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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048720
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20240402BHJP
   H02P 23/04 20060101ALI20240402BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P23/04
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154790
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】武田 広大
(72)【発明者】
【氏名】谷口 峻
(72)【発明者】
【氏名】松尾 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】初瀬 渉
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG01
5H505GG04
5H505HA09
5H505HA10
5H505JJ03
5H505JJ16
5H505JJ22
5H505JJ25
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL41
5H505MM17
(57)【要約】
【課題】
特別な動作シーケンスを備えることなく、安定かつ正確に電流センサのゲイン誤差を推定・補償できるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】
本モータ制御装置(1)は、交流モータ(5)を駆動するインバータ(4)の制御信号(D*uvw)を生成するものであって、電流センサ(11)によって検出される三相モータ電流の振幅値を用いて電流センサのゲイン誤差(erruvw)を計算する誤差計算部(100)と、誤差計算部によって推定されるゲイン誤差に基づいて、ゲイン誤差を補償するための電流補正量(muvw,Δidp)を計算する補正量計算部(200)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流モータを駆動するインバータの制御信号を生成するモータ制御装置において、
電流センサによって検出される三相モータ電流の振幅値を用いて前記電流センサのゲイン誤差を計算する誤差計算部と、
前記誤差計算部によって推定される前記ゲイン誤差に基づいて、前記ゲイン誤差を補償するための電流補正量を計算する補正量計算部と、
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記誤差計算部は、前記三相モータ電流の各相の前記振幅値と、三相の前記振幅値の平均値とに基づいて、前記ゲイン誤差を計算することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ制御装置において、
前記誤差計算部は、前記三相モータ電流の検出値と、前記交流モータの電気角および電気角速度と、dq軸電流の指令値とに基づいて、前記三相モータ電流の前記各相の前記振幅値を推定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記誤差計算部は、前記交流モータの電流位相量の時間変化率が所定値以下であるときに、前記ゲイン誤差の計算を実施することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記補正量計算部は、前記三相モータ電流の検出値を補正する三相電流補正量と、dq軸電流の検出値を補正するdq軸電流補正量を計算することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載のモータ制御装置において、
前記補正量計算部は、前記三相電流補正量として、前記ゲイン誤差に基づいて、補正係数を計算し、
前記補正量計算部は、前記ゲイン誤差と、前記交流モータの電気角と、前記dq軸電流の前記指令値に基づいて、前記dq軸電流補正量を計算することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載のモータ制御装置において、
前記補正量計算部は、前記三相電流補正量および前記dq軸電流補正量のいずれか一方を選択する選択部を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項8】
請求項5に記載のモータ制御装置において、
前記三相電流補正量によって補正された前記三相モータ電流の前記検出値を前記dq軸電流の前記検出値に変換することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項9】
請求項5に記載のモータ制御装置において、
前記dq軸電流補正量によって補正された前記dq軸電流の前記検出値と、前記dq軸電流の指令値とに基づいて、前記制御信号を生成する制御器を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項10】
請求項2に記載のモータ制御装置において、
dq軸電流の指令値と前記dq軸電流の検出値とが一致しないモータ動作では、
前記誤差計算部は、前記三相モータ電流の検出値と、前記交流モータの電気角および電気角速度と、前記dq軸電流の前記検出値とに基づいて、前記三相モータ電流の前記各相の前記振幅値を推定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載のモータ制御装置において、
前記補正量計算部は、前記三相モータ電流の前記検出値を補正する三相電流補正量と、前記dq軸電流の前記検出値を補正するdq軸電流補正量を計算することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項12】
請求項11に記載のモータ制御装置において、
前記dq軸電流の前記指令値と前記dq軸電流の前記検出値とが一致しない前記モータ動作では、
前記補正量計算部は、前記三相電流補正量として、前記ゲイン誤差に基づいて、補正係数を計算し、
前記補正量計算部は、前記ゲイン誤差と、前記モータの電気角と、前記dq軸電流の前記検出値に基づいて、前記dq軸電流補正量を計算することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項13】
請求項12に記載のモータ制御装置において、
前記補正量計算部は、前記三相電流補正量および前記dq軸電流補正量の内、前記三相電流補正量を選択する選択部を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータのトルクや速度を制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ制御装置は、モータのトルクや速度が指令値に追従するように、モータ電流を制御する。このとき、モータ電流の時間高調波やモータ磁束の空間高調波により、トルクリプルが生じる。トルクリプルは、振動や騒音の発生要因となる。モータ制御装置は、トルクリプルを低減するために、トルクリプル抑制制御を実行する。トルクリプル抑制制御においては、トルクリプル推定値に応じて電流指令値が補正される。
【0003】
トルクリプルは、電流センサのゲイン誤差によっても発生する。電流センサにゲイン誤差がある場合、モータ電流検出値から変換されるdq軸電流に、二次の振動成分が発生する(例えば、後述する特許文献1に記載の「式(2)」参照)。モータ制御装置は、この振動成分を除去するように電流制御を実行する。このため、モータ電流に電流リプルが生じるので、トルクリプルが発生する。
【0004】
このような電流センサのゲイン誤差を推定・補正する従来技術として、特許文献1に記載された技術が知られている。
【0005】
本従来技術では、モータ制御装置は、動作モードとして、通常の動作モードとCT補正駆動モードを備えている。CT補正駆動モードにおいては、電流制御部において、d軸電流制御部およびq軸電流制御部は停止状態となり、非干渉制御部のみが動作を継続する。このような動作状態において、d軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*のいずれか一方を零に設定し、dq軸の一方にのみ電流を流す。このときd軸電流検出値およびq軸電流検出値のいずれかに含まれる脈動成分のみを抽出して、CTゲイン誤差を算出する。算出されたCTゲイン誤差に基づいて、三相電流演算部におけるゲインを補正する。
【0006】
本従来技術によるモータ制御装置は、通常の動作モードとして起動後、CT補正駆動モードを経て、再び通常の動作モードに復帰する動作シーケンスを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-19341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術では、電流センサのゲイン誤差を推定・補正するために、モータ制御装置が特別な動作シーケンスを備えている。このため、シーケンス実施条件の設定や、シーケンス切り替え時における制御の安定化などのため、モータ制御装置の開発期間や開発コストが増加する可能性がある。
【0009】
そこで、本発明は、特別な動作シーケンスを備えることなく、安定かつ正確に電流センサのゲイン誤差を推定・補償できるモータ制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明によるモータ制御装置は、交流モータを駆動するインバータの制御信号を生成するものであって、電流センサによって検出される三相モータ電流の振幅値を用いて電流センサのゲイン誤差を計算する誤差計算部と、誤差計算部によって推定されるゲイン誤差に基づいて、ゲイン誤差を補償するための電流補正量を計算する補正量計算部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特別な動作シーケンスによらず、安定かつ正確に電流センサのゲイン誤差を推定・補償できる
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
図2】実施例1における誤差計算部の構成を示す機能ブロック図である。
図3】実施例1における補正量計算部の構成を示す機能ブロック図である。
図4】誤差推定部102の動作の変更を示す状態遷移図である。
図5】モータ状態判定部103の動作を示すフローチャートである。
図6】補正先選択部203の動作を示すフローチャートである。
図7】実施例2であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
図8】実施例2における誤差計算部の構成を示す機能ブロック図である。
図9】実施例2における補正量計算部の構成を示す機能ブロック図である。
図10】補正先選択部303の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、下記の実施例1~2により、図面を用いながら説明する。
【0014】
各図において、参照番号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。
【実施例0015】
図1は、本発明の実施例1であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【0016】
以下の記載において、「dq軸」という記載は、「d軸およびq軸」を表す。また、以下に記載する添え字付きのパラメータX(「i」など)については、特に断らない限り、「Xdq」は「ベクトル量(X,X)」を表し、「Xuvw」は「ベクトル量(X,X,X)」を表す。ここで、「uvw」は、交流の三相すなわち「U相、V相およびW相」を表す。
【0017】
モータ制御装置1は、モータ5に交流電力を供給するインバータ4のスイッチングを制御することにより、モータ5の速度やトルクを制御する。
【0018】
本実施例において、モータ制御装置1は、マイクロコンピュータなどの演算処理装置によって構成され、所定のプログラムを実行することにより、各部として機能する。
【0019】
本実施例において、インバータ4は、IGBTやMOSFETのような半導体スイッチング素子から構成される三相フルブリッジ回路を主回路とする三相インバータである。
【0020】
モータ制御装置1が生成する制御信号D*uvwによって、インバータ4の主回路を構成する半導体スイッチング素子のオン・オフが制御される。これにより、インバータ4は、蓄電池などの直流電源から入力する直流電力を三相交流電力に変換し、三相交流電圧vuvwを出力する。制御信号D*uvwは、半導体スイッチング素子がIGBTやMOSFETである場合、半導体スイッチング素子のゲート制御信号である。
【0021】
制御信号D*uvwは、インバータ4の主回路である三相フルブリッジ回路のスイッチングを制御するため、6個の制御信号、すなわちU相上アーム用制御信号(D*up)、U相下アーム用制御信号(D*un)、V相上アーム用制御信号(D*vp)、V相下アーム用制御信号(D*vn)、W相上アーム用制御信号(D*wp)およびW相下アーム用制御信号(D*wn)から構成される。なお、添え字p,nは、それぞれ上アーム、下アームを表す。
【0022】
本実施例において、モータ5としては、回転機である三相交流同期モータ、例えば、永久磁石同期モータが適用される。
【0023】
モータ5としては、同期機に限らず、誘導機が適用されてもよい。また、モータ5としては、回転機に限らず、リニアモータが適用されてもよい。なお、モータ5は、発電機能を有してもよい。
【0024】
図1に示すように、モータ制御装置1は、dq軸電流指令値2(i*dq)と、制御器3と、電気角計算部6と、電気角速度計算部7と、A/D変換器8と、三相/dq軸変換器9と、dq軸電流補正部10aと、三相電流補正部10bと、電流センサ11と、誤差計算部100と、補正量計算部200と、を備える。
【0025】
制御器3は、dq軸電流検出値idqとdq軸電流指令値i*dq(2)との差分に応じて、idqがi*dqに一致するように、インバータ4のスイッチングを制御する制御信号Duvw*を生成する。本実施例において、dq軸電流補正部10aは、制御器3へ入力される差分量をdq軸電流補正量Δidqによって補正する。Δidqは、idqの補正量であり、後述するように、電流センサ11のゲイン誤差に起因するdq軸電流検出値idqの振動成分の発生を補償する。
【0026】
本実施例においては、制御器3は、公知の構成を有している。例えば、制御器3は、PI演算によりdq軸電圧指令値を作成するdq軸電流制御器と、dq軸電圧指令値を三相電圧指令値に変換するdq/三相変換器と、三相電圧指令値に応じてインバータの制御信号を生成するPWM制御器とから構成される。なお、PI演算に代えて、公知の電圧方程式を用いて、dq軸電圧指令値を作成してもよい。
【0027】
電気角計算部6は、モータ5が備える回転センサ(図示せず)からの回転位置信号に基づき、電気角θを計算して出力する。回転センサは、モータ5の回転子の機械角(θ)に応じて回転位置信号を出力するが、電気角計算部6は、モータ5の極対数(p)、並びに、θとθとpとの関係(θ=p・θ)を用いて、θを計算する。
【0028】
回転センサとしては、レゾルバ、ホールセンサ、ロータリエンコーダなどが適用できる。
【0029】
電気角速度計算部7は、電気角計算部6と同様にモータ5が備える回転センサ(図示せず)からの回転位置信号に基づき、電気角速度ωを計算して出力する。電気角度計算部7は、モータ5の極対数(p)、電気角θと機械角θとpとの関係(θ=p・θ)およびおよびθとωの関係(ω=dθ/dt)用いて、ωを計算する。なお、電気角速度演算部7は、電気角計算部6の出力するθを微分してωを計算する微分器によって構成されてもよい。
【0030】
A/D変換器8は、インバータ4の出力とモータ5との間の配線ケーブルに流れる三相モータ実電流値irealuvwを電流センサ11によって取得するときの電流センサ11の電流検出信号を、モータ制御装置1が扱うデジタル値に変換して、三相モータ電流検出値imeasuvwとして出力する。
【0031】
三相/dq軸変換器9は、A/D変換器8からの三相モータ電流検出値imeasuvwと電気角計算部6からの電気角θeに基づきdq軸電流検出値idqを計算する。本実施例において、三相電流補正部10bは、後述する補正係数muvwによってimeasuvwを補正する。補正された三相モータ電流検出値が三相/dq軸変換器9に入力される。後述するように、補正係数muvwは、電流センサ11のゲイン誤差(以下、「誤差」と記す)に起因するdq軸電流検出値idqの振動成分の発生を補償する。
【0032】
電流センサ11は、三相の配線ケーブルの各々、もしくは、三相の配線ケーブルの内の二相に設けられる。電流センサ11を二相分の配線ケーブルに設ける場合、A/D変換器8は、二相分の検出信号をデジタル値に変換し、二相分のモータ電流検出値とする。さらに、三相モータ電流の和が零になることを用いて、図示しない演算器(加減算器)によって、残る一相分のモータ電流値が計算される。
【0033】
なお、電流センサ11としては、電流トランス(CT)やホール素子などが適用される。
【0034】
誤差計算部100は、三相モータ電流検出値imeasuvwと、電気角θと、電気角速度ωと、dq軸電流指令値idq*とに基づいて、電流センサ11の誤差erruvwを計算する。
【0035】
補正量計算部200は、誤差計算部100によって計算されたerruvwと、dq軸電流指令値i*dqとに基づいて、dq軸電流補正部10aにおいて用いられるdq軸電流補正量Δidqと、三相電流補正部10bにおいて用いられる補正係数muvwとを計算する。
【0036】
図2は、実施例1における誤差計算部100(図1)の構成を示す機能ブロック図である。
【0037】
図2に示すように、誤差計算部100は、三相電流振幅推定部101と、誤差推定部102と、モータ状態判定部103とを備えている。
【0038】
三相電流振幅推定部101は、三相モータ電流検出値imeasuvw(=(imeas,Imeas,Imeas))と、電気角θおよび電気角速度ω図1)と、dq軸電流指令値I*dq(=(I*,I*))とに基づいて、三相モータ電流振幅値IUVW(=(I,I,I)を推定する。なお、添え字「UVW」は、交流の三相すなわち「U相、V相およびW相」を表す。
【0039】
モータ状態判定部103は、dq軸電流指令値i*dqに基づいて、モータ5(図1)の状態を判定する。
【0040】
誤差推定部102は、モータ状態判定部103によって判定されたモータ5の状態に応じて、三相電流振幅推定部101によって推定された三相モータ電流振幅値IUVWに基づいて電流センサ11(図1)の誤差erruvwを計算して推定する。
【0041】
図3は、実施例1における補正量計算部200(図1)の構成を示す機能ブロック図である。
【0042】
図3に示すように、補正量計算部200は、dq軸電流補正量計算部201と、三相電流補正量計算部202と、補正先選択部203とを有している。
【0043】
dq軸電流補正量計算部201は、誤差計算部100(図1,2)によって計算された誤差erruvw(=(err,err,err))と、機械角θ図1)と、dq軸電流指令値i*dqとに基づいて、dq軸電流補正量Δidq(=(Δi,Δi))を計算する。
【0044】
三相電流補正量計算部202は、誤差erruvwに基づいて、補正係数muvw(=(m,m,m))を計算する。
【0045】
補正先選択部203は、Δidqおよびmuvwから、電流センサ11の誤差に起因するdq軸電流検出値idqの振動成分の発生を補償するために用いる補正量を選択する。すなわち、補正先選択部203は、dq軸電流補正量計算部201および三相電流補正量計算部202から、補正量の計算を実行する補正量計算部を選択する。
【0046】
ここで、電流センサ11の誤差に起因するdq軸電流検出値の振動成分の発生について、概略的に説明する。
【0047】
電流センサ11に誤差erruvwが有る場合の三相モータ電流検出値imeasuvwを何ら補正することなく回転座標へ座標変換すると、dq軸電流検出値idqは式(1)で表される。
【0048】
【数1】
【0049】
式(1)の左辺においては、idqを列ベクトルで表している。右辺第一項の列ベクトルは、irealuvwを座標変換して得られるirealdqを表す。右辺第二および第三項における位相ψは、後述するように(式(12)参照)、一定値の位相量である。
【0050】
式(1)の右辺第二および第三項が示すように、電流センサ11に誤差erruvwが有る場合、irealdqに対して誤差となる直流成分(第二項)および2次の振動成分(第三項)が生じる。
【0051】
このように、irealuvwが振動成分を含まなくても、電流センサ11の誤差が有ると、idqに振動成分が生じる。
【0052】
以下、上述のような電流センサ11の誤差に起因するdq軸電流検出値idqに発生する振動成分を補償するための、実施例1によるモータ制御装置1の動作について説明する。なお、適宜、図1~3を参照しながら、説明する。
【0053】
三相電流補正部10b(図1)は、式(2)に基づいて、三相モータ電流検出値imeasuvwを補正する。
【0054】
【数2】
【0055】
式(2)が示すように、三相電流補正部10bは、imeasuvwに、補正量計算部200(図1)によって計算された補正係数muvwを乗じて、補正された三相モータ電流検出値imeasuvw’(=(imeas’,imeas’,imeas’)=(m・imeas,m・imeas,m・imeas))として三相/dq軸変換器9(図1)へ出力する。
【0056】
なお、誤差計算部100(図1)によって誤差erruvwの計算が実行される前は、muvw(=(m,m,m))は(1,1,1)に設定される。
【0057】
三相/dq軸変換器9は、補正された三相モータ電流検出値imeasuvw’と、電気角θとから、式(3)に基づいてdq軸電流検出値idqを計算する。
【0058】
【数3】
【0059】
制御器3(図1)は、このようなdq軸電流検出値idqを用いて、前述のようにインバータ4(図1)のスイッチングを制御する制御信号D*uvwを生成する。
【0060】
次に、誤差計算部100(図2)の動作について説明する。
【0061】
まず、三相電流振幅推定部101における三相モータ電流振幅値IUVWの推定手段について、U相モータ電流振幅値Iを例にして説明する。
【0062】
U相モータ電流検出値imeasとU相モータ電流振幅値Iとは、式(4)の関係にある。
【0063】
【数4】
【0064】
式(4)においては、モータ5におけるU相磁束を位相基準としている。
【0065】
式(4)に基づいて、Iは式(5)で表される。
【0066】
【数5】
【0067】
なお、電流検出タイミングが、電気角θの検出タイミングに対してΔtだけ遅れる場合、電気角θをωΔtだけ進める補正を行ってもよい。
【0068】
式(4)および(5)におけるβは、回転座標系における電流位相であり、dq軸電流検出値idqから計算できるが、本実施例では、式(6)を用いて、dq軸電流指令値i*dqから計算される。
【0069】
【数6】
【0070】
これにより、idqに含まれる電流センサの誤差やノイズのβcに対する影響が抑えられる。また、周波数として表される電流制御応答相当のローパスフィルタ(LPF)を通したi*dqに基づきβを計算してもよい。
【0071】
なお、式(6)に代えて、さらに、βとidqとの対応を表すテーブルデータを用いてもよい。
【0072】
V相およびW相モータ電流振幅値I,Iは、位相基準から、それぞれ、-2/3π、2/3πだけ位相をずらして、式(7)、式(8)で表される。
【0073】
【数7】
【0074】
【数8】
【0075】
三相電流振幅推定部101においては、式(6)~(8)の分母が三角関数であるため、電気角1周期について2度、ゼロ割もしくはゼロ割に非常に近い状態が発生する。実際の三相モータ電流は正弦波から歪むため、電流ゼロクロス付近で電流振幅値が大きく振れる可能性がある。したがって、誤差推定部102における誤差の計算精度が低下する可能性がある。そのため、三相電流振幅推定部101は、分母の三角関数の値がある一定値以下となる時、計算動作を停止して、予め設定される所定値を出力してもよい。
【0076】
誤差推定部102は、三相電流振幅推定部101から三相モータ電流振幅値IUVWを受ける。もし、電流センサの誤差がなければ、三相平衡の条件下で、I,I,Iは等しくなる。そこで、誤差推定部102は、I,I,Iの平均値Iave(=(I+I+I)/3)を真値として、式(9)を用いて、電流センサ11の誤差erruvwを計算して推定する。
【0077】
【数9】
【0078】
誤差推定部102は、モータ状態判定部103の出力(判定結果)に基づき動作を変更する。
【0079】
図4は、誤差推定部102の動作の変更を示す状態遷移図である。
【0080】
初期状態S1において、誤差推定部102は、初期値として設定した誤差erruvw(=(err,err,err))の値を出力する。本実施例では、初期値は(1,1,1)である。また、予め誤差がわかっている場合、その誤差を初期値として設定してもよい。
【0081】
モータ状態判定部103の出力が「誤差推定実施可」であれば、状態S2に遷移する。状態S2において、誤差推定部102は、式(9)に基づいて誤差を計算して出力する。
【0082】
モータ状態判定部103の出力が、「誤差推定実施不可」であれば、状態S3に遷移する。状態S3において、誤差推定部102は、誤差として前回値を保持して出力する。
【0083】
図5は、モータ状態判定部103の動作を示すフローチャートである。
【0084】
モータ状態判定部103は、処理を開始すると(ステップS101)、ステップS102において、式(6)で表されるモータ5の電流位相量βcの時間変化率が所定の一定値以下であるかを判定する。モータ状態判定部103は、一定値以下であると判定すると(ステップS102のYES)、次にステップS103を実行し、一定値以下ではない、すなわち一定値より大であると判定すると(ステップS102のNO)、次にステップS105を実行する。
【0085】
ステップS103において、モータ状態判定部103は、誤差の推定を実施するかを判定する。モータ状態判定部103は、実施すると判定すると(ステップS103のYES)、次にステップS104を実行し、実施しないと判定すると(ステップS103のNO)、次にステップS105を実行する。
【0086】
ステップS104において、モータ状態判定部103は、モータ状態の判定結果として「誤差推定実施可」を出力する。ステップS104を実行すると、モータ状態判定部103は、一連の処理を終了する。
【0087】
ステップS105は、モータ状態判定部103は、モータ状態の判定結果として「誤差推定実施不可」を出力する。ステップS105を実行すると、モータ状態判定部103は、一連の処理を終了する。
【0088】
なお、ステップS103における判定基準は、誤差の推定精度が低下したり、計算負荷が増大したりする場合を考慮して、適宜設定される。
【0089】
また、常に誤差の推定および補償を実施する場合には、ステップS103は省略してもよい。
【0090】
また、式(9)が示すように、誤差の計算には電流振幅値による割り算が含まれるため、電流振幅値が小さい場合、誤差の計算精度が低下する可能性がある。そのような場合、モータ状態判定部103の動作に、電流振幅値が所定の一定値以下の場合に「誤差推定実施不可」を出力するような条件分岐を加えてもよい。
【0091】
次に、補正量計算部200(図3)の動作について説明する。
【0092】
dq軸電流補正量計算部201は、誤差計算部100(図1図2)によって計算された誤差erruvwを用いて、式(10)~(13)に基づき、dq軸電流補正量Δidq(=(Δi,Δi))を計算する。
【0093】
【数10】
【0094】
【数11】
【0095】
【数12】
【0096】
【数13】
【0097】
本実施例では、式(10)および式(11)が示すように、式(1)の右辺第三項に示すようなdq軸電流検出値idqにおける2次の振動成分が補償される。なお、本実施例では、式(1)の右辺第二項に示すようなdq軸電流の直流成分の発生は補償されない。このため、直流成分の補償に伴う予期せぬトルク精度の低下を抑制できる。
【0098】
なお、電流制御帯域以上では補償なしでもよいため、モータ5の回転数に応じて徐々に補正量を修正してもよい。
【0099】
三相電流補正量計算部202は、erruvwを用いて、式(14)に基づき、補正係数muvwを計算する。
【0100】
【数14】
【0101】
なお、muvwによる三相モータ電流検出値の補正は、Δidqによるdq軸電流の補正に比べ、計算量が少なく、計算負荷が小さい。
【0102】
補正先選択部203は、条件に応じて、muvwおよびΔidqの内、誤差erruvwを用いて計算する補正量を選択する。すなわち、補正先選択部203は、計算されたmuvwによる三相モータ電流検出値imeasuvwの補正と、計算されたΔidqによるdq軸電流検出値の補正との内、いずれか一方を選択する。なお、予めいずれか一方が選択される場合には、補正先選択部203は、省略してもよい。
【0103】
図6は、補正先選択部203の動作を示すフローチャートである。
【0104】
補正先選択部203は、処理を開始すると(ステップS201)、ステップS202において、誤差補正を行うかを判定する。補正先選択部203は、誤差補正を行うと判定すると(ステップS202のYES)、次にステップS204を実行し、誤差補正を行わないと判定すると(ステップS202のNO)、次にステップS203を実行する。
【0105】
ステップS204において、補正先選択部203は、dq軸電流に対して誤差補正を行なうかを判定する。補正先選択部203は、dq軸電流に対して誤差補正を行うと判定すると(ステップS204のYES)、次にステップS205を実行し、dq軸電流に対しては誤差補正を行わないと判定すると(ステップS203のNO)、次にステップS206を実行する。
【0106】
ステップS203において、補正先選択部203は、dq軸電流補正量計算部201に対して、Δidqとして「0」(ベクトル量)を出力するように指令し、また三相電流補正量計算部202に対して、muvwとして「1」(ベクトル量)を出力するように指令する。補正先選択部203は、ステップS203を実行すると、一連の処理を終了する(ステップS207)。
【0107】
ステップS205において、補正先選択部203は、dq軸電流補正量計算部201に対して、誤差erruvwを用いてΔidqを計算して出力するように指令し、また三相電流補正量計算部202に対してmuvwとして「1」(ベクトル量)を出力するように指令する。補正先選択部203は、ステップS205を実行すると、一連の処理を終了する(ステップS207)。
【0108】
ステップS206において、補正先選択部203は、dq軸電流補正量計算部201に対して、Δidqとして「0」(ベクトル量)を出力するように指令し、また三相電流補正量計算部202に対して、erruvwを用いてmuvwを計算して出力するように指令する。補正先選択部203は、ステップS206補正先選択部203は、ステップS203を実行すると、一連の処理を終了する(ステップS207)。
【0109】
ステップS203,S205およびS206が示すように、本実施例では、誤差補正は、三相電流およびdq軸電流の内の一方のみに対して行われる。これにより、モータ制御装置における誤差補正動作の安定性が向上する。
【0110】
なお、ステップS204における判定基準は、誤差の推定精度が低下したり、計算負荷が増大したりする場合を考慮して、適宜設定される。ステップS204における判定基準によっては、三相電流およびdq軸電流の両方に対して、誤差補正を行ってもよい。
【0111】
上述のように、本実施例によれば、三相交流電流振幅値に基づいて電流センサのゲイン誤差が計算され、計算されたゲイン誤差に基づいて三相電流検出値およびdq軸電流検出値の内の一方が補正される。これにより、特別な動作シーケンスを備えることなく、安定かつ正確に電流センサのゲイン誤差を推定・補償できる。
【0112】
なお、本実施例によるモータ制御装置がゲイン誤差の推定・補償を実行するときには、予め電流センサのオフセット誤差が補償されていることが好ましい。電流センサのオフセット誤差補償は、例えば、モータ電流を流していないときの電流センサの出力信号が示す平均的な電流値を、モータ電流検出値から差し引くことにより実施できる。
【0113】
本実施例のモータ制御装置1においては、電流センサ11のゲイン誤差を補償するための制御部を、誤差推定を実行する誤差計算部100と、誤差補正を実行する補正量計算部200とに分けて備えている。これにより、誤差計算部100を動作させて誤差推定を行った後、補正量計算部200を動作させて誤差補正を行ってもよい。例えば、モータ5の起動時に、まず誤差計算部100により誤差を推定し、その後、補正量計算部200を動作させて、推定された誤差に基づいて誤差補正を行なう。なお、モータ5の起動時毎に誤差推定を行ってもよいし、モータ制御装置1に対して所定操作した場合に、誤差推定を行ってもよい。
【実施例0114】
図7は、本発明の実施例2であるモータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【0115】
以下、主に、実施例1と異なる点について説明する。
【0116】
図7に示すように、本実施例のモータ制御装置1は、電流制御系を有していない。このため、電流センサ11のゲイン誤差補償のためにdq軸電流検出値は補正されない。
【0117】
本実施例のモータ制御装置1は、モータ駆動中に電流制御が行われていないがモータ電流が流れている場合、すなわち、dq軸電流指令値と実際に流れるdq軸電流とが一致しない場合、例えば、過電圧保護などのためにインバータ4の三相短絡が実行される場合に、動作する。
【0118】
なお、本実施例2のモータ制御装置1の構成は、実施例1(図1)のモータ制御装置において上記の場合に動作する部分である。
【0119】
図8は、実施例2における誤差計算部100(図7)の構成を示す機能ブロック図である。
【0120】
本実施例2における三相電流振幅推定部101は、三相モータ電流検出値imeasuvw(=(imeas,Imeas,Imeas))と、電気角θおよび電気角速度ω図7)とに基づくとともに、さらにdq軸電流指令値i*dq図2)に替えてdq軸電流検出値Idq(=(I,I))に基づいて、三相モータ電流振幅値IUVW(=(I,I,I)を推定する。
【0121】
三相電流振幅推定部101は、前述の式(5),(7)および(8)に基づいて三相モータ電流振幅値IUVWを計算する。ただし、回転座標系における電流位相βは、式(15)を用いて、dq軸電流検出値idqから計算される。
【0122】
【数15】
【0123】
本実施例2におけるモータ状態判定部103は、dq軸電流検出値i*dq図2)に替えてdq軸電流検出値idqを用いて、モータ5(図7)の状態を判定する。
【0124】
図9は、実施例2における補正量計算部200(図7)の構成を示す機能ブロック図である。
【0125】
本実施例2におけるdq軸電流補正量計算部201は、誤差計算部100(図8)によって計算された誤差erruvw(=(err,err,err))と、機械角θ図7)とに基づくとともに、dq軸電流指令値i*dq図3)に替えてdq軸電流検出値idqに基づいて、dq軸電流補正量Δidq(=(Δi,Δi))を計算する。
【0126】
図10は、補正先選択部303の動作を示すフローチャートである。
【0127】
図10に示すステップS301,S303,S304,S305,S306,S307およびS308は、それぞれ、前述の図6(実施例1)におけるステップS201,S202,S204,S205,S206,S203およびS207に相当する。
【0128】
本実施例2において、補正先選択部303は、処理を開始すると(ステップS301)、ステップS302において、電流制御が有効であるかを判定する。本実施例2においては、電流制御が実行されないので、補正先選択部303は、電流制御は有効ではないと判定し(ステップS302のNO)、次にステップS306を実行する。
【0129】
ステップS306において、補正先選択部203は、dq軸電流補正量計算部201に対して、Δidqとして「0」(ベクトル量)を出力するように指令し、また三相電流補正量計算部202に対して、erruvwを用いてmuvwを計算して出力するように指令する。補正先選択部303は、ステップS306を実行すると、一連の処理を終了する(ステップS308)。
【0130】
本実施例2によれば、三相交流電流振幅値に基づいて電流センサのゲイン誤差が計算され、計算されたゲイン誤差に基づいて三相電流検出値が補正される。これにより、特別な動作シーケンスを備えることなく、安定かつ正確に電流センサのゲイン誤差を推定・補償できる。これにより、インバータ4の三相短絡動作時のようにモータ駆動中に電流制御が行われていないがモータ電流が流れている場合でも、特別な動作シーケンスを備えることなく、安定かつ正確に電流センサのゲイン誤差を推定・補償できる。
【0131】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。
【符号の説明】
【0132】
1 モータ制御装置、2 dq軸電流指令値、3 制御器、4 インバータ、5 モータ、6 電気角計算部、7 電気角速度計算部、8 A/D変換器、9 三相/dq軸変換器、10a dq軸電流補正部、10b 三相電流補正部、100 誤差計算部、200 補正量計算部、101 三相電流振幅推定部、102 誤差推定部、103 モータ状態判定部、201 dq軸電流補正量計算部、202 三相電流補正量計算部、203 補正先選択部、303 補正先選択部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10