IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ガス充填方法 図1
  • 特開-ガス充填方法 図2
  • 特開-ガス充填方法 図3
  • 特開-ガス充填方法 図4
  • 特開-ガス充填方法 図5
  • 特開-ガス充填方法 図6
  • 特開-ガス充填方法 図7
  • 特開-ガス充填方法 図8
  • 特開-ガス充填方法 図9
  • 特開-ガス充填方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048520
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】ガス充填方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/02 20060101AFI20240402BHJP
   F17C 5/06 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
F17C13/02 301Z
F17C5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154474
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】判田 圭
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BD03
3E172DA90
3E172EA02
3E172EA12
3E172EA13
3E172EA14
3E172EA22
3E172EA23
3E172EA24
3E172EA35
3E172KA22
3E172KA23
(57)【要約】      (修正有)
【課題】タンクに特別の機構を設けることなく、水素ステーションの充填制御による簡易な方法で、タンク内の温度分離の発生を抑制するとともに、短時間でガスの充填を完了することができ、高性能で高効率のガス充填を達成できるガス充填方法を提供する。
【解決手段】蓄圧器から配管を介してタンクにガスを供給し、前記タンク内にガスを充填するガス充填方法であって、前記タンク内に、ガスを充填中に、温度分離が発生する圧力である温度分離圧力Psを設定する工程と、ガスを充填中に、前記タンク内の圧力が前記温度分離圧力になったか否かを検出する温度分離圧力検出工程と、温度分離圧力に到達した後に、前記タンクの昇圧率を上昇させて前記タンク内にガスを充填する昇圧率上昇工程と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクとガスの蓄圧器とを配管で接続し、前記蓄圧器から前記配管を介して前記タンクにガスを供給し、前記タンク内にガスを充填するガス充填方法であって、
前記タンク内に、ガスを充填中に、温度分離が発生するガスの圧力である温度分離圧力を設定する工程と、
ガスを充填中に、前記タンク内の圧力が前記温度分離圧力になったか否かを検出する温度分離圧力検出工程と、
前記温度分離圧力に到達した後に、前記タンクの昇圧率を上昇させて前記タンク内にガスを充填する昇圧率上昇工程と、
を備えるガス充填方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガス充填方法において、
前記昇圧率の上昇は、圧力公差幅内で行われる
ガス充填方法。
【請求項3】
請求項2に記載のガス充填方法において、
前記タンク内の圧力が、温度分離圧力に到達する前に、前記圧力公差幅内で前記昇圧率を低下させて充填する昇圧率下降工程を含む
ガス充填方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガス充填方法において、
前記昇圧率上昇工程の後に、前記昇圧率の下降と前記昇圧率の上昇とを繰り返してガスを充填する昇圧率昇降工程を含む
ガス充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガスの蓄圧器から配管を介してタンクに燃料ガス(ガス)を充填するガス充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手頃で信頼でき、持続可能且つ先進的なエネルギへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギの効率化に貢献する燃料電池(FC)に関する研究開発が行われている。
【0003】
例えば、燃料電池自動車は、前記燃料電池と燃料ガス貯留用のタンクとモータとを搭載する。前記燃料電池は、前記タンクから供給される燃料ガスと酸化剤ガス(空気)との電気化学反応により発電する。前記燃料電池自動車は前記燃料電池で発電した電力を用いて前記モータを駆動することで走行する。
【0004】
燃料電池自動車に搭載されるタンクには、充填スタンド(水素ステーション)において、配管(ホースを含む)を介してガス(水素ガス)が充填される。前記水素ステーションは、高圧ガスの蓄圧器を備える。
【0005】
JPEC-S0003(非特許文献1)あるいはSAEJ2601等の「圧縮水素充填技術基準」が、前記水素ステーションにおける前記燃料電池自動車等への燃料ガス(圧縮水素)の充填制御に適用される。
【0006】
「圧縮水素充填技術基準」では、水素充填時の速度(昇圧率)等をシミュレーションで計算し、その結果をマップや表にして充填制御に利用する。このシミュレーションでは、計算速度の向上を図るため、タンクの内部においてガスの温度は均一であると見なした計算モデルが用いられている。充填開始時にタンクの内部では、流入するガスが噴き出して内部を攪拌するので、内部の温度は概ね均一になっている。しかし、充填が進みタンクの内部の圧力が上昇すると、噴出ガスの体積流量は低下する。そうすると、タンクの内部が十分に攪拌されず、温度分布が発生する。特にタンク容量が大きく、また外気温が高くて充填時間が長い場合に顕著な温度分布(温度分離)が発生しやすい。具体的には図10A図10Bに示すように、タンクのガス供給口から見て奥側の上部(色の濃い領域)においてガスの温度が上昇する。この場合、前記シミュレーションの温度と実際のタンクの内部の温度とが一致しなくなる。また局所的にガスの温度が上昇すると、計測されるタンク温度の値がばらつき、安定してタンク温度を検出することができない。さらに一時的に所定の温度を超える高いタンク温度が検出されると安全装置が作動し充填作業が停止されることもあり得る。
【0007】
これに関して特許文献1の高圧ガス貯蔵システムでは、高圧ガス容器内に燃料ガスを充填する時に、高圧ガス容器内における燃料ガスの噴射方向を変化させることのできるガスガイド部材を備え、このガスガイド部材を駆動することにより燃料ガスの噴射方向を変化させる。これにより、高圧ガス容器の温度状態や圧力状態に応じて放熱しやすい部位の方に燃料ガスの噴射方向を向けて高圧ガス容器内の温度上昇を抑制できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-298051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、高圧ガス容器(タンク)内に燃料ガスの噴射方向を変化させることができるガスガイド部材を設けると、高圧ガス容器の構造が複雑になり、部品点数が増加しコストの上昇に繋がったり、ガスガイド部材は可動部を備えることから、信頼性の低下を招いたりする課題がある。
【0010】
この発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の一態様に係るガス充填方法は、タンクとガスの蓄圧器とを配管で接続し、前記蓄圧器から前記配管を介して前記タンクにガスを供給し、前記タンク内にガスを充填するガス充填方法であって、前記タンク内に、ガスを充填中に、温度分離が発生するガスの圧力である温度分離圧力を設定する工程と、ガスを充填中に、前記タンク内の圧力が前記温度分離圧力になったか否かを検出する温度分離圧力検出工程と、前記温度分離圧力に到達した後に、前記タンクの昇圧率を上昇させて前記タンク内にガスを充填する昇圧率上昇工程と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、タンクに特別の機構を設けることなく、水素ステーションの充填制御による簡易な方法で、タンク内の温度分離の発生を抑制するとともに、短時間でガスの充填を完了することができ、高性能で高効率のガス充填を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係るガス充填方法が適用された水素充填システムの構成図である。
図2図2は、ディスペンサECUの構成を示すブロック図である。
図3図3は、実施形態に係るタンク圧力の時間変化を示す図である。
図4図4は、実施形態に係るガス充填方法が適用された水素充填システムの動作説明用のフローチャートである。
図5図5は、変形例1の昇圧率を示す図である。
図6図6は、変形例1に係るガス充填方法が適用された水素充填システムの動作説明用のフローチャートである。
図7図7は、変形例2の昇圧率を示す図ある。
図8図8は、変形例2に係るガス充填方法が適用された水素充填システムの動作説明用のフローチャートである。
図9図9は、変形例2に係るガス充填方法が適用された水素充填システムのフローチャートにおけるサブルーチンである。
図10図10Bは、従来技術におけるタンク内のガスの温度分布を示す模式的横断面図である。図10Aは、図10BのA-A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[水素充填システムの構成]
図1は、実施形態に係るガス充填方法が適用された実施形態に係る水素充填システム10の構成を示す。
【0015】
水素充填システム10は、二点鎖線の左側に示す、充填ステーション(充填スタンド)である水素ステーション14と、二点鎖線の右側に示す燃料電池車両(車両)16と、から構成される。
【0016】
水素ステーション14は、燃料ガスである水素ガス(ガス)の供給源である蓄圧器20を有する。
【0017】
車両16は、前記蓄圧器20から供給されるガスを充填する水素タンク(タンク)50を搭載している。
【0018】
車両16は、充填されたガスを貯留するタンク50の他に、燃料電池(不図示)と、走行用のモータ(不図示)と、を備える。
【0019】
前記燃料電池は、タンク50から供給される燃料ガスとコンプレッサ(不図示)から供給される酸化剤ガス(空気)との電気化学反応により発電する。
【0020】
車両16は、前記燃料電池で発電した電力を用いて前記モータを駆動しで走行する燃料電池自動車である。
【0021】
燃料電池自動車には、相対的に小型の乗用車や、バス及びトラック等の大型車両が含まれる。
【0022】
燃料電池自動車は、ガスを貯留するタンク50と前記燃料電池を備え、地上を走行する移動体である。
【0023】
この発明が適用される移動体としては、地上を走行する移動体に限らず、飛行機、船、潜水艦等を含む。
【0024】
図1に示すように、水素ステーション14は、ディスペンサECU(Electronic Control Unit)22を有し、車両16は、通信ECU52を有する。
【0025】
図1中、破線で描いている通信ECU52と該通信ECU52に関連する構成要素は、実施形態に係るガス充填方法を実施(使用)する上では、必要ではない。
【0026】
ディスペンサECU22及び通信ECU52は、制御装置であり、1以上のプロセッサ(CPU)、メモリ(記憶装置)、タイマ(計時器)、カウンタ(計数器)、入出力インタフェース及び電子回路を有するコンピュータにより構成される。
【0027】
1以上の前記プロセッサ(CPU)は、前記メモリに記憶されたプログラムを実行する。前記メモリには、前記プログラムの他、取得した物理量等のデータ及び該データにより参照される各種制御マップが記録されている。
【0028】
前記プロセッサ(CPU)は、取得した物理量等に基づき前記プログラムに従って必要に応じて前記制御マップを参照し演算(各種機能)を実行する。
【0029】
図1において、車両16は、タンク50からレセプタクル54まで延びる車両配管(配管)56と、データ信号Dtを水素ステーション14へ送受信する赤外線等による通信機58と、を備える。
【0030】
タンク50とレセプタクル54とを接続する車両配管56には、ダストフィルタ60と、レセプタクル54の近くに設けられタンク50側からレセプタクル54へガスが逆流するのを防止するための逆止弁62と、が設けられる。
【0031】
タンク50の内部には、タンク内温度センサ64が設けられ、タンク50の近くの車両配管56には、圧力センサ66が設けられる。
【0032】
通信ECU52は、タンク内温度センサ64により検出されるタンク温度Ttと、圧力センサ66により検出されるタンク50内の圧力(タンク圧力)Ptを取得し、データ信号Dtを生成する。
【0033】
生成されたデータ信号Dtは、通信機58を介し、水素ステーション14に設けられた通信機38を通じてディスペンサECU22に送出される。
【0034】
水素ステーション14に設けられた通信機38は、ノズル48に一体的に取り付けられている。
【0035】
通信機38は、水素ステーション14のノズル48が車両16のレセプタクル54に接続されると、車両16に設けられた通信機58と対向する。これにより通信機38、58間で赤外線等の無線を介したデータ信号Dt等の送受信が可能になる。
【0036】
水素ステーション14の蓄圧器20には、車両16のタンク50に供給するための高圧の水素ガスが貯蔵されている。
【0037】
蓄圧器20には、遮断弁24が設けられている。遮断弁24からノズル48まで延びるステーション配管46が、遮断弁24とノズル48との間に接続されている。蓄圧器20には圧縮機(不図示)から高圧の水素ガスが供給される。高圧の水素ガスは、圧縮機から直接車両16に供給されることもある。また液体水素を直接加圧及び加熱して高圧の水素ガスを得ても良い。
【0038】
ステーション配管46と車両配管56とからなる配管100によって蓄圧器20とタンク50とが接続(連通)される。
【0039】
ステーション配管(配管)46には、遮断弁24からノズル48に向かって、質量流量センサ(MFM:Mass Flow Meter、流量センサ)26と、流量調整弁28と、プレクーラ(Pcool:Pre Cooler)30と、ブレークアウェイ(BA:Break Away)32と、が設けられている。ステーション配管46中、ブレークアウェイ32とノズル48との間は、可撓性のあるホースとして構成されている。
【0040】
プレクーラ30とブレークアウェイ32との間のステーション配管46には、圧力センサ34と温度センサ36とが設けられる。
【0041】
圧力センサ34は、遮断弁24が開いているときの蓄圧器20(水素ステーション14)のガス圧力をディスペンサ圧力(ガス圧力)Pdとして検出する。温度センサ36は、蓄圧器20から供給されるガスの温度をディスペンサ温度(ガス温度)Tdとして検出する。
【0042】
流量センサ26は、配管100に流れるガスの質量流量(流量)mを検出する。
【0043】
圧力センサ34、温度センサ36及び流量センサ26によりそれぞれ検出されるディスペンサ圧力Pd、ディスペンサ温度Td、及び流量mは、ディスペンサECU22により物理量として取得される。
【0044】
遮断弁24は、ディスペンサECU22から出力される開閉信号Socにより弁を開弁及び閉弁する。遮断弁24は、閉信号の開閉信号Socにより弁を開状態から閉状態に遷移させ、閉状態を維持する。遮断弁24は、開信号の開閉信号Socにより弁を閉状態から開状態に遷移させ、開状態を維持する。
【0045】
流量調整弁28は、ディスペンサECU22から出力される流量調整信号Sasにより弁の開度を連続的に調整可能である。言い換えれば、流量調整信号Sasにより弁開度が調整される流量調整弁28により、配管100中のガス流量の連続的な調整が可能である。配管100中のガス流量を調整することによりディスペンサ圧力Pdが制御(調整)される。
【0046】
プレクーラ30は、蓄圧器20から車両配管56に供給されるガスをタンク50に充填される前の位置で冷却して、タンク50内のガスの温度上昇を抑制し、急速充填を可能にする。冷却されたガスの温度がプレクール温度である。
【0047】
ブレークアウェイ32は、蓄圧器20とノズル48の間に接続された安全装置である。ノズル48が強い外力で引きずられた場合 、ブレークアウェイ32は、自動的に、自身の弁を閉じて流路を密閉しガスフローを遮断する。
【0048】
水素ステーション14には、気温Taを検出する大気温度センサ(温度センサ)42が設けられる。大気温度センサ42により検出された気温Taは、ディスペンサECU22により取得される。
【0049】
[ディスペンサECUの構成]
図2は、ディスペンサECU22の構成を示すブロック図である。
【0050】
ディスペンサECU22の内部には、温度センサ36が検出した温度を受信する温度検出部22a、圧力センサ34が検出した圧力を受信する圧力検出部22b、流量センサ26が検出した流量mを受信する流量検出部22c、流量調整弁28の弁開度を調整することより、配管100を介してノズル48から供給するガスの圧力を調整する流量制御部22d、及び目標昇圧率(昇圧率)Rptarを設定する充填制御部22eを備える。充填制御部22eは、予め準備された目標昇圧率マップ22fに基づいて、目標昇圧率Rptarの制御を行う。目標昇圧率マップ22fには、さまざまな外気温やプレクール温度に応じた昇圧率の表等が含まれる。
【0051】
[実施形態に係るガス充填方法]
実施形態に係るガス充填方法が適用される水素充填システム10及びディスペンサECU22は、基本的には以上のように構成される。ここで、実施形態に係るガス充填方法について図3で説明する。
【0052】
ディスペンサECU22は、タンク圧力(タンク50内のガスの圧力)Ptの時間変化量である目標昇圧率(昇圧率)Rptar(圧力/時間)を設定する。なお、タンク圧力Ptとしては、ディスペンサ圧力Pd、ディスペンサ圧力Pdから配管100の圧損を差し引いた圧力、又は圧力センサ66により検出される実際のタンク圧力Ptのうちいずれを用いてもよい。目標昇圧率Rptarの設定は、一定昇圧率(線形)又は非線形の昇圧率を設定可能である。
【0053】
図3に示すように、目標昇圧率Rptarは、微小な所定時間であるタイムステップΔt間でのタンク圧力Ptの目標上昇分としての目標昇圧量ΔPt_nextで表される Rptar=(ΔPt_next)/Δt。
【0054】
ディスペンサECU22は、目標昇圧率マップ22fに基づいて、タンク圧力Ptが目標昇圧率Rptarにより昇圧するように流量制御部22dによりガスの流量を調整する。すなわち、ディスペンサECU22は、タンク圧力Ptが目標昇圧率Rptarにより上昇するようにタンク50内にガスを充填する。
【0055】
図3にはこの発明に係わるタンク圧力Ptの時間変化を実線で示す。目標昇圧率Rptarにより上昇するタンク圧力Ptは、点線で示す上限圧力と下限圧力を有する。上限圧力は、タンク50内にガスを充填中に、タンク50の温度が所定温度を超えないように設定された圧力である。上限圧力は、上昇するタンク圧力Ptよりも5~10Mpa程度高い圧力に設定される。下限圧力は、タンク50の温度が所定温度よりも低下しないように設定された圧力である。タンク50の温度が所定温度よりも低下するとガスの密度が高まるため、タンク50に過剰な量のガスが充填される可能性がある。下限圧力は、上昇するタンク圧力Ptよりも2~5Mpa程度低い圧力に設定される。上限圧力と下限圧力は、各種の標準規格によって規定されている。
【0056】
充填が進むにつれて上昇するタンク圧力Ptにおける上限圧力と下限圧力との差が圧力公差幅である。昇圧率を設定する場合、タンク50の圧力は、上限圧力と下限圧力の間であって、圧力公差幅の中に位置する。
【0057】
タンク50は、温度分離圧力(Ps)を有することがある。温度分離圧力Psは、ガスを充填する際にタンク50内において、ガスの攪拌が不足するため、ガスの温度が均一でなくなり一部領域に高温部が発生する圧力である。この場合、タンク50内では高温部と低温部との間で温度分布、すなわち温度分離が発生している。通常、タンク50内のガスの圧力が50~60Mpa以上になると温度分離が発生しやすい。図10A図10Bは、温度分離が発生した様子を模式図的に示している。
【0058】
温度分離圧力Psは、タンク容量、タンク形状、昇圧率、外気温、ガス温度、吹き出しノズルの形状等によって変化し、実験やシミュレーション等により予め設定されている(温度分離圧力Psを設定する工程)。昇圧率が低いと吹き出しガスの体積流量が減り内部撹拌力が弱まるので、温度分離圧力Psが低くなる。また外気温が高く、流入するガスの温度(プレクール温度)が低いと、タンク50内でガスの浮力差が大きくなり、温度分離圧力Psが低くなる。
タンク圧力Ptが相対的に低いとき、供給されるガスの体積流量が多いため、タンク50の内部が十分に攪拌され、温度が均一になり温度分離は発生しにくい。しかし、充填が進んでタンク圧力Ptが上昇して来ると、供給されるガスの体積流量が減少し、ガスが攪拌されにくくなり温度分離が発生する。
【0059】
図3に示すように、この発明ではタンク50内のガスの圧力が温度分離圧力Ps付近(時間Ts)に到達すると、昇圧率を上昇させる。換言すると温度分離圧力Psを超えた昇圧率(勾配:Rptar=(ΔPt_next‘)/Δt)は、温度分離圧力Psを超える前の昇圧率(勾配:Rptar=(ΔPt_next)/Δt)よりも大きい。温度分離圧力Psを超えた後の昇圧率は、温度分離圧力Psを超える前の昇圧率よりも、例えば50~100%程度大きく設定するのが好ましい。これにより、タンク50内に流入するガスの流量が増える。したがって、タンク50内のガスの攪拌が促進され温度分離の発生を効果的に抑制することができる。また昇圧率が上昇することによりガスを充填するのに要する時間を短縮することができる。この場合、タンク50内のガスの圧力が図3に点線で示す上限圧力を超えないような昇圧率でガスの圧力を上昇させる。
【0060】
時間とともにタンク50内のガスの圧力が上昇して、時間Tendにおいて満充填圧力Pendに到達すると満充填の状態となり充填が完了する。
【0061】
[実施形態に係るガス充填方法のフローチャートによる説明]
次に実施形態に係るガス充填方法が適用された実施形態に係る水素充填システム10の動作について、図4に示すフローチャートに基づいて詳しく説明する。なお、特に断らない限り、フローチャートに係るプログラムを実行するのは、ディスペンサECU22のCPUであるが、これをその都度記載するのは煩雑になるので、単にCPUともいう。
【0062】
ガス充填を開始する前に、水素ステーション14の蓄圧器20の遮断弁24が閉じられた状態で、作業者等により、車両16のレセプタクル54に、水素ステーション14のノズル48が嵌合される。
【0063】
作業者等により、水素ステーション14の充填開始ボタン(不図示)が操作されると、CPUは、少量の水素を充填するプレショット充填を行い水素ステーション14側と車両16のタンク50の圧力を均圧化する。さらに、CPUは、タンク圧力Ptを指示(検出)している圧力センサ34によりディスペンサ圧力Pdを得、車両16の初期タンク圧力P0を計測する(Pd=Pt=P0)。
【0064】
ステップS1にて、CPUは、遮断弁24を開くことにより蓄圧器20からタンク50に向けてガスを流通させる。
【0065】
ステップS2にて、CPUは、図2に示した充填制御部22eにより目標昇圧率マップ22fを参照して、昇圧率を設定し、ガスの充填を進める。
【0066】
ステップS3にて、CPUは、圧力検出部22bが検出したタンク圧力Ptが温度分離圧力Ps(時間:T=Ts)になったか否かを確認し(温度分離圧力検出工程)、肯定的(ステップS3:YES)な場合には、処理をステップS4の昇圧率の上昇を進める。
【0067】
ステップS4にて、CPUは、図2に示した充填制御部22eにより目標昇圧率マップ22fを参照して、タンク50内のガスの圧力がPsよりも低い場合の昇圧率と比べて高い昇圧率でガスの充填を進める(昇圧率上昇工程)。
【0068】
ステップS5にて、CPUは、圧力検出部22bが検出したタンク圧力Ptが満充填圧力Pendに到達したかを確認し、満充填圧力Pend(時間:T=Tend)に到達したときに今回の充填処理を終了する。
【0069】
[変形例1に係るガス充填方法]
変形例1に係るガス充填方法について図5に基づいて説明する。
【0070】
変形例1に係るガス充填方法では、タンク50内のガスの圧力が温度分離圧力Psb(=Ps)付近(時間:T=Tsb)に到達する前に、温度分離圧力Psbよりも低い圧力である昇圧率下降開始圧力Psa付近(時間:T=Tsa)に到達した時に昇圧率が降下する。換言すると昇圧率下降開始圧力Psaを超えた後の昇圧率を示す直線の勾配は、昇圧率下降開始圧力Psaを超える前の昇圧率を示す直線の勾配よりも小さい。これにより、充填が進むにつれてタンク50の圧力が下限圧力に近づくので、その後タンク圧力Ptが温度分離圧力Psbに到達した後、圧力公差幅内で昇圧率をより大きく設定できる。なお、タンク圧力Ptは常に下限圧力よりも大きく維持するする必要がある。タンク圧力Ptは、前述した圧力公差幅内であるように昇圧率を制御する。
【0071】
昇圧率下降開始圧力Psaは、温度分離圧力Psbより小さく、温度分離圧力Psb近傍の圧力に設定される。
【0072】
タンク50内のガスの圧力が温度分離圧力Psb付近(時間:T=Tsb)に到達すると昇圧率が上昇する。換言すると温度分離圧力Psbを超えた後の昇圧率を示す直線の勾配は、温度分離圧力Psbを超える前の昇圧率を示す直線の勾配よりも大きい。これによりタンク50内のガスの圧力が上昇し、タンク50内に流入するガスの流量が増え攪拌効果が高まる。したがって、温度分離の発生を効果的に抑制することができる。この場合、タンク50内のガスの圧力は、図5の点線で示す上限圧力を超えないように上昇する。
【0073】
時間とともにタンク50内のガスの圧力が上昇して、時間Tendにおいて満充填圧力Pendに到達すると充填が完了する。
【0074】
[変形例1に係るガス充填方法のフローチャートによる説明]
次に変形例1に係るガス充填方法が適用された水素充填システム10の動作について、図6に示すフローチャートに基づいて詳しく説明する。
【0075】
ステップS11にて、CPUは、遮断弁24を開くことにより蓄圧器20からタンク50に向けてガスを流通させる。
【0076】
ステップS12にて、CPUは、図2に示した充填制御部22eにより目標昇圧率マップ22fを参照して、昇圧率を設定し、ガスの充填を進める。
【0077】
ステップS13にて、CPUは、圧力検出部22bが検出したタンク50内のガスの圧力が昇圧率下降開始圧力Psa(時間:T=Tsa)になったか否かを確認し、肯定的(ステップS13:YES)な場合には、処理をステップS14の昇圧率の下降を進める。
【0078】
ステップS14にて、CPUは、図2に示した充填制御部22eにより目標昇圧率マップ22fを参照して、タンク50内のガスの圧力がPsaよりも低い場合の昇圧率と比べて低い昇圧率でガスの充填を進める(昇圧率下降工程)。この場合、タンク50内のガスの圧力は常に下限圧力を超える圧力となるように昇圧率を設定しガスの充填を進める。
【0079】
ステップS15にて、CPUは、圧力検出部22bが検出したタンク50内のガスの圧力が温度分離圧力Psb(時間T=Tsb)になったか否かを確認し(温度分離圧力検出工程)、肯定的(ステップS15:YES)な場合には、処理をステップS16の昇圧率の上昇を進める。
【0080】
ステップS16にて、CPUは、図2に示した充填制御部22eにより目標昇圧率マップ22fを参照して、タンク50内のガスの圧力がPsbよりも低い場合の昇圧率と比べて高い昇圧率でガスの充填を進める(昇圧率上昇工程)。
【0081】
ステップS17にて、CPUは、ディスペンサ圧力Pdがタンク50の満充填圧力Pendに到達したか、確認し、満充填圧力Pendに到達したときに今回の充填処理を終了する。
【0082】
[変形例2に係るガス充填方法]
変形例2に係るガス充填方法について図7に基づいて説明する。
【0083】
変形例2に係るガス充填方法では、タンク50内のガスの圧力が温度分離圧力Ps付近(時間:T=Ts)に到達すると、昇圧率が上昇する。その後、温度分離圧力Psよりも大きい所定の圧力に到達すると、変形例1に示すガス充填方法と同様に昇圧率が低下する。さらに、その後、昇圧率の上昇と下降を繰り返し(昇圧率昇降工程)、時間Tendにおいてタンク50内のガスの圧力が満充填圧力Pendに到達すると充填が完了する。昇圧率の上昇と下降の繰り返し回数は特に限定されず、1回でも複数回でもよい。タンク50内のガスの圧力は、常に前述した圧力公差幅内になるような昇圧率で充填制御を行う。
【0084】
[変形例2に係るガス充填方法のフローチャートによる説明]
次に変形例2に係るガス充填方法が適用された水素充填システム10の動作について、図8及び図9に示すフローチャート及びサブルーチンに基づいて詳しく説明する。
【0085】
ステップS21にて、CPUは、遮断弁24を開くことにより蓄圧器20からタンク50に向けてガスが流通する。
【0086】
ステップS22にて、CPUは、図2に示した充填制御部22eにより目標昇圧率マップ22fを参照して、昇圧率を設定し、ガスの充填を進める。
【0087】
ステップS23にて、CPUは、圧力検出部22bが検出したタンク50内のガスの圧力が温度分離圧力Psになったか否かを確認し(温度分離圧力検出工程)、肯定的(ステップS23:YES)な場合には、処理を多段昇圧率サブルーチンS24で進める。
【0088】
図9は、多段昇圧率サブルーチンS24の詳細なフローチャートを示している。
ステップS24aにて、CPUは、図2に示した充填制御部22eにより目標昇圧率マップ22fを参照して、タンク50内のガスの圧力がPsよりも低い場合の昇圧率と比べて高い昇圧率でガスの充填を進める(昇圧率上昇工程)。
【0089】
ステップS24bにて、CPUは、圧力検出部22bが検出したタンク50の圧力が温度分離圧力Ps+ΔP1になったか否かを確認し、肯定的(ステップS24b:YES)な場合には、処理をステップS24cに進める。
【0090】
ΔP1は、タンク50内のガスの圧力(Ps+ΔP1)が上限圧力に到達しない圧力であって、タンク50の大きさ、タンク50内温度分布の発生状況、最適充填時間等を考慮して適宜設定される。
【0091】
ステップS24cにて、CPUは、圧力検出部22bが検出したタンク50の圧力が満充填圧力(Pend)になったか否かを確認し、肯定的(ステップS24c:YES)な場合は、充填処理を完了する。一方、否定的(ステップS24c:NO)な場合は、処理をステップS24dの昇圧率の下降に進める。
【0092】
ステップS24dにて、CPUは、図2に示した充填制御部22eにより目標昇圧率マップ22fを参照して、タンク50内のガスの圧力がPsよりも低い場合の昇圧率と比べて低い昇圧率でガスの充填を進める(昇圧率下降工程)。この場合、タンク50内のガスの圧力は常に下限圧力を超える圧力となるように昇圧率を設定しガスの充填を進める。
【0093】
ステップS24eにて、CPUは、圧力検出部22bが検出したタンク50の圧力が温度分離圧力Ps+ΔP2になったか否かを確認し、肯定的(ステップS24b:YES)な場合には、処理をステップS24fに進める。
【0094】
ΔP2は、タンク50内のガスの圧力(Ps+ΔP2)が上限圧力に到達しない圧力であって、タンク50の大きさ、タンク50内におけるガスの温度分布の状態、最適充填時間等を考慮して適宜設定される。なお、ΔP2はΔP1よりも大きい圧力である。
【0095】
ステップS24fにて、CPUは、ΔP1とΔP2に対して、それぞれ所定の増加分の圧力αと圧力βを加算し、処理をS24gに進める。
【0096】
ステップS24gにて、CPUは、圧力検出部22bが検出したタンク50の圧力が満充填圧力Pendに到達したか確認し、肯定的(ステップS24g:YES)な場合は、サブルーチンを抜けて充填処理を完了する。一方、否定的(ステップS24g:NO)な場合は、多段昇圧率サブルーチンS24の最初に戻り、処理をステップS24aの昇圧率の上昇に進める。
【0097】
[実施形態から把握し得る発明]
ここで、上記実施形態から把握し得る発明について、以下に記載する。なお、理解の便宜のために構成要素の一部には、上記実施形態で用いた符号を付けているが、該構成要素は、その符号を付けたものに限定されない。
【0098】
(1)この発明に係るガス充填方法は、タンク50とガスの蓄圧器20とを配管100で接続し、前記蓄圧器から前記配管を介して前記タンク50にガスを供給し、前記タンク50内にガスを充填するガス充填方法であって、前記タンク内に、ガスを充填中に、温度分離が発生するガスの圧力である温度分離圧力Psを設定する工程と、ガスを充填中に、前記タンク50内の圧力が前記温度分離圧力になったか否かを検出する温度分離圧力検出工程(S3)と、前記温度分離圧力に到達した後に、前記タンク50の昇圧率を上昇させて前記タンク50内にガスを充填する昇圧率上昇工程(S4)と、を備える。
【0099】
この構成により、タンク圧力Ptが予め設定した温度分離圧力Psに到達し、温度分離が発生し始める時、温度分離圧力Psに到達する前と比べて昇圧率を上昇させ、供給されるガスの体積流量を増やしタンク50内でガスの攪拌が促進される。これにより、タンク50内に攪拌を促進するための特別な機構を設けることなく、水素ステーション14の充填制御による簡易な方法で、タンク50内の温度分離の発生を抑制するとともに、蓄圧器20から配管100を介してタンク50内に短時間でガスの充填を完了することができ、高性能で高効率のガス充填を達成できる。
【0100】
(2)また、ガス充填方法においては、前記昇圧率の上昇は、圧力公差幅内で行われるようにしてもよい。
【0101】
これにより、タンク圧力Ptは圧力公差幅の上限圧力よりも高くならないとともに、下限圧力よりも低くなることがない。タンク圧力Ptが上限圧力よりも高くなることがないので、タンク温度Ttの所定温度を超えることなく、タンク50がダメージを受けることはない。タンク圧力Ptが下限圧力よりも低くなることがないので、ガス密度が上昇して、過剰なガスが充填されることを抑制することができる。
【0102】
(3)さらに、ガス充填方法においては、前記タンク50内の圧力が、温度分離圧力Psに到達する前に、前記圧力公差幅内で前記昇圧率を低下させて充填する昇圧率下降工程(S14)を含んでもよい。
【0103】
これにより、圧力公差幅を有効に活用し圧力公差幅内で昇圧率を更に高く設定することができ、ガスの攪拌を一層促進させることができる。
【0104】
(4)さらにまた、ガス充填方法においては、前記昇圧率上昇工程の後に、前記昇圧率の下降と前記昇圧率の上昇とを繰り返してガスを充填する昇圧率昇降工程を含んでもよい。
【0105】
これにより、圧力公差幅内で、前記昇圧率を変化させることによりタンク50内のガスの攪拌を一層促進させることができる。
【0106】
なお、この発明は、上述した開示に限らず、この発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0107】
10…水素充填システム 14…水素ステーション
16…車両 20…蓄圧器
22…ディスペンサECU 24…遮断弁
26…流量センサ 28…流量調整弁
34…圧力センサ 36…温度センサ
46…ステーション配管 48…ノズル
50…タンク 54…レセプタクル
56…車両配管 100…配管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10