(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048505
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】コイル体
(51)【国際特許分類】
A61M 25/09 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
A61M25/09 516
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154452
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東野 理央
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA28
4C267BB02
4C267BB07
4C267CC08
4C267HH17
(57)【要約】
【課題】高い柔軟性を有し、かつ回転伝達性を向上することが可能なコイル体の提供を目的とする。
【解決手段】コイル体1は、複数の素線wを螺旋状に巻回した多条のコイル体であって、素線wそれぞれは、横断面の形状が非真円かつ当該素線wの周方向に捻回されており、コイル体1の長軸方向に沿って隣り合う素線w1,w2どうしの捻回方向が、互いに逆方向であり、隣り合う素線w1,w2それぞれの横断面の外接円g1,g2どうしの一部が、互いに重なるように配置されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素線を螺旋状に巻回した多条のコイル体であって、
前記素線それぞれは、横断面の形状が非真円かつ当該素線の周方向に捻回されており、
前記コイル体の長軸方向に沿って隣り合う素線どうしの捻回方向が、互いに逆方向であり、
前記隣り合う素線それぞれの横断面の外接円どうしの一部が、互いに重なるように配置されていることを特徴とするコイル体。
【請求項2】
前記横断面の形状が、楕円形状、略半円形状、および略多角形状のうちの少なくともいずれかである請求項1に記載のコイル体。
【請求項3】
前記素線それぞれにおける巻回ピッチ当たりの捻回数が6以上である請求項1または請求項2に記載のコイル体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガイドワイヤやカテーテルなどの長尺状の医療器具として、例えば、その先端部または長軸方向に亘ってコイル体を用いたものが知られている。
【0003】
ガイドワイヤやカテーテルは、複雑に湾曲した血管などの体腔に挿通されるため、体腔に追従するように、その先端部により高い柔軟性が求められる。
【0004】
先端部に高い柔軟性を付与することが可能な長尺状の医療器具として、例えば、捻回したリボン状の素線を螺旋状に巻回することでコイルを形成し、このコイルを先端部に適用したガイドワイヤが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このようなガイドワイヤには、柔軟な先端部により体腔壁へのダメージを抑制しながら体腔を容易に進退できるような操作性が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/0046575号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、分岐する体腔を確実に選択できるように、ガイドワイヤの先端部をあらかじめJ字形状に成形することがある。このようなガイドワイヤにおいては、J字形状の先端部を回転しながら所望の体腔を選択するため、手元の回転が先端部に確実に伝達できるような回転伝達性も求められる。
【0008】
しかしながら、上述したような従来のガイドワイヤにおいては、回転伝達性が必ずしも十分であるとは言えない。
【0009】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、高い柔軟性を有し、かつ回転伝達性を向上することが可能なコイル体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のいくつかの態様は、
(1)複数の素線を螺旋状に巻回した多条のコイル体であって、
前記素線それぞれは、横断面の形状が非真円かつ当該素線の周方向に捻回されており、
前記コイル体の長軸方向に沿って隣り合う素線どうしの捻回方向が、互いに逆方向であり、
前記隣り合う素線それぞれの横断面の外接円どうしの一部が、互いに重なるように配置されていることを特徴とするコイル体、
(2)前記横断面の形状が、楕円形状、略半円形状、および略多角形状のうちの少なくともいずれかである前記(1)に記載のコイル体、並びに
(3)前記素線それぞれにおける巻回ピッチ当たりの捻回数が6以上である前記(1)または(2)に記載のコイル体、である。
【0011】
なお、本明細書において、「横断面の形状が非真円」とは、横断面の外周縁が真円ではないこと、すなわち、横断面の外周縁のうちの一部の部位における中心軸からの距離が、他のいずれかの部位における上記中心軸からの距離とは異なる断面形状であることを意味する。「捻回」とは、素線の長軸廻りに捻ることを意味する。「巻回」とは、コイル体の長軸廻りに素線を巻くことを意味する。「巻回ピッチ」とは、コイル体の長軸方向における巻回された素線のピッチを意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、高い柔軟性を有し、かつ回転伝達性を向上することが可能なコイル体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】第1の実施形態の素線の概略的断面図である。
【
図3】第1の実施形態の隣り合う素線の配置を示す概略的断面図である。
【
図5】(a)~(d)は、それぞれ素線の他の形態を示す概略的断面図である。
【
図6A】実施例のコイル体の一部を拡大して示すSEM写真である。
【
図6B】比較例のコイル体の一部を拡大して示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1および第2の実施形態について図面を参照して説明するが、本発明は、当該図面に記載の実施形態にのみ限定されるものではない。なお、図中の破線は、素線wの横断面の外接円gを仮想的に表したものである。また、図面に示した各部の寸法は、実施内容の理解を容易にするために示した寸法であり、必ずしも実際の寸法に対応するものではない。
【0015】
なお、本明細書において、「長軸方向」とは、特に記載がない限り、コイル体の長軸に沿う方向を意味する。
【0016】
<コイル体>
本開示のコイル体は、複数の素線を螺旋状に巻回した多条のコイル体であって、上記素線それぞれは、横断面の形状が非真円かつ当該素線の周方向に捻回されており、上記コイル体の長軸方向に沿って隣り合う素線どうしの捻回方向が、互いに逆方向であり、上記隣り合う素線それぞれの横断面の外接円どうしの一部が、互いに重なるように配置されている。
【0017】
[第1の実施形態]
図1~
図3は、本開示のコイル体の第1の実施形態を示している。第1の実施形態は、
図1に示すように、概略的に、コイル体1により構成されている。
【0018】
コイル体1は、複数の素線wを螺旋状に巻回した多条の部材である。コイル体1を構成する素線wそれぞれは、横断面の形状が非真円となるように形成されている。本実施形態では、
図2に示すように、横断面の形状が略矩形状の素線wが例示されている。
【0019】
素線wそれぞれは、当該素線wの周方向に捻回されている。具体的には、素線wは、その全長における少なくとも一部において、当該素線wの長軸廻りに捻回されている。
【0020】
ここで、コイル体1は、その長軸方向に沿って隣り合う素線wどうしの捻回方向が、互いに逆方向であり、隣り合う素線wそれぞれの横断面の外接円gどうしの一部が、互いに重なるように配置されている。
【0021】
コイル体1は、具体的には、
図3に示すように、例えば、S方向に捻回(S捻り)した1本の素線(以下、「第1素線w1」ともいう)と、Z方向に捻回(Z捻り)した他の1本の素線(以下、「第2素線w2」ともいう)とが隣接するように螺旋状に巻回することで形成されている。コイル体1は、第1素線w1の横断面における外接円g(以下、「第1外接円g1」ともいう)の一部と、第2素線w2の横断面における外接円g(以下、「第2外接円g2」ともいう)の一部とが重なるように配置されている(
図3中の、破線どうしの重なり)。第1外接円g1と第2外接円g2とが互いに重なるコイル体1の部位は、隣り合う素線w1,w2の全長に亘っていてもよく、一部であってもよい。
【0022】
このように、第1素線w1と第2素線w2との捻回方向が互いに逆方向であり、かつ第1外接円g1と第2外接円g2とが互いに重なることで、隣り合う第1素線w1と第2素線w2とを互いに噛み合わせることができる。
【0023】
なお、コイル体1を構成する素線wの数は、二本以上であれば特に限定されないが、偶数であることが好ましい。本実施形態では、二本の素線(第1素線w1および第2素線w2)で構成されたコイル体1が例示されている。
【0024】
また、素線wの横断面の形状は、楕円形状、略半円形状、および略多角形状のうちの少なくともいずれかであることが好ましい。これらの形状によれば、隣り合う素線どうしをより効果的に噛み合わせることができる。加えて、角部の湾曲により表面に鋭利な部位が存在しないため、コイル体が接する身体組織へのダメージを低減することができる。
【0025】
また、素線wそれぞれにおける巻回ピッチ当たりの捻回数は、6以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。上記捻回数とすることで、隣り合う素線どうしを効果的に噛み合わせることができる。
【0026】
素線wの材料としては、例えば、SUS302,SUS304,SUS316などのステンレス鋼、Ni-Ti合金などの超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金、白金,タングステンまたはそれらの合金等の金属材料が挙げられる。
【0027】
以上のように、コイル体1は上記構成であるので、捻回した素線wによりコイル体1が高い柔軟性を有すると共に、隣り合う素線w1,w2どうしを互いに噛み合わせることができ、回転伝達性を向上することができる。これは、素線w1,w2どうしが互いに噛み合うことで、コイル体1の基端部を回転させたときの回転力を、コイル体1の先端部に確実に伝達できるためであると推察される。
【0028】
<ガイドワイヤ>
以下、本開示のコイル体をガイドワイヤに適用したときの実施形態を説明する。
【0029】
[第2の実施形態]
図4は、第2の実施形態を示す概略的断面図である。ガイドワイヤ10は、
図4に示すように、概略的に、コイル体1と、コアシャフト2と、先端固着部3と、基端固着部4とにより構成されている。なお、
図4において、図示左側が体内に挿入される先端側(遠位側)、右側が医師等の手技者によって操作される基端側(手元側、近位側)である。
【0030】
コイル体1は、後述するコアシャフト2の先端部を覆うように配置された部材である。本実施形態のコイル体として、上述した本開示のコイル体1が用いられている。
【0031】
コアシャフト2は、先端方向に向かって段階的に縮径する先端部を有するシャフトである。コアシャフト2の先端部は、例えば、小径部21と、テーパ部22と、大径部23とにより構成することができる。小径部21は、後述する先端固着部3に連続し、先端固着部3から基端側に向かって延設された外径一定の部位である。テーパ部22は、小径部21の基端から基端側に向かって延設され、基端側に向かって漸次拡径するテーパ状の部位である。大径部23は、テーパ部22の基端から基端側に向かって延設された外径一定の部位である。
【0032】
コアシャフト2を構成する材料としては、ガイドワイヤ10に柔軟性、抗血栓性、および生体適合性を付与する観点から、例えば、SUS304などのステンレス鋼、Ni-Ti合金などの超弾性合金等を採用することができる。
【0033】
先端固着部3は、コアシャフト2の先端と、コイル体1の先端とに接続された部位である。先端固着部3は、具体的には、例えば、先端部が先端方向に向かって凸状に湾曲した略半球形状に形成することができる。ガイドワイヤ10が先端固着部3を有することで、コアシャフト2の先端部とコイル体1の先端部とを一体的に固定することができると共に、体腔内においてガイドワイヤ10を円滑に前進させることができる。
【0034】
後端固着部4は、コイル体1の基端と、コアシャフト2とを接続する部位である。本実施形態の基端固着部4は、コアシャフト2の大径部23の外周に設けられている。ガイドワイヤ10が基端固着部4を有することで、コイル体1の基端部とコアシャフト2とを一体的に固定することができる。
【0035】
先端固着部3および基端固着部4それぞれは、例えば、コイル体1および/またはコアシャフト2の一部を融着することで形成したり、ロウ材を用いてコイル体1とコアシャフト2とを蝋付けすることで形成することができる。ロウ材としては、例えば、Sn-Pb合金、Pb-Ag合金、Sn-Ag合金、Au-Sn合金などの金属ロウ等が挙げられる。
【0036】
以上のように、ガイドワイヤ10は、本開示の高い柔軟性および優れた回転伝達性を有するコイル体1を備えているので、手技における操作性を向上することができる。
【0037】
なお、本開示は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。上述した実施形態の構成のうちの一部を削除したり、他の構成に置換してもよく、上述した実施形態の構成に他の構成を追加等してもよい。
【0038】
例えば、上述した第1の実施形態では、二本の素線w(第1素線w1および第2素線w2)で構成されたコイル体1について説明した。しかしながら、複数の素線を用いたコイル体であれば、本発明の効果を損なわない限り、素線の数は限定されない。例えば、捻回方向が互いに逆方向の素線が長軸方向に沿って交互に並ぶ四本の素線を螺旋状に巻回した四条のコイル体であってもよい。
【0039】
また、上述した第1の実施形態では、横断面が略矩形状の素線について説明した。しかしながら、素線の横断面の形状は、非真円の部位を含んでいれば特に限定されない。非真円の横断面の形状としては、略矩形状(矩形状を含む)の他、例えば、楕円形状(
図5(a)),半円形状(
図5(b)),多角形状(
図5(c)),これらの各角部が湾曲した形状(略半円形状(
図5(d)など)等であってよい。また、素線の横断面は、長径および短径を有する形状であることが好ましく、長径が短径の1.5~8倍であってよい。より好ましくは2~6倍である。これにより回転伝達性をより改善することができる。この場合、長径および短径を有する形状としては、楕円形状、略半円形状または略矩形状(略長方形状)が好ましく、これらの角部は湾曲していることが特に好ましい。
【0040】
また、上述した第1の実施形態では、隣り合う素線w1,w2の横断面の形状が同じ略矩形状であるコイル体1について説明した。しかしながら、形状が異なる非真円の横断面を有する素線どうしが隣り合うコイル体であってもよい(例えば、隣り合う素線が、楕円形状の横断面を有する素線と半円形状の横断面を有する素線との組み合わせなど)。
【0041】
また、上述した第1の実施形態では、素線の全長に亘って横断面が同じ形状である素線wを用いたコイル体1について説明した。しかしながら、横断面の形状が異なる二以上の部位を有する素線を用いたコイル体であってもよい。かかる場合、素線の全長の少なくとも一部の部位に横断面の形状が非真円の部位を含んでいればよい(例えば、略矩形状の部位と真円形状の部位とを直列に接続した構成の素線など)。
【0042】
また、上述した第2の実施形態では、本開示のコイル体1を適用した医療器具として、ガイドワイヤ10を例示した。しかしながら、本開示のコイル体は、ガイドワイヤ以外の医療器具にも適用することができる。上記医療器具としては、例えば、カテーテル、アテレクトミーデバイス、ダイレータ等が挙げられる。
【実施例0043】
以下、実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0044】
<コイル体>
評価に供するコイル体の仕様を以下に示す。実施例は、上述したコイル体1の一態様である。
【0045】
[実施例]
・素線材質 :SUS304 WPB
・素線の横断面の形状:長径0.090mm、短径0.030mmの矩形状
・素線数 :合計8本
・捻回態様 :4本がZ方向、4本がS方向
・コイル体の長さ :200mm
・コイル体の内径 :0.510mm
・サンプル数 :5pcs
【0046】
[比較例]
・素線材質 :SUS304 WPB
・素線の横断面の形状:長径0.090mm、短径0.030mmの矩形状
・素線数 :合計8本
・捻回態様 :8本共にZ方向
・コイル体の長さ :200mm
・コイル体の内径 :0.510mm
・サンプル数 :5pcs
【0047】
<評価>
実施例および比較例のコイル体を用い、回転初動性および回転跳ね抑制性を下記方法に従い評価した。
【0048】
[回転初動性]
評価に供するコイル体の一端を回転入力装置に接続し、他端を回転出力測定器に接続した。次いで、回転入力装置を用い、コイル体の一端を、回転方向:時計方向(隣り合う素線どうしが締まる方向)、回転速度:6rpmの条件下で回転させながら、回転出力測定器を用いて他端の回転状態をモニターした。その際、実施例および比較例それぞれについて、コイル体の他端が回転を開始したときの、コイル体の一端が既に回転した角度(以下、「初動回転角度」ともいう)を測定し、これらを比較することで回転衝動性を評価した。
その結果、比較例の初動回転角度を100%としたとき、実施例の初動回転角度は59.4%であった。
また、素線の横断面の形状が楕円形状、半円形状、多角形状、略半円形状、略多角形状(上記実施例の素線の横断面形状以外の横断面形状)であるコイル体においても、同様の結果が得られた。
【0049】
[回転跳ね抑制性]
上記初動回転角度の測定に続けて、コイル体の他端が回転を開始した直後の上記他端の回転した角度(以下、「回転跳ね角度」ともいう)を、回転出力測定器を用いて測定し、実施例と比較例とを比較することで回転跳ね抑制性を評価した。
その結果、比較例の回転跳ね角度を100%としたとき、実施例の回転跳ね角度は79.0%であった。
また、素線の横断面の形状が楕円形状、半円形状、多角形状、略半円形状、略多角形状(上記実施例の素線の横断面形状以外の横断面形状)であるコイル体においても、同様の結果が得られた。