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特開2024-48494スイッチングモジュールおよびインバータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048494
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】スイッチングモジュールおよびインバータ
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240402BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154433
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山野上 耕一
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770AA21
5H770BA02
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770JA10X
5H770PA21
5H770PA42
5H770QA01
5H770QA05
5H770QA06
5H770QA08
5H770QA28
(57)【要約】
【課題】平滑コンデンサを小型化または省略する。
【解決手段】スイッチングモジュール120は、各上アーム用スイッチング素子30Uの入力側電極30aに密接する正極側導電体51、各下アーム用スイッチング素子30Lの出力側電極30bと接続される負極側導電体52、および、各下アーム用スイッチング素子30Lの入力側電極30aに密接する出力用導電体53の各々が上面に密接され、かつ、導電性を有する所定の放熱部材42に下面が密接される電気絶縁部材140を備える。正極側導電体51に接続された正極側導電層61の各々と、負極側導電体52に接続された負極側導電層62の各々とが電気絶縁層60を介して対向することにより、電気絶縁部材140の内部に、正極側主線21と負極側主線22との間に介在する電荷の蓄積が可能な蓄電構造63が設けられている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの正極および負極の各々と接続される正極側主線および負極側主線、前記正極側主線と前記負極側主線との間に当該正極側主線の側から順に直列に接続された上アーム用スイッチング素子および下アーム用スイッチング素子を有する複数のハーフブリッジ回路、および、前記ハーフブリッジ回路の各々における前記上アーム用スイッチング素子と前記下アーム用スイッチング素子との間に接続された複数の出力線を具備してスイッチング制御が行われるスイッチングモジュールであって、
前記上アーム用スイッチング素子の各々の下面に設けられている入力側電極に密接して前記正極側主線を構成する正極側導電体と、
前記下アーム用スイッチング素子の各々の出力側電極と接続され、前記負極側主線を構成している負極側導電体と、
前記下アーム用スイッチング素子の各々の下面に設けられている入力側電極に密接して前記出力線の各々を構成する出力用導電体と、
前記正極側導電体、前記負極側導電体、および、前記出力用導電体の各々が上面に密接されるとともに、導電性を有する所定の放熱部材に下面が密接される電気絶縁部材と、
を備え、
前記電気絶縁部材が、
前記正極側導電体に接続された複数の正極側導電層と、
前記負極側導電体に接続された複数の負極側導電層と、
を含み、
前記正極側導電層の各々と前記負極側導電層の各々とが電気絶縁層を介して対向することにより、前記電気絶縁部材の内部に、前記正極側主線と前記負極側主線との間に介在する電荷の蓄積が可能な蓄電構造が設けられている、スイッチングモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記正極側導電層および前記負極側導電層の各々は、前記電気絶縁部材の上下の面に平行した状態で交互に拡がるように形成されていて、当該正極側導電層および当該負極側導電層の各々が、前記電気絶縁層を介して前記電気絶縁部材の厚み方向に対向することによって前記蓄電構造が構成されている、スイッチングモジュール。
【請求項3】
請求項2に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記上アーム用スイッチング素子および前記下アーム用スイッチング素子の各々が、前記電気絶縁部材の上面の中央側に集約配置されていて、
前記蓄電構造が前記電気絶縁部材の外縁部分に設けられている、スイッチングモジュール。
【請求項4】
請求項2に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記蓄電構造は、少なくとも前記下アーム用スイッチング素子の各々が設置されている中点部位と前記放熱部材との間に介在するように設けられている、スイッチングモジュール。
【請求項5】
請求項4に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記蓄電構造は電気絶縁部材の全面にわたる範囲に設けられている、スイッチングモジュール。
【請求項6】
請求項1に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記正極側導電層および前記負極側導電層の各々は、
前記電気絶縁層を介して前記電気絶縁部材の上面および下面の各々と対向して拡がる正極側平行層および負極側平行層の各々と、
前記正極側平行層および前記負極側平行層の各々と直交するとともに前記電気絶縁部材のいずれか一方の端面に平行して交互に延びるように形成される複数の正極側直交層および複数の負極側直交層の各々と、
を含み、
前記正極側直交層および前記負極側直交層の各々が、前記電気絶縁部材の厚み方向と直交した辺方向に、前記電気絶縁層を介して対向することによって前記蓄電構造が構成されている、スイッチングモジュール。
【請求項7】
請求項6に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記蓄電構造は、少なくとも前記下アーム用スイッチング素子の各々が設置されている中点部位と前記放熱部材との間に介在するように設けられている、スイッチングモジュール。
【請求項8】
請求項7に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記中点部位は、前記電気絶縁層を介して正極側平行層または前記負極側平行層と対向している、スイッチングモジュール。
【請求項9】
請求項8に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記蓄電構造は電気絶縁部材の全面にわたる範囲に設けられている、スイッチングモジュール。
【請求項10】
請求項1~5いずれか1つに記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記電気絶縁部材は、酸化アルミニウムよりも比誘電率が高い高誘電率材料と、酸化アルミニウムよりも熱伝導率が高い高熱伝導材料とが所定の比率で混合されているセラミック材料からなる、スイッチングモジュール。
【請求項11】
請求項10に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記高熱伝導材料は窒化アルミニウムであり、前記高誘電率材料はチタン酸バリウムである、スイッチングモジュール。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1つに記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記電気絶縁部材は、
酸化アルミニウムよりも熱伝導率が高い高熱伝導材料で形成された第1部位と、
酸化アルミニウムよりも比誘電率が高い高誘電率材料で形成された第2部位と、
を有している、スイッチングモジュール。
【請求項13】
請求項12に記載のスイッチングモジュールにおいて、
前記高熱伝導材料は窒化アルミニウムであり、前記高誘電率材料はチタン酸バリウムである、スイッチングモジュール。
【請求項14】
バッテリとモータとの間に介在し、前記バッテリから供給される電力で前記モータを駆動するインバータであって、
請求項1に記載されているスイッチングモジュールと、
前記正極側主線および前記負極側主線の各々と前記バッテリとの間に介在するDCリンクと、
を備え、
前記DCリンクが、
前記正極側主線と前記バッテリの正極側との間に介在する正極側中継線と、
前記負極側主線と前記バッテリの負極側との間に介在する負極側中継線と、
前記正極側中継線と前記負極側中継線との間に架設された平滑コンデンサと、
を有し、
前記平滑コンデンサの一部が前記蓄電構造によって代替されている、インバータ。
【請求項15】
バッテリとモータとの間に介在し、前記バッテリから供給される電力で前記モータを駆動するインバータであって、
請求項1に記載されているスイッチングモジュールと、
前記正極側主線および前記負極側主線の各々と前記バッテリとの間に介在するDCリンクと、
を備え、
前記DCリンクが、
前記正極側主線と前記バッテリの正極側との間に介在する正極側中継線と、
前記負極側主線と前記バッテリの負極側との間に介在する負極側中継線と、
を有し、
前記蓄電構造による代替により、前記DCリンクに設置される平滑コンデンサが省略されている、インバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、スイッチング制御が行われるスイッチングモジュールおよびインバータに関し、特に、車載向けの用途に好適なスイッチングモジュールおよびインバータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の電動化が著しい。自動車の電動化は、駆動用の高電圧なバッテリから供給される直流電力を用いてインバータを制御し、それによりモータを駆動することで実現される。この時、インバータでは電力損失が発生する。
【0003】
その電力損失の軽減は、自動車の電動化において必須の課題である。すなわち、インバータで用いられているスイッチングモジュールの効率を改善することが求められている。
【0004】
そこで、スイッチングモジュールには、SiC(シリコンカーバイド)などの、改良された半導体デバイスが採用されている。それにより、スイッチング制御が高速化されている。
【0005】
しかし、スイッチング制御を高速化すると、その周期的な電圧変化に起因して、高周波数の電流が流れ、高調波ノイズが発生するという問題がある。
【0006】
高調波ノイズには、電気配線を経由してバッテリへ流れる電流(ノーマルモード電流)と、電気配線とともに浮遊容量(寄生容量)および接地(アース)を経由して流れる電流(コモンモード電流)が公知である。これらにより、電磁ノイズ(ノーマルモードノイズおよびコモンモードノイズ)が発生する。
【0007】
これら電磁ノイズは、近接する電気機器の誤動作、通信障害などの原因となる。従って、スイッチング制御を高速化するためには、これら電磁ノイズの抑制は避けられない。
【0008】
インバータのDCリンクには、ノーマルモードノイズを抑制する平滑コンデンサが設置されている。
【0009】
すなわち、平滑コンデンサは、スイッチングモジュールへ蓄電した電力を供給する。これにより、バッテリから供給される電力のプラスとマイナスの間での高周波インピーダンスは低減される。バッテリへ流れる高周波数の電流は、実質的に平滑コンデンサを経由して流れる。従って、平滑コンデンサの設置により、ノーマルモードノイズを抑制できる。
【0010】
コモンモードノイズを抑制する技術についても提案されている。例えば、特許文献1には、ハーフブリッジ回路(2つのスイッチング素子を直列に接続した回路)で発生するコモンモードノイズを低減する技術が開示されている。
【0011】
ハーフブリッジ回路の場合、電圧変化は2つのスイッチング素子の中点が大きい。そのため、特許文献1の技術では、その中点の部分の導電板(中点導電板15)と絶縁層31を介して対向している放熱板(第2放熱板19)をグランド端子24から絶縁している(引用文献1の説明に関しては、便宜上、引用文献1の符号を用いる)。
【0012】
そうすることにより、中点導電板15から流れるコモンモード電流を低減し、それによって生じるコモンモードノイズを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2018-195694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
スイッチング制御が行われると、DCリンクと各スイッチング素子との間で共振が起きる。それにより、各スイッチング素子の動作電流および電圧の波形に、微細な振動(リンギング)が発生する(図1の符号Y1参照)。
【0015】
リンギングの振幅は、スイッチング制御を高速化するほど大きくなる。そして、リンギングは、高い周波数成分を含むので、ノーマルモードノイズおよびコモンモードノイズの原因ともなる。
【0016】
更に、リンギングはサージ電圧(瞬間的に発生する過剰な電圧)を生じる。そのサージ電圧が、スイッチング素子の耐圧限界を超えると、その半導体が破損する。それにより、各スイッチング素子には、バッテリの電圧よりも十分に高く、余裕の有る耐圧性能が求められる。その結果、スイッチング素子が高価になることは避けられず、スイッチングモジュール、ひいてはインバータのコストアップの原因となっている。
【0017】
インバータ制御によりモータを駆動する際には、平滑コンデンサに電流(リップル電流)が流れる。それに伴い、平滑コンデンサは、そのリップル電流と内部抵抗とに起因した電力損失により、発熱する。
【0018】
しかし、平滑コンデンサには、複数のフィルムを重ねて構成されるフィルムコンデンサを採用するのが一般的である。従って、平滑コンデンサは放熱し難い。特に、車載向けのインバータの場合、平滑コンデンサは大型になるので、尚更である。
【0019】
従って、平滑コンデンサの温度上昇を抑制して信頼性を確保するためには、その内部抵抗を低減して発熱を抑制するしかない。それには、平滑コンデンサの静電容量を、必要以上の過大な値としなければならない。従って、平滑コンデンサもまた高価なものとなり、インバータのコストアップの大きな原因となっている。
【0020】
そこで開示する技術では、平滑コンデンサが果たす機能は維持した状態で、平滑コンデンサを小型化または省略でき、インバータのコストの低減を可能にするスイッチングモジュールの実現をめざす。更に、コモンモードノイズの抑制も可能になるスイッチングモジュールの実現もめざす。
【課題を解決するための手段】
【0021】
開示する技術は、バッテリの正極および負極の各々と接続される正極側主線および負極側主線、前記正極側主線と前記負極側主線との間に当該正極側主線の側から順に直列に接続された上アーム用スイッチング素子および下アーム用スイッチング素子を有する複数のハーフブリッジ回路、および、前記ハーフブリッジ回路の各々における前記上アーム用スイッチング素子と前記下アーム用スイッチング素子との間に接続された複数の出力線を具備してスイッチング制御が行われるスイッチングモジュールに関する。
【0022】
前記スイッチングモジュールは、前記上アーム用スイッチング素子の各々の下面に設けられている入力側電極に密接して前記正極側主線を構成する正極側導電体と、前記下アーム用スイッチング素子の各々の出力側電極と接続され、前記負極側主線を構成している負極側導電体と、前記下アーム用スイッチング素子の各々の下面に設けられている入力側電極に密接して前記出力線の各々を構成する出力用導電体と、前記正極側導電体、前記負極側導電体、および、前記出力用導電体の各々が上面に密接されるとともに、導電性を有する所定の放熱部材に下面が密接される電気絶縁部材と、を備える。
【0023】
そして、前記電気絶縁部材が、前記正極側導電体に接続された複数の正極側導電層と、前記負極側導電体に接続された複数の負極側導電層と、を含み、前記正極側導電層の各々と前記負極側導電層の各々とが電気絶縁層を介して対向することにより、前記電気絶縁部材の内部に、前記正極側主線と前記負極側主線との間に介在する電荷の蓄積が可能な蓄電構造が設けられている。
【0024】
すなわち、このスイッチングモジュールによれば、電気絶縁部材が放熱部材と接しているから、電気絶縁部材の熱は放熱部材に放熱できる。従って、下アーム用スイッチング素子などのその上に設けられている回路において、スイッチング制御により熱が発生しても、電気絶縁部材を通じて放熱できる。
【0025】
そして、その電気絶縁部材の内部には、正極側導電層の各々と負極側導電層の各々とが電気絶縁層を介して対向することにより、正極側主線と負極側主線との間に介在する特定の蓄電構造が設けられている。この蓄電構造は、スイッチングモジュールをインバータに設置した時には、平滑コンデンサと並列に接続された状態になる。
【0026】
すなわち、この蓄電構造は、平滑コンデンサとして機能し得るので、平滑コンデンサを代替できる。その結果、平滑コンデンサが果たす機能は維持した状態で、平滑コンデンサを小型化または省略できる。インバータのコストの低減を可能にするスイッチングモジュールを実現できる。
【0027】
しかも、蓄電構造は電気絶縁部材の内部に設けられているので、放熱が容易である。従って、フィルムコンデンサのように過剰な静電容量は不要なため、小型で小容量な電気絶縁部材で実現できる。
【0028】
更に、蓄電構造と各スイッチング素子とが実質的に一体化した構造となっていることから、電気配線を経由して平滑コンデンサを接続することによって生じる寄生インダクタンスを排除することができる。それにより、スイッチング制御によってハーフブリッジ回路を流れる電流および電圧波形のリンギングを抑制できる。また、サージ電圧の抑制も可能になるので、スイッチング素子の過度な耐圧性能が不要になり、スイッチングモジュールを安価にできる。
【0029】
前記正極側導電層および前記負極側導電層の各々は、前記電気絶縁部材の上下の面に平行した状態で交互に拡がるように形成されていて、当該正極側導電層および当該負極側導電層の各々が、前記電気絶縁層を介して前記電気絶縁部材の厚み方向に対向することによって前記蓄電構造が構成されている、としてもよい。
【0030】
そうすれば、蓄電構造を電気絶縁部材の内部に効率的に配置できる。それにより、蓄電構造の高い静電容量を確保しながら、電気絶縁部材の厚みを小さくできる。その結果、構造的観点から、電気絶縁部材の放熱性能を高めることができる。
【0031】
前記上アーム用スイッチング素子および前記下アーム用スイッチング素子の各々が、前記電気絶縁部材の上面の中央側に集約配置されていて、前記蓄電構造が前記電気絶縁部材の外縁部分に設けられている、としてもよい。
【0032】
そうすれば、スイッチング素子の一群と蓄電構造とが上下に重ならない。スイッチング制御が行われると、蓄電構造および各スイッチング素子の各々で発熱するが、これら双方の熱を効率的に放熱部材に伝えて放熱できる。
【0033】
前記蓄電構造は、少なくとも前記下アーム用スイッチング素子の各々が設置されている中点部位と前記放熱部材との間に介在するように設けられている、としてもよい。
【0034】
そうすれば、コモンモード電流を流れなくでき、コモンモードノイズの発生を防止できる。すなわち、スイッチング制御が行われると、下アーム用スイッチング素子の各々が設置されている中点部位は、電圧が周期的に大きく変化する。それにより、従来であれば、コモンモード電流が流れてコモンモードノイズが発生する。
【0035】
それに対し、蓄電構造の正極側導電層および負極側導電層の各々は、スイッチング制御が行われても、その電位は変化しない。それにより、電気絶縁部材および放熱部材を経由する電流路には電流は流れない。コモンモード電流はほぼゼロになり、コモンモードノイズをほとんど無くすことができる。
【0036】
前記蓄電構造は電気絶縁部材の全面にわたる範囲に設けられている、としてもよい。
【0037】
そうすれば、電気絶縁部材および放熱部材を経由する電流路を確実に遮断できる。コモンモードノイズを安定して抑制できる。しかも、正極側導電層および負極側導電層の各々の形状が簡素化されてその形成が簡単になり、電気絶縁部材を容易に製造できるようになる。
【0038】
前記正極側導電層および前記負極側導電層の各々は、前記電気絶縁層を介して前記電気絶縁部材の上面および下面の各々と対向して拡がる正極側平行層および負極側平行層の各々と、前記正極側平行層および前記負極側平行層の各々と直交するとともに前記電気絶縁部材のいずれか一方の端面に平行して交互に延びるように形成される複数の正極側直交層および複数の負極側直交層の各々と、を含み、前記正極側直交層および前記負極側直交層の各々が、前記電気絶縁部材の厚み方向と直交した辺方向に、前記電気絶縁層を介して対向することによって前記蓄電構造が構成されている、としてもよい。
【0039】
上述した蓄電構造の別形態である。電気絶縁部材の仕様に応じて、蓄電構造を選択できるので、汎用性に優れる。
【0040】
前記蓄電構造は、少なくとも前記下アーム用スイッチング素子の各々が設置されている中点部位と前記放熱部材との間に介在するように設けられている、としてもよい。
【0041】
そうすれば、上述したようにコモンモードノイズを抑制できる。
【0042】
前記中点部位は、前記電気絶縁層を介して正極側平行層または前記負極側平行層と対向している、としてもよい。
【0043】
そうすれば、電気絶縁部材および放熱部材を経由する電流路を容易に遮断できる。コモンモードノイズを安定して抑制できる。
【0044】
前記蓄電構造は電気絶縁部材の全面にわたる範囲に設けられている、としてもよい。
【0045】
そうすれば、電気絶縁部材および放熱部材を経由する電流路を確実に遮断できる。コモンモードノイズをより安定して抑制できる。しかも、正極側導電層および負極側導電層の各々の形状が簡素化されてその形成が簡単になり、電気絶縁部材を容易に製造できるようになる。
【0046】
前記電気絶縁部材は、酸化アルミニウムよりも比誘電率が高い高誘電率材料と、酸化アルミニウムよりも熱伝導率が高い高熱伝導材料とが所定の比率で混合されているセラミック材料からなる、としてもよい。
【0047】
このスイッチングモジュールの場合、電気絶縁部材に蓄電構造が設けられているので、電気絶縁部材は、高い熱伝導性と高い静電容量とが求められる。それに対し、このように構成すれば、電気絶縁部材の熱伝導率および誘電率の双方を調整できる。従って、電気絶縁部材の仕様に応じて熱伝導性および静電容量を最適化できる。
【0048】
前記高熱伝導材料は窒化アルミニウムであり、前記高誘電率材料はチタン酸バリウムである、としてもよい。
【0049】
チタン酸バリウムは比誘電率が極めて高く、窒化アルミニウムは熱伝導率が極めて高い。従って、電気絶縁部材の熱伝導率および誘電率の双方の調整が容易にでき、しかも双方を高くできる。
【0050】
前記電気絶縁部材は、酸化アルミニウムよりも熱伝導率が高い高熱伝導材料で形成された第1部位と、酸化アルミニウムよりも比誘電率が高い高誘電率材料で形成された第2部位と、を有している、としてもよい。
【0051】
そうすれば、高熱伝導材料および高誘電率材料の双方の特質を損なうことなく電気絶縁部材を構成することができる。従って、電気絶縁部材の高い熱伝導性および静電容量を両立できる。
【0052】
特に、上述した別形態の蓄電構造に適用すれば、異なる材料を用いても、既存の工法の組み合わせによって製造できる点で有利である。
【0053】
前記高熱伝導材料は窒化アルミニウムであり、前記高誘電率材料はチタン酸バリウムである、としてもよい。
【0054】
そうすれば、電気絶縁部材の熱伝導性および静電容量を高いレベルで両立できる。
【0055】
上述したスイッチングモジュールは、バッテリとモータとの間に介在し、前記バッテリから供給される電力で前記モータを駆動するインバータに適用するのが好ましい。
【0056】
すなわち、前記インバータは、上述したスイッチングモジュールと、前記正極側主線および前記負極側主線の各々と前記バッテリとの間に介在するDCリンクと、を備え、前記DCリンクが、前記正極側主線と前記バッテリの正極側との間に介在する正極側中継線と、前記負極側主線と前記バッテリの負極側との間に介在する負極側中継線と、前記正極側中継線と前記負極側中継線との間に架設された平滑コンデンサと、を有し、前記平滑コンデンサの一部を前記蓄電構造によって代替するとよい。
【0057】
そうすれば、大型で高価な平滑コンデンサを小型化できるので、インバータを安価にできる。
【0058】
前記インバータはまた、上述したスイッチングモジュールと、前記正極側主線および前記負極側主線の各々と前記バッテリとの間に介在するDCリンクと、を備え、前記DCリンクが、前記正極側主線と前記バッテリの正極側との間に介在する正極側中継線と、前記負極側主線と前記バッテリの負極側との間に介在する負極側中継線と、を有し、前記蓄電構造による代替により、前記DCリンクに設置される平滑コンデンサが省略されている、としてもよい。
【0059】
そうすれば、平滑コンデンサを無くすことができるので、インバータをよりいっそう安価にできる。
【発明の効果】
【0060】
開示する技術をスイッチングモジュールに適用すれば、平滑コンデンサが果たす機能は維持した状態で、平滑コンデンサを小型化または省略でき、インバータのコストを低減できる。更には、コモンモードノイズも抑制でき、スイッチング制御の高速化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】開示する技術を適用する前のインバータ(未改良インバータ)およびスイッチングモジュール(未改良モジュール)を説明するための回路図である。
図2】未改良モジュールの内部を上方から見た概略図である。
図3図2の矢印線A1-A1における概略断面図である。
図4】開示する技術を適用したスイッチングモジュール(改良モジュール)を示す図2に対応した図である。
図5】改良モジュールを示す図3に対応した図である。
図6】改良基板の構成を説明するための図である。
図7】改良基板の製造方法を説明するための図である。
図8】改良インバータの回路図である。平滑コンデンサを小型化した場合および平滑コンデンサを省略した場合を例示している。
図9】第2改良モジュールを示す図5に対応した図である。
図10】第2改良インバータの回路図である。
図11】改良基板の変形例(第1改変基板)を示す概略図である。
図12】第1改変基板の他の形態を説明するための図である。
図13】改良基板の変形例(第2改変基板)を示す概略図である。
図14】第2改変基板の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、開示する技術を説明する。ただし、以下の説明は本質的に例示に過ぎない。
【0063】
<未改良インバータ、未改良モジュール>
開示する技術の理解を容易にするために、比較例として、開示する技術を適用する前のインバータ(未改良インバータ1)およびスイッチングモジュール(未改良モジュール20)について説明する。
【0064】
(未改良インバータ1および未改良モジュール20の回路構造)
図1に、未改良モジュール20を搭載した車載向けの未改良インバータ1を例示する。この未改良インバータ1は、ハイブリッド車または電気自動車に搭載される。未改良インバータ1は、その電源となる高電圧なバッテリ2と、車輪を回転させるモータ3との間に介在するように設置される。
【0065】
未改良モジュール20の回路は、正極側主線21、負極側主線22、3つのハーフブリッジ回路23、3本の出力線24などで構成されている。正極側主線21は、バッテリ2の正極側に接続される電気配線である。負極側主線22はバッテリ2の負極側に接続される電気配線である。
【0066】
各ハーフブリッジ回路23は、これら正極側主線21と負極側主線22との間に並列した状態で設けられている。各ハーフブリッジ回路23は、2つのスイッチング素子30(上アーム用スイッチング素子30Uおよび下アーム用スイッチング素子30L)を有している。ここでのスイッチング素子30はIGBTである。
【0067】
上アーム用スイッチング素子30Uおよび下アーム用スイッチング素子30Lは、正極側主線21の側からこの順に直列に接続されている。各スイッチング素子30には、フリーホイールダイオード25が逆並列に接続されている。これらハーフブリッジ回路23はインバータ回路を構成している。
【0068】
出力線24の各々は、ハーフブリッジ回路23の各々における上アーム用スイッチング素子30Uと下アーム用スイッチング素子30Lとの間の部位に接続されている。これら出力線24は、モータ3に接続されている。
【0069】
未改良インバータ1は、スイッチング制御を行う制御回路(不図示)を備える。制御回路は、各スイッチング素子30と接続されている。制御回路は、スイッチング制御により、所定の駆動周波数(例えば10KHz)で各スイッチング素子30をオンオフする。それにより、バッテリ2から供給される直流電力を、U、V、Wからなる3相の交流電力に変換し、各出力線24を経由してモータ3に供給する。
【0070】
未改良モジュール20は、DCリンク10を介してバッテリ2と接続されている。DCリンク10は、正極側主線21および負極側主線22の各々とバッテリ2との間に介在する回路である。
【0071】
DCリンク10は、正極側主線21とバッテリ2の正極側との間に介在する正極側中継線11、負極側主線22とバッテリ2の負極側との間に介在する負極側中継線12、正極側中継線11と負極側中継線12との間に架設された平滑コンデンサ13などで構成されている。
【0072】
平滑コンデンサ13は、大型のフィルムコンデンサである。すなわち、その誘電体にはプラスチックフィルムが用いられている。そして、そのプラスチックフィルムを、金属箔とともに巻回したり積層したりすることによって重ねていく。そうすることにより、平滑コンデンサ13は形成されている。
【0073】
(未改良モジュール20の具体的構造)
図2図3に、未改良モジュール20の具体的な構造を示す。図2は、未改良モジュール20の内部を上方から見た概略図である。図3は、図2の矢印線A1-A1における概略断面図である。
【0074】
未改良モジュール20は、基板40(電気絶縁部材)、ケースカバー41、ヒートシンク42(放熱部材)などで構成されている。基板40の上に、6個のスイッチング素子30(3個の上アーム用スイッチング素子30Uおよび3個の下アーム用スイッチング素子30L)で構成された3つのハーフブリッジ回路23などが設けられている。
【0075】
ここでのスイッチング素子30は、上述したようにIGBTである。図中の「C」はコレクタ電極30a(入力側電極)を示し、「E」はエミッタ電極30b(出力側電極)を示している。「B」はベース電極30c(制御用電極)を示している。
【0076】
電圧の高い正極側に接続されるコレクタ電極30aは、電圧の低い負極側に接続されるエミッタ電極30bよりも発熱量が多い。コレクタ電極30aは、スイッチング素子30の下面の全域にわたって設けられている。
【0077】
エミッタ電極30bおよびベース電極30cは、スイッチング素子30の上面に設けられている。エミッタ電極30bは、制御に用いられるベース電極30cよりも面積は大きい。なお、各スイッチング素子30には、フリーホイールダイオード25が逆並列に接続されているが(図1参照)、ここでの図示は省略する。
【0078】
ヒートシンク42は、熱伝導性および導電性にすぐれた金属部材である。ヒートシンク42は、例えば銅を用いて矩形板状に形成されている。ヒートシンク42は、車載の冷却器43にネジ止めされている。冷却器43は、内部に冷却水が流れる水冷式が好ましい。
【0079】
基板40は、電気絶縁性を有する素材、例えば酸化アルミニウム(セラミック材料)を用いて長方形の板状に形成されている(いわゆるアルミナ基板)。基板40の下面は、ヒートシンク42の上面に密接されている。それにより、基板40は、ヒートシンク42を介して冷却器43に放熱する。基板40はヒートシンク42によって冷却される。
【0080】
ケースカバー41は、プラスチック製であり、下面が開口した箱形に形成されている。ケースカバー41は、ヒートシンク42の上面に被せ付けられている。それにより、基板40の周囲はケースカバー41によって覆われ、基板40はケースカバー41で保護されている。なお、ケースカバー41の内部には電気絶縁性の樹脂が充填される。
【0081】
基板40の上面には、電気配線に対応した所定形状の導電体が形成されている。具体的には、公知のDBC(Direct Bonded Copper)工法を用いて、導電体を構成する銅が基板40の上面に接合されている。
【0082】
具体的には、図2に示すように、正極側主線21を構成する正極側導電体51、負極側主線22を構成する負極側導電体52、U,V,Wの各相に対応した出力線24の各々を構成する3個の出力用導電体53、および、各スイッチング素子30のベース電極30cに接続される切替用配線を構成する6個の切替用導電体54が、基板40の上面に密接した状態で形成されている。
【0083】
正極側導電体51、負極側導電体52、および、出力用導電体53の各々は、基板40の長辺(第1辺40a)に平行して延びるように設置されている。
【0084】
詳細には、正極側導電体51は、一方の第1辺40aに沿って延びるように設置されている。負極側導電体52は、他方の第1辺40aに沿って延びるように設置されている。出力用導電体53の各々は、正極側導電体51と負極側導電体52との間をこれらに沿って延びるように設置されている。
【0085】
正極側導電体51は、隣接した第1辺40aに沿って帯状に延びる第1延在部51aと、第1延在部51aの内側縁から間隔を隔てて基板40の中央部分に張り出す3つの第1素子接合部51bと、を有している。負極側導電体52は、隣接した第1辺40aに沿って帯状に延びる第2延在部52aを有している。
【0086】
出力用導電体53の各々は、第1辺40aと平行して帯状に延びる第3延在部53aと、第3延在部53aの一端に設けられた第3素子接合部53bと、を有している。各第3素子接合部53bは、第1辺40aと平行して基板40の中央部分に並んでおり、各第3延在部53aは、その配置に応じた長さに形成されている。
【0087】
第1延在部51a、第2延在部52a、および、第3延在部53aの各々は、基板40の短辺(第2辺40b)の一方から基板40の外方に延出されている。それにより、これらの一方の端部は、それぞれ、基板40から突出し、接続端子を構成している。
【0088】
切替用導電体54の各々は、第1辺40aに沿って基板40の縁部の各々に、3つずつ間隔を隔てて設置されている。
【0089】
各上アーム用スイッチング素子30Uは、正極側導電体51の各第1素子接合部51bの上に、それぞれハンダ付けによって下面が接合されている。それにより、各上アーム用スイッチング素子30Uのコレクタ電極30aは、正極側主線21に接続されている。
【0090】
各上アーム用スイッチング素子30Uのエミッタ電極30bは、第1ボンディングワイヤ55aを介して各相の各出力用導電体53と接続されている。それにより、各上アーム用スイッチング素子30Uのエミッタ電極30bは、出力線24に接続されている。各上アーム用スイッチング素子30Uのベース電極30cは、第2ボンディングワイヤ55bを介して各切替用導電体54と接続されている。
【0091】
各下アーム用スイッチング素子30Lは、各相の出力用導電体53の第3素子接合部53bの上に、それぞれハンダ付けによって下面が接合されている。それにより、各下アーム用スイッチング素子30Lのコレクタ電極30aは、各相の出力線24に接続されている。
【0092】
各下アーム用スイッチング素子30Lのエミッタ電極30bは、第3ボンディングワイヤ55cを介して負極側導電体52と接続されている。それにより、各下アーム用スイッチング素子30Lのコレクタ電極30aは、負極側主線22に接続されている。
【0093】
各下アーム用スイッチング素子30Lのベース電極30cは、第4ボンディングワイヤ55dを介して各切替用導電体54と接続されている。各切替用導電体54は、コレクタ電極30aとエミッタ電極30bとの間の電流路のオンオフを切り替えるために設けられている。
【0094】
上述したように、第1素子接合部51bおよび第3素子接合部53bの一群は、基板40の中央部分に配置されている。それにより、上アーム用スイッチング素子30Uおよび下アーム用スイッチング素子30Lの各々は、基板40の上面の中央側に集約配置されている。
【0095】
(未改良インバータの問題点)
未改良インバータ1には、コモンモードノイズなどの様々な問題がある。
【0096】
各相の出力用導電体53(特に下アーム用スイッチング素子30Lのコレクタ電極30aがある部位、中点部位56)は、基板40を介してヒートシンク42と対向している。ヒートシンク42は、車載の冷却器43に取り付けられることにより、接地されている。それにより、図3に拡大して示すように、この中点部位56には所定の浮遊容量が発生し得る(便宜上、浮遊容量を第1仮想コンデンサC1として表現する)。
【0097】
また、車載のバッテリ2はフローティングの状態で支持されている。そのため、バッテリ2と接地との間には、図1に示すように、所定の浮遊容量(第2仮想コンデンサC2)が存在する。
【0098】
未改良インバータ1が動作すると、スイッチング制御により、各スイッチング素子30が所定の駆動周波数でオンオフする。それにより、中点部位56に、高調波成分を含む矩形波の高電圧が印加されるので、出力用導電体53では、電圧が断続的に変化する。
【0099】
それに伴い、図1に矢印Icで示すように、第1仮想コンデンサC1および第2仮想コンデンサC2を経由する電流路を通ってコモンモード電流が流れる。それにより、コモンモードノイズが発生する。
【0100】
バッテリ2の定格電圧は、例えば40V以上または300V以上であり、高電圧である。従って、中点部位56での電圧変化は大きいので、コモンモード電流およびコモンモードノイズも大きい。
【0101】
スイッチング制御により、DCリンク10には周期的に大きな電流が流れる。すなわち、その高周波数の大電流は、ノーマルモード電流を構成する。それにより、ノーマルモードノイズが発生する。
【0102】
平滑コンデンサ13は、このようなノーマルモード電流を抑制する。すなわち、スイッチング制御により、平滑コンデンサ13には大きな電流(リップル電流)が流れる。それにより、バッテリ2から供給される電力のプラスとマイナスの間での高周波インピーダンスを低減できる。
【0103】
従って、そのようなノーマルモード電流を抑制するために、平滑コンデンサ13の大型化は避けられない。
【0104】
更に、平滑コンデンサ13は、そのリップル電流と内部抵抗とに起因した電力損失により、発熱する。しかしながら、大型のフィルムコンデンサである平滑コンデンサ13は、放熱が困難である。
【0105】
従って、平滑コンデンサ13の温度上昇を抑制して信頼性を確保するためには、その内部抵抗を低減して発熱を抑制するしかない。それには、平滑コンデンサ13の静電容量を、必要以上の過大な値としなければならない。例えば500uF程度の静電容量が必要になる。それにより、平滑コンデンサ13は高価なものとなり、インバータのコストアップの大きな原因となっている。
【0106】
正極側中継線11および負極側中継線12は、バスバー(大電流に対応した棒状ないし板状の金属導体)によって構成するのが一般的である。そのため、これらバスバーに寄生するインダクタンス(図1において仮想のインダクタLで示す)は大きい。また、各スイッチング素子30には、接合容量が存在する。
【0107】
スイッチング制御が行われると、これらインダクタLとこれら接合容量との間で共振が起きる。それにより、図1に示すように、各スイッチング素子30の動作電流および電圧の波形に、矢印Y1で示すように、微細な振動(リンギング)が発生する。
【0108】
スイッチング制御を高速化するほど、詳細には、スイッチングする時の遷移時間を短縮するほど、リンギングの振幅は大きくなる。リンギングは高い周波数成分を含む。従って、リンギングは、ノーマルモードノイズおよびコモンモードノイズの原因となる。
【0109】
更に、リンギングは、バッテリ2のプラス側またはマイナス側へ大きなオーバーシュートを伴うサージ電圧を生じる。そのサージ電圧が、スイッチング素子30の耐圧限界を超えると、その半導体が破損する。
【0110】
従って、各スイッチング素子30には、バッテリ2の電圧よりも十分に高く、余裕の有る耐圧性能が求められる。それにより、スイッチング素子30もまた、高価にならざるを得ない。
【0111】
<改良インバータ、改良モジュール(第1形態)>
図4図5に、開示する技術を適用したスイッチングモジュール(改良モジュール120)を例示する。図4は、図2に対応した図である。図5は、図3に対応した図である。
【0112】
改良モジュール120の基本的な構造は、未改良モジュール20と同じである。従って、同じ内容の部材や構成については同じ符号を用いてその説明は簡略化ないし省略する。
【0113】
改良モジュール120は、特に、基板に所定の蓄電構造63が設けられている点で、未改良モジュール20と異なる。以下、その基板(改良基板140)を含め、未改良モジュール20と異なる点について具体的に説明する。
【0114】
図4図5に示すように、正極側導電体51は、第1延在部51aおよび第1素子接合部51bに加え、第1延在部51aの外側縁から間隔を隔てて、隣接した第1辺40aに向かって張り出す4つの第1外側張出部51cと、各第1外側張出部51cの突端に連なった状態で、その第1辺40aの端面に接して延びる第1側端部51dとを有している。
【0115】
負極側導電体52は、第2延在部52aに加え、第2延在部52aの外側縁から間隔を隔てて、隣接した第1辺40aに向かって張り出す4つの第2外側張出部52bと、各第2外側張出部52bの突端に連なった状態で、その第1辺40aの端面に接して延びる第2側端部52cとを有している。
【0116】
(改良基板140)
改良基板140は、その素材からなる複数の電気絶縁層60と、正極側導電体51に接続された複数の正極側導電層61と、負極側導電体52に接続された複数の負極側導電層62とを含む。
【0117】
そして、これら正極側導電層61の各々と負極側導電層62の各々とが、電気絶縁層60を介して対向している。そうすることにより、改良基板140の内部に、正極側主線21と負極側主線22との間に介在する電荷の蓄積が可能な蓄電構造63が設けられている。
【0118】
具体的には、正極側導電層61および負極側導電層62の各々は、図6に示すように、改良基板140と略同じ大きさを有する長方形の薄膜状に形成されている。正極側導電層61および負極側導電層62の各々は、その中央部に長方形の開口部64を有している。開口部64は、その内側に第1素子接合部51bおよび第3素子接合部53bの一群が収まるように形成されている。
【0119】
この改良基板140の場合、正極側導電層61は2層、負極側導電層62は3層で構成されている。そして、これら正極側導電層61および負極側導電層62の各々が、改良基板140の上下の面に平行した状態で交互に拡がるように形成されている。
【0120】
具体的には、改良基板140は、電気絶縁層60、負極側導電層62、電気絶縁層60、正極側導電層61、電気絶縁層60、負極側導電層62、電気絶縁層60、正極側導電層61、電気絶縁層60、負極側導電層62、電気絶縁層60の順に積層して構成されている。それにより、正極側導電層61および負極側導電層62の各々は、改良基板140の外縁部分において、電気絶縁層60を介して改良基板140の厚み方向に対向している。
【0121】
図5に拡大して示すように、各正極側導電層61は、第1辺40aの一方の端面に設けられる正極側導電端65と接続されている。各負極側導電層62は、第1辺40aの他方の端面に設けられる負極側導電端66と接続されている。正極側導電端65は、ハンダ付けによって第1側端部51dと接合されている。負極側導電端66は、ハンダ付けによって第2側端部52cと接合されている。
【0122】
正極側導電層61および負極側導電層62の各々の短辺の大きさは、改良基板140の短辺(第2辺40b)の大きさよりも僅かに小さい。それにより、各正極側導電層61の突端は、第1辺40aの他方の端面と隙間を隔てて位置している。各負極側導電層62の突端は、第1辺40aの一方の端面と隙間を隔てて位置している。
【0123】
そうすることにより、改良基板140の内部には、正極側主線21と負極側主線22との間に介在する電荷の蓄積が可能な蓄電構造63が構成されている。具体的には、電気絶縁層60を介した正極側導電層61の一群と負極側導電層62の一群とにより、所定の静電容量を有し、平滑コンデンサとして機能する構造が形成されている。
【0124】
(改良基板140の詳細)
スイッチング制御により、各スイッチング素子30は発熱する。改良基板140は、その熱をヒートシンク42へ伝えて放熱する。従って、改良基板140は熱伝導性に優れるのが好ましい。そのため、改良基板140の厚さは、薄い方が好ましい。例えば1mm以下が好ましい。
【0125】
一方、蓄電構造63の観点からは、電気絶縁層60の静電容量は高い方が好ましい。そのため、改良基板140の材料は誘電率の高いものが好ましい。
【0126】
改良基板140は、セラミック材料を用いて形成されている。そのセラミック材料としては、酸化アルミニウムが一般的である。酸化アルミニウムの熱伝導率は、概ね23~36W/m・kとされ、酸化アルミニウムの比誘電率は、概ね9.5~9.7とされている。
【0127】
それに対し、改良基板140の場合、上述したように、熱伝導性および誘電率の双方において高い方が好ましい。従って、改良基板140には、酸化アルミニウムよりも比誘電率が高い材料(高誘電率材料)と、酸化アルミニウムよりも熱伝導率が高い材料(高熱伝導材料)とが、所定の比率で混合されているセラミック材料を用いるのが好ましい。
【0128】
高誘電率材料としては、例えば、ジルコニア、酸化チタン、チタン酸バリウムなどがある。高熱伝導材料としては、例えば、炭化ケイ素、窒化アルミニウムなどがある。特に、高誘電率材料には、比誘電率が極めて高いチタン酸バリウム(比誘電率:1500)が好ましく、高熱伝導材料には、熱伝導率が極めて高い窒化アルミニウム(熱伝導率:90~200)が好ましい。
【0129】
高熱伝導材料および高誘電率材料を改良基板140に適した比率で混合することにより、熱伝導性および誘電率の双方において最適な改良基板140を実現できる。
【0130】
(改良基板140の製造)
正極側導電層61および負極側導電層62の各々は、銀ペーストを用いて形成するのが好ましい。そうすれば、積層セラミックコンデンサの公知の工法を用いて改良基板140を製造できる。図7に、その一例を示す。
【0131】
図7の(a)に示すように、電気絶縁層60を構成する所定のセラミック材料によるペースト状の薄板70を形成する。そして、図7の(b)に示すように、その上に、正極側導電層61を構成する銀ペーストの薄層71を印刷して形成する。図7の(c)に示すように、更にその上に、電気絶縁層60を構成する所定のセラミック材料によるペースト状の薄板70を形成する。
【0132】
図7の(d)に示すように、更にその上に、負極側導電層62を構成する銀ペーストの薄層71を印刷して形成する。そして、図7の(e)に示すように、更にその上に、電気絶縁層60を構成する所定のセラミック材料によるペースト状の薄板70を形成する。
【0133】
このような処理を繰り返すことにより、所定の積層構造を形成する。そうした後、押圧成形および焼結して固化させることにより、改良基板140の中間体を形成する。形成した改良基板140の中間体の第1辺40aの端面の各々に、例えばニッケルメッキを施す。そうして、正極側導電端65および負極側導電端66の各々を形成すれば、改良基板140が完成する。
【0134】
(改良基板140の効果)
改良基板140によって形成される蓄電構造63、つまり電気絶縁層60を介して対向している一群の正極側導電層61および負極側導電層62は、改良モジュール120の回路において、平滑コンデンサ13と代替可能な仮想コンデンサCiとして機能する。
【0135】
図8に、改良インバータ100の回路構成を例示する。仮想コンデンサCiは、改良モジュール120において、各ハーフブリッジ回路23の正極側および負極側の両端部位と接続される要素コンデンサの一群に相当する。すなわち、仮想コンデンサCiは、改良インバータ100の回路において平滑コンデンサ13と並列に接続されており、改良基板140の蓄電構造63は、平滑コンデンサ13と同じ機能を発揮する。
【0136】
従って、図8の上図に示すように、平滑コンデンサ13を小型化し、その一部を蓄電構造63で代替できる。更には、図8の下図に示すように、平滑コンデンサ13の機能の全てを蓄電構造63で行えば、平滑コンデンサ13を省略できる。その結果、インバータのコストの低減が可能になる。
【0137】
しかも、この蓄電構造63の場合、平滑コンデンサ13と異なり、リップル電流に起因する発熱をヒートシンク42へ伝熱して放熱できる。従って、その静電容量を過剰に大きくして等価直列抵抗(ESR)を小さくする必要性が無い。未改良インバータ1の平滑コンデンサ13では、500uF程度の静電容量が必要とされるのに対し、蓄電構造63による静電容量は10uF~50uF程度とすることができる。
【0138】
加えて、この改良基板140の場合、蓄電構造63が改良基板140の外縁部分に設けられ、スイッチング素子30の一群と蓄電構造63とが重ならないように構成されている。従って、スイッチング制御が行われると、蓄電構造63および各スイッチング素子30の各々で発熱するが、これら双方の熱を効率的にヒートシンク42に伝えて放熱できる。
【0139】
更に、蓄電構造63の場合、平滑コンデンサ13に比べて、各スイッチング素子30との間での電気的な接続長さが非常に小さくなる。それにより、その部分の配線に起因する寄生インダクタンスも極小となる。その結果、図1に示したような、リンギングやサージ電圧は、ほとんど発生しなくなる。
【0140】
すなわち、改良モジュール120を採用した改良インバータ100では、ノーマルモードおよびコモンモードノイズを効果的に抑制できる。各スイッチング素子30の耐圧要求も低減できる。
【0141】
<改良インバータ、改良モジュール(第2形態)>
図9に、開示する技術を適用したスイッチングモジュールの第2形態(第2改良モジュール220)を例示する。図9は、図5に対応した図である。
【0142】
第2改良モジュール220の基本的な構造は、改良モジュール120と同じである。従って、同じ内容の部材や構成については同じ符号を用いてその説明は簡略化ないし省略する。第2改良モジュール220では、正極側導電層61および負極側導電層62の各々の中央部に開口部64が形成されていない点で、改良モジュール120と異なる。
【0143】
すなわち、第2改良モジュール220の改良基板140(第2改良基板240)が含む2層の正極側導電層61および3層の負極側導電層62の各々は、改良基板140と略同じ大きさを有する長方形の薄膜状に形成されており、第2改良基板240の全面にわたる範囲に設けられている。
【0144】
そして、これら正極側導電層61および負極側導電層62の各々が、第2改良基板240の上下の面に平行した状態で交互に拡がるように形成されている。それにより、正極側導電層61および負極側導電層62の各々は、第2改良基板240の略全域において、電気絶縁層60を介して第2改良基板240の厚み方向に対向している。
【0145】
この第2改良モジュール220の場合、第2改良基板240のほぼ全域に蓄電構造63が設けられている。従って、下アーム用スイッチング素子30Lの各々の入力側電極が設置されている中点部位56を含めた各出力用導電体53の大部分とヒートシンク42との間には、蓄電構造63が介在している。
【0146】
それにより、コモンモード電流を流れなくでき、コモンモードノイズの発生を防止できる。その理由について具体的に説明する。
【0147】
スイッチング制御が行われると、各スイッチング素子30が所定のタイミングでオンオフされる。それに伴い、各出力用導電体53、特に下アーム用スイッチング素子30Lの各々の入力側電極が設置されている中点部位56は、電圧が周期的に大きく変化する。それにより、未改良インバータ1では、図1に示したように、コモンモード電流が流れてコモンモードノイズが発生する。
【0148】
それに対し、この第2改良モジュール220の場合には、図9に拡大して示すように、第2改良基板240の中で最上位に位置する負極側導電層62と、各出力用導電体53との間には、電気絶縁層60を誘電体とした第1仮想コンデンサC11が形成される。また、改良基板140の中で最下位に位置する負極側導電層62と、ヒートシンク42との間にも、電気絶縁層60を誘電体とした第2仮想コンデンサC21が形成される。
【0149】
図10に、第2改良モジュール220を適用したインバータ(第2改良インバータ200)の回路図を例示する。ここでは、ハーフブリッジ回路23の1つを例に説明するが、他のハーフブリッジ回路23も位相がずれるだけで動作は同じである。
【0150】
下アーム用スイッチング素子30Lがオフされるときは、上アーム用スイッチング素子30Uはオンになる。従って、Ionで示すように電流が流れ、第1仮想コンデンサC11は、バッテリ2の電圧が印加されて充電される。このとき、第1仮想コンデンサC11を構成している最上位の負極側導電層62は、バッテリ2の負極側と電気的に接続されている。従って、最上位の負極側導電層62は、バッテリ2の負極側と同じ電位である。
【0151】
下アーム用スイッチング素子30Lがオンされるときは、上アーム用スイッチング素子30Uはオフになる。従って、Ioffで示すように電流が流れ、第1仮想コンデンサC11に蓄積されている電荷は、最上位の負極側導電層62を経由した電流路を通って放電される。このときも、最上位の負極側導電層62は、バッテリ2の負極側と同じ電位である。
【0152】
最上位の負極側導電層62は、オンオフいずれの場合においても、バッテリ2の負極側の電位に保持される。すなわち、最上位の負極側導電層62は、スイッチング制御が行われても電位は変化しない。最下位の負極側導電層62とヒートシンク42との間には、電位差は生じない。
【0153】
すなわち、スイッチング制御が行われても、電圧変化の大きい中点部位56が、電位が変化しない負極側導電層62と電気絶縁層60を介して対向しているので、第2仮想コンデンサC21には電荷は蓄積されない。
【0154】
この点、電位が一定に保持できればよいので、中点部位56は、負極側導電層62ではなく、最上位の正極側導電層61と電気絶縁層60を介して対向していてもよい。
【0155】
第1仮想コンデンサC11および第2仮想コンデンサC21を経由する電流路には電流は流れない。コモンモードの電流値はゼロである。従って、この第2改良インバータ200によれば、コモンモードノイズをほとんど無くすことができる。
【0156】
<改良基板の変形例>
次に、改良基板の変形例(改変基板)を例示する。改変基板は、上述した改良インバータ100および改良モジュール120、または、第2改良インバータ200および第2改良モジュール220に適用できる。
【0157】
(第1改変基板)
図11に、第1改変基板80を例示する。例示の第1改変基板80は、第2改良基板240を基に変形している。
【0158】
第1改変基板80は、電気絶縁層60の構造が第2改良基板240と異なる。第1改変基板80の電気絶縁層60は、2つの異なる素材で構成されていて、複数に区画されている。
【0159】
すなわち、第1改変基板80は、酸化アルミニウムよりも熱伝導率が高い高熱伝導材料で形成された部位(第1部位81)と、酸化アルミニウムよりも比誘電率が高い高誘電率材料で形成された部位(第2部位82)とを有している。
【0160】
第1部位81は、例えば窒化アルミニウムによって構成される。また、第2部位82は、例えばチタン酸バリウムによって構成される。
【0161】
第1改変基板80の両面(表面と裏面)を構成している一対の最外層には、全体が同質の電気絶縁層60(被覆層83)が形成されている。被覆層83は、酸化アルミニウムであってもよいが、誘電率よりも熱伝導性に優れる方が好ましい。従って、図例では、第1部位81と同じ材料が用いられている。
【0162】
そして、これら被覆層83の間に位置する各電気絶縁層60には、第1部位81と第2部位82とが、それぞれ領域を分けて混在するように形成されている。例えば、図11では、第1部位81および第2部位82の各々は、図12の(a)に示すように、第1改変基板80の平面視において縦線状に形成され、これらが交互に並ぶ縞状に配置されている。
【0163】
縞状の配置に限らず、これらの配置は、基板40の仕様に応じて適宜選択できる。例えば、第1改変基板80が上述した改良基板140の場合であれば、図12の(b)に示すように、蓄電構造63が設けられている改良基板140の外縁部分に誘電率の高い第2部位82を配置し、スイッチング素子30の一群が設置されている改良基板140の中央部分に熱伝導率の高い第1部位81を配置するとよい。
【0164】
また、図12の(c)に示すように、第1部位81と第2部位82とを市松模様状に配置してもよい。これら以外にも、第1改変基板80の平面視において第2部位82の中に多数の円形に配置した第1部位81を設けてもよいし、逆に第1改変基板80の平面視において第1部位81の中に多数の円形に配置した第2部位82を設けてもよい。
【0165】
電気絶縁層60をこのように2つの性質の異なる材料で構成することにより、第1改変基板80では、高い熱伝導性能を確保でき、かつ、蓄電構造63の静電容量の値を大きくすることができる。
【0166】
(第2改変基板)
図13に、第2改変基板90を示す。第2改変基板90は、正極側導電層61、負極側導電層62、および、電気絶縁層60の構造が、改良基板140、第2改良基板240、および、第1改変基板80と異なる。
【0167】
第2改変基板90も、第1改変基板80と同様に、電気絶縁層60は2つの異なる素材で構成されていて、複数に区画されている。
【0168】
すなわち、第2改変基板90は、酸化アルミニウムよりも熱伝導率が高い高熱伝導材料で形成された部位(第1部位91)と、酸化アルミニウムよりも比誘電率が高い高誘電率材料で形成された部位(第2部位92)とを有している。そして、第1部位91は、例えば窒化アルミニウムによって構成される。また、第2部位92は、例えばチタン酸バリウムによって構成される。
【0169】
更に、第2改変基板90の両面(表面と裏面)を構成している一対の最外層にも、全体が同質の電気絶縁層60(被覆層93)が形成されている。被覆層93は、酸化アルミニウムであってもよいが、誘電率よりも熱伝導性に優れる方が好ましい。従って、図例では、第1部位91と同じ材料が用いられている。
【0170】
正極側導電層61および負極側導電層62の各々は、正極側平行層61aおよび負極側平行層62aの各々と、複数の正極側直交層61bおよび複数の負極側直交層62bの各々とを含む。換言すれば、正極側導電層61は、正極側平行層61aおよび複数の正極側直交層61bを含み、負極側導電層62は、負極側平行層62aおよび複数の負極側直交層62bを含む。
【0171】
正極側平行層61aおよび負極側平行層62aは、第2改変基板90に1つずつ設けられている。図例では、正極側平行層61aは、最外層の電気絶縁層60(被覆層93)を介して第2改変基板90の下面と対向して拡がり、負極側平行層62aは、最外層の電気絶縁層60(被覆層93)を介して第2改変基板90の上面と対向して拡がる。
【0172】
複数の正極側直交層61bおよび複数の負極側直交層62bの各々は、正極側平行層61aおよび負極側平行層62aの各々と直交するとともに第2改変基板90の左右いずれか一方の端面(図例では長辺である第1辺40aの端面)に平行して交互に延びるように形成されている。
【0173】
換言すれば、複数の正極側直交層61bの各々は、正極側平行層61aおよび負極側平行層62aの各々と直交し、かつ、第2改変基板90の第1辺40aの端面に平行して負極側直交層62bと交互に延びるように形成されている。同様に、複数の負極側直交層62bの各々も、正極側平行層61aおよび負極側平行層62aの各々と直交し、かつ、第2改変基板90の第1辺40aの端面に平行して正極側直交層61bと交互に延びるように形成されている。
【0174】
そして、これら正極側直交層61bおよび負極側直交層62bの各々が、第2改変基板90の厚み方向と直交した方向(辺方向)に、電気絶縁層60を介して対向することによって蓄電構造63が構成されている。
【0175】
正極側平行層61aの一端は、第1辺40aの右側の端面まで延びており、第1辺40aの左側の端面までは延びていない。同様に、負極側平行層62aの一端は、第1辺40aの左側の端面まで延びており、第1辺40aの右側の端面までは延びていない。また、正極側直交層61bの突端と負極側平行層62aとの間は、絶縁材料94によって遮断されている。負極側直交層62bの突端と正極側平行層61aとの間も、絶縁材料94によって遮断されている。
【0176】
第1辺40aの右側の端面には、その端面を被覆する正極側導電端65が形成されている。第1辺40aの左側の端面には、その端面を被覆する負極側導電端66が形成されている。正極側導電端65は正極側平行層61aと接続されており、負極側導電端66は負極側平行層62aと接続されている。
【0177】
そして、正極側直交層61bおよび負極側直交層62bの各々の間に位置する各電気絶縁層60に、第1部位91と第2部位92とが、それぞれ領域を分けて混在するように形成されている。具体的には、辺方向に交互に並んでいる正極側直交層61bおよび負極側直交層62bの各々の間に、第1部位91と第2部位92とが交互に設けられている。
【0178】
第2改変基板90によって形成される蓄電構造63、つまり電気絶縁層60を介して対向している正極側直交層61bおよび負極側直交層62bの一群は、上述した仮想コンデンサCiとして機能する。しかも、電気絶縁層60は、第1改変基板80と同様に、第1部位91と第2部位92とに分けて設けられているので、高い熱伝導性能と、高い静電容量とを両立できる。
【0179】
第2改変基板90の場合、蓄電構造63は第2改変基板90の全面にわたる範囲に設けるのが好ましい。そして、中点部位56は、負極側平行層62a(正極側平行層61aでもよい)と電気絶縁層60を介して対向するように構成するのが好ましい。
【0180】
そうすれば、上述したように、中点部位56と負極側平行層62aとの間に電荷は蓄積しないので、コモンモードノイズを防止できる。
【0181】
図14に、第2改変基板90の製造方法を例示する。第1改変基板80の場合、異なる材料を組み合わせて一枚の薄板70を形成する必要があるが、第2改変基板90の場合、既存の工法の組み合わせで製造できる。第2改変基板90は、比較的容易に量産できる。
【0182】
図14の(a)の上図に示すように、高熱伝導材料によるペースト状の薄板70を形成する。その上に、銀ペーストを印刷して薄層71を形成する。図14の(a)の下図に示すように、更にその上に、高誘電率材料によるペースト状の薄板70を形成する。更にその上に、銀ペーストを印刷して薄層71を形成する。これらを所定の回数繰り返す。そうした後、押圧成形および焼結することによって固化させ、図14の(b)に示すような、塊状の積層体を形成する。
【0183】
その塊状の積層体を、図14の(b)に矢印線Y2で示すように、積層方向に直交した方向から、第2改変基板90の厚みに対応した大きさでスライスする。そうして、図14の(c)に示すように、第2改変基板90の第1中間体72を得る。
【0184】
次に、図14の(d)に示すように、その第1中間体72の両面に絶縁材料94を印刷することにより、上面に露出した正極側直交層61bを被覆し、かつ、下面に露出した負極側直交層62bを被覆する。
【0185】
次に、図14の(e)に示すように、その第1中間体72の両面に銀ペーストの薄層71を印刷することにより、上面に負極側平行層62aを形成し、かつ、下面に正極側平行層61aを形成する。そうした後、図14の(f)に示すように、第1中間体72の両側に高熱伝導材料によるペースト状の薄板70を形成する。そして、押圧成形および焼結することによって固化させ、第2中間体73を得る。
【0186】
その後、その第2中間体73の第1辺40aの端面の各々に、例えばニッケルメッキを施す。そうして、正極側導電端65および負極側導電端66の各々を形成すれば、第2改変基板90が完成する。
【0187】
<開示する技術の効果、応用等>
このように、開示する技術によれば、未改良モジュール20では必須とされる大型で高価な平滑コンデンサ13を、基板40に設けた蓄電構造63で代替できる。換言すれば、既存の部材を利用して、冷却が容易な平滑コンデンサ13を構成できる。それにより、平滑コンデンサが果たす機能は維持した状態で、平滑コンデンサを小型化または省略できる。その結果、インバータのコストを低減でき、インバータを安価にできる。
【0188】
そして、DCリンク10の寄生インダクタンスを排除し、スイッチング制御に伴う有害なリンギングを低減することにより、ノーマルモードノイズを抑制できる。更に、ハーフブリッジ回路23における電圧変化の大きい中点部位56とヒートシンク42との間を、電位の安定した導電層で遮断すれば、コモンモード電流の経路を遮断でき、コモンモードノイズを効果的に抑制できる。従って、インバータの機能も向上できる。
【0189】
更に、電気絶縁層60の構造を工夫し、高熱伝導材料と高誘電率材料を組み合わせれば、基板40の高い伝熱性と高い静電容量とを両立できる。インバータの機能をよりいっそう向上できる。
【0190】
開示する技術は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、スイッチング素子30には、MOSFET、バイポーラトランジスタ、IGBT、GaNなど、公知の半導体が適用できる。
【0191】
正極側導電層61および負極側導電層62の層数は一例である。正極側直交層61bおよび負極側直交層62bの設置数も一例である。各層の配置や形状など、蓄電構造は、スイッチングモジュールの仕様に応じて変更できる。
【0192】
開示する技術は、車載向けのインバータに好適であるが、それ以外の電気機器にも適用可能である。
【符号の説明】
【0193】
1 未改良インバータ
2 バッテリ
3 モータ
10 DCリンク
11 正極側中継線
12 負極側中継線
13 平滑コンデンサ
20 未改良モジュール
21 正極側主線
22 負極側主線
23 ハーフブリッジ回路
24 出力線
25 フリーホイールダイオード
30 スイッチング素子
30a コレクタ電極(入力側電極)
30b エミッタ電極(出力側電極)
30c ベース電極(制御用電極)
30U 上アーム用スイッチング素子
30L 下アーム用スイッチング素子
40 基板(電気絶縁部材)
41 ケースカバー
42 ヒートシンク(放熱部材)
43 冷却器
51 正極側導電体
51a 第1延在部
51b 第1素子接合部
51c 第1外側張出部
51d 第1側端部
52 負極側導電体
52a 第2延在部
52b 第2外側張出部
52c 第2側端部
53 出力用導電体
53a 第3延在部
53b 第3素子接合部
54 切替用導電体
56 中点部位
60 電気絶縁層
61 正極側導電層
61a 正極側平行層
61b 正極側直交層
62 負極側導電層
62a 負極側平行層
62b 負極側直交層
63 蓄電構造
64 開口部
65 正極側導電端
66 負極側導電端
80 第1改変基板
81 第1部位
82 第2部位
83 被覆層
90 第2改変基板
91 第1部位
92 第2部位
93 被覆層
94 絶縁材料
100 改良インバータ
120 改良モジュール
140 改良基板
200 第2改良インバータ
220 第2改良モジュール
240 第2改良基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14