tに、引張り材v、v、…に、一定以上の引張り軸力が作用するまで、所定の張力が導入される工程。
ここで、張力導入はジャッキ等を用いて行えばよい。
【0041】
(6)第1の部分架構1のスライド移動により空いた構台Aの場所において、第2の部分架構1が、前記工程(1)~(2)の要領により組立てられ、先行してスライド済の第1の部分架構1に接続され、一体的に次回スライドされる前記屋根架構の部分架構が準備される工程(
図5(b))。
(7)前記工程(6)の後、前記工程(3)~(5)の要領により、前記第2の部分架構に対応する張弦材の取付けおよび張力導入が実施される工程。
(8)以下、第3以降の部分架構1について、前記工程(6)~(7)の要領により、スライド対象とする前記屋根架構の範囲が全て完了するまで繰り返される(
図5(c))。
(9)全ての部分架構1、1、…のスライド移動が終了後、妻面の部材m、m、…、および両側面の部材g、gの残りが取付けられる工程(
図7)。
【0042】
以上により、屋根架構全体が組み上がったので、仮設で取付けた張弦材T、T、…は、張力を開放して撤去するが、もし張弦材Tが本設の部材の場合にはそのまま残される。
また、引張り材v、v、…は仮設材であるが、存置しても支障なければ撤去しなくてもよく、長さ調整機構(ターンバックル等)により張力を全て開放しておけばよい。
【0043】
以上記載の本発明に係るスライド工法の第1実施例では、
図6に図示のように、構台Aが下部躯体Bの外側に設置されている場合で説明した。この場合、引張り材v、v、…は構台Aの上で取付け可能だが、張弦材Tはその取付け位置が下部躯体Bの内側にある時に取付けないと、下部躯体Bが障害となってスライド移動できないので、張弦材Tは、構台Aの上で組立てられた部分架構1が一定距離だけスライド移動された後に取付けることになる。
【0044】
次に、本発明に係るスライド工法の第2実施例は、以下のような工程(1)~(12)を含むことを特徴とするスライド工法である。(
図3、
図8~10参照)
(1)一定場所に設置された構台Aにおいて、第1の部分架構1が仮設支保工2、2、…(
図9参照)により支持されて組立てられる工程。(
図8(a))
(2)組立てられた第1の部分架構1を構成する斜交トラス梁Cの下弦面において、ひし形状に組まれたトラス単位u、u、…の張間方向と直交する対角線に合わせて、全部もしくは一部の前記下弦面の相隣接する下弦節点間に、ターンバックル付きブレースのような長さ調整機構付きの引張り材v、v、…が取付けられる工程。(
図8(a))
なお、引張り材v、v、…は上弦面にも取付けてもよい。
(3)第1の部分架構1を構成する前記斜交トラス梁Cの下弦材の下方に、仮設もしくは本設の張弦材Tおよび束材S、Sが設置される工程。(
図8(a))
(4)前記工程(2)および(3)の後、第1の部分架構1を支持する仮設支保工2、2、…(
図9参照)による支持が解除される工程。(
図8(a))
(5)前記工程(3)または(4)の後、仮設もしくは本設の張弦材Tに、引張り材v、v、…に、一定以上の引張り軸力が作用するまで、所定の張力が導入される工程。(
図8(a))
【0045】
なお、張力導入はジャッキ等を用いて行えばよい。前記張力導入が前記工程(4)の後であれば、部分架構1の自重による自然張力導入方法も有効と考えられるが、ジャッキを用いる強制張力導入方法の方が、張弦材Tの張力調整が容易である点で望ましい。
【0046】
(6)前記工程(5)の後、スライドレール(図示省略)の上を、所定の距離だけ第1の部分架構1が矢印方向(
図8(a)参照)にスライド移動される工程。
(7)第1の部分架構1のスライド移動により空いた構台Aの場所において、第2の部分架構1が、前記工程(1)~(3)の要領により組立てられ、先行してスライド済の第1の部分架構1に接続され、一体的に次回スライドされる前記屋根架構の部分架構が準備される工程。(
図8(b)、
図9)
(8)前記工程(7)の後、前記工程(5)の要領により、前記第2の部分架構に対応する張弦材に張力導入が実施される工程。(
図8(b)、
図9)
(9)前記工程(8)の後、接続完了した第1および第2の部分架構が、所定の距離だけ矢印方向(
図8(b)参照)にスライド移動される工程。(
図8(b)、
図9)
(10)以下、第3以降の部分架構1について、前記工程(7)~(9)の要領により、スライド対象とする前記屋根架構の範囲が全て完了するまで繰り返される。
(11)全ての部分架構1、1、…のスライド移動が終了後、残った最後の部分架構1aと、妻面の部材m、m、…、および両側面の部材g、gの残りが取付けられる工程。(
図10)
【0047】
なお、工程(11)の完了時点で、屋根架構全体が組み上がっており、構造的に安定した状態にあるので、最後の部分架構1aに張弦材T、束材S、Sおよび引張り材v、v、…を取付ける必要はない。
【0048】
(12)続いて、最後の部分架構1aを支持している仮設支保工2、2、…の支持を解除する工程。
【0049】
以上により、屋根架構全体が組み上がったので、仮設で取付けた張弦材T、T、…は、張力を開放して撤去するが、もし張弦材Tが本設の部材の場合にはそのまま残される。引張り材v、v、…は仮設材であるが、存置しても支障なければ撤去しなくてもよく、長さ調整機構(ターンバックル等)により張力を全て開放しておけばよい。
【0050】
以上記載の本発明に係るスライド工法の第2実施例では、
図8~
図10に図示のように、構台Aが下部躯体Bの内側に設置されている場合を例示した。この場合、引張り材v、v、…は、第1実施例と同様に、構台Aの上で取付ければよい。張弦材Tは、その取付け位置が下部躯体Bの内側にあり、構台Aの位置で取付け可能だが、張弦材Tの前方の支保工2を支える構台A1が必要である(
図9参照)。但し、構台A1は、張弦材Tが取付いた部分架構1のスライド移動の妨げになるので、事前に一旦撤去もしくは移動する作業が必要になる。
【0051】
なお、第2実施例のように構台Aが下部躯体Bの内側にある場合でも、第1実施例の前記工程(3)~(5)の要領にて、張弦材Tの取付け前に部分架構1を所定距離だけスライド移動した後、張弦材Tに張力を導入すれば、構台A1は不要となる。
【0052】
次に、本発明に係る斜交トラス架構のスライド工法に用いるの補強部材取付構造の第1実施例は、部分架構1、1、…の斜交トラス梁Cを構成するトラス単位u、u、…の下弦面、または下弦面および上弦面において、張間方向と直交する対角線に合わせて、下弦節点間にターンバックル付きブレースのように長さ調整機構付きの引張り材v、v、…が取付けられており、かつ、部分架構1、1、…の斜交トラス梁Cの両端部を繋ぐ張弦材Tが、部分架構1、1、…の斜交トラス梁Cの下弦材の下方に設置されることが特徴である。
【0053】
既述のように、張弦材Tに導入された張力によって、斜交トラス梁Cを構成するトラス単位u、u、…が
図2(c)に図示のように変形するのを、主には斜交トラス梁Cの下弦面に取付けられた引張り材v、v、…が引張り抵抗することによって防止され(
図3(c)参照)、斜交トラス梁Cを含む部分架構1、1、…の構造安定性が確保される。
【0054】
また、本発明に係る斜交トラス架構のスライド工法に用いる補強部材取付構造の第2実施例は、部分架構1、1、…の斜交トラス梁Cの両端部を繋ぐ張弦材Tが、斜交トラス梁Cの両端部において、斜交トラス梁Cを構成する上下弦材を合わせた断面の重心位置よりも下弦材寄りに所定の離隔寸法e(
図3(a)参照)だけ偏芯して、取付けられていることが特徴である。
【0055】
張弦材Tの取付け位置が前記重心位置よりも下弦材寄りに所定の離隔寸法eだけ偏芯するので、偏芯曲げモーメントMe=Nc×eが生じ(
図4(c))、
図4に図示のように、斜交トラス梁Cの自重wによる曲げモーメントM
D(
図4(a))を打ち消す方向に作用するので、張弦材Tによる効果が前記偏芯が無い場合よりも向上する。
【産業上の利用可能性】
【0056】
平面トラス梁を斜めに交差させた斜交トラス梁の架構から成る屋根架構をスライド工法で建方する場合、ひし形状に組まれたトラス単位が連続して形成される斜交トラス梁を含む部分架構がスライド対象となるが、前記斜交トラス梁はそのままでは構造的な許容範囲を超える変形を生じ易いため、スライド工法の従来技術だけでは施工が難しかった。本発明は、その課題を仮設補強部材の工夫により解決するものであり、特に、大梁間で長大な構造物の建方に採用されることの多いスライド工法の適用範囲を広げることに貢献する。
【符号の説明】
【0057】
1、1a:部分架構
2:仮設支保工
A、A1:構台
B:下部躯体
C:斜交トラス梁
e:離隔寸法
S:束材
T:張弦材
Nc:圧縮力
Nt:引張り力
u:トラス単位
v:引張り材
g、m:部材
δc、δt:変位
【手続補正書】
【提出日】2022-10-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項3
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項3】
請求項1または2に記載の斜交トラス架構のスライド工法を用いた補強部材取付構造であって、前記部分架構の斜交トラス梁を構成するひし形状に組まれたトラス単位の下弦面、または下弦面および上弦面において、張間方向と直交する対角線に合わせて、相隣接する下弦面の節点間に引張り材が取付けられており、かつ、前記部分架構の斜交トラス梁の両端部を繋ぐ張弦材が、前記部分架構の斜交トラス梁の下弦材の下方に設置されていることを特徴とする、斜交トラス架構のスライド工法に用いる補強部材取付構造。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項4
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項4】
請求項3に記載の斜交トラス架構のスライド工法に用いる補強部材取付構造において、前記部分架構の斜交トラス梁の両端部を繋ぐ張弦材が、前記部分架構の斜交トラス梁の両端部において、前記斜交トラス梁を構成する上下弦材を合わせた断面の重心位置よりも下弦材寄りに所定寸法だけ偏芯して取付けられていることを特徴とする、斜交トラス架構のスライド工法に用いる補強部材取付構造。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0037
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0037】
このような斜交トラス梁Cを含む前記屋根架構の部分架構を対象とする本発明に係るスライド工法の第1実施例は、以下のような工程(1)~(9)を含むことを特徴とするスライド工法である(
図3、
図5~7参照)。
(1)一定場所に設置された構台Aにおいて、第1の部分架構1が仮設支保工2、2、…(
図6参照)により支持されて組立てられる工程(
図5(a))。
(2)組立てられた第1の部分架構1を構成する斜交トラス梁Cの下弦面において、ひし形状に組まれたトラス単位u、u、…の張間方向と直交する対角線に合わせて、全部もしくは一部の前記下弦面の相隣接する下弦節点間に、ターンバックル付きブレースのような長さ調整機構付きの引張り材v、v、…が取付けられる工程(
図3(b)
、図5(a))。
なお、引張り材v、v、…は上弦面にも取付けてもよい。
(3)前記工程(2)の後、組立てられた第1の部分架構1を支持する仮設支保工2、2、…による支持が解除される工程。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜交トラス梁の架構から成る大梁間の屋根架構をスライド工法にて建方する場合に、ひし形状に組まれたトラス単位が連続して梁間方向に架け渡される斜交トラス梁が、少なくとも1列は含まれる前記屋根架構の部分架構において、
(1)一定場所において、第1の部分架構が仮設支保工により支持されて組立てられる工程。
(2)組立てられた前記第1の部分架構の前記斜交トラス梁の下弦面、または下弦面および上弦面において、前記ひし形状に組まれたトラス単位の張間方向と直交する対角線に合わせて、全部もしくは一部の前記下弦面、または下弦面および上弦面の相隣接する節点間に、引張り材が取付けられる工程。
(3)前記工程(2)の後、組立てられた前記第1の部分架構を支持する前記仮設支保工による支持が解除される工程。
(4)前記工程(3)の後、組立てられた前記第1の部分架構が、所定の距離だけスライド移動される工程。
(5)組立てられた前記第1の部分架構の前記斜交トラス梁の下弦材の下方に、張弦材が設置され、当該張弦材に、前記下弦面の節点間に取付けられた前記引張り材に一定以上の引張り軸力が作用するまで、所定の張力が導入される工程。
(6)前記第1の部分架構のスライド移動により空いた前記一定場所において、第2の部分架構が、前記工程(1)~(2)の要領により組立てられ、先行してスライド移動済の前記第1の部分架構に接続され、一体的に次回スライドされる前記屋根架構の部分架構が準備される工程。
(7)前記工程(6)の後、前記工程(3)~(5)の要領により、前記第2の部分架構に対応する張弦材の取付けおよび張力導入が実施される工程。
(8)以下、第3以降の部分架構について、前記工程(6)~(7)の要領により、スライド対象とする前記屋根架構の範囲が全て完了するまで繰り返される工程。
以上の工程を含むことを特徴とする、斜交トラス架構のスライド工法。
【請求項2】
斜交トラス梁の架構から成る大梁間の屋根架構をスライド工法にて建方する場合に、ひし形状に組まれたトラス単位が連続して梁間方向に架け渡される斜交トラス梁が、少なくとも1列は含まれる前記屋根架構の部分架構において、
(1)一定場所において、第1の部分架構が仮設支保工により支持されて組立てられる工程。
(2)組立てられた前記第1の部分架構の前記斜交トラス梁の下弦面、または下弦面および上弦面において、前記ひし形状に組まれたトラス単位の張間方向と直交する対角線に合わせて、全部もしくは一部の前記下弦面、または下弦面および上弦面の相隣接する節点間に、引張り材が取付けられる工程。
(3)前記第1の部分架構の前記斜交トラス梁の下弦材の下方に、張弦材が設置される工程。
(4)前記工程(2)および(3)の後、前記第1の部分架構を支持する前記仮設支保工による支持が解除される工程。
(5)前記工程(3)または(4)の後、前記張弦材に、前記下弦面の節点間に取付けられた前記引張り材に一定以上の引張り軸力が作用するまで、所定の張力が導入される工程。
(6)前記工程(5)の後、所定の距離だけ前記第1の部分架構がスライド移動される工程。
(7)前記第1の部分架構のスライド移動により空いた前記一定場所において、第2の部分架構が、前記工程(1)~(3)の要領により組立てられ、先行してスライド済の前記第1の部分架構に接続され、一体的に次回スライドされる前記屋根架構の部分架構が準備される工程。
(8)前記工程(7)の後、前記工程(5)の要領により、前記第2の部分架構に対応する張弦材に張力導入が実施される工程。
(9)前記工程(8)の後、接続完了した前記第1および第2の部分架構が、所定の距離だけスライド移動される工程。
(10)以下、第3以降の部分架構1について、前記工程(7)~(9)の要領にて組立てられ、スライド対象とする前記屋根架構の範囲が全て完了するまで繰り返される工程。
以上の工程を含むことを特徴とする、斜交トラス架構のスライド工法。