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  • 特開-ブレース内蔵型の耐力壁と建物架構 図1
  • 特開-ブレース内蔵型の耐力壁と建物架構 図2
  • 特開-ブレース内蔵型の耐力壁と建物架構 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048566
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】ブレース内蔵型の耐力壁と建物架構
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
E04H9/02 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154542
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】松田 誠樹
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC33
2E139AD03
2E139BA05
2E139BD15
2E139BD22
(57)【要約】
【課題】中規模地震の地震荷重を繰り返し受ける場合でも、ブレースの変形を弾性域内に確実に留めておくことができ、大地震時におけるエネルギー吸収性に優れたブレース内蔵型の耐力壁と建物架構を提供すること。
【解決手段】鋼製の一対の縦材40と、一対の縦材40の間に架け渡される鋼製のブレース50とを少なくとも備える、ブレース内蔵型の耐力壁30であり、ブレース50には、ブレース50にプレストレス力P2を付加する、プレストレス力付加材60が取り付けられており、プレストレス力P2は、ブレース50の弾性域における荷重のうち、ブレース50の降伏点強度に近接した荷重領域に設定されている。また、建物架構70は、鉄骨梁20と複数の鉄骨柱10とを有し、内部に耐力壁30が配設されて形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の一対の縦材と、該一対の縦材の間に架け渡される鋼製のブレースとを少なくとも備える、ブレース内蔵型の耐力壁であって、
前記ブレースには、該ブレースにプレストレス力を付加する、プレストレス力付加材が取り付けられており、
前記プレストレス力は、前記ブレースの弾性域における荷重のうち、該ブレースの降伏点強度に近接した荷重領域に設定されていることを特徴とする、ブレース内蔵型の耐力壁。
【請求項2】
前記ブレースは鋼板ブレースであり、
前記プレストレス力付加材は、複数の緊張バーと、各緊張バー同士を引き付ける複数の緊張材とを有し、
前記鋼板ブレースの2つの広幅面に対して、複数の前記緊張バーが千鳥状に配設されて双方の該広幅面に当接し、各緊張バーを前記緊張材が前記プレストレス力にて引き付けることにより、該緊張バーが該鋼板ブレースを該プレストレス力にて緊張することを特徴とする、請求項1に記載のブレース内蔵型の耐力壁。
【請求項3】
前記ブレースが降伏点強度以上の地震荷重を受けた際に、該ブレースが塑性変形して地震エネルギーを吸収することを特徴とする、請求項1に記載のブレース内蔵型の耐力壁。
【請求項4】
鉄骨梁と、複数の鉄骨柱とを有し、内部に請求項1乃至3のいずれか一項に記載のブレース内蔵型の耐力壁が配設されていることを特徴とする、建物架構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレース内蔵型の耐力壁と建物架構に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造建物を構成する建物架構(鉄骨架構)には、ブレースを内蔵したブレース内蔵型の耐力壁が一般に適用される。ところで、昨今、国内では震度5強乃至震度6弱程度の中規模地震が頻発しており、各地において震度6強以上の大規模地震の発生が危惧されている。
【0003】
耐力壁を構成するブレースは、中規模地震による地震荷重を受けた際には、その弾性域内において初期状態に復元可能な弾性変形をするように設計されているケースが往々にしてある一方で、中規模地震の地震荷重を繰り返し受けている場合に、実際にブレースが弾性域内での変形に留まり、初期状態に戻っているか否かについては、ブレースの内部を検証してみなければ分からないのが現実である。
【0004】
以上のことから、震度6弱程度以下の中規模地震を繰り返し受ける場合でも、ブレースの変形を弾性域内に確実に留めておくことにより、大規模地震時(大地震時)の地震荷重を受けた際にブレースがはじめて塑性域に達し、大地震時における地震エネルギー吸収性を発揮できることから、このようなブレース内蔵型の耐力壁と、当該耐力壁を備えた建物架構の開発が望まれる。
【0005】
ここで、特許文献1には、ダンパー付き耐力壁が提案されている。具体的には、隣合う柱の間にブレースを設け、このブレースの下端を、ダンパーを介して片方の柱の下部に接合したダンパー付き耐力壁である。ここで、ダンパーは、互いに上下に位置して平行に配置される一対の平行板部と、これら一対の平行板部を連結して壁面に対する出入り方向の傾斜部分を有するエネルギー吸収用の板状のウェブ部と、上下一対の平行板部の一端同士および他端同士をそれぞれ接合した柱接合用およびブレース接合用の垂直材とを有する。柱接合用の垂直材は柱の側面に接合され、ブレース接合用の垂直材は一対の平行板部のうちの上側の平行板部よりも上方に突出した上方突出部を有し、この上方突出部に接合金物を介してブレースの下端が接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-221980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のダンパー付き耐力壁によれば、ダンパーに通常の鋼材を適用でき、ダンパーにスリット等の加工を施すことなく、安定したエネルギー吸収性が得られ、柱芯とブレース芯との交点のずれが発生し難いといった様々な効果が奏される。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のダンパー付き耐力壁もその内部にブレースを備えるものの、上記するように、中規模地震を繰り返し受けた際に、ブレースの変形を弾性域内に確実に留めておくことができるか否かは定かでなく、少なくともこのための手段の開示はない。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、中規模地震の地震荷重を繰り返し受ける場合でも、ブレースの変形を弾性域内に確実に留めておくことができ、大地震時におけるエネルギー吸収性に優れたブレース内蔵型の耐力壁と建物架構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明によるブレース内蔵型の耐力壁の一態様は、
鋼製の一対の縦材と、該一対の縦材の間に架け渡される鋼製のブレースとを少なくとも備える、ブレース内蔵型の耐力壁であって、
前記ブレースには、該ブレースにプレストレス力を付加する、プレストレス力付加材が取り付けられており、
前記プレストレス力は、前記ブレースの弾性域における荷重のうち、該ブレースの降伏点強度に近接した荷重領域に設定されていることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、鋼製のブレースに対して、プレストレス力を付加するプレストレス力付加材が取り付けられていて、ブレースに付加されるプレストレス力が、ブレースの弾性域における荷重のうちのブレースの降伏点強度に近接した荷重領域に設定されていることにより、ブレースの弾性域の中でも降伏点強度に近接した地震荷重をブレースに付与する可能性の高い中規模地震の地震荷重に対しては、ブレースに導入されているプレストレス力にて対抗することができるため、中規模地震の地震荷重を受けた際にブレースが塑性域に達してしまうことを抑制もしくは抑止できる。
【0012】
ここで、「ブレースの弾性域における荷重のうち、ブレースの降伏点強度に近接した荷重領域」とは、例えば、降伏点強度を100とした際に、70乃至100未満の範囲程度を意味しており、例えば、ブレースの許容応力値相当の荷重から降伏点強度未満の範囲に設定できる。
【0013】
尚、ブレースの弾性域における初期の領域(降伏点強度が100の場合に、50以下の領域)では、ブレースの初期の耐力がそのまま対抗することができる。
【0014】
ここで、プレストレス力付加材は、ブレースの全域に取り付けてもよいし、ブレースのうち、脚部近傍や頭部近傍、中央部など、ブレースの一部に取り付けてもよい。
【0015】
また、ブレース内蔵型の耐力壁は、一対の縦材とこれらに架け渡されるブレースを少なくとも備えているが、この一対の縦材は、耐力壁に固有の縦材(柱)であってもよいし、一対の縦材の一方は建物架構を形成する柱(鉄骨柱)であってもよい。
【0016】
また、本発明によるブレース内蔵型の耐力壁の他の態様において、
前記ブレースは鋼板ブレースであり、
前記プレストレス力付加材は、複数の緊張バーと、各緊張バー同士を引き付ける複数の緊張材とを有し、
前記鋼板ブレースの2つの広幅面に対して、複数の前記緊張バーが千鳥状に配設されて双方の該広幅面に当接し、各緊張バーを前記緊張材が前記プレストレス力にて引き付けることにより、該緊張バーが該鋼板ブレースを該プレストレス力にて緊張することを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、プレストレス力付加材が複数の緊張バーと各緊張バー同士を引き付ける複数の緊張材を備え、鋼板ブレースに対して複数の緊張バーが千鳥状に配設されて双方の広幅面に当接し、各緊張バーを緊張材がプレストレス力にて引き付けることにより、鋼板ブレースの一部領域もしくは全領域に対して、所定のプレストレス力を常時付与することができる。ここで、緊張材には、PC(Prestressed Concrete)鋼棒やPC鋼線等の他、ピアノ線等が適用できる。
【0018】
また、本発明によるブレース内蔵型の耐力壁の他の態様は、
前記ブレースが降伏点強度以上の地震荷重を受けた際に、該ブレースが塑性変形して地震エネルギーを吸収することを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、ブレースが降伏点強度以上の地震荷重を受けた際に、ブレースが塑性変形して地震エネルギーを吸収することにより、繰り返し作用する中規模地震時の地震荷重に対してはプレストレス力を付与されたブレースがその弾性域内の変形にて対抗し、降伏点強度以上の大地震時の地震荷重に対してはブレースの塑性変形により、大地震時の地震エネルギーを吸収して、耐力壁を含む建物架構の崩壊を防止することができる。
【0020】
従って、大地震を受けるまではブレースの弾性変形が保証されてその繰り返し利用が可能であり、大地震の際には建物の崩壊防止に寄与するブレースを備えた耐力壁を形成することができる。
【0021】
また、本発明による建物架構の一態様は、
鉄骨梁と、複数の鉄骨柱とを有し、内部に前記ブレース内蔵型の耐力壁が配設されていることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、本発明の耐力壁が内部に配設されることにより、大地震時の地震エネルギーを吸収して、大地震時における建物の崩壊を防止することができる。ここで、対象の鉄骨建物が2階以上の建物である場合は、本態様の建物架構は、1階と上階の一部もしくは全部に配設されてよい。
【発明の効果】
【0023】
以上の説明から理解できるように、本発明のブレース内蔵型の耐力壁と建物架構によれば、中規模地震の地震荷重を繰り返し受ける場合でも、ブレースの変形を弾性域内に確実に留めておくことができ、大地震時におけるエネルギー吸収性に優れた耐力壁及び建物架構となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態に係るブレース内蔵型の耐力壁を備えた建物架構の一例の正面図である。
図2図1のII部の拡大図であって、ブレースに対するプレストレス力付加材の取り付け状態を、ブレースに付与されるプレストレス力とともに示す図である。
図3】鋼板ブレースの荷重(応力)-変位(ひずみ)曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施形態に係るブレース内蔵型の耐力壁と建物架構について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0026】
[実施形態に係るブレース内蔵型の耐力壁と建物架構]
図1乃至図3を参照して、実施形態に係るブレース内蔵型の耐力壁と建物架構の一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係るブレース内蔵型の耐力壁を備えた建物架構の一例の正面図であり、図2は、図1のII部の拡大図であって、ブレースに対するプレストレス力付加材の取り付け状態を、ブレースに付与されるプレストレス力とともに示す図である。また、図3は、鋼板ブレースの荷重(応力)-変位(ひずみ)曲線の一例を示す図である。
【0027】
建物架構70は、複数(図示例は2本)の鉄骨柱10と鉄骨梁20とを備えた架構内に、耐力壁30が配設されることにより形成される。
【0028】
図示例の鉄骨柱10は角形鋼管により形成され、鉄骨梁20はH形鋼により形成されている。ここで、鉄骨柱10はH形鋼等の形鋼材により形成されてもよく、鉄骨梁20はH形鋼以外の形鋼材により形成されてもよい。
【0029】
鉄骨柱10と鉄骨梁20との接合は、例えば、複数のハイテンションボルトにより双方を接合する形態や双方を溶接接合する形態、複数の中ボルトを相互に所定間隔を置いて双方を接合する形態などにより形成される。
【0030】
鉄筋コンクリート製の基礎25に対してベースプレート11がアンカーボルト(図示せず)等により固定され、ベースプレート11に対して溶接等により接合されている鉄骨柱10が立設される。ここで、図示例の建物架構70は1階の架構の一部を示しているが、耐力壁30が組み込まれる建物架構70は、2階以上の上階であってもよく、この場合は基礎25の代わりに下階の床梁が配設されることになる。
【0031】
耐力壁30は、鋼製の一対の縦材40と、一対の縦材40の間に架け渡される鋼製の2本のブレース50とを備える、ブレース内蔵型の耐力壁である。
【0032】
図示例の縦材40は角形鋼管により形成され、ブレース50はSS400等の軟鋼からなる鋼板ブレースである。ここで、縦材40は、H形鋼等の形鋼材により形成されてもよい。
【0033】
ブレース50のうち、脚部の近傍には、ブレース50に対してプレストレス力P2を付加する、プレストレス力付加材60が取り付けられている。ここで、図示例は、ブレース50の下方の一部にプレストレス力付加材60が取り付けられているが、ブレース50の中央部や上部の他、ブレース50の全域にプレストレス力付加材60が取り付けられてもよい。
【0034】
図2に示すように、プレストレス力付加材60は、複数(図示例は4本)の緊張バー61と、間隔を置いて隣接する緊張バー61の両端同士を繋ぐ複数の緊張材63とを有する。
【0035】
ここで、緊張バー61は鋼棒等により形成され、緊張材63はPC鋼棒やPC鋼線、ピアノ線等により形成される。また、緊張バー61が鋼板ブレース50の広幅面51の表面を滑らずに当該広幅面51にプレストレス力を効果的に付与するべく、緊張バー61の表面に不図示の突起が設けられていたり、表面粗度が大きくなるブラスト処理等の措置が講じられているのが好ましい。
【0036】
鋼板ブレース50の2つの広幅面51に対して、4本の緊張バー61が千鳥状に配設されて双方の広幅面51に当接し、各緊張バー61を左右の緊張材63がそれぞれプレストレス力P1にて引き付けることにより、緊張バー61が鋼板ブレース50をプレストレス力P2(P1×2)にて緊張する。
【0037】
ここで、鋼板ブレース50に導入されるプレストレス力P2は、図3に示す鋼板ブレースの荷重(応力)-変位(ひずみ)曲線において、降伏点強度:Pyと0.7Pyの間の範囲にある、降伏点強度に近接した荷重領域に設定される。0.7Pyは、例えば、鋼板ブレース50の許容応力値相当の荷重である。
【0038】
降伏点強度に近接した荷重領域にある荷重は、震度6弱程度以下の中規模地震による水平力H(図1参照)を建物架構70が受けた際の地震荷重に相当する。
【0039】
このように、鋼板ブレース50に対して、プレストレス力P2を付加するプレストレス力付加材60が取り付けられていて、鋼板ブレース50に付加されるプレストレス力P2が、鋼板ブレース50の弾性域における荷重のうちの降伏点強度に近接した荷重領域に設定されていることにより、鋼板ブレース50の弾性域の中でも降伏点強度に近接した地震荷重を鋼板ブレース50に付与する可能性の高い中規模地震の地震荷重に対して、鋼板ブレース50に導入されているプレストレス力P2にて対抗することができる。このことにより、建物架構70が中規模地震の地震荷重を繰り返し受けた場合でも、鋼板ブレース50が塑性域に達してしまうことを抑制もしくは抑止できる。
【0040】
一方、鋼板ブレース50が降伏点強度以上の地震荷重を受けた際には、鋼板ブレース50が塑性変形して地震エネルギーを吸収することにより、繰り返し作用する中規模地震時の地震荷重に対してはプレストレス力P2を付与された鋼板ブレース50がその弾性域内の変形にて対抗し、降伏点強度以上の大地震時の地震荷重に対しては鋼板ブレース50の塑性変形により、大地震時の地震エネルギーを吸収して、耐力壁30を含む建物架構70の崩壊を防止することが可能になる。
【0041】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0042】
10:鉄骨柱
20:鉄骨梁
21:下フランジ
25:基礎
30:耐力壁(ブレース内蔵型の耐力壁)
40:縦材
42:柱頭金物
44:柱脚金物
45:ボルト
46:アンカーボルト
50:ブレース(鋼板ブレース)
51:広幅面
60:プレストレス力付加材
61:緊張バー
63:緊張材
70:建物架構
H:水平力
P1、P2:プレストレス力
図1
図2
図3