(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048608
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】板紙
(51)【国際特許分類】
D21H 27/00 20060101AFI20240402BHJP
D21H 11/04 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
D21H27/00 E
D21H11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154619
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】森下 徹
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA03
4L055AC06
4L055AC09
4L055AG72
4L055AH16
4L055AH38
4L055BE08
4L055CD25
4L055EA04
4L055EA13
4L055EA14
4L055EA16
4L055EA32
4L055FA11
4L055FA15
4L055FA18
4L055GA04
(57)【要約】
【課題】美粧性及び印刷適性を良好にし、裏巻きで保管された際のカールの発生を抑制できる板紙を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る板紙は、少なくとも表層及び裏層を備え、上記表層の全パルプ成分に対する広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が5質量%以上50質量%以下であり、上記表層の525℃燃焼法における紙中灰分が上記裏層より少なく、上記表層と上記裏層との紙中灰分の差が5%以下であり、上記表層が紙力増強剤を含有し、上記表層における上記紙力増強剤の含有量が固形分換算で、1.0kg/t以上9.9kg/t以下であり、上記表層の全パルプ成分における繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の平均繊維幅が17.3μm以上17.8μm以下である。上記表層の表面に滑剤からなる塗工膜を有し、上記塗工膜の塗工量が固形分換算で0.01g/m2以上0.10g/m2以下であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層及び裏層を備え、
上記表層の全パルプ成分に対する広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が5質量%以上50質量%以下であり、
上記表層の525℃燃焼法における紙中灰分が上記裏層より少なく、上記表層と上記裏層との紙中灰分の差が5%以下であり、
上記表層が紙力増強剤を含有し、
上記表層における上記紙力増強剤の含有量が固形分換算で、1.0kg/t以上9.9kg/t以下であり、
上記表層の全パルプ成分における繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の平均繊維幅が17.3μm以上17.8μm以下である板紙。
【請求項2】
上記表層の紙中灰分が10%以下である請求項1に記載の板紙。
【請求項3】
上記表層の表面に滑剤からなる塗工膜を有し、
上記塗工膜の塗工量が固形分換算で0.01g/m2以上0.10g/m2以下である請求項1又は請求項2に記載の板紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板紙に関する。
【背景技術】
【0002】
段ボール用途等に用いられる板紙は、木製や樹脂容器製に比べて軽量であり、クッション性を有することから内容物の破損しにくいため、精密機器をはじめ様々な分野で用いられている。このような段ボールケース用には、高い強度が要求されることから、表層を構成するパルプとしては、針葉樹未晒クラフトパルプが広く用いられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、針葉樹未晒クラフトパルプは繊維が長く太いため、印刷適性が良好ではない。針葉樹未晒クラフトパルプを用いた場合、板紙の強度を向上できるが、白色度が低くなり、美粧性に劣るおそれがある。
【0005】
一方、広葉樹未晒パルプを配合する場合、針葉樹に比べて繊維が細く短いことで、繊維が密に詰まり、針葉樹未晒クラフトパルプよりも印刷適性が向上するが、印刷時に紙ムケが生じるおそれがある。さらに、針葉樹未晒クラフトパルプよりパルプ強度が低下するおそれもある。また、板紙の巻取は、汚れの付着を防止するために、一般的に印刷面となる表層を内側にして巻取る裏巻きで仕上げられ、保管および運搬されることが多い。このため、板紙は表側に巻きぐせが付き、表側にカールが発生し易くなる製品であり、仮に広葉樹未晒パルプを表層のみに配合すると、表層の繊維が密に詰まることから、保管状態によっては吸放湿により更に表側にカールが発生しやすくなるという課題がある。板紙の巻取を表巻きで仕上げることも可能だが、その場合は、表層への汚れの付着を防止するために、外装紙で包装する必要があり、手間と費用が掛かる問題がある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、美粧性及び印刷適性を良好にし、裏巻きで保管された際のカールの発生を抑制できる板紙を提供することを目的と
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る板紙は、少なくとも表層及び裏層を備え、上記表層の全パルプ成分に対する広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が5質量%以上50質量%以下であり、上記表層の525℃燃焼法における紙中灰分が上記裏層より少なく、上記表層と上記裏層との紙中灰分の差が5%以下であり、上記表層が紙力増強剤を含有し、上記表層における上記紙力増強剤の含有量が固形分換算で、1.0kg/t以上9.9kg/t以下であり、上記表層の全パルプ成分における繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の平均繊維幅が17.3μm以上17.8μm以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、美粧性及び印刷適性を良好にし、裏巻きで保管された際のカールの発生を抑制できる板紙を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る板紙は、少なくとも表層及び裏層を備え、上記表層の全パルプ成分に対する広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が5質量%以上50質量%以下であり、上記表層の525℃燃焼法における紙中灰分が上記裏層より少なく、上記表層と上記裏層との紙中灰分の差が5%以下であり、上記表層が紙力増強剤を含有し、上記表層における上記紙力増強剤の含有量が固形分換算で、1.0kg/t以上9.9kg/t以下であり、上記表層の全パルプ成分における繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の平均繊維幅が17.3μm以上17.8μm以下である。
【0010】
当該板紙は、表層の全パルプ成分に対する広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が5質量%以上50質量%以下であり、上記表層の全パルプ成分における繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の平均繊維幅が17.3μm以上17.8μm以下である。これにより、表層に含まれる微細な繊維を低減して表面が密にならないようにすることで、印刷時の紙ムケを抑制し、印刷適性を良好にできるとともに、裏巻きで保管された際のカールの発生を抑制できる。また、表層の白色度を適度な範囲に調整することにより美粧性を向上できる。上記表層が紙力増強剤を含有し、上記表層における上記紙力増強剤の含有量が固形分換算で、1.0kg/t以上9.9kg/t以下であることで、罫割れを抑制しつつ広葉樹未晒クラフトパルプを含有していても強度を良好に維持できる。上記表層の525℃燃焼法における紙中灰分が上記裏層より少なく、上記表層と上記裏層との紙中灰分の差が5%以下であることで、表層と裏層とのパルプ繊維の詰まりの差が軽減されることで、表層と裏層とのパルプ繊維の吸放湿による伸縮差が低減し、裏巻きで保管された際のカールの発生を抑制できる。
従って、当該板紙は、美粧性及び印刷適性を良好にし、裏巻きで保管された際のカールの発生を抑制できる。
なお、本発明における美粧性とは、適度な白色度を有し、印刷前に汚れが目立たないことを意味する。
【0011】
上記表層の紙中灰分が10%以下であることが好ましい。上記表層の紙中灰分が10%以下であることで、印刷時の紙ムケをさらに抑制し、印刷適性をより向上できる。
【0012】
上記表層の表面に滑剤からなる塗工膜を有し、上記塗工膜の塗工量が固形分換算で0.01g/m2以上0.10g/m2以下であることが好ましい。上記表層の表面に滑剤からなる塗工膜を有し、上記塗工量が固形分換算で0.01g/m2以上0.10g/m2以下であることで、上記表層の表面の摩擦係数が適度に低減されて、印刷時の紙ムケの抑制効果をより高めて印刷適性が向上するとともに、板紙の滑り性が適度に抑制されて作業性を向上できる。
【0013】
[本発明の実施形態の詳細]
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<板紙>
本発明の一実施形態に係る板紙は、少なくとも表層及び裏層を備える。また、当該板紙は、上記表層と上記裏層との間に単層又は複数の層を備えていてもよい。すなわち、当該板紙の層数は、2層以上の層を有する多層抄き紙である。
【0015】
[表層]
上記表層は、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)を含有する。
【0016】
表層の全パルプ成分に対する広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が5質量%以上50質量%以下とすることで、表層に含まれる微細な繊維を低減して表面が密にならないようにすることで、印刷時の紙ムケを抑制し、印刷適性を良好にできるとともに、裏巻きで保管された際のカールの発生を抑制できる。また、表層の白色度を適度な範囲に調整することにより美粧性を向上できる。上記広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が5質量%未満の場合、白色度が低くなり、美粧性が低下するとともに、印刷適性が低下するおそれがある。広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が50質量%を超えると、白色度が高くなり、汚れが目立ちやすくなるとともに、短繊維が多くなることにより裏巻きで保管された際にカールが発生しやすくなるおそれがある。
なお、本発明で用いる古紙パルプの原料である針葉樹未晒クラフトパルプおよび広葉樹未晒クラフトパルプの白色度は、蒸解時のカッパー価で調整できる。一般的に、針葉樹未晒クラフトパルプのカッパー価は30~60であり、広葉樹未晒クラフトパルプのカッパー価は15~25である。このように、カッパー価においては樹種の差はあるが、この範囲であれば、針葉樹未晒クラフトパルプよりも広葉樹未晒クラフトパルプの方が、白色度は高くなる。
【0017】
表層は、リサイクル性の観点から上記広葉樹未晒クラフトパルプ以外にその他のパルプとして、例えば段ボール古紙パルプ、クラフト古紙パルプ、雑誌古紙パルプ、茶古紙、クラフト封筒古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、上白古紙、ケント古紙、構造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、脱墨・漂白古紙パルプ等を用いることができる。
【0018】
表層のパルプ成分である広葉樹未晒クラフトパルプ及び古紙パルプの未叩解パルプのフリーネスとしては、300ml以上350ml以下に調整されていることが好ましい。広葉樹未晒クラフトパルプ及び古紙パルプの未叩解パルプのフリーネスが300ml未満の場合、フリーネスが低く微細繊維が多いため、繊維が密に詰まり、カールが発生し易くなるおそれがある。一方、上記広葉樹未晒クラフトパルプ及び古紙パルプの未叩解パルプのフリーネスが350mlを超えると、繊維が十分に叩解されていないため、罫割れ耐性が低くなるおそれがある。ここで、フリーネスは、JIS-P8220-1-2012のパルプの離解方法に準拠して離解することによって離解パルプとし、この離解パルプをJIS-P8121-2-2012のカナダ標準ろ水度試験方法に準拠して測定される値である。
【0019】
表層の全パルプ成分のフリーネスの下限としては、250mlが好ましく、300mlがより好ましい。表層の全パルプ成分のフリーネスが250ml未満の場合、微細繊維が多いために繊維が密に詰まり、裏巻きで保管した際にカールが発生しやすくなるおそれがある。表層の全パルプ成分のフリーネスの上限としては、400mlが好ましく、350mlがより好ましい。表層の全パルプ成分のフリーネスが400mlを超えると、LUKPが十分に叩解されていないことにより、罫割れ耐性が低くなるおそれがある。
【0020】
(紙中灰分)
上記表層の紙中灰分としては、10%以下が好ましく、9.6%未満がより好ましい。上記表層の紙中灰分が10%以下であることで、印刷時の紙ムケをさらに抑制し、印刷適性をより向上できる。上記紙中灰分(%)は、カミソリを用いて板紙の各層を剥離し、表層及び裏層について、JIS-P8251:2003「紙、板紙及びパルプ-紙中灰分試験方法-525℃燃焼方法」に準じて測定される。表層の紙中灰分は、古紙パルプの選定や填料の添加によりすることができる。
【0021】
上記填料としては、例えば製紙用途に一般的に使用している炭酸カルシウム、クレー、タルク等が挙げられる。上述の紙中灰分となる範囲内であれば、填料の添加量は特に限定されないが、70kg/t以上では罫割れ耐性が低下する可能性があるため好ましくない。
【0022】
上記表層の全パルプ成分における繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の平均繊維幅の下限としては、17.3μmであり、17.5μmが好ましい。上記パルプ繊維の平均繊維幅が17.3μm未満の場合、繊維が密に詰まりやすく、裏巻きで保管した際にカールが発生しやすくなるおそれがある。上記パルプ繊維の平均繊維幅の上限としては、17.8μmであり、17.7μmが好ましい。上記パルプ繊維の平均繊維幅が17.8μmを超えると、印刷適性が悪くなるおそれがある。
【0023】
[裏層]
裏層は、段ボール古紙パルプを含有することが好ましい。
【0024】
上記裏層における上記段ボール古紙パルプの含有量の下限としては、90質量%であり、95質量%が好ましい。上記段ボール古紙パルプの含有量の含有量の上限としては、100質量%であってもよい。当該当該板紙は、裏層の原料パルプとして上記段ボール古紙パルプの含有量を上記範囲にすることで、強度を向上しつつ、古紙パルプの再利用の促進を高めることができる。
【0025】
なお、当該板紙の裏層は、段ボール古紙パルプ以外にその他のパルプとして、例えばクラフト古紙パルプ及び上記雑誌古紙パルプ、茶古紙、クラフト封筒古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、上白古紙、ケント古紙、構造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、脱墨・漂白古紙パルプ、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹未晒クラフトパルプ等を用いることができる。また、必要に応じて、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、晒ケミサーモメカニカルパルプ(BCTMP)等の機械パルプを用いてもよい。
【0026】
裏層のパルプ成分として用いられる広葉樹未晒クラフトパルプ及び古紙パルプのフリーネスは、表層のパルプ成分として用いられる広葉樹未晒クラフトパルプ及び古紙パルプのフリーネスと同様である。
【0027】
上記表層と上記裏層との紙中灰分の差の上限としては、5%であり、4%が好ましい。一方、上記紙中灰分の差の下限としては、0%が好ましく、3%がより好ましい。上記表層と上記裏層との紙中灰分の差を5%以下にすることで、表層と裏層とのパルプ繊維の詰まりの差が軽減されることで、表層と裏層とのパルプ繊維の吸放湿による伸縮差が低減し、本発明のように広葉樹未晒クラフトパルプを配合した板紙において、裏巻きで保管された際のカールの発生を抑制できる。上記紙中灰分の差が5%を超えると裏巻きで保管された際のカールの発生の抑制効果が低くなるとともに、罫割れ耐性が低下するおそれがある。上記表層と上記裏層との紙中灰分の差の調整方法としては、裏層は古紙パルプの含有割合を高くすることが可能であり、古紙パルプ由来の紙中灰分が高くなる傾向がある。一方、広葉樹未晒クラフトパルプは紙中灰分をほぼ含まないことから、表層の紙中灰分を調整することで、上記紙中灰分の差の調整が容易となる。表層の紙中灰分を調整方法としては、例えば古紙パルプや填料の含有量により行うことができる。また、裏層の紙中灰分を調整することにより、上記表層と上記裏層との紙中灰分の差を5%以下に調整することもできる。
【0028】
[添加剤]
(紙力増強剤)
当該板紙においては、少なくとも上記表層が紙力増強剤を含有する。少なくとも上記表層が紙力増強剤を含有することで、当該板紙の表面側のパルプの繊維間の結合が強められるので、強度をより向上できる。
【0029】
紙力増強剤としては、アクリルアミド系紙力増強剤が好ましい。より好ましくは両性のポリアクリルアミド系の紙力増強剤が好ましい。両性のポリアクリルアミドはカチオンモノマー、アニオンモノマーをアクリルアミドと重合したものであり、自らのカチオン基を介して、パルプ繊維に直接定着する。また、両性のポリアクリルアミド系の紙力増強剤の特徴として分子構造、分子量をコントロールできる点がある。
【0030】
表層の紙力増強剤の添加量の下限としては、固形分換算で1.0kg/パルプtであり、5.0kg/パルプtが好ましい。上記紙力増強剤の添加量が1.0kg/パルプt未満の場合、印刷時の紙ムケ抑制効果を十分得られず、印刷適性が低下しやすくなるおそれがある。表層の紙力増強剤の添加量の上限としては、固形分換算で9.9kg/パルプtであり、9.5kg/パルプtが好ましい。上記紙力増強剤の添加量が9.9kg/パルプtを超えると、表面が固くなって印刷が均一になり難く、また罫割れか発生しやすくなるおそれがある。
【0031】
(その他の添加剤)
当該板紙の表層、裏層等の各層には、本発明の目的とする効果を損ねない範囲で各種製紙用添加剤を含有させてもよい。各種製紙用添加剤としては、例えば内添サイズ剤、凝集剤(シリカ)等の薬品定着剤、ポリアミド等の歩留り向上剤、ポリアミン、エピクロルヒドリン等の耐水化剤、硫酸バンド等の薬品定着剤、消泡剤、塩基性染料、酸性染料、アニオン性直接染料、カチオン性直接染料等の公知の添加剤、カチオン化澱粉、両性澱粉等の紙力増強剤として単独又は2種以上を併用して添加することができる。
【0032】
上記内添サイズ剤としては、スチレン系内添サイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水琥珀酸(ASA)、中性ロジン内添サイズ剤、ロジン内添サイズ剤などが挙げられる。これらの中でも中性ロジン内添サイズ剤が好ましい。
【0033】
[塗工膜]
当該板紙は、上記表層の表面に滑剤からなる塗工膜を有していてもよい。上記表層の表面に滑剤からなる塗工膜を有することで、表層の表面の摩擦係数が低減され、印刷時の紙ムケの抑制効果が高まるので、印刷適性をより向上できる。
【0034】
滑剤としては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油ワックス、ステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸金属塩、カチオン系アルキルケテンダイマー等のアルキルケテンダイマー、ポリビニルアルコール(PVA)、低分子量ポリエチレン、液状炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、高級脂肪酸硫酸化油、脂肪族リン酸エステル、ポリアルキレングリコール又はその誘導体等が挙げられるが、これに限定されるものではない。またこれらの澱粉は単独でも、または2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0035】
塗工膜の塗工量の下限としては、固形分換算で、0.01g/m2が好ましく、0.02g/m2がより好ましい。一方、上記塗工量の上限としては、0.10/m2が好ましく、0.08g/m2がより好ましい。滑剤からなる塗工膜の塗工量が上記範囲であることで、上記表層の表面の摩擦係数が適度に低減されて、印刷時の紙ムケの抑制効果をより高めて印刷適性が向上するとともに、板紙の滑り性が適度に抑制されて作業性を向上できる。上記塗工量が0.01g/m2未満の場合、表層の表面の摩擦係数が十分に低減されず、印刷時の紙ムケの抑制効果が低下するおそれがある。一方、上記塗工量が0.10/m2を超えると、表層の表面の摩擦係数が過度に高くなることで板紙の加工時に滑りやすく、作業性が低下するおそれがある。
【0036】
[板紙の特性]
(白色度)
白色度[%]は、JIS-P8148:2001「紙、板紙及びパルプ-ISO白色度(拡散青色光反射率)の測定方法」に記載の方法に準拠して測定される。美粧性を良好にする観点から、20%以上40%以下が好ましく、22%以上31%以下がさらに好ましい。
【0037】
[板紙の製造方法]
当該板紙の製造方法は、特に限定されないが、例えば叩解工程と、抄紙工程と、塗工工程と、乾燥工程とを備える。
【0038】
(叩解工程)
叩解工程では、各層を構成する原料パルプを所望のフリーネスとなるように叩解する。始めに、パルプ繊維を水に分散させて得たスラリーに、各紙層に対応した添加剤を必要に応じ添加して混合し、各紙層の紙料を調製する。
【0039】
(抄紙工程)
次に、これらの原料スラリーを用いて、板紙のpHが6以上8以下になるように中性域で抄紙機にて抄紙する。上記抄紙工程では、走行するワイヤー上に噴出させたパルプ原料を抄紙する抄紙機を用いて原料パルプを抄紙する。抄紙機は特に限定されるものではなく、公知の抄紙機、例えば長網抄紙機、円網抄紙機、ハイブリッドフォーマー、ギャップフォーマー等の抄紙機を使用することができ、2層以上の多層で抄紙される。
【0040】
(塗工工程)
上記表層においては、塗工液を塗工する工程を備えることができる。塗工工程では、公知の塗工機を用いることができる。
【0041】
(乾燥工程)
次に、ドライヤーシリンダーにて紙を乾燥する。
【0042】
最後にリールに巻き取り、板紙の巻取を得る。また、上述したように、当該板紙の巻取は裏巻きで仕上げられ、保管および運搬される場合に、より本願発明の効果を奏する。
【0043】
当該板紙によれば、美粧性及び印刷適性を良好にし、裏巻きで保管された際のカールの発生を抑制できる。
【0044】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【実施例0045】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1~実施例23及び比較例1~比較例5]
(パルプスラリー)
表1及び表2に記載のパルプ配合率でパルプスラリーを調製した。用いた原料は以下の通りである。
(1)LUKP
アカシア・マンギウム50%とユーカリ・グロビュラス50%の混合チップを、液比6、絶乾チップ重量当たり有効アルカリ19%、蒸解液の硫化度28%、蒸解温度170℃、蒸解時間60分の条件下で横型回転式オートクレーブ(熊谷理機工業株式会社製)を用いてクラフト蒸解して調製した。白色度は約62%、カッパー価は15であった。
(2)古紙パルプAは、塗工ライナー古紙や石膏ボード古紙(建材に使用されていた紙付き石膏)などの、紙中灰分が高い古紙から調整した古紙パルプである。本発明で使用した古紙パルプAの紙中灰分は約18%、白色度は約23%であった。なお、紙中灰分(%)は、カミソリを用いて板紙の各層を剥離し、表層及び裏層について、JIS-P8251:2003)「紙、板紙及びパルプ-紙中灰分試験方法-525℃燃焼方法」に準じて紙灰分を測定した。
(3)古紙パルプBは、段ボール古紙や新段古紙(段ボール会社から発生した段ボールの裁落)などから調整した古紙パルプであり、紙中灰分は古紙パルプAより低い。本発明で使用した古紙パルプBの紙中灰分は約12%、白色度は約18%であった。
(4)各層に配合したパルプについて、P8121-2:2012「パルプ-ろ水度試験方法-第2部:カナダ標準ろ水度法」に準じて測定した。LUKPと古紙パルプは標準型PFIミル(熊谷理機工業株式会社製)を用いて、表1に記載のフリーネスとなるよう調整した。
(5)各層の紙中灰分調整のための填料として、炭酸カルシウム(奥多摩工業株式会社製「タマパール23CS」)を用いた。
(6)表層の添加剤として、アクリルアミド系紙力増強剤であるハリマ化成学工業株式会社製「ハーマイドRB550」(固形分濃度20%)を用いた。
【0047】
(抄紙)
表層は坪量40g/m2、裏層は坪量80g/m2となるよう角型シートマシン(熊谷理機工業株式会社製)で湿紙をそれぞれ作成し、湿紙を抄き合わせプレス及び乾燥処理して実施例1~実施例23及び比較例1~比較例5の板紙を作成した。
【0048】
(塗工膜)
実施例1~実施例23及び比較例1~比較例5の表層の表面に、滑剤であるステアリン酸カルシウム(サンノプコ社製「ノプコートC-104:、固形分濃度50%)を噴霧し、表2に記載の塗工量(固形分換算)に調整した。
【0049】
【0050】
【0051】
[評価]
得られた各板紙に対して、下記方法にて評価した。
(1)表層のフリーネス
カミソリを用いて板紙の各層を剥離し、表層を離解し、JIS-P8121-2:2012「パルプ-ろ水度試験方法-第2部:カナダ標準ろ水度法」に準じて測定した。評価結果を表3に示す。
(2)紙中灰分(%)
カミソリを用いて各板紙の表層及び裏層を剥離し、JIS-P8251:2003「紙、板紙及びパルプ-紙中灰分試験方法-525℃燃焼方法」に準じて表層及び裏層の紙中灰分を測定した。評価結果を表1に示す。
(3)表層の繊維長及び繊維幅
カミソリを用いて各板紙の表層を剥離し、表層を離解し、バルメット社製の繊維分析計「FS5」を使用し、JIS-P8226:2011(ISO16065-2:2007)「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法」に準じ、長さ加重平均での繊維長0.0mm~0.2mmにおけるパルプ繊維について、含有割合[%]と長さ加重平均での平均繊維幅[μm]を測定した。評価結果を表3に示す。
(4)白色度
白色度[%]は、JIS-P8148:2001)「紙、板紙及びパルプ-ISO白色度(拡散青色光反射率)の測定方法」に記載の方法に準拠して測定した。評価結果を表3に示す。
(5)印刷前の美粧性
各板紙について、表層における黒色や茶褐色の繊維や点等の未蒸解物の外観に基づいて以下の3段階の評価基準で評価した。A及びBの場合、合格とする。評価結果を表3に示す。
A:白色度が22%以上31%以下であり、見た目が白いが、未蒸解物が目立ち難く美粧性に優れる。
B:白色度が22%未満又は31%超であり、見た目が白く、未蒸解物が若干目立つものの美粧性が良い。
C:白色度が20%未満であり、見た目が白くなくなり美粧性に劣る。または、白色度が40%を超えるため見た目が白くなりすぎ、未蒸解物が少なくても目立ち易く、美粧性に劣る。
(6)罫割れ耐性
各板紙について、表層を外側にして180度折り曲げ、折り目を以下の3段階の評価基準で評価した。A及びBの場合、合格とする。評価結果を表3に示す。
A:折り目部分の表層の割れがほとんど無く、罫割れ耐性に優れる。
B:折り目部分の表層の割れが小さく、罫割れ耐性が良い。
C:折り目部分の表層の割れが大きく、罫割れ耐性に劣る。
(7)巻取り後の性状
3インチの紙管(外径80mm)に、板紙の表層が内側になるよう巻き付け、温度23℃湿度50%の環境下に1週間放置した後、紙管から取り外し、表層を上側にして机上に置き、5分後のカールの程度を以下の3段階の評価基準で評価した。A及びBの場合、合格とする。評価結果を表3に示す。
A:多層抄き板紙の四隅ともカールがほとんど無い。
B:多層抄き板紙の四隅のいずれかにカールがあるものの、実使用可能である。
C:多層抄き板紙の四隅のすべてにカールがあり、実使用できない。
(8)印刷適性
各板紙の表層に、線数200のアニロックスロールを用いてフレキソ印刷を行い、印刷適性を以下の3段階の評価基準で評価した。A~Cの場合、合格とする。評価結果を表3に示す。
A:印刷面に紙ムケが無く、印刷適性が特に優れる。
B:印刷面に紙ムケが僅かにあり、印刷適性が優れる。
C:印刷面に紙ムケが多少あるが、印刷適性が問題のないレベルである。
D:印刷面に紙ムケがあり、印刷適性が劣り、実使用できない。
(9)板紙の加工時の作業性
各板紙について、JIS-P8147:2010「紙及び板紙-静及び動摩擦係数の測定方法」の傾斜法に準じて、表層同士の滑り角度を測定し、作業性を3段階の評価基準で評価した。A及びBの場合、合格とする。評価結果を表3に示す。
A:滑り角度が20度以上30度以下であり、作業性に問題ない。
B:滑り角度が15度以上20度未満であり、見た目の白さが低下するものの美粧性が良い。または、30度超33度以下であり、やや滑りやすかったり、逆に滑り難くなったりして、作業性がやや低下する。
C:滑り角度が15度未満、または33度を超過するため、滑りやすかったり、逆に滑り難くなったりして、作業性が低下する。
【0052】
【0053】
上記表3に示されるように、表層の全パルプ成分に対する広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が5質量%以上50質量%以下であり、表層の525℃燃焼法における紙中灰分が上記裏層より少なく、上記表層と上記裏層との紙中灰分の差が5%以下であり、上記表層における上記紙力増強剤の含有量が固形分換算で、1.0kg/t以上9.9kg/t以下であり、上記表層の全パルプ成分における繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の平均繊維幅が17.3μm以上17.8μm以下である実施例1~実施例23は、美粧性、罫割れ耐性、巻取り後のカールの抑制効果、印刷適性及び板紙の加工時の作業性の全てにおいて良好な結果が得られた。
【0054】
一方、広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が5質量%未満であり、繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の平均繊維幅が17.8を超える比較例1は、白色度が低下して美粧性が劣るとともに、印刷適性が劣っていた。
広葉樹未晒クラフトパルプの含有量が50質量%を超え、繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の平均繊維幅が17.3μm未満である比較例2は、罫割れ耐性及び巻取り後のカールの抑制効果が劣っていた。
表層の紙中灰分が裏層より少なく、上記表層と上記裏層と紙中灰分の差が5%を超える比較例3は罫割れ耐性及び巻取り後のカールの抑制効果が劣っていた。
表層が紙力増強剤を含まない比較例4は、印刷適性が劣っていた。
表層における紙力増強剤の含有量が9.9kg/tを超える比較例5は、罫割れ耐性及び印刷適性が劣っていた。
【0055】
以上の結果、美粧性及び印刷適性を良好にし、裏巻きで保管された際のカールの発生を抑制できることが示された。