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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048708
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】変速機
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20240402BHJP
   F16H 57/029 20120101ALI20240402BHJP
   F16J 15/3244 20160101ALI20240402BHJP
【FI】
F16J15/3204 201
F16H57/029
F16J15/3244
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154776
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100145481
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 昌邦
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】原田 亮平
(72)【発明者】
【氏名】鎌形 州一
(72)【発明者】
【氏名】四十 薫
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J063
【Fターム(参考)】
3J006AE05
3J006AE17
3J006AE30
3J006AE41
3J006CA01
3J043AA16
3J043CA02
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA01
3J043DA20
3J043HA01
3J063AB15
3J063AC01
3J063BB03
(57)【要約】
【課題】ケースとシャフト部とのあいだのシール性を向上する。
【解決手段】ケースと、ケース内部に収納されて前記ケースと相対回転するキャリア部と、ケースとキャリア部との間に設けられ前記キャリア部の外周に線状シール位置で接してシールするシールリップ部を有するシール機構と、を有する変速機である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケース内部に収納されて前記ケースと相対回転するキャリア部と、
前記ケースと前記キャリア部との間に設けられ前記キャリア部の外周に線状シール位置で接してシールするシールリップ部を有するシール機構と、
を有する、
変速機。
【請求項2】
前記シール機構は、前記線状シール位置で外方からシールの内方へ向かう流体送り込み量を前記キャリア部の周速に応じて増大する吸い込み増大部を有する、
請求項1記載の変速機。
【請求項3】
前記キャリア部の外周における周速が70mm/sec以上である、
請求項1記載の変速機。
【請求項4】
前記吸い込み増大部は、前記シールリップ部の前記線状シール位置から前記キャリア部の軸方向に沿って外方に向かうとともに前記軸方向から傾斜した複数のリブ部を有する、
請求項2記載の変速機。
【請求項5】
前記吸い込み増大部は、前記線状シール位置から前記キャリア部の軸方向に沿って傾斜して互いに平行な前記リブ部が複数形成されるリブ領域を前記線状シール位置の周方向に沿って有する、
請求項4記載の変速機。
【請求項6】
前記吸い込み増大部は、
前記リブ領域の軸方向寸法W56が、前記キャリア部の前記外周の外径寸法WR2と、前記シール機構の前記シールリップ部の内径寸法Wr2と、前記シールリップ部のリップ角φと、に対して、
W56 ≧ {(WR2-Wr2)2/}/tanφ
である、
請求項5記載の変速機。
【請求項7】
前記吸い込み増大部は、組み立てられていない前記シール機構において、
前記線状シール位置から突き出す前記リブ部の径方向高さ寸法が、0.01mm~0.10mmであり、
前記線状シール位置に沿って突き出す前記リブ部の周方向幅寸法が、0.05mm~0.30mmである、
請求項5記載の変速機。
【請求項8】
前記シール機構が取り付けられる位置において、
前記ケースの内径寸法と、組み立てられていない前記シール機構の外径寸法と、の寸法差は、組み立てられていない前記シール機構の径方向の寸法である元幅寸法の5%よりも大きく、前記元幅寸法の20%より小さい、
請求項7記載の変速機。
【請求項9】
前記吸い込み増大部は、前記線状シール位置の周方向で互いに隣り合う前記リブ領域での前記リブ部の傾斜する方向が反対向きとなる、
請求項5記載の変速機。
【請求項10】
前記吸い込み増大部は、前記線状シール位置の周方向で、前記リブ領域が断続的に配置され、前記リブ領域の間には、前記リブ部のないリブ間領域を有する、
請求項9記載の変速機。
【請求項11】
前記吸い込み増大部は、前記線状シール位置の周方向長さに対する、前記リブ領域の長さが、30%から80%の範囲である、
請求項10記載の変速機。
【請求項12】
前記吸い込み増大部は、
前記線状シール位置から前記キャリア部の軸方向に沿って傾斜する前記リブ部の角度が20deg~30degである、
請求項4記載の変速機。
【請求項13】
前記吸い込み増大部は、
前記リブ領域で前記線状シール位置に沿った前記リブ部の間隔が0.1mm~5mmである、
請求項11記載の変速機。
【請求項14】
前記流体送り込み量が、0.2mL/h以上30mL/h以下である、
請求項2記載の変速機。
【請求項15】
ケースと、
前記ケース内に設けられ内歯を有する内歯歯車と、
前記内歯歯車の前記内歯に噛合わされる外歯を有し、揺動回転される揺動歯車と、
前記揺動歯車を回転自在に支持する偏心部を有するとともに、前記揺動歯車に駆動源の回転力を伝達するクランクシャフトと、
前記揺動歯車の回転力が伝達されて前記ケースに対して相対回転するキャリア部と、
前記ケースと前記キャリア部との間に設けられ前記キャリア部の外周に線状シール位置で接してシールするシールリップ部を有するシール機構と、
を有し、
前記シール機構は、前記線状シール位置で外方からシールの内方へ向かう流体送り込み量を増大する吸い込み増大部を有し、
前記吸い込み増大部は、前記シールリップ部の前記線状シール位置から前記キャリア部の軸方向に沿って外方に向かうとともに前記軸方向から傾斜した複数のリブ部が平行に形成される正方向リブ領域と、前記リブ部のないリブ間領域と、前記リブ部の傾斜方向が周方向で逆向きとなる逆方向リブ領域と、が前記線状シール位置の周方向に配置されるとともに、
前記吸い込み増大部は、前記キャリア部の外周における周速が70mm/sec以上で、
前記吸い込み増大部がない場合に比べて前記流体送り込み量が30倍以上300倍以下となる、
変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
減速機や変速機では、相対回転するケース部とキャリア部とのあいだにシール機構が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-083329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、高速運転での回転数増加や温度上昇など、変速機への負荷が高くなり、従来では問題のなかったケース部とキャリア部とのあいだのシール性が不足するという問題があった。
【0005】
本発明は、シール性を向上した変速機を提供可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様に係る変速機は、
ケースと、
前記ケース内部に収納されて前記ケースと相対回転するキャリア部と、
前記ケースと前記キャリア部との間に設けられ前記キャリア部の外周に線状シール位置で接してシールするシールリップ部を有するシール機構と、
を有する、
ことにより上記課題を解決した。
【0007】
上記(1)のように構成することで、周速が高速回転での動作時に、温度上昇を来した場合でも、シール機構による流体送り込み量を増大してシール性を向上することが可能となる。
なお、高速回転に達しない場合には、変速機における温度上昇がシール性に影響を与えない程度に抑制されるため、本発明のシール機構を用いてシール性を向上する必要がない。
ここで、流体送り込み量とは、キャリア部を回転した状態でのシール機構において、シール機構よりも外方の大気側からシール機構よりも変速機の内部の密閉側へ、流体が送り込まれる量を示すが、実際には、シール機構を外方と内方とが逆向きとなるように取り付けた場合に、内方から外方へと流体が流出する量を測定したものであり、その値はシール性の程度を示す。なお、シール機構を外方と内方とが順方向に取り付けた場合には、外方から大気が内方に送り込まれることになり、この送り込み量の値が大きければ、内方から外方への流体の流出、すなわち、変速機内部から外部への流体の漏れ出しが少なくなることを意味している。
これにより、変速機内部から潤滑剤である油などが外方へと漏れ出すことを抑制すること、すなわち、変速機におけるシール性を向上することが可能となる。このシール性の向上は、変速機における温度上昇による影響が低いため、高速回転などでの変速機における温度変化にかかわらずシール性を維持することが可能となる。
【0008】
(2)本発明は、上記(1)において、
前記シール機構は、前記線状シール位置で外方からシールの内方へ向かう流体送り込み量を前記キャリア部の周速に応じて増大する吸い込み増大部を有する、
ことができる。
【0009】
(3)本発明は、上記(1)において、
前記キャリア部の外周における周速が70mm/sec以上である、
ことができる。
【0010】
(4)本発明は、上記(2)において、
前記吸い込み増大部は、前記シールリップ部の前記線状シール位置から前記キャリア部の軸方向に沿って外方に向かうとともに前記軸方向から傾斜した複数のリブ部を有する、
ことができる。
【0011】
(5)本発明は、上記(4)において、
前記吸い込み増大部は、前記線状シール位置から前記キャリア部の軸方向に沿って傾斜して互いに平行な前記リブ部が複数形成されるリブ領域を前記線状シール位置の周方向に沿って有する、
ことができる。
ここで、リブ領域とは、前記線状シール位置の周方向において、前記線状シール位置に前記リブ部の端部が接触して形成された領域を意味する。また、前記線状シール位置に前記リブ部の端部が接触していない場合でも、前記線状シール位置の周方向において、リブ部を延長した場合に前記線状シール位置に接触する領域を意味する。つまり、リブ領域の範囲は、前記線状シール位置の周方向における長さに対応する周方向位置として設定される。
【0012】
(6)本発明は、上記(5)において、
前記吸い込み増大部は、
前記リブ領域の軸方向寸法W56が、前記キャリア部の前記外周の外径寸法WR2と、前記シール機構の前記シールリップ部の内径寸法Wr2と、前記シールリップ部のリップ角φと、に対して、
W56 ≧ {(WR2-Wr2)2/}/tanφ
である、
ことができる。
ここで、前記リブ領域の軸方向寸法とは、キャリア部の軸方向に沿ったリブ部の長さを意味する。
【0013】
(7)本発明は、上記(5)において、
前記吸い込み増大部は、組み立てられていない前記シール機構において、
前記線状シール位置から突き出す前記リブ部の径方向高さ寸法が、0.01mm~0.10mmであり、
前記線状シール位置に沿って突き出す前記リブ部の周方向幅寸法が、0.05mm~0.30mmである、
ことができる。
【0014】
(8)本発明は、上記(7)において、
前記シール機構が取り付けられる位置において、
前記ケースの内径寸法と、組み立てられていない前記シール機構の外径寸法と、の寸法差は、組み立てられていない前記シール機構の径方向の寸法である元幅寸法の5%よりも大きく、前記元幅寸法の20%より小さい、
ことができる。
この寸法差は、ケースとシール機構との締め代を意味する。
【0015】
(9)本発明は、上記(5)において、
前記吸い込み増大部は、前記線状シール位置の周方向で互いに隣り合う前記リブ領域での前記リブ部の傾斜する方向が反対向きとなる、
ことができる。
ここで、前記リブ部の傾斜する方向が反対向きとは、前記リブ部と前記線状シール位置との為す角が、正負の符号を逆にした値となることを意味する。
【0016】
(10)本発明は、上記(7)において、
前記吸い込み増大部は、前記線状シール位置の周方向で、前記リブ領域が断続的に配置され、前記リブ領域の間には、前記リブ部のないリブ間領域を有する、
ことができる。
ここで、リブ間領域とは、前記線状シール位置の周方向において、リブ領域の端部に位置するリブ部と、隣り合うリブ領域の端部に位置するリブ部とで挟まれた領域を意味する。また、前記線状シール位置に前記リブ部の端部が接触していない場合でも、同様に、前記線状シール位置の周方向において、リブ領域の端部に位置するリブ部を延長した場合に前記線状シール位置に接触した位置で挟まれた領域を意味する。つまり、リブ間領域の範囲は、前記線状シール位置の周方向における長さに対応する周方向位置として設定される。
【0017】
(11)本発明は、上記(9)において、
前記吸い込み増大部は、前記線状シール位置の周方向長さに対する、前記リブ領域の長さが、30%から80%の範囲である、
ことができる。
【0018】
(12)本発明は、上記(4)において、
前記吸い込み増大部は、
前記線状シール位置から前記キャリア部の軸方向に沿って前記リブ部の傾斜する角度が20deg~30degである、
ことができる。
ここで、前記リブ部の傾斜する角度とは、前記リブ部と前記線状シール位置との為す角の値を意味する。
【0019】
(13)本発明は、上記(11)において、
前記吸い込み増大部は、
前記リブ領域で前記線状シール位置に沿った前記リブ部の間隔が0.1mm~5mmである、
ことができる。
ここで、前記リブ部の間隔とは、前記線状シール位置に沿って、隣り合うリブ部の間の距離を意味する。
【0020】
(14)本発明は、上記(3)において、
前記流体送り込み量が、0.2mL/h以上30mL/h以下である、
ことができる。
【0021】
(15)本発明の他の態様にかかる変速機は、
ケースと、
前記ケース内に設けられ内歯を有する内歯歯車と、
前記内歯歯車の前記内歯に噛合わされる外歯を有し、揺動回転される揺動歯車と、
前記揺動歯車を回転自在に支持する偏心部を有するとともに、前記揺動歯車に駆動源の回転力を伝達するクランクシャフトと、
前記揺動歯車の回転力が伝達され前記ケースに対して相対回転するキャリア部と、
前記ケースと前記キャリア部との間に設けられ前記キャリア部の外周に線状シール位置で接してシールするシールリップ部を有するシール機構と、
を有し、
前記シール機構は、前記線状シール位置で外方からシールの内方へ向かう流体送り込み量を増大する吸い込み増大部を有し、
前記吸い込み増大部は、前記シールリップ部の前記線状シール位置から前記キャリア部の軸方向に沿って外方に向かうとともに前記軸方向から傾斜した複数のリブ部が平行に形成される正方向リブ領域と、前記リブ部のないリブ間領域と、前記リブ部の傾斜方向が周方向で逆向きとなる逆方向リブ領域と、が前記線状シール位置の周方向に配置されるとともに、
前記吸い込み増大部は、前記キャリア部の外周における周速が70mm/sec以上で、
前記吸い込み増大部がない場合に比べて前記流体送り込み量が30倍以上300倍以下となる、
ことにより上記課題を解決した。
【0022】
上記(15)のように構成することで、周速が70mm/sec以上となる高速回転での動作時に、温度上昇を来した場合でも、シール機構による前記流体送り込み量を増大してシール性を向上して、変速機内部空間から外部空間への液体漏出発生を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、回転数が増大しても、ケースとシャフト部とのあいだのシール性を向上可能な減速機を提供することができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る変速機の第1実施形態を示す模式図である。
図2】本発明に係る変速機の第1実施形態におけるシール機構を示す模式断面図である。
図3】本発明に係る変速機の第1実施形態における組み付けていない状態のシール機構を示す軸方向視した模式図である。
図4】本発明に係る変速機の第1実施形態におけるシール機構での吸い込み増大部を説明する断面図である。
図5】本発明に係る変速機の第1実施形態におけるシール機構での流体送り込み量を説明する模式図である。
図6】本発明に係る変速機の第2実施形態を示す断面図である。
図7図6のVII-VII線に沿う断面図である。
図8】本発明に係る変速機の第3実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る変速機の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における変速機を示す模式図である。図2は、本実施形態にかかる変速機のシール機構を示す軸方向視した模式図である。図3は、本実施形態における変速機のシール機構を示す内周側から見た断面図である。図4は、本実施形態にかかる変速機のシール機構におけるシール状態を示す模式図である。図において、符号100は、変速機である。
【0026】
本実施形態に係る変速機100は、図1図4に示すように、円筒状のケース20と、キャリア部30と、シール機構50と、を有する。
変速機100は、ケース20とキャリア部30とが回転軸線F0に対して相対回転する。ケース20とキャリア部30とは、所定の軸受け26によって相対回転する。変速機100は、図示しない入力部から入力された回転駆動力を変速して、ケース20またはキャリア部30のどちらか一方から出力する。このとき、ケース20またはキャリア部30の他方は固定部とされる。固定部とされたケース20またはキャリア部30のいずれかを他の部品に固定する構成に関しては、本実施形態では図示していない。
【0027】
変速機100の内部空間Vには、潤滑剤であるオイルなどが充填されており、外方に対してシールされる。変速機100は、シール機構50によって、その内部が外方に対してシールされる。シール機構50は、ケース20とキャリア部30との間に配置される。シール機構50は、ケース20の内周面20aと、キャリア部30の外周面30aとの間に配置される。
内周面20aと外周面30aとは、回転軸線F0の径方向に互いに対向する。内周面20aと外周面30aとは、互いに同軸の円筒状とされる。内周面20aは、外周面30aよりも径方向で外方に位置する。外周面30aは、内周面20aよりも径方向で内方に位置する。
【0028】
なお、本実施形態における内周面20aと外周面30aとは、あくまで、ケース20とキャリア部30とにおいて、シール機構50の配置される近傍のみを示している。このため、内周面20aと外周面30aとは、変速機100としての他の構成部品との兼ね合いによって、径方向寸法、軸方向寸法、あるいは、面形状が変化する構成となる可能性は否定しない。
【0029】
シール機構50は、変速機100の内部空間Vと外部空間Aとを密閉する。ここで、変速機100の内部空間Vを密閉するとは、変速機100の内部空間Vから、潤滑剤であるオイル等の流体が、外部空間Aへと漏出しないことを意味する。また、内部空間Vを密閉して流体が外部空間Aへと漏出しない状態を維持するために、シール機構50は、外部空間Aから内部空間Vへと流体を吸い込むことができる。
【0030】
シール機構50は、いわゆるオイルシールとされる。シール機構50は、金属製の芯金52と、芯金52に加硫接着により固着されたゴム等の弾性素材からなるシール部材53と、ガータスプリング(バネ)58と、吸い込み増大部56と、を備えている。
芯金52は、SPCC等の鋼板をプレス加工等することによって環状に形成されている。芯金52は、内周面20aと並行に延びる円筒状の第1円筒部52aと、第1円筒部52aの一端部から径方向内方に延びる第2円環部52bと、を有している。第2円環部52bは、軸線F0の軸方向において、第1円筒部52aの外部空間Aに近接する端部に形成される。芯金52は、断面L字形に形成されている。
【0031】
シール部材53は、基体部(嵌め合い部)54と、シールリップ部55と、補助リップ部(ダストリップ部)57と、を有している。基体部54は、芯金52の第1円筒部52aの外周面から内部空間V側の端面を回り込んで当該第1円筒部52aの内周面に沿うとともに、芯金52の第1円筒部52aの外周面から第2円環部52bの外部空間A側の側面に沿って接着される。さらに、基体部54は、芯金52の第2円環部52bのキャリア部30側の内周端を回り込んで当該第2円環部52bの内部空間V側の面に沿って接着される。また、基体部54は、芯金52の第2円環部52bの内部空間V側の面から第1円筒部52aの内周面まで接着される。
シールリップ部55は、前記第2円環部52bの内周端から延びる。補助リップ部57は、同じく前記第2円環部52bの内周端から延びる。
【0032】
基体部54は、第2円筒部54aと、第2円環部54bと、第3円筒部54cと、第4円環部54dと、を含む。第2円筒部54aは、第1円筒部52aの径方向内方である内周面を覆っている。第2円環部54bは、第2円環部52bの内部空間Vに近接する内方面を覆っている。第3円筒部54cは、芯金52の第1円筒部52aの径方向外方である外周を覆っている。第4円環部54dは、第2円環部52bの外部空間Aに近接する外方面を覆っている。基体部54では、第2円筒部54aと第2円環部54bとシールリップ部55とによって、内部空間Vに面した環状の凹部59が構成されている。
芯金52は、基体部54の第3円筒部54cが接するように内周面20aに圧入されている。これによって、シール機構50は、内周面20aに固定されている。
【0033】
補助リップ部57は、芯金52の第2円環部52bの内周端を基端として外部空間Aに伸びるように径方向内側に延びている。補助リップ部57は、外部空間Aにおいて径方向内方に向かって漸次縮径した状態でキャリア部30の外周面30aに摺れるように接している。補助リップ部57は、メインリップであるシールリップ部55に対して、内部空間Vから軸方向に離間した位置に設けられ。外部空間Aから侵入するダストがシールリップ部55に到達することを防止するダストリップである。
【0034】
シールリップ部55は、環状の部材である。シールリップ部55は、芯金52の第2円環部52bの内周端を基端として内部空間V側に延びているとともに、回転軸線F0に沿った軸方向で外部空間Aから内部空間Vに向かうように伸びている。
【0035】
シールリップ部55は、キャリア部30の外周面30aに線状シール位置(リップ先端部)51で接して、内部空間Vと外部空間Aとをシールする。シールリップ部55は、内部空間Vと外部空間Aとをシールするメインリップである。線状シール位置(51は、キャリア部30の外周面30aに摺れながら接する線状のメインリップとして作用する。
シールリップ部55の内周位置は、線状シール位置51から回転軸線F0に沿った軸方向の両側が、キャリア部30の外周面30aから離間するように傾斜している。
【0036】
シールリップ部55の内周位置には、線状シール位置51よりも回転軸線F0に沿った軸方向で内部空間Vに接する面である、線状シール位置51から漸次拡径している内部空間側傾斜面511が形成される。シールリップ部55の内周位置には、線状シール位置51よりも回転軸線F0に沿った軸方向で外部空間Aに接する面である、線状シール位置51から漸次拡径している外部空間側傾斜面512が形成される。なお、外部空間側傾斜面512よりも外部空間Aに近接する位置には、補助リップ部57が形成されているため、厳密にはが、外部空間Aに接していないが、補助リップ部57が形成されない構成もあり得るため、このように表現する。
【0037】
シールリップ部55は、線状シール位置51を頂部として、線状シール位置51を挟んだ内部空間側傾斜面511と外部空間側傾斜面512とが断面山形に形成されている。なお、図1図4においては、シールリップ部55は、外周面30aに対して押しつぶされているため、線状シール位置51は所定の幅を持って外周面30aに接している。
【0038】
シールリップ部55の径方向外方面には、シールリップ部55を径方向内方に締め付けて押圧することで密封性を高めるためのガータスプリング(バネ)58が装着されている。シールリップ部55は、キャリア部30の外周面30aに摺れながら接することで、内部空間Vのオイル等の流体がキャリア部30とケース20との間から外部空間Aに漏れ出してリークしないように、両空間の間を密封している。
【0039】
吸い込み増大部56は、線状シール位置51で外方である外部空間Aからシールの内方である内部空間Vへ向かう流体送り込み量を増大する。吸い込み増大部56は、シールリップ部55に対するキャリア部30の外周面30aにおける周速が70mm/sec以上5000mm/sec以下で、吸い込み増大部がない場合に比べて流体送り込み量が30倍以上300倍以下とする。より好ましくは、吸い込み増大部56は、シールリップ部55に対するキャリア部30の外周面30aにおける周速が70mm/sec以上1000mm/sec以下で、吸い込み増大部がない場合に比べて流体送り込み量が30倍以上200倍以下とする。
流体送り込み量については後述する。
【0040】
吸い込み増大部56は、図2図4に示すように、外部空間側傾斜面512において、線状シール位置51から軸方向である回転軸線F0に沿って外方に向かうとともに軸方向から傾斜した複数本のリブ部56aを有する。
リブ部56aが設けられたことで、後述するように、線状シール位置51で外方である外部空間Aからシールの内方である内部空間Vへ向かう流体送り込み量を増大することができる。
【0041】
吸い込み増大部56は、線状シール位置51から軸方向である回転軸線F0に沿って傾斜して互いに平行な前記リブ部56aが複数本形成されるリブ領域56rを有する。リブ領域56rは、線状シール位置51の周方向に沿って延びて存在する。リブ領域56rが設けられたことで、後述するように、線状シール位置51で外方である外部空間Aからシールの内方である内部空間Vへ向かう流体送り込み量を増大することができる。
【0042】
吸い込み増大部56は、回転軸線F0の周方向に沿った線状シール位置51に対して、互いに隣り合うリブ領域56rでのリブ部56aの傾斜する方向が反対向きとなる正方向リブ領域(リブ領域)56r1と逆方向リブ領域(リブ領域)56r2とを有する。正方向リブ領域56r1と逆方向リブ領域56r2とが設けられたことで、後述するように、ケース20に対するキャリア部30の回転方向が正逆どちらの方向でも、線状シール位置51で外方である外部空間Aからシールの内方である内部空間Vへ向かう流体送り込み量を増大することができる。
【0043】
吸い込み増大部56は、回転軸線F0の周方向に沿った線状シール位置51に対して、リブ領域56rが断続的に配置される。吸い込み増大部56は、回転軸線F0の周方向に沿った線状シール位置51に対して、隣り合うリブ領域56rの間にリブ部56aのないリブ間領域56nを有する。リブ間領域56nが設けられたことで、後述するように、ケース20に対するキャリア部30の回転方向が正逆どちらの方向でも、線状シール位置51で外方である外部空間Aからシールの内方である内部空間Vへ向かう流体送り込み量を増大するように、回転軸線F0の周方向に沿った線状シール位置51に対して、正方向リブ領域56r1と逆方向リブ領域56r2とを充分な長さで形成することができる。
【0044】
ここで、リブ間領域56nは、リブ部56aが線状シール位置51に対して等間隔に接続されているリブ領域56rにおいて、その端部となるリブ部56aと線状シール位置51との接続位置を基準として、次に隣接するから、リブ領域56rにおいて、その端部となるリブ部56aと線状シール位置51との接続位置まで、となる線状シール位置51に沿った長さ位置で規定される。
リブ間領域56nは、隣り合った正方向リブ領域56r1と逆方向リブ領域56r2とにおいて、正方向リブ領域56r1の端部となるリブ部56aと線状シール位置51との接続位置と、逆方向リブ領域56r2の端部となるリブ部56aと線状シール位置51との接続位置と、の間として規定される。
【0045】
リブ間領域56nは、リブ領域56rにおける間隔よりも大きな間隔で離れた隣のリブ部56aと線状シール位置51との接続位置まで、となる線状シール位置51に沿った長さ位置で規定される。つまり、リブ領域56rとリブ間領域56nとは、傾斜したリブ部56aの角度等によらず、あくまで、リブ部56aと線状シール位置51との接続位置に対応した周方向の距離として設定する。従って、リブ領域56rとリブ間領域56nとは、領域という名称を用いているが、あくまで、図4に示すように、周方向の長さに対応した位置として設定されている。
【0046】
吸い込み増大部56は、回転軸線F0の周方向に沿った線状シール位置51の周方向全長に対する、すべてのリブ領域56rの長さの合計が、30%から80%の範囲である。言い換えると、吸い込み増大部56は、回転軸線F0の周方向に沿った線状シール位置51の周方向全長に対する、すべてのリブ間領域56nの長さの合計が、70%から20%の範囲である。線状シール位置51の全周長に対するリブ領域56rの長さの合計が上記の範囲となるように形成されることで、線状シール位置51で外方である外部空間Aからシールの内方である内部空間Vへ向かう流体送り込み量を増大することができる。
【0047】
吸い込み増大部56は、線状シール位置51から軸方向である回転軸線F0に沿って傾斜するリブ部56aの角度θが20deg~30degである。つまり、吸い込み増大部56は、外部空間側傾斜面512において、線状シール位置51とリブ部56aとの為す角度θが20deg~30degである。線状シール位置51とリブ部56aとの為す角度θが上記の範囲となるように形成されることで、線状シール位置51で外方である外部空間Aからシールの内方である内部空間Vへ向かう流体送り込み量を増大することができる。
【0048】
吸い込み増大部56は、リブ領域56rにおいて、線状シール位置51に沿ったリブ部56aの間隔が0.1mm~5mmである。つまり、複数本のリブ部56aは、互いに隣接するリブ部56aと線状シール位置51とが交差する点どうしが線状シール位置51に沿って離れている間隔を上記の範囲とするように形成される。線状シール位置51に沿った複数本のリブ部56aの間隔が上記の範囲とするように形成されることで、線状シール位置51で外方である外部空間Aからシールの内方である内部空間Vへ向かう流体送り込み量を増大することができる。
【0049】
吸い込み増大部56は、リブ領域56rの軸方向である回転軸線F0に沿った寸法W56が、キャリア部30の外周面30aの外径寸法WR2(図1参照)と、シール機構50のシールリップ部55の内径寸法Wr2(図3参照)と、シールリップ部55のリップ角φ(図4参照)と、に対して、
W56 ≧ {(WR2-Wr2)2/}/tanφ
である。
ここで、リップ角φは、図4に示すように、回転軸線F0の径方向に沿って外部空間側傾斜面512と外周面30aとが為す角である。なお、シールリップ部55の内径寸法Wr2および外径寸法は、組み立てられていないシール機構50における寸法である。
【0050】
これにより、正方向リブ領域56r1と逆方向リブ領域56r2との境界となるリブ間領域56nにおいて、回転軸線F0に沿った軸方向で線状シール位置51とは反対側となるリブ部56aの端部どうしが接続する。つまり、正方向リブ領域56r1と逆方向リブ領域56r2との境界となるリブ間領域56nにおいて、リブ間領域56nに隣接するリブ部56aが三角形を形成する。これにより、線状シール位置51で外方である外部空間Aからシールの内方である内部空間Vへ向かう流体送り込み量を増大することができる。
【0051】
吸い込み増大部56は、組み立てられていないシール機構50において、線状シール位置51から突き出すリブ部56aの径方向高さ寸法が、0.01mm~0.10mmである。ここで、リブ部56aの径方向高さ寸法とは、回転軸線F0に対する径方向内方へ線状シール位置51からリブ部56aが突き出す寸法である。
吸い込み増大部56は、組み立てられていないシール機構50において、線状シール位置51から突き出すリブ部56aの周方向幅寸法が、0.05mm~0.30mmである。ここで、リブ部56aの周方向幅寸法とは、回転軸線F0に対する周方向で線状シール位置51に沿って、リブ部56aが突き出す幅寸法である。
リブ部56aにおいて、その径方向高さ寸法と周方向幅寸法とを上記の範囲となるように形成することで、線状シール位置51で外方である外部空間Aからシールの内方である内部空間Vへ向かう流体送り込み量を増大することができる。
【0052】
ここで、複数本のリブ部56aは、いすれも、同じ径方向高さ寸法と周方向幅寸法とを有して形成されることができる。あるいは、複数本のリブ部56aは、いすれも、同じ径方向高さ寸法と周方向幅寸法とが上記の範囲であれば、互いに異なる寸法として形成されることができる。
組み付けられていない自由状態におけるシール機構50において、線状シール位置51の内径寸法は、キャリア部30の外周面30aの外径寸法と同じか、外周面30aの外径寸法よりも小さい所定の寸法に形成されている。
【0053】
ここで、線状シール位置51の内径寸法が、外周面30aの外径寸法と同じとは、たとえば、リブ部56aの径方向高さ寸法は考慮せずにこれらの径寸法が互いに等しく、シールリップ部55の内方にキャリア部30が挿入され、線状シール位置51が弾性変形した状態でキャリア部30の外周面30aに摺れながら接し、リブ部56aのみが押しつぶされた状態である。なお、線状シール位置51の内径寸法と、外周面30aの外径寸法とは、リブ部56aのみが押しつぶされた状態から、所定の寸法差で、シールリップ部55が径方向外向きに弾性変形する状態まで、シール性および流体送り込み量を所定の状態とするように適宜設定することができる。
【0054】
本実施形態における変速機100において、ケース20の内周面20aとキャリア部30の外周面30aとの間でシール機構50が取り付けられてシールする径方向のシール径間隔寸法WR(図1参照)は、組み立てられていないシール機構50の径方向の元幅寸法Wr(図3参照)に対して小さい。シール径間隔寸法WRは、組み立てられていないシール機構50の径方向の内径と外径の差である元幅寸法Wrに対して小さい。
【0055】
本実施形態における変速機100は、シール機構50が取り付けられる位置において、ケース20の内周面20aの内径寸法WR1(図1参照)と、組み立てられていないシール機構50の外径寸法Wr1(図3参照)と、の寸法差は、組み立てられていないシール機構50の径方向の幅寸法である元幅寸法Wr(図3参照)の5%よりも大きく20%より小さい。これにより、シール機構50を充分な締め代で押しつぶし、充分なシール性と、充分な流体送り込み量とを実現することが可能となる。
【0056】
本実施形態における吸い込み増大部56は、リブ部56aの構造、リブ領域56rとリブ間領域56nとの配置、正方向リブ領域56r1と逆方向リブ領域56r2との配置、リブ領域56rの寸法56wが上記のように設定されることで、流体送り込み量が、0.2mL/h以上30mL/h以下であることができる。これにより、線状シール位置51で外方である外部空間Aからシールの内方である内部空間Vへ向かう流体送り込み量を増大して、充分なシール性を揺することができる。
【0057】
シールリップ部55は、上述のように芯金52の第2円環部52bの内周端を基端として、回転軸線F0に沿った軸方向で内部空間Vに向かって延びている。従って、シールリップ部55は、外部空間Aに近接する端部を支点として、内部空間Vに近接する端部が径方向に移動可能とされている。
シールリップ部55は、内周側にキャリア部30が挿入されると、当該シールリップ部55の内部空間Vに近接する端部が径方向外方に移動し、内部空間Vに近接する端部および線状シール位置51がわずかに拡径するように弾性変形する。
組み付けられていない自由状態におけるシール機構50において、線状シール位置51の内径寸法は、キャリア部30の外周面30aの外径寸法よりも小さい所定の寸法に形成されている。
図4は、シールリップ部55の内周側にキャリア部30が挿入され、線状シール位置51が弾性変形した状態でキャリア部30の外周面30aに摺れながら接した状態を示している。
【0058】
シール機構50は、その芯金52の第2円環部52bが、基体部54の外部空間A側の端面に当たって接した状態で、もう一段のシール機構50が並設されていてもよい。これにより、一段目のシール機構50の凹部59と、二段目のシール機構50の第4円環部54dと、キャリア部30の外周面30aとによって環状の空間が構成されることになる。
【0059】
次に、流体送り込み量の増大について説明する。
【0060】
図5は、シール機構での流体送り込み量を説明する模式図である。
なお、以下の説明では、補助リップ部57の影響を考慮しない状態での説明をおこなうものとする。
【0061】
本実施形態のシール機構50は、変速機100のオイル等の密封流体に対する密封性能を向上させるためにシールリップ部55の線状シール位置51に流体ポンピング作用をなすリブ部(ネジリブ)56aを設けてなるオイルシールである。相手摺動部材であるキャリア部30(以下、単に軸とも称する)が正逆両方向に回転するものである場合には、図3に示すように、シールリップ部55の線状シール位置51から内部空間側傾斜面511に両方向ネジリブ(リブ部)56aが設けられている。
【0062】
この両方向ネジリブ56aは、キャリア部30が正方向に回転するときにポンピングによるシール作用をなす正方向リブ領域56r1と、キャリア部30が逆方向に回転するときにポンピングによるシール作用をなす逆方向リブ領域56r2とを形成する。正方向リブ領域56r1と逆方向リブ領域56r2とは、それぞれ逆方向にリブ部56aを数本ないし数十本毎に円周上交互に並べて配置したものである。各リブ領域56rでは、いずれもリブ部56aがその断面形状を三角形とされて、先の尖った尖端(頂部)を有している。
【0063】
上記両方向ネジリブ56aは、キャリア部30が正方向に回転するときにポンピングによるシール作用をなす正方向リブ領域56r1と、キャリア部30が逆方向に回転するときにポンピングによるシール作用をなす逆方向リブ領域56r2と、を組み合わせるように構成される。よりなる。正方向リブ領域56r1と逆方向リブ領域56r2とでは、両方向ネジリブ56aが数本ないし数十本毎に線状シール位置51の円周上交互に並べて配置されている。両方向ネジリブ56aは、互いに反対向きに傾斜するよう設けられており、またそれぞれシールリップ部55の先端頂部である線状シール位置51に達してこの線状シール位置51と交差するよう設けられている。
【0064】
オイルシールであるシール機構50のシールリップ部55の潤滑特性およびシール特性を評価するために、まず、摩擦特性を検証した。まず、オイルシール(シール機構)50を変速機100を模した試験機に取り付けた。ここで、変速機を模した試験機とは、キャリア部30の外周面30aと同じ径寸法を有し、かつ、周面状態を外周面30aと同じ状態に形成するとともに、ケースの内周面20aと同じ径寸法を有し、かつ、周面状態を内周面20aと同じ状態に形成したものを意味する。周面状態は、巨視的および微視的な凹凸、あるいは、突条形成方向など、摩擦特性に影響を与える面特性である。
【0065】
ここで、オイルシール50の形状や使用条件によって決定される無次元特性数Gと、そのときの摩擦係数fとの関係は、次の式(1)として表される。
f = ΦG1/3 … (1)
ただし、
f = 摩擦係数
Φ = 油膜の状態により定まる定数
G = 無次元特性数(=μ・u・b/Pr)
Pr = シールリップ部の緊迫力(N[kgf])
μ = 密封流体の年度(N・sec/cm[kgf・sec/cm])
u = 周速(cm/sec)
b = シールリップ部の軸方向接触幅(cm)
【0066】
摩擦係数fを縦軸、無次元特性数Gを横軸にグラフ化すると、所定の無次元特性数Gの範囲までは摩擦係数fは一定であるが、それを越えた無次元特性数Gの範囲で摩擦係数fは単調に増加する。このように、正の勾配になっている無次元特性数Gの領域の現象は、潤滑理論において、流体潤滑の特性として説明されている。このような潤滑状体では、軸受けにおける特性と同じように、オイルシール50の摩擦特性は、流体の年度を摺動速度とに支配され、その摺動部分では、油膜が存在している。つまり、オイルシール50とキャリア部30の外周面30aとの間で摺動する2表面は、巨視的に油膜によって分離された流体潤滑状態で滑り運動をしており、オイルシール50の摩擦力が小さく状態に維持されている。
【0067】
オイルシール50の密閉機構は、摺動する2表面での油の動き、つまり、オイルシール50の摺動接触面内での油の動きに起因する。つまり、オイルシール50のシール性は、軸方向に所定幅を有する線状にキャリア部30の外周面30aに接している線状シール位置51内での油の動きに起因する。ここでの油の動きは、線状シール位置51の接触範囲内で、外部空間A側から内部空間V側へ、さらに、内部空間V側から外部空間A側へと循環している。線状シール位置51の接触範囲では、この油の循環により摺動接触面での潤滑をよくし、オイルシール50の摩耗の進行を防止するとともに、この油は、内部空間Vから外部空間Aに漏れることはない。これは、油の循環により外部空間A側から内部空間V側へ、油または大気である流体が送り込まれることによる。
【0068】
この内部空間Vへの流体送り込みによる密閉のメカニズムは、線状シール位置51および線状シール位置51に接触する外周面30aの凹凸形状および凹凸分布と、線状シール位置51と外周面30aとの間に発生する圧力分布によって決定される。
つまり、オイルシール50における流体送り込み量が高いとシール性は向上し、オイルシール50における流体送り込み量が低いとシール性は層堆積に低下する。
【0069】
オイルシール50における、流体送り込み量を計量することはそのままでは難しい。このため、オイルシール50のシールリップ部55が内部空間Vと外部空間Aとに対して、逆向きとなるように取り付けて、内部空間Vに油を満たしし、この逆取り付け時における外部空間Aへと流出する油量を計量することで、正取り付け時の流体送り込み量を把握する。
【0070】
ここで、図4は正取り付け状態による内部空間Vの油の密封状態を示している。つまり、図4は正取り付け状態による外部空間Aから大気が内部空間Vへと送り込まれている状態を矢印Ainで示している。図5は逆取り付け状態による内部空間Vの油の漏出状態を示している。つまり、図5は逆取り付け状態による油が内部空間Vから外部空間Aへと送り出されている状態を矢印Ooutで示している。
【0071】
逆取り付け状態において、油が外部空間Aに漏れる単位時間あたりの量を計測することで、正取り付け状態における流体取り込み量に相当する油量を定量的に測定できる。つまり、取り付け状態を逆にして漏れる油量を測定することで、オイルシール50の密封機能の一端を定量的に把握することが可能となるものである。
【0072】
ここで、シールリップ部55における線状シール位置51は、オイルシール50の摺動面の凹凸を形成する上で重要な因子である。ここで、線状シール位置51における接触圧力分布は周方向で同一であるが、線状シール位置51における微細な凹凸の多寡が異なるように形成したオイルシール50を比較する。
【0073】
すると、線状シール位置51における微細な凹凸の多いほうが、逆取り付け状態での漏出油量が多い、つまり、正取り付け状態での外部空間Aから内部空間Vへ流体を送り込もうとする能力が高くなる。あるいは、線状シール位置51の巨視的な外周面30aへの接触状態や、線状シール位置51の外周面30aへの接触圧力分布を変化させることで、流体送り込み量を変化させることができる。
【0074】
このように、オイルシール50の密閉メカニズムを支配する2角因子である潤滑特性と密閉機構とは、シールリップ部55を形成する材料、線状シール位置51付近における形状の2つの因子により制御される。このとき、微視的観点からは、線状シール位置51と外周面30aとの接触している摺動面内における循環流の吸い込み、吐き出し領域の平均膜厚制御を考慮して材料特性を設定することが必要となる。
【0075】
これらを制御するために、シールリップ部55に線状シール位置51に接する外部空間側傾斜面512にリブ領域56rを形成した。
ここで、シール特性を制御するために、変速機100の動作状態を考慮することが必要である。
つまり、キャリア部30の外周面30aにおける周速が所定の範囲となる動作状態に相当しなければ、上述した摺動面内における循環流の吸い込み、吐き出し領域の平均膜厚制御をおこなうことができない。
【0076】
このため、本実施形態では、吸い込み増大部56が、シールリップ部55に対するキャリア部30の外周面30aにおける周速が70mm/sec以上5000mm/sec以下で、吸い込み増大部がない場合に比べて流体送り込み量が30倍以上300倍以下とする。
【0077】
シールリップ部55に対するキャリア部30の外周面30aにおける周速が70mm/sec以上の場合には、変速機100のサイズにも影響されるが、変速機100が高速回転となる可能性が高い。変速機100が高速回転した場合には、表面温度が上昇する。すると、シール径間隔寸法WRが変化して、シール機構50によるシール性が低下する可能性がある。通常、本発明者らは、変速機100の表面温度が60℃以上となると、変速機100の動作安定性が保証できないと認識している。
【0078】
しかし、本実施形態においては、吸い込み増大部56をシール機構50に設けたことにより、表面温度の上昇したシール機構50においても、シール性を維持することができる。つまり、本実施形態の変速機100では、高速回転に起因した温度上昇の影響をキャンセルして、高いシール性を維持することができる。
【0079】
なお、周速が70mm/sec以下であれは、変速機100の表面温度が60℃を越えることはない。この場合、従来のシール機構を用いるとシール性が低下して、潤滑剤である油などが変速機の外方へと漏れ出す可能性があった。しかし、本実施形態のように吸い込み増大部がないオイルシール50を用いることで充分なシール性を維持することができる。
【0080】
本実施形態の変速機100においては、周速が70mm/sec以上となる高速回転での動作時に温度上昇を来した場合でも、シール機構50による流体送り込み量を増大することが可能となる。これにより、変速機100の内部空間Vから潤滑剤である油などが外部空間Aへと漏れ出すことを抑制すること、すなわち、変速機100におけるシール性を向上することが可能となる。このシール性の向上は、変速機100における温度上昇による影響が低いため、高速回転などでの変速機100における温度変化にかかわらずシール性を維持することが可能となる。
【0081】
さらに、本実施形態においては、リブ部56aが追加して形成されることでリップ剛性を向上することができ、シールリップ部55やキャリア部30外周面30aに対するスラッジによるアタックに対してシール耐性を強くすることができる。また、シールリップ部55のキャリア部30外周面30aへの接触面積が小さくなるため、発熱を抑えることができるという効果を奏することができる。
【0082】
以下、本発明に係る変速機の第2実施形態を、図面に基づいて説明する。
図6は、本実施形態における変速機(減速機)を示す回転軸線に沿った断面図である。図7は、図6におけるVII-VII線における断面矢視図である。
【0083】
本実施形態における変速機(減速機)100は、偏心揺動減速機とされる。変速機100は、図6および図7に示すように、ケース202と、キャリア部204と、シール機構50と、を備えている。ケース202は、第1実施形態で説明したケース20に対応する。キャリア部204は、第1実施形態で説明したキャリア部30に対応する。
ケース202は、ケース本体部202cと、ケースフランジ部202fと、を備えている。
【0084】
本実施形態では、ケース本体部202cの軸線F0に沿う方向を単に軸方向といい、軸方向から見て軸線F0に交差する方向を径方向といい、軸線F0回りに周回する方向を周方向という。また、減速機100に駆動源が接続される内部空間V側を入力側といい、減速機100の出力を受ける外部空間A側を出力側という。減速機100は、駆動源と出力側部材との間で所定の回転数比で回転数を変換して駆動力を伝達する。
本実施形態では、ケース202と、キャリア部204と、のいずれか一方が出力側とされ、他方が固定側とされる。つまり、互いに相対回転するケース202とキャリア部204とは、片方が減速機100を固定するように固定部材に接続され、もう一方が、固定された側に対して、回転する出力側部材に接続される。
【0085】
ケース本体部(外筒)202cは、軸線F0に沿って筒状に形成される。第1筒部の一例であるケース本体部202cにおける軸線F0に沿った軸方向の出力側は外部空間Aに開口している。ケース本体部202cの開口部には、キャリア部204(30)が回転可能に収容される。
ケースフランジ部202fは、ケース本体部202cから径方向の外側に張り出して固定部材または出力側部材に接続される。ケースフランジ部202fは、ケース本体部202cの軸線F0に沿う入力側に一体に形成される。
減速機100の出力側には、複数(例えば3つ)の伝達歯車220と入力歯車220aとが露出している。
【0086】
図6および図7に示すように、減速機100は、ケース202のケース本体部(外筒)202cと、回転部材の一例であるキャリア部204と、入力軸208と、複数(例えば3つ)のクランク軸210Aと、第1揺動歯車214と、第2揺動歯車216と、複数(例えば3つ)の伝達歯車220とを備えている。
【0087】
本実施形態に係る減速機100は、入力歯車220aに対応する入力軸208を回転させることによってクランク軸210Aを回転させ、クランク軸210Aの偏心部210a,210bに連動して揺動歯車214,216を揺動回転させることにより、入力回転に比べて減速した出力回転を得るように構成されている。入力歯車220aまたは伝達歯車220は入力部を構成する。
【0088】
ケース202は、減速機100の外面を構成するものであり、略円筒形状を有している。ケース202の内周面202aには、多数のピン溝202bが形成されている。各ピン溝202bは、ケース202の軸方向に延びるように配置され、軸方向に直交する断面において半円形の断面形状を有している。これらのピン溝202bは、ケース本体部(外筒)202cの内周面に周方向に等間隔で並んでいる。なお、ケース202の内周面202aは、第1実施形態で説明したシール機構50を取り付ける内周面20aよりも軸方向で入力側に位置するものであり、内周面202aと内周面20aとは、同じ径寸法ではないが、この構成には限定されない。
【0089】
ケース202は、多数の内歯ピン203を有している。各内歯ピン203は、ピン溝202bにそれぞれ取り付けられている。具体的に、各内歯ピン203は、対応するピン溝202bにそれぞれ嵌め込まれており、ケース202の軸方向に延びる姿勢で配置されている。これにより、多数の内歯ピン203は、ケース202の周方向に沿って等間隔で並んでいる。これらの内歯ピン203には、第1揺動歯車214の第1外歯214aおよび第2揺動歯車216の第2外歯216aが噛み合う。
【0090】
キャリア部204は、ケース202と同軸上に配置された状態でそのケース202内に収容されている。キャリア部204は、ケース202に対して同じ軸回りに相対回転する。具体的に、キャリア部204(30)は、ケース202(20)の径方向内側に配置されており、この状態で、軸方向に互いに離間して設けられた一対の主軸受206(26)によってケース202に対して相対回転可能に支持されている。
【0091】
キャリア部204は、基板部204aと複数(例えば3つ)のシャフト部204cとを有する基部と、端板部(フランジ部)204bと、を備えている。
基板部204aは、ケース202内において軸方向の一端部近傍に配置されている。この基板部204aの径方向中央部には円形の貫通孔204dが設けられている。貫通孔204dの周囲には、複数(例えば3つ)のクランク軸取付孔204e(以下、単に取付孔204eという)が周方向に等間隔で設けられている。
【0092】
端板部204bは、基板部204aに対して軸方向に離間して設けられており、ケース202内において軸方向の他端部近傍に配置されている。端板部204bの径方向中央部には貫通孔204fが設けられている。貫通孔204fの周囲には、複数(例えば3つ)のクランク軸取付孔204g(以下、単に取付孔204gという)が基板部204aの複数の取付孔204eと対応する位置に設けられている。ケース202内には、端板部204b及び基板部204aの互いに対向する双方の内面と、ケース202の内周面202aとで囲まれた閉空間が形成されている。
【0093】
3つのシャフト部204cは、基板部204aと一体的に設けられており、基板部204aの一主面(内側面)から端板部204b側へ直線的に延びている。この3つのシャフト部204cは、周方向に等間隔で配設されている(図7参照)。各シャフト部204cは、ボルト204hによって端板部204bに締結されている(図6参照)。これにより、基板部204a、シャフト部204c及び端板部204bが一体化されている。
【0094】
入力軸208は、駆動モータ(不図示)の駆動力が入力される入力部として機能する。入力軸208は、端板部204bの貫通孔204f及び基板部204aの貫通孔204dに挿入されている。入力軸208は、その軸心がケース202及びキャリア部204の軸心である回転軸線F0と一致するように配置されており、軸回りに回転する。入力軸208の先端部の外周面には入力ギア208aが設けられている。
【0095】
3つのクランク軸210Aは、ケース202内において入力軸208の周囲に配置されている(図7参照)。3つのクランク軸210Aは、入力軸208の周方向に等間隔で配置される。各クランク軸210Aは、一対のクランク軸受212a,212bによりキャリア部204に対して軸回りに回転可能に支持されている(図6参照)。具体的に、各クランク軸210Aの軸方向の一端から所定長さだけ軸方向内側の部分に第1クランク軸受212aが取り付けられている。この第1クランク軸受212aは、基板部204aの取付孔204eに装着されている。一方、各クランク軸210Aの軸方向の他端部に第2クランク軸受212bが取り付けられている。この第2クランク軸受212bは、端板部204bの取付孔204gに装着されている。これら第1クランク軸受212aと第2クランク軸受212bとにより、クランク軸210Aは、基板部204a及び端板部204bに回転可能に支持されている。
【0096】
各クランク軸210Aは、軸本体212cと、この軸本体212cに一体的に形成された第1偏心部210aと第2偏心部210bとを有する。第1偏心部210aと第2偏心部210bとは、第1クランク軸受212aと第2クランク軸受212bとによって支持された部分の間に軸方向に並んで配置されている。第1偏心部210aと第2偏心部210bとは、それぞれ円柱形状を有している。第1偏心部210aと第2偏心部210bとは、いずれも軸本体212cの軸心に対して偏心した状態で軸本体212cから径方向外側に張り出している。第1偏心部210aと第2偏心部210bとは、それぞれ軸心から所定の偏心量で偏心している。第1偏心部210aと第2偏心部210bとは、互いに所定角度の位相差を有するように配置されている。
【0097】
クランク軸210Aの一端部、すなわち、基板部204aの取付孔204eよりも軸方向外側の部位には、被嵌合部210cが設けられている。被嵌合部210cは、取付孔204e内に取り付けられたクランク軸210Aのうち、取付孔204eよりも外側に位置する一部分である。被嵌合部210cには、伝達歯車220が取り付けられる。
なお、実施形態の減速機100は、図6および図7の例に限定されず、クランク軸210Aを軸方向に逆に配置し、被嵌合部210cを、端板部204bの取付孔204gの軸方向外側に配置する、逆組と称される構成であってよい。
【0098】
第1揺動歯車214は、ケース202内の前記閉空間に配設されているとともに各クランク軸210Aの第1偏心部210aに第1ころ軸受218aを介して取り付けられている。第1揺動歯車214は、各クランク軸210Aが回転して第1偏心部210aが偏心回転すると、この偏心回転に連動して内歯ピン203に噛み合いながら揺動回転する。
【0099】
第1揺動歯車214は、ケース202の内径よりも少し小さい大きさを有している。第1揺動歯車214は、第1外歯214aと、中央部貫通孔214bと、複数(例えば3つ)の第1偏心部挿通孔214cと、複数(例えば3つ)のシャフト部挿通孔214dとを有している。第1外歯214aは、揺動歯車214の周方向全体に亘って滑らかに連続する波形状を有している。
【0100】
中央部貫通孔214bは、第1揺動歯車214の径方向中央部に設けられている。中央部貫通孔214bには、入力軸208が遊びを持った状態で挿通されている。
【0101】
3つの第1偏心部挿通孔214cは、第1揺動歯車214において中央部貫通孔214bの周囲に周方向に等間隔で設けられている。各第1偏心部挿通孔214cには、各第1偏心部挿通孔214cの内壁側に第1ころ軸受218aを介して各クランク軸210Aの第1偏心部210aがそれぞれ挿通されている。
【0102】
3つのシャフト部挿通孔214dは、第1揺動歯車214において中央部貫通孔214bの周りに周方向に等間隔で設けられている。各シャフト部挿通孔214dは、周方向において、3つの第1偏心部挿通孔214c間の位置にそれぞれ配設されている。各シャフト部挿通孔214dには、対応するシャフト部204cが遊びを持った状態で挿通されている。
【0103】
第2揺動歯車216は、ケース202内の前記閉空間に配設されているとともに各クランク軸210Aの第2偏心部210bに第2ころ軸受218bを介して取り付けられている。第1揺動歯車214と第2揺動歯車216とは、第1偏心部210aと第2偏心部210bとの配置に対応して軸方向に並んで設けられている。第2揺動歯車216は、各クランク軸210Aが回転して第2偏心部210bが偏心回転すると、この偏心回転に連動して内歯ピン203に噛み合いながら揺動回転する。
【0104】
第2揺動歯車216は、ケース202の内径よりも少し小さい大きさを有しており、第1揺動歯車214と同様の構成となっている。すなわち、第2揺動歯車216は、第2外歯216a、中央部貫通孔216b、複数(例えば3つ)の第2偏心部挿通孔216c及び複数(例えば3つ)のシャフト部挿通孔216dを有している。これらは、第1揺動歯車214の第1外歯214a、中央部貫通孔214b、複数の第1偏心部挿通孔214c及び複数のシャフト部挿通孔214dと同様の構造を有している。各第2偏心部挿通孔216cには、各第2偏心部挿通孔216cの内壁側に第2ころ軸受218bを介してクランク軸210Aの第2偏心部210bが挿通されている。
【0105】
各伝達歯車220は、入力ギア208aの回転を対応するクランク軸210Aに伝達するものである。各伝達歯車220は、対応するクランク軸210Aの軸本体212cにおける一端部に設けられた被嵌合部210cにそれぞれ外嵌されている。各伝達歯車220は、クランク軸210Aの回転軸と同じ軸回りにこのクランク軸210Aと一体的に回転する。各伝達歯車220は、入力ギア208aと噛み合う外歯220aを有している。
【0106】
この減速機100は、駆動源(第1の部材)と回転部材(第2の部材)との間で所定の回転数比で回転数を変換して駆動力を伝達する歯車装置であって、偏心部(210a,210b)と、偏心部が挿入される挿通孔(214c,216c)を有すると共に歯部(214a,216a)を有する揺動歯車(214,216)と、第1の部材および第2の部材の一方に取り付け可能に構成される第1筒部(202)と、第1の部材および第2の部材の他方に取り付け可能に構成される第2筒部(204)と、を備え、第1筒部(202)は、揺動歯車の歯部と噛み合う内歯(203)を有しており、第2筒部は、揺動歯車を保持した状態で第1筒部の径方向内側に配置され、第1筒部と第2筒部とは、偏心部の回転に伴う揺動歯車の揺動によって同心状に互いに相対的に回転可能である減速機構部を有することができる。
【0107】
本実施形態における減速機100では、ケース202(20)とキャリア部204(30)との間で、回転軸線F0に沿って最も外部空間A側である位置に、シール機構50が配置される。つまり、環状となるケース202(20)とキャリア部204(30)との隙間のうち、外部空間Aに近接する位置がシール機構50によってシールされる。シール機構50は、内部空間Vを外部空間Aから密閉する。
【0108】
シール機構50は、ケース202(20)の内周面20aと、キャリア部204(30)の外周面30aとの間に配置される。本実施形態において、シール機構50は、外部空間Aに露出しているが、この構成に限定されない。シール機構50は、主軸受206(26)よりも外部空間Aに近接する。ケース202(20)とキャリア部204(30)との隙間には、回転軸線F0に沿って外部空間Aから内部空間Vの内側に向かって、シール機構50、主軸受206(26)、ピン溝202bおよび内歯ピン203、主軸受206(26)の順に並んでいる。
【0109】
シール機構50は、第1実施形態で説明した構成と同等の構成を有する。
シール機構50は、芯金52と、ガータスプリング(バネ)58と、基体部(嵌め合い部)54、シールリップ部55、補助リップ部(ダストリップ部)57を形成するシール部材53と、を有する。
シール機構50は、シールリップ部55の線状シール位置51よりも外部空間A側となる外部空間側傾斜面512に、吸い込み増大部56が形成される。
吸い込み増大部56は、正方向リブ領域(リブ領域)56r1と逆方向リブ領域(リブ領域)56r2とリブ間領域56nとを有する。リブ領域56rには、複数のリブ部56aが互いに平行に離間して形成される。さらに、線状シール位置51に対するリブ領域56rの長さおよび配置関係、リブ部56aの角度θ、リブ部56aの径方向高さ寸法、リブ部56aの周方向幅寸法、シール機構50の締め代が適宜設定される。
【0110】
吸い込み増大部56は、シールリップ部55に対するキャリア部30の外周面30aにおける周速が70mm/sec以上5000mm/sec以下で、吸い込み増大部がない場合に比べて流体送り込み量が30倍以上300倍以下とする。より好ましくは、吸い込み増大部56は、シールリップ部55に対するキャリア部30の外周面30aにおける周速が70mm/sec以上1000mm/sec以下で、吸い込み増大部がない場合に比べて流体送り込み量が30倍以上200倍以下とする。
【0111】
ここで、減速機100において、ケース202とキャリア部204との相対回転における回転数と、キャリア部204の外周面30aにおける周速とは、相関している。
説明のため、ケース202が固定側とされ、キャリア部204が回転する出力側とされた場合を考える。すると、キャリア部204の回転数と、キャリア部204の外周面30aにおける周速との関係としては、以下に一例を示すことができる。
・回転数[rpm],周速[mm/sec]
・15[rpm],74[mm/sec]
・40[rpm],197[mm/sec]
・100[rpm],492[mm/sec]
・200[rpm],984[mm/sec]
【0112】
減速機100において、吸い込み増大部がないシール機構を用いて流体送り込み量を測定した。
その結果、キャリア部204の回転数には依存せず、ほぼ変化しない流体送り込み量であることがわかった。
これに対し、吸い込み増大部56が形成されたシール機構50を用いて流体送り込み量[mL/h]を測定した。
その結果、キャリア部204の回転数が増大すると、吸い込み増大部56が形成されたシール機構50での流体送り込み量も増大することが判明した。さらに、キャリア部204の回転数の増加に対して、吸い込み増大部56が形成されたシール機構50での流体送り込み量の増加は指数関数的であり、回転数増加に対して劇的に、流体送り込み量が増加することがわかった。なお、流体送り込み量は0.2mL/h以上30mL/h以下であった。
【0113】
ここで、減速機100において、吸い込み増大部がないシール機構を用いて測定した流体送り込み量に対して、吸い込み増大部56が形成されたシール機構50を用いて測定した流体送り込み量との比の値を、上記の回転数および周速に対応してそれぞれ求めた。比の値を並記して示す。
・回転数[rpm],周速[mm/sec],比
・15[rpm],74[mm/sec],30
・40[rpm],197[mm/sec],50
・100[rpm],492[mm/sec],100
・200[rpm],984[mm/sec],150
【0114】
さらに、これらの条件で、減速機100表面の温度[℃]、および、外部空間Aへの漏出油の有無を調べた。
その結果、周速70[mm/sec]以上で、60℃より高くなる場合があることがわかった、また、吸い込み増大部56が形成されたシール機構50を用いた場合には、いずれも、漏出油が無いことがわかった。
【0115】
本実施形態の変速機100においては、周速が70mm/sec以上となる高速回転での動作時に温度上昇を来した場合でも、シール機構50による流体送り込み量を増大することが可能となる。これにより、変速機100の内部空間Vから潤滑剤である油などが外部空間Aへと漏れ出すことを抑制すること、すなわち、変速機100におけるシール性を向上することが可能となる。このシール性の向上は、変速機100における温度上昇による影響が低いため、高速回転などでの変速機100における温度変化にかかわらずシール性を維持することが可能となる。
【0116】
本実施形態においては、上述した実施形態と同等の効果を奏することができるとともに、さらに、リブ部56aが追加して形成されることでリップ剛性を向上することができ、シールリップ部55やキャリア部30外周面30aに対するスラッジによるアタックに対してシール耐性を強くすることができる。また、シールリップ部55のキャリア部30外周面30aへの接触面積が小さくなるため、発熱を抑えることができるという効果を奏することができる。
【0117】
以下、本発明に係る変速機の第3実施形態を、図面に基づいて説明する。
図8は、本実施形態における変速機を示す断面図である。
【0118】
本実施形態の変速機(減速機)100は、いわゆるセンタークランク式とされる。本実施形態の減速機100は、図8に示すように、ケース(外筒)3310(20)と、外壁3740と、キャリア部3400C(30)と、クランク軸組立体350と、歯車部360と、2つの主軸受3710C(26)および主軸受3720C(26)と、インプットギア3730Cと、シール機構50と、を備える。
【0119】
図に示す出力軸3C1は、2つの主軸受3710C,3720C及びインプットギア3730Cの中心軸(回転軸線)F0に相当する。外筒3310及びキャリア部3400Cは、出力軸線となる回転軸線F0周りに相対的に回転することができる。
【0120】
モータ(図示せず)や他の駆動源(図示せず)が生成した駆動力は、出力軸3C1に沿って延びるインプットギア3730Cを通じて、クランク軸組立体3500Cに入力される。クランク軸組立体3500Cに入力された駆動力は、外筒3310及びキャリア部3400Cによって囲まれた内部空間内に配置された歯車部3600Cに伝達される。出力軸3C1は、モータからの出力軸であり、減速機100への入力軸である。
2つの主軸受3710C,3720Cは、外筒3310と、外筒3310によって取り囲まれたキャリア部3400Cと、の間に形成された環状空間に嵌め込まれる。外筒3310又はキャリア部3400Cは、歯車部3600Cに伝達された駆動力によって、出力軸3C1周りに回転される。
【0121】
キャリア部3400Cは、基部(第1キャリア)3410Cと、端板(第2キャリア)3420Cと、を含む。キャリア部3400Cは、全体的に、円筒状である。端板3420Cは、略円板形状である。端板3420Cの外周面は、第2円筒部3312によって部分的に取り囲まれる。主軸受3720Cは、第2円筒部3312と端板3420Cの周面との間の環状の空隙に嵌め込まれる。主軸受3720Cの球が、端板3420C上で直接的に転動するように、端板3420Cの外周面は形成される。
【0122】
基部3410Cは、基板部3411Cと、複数のシャフト部3412Cと、を含む。基板部3411Cの外周面は、第3円筒部3313によって部分的に取り囲まれる。主軸受3710Cは、第3円筒部3313と基板部3411Cの外周面との間の環状の空隙に嵌め込まれる。主軸受3710Cのコロが、基板部3411Cの外周面上で直接的に転動するように、基板部3411Cの外周面は形成される。
基板部3411Cは、出力軸3C1の延設方向において、端板3420Cから離間する。基板部3411Cは、端板3420Cと同軸である。すなわち、出力軸3C1は、基板部3411C及び端板3420Cの中心軸に相当する。
【0123】
基板部3411Cは、内面3415Cと、内面3415Cとは反対側の外面3416Cと、を含む。内面3415Cは、歯車部3600Cに対向する。内面3415C及び外面3416Cは、出力軸3C1に直交する仮想平面(図示せず)に沿う。
中央貫通孔3417Cは、基板部3411Cに形成される。中央貫通孔3417Cは、出力軸3C1に沿って、内面3415Cと外面3416Cとの間で延びる。出力軸3C1は、中央貫通孔3417Cの中心軸に相当する。
【0124】
端板3420Cは、内面3421Cと、内面3421Cとは反対側の外面3422Cと、を含む。内面3421Cは、歯車部3600Cに対向する。内面3421C及び外面3422Cは、出力軸3C1に直交する仮想平面(図示せず)に沿う。
中央貫通孔3423Cは、端板3420Cに形成される。中央貫通孔3423Cは、出力軸3C1に沿って、内面3421Cと外面3422Cとの間で延びる。出力軸3C1は、中央貫通孔3423Cの中心軸に相当する。
【0125】
複数のシャフト部3412Cは、それぞれ基板部3411Cの内面3415Cから端板3420Cの内面3421Cに向けて延びる。端板3420Cは、複数の第2接合面3421Bが、複数のシャフト部3412Cそれぞれの先端の第1接合面3412Bに接続される。端板3420Cは、雄ネジ部3053を有するボルト3051と雌ネジ部3056とからなる締結部3050、および、位置決めピン他によって、複数のシャフト部3412Cそれぞれの先端面に接続されてもよい。
シャフト部3412Cの第1接合面3412Bと、端板3420Cの第2接合面3421Bとが、互いにボルト3051により押して圧縮した状態で接続される。
【0126】
歯車部3600Cは、基板部3411Cの内面3415Cと端板3420Cの内面3421Cとの間に配置される。複数のシャフト部3412Cは、歯車部3600Cを貫通し、端板3420Cに接続される。
歯車部3600Cは、2つの揺動歯車3610C,3620Cを含む。
揺動歯車3610Cは、端板3420Cと揺動歯車3620Cとの間に配置される。揺動歯車3620Cは、基板部3411Cと揺動歯車3610Cとの間に配置される。
【0127】
揺動歯車3610C,3620Cは、共通の設計図面に基づいて形成されてもよい。揺動歯車3610C,3620Cそれぞれは、トロコイド歯車であってもよいし、サイクロイド歯車であってもよい。本実施形態の原理は、揺動歯車3610C,3620Cとして用いられる歯車の特定の種類に限定されない。
【0128】
揺動歯車3610C,3620Cそれぞれは、複数の内歯ピン3320に噛み合う。クランク軸組立体3500Cが、出力軸3C1周りに回転すると、揺動歯車3610C,3620Cは、内歯ピン3320に噛み合いながら、ケース3310内で周回移動(すなわち、揺動回転)する。この間、揺動歯車3610C,3620Cの中心は、出力軸3C1周りを周回することとなる。外筒3310及びキャリア部3400Cの相対回転は、揺動歯車3610C,3620Cの揺動回転によって引き起こされる。
【0129】
揺動歯車3610C,3620Cそれぞれの中心には、貫通孔が形成される。クランク軸組立体3500Cは、揺動歯車3610C,3620Cそれぞれの中心に形成された貫通孔に嵌め込まれる。
揺動歯車3610C,3620Cそれぞれには、出力軸3C1周りに規定された仮想円に沿って配置された複数のシャフト部3412Cに対応して、複数の貫通孔が形成される。複数のシャフト部3412Cは、これらの貫通孔に挿通される。これらの貫通孔の大きさは、複数のシャフト部3412Cと揺動歯車3610C,3620Cとの間の干渉が生じないように設定される。
【0130】
クランク軸組立体3500Cは、クランク軸3520Cと、2つのジャーナル軸受3531C,3532Cと、2つのクランク軸受3541C,3542Cと、を含む。クランク軸3520Cは、第1ジャーナル3521Cと、第2ジャーナル3522Cと、第1偏心部3523Cと、第2偏心部3524Cと、を含む。
第1ジャーナル3521Cは、出力軸3C1に沿って延び、端板3420Cの中央貫通孔3423Cに挿入される。第2ジャーナル3522Cは、第1ジャーナル3521Cとは反対側で、出力軸3C1に沿って延び、基板部3411Cの中央貫通孔3417Cに挿入される。
【0131】
ジャーナル軸受3531Cは、第1ジャーナル3521Cと中央貫通孔3423Cを形成する端板3420Cの内壁との間の環状空間に嵌め込まれる。この結果、第1ジャーナル3521Cは、端板3420Cに連結される。ジャーナル軸受3532Cは、第2ジャーナル3522Cと中央貫通孔3417Cを形成する基板部3411Cの内壁との間の環状空間に嵌め込まれる。この結果、第2ジャーナル3522Cは、基板部3411Cに連結される。したがって、キャリア部3400Cは、クランク軸組立体3500Cを支持することができる。
【0132】
第1偏心部3523Cは、第1ジャーナル3521Cと第2偏心部3524Cとの間に位置する。第2偏心部3524Cは、第2ジャーナル3522Cと第1偏心部3523Cとの間に位置する。クランク軸受3541Cは、揺動歯車3610Cの中心に形成された貫通孔に嵌め込まれ、第1偏心部3523Cに連結される。この結果、揺動歯車3610Cは、第1偏心部3523Cに取り付けられる。クランク軸受3542Cは、揺動歯車3620Cの中心に形成された貫通孔に嵌め込まれ、第2偏心部3524Cに連結される。この結果、揺動歯車3620Cは、第2偏心部3524Cに取り付けられる。
【0133】
第1ジャーナル3521Cは、第2ジャーナル3522Cと同軸であり、出力軸3C1周りで回転する。第1偏心部3523C及び第2偏心部3524Cそれぞれは、円柱状に形成され、出力軸3C1から偏心している。第1偏心部3523C及び第2偏心部3524Cそれぞれは、出力軸3C1に対して偏心回転し、揺動歯車3610C,3620Cに揺動回転を与える。本実施形態において、偏心部は、第1偏心部3523C及び第2偏心部3524Cのうち一方によって例示される。
【0134】
外筒3310が固定されているならば、揺動歯車3610C,3620Cは、外筒3310の複数の内歯ピン3320と噛み合うので、揺動歯車3610C,3620Cの揺動回転は、出力軸3C1周りのクランク軸3520Cの周回運動と基板部3411Cの回転に変換される。端板3420C及び基板部3411Cは、第1ジャーナル3521C及び第2ジャーナル3522Cにそれぞれ連結されているので、クランク軸3520Cの周回運動は、シャフト部3412Cを介して出力軸3C1周りの端板3420C及び基板部3411Cの回転運動に変換される。揺動歯車3610C,3620C間の周回位相差は、第1偏心部3523Cと第2偏心部3524Cとの間の偏心方向の差異によって決定される。
【0135】
キャリア部3400Cが固定されているならば、揺動歯車3610C,3620Cは、外筒3300の複数の内歯ピン3320と噛み合うので、揺動歯車3610C,3620Cの揺動回転は、出力軸3C1周りの外筒3310の回転運動に変換される。
インプットギア3730Cは、出力軸3C1に沿って延び、支持壁3742を貫通する。インプットギア3730Cは、外壁3740によって囲まれた内部空間Vのうち空間3750を貫通する。クランク軸3520Cには、出力軸3C1に沿って延びる貫通孔3525が形成される。インプットギア3730Cの先端部は、貫通孔3525に差し込まれる。
【0136】
キー溝3732は、インプットギア3730Cの先端部に形成される。他のもう1つのキー溝3526は、貫通孔3525を形成するクランク軸3520Cの内壁面に形成される。キー溝3732,3526は、出力軸3C1に略平行に延びる。キー3733は、キー溝3732,3526に差し込まれる。この結果、インプットギア3730Cは、クランク軸3520Cに連結される。インプットギア3730Cが出力軸3C1周りに回転すると、クランク軸3520Cは、出力軸3C1周りに回転する。この結果、揺動歯車3610C,3620Cの揺動回転が引き起こされる。
【0137】
基板部3411Cに形成された中央貫通孔3417Cは、第1空房部3491と第2空房部3492とを含む。第1空房部3491及び第2空房部3492はともに円形断面を有する。第1空房部3491は、断面積において、第2空房部3492よりも小さい。
第1空房部3491には、第2ジャーナル3522C及びジャーナル軸受3532Cが配置される。基板部3411Cの外面3416Cは、固定側・出力側のいずれかにかかわらず相手部材(図示せず)に圧接される。
【0138】
ケース3310の外周には、フランジ部3314が全周に形成され、外壁3740と接続される。外壁3741の先端部3741aは、平坦に形成されている。外壁3741の先端部3741aには、取付締結部として雌ネジ部3250が形成されている。
フランジ部3314は、ケース3310の外周に設けられ、回転軸線F0に沿った方向で貫通する貫通孔3315を有する。貫通孔3315は、周方向に任意の間隔で設けられる。
【0139】
貫通孔3315は、減速機100と、固定側・出力側のいずれかとなる部品の一部である外壁3740と、を締結するボルト3151が貫通する締結孔である。貫通孔3315は、締結部材であるボルト3151が貫通する。外壁3740の雌ネジ部3250およびボルト3151は、取付締結部を構成する。取付締結部におけるボルト3151および雌ネジ部3250は、締結部3050におけるボルト3051および雌ネジ部3056に対応する。
【0140】
外壁3740とケース3310とで囲まれた空間が内部空間Vは、シール機構50によってシールされる。
本実施形態における減速機100では、ケース3310(20)とキャリア部3400C(30)との間で、回転軸線F0に沿って最も外部空間A側である位置に、シール機構50が配置される。つまり、環状となるケース202(20)とキャリア部204(30)との隙間のうち、外部空間Aに近接する位置がシール機構50によってシールされる。シール機構50は、内部空間Vを外部空間Aから密閉する。
【0141】
シール機構50は、ケース3310(20)の内周面20aと、キャリア部3400C(30)の外周面30aとの間に配置される。本実施形態において、シール機構50は、外部空間Aに露出しているが、この構成に限定されない。シール機構50は、主軸受3710C(26)よりも外部空間Aに近接する。ケース3310(20)とキャリア部3400C(30)との隙間には、回転軸線F0に沿って外部空間Aから内部空間Vの内側に向かって、シール機構50、主軸受3710C(26)、内歯ピン3320、主軸受3720C(26)の順に並んでいる。
【0142】
シール機構50は、第1実施形態で説明した構成と同等の構成を有する。
シール機構50は、芯金52と、ガータスプリング(バネ)58と、基体部(嵌め合い部)54、シールリップ部55、補助リップ部(ダストリップ部)57を形成するシール部材53と、を有する。
シール機構50は、シールリップ部55の線状シール位置51よりも外部空間A側となる外部空間側傾斜面512に、吸い込み増大部56が形成される。
吸い込み増大部56は、正方向リブ領域(リブ領域)56r1と逆方向リブ領域(リブ領域)56r2とリブ間領域56nとを有する。リブ領域56rには、複数のリブ部56aが互いに平行に離間して形成される。さらに、線状シール位置51に対するリブ領域56rの長さおよび配置関係、リブ部56aの角度θ、リブ部56aの径方向高さ寸法、リブ部56aの周方向幅寸法、シール機構50の締め代が適宜設定される。
【0143】
吸い込み増大部56は、シールリップ部55に対するキャリア部30の外周面30aにおける周速が70mm/sec以上5000mm/sec以下で、吸い込み増大部がない場合に比べて流体送り込み量が30倍以上300倍以下とする。より好ましくは、吸い込み増大部56は、シールリップ部55に対するキャリア部30の外周面30aにおける周速が70mm/sec以上1000mm/sec以下で、吸い込み増大部がない場合に比べて流体送り込み量が30倍以上200倍以下とする。
【0144】
本実施形態にかかる減速機100は、第2実施形態で説明した構成に比べて、キャリア部3400Cにおける回転数が高い、つまり、高速回転である。
【0145】
本実施形態の変速機100においては、周速が70mm/sec以上となる高速回転での動作時に温度上昇を来した場合でも、シール機構50による流体送り込み量を増大することが可能となる。これにより、変速機100の内部空間Vから潤滑剤である油などが外部空間Aへと漏れ出すことを抑制すること、すなわち、変速機100におけるシール性を向上することが可能となる。このシール性の向上は、変速機100における温度上昇による影響が低いため、高速回転などでの変速機100における温度変化にかかわらずシール性を維持することが可能となる。
【0146】
本実施形態においては、上述した実施形態と同等の効果を奏することができるとともに、さらに、リブ部56aが追加して形成されることでリップ剛性を向上することができ、シールリップ部55やキャリア部30外周面30aに対するスラッジによるアタックに対してシール耐性を強くすることができる。また、シールリップ部55のキャリア部30外周面30aへの接触面積が小さくなるため、発熱を抑えることができるという効果を奏することができる。
【0147】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の物体で構成されているものは、当該複数の物体を一体化してもよく、逆に一つの物体で構成されているものを複数の物体に分けることができる。一体化されているか否かにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0148】
100…減速機(変速機)
20…ケース
20a…内周面
30…キャリア部
30a…外周面
50…シール機構
51…線状シール位置(リップ先端部)
53…シール部材
54…基体部(嵌め合い部)
55…シールリップ部
56a…リブ部
56n…リブ間領域
56r…リブ領域
56r1…正方向リブ領域(リブ領域)
56r2…逆方向リブ領域(リブ領域)
57…補助リップ部(ダストリップ部)
58…ガータスプリング(バネ)
F0…回転軸線
A…外部空間
V…内部空間
図1
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図8