(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004872
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】導波モード共鳴格子、光学部材、光学製品、及び導波モード共鳴格子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20240110BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G02B5/18
G02B5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104745
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】金森 義明
【テーマコード(参考)】
2H148
2H249
【Fターム(参考)】
2H148AA11
2H148AA23
2H249AA13
2H249AA31
2H249AA37
2H249AA40
2H249AA55
2H249AA62
(57)【要約】 (修正有)
【課題】単一の材料で、あるいは屈折率差の小さな材料の組合せで構成した導波モード共鳴格子及びその製造方法を提供する。また、前記導波モード共鳴格子を有する光学部材ないし光学製品を提供する。
【解決手段】格子層と導波層との積層構造を有し、前記格子層と前記導波層との屈折率差が0.1以下であり、前記導波層側から光を入射させる導波モード共鳴格子及びその製造方法、並びに前記導波モード共鳴格子を有する光学部材ないし光学製品。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子層と導波層との積層構造を有し、前記格子層と前記導波層との屈折率差が0.1以下であり、前記導波層側から光を入射させる、導波モード共鳴格子。
【請求項2】
基板と前記格子層と前記導波層とをこの順に有する、請求項1に記載の導波モード共鳴格子。
【請求項3】
前記格子層の構成材料と前記導波層の構成材料が同じである、請求項1に記載の導波モード共鳴格子。
【請求項4】
前記基板の構成材料と前記格子層の構成材料と前記導波層の構成材料が同じである、請求項2に記載の導波モード共鳴格子。
【請求項5】
前記格子層の格子周期が0.26~0.60μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の導波モード共鳴格子。
【請求項6】
前記格子層の厚さが0.20μm以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の導波モード共鳴格子。
【請求項7】
前記格子層の体積占有率が0.15~0.65である、請求項1~4のいずれか1項に記載の導波モード共鳴格子。
【請求項8】
前記導波層の厚さが0.05~1.00μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の導波モード共鳴格子。
【請求項9】
前記格子層の格子形状が二次元周期構造である、請求項8に記載の導波モード共鳴格子。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか1項に記載の導波モード共鳴格子を有する光学部材。
【請求項11】
前記光学部材が構造色発現部材又は波長選択フィルタである、請求項10に記載の光学部材。
【請求項12】
請求項10に記載の光学部材を有する光学製品。
【請求項13】
基板上のレジスト膜をパターニングして格子周期構造を形成し、又は、樹脂基材にモールドをプレスして格子周期構造を形成し、
前記格子周期構造の格子表面を熱溶融して該表面及びその近傍を変形させて隣り合う格子同士を接合することにより導波層を形成することを含む、請求項2又は4に記載の導波モード共鳴格子の製造方法。
【請求項14】
基板上のレジスト膜をパターニングして格子周期構造を形成し、又は、樹脂基材にモールドをプレスして格子周期構造を形成し、
前記格子周期構造の格子表面に、圧着法、スピンコート法、蒸着法、スパッタ法、又は格子周期構造の開口部の幅よりも大きい樹脂粒子を格子周期構造の上に堆積させる方法により導波層を形成することを含む、請求項2又は4に記載の導波モード共鳴格子の製造方法。
【請求項15】
基材上の樹脂層にモールドをプレスして格子周期構造を形成し、次いで前記基材層を取り除くことを含む、請求項1又は3に記載の導波モード共鳴格子の製造方法。
【請求項16】
基材上の樹脂層にモールドをプレスして格子周期構造を形成し、該格子周期構造の側を基板上に接合し、次いで前記基材を取り除くことを含む、請求項2又は4に記載の導波モード共鳴格子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波モード共鳴格子、及びこれを用いた光学部材ないし光学製品に関する。また、本発明は、導波モード共鳴格子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造色とは、光の波長またはそれ以下の微細構造による発色現象のことを指し、色素や顔料とは異なり経年劣化による退色を生じにくい特徴がある。発色現象としては薄膜干渉、多層膜干渉、回折、回折格子、散乱、波長分散が挙げられる。これらは玉虫の翅、モルフォチョウの鱗粉、クジャクの羽、貝殻、オパールなど自然界でも見ることができる。
【0003】
カラーフィルタは特定の波長域の光を反射または透過することで、分光する光学デバイスである。カラーフィルタはCCD(Charge-Coupled Device)イメージセンサなどの撮像素子や、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:LCD)などの表示装置に利用されている。カラーフィルタは一般に、染料や顔料による特定波長域の光の吸収能を利用している。他方、上記の構造色の発現と同じように、染料や顔料を用いなくても、特定波長の光を反射するようなナノレベルの光学設計によりカラーフィルタを製造することも可能である。
【0004】
上記の構造色の発現やカラーフィルタへの応用が期待される光学素子として、導波モード共鳴格子(Guided-mode resonant grating:GMRG)(例えば特許文献1)が注目されている。GMRGはサブ波長格子の波長選択フィルタである。理論値では狭帯域で100%の反射率を持つ。サブ波長格子は、回折格子の周期を光の波長以下まで短くしたものである。回折波の次数が抑えられ、0次の透過波と反射波しか生じない。GMRGは格子周期や格子幅などを制御することによって反射率や透過率特性を変化させることができ、例えば、光通信用の波長選択フィルタへの応用が報告されている。GMRGによる波長選択フィルタは、従来の薄膜積層型波長選択フィルタと比較して、少ない積層数で同等の波長選択性を示し、積層数を増やすことでより高度な光学設計が可能となる。また、光学特性は格子周期や格子幅で決まるため、同一高さの格子であっても格子のパターニング次第で様々な波長選択特性を持つ複数の波長選択素子を同一基板上に一括製作することが可能である。
【0005】
GMRGの基本構成を
図1に示す。
図1に示すGMRG1では、低屈折率材料11で構成した基板上に高屈折率材料12で構成した層が配され、この高屈折率材料で構成した層にはナノインプリントなどによって一定の周期の格子(サブ波長格子)が形成されている。つまり、低屈折率材料11で構成した基板と、高屈折率材料12で構成した格子層と、基板と格子層との間に位置し、高屈折率材料12で構成した導波層という、光学的特性の異なる3つの機能層を有する。この構造のGMRG1により、格子層側から入射する種々の波長の光を、格子周期Λ及びフィルファクタ(w/Λ)を制御することによりフィルタリングすることが可能となる(
図2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のGMRGは上記の通り、低屈折率材料と高屈折率材料とを組合せることが必要である。この屈折率特性の相違は、通常は材料種の物理・化学的特性の違いに起因するため、従来のGMRGは十分な層間密着性が得られにくい問題がある。また、GMRGの製造面においても、層構成の一体的な形成が難しいという問題がある。
【0008】
本発明は、単一の材料で、あるいは屈折率差の小さな材料の組合せで構成したGMRG及びその製造方法を提供することを課題とする。また本発明は、当該GMRGを有する光学部材、及びこの光学部材を有する製品を提供することを課題とする。
【0009】
本発明者は上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、GMRGの各機能層を単一材料で構成する場合であっても、入射光が入射する側を基準として、従来のGMRGにおける各機能層の積層構成とは発想の異なる新たな積層構成を採用することにより、所望の波長の光を選択的に、高効率に反射するGMRGを提供できることを見出した。本発明は当該知見に基づきさらに検討を重ねて完成させるに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
〔1〕
格子層と導波層との積層構造を有し、前記格子層と前記導波層との屈折率差が0.1以下であり、前記導波層側から光を入射させる、導波モード共鳴格子。
〔2〕
基板と前記格子層と前記導波層とをこの順に有する、〔1〕に記載の導波モード共鳴格子。
〔3〕
前記格子層の構成材料と前記導波層の構成材料が同じである、〔1〕又は〔2〕に記載の導波モード共鳴格子。
〔4〕
前記基板の構成材料と前記格子層の構成材料と前記導波層の構成材料が同じである、〔2〕に記載の導波モード共鳴格子。
〔5〕
前記格子層の格子周期が0.26~0.60μmである、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の導波モード共鳴格子。
〔6〕
前記格子層の厚さが0.20μm以上である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の導波モード共鳴格子。
〔7〕
前記格子層の体積占有率が0.15~0.65である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の導波モード共鳴格子。
〔8〕
前記導波層の厚さが0.05~1.00μmである、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の導波モード共鳴格子。
〔9〕
前記格子層の周期構造が二次元周期構造である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の導波モード共鳴格子。
〔10〕
〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の導波モード共鳴格子を有する光学部材。
〔11〕
前記光学部材が構造色発現部材又は波長選択フィルタである、〔10〕に記載の光学部材。
〔12〕
〔10〕又は〔11〕に記載の光学部材を有する光学製品。
〔13〕
基板上のレジスト膜をパターニングして格子周期構造を形成し、又は、樹脂基材にモールドをプレスして格子周期構造を形成し、
前記格子周期構造の格子表面を熱溶融して該表面及びその近傍を変形させて隣り合う格子同士を接合することにより導波層を形成することを含む、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の導波モード共鳴格子の製造方法。
〔14〕
基板上のレジスト膜をパターニングして格子周期構造を形成し、又は、樹脂基材にモールドをプレスして格子周期構造を形成し、
前記格子周期構造の格子表面に、圧着法、スピンコート法、蒸着法、スパッタ法、又は格子周期構造の開口部の幅よりも大きい樹脂粒子を格子周期構造の上に堆積させる方法により導波層を形成することを含む、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の導波モード共鳴格子の製造方法。
〔15〕
基材上の樹脂層にモールドをプレスして格子周期構造を形成し、次いで前記基材層を取り除くことを含む、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の導波モード共鳴格子の製造方法。
〔16〕
基材上の樹脂層にモールドをプレスして格子周期構造を形成し、該格子周期構造の側を基板上に接合し、次いで前記基材を取り除くことを含む、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の導波モード共鳴格子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のGMRGは、従来のGMRGとは発想の異なる新しい積層構成を有し、単一の材料で、あるいは屈折率差の小さな材料の組合せで構成されながらも、所望の波長の光を選択的に、高効率に反射することができる。また、本発明のGMRGは、格子層が入射光側表面に露出せずに導波層の内側に位置するため、例えばクリーニングの際に、格子層の凹凸が引っ掻きやふき取りに直接さらされることがなく、耐久性にも優れる。本発明の光学部材ないし製品は、上記の本発明のGMRGを有し、GMRGの積層構造の安定性(層間密着性、耐久性)をより高めることができ、その結果、光学特性の信頼性がより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、従来の導波モード共鳴格子の基本構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、従来の導波モード共鳴格子が、格子周期Λ及びフィルファクタ(w/Λ)を制御することにより、種々の波長の光をフィルタリングできることを示す、反射ピークスペクトルである。
【
図3】
図3は、本発明の導波モード共鳴格子の好ましい一実施形態を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の導波モード共鳴格子の好ましい一実施形態において、反射スペクトルの格子周期(Λ)依存性を示したグラフである。
【
図5】
図5は、本発明の導波モード共鳴格子の好ましい一実施形態において、反射スペクトルの格子幅(w)依存性を示したグラフである。
【
図6】
図6は、本発明の導波モード共鳴格子の好ましい一実施形態において、反射スペクトルの導波層厚さ(h
1)依存性を示したグラフである。
【
図7】
図7は、本発明の導波モード共鳴格子の好ましい一実施形態において、反射スペクトルの格子層厚さ(h
2)依存性を示したグラフである。
【
図8】
図8は、本発明の導波モード共鳴格子の好ましい一実施形態において、RGBそれぞれについて高い反射効率を実現するパラメータを採用した場合の反射スペクトルの一例を示すものである。
【
図9】
図9は、本発明の導波モード共鳴格子の好ましい一実施形態において、反射スペクトルの体積占有率依存性を示すものである。
【
図10】
図10は、本発明の導波モード共鳴格子の好ましい一実施形態において、反射スペクトルの格子層厚さ(h
2)依存性を示すものである。
【
図11】
図11は、本発明の導波モード共鳴格子の好ましい一実施形態において、反射スペクトルの導波層厚さ(h
1)依存性を示すものである。
【
図12】
図12は、本発明の導波モード共鳴格子の好ましい一実施形態において、反射スペクトルの格子周期(Λ)依存性を示すものである。
【
図13】本発明の導波モード共鳴格子の製造方法の一例を示す説明図である。
【
図14】本発明の導波モード共鳴格子の製造方法の一例を示す説明図である。
【
図15】本発明の導波モード共鳴格子の製造方法の一例を示す説明図である。
【
図16】本発明の導波モード共鳴格子の製造方法の一例を示す説明図である。
【
図17】本発明の導波モード共鳴格子の製造方法の一例を示す説明図である。
【
図18】本発明の導波モード共鳴格子の製造方法の一例を示す説明図である。
【
図19】フィリングファクター(FF)の算出方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[導波モード共鳴格子]
本発明の導波モード共鳴格子(GMRG)は、格子層と導波層との積層構造を有し、格子層と導波層との屈折率差(25℃における屈折率差の絶対値を意味する、以降も同様。)が0.1以下である。つまり、本発明のGMRGは、単一の材料であるか、あるいは屈折率差の小さな特性の類似した材料の組合せで構成されるものである。本発明のGMRGは、導波層側から光を入射させる形態で用いられるものである。
本発明のGMRGは、基板と前記格子層と前記導波層とをこの順に有する構造であることも好ましい。この場合、基板と前記格子層との屈折率差は特に制限されない。基板は透明樹脂、シリカ、石英などのように透明性の材料で構成されていてもよく、また、有彩色でもよく、無彩色でもよい。製造効率や層間密着性の向上を考慮すると、基板と格子層とは類似した特性の樹脂が好ましく、この観点からは、基板と格子層との屈折率差が0.08以下であることも好ましく、0.06以下であることも好ましく、0.04以下であることも好ましく、0.02以下であることも好ましく、基板と格子層は同一素材であることも好ましい。したがって、本発明のGMRGの好ましい一実施形態では、基板と格子層と導波層とがこの順に配された積層構成を有し、前記基板の構成材料と前記格子層の構成材料と前記導波層の構成材料がすべて同じである。
【0014】
本発明のGMRGの実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各図面は、本発明の理解を容易にするための説明図であり、各部材のサイズないし相対的な大小関係等は説明の便宜上大小を変えている場合があり、実際の関係をそのまま示すものではない。また、本発明で規定する事項以外はこれらの図面に示された外形、形状に限定されるものでもない。
【0015】
図3は、本発明のGMRGの好ましい一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図3に示すように、本発明のGMRGは格子層と導波層との積層構造を有している。
図3に示す形態では、GMRGは、格子層の導波層とは反対側に、基板を有している。また、基板と格子層と導波層とは同一の材料(ポリメチルメタクリレート(PMMA)、屈折率1.5)で構成されている。したがって、後述するように、基板と格子層、又は、格子層と導波層は、一体的に形成することも可能である。
図3に示すGMRGにおいて、格子層の格子周期(Λ)、格子層の格子幅(w)、導波層の厚さ(h
1)、格子層の厚さ(h
2)をそれぞれ変化させたときの、入射光に対する反射特性を、RCWA(Rigorous Coupled-Wave Analysis)法によりシミュレーションした結果を
図4~7に示す。このシミュレーションには数値計算ソフトウェアとしてSynopsys社製のDiffractMODを使用した。シミュレーションにおける設定値は次の通りである。なお、上記格子層の格子形状はいわゆる一次元形状(一次元周期構造)であり、
図3における手前から奥行方向に直線状に空洞が形成されている。上記シミュレーションにおいて入射光はTE偏光(入射光の電界が格子の溝と平行)である。また、前記空洞の導波層又は基板側の形状がテーパー状であってもよい。
・ハーモニクス:10
・計算波長ステップ:2nm
・計算格子周期ステップ:4nm
・計算格子幅ステップ:4nm
・計算導波層厚さステップ:4nm
・計算格子層厚さステップ:10nm
【0016】
図4は、格子幅(w)=200nm、導波層厚さ(h
1)=150nm、格子層厚さ(h
2)=1000nmとして、反射スペクトルの格子周期(Λ)依存性を示したグラフである。格子周期(Λ)の変化に伴い、反射波長のピークが変化していることがわかる。すなわち、格子周期を制御することにより、少なくとも可視光域の所望の波長を反射できることがわかる。なお、
図4において、反射効率の最も高い領域(白黒図面では白い領域が反射効率の最大領域を示す)の中で、中心部分の最大効率部分を破線で示している。
【0017】
図5は、格子周期(Λ)=400nm、導波層厚さ(h
1)=150nm、格子層厚さ(h
2)=1000nmとして、反射スペクトルの格子幅(w)依存性を示したグラフである。波長が0.5μm超付近において、格子幅20~320nm(0.02~0.32μm)程度で高い反射効率を示していることがわかる。また、格子幅100~250nm(0.1~0.25μm)程度で高い反射効率を示していることがわかる。なお、本実施形態(一次元格子形状)では格子幅(w)依存性をみているが、一次元格子形状における格子幅(w)は後述する体積占有率と実質的に等価な要素であり、格子層の有効屈折率(格子層全体の平均屈折率)を決定する主要な要素である。
【0018】
図6は、格子周期(Λ)=400nm、格子幅(w)=200nm、格子層厚さ(h
2)=1000nmとして、反射スペクトルの導波層厚さ(h
1)依存性を示したグラフである。導波層の厚さが300nm以下(0.3μm以下)になると反射ピークが1つ(シングルモード)となり、それより厚いと反射ピークが2つ(マルチモード)となる。また、導波層の厚さが50nm(0.05μm)より薄くなると、反射ピークが消失する。
【0019】
図7は、格子周期(Λ)=400nm、格子幅(w)=200nm、導波層厚さ(h
1)=150nmとして、反射スペクトルの格子層厚さ(h
2)依存性を示したグラフである。この図から、格子層が厚くなる(アスペクト比が大きくなる)ほど、高い反射効率を示すことがわかる。
【0020】
上記シミュレーションを種々の条件で実施し、RGB(赤色・緑色・青色)それぞれの波長領域について高い反射効率を実現するパラメータとして、下表の組み合わせを採用した。このパラメータにおける反射スペクトルを
図8に示す。
図8に示されるように、青色領域(B)の最大反射効率が99.9%、緑色領域(G)の最大反射効率が99.9%、赤色領域(R)の最大反射効率が98.8%であった。
【0021】
【0022】
上記の通り、単一の材料で、あるいは屈折率差の小さな特性の類似した材料の組合せで、格子層と導波層との積層構造を形成した場合に、導波層側から入射させた光を高効率に反射できることがわかる。その理由として、次のことが考えられる。
導波層は光を閉じ込める機能を担うため、周辺媒質と比較して屈折率が高いことが必要である。上記実施形態では、格子層は導波層と同一屈折率材質で構成されているが、有効屈折率は格子材質と格子の隙間の材質(例えば、空気)との体積占有率に依存する平均的な値となるので、導波層の屈折率は格子層の有効屈折率よりも高くなり、導波層として機能するための屈折率の大小関係の条件を満たすものと考えられる。また、格子層は、波長選択性および導波層への光入出力結合器としての機能を有し、格子層と導波層の光伝搬モード(光伝搬モードは近接場光として各層の表面からおおよそ1波長程度、浸み出ている)が重なり合う程度近接していれば両者は光学的に結合する。本発明のポイントは、導波層に閉じ込められた光(導波層の光伝搬モードは近接場光としておおよそ1波長程度、導波層からしみ出している)が基板と光学的に結合しない程度に離す必要があり、そのため、格子層の厚さを一定程度厚くすることでこの問題を回避し、基板も含め単一材質でGMRGを実現できたものと考えられる。
【0023】
次に、格子層の格子形状がいわゆる二次元形状(二次元周期構造)である正方形格子の場合についても、上記と同様にして、基板と格子層と導波層とをPMMAで構成した形態を想定し、シミュレーションを実施した。正方形格子とは、
図3において、導波層を取り除いたと仮定して格子層を入射光が入射する側から平面視観察したとき、凹部の穴(空間)が正方形である格子形状である。格子形状を二次元形状として所望の反射スペクトルを実現できれば、垂直入射時における偏光依存性を解消することが可能となり、実用上の優位性が高まる。なお、本シミュレーションでは、上記ソフトウェアで使用可能なTE偏光を入射光としている。
格子層の格子周期(Λ)を0.340μm、格子層の厚さ(h
2)を1.00μm、導波層の厚さ(h
1)を0.15μmとして、格子幅(w)を変えることにより格子層に占めるPMMA部分の体積占有率(FF
PMMA、FFはフィリングファクタ―の略称)を変化させたときの反射スペクトルを
図9に示す。なお、本発明において単に「体積占有率」という場合、格子層全体の体積(格子材質部分+空間部分)に占める格子材質部分(例えばPMMA部分)の比率を意味する。
ここで、体積占有率(FF
PMMA)の算出方法について、
図19を参照して説明する。
図19は、正方形格子の周期構造を、導波層を取り除いたと仮定して格子層を入射光が入射する側から平面視観察した状態を模式的に示す説明図である。格子層(正方形格子周期構造)を構成する空間(空気)部分の、格子層に占める体積占有率(FF
Air)は下記式(1)で求められる。
FF
Air={(Λ-w)/Λ}
2 (1)
したがって、FF
PMMAは下記式(2)で求められる。
FF
PMMA=1-FF
Air (2)
なお、
図3に示す一次元格子形状においては、FF
Airは下記式(3)で求められ、FF
PMMAは上記式(2)で求められる。
FF
Air=(Λ-w)/Λ (3)
【0024】
図9に示す通り、FF
PMMAが小さくなるほど反射ピーク波長が短波長側にシフトすることがわかる。なお、格子層の格子形状を正方形格子から、同じく二次元周期構造である円形格子に代えた場合についても同様のシミュレーションをした結果、反射ピーク波長が5nmほど長波長側にシフトした以外は
図8と同様の結果が得られたため、以降のシミュレーションは正方形格子について実施した。
【0025】
続いて、格子層の格子周期(Λ)を0.340μm、導波層の厚さ(h
1)を0.15μm、格子層の格子幅(w)を0.108μmとして、格子層の厚さ(h
2)を変化させたときの反射スペクトルを
図10に示す。
図10に示す通り、格子層の厚さ(h
2)が薄くなると、反射ピークの位置はそのままで、反射ピーク高さが低くなることがわかる。この結果から、例えば95%を超えるような高い反射率を実現するには、格子層の厚さ(h
2)をある程度厚く設定し、導波層への基板の影響を小さくする必要があることがわかる。
【0026】
続いて、格子層の格子周期(Λ)を0.340μm、格子層の厚さ(h
2)を1.00μm、格子層の格子幅(w)を0.108μmとして、導波層の厚さ(h
1)を変化させたときの反射スペクトルを
図11に示す。
図11に示す通り、導波層の厚さ(h
1)が厚くなると、反射ピーク波長が長波長側にシフトすることがわかる。
【0027】
続いて、導波層の厚さ(h
1)を0.3μm、格子層の格子幅(w)を0.08μm、格子層の厚さ(h
2)を0.5μmとして、格子層の格子周期(Λ)を変化させたときの反射スペクトルを
図12に示す。
図12に示す通り、格子層の厚さ(h
2)を0.5μmまで薄くしても、導波層の厚さ(h
1)を0.3μmまで厚くした場合には、98%を超えるような優れた反射率を実現できることがわかった。また、格子層の格子周期(Λ)が小さいほど反射ピーク波長が低波長側にシフトし、かつピークが高く鋭くなる傾向があることもわかった。
【0028】
上記の検討結果から、格子層の厚さ(h
2)を一定以上に確保した上で、格子層の格子周期(Λ)、導波層の厚さ(h
1)、及び格子層の格子幅(w)ないしFFの関係を制御することにより、所望の波長の光を極めて高効率に反射するGMRGを提供できることがわかる。
なお、上記の検討は主に青色波長領域における反射ピーク波長の調整について示したが、格子周期(Λ)や格子幅(w)ないしFFを制御すれば緑色波長領域や赤色波長領域に反射ピーク波長を有するGMRGを提供することができ、これらの波長領域の所望の波長の光を高効率に反射できる設計とできることは、表1や
図8に示す結果も併せて考慮すれば当然に理解できる。
【0029】
上記の検討結果から、本発明のGMRGにおいて、格子層の格子周期は、GMRGとして機能する範囲において、目的の反射ピーク波長に応じて適宜に設計することができる。可視光領域に反射ピーク波長を有するようにするには、格子層の格子周期は
図4と
図12の結果から、0.26~0.60μmであることが好ましく、0.27~0.56μmであることがより好ましい。
また、格子層の体積占有率は、
図9の結果から0.15~0.65が好ましく、0.20~0.60がより好ましい。
また、格子層の厚さは、
図7の結果から0.20μm以上が好ましく、通常は0.40~2.00μmであり、0.60~2.00μmがより好ましく、0.80~1.20μmがさらに好ましい。
また、導波層の厚さは、
図6の結果から0.05~1.00μmが好ましく、0.05~0.90μmがより好ましく、0.05~0.40μmがさらに好ましく、0.10~0.30μmがさらに好ましく、特に0.20~0.30μmがシングルピークが出る範囲としてさらに好ましい。
【0030】
本発明のGMRGにおいて、格子層の格子形状(上記と同様に平面視観察したとき、凹部の穴(空間)の形状)は特に制限されない。格子層の格子形状は矩形(本発明において「矩形」とは正方形と長方形の両方を包含する意味である)であることも好ましく、この場合、より好ましくは正方形である。なお、本発明において「矩形」という場合、略矩形であることを意味する。例えば、四隅がすべて直角である形状の他、これと等価な特性を発現すれば、四隅が90度近傍の角度であったり、丸みを帯びたりしていてもよい。また、本発明のGMRGにおいて、格子層の格子形状は円形でもよく、楕円形でもよい。
また、格子層の格子形状として、上記の構造と凹凸を反転させた構造、すなわち、上記と同様に平面視観察したとき、凸部(格子材質部分)の形状を、上記のように矩形、円形、楕円形等にすることも好ましい。この場合、上記計算式におけるFFAirがFFPMMAとなる。
【0031】
本発明のGMRGは、少なくとも格子層と導波層が樹脂(好ましくは熱可塑性樹脂)で構成されていることが好ましい。このような樹脂としては透明樹脂が挙げられ、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂などが挙げられる。また、本発明のGMRGが、格子層の導波層とは反対側に基板を有する場合、基板の構成材料は特に制限されない、基板を透明材料で形成する場合、一例として、シリカ、石英、樹脂等で構成することができる。基板の構成材料が樹脂の場合、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂などが挙げられる。
【0032】
[導波モード共鳴格子の製造方法]
本発明のGMRGの製造方法の一例を、
図13及び14を参照して説明する。以降の図面は、本発明のGMRGの製造方法を説明するための模式的な説明図である。
図13に示す製造方法は、基板2上に形成したレジスト膜3をパターニングして格子周期構造を形成し(
図13の(a)、(b))、この格子周期構造の格子表面を熱溶融して当該表面及びその近傍を変形させて隣り合う格子を接合することにより導波層を形成する方法である(
図13の(c))。
図13の(b)から(c)までをより詳細に示したのが
図14である。格子周期構造の格子の上部に熱をかけて格子表面(
図14における格子の上面)ないしその近傍のみを溶かして変形させて、隣り合う格子同士を接合することにより導波層を形成することができる。
上記の加熱は、例えば、基板2を冷却しながら格子表面にホットプレートを押し付けるなどして行うことができる。
また、格子表面(格子先端部)は表面/体積の比が最も大きいので、実効的な融点あるいはガラス転移温度が低くなる。したがって、格子全体を加熱した場合、格子先端部が最初に変形し始める。したがって、格子材料のガラス転移温度~融点の間の適切な温度で格子全体を加熱することによっても、導波層の形成が可能である。
上記方法により、格子層と導波層が同一素材(例えばアクリル樹脂)で形成されたGMRGを得ることができる。さらに、基板も同一素材とすることが可能である。
【0033】
本発明のGMRGの製造方法の別の例として、基板上のレジスト膜を格子状にパターニングして格子周期構造を形成し、この格子周期構造の格子表面にさらに樹脂膜を設け、該樹脂膜を導波層とする方法が挙げられる。その一例を、
図15を参照して説明する。
図15に示す方法では、まず、基板2上にレジスト膜3を塗布して電子線(EB)描画によりレジスト膜を所望の格子状にパターニングして格子周期構造を形成する(
図15の(a)、(b))。また、これとは別に、シリコーン樹脂等の基材5上に導波層形成用のレジスト(3、樹脂)を塗布する(
図15の(c))。格子周期構造の格子表面と導波層形成用のレジストとを熱圧着等により圧着した後(
図15の(d))、基材5を剥離する(
図15の(e))。こうして、基板上に格子層と導波層の積層構造を形成することができる。
基板2上のレジスト膜(3、樹脂)と導波層形成用のレジスト膜(3、樹脂)とを同じ素材とすれば、格子層と導波層が同一素材(例えばアクリル樹脂)で形成されたGMRGを得ることができる。また、基板2も同一素材とすることが可能である。
【0034】
本発明のGMRGの製造方法のさらに別の例を、
図16を参照して説明する。
図16に示す方法は、ナノインプリント技術を利用するものである。まず、樹脂基材6にモールド7をプレスし(
図16の(a)、(b))、次いでモールド7を取り除くことにより樹脂基材6に格子周期構造を形成する(
図16の(c))。この格子周期構造の格子表面に導波層(8、樹脂膜)を形成することにより、基板と格子層と導波層との積層構造(
図16の(d))を形成することができる。
導波層8となる樹脂膜の形成方法としては、上述のように、格子表面ないしその近傍のみを溶かして変形させて、隣り合う格子を接合する方法や、導波層形成用のレジスト膜(樹脂膜)を圧着(例えば熱圧着)する方法(圧着法)などが挙げられる。
また、スピンコート法を用いて導波層8となる樹脂膜を形成することもできる。すなわち、スピンコートの遠心力を利用して、滴下した樹脂を、格子周期構造の溝(穴)を完全には埋めずに表面を覆うようにコーティングして導波層8を形成することができる。
また、蒸着法又はスパッタ法を利用して導波層8となる樹脂膜を形成することもできる。すなわち、蒸着法又はスパッタ法によって樹脂を粒子化して、格子周期構造を形成した樹脂基材を傾けるなどして樹脂粒子を斜め方向から格子周期構造に付着させることにより、樹脂粒子が格子周期構造の溝(穴)の底部まで侵入せずに、格子周期構造の開口部を塞ぐように成膜することができ、得られた膜を導波層8として機能させることができる。
また、
図17に示すように、格子周期構造の開口部の幅よりも大きい樹脂粒子を格子周期構造の上に堆積させることによって導波層8となる樹脂膜を形成することもできる。この場合、格子周期構造の上に堆積した樹脂粒子を、熱処理や加圧処理などに付せば、樹脂粒子同士の密着性、並びに樹脂粒子と格子層との密着性をより高めることができる。
【0035】
本発明のGMRGの製造方法のさらに別の実施形態を、
図18を参照して説明する。
図18に示すように、まず、シリカや石英等の基材4上に樹脂を塗布して樹脂層6aを形成し、この樹脂層6aに、上記のようにナノインプリント技術で格子周期構造を形成することにより、基材4上に導波層と格子層との積層構造を形成する(
図18の(a)、(b))。次いで、基材4を取り除くことにより、格子層と導波層との積層構造からなるGMRGを得ることができる。また、基材4を取り除く前に、必要により、この格子周期構造の側を別途用意した基板6bに熱圧着などにより接合し(
図18の(c))、その後、基材4を取り除くことにより、基板と格子層と導波層との積層構造からなるGMRGを得ることができる(
図18の(d))。
【0036】
[導波モード共鳴格子の用途]
本発明のGMRGは、前述の結果から、入射した光を所望の波長に選択的に高効率に反射する「反射型フィルタ」として機能する。また、本発明のGMRGは、格子層が入射光側表面に露出せずに導波層の内側に位置するため、例えばクリーニングの際に、格子層の凹凸が引っ掻きやふき取りに直接さらされることがなく、耐久性にも優れる。また、本発明のGMRGは、光学部材に組み込むことができる。このような光学部材として、例えば、構造色発現部材、波長選択フィルタ、色素レス塗料、偏光フィルタ、色ガラス、減光フィルタ、調光フィルタ、繊維素材(色付き)、金属素材(金属色を発色する素材)、色相制御部材、分光制御部材などが挙げられる。
また、このような光学部材を有する製品ないし半製品として、例えば、光センサ(ロボット、自動車、IoT、ウェアラブルデバイスなど)、加飾品、自動車等の車体塗装、自動車構成部品、ディスプレイ、分光器、通信用フィルタ、遮光・遮熱材、サングラス、サンバイザー、保護具、食器、歪みセンサ、フォースセンサ、化粧品、偽造防止材、識別タグ、衣料品、装飾品(時計、アクセサリー、車)、建材、プラスチック容器・シート・シールドへの印刷・ロゴ、色付け製品などが挙げられる。
このように、本発明の光学部材ないし製品ないし半製品は、上記の本発明のGMRGを有し、GMRGの積層構造の安定性(層間密着性、耐久性)をより高めることができ、その結果、光学特性の信頼性がより高められる。
【符号の説明】
【0037】
1 導波モード共鳴格子
11 低屈折率材料
12 高屈折率材料
2 基板
3 レジスト膜
4 基材(シリカ、石英)
5 基材(シリコーン樹脂)
6a 樹脂層(熱可塑性樹脂層)
6b 基板(樹脂基板)
7 モールド(格子周期構造を形成するための型)
8 導波層(樹脂膜)