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特開2024-48671時計用部品、時計、および、時計用部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048671
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】時計用部品、時計、および、時計用部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G04B 19/06 20060101AFI20240402BHJP
   G04B 37/22 20060101ALI20240402BHJP
   G04B 19/04 20060101ALI20240402BHJP
   G04B 1/08 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
G04B19/06 B
G04B37/22 M
G04B37/22 N
G04B19/04 C
G04B1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154717
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤 飛翔
(57)【要約】
【課題】明度L*の値が非常に低い黒色を呈する時計用部品を提供すること。
【解決手段】本開示の時計用部品は、基材と、基材の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備え、基材における多層膜と対向する表面には、複数の凹部が形成され、基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の凹部は、第1辺と、第1辺に対して傾けられ、端部で第1辺と当接する第2辺とにより規定され、断面視において、基材の厚さ方向と直交する方向に沿った第2辺の長さに対する、基材の厚さ方向に沿った第2辺の長さの比は1/2よりも大きく、多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでおり、基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が10以下であることを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備え、
前記基材における前記多層膜と対向する表面には、複数の凹部が形成され、
前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、
前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第2辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第2辺の長さの比は1/2よりも大きく、
前記多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでおり、
前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が10以下である
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項2】
請求項1に記載の時計用部品において、
前記多層膜は、前記多層膜を平面に配置した場合において、前記多層膜の厚さ方向から見た平面視で、前記明度L*の値が18以下である
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項3】
請求項1に記載の時計用部品において、
前記多層膜は、Ta、SiO、TiO、Al、ZrO、Nb、HfO、NaAl14、NaAlF、AlF、MgF、CaF、BaF、YF、LaF、CeF、および、NdFの少なくとも1種を含む材料から構成される色調整膜を備える
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項4】
請求項3に記載の時計用部品において、
前記色吸収膜は、Crを含む材料から構成される膜の他に、Ag、Pt、Au、Cu、Al、Cr、Sn、Fe、Tiの少なくとも1種を含む材料から構成される膜を有する
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項5】
請求項4に記載の時計用部品において、
前記多層膜は、Crを含む材料から構成される前記色吸収膜と、Alを含む材料から構成される前記色調整膜と、が積層される箇所を複数備える
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項6】
基材と、
前記基材の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備え、
前記基材における前記多層膜と対向する表面には、複数の凹部が形成され、
前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、
前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第2辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第2辺の長さの比は1/2よりも大きく、
前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が10以下であり、
前記多層膜は、前記多層膜を平面に配置した場合において、前記多層膜の厚さ方向から見た平面視で、前記明度L*の値が18以下である
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項7】
請求項1または請求項6に記載の時計用部品を備える
ことを特徴とする時計。
【請求項8】
基材と、前記基材の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備える時計用部品の製造方法であって、
前記基材の表面に複数の凹部を形成する工程と、
複数の前記凹部が形成された前記基材の表面の少なくとも一部に、前記多層膜を積層させる工程と、を備え、
前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、
前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第2辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第2辺の長さの比は1/2よりも大きく、
前記多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでおり、
前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が10以下である
ことを特徴とする時計用部品の製造方法。
【請求項9】
基材と、前記基材の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備える時計用部品の製造方法であって、
前記基材の表面に複数の凹部を形成する工程と、
複数の前記凹部が形成された前記基材の表面の少なくとも一部に、前記多層膜を積層させる工程と、を備え、
前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、
前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第2辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第2辺の長さの比は1/2よりも大きく、
前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が10以下であり、
前記多層膜は、前記多層膜を平面に配置した場合において、前記多層膜の厚さ方向から見た平面視で、前記明度L*の値が18以下である
ことを特徴とする時計用部品の製造方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の時計用部品の製造方法において、
前記凹部は、切削加工、レーザー加工、パターニング加工、化学除去加工、研磨加工、および、鍛造・鋳造加工のいずれか一つを用いて形成される
ことを特徴とする時計用部品の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の時計用部品の製造方法において、
前記凹部は、フェムトレーザー加工、または、ピコレーザー加工を用いて形成される
ことを特徴とする時計用部品の製造方法。
【請求項12】
請求項8または請求項9に記載の時計用部品の製造方法において、
前記多層膜は、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、および、スパッタリング法のいずれか一つを用いて形成される
ことを特徴とする時計用部品の製造方法。
【請求項13】
請求項8または請求項9に記載の時計用部品の製造方法にて製造された時計用部品を用いて構成される
ことを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用部品、時計、および、時計用部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属光沢部である基板上に、色調を調整する調色膜を積層した時計用部品が開示されている。特許文献1の時計用部品では、金属光沢部および調色膜により外観の色調を調整することで、貴金属を主材料として用いなくても、審美性を優れたものにできるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-124269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、貴金属のような審美性を持たせることはできるものの、調色膜によって光の反射率を著しく低くすることは難しいことから、ベンタブラックのような明度L*の値が非常に低い黒色を達成することが難しいといった問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の時計用部品は、基材と、前記基材の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備え、前記基材における前記多層膜と対向する表面には、複数の凹部が形成され、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第2辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第2辺の長さの比は1/2よりも大きく、前記多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでおり、前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が10以下であることを特徴とする。
【0006】
本開示の時計用部品は、基材と、前記基材の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備え、前記基材における前記多層膜と対向する表面には、複数の凹部が形成され、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第2辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第2辺の長さの比は1/2よりも大きく、前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が10以下であり、前記多層膜は、前記多層膜を平面に配置した場合において、前記多層膜の厚さ方向から見た平面視で、前記明度L*の値が18以下であることを特徴とする。
【0007】
本開示の時計は、前記時計用部品を備えることを特徴とする。
【0008】
本開示の時計用部品の製造方法は、基材と、前記基材の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備える時計用部品の製造方法であって、前記基材の表面に複数の凹部を形成する工程と、複数の前記凹部が形成された前記基材の表面の少なくとも一部に、前記多層膜を積層させる工程と、を備え、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第2辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第2辺の長さの比は1/2よりも大きく、前記多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでおり、前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が10以下であることを特徴とする。
【0009】
本開示の時計用部品の製造方法は、基材と、前記基材の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備える時計用部品の製造方法であって、前記基材の表面に複数の凹部を形成する工程と、複数の前記凹部が形成された前記基材の表面の少なくとも一部に、前記多層膜を積層させる工程と、を備え、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第2辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第2辺の長さの比は1/2よりも大きく、前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が10以下であり、前記多層膜は、前記多層膜を平面に配置した場合において、前記多層膜の厚さ方向から見た平面視で、前記明度L*の値が18以下であることを特徴とする。
【0010】
本開示の時計は、前記時計用部品の製造方法にて製造された時計用部品を用いて構成されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態の時計を示す正面図。
図2】第1実施形態の文字板本体部の要部を示す断面図。
図3】第1実施形態の文字板本体部の要部を示す拡大断面図。
図4】第1実施形態の文字板本体部の要部を示す拡大斜視図。
図5】基材の厚さ方向の斜辺の長さVと基材の厚さ方向と直交する方向の斜辺の長さHとの比と、明度L*との関係を示す図。
図6】第2実施形態の文字板本体の要部を示す断面図。
図7】第2実施形態の文字板本体の要部を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1実施形態]
以下、本開示の実施形態の時計1を図面に基づいて説明する。
図1は、時計1を示す正面図である。本実施形態では、時計1は、ユーザーの手首に装着される腕時計として構成される。
図1図2に示すように、時計1は、金属製のケース2を備える。そして、ケース2の内部には、円板状の文字板10と、秒針3、分針4、時針5と、りゅうず7と、Aボタン8と、Bボタン9とを備える。そして、文字板10は、文字板本体部11と、文字板本体部11に設けられるアワーマーク12とを有している。なお、文字板10は、本開示の時計用部品の一例である。
また、文字板本体部11は、非常に明度の低い黒色として視認されるが、図1においては文字板本体部11を無地(白色)で表現している。
【0013】
[文字板本体部]
図2は、文字板本体部11の要部を示す断面図であり、図3は、文字板本体部11の要部を示す拡大断面図であり、図4は、文字板本体部11の要部を示す拡大斜視図である。なお、図2図3は、文字板本体部11における基材30を厚さ方向に切断した断面図である。
図2図4に示すように、文字板本体部11は、基材30と、下地層31と、多層膜32と、保護層33とを備えて構成される。本実施形態では、基材30は、全体にわたって下地層31、多層膜32、および、保護層33に覆われている。すなわち、下地層31、多層膜32、および、保護層33は、基材30の表面301全体を覆うように積層されている。
なお、文字板本体部11は、上記構成に限られるものではなく、例えば、基材30の表面301の一部を覆うように下地層31、多層膜32、および、保護層33が積層されていてもよい。
【0014】
[基材]
基材30の材質は、鉄、真鍮、アルミニウム等の金属や、樹脂等から構成される。なお、基材30を樹脂により構成する場合、当該樹脂は、光を透過させない非透光性樹脂であってもよく、あるいは、光を透過させる透光性樹脂であってもよい。
そして、本実施形態では、文字板本体部11における基材30の表面301には、複数の凹部302が形成されている。
【0015】
[凹部]
凹部302は、基材30を厚さ方向に切断した断面視で、直線辺Lと、直線辺Lに対して傾けられ、端部で直線辺Lと当接する斜辺Dとにより規定されている。そして、直線辺Lは、基材30の厚さ方向に延びる対称軸A1に対して、斜辺Dと線対称となるように傾けられている。より具体的には、本実施形態では、凹部302は、図4に示すように、表面301に円錐状の突起物が複数形成されるように形成されている。
なお、直線辺Lは、本開示の第1辺の一例であり、斜辺Dは、本開示の第2辺の一例である。また、凹部302の深さは特に限定されないが、例えば、凹部302の深さは数十μm程度である。
【0016】
そして、本実施形態では、凹部302は、基材30の厚さ方向と直交する方向に沿った斜辺Dの長さHに対する、基材30の厚さ方向に沿った斜辺Dの長さVの長さの比が1/2よりも大きくなるように形成されている。すなわち、VとHとの比が1:2よりも大きくなるように凹部302が形成されている。
換言すると、基材30の厚さ方向に対する斜辺Dの長さVを1とした場合に、基材30の厚さ方向と直交する方向に対する斜辺Dの長さHが2よりも小さくなるように、すなわち、HがVの2倍よりも小さくなるように凹部302が形成されている。
【0017】
[下地層]
下地層31は、基材30の表面301に積層されている。本実施形態では、下地層31は、例えば、Ni等のメッキにより構成されている。本実施形態では、基材30の表面301に下地層31を積層させることにより、多層膜32を積層しやすくすることができる。
【0018】
[多層膜]
多層膜32は、色吸収膜321と色調整膜322とを備えて構成され、下地層31に積層される。
色吸収膜321は、金属を用いて形成される。なお色吸収膜321を構成する金属としては、Ag、Pt、Au、Cu、Al、Cr、Sn、Fe、Ti等や、これらの合金等が好ましい。
色吸収膜321の形成方法としては、特に限定されないが、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等が挙げられる。これにより、多層膜32の層構成を任意に変化させることができる。
【0019】
ここで、本実施形態では、色吸収膜321は、Crを含む材料から構成されるクロム色吸収膜3211を3層有している。これにより、多層膜32に入射される光の反射率を低くすることができる。
【0020】
色調整膜322は、光学干渉により色調を調整する膜である。本実施形態では、色調整膜322は、無機膜を含む多層膜で構成される。具体的には、色調整膜322は、Ta、SiO、TiO、Al、ZrO、Nb、HfO、NaAl14、NaAlF、AlF、MgF、CaF、BaF、YF、LaF、CeF、および、NdFの少なくとも1種を含む材料から構成されることが好ましい。これにより、これらの無機物は化学的安定性が高いので、時計用部品としての外観の安定性や耐久性を高くすることができる。さらに、明度L*の値が低い黒色のバリエーションの幅を増やすことができる。
【0021】
ここで、本実施形態では、色調整膜322は、Alを含む材料から構成される酸化アルミ色調整膜3221と、SiOを含む材料から構成される二酸化ケイ素色調整膜3222と、を有している。そして、酸化アルミ色調整膜3221には、クロム色吸収膜3211が積層されている。すなわち、本実施形態では、多層膜32は、Crを含む材料から構成されるクロム色吸収膜3211と、Alを含む材料から構成される酸化アルミ色調整膜3221と、が積層される箇所を複数備えている。これにより、多層膜32に入射される光の反射率をより低くすることができるので、より明度L*の値が非常に低い黒色を達成することができる。
なお、多層膜32は、上記構成に限られるものではなく、色吸収膜321と色調整膜322との順は任意に設定することができる。
【0022】
なお、色調整膜322の形成方法としては、特に限定されないが、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等が挙げられる。これにより、多層膜32の層構成を任意に変化させることができる。
【0023】
[保護層]
保護層33は、多層膜32の表面に積層される透明層である。本実施形態では、保護層33は、アクリル等の透明樹脂によって形成されている。
【0024】
[文字板の製造方法]
次に、文字板10の製造方法について説明する。
先ず、文字板10の文字板本体部11における基材30の表面301に、前述した凹部302を複数形成させる。例えば、基材30の表面301を、切削加工、レーザー加工、化学除去加工、研磨加工、鍛造・鋳造加工等の加工を用いて凹部302を形成する。この際、基材30の厚さ方向と直交する方向に沿った斜辺Dの長さHに対する、基材30の厚さ方向に沿った斜辺Dの長さVの比が1/2よりも大きくなるように凹部302を形成することで、表面301に複数の円錐状の突起物を形成する。
【0025】
次に、文字板本体部11における基材30の表面301に、下地層31、多層膜32、および、保護層33を積層させる。具体的には、基材30の表面301に、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等により色吸収膜321を形成する。その後、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等により下地層31、色吸収膜321、色調整膜322、および、保護層33を積層させる。これにより、文字板10を製造することができる。
さらに、このような製造方法で製造された文字板10を時計1に用いることにより、時計1を製造することができる。
そして、本実施形態では、凹部302を、切削加工、レーザー加工、化学除去加工、研磨加工、鍛造・鋳造加工等の加工を用いて形成することで、凹部302における斜辺Dの傾きを任意に変化させることができる。
【0026】
図5は、基材30の厚さ方向の斜辺Dの長さVと基材30の厚さ方向と直交する方向の斜辺Dの長さHとの比と、明度L*との関係を示す図である。図5では、真鍮を用いて形成される基材30に対して、基材30の厚さ方向の斜辺の長さVと基材30の厚さ方向と直交する方向の斜辺の長さHとの比が1:1~1:10となるように凹部302を形成し、基材30の表面301に下地層31、多層膜32、および、保護層33を積層させて明度L*を測定した。明度L*の測定には分光測色計を用いて行い、測定条件としては、正反射光測定、光源D65、視野角10°とした。
【0027】
ここで、図5では、多層膜32は、図3に示す色吸収膜321および色調整膜322と同様の構成とし、当該多層膜32を平面に配置した場合において、多層膜32の厚さ方向から見た平面視で明度L*の値が18となるように形成されている。また、凹部302を形成した基材30は、多層膜32が積層されていない状態において、基材30の厚さ方向から見た平面視で明度L*の値が32となるように形成されている。
なお、本開示において、明度L*とは、CIE(Commission Internationale d'Eclairage;国際照明委員会)で規定されるL*a*b*色空間における明度の値である。L*の値が「0」の場合は全く光を反射しない(光を完全に吸収する)物体の明度であり、L*の値が「100」の場合は光を完全反射する白の明度の値を表す。
【0028】
図5に示すように、基材30の厚さ方向と直交する方向の斜辺Dの長さHに対する基材30の厚さ方向の斜辺の長さVの長さの比が大きくなるのに従って、明度L*の値が小さくなることが示唆された。特に、基材30の厚さ方向と直交する方向の斜辺Dの長さHに対する基材30の厚さ方向の斜辺の長さVの長さの比が1:2よりも大きい場合(図5においてV:H比を示す横軸の2よりも左側の領域)、すなわち、基材30の厚さ方向と直交する方向に沿った斜辺Dの長さHに対する、基材30の厚さ方向に沿った斜辺Dの長さVの比が1/2よりも大きい場合、明度L*の値を10以下とできることが示唆された。これは、基材30の厚さ方向と直交する方向の斜辺の長さHに対する基材30の厚さ方向の斜辺の長さVの長さの比を大きくすることにより、直線辺Lに対する斜辺Dの傾きが大きくなるので、凹部302に入射される光の反射率を低くすることができることによるものと推察される。
【0029】
さらに、多層膜32は、Crを含む材料から構成されるクロム色吸収膜3211を3層含んでいる上、クロム色吸収膜3211と酸化アルミ色調整膜3221とが積層される箇所を複数備えるので、多層膜32に入射された光の反射率を低くすることができて、多層膜32自体の明度L*の値を18と低い値にできるものと推察される。
これにより、本実施形態では、基材30の厚さ方向から見た平面視で、明度L*の値を10以下とすることができ、ベンタブラックのような明度L*の値が非常に低い黒色を達成することができる。
【0030】
[実施形態の作用効果]
このような本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、基材30における多層膜32と対向する表面301には、複数の凹部302が形成されている。そして、基材30を厚さ方向に切断した断面視で、複数の凹部302は、直線辺Lと、直線辺Lに対して傾けられ、端部で直線辺Lと当接する斜辺Dとにより規定され、基材30の厚さ方向と直交する方向に沿った斜辺Dの長さHに対する、基材30の厚さ方向に沿った斜辺Dの長さVの比が1/2よりも大きい。これにより、当該凹部302に入射される光の反射率を低くすることができる。さらに、多層膜32は、Crを含む材料から構成されるクロム色吸収膜3211を3層含んでいるので、多層膜32に入射された光の反射率を低くすることができる。これにより、基材30の厚さ方向から見た平面視で、明度L*の値を10以下とすることができるので、ベンタブラックのような明度L*の値が非常に低い黒色を達成することができる。
【0031】
本実施形態では、多層膜32は、当該多層膜32を平面に配置した場合において、多層膜32の厚さ方向から見た平面視で、明度L*の値が18以下と低い値であるので、より明度L*の値が非常に低い黒色を達成することができる。
【0032】
多層膜32は、Ta、SiO、TiO、Al、ZrO、Nb、HfO、NaAl14、NaAlF、AlF、MgF、CaF、BaF、YF、LaF、CeF、および、NdFの少なくとも1種を含む材料から構成される色調整膜322を備えているので、文字板10としての外観の安定性や耐久性を高くすることができる。さらに、明度L*の値が低い黒色のバリエーションの幅を増やすことができる。
【0033】
本実施形態では、多層膜32は、クロム色吸収膜3211と酸化アルミ色調整膜3221とが積層される箇所を複数備えるので、多層膜32に入射される光の反射率をより低くすることができ、より明度L*の値が非常に低い黒色を達成することができる。
【0034】
本実施形態では、凹部302は、切削加工、レーザー加工、化学除去加工、研磨加工、および、鍛造・鋳造加工のいずれか一つを用いて形成されている。これにより、凹部302における斜辺Dの傾きを任意に変化させることができる。
【0035】
本実施形態では、多層膜32は、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、および、スパッタリング法のいずれか一つを用いて形成されている。これにより、多層膜32の層構成を任意に変化させることができる。
【0036】
[第2実施形態]
次に、本開示の第2実施形態について、図6図7に基づいて説明する。第2実施形態では、文字板本体部11Aの凹部302Aが、湾曲する第1辺L1および第2辺D1により規定される点で、前述した第1実施形態と異なる。
なお、第2実施形態において、第1実施形態と同一または同様の構成には同一符号を付し、説明を省略または簡略する。
【0037】
[文字板本体部]
図6は、文字板本体部11Aの要部を示す断面図であり、図7は、文字板本体部11Aの要部を示す拡大断面図である。なお、図6図7は、文字板本体部11Aにおける基材30Aを厚さ方向に切断した断面図である。
図6図7に示すように、文字板本体部11Aは、前述した第1実施形態の文字板本体部11と同様に基材30Aと、下地層31Aと、多層膜32Aと、保護層33Aとを備えて構成される。
【0038】
[凹部]
凹部302Aは、基材30Aを厚さ方向に切断した断面視で、第1辺L1と、第1辺L1に対して傾けられ、端部で第1辺L1と当接する第2辺D1とにより規定されている。そして、本実施形態では、第1辺L1および第2辺D1は湾曲している。
また、前述した第1実施形態と同様に、凹部302Aは、表面301Aに円錐状の突起物が複数形成されるように形成されている。
【0039】
そして、前述した第1実施形態と同様に、凹部302Aは、基材30Aの厚さ方向と直交する方向に沿った第2辺D1の長さHに対する、基材30Aの厚さ方向に沿った第2辺D1の長さVの比が1/2よりも大きくなるように形成されている。すなわち、VとHとの比が、1:2よりも大きくなるように凹部302Aが形成されている。
【0040】
[第2実施形態の作用効果]
このような本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、凹部302Aを規定する第1辺L1および第2辺D1は湾曲している。これにより、凹部302Aを規定する辺は直線に限られないので、凹部302Aを形成するための加工の自由度を高くすることができる。
【0041】
[変形例]
なお、本開示は前述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本開示に含まれるものである。
【0042】
前述した各実施形態では、多層膜32,32Aは、Crを含む材料から構成されるクロム色吸収膜3211を3層有していたが、これに限定されない。例えば、多層膜は、Cr含む材料から構成されるクロム吸収膜が2層以下であってもよい。この場合でも、多層膜の明度L*の値を18以下とすることにより、多層膜に入射された光の反射率を低くすることができるので、基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値を10以下とすることができて、ベンタブラックのような明度L*の値が非常に低い黒色を達成することができる。
また、多層膜32,32Aは、Cr含む材料から構成されるクロム吸収膜を3層以上有していてもよい。
【0043】
前述した各実施形態では、凹部302,302Aは、切削加工、レーザー加工、化学除去加工、研磨加工、および、鍛造・鋳造加工のいずれか一つを用いて形成されていたが、これに限定されない。例えば、凹部は、フェムトレーザー加工、または、ピコレーザー加工を用いて形成されていてもよい。これにより、凹部における第2辺の傾きをより高精度に変化させることができる。
【0044】
前述した各実施形態では、文字板本体部11,11Aの基材30,30Aに凹部302,302Aを形成し、基材30,30Aの表面301,301Aに多層膜32,32Aを積層させていたが、これに限定されない。例えば、文字板のアワーマークの基材に凹部を形成して、多層膜を積層させていてもよい。さらに、文字板本体部とアワーマークとで、直線辺に対する斜辺の傾きを相違させていてもよい。これにより、文字板本体部とアワーマークとで、僅かに色味が異なる黒色を視認させることができて、意匠性を高めることができる。
【0045】
前述した各実施形態では、本開示の時計用部品は文字板10として構成されていたが、これに限定されない。例えば、本開示の時計用部品は、ケース、ダイヤルリング、ガラス縁、ムーブメント、針、および、回転錘のいずれか一つとして構成されていてもよい。
【0046】
[本開示のまとめ]
本開示の時計用部品は、基材と、前記基材の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備え、前記基材における前記多層膜と対向する表面には、複数の凹部が形成され、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第2辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第2辺の長さの比は1/2よりも大きく、前記多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでおり、前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が10以下であることを特徴とする。
本開示では、基材における多層膜と対向する表面には、複数の凹部が形成されている。そして、基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の凹部は、第1辺と、第1辺に対して傾けられ、端部で第1辺と当接する第2辺とにより規定され、基材の厚さ方向と直交する方向に沿った第2辺の長さに対する、基材の厚さ方向に沿った第2辺の長さの比が1/2よりも大きい。これにより、当該凹部に入射される光の反射率を低くすることができる。さらに、本開示では、多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでいるので、多層膜に入射された光の反射率を低くすることができる。これにより、基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値を10以下とすることができるので、ベンタブラックのような明度L*の値が非常に低い黒色を達成することができる。
【0047】
本開示の時計用部品において、前記多層膜は、前記多層膜を平面に配置した場合において、前記多層膜の厚さ方向から見た平面視で、前記明度L*の値が18以下であってもよい。
これにより、多層膜自体の明度を低くするので、より明度L*の値が非常に低い黒色を達成することができる。
【0048】
本開示の時計用部品において、前記多層膜は、Ta、SiO、TiO、Al、ZrO、Nb、HfO、NaAl14、NaAlF、AlF、MgF、CaF、BaF、YF、LaF、CeF、および、NdFの少なくとも1種を含む材料から構成される色調整膜を備えていてもよい。
これにより、これらの無機物は化学的安定性が高いので、時計用部品としての外観の安定性や耐久性を高くすることができる。さらに、明度L*の値が低い黒色のバリエーションの幅を増やすことができる。
【0049】
本開示の時計用部品において、前記色吸収膜は、Crを含む材料から構成される膜の他に、Ag、Pt、Au、Cu、Al、Cr、Sn、Fe、Tiの少なくとも1種を含む材料から構成される膜を有していてもよい。
これにより、時計用部品として高級感のある外観を得ることができる。
【0050】
本開示の時計用部品において、前記多層膜は、Crを含む材料から構成される前記色吸収膜と、Alを含む材料から構成される前記色調整膜と、が積層される箇所を複数備えていてもよい。
これにより、多層膜に入射される光の反射率をより低くすることができるので、より明度L*の値が非常に低い黒色を達成することができる。
【0051】
本開示の時計用部品は、基材と、前記基材の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備え、前記基材における前記多層膜と対向する表面には、複数の凹部が形成され、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第2辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第2辺の長さの比は1/2よりも大きく、前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が10以下であり、前記多層膜は、前記多層膜を平面に配置した場合において、前記多層膜の厚さ方向から見た平面視で、前記明度L*の値が18以下であることを特徴とする。
本開示では、基材における多層膜と対向する表面には、複数の凹部が形成されている。そして、基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の凹部は、第1辺と、第1辺に対して傾けられ、端部で第1辺と当接する第2辺とにより規定され、基材の厚さ方向と直交する方向に沿った第2辺の長さに対する、基材の厚さ方向に沿った第2辺の長さの比が1/2よりも大きい。これにより、当該凹部に入射される光の反射率を低くすることができる。さらに、本開示では、多層膜は、当該多層膜を平面に配置した場合において、多層膜の厚さ方向から見た平面視で、前記明度L*の値が18以下であるので、多層膜に入射された光の反射率を低くすることができる。これにより、基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値を10以下とすることができるので、ベンタブラックのような明度L*の値が非常に低い黒色を達成することができる。
【0052】
本開示の時計は、前記時計用部品を備えることを特徴とする。
【0053】
本開示の時計用部品の製造方法は、基材と、前記基材の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備える時計用部品の製造方法であって、前記基材の表面に複数の凹部を形成する工程と、複数の前記凹部が形成された前記基材の表面の少なくとも一部に、前記多層膜を積層させる工程と、を備え、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第2辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第2辺の長さの比は1/2よりも大きく、前記多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでおり、前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が10以下であることを特徴とする。
本開示では、基材における多層膜と対向する表面には、複数の凹部が形成されている。そして、基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の凹部は、第1辺と、第1辺に対して傾けられ、端部で第1辺と当接する第2辺とにより規定され、基材の厚さ方向と直交する方向に沿った第2辺の長さに対する、基材の厚さ方向に沿った第2辺の長さの比が1/2よりも大きい。これにより、当該凹部に入射される光の反射率を低くすることができる。さらに、本開示では、多層膜は、Crを含む材料から構成される色吸収膜を3層以上含んでいるので、多層膜に入射された光の反射率を低くすることができる。これにより、基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値を10以下とすることができるので、ベンタブラックのような明度L*の値が非常に低い黒色を達成することができる。
【0054】
本開示の時計用部品の製造方法は、基材と、前記基材の少なくとも一部を覆う多層膜と、を備える時計用部品の製造方法であって、前記基材の表面に複数の凹部を形成する工程と、複数の前記凹部が形成された前記基材の表面の少なくとも一部に、前記多層膜を積層させる工程と、を備え、前記基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の前記凹部は、第1辺と、前記第1辺に対して傾けられ、端部で前記第1辺と当接する第2辺とにより規定され、前記断面視において、前記基材の厚さ方向と直交する方向に沿った前記第2辺の長さに対する、前記基材の厚さ方向に沿った前記第2辺の長さの比は1/2よりも大きく、前記基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値が10以下であり、前記多層膜は、前記多層膜を平面に配置した場合において、前記多層膜の厚さ方向から見た平面視で、前記明度L*の値が18以下であることを特徴とする。
本開示では、基材における多層膜と対向する表面には、複数の凹部が形成されている。そして、基材を厚さ方向に切断した断面視で、複数の凹部は、第1辺と、第1辺に対して傾けられ、端部で第1辺と当接する第2辺とにより規定され、基材の厚さ方向と直交する方向に沿った第2辺の長さに対する、基材の厚さ方向に沿った第2辺の長さの比が1/2よりも大きい。これにより、当該凹部に入射される光の反射率を低くすることができる。さらに、本開示では、多層膜は、当該多層膜を平面に配置した場合において、多層膜の厚さ方向から見た平面視で、前記明度L*の値が18以下であるので、多層膜に入射された光の反射率を低くすることができる。これにより、基材の厚さ方向から見た平面視で、L*a*b*色空間における明度L*の値を10以下とすることができるので、ベンタブラックのような明度L*の値が非常に低い黒色を達成することができる。
【0055】
本開示の時計用部品の製造方法において、前記凹部は、切削加工、レーザー加工、パターニング加工、化学除去加工、研磨加工、および、鍛造・鋳造加工のいずれか一つを用いて形成されていてもよい。
これにより、凹部における第2辺の傾きを任意に変化させることができる。
【0056】
本開示の時計用部品の製造方法において、前記凹部は、フェムトレーザー加工、または、ピコレーザー加工を用いて形成されていてもよい。
これにより、凹部における第2辺の傾きをより高精度に変化させることができる。
【0057】
本開示の時計用部品の製造方法において、前記多層膜は、イオンアシスト蒸着、イオンプレーティング蒸着、真空蒸着、および、スパッタリング法のいずれか一つを用いて形成されていてもよい。
これにより、多層膜の層構成を任意に変化させることができる。
【0058】
本開示の時計は、前記時計用部品の製造方法にて製造される時計用部品を用いて構成されることを特徴とする。
【符号の説明】
【0059】
1…時計、2…ケース、3…秒針、4…分針、5…時針、7…りゅうず、8…Aボタン、9…Bボタン、10…文字板(時計用部品)、11,11A…文字板本体部、12…アワーマーク、30,30A…基材、31,31A…下地層、32,32A…多層膜、33,33A…保護層、301,301A…表面、302,302A…凹部、321…色吸収膜、322…色調整膜、3211…クロム色吸収膜、3221…酸化アルミ色調整膜、3222…二酸化ケイ素色調整膜、D…斜辺(第2辺)、L…直線辺(第1辺)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7