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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048589
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】培養システム及び培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
C12M1/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154589
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】石塚 亮太
(72)【発明者】
【氏名】三輪 和哉
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029BB04
4B029CC01
4B029DA08
4B029DB16
4B029GB07
(57)【要約】
【課題】培養に用いられる液体に、培養に必要な気体を効率的に給気できる、培養システム及び培養方法を提供する。
【解決手段】本発明の培養システム100は、培養対象物を収容する培養容器11を含む培養装置12と、培養容器11に供給される液体に、加圧状態下で気体を供給する給気装置13と、を備える。本発明の培養方法は、(A)培養対象物の培養に用いられる液体に、加圧状態下で所定の気体を供給して、前記気体が溶存した前記液体を得ること、及び(B)前記培養対象物が収容された培養容器に、前記気体が溶存した前記液体を供給して、前記培養対象物を前記培養容器内で培養すること、を含む。培養対象物は、例えば微細藻類である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養対象物を収容する培養容器を含む培養装置と、
前記培養容器に供給される液体に、加圧状態下で気体を供給する給気装置と、
を備える、培養システム。
【請求項2】
前記培養容器から排出された前記液体を前記給気装置へ供給するための第1流路と、
前記培養容器から排出された前記液体を、前記第1流路を通じて前記給気装置に供給する送液装置と、
をさらに備える、請求項1に記載の培養システム。
【請求項3】
前記給気装置において前記気体が供給された前記液体を前記培養容器へ供給するための第2流路をさらに備える、請求項1に記載の培養システム
【請求項4】
前記給気装置は、前記培養装置と一体的に設けられている、
請求項1に記載の培養システム。
【請求項5】
前記給気装置は、前記気体を透過し、かつ前記液体の透過を抑制する分離膜を備える、
請求項1に記載の培養システム。
【請求項6】
前記分離膜は、中空糸膜又は平膜である、
請求項5に記載の培養システム。
【請求項7】
前記気体は、二酸化炭素、窒素、酸素、水素、及び空気からなる群より選択される少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の培養システム。
【請求項8】
前記液体は、培養液である、
請求項1に記載の培養システム。
【請求項9】
前記培養対象物は、微細藻類である、
請求項1に記載の培養システム。
【請求項10】
前記培養容器は、樹脂製フィルムを含む基材で形成された培養バッグである、
請求項1に記載の培養システム。
【請求項11】
前記給気装置は、前記気体によって前記給気装置の内部が加圧される構成を有する、
請求項1に記載の培養システム。
【請求項12】
(A)培養対象物の培養に用いられる液体に、加圧状態下で所定の気体を供給して、前記気体が溶存した前記液体を得ること、及び
(B)前記培養対象物が収容された培養容器に、前記気体が溶存した前記液体を供給して、前記培養対象物を前記培養容器内で培養すること、
を含む、培養方法。
【請求項13】
前記培養対象物は、微細藻類であり、
前記(B)において、前記培養容器にさらに光を供給する、
請求項12に記載の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養システム及び培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細藻類は、食料や燃料などに利用することができ、その利用価値が高い。微細藻類は、容易に培養できるだけでなく、その培養過程で二酸化炭素を大量に吸収できる利点もある。
【0003】
微細藻類の培養方法としては、屋外に開放された培養槽を利用する開放系での培養方式や、タンクなどの密閉容器を利用する閉鎖系での培養方式が挙げられる。開放系での培養方式には、管理が容易である等のメリットがある。閉鎖系の培養方式には、培養効率が高いことや、外部からの物質混入や生物侵入で培養液が汚染されるコンタミネーションのリスクを低減できること等のメリットがある。
【0004】
開放系及び閉鎖系の培養方式のいずれにおいても、二酸化炭素、窒素、又は酸素等の培養に必要な気体を、培養液等の培養に用いられる液体に給気する必要がある。培養に用いられる液体への給気は、通常、液体内部に気体を気泡形態で供給するバブリングの方法が用いられる。例えば、特許文献1は、光合成生物と培養液とが貯蔵される培養空間を有する反応シートの内部に、二酸化炭素を気泡形態で供給する装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2014-0042408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の給気方法では、培養に用いられる液体に効率良く気体を溶存させることができず、供給した気体の多くが培養システムの外部に排出されて無駄になっていた。したがって、従来の培養システムにおいては、培養に用いられる液体への効率的な給気が求められている。
【0007】
本発明は、培養に用いられる液体に、培養に必要な気体を効率的に給気できる培養システム及び培養方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
培養対象物を収容する培養容器を含む培養装置と、
前記培養容器に供給される液体に、加圧状態下で気体を供給する給気装置と、
を備える、培養システムを提供する。
【0009】
さらに本発明は、
(A)培養対象物の培養に用いられる液体に、加圧状態下で所定の気体を供給して、前記気体が溶存した前記液体を得ること、及び
(B)前記培養対象物が収容された培養容器に、前記気体が溶存した前記液体を供給して、前記培養対象物を前記培養容器内で培養すること、
を含む、培養方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、培養に用いられる液体に、培養に必要な気体を効率的に給気できる培養システム及び培養方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1実施形態に係る培養システムの構成を示す概略図である。
図2図2は、図1に示された培養システムの一例を示す概略図である。
図3図3は、第1実施形態に係る培養システムにおいて培養容器として用いられる培養バッグの一例を模式的に示す断面図である。
図4A】第1実施形態に係る培養システムにおける給気装置の一例である、中空糸膜を備えた中空糸膜給気モジュールを模式的に示す断面図である。
図4B】第1実施形態に係る培養システムにおける給気装置の他の例である、平膜を備えた平膜給気モジュールを模式的に示す断面図である。
図5図5は、第1実施形態に係る変形例の培養システムの構成を示す概略図である。
図6図6は、実施例1で用いた評価用システムの構成を示す概略図である。
図7図7は、実施例2で用いた評価用システムの構成を示す概略図である。
図8図8は、参考例1で用いた評価用システムの構成を示す概略図である。
図9図9は、参考例2で用いた評価用システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第1態様に係る培養システムは、
培養対象物を収容する培養容器を含む培養装置と、
前記培養容器に供給される液体に、加圧状態下で気体を供給する給気装置と、
を備える。
【0013】
本発明の第2態様において、例えば、第1態様に係る培養システムは、
前記培養容器から排出された前記液体を前記給気装置へ供給するための第1流路と、
前記培養容器から排出された前記液体を、前記第1流路を通じて前記給気装置に供給する送液装置と、
をさらに備える。
【0014】
本発明の第3態様において、例えば、第1態様又は第2態様に係る培養システムは、前記給気装置において前記気体が供給された前記液体を前記培養容器へ供給するための第2流路をさらに備える。
【0015】
本発明の第4態様において、例えば、第1態様に係る培養システムでは、前記給気装置は、前記培養装置と一体的に設けられている。
【0016】
本発明の第5態様において、例えば、第1~第4態様のいずれか1つに係る培養システムでは、前記給気装置は、前記気体を透過し、かつ前記液体の透過を抑制する分離膜を備える。
【0017】
本発明の第6態様において、例えば、第5態様に係る培養システムでは、前記分離膜は、中空糸膜又は平膜である。
【0018】
本発明の第7態様において、例えば、第1~第6態様のいずれか1つに係る培養システムでは、前記気体は、二酸化炭素、窒素、酸素、水素、及び空気からなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0019】
本発明の第8態様において、例えば、第1~第7態様のいずれか1つに係る培養システムでは、前記液体は、培養液である。
【0020】
本発明の第9態様において、例えば、第1~第8態様のいずれか1つに係る培養システムでは、前記培養対象物は、微細藻類である。
【0021】
本発明の第10態様において、例えば、第1~第9態様のいずれか1つに係る培養システムでは、前記培養容器は、樹脂製フィルムを含む基材で形成された培養バッグである。
【0022】
本発明の第11態様において、例えば、第1~第10態様のいずれか1つに係る培養システムでは、前記給気装置は、前記気体によって前記給気装置の内部が加圧される構成を有する。
【0023】
本発明の第12態様に係る培養方法は、
(A)培養対象物の培養に用いられる液体に、加圧状態下で所定の気体を供給して、前記気体が溶存した前記液体を得ること、及び
(B)前記培養対象物が収容された培養容器に、前記気体が溶存した前記液体を供給して、前記培養対象物を前記培養容器内で培養すること、
を含む。
【0024】
本発明の第13態様において、例えば、第12態様に係る培養方法では、前記培養対象物は、微細藻類であり、前記(B)において、前記培養容器にさらに光を供給する。
【0025】
以下、本発明の詳細を説明するが、以下の説明は、本発明を特定の実施形態に制限する趣旨ではない。
【0026】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る培養システムは、培養対象物を収容する培養容器を含む培養装置と、培養容器に供給される液体に、加圧状態下で気体を供給する給気装置と、を備える。第1実施形態に係る培養システムは、上記給気装置を備えることにより、培養容器に供給される液体に、培養に必要な気体を効率的に給気することができる。例えば、第1実施形態に係る培養システムは、上記給気装置を備えることにより、上記液体への上記気体の溶存濃度を向上させたり、上記液体への上記気体の溶存速度を向上させたりすることができる。このように、第1実施形態に係る培養システムは、培養容器に供給される培養液等の液体に効率的に必要な気体を溶存させることができるので、システム外に無駄に排出される気体を低減することができる。したがって、第1実施形態に係る培養システムは、培養効率の向上及び培養コストの低減も期待できる。
【0027】
図1は、第1実施形態に係る培養システム100の構成を示す概略図である。培養システム100は、培養対象物を収容する培養容器11を含む培養装置12と、培養容器11に供給される液体に、加圧状態下で気体を供給する給気装置13と、を備える。図1に示すように、第1実施形態に係る培養システム100において、培養装置12と給気装置13とは互いに別に設置されていてもよい。この場合、培養システム100は、培養容器11から排出された液体を給気装置13へ供給するための第1流路14aと、培養容器11から排出された液体を、第1流路14aを通じて給気装置13に供給する送液装置15と、をさらに備えていてもよい。送液装置15としては、例えば送液ポンプが使用できる。培養システム100は、給気装置13において気体が供給された液体を培養容器11へ供給するための第2流路14bをさらに備えていてもよい。この構成により、給気装置13で気体が供給された液体が、第2流路14bを通じて培養装置12の培養容器11内に供給されて、供給された液体を利用して培養対象物が培養装置12によって培養される。
【0028】
培養装置12の培養容器11と給気装置13とは、例えば図1に示すように、循環流路によって互いに連結されていてもよい。この場合、例えば、第1流路14a及び第2流路14bが循環流路を構成する。このような循環流路が設けられることにより、培養容器11から培養装置12外に排出された液体は、第1流路14aを通じて給気装置13に戻り、給気装置13で必要な気体が供給されたあと、第2流路14bを通じて再び培養容器11に供給されることができる。この場合、給気装置13は、培養装置12から排出されて給気装置13に戻された液体に対し、その液体の状態(例えば、気体の溶存濃度等)に応じて、培養に必要な量の気体を供給することもできる。
【0029】
第1実施形態に係る培養システム100において、培養装置12で培養される培養対象物は、特に限定されない。第1実施形態に係る培養システム100は、微生物、生物体の細胞、及び生物体の組織等、培養可能なあらゆるものの培養に使用できる。培養対象物は、例えば微細藻類であってもよい。
【0030】
微細藻類としては、特に限定されず、例えば、緑色植物門、不等毛植物門などに属するものが挙げられる。緑色植物門に属する藻類としては、緑藻綱、トレボキシア藻綱、プラシノ藻綱、アオサ藻綱、車軸藻綱などに属する藻類が挙げられる。
【0031】
緑藻綱に属する藻類としては、ネオクロリス・オレオアバンダンス等のネオクロリス属藻類、ナノクロリス・エスピー等のナノクロリス属藻類、クラミドモナス・レインハルディ等のクラミドモナス属藻類、セネデスムス属藻類、デスモデスムス属藻類などが挙げられる。トレボキシア藻綱に属する藻類としては、例えば、クロレラ・ケッサレリ等のクロレラ属藻類などが挙げられる。
【0032】
不等毛植物門に属する藻類としては、黄金色藻綱、ディクチオカ藻綱、ペラゴ藻綱、ラフィド藻綱、珪藻綱、褐藻綱、黄緑藻綱、真正眼点藻綱などに属する藻類が挙げられる。珪藻綱に属する藻類としては、例えば、タラシオシラ・スードナナ等のタラシオシラ属藻類などが挙げられる。
【0033】
培養容器11に供給される液体は、例えば培養液である。培養液は、培養対象物に応じて適切なものを、公知の培養液から適宜選択して使用できる。培養液は、例えば、水とともに、炭素源、窒素源、リン源などの培地成分をさらに含む。
【0034】
培養容器11に供給される液体は、培養容器11に供給される液体であればよく、培養液以外の液体であってもよい。液体は、例えば水であってもよい。
【0035】
給気装置13において液体に供給される気体は、特に限定されない。気体は、培養対象物に応じて適切なものを適宜選択して使用できる。例えば、気体は、二酸化炭素、窒素、酸素、水素、及び空気からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。例えば、培養対象物が微細藻類のような光合成生物である場合は、気体は二酸化炭素を含んでいてもよい。
【0036】
以下に、培養装置12及び給気装置13について、より詳しく説明する。
【0037】
(培養装置12)
培養装置12は、培養容器11を含む。培養装置12は、培養容器11以外の構成を含んでいてもよい。図1には図示されていないが、培養装置12は、培養容器11の温度を調整するための温度調整部(例えば、ヒーター等)、培養容器11の温度を確認するための温度センサー、培養容器11に収容された培養対象物及び培養液等の内容物を撹拌混合するための撹拌機など、培養に用いられる構成をさらに含んでいてもよい。
【0038】
培養容器11は、内部空間を閉鎖可能な密閉容器であってもよいし、内部空間が外部と連通している開放型の容器であってもよい。培養容器11は、例えば、給気装置13で気体が供給された液体を内部に供給するための液体供給口11a、容器内部から液体を排出するための液体排出口11bを備えている。培養容器11は、例えば、培養によって得られた培養物を回収するための回収口11cを備えていてもよい。
【0039】
培養容器11が密閉容器である場合、培養容器11としては、例えば、タンク、樹脂製フィルムを含む基材で形成された培養バッグ、ガラス管やガラスプレートで構成された培養容器などが挙げられる。
【0040】
図2は、図1に示された培養システム100の一例を示す概略図である。図2に示された培養システム200は、培養容器としてタンク17を含む培養装置16を備えている。培養装置16は、さらに、タンク17に収容された培養対象物及び培養液等の内容物を撹拌混合するための撹拌機18を備えていてもよい。タンク17は、例えば、給気装置13で気体が供給された液体を内部に供給するための液体供給口17a、タンク内部から液体を排出するための液体排出口17bを備えている。タンク17は、例えば、培養によって得られた培養物を回収するための回収口17cを備えていてもよい。
【0041】
また、培養容器11として、樹脂製フィルムを含む基材で形成された培養バッグが用いられてもよい。基材は、例えばシート状部材である。培養バッグとしては、例えば、2つの基材が互いに重ね合わされ、袋状の構造を有するように接合された袋状体が用いられる。この袋状体では、通常、2つの基材がヒートシールにより接合されている。このような袋状体を培養容器11として用いた培養システムによれば、その厚さ方向が水平方向と一致するように袋状体を配置することによって、袋状体の設置面積を抑制しつつ、微細藻類等の培養対象物を効率的に培養することができる。
【0042】
図3は、第1実施形態に係る培養システム100において培養容器11として用いられうる培養バッグ19の一例を模式的に示す断面図である。培養バッグ19において、第1の基材19A及び第2の基材19Bが互いに重ね合わされ、袋状の構造を有するように接合されている。これにより、培養バッグ19には、第1の基材19A及び第2の基材19Bに囲まれた収容部20が形成されている。第1の基材19A及び第2の基材19Bは、所望の内部容量の収容部20が形成されるように、撓んだ形状で互いに接合されていてもよい。一例として、図3の培養バッグ19では、収容部20の周囲において、第1の基材19Aと、第2の基材19Bとが互いに接合されている。第1の基材19A及び第2の基材19Bは、ヒートシールにより接合されていることが好ましい。ただし、第1の基材19A及び第2の基材19Bは、接着剤を介して接合されていてもよい。培養バッグ19は、例えば、給気装置13で気体が供給された液体を培養バッグ19の内部に供給するための液体供給口(図示せず)、培養バッグ19の内部から液体を排出するための液体排出口(図示せず)を備えている。培養バッグ19は、例えば、培養によって得られた培養物を回収するための回収口(図示せず)を備えていてもよい。
【0043】
培養バッグ19の第1の基材19A及び第2の基材19Bは、樹脂製フィルムを含む。樹脂製フィルムの樹脂としては、熱可塑性樹脂、UV硬化型樹脂、熱硬化型樹脂などが挙げられる。樹脂の具体例としては、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂などが挙げられる。ポリエステル樹脂は、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂である。樹脂製フィルムは、樹脂組成物を溶融成形することにより得られた原フィルムについて、延伸を行うことによって作製された延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムは、1軸延伸フィルムであってもよく、2軸延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムは、ポリエチレンテレフタレート樹脂の2軸延伸フィルムであってもよい。
【0044】
(給気装置13)
給気装置13は、培養容器11に供給される液体に、加圧状態下で気体を供給する。給気装置13において気体が供給された液体は、培養装置12の培養容器11内へと送られる。給気装置13は、気体が供給される液体を装置内部に供給するための液体供給口13aと、気体が供給された液体を装置外部へ排出するための液体排出口13bとを備えている。給気装置13は、液体に供給する気体を装置内部に供給するための気体供給口13cを備えている。
【0045】
給気装置13は、気体を透過し、かつ液体の透過を抑制する分離膜を備えていてもよい。例えば、給気装置13は、分離膜を用いて給気を行う膜給気モジュールであってもよい。給気装置13において、分離膜の一方の側に液体を流して、分離膜の他方の側に供給する気体を流すことによって、分離膜を介して気体を液体に供給することができる。
【0046】
給気装置13は、例えば、液体に供給するために給気装置13に供給された気体によって、給気装置13の内部が加圧される構成を有していてもよい。具体的には、例えば給気装置13は、装置内部に取り込まれた、液体に供給するための気体が、装置外部へ排出されにくい構成、例えば排出されない構成を有していてもよい。給気装置13がこのような構成を有する場合、装置内部に供給された気体が装置内部に密封された状態となり、その気体によって装置内部が加圧される。このような構成は、例えば、給気装置13において気体の排出量を低く抑えることにより実現することができ、例えば気体の排出口が閉鎖された状態であること、あるいは気体の排出口が設けられていないこと、等によって実現しうる。以上の構成によれば、給気装置13は、加圧状態下で、液体への気体の供給を行うことができると共に、給気装置13外に気体が無駄に排出されることも抑制できる。なお、給気装置13は、このような、液体に供給するために取り込んだ気体によって装置内部を加圧状態とする構成に限定されず、他の手段によって加圧状態を実現する構成を有していてもよい。
【0047】
分離膜は、中空糸膜であってもよいし、平膜であってもよい。例えば、給気装置13として、中空糸膜給気モジュール又は平膜給気モジュールが使用されてもよい。
【0048】
図4Aは、第1実施形態に係る培養システム100における給気装置13の一例である、中空糸膜を備えた中空糸膜給気モジュール21を模式的に示す断面図である。図4Bは、第1実施形態に係る培養システム100における給気装置13の他の例である、平膜を備えた平膜給気モジュール22を模式的に示す断面図である。
【0049】
図4Aに示すように、中空糸膜給気モジュール21は、気体が供給される液体を内部に供給するための液体供給口21aと、気体が供給された液体を外部へ排出するための液体排出口21bと、液体に供給する気体を内部に供給するための気体供給口21cとを備えている。中空糸膜給気モジュール21には、分離膜としての中空糸膜21dが複数設けられている。液体供給口21aから供給された液体は、中空糸膜21dの内部に送液されて、中空糸膜21dの内部を通って液体排出口21bから排出される。気体供給口21cから供給された気体は、中空糸膜21dの外側に供給される。中空糸膜給気モジュール21は、例えば、供給された気体が外部へ排出されない構成を有している。したがって、供給された気体によって中空糸膜給気モジュール21の内部が加圧状態となり、中空糸膜21dの内部を通過している液体に加圧状態下で気体が供給される。
【0050】
図4Bに示すように、平膜給気モジュール22は、気体が供給される液体を内部に供給するための液体供給口22aと、気体が供給された液体を外部へ排出するための液体排出口22bと、液体に供給する気体を内部に供給するための気体供給口22cとを備えている。平膜給気モジュール22には、分離膜としての平膜22dが設けられている。平膜22dは、平膜給気モジュール22の内部空間を第1空間Aと第2空間Bとの2つに分割している。液体供給口22aから供給された液体は、平膜22dで仕切られた内部空間の第1空間Aを通って液体排出口22bから排出される。気体供給口22cから供給された気体は、平膜22dで仕切られた内部空間の第2空間Bに供給される。平膜給気モジュール22は、例えば、供給された気体が外部へ排出されない構成を有している。したがって、供給された気体によって平膜給気モジュール22の内部空間が加圧状態となり、第1空間Aを通過している液体に加圧状態下で気体が供給される。
【0051】
中空糸膜給気モジュール21及び平膜給気モジュール22では、例えば、モジュール内における液体の流速を調整することによって、液体に供給される気体の量を調整することができる。
【0052】
上記に説明した、図1に示された培養システム100は、給気装置13が培養装置12と別に設置された構成を有している。しかし、第1実施形態に係る培養システムは、給気装置が培養装置と一体的に設けられた構成を有していてもよい。図5は、第1実施形態に係る変形例の培養システム300の構成を示す概略図である。
【0053】
培養システム300は、培養容器31を含む培養装置33と、給気装置34とを備えている。給気装置34は、気体が供給される液体を給気装置34の内部に供給するための液体供給口34aと、気体が供給された液体を装置外部へ排出するための液体排出口34bとを備えている。給気装置34は、液体に供給する気体を装置内部に供給するための気体供給口34cを備えている。給気装置34は、例えば培養容器31の内部に設置されている。給気装置34は、例えば、培養容器31に収容されている培養液を液体供給口34aから給気装置34の内部に取り込み、その培養液に、気体供給口34cから給気装置34の内部に供給された気体を供給し、気体が供給された培養液を液体排出口34bから培養容器31内へ排出する。給気装置34の内部に供給された気体は給気装置34の外部に排出されず、気体は給気装置34の内部に密封された状態となる。したがって、供給された気体によって給気装置34の内部が加圧状態となり、液体に加圧状態下で気体が供給される。図5に示すように、培養装置33は、培養容器31に収容された内容物35を撹拌し混合するための撹拌機32をさらに備えていてもよい。撹拌機32は、例えば、撹拌モータ32a及び撹拌シャフト32bを含んでいる。また、図5に示すように、給気装置34は、例えば撹拌機32と一体的に設けられて、撹拌翼の一部又は全部として機能するように設置されていてもよい。培養システム300がこのような構成を有する場合、撹拌機32の撹拌速度を調整することによって、液体に供給される気体の量を調整することができる。
【0054】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る培養方法は、
(A)培養対象物の培養に用いられる液体に、加圧状態下で所定の気体を供給して、気体が溶存した液体を得ること、及び
(B)培養対象物が収容された培養容器に、気体が溶存した液体を供給して、培養対象物を培養容器内で培養すること、
を含む。
【0055】
第2実施形態に係る培養方法によれば、培養対象物の培養に用いられる液体に加圧状態下で所定の気体(例えば、培養に必要な気体)を供給することにより、液体に気体を効率的に給気することができる。例えば、第2実施形態に係る培養方法によれば、上記液体への上記気体の溶存濃度を向上させたり、上記液体への上記気体の溶存速度を向上させたりすることができる。したがって、第2実施形態に係る培養方法によれば、システム外に無駄に排出される気体を低減して、気体の溶存濃度が向上した液体を得ることができるので、培養効率の向上及び培養コストの低減が期待できる。
【0056】
第2実施形態に係る培養方法は、例えば、第1実施形態で説明した培養システムを用いて実施することができる。第2実施形態に係る培養方法における培養対象物、液体、当該液体に供給される気体、及び培養容器の説明は、第1実施形態に係る培養システムにおける培養対象物、液体、当該液体に供給される気体、及び培養容器の説明とそれぞれ同じである。したがって、ここではこれらの詳細な説明を省略する。
【0057】
第2実施形態に係る培養方法において、培養対象物は微細藻類であってもよい。この場合、上記(B)においては、培養容器にさらに光を供給する。第2実施形態に係る培養方法によれば、微細藻類を、効率的に、そしてコストを低減して培養することができる。
【実施例0058】
以下に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
[給気装置の準備]
給気装置として、中空糸膜給気モジュール(永柳工業株式会社製、「ナガセップ M-30B」)を準備した。
【0060】
[液体の調製]
評価用の液体として、BTB溶液を調製した。東京化成工業株式会社製のBromothymol Blue Sodium Salt 0.1gを、エタノール20mLに溶解させた後、水道水を加えて100mLのBTBストック溶液とした。その後、BTBストック溶液6mLと水道水600mLとを混合し、評価用のBTB溶液を調製した。
【0061】
[評価方法]
実施例1の評価用システムを準備した。
【0062】
図6は、実施例1で用いた評価用システム400の構成を示す概略図である。評価用システム400は、
・給気装置として準備した中空糸膜給気モジュール41、
・CO2モニター計(マルチパラメータ変換器 M400(METTLER TOLEDO製))が組み込まれたCO2モニターユニット42(CM-1(三ツワフロンテック製))、
・ガス混合装置43(PMG- 1A (コフテック製))、
・エアーコンプレッサー44(日立スーパーオイルフリーベビコン LEシリーズ 0.2LE-8SB(日立産機システム製))、
・CO2ガスボンベ45(液化炭酸ガスボンベ 7kg(ヨシダ産業製))
・ダイヤフラム式送液ポンプ46(1300mL/min NF100TT.18RC(KNF製))、及び
・評価用BTB溶液が内部に収容された1Lの三角フラスコ47、
を用いて構築された。なお、中空糸膜給気モジュール41、ダイヤフラム式送液ポンプ46、及び三角フラスコ47は、評価用BTB液体の循環流路を形成するシリコーンチューブによって互いに連結されていた。
【0063】
図6の評価用システムにおいて、表1に示すシステム運転条件でシステム稼働した。なお、中空糸膜給気モジュール41のガスOut部を閉栓し、供給する気体によって中空糸膜給気モジュール41内が加圧状態となるようにした。また、評価用BTB溶液の溶液pH変化及び溶液中CO2濃度変化を、pHセンサー48(Gro Line ポータブル pH/EC/TDS/℃ 計 HI 9814D(ハンナインスツルメンツ・ジャパン製))及びCO2センサー49(InPro 5000(i) CO2センサー(METTLER TOLEDO製))を用いて、システム稼働前とシステム稼働10分後の値からそれぞれ算出した。評価結果は、表2に示されている。
【0064】
【表1】
【0065】
(実施例2)
[給気装置の準備]
給気装置として、図4Bに示すような構成を有する平膜給気モジュールを準備した。具体的には、日東電工株式会社製の平膜テストセル「C-10T」を用い、かつ日東電工株式会社製の無孔シリコーンコート膜(50μmPDMS塗工、RS50-S8)を分離膜である平膜22dとして用いて、図4Bに示すような構成を有する平膜給気モジュールを組み立てた。
【0066】
[液体の調製]
実施例1と同様のBTB溶液を調製した。
【0067】
[評価方法]
実施例2の評価用システムを準備した。
【0068】
図7は、実施例2で用いた評価用システム500の構成を示す概略図である。評価用システム500は、実施例1の評価用システム400において、中空糸膜給気モジュール41を実施例2の給気装置として組み立てた平膜給気モジュール51に変更することによって構築された。
【0069】
システム運転条件は実施例1と同様にした。なお、「C-10T」セルのガスOut部を閉栓し、セル内が加圧状態となるようにした。そして、評価用BTB溶液の溶液pH変化及び溶液中CO2濃度変化を、実施例1と同様にそれぞれ算出した。評価結果は、表2に示されている。
【0070】
(参考例1)
[給気装置の準備]
給気装置として、実施例1と同様に中空糸膜給気モジュール(永柳工業株式会社製、「ナガセップ M-30B」)を準備した。
【0071】
[液体の調製]
実施例1と同様のBTB溶液を調製した。
【0072】
[評価方法]
参考例1の評価用システムを準備した。
【0073】
図8は、参考例1で用いた評価用システム600の構成を示す概略図である。実施例1のシステムによる加圧状態下での給気による効果を厳密に確認するために、加圧状態下で給気を行わなかった点のみを違いとする評価用システム600を用いた。評価用システム600では、実施例1の評価用システム400において、中空糸膜給気モジュール41のガスOut部を開栓状態とした。これにより、モジュール41内が加圧されないようにした。この変更点以外、参考例1の評価用システム600は、実施例1の評価用システム400と同じであった。
【0074】
システム運転条件は実施例1と同様にした。そして、評価用BTB溶液の溶液pH変化及び溶液中CO2濃度変化を、実施例1と同様にそれぞれ算出した。評価結果は、表2に示されている。
【0075】
(参考例2)
[給気装置の準備]
実施例2と同様の平膜給気モジュールを組み立てた。
【0076】
[液体の調製]
実施例1と同様のBTB溶液を調製した。
【0077】
[評価方法]
参考例4の評価用システムを準備した。
【0078】
図9は、参考例2で用いた評価用システム700の構成を示す概略図である。評価用システム700では、実施例2のシステムによる加圧状態下での給気による効果を厳密に確認するために、加圧状態下で給気を行わなかった点のみを違いとする評価用システム700を用いた。評価用システム700では、実施例2の評価用システム500において、平膜給気モジュール51のガスOut部を開栓状態とした。これにより、モジュール51内が加圧されないようにした。この変更点以外、参考例2の評価用システム700は、実施例2の評価用システム500と同じであった。
【0079】
システム運転条件は実施例1と同様にした。そして、評価用BTB溶液の溶液pH変化及び溶液中CO2濃度変化を、実施例1と同様にそれぞれ算出した。評価結果は、表2に示されている。
【0080】
【表2】
【0081】
加圧状況下で気体が供給された液体は、加圧されていない状況下で気体が供給された液体よりも、pH変化が大きかった。この結果から、加圧状況下で気体が供給されることによって気体の溶存速度を速くすることができ、効率的な給気が実現できることがわかる。さらに、CO2濃度変化についても、加圧状況下で気体が供給された液体は、加圧されていない状況下で気体が供給された液体よりもCO2濃度変化が大きかった。この結果から、加圧状況下で気体が供給されることによって効率的な給気が可能となることで、気体の溶存濃度も向上することがわかる。また、実施例1及び2では、使用した給気モジュールは供給したCO2を外部に排出しない構成を有していた。したがって、実施例1及び2のシステムは、参考例1及び2のシステムとは異なり、無駄になるCO2を大幅に削減することができた。
【0082】
以上の結果から、本発明の培養システム及び培養方法によれば、培養に用いられる液体に、培養に必要な気体を効率的に給気することができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の培養システム及び培養方法は、培養液等の培養に用いられる液体に効率的に気体を給気できるので、培養効率の向上及び培養コストの低減が期待できる。したがって、本発明の培養システム及び培養方法は、例えば微細藻類の培養システムの大規模化のような、培養システムの大規模化への利用に適している。
【符号の説明】
【0084】
11、31 培養容器
12、16、33 培養装置
13、34 給気装置
14a 第1流路
14b 第2流路
15 送液装置
17 タンク
18、32 撹拌機
19 培養バッグ
20 内容物
21 中空糸膜給気モジュール
22 平膜給気モジュール
100、200、300 培養システム
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9