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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048623
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】咬合状態の評価システム
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/05 20060101AFI20240402BHJP
   A61C 7/00 20060101ALN20240402BHJP
【FI】
A61C19/05
A61C7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154642
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】517118102
【氏名又は名称】SheepMedical株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100066
【弁理士】
【氏名又は名称】愛智 宏
(72)【発明者】
【氏名】大田 真実
(72)【発明者】
【氏名】氏家 真紀
(72)【発明者】
【氏名】杉山 元彦
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA06
4C052AA20
4C052JJ10
4C052NN02
4C052NN03
4C052NN04
4C052NN15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】現在の咬合状態が、初診時の咬合状態に対して許容範囲を超える程度に悪化しているときに、そのことを直ちに把握できる咬合状態の評価システムを提供すること。
【解決手段】咬合データ取得手段10と、接触面積算出手段20と、表示手段30と、記憶手段40と、入力手段50と、制御手段60とを備え、制御手段は、咬合データ取得手段によって第n回目の3Dデータが取得されたときに、この3Dデータに基づく画像および3Dデータから算出された歯ごとの咬合接触面積を表示させるとともに、当該歯ごとの咬合接触面積から所定の基準に基いて評価される第n回目における咬合状態が、記憶手段に記憶されている、第1回目の3Dデータにより算出された歯ごとの咬合接触面積から評価される第1回目における咬合状態と比較して一定の程度を超えて悪化していると判断した場合、表示手段にアラート表示させるよう制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上顎歯列および下顎歯列並びにこれらの咬合時の歯面をスキャンして咬合状態の3Dデータを取得する咬合データ取得手段(10)と、
前記咬合データ取得手段(10)により取得した前記3Dデータから、歯ごとの咬合接触面積を算出する接触面積算出手段(20)と、
前記3Dデータに基づく画像および前記歯ごとの咬合接触面積を表示する表示手段(30)と、
前記3Dデータおよび前記歯ごとの咬合接触面積を、前記3Dデータを取得した日付と関連付けて記憶する記憶手段(40)と、
操作者からの指示を含む入力を受け付ける入力手段(50)と、
前記入力手段(50)への入力に応じて、前記咬合データ取得手段(10)、前記接触面積算出手段(20)、前記表示手段(30)および前記記憶手段(40)を制御する制御手段(60)とを備えてなり;
前記制御手段(60)は、前記咬合データ取得手段(10)によって第n回目の3Dデータが取得されたときに、第n回目に取得された3Dデータに基づく画像および当該3Dデータから算出された歯ごとの咬合接触面積を表示させるとともに、当該歯ごとの咬合接触面積から所定の基準に基いて評価される第n回目における咬合状態が、前記記憶手段(40)に記憶されている、第1回目の3Dデータにより算出された歯ごとの咬合接触面積から前記基準に基いて評価される第1回目における咬合状態と比較して一定の程度を超えて悪化していると判断した場合に、アラートを表示させるよう前記表示手段(30)を制御することを特徴とする咬合状態の評価システム。
【請求項2】
前記制御手段(60)は、前記咬合データ取得手段(10)によって第n回目の3Dデータが取得されたときに、当該3Dデータから算出された咬合接触面積の左右のバランスが一定の程度を超えて損なわれていると判断した場合に、第2アラートを表示させるよう前記表示手段(30)を制御することを特徴とする請求項1に記載の咬合状態の評価システム。
【請求項3】
前記制御手段(60)は、前記咬合データ取得手段(10)によって第n回目の3Dデータが取得されたときに、何れかの歯において、これと対向する歯に対して過大な力で接触している部分があると判断した場合に、第3アラートを表示させるよう前記表示手段(30)を制御することを特徴とする請求項1に記載の咬合状態の評価システム。
【請求項4】
前記制御手段(60)は、前記部分を有する歯を特定して表示できるよう前記表示手段(30)を制御することを特徴とする請求項3に記載の咬合状態の評価システム。
【請求項5】
前記制御手段(60)は、少なくとも1本の臼歯が、下記の条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当するときに、前記アラートを表示させるよう前記表示手段(30)を制御することを特徴とする請求項1に記載の咬合状態の評価システム。
<条件〔I〕>:
第n回目の3Dデータから算出された前記臼歯の咬合接触面積が、所定の設定値未満であって、第1回目の3Dデータから算出された当該臼歯の咬合接触面積よりも狭い。
<条件〔II〕>:
第1回目の3Dデータから算出された前記臼歯の咬合接触面積に対する第n回目の3Dデータから算出された当該臼歯の咬合接触面積の比率が所定の設定比率未満である。
【請求項6】
前記制御手段(60)は、少なくとも1本の第1大臼歯(第6番)と、当該第1大臼歯と上下同じ顎で左右同じ側の第1小臼歯(第4番)または第2小臼歯(第5番)とが、前記条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当するときに、前記アラートを表示させるよう前記表示手段(30)を制御することを特徴とする請求項5に記載の咬合状態の評価システム。
【請求項7】
前記制御手段(60)は、少なくとも1本の第1大臼歯(第6番)が前記条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当するとき、あるいは、
少なくとも1本の第1小臼歯(第4番)と、当該第1小臼歯に隣り合う第2小臼歯(第5番)とが、前記条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当するときに前記アラートを表示させるよう前記表示手段(30)を制御することを特徴とする請求項5に記載の咬合状態の評価システム。
【請求項8】
前記条件〔I〕において、第1大臼歯(第6番)の咬合接触面積に係る前記設定値が1.0~20mm2 の範囲にあり、第1小臼歯(第4番)および第2小臼歯(第5番)の咬合接触面積に係る前記設定値が0.5~10mm2 の範囲にあり、
前記条件〔II〕において、第1大臼歯(第6番)、第1小臼歯(第4番)および第2小臼歯(第5番)の咬合接触面積に係る前記設定比率が5~50%の範囲にあることを特徴とする請求項6または7に記載の咬合状態の評価システム。
【請求項9】
前記条件〔I〕において、第1大臼歯(第6番)の咬合接触面積に係る前記設定値が10mm2 であり、第1小臼歯(第4番)および第2小臼歯(第5番)の咬合接触面積に係る前記設定値が5mm2 であり、
前記条件〔II〕において、第1大臼歯(第6番)、第1小臼歯(第4番)および第2小臼歯(第5番)の咬合接触面積に係る前記設定比率が30%であることを特徴とする請求項6または7に記載の咬合状態の評価システム。
【請求項10】
前記制御手段(60)は、前記条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当している臼歯を特定して表示できるよう前記表示手段(30)を制御することを特徴とする請求項6または7に記載の咬合状態の評価システム。
【請求項11】
前記制御手段(60)は、右側歯列を構成する第1小臼歯(第4番)、第2小臼歯(第5番)、第1大臼歯(第6番)および第2大臼歯(第7番)における咬合接触面積の合計(SR)と、左側歯列を構成する第1小臼歯(第4番)、第2小臼歯(第5番)、第1大臼歯(第6番)および第2大臼歯(第7番)における咬合接触面積の合計(SL)との比(SR/SL)が1/3未満または3を超えたときに咬合接触面積の左右のバランスが損なわれていると判断して前記第2アラートを表示させるよう前記表示手段(30)を制御することを特徴とする請求項2に記載の咬合状態の評価システム。
【請求項12】
前記制御手段(60)は、前記咬合データ取得手段(10)によって第n回目の3Dデータが取得されたときに、第1回目から第n回目までに取得された3Dデータからそれぞれ算出された歯ごとの咬合接触面積を表示させるよう前記表示手段(30)を制御することを特徴とする請求項1に記載の咬合状態の評価システム。
【請求項13】
前記制御手段(60)は、前記咬合データ取得手段(10)によって第n回目の3Dデータが取得されたときに、第1回目に取得された3Dデータから算出された歯ごとの咬合接触面積、第2回目から第n-1回目までに取得された3Dデータの少なくとも1つから算出された歯ごとの咬合接触面積、および第n回目に取得された3Dデータから算出された歯ごとの咬合接触面積を表示させるよう前記表示手段(30)を制御することを特徴とする請求項1に記載の咬合状態の評価システム。
【請求項14】
前記制御手段(60)は、前記表示手段(30)に表示させたアラート情報を、前記3Dデータを取得した日付と関連付けて前記記憶手段(40)に記憶させ、
前記入力手段(50)への指示入力に応じて、前記記憶手段(40)に記憶されている過去の日付と関連付けられた3Dデータに基づく画像および当該3Dデータから算出された歯ごとの咬合接触面積を表示させるとともに、当該日付と関連付けられているアラート情報を表示させるよう前記表示手段(30)を制御することを特徴とする請求項1に記載の咬合状態の評価システム。
【請求項15】
前記制御手段(60)は、前記咬合データ取得手段(10)によって第n回目の3Dデータが取得されたときに、第n回目に取得された3Dデータに基づく画像において、咬合接触面を色付け表示させるよう前記表示手段(30)を制御することを特徴とする請求項1に記載の咬合状態の評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、咬合状態の評価システムに関し、更に詳しくは、矯正歯科治療などにおいて、治療期間中の咬合状態(かみ合わせ)を経時的に評価することができる評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
矯正歯科治療において、歯列矯正装置によって歯を移動させ、移動させた歯を歯列保定装置により保定することが行われている(歯列矯正装置について特許文献1、歯列保定装置について特許文献2参照)。
【0003】
矯正歯科治療前の咬合状態(かみ合わせ)はある程度良好であり、上顎歯列を構成する歯と、下顎歯列を構成する歯との間には複数の接触点があり、一定の咬合接触面積が確保されている。
【0004】
しかして、歯列矯正装置により歯を移動させることに伴い、患者の咬合状態は悪化する傾向がある。例えば、上顎歯列を構成する歯と下顎歯列を構成する歯との咬合接触面積が減少したり、当該接触面積の左右バランスの崩れたりする。
このため、少なくとも矯正治療期間(更に保定期間)において、歯科医は、かみ合わせを適宜調整する。
【0005】
ところで、矯正歯科治療を受ける患者は、治療後におけるかみ合わせが、慣れ親しんだ治療前のかみ合わせに近いことを希望する。
このため、第1回(初診)における良好な咬合状態が大きく崩れることがないよう調整することが好ましい。
【0006】
しかしながら、矯正治療中において、かみ合わせ調整を行おうとする歯科医は、矯正歯科治療前(初診時)の咬合状態を十分に認識していないため、現在(治療後または治療中)の咬合状態が初診時の咬合状態に対してどの程度変化しているのか把握することができず、このため、矯正治療後において、初診時の咬合状態に近い状態を実現することが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6910673号公報
【特許文献2】特開2002-177299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の第1の目的は、現在の咬合状態が、第1回(初診)における咬合状態に対して許容範囲を超える程度に変化しているときに、そのことを直ちに把握することができる咬合状態の評価システムを提供することにある。
本発明の第2の目的は、上顎歯列を構成する歯と下顎歯列を構成する歯との接触面積の左右のバランスが許容範囲を超える程度に損なわれているときに、そのことを直ちに把握することができる咬合状態の評価システムを提供することにある。
本発明の第3の目的は、上顎歯列を構成する歯と下顎歯列を構成する歯とが許容範囲を超える程度に強く接触している部分があるときに、そのことを直ちに把握することができる咬合状態の評価システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔1〕本発明の咬合状態の評価システムは、上顎歯列および下顎歯列並びにこれらの咬合時の歯面をスキャンして咬合状態の3Dデータを取得する咬合データ取得手段(10)と、
前記咬合データ取得手段(10)により取得した前記3Dデータから、歯ごとの咬合接触面積を算出する接触面積算出手段(20)と、
前記3Dデータに基づく画像および前記歯ごとの咬合接触面積を表示する表示手段(30)と、
前記3Dデータおよび前記歯ごとの咬合接触面積を、前記3Dデータを取得した日付と関連付けて記憶する記憶手段(40)と、
操作者からの指示を含む入力を受け付ける入力手段(50)と、
前記入力手段(50)への入力に応じて、前記咬合データ取得手段(10)、前記接触面積算出手段(20)、前記表示手段(30)および前記記憶手段(40)を制御する制御手段(60)とを備えてなり;
前記制御手段(60)は、前記咬合データ取得手段(10)によって第n回目(nは1以上の数)の3Dデータが取得されたときに、第n回目に取得された3Dデータに基づく画像および当該3Dデータから算出された歯ごとの咬合接触面積を表示させるとともに、当該歯ごとの咬合接触面積から所定の基準に基いて評価される第n回目における咬合状態が、前記記憶手段(40)に記憶されている、第1回目の3Dデータにより算出された歯ごとの咬合接触面積から前記基準に基いて評価される第1回目における咬合状態と比較して一定の程度を超えて悪化(低下)していると判断した場合に、アラート(第1アラート)を表示させるよう前記表示手段(30)を制御することを特徴とする。
【0010】
このような構成の評価システムによれば、第n回目における咬合状態が、第1回目における咬合状態と比較して一定の程度を超えて悪化していると制御手段が判断した場合には表示手段に第1アラートが表示されるので、第1アラートが表示された場合には、現在の咬合状態が第1回における咬合状態に対して許容範囲を超える程度に変化していることを直ちに把握することができ、第1アラートに対応して咬合調整を行うことができる。
【0011】
また、第n回目に取得された3Dデータに基づく画像とともに当該3Dデータから算出された歯ごとの咬合接触面積(数値)が表示手段に表示されるので、咬合接触面積(接触点の大きさ)を定量的に把握することができる。
【0012】
〔2〕本発明の咬合状態の評価システムにおいて、前記制御手段(60)は、前記咬合データ取得手段(10)によって第n回目の3Dデータが取得されたときに、当該3Dデータから算出された咬合接触面積の左右のバランスが一定の程度を超えて損なわれていると判断した場合に、第2アラートを表示させるよう前記表示手段(30)を制御することが好ましい。
【0013】
このような構成の評価システムによれば、第2アラートが表示手段に表示された場合には、現在の咬合状態において、咬合接触面積の左右のバランスが許容範囲を超える程度に損なわれていることを直ちに把握することができる。
【0014】
〔3〕本発明の咬合状態の評価システムにおいて、前記制御手段(60)は、前記咬合データ取得手段(10)によって第n回目の3Dデータが取得されたときに、何れかの歯において、これと対向する歯に対して過大な力で接触している部分があると判断した場合に、第3アラートを表示させるよう前記表示手段(30)を制御することが好ましい。
【0015】
このような構成の評価システムによれば、第3アラートが表示手段に表示された場合には、現在の咬合状態において、上顎歯列を構成する歯と下顎歯列を構成する歯とが許容範囲を超える程度に強く接触している部分があることを直ちに把握することができる。
【0016】
〔4〕上記〔3〕の咬合状態の評価システムにおいて、前記制御手段(60)は、前記部分を有する歯を特定して表示できるよう前記表示手段(30)を制御することが好ましい。
【0017】
このような構成の評価システムによれば、許容範囲を超える程度に強く接触するような部分を有する歯(咬合調整を行うべき歯)を直ちに認識することができる。
【0018】
〔5〕本発明の咬合状態の評価システムにおいて、前記制御手段(60)は、少なくとも1本の臼歯が、下記の条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当するときに、前記第1アラートを表示させるよう前記表示手段(30)を制御することが好ましい。
【0019】
<条件〔I〕>:
第n回目の3Dデータから算出された前記臼歯の咬合接触面積が、所定の設定値未満であって、第1回目の3Dデータから算出された当該臼歯の咬合接触面積よりも狭い。
【0020】
<条件〔II〕>:
第1回目の3Dデータから算出された前記臼歯の咬合接触面積に対する第n回目の3Dデータから算出された当該臼歯の咬合接触面積の比率が所定の設定比率未満である。
【0021】
〔6〕上記〔5〕の咬合状態の評価システムにおいて、前記制御手段(60)は、少なくとも1本の第1大臼歯(第6番)と、当該第1大臼歯と上下同じ顎で左右同じ側の第1小臼歯(第4番)または第2小臼歯(第5番)とが、前記条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当するときに、前記アラートを表示させるよう前記表示手段(30)を制御することが好ましい。
換言すれば、第1大臼歯と第1小臼歯とがともに前記条件に該当するとき、あるいは、第1大臼歯と第2小臼歯とがともに前記条件に該当するとき、第1アラートを表示させる。
【0022】
〔7〕上記〔5〕の咬合状態の評価システムにおいて、前記制御手段(60)は、少なくとも1本の第1大臼歯(第6番)が前記条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当するとき、あるいは、
少なくとも1本の第1小臼歯(第4番)と、当該第1小臼歯に隣り合う第2小臼歯(第5番)とが、前記条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当するときに前記第1アラートを表示させるよう前記表示手段(30)を制御してもよい。
【0023】
〔8〕上記〔6〕または〔7〕の咬合状態の評価システムでは、前記条件〔I〕において、第1大臼歯(第6番)の咬合接触面積に係る前記設定値が1.0~20mm2 の範囲にあり、第1小臼歯(第4番)および第2小臼歯(第5番)の咬合接触面積に係る前記設定値が0.5~10mm2 の範囲にあり、
前記条件〔II〕において、第1大臼歯(第6番)、第1小臼歯(第4番)および第2小臼歯(第5番)の咬合接触面積に係る前記設定比率が5~50%の範囲にあることが好ましい。
【0024】
〔9〕上記〔6〕または〔7〕の咬合状態の評価システムでは、前記条件〔I〕において、第1大臼歯(第6番)の咬合接触面積に係る前記設定値が10mm2 であり、第1小臼歯(第4番)および第2小臼歯(第5番)の咬合接触面積に係る前記設定値が5mm2 であり、
前記条件〔II〕において、第1大臼歯(第6番)、第1小臼歯(第4番)および第2小臼歯(第5番)の咬合接触面積に係る前記設定比率が30%であることが特に好ましい。
【0025】
〔10〕上記〔6〕または〔7〕の咬合状態の評価システムにおいて、前記制御手段(60)は、前記条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当している臼歯を特定して表示できるよう前記表示手段(30)を制御することが好ましい。
【0026】
このような構成の評価システムによれば、咬合接触面積が許容範囲を超える程度に減小して第1アラートを表示させる原因となった臼歯を直ちに認識することができる。
【0027】
〔11〕上記〔2〕の咬合状態の評価システムにおいて、前記制御手段(60)は、右側歯列を構成する第1小臼歯(第4番)、第2小臼歯(第5番)、第1大臼歯(第6番)および第2大臼歯(第7番)における咬合接触面積の合計(SR)と、左側歯列を構成する第1小臼歯(第4番)、第2小臼歯(第5番)、第1大臼歯(第6番)および第2大臼歯(第7番)における咬合接触面積の合計(SL)との比(SR/SL)が1/3未満または3を超えたときに咬合接触面積の左右のバランスが損なわれていると判断して前記第2アラートを表示させるよう前記表示手段(30)を制御することが好ましい。
【0028】
〔12〕本発明の咬合状態の評価システムにおいて、前記制御手段(60)は、前記咬合データ取得手段(10)によって第n回目の3Dデータが取得されたときに、第1回目から第n回目までに取得された3Dデータからそれぞれ算出された歯ごとの咬合接触面積を表示させるよう前記表示手段(30)を制御することが好ましい。
【0029】
このような構成の評価システムによれば、第1回目(初診)から第n回目(現在)までに取得された3Dデータからそれぞれ算出された歯ごとの咬合接触面積(数値)が表示手段に表示されるので、歯ごとの咬合接触面積の経時変化を定量的に把握することができる。
【0030】
〔13〕本発明の咬合状態の評価システムにおいて、前記制御手段(60)は、前記咬合データ取得手段(10)によって第n回目の3Dデータが取得されたときに、第1回目に取得された3Dデータから算出された歯ごとの咬合接触面積、第2回目から第n-1回目までに取得された3Dデータの少なくとも1つから算出された歯ごとの咬合接触面積、および第n回目に取得された3Dデータから算出された歯ごとの咬合接触面積を表示させるよう前記表示手段(30)を制御することが好ましい。
【0031】
このような構成の評価システムによれば、歯ごとの咬合接触面積の経時変化を定量的に把握することができるとともに、取得した3Dデータの数が多数ある場合に、期間中(第2回目から第n-1回目まで)に取得した3Dデータから算出された歯ごとの咬合接触面積の一部を表示を省略することができる。
【0032】
〔14〕本発明の咬合状態の評価システムにおいて、前記制御手段(60)は、前記表示手段(30)に表示させたアラート情報を、前記3Dデータを取得した日付と関連付けて前記記憶手段(40)に記憶させ、
前記入力手段(50)への指示入力に応じて、前記記憶手段(40)に記憶されている過去の日付と関連付けられた3Dデータに基づく画像および当該3Dデータから算出された歯ごとの咬合接触面積を表示させるとともに、当該日付と関連付けられているアラート情報(アラートおよび該当する歯の特定)を表示させるよう前記表示手段(30)を制御することが好ましい。
【0033】
このような構成の評価システムによれば、過去の日付と関連付けられた3Dデータに基づく情報を表示することにより、期間中の履歴を確認することができる。
【0034】
〔13〕前記制御手段(60)は、前記咬合データ取得手段(10)によって第n回目の3Dデータが取得されたときに、第n回目に取得された3Dデータに基づく画像において、咬合接触面を色付け表示させるよう前記表示手段(30)を制御することが好ましい。
【0035】
このような構成の評価システムによれば、各々の歯における咬合接触面(接触点)の位置を正確に把握することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の評価システムによれば、アラート(第1アラート)が表示されることで、現在(治療後または治療中)の咬合状態が、第1回(初診)における咬合状態に対して許容範囲を超える程度に変化していることを直ちに把握することができる。
また、第2アラートを表示させるように表示手段が制御される評価システムによれば、第2アラートが表示されることで、咬合接触面積の左右のバランスが許容範囲を超える程度に損なわれていることを直ちに把握することができる。
また、第3アラートを表示させるように表示手段が制御される評価システムによれば、第3アラートが表示されることで、上顎歯列を構成する歯と下顎歯列を構成する歯とが、許容範囲を超える程度に強く接触している部分があることを直ちに把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の咬合状態の評価システムの一実施形態を示すブロック図である。
図2】歯面間の離間距離を説明するための模式図である。
図3図1に示した評価システムを構成する表示手段における画面の一例を示す模式図である。
図4図1に示した評価システムの使用する場合の操作および動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1に示す本実施形態の咬合状態の評価システム100は、咬合データ取得手段10と、接触面積算出手段20と、表示手段30と、記憶手段40と、入力手段50と、制御手段60とを備えている。
【0039】
<咬合データ取得手段10>
評価システム100を構成する咬合データ取得手段10は、患者の上顎歯列および下顎歯列並びにこれらの咬合時の歯面をスキャンして咬合状態の3Dデータを取得する手段である。咬合状態の3Dデータを取得するためには、開口した状態で上顎歯列および下顎歯列をスキャンした後、上下の歯をかみ合わせた状態で、上顎歯列および下顎歯列を側方からスキャンする。
咬合データ取得手段10を構成する装置としては、口腔内スキャナ「iTero(登録商標)」(Align Technology,Inc製)を挙げることができる。
【0040】
<接触面積算出手段20>
評価システム100を構成する接触面積算出手段20は、咬合データ取得手段10により取得した3Dデータから、歯ごとの咬合接触面積を算出する手段である。
ここに、「咬合接触面積」とは、歯をかみ合わせたとき(咬合時)に、咬合接触面積を算出しようとする1本の歯の歯面において、この歯に対向している1本または2本の歯の歯面との離間距離が一定の値以下である部分(当該部分を「咬合接触面」とする)の面積をいう。
【0041】
例えば、上顎歯列を構成する右側第1大臼歯(UR6)における咬合接触面積は、当該第1大臼歯(UR6)の咬合面において、当該第1大臼歯(UR6)に対向している下顎歯列を構成する歯〔例えば、第2小臼歯(LR5)または第1大臼歯(LR6)〕の咬合面との離間距離が一定の値以下である部分(咬合接触面)の面積である。
【0042】
ここに、「離間距離」は、上下方向(Z軸方向)の距離(図2に示す距離dz)であってもよいし、対向している歯の歯面との最短距離(同図に示す距離ds)であってもよく、更に、咬合接触面積を算出しようとする歯の歯面に対して垂直方向の距離(同図に示す距離dv)であってもよい。
図2において、P1は、咬合接触面積を算出しようとする下側の歯LTの歯面上の一点、P2は、咬合接触面積を算出しようとする上側の歯UTの歯面上の一点である。
【0043】
また、その値以下であるときに咬合接触しているとされる前記「一定の値」としては、Z軸方向の距離(dz)、最短距離(ds)、垂直方向の距離(dv)の何れにおいても、0mm~1.0mmとされ、好適な一例を示せば0.5mmである。
【0044】
接触面積算出手段20により、咬合接触面積は歯ごとに算出される。
咬合接触面積を歯ごとに算出して、表示手段30に表示することにより、問題となる歯(例えば、第1回目の3Dデータにより算出された咬合接触面積から大きく低下した歯)を直ちに認識することができる。
【0045】
<表示手段30>
評価システム100を構成する表示手段30は、咬合データ取得手段10によって取得した3Dデータに基づく画像および歯ごとの咬合接触面積(数値)を表示する手段である。
図3に示すように、表示手段30の画面には、書誌的情報301(患者名、患者ID、日付、管理番号)、第4回目(第n回目)に取得された3Dデータに基づく歯列画像(上顎歯列の下面視302、下顎歯列の上面視303)、第1回目ないし第4回目に取得された3Dデータの各々から算出された歯ごとの咬合接触面積を示す表304、アラート表示305~307が表示されている。
【0046】
図3に示した画像302,303は、第4回目(第n回目)に取得された最新の3Dデータに基づく歯列画像である。
画像302には、上顎歯列を構成する14本の歯(右側中切歯UR1、右側側切歯UR2、右側犬歯UR3、右側第1小臼歯UR4、右側第2小臼歯UR5、右側第1大臼歯UR6、右側第2大臼歯UR7、左側中切歯UL1、左側側切歯UL2、左側犬歯UL3、左側第1小臼歯UL4、左側第2小臼歯UL5、左側第1大臼歯UL6、左側第2大臼歯UL7)が示され、画像303には、下顎歯列を構成する14本の歯(右側中切歯LR1、右側側切歯LR2、右側犬歯LR3、右側第1小臼歯LR4、右側第2小臼歯LR5、右側第1大臼歯LR6、右側第2大臼歯LR7、左側中切歯LL1、左側側切歯LL2、左側犬歯LL3、左側第1小臼歯LL4、左側第2小臼歯LL5、左側第1大臼歯LL6、左側第2大臼歯LL7)が示されている。
【0047】
図3に示されているように、画像302および画像303において、咬合接触面には色付け(図3では黒色であるが実際の画面では赤色で表示)がされている。これにより、咬合接触面(点)を有している歯、および当該歯における咬合接触面(点)の位置を容易に確認することができる。
同図において色付けされている咬合接触面は、当該歯に対向する歯の歯面との離間距離(最短距離)が0.5mm以下の部分である。
なお、画像302,303は、歯列画像や咬合接触面の表示状態がイメージできるよう示したものであり、画像302,303における咬合接触面の位置や大きさなどは、表304に記載されている数値と合致していない。
【0048】
図3に示した表304には、矯正歯科治療前(初診時)である第1回目(2021年12月26日)から、最新の状態である第4回目(2022年1月5日)までに取得された4回分の3Dデータからそれぞれ算出された歯ごとの咬合接触面積が記載されている(表中空欄の咬合接触面積は0である。)。
第4回目に取得した最新の3Dデータから算出された歯ごとの咬合接触面積が表304中に記載されていることにより、現在における歯ごとの咬合接触面積を定量的に把握することができる。
また、第1回目ないし第3回目に取得された過去の3Dデータからそれぞれ算出された歯ごとの咬合接触面積が表304中に記載(併記)されていることにより、咬合接触面積の経時変化を定量的に把握することができる。
図3に示したアラート表示305は、咬合接触面積の変化に係る第1アラートの表示、アラート表示306は、咬合接触面積の左右バランに係る第2アラートの表示、アラート表示307は、対向する歯に対する強い当たりに係る第3アラートの表示である。
なお、これらのアラート表示は、その表示条件を満たしていない場合には表示されないが、説明のため、表304に示された数値とは無関係にすべて表示(図中に記載)している。
【0049】
<記憶手段40>
評価システム100を構成する記憶手段40は、咬合データ取得手段10によって取得した3Dデータおよび当該3Dデータに基づく歯ごとの咬合接触面積(数値データ)を、当該3Dデータを取得した日付と関連付けて記憶する手段である。
3Dデータおよび歯ごとの咬合接触面積(数値データ)は、後述するアラート情報、何回目に取得した3Dデータであるかを示す数(n)などとともに、患者名、患者ID、管理番号によって記憶手段40に割り当てられた領域に記憶される。
【0050】
<入力手段50>
評価システム100を構成する入力手段50は、操作者からの入力を受け付ける手段である。
入力手段50への入力事項としては、患者名、患者ID、管理番号、3Dデータの取得指示、アラート発生条件の選択などを挙げることができる。
【0051】
<制御手段60>
評価システム100を構成する制御手段60は、操作者による入力手段50への入力に応じて、咬合データ取得手段10、接触面積算出手段20、表示手段30および記憶手段40を制御する手段である。
【0052】
制御手段60は、咬合データ取得手段10によって第n回目(nは1以上の数)の3Dデータが取得されたときに、第n回目に取得された3Dデータ(最新の3Dデータ)に基づく画像(図3の画像302,303参照)および当該3Dデータから算出された歯ごとの咬合接触面積(図3の表304中の数値)を表示させるよう表示手段30を制御する。
【0053】
<第1アラート(歯ごとの面積変化)>
制御手段60は、咬合データ取得手段10によって第n回目の3Dデータが取得されたときに、歯ごとの咬合接触面積から所定の基準に基いて評価される第n回目における現在の咬合状態が、記憶手段40に記憶されている、第1回目の3Dデータにより算出された歯ごとの咬合接触面積から基準に基いて評価される第1回目における咬合状態と比較して、一定の程度を超えて悪化していると判断した場合に、第1アラートを表示させるよう表示手段30を制御する。
【0054】
第1アラートを表示させるか否かは、第1回目(n=1)における咬合状態との比較により判断される。すなわち、第1アラートが表示されるのは、第2回目(n=2)以後の咬合状態に対してである。
【0055】
既述したように、第1回(初診・矯正歯科治療前)の患者の咬合状態はある程度良好であり、歯を移動させることに伴って咬合状態は悪化(咬合接触面積が減少)する傾向がある。また、矯正歯科治療を受ける患者は、治療後における咬合状態が、慣れ親しんだ第1回の咬合状態に近いことを希望する。さらに、治療期間中に咬合状態が一時的に悪化する傾向があり、治療期間中(第2回目ないし第n-1回目)における咬合状態を比較対象とすべきでない。このため、第1アラートを表示させるか否かは、第1回目における咬合状態との比較により判断する。
【0056】
制御手段60は、第n回目の3Dデータから算出された少なくとも1本の臼歯の咬合接触面積が、所定の設定値未満であって、第1回目の3Dデータから算出された当該臼歯の咬合接触面積よりも狭いとき(前記条件〔I〕に該当するとき)、または、
第n回目の3Dデータから算出された少なくとも1本の臼歯の咬合接触面積の、第1回目の3Dデータから算出された当該臼歯の咬合接触面積に対する比率が、所定の設定比率未満であるとき(前記条件〔II〕に該当するとき)に、第1アラート(図3のアラート表示305参照)を表示させるよう表示手段30を制御する。
【0057】
監視対象とする臼歯および第1アラートの発生基準について具体的な一例を説明すると、制御手段60は、少なくとも1本の第1大臼歯(第6番)と、当該第1大臼歯と上下同じ顎で左右同じ側の第1小臼歯(第4番)または第2小臼歯(第5番)とが、条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当するときに、第1アラートを表示させるよう表示手段30を制御する。
【0058】
すなわち、上下(顎)および左右(側)が互いに同一である第1大臼歯(第6番)と第1小臼歯(第4番)とがともに、条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当するとき、あるいは、上下(顎)および左右(側)が互いに同一である第1大臼歯(第6番)と第2小臼歯(第5番)とがともに、条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当するときに、第1アラートが表示される。
従って、すべての第1大臼歯が条件〔I〕および〔II〕の何れにも該当しない場合には、ある程度良好な咬合状態が維持されていると考えて第1アラートは表示されない。
また、何れかの第1大臼歯が条件〔I〕および〔II〕の何れかに該当する場合であっても、当該第1大臼歯と上下および左右が同一の第1小臼歯および第2小臼歯が、条件〔I〕および〔II〕の何れにも該当しない場合には、これらの小臼歯によってある程度良好な咬合状態が維持されていると考えて第1アラートは表示されない。
【0059】
このように、かみ合わせの良否を判断するために重要と考えられる臼歯(第1大臼歯、第1小臼歯、第2小臼歯)を監視対象とし、特に重要な第1大臼歯に重みを付けて評価することにより、第1アラートの信頼性を高めることができる。
【0060】
ここに、条件〔I〕において、第1大臼歯の咬合接触面積に係る前記設定値は1.0~20mm2 の範囲にあることが好ましく、好適な一例を示せば10mm2 である。
また、第1小臼歯および第2小臼歯の咬合接触面積に係る前記設定値は0.5~10mm2 の範囲にあることが好ましく、好適な一例を示せば5mm2 である。
【0061】
また、条件〔II〕において、第1大臼歯、第1小臼歯および第2小臼歯の咬合接触面積に係る前記設定比率は5~50%の範囲にあることが好ましく、好適な一例を示せば30%である。
なお、矯正治療後の保定期間では、条件〔II〕における前記設定比率は20~80%の範囲にあることが好ましく、好適な一例を示せば50%である。
【0062】
また、具体的な他の例として、制御手段60は、少なくとも1本の第1大臼歯(第6番)が、条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当するときに、あるいは、
少なくとも1本の第1小臼歯(第4番)と、当該第1小臼歯に隣り合う第2小臼歯(第5番)とが、条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当するときに、第1アラートを表示させるよう表示手段30を制御することもできる。
【0063】
また、制御手段60は、第1アラートが表示される原因となった臼歯を特定して表示させるよう表示手段30を制御することができる。
これにより、咬合接触面積が許容範囲を超える程度に減小した臼歯を直ちに認識することができる。
【0064】
第1アラートが表示される原因となった臼歯を特定する表示としては、図3に示すように、当該臼歯の咬合接触面積を示す数値が記載された表304中のセルを色付け(網かけ)表示する方法を挙げることができる。
なお、条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当する臼歯については、第1アラートが表示されない場合であっても色付け表示がなされる。
図3に示すように、第4回目の咬合接触面積を示す数値が記載されたセルのうち、上顎左側第1小臼歯(UL4)と、下顎左側第1小臼歯(LL4)とが色付け(図中網かけ)表示されている。
【0065】
図3に示すように、表304中のセルを色付け(網かけ)表示は、第4回目(第n回目)の咬合接触面積を示す数値が記載されたセルだけでなく、第2回目および第3回目の過去の咬合接触面積を示す数値が記載されたセルについてもなされる。
これにより、過去に第1アラートを表示させる原因となった臼歯の履歴を確認(例えば、過去の色付け表示が消えたことによる治療効果の確認)することができる。
図3に示すように、第2回目(2021年12月28日)の咬合接触面積を示す数値が記載されたセルのうち、上顎左側第1小臼歯(UL4)と、下顎左側第1小臼歯(LL4)と、上顎右側第2小臼歯(UR5)と、下顎右側第2小臼歯(LR5)とが色付け(図中網かけ)表示されている。
【0066】
<第2アラート(咬合接触面積の左右のバランス)>
制御手段60は、咬合データ取得手段10によって第n回目の3Dデータが取得されたときに、当該3Dデータから算出された咬合接触面積の左右のバランスが一定の程度を超えて損なわれていると判断した場合には、第2アラートを表示させるよう表示手段30を制御する。
【0067】
具体的には、上顎および下顎の右側歯列を構成する複数本の臼歯(例えば、第1小臼歯、第2小臼歯、第1大臼歯、第2大臼歯)における咬合接触面積の合計と、上顎および下顎の左側歯列を構成する複数本の臼歯(例えば、第1小臼歯、第2小臼歯、第1大臼歯、第2大臼歯)における咬合接触面積の合計とが極端に異なる場合(例えば、一方の合計面積が他方の合計面積の3倍を超える場合)に、咬合接触面積の左右のバランスが一定の程度を超えて損なわれていると判断して第2アラートを表示させる。
【0068】
第2アラートが表示されることにより、第n回目(最新)の咬合状態において、咬合接触面積の左右のバランスが許容範囲を超える程度に損なわれていることを直ちに把握することができる。
【0069】
<第3アラート(強い接触)>
制御手段60は、咬合データ取得手段10によって第n回目の3Dデータが取得されたときに、何れかの歯において、これと対向する歯に対して過大な力で接触している(強く当たっている)部分があると判断した場合には、第3アラートを表示させるよう表示手段30を制御する。
【0070】
具体的には、咬合接触面積を算出しようとする歯の歯面と、この歯に対向している歯の歯面との離間距離がマイナス値となり(図2で網点を付した部分)、その絶対値が一定の値(例えば0.5mm)以上となる部分がある場合に、当該部分において上下の歯が強く当たっていると判断して第3アラートを表示させる。
【0071】
第3アラートが表示されることにより、第n回目(最新)の咬合状態において、上顎歯列を構成する歯と下顎歯列を構成する歯とが強く接触している部分があることを把握することができる。
【0072】
また、制御手段60は、第3アラートが表示される原因となった歯(強く当たっている部分を有する歯)を特定して表示させるよう表示手段30を制御することができる。
これにより、強く接触している部分を有する歯(咬合調整を行うべき歯)を直ちに認識することができる。
【0073】
第3アラートが表示される原因となった歯を特定する表示としては、図3に示すように、画像302および画像303において歯を示す符合(UR1~UR7,UL1~UL7,LR1~LR7,LL1~LL7)を枠で囲むなどの方法を挙げることができる。
【0074】
<使用例(治療段階)>
以下、本実施形態の評価システム100の使用例について、図4に示すフローチャートに沿って説明する。
この評価システム100を構成する記憶手段40(患者名、患者IDおよび管理番号により割り当てられた領域)には、矯正治療期間において過去3回分の3Dデータおよび歯ごとの咬合接触面積の数値データが記憶されているものとする(記憶手段40に記憶されているnの数値は3である)。
【0075】
〔1〕操作者は、入力手段50により、患者名、患者ID、管理番号および日付を入力する(STEP1)。
なお、記憶手段40に過去のデータが記憶されている場合に、表示手段30の初期画面に表示されているリストの中から該当する患者名等を選択することにより、患者名や患者IDの入力を省略することができる。また、評価システムのカレンダー、時計により、日付の入力を省略することもできる。
【0076】
〔2〕第1アラートの表示条件として、「治療バージョン」または「保定バージョン」の何れかの条件を選択する(STEP2)。
ここでは、矯正治療期間として、「治療バージョン」を選択する。
この「治療バージョン」では、少なくとも1本の第1大臼歯と、当該第1大臼歯と上下同じ顎で左右同じ側の第1小臼歯または第2小臼歯とが、前記条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当するときに、第1アラートを表示させる。
なお、条件〔I〕において、第1大臼歯の咬合接触面積に係る前記設定値を10mm2 、第1小臼歯および第2小臼歯の咬合接触面積に係る前記設定値を5mm2 とし、条件〔II〕において、第1大臼歯、第1小臼歯および第2小臼歯の咬合接触面積に係る前記設定比率を30%としている。
また、この使用例では、対向する歯の歯面との最短距離が0.5mm以下の部分を咬合接触面とし、その面積を咬合接触面積としている。
【0077】
〔3〕口腔内スキャナ「iTero(登録商標)」(Align Technology,Inc製)からなる咬合データ取得手段10によって、上顎歯列をスキャンし、下顎歯列のスキャンし、咬合時(かみ合わせたとき)の歯面を側方からスキャン(上下の位置関係)する。これにより、咬合状態の3Dデータを取得する(STEP3)。
【0078】
〔4〕咬合データ取得手段10によって取得された3Dデータが、制御手段60を経由して接触面積算出手段20と表示手段30に送られる(STEP4)。
【0079】
〔5〕制御手段60は、3Dデータから歯ごとの咬合接触面積を算出するよう接触面積算出手段20を制御する(STEP5)。
咬合接触面積は、上顎右側(UR)、上顎左側(UL)、下顎右側(LR)および下顎左側(LL)の各々における、中切歯(第1番)、側切歯(第2番)、犬歯(第3番)、第1小臼歯(第4番)、第2小臼歯(第5番)、第1大臼歯(第6番)、第2大臼歯(第7番)の各々について算出される。
【0080】
〔6〕接触面積算出手段20により算出された歯ごとの咬合接触面積に係る情報(数値データ)が、制御手段60を経由して表示手段30に送られる(STEP6)。
【0081】
〔7〕制御手段60は、3Dデータに基づく歯列画像(図3に示す画像302および303)と、歯ごとの咬合接触面積を示す数値(同図に示す表304の第4回目の列)を表示するよう表示手段30を制御する(STEP7)。
図3に示したように、画像302および画像303において、咬合接触面には色付け(赤色)表示がされている。
【0082】
〔8〕制御手段60は、STEP1に入力された患者名、患者IDおよび管理番号のすべてが一致している過去のデータが記憶手段40に記憶されているか否かを判断し、記憶されていると判断した場合にはSTEP9Aに進み、記憶されていないと判断した場合にはSTEP9Bに進む(STEP8)。
この使用例では、患者名、患者IDおよび管理番号が一致する過去3回分のデータ(n=3)が記憶手段40に記憶されているので、STEP9Aに進む。
【0083】
〔9A〕制御手段60は、今回の3Dデータが何回目に取得したのであるかを示す数値(n)として、n=n+1(右辺の「n」は、記憶手段40に記憶されている)を発生し、STEP10に進む(STEP9A)。
この使用例では、新たな数値(n)として4(=3+1)が発生する。
【0084】
〔9B〕制御手段60は、今回の3Dデータが、同一の患者名、患者ID、管理番号で何回目に取得したのであるかを示す数値(n)として、n=1(初診)を発生し、STEP13に進む(STEP9B)。
【0085】
〔10〕制御手段60は、第1回目~第n-1回目に取得した3Dデータよりそれぞれ算出された歯ごとの咬合接触面積を示す数値を表304に併記するよう表示手段30および記憶手段40を制御する(STEP10)。
この使用例では、記憶手段40に記憶されていた過去3回分の歯ごとの咬合接触面積を示す数値が図3の表304(第1回目~第3回目の列)に併記されている。
【0086】
〔11〕上顎右側(UR)、上顎左側(UL)、下顎右側(LR)および下顎左側(LL)の各々における、第1小臼歯(第4番)、第2小臼歯(第5番)、第1大臼歯(第6番)を監視対象とし、少なくとも1本の第1大臼歯と、当該第1大臼歯と上下同じ顎で左右同じ側の第1小臼歯または第2小臼歯とが、前記条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当するか否かを判断し、該当すると判断した場合にはSTEP12に進み、該当しないと判断した場合にはSTEP13に進む(STEP11)。
【0087】
〔12〕制御手段60は、表示手段30に第1アラート(図3のアラート表示305)を表示させるとともに、第1アラートが表示される原因となった臼歯を特定して表示させるよう表示手段30を制御する(STEP12)。
具体的には、図3に示すように、書誌的情報301の右側に「かみ合わせを確認してください」の第1アラート(図3のアラート表示305)が表示される。
また、第1アラートが表示される原因となっている臼歯(条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当する臼歯)は、この臼歯の咬合接触面積を示す数値が記載された表304中のセルが色付け(網かけ)される。
【0088】
〔13〕上顎右側(UR)、上顎左側(UL)、下顎右側(LR)および下顎左側(LL)の各々における、第1小臼歯(第4番)、第2小臼歯(第5番)、第1大臼歯(第6番)、第2大臼歯(第7番)を監視対象とし、第2アラートを表示させる条件を具備しているか否かを判断し、具備している(バランスが損なわれている)と判断した場合にはSTEP14に進み、具備していないと判断した場合にはSTEP15に進む(STEP13)。
【0089】
具体的には、右側歯列を構成する8本の臼歯〔第1小臼歯(UR4),第2小臼歯(UR5),第1大臼歯(UR6),第2大臼歯(UR7),第1小臼歯(LR4),第2小臼歯(LR5),第1大臼歯(LR6),第2大臼歯(LR7)〕における咬合接触面積の合計(SR)と、左側歯列を構成する8本の臼歯〔第1小臼歯(UL4),第2小臼歯(UL5),第1大臼歯(UL6),第2大臼歯(UL7),第1小臼歯(LL4),第2小臼歯(LL5),第1大臼歯(LL6),第2大臼歯(LL7)〕における咬合接触面積の合計(SL)との比(SR/SL)が1/3未満または3を超えたときに咬合接触面積の左右のバランスが損なわれていると判断する。
【0090】
〔14〕制御手段60は、表示手段30に第2アラートを表示させる(STEP13)。具体的には、図3に示すように、書誌的情報301の右側に「かみ合わせの左右差に気を付けてください」の第2アラート(図3のアラート表示306)が表示される。
【0091】
〔15〕咬合接触面積を算出したすべての歯において、強すぎる接触に係る第3アラートを表示させる条件を具備しているか否かを判断し、具備していると判断した場合には、STEP18に進み、具備しないと判断した場合にはSTEP17に進む(STEP15)。
【0092】
具体的には、咬合接触面積を算出しようとする歯の歯面と、この歯に対向している歯の歯面との離間距離がマイナス値となり、その絶対値が一定の値(例えば0.5mm)以上となる部分がある場合に、当該部分において上下の歯が強く当たっていると判断する。
【0093】
〔16〕制御手段60は、表示手段30に第3アラートを表示させるとともに、第3アラートが表示される原因となった歯を特定して表示させるよう表示手段30を制御する(STEP16)。
具体的には、図3に示すように、書誌的情報301の右側に「患者情報の右側に「強く当たっている歯があります」の第3アラート(図3のアラート表示307)が表示される。
また、第3アラートが表示される原因となった歯を示す符合が枠で囲まれて特定される。図3の画像302および画像303では、離間距離がマイナス値となり、その絶対値が0.3mm~0.5mmの部分を有する歯については、その歯を示す符合が枠で囲まれ、その絶対値が0.5mm以上の部分を有する歯については、その歯を示す符合が二重枠で囲まれている。
【0094】
〔17〕制御手段60は、日付、STEP9Aまたは9Bで発生させたnの値、STEP2で選択した第1アラートの表示条件、3Dデータ(画像データ)、歯ごとの咬合接触面積(数値データ)を記憶手段40(患者名、患者ID、管理番号により割り当てられた領域)に記憶させる(STEP17)。
【0095】
本実施形態の評価システム100によれば、第1アラートが表示手段30に表示されることにより、第n回目(現在)の咬合状態が、第1回目(初診)における咬合状態に対して許容範囲を超える程度に変化していることを直ちに把握することができ、第1アラートに対応して、表示手段30で特定された臼歯を考慮して咬合調整を行うことにより、第1回目に近い良好な咬合状態を実現することができる。
また、第2アラートが表示されることにより、咬合接触面積の左右のバランスが許容範囲を超える程度に損なわれていることを直ちに把握することができる。
また、第3アラートが表示されることにより、上顎歯列を構成する歯と下顎歯列を構成する歯とが強く接触している部分があることを直ちに把握することができる。
【0096】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の咬合状態の評価システムは、これに限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0097】
例えば、制御手段60は、入力手段50への指示入力に応じて、過去の日付と関連付けられている3Dデータ(第2回目ないし第n-1回目に取得した治療中の3Dデータ)に基づく画像および当該3Dデータから算出された歯ごとの咬合接触面積を表示手段30に表示させるよう、当該表示手段30および記憶手段40を制御するように構成されていてもよい。
【0098】
本発明の咬合状態の評価システムは、歯列矯正装置によって歯を移動させる治療期間のみでなく、歯列保定装置により保定する保定期間において使用することもできる。
【0099】
ここに、保定期間において使用する場合には、図4に示したフローチャートのSTEP2において、第1アラートの表示条件として、「保定バージョン」の条件を選択する。
【0100】
ここに、「保定バージョン」における第1アラートの表示条件としては、少なくとも1本の第1大臼歯と、当該第1大臼歯と上下同じ顎で左右同じ側の第1小臼歯または第2小臼歯とが、前記条件〔I〕および〔II〕の少なくとも1つに該当する点で、「治療バージョン」と同様であるが、条件〔II〕において、第1大臼歯、第1小臼歯および第2小臼歯の咬合接触面積に係る前記設定比率を50%としている。
【0101】
また、本発明の咬合状態の評価システムは、矯正歯科治療以外の治療においても使用することができ、例えば、補綴治療前(第1回)および補綴治療後(第2回)の各々で取得した3Dデータにより、補綴治療によって咬合状態に許容できない変化が生じたか否かを評価することもできる。
【符号の説明】
【0102】
100 評価システム
10 咬合データ取得手段
20 接触面積算出手段
30 表示手段
301 書誌的情報
302 上顎歯列画像
303 下顎歯列画像
304 表
305 アラート表示(第1アラート)
306 アラート表示(第2アラート)
307 アラート表示(第3アラート)
40 記憶手段
50 入力手段
60 制御手段
UR1~UR7 上顎右側歯列を構成する歯
UL1~UL7 上顎左側歯列を構成する歯
LR1~LR7 下顎右側歯列を構成する歯
LL1~LL7 下顎左側歯列を構成する歯
図1
図2
図3
図4