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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048672
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】歯車ポンプまたは歯車モータ
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/18 20060101AFI20240402BHJP
   F03C 2/08 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
F04C2/18 311C
F03C2/08 A
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154718
(22)【出願日】2022-09-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡立 浩二
【テーマコード(参考)】
3H041
3H084
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB02
3H041CC11
3H041CC17
3H041DD04
3H041DD12
3H041DD13
3H041DD14
3H041DD24
3H084AA24
3H084AA51
3H084BB01
3H084CC21
3H084CC58
(57)【要約】
【課題】振動または騒音を低減することができるようにする。
【解決手段】歯車ポンプまたは歯車モータは、駆動歯車(2)と、従動歯車(3)と、側板(20)とを備え、歯車(G)は、前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)のうちのいずれかの歯車を示し、前記歯車(G)の歯(G1)の回転軌跡上には、吸込通路(7a)と、吐出通路(7b)と、噛合領域(14)と、回転軌跡領域(15)とが配置され、前記側板(20)には、前記噛合領域(14)と対向する第1開口(25)と、前記回転軌跡領域(15)と対向する第2開口(26)と、前記第1開口(25)と前記第2開口(26)とに連通する送り通路(27)とが設けられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛み合う駆動歯車(2)および従動歯車(3)と、
前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)に対向配置される側板(20)と
を備え、
歯車(G)は、前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)のうちのいずれかの歯車を示し、
前記歯車(G)の歯(G1)の回転軌跡上には、流体が流れる吸込通路(7a)と、前記吸込通路(7a)を流れる流体よりも高圧の流体が流れる吐出通路(7b)と、前記駆動歯車(2)と前記従動歯車(3)とが噛み合う噛合領域(14)と、回転軌跡領域(15)とが、前記歯車(G)の歯(G1)の回転方向に沿って、前記吸込通路(7a)、前記回転軌跡領域(15)、前記吐出通路(7b)、および前記噛合領域(14)の順番に配置され、
前記側板(20)には、
前記噛合領域(14)と対向する第1開口(25)と、
前記回転軌跡領域(15)と対向する第2開口(26)と、
前記第1開口(25)と前記第2開口(26)とに連通する送り通路(27)と
が設けられる、歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項2】
前記側板(20)には、前記回転軌跡領域(15)と対向し、前記吐出通路(7b)と接続される第3開口(28)が設けられ、
前記第3開口(28)は、前記第2開口(26)よりも前記歯車(G)の回転方向(R)側に位置する、請求項1に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項3】
前記歯車(G)の複数の歯溝(G2)のうちのいずれかの歯溝(G2)に対して、前記第3開口(28)が対向している状態で、前記回転軌跡領域(15)のうち、前記第3開口(28)と対向している前記歯溝(G2)が存在している領域とは異なる領域と前記第2開口(26)が対向する、請求項2に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項4】
前記噛合領域(14)では、前記駆動歯車(2)の歯(G1)と前記従動歯車(3)の歯(G1)とで囲まれた閉じ込み領域(H)が形成され、
前記第1開口(25)が前記閉じ込み領域(H)と対向している状態で、前記第2開口(26)と前記第3開口(28)とが前記歯車(G)の複数の歯溝(G2)のうち互いに異なる前記歯溝(G2)と対向する、請求項2に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項5】
前記歯車(G)の複数の歯溝(G2)のうちのいずれかの歯溝(G2)に対して、前記第2開口(26)が対向している状態で、前記第2開口(26)が対向している前記歯溝(G2)と、前記吸込通路(7a)とが、前記歯車(G)の複数の前記歯(G1)のうちの少なくとも1つの前記歯(G1)によって仕切られる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項6】
前記側板(20)は、
前記歯車(G)に対向配置される第1側板(21)と、
前記第1側板(21)に固定される第2側板(22)と
を含み、
前記第1側板(21)の外面のうち前記歯車(G)と対向する対向面(211)には、前記第1開口(25)と前記第2開口(26)とが設けられ、
前記送り通路(27)は、
前記第1側板(21)と前記第2側板(22)との間に設けられる第1通路部分(27a)と、
前記第1側板(21)に設けられ、前記第1通路部分(27a)および前記第1開口(25)に連通する第2通路部分(27b)と、
前記第1側板(21)に設けられ、前記第1通路部分(27a)および前記第2開口(26)に連通する第3通路部分(27c)と
を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項7】
前記第2側板(22)は、制振鋼板または制振合金を含む、請求項6に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯車ポンプまたは歯車モータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、歯車ポンプまたは歯車モータが開示されている。特許文献1に記載の歯車ポンプまたは歯車モータは、歯車(駆動歯車および従動歯車)と、駆動歯車および従動歯車に対向配置される側板とを備える。歯車の回転軌跡上には、駆動歯車の歯と従動歯車の歯とが噛み合う噛合領域が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-223122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
噛合領域では、駆動歯車の歯と従動歯車の歯とで囲まれた閉じ込み領域が形成される。歯車が回転することで、閉じ込み領域が吸込側(吸込通路側)と連通すると、閉じ込み領域内の流体が吸込側へ流れ込むことで、閉じ込み領域を形成していた歯車の歯溝内の流体の圧力が急激に変動する可能性がある。流体の圧力の急激な変動は、振動または騒音を増大させる原因となる可能性がある。
【0005】
本開示の目的は、振動または騒音を低減することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は歯車ポンプまたは歯車モータを対象とする。歯車ポンプまたは歯車モータは、互いに噛み合う駆動歯車(2)および従動歯車(3)と、前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)に対向配置される側板(20)とを備え、歯車(G)は、前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)のうちのいずれかの歯車を示し、前記歯車(G)の歯(G1)の回転軌跡上には、流体が流れる吸込通路(7a)と、前記吸込通路(7a)を流れる流体よりも高圧の流体が流れる吐出通路(7b)と、前記駆動歯車(2)と前記従動歯車(3)とが噛み合う噛合領域(14)と、回転軌跡領域(15)とが、前記歯車(G)の歯(G1)の回転方向に沿って、前記吸込通路(7a)、前記回転軌跡領域(15)、前記吐出通路(7b)、および前記噛合領域(14)の順番に配置され、前記側板(20)には、前記噛合領域(14)と対向する第1開口(25)と、前記回転軌跡領域(15)と対向する第2開口(26)と、前記第1開口(25)と前記第2開口(26)とに連通する送り通路(27)とが設けられる。
【0007】
第1の態様では、振動または騒音を低減することができる。
【0008】
第2の態様は、第1の態様において、前記側板(20)には、前記回転軌跡領域(15)と対向し、前記吐出通路(7b)と接続される第3開口(28)が設けられ、前記第3開口(28)は、前記第2開口(26)よりも前記歯車(G)の回転方向(R)側に位置する。
【0009】
第2の態様では、歯車(G)の歯溝(G2)内の流体の圧力が急激に変化することを抑制できるので、振動または騒音を低減できる。
【0010】
第3の態様は、第2の態様において、前記歯車(G)の複数の歯溝(G2)のうちのいずれかの歯溝(G2)に対して、前記第3開口(28)が対向している状態で、前記回転軌跡領域(15)のうち、前記第3開口(28)と対向している前記歯溝(G2)が存在している領域とは異なる領域と前記第2開口(26)が対向する。
【0011】
第3の態様では、同じ歯溝(G2)に第2開口(26)と第3開口(28)とが同時に対向して、当該歯溝(G2)に対して第2開口(26)からの流体と第3開口(28)からの流体とが同時に供給されることを抑制できる。
【0012】
第4の態様は、第2の態様または第3の態様において、前記噛合領域(14)では、前記駆動歯車(2)の歯(G1)と前記従動歯車(3)の歯(G1)とで囲まれた閉じ込み領域(H)が形成され、前記第1開口(25)が前記閉じ込み領域(H)と対向している状態で、前記第2開口(26)と前記第3開口(28)とが前記歯車(G)の複数の歯溝(G2)のうち互いに異なる前記歯溝(G2)と対向する。
【0013】
第4の態様では、互いに異なる歯溝(G2)に対して第2開口(26)からの流体と第3開口(28)からの流体とを供給する処理を効果的に行うことができる。
【0014】
第5の態様は、第1~第4の態様のいずれか1つにおいて、前記歯車(G)の複数の歯溝(G2)のうちのいずれかの歯溝(G2)に対して、前記第2開口(26)が対向している状態で、前記第2開口(26)が対向している前記歯溝(G2)と、前記吸込通路(7a)とが、前記歯車(G)の複数の前記歯(G1)のうちの少なくとも1つの前記歯(G1)によって仕切られる。
【0015】
第5の態様では、歯溝(G2)内の流体の圧力が急激に上昇することを抑制できる。
【0016】
第6の態様は、第1~第5の態様のいずれか1つにおいて、前記側板(20)は、前記歯車(G)に対向配置される第1側板(21)と、前記第1側板(21)に固定される第2側板(22)とを含み、前記第1側板(21)の外面のうち前記歯車(G)と対向する対向面(211)には、前記第1開口(25)と前記第2開口(26)とが設けられ、前記送り通路(27)は、前記第1側板(21)と前記第2側板(22)との間に設けられる第1通路部分(27a)と、前記第1側板(21)に設けられ、前記第1通路部分(27a)および前記第1開口(25)に連通する第2通路部分(27b)と、前記第1側板(21)に設けられ、前記第1通路部分(27a)および前記第2開口(26)に連通する第3通路部分(27c)とを含む。
【0017】
第6の態様では、第1側板(21)と第2側板(22)との間に第1通路部分(27a)を設けることで、側板(20)内に流体を送るための通路を容易に形成することができる。
【0018】
第7の態様は、第6の態様において、前記第2側板(22)は、制振鋼板または制振合金を含む。
【0019】
第7の態様では、側板(20)が振動することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態に係る歯車ポンプまたは歯車モータの概略の全体構成図である。
図2図2は、歯車の平面図である。
図3図3は、閉じ込み領域を示す平面図である。
図4図4は、側板の断面図である。
図5図5は、第1側板の平面図である。
図6図6は、第1側板の底面図である。
図7図7は、第2側板の平面図である。
図8図8は、第2側板の底面図である。
図9図9は、従来の歯車ポンプまたは歯車モータの歯車を示す平面図である。
図10図10は、従来の歯車ポンプまたは歯車モータの歯車の回転角度と、特定の歯溝内の流体の圧力との関係を示す図である。
図11図11は、本実施形態の歯車ポンプまたは歯車モータの歯車の回転角度と、特定の歯溝内の流体の圧力との関係を示す図である。
図12図12は、歯車の平面図である。
図13図13は、歯車の平面図である。
図14図14は、歯車の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。各図面は、本開示を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて寸法、比または数を誇張または簡略化して表す場合がある。
【0022】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1を参照して、本発明の実施形態に係る歯車ポンプまたは歯車モータ(1)について説明する。図1は、歯車ポンプまたは歯車モータ(1)の断面図である。以下では、歯車ポンプまたは歯車モータ(1)について、歯車ポンプ(1)と記載する。歯車ポンプ(1)は、流体(例えば、作動油)を貯留するタンクから供給される流体を吸い込んで昇圧した後、その流体を吐出して液圧機器に供給する。
【0024】
―全体構成―
図1に示すように、歯車ポンプ(1)は、互いに噛み合う駆動歯車(2)および従動歯車(3)と、駆動歯車(2)および従動歯車(3)をそれぞれ軸支する駆動軸(4)および従動軸(5)と、駆動歯車(2)、従動歯車(3)、駆動軸(4)および従動軸(5)を収納するケーシング(6)とを備えている。本実施形態の歯車ポンプ(1)は、流体を貯留するタンクから供給される流体を吸い込んで昇圧した後、その流体を吐出して液圧機器に供給するものである。
【0025】
以下では、駆動軸(4)の軸(4A)、および従動軸(5)の軸(5A)に対して平行な方向を、第1方向(A)と記載することがある。第1方向(A)に対して垂直な方向のうち、駆動歯車(2)および従動歯車(3)の並び方向と平行な方向を、第2方向(B)と記載することがある。第1方向(A)および第2方向(B)に対して垂直な方向を、第3方向(C)と記載することがある(図2参照)。
【0026】
ケーシング(6)は、本体(7)と、本体(7)に固定されるカバー(9)とを有している。ケーシング(6)に対して第1方向(A)の一方向側(A1)には、カバー(9)が配置される。ケーシング(6)の内部空間(10)は、本体(7)の内部空間とカバー(9)の内部空間とに亘って形成される。
【0027】
ケーシング(6)の内部空間(10)には、駆動歯車(2)と、駆動歯車(2)に固定または一体化される駆動軸(4)と、従動歯車(3)と、従動歯車(3)に固定または一体化される従動軸(5)とが配置される。駆動軸(4)の軸(4A)と、従動軸(5)の軸(5A)とは、互いに平行に配置される。
【0028】
駆動軸(4)は、駆動軸(4)の軸(4A)に沿って駆動歯車(2)の中心を貫通するように延設される。駆動軸(4)は、駆動歯車(2)と共に軸(4A)回りに回転する。従動軸(5)は、従動軸(5)の軸(5A)に沿って従動歯車(3)の中心を貫通するように延設される。従動軸(5)は、従動歯車(3)と共に軸(5A)回りに回転する。
【0029】
駆動歯車(2)と従動歯車(3)とは、互いに噛み合っている。駆動歯車(2)が回転すると、駆動歯車(2)と従動歯車(3)とが噛み合う箇所において、駆動歯車(2)から従動歯車(3)に動力を伝達することで回転する。その結果、駆動歯車(2)と従動歯車(3)とが共に回転する。
【0030】
図1および図2に示すように、駆動歯車(2)および従動歯車(3)はそれぞれ、平歯車として構成され、ケーシング(6)の内部に形成された内部空間(10)に配置されている。
【0031】
駆動軸(4)は、駆動歯車(2)に対して第1方向(A)の一方向側(A1)に位置する第1駆動軸(4a)と、駆動歯車(2)に対して第1方向(A)の他方向側(A2)に位置する第2駆動軸(4b)とを有する。第2駆動軸(4b)には、駆動手段(例えば、原動機)が連結される。従動軸(5)は、従動歯車(3)に対して第1方向(A)の一方向側(A1)に位置する第1従動軸(5a)と、駆動歯車(2)に対して第1方向(A)の他方向側(A2)に位置する第2従動軸(5b)とを有する。
【0032】
歯車ポンプ(1)において、駆動歯車(2)および従動歯車(3)は、相互に噛合した状態で内部空間(10)内に収納され、その歯先が内部空間(10)の内周面に摺接するようになっている。これにより、駆動歯車(2)および従動歯車(3)は、ケーシング(6)の内部空間(10)において噛み合いながら回転する。駆動歯車(2)および従動歯車(3)は回転時に、ケーシング(6)の内部空間(10)の内周面にそれぞれ摺接して内部空間(10)を低圧領域と高圧領域とに区画する。
【0033】
歯車ポンプ(1)は、駆動軸(4)を回転可能に支持する駆動軸受(11)と、従動軸(5)を回転可能に支持する従動軸受(12)とを有する。駆動軸受(11)は、第1駆動軸(4a)を回転可能に支持する第1駆動軸受(11a)と、第2駆動軸(4b)を回転可能に支持する第2駆動軸受(11b)とを有する。従動軸受(12)は、第1従動軸(5a)を回転可能に支持する第1従動軸受(12a)と、第2従動軸(5b)を回転可能に支持する第2従動軸受(12b)とを有する。第1駆動軸受(11a)、第2駆動軸受(11b)、第1従動軸受(12a)および第2従動軸受(12b)の各々は、例えば、滑り軸受を含む。
【0034】
ケーシング(6)の内部空間(10)において、 ケーシング(6)と駆動軸(4)との間には、オイルシール(13)が設けられる。オイルシール(13)は、例えば、ゴム製の部材である。オイルシール(13)は、第2駆動軸受け(11b)に対して第1方向(A)の他方向側(A2)に位置する。
【0035】
歯車ポンプ(1)は、一対の側板(20)と、一対のシール部材(30)とを備える。一対の側板(20)は、駆動歯車(2)および従動歯車(3)を第1方向(A)の両側から挟むようにして配置される。一対の側板(20)の各々は、駆動歯車(2)および従動歯車(3)に対向配置される。一対の側板(20)の各々は、駆動歯車(2)および従動歯車(3)と、ケーシング(6)とで挟まれるように配置される。一対の側板(20)の各々には、駆動軸(4)と従動軸(5)とが挿通される。
【0036】
一対の側板(20)のうちの一方の側板(20A)は、駆動歯車(2)および従動歯車(3)に対して第1方向(A)の一方向側(A1)に配置される。一対の側板(20)のうちの他方の側板(20B)は、駆動歯車(2)および従動歯車(3)に対して第1方向(A)の他方向側(A2)に配置される。一対のシール部材(30)のうちの一方のシール部材(30A)は、側板(20A)に装着される。一対のシール部材(30)のうちの他方のシール部材(30B)は、側板(20B)に装着される。
【0037】
図2に示すように、歯車ポンプ(1)において、ケーシング(6)には、内部空間(10)の低圧領域に通じる吸込通路(7a)と、内部空間(10)の高圧領域に通じる吐出通路(7b)とが形成される。吸込通路(7a)と吐出通路(7b)とは、第3方向(C)に沿って互いに間隔を空けて配置される。吐出通路(7b)を流れる流体の圧力は、吸込通路(7a)を流れる流体の圧力よりも大きい。
【0038】
以下では、駆動歯車(2)および従動歯車(3)のうちのいずれかの歯車を、歯車(G)と記載することがある。また、歯車(G)の軸を、軸(GA)と記載することがある。軸(GA)は、駆動軸(4)の軸(4A)および従動軸(5)の軸(5A)のうちのいずれかの軸を示す。
【0039】
歯車(G)は、複数の歯(G1)を含む。複数の歯(G1)は、歯車(G)の回転方向(R)に沿って並んでいる。複数の歯(G1)は、軸(GA)回りに回転する。隣り合う歯(G1)の間には、空所である歯溝(G2)が形成される。
【0040】
歯車(G)の歯(G1)の回転軌跡上には、吸込通路(7a)と、吐出通路(7b)と、噛合領域(14)と、回転軌跡領域(15)とが存在する。
【0041】
噛合領域(14)は、駆動歯車(2)と従動歯車(3)とが互いに噛み合う領域を示す。噛合領域(14)において、駆動歯車(2)と従動歯車(3)とが互いに噛み合うことで、駆動歯車(2)の歯(G1)と従動歯車(3)の歯(G1)とで囲まれた閉じ込み領域(H)が形成される(図3参照)。
【0042】
図2に示すように、回転軌跡領域(15)は、歯車(G)の回転時に形成される歯(G1)の軌跡のうち、吸込通路(7a)と吐出通路(7b)との間に位置する領域である。回転軌跡領域(15)では、歯車(G)の回転時において、歯溝(G2)内の流体の圧力を上昇させるための処理が行われる。
【0043】
吸込通路(7a)と、吐出通路(7b)と、噛合領域(14)と、回転軌跡領域(15)とは、歯車(G)の歯(G1)の回転方向に沿って、吸込通路(7a)、回転軌跡領域(15)、吐出通路(7b)、および噛合領域(14)の順番に配置される。回転方向(R)は、歯車ポンプ(1)の稼働時に歯車(G)(歯車(G)の歯(G1))が回転する方向を示す。歯車ポンプ(1)が稼働することは、歯車(G)の回転により、吐出通路(7b)、回転軌跡領域(15)、および吐出通路(7b)を通じて液圧機器へ流体を送る処理が行われることを示す。
【0044】
歯車(G)の歯(G1)が回転軌跡領域(15)内を回転する際、歯車(G)の先端(G3)が内部空間(10)の壁面(10a)に摺接する。その結果、歯溝(G2)が閉塞される。
【0045】
歯車ポンプ(1)では、ケーシング(6)の吸込通路(7a)に対し、流体を貯留するタンクからの配管が接続される。吐出通路(7b)には液圧機器へ向かう配管が接続される。駆動歯車(2)の駆動軸(4)を図示しない駆動手段(例えば、原動機)によって回転させると、駆動歯車(2)に噛み合った従動歯車(3)が駆動歯車(2)と共に回転方向(R)に回転する。これにより、内部空間(10)の内周面と歯溝(G2)とによって囲まれた空間の流体が歯車(G)の回転によって回転方向(R)に沿って吐出通路(7b)側へ移送され、その結果、噛合領域(14)を境として、吐出通路(7b)側が高圧側に、吸込通路(7a)側が低圧側になる。
【0046】
流体が吐出通路(7b)側に移送されることによって吸込通路(7a)側が負圧になると、タンク内の流体が配管および吸込通路(7a)を介して低圧側の内部空間(10)内に吸引される。そして、内部空間(10)の内周面と歯溝(G2)とによって囲まれた空間の流体が、歯車(G)の回転によって吸込通路(7a)から回転方向(R)に移送され、回転軌跡領域(15)を通る際に高圧に加圧されて、吐出通路(7b)へ供給される。吐出通路(7b)へ供給された流体は、配管を介して液圧機器に供給される。
【0047】
―側板―
図1、および図4図8に示すように、側板(20)は、略8の字形状を有する。側板(20)は、第1側板(21)と、第2側板(22)とを含む。側板(20)は、第1側板(21)と第2側板(22)とを互いに重ね合わせた形状を有する。
【0048】
第1側板(21)は、一対の円弧部(21a)と、中央部(21b)とを含む。一対の円弧部(21a)の各々は、円弧状に形成される。中央部(21b)は、一対の円弧部(21a)の間に位置し、一対の円弧部(21a)の各々の間に連続する。
【0049】
第1側板(21)の外面は、対向面(211)と、第1合せ面(212)とを含む。対向面(211)は、歯車(G)と対向する。第1合せ面(212)は、対向面(211)の裏側に位置する面である。
【0050】
第2側板(22)の外面は、第2合せ面(221)と、裏面(222)とを含む。第2合せ面(221)は、第1側板(21)の第1合せ面(212)と対向し、第1合せ面(212)に重ね合わされる。裏面(222)は、第2合せ面(221)の裏側に位置する面である。
【0051】
第1側板(21)と第2側板(22)とによって、一組の側板(20)を構成する。側板(20)においては、対向面(211)の裏側に裏面(222)が位置するように構成される。
【0052】
側板(20)には、側板(20)を第1方向(A)に貫通する一対の貫通孔(24)が設けられる。一対の貫通孔(24)は、第2方向(B)に沿って互いに間隔を空けて配置される。一対の貫通孔(24)は、それぞれ、一対の円弧部(21a)(図5参照)と対応する。一対の貫通孔(24)の各々は、対応する円弧部(21a)に設けられる。一対の貫通孔(24)のうちの一方の貫通孔には駆動軸(4)が挿通され、他方の貫通孔には従動軸(5)が挿通される。
【0053】
側板(20)の裏面(222)には、シール部材(30)が装着されるシール溝(222a)が設けられる。シール部材(30)は、例えば、ゴム製の部材である。シール溝(222a)は、裏面(222)を凹ませた形状を有する。
【0054】
第1側板(21)の対向面(211)には、第1開口(25)と、第2開口(26)と、第3開口(28)とが設けられる。
【0055】
第1開口(25)は、噛合領域(14)と対向する場所に設けられる。第2開口(26)は、回転軌跡領域(15)と対向する場所に設けられる。
【0056】
送り通路(27)は、第1開口(25)と第2開口(26)とに連通する。送り通路(27)は、第1通路部分(27a)と、第2通路部分(27b)と、第3通路部分(27c)とを含む。
【0057】
第1通路部分(27a)は、第1側板(21)と第2側板(22)との間に設けられる空所である。本実施形態では、第1側板(21)の第1合せ面(212)に溝を形成し、第2側板(22)の第2合せ面(221)を平面に形成し、第1合せ面(212)の溝と第2合せ面(221)との間の空間により第1通路部分(27a)を形成する。なお、第2側板(22)の第2合せ面(221)に溝を形成し、第1側板(21)の第1合せ面(212)を平面に形成し、第2合せ面(221)の溝と第1側板(21)との間の空間により第1通路部分(27a)を形成してもよい。また、第1合せ面(212)および第2合せ面(221)の各々に溝を形成し、第1合せ面(212)の溝と第2合せ面(221)の溝とで囲まれた空間により第1通路部分(27a)を形成してもよい。
【0058】
第2通路部分(27b)は、第1側板(21)を第1方向(A)に貫通する孔である。第2通路部分(27b)は、第1開口(25)と第1通路部分(27a)とに連通する。
【0059】
第3通路部分(27c)は、第1側板(21)を第1方向(A)に貫通する孔である。第3通路部分(27c)は、第2開口(26)と第1通路部分(27a)とに連通する。
【0060】
中央部(21b)には2つの第1開口(25)が設けられる。一対の円弧部(21a)の各々には第2開口(26)が設けられる。2つの第1開口(25)は、それぞれ、一対の第2開口(26)と対応する。2つの第1開口(25)の各々から対応する第2開口(26)へ向かって送り通路(27)が延びている。第1開口(25)と、第2開口(26)と、送り通路(27)とで構成される一連の溝構造は、一対設けられる。
【0061】
第3開口(28)は、回転軌跡領域(15)と対向する場所に設けられる。第3開口(28)は、吐出通路(7b)と接続される。第3開口(28)は、吐出通路(7b)から第1側板(21)の外周部に沿って、回転軌跡領域(15)と対向しつつ、吸込通路(7a)側へ円弧状に伸びる形状を有する。第3開口(28)は、第2開口(26)よりも歯車(G)の回転方向(R)側に位置する。第3開口(28)は、一対の円弧部(21a)の各々に設けられる。
【0062】
図5に示すように、対向面(211)は、回転軌跡領域(15)(図2参照)と対向する第1対向面(211a)と、噛合領域(14)(図2参照)と対向する第2対向面(211b)と、吸込側逃げ溝(7a1)と、吐出側逃げ溝(7b1)とを含む。第1対向面(211)は、一対の円弧部(21a)の各々に設けられる。第2対向面(211b)は、中央部(21b)に設けられる。吸込側逃げ溝(7a1)は、第2対向面(211b)に対して回転方向(R)の下流に設けられ、吸込通路(7a)の一部を構成する。吐出側逃げ溝(7b1)は、第2対向面(211b)に対して回転方向(R)の上流に設けられ、吐出通路(7b)の一部を構成する。吸込側逃げ溝(7a1)および吐出側逃げ溝(7b1)は、第1対向面(211a)および第2対向面(211b)に対して凹んだ形状を有する。
【0063】
―歯溝内の流体の圧力の変化―
図2に示すように、歯車(G)が回転方向(R)に回転している状態において、歯溝(G2)が吸込通路(7a)上を通過する際、吸込通路(7a)と連通することで、歯溝(G2)内の流体が低圧の状態となる。歯溝(G2)がさらに回転して、第2開口(26)と対向すると、閉じ込み領域(H)内の流体(図3参照)が、第1開口(25)および送り通路(27)を通じて歯溝(G2)へ送られることで、歯溝(G2)内の流体の圧力が上昇する。歯溝(G2)がさらに回転して、第3開口(28)と対向すると、吐出通路(7b)内の高圧の流体が第3開口(28)を通じて歯溝(G2)へ供給される。第3開口(28)からの高圧の流体が歯溝(G2)に供給されると、歯溝(G2)内の流体がさらに上昇して、高圧の状態となる。第3開口(28)を通過した歯溝(G2)は、歯溝(G2)内に高圧の流体を収容した状態で吐出通路(7b)へ向かって回転する。
【0064】
歯溝(G2)内に高圧の流体が収容された状態で歯車(G)が回転することで、歯溝(G2)に収容された高圧の流体により、側板(20)に対して歯車(G)から離間する方向に圧力が付与される。その結果、側板(20)が歯車(G)に接触して摩耗することが抑制される。
【0065】
―試験―
本願発明者は、本実施形態の歯車ポンプ(1)の性能と従来の歯車ポンプ(100)の性能とを比較するための試験を行った。
【0066】
―従来の歯車ポンプの試験結果―
図9に示すように、従来の歯車ポンプ(歯車ポンプまたは歯車モータ)(100)は、第1開口(25)と、第2開口(26)と、送り通路(27)とを含まない点が、本実施形態の歯車ポンプ(1)と異なる。従来の歯車ポンプにおいて、複数の歯溝のうちの特定の歯溝(101)に着目して説明する。
【0067】
図10は、従来の歯車ポンプ(100)の歯車(102)(駆動歯車および従動歯車のうちのいずれかの歯車)の回転角度と、特定の歯溝(101)内の流体の圧力との関係を示す。特定の歯溝(101)は、歯車(102)の複数の歯溝(101)のうちのいずれかの歯溝(101)を示す。
【0068】
図9および図10に示すように、従来の歯車ポンプ(100)では、特定の歯溝(101)が吸込通路(103)と開口(104)との間に位置する状態では、特定の歯溝(101)内の流体が低圧となる(図10の矢印(V1)参照)。特定の歯溝(101)が開口(104)と対向すると、開口(104)を通じて吐出通路(105)内の高圧の流体が特定の歯溝(101)内へ供給されることで、特定の歯溝(101)内の流体の圧力が急激に上昇する(図10の矢印(V2)参照)。特定の歯溝(101)が開口(104)と対向してから噛合領域(106)に到達するまでは、特定の歯溝(101)内の流体が高圧の状態となる(図10の矢印(V3)参照)。特定の歯溝(101)が噛合領域(106)に到達することで、特定の歯溝(101)内に閉じ込み領域(107)が形成されると、特定の歯溝(101)内の流体が閉じ込み領域(107)内で圧縮されることで、特定の歯溝(101)内の流体の圧力がさらに上昇する(図10の矢印(V4)参照)。特定の歯溝(101)内の流体の圧力がさらに上昇した状態で、特定の歯溝(101)により形成される閉じ込み領域(107)が噛合領域(106)を通過することで吸込通路(103)と連通されると、吸込通路(103)内の流体との圧力差により、特定の歯溝(101)内の高圧の流体が急激に吸入側(吸込通路(103)側)へ送られることで、特定の歯溝(101)内の流体の圧力が急激に低下する(図10の矢印(V5)参照)。歯溝(101)内の流体の圧力の急激な変化は、振動または騒音を増大させる原因となる可能性がある。また、閉じ込み領域(107)が吸入側に連通した瞬間に、閉じ込み領域(107)で圧縮されていた高圧の流体が吸入側へ流れ込むことでキャビテーションが発生し、その結果、歯車ポンプ(100)の部品がダメージを受ける可能性がある。
【0069】
―本実施形態の歯車ポンプの試験結果―
図11は、本実施形態の歯車ポンプ(1)の歯車(G)の回転角度と、特定の歯溝(G2)内の流体の圧力との関係を示す。特定の歯溝(G2)は、歯車(G)の複数の歯溝(G2)のうちのいずれかの歯溝(G2)を示す。
【0070】
図2および図11に示すように、本実施形態の歯車ポンプ(1)では、特定の歯溝(G2)が吸込通路(7a)と第2開口(26)との間に位置する状態では、歯溝(101)内の流体が低圧となる(図11の矢印(W1)参照)。特定の歯溝(G2)が第2開口(26)と対向すると、第1開口(25)、および送り通路(27)(図5参照)、第2開口(26)を通じて閉じ込み領域(H)内の流体(図3参照)が特定の歯溝(G2)へ供給されることで、特定の歯溝(G2)内の流体の圧力が上昇する(図11の矢印(W2)参照)。特定の歯溝(G2)がさらに回転して第3開口(28)と対向すると、第3開口(28)を通じて特定の歯溝(G2)内に吐出通路(7b)内の高圧の流体が供給されることで、特定の歯溝(G2)内の流体の圧力がさらに上昇する(図11の矢印(W2)参照)。本実施形態の歯車ポンプ(1)では、特定の歯溝(G2)内には、第2開口(26)からの流体と、第3開口(28)からの流体とが段階的に送られることで、図11の矢印(W2)に示すように、特定の歯溝(G2)内の流体の圧力が、急激に上昇することが抑制されて、徐々にまたは段階的に上昇する。
【0071】
本実施形態の歯車ポンプ(1)において、特定の歯溝(G2)が第3開口(28)と対向してから噛合領域(14)に到達するまでは、特定の歯溝(G2)内の流体が高圧の状態となる(図11の矢印(W3)参照)。特定の歯溝(G2)が噛合領域(14)に到達することで特定の歯溝(G2)内に閉じ込み領域(H)(図3参照)が形成されるが、閉じ込み領域(H)の流体は第1開口(25)、送り通路(27)(図5参照)、および第2開口(26)を通じて他の歯溝(G2)へ送られる。これにより、閉じ込み領域(H)が噛合領域(14)を通過している際、閉じ込み領域(H)を形成する特定の歯溝(G2)内の流体の圧力が低下していく(図11の矢印(W4)参照)。特定の歯溝(G2)により形成される閉じ込み領域(H)が噛合領域(14)を通過することで吸入側(吸込通路(H)側)と連通されると、吸込通路(7a)内の流体との圧力差により特定の歯溝(G2)内の流体が吸入側へ送られることで、特定の歯溝(G2)内の流体の圧力がさらに低下する(図11の矢印(W4)参照)。本実施形態の歯車ポンプ(1)では、閉じ込み領域(H)が噛合領域(106)を通過する際に、閉じ込み領域(H)を形成する特定の歯溝(G2)内の流体が第1開口(25)から他の歯溝(G2)へ送られるので、特定の歯溝(G2)内の流体の圧力がある程度低下した状態となる。その結果、図11の矢印(W4)に示すように、特定の歯溝(G2)により形成される閉じ込み領域(H)が、噛合領域(106)を通過して吸入側と連通しても、特定の歯溝(G2)内の流体の圧力が、急激に低下することが抑制されて、徐々にまたは段階的に低下する。
【0072】
以上のように、本実施形態の歯車ポンプ(1)は、従来の歯車ポンプ(100)と比べて、歯溝(G2)内の流体の圧力が急激に変化することを抑制できる。その結果、歯車ポンプ(1)に発生する振動または騒音を低減することができる。また、噛合領域(106)を通過した直後の歯溝(G2)(閉じ込み領域(H))から吸入側へ高圧の流体が流れ込むことを抑制できるので、キャビテーションにより歯車ポンプ(1)の部品がダメージを受けることを抑制できる。
【0073】
―効果―
以上のように、側板(20)には、噛合領域(14)と対向する第1開口(25)と、回転軌跡領域(15)と対向する第2開口(26)と、第1開口(25)と第2開口(26)とに連通する送り通路(27)とが設けられる。これにより、閉じ込み領域(H)内で高圧となった流体を、第1開口(25)から送り通路(27)および第2開口(26)を通じて回転軌跡領域(15)へ送ることで、閉じ込み領域(H)が噛合領域(14)を通過するよりも前に、閉じ込み領域(H)内の流体の圧力を低減することができる。これによると、閉じ込み領域(H)が噛合領域(14)を通過後、閉じ込み領域(H)内の流体が吸込側逃げ溝(7a1)へ供給されても、歯溝(G2)内の流体の圧力が急激に変化することを抑制できる。その結果、歯車ポンプ(1)に発生する振動または騒音を低減することができる。また、キャビテーションにより歯車ポンプ(1)の部品がダメージを受けることを抑制できる。
【0074】
また、第3開口(28)は、第2開口(26)よりも歯車(G)の回転方向(R)側に位置する。これにより、歯溝(G2)に対し、第2開口(26)を通じて閉じ込み領域(H)内の流体を供給した後、第3開口(28)を通じて吐出通路(7b)内の流体を供給することで、歯溝(G2)内の流体の圧力を徐々にまたは段階的に上昇させることができる。その結果、歯溝(G2)内の流体の圧力が急激に変化することを抑制できるので、歯車ポンプまたは歯車モータに発生する振動または騒音を低減することができる。
【0075】
また、歯車(G)の回転が速くなると、閉じ込み領域(107)の流体に異常高圧が発生する可能性があるが、第1開口(25)の開口面積および送り通路(27)の容積を異常高圧の大きさに応じて設定することで異常高圧を低減できる。また、閉じ込み領域(H)の流体を送り通路(27)により回転軌跡領域(15)内の歯溝(G2)へ送ることで、回転軌跡領域(15)内の歯溝(G2)へ流体を供給することができるので、回転軌跡領域(15)内の歯溝(G2)に対する流体の輸送効率を高めることができる。
【0076】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう(例えば、下記(1)~(5))。また、以上の実施形態、変形例、その他の実施形態は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【0077】
(1)複数の歯溝(G2)のうちのいずれかの歯溝(G2)に対して第3開口(28)が対向している状態で、回転軌跡領域(15)のうち当該第3開口(28)と対向する歯溝(G2)が存在している領域とは異なる領域と第2開口(26)が対向することが好ましい。すなわち、第2開口(26)と第3開口(28)とが、図12に示すように、同時に同一の歯溝(G2)と対向しないことが好ましく、図13に示すように、同時に同一の歯溝(G2)と対向することが好ましくない。このように構成することで、図13に示すように、同じ歯溝(G2)に第2開口(26)と第3開口(28)とが同時に対向して、当該歯溝(G2)に対して第2開口(26)からの流体と第3開口(28)からの流体とが同時に供給されることで、当該歯溝(G2)内の流体の圧力が急激に変化することを抑制できる。
【0078】
(2)図12に示すように、第1開口(25)が閉じ込み領域(H)と対向している状態で、第2開口(26)と第3開口(28)とが互いに異なる歯溝(G2)と対向することが好ましい。このように構成することで、互いに異なる歯溝(G2)に対して第2開口(26)からの流体と第3開口(28)からの流体とを供給する処理を効果的に行うことができる。
【0079】
(3)図14には、複数の歯溝(G2)のうちのいずれかの歯溝(G2)に対して第2開口(26)が対向している状態で、当該第2開口(26)と対向する歯溝(G2)と吸込通路(7a)とが歯(G1)によって仕切られておらず、互いに連通している構成が示されている。この構成の場合、閉じ込み領域(H)内の流体が第2開口(26)から当該歯溝(G2)内に供給されても、当該流体が吸込通路(7a)へ送られることで当該歯溝(G2)内の流体の圧力が上昇せず、吸込通路(7a)の流体の圧力と同じ大きさ(低圧の状態)になる。この場合、当該歯溝(G2)がさらに回転して、第3開口(28)と対向することで当該歯溝(G2)に第3開口(28)から高圧の流体が供給されると、当該歯溝(G2)内の流体の圧力が低圧から高圧に急激に上昇する問題が生じる可能性がある。
【0080】
上記問題が生じることを抑制するためには、図12に示すように、複数の歯溝(G2)のうちのいずれかの歯溝(G2)に対して第2開口(26)が対向している状態で、当該第2開口(26)と対向する歯溝(G2)と、吸込通路(7a)とが、少なくとも1つの歯(G1)によって仕切られることで互いに連通されないことが好ましい。この構成では、閉じ込み領域(H)内の流体が第2開口(26)から当該歯溝(G2)内に供給されると、当該流体が吸込通路(7a)へ送られることが歯(G1)によって抑制され、当該流体が当該歯溝(G2)内に収容された状態となる。これにより、当該歯溝(G2)内の流体の圧力が、吸込通路(7a)内の流体の圧力よりも上昇した状態を保持できる(第1の上昇)。この状態から、当該歯溝(G2)がさらに回転して、当該歯溝(G2)に第3開口(28)から高圧の流体が供給されることで、当該歯溝(G2)内の流体の圧力をさらに上昇させることができる(第2の上昇)。よって、第1の上昇と第2の上昇とにより当該歯溝(G2)内の流体の圧力を徐々にまたは段階的に上昇させる処理を効果的に行うことで、当該歯溝(G2)内の流体の圧力が急激に上昇することを抑制できる。
【0081】
(4)図1および図4に示すように、第1側板(21)は、銅合金を含んでいてもよい。これにより、歯車(G)の回転時に、第1側板(21)に対する歯車(G)の摺動性を向上させることができる。また、第2側板(22)は、制振鋼板または制振合金を含んでいてもよい。これにより、側板(20)の振動を効果的に低減できる。
【0082】
(5)図1および図4に示すように、本実施形態では、側板(20)は2つの板材(第1側板(21)と第2側板(22))で構成されているが、本発明はこれに限定されない。側板(20)は、1つの板材で構成されていてもよく、または、3つ以上の板材で構成されてもよい。
【0083】
(6)図2に示すように、本実施形態の第3開口(28)は、吐出通路(7b)から側板(20)の外周部に沿って吸込通路(7a)側へ円弧状に伸びる形状を有することで、吐出通路(7b)と接続される。しかし、本発明は、これに限定されない、第3開口(28)の形状は特に限定されない。第3開口(28)は、例えば、吐出通路(7b)と連通されておらず、回転軌跡領域(15)と対向するようにして吐出通路(7b)から離間した場所に位置する開口であってもよい。この場合、側板(20)には、側板(20)内に設けられる孔、および/または、側板(20)の円弧状の側部に形成される溝によって、通路が形成される。そして、当該通路が、第3開口(28)と、吐出通路(7b)とに連通されることで、当該通路を介して第3開口(28)と吐出通路(7b)とが接続される。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上に説明したように、本開示は、歯車ポンプまたは歯車モータについて有用である。
【符号の説明】
【0085】
1 歯車ポンプまたは歯車モータ
2 駆動歯車
3 従動歯車
7a 吸込通路
7b 吐出通路
14 噛合領域
15 回転軌跡領域
20 側板
25 第1開口
26 第2開口
27 送り通路
G 歯車
G1 歯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2023-10-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛み合う駆動歯車(2)および従動歯車(3)と、
前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)に対向配置される側板(20)と
を備え、
歯車(G)は、前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)のうちのいずれかの歯車を示し、
前記歯車(G)の歯(G1)の回転軌跡上には、流体が流れる吸込通路(7a)と、前記吸込通路(7a)を流れる流体よりも高圧の流体が流れる吐出通路(7b)と、前記駆動歯車(2)と前記従動歯車(3)とが噛み合う噛合領域(14)と、回転軌跡領域(15)とが、前記歯車(G)の歯(G1)の回転方向に沿って、前記吸込通路(7a)、前記回転軌跡領域(15)、前記吐出通路(7b)、および前記噛合領域(14)の順番に配置され、
前記側板(20)には、
前記噛合領域(14)と対向する第1開口(25)と、
前記回転軌跡領域(15)と対向する第2開口(26)と、
前記第1開口(25)と前記第2開口(26)とに連通する送り通路(27)と
が設けられ
前記歯車(G)の複数の歯溝(G2)のうちのいずれかの歯溝(G2)に対して、前記第2開口(26)が対向している状態で、前記第2開口(26)が対向している前記歯溝(G2)と、前記吸込通路(7a)とが、前記歯車(G)の複数の前記歯(G1)のうちの少なくとも1つの前記歯(G1)によって仕切られる、歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項2】
互いに噛み合う駆動歯車(2)および従動歯車(3)と、
前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)に対向配置される側板(20)と
を備え、
歯車(G)は、前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)のうちのいずれかの歯車を示し、
前記歯車(G)の歯(G1)の回転軌跡上には、流体が流れる吸込通路(7a)と、前記吸込通路(7a)を流れる流体よりも高圧の流体が流れる吐出通路(7b)と、前記駆動歯車(2)と前記従動歯車(3)とが噛み合う噛合領域(14)と、回転軌跡領域(15)とが、前記歯車(G)の歯(G1)の回転方向に沿って、前記吸込通路(7a)、前記回転軌跡領域(15)、前記吐出通路(7b)、および前記噛合領域(14)の順番に配置され、
前記側板(20)には、
前記噛合領域(14)と対向する第1開口(25)と、
前記回転軌跡領域(15)と対向する第2開口(26)と、
前記第1開口(25)と前記第2開口(26)とに連通する送り通路(27)と
が設けられ、
前記側板(20)は、
前記歯車(G)に対向配置される第1側板(21)と、
前記第1側板(21)に固定される第2側板(22)と
を含み、
前記第1側板(21)の外面のうち前記歯車(G)と対向する対向面(211)には、前記第1開口(25)と前記第2開口(26)とが設けられ、
前記送り通路(27)は、
前記第1側板(21)と前記第2側板(22)との間に設けられる第1通路部分(27a)と、
前記第1側板(21)に設けられ、前記第1通路部分(27a)および前記第1開口(25)に連通する第2通路部分(27b)と、
前記第1側板(21)に設けられ、前記第1通路部分(27a)および前記第2開口(26)に連通する第3通路部分(27c)と
を含む、歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項3】
互いに噛み合う駆動歯車(2)および従動歯車(3)と、
前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)に対向配置される側板(20)と
を備え、
歯車(G)は、前記駆動歯車(2)および前記従動歯車(3)のうちのいずれかの歯車を示し、
前記歯車(G)の歯(G1)の回転軌跡上には、流体が流れる吸込通路(7a)と、前記吸込通路(7a)を流れる流体よりも高圧の流体が流れる吐出通路(7b)と、前記駆動歯車(2)と前記従動歯車(3)とが噛み合う噛合領域(14)と、回転軌跡領域(15)とが、前記歯車(G)の歯(G1)の回転方向に沿って、前記吸込通路(7a)、前記回転軌跡領域(15)、前記吐出通路(7b)、および前記噛合領域(14)の順番に配置され、
前記側板(20)には、
前記噛合領域(14)と対向する第1開口(25)と、
前記回転軌跡領域(15)と対向する第2開口(26)と、
前記第1開口(25)と前記第2開口(26)とに連通し、前記第1開口(25)から前記第2開口(26)へ向けて流体を送る送り通路(27)と
が設けられる、歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項4】
前記側板(20)には、前記回転軌跡領域(15)と対向し、前記吐出通路(7b)と接続される第3開口(28)が設けられ、
前記第3開口(28)は、前記第2開口(26)よりも前記歯車(G)の回転方向(R)側に位置する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項5】
前記歯車(G)の複数の歯溝(G2)のうちのいずれかの歯溝(G2)に対して、前記第3開口(28)が対向している状態で、前記回転軌跡領域(15)のうち、前記第3開口(28)と対向している前記歯溝(G2)が存在している領域とは異なる領域と前記第2開口(26)が対向する、請求項に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項6】
前記噛合領域(14)では、前記駆動歯車(2)の歯(G1)と前記従動歯車(3)の歯(G1)とで囲まれた閉じ込み領域(H)が形成され、
前記第1開口(25)が前記閉じ込み領域(H)と対向している状態で、前記第2開口(26)と前記第3開口(28)とが前記歯車(G)の複数の歯溝(G2)のうち互いに異なる前記歯溝(G2)と対向する、請求項に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項7】
前記歯車(G)の複数の歯溝(G2)のうちのいずれかの歯溝(G2)に対して、前記第2開口(26)が対向している状態で、前記第2開口(26)が対向している前記歯溝(G2)と、前記吸込通路(7a)とが、前記歯車(G)の複数の前記歯(G1)のうちの少なくとも1つの前記歯(G1)によって仕切られる、請求項2又は請求項3に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項8】
前記側板(20)は、
前記歯車(G)に対向配置される第1側板(21)と、
前記第1側板(21)に固定される第2側板(22)と
を含み、
前記第1側板(21)の外面のうち前記歯車(G)と対向する対向面(211)には、前記第1開口(25)と前記第2開口(26)とが設けられ、
前記送り通路(27)は、
前記第1側板(21)と前記第2側板(22)との間に設けられる第1通路部分(27a)と、
前記第1側板(21)に設けられ、前記第1通路部分(27a)および前記第1開口(25)に連通する第2通路部分(27b)と、
前記第1側板(21)に設けられ、前記第1通路部分(27a)および前記第2開口(26)に連通する第3通路部分(27c)と
を含む、請求項1又は請求項3に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。
【請求項9】
前記第2側板(22)は、制振鋼板または制振合金を含む、請求項に記載の歯車ポンプまたは歯車モータ。