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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048705
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
G01C15/00 103D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154773
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100083563
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 祥二
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 太一
(57)【要約】      (修正有)
【課題】外光の受光を抑制し、測定精度の向上を図る測定装置を提供する。
【解決手段】測定対象物に測距光32を射出する測距光射出部23と、前記測定対象物からの反射測距光39を受光する受光素子34を有する測距光受光部24と、前記測距光射出部を制御し、前記受光素子に対する前記反射測距光の受光結果に基づき前記測定対象物迄の距離を演算する演算制御部とを具備し、前記測距光受光部は、前記反射測距光の光軸上に設けられた波長選択部35を有し、該波長選択部は、前記波長選択部に対する前記反射測距光の入射角の増加に対応して膜厚を増加させる波長選択膜を有する様構成された。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に測距光を射出する測距光射出部と、前記測定対象物からの反射測距光を受光する受光素子を有する測距光受光部と、前記測距光射出部を制御し、前記受光素子に対する前記反射測距光の受光結果に基づき前記測定対象物迄の距離を演算する演算制御部とを具備し、前記測距光受光部は、前記反射測距光の光軸上に設けられた波長選択部を有し、該波長選択部は、前記波長選択部に対する前記反射測距光の入射角の増加に対応して膜厚を増加させる波長選択膜を有する様構成された測定装置。
【請求項2】
前記波長選択膜の膜厚は、該波長選択膜に対する前記反射測距光の入射角に拘らず透過波長が一定又は略一定となる様に設定された請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記波長選択部は、前記反射測距光の光軸と直交する様に配置され、前記波長選択膜は前記波長選択部の入射面又は射出面に形成され、前記反射測距光は入射角が回転対称となった状態で前記波長選択膜に入射する様に構成された請求項1又は請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記波長選択部は、前記反射測距光が回転対称となった状態で入射する面に形成された波長選択膜である請求項1又は請求項2に記載の測定装置。
【請求項5】
前記波長選択膜の勾配は、前記反射測距光の入射角が15°以下の時に1次の多項式で近似可能に構成された請求項1又は請求項2に記載の測定装置。
【請求項6】
前記波長選択膜の勾配は、前記反射測距光の入射角が30°以下の時に2次以下の多項式で近似可能に構成された請求項1又は請求項2に記載の測定装置。
【請求項7】
前記波長選択膜の勾配は、前記反射測距光の入射角が75°以下の時に3次以下の多項式で近似可能に構成された請求項1又は請求項2に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の3次元座標を取得可能な測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザスキャナやトータルステーション等の測定装置は、測定対象物として再帰反射性を有するプリズムを用いたプリズム測距、反射プリズムを用いないノンプリズム測距により測定対象物迄の距離を検出する光波距離測定装置を有している。
【0003】
測定装置では、測定対象物に測距光を射出し、測定対象物で反射された反射測距光に基づき測定対象物までの距離を測定している。然し乍ら、従来の測定装置では、反射測距光と共に外光が受光される場合があり、測定精度の低下の原因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-25993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、外光の受光を抑制し、測定精度の向上を図る測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、測定対象物に測距光を射出する測距光射出部と、前記測定対象物からの反射測距光を受光する受光素子を有する測距光受光部と、前記測距光射出部を制御し、前記受光素子に対する前記反射測距光の受光結果に基づき前記測定対象物迄の距離を演算する演算制御部とを具備し、前記測距光受光部は、前記反射測距光の光軸上に設けられた波長選択部を有し、該波長選択部は、前記波長選択部に対する前記反射測距光の入射角の増加に対応して膜厚を増加させる波長選択膜を有する様構成された測定装置に係るものである。
【0007】
又本発明は、前記波長選択膜の膜厚は、該波長選択膜に対する前記反射測距光の入射角に拘らず透過波長が一定又は略一定となる様に設定された測定装置に係るものである。
【0008】
又本発明は、前記波長選択部は、前記反射測距光の光軸と直交する様に配置され、前記波長選択膜は前記波長選択部の入射面又は射出面に形成され、前記反射測距光は入射角が回転対称となった状態で前記波長選択膜に入射する様に構成された測定装置に係るものである。
【0009】
又本発明は、前記波長選択部は、前記反射測距光が回転対称となった状態で入射する面に形成された波長選択膜である測定装置に係るものである。
【0010】
又本発明は、前記波長選択膜の勾配は、前記反射測距光の入射角が15°以下の時に1次の多項式で近似可能に構成された測定装置に係るものである。
【0011】
又本発明は、前記波長選択膜の勾配は、前記反射測距光の入射角が30°以下の時に2次以下の多項式で近似可能に構成された測定装置に係るものである。
【0012】
更に又本発明は、前記波長選択膜の勾配は、前記反射測距光の入射角が75°以下の時に3次以下の多項式で近似可能に構成された測定装置に係るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、測定対象物に測距光を射出する測距光射出部と、前記測定対象物からの反射測距光を受光する受光素子を有する測距光受光部と、前記測距光射出部を制御し、前記受光素子に対する前記反射測距光の受光結果に基づき前記測定対象物迄の距離を演算する演算制御部とを具備し、前記測距光受光部は、前記反射測距光の光軸上に設けられた波長選択部を有し、該波長選択部は、前記波長選択部に対する前記反射測距光の入射角の増加に対応して膜厚を増加させる波長選択膜を有する様構成されたので、前記反射測距光のみが選択して透過され、外光の受光を抑制でき、測定精度の向上を図ることができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施例に係る測定装置を示す正断面図である。
図2】本発明の第1の実施例に係る距離測定部を示す構成図である。
図3】本発明の第1の実施例に係る距離測定部を示す構成図である。
図4】(A)は本発明の第1の実施例に係る波長選択部材に於ける入射角毎の透過波長を説明するグラフであり、(B)は膜厚を一定とした波長選択部材に於ける入射角毎の透過波長を説明するグラフである。
図5】本発明の第1の実施例に係る波長選択部材を説明する側断面図である。
図6】前記波長選択部材の凹部の中心から外周への膜厚の勾配を示す曲線を説明するグラフである。
図7】入射角と相対膜厚との関係を3次の多項式で示したグラフの一例である。
図8】有効径と相対膜厚との関係を6次の多項式で示したグラフの一例である。
図9】1次、2次、3次の多項式で近似させた凹部の勾配に於ける入射角とシフト誤差との関係を説明するグラフである。
図10】1次、2次、6次の多項式で近似させた凹部の勾配に於ける有効径とシフト誤差との関係を説明するグラフである。
図11】本発明の第2の実施例に係る距離測定部を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0016】
先ず、図1に於いて、本発明の第1の実施例に係る測定装置について説明する。
【0017】
測定装置1は、例えばレーザスキャナであり、三脚(図示せず)に取付けられる整準部2と、該整準部2に取付けられた測定装置本体3とから構成される。
【0018】
前記整準部2は整準ネジ10を有し、該整準ネジ10により前記測定装置本体3の整準を行う。
【0019】
該測定装置本体3は、固定部4と、托架部5と、水平回転軸6と、水平回転軸受7と、水平回転駆動部としての水平回転モータ8と、水平角検出部としての水平角エンコーダ9と、鉛直回転軸11と、鉛直回転軸受12と、鉛直回転駆動部としての鉛直回転モータ13と、鉛直角検出部としての鉛直角エンコーダ14と、鉛直回転部である走査ミラー15と、操作部と表示部とを兼用する操作パネル16と、演算制御部17と、記憶部18と、距離測定部19等を具備している。尚、前記演算制御部17としては、本装置に特化したCPU、或は汎用CPUが用いられる。
【0020】
前記水平回転軸受7は前記固定部4に固定される。前記水平回転軸6は鉛直な軸心6aを有し、前記水平回転軸6は前記水平回転軸受7に回転自在に支持される。又、前記托架部5は前記水平回転軸6に支持され、前記托架部5は水平方向に前記水平回転軸6と一体に回転する様になっている。
【0021】
前記水平回転軸受7と前記托架部5との間には前記水平回転モータ8が設けられ、該水平回転モータ8は前記演算制御部17により制御される。該演算制御部17は、前記水平回転モータ8により、前記托架部5を前記軸心6aを中心に回転させる。
【0022】
前記托架部5の前記固定部4に対する相対回転角は、前記水平角エンコーダ9によって検出される。該水平角エンコーダ9からの検出信号は前記演算制御部17に入力され、該演算制御部17により水平角データが演算される。該演算制御部17は、前記水平角データに基づき、前記水平回転モータ8に対するフィードバック制御を行う。
【0023】
又、前記托架部5には、水平な軸心11aを有する前記鉛直回転軸11が設けられている。該鉛直回転軸11は、前記鉛直回転軸受12を介して回転自在となっている。尚、前記軸心6aと前記軸心11aの交点が、測距光の射出位置であり、前記測定装置本体3の座標系の原点となっている。
【0024】
前記托架部5には、凹部22が形成されている。前記鉛直回転軸11は、一端部が前記凹部22内に延出し、前記一端部に前記走査ミラー15が固着され、該走査ミラー15は前記凹部22に収納されている。又、前記鉛直回転軸11の他端部には、前記鉛直角エンコーダ14が設けられている。
【0025】
前記鉛直回転軸11に前記鉛直回転モータ13が設けられ、該鉛直回転モータ13は前記演算制御部17に制御される。該演算制御部17は、前記鉛直回転モータ13により前記鉛直回転軸11を回転させ、前記走査ミラー15は前記軸心11aを中心に回転される。
【0026】
前記走査ミラー15の回転角は、前記鉛直角エンコーダ14によって検出され、検出信号は前記演算制御部17に入力される。該演算制御部17は、検出信号に基づき前記走査ミラー15の鉛直角データを演算し、該鉛直角データに基づき前記鉛直回転モータ13に対するフィードバック制御を行う。
【0027】
又、前記演算制御部17で演算された水平角データ、鉛直角データや測定結果は、前記記憶部18に保存される。該記憶部18としては、磁気記憶装置としてのHDD、光記憶装置としてのCD、DVD、半導体記憶装置としてのメモリカード、USBメモリ等種々の記憶手段が用いられる。該記憶部18は、前記托架部5に対して着脱可能であってもよく、或は図示しない通信手段を介して外部記憶装置や外部データ処理装置にデータを送出可能としてもよい。
【0028】
前記記憶部18には、測距作動を制御するシーケンスプログラム、測距作動により距離を演算する演算プログラム、水平角データ及び鉛直角データに基づき角度を演算する演算プログラム、距離と角度に基づき所望の測定点の3次元座標を演算するプログラム等の各種プログラムが格納される。又、前記演算制御部17により各種プログラムが実行されることで、各種処理が実行される。
【0029】
前記操作パネル16は、例えばタッチパネルであり、測距の指示や測定条件、例えば測定点間隔の変更等を行う操作部と、測距結果や画像等を表示する表示部とを兼用している。
【0030】
次に、図2図3を参照して、前記距離測定部19について説明する。
【0031】
該距離測定部19は、測距光射出部23と測距光受光部24とを有している。尚、前記測距光射出部23と前記測距光受光部24とにより測距部が構成される。
【0032】
前記測距光射出部23は、測距光軸25を有している。又、前記測距光射出部23は、発光側から順に、前記測距光軸25上に設けられた発光素子26、例えばレーザダイオード(LD)と、コリメータレンズ27と、窓部28に取付けられた反射プリズム29とを有している。又、該反射プリズム29の反射光軸上には、前記窓部28と前記走査ミラー15が設けられている。
【0033】
尚、前記コリメータレンズ27、前記反射プリズム29等は投光光学系31を構成する。又、本実施例では、前記測距光軸25と、前記反射プリズム29で反射された前記測距光軸25とを総称して、該測距光軸25としている。
【0034】
前記発光素子26は、所定波長、例えば870nm付近(870nmを中心とした所定範囲の波長)のレーザ光線を測距光32として射出し、前記コリメータレンズ27は、前記測距光32を平行光束とする様構成される。
【0035】
前記反射プリズム29は、三角形のプリズムであり、該反射プリズム29に入射した前記測距光32(前記測距光軸25)を直角に偏向する様に構成されている。前記反射プリズム29に反射された前記測距光32は、前記窓部28を透過して前記走査ミラー15に入射する。尚、前記反射プリズム29と前記窓部28との接合面に、反射防止膜を設けてもよい。
【0036】
前記測距光受光部24は、前記受光光軸33を有している。又、前記測距光受光部24は、受光側から順に前記受光光軸33上に設けられた前記受光素子34と、波長選択部としての波長選択部材35と、反射ミラー36を有すると共に、該反射ミラー36で反射された前記受光光軸33上に設けられた所定のNAを有する受光レンズ37を有している。
【0037】
尚、前記波長選択部材35、前記反射ミラー36、前記受光レンズ37等で受光光学系38が構成される。又、本実施例では、前記受光光軸33と、前記反射ミラー36で反射された前記受光光軸33とを総称して、該受光光軸33としている。
【0038】
前記距離測定部19は、前記演算制御部17により制御される。前記発光素子26から前記測距光軸25上にパルス状の前記測距光32が射出されると、該測距光32は前記コリメータレンズ27により平行光束とされ、前記反射プリズム29で前記受光光軸33及び前記軸心11aと同軸になる様反射される。
【0039】
前記反射プリズム29で反射された前記測距光32は、前記窓部28を介して前記走査ミラー15に入射し、該走査ミラー15によって直角に偏向され、測定対象物に照射される。前記走査ミラー15が前記軸心11aを中心に回転することで、前記測距光32は前記軸心11aと直交し、且つ前記軸心6aを含む平面内で回転(走査)される。
【0040】
測定対象物で反射された前記測距光32(以下、反射測距光39)は、前記走査ミラー15で直角に反射され、前記受光光学系38、を経て前記受光素子34で受光される。即ち、前記受光レンズ37で集光され、前記反射ミラー36で反射され、前記波長選択部材35を透過する過程で所定の波長が抽出された後、前記受光素子34に受光される。該受光素子34は、例えばアバランシェフォトダイオード(APD)、或は同等の光電変換素子となっている。
【0041】
前記演算制御部17は、前記発光素子26の発光タイミングと、前記受光素子34の受光タイミングの時間差(即ち、パルス光の往復時間)と光速に基づき、前記測距光32の1パルス毎に測距を実行する(Time Of Flight)。尚、前記発光素子26の発光のタイミング、即ちパルス間隔は、前記操作パネル16を介して変更可能となっている。
【0042】
尚、前記距離測定部19には内部参照光光学系(後述)が設けられ、該内部参照光光学系から受光した内部参照光(後述)と前記反射測距光39の受光タイミングの時間差と光速に基づき測距を行うことで、より高精度な測距が可能となる。
【0043】
前記走査ミラー15の下方には、再帰反射性を有するリファレンスプリズム41が設けられている。前記走査ミラー15を介して前記測距光32を回転照射する過程で、該測距光32の一部が前記リファレンスプリズム41に入射する。該リファレンスプリズム41により再帰反射された前記測距光32は、前記走査ミラー15を介して前記受光光学系38に入射し、前記受光素子34に受光される様に構成される。
【0044】
ここで、前記発光素子26から前記リファレンスプリズム41迄の光路長、該リファレンスプリズム41から前記受光素子34迄の光路長は既知である。従って、前記リファレンスプリズム41で反射された前記測距光32を内部参照光42として利用することができる。前記走査ミラー15と前記リファレンスプリズム41とにより内部参照光光学系43が構成される。
【0045】
次に、図4図5に於いて、前記波長選択部材35について説明する。
【0046】
該波長選択部材35は、円盤状のガラス板44と、該ガラス板44の入射面と射出面の両面に形成された波長選択膜45とを有している。前記波長選択部材35は、例えば半径15mmであり、該波長選択部材35に最大入射角が25°で前記反射測距光39が入射した際の、該反射測距光39のビーム径(有効径)が13mmとなる様に前記波長選択部材35が配置されている。
【0047】
図4(A)は、本発明の第1の実施例に係る前記波長選択膜45の光学特性を示すグラフである。該波長選択膜45は、例えば870nm付近の波長を選択して透過させるバンドパスフィルタとなっている。
【0048】
ここで、バンドパスフィルタは、バンドパスフィルタに対する入射角によって、透過する波長がシフトすることがわかっている。例えば、図4(B)に示される様に、前記波長選択膜45の膜厚が中心から外周に亘って一定の場合、入射角0°で前記反射測距光39が入射した場合と、入射角25°で前記反射測距光39が入射した場合とでは、透過する波長が異なっている。即ち、前記波長選択膜45は、入射角25°の場合(図4(B)中の波線)、入射角0°の場合(図4(B)中の実線)よりも、透過波長が短波長側に17nm程度シフトする。
【0049】
一方で、前記波長選択膜45の膜厚を増加させると、透過する波長が長波長側にシフトすることもわかっている。
【0050】
そこで、第1の実施例では、前記反射測距光39の入射角の増加に対応して、前記波長選択膜45の膜厚を増加させ、前記反射測距光39の入射角に拘らず、透過する波長が一定又は略一定となる様、前記波長選択膜45の膜厚を設定している。尚、図4(A)中では、便宜上実線(入射角0°の場合)に対して波線(入射角25°の場合)が僅かに短波長側にシフトしているが、実際には実線と波線とは合致又は略合致している。
【0051】
図5に示される様に、前記波長選択膜45は、前記受光光軸33を中心とし、中心側では膜厚が小さく、外周側に向って同心円状に膜厚が大きくなるボウル状の凹曲面からなる凹部46が形成されている。該凹部46の外径は、前記反射測距光39が前記波長選択膜45に入射する際、及び該波長選択膜45から射出される際の光束径と合致するか、僅かに大きくなっている。即ち、入射側の前記波長選択膜45の前記凹部46は、射出側の前記波長選択膜45の前記凹部46よりも外径が大きくなっている。
【0052】
図6に示される様に、最大入射角25°で入射する前記反射測距光39の光束径を有効径とし、有効径r=1に規格化し、前記凹部46の中心(r=0)、即ち前記受光光軸33上の前記凹部46(前記波長選択膜45)の膜厚t=1に規格化した場合、前記凹部46は有効径r=0の時、膜厚t=1であり、有効径r=1の時、膜厚t=1.025となる様構成されている。即ち、前記凹部46は、外周の膜厚が中心の膜厚よりも2.5%厚くなる様に構成されている。
【0053】
図6は、前記凹部46の径方向の位置と膜厚との関係を示したグラフである。図6の曲線47は、前記凹部46の膜厚の勾配を示す曲線となっており、中心から外周に向って同心円状に漸次膜厚が増加し、且つ下に凸の曲線を描く様に構成される。
【0054】
尚、前記曲線47の形状は、前記反射測距光39の広がり角や、前記波長選択膜46に対する最大入射角や有効径によって変化する。一方で、前記曲線47の形状は、前記波長選択膜45の中心と外周とを結ぶ直線に対して必ず下に凸の曲線となる。
【0055】
又、前記波長選択膜45の入射面と射出面では、前記反射測距光39の有効径が異なるので、前記曲線47の形状は入射側の前記凹部46と射出側の前記凹部46とで異なる。
【0056】
尚、前記波長選択膜45に対する入射角θが0≦θ≦θmax の範囲内であり、以下の条件1及び条件2を満たす場合、入射角θと相対膜厚f(θ)(前記凹部46の中心の膜厚を1とした時の膜厚)との関係は、例えば以下の3次の多項式で表すことができる。
【0057】
条件1:f(θmax )>1
【0058】
条件2:f′′(0)>0
【0059】
f(θ)=1+A1 θ+A2 θ2 +A3 θ3
【0060】
図7は、上記の式から得られたグラフの一例であり、該グラフで得られる曲線48に基づき、前記凹部46の勾配を設定することで、前記反射測距光39の入射角に拘らず、同一又は略同一の波長のみを選択して透過させることができる。
【0061】
或は、前記凹部46の有効径rが0≦r≦1の範囲内であり、以下の条件1及び条件2を満たす場合、有効径rと相対膜厚f(r)との関係は、例えば以下の6次の多項式で表すことができる。
【0062】
条件1:f(1)>1
【0063】
条件2:f′′(0)>0
【0064】
f(r)=1+A1 r+A2 2 +A3 3 +A4 4 +A5 5 +A6 6
【0065】
尚、上記した2つの式の係数(A1 ~A6 )の値は、例えば波長のシフトが発生しない入射角θと相対膜厚f(θ)との関係を予め複数個求め、求めた複数の入射角θの有効径r上での位置を複数点求め、最小二乗法により、該複数点に対して関数フィッティング(回帰分析)することで、各係数を求めることができる。
【0066】
図8は、上記の式から得られたグラフの一例であり、該グラフで得られる曲線49に基づき、前記凹部46の勾配を設定することで、前記反射測距光39の入射角に拘らず、同一又は略同一の波長のみを選択して透過させることができる。
【0067】
次に、前記距離測定部19を有する前記測定装置1により測定を行う場合について説明する。前記距離測定部19の各種動作は、前記演算制御部17が各種プログラムを実行することでなされる。尚、以下では、プリズム測定が行われる場合について説明している。
【0068】
前記発光素子26から所定の波長、例えば870nm付近の波長からなる前記測距光32が発せられる。該測距光32は、前記コリメータレンズ27により平行光束とされた後、前記反射プリズム29に直角に入射する。該反射プリズム29に入射した前記測距光32は、前記受光光軸33及び前記軸心11aと同軸となる様偏向(反射)される。
【0069】
前記反射プリズム29で反射された前記測距光32は、前記窓部28を透過し、前記走査ミラー15を介して測定対象物、例えば再帰反射性を有するプリズムに照射される。尚、前記窓部28と前記反射プリズム29との接合面に反射防止膜が設けられている場合には、前記窓部28で反射された前記測距光32が前記受光素子34に受光されるのを防止することができる。
【0070】
前記反射プリズム29で反射された前記反射測距光39は、前記走査ミラー15で直角に反射され、前記反射プリズム29の周囲を通過して前記受光光学系38に入射する。
【0071】
該受光光学系38に入射した前記反射測距光39は、前記受光レンズ37で集光され、前記反射ミラー36で反射された後、前記波長選択部材35に入射する。即ち、前記反射測距光39は、前記凹部46に入射角が回転対称となった状態で入射する。更に、前記反射測距光39は、前記凹部46を透過する過程で、所定の波長、例えば870nm付近の波長の光のみが透過され、前記受光素子34に受光される。
【0072】
前記演算制御部17は、前記距離測定部19の測距結果、前記水平角エンコーダ9及び前記鉛直角エンコーダ14の検出結果に基づき、前記プリズムの3次元座標を演算する。
【0073】
尚、プリズムの測定は、全周或は前記プリズムの周辺を前記測距光32で走査し、前記反射測距光39を受光した位置を前記プリズムの位置として測定してもよい。
【0074】
上述の様に、第1の実施例では、前記受光素子34と前記反射ミラー36との間に前記波長選択部材35を設け、該波長選択部材35には前記反射測距光39の入射角の増加に対応して前記波長選択膜45の膜厚が増加する前記凹部46が形成されている。
【0075】
従って、前記波長選択部材35に対する前記反射測距光39の入射角の変化に起因する透過波長のシフトが抑制され、入射角に拘らず前記反射測距光39のみを選択して、透過させることができる。
【0076】
又、前記波長選択部材35は特定の波長のみを透過させる光学特性であり、前記反射測距光39とは異なる波長の外光が前記受光素子34に受光されるのを防止することができるので、外光に起因する測定精度の低下を抑制でき、SN比の向上及び測定精度を向上させることができる。
【0077】
又、前記反射測距光39を前記凹部46に透過させることで、前記反射測距光39の入射角に拘らず同一又は略同一波長の光のみが前記波長選択部材35を透過する様になっている。
【0078】
従って、前記波長選択膜45として、透過可能な波長帯域の狭いバンドパスフィルタを使用可能となるので、外光の受光抑制効果を更に高めることができ、測定精度を更に向上させることができる。更に、透過可能な波長帯域の狭いバンドパスフィルタを用いた場合であっても、充分な受光量を得ることができる。
【0079】
尚、前記波長選択膜45の透過波長は、温度によっても変化する。従って、前記発光素子26の温度を調節可能としてもよい。該発光素子26の温度を調節することで、波長シフトを低減できるので、より狭帯域のバンドパスフィルタを使用することができる。
【0080】
又、第1の実施例では、前記ガラス板44と、該ガラス板44の入射面と射出面の両方に設けられた前記波長選択膜45により前記波長選択部材35が形成されている。一方で、該波長選択部材35は、前記ガラス板44と、該ガラス板44の入射面と射出面のいずれか一方に設けられた前記波長選択膜45により形成してもよい。
【0081】
又、前記窓部28を外光を吸収する材料、例えば可視領域の波長を吸収する色ガラスとしてもよいし、前記窓部28に反射膜を蒸着させてもよい。これにより、前記受光光学系38に対する外光の入射を抑制でき、測定精度を更に向上させることができる。
【0082】
尚、第1の実施例では、3次の多項式、或は6次の多項式により前記凹部46の勾配を設定している。一方で、該凹部46の勾配は3次又は6次の多項式のみにより設定されるものではない。
【0083】
例えば、図9は、縦軸にシフト誤差、即ち前記波長選択膜45が本来透過すべき波長に対して実際に透過する波長がどの程度シフトしていたかの割合をとり、横軸に入射角θを取ったグラフである。
【0084】
図9中、ひし形のプロットに近似された曲線51は、前記波長選択膜45の膜厚を均一にした場合を示し、四角のプロットに近似された曲線52は、前記凹部46の勾配を1次の多項式に基づき決定した場合を示し、三角のプロットに近似された曲線53は、前記凹部46の勾配を2次以下の多項式に基づき決定した場合を示し、丸のプロットに近似された曲線54は、前記凹部46の勾配を3次以下の多項式に基づき決定した場合を示している。
【0085】
尚、前記曲線52は、θ≦15°で最適化された曲線であり、該曲線52に基づき設定された前記凹部46の勾配は直線状であり、該凹部46は円錐形状となる。又、前記曲線53は、θ≦30°で最適化された曲線であり、前記曲線54はθ≦75°で最適化された曲線である。即ち、θ≦15°であれば前記凹部46の勾配は1次の多項式で近似でき、θ≦30°であれば前記凹部46の勾配は2次以下の多項式で近似でき、θ≦75°であれば3次以下の多項式で近似することができる。
【0086】
一方で、図9に示される様に、前記曲線52は前記曲線51よりも概ねシフト誤差が小さく、前記曲線53は前記曲線52よりもシフト誤差が小さく、前記曲線54は前記曲線53よりもシフト誤差が小さくなっている。
【0087】
又、図10は、縦軸にシフト誤差をとり、横軸に有効径rを取ったグラフである。図10中、ひし形のプロットに近似された曲線55は、前記波長選択膜45の膜厚を均一にした場合を示し、四角のプロットに近似された曲線56は、前記凹部46の勾配を1次の多項式に基づき決定した場合を示し、三角のプロットに近似された曲線57は、前記凹部46の勾配を2次以下の多項式に基づき決定した場合を示し、丸のプロットに近似された曲線58は、前記凹部46の勾配を6次以下の多項式に基づき決定した場合を示している。
【0088】
又、図10中、直線59は入射角15°に相当する有効径rの位置を示し、直線60は入射角30°に相当する有効径rの位置を示している。
【0089】
尚、前記曲線56は、θ≦15°で最適化された曲線であり、該曲線56に基づき設定された前記凹部46の勾配は直線状となり、該凹部46は円錐形状となる。又、前記曲線57は、θ≦30°で最適化された曲線であり、前記曲線58はθ≦75°で最適化された曲線である。即ち、θ≦15°であれば前記凹部46の勾配は1次の多項式で近似でき、θ≦30°であれば前記凹部46の勾配は2次以下の多項式で近似でき、θ≦75°であれば6次以下の多項式で近似することができる。
【0090】
一方で、図10に示される様に、前記曲線56は前記曲線55よりも概ねシフト誤差が小さく、前記曲線57は前記曲線56よりもシフト誤差が小さく、前記曲線58は前記曲線57よりもシフト誤差が小さくなっている。
【0091】
上記した様に、図9図10のいずれも、1次の多項式に基づき設定された前記凹部46は、膜厚を均一とした前記波長選択膜45よりも波長のシフト量を低減でき、2次以下の多項式に基づき設定された前記凹部46は、1次の多項式に基づき設定された前記凹部46よりも波長のシフト量を低減でき、3次以上の多項式に基づき設定された前記凹部46は、2次以下の多項式に基づき設定された前記凹部46よりも波長のシフト量を低減できる。
【0092】
従って、前記凹部46は、1次の多項式に基づき勾配を設定した場合でも波長のシフト量の低減を図ることができ、更に2次以上の多項式に基づき前記凹部46の勾配を設定することで、更に波長のシフト量を低減でき、透過波長の均一化を図ることができる。
【0093】
次に、図11に於いて、本発明の第2の実施例について説明する。尚、図11中、図2中と同等のものには同符号を付し、その説明を省略する。
【0094】
第2の実施例では、測距光受光部24が、第1の実施例に於ける反射ミラー36(図2参照)及び波長選択部材35(図2参照)に代えて受光プリズム61を有している。該受光プリズム61は、受光光軸33上に設けられ、受光レンズ37で集光された反射測距光39を反射し、受光素子34に受光させる様構成されている。
【0095】
前記受光プリズム61は、所定の屈折率を有する4角形のプリズムであり、前記受光レンズ37を透過した前記反射測距光39が入射する第1面61a、該第1面61aの表面を透過した前記反射測距光39が反射する第2面61b、該第2面61bと前記第1面61aで反射された前記反射測距光39が入射する第3面61c、前記第1面61aに入射した前記反射測距光39と交差する方向に前記第3面61cで反射された前記反射測距光39が透過する透過面としての第4面61dとを有している。該第4面61dを透過した前記反射測距光39は、前記受光素子34に入射する様になっている。
【0096】
又、前記第4面61dには、波長選択部としての波長選択膜62が蒸着されている。該波長選択膜62には、前記第4面61dに入射する前記反射測距光39の光束径と同等又は僅かに大きい径を有する凹部63が形成され、入射角が回転対称となった状態で前記反射測距光39が全て前記凹部63に入射する様に構成されている。該凹部63の形状や勾配等は第1の実施例の凹部46と同様であるので説明を省略する。
【0097】
第2の実施例では、前記受光レンズ37を介して前記受光プリズム61の前記第1面61aに入射した前記反射測距光39は、前記受光プリズム61の内部で前記第2面61b、第1面61aで順次反射され、前記第3面61cに入射する。又、前記反射測距光39は、前記第3面61cで前記第4面61dに向って、即ち前記第1面61aから入射した前記反射測距光39と交差する方向に反射される。前記第4面61dに入射した前記反射測距光39は、前記波長選択膜62の前記凹部63により所定の波長のみが抽出されて透過し、前記受光素子34に受光される。
【0098】
第2の実施例に於いても、前記波長選択膜62に前記反射測距光39が全て入射する前記凹部63を設け、前記反射測距光39の入射角の増加に対応して前記凹部63の膜厚を増加させる様構成している。従って、特定の波長のみを選択して前記受光素子34に受光させることができるので、該受光素子34に対する外光の入射を抑制することができ、測定精度の向上を図ることができる。
【0099】
又、前記受光光学系38に前記受光プリズム61を設け、該受光プリズム61内で前記反射測距光39を複数回反射させているので、水平方向(紙面に対して左右方向)の光路長を短くすることができ、距離測定部19の光学系の小型化を図ると共に、装置全体の軽量化を図ることができる。
【0100】
尚、第2の実施例では、前記波長選択膜62及び前記凹部63を前記第4面61dに形成しているが、前記波長選択膜62を形成する位置は前記第4面61dに限られるものではない。入射角が回転対称となった状態で前記反射測距光39が入射する面であれば他の面であってもよい。例えば、前記第1面61a、或は前記受光レンズ37の入射面や射出面に波長選択膜を蒸着し、凹部を形成してもよい。
【0101】
又、第1の実施例及び第2の実施例では、レーザスキャナの前記受光光学系38に波長選択部を設けているが、該波長選択部はトータルステーションの受光光学系に設けてもよいし、植物の生育状況を測定する為の植物センサに設けてもよい。植物センサに前記波長選択部を設ける場合には、2波長の測距光が用いられる。
【符号の説明】
【0102】
1 測定装置
3 測定装置本体
15 走査ミラー
17 演算制御部
19 距離測定部
23 測距光射出部
24 測距光受光部
32 測距光
33 受光光軸
34 受光素子
35 波長選択部材
39 反射測距光
45 波長選択膜
46 凹部
62 波長選択膜
63 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11