(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048575
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】バイオ燃料用油脂を生産する微細藻類の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20240402BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12M1/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154565
(22)【出願日】2022-09-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年7月15日に、日本沿岸域学会令和4年度(2022年度)全国大会の講演要旨集が、当該講演要旨集を含むCD-Rが郵送されることにより公開された。 令和4年7月23日に、日本沿岸域学会令和4年度(2022年度)全国大会で口頭発表されることにより公開された。
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】591260672
【氏名又は名称】中電技術コンサルタント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大沼 みお
(72)【発明者】
【氏名】岸 拓真
(72)【発明者】
【氏名】月坂 明広
(72)【発明者】
【氏名】広兼 元
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA02
4B029BB04
4B029CC01
4B029DA10
4B029GA08
4B065BC03
4B065BC08
4B065BC48
4B065CA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】バイオ燃料用油脂を生産する微細藻類の培養法において、培養設備の構造が簡単で、年間を通して微細藻類が生育できる温度範囲内に維持し、自然エネルギーを活用した培養液の攪拌により太陽光を微細藻類が均等に受光する培養方法を提供する。
【解決手段】水平断面が等方形状の培養容器11に微細藻類を植種した培養液18を容器容量の半分程度注入し、培養容器を海上に浮かべて、陸上の気温や地表と比較して季節や昼夜の温度変化の少ない海水との熱交換により培養液温度の変化を微細藻類が生育可能な範囲内に保ち、波揺れによって培養液を攪拌して太陽光を均一に微細藻類に受光させて育成することができる培養方法とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料用油脂を生産する微細藻類の培養方法であって、
前記微細藻類を植種した培養液を含む透明な容器を海上に浮かべる工程を含み、
前記培養液の温度が海水との熱交換により前記微細藻類の生育可能な範囲内に保持され、
前記培養液が波によって攪拌され、
太陽光が微細藻類に均一に受光される、
微細藻類の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ燃料用油脂を生産する微細藻類の培養方法に関し、特に、微細藻類を植種した培養溶液を含む透明な容器を海水の浮力により海上に浮かべ、季節および昼夜の気温や地表温度の左右される陸上培養と比較して温度変化の範囲が狭い恒温力を有する海水との熱交換によって培養液温度を微細藻が生育可能な範囲に保つとともに、海水の波力による自然エネルギーによって培養液を攪拌して培養液内の微細藻類に太陽光を均一に受光させることにより、低コストに安定して効率よく微細藻類を培養する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオ燃料用油脂を生産する微生物の野外培養法として、密封培養法としてチューブ型およびパネル型培養容器を用いた培養が、開放培養法として円形池およびレース水路池における培養が知られている(非特許文献1~4参照)。これらの培養法において、バイオ燃料用油脂を生産する微細藻類は、淡水由来および海水由来のいずれであっても、陸上において実施されている。
米国では,1970年代の2度のオイルショックを背景に、1987年にエネルギー省(DOE)がバイオ燃料に研究費を投じ、その一部を「藻類研究プログラム」(ASP: Aquatic Species Program-Biodiesel from Algae)に当てた。2014年の水圧破砕法が開発され、米国の原油生産量が急増し、原油価格が低下した。このようなエネルギーの需給の変動に翻弄されながらも、化石燃料の利用による地球温暖化対策に対するカーボンフリー社会の実現に向けて、エネルギー資源の一つの候補として油脂を生産する微細藻類への注目が集まっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Sheehan, J., et al.: A Look Back at the U.S. Department of Energy’s Aquatic Species Program-Biodiesel from Algae, July 1998.
【非特許文献2】藏野憲秀、他:微細藻類によるバイオ燃料生産、デンソーテクニカルレビュー、Vol.14、pp.59-64、2009。
【非特許文献3】大沼みお:脱炭素社会へ向けて微細藻類の利用-燃料・飼料・食材などの生産-、環境技術、Vol.60、pp.320-324、2021。
【非特許文献4】大沼みお、他:バイオ燃料-微細藻類と油脂生産、http://water-solutions.jp/energy/algal-oil/、2022年07月01日。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のいずれの培養法においても、用地の確保が難しく、培養に要する装置または池の建設費が高くなり、その償却費が生産コストの約2/3を占める。例えば、現状での微細藻類油脂由来燃料費は石油由来燃料費より一桁高いのが現状である。微細藻類油脂の社会実装化において、その生産コストの削減は最大の課題である。
また、微細藻類には、浮遊性、沈降性、あるいは移動性の種類の藻類があるが、いずれの藻類にとっても、培養液内に存在する微細藻に均一に太陽光を受光させる必要があり、なおかつ大気中の二酸化炭素を気液界面より供給するため、エアレーション、循環ポンプまたはパドルホイールなどによる攪拌エネルギーが必要である。
そこで、本発明は、低コストで安定して効率よく微細藻類を培養する新規な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、バイオ燃料用油脂を生産する微細藻類について、低コスト・安定・高率に微細藻類を培養する方法を見出した。
本発明にかかる一実施態様は、燃料用油脂を生産する微細藻類の培養方法であって、前記微細藻類を植種した培養液を含む透明な容器を海上に浮かべる工程を含み、前記培養液の温度が海水との熱交換により前記微細藻類の生育可能な範囲内に保持され、前記培養液が波によって攪拌され、太陽光が微細藻類に均一に受光される、微細藻類の培養方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明による油脂生産性微細藻類の海上培養法は、海水の浮力利用による培養装置の軽量化および簡素化、海水の恒温性による培養液温度の安定化、培養液攪拌に対する波エネルギーの使用など、自然現象を利用することで、培養液攪拌に動力を必要とせず、微細藻類の生産コストの削減に大きく貢献できることが期待できる。また、過疎化した沿岸地域や離島地域の海域で本培養法が実施されると、それらの地域の産業振興に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態における、培養容器の形状を表す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態における、密封型培養容器の内圧調節弁を表す模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態における、海波による培養容器の揺れおよび培養液の攪拌の状況を説明する模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態における、波の波長と容器サイズとの比率および攪拌効果の関係を説明する模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態における、波の進行方向側における断面と水平面の角度に対する培養容器の状態を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態における、培養液攪拌に対する波の波高および波周期の共振によるそれぞれの寄与を説明する図である。
【
図7】本発明の一実施形態における、微細藻類の海上培養の状況を監視するシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を用いて本発明にかかる好適な実施形態について説明する。
【0009】
(1)培養容器の形状
図1に微細藻類培養容器の好適な実施形態を示す。培養容器11の形状は、重心を通る水平断面が円形の楕円体(
図1A)または重心を通る水平断面が正方形の直方体(
図1B)である。密封型容器を用いる場合には、容器の材料は薄い袋状でも板状でもよく、透明であって、通気性がなく、硬質および軟質のいずれでもよい。太陽光の透過度は特に限定されない。後述する方法により、培養容器の内圧を大気圧より少し高くして、その構造を保つものとする。内圧は特に限定されない。非密封型容器を用いる場合には、この容器を支える浮上性の枠12を取り付ける。非密封型容器の材料は、密封型容器の材料と同様であってもよい。
容器の高さHc14は約0.3~0.5mである。海水の浮力を利用し、微細藻自身の遮光効果をさけるため、培養液18の深さHm17は容器の高さHc14の約1/2とし、例えば0.15~0.25mとしてもよい。
楕円体の容器は、重心を通る水平断面の直径D13、直方体の容器は、重心を通る水平断面の幅W15及び奥行w16を有し、Wとwは等しい。容器のサイズLc(容器の最大長。本明細書では、D及び√2×Wの総称とする。)が大きい場合には、密封型容器の変形を避けるため、中空の枠12を取り付けるとよい。容器のサイズLcが小さく変形が生じにくい場合には、枠は不要である。非密封型の場合は、容器のサイズLcの大きさに関わらず枠12が取り付けられているので、上記のような配慮は不要である。容器のサイズLcの具体的な設定条件については、後述する。
複数の培養容器を、紐で適当な間隔を取って直列に連結し、その両端を海底に固定した碇に接続し、これを一組の容器群としてもよい。容器の個数に限定はない。複数組の容器群を適当な間隔で平行に配置し、利用する地域海域の広さに応じて、海上に配置してもよい。配置する海域については、漁業や交通の障害とならないように、海域の実情に応じて培養容器群を設置することとする。
【0010】
(2)培養容器内圧の調整
密封型容器には、後述する高圧二酸化炭素容器の吐出口と、
図2Aに示すような、培養容器23の上面に取り付けた圧力調整弁21付き二酸化炭素導入口25とをチューブで接続して二酸化炭素を供給する。一方、
図2Bに示すような、培養容器23の上面に取り付けた圧力調節弁22付き酸素排出口26から微細藻類が光合成により生成する酸素を排出する。二酸化炭素導入および酸素排出の圧力調節弁は、培養容器の内圧を大気圧よりも少し高く保つようにそれぞれの調節弁を設定する。非密封型容器では二酸化炭素供給口と酸素排出口を取り付けるが、容器内圧の調整弁は不要である。
【0011】
(3)海域の波の状況
微細藻類培養容器の水平断面のサイズの設定は波の性状に大きく依存するので、各海域の波の状況について簡単に説明する(中村一弘:‘伊豆大島 気象と交通’、大島の気象の話-3.海の波、http://www13.plala.or.jp/oosimakisyou/3nami.html)。
実際の海の波は複雑な様相を示しているが、それは波長の異なるいくつもの波の重なり合いとしてとらえることができる。それを構成している一つ一つの波はトロコイドという曲線で表され、山の幅が狭く谷の幅が広い形となっている。水の粒子が円運動しているので波の形は正弦波とはならない。ここで、水面の水粒子が描く円の直径が波高、円周が波長である。
水深が波長の1/2より大きい場合、波は海底の影響をほとんど受けず、このような波を深海波という。深海波の波速V(m/s)は近似的に波長L(m)だけで決まり、V=√(gL/2π)で表される(gは波重力加速度である)。また、波長L(m)、波速V(m/s)、周期T(s)の間には、L=V×Tの関係がある。海上で普通に見られる波の波長は約数十mなので、例えば、最大値を取って100mとして計算すると、波速は12.5m/s、周期は8.0秒になる。
また、海の波は主に風によって発生し発達するが、発達した波は風がない海域に入っても次第に減衰しながら遠くまで伝播する。このとき、波長の短い波ほど早く減衰するので、波長の長い波だけが残ることになる。このような波をうねりという。うねりの波長は100m以上で、周期8秒以上であることが多い。
水深が波長の1/2より浅くなると波は海底の影響を受ける。さらに水深が浅く、水深が波長の1/25より浅い海域の波を浅海波(あるいは長波)という。浅海波の波速は波長には関係なく近似的に水深h(m)だけで決まり、V=√(gh)で表される。波長が数十mから数百mの風波やうねりが海岸に近づくと、水深が数mのところから浅海波の性質を持つようになる。水深が浅いほど波速が小さいので、遠浅の浜に寄せてくる波は屈折して、浜に向かって直角に、そして波面は浜に平行に進む。
【0012】
(4)培養容器の水平断面の等方性
以下、培養容器を海面に置いたときの理想的な運動系を考える。海上において向かってくる波に対する培養容器の運動の自由度は6であり、培養容器を海上に浮かべたとき、その容器の重心を通る水平面上にあって、重心を通り、向かってくる波の進行方向に平行な軸をx軸、水平面上にあって重心を通り、x軸に直角な軸をy軸、x軸とy軸の交点を通り水平面に垂直な軸をz軸で表すとすると、容器の運動は各軸に平行な並進運動と各軸のまわりの回転運動で示される。ここで容器の重心を水面上のある地点に固定すると、培養容器の並進運動がゼロで、各軸に対する回転運動の自由度は3となる。重心を通る水平断面が円形であれば、波の方向がいずれであっても等方性であるので自由度は1となり、容器のx軸とz軸を含む平面上の振動、すなわちy軸を固定した時のx軸方向の両端の上下の振れで示される。一方、容器内培養液の重心の運動は容器内に限定され、重力のみが作用するので、x軸とz軸を含む平面内の重心移動運動のみとなる。なお、波によるx軸とy軸を含む平面のz軸方向の上下の並進運動もあるが、容器内培養液の攪拌への効果は少ないので、本発明における培養容器の運動を考えるにあたっては考慮しない。
海上における波の進行方向は季節および日の時間変化が激しいので、自然の海洋波や潮汐振動による培養液の攪拌を考えたとき、培養容器の水平断面が等方向で変わらない方がどの方向から外力(例えば海洋波)が来ても攪拌効果が同じように期待できるため、上記に記載の容器の水平断面の等方性は、海上培養において極めて重要な要素となる。
【0013】
(5)培養容器のサイズと波長の関係
本明細書に開示の培養方法においては、培養液の攪拌に波力を利用するので、培養液容器のサイズLc(
図1のDまたは√2×W)の設定には、波の長さが重要な因子となる。季節と海域により波の状況は異なるので、海上培養においては、それぞれの状況に応じた培養容器のサイズ設定を行うことが望ましい。微細藻類の沈降速度は数十μm/sであり、波速(数十~数百m/s)に比較すると極めて小さいので、培養容器の設定を行うにあたっては考慮する必要はない。なお、重心を通る水平断面が正方形の容器は完全な等方性ではないが、本発明のモデルでは、重心を通る平面上の円の直径として対角線の長さ√2×Wを有する楕円体形状の培養容器に近似できる。
図3に示すように、微細藻類を含む培養液33を含む培養容器31のサイズLc32は、海面の波36が波長L37の単一波のみで構成されるとすると、L>Lcの条件に設定する。これは、L<Lcの条件では、培養容器31を複数の波の山で支えることになるので、培養容器31のx軸とz軸を含む平面上の振動、すなわちy軸を固定した時のx軸方向の両端の上下の振れ(
図3では、培養容器31の傾斜角θ35)が生じないからである。
培養容器31の強度に制限があり、操作や運転の容易性から、一般的な波浪やうねりがある海域においては、波長L37(数十m~数百m)を考慮すると、容器サイズLcは0.1m以上、好ましくは0.5m以上、より好ましくは2.5m以上、また20m以下、好ましくは15m以下、より好ましくは10m以下であれよい。
一方、波長L37の短い波36(L<Lc)を含む様々な性状の波の合成によって波が生じる海域では、単一波で構成される波を有する海上での培養容器31に、回転運動が加わることになる。その場合、培養液の攪拌効率をα(0≦α≦1)、K=LogL/Lc+βとすると、Kとαの関係はシグモイド曲線α=Lc/{(1+(Lc/L-1)×exp(-γL)}で示され(背景技術に記載した非特許文献参照)、
図4に示すようなS字曲線となる。この図ではx軸はlogL/Lc+β、y軸はαとした。ここで、γおよびβは海域の波36の状況と実際の容器の形状により異なるので、実験的に決定する補正係数であるが、
図4では、微細藻類について一般的に想定される係数として、γ=10、β=0.78と仮定して計算した。
図4に示すように、L<Lcでは(すなわち、x<β)攪拌効率は急激に低下し、L>Lcでは(すなわち、x>β)攪拌効率は一定となる。現実の海域の波は、波長の異なる多数の波の成分i(i=1~n)の波長Liから合成された複雑な波であるが、特別な例外を除いてLi>Lcの条件を満たす波の要素によって攪拌される。
以上のことから、海上の波の構成成分のなかに、Li>Lcの条件を満足する波の要素が少なくとも一つ含まれていればよいことが理解される。なお、
図4が示すように、攪拌効果αは1で飽和するため、この条件を満たす波の成分が複数存在してもよい。
【0014】
(6)波高と培養液容器のサイズ
波による培養容器内の培養液の重心(
図3の34)の移動距離をLw(m)とすると、その周期Twは、以下の式で表される。
[数1]
Tw=2π√(Lw/g)
(式中、gは波の重力加速度である。)
で示され、培養液の重量には関係しない。Lwは容器の形状によって異なるので、実験的に求められる。波の周期Tと培養液の周期Twが一致する場合(Tw=T)、共振効果によりわずかな波高でも容器内の培養液を攪拌できる。したがって、海域の年間を通した平均的な波の周期から計算できる容器サイズLcに設定することが好ましい。波の性状は常に変化するので、培養液の深さHm(
図1の17)は、波高Aより低いことが要求される(Hm<A)。なぜなら、例えば、波高Aよりも培養液の深さHmが大きくなると
図3に示す容器の状態は非線形な現象(例えば転倒など)が起りえる。そこで、通常状態で溶液の攪拌を想定するためには波高Aよりも培養液の深さHmは小さく設定する必要があるからである。
一方で、外洋に面した遠浅での浅海域のうねり、または、外洋の深海域での大きな波浪に対しては、
図5A及び
図5Bに示すように、波の砕波現象などを起こす。波の進行方向側の断面の形状が、波の対称性が崩れ(
図5B、θw<90°)、最終的に進行方向側の断面が水平面に対して垂直または波の頂点が崩れるようになる(
図5A、θw≒90°)。このような状況になると、培養容器の上面と底面の逆転、すなわち転倒が起こる。上述したように、密封型培養容器では、その内圧を外気圧よりも高く設定しているので、酸素排出口から海水が侵入することはないが、高圧二酸化炭素容器の吐出口と培養容器の二酸化炭素導入口を接続するチューブと、培養容器群内の容器同士を連結する紐とが絡まる可能性がある。
そこで、波高Aより培養容器のサイズLcを長くすること(Lc>A)で、その容器の上部と底部の逆転を防ぐことができる。なお、本明細書で、波高Aとは、波の峰から波の谷までの鉛直距離を意味するものとする。
波高に関する条件と波長に関する条件の両方を満足するためには、培養容器のサイズLcは波の波長Lよりも小さく、かつ、波高Aよりも大きいことが要求される(L>Lc>A)。
【0015】
(7)海域の状況と培養液攪拌への波高Aの寄与
外海域の深海域や外海に面した浅海域では波高Aが高い。しかし、内海域では波高Aが低い。本節では、培養液攪拌への波高Aの寄与について、説明する。
図1に示す培養液の深さHm17よりも高い波高Aで構成される外海域では、
図3に示す傾斜角θ(=cos
-1(A/Hm))が大きくなり、
図6に示すようにA/Hm→∞の場合、傾斜角θ→90°となる。ただし、この場合には培養容器の上部面と底部面の逆転を防ぐため、上述したように、L>Lc>Aの要件を満足するように培養容器サイズを設定する。この場合の攪拌を転倒型という。
一方で、内海のように波高Aが小さい場合には、上述したように、培養液の重心移動の周期Twと波の周期Tを一致させるか、または近づけることで培養液の重心移動が起こるので、攪拌効率が高くなる。この場合の攪拌を共振型という。
それぞれの海域においては、海底の深さや季節・日時の気象条件により波の状況が変化する。波の性状による攪拌効果は、波高による容器の回転角による攪拌効果aと、波の周期と共振する培養液の重心移動による攪拌効果bとの和(a+b)で示される。波高が高く転倒型の寄与が大きい容器(a>b)は外海に適し、波高の低い共振型の寄与が大きい容器(a<b)は内海などの穏やかな海域での培養に適している。
具体的な培養容器の設計は、本明細書に記載した様々な条件を考慮にいれ、具体的に微細藻類を培養する海域で実験的に検証した上で、実施すればよい。
【0016】
(8)密封容器の内圧調整
微細藻類は、太陽光のエネルギーを利用し、吸収した二酸化炭素を有機化合物へ合成するともに酸素を放出する。
図2に示すように、本明細書に開示の密封容器では、別途の筏に設置した高圧二酸化炭素容器の吐出口および密封型培養容器上部面に取り付けた圧力調整弁付き二酸化炭素導入口25をチューブで接続して、二酸化炭素を供給する。一方で、圧力調節弁21を培養容器の上部面に取り付けて、微細藻類が発生する酸素を排出する。外圧よりも少し高い内圧を保つように、二酸化炭素導入口25および酸素排出口26の圧力調節弁をそれぞれ設定する。
【0017】
(9)微細藻類培養の監視システム
海上での培養方法においては、陸上培養と比較して、海域および培養の状況を遠隔監視し、異常等が生じた場合やそれが予測された場合の対応が必要となる。監視システムの実施例を
図7に示す。
監視システム本体703を搭載した筏を、監視する培養容器701の近くに設置する。循環ポンプ714にチューブ705を接続し、容器内の内容物を引き抜いて培養液702を循環させる。この循環チューブに藻濃度と培養液のpHメーター717や微生物の濃度を測定するためのODメーター715などの測定器を取り付けて、容器内の微細藻類を含んだ培養液702の状況を数値化し、記録する。データ送信部718は、記録した各データを、リアルタイムまたは定期的に陸上に設置した遠隔監視室に送信する。
また、培養容器701には、培養液の温度を測定するための温度計713、培養容器701内の気体中の二酸化炭素濃度を測定するための二酸化炭素濃度計712などの測定器を取り付け、各測定器と監視システムを構成する増幅器/変換器707をリード線704で接続する。監視システム本体703の電源は、別途設置する筏に搭載した海上太陽光発電パネルと蓄電池で構成される電源装置から供給する。培養容器701は、培養液を監視するためのカメラ711を備えてもよい。
監視システム本体703は、環境の風速や風向を図るための風速計/風向計708、気温を測定するための温度計709、海水の温度を測定する温度計716、波を観測するためのカメラ710などをさらに備えてもよい。
これらの微細藻類培養の監視システムは、各海域に一式設置し、多数の培養容器群のデータを代表したものとしてもよい。
【0018】
(10)二酸化炭素の供給
微細藻類は二酸化炭素を吸収して光合成を行うので、二酸化炭素を供給する高圧ポンプを培養容器とは別途の筏に設置し、培養容器群へ分岐して供給チューブを接続して二酸化炭素を供給する。1本のボンベが供給できる培養容器の数は、培養日数および培養液量に応じて適宜設定する。
【0019】
(11)藻類培養容器の搬送と微細藻類の収穫
本明細書に開示の微細藻類の培養容器は海上に設置されるので、育成した微細藻類の収穫は、船舶を用いてその設置海域で行うことも可能である。一方で、上述したように、培養容器群は紐で直列に連結して両端の紐を碇に接続して固定しているので、この両端を碇から外して、船舶により培養容器群を曳航することにより収穫設備を設置している地域の港へ搬送し、そこで育成した微細藻類を収穫することも可能である。
【符号の説明】
【0020】
11 培養容器
12 枠
13 重心を通る水平断面の直径D
14 容器の高さHc
15 重心を通る水平断面の幅W
16 重心を通る水平断面の奥行w
17 培養液の深さHm
18 微細藻類を含む培養液
21 圧力調整弁
22 圧力調整弁
23 培養容器
24 培養容器内部
25 二酸化炭素導入口
26 酸素排出口
31 培養容器
32 培養容器31のサイズLc
33 微細藻類を含む培養液
34 培養液33の重心
35 培養容器31の傾斜角θ
36 波
37 波長L
51 波高A
52 培養容器の直径D
53 培養容器の上部面
54 波の進行方向
55 波の進行側断面と水平面との角度θw
701 培養容器
702 培養液
703 監視システム本体
704 リード線
705 チューブ
707 増幅器/変換器
708 風速計/風向計
709 温度計
710 カメラ
711 カメラ
712 二酸化炭素濃度計
713 温度計
714 循環ポンプ
715 ODメーター
716 温度計
717 pHメーター
718 データ送信部