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特開2024-48650酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の製造方法
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  • 特開-酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の製造方法 図1
  • 特開-酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048650
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 35/10 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
C01B35/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154678
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】館山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
(72)【発明者】
【氏名】三崎 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 広樹
(72)【発明者】
【氏名】松下 修也
(72)【発明者】
【氏名】徳田 秀樹
(57)【要約】
【課題】適正量の酸化ホウ素を含有させ、従来よりも誘電正接の低い無機酸化物中空粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】原料ホウ素化合物を含有する原料溶液の液滴を熱分解炉内に噴霧し、液滴を熱分解する工程を含む酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の製造方法であって、
熱分解炉内の温度(℃)と、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)との関係を回帰分析して回帰式を求め、当該回帰式に基づいて、熱分解炉内の設定温度に対応した原料ホウ素化合物の使用量を決定する、製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ホウ素化合物を含有する原料溶液の液滴を熱分解炉内に噴霧し、液滴を熱分解する工程を含む酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の製造方法であって、
熱分解炉内の温度(℃)と、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)との関係を回帰分析して回帰式を求め、当該回帰式に基づいて、熱分解炉内の設定温度に対応した原料ホウ素化合物の使用量を決定する、製造方法。
【請求項2】
回帰式が、下記式(1);
y=αx+β (1)
〔式(1)中、
xは、熱分解炉内の温度(℃)を示し、
yは、当該温度にて製造された酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ酸の含有量の減少率(%)を示し、
α及びβは、相互に独立に、実数の定数を示す。〕
で表されるものである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
原料ホウ素化合物の使用量が、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出される原料ホウ素化合物のモル数に対するモル比として、下記式(2)より算出される値である、請求項2記載の製造方法。
【数1】
〔式(2)中、|y|は、前記式(1)より算出された酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ酸の含有量の減少率(%)の絶対値を示す。〕
【請求項4】
熱分解炉内の温度が、800~1500℃である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、5Gや6G等の高速通信規格の普及に伴い、電子材料分野における低誘電フィラー材の需要が増加している。5G, 6G等の高い周波数帯での通信においては、回路信号の伝送損失が大きくなるため、より誘電正接の低い材料が望まれている。
【0003】
従来、誘電正接の低い無機酸化物中空粒子として、例えば、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物、ホウ素酸化物、2族元素酸化物及びアルカリ金属酸化物を含む無機酸化物により形成された無機酸化物中空粒子であって、ホウ素酸化物、2族元素酸化物及びアルカリ金属酸化物の各含有量が制御された無機酸化物中空粒子が提案されている(特許文献1)。また、外殻で覆われた空洞が1以上の隔壁によって区切られた複数の独立した空間を備える無機酸化物中空粒子であって、ホウ素酸化物、ナトリウム酸化物、カルシウム酸化物、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物及びマグネシウム酸化物の各含有量が制御された無機酸化物中空粒子も報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-143089号公報
【特許文献2】特許第6959467号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、誘電正接の低い無機酸化物中空粒子を開発すべく検討したところ、無機酸化物中空粒子中に酸化ホウ素を含み、その含有量が多いほど、誘電正接の低下に有効であるが、酸化ホウ素は融点降下に寄与するため、酸化ホウ素の含有量が多くなり過ぎると、当該中空粒子の耐熱性の低下や、製造時に溶融が過剰に進行して空洞率の低下等を惹起する可能性があることから、誘電正接の低い無機酸化物中空粒子とするうえで、当該中空粒子中の酸化ホウ素の含有量を適切な範囲に設定する必要があるとの知見を得た。
無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量は、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出される原料ホウ素化合物の仕込みモル数によって決せられ、その仕込みモル数との間に化学量論関係が成立するはずである。しかし、本発明者らは、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて調製した原料ホウ素化合物を含有する原料溶液を用いて噴霧熱分解法により酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子を製造したところ、原料ホウ素化合物の仕込みモル数に比べて、当該中空粒子中の酸化ホウ素の含有量が大きく減少するという課題が存在することを見出した。
したがって、本発明の課題は、適正量の酸化ホウ素を含有させ、従来よりも誘電正接の低い酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は、次の〔1〕~〔4〕を提供するものである。
〔1〕原料ホウ素化合物を含有する原料溶液の液滴を熱分解炉内に噴霧し、液滴を熱分解する工程を含む酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の製造方法であって、
熱分解炉内の温度(℃)と、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)との関係を回帰分析して回帰式を求め、当該回帰式に基づいて、熱分解炉内の設定温度に対応した原料ホウ素化合物の使用量を決定する、製造方法。
〔2〕回帰式が、下記式(1);
y=αx+β (1)
〔式(1)中、
xは、熱分解炉内の温度(℃)を示し、
yは、当該温度にて製造された酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ酸の含有量の減少率(%)を示し、
α及びβは、相互に独立に、実数の定数を示す。〕
で表されるものである、前記〔1〕記載の製造方法。
〔3〕原料ホウ素化合物の使用量が、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出される原料ホウ素化合物のモル数に対するモル比として、下記式(2)より算出される値である、前記〔2〕記載の製造方法。
【数1】
〔式(2)中、|y|は、前記式(1)より算出された酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ酸の含有量の減少率(%)の絶対値を示す。〕
〔4〕熱分解炉内の温度が、800~1500℃である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、適正量の酸化ホウ素を含有させ、従来よりも誘電正接の低い酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】熱分解炉内の温度(℃)と、当該温度にて製造された酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)との関係を示す図である。
図2】粒子強度の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の製造方法は、原料ホウ素化合物を含有する原料溶液の液滴を熱分解炉内に噴霧し、液滴を熱分解する工程を含む噴霧熱分解法により酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子を製造するところ、熱分解炉内の温度(℃)と、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)との関係を回帰分析して回帰式を求め、当該回帰式に基づいて、熱分解炉内の設定温度に対応した原料ホウ素化合物の使用量を決定することを特徴とする。
【0010】
無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量は、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出される原料ホウ素化合物の仕込みモル数によって決せられ、その仕込みモル数との間に化学量論関係が成立するはずである。しかし、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成を設定し、この設定値に基づいて調製した原料ホウ素化合物含有原料溶液を用いて噴霧熱分解法により製造したところ、前記原料ホウ素化合物の仕込みモル数に比べて、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量が減少し、その減少率は、熱分解炉内の設定温度が高くなるほど大きくなるとの知見を本発明者らは得た(図1参照)。この点について、本発明者らは、原料溶液中の原料ホウ素化合物の溶解度が、他元素の原料化合物よりも低いため、析出した原料ホウ素化合物から生成した酸化ホウ素が無機酸化物中空粒子内に取り込まれずに分離し、この分離量が、熱分解炉内の温度が高いほど顕著になることが要因の一つであると推察する。
そこで、本発明者らは、熱分解炉内の設定温度(℃)と、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)との関係について詳細に検討した。その結果、熱分解炉内の設定温度(℃)と、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)とは密接に関連しており、両者の間に直線関係が成立するとの知見を得た(図1参照)。そして、この直線関係に基づいて、熱分解炉内の設定温度(℃)に対応した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)を推測し、その推測値を考慮して原料溶液中に仕込むべき原料ホウ素化合物の使用量を決定することで、適正量の酸化ホウ素を無機酸化物中空粒子に含有させることが可能になるため、従来よりも誘電正接の低い酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子を製造できることを本発明者らは見出した。
【0011】
<回帰分析>
先ず、所定温度(℃)に設定した熱分解炉内に、設定値に基づいて調製した原料ホウ素化合物を含有する原料溶液の液滴を噴霧し、液滴を熱分解する工程に供して酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子を製造する。
熱分解炉内の温度は、通常800~1500℃であり、好ましくは850~1400℃であり、より好ましくは900~1300℃であり、更に好ましくは950~1200℃である。
なお、熱分解炉内の温度(℃)は、噴霧熱分解装置の設定温度である。また、噴霧熱分解法におけるその他製造条件については、後記において詳細に説明する。
【0012】
次に、製造された酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子について、酸化ホウ素の含有量を分析する。なお、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量は、後述する蛍光X線分析法にて酸化物換算で測定するものとする。
次に、当該中空粒子中の酸化ホウ素含有量の分析値と、設定値に基づいて調製した原料溶液中の原料ホウ素化合物の仕込みモル数から算出される酸化ホウ素の含有量とから、当該中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)を算出する。
【0013】
上記とは異なる温度(℃)に設定した熱分解炉内に、上記した原料溶液の液滴を噴霧し、液滴を熱分解する工程に供して酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子を製造する。そして、上記と同様に、当該中空粒子中の酸化ホウ素含有量を分析し、当該中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)を算出する。
更に、熱分解炉内の温度を上記した範囲内で変化させ、上記と同様に酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子を製造し、当該中空粒子中の酸化ホウ素含有量を分析して当該中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)を算出するという操作を繰り返し行う。
そして、熱分解炉内の温度(℃)と、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)との関係について回帰分析を行う。回帰分析は、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)を目的変数(y)とし、熱分解炉内の温度(℃)を説明変数(x)として2変数間の回帰式を求める。より具体的には、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)を縦軸とし、熱分解炉内の温度(℃)を横軸としてプロットし、最小二乗法により回帰直線を求める。これより、下記式(1)で表される回帰式を得ることができる。
【0014】
y=αx+β (1)
【0015】
〔式(1)中、
xは、熱分解炉内の温度(℃)を示し、
yは、当該温度にて製造された酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ酸の含有量の減少率(%)を示し、
α及びβは、相互に独立に、実数の定数を示す。〕
【0016】
<原料ホウ素化合物の使用量の決定>
上記した回帰式(1)に基づいて、熱分解炉内の設定温度(℃)に対応した原料ホウ素化合物の仕込み量を決定する。より具体的には、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子を製造する際に設定する熱分解炉内の温度(℃)を上記式(1)に代入して当該温度における無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ酸の含有量の減少率(%)を推測し、この推測値を指標にして原料ホウ素化合物の仕込み量を決定する。
原料溶液中の原料ホウ素化合物は、熱分解反応によって酸化され、無機酸化物中空粒子中に酸化ホウ素を生成するところ、原料ホウ素化合物の仕込みモル数は、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて決せられるから、原料ホウ素化合物の仕込みモル数と、当該中空粒子中の酸化ホウ素の含有量との間に化学量論関係が成り立つ。したがって、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出される原料ホウ素化合物のモル数よりも過剰に原料ホウ素化合物を使用すればよいが、少な過ぎると酸化ホウ素の増強が不十分となり、他方多過ぎると空洞率が低下するため、いずれも誘電特性が悪化する。そのため、適正な範囲内で過剰の原料ホウ素化合物を使用する必要がある。例えば、原料ホウ素化合物の使用量を、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出される原料ホウ素化合物のモル数に対するモル比として、下記式(2)により算出される値とすることができる。
【0017】
【数2】
【0018】
〔式(2)中、|y|は、前記式(1)より算出された減少率(%)の絶対値を示す。〕
【0019】
更に、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成との誤差を抑制する観点から、原料ホウ素化合物の使用量を、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出される原料ホウ素化合物のモル数に対するモル比として、下記式(3)により算出される値とすることができる。
【0020】
【数3】
【0021】
〔式(3)中、|y|は、前記式(2)と同義である。〕
【0022】
以下、図1を参照しながら具体的に説明する。図1は、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成を、後述する(ii)の態様、好ましくは(iii)の態様に設定し、熱分解炉内の温度(℃)と、無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)との関係を検討した結果である。そして、この酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子について、当該中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)を縦軸とし、熱分解炉内の温度(℃)を横軸としてプロットし、最小二乗法により、yのxへの回帰直線を求めたものである。
【0023】
そして、その回帰式は、下記式(i)
y=-0.1828x+151.67 (i)
〔式(i)中、xは、熱分解炉内の温度(℃)を示す。〕
で表される。
【0024】
この回帰式(i)は、図1に示されるように、決定係数(R2)が0.808であるから、精度が高いことを理解できる。
【0025】
本願明細書の実施例では、この回帰式を使用して原料ホウ素化合物の使用量を決定した。実施例1に基づいて具体的に説明すると、実施例1では、熱分解炉内の温度を1100℃に設定したところ、上記式(i)のxに「1100」を代入すると、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率は「-49%」と算出される。そして、この酸化ホウ素の含有量の減少率「-49」を上記式(2)の|y|に代入すると、原料ホウ素化合物の使用量は、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成から算出される原料ホウ素化合物のモル数に対するモル比として、1.5±0.3と算出される。即ち、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成から算出される原料ホウ素化合物に対して、1.2~1.8倍モル当量の範囲内で原料ホウ素化合物を使用すればよいことがわかる。なお、実施例1では、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出される原料ホウ素化合物に対して、1.6倍モル当量の原料ホウ素化合物が使用されている。
【0026】
予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成が、後述する(ii)の態様、あるいは(iii)の態様と大きく異なる場合には、より適正な量の酸化ホウ素を含有させるために、当該無機酸化物中空粒子について、熱分解炉内の温度(℃)と、無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)との関係を検討し、新たな回帰直線を求めることが望ましい。
【0027】
以上説明したとおり、本願発明においては、熱分解炉内を所定の温度(℃)に設定したときの酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率(%)を上記式(1)により推測し、その推測値を上記式(2)に代入して原料溶液中に仕込むべき原料ホウ素化合物の使用量を決定することで、酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中に適正量の酸化ホウ素を含有させることが可能にあるため、従来よりも誘電正接の低い無機酸化物中空粒子を製造することができる。
【0028】
<噴霧熱分解法>
本発明に係る酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子は、噴霧熱分解法により製造され、より具体的には、熱分解炉内に、原料ホウ素化合物を含有する原料溶液の液滴を噴霧するための噴霧装置と、液滴を熱分解するための加熱装置を備える噴霧熱分解装置を用いて製造される。
【0029】
(噴霧熱分解装置)
熱分解炉は、炉材として使用されている材質であればいずれも用いることができ、加熱温度等を考慮して選定すればよい。熱分解炉の形状は、堅型円筒状であることが好ましく、熱分解炉の大きさは、製造スケールに応じて適宜選択することが可能である。
【0030】
噴霧装置としては、例えば、2流体ノズル、3流体ノズル、4流体ノズル等の流体ノズルを挙げることができる。ここで、流体ノズルの方式には、気体と原料溶液とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部で気体と原料溶液を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用できる。ノズルに供給する気体としては、例えば、空気や、窒素、アルゴン等の不活性ガス等を使用することができる。中でも、経済性の観点から、空気が好ましい。なお、噴霧装置は、1基又は2基以上設置することができる。
【0031】
加熱装置は、例えば、燃焼バーナー、熱風ヒータ、電気ヒータ等を挙げることができる。加熱装置は、1基又は2基以上設置することが可能である。なお、燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータは、一般的に販売されているものであれば、いずれも使用することができる。
【0032】
(原料溶液)
原料溶液は、原料ホウ素化合物を含む原料化合物と溶媒とを混合して調製される。
原料ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、メタホウ酸塩、四ホウ酸塩、ホウ酸塩を挙げることができる。メタホウ酸塩の具体例としては、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムが挙げられ、四ホウ酸塩の具体例としては、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウムを挙げることができる。ホウ酸塩の具体例としては、例えば、五ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸カリウムが挙げられる。
【0033】
原料化合物は、原料ホウ素化合物以外の他元素の原料化合物を含有していてもよい。
他元素の原料化合物は、無機酸化物を構成する元素を含有し、水に溶解する化合物であれば特に限定されない。例えば、無機塩、有機塩、アルコキシド等を挙げることができる。無機塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物を挙げることができる。有機塩としては、例えば、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩を挙げることができる。
【0034】
ホウ素以外の他の元素としては、例えば、周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第4族元素、周期表第8族元素、周期表第9族元素、周期表第10族元素、周期表第11族元素、周期表第12族元素、周期表第13族元素(ホウ素を除く)、周期表第14族元素及び周期表第15族元素から選択される1又は2以上の元素を挙げることができる。
【0035】
周期表第1族元素としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムを挙げられ、周期表第2族元素としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムを挙げることができる。周期表第4族元素としては、例えば、チタン、ジルコニウムが挙げられ、周期表第8族元素としては、例えば、鉄、ルテニウムを挙げることができる。周期表第9族元素としては、例えば、コバルト、ロジウム、イリジウムが挙げられ、周期表第10族元素としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金を挙げることができる。周期表第11族元素としては、例えば、銅、銀、金が挙げられ、周期表第12族元素としては、例えば、亜鉛、カドミウムを挙げることができる。周期表第13族元素としては、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムが挙げられ、周期表第14族元素としては、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛を挙げることができる。周期表第15族元素としては、例えば、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマスが挙げられる。
【0036】
中でも、ホウ素以外の他の元素としては、本発明の効果を享受しやすい点で、周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第4族元素、周期表第8族元素、周期表第11族元素、周期表第12族元素、周期表第13族元素(ホウ素を除く)及び周期表第14族元素から選ばれる1又は2以上の元素を含むことが好ましく、周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第12族元素、周期表第13族元素(ホウ素を除く)及び周期表第14族元素から選ばれる1又は2以上の元素を含むことがより好ましく、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム及びケイ素から選ばれる1又は2以上の元素を含むことが更に好ましく、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム及びケイ素から選ばれる1又は2以上の元素を含むことがより更に好ましい。
【0037】
他元素の原料化合物の具体例としては、次のものを挙げることができる。
ナトリウム化合物としては、例えば、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウムが挙げられ、マグネシウム化合物としては、例えば、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、燐酸マグネシウム、水酸化マグネシウムを挙げることができる。カルシウム塩としては、例えば、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウムが挙げられ、アルミニウム化合物としては、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、燐酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウムを挙げることができる。
また、アルコキシドとして、例えば、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラプロピル(TPOS)、テトラブトキシシラン等のケイ酸アルコキシド、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドを使用することができる。更に、アルミノケイ酸ナトリウム、アルミノケイ酸カリウム、アルミノケイ酸カルシウム等のアルミノケイ酸塩や、アルミニウム酸化物を溶媒に分散した溶液、アルミニウム酸化物のゾル溶液を使用することもできる。
【0038】
原料溶液中の原料化合物の合計濃度は、得られる酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の密度、強度等を考慮し、好ましくは0.01mol/Lから飽和濃度であり、更に好ましくは0.1~1.0mol/Lである。なお、原料溶液中の原料ホウ素化合物の濃度は、例えば、上記式(2)により算出される量であり、また原料溶液中の他元素の原料化合物の各濃度は、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子に基づいて化学量論組成を満たす量であればよい。
【0039】
(熱分解)
本発明の製造方法においては、原料ホウ素化合物を含有する原料溶液の液滴を熱分解炉内に噴霧し、液滴を熱分解する。
【0040】
原料溶液の流量は、通常1~100L/hであり、好ましくは3~80L/hであり、更に好ましくは5~60L/hである。
液滴の噴出速度は、通常1~50m/sであり、好ましくは5~35m/sであり、更に好ましくは10~20m/sである。
熱分解炉内の温度は、上記において説明したとおりである。
【0041】
原料溶液の液滴は、例えば、加熱装置から発生した熱によって液滴から溶媒が蒸発し、速やかに乾燥して無機塩が析出し、そして無機塩が熱分解されて酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子が生成する。
【0042】
酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子を構成する無機化合物の具体例としては、例えば、酸化ホウ素の他、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ケイ素、アルミノシリケート、アルミノホウケイ酸、バリウムホウケイ酸を挙げることができる。また、無機酸化物を組み合わせた複合酸化物でも構わない。
【0043】
好適な酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成としては、次の態様を挙げることができる。
(i)20~50質量%の酸化ホウ素と、10質量%以下の周期表第1族元素酸化物と、35質量%以下の周期表第2族元素酸化物と、45質量%以下の周期表第13族元素酸化物(酸化ホウ素を除く)と、65質量%以下の周期表第14族元素酸化物を含む無機酸化物により構成されている酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子。
(ii)20~50質量%の酸化ホウ素と、35質量%以下の周期表第2族元素酸化物と、45質量%以下の周期表第13族元素酸化物(酸化ホウ素を除く)と、65質量%以下の周期表第14族元素酸化物を含む無機酸化物により構成されている酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子。
(iii)20~50質量%の酸化ホウ素と、30質量%以下の酸化カルシウムと、5質量%以下の酸化マグネシウムと、40質量%以下の酸化アルミニウムと、60質量%以下の酸化ケイ素を含む無機酸化物により構成されている酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子。
【0044】
(i)の態様において、周期表第1族元素酸化物の含有量は、好ましくは5質量%以下であり、0質量%であっても構わない。
(i)及び(ii)の態様において、酸化ホウ素の含有量は、好ましくは20~45質量%であり、より好ましくは22~40質量%であり、更に好ましくは25~38質量%である。周期表第2族元素酸化物の含有量は、好ましくは2~30質量%であり、より好ましくは5~20質量%であり、更に好ましくは5~15質量%である。周期表第13族元素酸化物(酸化ホウ素を除く)の含有量は、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは10~30質量%であり、更に好ましくは10~25質量%である。周期表第14族元素酸化物の含有量は、好ましくは20~60質量%であり、より好ましくは25~55質量%であり、更に好ましくは30~50質量%である。
(iii)の態様において、酸化ホウ素の含有量は、好ましくは20~45質量%であり、好ましくは22~40質量%であり、更に好ましくは25~38質量%である。酸化カルシウムの含有量は、好ましくは2~25質量%であり、より好ましくは5~20質量%であり、更に好ましくは5~15質量%である。酸化マグネシウムの含有量は、好ましくは0.05~3質量%であり、より好ましくは0.05~2質量%であり、更に好ましくは0.1~1質量%である。酸化アルミニウムの含有量は、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは10~30質量%であり、更に好ましくは10~25質量%である。酸化ケイ素の含有量は、好ましくは20~60質量%であり、より好ましくは25~55質量%であり、更に好ましくは30~50質量%である。
【0045】
本明細書において、上記において説明した無機酸化物の各含有量は、蛍光X線分析法にて酸化物換算で測定し化学成分を算出した値である。分析対象である元素の酸化物の合計値が100%となるよう、下記式により補正することで、各々の化学成分を算出する。
【0046】
化学組成(補正後)(%)=化学組成(補正前)×100/(100-不純物(%))
〔式中、不純物(%)は、100から上述した酸化物の化学組成の合計値を差し引いたものである。〕
【0047】
本明細書において「中空粒子」とは、内部に空洞(中空構造)を有する粒子をいう。空洞は、外殻に包囲されており、1又は2以上有していてもよい。また、中空粒子は、外殻に覆われた空洞が更に1以上の隔壁によって区切られた複数の独立した空間を有し、この独立した空間はそれぞれ隔壁によって隔てられた互いに連通しない気泡(以下、「独立気泡」ともいう。)によって形成されていてもよい。本明細書において「外殻」とは、粒子の最も表面側に位置する壁であって、粒子内部の1つの独立気泡のみ接する壁をいい、「隔壁」とは、粒子内の隣接する独立気泡を互いに区画する壁をいう。したがって、本発明の酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子は、粒子表面から内部へ延びる複数の細孔を有する多孔質粒子とは異なる。
また、本発明の酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子は、外殻に開口のない無気孔であることが好ましい。このような中空構造を有し、かつ無気孔であることにより、低誘電正接化だけでなく、優れた断熱性、遮熱性を発現することができる。更に、本発明の酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子は、低誘電正接化の観点から、凝集していない一次粒子であることが好ましい。なお、外殻が無気孔であることは、走査型電子顕微鏡(SEM)像や、水に浮かぶことにより確認できる。また、走査型電子顕微鏡(SEM)像により、多孔質粒子や二次粒子と明確に区別することが可能である。
【0048】
本発明の酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子は、空洞率が、より一層の低誘電正接化の観点から、通常70%以上であり、好ましくは73%以上であり、更に好ましくは75%以上である。なお、かかる空洞率の上限値は、十分な強度を確保する観点から、95%以下が好ましく、90%以下が更に好ましい。ここで、本明細書において「空洞率」は、乾式自動密度計を使用して粒子の嵩密度と真密度とを測定し、その値から下記式により算出される値である。なお、個々の粒子について計測することが難しいため、粒子群としての空洞割合である。ここで、本明細書において「嵩密度」は、JIS R 1620に準拠して気体置換法により測定するものとする。また、「真密度」は、空洞部分を取り除くために、箱型電気炉にて融点以上で6時間加熱した後、冷却して乾式自動密度計で測定するものとする。なお、密度測定装置として、例えば、乾式自動密度計であるアキュピック(島津製作所製)を使用することができる。
【0049】
空洞率=(真密度-嵩密度)×100/真密度
【0050】
本発明の製造方法により得られた酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子は、例えば、次の特性を具備することができる。
本発明の酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子は、誘電正接が通常0.003以下であるが、低誘電率化の観点から、好ましくは0.0028以下であり、更に好ましくは0.0025以下である。ここで、本明細書において「誘電正接」とは、1GHzにおける誘電正接をいい、温度25℃、湿度60%の環境下、1GHzにおいて測定するものとする。なお、誘電正接は、例えば、摂動方式空洞共振器(KEYCOM社製)を用いて測定することができる。
【0051】
本発明の酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子は、粒子強度が通常7.0MPa以上であるが、より一層の強度向上の観点から、好ましくは7.3MPa以上であり、更に好ましくは7.5MPa以上である。ここで、本明細書において「粒子強度」とは、加圧成型プレス機で無機酸化物中空粒子に印加した際の中空構造残存率が50%時の粒子強度である。具体的には、後掲の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0052】
本発明の酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子は、粒子密度が通常1.00g/cm3以下であるが、より一層の低誘電正接化の観点から、好ましくは0.90g/cm3以下であり、より好ましくは0.80g/cm3以下であり、更に好ましくは0.70g/cm3以下である。なお、粒子密度の下限値は、十分な強度確保の観点から、通常0.20g/cm3以上が好ましく、0.30g/cm3以上がより好ましく、0.40g/cm3以上が更に好ましい。本明細書において「粒子密度」とは、JIS R 1620に準拠して気体置換法により測定した値をいう。粒子密度測定装置として、例えば、乾式自動密度計「アキュピック(島津製作所製)」を使用することができる。
【0053】
このようにして、酸化ホウ素の含有量を適正化し、従来よりも誘電正接の低い酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子を製造することできる。
【実施例0054】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0055】
1.化学組成の分析
無機酸化物中空粒子をプレス機で成型してブリケットを作製し、そのブリケットを蛍光X線分析装置(ZSX primus II、リガク社製)にて酸化物換算で測定し、分析対象である元素の酸化物(B23、CaO、MgO、Al23、SiO2)の合計値が100%となるよう、下記式により補正することで、各々の化学成分を算出した。
【0056】
化学組成(補正後)(%)=化学組成(補正前)×100/(100-不純物(%))
〔式中、不純物(%)は、100から上述した酸化物の化学組成の合計値を差し引いたものである。〕
【0057】
2.空洞率の測定
乾式自動密度計としてアキュピック(島津製作所製)を使用し、無機酸化物中空粒子の嵩密度と真密度を測定し、下記式により算出した。なお、真密度は、空洞部分を取り除くために、箱型電気炉にて融点以上で6時間加熱した後、冷却して乾式自動密度計で測定した。
【0058】
空洞率(%)=(真密度-見かけ密度)×100/真密度
【0059】
3.粒子密度の測定
乾式自動密度計(アキュピック1340、島津製作所製)を用いて、気体置換法により測定した。即ち、セル内にサンプルを投入した後、これに不活性ガスを充填してサンプルの体積を測定し、この体積と予め測定しておいたサンプル質量より粒子密度を求めた。
【0060】
4.粒子強度の測定
得られた無機酸化物中空粒子を用いて、以下の操作を行った。
(1)サンプル:エタノール=4:1で混合する(サンプルのみでは、加圧によるペレット成形が困難なため、エタノールを混合した)。
(2)混合したサンプルを冶具へ一定量投入する。
(3)圧力成形機へ載せ、油圧で所定の圧力(2~30MPa)をかける(図2)。
(4)所定の圧力にて1分間、静置する。
(5)成形機からサンプル(ペレット)を取り外す。
80℃で2時間以上乾燥する(熱風乾燥機で、(1)で混合したエタノールを除去)。
(6)密度を測定する。
【0061】
そして、得られた密度、質量、破壊前の体積、破壊後の体積から、下記式(a)及び(b)に基づいて、中空構造残存率を求めた。
【0062】
中空構造残存率pは、以下のように求めた。
質量をm、破壊前の体積をV、破壊後の体積をvとする。このとき、破壊前の密度(見かけ密度)x=m/V、破壊後の密度(真密度)y=m/vとなる。中空構造残存率をpとすると、見掛け密度ρは以下で表される。
【0063】
m/((V×p+v×(1-p))=ρ・・・(a)
これをpについて解くと、以下のようになる。
p=(1-ρ/y)/ρ×(1/x-1/y)・・・(b)
【0064】
また、中空構造残存率(線形)に下記計算で算出される残存率Pを示す。式(c)で残存率(線形)を求めてもよい。
x×P+y×(1-P)=ρ・・・(c)
【0065】
中空構造残存率pと圧力の関係を示したグラフを作成し、グラフから50%残存時の圧力を求め、その値を無機酸化物中空粒子の50%残存強度とした。
【0066】
5.誘電正接の測定
誘電正接は摂動方式空洞共振器(KEYCOM社製)を用い、温度25℃、湿度60%の環境下、1GHzにおいて測定した。
【0067】
比較例1
予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて、次の原料溶液を調製した。即ち、イオン交換水100リットルに、ホウ酸を0.30mol/L、硝酸カルシウムを0.05mol/L、硝酸マグネシウムを0.003mol/L、硝酸アルミニウムを0.1mol/L、オルトケイ酸テトラエチルを0.2mol/Lとなるよう溶解し、原料溶液を調製した。
次に、この原料溶液を2流体ノズルに送液し、ノズルから原料溶液を1100℃に設定した噴霧熱分解炉内に噴霧し、液滴を熱分解して酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子を製造した。なお、原料溶液の噴霧量は14L/hであり、ノズルエア量は240L/minであった。
そして、回収した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0068】
実施例1
熱分解炉内の温度を1100℃に設定したときの酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率は、上記式(1)より-49%と算出され、当該数値を上記式(2)の|y|に代入すると、ホウ酸の使用量は、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出されるホウ酸のモル数に対するモル比として、1.5±0.3と算出される。この結果から、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出されるホウ酸(比較例1)に対して、1.6倍モル当量、即ち0.48mol/Lのホウ酸とした。
0.30mol/Lのホウ酸に代えて、0.48mol/Lのホウ酸を含有する原料溶液を用いたこと以外は、比較例1と同様の操作により酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子を製造した。そして、回収した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0069】
実施例2
実施例1において説明したとおり、ホウ酸の使用量は、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出されるホウ酸のモル数に対するモル比として、1.5±0.3と算出される。この結果から、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出されるホウ酸(比較例1)に対して、1.3倍モル当量、即ち0.39mol/Lのホウ酸とした。
0.30mol/Lのホウ酸に代えて、0.39mol/Lのホウ酸を含有する料溶液を用いたこと以外は、比較例1と同様の操作により酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子を製造した。そして、回収した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0070】
比較例2
実施例1において説明したとおり、ホウ酸の使用量は、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出されるホウ酸のモル数に対するモル比として、1.5±0.3と算出される。この結果から、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出されるホウ酸(比較例1)に対して、上記した範囲を大幅に超える3.0倍モル当量、即ち0.90mol/Lのホウ酸とした。
0.30mol/Lのホウ酸に代えて、0.90mol/Lのホウ酸を含有する原料溶液を用いたこと以外は、比較例1と同様の操作により無機酸化物中空粒子を製造した。そして、回収した無機酸化物中空粒子について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0071】
実施例3
先ず、噴霧熱分解炉内の設定温度を1050℃に変更した。熱分解炉内の温度を1050℃に設定したときの酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率は、上記式(1)より-40%と算出され、当該数値を上記式(2)の|y|に代入すると、ホウ酸の使用量は、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出されるホウ酸のモル数に対するモル比として、1.4±0.3と算出される。この結果から、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出されるホウ酸(比較例1)に対して、1.4倍モル当量、即ち0.42mol/Lのホウ酸とした。
噴霧熱分解炉内の設定温度を1050℃に変更したうえで、0.42mol/Lのホウ酸を含有する原料溶液を用いたこと以外は、比較例1と同様の操作により酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子を製造した。そして、回収した無機酸化物中空粒子について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0072】
実施例4
先ず、噴霧熱分解炉内の設定温度を1150℃に変更した。熱分解炉内の温度を1150℃に設定したときの酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率は、上記式(1)より-59%と算出され、当該数値を上記式(2)の|y|に代入すると、ホウ酸の使用量は、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出されるホウ酸のモル数に対するモル比として、1.6±0.3と算出される。この結果から、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて算出されるホウ酸(比較例1)に対して、1.6倍モル当量、即ち0.48mol/Lのホウ酸とした。
噴霧熱分解炉内の設定温度を1150℃に変更したうえで、0.48mol/Lのホウ酸を含有する原料溶液を用いたこと以外は、比較例1と同様の操作により酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子を製造した。そして、回収した無機酸化物中空粒子について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
比較例1は、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成に基づいて調製した原料ホウ素化合物を含有する原料溶液を使用したため、誘電正接が0.0031と高く、誘電特性が不十分となった。
一方、比較例2は、上記式(2)から算出される範囲を大きく逸脱して大過剰の原料ホウ素化合物を使用したため、無機酸化物中空粒子中に酸化ホウ素が大幅に増量(+68.8%)して粒子強度が増加したものの、空洞率が大きく低下したため、誘電正接が大きく悪化した。酸化ホウ素の大幅な増量により、粒子の融点が大きく低下し、溶融が過剰に進行したことが要因と考えられる。
これに対し、実施例1、2では、上記式(2)から算出される範囲内で原料ホウ素化合物を増量したため、従来(比較例1)よりも誘電正接の低い無機酸化物中空粒子を製造することができた。
また、実施例3、4から、熱分解炉内を異なる温度に設定しても、上記式(1)により無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量の減少率を推定し、その推定値を用いて上記式(2)から算出される範囲内で原料ホウ化合物を増量したため、従来(比較例1)よりも誘電正接の低い無機酸化物中空粒子を製造することができた。
更に、実施例1~4の結果から、上記式(2)から算出される範囲内で原料ホウ化合物を増量することで、予め設定した酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子の組成と誤差の少ない酸化ホウ素含有無機酸化物中空粒子が得られ、当該無機酸化物中空粒子中の酸化ホウ素の含有量を適正化できたことが、誘電正接の低下に寄与しているといえる。
図1
図2