(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048592
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】プレス装置
(51)【国際特許分類】
B30B 15/14 20060101AFI20240402BHJP
B30B 15/18 20060101ALI20240402BHJP
B30B 15/00 20060101ALI20240402BHJP
B21D 37/14 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B30B15/14 H
B30B15/18 F
B30B15/00 B
B21D37/14 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154593
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 範男
【テーマコード(参考)】
4E088
4E089
【Fターム(参考)】
4E088JJ02
4E089EA01
4E089EB01
4E089EC03
4E089EE02
4E089FA01
4E089FB10
4E089FC03
4E089FC05
(57)【要約】
【課題】より精密な加工を可能とするプレス装置を提供する。
【解決手段】プレス装置(1)は、スライド(12)と、スライドに荷重を加える複数の駆動部(13a~13c)と、スライドの移動量の補正値を求める制御部(31)と、を備える。そして、上記の補正値は、複数の駆動部のうちの何れが駆動しているかに応じて変化する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドと、
前記スライドに荷重を加える複数の駆動部と、
前記スライドの移動量の補正値を求める制御部と、を備え、
前記補正値は、前記複数の駆動部のうちの何れが駆動しているかに応じて変化する、
プレス装置。
【請求項2】
前記補正値は、更に金型のサイズに応じて変化する、
請求項1記載のプレス装置。
【請求項3】
金型の前記サイズを取得し、前記サイズの情報を前記制御部へ送る入力部を更に備える、
請求項2記載のプレス装置。
【請求項4】
前記補正値は、更に金型の温度に応じて変化する、
請求項1記載のプレス装置。
【請求項5】
前記金型の温度を計測し、前記温度の情報を前記制御部へ送る温度センサを更に備える、
請求項4記載のプレス装置。
【請求項6】
前記制御部は、少なくとも荷重値を入力として、前記移動量の補正値を出力する計算式又はデータテーブルを有し、
前記計算式又は前記データテーブルは、下金型のたわみ、上金型のたわみ、前記下金型を支持する下フレームのたわみ、前記スライドのたわみ、サイドフレームの伸び、金型の熱膨張のうちのいずれか複数を反映した前記移動量の補正値を出力する、
請求項1記載のプレス装置。
【請求項7】
前記計算式又は前記データテーブルは、前記荷重値に加えて、前記複数の駆動部のうちの何れが駆動しているかを示す情報、前記金型のサイズ、並びに、前記金型の温度を入力として、前記移動量の補正値を出力する、
請求項6記載のプレス装置。
【請求項8】
前記スライドの位置を計測する位置センサを備え、
前記位置センサの計測値と前記補正値とに基づいて、プレス動作における前記スライドの停止位置が制御される、
請求項1記載のプレス装置。
【請求項9】
補正後の前記移動量を表示する表示部を更に備える、
請求項1記載のプレス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プレス装置において、サイドフレーム(タイロッド及びアプライト)の伸びに対応させてスライドの移動量を補正することが示されている。当該補正により、プレス加工の精度を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プレス装置においては、スライドに大きな荷重が加わった際、サイドフレーム以外の構成にもたわみが生じることがあった。
【0005】
本発明は、より加工精度を向上できるプレス装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るプレス装置は、
スライドと、
前記スライドに荷重を加える複数の駆動部と、
前記スライドの移動量の補正値を求める制御部と、を備え、
前記補正値は、前記複数の駆動部のうちの何れが駆動しているかに応じて変化する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、より精密な加工を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態のプレス装置を示す図である。
【
図2】プレス装置のたわみを説明する正面図である。
【
図3】成形精度に影響するたわみの内訳を示す説明図である。
【
図4】複数の駆動部の選択パターンとスライドのたわみ量との関係を説明するグラフである。
【
図5】金型サイズとスライド及び下フレームのたわみ量との関係を説明するグラフである。
【
図6】たわみの計算式を導出するために用意されるデータセットの一例である。
【
図7】制御部が実行するプレス処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態のプレス装置を示す図である。本実施形態のプレス装置1は、金属等の加工対象物を金型80(下金型81と上金型82)の間に挟み、荷重を加えて成形する装置である。
【0010】
プレス装置1は、下フレーム11と、昇降移動するスライド12と、スライド12に荷重を加える複数の駆動部13a~13cと、複数の駆動部13a~13cを支持する上フレーム14と、上フレーム14と下フレーム11とを締結するサイドフレーム15と、スライド12を上方に押し戻すリターンシリンダ17とを備える。
【0011】
下フレーム11は、具体的には、ベッド及びボルスタである。上フレーム14は、具体的には、クラウンである。サイドフレーム15は、具体的には、ベッドとクラウンとを締結するタイロッドを含んだアプライトである。スライド12は、サイドフレーム15(アプライト)に昇降可能にガイドされている。サイドフレーム15は、前後左右に配置された4本の支柱であるが、その数は4本に限られないし、形態も柱状に限られず、壁状であってもよい。
【0012】
下フレーム11には下金型81が固定される。スライド12には上金型82が固定される。そして、スライド12が下降することで、下金型81と上金型82との間に加工対象物が挟まれ、駆動部13a~13cがスライド12を加圧することで、加工対象物に荷重が加えられ、加工対象物が金型80のキャビティに沿って成形される。以下、下金型81と上金型82との間隔のことを「金型間距離」と記す。下金型81と上金型82とには、加工対象物を挟まずに近接させたときに接触可能な箇所があり、金型間距離とは当該箇所における上下方向の距離を意味する。
【0013】
駆動部13a~13cの各々は、例えば液圧式の駆動機構(ラムシリンダ等)である。しかし、駆動部13a~13cは、当該駆動機構に限定されず、例えばサーボモータの駆動力で荷重を加える機械式の駆動機構であってもよいし、液圧式の駆動機構と機械式の駆動機構とが混在する構成であってもよい。
【0014】
プレス装置1は、更に、スライド12の位置を測定する位置センサ21と、金型80の温度を測定する温度センサ22と、金型80に加わる荷重を測定する荷重センサ23とを備える。
【0015】
位置センサ21は、プレス装置1の相対位置を測定する。位置センサ21は、具体的には、サイドフレーム15(アプライト)とスライド12の側部とに設けられたリニアエンコーダであり、サイドフレーム15(アプライト)に対するスライド12の側部の相対位置(上下方向の相対位置)を測定する。金型80の周囲は潤滑油が多く付着するので、上記のように位置センサ21が配置されることで、潤滑油の影響を多く受けずにスライド12の位置、延いては、上金型82の位置を計測することができる。
【0016】
なお、位置センサ21は、上記の構成に限られず、スライド12の所定部位の相対位置を測定できれば、どのような構成であってもよい。また、測定対象となるスライド12の所定部位は、スライド12の側部であってもよいし、スライド12の中央部であってもよい。
【0017】
温度センサ22は、下金型81の温度と、上金型82の温度とを別々に測定する2つの温度センサ22a、22bを含む。温度センサ22としては、測定対象と離間して温度を測定できる離間型温度計(例えば放射温度計)などが適用される。熱間成形(例えば熱間鍛造)又は温間成形(例えば温間鍛造)を行う場合、金型80の周囲は高温になり、また、金型80の周囲は潤滑油が多く付着する。したがって、離間型温度計を採用することで温度センサ22の取付け箇所の確保が容易になる。
【0018】
荷重センサ23は、例えばサイドフレーム15の一部のたわみを検出することで荷重に換算するセンサである。その他、荷重センサ23は、金型80に加わる荷重を検出できればどのような形式のものであってもよい。
【0019】
プレス装置1は、さらに、駆動部13a~13cを制御する制御部31と、プレス装置1の情報を表示する表示部32と、オペレータにより情報を入力可能な33とを備える。
【0020】
制御部31は液圧回路(例えばその制御弁)を制御することで、少なくとも駆動部13a~13cの駆動開始と駆動停止の制御が可能である。制御部31は、加えて、駆動部13a~13cの加圧力(荷重)を制御可能に構成されてもよい。上記の液圧回路とは、駆動部13a~13cが液圧式の駆動機構である場合に、駆動部13a~13cに液圧を供給する回路である。駆動部13a~13cがサーボモータを有する機械式の駆動機構である場合、制御部31はサーボモータの電気的な制御によって、上記の制御を行うように構成される。
【0021】
位置センサ21及び温度センサ22の出力は制御部31に送られる。入力部33を介して入力された情報は制御部31に送られる。制御部31は、制御プログラムに基づいて制御動作を行うコンピュータである。
【0022】
表示部32は、画像表示又は文字表示が可能であり、スライド12のストローク(移動量)を表示する。ここで、ストロークとは、上述した金型間距離を表わす。すなわち、ストロークとは、下金型81と上金型82とが僅かに接する位置をゼロ点としたスライド12の位置を表わす。表示部32は、制御部31が計算したスライド12のストロークを表示する。
【0023】
入力部33は、キーボード、マウス、タッチパネル等であり、オペレータは、入力部33を介して金型80のサイズを入力することができる。入力部33から入力された情報は制御部31に送られる。入力可能な金型80のサイズには、少なくとも下金型81の幅と長さ(奥行)、並びに、上金型82の幅と長さ(奥行)が含まれる。さらに、入力可能な金型80のサイズには、下金型81の高さ、並びに、上金型82の高さが含まれていてもよい。
【0024】
<プレス装置のたわみ>
図2は、プレス装置のたわみを説明する正面図である。
図3は、成形精度に影響するたわみの内訳を示す説明図である。
【0025】
駆動部13a~13cのうちの1つ又は複数が駆動して、下金型81と上金型82との間で加工対象物に荷重が加えられると、反力によりプレス装置1の各部にたわみが生じる。当該たわみには、サイドフレーム15の上下方向における伸び(たわみ量δ1)と、下フレーム11の中央が低くなる弧状のたわみ(たわみ量δ2)と、スライド12の中央が高くなる弧状のたわみ(たわみ量δ3)と、下金型81が上下方向に圧縮されるたわみ(たわみ量δ4)と、上金型82が上下方向に圧縮されるたわみ(たわみ量δ5)とが含まれる。
【0026】
さらに、金型80に生じる別のたわみとして、熱間成形又は温間成形等において金型80が熱せられると、熱膨張により金型80が上下方向に伸長する(たわみ量δ6)。
【0027】
ここで、まず、上記のたわみが生じない場合における制御について説明する。たわみが生じない場合、位置センサ21の出力から得られるスライド12のストローク量と、金型間距離とは一致する。したがって、例えば金型間距離が5mmのときに、規定の厚みのプレス成形が達成される場合、位置センサ21の出力から得られるストロークが5mmのときにスライド12を停止させることで、金型間距離が5mmのときに、スライド12が停止し、規定の厚みの成形品が得られる。
【0028】
次に、たわみが生じる場合について説明する。
図2及び
図3に示したたわみが生じる場合、位置センサ21により計測されたストロークと、金型間距離との間には、たわみに応じた乖離が生じる。当該乖離の量は、上記のたわみ量δ1~δ6を金型間距離のズレ量として換算し、合算した値となる。
【0029】
上記各部のたわみのうち、金型80の熱膨張によるたわみ量δ6は、金型80の熱によって変化する。また、金型80の圧縮によるたわみ量δ4、δ5と、サイドフレーム15、下フレーム11及びスライド12のたわみ量δ1、δ2、δ3は、加工対象物に加えられる荷重によって変化する。
【0030】
さらに、下フレーム11及びスライド12のたわみ量δ2、δ3は、
図4と
図5に示すように、別の条件によっても変化する。
【0031】
図4は、複数の駆動部の選択パターンとスライドのたわみ量との関係を説明するグラフである。複数の駆動部13a~13cの「選択パターン」とは、複数の駆動部13a~13cのうちの何れを駆動させるのか、そのパターンを意味する。
図4において、「選択パターン1本」のグラフ線は中央一つの駆動部13bが駆動されるパターン、「選択パターン2本」のグラフ線は左右2つの駆動部13a、13cが駆動されるパターン、「選択パターン3本」のグラフ線は3つの駆動部13a~13cが駆動されるパターンをそれぞれ示す。上記のように選択パターンが異なると、駆動される駆動部13a~13cの数に応じて最大荷重も異なる。
【0032】
図4のたわみ量は、荷重に応じて変化(例えば比例)する。さらに、
図4のたわみ量は、荷重が等しくても、駆動部13a~13cの選択パターンによって異なる値をとる。これは、スライド12の下面の中央に金型80が位置するため、スライド12の中央が加圧される場合には、スライド12が弧状にたわむ作用が小さくなる一方、スライド12の端寄りが加圧される場合には、スライド12が弧状にたわむ作用が大きくなるためである。
【0033】
図5は、金型サイズと、スライド及び下フレームのたわみ量との関係を説明するグラフである。
図5における「金型1~3」のグラフ線は、サイズの異なる3つの金型80がプレス装置1にセットされているときそれぞれの特性線を示す。
図5のたわみ量は、荷重に応じて変化(例えば比例)するが、荷重が等しくても、金型80のサイズによっても異なる値をとる。これは、金型80のサイズにより、下フレーム11とスライド12とに金型80から反力を受ける範囲が大小変化し、当該範囲の大きさにより下フレーム11とスライド12とが弧状に撓む作用が大小に変化するためである。
図5のたわみ量に影響する金型80のサイズとは、主に幅と長さ(奥行)であるが、高さも影響を及ぼすことがある。
【0034】
<たわみの計算式>
図4に示した駆動部13a~13cの選択パターンとたわみ量との関係は、金型80のサイズを或るサイズに固定したときの特性であり、金型80のサイズが変われば、
図4に示した特性も変化する。また、
図5に示した金型サイズとたわみ量との関係は、駆動部13a~13cの選択パターンを或るパターンに固定したときの特性であり、駆動部13a~13cの選択パターンが変われば、
図5に示した特性も変化する。つまり、駆動部13a~13cの選択パターンが固定でなく、かつ、金型80のサイズも固定ではない場合には、これら複数のパラメータに応じてプレス装置1のたわみ量は変化する。
【0035】
制御部31は、上記の複数のパラメータに応じて変化するプレス装置1の総合的なたわみ量ΔXを求めるために、予め、次の計算式(1)を有している。総合的なたわみ量ΔXとは、金型間距離のズレ量に換算される量に相当する。
【数1】
ここで、n=1~3とは、駆動部13a~13cの選択パターン1本~3本をそれぞれ意味する。a
1~a
3、b
1~b
3、c
1~c
3、d
1~d
3、e
1~e
3、αは係数であり、Aは金型幅、Bは金型の長さ(奥行)、Hは基準温度のときの金型の高さ、Wは荷重、ΔTは基準温度からの温度差である。基準温度は例えば常温である。
【0036】
計算式(1)は、n、A、B、H、W、ΔTを入力パラメータとし、総合的なたわみ量(たわみによる総合的な金型間距離の変化量)ΔXを出力する式である。当該たわみ量ΔXは、スライド12の移動量の補正値に相当する。
【0037】
制御部31は、計算式(1)の代わりに、上記の入力パラメータと総合的なたわみ量ΔXとの関係を示すデータテーブルを有していてもよい。
【0038】
<計算式の導出例>
続いて、計算式(1)の各係数を導出する一例について説明する。係数a1~a3、b1~b3、c1~c3、d1~d3、e1~e3は、複数の実測値又は複数の解析値から回帰分析(具体的には重回帰分析回帰などの統計的回帰分析手法)によって導出することができる。
【0039】
まず、回帰分析により、式(2-1)の係数“a1、b1、c1、d1、e1”を導出する例を示す。当該回帰分析を行うためには、金型幅A、金型長さB、金型高さH、荷重Wを複数種類に変えたときの、総合的なたわみ量ΔXの実測値又は解析値をそれぞれ示すデータセットを用意する。ただし、駆動部13a~13cの選択パターンを中央1本とし、金型80の温度を基準温度とする。たわみ量ΔXを解析値として得る方法としては、FEM(Finite Element Method)解析などの数値解析手法を適用できる。温度=基準温度とする条件により、式(2-1)中の“-H×α×ΔT”がゼロとなる。
【0040】
図6は、計算式を導出するためのデータセットの一例である。データセット41は、
図6に示すように、各パラメータが少ない偏りで分散したものであるとよい。データセット41は、荷重Wが10MN、20MN、30MNの3種類、金型幅Aが500mm、800mm、1200mmの3種類、金型長さBが300mm、400mm、500mmの3種類、金型高さHが200mm、250mm、300mmの3種類の各々としたときに生じるたわみ量ΔXが含まれている。データ量が膨大であるため、
図6では、一部を省略して、金型高さH=200mmのデータのみを示している。
【0041】
回帰式では、式(2-1)に示すように、変数A、Bを含む項は、変数A、Bに反比例する項を採用している。これは、金型幅Aと金型の長さBが大きいほどたわみが小さくなる特性を有するためである。回帰式において、変数Hを含む項は、変数Hに比例する項を採用している。これは、金型の高さHが大きいほど荷重に応じたたわみ量が大きくなるためである。そして、上記のデータセットと回帰式とを用いて重回帰分析することで、係数“a1、b1、c1、d1、e1”を導出することができる。
【0042】
回帰分析により、式(2-2)の係数“a2、b2、c2、d2、e2”を導出する場合も同様である。この場合、駆動部13a~13cの選択パターンを左右の2本とし、同様の条件でデータセットを用意する。この場合、1本の場合よりも最大荷重が増えるので、荷重Wは、例えば20MN、40MN、60MNの3種類など、最大荷重に合わせた値でデータセットを用意するとよい。そして、同様の重回帰分析を行うことで、係数“a2、b2、c2、d2、e2”を導出することができる。同様に、駆動部13a~13cの選択パターンが3本の場合についても、同様の方法で、式(2-3)の係数“a3、b3、c3、d3、e3”を導出することができる。
【0043】
なお、上述の回帰式は、一例に過ぎない。回帰式には、より特性に適合した項を含めてもよいし、あるいは、大きな影響を及ぼさない項を省略することで単純化された回帰式が適用されてもよい。
【0044】
次に、係数αについて説明する。式(2-1)~(2-3)中の“-H×α×ΔT”は、温度によるたわみの補正項である。係数αは、金型80を構成する材料の熱膨張係数である。熱間成形又は温間成形における事前の予熱により金型80が高温になると、金型80の高さが熱膨張により増し、金型間距離を減少させる。当該たわみ(金型間距離の減少量)をΔXSと記す。当該たわみΔXSは、金型幅A、金型長さB及び駆動部13a~13cの選択パターンには、略依存せず、金型高さHと、温度の変化量ΔT(使用温度-基準温度:常温)と、熱膨張係数αとによって略決定する。したがって、温度上昇後の金型高さをH2、温度上昇前(=基準温度)の金型高さをH1(=H)、金型高さの変化量をΔHと記せば、次式(3)のように記載できる。
ΔXS = ΔH = -(H2-H1) = -H1×α×ΔT …(3)
しかして、式(2-1)~(2-3)の温度によるたわみの補正項は、前述の通りとなる。
【0045】
上記のたわみ量ΔXは、スライド12の移動量の補正値として求められる。そして、上記のたわみ量ΔXは、複数の駆動部13a~13cの選択パターン、並びに、金型80のサイズと温度とに基づいて変化し、実際のたわみ量を高い精度で表わす。したがって、たわみ量ΔXを用いてスライド12の移動量を補正することで、より精密なプレス加工が可能となる。
【0046】
<動作例>
続いて、プレス装置1の動作について説明する。
図7は、制御部が実行するプレス処理のフローチャートである。当該プレス処理のプログラムは、制御部31の記憶部31aに格納されている。プレス処理が開始されると、プレス動作の開始の前に、制御部31は、初期データの入力処理を行う(ステップS1)。初期データには、金型80のサイズ(幅、長さ、高さ)、駆動部13a~13cの選択パターン、並びに、成形完了時の金型間距離の要求値が含まれる。これらの初期データは、オペレータが、入力部33を介して入力する構成としてよいし、金型80のサイズなどはデジタルカメラ等を介して制御部31が自動計測する構成としてもよい。また、駆動部13a~13cの選択パターン、並びに、成形完了時の金型間距離の要求値についても、オペレータによる入力としてもよいし、制御部31が人工知能等を用いて自動的に選択する構成、あるいは、デフォルトの値が設定される構成としてもよい。
【0047】
成形完了時における金型間距離の要求値は、成形品の厚みに関係する。当該要求値が大きく設定されることで、金型間距離が大きいときに加圧が終了し、成形品が厚くなる。上記の要求値が小さく設定されることで、金型間距離が小さいときに加圧が終了し、成形品が薄くなる。
【0048】
初期データが入力されたら、続いて、制御部31は、プレス開始の指令があるまで待機する(ステップS2)。その間、オペレータは、必要があれば金型80を予熱し、加工対象である材料を金型80にセットする。そして、プレス開始の指令があれば、制御部31は、スライド12の位置センサ21、温度センサ22及び荷重センサ23の各測定値を読み込みながら(ステップS3)、選択された駆動部13a~13cを駆動し(ステップS4)、スライド12を下降させるループ処理を実行する。
【0049】
ループ処理中、制御部31は、上述した計算式(1)を用いてたわみ量ΔXを計算し(ステップS5)、位置センサ21の測定値と計算されたたわみ量ΔXとから、スライド12の実際のストローク量を計算し(ステップS6)、当該ストローク量を表示部32に表示出力する(ステップS7)。当該ストローク量は実際の金型間距離を高い精度で表わす。
【0050】
さらに、ループ処理中、制御部31は、上記ストローク量が、要求された金型間距離に到達したか判別し(ステップS8)、到達したと判別されたら、スライド12の下降を停止し(ステップS9)、必要あれば加圧終了時の処理を行い(ステップS10)、その後、スライド12を上昇させて(ステップS11)、1回のプレス処理を終了する。
【0051】
ステップS7の判別で使用されるスライド12のストローク量は、プレス装置1の下フレーム11、スライド12、サイドフレーム15及び金型80のたわみの影響を反映した実際の金型間距離に高い精度で合致した値である。したがって、上記のプレス処理により、要求された値により近い金型間距離でスライド12の下降が停止され、より精工な成形品を得ることができる。
【0052】
以上のように、本実施形態のプレス装置1によれば、スライド12と、スライド12に荷重を加える複数の駆動部13a~13cと、スライド12の移動量を制御する制御部31とを備える。当該構成によれば、制御部31の制御によって、スライド12を所定位置まで下降させて加工対象物を成形するプレス処理を実現できる。
【0053】
さらに、制御部31は、スライド12の移動量の補正値(たわみ量ΔX)を求め、当該補正値でスライド12の移動量を補正する。そして、上記の補正値は、複数の駆動部13a~13cの選択パターン(複数の駆動部13a~13cの何れが駆動されるか)に基づいて変化する。複数の駆動部13a~13cを有し、その中の1つ又は複数が選択されて駆動されるプレス装置1においては、駆動部13a~13cの選択パターンによって、プレス動作時のスライド12及び上フレーム14のたわみ具合が変化する。そこで、上記のような補正値を採用することで、駆動部13a~13cの選択パターンに応じた適正な補正値を適用することができる。したがって、プレス装置1のたわみによって、実際の金型間距離と制御上の金型間距離とが乖離してしまうことを抑制でき、精密なプレス成形が可能となる。
【0054】
さらに、本実施形態のプレス装置1によれば、上記の補正値(たわみ量ΔX)は、更に金型80のサイズに基づいて変化する。幅又は奥行が広いプレス装置1においては、金型80のサイズによって、プレス動作時のスライド12及び下フレーム11のたわみ具合が変化する。そこで、上記のような補正値を用いることで、金型80のサイズに応じた適正な補正値を適用することができる。したがって、プレス装置1のたわみによって、実際の金型間距離と制御上の金型間距離とが乖離してしまうことを抑制でき、精密なプレス成形が可能となる。
【0055】
さらに、本実施形態のプレス装置1によれば、上記の補正値(たわみ量ΔX)は、更に金型80の温度に基づいて変化する。このような補正値を用いることで、熱間成形又は温間金型において金型80が熱膨張する場合でも、当該熱膨張に対応した適正な補正値を適用することができる。したがって、金型80を含めたプレス装置1のたわみによって、実際の金型間距離と制御上の金型間距離とが乖離してしまうことを抑制でき、精密なプレス成形が可能となる。
【0056】
さらに、本実施形態のプレス装置1によれば、金型80の温度を計測し、計測された温度の情報を制御部31に送る温度センサ22a、22bを備える。したがって、制御部31は、温度センサ22a、22bから送られる温度の情報に基づいて、スライド12の移動量の補正値(たわみ量ΔX)を求めることができる。
【0057】
さらに、本実施形態のプレス装置1によれば、制御部31は、少なくとも荷重W(荷重値)を入力として、スライド12の移動量の補正値(たわみ量ΔX)を出力する計算式又はデータテーブルを有する。そして、当該計算式又はデータテーブルは、下金型81のたわみ、上金型82のたわみ、下フレーム11のたわみ、スライド12のたわみ、サイドフレーム15の伸び、金型80の熱膨張を反映した補正値を出力する。したがって、制御部31は、負荷の少ない計算処理によって、適正な補正値を得て、精密なプレス成形を実現できる。
【0058】
さらに、本実施形態のプレス装置1によれば、上記の計算式又はデータテーブルは、複数の駆動部13a~13cのうちの何れが駆動しているかを示す情報(選択パターン)、金型80のサイズ、並びに、金型80の温度を入力として、スライド12の移動量の補正値(たわみ量ΔX)を出力する。したがって、制御部31は、複数の駆動部13a~13cの選択パターン、金型80のサイズ、並びに、金型80の温度に応じた適正な補正値を、負荷の少ない計算処理によって取得し、精密なプレス成形を実現できる。
【0059】
さらに、本実施形態のプレス装置1によれば、スライド12の位置を計測する位置センサ21を備え、位置センサ21の計測値と上述した補正値(たわみ量ΔX)とに基づいて、プレス動作におけるスライド12の停止位置が制御される。したがって、プレス成形の終了時における金型間距離の精度が向上し、精密な成形品の厚みを実現できる。
【0060】
さらに、本実施形態のプレス装置1によれば、補正後のスライド12の移動量(ストローク量)を表示する表示部32を更に備える。したがって、オペレータは、表示から正確なスライド12のストローク量を認識することができ、オペレータに分かりやすいプレス処理を実現できる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、上記の実施形態は本開示のプレス装置の一例にすぎない。例えば、プレス装置1では、複数の駆動部13a~13cを有し、その中のいずれを駆動させるのか選択できる構成を示した。しかし、プレス装置1は、1つの駆動部を有する構成、あるいは、駆動部の選択パターンが一通りである構成であってもよい。この場合、制御部31が計算する補正値(たわみ量ΔX)は、駆動部13a~13cの選択パターンに基づき変化するという特徴を有さずに、金型80のサイズ、金型80の温度、又はこれら両方に基づいて変化するという特徴を有していてもよい。また、上記の実施形態では、金型80のサイズとして、金型80の高さを含む例を示したが、高さの影響は比較的に小さいため、高さについては省略してもよい。さらに、上記実施形態では、駆動部13a~13cとして、左右に並ぶ3つの駆動部を示したが、駆動部の数及び配置は様々に変更可能である。また、駆動部は、液圧式のラムシリンダに限られず、液圧式の他の形態の駆動部が適用されてもよいし、機械式の駆動部が適用されてもよい。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 プレス装置
11 下フレーム
12 スライド
13a~13c 駆動部
14 上フレーム
15 サイドフレーム
21 位置センサ
22、22a、22b 温度センサ
23 荷重センサ
31 制御部
31a 記憶部
32 表示部
33 入力部
41 データセット
80 金型
81 下金型
82 上金型