(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048668
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】歯車ポンプまたは歯車モータ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/18 20060101AFI20240402BHJP
F03C 2/08 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
F04C2/18 311C
F03C2/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154713
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡立 浩二
【テーマコード(参考)】
3H041
3H084
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB02
3H041CC11
3H041CC17
3H041DD04
3H041DD12
3H041DD13
3H041DD24
3H041DD36
3H041DD38
3H084AA24
3H084AA51
3H084BB01
3H084CC21
3H084CC58
(57)【要約】
【課題】騒音を抑制することができるようにする。
【解決手段】歯車ポンプまたは歯車モータは、互いに噛み合う駆動歯車(2)および従動歯車(3)と、側板(20)とを備え、歯車(G)は、前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)のうちのいずれかの歯車を示し、前記歯車(G)の歯(G1)の回転軌跡上には、吸込通路(7a)と、吐出通路(7b)と、噛合領域(14)と、回転軌跡領域(15)とが配置され、前記側板(20)には、前記回転軌跡領域(15)と対向する開口(21b,21e)と、前記開口(21b,21e)および前記吐出通路(7b)に連通する通路(40,50)とが設けられ、前記開口(21b,21e)は、前記吐出通路(7b)から前記吸込通路(7a)側へ離間した場所に位置する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛み合う駆動歯車(2)および従動歯車(3)と、
前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)に対向配置される側板(20)と
を備え、
歯車(G)は、前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)のうちのいずれかの歯車を示し、
前記歯車(G)の歯(G1)の回転軌跡上には、流体が流れる吸込通路(7a)と、前記吸込通路(7a)を流れる流体よりも高圧の流体が流れる吐出通路(7b)と、前記駆動歯車(2)と前記従動歯車(3)とが噛み合う噛合領域(14)と、回転軌跡領域(15)とが、前記歯車(G)の歯(G1)の回転方向に沿って、前記吸込通路(7a)、前記回転軌跡領域(15)、前記吐出通路(7b)、および前記噛合領域(14)の順番に配置され、
前記側板(20)には、
前記回転軌跡領域(15)と対向する開口(21b,21e)と、
前記開口(21b,21e)および前記吐出通路(7b)に連通する通路(40,50)と
が設けられ、
前記開口(21b,21e)は、前記吐出通路(7b)から前記吸込通路(7a)側へ離間した場所に位置する、歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項2】
前記開口(21b,21e)は、前記吐出通路(7b)と前記吸込通路(7a)とのうち前記吸込通路(7a)寄りに位置する、請求項1に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項3】
前記側板(20)の外面は、
前記歯車(G)と対向する対向面(21)と、
前記対向面(21)と背向する裏面(22)と
を含み、
前記開口(21b,21e)は、前記対向面(21)に設けられ、
前記通路(40,50)は、前記対向面(21)に対して前記裏面(22)側に設けられる、請求項1または請求項2に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項4】
前記側板(20)の外面は、前記対向面(21)の外周部(21a)と前記裏面(22)の外周部(22a)との間に位置する側面(23)を含み、
前記開口(21b)は、前記対向面(21)の外周部(21a)に設けられ、
前記通路(40)は、
前記裏面(22)に設けられ、前記吐出通路(7b)に連通する第1通路部分(41)と、
前記側面(23)に設けられ、前記第1通路部分(41)および前記開口(21b)に連通する第2通路部分(42)と
を含む、請求項3に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項5】
前記歯車(G)の回転方向の寸法(R)において、前記開口(21b)の寸法(S1)が、前記歯車(G)の歯(G1)の先端(G3)の寸法(S2)よりも小さい、請求項4に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項6】
前記側板(20)には、前記対向面(21)から前記裏面(22)に亘って前記側板(20)を貫通する貫通孔(25)が設けられ、
前記開口(21e)は、前記貫通孔(25)のうち前記対向面(21)上で開口する個所を示し、
前記通路(50)は、
前記裏面(22)に設けられ、前記吐出通路(7b)に連通する第3通路部分(51)と、
前記貫通孔(25)に設けられ、前記第3通路部分および前記開口(21e)に連通する第4通路部分(52)と
を含む、請求項3に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項7】
前記歯車(G)の歯(G1)は、前記歯車(G)の回転時に前記開口(21e)上を通過する通過部分を含み、
前記歯車(G)の回転方向の寸法において、前記開口(21e)の寸法が、前記歯車(G)の歯(G1)の前記通過部分の寸法よりも小さい、請求項6に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項8】
前記側板(20)の外面は、前記対向面(21)の外周部(21a)と前記裏面(22)の外周部(22a)との間に位置する側面(23)を含み、
前記開口(21b)は、前記対向面(21)の外周部(21a)に設けられ、
前記通路(40)は、
前記側面(23)に設けられ、前記吐出通路(7b)および前記開口(21b)に連通する第5通路部分を含む、請求項3に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯車ポンプまたは歯車モータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、歯車ポンプまたは歯車モータが開示されている。特許文献1に記載の歯車ポンプまたは歯車モータは、歯車と、歯車に対向配置される側板とを備える。側板における歯車と対向する面上には、開口(高圧導入溝)が形成されている。開口は、吐出通路に連なり、吐出通路から側板の外周に沿って延びている。歯車の歯溝には、吐出通路内の高圧の流体が開口を通じて供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、開口からの高圧の流体が、多くの歯溝に同時に供給される。これにより、隣り合う歯溝間で圧力差により開口を通じて流体の流れが生じることで、歯溝内の流体の圧力が一時的に急低下する可能性がある。歯溝内の流体の圧力が一時的に急低下する場合、歯車の軸が加振され、軸が加振されることで軸に振動が発生し、発生した振動がケーシングに伝播することで騒音が発生する可能性がある。
【0005】
本開示の目的は、歯車ポンプまたは歯車モータにおいて、騒音を抑制することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は歯車ポンプまたは歯車モータを対象とする。歯車ポンプまたは歯車モータは、互いに噛み合う駆動歯車(2)および従動歯車(3)と、前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)に対向配置される側板(20)とを備え、歯車(G)は、前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)のうちのいずれかの歯車を示し、前記歯車(G)の歯(G1)の回転軌跡上には、流体が流れる吸込通路(7a)と、前記吸込通路(7a)を流れる流体よりも高圧の流体が流れる吐出通路(7b)と、前記駆動歯車(2)と前記従動歯車(3)とが噛み合う噛合領域(14)と、回転軌跡領域(15)とが、前記歯車(G)の歯(G1)の回転方向に沿って、前記吸込通路(7a)、前記回転軌跡領域(15)、前記吐出通路(7b)、および前記噛合領域(14)の順番に配置され、前記側板(20)には、前記回転軌跡領域(15)と対向する開口(21b,21e)と、前記開口(21b,21e)および前記吐出通路(7b)に連通する通路(40,50)とが設けられ、前記開口(21b,21e)は、前記吐出通路(7b)から前記吸込通路(7a)側へ離間した場所に位置する。
【0007】
第1の態様では、騒音を抑制することができる。
【0008】
第2の態様は、第1の態様において、前記開口(21b,21e)は、前記吐出通路(7b)と前記吸込通路(7a)とのうち前記吸込通路(7a)寄りに位置する。
【0009】
第2の態様では、側板(20)が歯車(G)に押し付けられて摩耗することを抑制でき、側板(20)をバランスよく支持することができる。
【0010】
第3の態様は、第1の態様または第2の態様において、前記側板(20)の外面は、前記歯車(G)と対向する対向面(21)と、前記対向面(21)と背向する裏面(22)とを含み、前記開口(21b,21e)は、前記対向面(21)に設けられ、前記通路(40,50)は、前記対向面(21)に対して前記裏面(22)側に設けられる。
【0011】
第3の態様では、回転軌跡領域(15)内の特定の場所(開口(21b)と対向する場所)に位置する歯溝(G2)に対して吐出通路(7b)からの高圧の流体を効果的に送ることができる。
【0012】
第4の態様は、第3の態様において、前記側板(20)の外面は、前記対向面(21)の外周部(21a)と前記裏面(22)の外周部(22a)との間に位置する側面(23)を含み、前記開口(21b)は、前記対向面(21)の外周部(21a)に設けられ、前記通路(40)は、前記裏面(22)に設けられ、前記吐出通路(7b)に連通する第1通路部分(41)と、前記側面(23)に設けられ、前記第1通路部分(41)および前記開口(21b)に連通する第2通路部分(42)とを含む。
【0013】
第4の態様では、第1通路部分(41)、第2通路部分(42)および開口(21b)を通じて、吐出通路(7b)内の流体を回転軌跡領域(15)へ送ることができる。
【0014】
第5の態様は、第4の態様において、前記歯車(G)の回転方向の寸法(R)において、前記開口(21b)の寸法(S1)が、前記歯車(G)の歯(G1)の先端(G3)の寸法(S2)よりも小さい。
【0015】
第5の態様では、開口(21b)を介して隣り合う2つの歯溝(G2)が連通した状態となることを効果的に抑制できる。
【0016】
第6の態様は、第3の態様において、前記側板(20)には、前記対向面(21)から前記裏面(22)に亘って前記側板(20)を貫通する貫通孔(25)が設けられ、前記開口(21e)は、前記貫通孔(25)のうち前記対向面(21)上で開口する個所を示し、前記通路(50)は、前記裏面(22)に設けられ、前記吐出通路(7b)に連通する第3通路部分(51)と、前記貫通孔(25)に設けられ、前記第3通路部分および前記開口(21e)に連通する第4通路部分(52)とを含む。
【0017】
第6の態様では、第3通路部分(51)、第4通路部分および開口(21e)を通じて、吐出通路(7b)内の流体を回転軌跡領域(15)へ送ることができる。
【0018】
第7の態様は、第6の態様において、前記歯車(G)の歯(G1)は、前記歯車(G)の回転時に前記開口(21e)上を通過する通過部分を含み、前記歯車(G)の回転方向の寸法において、前記開口(21e)の寸法が、前記歯車(G)の歯(G1)の前記通過部分の寸法よりも小さい。
【0019】
第7の態様では、開口(21e)を介して隣り合う2つの歯溝(G2)が連通した状態となることを抑制できる。
【0020】
第8の態様は、第3の態様において、前記側板(20)の外面は、前記対向面(21)の外周部(21a)と前記裏面(22)の外周部(22a)との間に位置する側面(23)を含み、前記開口(21b)は、前記対向面(21)の外周部(21a)に設けられ、前記通路(40)は、前記側面(23)に設けられ、前記吐出通路(7b)および前記開口(21b)に連通する第5通路部分を含む。
【0021】
第8の態様では、第5通路部分および開口(21b)を通じて、吐出通路(7b)内の流体を回転軌跡領域(15)へ送ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施形態に係る歯車ポンプまたは歯車モータの概略の断面図である。
【
図6】
図6は、側板とシール部材とを示す底面図である。
【
図7】
図7は、側板とシール部材とを示す断面図である。
【
図8】
図8は、従来の歯車ポンプまたは歯車モータを示す模式図である。
【
図9】
図9は、従来の歯車ポンプの第1歯溝の回転角度と、第1歯溝内の流体の圧力との関係を示す図である。
【
図10】
図10は、従来の歯車ポンプと、本実施形態の歯車ポンプとの騒音レベルの比較結果を示す図である。
【
図11】
図11は、歯車の歯の先端の寸法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。各図面は、本開示を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて寸法、比または数を誇張または簡略化して表す場合がある。
【0024】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1を参照して、本発明の実施形態に係る歯車ポンプまたは歯車モータ(1)について説明する。
図1は、歯車ポンプまたは歯車モータ(1)の断面図である。以下では、歯車ポンプまたは歯車モータ(1)について、歯車ポンプ(1)と記載する。歯車ポンプ(1)は、流体(例えば、作動油)を貯留するタンクから供給される流体を吸い込んで昇圧した後、その流体を吐出して液圧機器に供給する。
【0026】
―全体構成―
図1に示すように、歯車ポンプ(1)は、互いに噛み合う駆動歯車(2)および従動歯車(3)と、駆動歯車(2)および従動歯車(3)をそれぞれ軸支する駆動軸(4)および従動軸(5)と、駆動歯車(2)、従動歯車(3)、駆動軸(4)および従動軸(5)を収納するケーシング(6)とを備えている。本実施形態の歯車ポンプ(1)は、流体を貯留するタンクから供給される流体を吸い込んで昇圧した後、その流体を吐出して液圧機器に供給するものである。
【0027】
以下では、駆動軸(4)の軸(4A)、および従動軸(5)の軸(5A)に対して平行な方向を、第1方向(A)と記載することがある。第1方向(A)に対して垂直な方向のうち、駆動歯車(2)および従動歯車(3)の並び方向と平行な方向を、第2方向(B)と記載することがある。第1方向(A)および第2方向(B)に対して垂直な方向を、第3方向(C)と記載することがある(
図2参照)。
【0028】
ケーシング(6)は、本体(7)と、本体(7)に固定されるカバー(9)とを有している。ケーシング(6)に対して第1方向(A)の一方向側(A1)には、カバー(9)が配置される。ケーシング(6)の内部空間(10)は、本体(7)の内部空間とカバー(9)の内部空間とに亘って形成される。
【0029】
ケーシング(6)の内部空間(10)には、駆動歯車(2)と、駆動歯車(2)に固定または一体化される駆動軸(4)と、従動歯車(3)と、従動歯車(3)に固定または一体化される従動軸(5)とが配置される。駆動軸(4)の軸(4A)と、従動軸(5)の軸(5A)とは、互いに平行に配置される。
【0030】
駆動軸(4)は、駆動軸(4)の軸(4A)に沿って駆動歯車(2)の中心を貫通するように延設される。駆動軸(4)は、駆動歯車(2)と共に軸(4A)回りに回転する。従動軸(5)は、従動軸(5)の軸(5A)に沿って従動歯車(3)の中心を貫通するように延設される。従動軸(5)は、従動歯車(3)と共に軸(5A)回りに回転する。
【0031】
駆動歯車(2)と従動歯車(3)とは、互いに噛み合っている。駆動歯車(2)が回転すると、駆動歯車(2)と従動歯車(3)とが噛み合う箇所において、駆動歯車(2)から従動歯車(3)に動力を伝達することで回転する。その結果、駆動歯車(2)と従動歯車(3)とが共に回転する。
【0032】
図1および
図2に示すように、駆動歯車(2)および従動歯車(3)はそれぞれ、平歯車として構成され、ケーシング(6)の内部に形成された内部空間(10)に配置されている。
【0033】
駆動軸(4)は、駆動歯車(2)に対して第1方向(A)の一方向側(A1)に位置する第1駆動軸(4a)と、駆動歯車(2)に対して第1方向(A)の他方向側(A2)に位置する第2駆動軸(4b)とを有する。第2駆動軸(4b)には、駆動手段(例えば、原動機)が連結される。従動軸(5)は、従動歯車(3)に対して第1方向(A)の一方向側(A1)に位置する第1従動軸(5a)と、駆動歯車(2)に対して第1方向(A)の他方向側(A2)に位置する第2従動軸(5b)とを有する。
【0034】
歯車ポンプ(1)において、駆動歯車(2)および従動歯車(3)は、相互に噛合した状態で内部空間(10)内に収納され、その歯先が内部空間(10)の内周面に摺接するようになっている。これにより、駆動歯車(2)および従動歯車(3)は、ケーシング(6)の内部空間(10)において噛み合いながら回転する。駆動歯車(2)および従動歯車(3)は回転時に、ケーシング(6)の内部空間(10)の内周面にそれぞれ摺接して内部空間(10)を低圧領域と高圧領域とに区画する。
【0035】
歯車ポンプ(1)は、駆動軸(4)を回転可能に支持する駆動軸受(11)と、従動軸(5)を回転可能に支持する従動軸受(12)とを有する。駆動軸受(11)は、第1駆動軸(4a)を回転可能に支持する第1駆動軸受(11a)と、第2駆動軸(4b)を回転可能に支持する第2駆動軸受(11b)とを有する。従動軸受(12)は、第1従動軸(5a)を回転可能に支持する第1従動軸受(12a)と、第2従動軸(5b)を回転可能に支持する第2従動軸受(12b)とを有する。第1駆動軸受(11a)、第2駆動軸受(11b)、第1従動軸受(12a)および第2従動軸受(12b)の各々は、例えば、滑り軸受を含む。
【0036】
ケーシング(6)の内部空間(10)において、 ケーシング(6)と駆動軸(4)との間には、オイルシール(13)が設けられる。オイルシール(13)は、例えば、ゴム製の部材である。オイルシール(13)は、第2駆動軸受(11b)に対して第1方向(A)の他方向側(A2)に位置する。
【0037】
歯車ポンプ(1)は、一対の側板(20)と、一対のシール部材(30)とを備える。一対の側板(20)は、駆動歯車(2)および従動歯車(3)を第1方向(A)の両側から挟むようにして配置される。一対の側板(20)の各々は、駆動歯車(2)および従動歯車(3)に対向配置される。一対の側板(20)の各々は、駆動歯車(2)および従動歯車(3)と、ケーシング(6)とで挟まれるように配置される。一対の側板(20)の各々には、駆動軸(4)と従動軸(5)とが挿通される。
【0038】
一対の側板(20)のうちの一方の側板(20A)は、駆動歯車(2)および従動歯車(3)に対して第1方向(A)の一方向側(A1)に配置される。一対の側板(20)のうちの他方の側板(20B)は、駆動歯車(2)および従動歯車(3)に対して第1方向(A)の他方向側(A2)に配置される。一対のシール部材(30)のうちの一方のシール部材(30A)は、側板(20A)に装着される。一対のシール部材(30)のうちの他方のシール部材(30B)は、側板(20B)に装着される。
【0039】
図2に示すように、歯車ポンプ(1)において、ケーシング(6)には、内部空間(10)の低圧領域に通じる吸込通路(7a)と、内部空間(10)の高圧領域に通じる吐出通路(7b)とが形成される。吸込通路(7a)と吐出通路(7b)とは、第3方向(C)に沿って互いに間隔を空けて配置される。吐出通路(7b)を流れる流体の圧力は、吸込通路(7a)を流れる流体の圧力よりも大きい。
【0040】
以下では、駆動歯車(2)および従動歯車(3)のうちのいずれかの歯車を、歯車(G)と記載することがある。また、歯車(G)の軸を、軸(GA)と記載することがある。軸(GA)は、駆動軸(4)の軸(4A)および従動軸(5)の軸(5A)のうちのいずれかの軸を示す。
【0041】
歯車(G)は、複数の歯(G1)を含む。複数の歯(G1)は、歯車(G)の回転方向(R)に沿って並んでいる。複数の歯(G1)は、軸(GA)回りに回転する。隣り合う歯(G1)の間には、空所である歯溝(G2)が形成される。
【0042】
歯車(G)の歯(G1)の回転軌跡上には、吸込通路(7a)と、吐出通路(7b)と、噛合領域(14)と、回転軌跡領域(15)とが存在する。
【0043】
噛合領域(14)は、駆動歯車(2)と従動歯車(3)とが互いに噛み合う領域を示す。
【0044】
回転軌跡領域(15)は、歯車(G)の回転時に形成される歯(G1)の軌跡のうち、吸込通路(7a)と吐出通路(7b)との間に位置する領域である。回転軌跡領域(15)では、歯車(G)の回転時において、歯溝(G2)内の流体の圧力を上昇させるための処理が行われる。
【0045】
吸込通路(7a)と、吐出通路(7b)と、噛合領域(14)と、回転軌跡領域(15)とは、歯車(G)の回転方向(R)に向かって、吸込通路(7a)、回転軌跡領域(15)、吐出通路(7b)、および噛合領域(14)の順番に配置される。回転方向(R)は、歯車ポンプ(1)の稼働時に歯車(G)(歯車(G)の歯(G1))が回転する方向を示す。歯車ポンプ(1)が稼働することは、歯車(G)の回転により、吐出通路(7b)、回転軌跡領域(15)、および吐出通路(7b)を通じて液圧機器へ流体を送る処理が行われることを示す。
【0046】
歯車(G)の歯(G1)が回転軌跡領域(15)内を回転する際、歯車(G)の先端(G3)が内部空間(10)の壁面(10a)に摺接する。その結果、歯溝(G2)が閉塞される。
【0047】
歯車ポンプ(1)では、ケーシング(6)の吸込通路(7a)に対し、流体を貯留するタンクからの配管が接続される。吐出通路(7b)には液圧機器へ向かう配管が接続される。駆動歯車(2)の駆動軸(4)を図示しない駆動手段(例えば、原動機)によって回転させると、駆動歯車(2)に噛み合った従動歯車(3)が駆動歯車(2)と共に回転方向(R)に回転する。これにより、内部空間(10)の内周面と歯溝(G2)とによって囲まれた空間の流体が歯車(G)の回転によって回転方向(R)に沿って吐出通路(7b)側へ移送され、その結果、噛合領域(14)を境として、吐出通路(7b)側が高圧側に、吸込通路(7a)側が低圧側になる。
【0048】
流体が吐出通路(7b)側に移送されることによって吸込通路(7a)側が負圧になると、タンク内の流体が配管および吸込通路(7a)を介して低圧側の内部空間(10)内に吸引される。そして、内部空間(10)の内周面と歯溝(G2)とによって囲まれた空間の流体が、歯車(G)の回転によって吸込通路(7a)から回転方向(R)に移送され、回転軌跡領域(15)を通る際に高圧に加圧されて、吐出通路(7b)へ供給される。吐出通路(7b)へ供給された流体は、配管を介して液圧機器に供給される。
【0049】
―側板―
図1、
図3、および
図4に示すように、側板(20)は、略8の字形状を有する。側板(20)は、一対の円弧部(20a)と、中央部(20b)とを含む。一対の円弧部(20a)の各々は、円弧状に形成される。中央部(20b)は、一対の円弧部(20a)の間に位置し、一対の円弧部(20a)の各々の間に連続する。
【0050】
側板(20)の外面は、対向面(21)と、裏面(22)と、側面(23)とを含む。対向面(21)は、側板(20)の外面のうち、歯車(G)と対向する側の面である。裏面(22)は、側板(20)の外面のうち、歯車(G)と背向する側の面であり、対向面(21)の裏側に位置し、対向面(21)と反対方向を向く。側面(23)は、対向面(21)の外周部(21a)と裏面(22)の外周部(22a)との間に位置する。側板(20)には、側板(20)を第1方向(A)に貫通する一対の貫通孔(24)が設けられる。一対の貫通孔(24)は、第2方向(B)に沿って互いに間隔を空けて配置される。一対の貫通孔(24)は、それぞれ、一対の円弧部(20a)と対応する。一対の貫通孔(24)の各々は、対応する円弧部(20a)に設けられる。一対の貫通孔(24)のうちの一方の貫通孔には駆動軸(4)が挿通され、他方の貫通孔には従動軸(5)が挿通される。
【0051】
外周部(21a,22a)は、側板(20)の円弧部(20a)の外周部分を示す。
【0052】
側板(20)の裏面(22)には、シール部材(30)が装着されるシール溝(22b)が設けられる。シール溝(22b)は、裏面(22)を凹ませた形状を有する。シール溝(22b)は、一対の円弧溝(22b1)と、中央溝(22b2)とを含む。一対の円弧溝(22b1)は、それぞれ、一対の貫通孔(24)と対応する。一対の円弧溝(22b1)の各々は、対応する貫通孔(24)に沿った略円弧形状を有する。中央溝(22b2)は、一対の円弧溝(22b1)の各々に連通し、中央部(20b)に設けられる。
【0053】
側板(20)の裏面(22)には、裏面溝(22c)が設けられる。裏面溝(22c)は、シール溝(22b)の円弧溝(22b1)に連通し、シール溝(22b)から裏面(22)の外周部(22a)に亘って形成される。
【0054】
側板(20)の対向面(21)の外周部(21a)には、開口(21b)が設けられる。開口(21b)は、対向面(21)の外周部(21a)を切り欠いた形状を有する。側板(20)の側面(23)には、開口(21b)と裏面溝(22c)とに連通する側面溝(23a)が設けられる。開口(21b)は、吐出通路(7b)から吸込通路(7a)側へ離間した場所に位置する。
【0055】
開口(21b)と、側面溝(23a)と、裏面溝(22c)とで構成される一連の溝構造は、一対の円弧部(20a)の各々に設けられる。
【0056】
図4に示すように、対向面(21)は、回転軌跡領域(15)(
図2参照)と対向する第1対向面(21c)と、噛合領域(14)(
図2参照)と対向する第2対向面(21d)と、吸込側逃げ溝(7a1)と、吐出側逃げ溝(7b1)とを含む。第1対向面(21c)は、一対の円弧部(20a)の各々に設けられる。第2対向面(21d)は、中央部(20b)に設けられる。吸込側逃げ溝(7a1)は、第2対向面(21d)に対して回転方向(R)の下流に設けられ、吸込通路(7a)の一部を構成する。吐出側逃げ溝(7b1)は、第2対向面(21d)に対して回転方向(R)の上流に設けられ、吐出通路(7b)の一部を構成する。吸込側逃げ溝(7a1)および吐出側逃げ溝(7b1)は、第1対向面(21c)および第2対向面(21d)に対して凹んだ形状を有する。
【0057】
―シール部材―
シール部材(30)は、例えば、ゴム製の部材である。シール部材(30)は、シール溝(22b)に沿った形状を有し、側板(20)のシール溝(22b)に装着される。シール部材(30)は、シール溝(22b)と対向する対向面(32)を含む。対向面(32)の縁部には切り欠き部(31)が形成される。
【0058】
―通路―
図2、
図3、
図4、
図6、および
図7に示すように、側板(20)は、通路(40)を含む。通路(40)は、吐出通路(7b)および開口(21b)に連通する。
【0059】
通路(40)は、第1通路部分(41)と、第2通路部分(42)とを含む。
【0060】
第1通路部分(41)は、側板(20)の裏面(22)に設けられる。第1通路部分(41)は、吐出通路(7b)に連通する。第1通路部分(41)は、吐出通路(7b)から、シール部材(30)の切り欠き部(31)と側板(20)の円弧溝(22b1)との間の空間(
図7参照)と、裏面溝(22c)とに亘って形成される。
【0061】
第2通路部分(42)は、側板(20)の側面(23)に設けられ、側面溝(23a)に形成される。第2通路部分(42)は、第1通路部分(41)および開口(21b)に連通する。
【0062】
第1通路部分(41)と、第2通路部分(42)と、開口(21b)とで構成される一連の通路構造は、一対の円弧部(20a)の各々に設けられる。
【0063】
―歯溝内の流体の圧力の変化―
図2に示すように、歯車(G)が回転方向(R)に回転している状態において、歯溝(G2)が吸込通路(7a)上を通過する際、吸込通路(7a)と連通することで、歯溝(G2)内の流体が低圧の状態となる。歯溝(G2)がさらに回転して、開口(21b)と対向すると、吐出通路(7b)内の高圧の流体が通路(40)および開口(21b)を通じて歯溝(G2)へ供給される。開口(21b)からの高圧の流体が歯溝(G2)に供給されると、歯溝(G2)内の流体が高圧の状態となる。開口(21b)を通過した歯溝(G2)は、歯溝(G2)内に高圧の流体を収容した状態で吐出通路(7b)へ向かって回転する。
【0064】
歯溝(G2)内に高圧の流体が収容された状態で歯車(G)が回転することで、歯溝(G2)に収容された高圧の流体により、側板(20)に対して歯車(G)から離間する方向に圧力が付与される。その結果、側板(20)が歯車(G)に接触して摩耗することが抑制される。
【0065】
―試験―
本願発明者は、本実施形態の歯車ポンプ(1)の性能と従来の歯車ポンプ(100)の性能とを比較するための試験を行った。
【0066】
―従来の歯車ポンプ―
図8は、従来の歯車ポンプ(歯車ポンプまたは歯車モータ)(100)を示す図である。
図8に示すように、従来の歯車ポンプ(100)では、開口(102)が吐出通路(101)と連通しており、側板(103)における歯車(104)と対向する面上において、側板(103)の外周に沿って延びるようにして形成されている。これにより、開口(102)が、複数の歯溝(105)(位置(P2)に存在する歯溝(105)、位置(P3)に存在する歯溝(105)、位置(P4)に存在する歯溝(105)、位置(P5)に存在する歯溝(105)、および位置(P6)に存在する歯溝(105))に同時に対向している状態となっていることで、複数の歯溝(105)が1つの開口(102)を介して連通した状態となっている。
【0067】
従来の歯車ポンプ(100)において、複数の歯溝(105)のうちの特定の第1歯溝(105a)に着目して説明する。第1歯溝(105a)の直上流に位置する歯溝(105)を、第2歯溝(105b)とする。
図9は、従来の歯車ポンプ(100)の第1歯溝(105a)の回転角度と、第1歯溝(105a)内の流体の圧力との関係を示す図である。
【0068】
第1歯溝(105a)が位置(P1)に存在している状態では、第1歯溝(105a)が開口(102)と対向しておらず、第1歯溝(105a)が開口(102)を介して吐出通路(101)とつながっていない。これにより、第1歯溝(105a)には吐出通路(101)からの高圧の流体が供給されていないので、第1歯溝(105a)の流体は低圧である。
【0069】
歯車(104)の回転に伴って、第1歯溝(105a)が位置(P1)から位置(P2)へ移動すると、第1歯溝(105a)が開口(102)と対向することで、開口(102)を介して吐出通路(101)とつながった状態になる。これにより、開口(102)から第1歯溝(105a)内に吐出通路(101)からの高圧の流体が供給されることで、
図9の領域(Q1)に示すように、第1歯溝(105a)内の流体の圧力が上昇する。
【0070】
図8に示すように、歯車(104)の回転に伴って、第1歯溝(105a)が位置(P2)から位置(P3)へ移動すると、第2歯溝(105b)が位置(P1)から位置(P2)へ移動する。このとき、位置(P3)に存在する第1歯溝(105a)と、位置(P2)に存在する第2歯溝(105b)とが、開口(102)を介して連通した状態となる。その結果、
図9の領域(Q2)に示すように、第2歯溝(105b)内の流体の圧力が一時的に急低下する急低下現象が発生する。
【0071】
急低下現象が発生する理由について説明する。第2歯溝(105b)が位置(P1)から位置(P2)へ移動した直後は、第2歯溝(105b)内の流体が低圧である。これに対し、位置(P3)に存在する第1歯溝(105a)内の流体は高圧であるため、第1歯溝(105a)内の流体と、第2歯溝(105b)内の流体との間には圧力差がある。このとき、第2歯溝(105b)内の流体の圧力を、
図9の領域(Q1)に示すような所定の大きさまで上昇させるために、吐出通路(101)からの高圧の流体が開口(102)を通じて第2歯溝(105b)に供給される。しかしながら、第2歯溝(105b)が存在している位置(P2)が吐出通路(101)から離れているために、吐出通路(101)からの高圧の流体により第2歯溝(105b)内の流体の圧力を所定の大きさまで上昇させるまでの間にタイムラグが発生する。このタイムラグの期間において、第1歯溝(105a)内の流体と、第2歯溝(105b)内の流体との間の圧力差により、位置(P3)に存在する第1歯溝(105a)内の流体が開口(102)を通じて、位置(P2)に存在する第2歯溝(105b)内へ流れ込むことで、第1歯溝(105a)内の流体に急低下現象(
図8の矢印(110)、および
図9の領域(Q2)参照)が発生する。急低下現象が発生すると騒音が発生する。詳細には、急低下現象が発生すると歯車(104)の軸(106)が加振され、軸(106)が加振されることで軸(106)に振動が発生し、発生した振動が歯車ポンプ(100)のケーシングに伝播することで騒音が発生する。
【0072】
図8に示すように、第1歯溝(105a)が、位置(P4)および位置(P5)の順番に、さらに回転していくと、第1歯溝(105a)および第2歯溝(105b)が吐出通路(101)に近づいていくため、吐出通路(101)からの高圧の流体が開口(102)を通じてより円滑に受け取ることができるようになる。その結果、上記のタイムラグの程度も低減し、急低下現象の程度が低下していく(
図9の領域(Q3)、および領域(Q4)参照)。
【0073】
―従来の歯車ポンプと本実施形態の歯車ポンプとの騒音レベルの比較―
図10は、従来の歯車ポンプ(100)と、本実施形態の歯車ポンプ(1)との騒音レベルの比較結果を示す。グラフ(L1)は、従来の歯車ポンプ(100)において、軸(106)の回転数と、騒音レベルとを対応付けている。グラフ(L2)は、本実施形態の歯車ポンプ(1)において、駆動軸(4)の回転数と、騒音レベルとを対応付けている。
図10のグラフ(L1,L2)に示すように、従来の歯車ポンプ(100)、および本実施形態の歯車ポンプ(1)の各々について、軸(106,4)の回転数が増加する程、騒音レベルが大きくなった。
図10のグラフ(L1,L2)において、回転数毎の、従来の歯車ポンプ(100)の騒音レベルと、本実施形態の歯車ポンプ(1)の騒音レベルとを比較すると、各回転数において、本実施形態の歯車ポンプ(1)の方が従来の歯車ポンプ(100)よりも騒音レベルが低かった。
【0074】
―従来の歯車ポンプと本実施形態の歯車ポンプとで騒音レベルに差が生じる理由―
図8に示す従来の歯車ポンプ(100)では、開口(102)が吐出通路(101)と連通されており、吐出通路(101)から延びるように形成されることで、開口(102)が複数の歯溝(105)と同時に対向して、開口(102)から複数の歯溝(105)に高圧の流体が供給される。その結果、上記急低下現象が生じ、振動が発生する。
【0075】
これに対し、
図2に示す本実施形態の歯車ポンプ(1)では、開口(21b)が吐出通路(7b)から離間した場所に配置されることで、開口(21b)と吐出通路(7b)とを連通させずに、側板(20)に設けた通路(40)を介して開口(21b)と吐出通路(7b)とをつなげる。これにより、本実施形態の歯車ポンプ(1)では、回転軌跡領域(15)内において、吐出通路(7b)から離間した特定の場所に位置する1つの歯溝(G2)を狙って、開口(21b)からの高圧の流体が供給されるように、開口(21b)を配置することができる。これにより、
図2に示す本実施形態の歯車ポンプ(1)では、
図8に示す従来の歯車ポンプ(100)のような開口(102)が複数の第2歯溝(105b)と同時に対向することで急低下現象が生じるような問題が生じることを抑制できる。その結果、
図2に示す本実施形態の歯車ポンプ(1)は、急低下現象による騒音の発生を抑制することができるので、
図10のグラフ(L1,L2)に示すように、従来の歯車ポンプ(100)よりも騒音レベルを低下させることができる。
【0076】
―効果―
以上のように、歯車ポンプ(1)において、側板(20)には開口(21b)および吐出通路(7b)に連通する通路(40)が設けられる。開口(21b)は、回転軌跡領域(15)と対向し、吐出通路(7b)から吸込通路(7a)側へ離間した場所に位置する。これにより、歯車(G)の回転時において、歯溝(G2)が回転軌跡領域(15)を通る際に、歯溝(G2)内で生じる流体の圧力変動(急低下現象)を抑制できる。その結果、当該圧力変動により歯車(G)の軸(GA)が加振されることで振動が発生し、当該振動がケーシング(6)へ伝播されることで発生する騒音を抑制することができる。
【0077】
また、開口(21b)は、吐出通路(7b)と吸込通路(7a)とのうち吸込通路(7a)寄りに位置する。これによると、吸込通路(7a)寄りの位置で、開口(21b)からの高圧の流体により歯溝(G2)内の流体の圧力を効果的に上昇させることができる。これにより、回転軌跡領域(15)に位置している複数の歯溝(G2)のうち吐出通路(7b)から吸込通路(7a)寄りの場所までの間に位置している多数の歯溝(G2)を、開口(21b)からの高圧の流体で満たされた状態とすることができる。その結果、回転軌跡領域(15)内の多数の歯溝(G2)に収容された高圧の流体により、歯車(G)に対して側板(20)が近接しすぎることを効果的に抑制できるので、側板(20)が歯車(G)に押し付けられて摩耗することを抑制でき、側板(20)をバランスよく支持することができる。
【0078】
また、開口(21b)は側板(20)の対向面(21)に設けられ、通路(40)は対向面(21)に対して裏面(22)側に設けられる。通路(40)は、開口(21b)を通じてのみ回転軌跡領域(15)に対して吐出通路(7b)からの高圧の流体を送ることができるので、回転軌跡領域(15)内の特定の場所(開口(21b)と対向する場所)に位置する歯溝(G2)に対して吐出通路(7b)からの高圧の流体を効果的に送ることができる。
【0079】
図11に示すように、歯車(G)の回転方向の寸法(R)において、開口(21b)の寸法(S1)が、歯車(G)の歯(G1)の先端(G3)の寸法(S2)よりも小さいことが好ましい。その結果、開口(21b)を介して隣り合う2つの歯溝(G2)が連通した状態となることを効果的に抑制できる。
【0080】
―通路の変形例―
図12および
図13を参照して、通路(40)の変形例である通路(50)について説明する。
【0081】
図12および
図13に示すように、側板(20)には、対向面(21)から裏面(22)に亘って側板(20)を貫通する貫通孔(25)が設けられる。側板(20)の対向面(21)上において、回転軌跡領域(15)(
図2参照)と対向する場所には、開口(21e)が設けられる。開口(21e)は、例えば、開口(21b)(
図2参照)と軸(GA)回りの回転角度が同じになる場所に配置される。開口(21e)は、貫通孔(25)のうち対向面(21)上で開口する個所を示す。
【0082】
通路(50)は、第3通路部分(51)と、第4通路部分(52)とを含む。第3通路部分(51)は、裏面(22)に設けられ、吐出通路(7b)に連通する。第3通路部分(51)は、例えば、
図7に示す第1通路部分(41)のように、シール部材(30)の切り欠き部(31)と側板(20)の円弧溝(22b1)との間の空間に設けられる。第4通路部分(52)は、貫通孔(25)に設けられ、第3通路部分および開口(21e)に連通する。通路(50)を設けることで、第3通路部分(51)、第4通路部分および開口(21e)を通じて、吐出通路(7b)内の流体を回転軌跡領域(15)へ送ることができる。
【0083】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう(例えば、下記(1))。また、以上の実施形態、変形例、その他の実施形態は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【0084】
(1)通路(40)は、裏面(22)に設けられ、吐出通路(7b)に連通する第1通路部分(41)と、側面(23)に設けられ、第1通路部分(41)および開口(21b)に連通する第2通路部分(42)とを含む(
図3参照)。しかし、本発明は、これに限定されない。通路(40)は、側面(23)に設けられ、吐出通路(7b)および開口(21b)に連通する第5通路部分を含むように構成されてもよい。すなわち、通路(40)を、
図3に示すように裏面(22)および側面(23)に亘って設けずに、側面(23)にのみ設けてもよい。この場合、側面(23)に対して吐出通路(7b)および開口(21b)に連通する溝が設けられ、当該溝が通路(40)として機能し、当該溝により吐出通路(7b)および開口(21b)に連通する上記第5通路部分が形成される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上に説明したように、本開示は、歯車ポンプまたは歯車モータについて有用である。
【符号の説明】
【0086】
1 歯車ポンプまたは歯車モータ
2 駆動歯車
3 従動歯車
7a 吸込通路
7b 吐出通路
14 噛合領域
15 回転軌跡領域
20 側板
21b 開口
21e 開口
40 通路
50 通路
G 歯車
G1 歯