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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048599
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】伝熱管
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/00 20060101AFI20240402BHJP
   F28F 21/02 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C04B37/00 Z
F28F21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154606
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】河村 奈緒美
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 幸加
(72)【発明者】
【氏名】北口 比呂
【テーマコード(参考)】
4G026
【Fターム(参考)】
4G026BA13
4G026BB13
4G026BE02
4G026BF07
4G026BH11
(57)【要約】
【課題】 樹脂の耐熱温度を超える高温でも使用可能な伝熱管を提供する。
【解決手段】 第1の黒鉛パイプと、第2の黒鉛パイプと、上記第1の黒鉛パイプと上記第2の黒鉛パイプとの間に炭素質の接着層を有する接合部と、を有し、さらに少なくとも上記第1の黒鉛パイプ、上記第2の黒鉛パイプ及び上記接合部の外側表面を覆う熱分解炭素層を有することを特徴とする伝熱管。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の黒鉛パイプと、第2の黒鉛パイプと、前記第1の黒鉛パイプと前記第2の黒鉛パイプとの間に炭素質の接着層を有する接合部と、を有し、
さらに少なくとも前記第1の黒鉛パイプ、前記第2の黒鉛パイプ及び前記接合部の外側表面を覆う熱分解炭素層を有することを特徴とする伝熱管。
【請求項2】
前記接合部は、前記炭素質の接着層が存在する外周側領域と、前記炭素質の接着層が存在しない内周側領域とからなることを特徴とする請求項1に記載の伝熱管。
【請求項3】
前記接合部は、前記内周側領域と前記外周側領域の間に前記第1の黒鉛パイプと前記第2の黒鉛パイプの間隔が広がった溜まり部を有することを特徴とする請求項2に記載の伝熱管。
【請求項4】
前記接合部は、前記外周側領域と前記内周側領域が段差状に形成された差し込み構造になっていることを特徴とする請求項2又は3に記載の伝熱管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝熱管に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛は、化学的に安定で高い耐食性を有し、さらに高い伝熱性を有していることから、内部に冷媒を通し、熱交換器、ヒートシンク、などとして広く使用されている。
【0003】
特許文献1には、リターンベント形状の伝熱管を備える熱交換器構造において、直管部分を不浸透性黒鉛材、ベント部分を黒鉛粉を混入した無機質繊維強化樹脂により各構成した伝熱管部材を、黒鉛粉混入樹脂接着剤を介して接合してなる熱交換器が記載されている。
このような熱交換器においては、ベント部分が無機質強化繊維で構成されるため、極めて容易に所定の曲管形状に成形加工することができ、黒鉛粉の混入作用により材質の耐食性ならびに熱伝導性も高水準に維持されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63-54983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明において、不浸透性黒鉛材は、黒鉛素材の組織気孔にフェノール系あるいはフラン系などの熱硬化性樹脂を強制含浸して硬化充填した材料である。また、ベント部分は、無機質繊維強化樹脂で構成され、接合部には、黒鉛粉混入樹脂接着剤が用いられているので、伝熱管自体の耐熱温度は樹脂に左右される。
このため、直接火炎があたる場合、高温の熱媒体を使用する場合など、高温に曝される用途での使用は制限される。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、樹脂の耐熱温度を超える高温でも使用可能な伝熱管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の伝熱管は、
(1)第1の黒鉛パイプと、第2の黒鉛パイプと、上記第1の黒鉛パイプと上記第2の黒鉛パイプとの間に炭素質の接着層を有する接合部と、を有し、
さらに少なくとも上記第1の黒鉛パイプ、上記第2の黒鉛パイプ及び上記接合部の外側表面を覆う熱分解炭素層を有する。
【0008】
また、本発明の伝熱管は以下の態様であることが好ましい。
【0009】
(2)上記接合部は、上記炭素質の接着層が存在する外周側領域と、上記炭素質の接着層が存在しない内周側領域とからなる。
【0010】
(3)上記接合部は、上記内周側領域と上記外周側領域の間に上記第1の黒鉛パイプと上記第2の黒鉛パイプの間隔が広がった溜まり部を有する。
【0011】
(4)上記接合部は、上記外周側領域と上記内周側領域が段差状に形成された差し込み構造になっている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の伝熱管によれば、第1の黒鉛パイプと、第2の黒鉛パイプと、上記第1の黒鉛パイプと上記第2の黒鉛パイプとの間に炭素質の接着層を有する接合部と、を有し、さらに少なくとも上記第1の黒鉛パイプ、上記第2の黒鉛パイプ及び上記接合部の外側表面を覆う熱分解炭素層を有するので、樹脂の耐熱温度を超える高温でも使用可能な伝熱管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施の形態1の伝熱管全体を模式的に示す断面図である。
図2図2は、図1のA部分(炭素質の接着層23a近傍)の断面拡大図である。
図3図3は、本発明の実施の形態1の変形例1の伝熱管を模式的に示す断面図であり、図1のA部分(炭素質の接着層23a近傍)の断面拡大図に相当する。
図4図4は、図3のB部分(内周側領域232と外周側領域231の境界部分)の断面拡大図である。
図5図5は、本発明の実施の形態1の変形例2の伝熱管を模式的に示す断面図であり、図1のA部分(炭素質の接着層23a近傍)の断面拡大図に相当する。
図6図6は、本発明の実施の形態2の伝熱管を模式的に示す断面図であり、図1のA部分(炭素質の接着層23a近傍)の断面拡大図に相当する。
図7図7は、本発明の実施の形態2の変形例1の伝熱管を模式的に示す断面図であり、図1のA部分(炭素質の接着層23a近傍)の断面拡大図に相当する。
図8図8は、本発明の実施例1の伝熱管の接合部を模式的に示す断面図である。
図9図9は、図8のC部分(外周側領域241近傍)の偏光顕微鏡写真である。
図10図10は、図9の断面を模式的に示した説明図である。
図11図11は、図8のD部分(内周側領域242近傍)の偏光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の伝熱管について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0015】
本発明の伝熱管は、第1の黒鉛パイプと、第2の黒鉛パイプと、上記第1の黒鉛パイプと上記第2の黒鉛パイプとの間に炭素質の接着層を有する接合部と、を有し、さらに少なくとも上記第1の黒鉛パイプ、上記第2の黒鉛パイプ及び上記接合部の外側表面を覆う熱分解炭素層を有することを特徴とする。
【0016】
本発明の伝熱管において黒鉛パイプは3本以上であってもよく、3本以上である場合には、隣り合う任意の黒鉛パイプをそれぞれ第1の黒鉛パイプ、第2の黒鉛パイプとする。
第1の黒鉛パイプと第2の黒鉛パイプは、それぞれ黒鉛材料で構成されており、接合部で炭素質の接着層を用いて互いに接合されている。炭素質の接着層は、フェノール樹脂、フラン樹脂、コプナ樹脂などの炭素前駆体である樹脂を塗布したのち炭化させることによって得ることができる。第1の黒鉛パイプ及び第2の黒鉛パイプを構成する黒鉛材料は多孔質材料であるので、炭素前駆体である樹脂は黒鉛材料の中に浸透したのち炭素化し、炭素質の接着層は黒鉛材料同士を強固に接続することができる。
炭素質の接着層で接続された第1の黒鉛パイプ及び第2の黒鉛パイプは、接合部とともにさらにその外側表面が熱分解炭素層で覆われる。このため、熱分解炭素層は、炭素質の接着層と黒鉛パイプの間に浸入することなく、炭素質の接着層と、第1の黒鉛パイプ及び第2の黒鉛パイプとは、それぞれ、剥離しやすい熱分解炭素層を介することなく直接接続される。
【0017】
なお、接合部とは、第1の黒鉛パイプと第2の黒鉛パイプが炭素質の接着層によってつなぎ合わされた部分全体(第1の黒鉛パイプ及び第2の黒鉛パイプの内周側から外周側までの領域全体)を指し、炭素質の接着層によって接着されていない領域を含んでいてもよい。より詳細には、接合部は、第1の黒鉛パイプと第2の黒鉛パイプが互いに対向する対向面と、対向面の間の少なくとも一部の領域(全領域でなくてもよい)に設けられた炭素質の接着層とを含む部分を意味する。ここで、対向面のうち、炭素質の接着層によって接着された領域が接合面となる。このように、炭素質の接着層は、対向面全体を接着してもよいし、対向面の一部のみを接着してもよい。対向面の一部のみを接着する場合、接合部は、対向面に、炭素質の接着層が存在(介在)しない領域、すなわち接合されていない領域を含んでいてもよい。後述するように、炭素質の接着層が存在(介在)しない領域は、第1の黒鉛パイプ及び第2の黒鉛パイプの内周側に位置することが好ましい。
【0018】
本発明の伝熱管は、第1の黒鉛パイプと第2の黒鉛パイプを構成する黒鉛材料、炭素質の接着層、及び、熱分解炭素層からなり、材料中に有機物、金属などの炭素以外の成分がないので、耐熱性が高く、また、炭素以外の不純物の溶出もない。このため、高い温度での使用可能な伝熱管を提供することができる。
【0019】
また、本発明の伝熱管では、熱分解炭素層は、炭素質の接着層が形成された後に形成された被膜となる。このため、炭素質の接着層が第1の黒鉛パイプ及び第2の黒鉛パイプの気孔に入り込み強く接合するとともに、接合部、第1の黒鉛パイプ及び第2の黒鉛パイプの外側を熱分解炭素層が覆っているので、気密性を確保することができる。
【0020】
本発明の伝熱管では、上記接合部は、上記炭素質の接着層が存在する外周側領域と、上記炭素質の接着層が存在しない内周側領域とからなることが好ましい。このように、炭素質の接着層が、第1の黒鉛パイプと第2の黒鉛パイプの対向面の外周側領域を接合し、対向面の内周側領域では、第1の黒鉛パイプと第2の黒鉛パイプが炭素質の接着層で接着されていないことが好ましい。すなわち、内周側領域には炭素質の接着層が存在しないことが好ましい。このため、接合部では第1の黒鉛パイプ及び第2の黒鉛パイプの内周側に炭素質の接着層のはみ出しがないので、第1の黒鉛パイプ及び第2の黒鉛パイプの内部の流体の流れを乱すことがない。また、接合部では、黒鉛が一様に第1の黒鉛パイプ及び第2の黒鉛パイプの内周側の表面に露出しているので、第1の黒鉛パイプ及び第2の黒鉛パイプの内部を流れる流体との反応、摩耗などにより減肉する際にも一様に減肉するため、減肉しても内部の流体の流れを乱しにくい上、サイズの大きな異物の発生も抑制されるので、大きな異物が流体とともに流れにくく内部閉塞の原因にもなりにくい。接合部、第1の黒鉛パイプ及び第2の黒鉛パイプの内周側の表面は熱分解炭素層に覆われてもよいが、その場合も内周側領域に炭素質の接着層が存在しないことによって、突起などができず熱分解炭素層が一様に形成されるため、同様に黒鉛パイプ内部の流体の流れを乱すことがない。
なお、接合部の内周側領域では、第1の黒鉛パイプと第2の黒鉛パイプが互いに接触していても、隙間を持っていてもよい。
【0021】
本発明の伝熱管では、上記接合部は、上記内周側領域と上記外周側領域の間に上記第1の黒鉛パイプと上記第2の黒鉛パイプの間隔が広がった溜まり部を有することが好ましい。溜まり部を有していると、炭素質の接着層の前駆体である樹脂を塗布した後、余分な樹脂を留めておくことができるため、第1の黒鉛パイプと第2の黒鉛パイプの内周側の表面に炭素質の接着層がはみ出すことを効果的に防止することができる。
【0022】
本発明の伝熱管は、上記接合部は、上記外周側領域と上記内周側領域が段差状に形成された差し込み構造になっていることが好ましい。
接合部の外周側領域と内周側領域が段差状に形成された差し込み構造になっていると、接合面が大きくとれるため、接合強度を強くできるうえ、段差によって心出しすることができ、位置決め精度を高くすることができる。
【0023】
本発明の伝熱管は、接合部において、内周側領域と外周側領域の面積の和に対する外周側領域の面積比が、50~90%であることが好ましい。50%以上であると、接合強度の低下を抑制することができ、90%以下であると第1の黒鉛パイプと第2の黒鉛パイプの内周側へ炭素質の接着層がはみ出しにくくすることができる。
【0024】
本発明の伝熱管において、熱分解炭素層は、少なくとも伝熱管の外周側を覆っているが、内周側を覆っていてもよい。少なくとも外周側を覆っているので、内部の流体の漏れを防止することができる。
【0025】
本発明の伝熱管の形状は特に限定されない。直管の他、直管を折り返したコの字型、さらに緩やかに曲げたU字型など、炭素質の接着層を介して様々な形状の伝熱管を形成することができる。
【0026】
《実施の形態1》
以下、具体的に本発明の伝熱管に係る実施の形態1の伝熱管について説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施の形態1の伝熱管全体を模式的に示す断面図であり、図2は、図1のA部分(炭素質の接着層23a近傍)の断面拡大図である。
本実施の形態の伝熱管100は、4本の黒鉛パイプ11~14で構成されている。黒鉛パイプ11~14が、接合部21~23において炭素質の接着層21a~23aで互いに接着され、黒鉛パイプ11~14及び接合部21~23の外側表面が熱分解炭素層30、31で覆われている。
なお、図1では、2つの熱分解炭素層30、31が図示されているが、実際にはこられの熱分解炭素層30、31は、黒鉛パイプ11~14及び接合部21~23の外周側の表面を一体的に覆っている。
黒鉛パイプ11と黒鉛パイプ12、黒鉛パイプ12と黒鉛パイプ13、黒鉛パイプ13と黒鉛パイプ14の組み合わせがそれぞれ、第1の黒鉛パイプと第2の黒鉛パイプ、又は、第2の黒鉛パイプと第1の黒鉛パイプの組み合わせに相当する。
黒鉛パイプ11、14は直管であり、黒鉛パイプ12、13はL字型である。4本の黒鉛パイプ11~14を組み合わせコの字型の伝熱管100を構成している。本実施の形態では、接合部21~23には炭素質の接着層21a~23aのない内周側領域は存在していない。
【0028】
黒鉛パイプ11~14は、中空状であって内部に長手方向に延びる内部空間を有し、それぞれ黒鉛材料で構成されている。黒鉛パイプ11~14は、円筒形状を有しているが、形状は特に限定されず、例えば角筒形状であってもよい。
【0029】
上記黒鉛材料の種類は、特に限定されるものではないが、異方性の低い等方性黒鉛材が望ましい。このように異方性の低い等方性黒鉛材を黒鉛材料として使用すると、方向による機械的特性等の偏りが少ないので、破損等が発生しにくく、長期間安定して使用することができる。
【0030】
上記等方性黒鉛材とは、等方的な構造、特性を有する黒鉛材料であり、例えば、CIP(静水圧成形法)により製造することができる。具体的には、例えば、圧力容器内で等方性黒鉛材の原料粉をゴムバッグに詰め、水などで加圧することにより成形したのち、焼成、黒鉛化することにより製造することができる。
なお、上記等方性黒鉛材においては、原料粉の平均粒子径は、例えば10~50μmであり、等方性黒鉛材が細かな組織を有していることが特徴である。
【0031】
炭素質の接着層21a、22a、23aは、黒鉛パイプ11~14の端面(対向面)全面にフェノール樹脂、フラン樹脂、コプナ樹脂などの炭素前駆体である樹脂が塗布されたのち炭素化されることで形成されており、黒鉛パイプ11~14の端面(対向面)全面を接合している。
【0032】
熱分解炭素層30、31は、炭素質の接着層21a、22a、23aで固定された黒鉛パイプ11、12、13、14の外周側の表面を覆っている。
熱分解炭素層30、31の厚さは、特に限定されないが、10~100μmであることが好ましい。10μm以上であると、充分な気密性を確保できる。また100μm以下であると、繰り返し熱サイクルが加わっても剥離やクラックが生じにくく、充分な気密性を確保することができる。
【0033】
熱分解炭素層30、31は、CVD法によって形成することができる。
詳細には、接着層21a~23aで接着された黒鉛パイプ11~14をCVD炉の中に置き、成膜温度まで上昇させたのち、原料ガスを導入する。成膜温度は特に限定されないが、例えば800~2000℃とすることができる。熱分解炭素層を得るための原料ガスは、炭化水素であれば特に限定されない。例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン等のアルカン、エチレン、プロピレンなどのアルケン、アセチレン等のアルキンの他、ベンゼン、トルエンなどの芳香族系の原料ガスを用いてもよい。
そして、成膜温度を保持し、一定時間原料ガスを導入することで、熱分解炭素層30、31を黒鉛パイプ11~14及び接合部21~23の外周側の表面に成膜する。なお、キャリアガスとしては、Ar等の不活性ガスを用いることができる。
【0034】
本実施の形態の伝熱管100は、黒鉛パイプ11~14、炭素質の接着層21a~23a、熱分解炭素層30、31が共に耐熱性のある炭素系の材料であり樹脂を用いていないので、高温でも使用可能な伝熱管を提供することができる。
【0035】
《実施の形態1の変形例1》
図3は、本発明の実施の形態1の変形例1の伝熱管を模式的に示す断面図であり、図1のA部分(炭素質の接着層23a近傍)の断面拡大図に相当する。なお、炭素質の接着層21a、22a近傍についても本変形例は図3と同様の断面構造を有する。また、本変形例は、図3に示す特徴的な断面構造以外は実施の形態1と同様の構造を有する。
実施の形態1では、黒鉛パイプ11~14の端面(対向面)全面が炭素質の接着層21a~23aで接合されているのに対し、変形例1では黒鉛パイプ11~14の端面(対向面)の外周側領域231のみを炭素質の接着層21a~23aで接着し、内周側領域232には炭素質の接着層21a~23aが存在していない。このため、接合部21~23の内周側領域232では、第1の黒鉛パイプと第2の黒鉛パイプが接触しているだけで接合はされていない。
【0036】
図4は、図3のB部分(内周側領域232と外周側領域231の境界部分)の断面拡大図である。
第1の黒鉛パイプ及び第2の黒鉛パイプは多孔体であるので、外周側領域231では、炭素前駆体の樹脂が黒鉛粒子50のつくる気孔内部に浸透し炭素化することで炭素質の接着層23aを形成しているのに対し、内周側領域232では、炭素質の接着層23aはなく、単に第1の黒鉛パイプと第2の黒鉛パイプが接触しているだけである。このような構成であるので、伝熱管内部への炭素質の接着層23aのはみ出しはなく、伝熱管内部の流体の流れを乱すことがない。また流体による消耗が生じても一様に減肉していくので、大きな異物の発生による閉塞なども生じにくくすることができる。
【0037】
《実施の形態1の変形例2》
図5は、本発明の実施の形態1の変形例2の伝熱管を模式的に示す断面図であり、図1のA部分(炭素質の接着層23a近傍)の断面拡大図に相当する。なお、炭素質の接着層21a、22a近傍についても本変形例は図5と同様の断面構造を有する。また、本変形例は、図5に示す特徴的な断面構造以外は実施の形態1と同様の構造を有する。
実施の形態1の変形例2では、外周側領域231と内周側領域232との間に、第1の黒鉛パイプと第2の黒鉛パイプの間隔が広がった溜まり部41を有している。このため、炭素質の接着層21aを形成するための炭素前駆体の樹脂が伝熱管の内周側に向かって広がっていっても溜まり部41で留め置かれるため、それ以上広がることがない。このため、接合部23に炭素質の接着層23aのない内周側領域232を確実に形成することができる。
【0038】
溜まり部41は、伝熱管の周方向にリング状に設けられている。溜まり部41の寸法は、特に限定されないが、伝熱管の長さ方向における幅W1は、0.2~2mmであることが望ましく、伝熱管の肉厚方向における幅W2は、0.2~2mmであることが望ましい。いずれも0.2mm以上であると充分な炭素前駆体の樹脂の溜まり部を確保することができ、いずれも2mm以下であると、接着に寄与しない領域の面積を小さくすることができるので接合強度の低下を防止することができる。
【0039】
なお、外周側領域231では、仮に炭素前駆体の樹脂のはみ出しが生じても容易に取り除くことができ、平坦な外周面を形成することができる。
【0040】
《実施の形態2》
図6は、本発明の実施の形態2の伝熱管を模式的に示す断面図であり、図1のA部分(炭素質の接着層23a近傍)の断面拡大図に相当する。なお、炭素質の接着層21a、22a近傍についても本実施の形態は図6と同様の断面構造を有する。また、本実施の形態は、図6に示す特徴的な断面構造以外は実施の形態1と同様の構造を有する。
実施の形態1では、炭素質の接着層21a~23aが平面であったのに対し、実施の形態2では、内周側領域232と外周側領域231が段差を形成している。そして、内周側領域232と外周側領域231の間の境界近傍に伝熱管の中心軸を囲む筒状部70が存在する。本実施の形態では、炭素質の接着層21a~23aは、筒状部70に形成され、内周側領域232には形成されていないので、筒状部70は炭素質の接着層21a~23aのある外周側領域231に含まれる。
本実施の形態では、実施の形態1と比較し、炭素質の接着層21a~23aの面積を大きくとれるため高い接着強度を得ることができる。また段差部を有していることにより、黒鉛パイプ11~14の組み合わせ時に高い位置決め精度を確保でき、形状精度の高い伝熱管を得ることができる。
【0041】
なお、本実施の形態では、第1の黒鉛パイプと第2の黒鉛パイプの(対向面)に1つの段差が形成された場合について説明したが、この段差の数は特に限定されず、2段以上であってもよい。
【0042】
《実施の形態2の変形例1》
図7は、本発明の実施の形態2の変形例1の伝熱管を模式的に示す断面図であり、図1のA部分(炭素質の接着層23a近傍)の断面拡大図に相当する。なお、炭素質の接着層21a、22a近傍についても本変形例は図7と同様の断面構造を有する。また、本変形例は、図7に示す特徴的な断面構造以外は実施の形態2と同様の構造を有する。
実施の形態2の変形例1では、実施の形態2の伝熱管にさらに溜まり部42が形成されている。
すなわち、凸状に形成された第2の黒鉛パイプ(例えば黒鉛パイプ13)の端部に面取りが施されている。第2の黒鉛パイプは、対応する凹状に形成された第1の黒鉛パイプ(例えば黒鉛パイプ14)と組み合わせられ、面取り部分が溜まり部42となる。
面取りは、C面取りでも、R面取りでもよく、第1の黒鉛パイプと第2の黒鉛パイプの間隔が広がった部分が形成されれば特に形状は限定されない。
例えばC面取りの場合、大きさ(幅)は、0.2~2mmであることが望ましく、R面取りの場合、大きさ(半径)は、0.2~2mmであることが望ましい。いずれも0.2mm以上であると充分な炭素前駆体の樹脂の溜まり部を確保することができ、いずれも2mm以下であると、接着に寄与しない領域の面積を小さくすることができるので接合強度の低下を防止することができる。
【0043】
本明細書には以下の事項が開示されている。
【0044】
本開示(1)は、第1の黒鉛パイプと、第2の黒鉛パイプと、前記第1の黒鉛パイプと前記第2の黒鉛パイプとの間に炭素質の接着層を有する接合部と、を有し、
さらに少なくとも前記第1の黒鉛パイプ、前記第2の黒鉛パイプ及び前記接合部の外側表面を覆う熱分解炭素層を有することを特徴とする伝熱管である。
【0045】
本開示(2)は、前記接合部は、前記炭素質の接着層が存在する外周側領域と、前記炭素質の接着層が存在しない内周側領域とからなる、本開示(1)に記載の伝熱管である。
【0046】
本開示(3)は、前記接合部は、前記内周側領域と前記外周側領域の間に前記第1の黒鉛パイプと前記第2の黒鉛パイプの間隔が広がった溜まり部を有する、本開示(2)に記載の伝熱管である。
【0047】
本開示(4)は、前記接合部は、前記外周側領域と前記内周側領域が段差状に形成された差し込み構造になっている、本開示(2)又は(3)に記載の伝熱管である。
【0048】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
図8は、本発明の実施例1の伝熱管の接合部を模式的に示す断面図である。
外径(太さ)φ15mm、内径(孔径)φ5mm、長さ100mmをそれぞれ有する第1の黒鉛パイプ15と第2の黒鉛パイプ16の端部をそれぞれ凸状及び凹状に加工した。第1の黒鉛パイプ15の凸部の外径はφ10mm、第1の黒鉛パイプ15の凸部の高さは5mmとした。続いて、第1の黒鉛パイプ15と第2の黒鉛パイプ16の端部をコプナ樹脂で接合したのち炭化し、炭素質の接着層24aにより第1の黒鉛パイプ15と第2の黒鉛パイプ16を接合した。このようにして、接合部24に段差状の接合面のある伝熱管を作製した。
さらに、4本の黒鉛パイプを接続して得られた伝熱管を、CVD炉内に置き、アルカン系の原料ガスを用いて熱分解炭素層を形成した。なおこのとき、伝熱管の両端の開口部は閉鎖せず熱分解炭素層を形成したので、黒鉛パイプ内部にも原料ガスが導入され、伝熱管の内側及び外側に熱分解炭素層が得られた。
【0050】
図9は、図8のC部分(外周側領域241近傍)の偏光顕微鏡写真であり、図11は、図8のD部分(内周側領域242近傍)の偏光顕微鏡写真である。図10は、図9の断面を模式的に示した説明図である。
筒状部を含む接合部24の外周側領域241では、炭素質の接着層24aが第1の黒鉛パイプ15と第2の黒鉛パイプ16を接合するとともに、熱分解炭素層32が炭素質の接着層24a、第1の黒鉛パイプ15と第2の黒鉛パイプ16を覆うように形成されていた(図9、10参照)。
一方、接合部24の内周側領域242には、炭素質の接着層24aが形成されておらず、伝熱管の内側へのはみ出しがなかった。
【0051】
なお、本実施例では、熱分解炭素層32が伝熱管の外周側の表面と内周側の表面とに形成されているが、内周側の熱分解炭素層32は必須ではない。伝熱管の孔の内部に熱分解炭素が侵入しないよう閉鎖して熱分解炭素層を製膜することによって内周側の表面に熱分解炭素層が形成されていない伝熱管を得ることができる。
【0052】
また、本実施例では、内周側領域242では、第1の黒鉛パイプ15と第2の黒鉛パイプ16にクリアランスがあり、熱分解炭素層32が内部に侵入しているが(図11参照)、第1の黒鉛パイプ15と第2の黒鉛パイプ16を密着させ、熱分解炭素層32が、第1の黒鉛パイプ15と第2の黒鉛パイプ16の内周側の表面にのみ形成されたものであってもよい。
【0053】
本実施例では、すべて炭素系の材料で構成されているので、高温でも使用可能な伝熱管を得ることができる。
また、本実施例では、内周側領域242に炭素質の接着層24aのはみ出しがないので、伝熱管の内部を流れる流体の流れを阻害しにくく、伝熱管として好適に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、本発明は、高温に曝される用途で伝熱管を使用するのに有用な技術である。
【符号の説明】
【0055】
11、12、13、14 黒鉛パイプ
15 第1の黒鉛パイプ
16 第2の黒鉛パイプ
21、22、23、24 接合部
21a、22a、23a、24a 炭素質の接着層
231、241 外周側領域
232、242 内周側領域
30、31、32 熱分解炭素層
41、42 溜まり部
50 黒鉛粒子
70 筒状部
100 伝熱管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11