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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048570
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】構造体
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20240402BHJP
   E04B 1/30 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
E04B1/58 508Z
E04B1/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154547
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】シング ラヴィ
(72)【発明者】
【氏名】笠原 貴喜
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 仁
(72)【発明者】
【氏名】西塔 純人
(72)【発明者】
【氏名】中川 学
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA04
2E125AA14
2E125AB12
2E125AC01
2E125AC23
2E125AG03
2E125AG41
2E125AG60
2E125CA83
(57)【要約】
【課題】木梁を含むハイブリッド梁であり、印加される支圧力による木梁の破損を防止可能なハイブリッド梁を含む構造体を提供すること。
【解決手段】構造体は、一対の柱、一対の柱に連結される木梁、一対の鉄筋コンクリート、および一対の補強材を備える。一対の鉄筋コンクリートは、木梁の第1の端部と第2の端部をそれぞれ覆い、第1の端部と第2の端部の間で木梁を露出するように配置される。一対の補強材は、それぞれ一対の鉄筋コンクリートに部分的に覆われる。一対の補強材の各々は、木梁の上面と下面にそれぞれ接し、鉄筋コンクリートに部分的に覆われる第1の補強板と第2の補強板を含む。
【選択図】図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の柱、
前記一対の柱に連結される木梁、
前記木梁の第1の端部と第2の端部をそれぞれ覆い、前記第1の端部と前記第2の端部の間で前記木梁を露出するように配置される一対の鉄筋コンクリート、および
それぞれ前記一対の鉄筋コンクリートに部分的に覆われる一対の補強材を備え、
前記一対の補強材の各々は、前記木梁の上面と下面にそれぞれ接し、前記鉄筋コンクリートに部分的に覆われる第1の補強板と第2の補強板を含む、構造体。
【請求項2】
前記第1の補強板と前記第2の補強板の幅は、前記木梁の幅以上である、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記一対の補強材の各々は、前記木梁の側面にそれぞれ接する第3の補強板と第4の補強板をさらに含み、
前記補強材が前記木梁を囲むよう、前記第3の補強板と前記第4の補強板は、いずれも前記第1の補強板と前記第2の補強板に固定される、請求項1に記載の構造体。
【請求項4】
前記一対の補強材の各々は、前記第1の補強板と前記第2の補強板を連結する少なくとも一つの補強ロッドをさらに含む、請求項1に記載の構造体。
【請求項5】
前記少なくとも一つの補強ロッドは複数の補強ロッドを含み、
前記複数の補強ロッドの少なくとも一つは前記木梁を貫通する、請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
一対の柱、
前記一対の柱に連結される木梁、
前記木梁の第1の端部と第2の端部をそれぞれ覆い、前記第1の端部と前記第2の端部の間で前記木梁を露出するように配置される一対の鉄筋コンクリート、および
それぞれ前記一対の鉄筋コンクリートに部分的に覆われる一対の補強材を備え、
前記一対の補強材の各々は、
前記木梁の上面に打ち込まれる複数の第1のねじ、および
前記木梁の下面に打ち込まれる複数の第2のねじを含む、構造体。
【請求項7】
前記複数の第1のねじと前記複数の第2のねじの少なくとも一つは、ねじ部の一部が前記木梁から露出するように前記上面または前記下面に打ち込まれる、請求項6に記載の構造体。
【請求項8】
前記複数の第1のねじと前記複数の第2のねじの少なくとも一つは、頭部の一部が前記木梁から離隔するように前記上面または前記下面に打ち込まれる、請求項6に記載の構造体。
【請求項9】
前記補強材は、鉄または繊維強化プラスチックを含む、請求項1または6に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、建築物などに例示される構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、事務所ビルや病院、商業施設などの広い室内空間が要求される建築物などに例示される構造体において、一対の柱を連結する梁として鉄骨を用い、鉄骨の両端部を鉄筋コンクリートで覆う梁(ハイブリッド梁)が採用されている。ハイブリッド梁を用いることで、梁の全てを鉄筋コンクリートで施工する場合と比較し、柱の数を大幅に減らすことができ、その結果、大きな空間を有する構造体を設計、建造することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-170386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、木梁を含むハイブリッド梁を備える構造体を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、木梁を含むハイブリッド梁であり、印加される支圧力による木梁の破損を防止可能なハイブリッド梁を含む構造体を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、構造体である。この構造体は、一対の柱、一対の柱に連結される木梁、一対の鉄筋コンクリート、および一対の補強材を備える。一対の鉄筋コンクリートは、木梁の第1の端部と第2の端部をそれぞれ覆い、第1の端部と第2の端部の間で木梁を露出するように配置される。一対の補強材は、それぞれ一対の鉄筋コンクリートに部分的に覆われる。一対の補強材の各々は、木梁の上面と下面にそれぞれ接し、鉄筋コンクリートに部分的に覆われる第1の補強板と第2の補強板を含む。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、構造体である。この構造体は、一対の柱、一対の柱に連結される木梁、一対の鉄筋コンクリート、および一対の補強材を備える。一対の鉄筋コンクリートは、木梁の第1の端部と第2の端部をそれぞれ覆い、第1の端部と第2の端部の間で木梁を露出するように配置される。一対の補強材は、それぞれ一対の鉄筋コンクリートに部分的に覆われる。一対の補強材の各々は、木梁の上面に打ち込まれる複数の第1のねじ、および木梁の下面に打ち込まれる複数の第2のねじを含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的斜視図。
図2A】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁の模式的側面図。
図2B】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁の模式的側面図。
図3A】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁の模式的上面図。
図3B】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁の模式的上面図。
図4A】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁の模式的端面図。
図4B】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁の模式的端面図。
図5A】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁に用いられる補強材の模式的正面図。
図5B】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁に用いられる補強材の模式的正面図。
図6A】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁の模式的端面図。
図6B】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁の模式的端面図。
図7A】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁の模式的端面図。
図7B】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁の模式的側面図。
図8A】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁の模式的側面図。
図8B】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁の模式的端面図。
図8C】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁の模式的端面図。
図9A】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁の模式的側面図。
図9B】本発明の実施形態の一つである構造体のハイブリッド梁の模式的端面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の各実施形態について、図面等を参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0009】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。符号が付された要素の一部を表記する際には、符号に小文字のアルファベットが添えられる。同一または類似の構造を有する複数の要素をそれぞれ区別して表記する際には、符号の後にハイフンと自然数を付す。同一または類似の構造を有する複数の要素を纏めて表記する際には、符号のみを用いる。
【0010】
以下、「ある構造体が他の構造体から露出する」という表現は、ある構造体の一部が他の構造体によって覆われていない態様を意味し、この他の構造体によって覆われていない部分は、さらに別の構造体によって覆われる態様も含む。
【0011】
以下、コンクリートとは、原料の一つであるセメントが水と反応して生成する水和物が硬化して流動性を示さないものを指し、セメントと水を含む混合物が完全に硬化せずに流動性を有する状態(レディーミクストコンクリート、生コンクリート)と区別される。
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明の実施形態の一つである構造体100の構造について説明する。説明において使用する図面においては、便宜上、水平な地表面に平行な面をxy平面とし、xy平面に垂直な鉛直方向がz方向であるとして説明を行う。
【0013】
1.全体構造
構造体100の模式的斜視図を図1に示す。図1に示すように、構造体100は鉛直方向(z方向)に延伸する複数の柱110、一対の柱110に連結され、水平方向(x方向またはy方向)に延伸する複数の梁120、および梁120の上に設けられる床スラブ150を基本的な構成として備える。各梁120は隣接する一対の柱110と連結される。
【0014】
構造体100に設けられる梁120の少なくとも一つは、ハイブリッド梁である。構造体100に設けられる梁120の全てがハイブリッド梁でもよく、あるいは梁120の一部がハイブリッド梁であり、他の梁120は全体が鉄筋コンクリート製の梁(鉄筋コンクリート梁、以下、RC梁と記す)または木梁で形成された梁でもよい。例えば図1に示す構造体100では、第1の梁120-1および第3の梁120-3がハイブリッド梁であり、第2の梁120-2と第4の梁120-4はRC梁である。ここでは、長い間隔(スパン)で設けられる一対の柱110(例えば第1の柱110-1と第2の柱110-2の対、第3の柱110-3と第4の柱110-4の対、第5の柱110-5と第6の柱110-6の対)に連結される梁120としてハイブリッド梁が用いられ、短い間隔で設けられる一対の柱110(例えば第1の柱110-1と第3の柱110-3の対、第2の柱110-2と第4の柱110-4の対、第3の柱110-3と第5の柱110-5の対、第4の柱110-4と第6の柱110-6の対)に連結される梁120としてRC梁が用いられている。ハイブリッド梁とRC梁の配置は任意に決定することができるが、図1に示した例のように、長い間隔で設けられる一対の柱110の間にハイブリッド梁を用いることが好ましい。これは、RC梁と比較するとハイブリッド梁は軽量であるため、スパンの大きい梁(ここでは第1の梁120-1、第3の梁120-3など)にハイブリッド梁を用いることで広い室内空間を確保しつつ、構造体100に十分な強度を付与することができるためである。
【0015】
2.柱
一対の柱110(第1の柱110-1、第2の柱110-2)とそれに連結される梁120の模式的側面図を図2A図2Bに示す。図2Bでは、内部構造を示すため、柱110や梁120のコンクリート116、130は点線で示されている。また、図2A図2Bでは、床スラブ150は示されていない。床スラブ150は梁120上に設けられる鉄筋コンクリートであり、公知の構造を採用することができるため、説明は割愛する。
【0016】
柱110の数は4以上であれば特に制約はなく、構造体100の大きさや形状に応じ、その数や配置を適宜決定すればよい。柱110は図示されない杭や基礎梁と接続される。柱110の形状(xy平面における端面形状)も任意であり、四角形、円形、楕円形などから適宜選択すればよい。柱110の長さも構造体100の大きさ、各階の高さに応じて適宜設計される。
【0017】
各柱110には、鉛直方向に延伸する少なくとも一つの柱主筋112、および柱主筋112と交差し、柱主筋112を取り囲むように設けられる複数の帯筋114を含む鉄筋ユニットが設けられる。この鉄筋ユニットを取り囲むようにコンクリート116が打設される(図2B)。柱主筋112の数や帯筋114の配置密度も、柱110の長さや太さ、要求される強度によって適宜決定される。
【0018】
3.ハイブリッド梁
(1)木梁と鉄筋コンクリート
図2A図2Bに示すように、ハイブリッド梁である梁120は、木梁122、および木梁122の両端部をそれぞれ覆い、互いに離隔し、両端部の間で木梁122を露出するように配置される一対の鉄筋コンクリート124(第1の鉄筋コンクリート124-1と第2の鉄筋コンクリート124-2)を備える。梁120のうち木梁122が鉄筋コンクリート124から露出した区間はW区間、鉄筋コンクリート124に覆われる区間をRC区間と呼ぶ。木梁122は、その両端部を埋め込むように配置される鉄筋コンクリート124を介して一対の柱110に連結される。後述するように、鉄筋コンクリート124は、柱110に連結される種々の鉄筋、および木梁122の両端部と鉄筋を覆うコンクリート130を含む。
【0019】
木梁122は木材を含み、その端面形状(木梁122の延伸方向に垂直な端面)は任意に決定することができる。端面形状は、例えば円、楕円、四角形などの多角形でもよい。あるいは、端面形状の輪郭は複数の曲線と複数の直線で形成されていてもよい。また、端面形状は木梁122の延伸方向において一定でもよく、木材の元の形状に起因して連続的に変化してもよい。木材の種類にも制約はなく、例えば檜、松、杉などの針葉樹に由来する木材でもよく、オーク、ブナ、ケヤキ、ウォールナット、チーク、マホガニーなどの広葉樹に由来する木材でもよい。また、木梁122は、複数の板状木材が貼り合わされた合板で形成されてもよい。
【0020】
一つの鉄筋コンクリート124を中心とする模式的上面図を図3Aに示す。図2B図3Aに示すように、各鉄筋コンクリート124には、複数の梁主筋126や複数の横補強筋128などの鉄筋が配置される。
【0021】
梁主筋126は、木梁122の延伸方向に平行な方向に延伸し、木梁122の上下に、木梁122から離隔するように配置される(図2B参照。)。梁主筋126の一部は柱110の鉄筋ユニットに挿入され、これにより、梁主筋126は柱110の鉄筋ユニットに固定される。一方、各梁主筋126の梁中央側には、梁主筋126よりも端面積の大きい定着プレート126aを形成してもよい(図2B)。
【0022】
横補強筋128は木梁122と梁主筋126と交差するように配置される。図3Aの鎖線A-A´に沿った端面の模式図(図4A)に示すように、横補強筋128は木梁122と梁主筋126を取り囲むように配置される。横補強筋128は、すべての梁主筋126を取り囲むように配置されてもよい。横補強筋128の配置密度(ピッチ)は、鉄筋コンクリート124内で一定でもよく、一定でなくてもよい。例えば、柱110側(すなわち、梁120の端部側)と梁120の梁中央側においてより高密度で横補強筋128を配置してもよい。
【0023】
図3Bに示すように、鉄筋コンクリート124には、任意の構成として複数の差し筋132をさらに配置してもよい。差し筋132は、横補強筋128や梁主筋126と接するように設けてもよい。図示しないが、差し筋132は逆U字型の鉄筋であり、木梁122と二つ以上の梁主筋126と交差し、木梁122と梁主筋126の一部を囲み、U字の開口部が下を向くように配置される。各差し筋132は、例えば隣接する二つの横補強筋128に挟まれ、一方の横補強筋128と接するように配置することができる。差し筋132の数や配置密度、長さも任意に決定すればよい。
【0024】
木梁122は柱110と接してもよい。より具体的には、木梁122の両端はそれぞれ一対の柱110の帯筋114と接してもよく、あるいは柱110を形成するコンクリート116と接する、またはコンクリート116に埋め込まれてもよい。木梁122は複数の梁主筋126に挟まれ、横補強筋128や差し筋132に囲まれる。
【0025】
コンクリート130は、木梁122の両端部とともに梁主筋126、横補強筋128、差し筋132を埋め込むように設けられる。梁主筋126、横補強筋128、およびコンクリート130によって各鉄筋コンクリート124が構成される。差し筋132を用いる場合には、差し筋132も各鉄筋コンクリート124を構成する。
【0026】
(2)補強材
地震などによって梁120の上下方向に荷重が加わると、木梁122は、鉄筋コンクリート124から露出した区間(W区間)の端部(すなわち、W区間とRC区間の境界)を支点として支圧力を受ける。木梁122を構成する木材は、鉄骨と比較すると強度が低いため、大きな支圧力が掛かると木梁122が鉄筋コンクリート124のコンクリート130にめり込んで破損することがある。また、支圧力が一定の値を超えると木梁122の破壊(支圧破壊)が生じる。そこで、梁120には、木梁122のコンクリート130へのめり込みや、これに起因する支圧破壊を防止するための補強材140が設けられる。
【0027】
具体的には、図2Aから図3Bに示すように、一対の補強板140-1、140-2をそれぞれ含む一対の補強材140が梁120に設けられる。一対の補強材140は、それぞれ木梁122が鉄筋コンクリート124から露出したW区間の両端に配置される。すなわち、一方の補強材140はW区間の一方の端部に、他方の補強材140はW区間の他方の端部に設けられる。補強板140-1、140-2は、それぞれ木梁122の上面と下面に接し、木梁122を挟むように、接着剤またはナットやボルト、ねじなどの固定具によって木梁122に固定される。
【0028】
図5Aに示すように、補強板140-1、140-2は、それぞれ板状部材であり、例えば鉄を含む鋼板である。あるいは、補強板140-1、140-2は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、バサルト繊維、フラックス繊維、セルロース繊維などの繊維を含む樹脂(繊維強化プラスチック)で形成される板状部材でもよい。補強材140の厚さ、すなわち、補強板140-1、140-2のそれぞれ厚さは、木梁122に要求される支圧耐力に応じて適宜設定することができ、例えば1mm以上20mm以下、または3mm以上15mm以下の範囲で適宜選択すればよい。また、図5Bに示すように、板状部材は一定のピッチで配列する複数の開口140aを有するメッシュ形状を有してもよい。
【0029】
図3Aの鎖線B-B´とC-C´に沿った端面の模式図を図4B図6A図6Bに示す。図4B図6Aに示すように、補強板140-1、140-2の幅W(木梁122の延伸方向に垂直な方向における長さ。以下、同様。)は、木梁122の補強板140-1、140-2と接する部分の幅よりも大きくてもよく、図6Bに示すように同一でもよい。補強板140-1、140-2の長さ(木梁122の延伸方向における長さ。以下、同様。)も梁120の長さやW区間とRC区間の長さの比などによって適宜決定することができ、例えば10cm以上50cm以下または15cm以上30cm以下の範囲から選択すればよい。
【0030】
ここで、図3A図3B図4B図6Aなどから理解されるように、一対の補強材140は、それぞれ一対の鉄筋コンクリート124に部分的に覆われる。より具体的には、補強板140-1、140-2の各々は、一部が鉄筋コンクリート124に覆われるまたは埋め込まれ、他の一部が鉄筋コンクリート124から露出するように配置される。また、補強板140-1から木梁122の延伸方向に垂直な方向において木梁122の上面が補強板140-1から露出しないように補強板140-1が配置される。同様に、補強板140-2から木梁122の延伸方向に垂直な方向において木梁122の下面が補強板140-2から露出しないように補強板140-2が配置される。このように補強板140-1、140-2を配置することで、梁120が上下方向に荷重を受けて撓んだ際に木梁122の上面と下面がコンクリート130と直接接触せず、支圧力が補強板140-1、140-2によって分散され、木梁122のコンクリート130へのめり込みを防止することができる。その結果、木梁122の破損やそれに起因する支圧破壊が防止される。
【0031】
補強材140の構成は上述した構成に限られない。例えば、図6Aまたは図6Bに対応する模式的端面図である図7Aに示すように、補強材140は、一対の補強板140-1、140-2とともに、木梁122の側面と接し、この側面を覆い、木梁122を挟む一対の補強板140-3、140-4を含んでもよい。補強板140-3、140-4は補強板140-1、140-2と同様、鋼板または強化プラスチックを含む板状部材である。補強板140-1から140-4は、それぞれ独立したパーツであって互いに接着剤、溶接、または固定具で連結されてもよく、あるいはこれらは一体化された一つのパーツでもよい。したがって、一対の補強板140-1から140-4は一体化されて一つのチューブ状の補強材140を形成してもよい。
【0032】
なお、木梁122の幅および/または高さ(鉛直方向における長さ)は、W区間からRC区間に亘って一定でもよく、あるいは、図7Bに示すように、補強材140が設けられる部分は他の部分と比較して小さくてもよい。後者の場合、W区間で補強材140から露出する木梁122の表面122aが補強材140の表面140bと同一平面になるように木梁122の幅および/または高さを調整してもよい。このように木梁122の幅および/または高さを調整することでW区間において補強材140に起因する凹凸が視認されないため、梁120の美観を損なわない。
【0033】
あるいは、図8Aとその鎖線D-D´に沿った端面の模式図(図8B)に示すように、補強材140は、一対の補強板140-1、140-2とともに、補強板140-1、140-2を互いに連結する一つまたは複数の補強ロッド142を含んでもよい。補強ロッド142の機能の一つは、大きな支圧力が木梁122に与えられた際に木梁122に大きな圧縮力が印加されることを防ぐことである。このため、補強ロッド142は、支圧力が木梁122に印加された際に補強板140-1、140-2間の距離が変化しないように構成される。補強ロッド142としては、例えば、鉄を含む高張力鋼線(PC鋼線)を利用することができる。補強ロッド142の端面の直径も木梁122に要求される支圧耐力に応じて適宜決定すればよく、例えば10mm以上30mm以下の範囲で選択すれはよい。補強ロッド142は、溶接、接着剤、または固定具によって補強板140-1、140-2と固定される。
【0034】
図8Bに示すように、補強ロッド142は、上下方向において木梁122と重ならないように配置してもよく、あるいは、木梁122を貫通するように配置してもよい(図8C)。前者の場合、補強ロッド142は木梁122と離隔してもよく、木梁122と接してもよい。補強材140が複数の補強ロッド142を含む場合には、一部が木梁122を貫通し、他の一部が上下方向において木梁122と重ならなくてもよい。また、補強材140が複数の補強ロッド142を含む場合、二つの補強ロッド142が木梁122の延伸方向に平行な方向において重なってもよい(図8A参照。)。
【0035】
上述したように、本発明の実施形態の一つに係る構造体100に設けられる梁120は、木梁122を含むものの、W区間とRC区間の境界に木梁122を上下方向で挟む少なくとも一対の補強板140-1、140-2を含む補強材140が設けられる。このため、木梁122の支圧破壊が防止される。このことは、本発明の実施形態を適用することで、木梁122を含むハイブリッド梁を用いても高い強度を有する構造体を提供できることを意味する。
【0036】
また、鉄骨に替わって木梁を用いることで、デザイン性に優れたハイブリッド梁を構築することが可能である。梁120を構成する木梁122の一部はコンクリート130から露出しているため、木材が有する暖かみを室内に提供することができるとともにリラックス効果を得ることができる。さらに、木材は植物の光合成による二酸化炭素固定の成果物であるため、本発明の実施形態を適用することにより、二酸化炭素という温室効果ガスの削減に寄与することができる。
【0037】
<第2実施形態>
本実施形態では、第1実施形態で述べた補強材140と構造が異なる補強材144について説明する。第1実施形態で述べた構成と同一または類似する構成については説明を割愛することがある。
【0038】
図9Aとその鎖線E-E´に沿った端面の模式図(図9B)に示すように、本実施形態に係る補強材144は、複数の補強板(例えば、一対の補強板140-1、140-2)を含む第1実施形態の補強材140と異なり、木梁122の上面に配置される複数の第1のねじ144-1、および木梁122の下面に配置される複数の第2のねじ144-2を含む。第1のねじ144-1と第2のねじ144-2の各々は鉄を含み、ねじ部144aとねじ部144aに接続されるヘッド144bを備える(図9B中の拡大図参照。)。ねじ部144aにはネジ山が形成されていてもよく、あるいはネジ山が形成されていなくてもよい。図示しないが、ヘッド144bはドライバーと噛み合う切り欠き(駆動部)を有してもよく、あるいはスパナなどと噛み合うように多角形の形状を有してもよい。第1のねじ144-1の数と第2のねじ144-2の数は、第1のねじ144-1と第2のねじ144-2の大きさや木梁122の幅などに応じて適宜決定すればよく、例えばそれぞれ3以上10以下の範囲で選択すればよい。また、第1のねじ144-1と第2のねじ144-2の数は同一でもよく、異なってもよい。第1のねじ144-1のピッチと第2のねじ144-2のピッチも同一でもよく、異なってもよい。
【0039】
図9A図9Bから理解されるように、第1のねじ144-1と第2のねじ144-2の各々は、ねじ部144aの一部が木梁122から露出するように木梁122に打ち込まれる。このため、ヘッド144bは木梁122と接触せず、木梁122から離隔する。木梁122から露出するねじ部144aの長さLは、例えば1cm以上5cm以下とすればよい。また、第1のねじ144-1と第2のねじ144-2の各々は、ヘッド144bの一部が鉄筋コンクリート124から露出し、一部が鉄筋コンクリート124に覆われるように配置される(図9A参照。)。このため、木梁122に掛かる支圧力は複数の第1のねじ144-1と第2のねじ144-2のヘッド144bによって分散する。また、支圧力が印加された際にヘッド144bが木梁122と接触しないため、木梁122のヘッド144bへのめり込みやそれに起因する破損も防止される。さらに、支圧力が印加されても第1のねじ144-1と第2のねじ144-2がさらに木梁122に向かって移動することが可能であるため、支圧力の一部を第1のねじ144-1と第2のねじ144-2の移動によって吸収することも可能である。このため、本発明の実施形態に係る補強材144を用いても、木梁122の支圧破壊が防止さる。
【0040】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0041】
上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【符号の説明】
【0042】
100:構造体、110:柱、110-1:第1の柱、110-2:第2の柱、110-3:第3の柱、110-4:第4の柱、110-5:第5の柱、110-6:第6の柱、112:柱主筋、114:帯筋、116:コンクリート、120:梁、120-1:第1の梁、120-2:第2の梁、120-3:第3の梁、120-4:第4の梁、122:木梁、122a:表面、124:鉄筋コンクリート、124-1:第1の鉄筋コンクリート、124-2:第2の鉄筋コンクリート、126:梁主筋、126a:定着プレート、128:横補強筋、130:コンクリート、132:差し筋、140:補強材、140-1:補強板、140-2:補強板、140-3:補強板、140-4:補強板、140a:開口、140b:表面、142:補強ロッド、144:補強材、144-1:第1のねじ、144-2:第2のねじ、144a:ねじ部、144b:ヘッド、150:床スラブ

図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B