(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048598
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】冷凍焼菓子用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20240402BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20240402BHJP
A21D 15/02 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A21D2/16
A21D15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154603
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】591040144
【氏名又は名称】太陽油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】林 美穂
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 美緒
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG03
4B026DG04
4B026DG05
4B026DG06
4B026DH02
4B026DH05
4B026DP01
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4B032DB05
4B032DK03
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4B032DK18
4B032DK46
4B032DK47
4B032DP08
4B032DP40
4B032DP73
(57)【要約】
【課題】冷凍あるいは半解凍の状態で食される冷凍焼菓子に用いられる、冷凍温度域から出してそのまま喫食した際に軟らかく、口どけが良好で、冷涼感を感じる、冷凍焼菓子用油脂組成物を提供すること
【解決手段】本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物は、液体油を70質量%以上含み、-20℃におけるSFCが85%以下であり、20℃におけるSFCが3%以下であり、(a)-5℃におけるSFCが5%未満であるか、(b)-5℃におけるSFCが5%~30%であり、かつ、ラウリン系油脂を含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体油を70質量%以上含む冷凍焼菓子用油脂組成物であって、
-20℃におけるSFCが85%以下であり、
20℃におけるSFCが3%以下であり、及び
下記(a)、(b)のいずれかを満たす、
(a)-5℃におけるSFCが5%未満である、
(b)-5℃におけるSFCが5%~30%であり、かつ、ラウリン系油脂を含む、
上記冷凍焼菓子用油脂組成物。
【請求項2】
ラウリン系油脂を5~30質量%含む、請求項1に記載の冷凍焼菓子用油脂組成物。
【請求項3】
ラウリン系油脂が、ヤシ油、パーム核油、パーム核油の分別油、及び前記油脂の2種類以上の混合物から選択される、請求項1に記載の冷凍焼菓子用油脂組成物。
【請求項4】
-20℃におけるSFCと10℃におけるSFCの差が、10%から50%である、請求項1に記載の冷凍焼菓子用油脂組成物。
【請求項5】
10℃におけるSFCが6%以下である、請求項1に記載の冷凍焼菓子用油脂組成物。
【請求項6】
油脂組成物全体の質量に対する、LLLの含有量とLLOの含有量の和が20~50質量%である(LLL、LLOは、グリセロール1分子に3分子のL(リノール酸)あるいは2分子のLと1分子のO(オレイン酸)が結合したトリアシルグリセロールを意味する)、請求項1に記載の冷凍焼菓子用油脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の冷凍焼菓子用油脂組成物を含む、冷凍焼菓子用生地。
【請求項8】
請求項7に記載の冷凍焼菓子用生地を焼成し、冷凍してなる冷凍焼菓子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍から半解凍の状態で食する焼菓子の製造に用いる油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来室温~冷蔵下で食される焼菓子について、冷凍してそのまま、あるいは半解凍の状態で食することで、これまでとはまた異なった食感等を楽しむ、冷凍焼菓子が提案されている。例えば、ガトーショコラ、チーズケーキ、スポンジケーキ、バターケーキなどの焼菓子について、冷凍状態でこれら菓子を購入した消費者が、凍ったまま、半解凍の状態、あるいはその両方の状態で食することで、新しい食感や一度で二つの異なる食感を楽しむことができ、また、冷凍庫に保存しておいた菓子をすぐに取り出して食べられるという利便性も手伝って、人気を博している。
【0003】
室温から冷蔵・冷凍下という幅広い温度域で良好な食感を有する焼菓子を得るため、例えば、特開2019-122343号公報(特許文献1)には、冷蔵・冷凍下において、良好な歯切れとねちゃつかない口どけの良さとを有する冷やして食べる焼菓子用油脂組成物として、炭素数16~22の不飽和脂肪酸残基(U)が3分子結合したUUU型トリグリセリドを主成分とし、好ましくはその50質量%以上が極度硬化油脂由来である炭素数16~22の飽和脂肪酸残基(S)が3分子結合したSSS型トリグリセリドを2~7%と、10℃のSFC(固体脂含量)が5~54%であるランダムエステル交換油脂を5~45%含む油脂組成物が開示されている。
また、特開2020-25490号公報(特許文献2)には、エステル交換油脂等を用い、所定の-10℃と20℃のSFCを有する油脂組成物を生地に含む、冷凍状態でそのまま食しても固さやねちゃつき感がなく、良好な歯切れとジューシーさ、良好な口ごなれ、滑らかな食感のある冷凍向けスポンジ菓子等が開示されている。
特開2021-132615号公報(特許文献3)には焼菓子及び冷菓を含む複合冷菓に用いられる、冷凍温度域にあっても、カリっとしたほどよく固い焼菓子の食感を維持し、かつ焼菓子への水分移行を抑制する油脂組成物として、多価不飽和脂肪酸を8~45質量%含み、所定の0℃及び10℃におけるSFCを有する油脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-122343号公報
【特許文献2】特開2020-25490号公報
【特許文献3】特開2021-132615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常室温~冷蔵で食するチーズケーキ等の焼いて固めた菓子に含まれる油脂を、室温~冷蔵で食する場合と同様に含んだ生地を焼成し、冷凍すると、前記油脂が冷凍により硬化し、冷凍温度域で保管した焼菓子を、冷凍庫から出してそのまま冷凍菓子として喫食する場合、食感が硬く、歯切れ、口どけ等も悪くなるといった問題があった。一方、冷凍状態における食感が軟らかいものを求めすぎると、喫食した際に冷涼感を感じにくく、冷凍温度域から出してそのまま喫食することによるひんやりとした食感が楽しめないという問題もあった。そのため、冷凍温度域から出してそのまま喫食した際の食感が軟らかく、口どけがよくて、かつ冷涼感を感じる、新食感の冷凍焼菓子が求められている。
【0006】
本発明の課題は、冷凍から半解凍の状態で食される冷凍焼菓子に用いられる、冷凍温度域から出してそのまま喫食した際に軟らかく、口どけが良好で、冷涼感を感じる冷凍焼菓子用油脂組成物を提供することである。本発明はまた、前記冷凍焼菓子用油脂組成物を用いた冷凍焼菓子用生地及び冷凍焼菓子にも関している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対し、液体油を70質量%以上含み、油脂組成物の-20℃におけるSFCが85%以下、20℃におけるSFCが3%以下にそれぞれ調整され、-5℃におけるSFCが5%未満であるか、-5℃におけるSFCが5%~30%で、かつラウリン系油脂を含む油脂組成物とすることで、当該油脂組成物を用いた冷凍焼菓子が、冷凍温度域から出してそのまま喫食した際に軟らかく、口どけも良好であるとともに、冷涼感を感じさせることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下を提供する。
〔1〕液体油を70質量%以上含む冷凍焼菓子用油脂組成物であって、
-20℃におけるSFCが85%以下であり、
20℃におけるSFCが3%以下であり、及び
下記(a)、(b)のいずれかを満たす、
(a)-5℃におけるSFCが5%未満である、
(b)-5℃におけるSFCが5%~30%であり、かつ、ラウリン系油脂を含む、
上記冷凍焼菓子用油脂組成物。
〔2〕ラウリン系油脂を5~30質量%含む、前記〔1〕に記載の冷凍焼菓子用油脂組成物。
〔3〕ラウリン系油脂が、ヤシ油、パーム核油、パーム核油の分別油、及び前記油脂の2種類以上の混合物から選択される、前記〔1〕又〔2〕に記載の、冷凍焼菓子用油脂組成物。
〔4〕-20℃におけるSFCと10℃におけるSFCの差が、10%から50%である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の冷凍焼菓子用油脂組成物。
〔5〕10℃におけるSFCが6%以下である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の冷凍焼菓子用油脂組成物。
〔6〕油脂組成物全体の質量に対する、LLLの含有量とLLOの含有量の和が20~50質量%である(LLL、LLOは、グリセロール1分子に3分子のL(リノール酸)あるいは2分子のLと1分子のO(オレイン酸)が結合したトリアシルグリセロールを意味する)、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の冷凍焼菓子用油脂組成物。
〔7〕前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の冷凍焼菓子用油脂組成物を含む、冷凍焼菓子用生地。
〔8〕前記〔7〕に記載の冷凍焼菓子用生地を焼成し、冷凍してなる冷凍焼菓子。
【発明の効果】
【0008】
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物を用いることにより、冷凍温度域から出してそのまま喫食した際に軟らかく、口どけが良好で、かつ冷涼感を感じるという、新規な食感を有する冷凍焼菓子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
(A)冷凍焼菓子用油脂組成物
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物は、
液体油を70質量%以上含み、
-20℃におけるSFCが85%以下であり、
20℃におけるSFCが3%以下であり、
下記(a)、(b)のいずれかを満たす、
(a)-5℃におけるSFCが5%未満である、
(b)-5℃におけるSFCが5%~30%であり、かつ、ラウリン系油脂を含む、ことを特徴とする。
本明細書において「冷凍焼菓子」とは、冷凍保存後に冷凍から半解凍の状態で食する、焼いて固めた菓子(焼菓子)を意味する。より詳細には、少なくとも小麦粉、コーンスターチ等の穀粉を含み、砂糖、卵、クリームチーズ、チョコレート等の一般に焼菓子に用いられる副原料を加え、さらに本発明の油脂組成物を加えて製造した冷凍焼菓子用生地を焼成し、冷凍したものである。
すなわち、本発明における冷凍焼菓子は、小麦粉、コーンスターチ等の穀粉、及び食用油脂を原料とし、必要により糖類、食塩、その他澱粉類、乳製品、卵製品、膨脹剤、食品添加物等の原材料を配合したものを混合機、要すれば成型機、及びオーブンを使用して製造し、冷凍した食品をいう。冷凍焼菓子としては、チーズケーキ、ガトーショコラ、スポンジケーキ、シフォンケーキ、スフレケーキ、ブッセ、バターケーキ、バウムクーヘン、パウンドケーキ、マフィン、マドレーヌ、フィナンシェ等が挙げられる。
本発明における冷凍焼菓子は、冷凍温度域で保管したものを取出し後、そのまま喫食することが可能である。ここで「冷凍温度域」とは、例えば-8~-30℃程度のことをいう。
【0010】
本明細書において「冷凍焼菓子用油脂組成物」とは、上述の冷凍焼菓子を製造するために用いられる油脂組成物である。
<液体油>
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物に含まれる液体油は、室温において液状の油脂である。液体油としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく使用することができるが、例えば、菜種油、コーン油、大豆油、オリーブ油、サフラワー油、綿実油、落花生油、ひまわり油、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイック菜種油、アマニ油、えごま油、ハイエルシン菜種油、ハイオレイックサフラワー油、米油、ごま油又はこれらの混合油あるいはこれらの加工油脂などが挙げられる。
本発明で用いられる液体油は、オレイン酸及び/又はリノール酸を多く含む油脂を用いることが好ましい。液体油として好ましくは、菜種油、コーン油、大豆油、サフラワー油、綿実油、ひまわり油等が挙げられ、より好ましくはコーン油、大豆油、菜種油、サフラワー油、綿実油、ひまわり油であり、さらに好ましくはコーン油、大豆油である。
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物は、液体油を、油脂組成物の全質量に対し、70質量%以上含む。75質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがさらに好ましく、85質量%以上含むことがより好ましい。100質量%含んでいてもよいが、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。
【0011】
<固体脂含量(SFC)>
SFC(単位:%)は、基準油脂分析法(2.2.9-2013、固体脂含量(NMR法))を基にして、次のようにして測定することができる。即ち、油脂組成物を60℃で30分保持し、油脂組成物を完全に融解した後、-20℃まで冷却し一晩保持する。その後、各温度域で30分保持し、SFCを測定する。
【0012】
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物は、-20℃におけるSFCが85%以下である。-20℃におけるSFCは、1%~83%であることが好ましく、80%以下、75%以下、60%以下、45%以下、35%以下、30%以下、及び/又は20%以上、25%以上、30%以上、であってよい。
-20℃におけるSFCが上記範囲内であることは、冷凍温度域から出してそのまま喫食した際に軟らかい冷凍焼菓子を得ることと関係する。
【0013】
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物は、20℃におけるSFCが3%以下である。20℃におけるSFCは、0~3%であることが好ましく、2%以下、1%以下であってよい。
20℃におけるSFCが上記範囲内であると、冷凍温度域から出してそのまま喫食した際に口どけが良好な冷凍焼菓子を得ることができる。
【0014】
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物は、(a)-5℃におけるSFCが5%未満であるか、(b)-5℃におけるSFCが5%~30%である(ただし、この場合、ラウリン系油脂を必ず含む)、のいずれかを満たす。
油脂組成物の-5℃におけるSFCが30%以下であると、冷凍温度域から出してそのまま喫食した際に噛み出し及び/又は咀嚼中、軟らかいと感じる冷凍焼菓子を得ることができる。また、油脂組成物の-5℃におけるSFCが30%以下であると、口どけの良い冷凍焼菓子を得ることができる。
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物のある態様において、(a)-5℃におけるSFCは、5%未満である。-5℃におけるSFCは、3%以下が好ましく、2%以下がより好ましい。-5℃におけるSFCが前記範囲内にある場合は、冷凍温度域から出してそのまま喫食した際に噛み出しが軟らかい冷凍焼菓子を得ることが可能であり、-20℃におけるSFCが高く、噛み出しをやや硬いと感じる場合であっても、咀嚼中に軟らかいと感じられ、全体として軟らかさを感じる冷凍焼菓子を得ることができる。
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物の別の態様において、(b)-5℃におけるSFCは、5%~30%である(ただし、この場合、ラウリン系油脂を必ず含む)。-5℃におけるSFCは、10%~25%であることが好ましく、10%~20%であることがより好ましく、10%~15%であることがさらにより好ましい。-5℃におけるSFCが前記範囲内であると、冷凍温度域から出してそのまま喫食した際に噛み出しが軟らかい冷凍焼菓子を得ることができる。
さらに本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物は、10℃におけるSFCが6%以下であってよい。10℃におけるSFCは、0%~6%であることが好ましく、0%~3%であることがより好ましく、0~2%であることがさらにより好ましい。
10℃におけるSFCが上記範囲内であると、口どけがさらに優れた冷凍焼菓子を得ることができる。
【0015】
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物は、-20℃におけるSFCと10℃におけるSFCの差が10%から85%である。-20℃におけるSFCと10℃におけるSFCの差は80%以上、55%以上、45%以上、30%以上、25%以上、20%以上であってよい。-20℃におけるSFCと10℃におけるSFCの差が10%から50%であることが好ましい。-20℃におけるSFCと10℃におけるSFCの差が上記範囲内であると、喫食した際、冷涼感が感じられる。-20℃におけるSFCと10℃におけるSFCの差が大きいほど、冷涼感は強く感じられるが、-20℃におけるSFCも同時に大きくなることから、その代わりに軟らかさが感じられにくくなる。
好ましい食感を得るためには、冷涼感と軟らかさのバランスをとることが重要となる。
【0016】
<ラウリン系油脂>
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物は、(a)-5℃におけるSFCが5%未満である場合、ラウリン系油脂を添加しなくても、冷涼感と軟らかさ及び口どけのバランスが取れた冷凍焼菓子を得ることができる。
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物は、(b)-5℃におけるSFCが5%~30%である場合、ラウリン系油脂を含む。ラウリン系油脂を含むと、冷涼感がより強く感じられるようになる。ラウリン系油脂を含むことで、冷涼感と軟らかさのバランスをとることができる。
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物に含まれるラウリン系油脂としては、当技術分野で通常使用されるものを1種又は複数種、特に制限されることなく使用することができるが、例えば、ヤシ油、パーム核油、パーム核分別油(例えばパーム核オレイン及びパーム核ステアリンなど)及び前記油脂の2種類以上の混合物からなる群より選択されるものであってもよい。ラウリン系油脂としては、ヤシ油、パーム核油、パーム核オレインが好ましく、パーム核オレインがさらに好ましい。
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物は、(b)-5℃におけるSFCが5%~30%である場合、ラウリン系油脂を5質量%~30質量%含む。10質量%以上、15質量%以上、及び/又は25質量%以下、20質量%以下であってよい。ラウリン系油脂を多く含むと、-20℃におけるSFCが上昇し、-20℃におけるSFCと10℃におけるSFCの差を拡大させて冷涼感を得ることができる一方、軟らかさと口どけの良さについての評価が相対的に下がる傾向にある。
【0017】
<LLL及びLLO含有量>
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物は、油脂組成物全体の質量に対する、LLLの含有量とLLOの含有量の和が20質量%~50質量%が好ましい。LLLの含有量とLLOの含有量の和は、30質量%~50質量%であってよい。LLLの含有量とLLOの含有量の和は、25質量%以上、30質量%以上、45質量%以上、及び/または、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下であってよい。ここで、Lはリノール酸、Oはオレイン酸、LLLはグリセロール1分子に3分子のリノール酸(L)が結合したトリアシルグリセロール、LLOはグリセロール1分子に2分子のリノール酸が結合し、1分子のオレイン酸(O)が結合したトリアシルグリセロールである。
LLLの含有量とLLOの含有量の和が上記範囲内であると、冷凍焼菓子の硬度が低くなる(すなわちより軟らかさが感じられる)傾向にある。トリアシルグリセロール1分子に結合したリノール酸分子とオレイン酸分子の数の違いで比較すると、リノール酸分子が2以上結合したトリアシルグリセロール(LLOとLLL)を多く含む油脂組成物は、オレイン酸分子が2以上結合したトリアシルグリセロール(LOOとOOO)を多く含む油脂組成物よりも、冷凍焼菓子に用いた場合に軟らかさが感じられる。冷凍焼菓子用油脂組成物に含まれるLLLの含有量とLLOの含有量の和を調整することで、冷凍焼菓子の軟らかさを調整することが可能となる。
【0018】
<LOO及びOOO含有量>
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物は、油脂組成物全体の質量に対する、LOOの含有量とOOOの含有量の和が5質量%~50質量%であってよい。LOOの含有量とOOOの含有量の和は、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、及び/または、40質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下であってよい。ここで、Lはリノール酸、Oはオレイン酸、LOOはグリセロール1分子に2分子のオレイン酸が結合し、1分子のリノール酸(L)が結合したトリアシルグリセロール、OOOはグリセロール1分子に3分子のオレイン酸(O)が結合したトリアシルグリセロールである。
【0019】
<液体クロマトグラフィーによるLLL、LLO、LOO及びOOO含有量の測定>
LLL及びLLO並びにLOO及びOOOの含有量は、液体クロマトグラフィーを用いて測定することができる。
具体的には下記条件の下、液体クロマトグラフィー質量分析法によって測定した。
[液体クロマトグラフィー部]
装置:Agilent 1260 Infinity バイナリ LCシステム
カラム:Cadenza CD-C18
カラム温度:20℃
[質量分析部]
装置:Agilent 6130 Single Quadrupole LC/MSシステム
イオンソース:APCI
<オレイン酸の含有量>
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物はオレイン酸(「C18-1」とも表す)を5質量%以上含んでよい。オレイン酸の含有量は、15質量%~65質量%が好ましく、17質量%~60質量%がより好ましく、20質量%~40質量%がさらに好ましい。
上記オレイン酸の含有量は、例えばガスクロマトグラフィー法によって測定することができる。
【0020】
<その他の油脂>
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、その他の油脂を含んでいてもよい。
【0021】
本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物は、焼菓子の原料として用いられる食用油脂の一部又は全部と置き換えて焼菓子の生地製造のための原料として用いてもよいし、チーズケーキやガトーショコラなど、脂肪分の多い原料を用いる焼菓子にさらに濃厚な味わい等を与えるために追加の油脂あるいは脂肪分として添加してもよい。
【0022】
<冷凍焼菓子の硬度>
焼菓子の硬度は、例えばレオメーターを用いて、次のようにして測定することができる。すなわち、-20℃の冷凍庫で一晩保管した焼菓子を、レオメーター(島津製作所(株)製、型名:EZ-SX)を用い、スピード:300mm/min、冶具針入:7mmで硬度を測定する。
【0023】
(B)冷凍焼菓子用生地
本発明の冷凍焼菓子用生地は、上述の本発明の油脂組成物を含む。
油脂組成物以外の材料としては、クリームチーズ、チョコレートのような脂肪分の多い材料、小麦粉、コーンスターチ等の穀粉、一般的な焼菓子用生地の副原料として用いられる、砂糖等の甘味料、卵類、乳等が挙げられる。またさらに、ココア、フルーツ、ナッツ等の風味素材、食塩、香辛料、乳化剤、香料、着色料、膨張剤、酸化剤、酸化防止剤、増粘剤、酸味料、甘味料、pH調整剤、保存料、セルロース、デンプン類、シリカゲル類、サイクロデキストリン類等の吸油性物質などの添加剤を添加してもよい。
製造方法は一般的な焼菓子用生地の製造方法と同様である。例えば、ミキサーで油脂組成物とその他の材料とを適宜混合して生地を得ることができる。
本発明の冷凍焼菓子用生地の主原料(例えば、クリームチーズ、チョコレート、穀粉、砂糖等の甘味料、卵類等)100質量部に対し、本発明の油脂組成物は10~50質量部程度含まれることが好ましい。より好ましくは、本発明の油脂組成物は15~50質量部であり、さらに好ましくは20~45質量部である。
【0024】
(C)冷凍焼菓子
上述の冷凍焼菓子用生地を焼成し、冷凍することにより、本発明の冷凍焼菓子を得ることができる。なお、冷凍する前に、例えば生クリーム、アイスクリームなどと併せたり、成形するなど、製品として必要な処理や包装を行ってもよい。
冷凍焼菓子用生地の焼成は、通常の焼菓子の製造における条件を用いてもよく、適宜変えてもよい。
焼菓子を冷凍する温度は通常用いられる温度でよく、例えば-8~-30℃程度である。
【実施例0025】
<各油脂の調製>
以下の方法に従って、実施例1~6及び比較例1~4の油脂組成物に用いた各油脂を調製した。
【0026】
(液体油)
菜種油:菜種油の脱色、脱臭を実施したものを用いた。
大豆油:大豆油の脱色、脱臭を実施したものを用いた。
コーン油:コーン油の脱色、脱臭を実施したものを用いた。
【0027】
(ラウリン系油脂)
パーム核オレイン:パーム核オレインの脱色、脱臭を実施したものを用いた。
パーム核油:パーム核油の脱色、脱臭を実施したものを用いた。
【0028】
(上記以外の油脂)
パーム極度硬化油:パーム油の極度硬化処理を行い、脱色、脱臭を実施したものを用いた。
ハイエルシン菜種極度硬化油:ハイエルシン菜種油の極度硬化処理を行い、脱色、脱臭を実施したものを用いた。
パームダブルオレイン:パームダブルオレイン(ヨウ素価64)の脱色、脱臭を実施したものを用いた。
エステル交換油脂1:パームオレイン(ヨウ素価56)50質量部及びパームダブルオレイン(ヨウ素価64)50質量部を混合後、混合油脂100質量部に対し、0.143質量部のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で15分間、非選択的エステル交換反応を行った。その後、脱色、脱臭を実施したものをエステル交換油脂1として用いた。
エステル交換油脂2:パームダブルオレイン(ヨウ素価64)100質量部に対し、0.143質量部のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で15分間、非選択的エステル交換反応を行った。その後、脱色、脱臭を実施したものをエステル交換油脂2として用いた。
エステル交換油脂3:パーム油60質量部及びヤシ油40質量部を混合後、混合油脂100質量部に対し、0.143質量部のナトリウムメチラートを触媒として、90℃で15分間、非選択的エステル交換反応を行った。その後、脱色、脱臭を実施したものをエステル交換油脂3として用いた。
【0029】
<冷凍焼菓子用油脂組成物の調製>
上記の通り調製した各油脂を表1に示す割合(質量部)で配合し、実施例1~6及び比較例1~4の冷凍焼菓子用油脂組成物を得た。
【0030】
<SFC(固体脂含量)の測定>
実施例1~6及び比較例1~4の各油脂組成物の固体脂含量(SFC、単位は%)は、基準油脂分析法(2.2.9-2013、固体脂含量(NMR法))を基にして、次のようにして測定した。即ち、油脂組成物を60℃で30分保持し、油脂組成物を完全に融解した後、-20℃まで冷却し一晩保持する。その後、各SFCの測定温度で30分保持した後、SFCを測定した。その結果を表1に示す。
【0031】
<脂肪酸組成の分析>
実施例1~6及び比較例1~4の各油脂組成物に含まれる構成脂肪酸組成は、基準油脂分析試験法(2.4.2.3-2013、脂肪酸組成(キャピラリーガスクロマトグラフ法))に準じて測定した。その結果を表1に示す。ガスクロマトグラフィー装置は、島津製作所(株)製の「GC-2010型」を使用し、カラムは、SUPELCO社製の「SP-2560」を使用した。
【0032】
<冷凍焼菓子の作製>
実施例1~6及び比較例1~4の各油脂組成物を用いて、下記の配合及び製法によりチーズケーキを製造した。
(配合)
・クリームチーズ(31.1質量部)
・油脂組成物(29.3質量部)
・全卵(18.0質量部)
・ぶどう糖(17.0質量部)
・コーンスターチ(4.5質量部)
・食塩(0.2質量部)
(製法)
クリームチーズを縦型ミキサー(N-50、ホバートジャパン社製)に投入し、低速で1分間撹拌した。その後、ぶどう糖をミキサー内に投入し、低速で1分間撹拌混合した後、全卵及び食塩を投入し低速で1分間、中速で1分間攪拌混合した。次に油脂組成物を投入し低速で1分間、中速で1分間攪拌混合した後、コーンスターチを投入し低速で1分間攪拌混合した。
得られた生地を型に60g充填し、上火180℃、下火180℃のオーブン(三幸機械社製)中で25分間焼成し、チーズケーキを得た。
【0033】
<冷凍焼菓子の硬度>
得られた焼菓子の硬度は以下のように測定した
各焼菓子を-20℃の冷凍庫で一晩保管し、レオメーター(島津製作所(株)製、型名:EZ-SX)を用い、スピード:300mm/min、冶具針入:7mmで2回測定を行い、その平均値を求めた。得られた各焼菓子の最大硬度(gf)の値を以下のような基準で評価した。
4点: 8,000gf未満
3点: 8,000gf以上9,000gf未満
2点: 9,000gf以上10,000gf未満
1点:10,000gf以上
<冷凍焼菓子の軟らかさ>
得られた焼菓子の軟らかさについて、下記の方法及び評価基準を用いて、軟らかさ評価を行った。軟らかさ評価は、5名の熟練したパネラーによる評価を行った。
各焼菓子を-20℃の冷凍庫で一晩保管し、冷凍庫から出した各焼菓子を喫食した。以下の評価基準で、冷凍焼菓子の軟らかさを評価した。その結果を表2に示す。表中の点数は、各パネラーの評点を平均したものである。
4点:噛み出しが非常に軟らかい
3点:噛み出しが軟らかい
2点:噛み出しはやや硬いが、咀嚼中は軟らかい
1点:噛み出し、咀嚼中ともに硬い
【0034】
<冷凍焼菓子の口どけ>
得られた焼菓子の口どけについて、下記の方法及び評価基準を用いて、口どけの評価を行った。口どけの評価は、5名の熟練したパネラーによる評価を行った。
各焼菓子を-20℃の冷凍庫で一晩保管し、冷凍庫から出した各焼菓子を喫食した。以下の評価基準で、冷凍焼菓子の口どけを評価した。その結果を表2に示す。表中の点数は、各パネラーの評点を平均したものである。
3点:口どけが良い
2点:口どけがやや良い
1点:口どけが悪い
【0035】
<冷凍焼菓子の冷涼感>
得られた焼菓子を喫食した際の冷涼感について、下記の方法及び評価基準を用いて、冷涼感の評価を行った。冷涼感の評価は、5名の熟練したパネラーによる評価を行った。
各焼菓子を-20℃の冷凍庫で一晩保管し、冷凍庫から出した各焼菓子を喫食した。以下の評価基準で、冷凍焼菓子の冷涼感を評価した。その結果を表2に示す。表中の点数は、各パネラーの評点を平均したものである。
4点:冷涼感が非常に強い
3点:冷涼感が強い
2点:冷涼感がやや強い
1点:冷涼感が弱い
【0036】
【0037】
【0038】
-20℃におけるSFCと10℃におけるSFCの差が大きいほど冷涼感を強く感じられるが、冷凍温度域から出してそのまま喫食した場合の軟らかさが失われ、噛み出しが硬いと評価される傾向が認められた(比較例1及び2)。ただし、―5℃におけるSFCが低い場合には、噛み出しはやや硬いが、咀嚼中は軟らかいと評価され、冷涼感と軟らかさのバランスが取れることが認められた(実施例1)。また、-20℃におけるSFCと10℃におけるSFCの差が中程度である場合(実施例2から6)、ラウリン系油脂を含むことで、冷涼感を増すことができることがわかった(特に実施例6)。また、口どけについては、20℃におけるSFCが高い場合、口どけが悪いと評価された(比較例1から4)。特定の理論に縛られることを望むものではないが、20℃におけるSFCが高い場合、常温に近づいても油脂の結晶が残るため、口どけが悪いと評価されるものと考えられる。この傾向は、常温で液状である液体油が9割を占めても、極度硬化油が残部含まれると20℃におけるSFCが10%に留まることからも窺われる(比較例3)。LLLとLLOの含有量が高く、ラウリン系油脂を含む場合、冷凍温度域から出してそのまま喫食した場合の軟らかさ、口どけ、冷涼感のバランスがほどよく取れた冷凍焼菓子が得られることがわかった(実施例3、4及び5)。オレイン酸の量が多く、LLLとLLOの含有量が低い(リノール酸の量が少ない)と、冷凍温度域から出してそのまま喫食した際の噛み出しがやや硬いと評価されるものの、-5℃におけるSFCが低いと、口どけは良いと評価された(実施例1)。
【0039】
以上より、本発明の冷凍焼菓子用油脂組成物を用いることで、冷凍温度域から出してそのまま喫食した際の食感が軟らかく、口どけがよくて、かつ冷涼感を感じる、新食感の冷凍焼菓子を提供することが可能となる。