(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048725
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】積層体、包装材料、包装体及び包装物品
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20240402BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154798
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100209048
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 元嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【弁理士】
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(72)【発明者】
【氏名】山川 郁子
(72)【発明者】
【氏名】星 沙耶佳
(72)【発明者】
【氏名】谷中 雅顕
(72)【発明者】
【氏名】山田 幹典
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA01
3E086AD08
3E086BA13
3E086BA15
3E086BB01
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4F100AA00C
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4F100GB15
4F100JB09D
4F100JD03
4F100YY00B
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】繰り返しの屈曲やレトルト処理後であっても高い酸素バリア性を維持する積層体を提供する。
【解決手段】積層体10は、ポリプロピレンを含んだ基材11と、アンカーコート層12と、無機化合物からなる蒸着層13と、樹脂を含んだオーバーコート層14とをこの順に備え、前記蒸着層は、一方の面が前記アンカーコート層と接触し、他方の面が前記オーバーコート層と接触しており、前記オーバーコート層の軸剛性S
Oと前記アンカーコート層の軸剛性S
Aとの比S
O/S
Aが2乃至13の範囲内にある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンを含んだ基材と、アンカーコート層と、無機化合物からなる蒸着層と、樹脂を含んだオーバーコート層とをこの順に備え、前記蒸着層は、一方の面が前記アンカーコート層と接触し、他方の面が前記オーバーコート層と接触しており、前記オーバーコート層の軸剛性SOと前記アンカーコート層の軸剛性SAとの比SO/SAが2乃至13の範囲内にある積層体。
【請求項2】
前記アンカーコート層は、厚さが0.1μm以上1μm以下である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記アンカーコート層はウレタン系接着剤からなる請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記アンカーコート層は、アクリルポリオールとトリレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物を含んだ請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記オーバーコート層は、厚さが0.1μm以上1μm以下である請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記オーバーコート層は、アルコキシド及びシランカップリング剤の少なくとも一方の反応生成物を更に含み、前記オーバーコート層が含んでいる前記樹脂は水酸基を有する水溶性高分子である請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記反応生成物は珪素含有酸化物であり、前記オーバーコート層において、珪素と前記水溶性高分子との合計量に占める珪素の量の割合は9乃至90質量%の範囲内にある請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
前記蒸着層は、酸化アルミニウム及び酸化珪素の少なくとも一方を含んだ請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の積層体と、シーラント層とを備えた包装材料。
【請求項10】
請求項9に記載の包装材料を含んだ包装体。
【請求項11】
請求項10に記載の包装体と、前記包装体に収容された物品とを含んだ包装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、包装材料、包装体及び包装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリアフィルムの多くは、食品や医療医薬品などを包装するための包装材料として広く用いられている。これらのガスバリアフィルムに関する研究開発では、酸素透過率を小さくすることが特に重要視されてきた。
【0003】
食品や医療医薬品などの物品をガスバリアフィルムで包装してなる包装物品は、レトルト処理に供されることが多い。レトルト処理に供される包装物品に用いられるバリアフィルムでは、基材として耐熱性の高いポリエチレンテレフタレートフィルムを使用するのが一般的である。しかしながら、近年、環境問題への意識が高まっている。これに伴い、包装材料にリサイクル適正を持たせるべく、単一素材を使用した、所謂モノマテリアル包材への関心が高まっている。
【0004】
従来のガスバリアフィルムでは、一般に、基材にポリエチレンテレフタレートフィルムが使用されている。また、近年は、モノマテリアル包材用ガスバリアフィルムとして、オレフィン系成分であるポリプロピレンからなる基材が用いられるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、繰り返しの屈曲やレトルト処理後であっても高い酸素バリア性を維持する積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、ポリプロピレンを含んだ基材と、アンカーコート層と、無機化合物からなる蒸着層と、樹脂を含んだオーバーコート層とをこの順に備え、前記蒸着層は、一方の面が前記アンカーコート層と接触し、他方の面が前記オーバーコート層と接触しており、前記オーバーコート層の軸剛性SOと前記アンカーコート層の軸剛性SAとの比SO/SAが2乃至13の範囲内にある積層体が提供される。
【0008】
本発明の他の側面によると、前記アンカーコート層は、厚さが0.1μm以上1μm以下である上記側面に係る積層体が提供される。
【0009】
本発明の更に他の側面によると、前記アンカーコート層はウレタン系接着剤からなる上記側面の何れかに係る積層体が提供される。
【0010】
本発明の更に他の側面によると、前記アンカーコート層は、アクリルポリオールとトリレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物を含んだ上記側面の何れかに係る積層体が提供される。
【0011】
本発明の更に他の側面によると、前記オーバーコート層は、厚さが0.1μm以上1μm以下である上記側面の何れかに係る積層体が提供される。
【0012】
本発明の更に他の側面によると、前記オーバーコート層は、アルコキシド及びシランカップリング剤の少なくとも一方の反応生成物を更に含み、前記オーバーコート層が含んでいる前記樹脂は水酸基を有する水溶性高分子である上記側面の何れかに係る積層体が提供される。
【0013】
本発明の更に他の側面によると、前記反応生成物は珪素含有酸化物であり、前記オーバーコート層において、珪素と前記水溶性高分子との合計量に占める珪素の量の割合は9乃至90質量%の範囲内にある上記側面の何れかに係る積層体が提供される。
【0014】
本発明の更に他の側面によると、前記蒸着層は、酸化アルミニウム及び酸化珪素の少なくとも一方を含んだ上記側面の何れかに係る積層体が提供される。
【0015】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係る積層体と、シーラント層とを備えた包装材料が提供される。
【0016】
本発明の更に他の側面によると、上記側面に係る包装材料を含んだ包装体が提供される。
【0017】
本発明の更に他の側面によると、上記側面に係る包装体と、前記包装体に収容された物品とを含んだ包装物品が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、繰り返しの屈曲やレトルト処理後であっても高い酸素バリア性を維持する積層体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層体の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の積層体を含んだ包装材料の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。以下に記載する事項は、単独で又は複数を組み合わせて、上記側面の各々に組み入れることができる。
【0021】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記の構成部材の材質、形状、及び構造等によって限定されるものではない。本発明の技術的思想には、請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0022】
なお、同様又は類似した機能を有する要素については、以下で参照する図面において同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面は模式的なものであり、或る方向の寸法と別の方向の寸法との関係、及び、或る部材の寸法と他の部材の寸法との関係等は、現実のものとは異なり得る。
【0023】
<1>積層体
図1は、本発明の一実施形態に係る積層体の断面図である。
図1に示す積層体10は、ガスバリアフィルムである。積層体10は、基材11と、アンカーコート層12と、蒸着層13と、オーバーコート層14とをこの順に含んでいる。なお、ここで使用する用語「フィルム」は、厚さの概念を含まないこととする。
【0024】
<1.1>基材
基材11は、積層体10において、支持体としての役割を果たすフィルム、(ベースフィルム)である。基材11は、ポリプロピレンを含んでいる。好ましくは、基材11は、ポリプロピレンフィルムである。ポリプロピレンフィルムは、延伸フィルムであっても、非延伸フィルムであってもよいが、好ましくは、延伸ポリオレフィンフィルムである。延伸ポリオレフィンフィルムとしては、例えば、二軸延伸ポリオレフィンフィルムが挙げられる。また、産業廃棄物からリサイクルされたポリプロピレン等のリサイクルされた樹脂由来のフィルムを用いてもよい。基材11は、熱安定剤、酸化防止剤、結晶造核剤、滑剤、帯電防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、可塑剤、及び光安定剤などの添加剤を更に含んでいてもよい。基材11の表面には、コロナ処理、フレーム処理、プラズマ処理、易接着処理等の改質処理などが施されていてもよい。
【0025】
図1に示す例では、基材11は、コア層11Aとスキン層11B1とスキン層11B2とを含んでいる。
【0026】
コア層11Aは、例えば、ポリプロピレンからなるか、又は、ポリプロピレンとこれよりも少量の他の1以上の成分とからなる。一例によれば、コア層11Aは、99乃至75質量%の結晶性ポリプロピレン樹脂と、1乃至25質量%の石油樹脂とからなる。上記石油樹脂としては、例えば、シクロペンテン系留分及び/又はシクロヘキセン系留分を重合又は共重合させ、これに水素添加した樹脂;シクロペンテン系誘導体やシクロヘキセン系誘導体等の環状オレフィンを重合又は共重合させて得られる脂環族系ポリマーを水素添加した樹脂;及び、シクロペンタジエン系水素添加石油樹脂が挙げられる。上記石油樹脂は、好ましくは、シクロペンタジエン系水素添加石油樹脂である。コア層11Aは、上記石油樹脂を、1種のみ含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
【0027】
スキン層11B1は、コア層11Aの一方の面に設けられている。スキン層11B2は、コア層11Aの他方の面に設けられている。スキン層11B1及び11B2は、ポリプロピレン系コポリマーから主としてなる層である。スキン層11B1及び11B2は、基材11とこれに隣接する他の層との密着性を向上させ得る。
【0028】
スキン層11B1及び11B2を構成するポリプロピレン系コポリマーとしては、立体規則性が比較的低いものが好ましく、例えば、エチレンとプロピレンとのランダムコポリマー及びエチレン-プロピレン-ブチレンターポリマーが挙げられる。スキン層11B1及び11B2は、ポリプロピレンとポリブチレンとの混合物で構成してもよい。スキン層11B1及び11B2は、好ましくは、エチレンとプロピレンとのランダムコポリマーからなる。
【0029】
コア層11A、スキン層11B1及び11B2は、熱安定剤、酸化防止剤、結晶造核剤、滑剤、帯電防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、可塑剤、及び光安定剤などの添加剤を更に含んでいてもよい。
【0030】
基材11の厚さは、10乃至100μmの範囲内にあることが好ましく、10乃至20μmの範囲内にあることがより好ましい。基材11がスキン層11B1及び11B2を含んでいる場合、それらの各々の厚さは、0.2μm以上であることが好ましい。スキン層11B1及び11B2の各々の厚さは、例えば、2.0μm以下である。
【0031】
<1.2>アンカーコート層
アンカーコート層12は、基材11の一方の面に設けられている。アンカーコート層12は、例えば、ウレタン系接着剤からなる。アンカーコート層12は、例えば、ポリオールとイソシアネート化合物とを任意の濃度で混合した複合溶液を調製し、これを基材11上にコーティングし、塗膜を乾燥硬化させて形成することができる。
【0032】
ここで使用するポリオールは、末端に2つ以上のヒドロキシル基をもつ高分子であって、後で加えるイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応させるものである。このポリオールとしては、アクリル酸誘導体モノマーを重合させて得られるポリオール及びアクリル酸誘導体モノマーとその他のモノマーとを共重合させて得られるポリオールなどのアクリルポリオールが好ましい。
【0033】
イソシアネート化合物は、アクリルポリオールなどのポリオールと反応して生じるウレタン結合により基材11や蒸着層13との密着性を高めるために添加されるものであって、主に架橋剤又は硬化剤として作用するものである。このような機能を発揮するイソシアネート化合物の具体例としては、トリレンジイソシアネート(TDI)やジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などの芳香族系化合物、キシリレンジイソシアネート(XDI)やヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)などの脂肪族系化合物、イソホロンジイソシアネート(IPDI)などのモノマー類、これらの重合体、及びこれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0034】
ポリオールとイソシアネート化合物との配合比は、特に制限されるものではない。但し、イソシアネート化合物が少なすぎると硬化不良になることがあり、イソシアネート化合物が多すぎるとブロッキング等が発生し加工上問題を生じることがある。そこで、ポリオールとイソシアネート化合物とは、イソシアネート化合物由来のNCO基がポリオール由来のOH基の50倍以下となるように配合することが好ましく、NCO基とOH基とがほぼ当量となるように配合することが特に好ましい。混合方法は、周知の方法を使用可能であり、特に限定されない。
【0035】
アンカーコート層12の材料を適宜選択することにより、アンカーコート層12の弾性率を調節することができる。例えば、イソシアネート化合物として、芳香族系化合物を用いた場合と脂肪族系材料を用いた場合とで、アンカーコート層12の弾性率を異ならしめることができる。それ故、例えば、イソシアネート化合物として使用する化合物の種類や、イソシアネート化合物として2種以上の化合物を使用する場合はそれらの配合比を適宜選択することにより、所望の弾性率を有しているアンカーコート層12を形成することができる。例えば、アンカーコート層12が、アクリルポリオールとトリレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物を含む場合、トリレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネートとの配合比に応じて、アンカーコート層12の弾性率を変化させることができる。
【0036】
アンカーコート層12は、シランカップリング剤の反応生成物を更に含んでいてもよい。
シランカップリング剤としては、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン及びγ-イソシアネートプロピルトリメトキシシランなどのイソシアネート基を含む化合物;γ-メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基を含む化合物;並びに、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、及びγ-フェニルアミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基を含む化合物がある。シランカップリング剤は、γ-グリシドオキシプロピルトリメトキシシランやβ-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようにエポキシ基を含む化合物であってもよい。アンカーコート層12の材料には、ビニルトリメトキシシラン及びビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シランなどのシランカップリング剤にアルコール等を付加して水酸基等を付加したものを更に含有させてもよい。アンカーコート層12の材料には、これらの1種又は2種以上を含有させることができる。
【0037】
シランカップリング剤は、その一端に存在する有機官能基が、ポリオールとイソシアネート化合物とからなる複合物中で相互作用を示す。ポリオールの水酸基又はイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応する官能基を含むシランカップリング剤を用いた場合には、共有結合を生じさせることもできる。
【0038】
アンカーコート層12の弾性率は、シランカップリング剤の含有量で調節することも可能である。
【0039】
また、シランカップリング剤の代わりに又はシランカップリング剤とともにアルコキシシラン又はその加水分解物を使用することもできる。アルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランが挙げられる。
【0040】
アンカーコート層12の形成方法としては、公知の方法を用いることができる。具体的には、グラビアコータ、ディップコータ、リバースコータ、ワイヤーバーコータ、及びダイコータ等のコータを使用したウェット成膜法を用いることができる。
アンカーコート層12の厚さは、0.08μm以上1μm以下であることが好ましく、0.1μm以上0.8μm以下であることがより好ましい。
【0041】
<1.3>蒸着層
蒸着層13は、アンカーコート層12上に設けられている。蒸着層13は、一方の面がアンカーコート層12と接触しており、他方の面がオーバーコート層14と接触している。蒸着層13は、無機化合物からなる。蒸着層13は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。
【0042】
蒸着層13が含む無機化合物としては、例えば、酸化珪素や、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、及び酸化錫等の金属酸化物が挙げられる。バリア性の観点から、無機化合物は、酸化珪素及び酸化アルミニウムの少なくとも一方を含んでいることが好ましく、酸化珪素及び酸化アルミニウムの少なくとも一方からなることが好ましい。蒸着層13は、窒素やアルミニウム原子を含有していても差し支えない。無機化合物を用いることにより、積層体10のリサイクル性に影響を与えない極薄い層で、高いバリア性を得ることができる。
【0043】
蒸着層13の厚さは、3nm以上100nm以下であることが好ましく、5nm以上50nm以下であることがより好ましい。高いガスバリア性を得るうえでは、蒸着層13は十分に厚く形成することが好ましい。但し、蒸着層13を厚くすると、硬化収縮の増加によりクラックが発生し易くなる。また、蒸着層13を厚くすると、材料使用量の増加及び膜形成時間の長時間化等に起因してコストが増加し易い。
【0044】
蒸着層13は、例えば、抵抗加熱式真空蒸着法、電子ビーム加熱式真空蒸着法、又は誘導加熱式真空蒸着法により形成することができる。
【0045】
<1.4>オーバーコート層
オーバーコート層14は、蒸着層13上に設けられている。オーバーコート層14は、樹脂を含んでいる。オーバーコート層14は、樹脂を含んだ塗膜を蒸着層13上に形成する工程を経て形成する。
【0046】
塗膜を形成するために使用するコーティング剤は、好ましくは、以下の成分を含む。
(A)アルコキシド又はその加水分解物(以下、A成分ということもある)
(B)水溶性高分子(以下、B成分ということもある)
A成分とB成分とは、A成分がアルコキシドを含んでいる場合は、その加水分解を経たのち、アルコキシドの加水分解物同士の脱水縮合を生じる(例えば、ゾルゲル法)とともに、アルコキシドの加水分解物と水溶性高分子とが水素結合や脱水縮合によって有機-無機複合体を生成する。例えば、アルコキシシランは、加水分解及び重縮合反応によってSi-O結合を形成するとともに、加水分解によって生じたシラノール基が水溶性高分子の水酸基と水素結合する。これらの反応により、優れた耐熱水性及び張力に対する優れた耐性がオーバーコート層14に発現すると推察される。
【0047】
アルコキシドは、好ましくはアルコキシシランである。アルコキシシランは、一般式Si(OR)n(RはCH3及びC2H5等のアルキル基)で表される化合物であってよく、例えば、テトラメトキシシラン〔Si(OCH3)4〕及びテトラエトキシシラン〔Si(OC2H5)4〕が挙げられる。また、アルコキシシランの加水分解物は、上記のアルコキシシランが加水分解したものであり、シラノール基を有するものである。上記のアルコキシシランの中でも、テトラエトキシシランは、加水分解後に水系の溶媒中において比較的安定であるため好ましい。
【0048】
水溶性高分子は、例えば、ポリビニルアルコール又はその変性体、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びアルギン酸ナトリウムである。水溶性高分子は、好ましくは、水酸基を有する水溶性高分子である。これらの中でも、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略すこともある)又はその変性体は、オーバーコート層14のガスバリア性を優れたものとすることができるので好ましい。ここでいう、PVAは、一般にポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものである。PVAとしては、例えば、酢酸基が数十%残存している、所謂、部分けん化PVAから、酢酸基が数%しか残存していない完全PVAまで用いることができる。また、PVAの変性体として、PVAに水溶性を保つ程度のエチレン基を導入したものを用いても差し支えない。
【0049】
オーバーコート層14は、上記の通り、A成分及びB成分を含むコーティング剤から形成することができる。コーティング剤は、溶媒を更に含んでいてもよい。溶媒としては、例えば、水、アルコール、及び水とアルコールとの混合溶媒が挙げられる。
【0050】
オーバーコート層14は、A成分とB成分とを混合した溶液、又は、A成分に予め加水分解させるなどの処理を行ったものとB成分と混合した溶液を、蒸着層3上にコーティングし、塗膜を加熱乾燥することにより形成することができる。このとき、A成分におけるシリコン原子の含有量と、B成分の含有量との比を調節することにより、オーバーコート層14の弾性率を調節することができる。
【0051】
オーバーコート層14は、上記の水溶性高分子に加え、アルコキシド及びシランカップリング剤の少なくとも一方の反応生成物を更に含む。この反応生成物は、好ましくは珪素含有酸化物である。この場合、オーバーコート層14において、珪素と水溶性高分子との合計量に占める珪素の量の割合は、9乃至90質量%の範囲内にあることが好ましく、40乃至80質量%の範囲内にあることがより好ましい。
【0052】
オーバーコート層14を形成するためのコーティング剤は、A成分に代えて、又は、A成分に加えて、シランカップリング剤を含んでいてもよい。また、コーティング剤は、上述したA成分及びB成分等に加え、必要に応じて、ガスバリア性向上のために他の成分を更に含んでいてもよい。他の成分としては、水性の材料が好ましい。他の成分としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂の水分散体、及び、ゾルゲル法により生じさせる金属酸化物前駆体が挙げられる。
【0053】
コーティング剤には、必要に応じて、更に他の成分、例えば、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、及び金属キレート剤の1以上を更に含ませてもよい。
【0054】
オーバーコート層14の形成方法としては、公知の方法を用いることができる。具体的には、グラビアコータ、ディップコータ、リバースコータ、ワイヤーバーコータ、及びダイコータ等のコータを使用したウェット成膜法を用いることができる。
【0055】
オーバーコート層14の厚さは、0.1μm以上1μm以下であることが好ましく、0.2μm以上0.8μm以下であることがより好ましい。
【0056】
<1.5>軸剛性
上述した積層体10は、オーバーコート層14の軸剛性SOとアンカーコート層12の軸剛性SAとの比SO/SAが2乃至13の範囲内にある。比SO/SAは、2.5乃至12.0の範囲内にあることが好ましい。
【0057】
軸剛性SO及びSAは、以下の方法により、サンプルの準備及びフォースカーブ測定を行うことにより求める。
【0058】
<1.5.1>サンプルの準備
以下の方法により、積層体10の断面が露出したサンプルを準備する。
先ず、積層体10の両面へ、表面処理としてコロナ処理を実施する。これにより、積層体10のフィルム片と後述する包埋樹脂との互いからの剥離を防止する。
【0059】
次に、剃刀を使用して、積層体10から短冊又は楔形状のフィルム片を切り出し、これを包埋樹脂で包埋する。包埋用樹脂としては、東亜合成製の光硬化樹脂D-800を用いる。上記フィルム片を包埋した樹脂は、光照射することにより硬化させる。
【0060】
積層体10のフィルム片と包埋樹脂の硬化物とからなる複合体は、原子間力顕微鏡(AFM)試料ホルダ用インサートで固定する。次いで、この複合体に対して、常温(25℃)において、ガラスナイフを用いたトリミング及び切削を行う。この切削は、上記フィルム片の断面が露出するように行う。続いて、この複合体に対して、低温(-120℃)において、ダイヤモンドナイフを用いた切削を更に行う。この切削は、切削スピードを1.0mm/sに、切削膜厚を100nmに設定して、先の切削面が鏡面になるまで実施する。断面切削装置としては、ライカ社製のウルトラミクロトームEM UC7及びクライオシステムEM FC7を用いる。また、切削方向は、積層体10のフィルム片が含む層の界面に対し平行な方向とする。
【0061】
以上のようにして、フォースカーブ測定用のサンプルを得る。なお、このサンプルは、AFM試料ホルダ用インサートで固定した状態で、以下のフォースカーブ測定に用いる。
【0062】
<1.5.1>フォースカーブ測定方法
フォースカーブ測定のための装置としては、オックスフォード・インストゥルメンツ社製の原子間力顕微鏡(AFM)であるMFP-3D-SAを用いる。形状測定ではACmode(タッピングモード)を用い、フォースカーブ測定にはContact modeを用いる。形状測定ののち、測定箇所を指定してフォースカーブを取得し、フォースカーブの解析により弾性率を算出する。解析ソフトウェアとしては、Igor Pro3.8801を用いる。弾性率の計算には、フォースカーブデータのうち押し込み時のインデント深さの下位10%から上位90%までのデータを使用し、Hertzモデルによる解析方法を用いる。
【0063】
このフォースカーブ測定において、カンチレバーとしては、曲率半径20nm、ばね定数40N/m仕様のB20-NCH(nanotools製)を用いる。曲率半径には、カンチレバーメーカーであるnanotoolsから提供される値を用いる。ばね定数には、thermal法を用いて算出された値を用いる。
【0064】
フォースカーブ測定は、OxfordInstruments社製AFM及びIgor Pro6.38801を用いた場合、測定条件を以下のように設定して実施することが望ましい。
Imaging Mode Contact mode
Force Distance 0.1μm
Scan Rate 0.25Hz
Velocity 50nm/s
Sample Rate 8kHz(8.333kHz)
LowPass Filter 4kHz(4.167kHz)
Trigger Channel Force200nN。
【0065】
Hertzモデルにおいてフォースカーブから弾性率算出計算する際に、Igor Pro6.38801において設定する項目は、以下の通りである。
【0066】
Tip Radius(曲率半径) nanotools提供値
Tip Geometry Sphere
Sample Poisson(ポアソン比) 0.33
Tip Properties Diamond Synthetic
Segment EXT(押し込み時のフォースカーブ)。
【0067】
オーバーコート層14の軸剛性SOを得るには、先ず、上述したフォースカーブの取得を、上記サンプルのオーバーコート層14に対して、測定箇所を20回程度変化させて行う。次いで、測定箇所毎に弾性率を算出し、これらを算術平均する。この算術平均値をオーバーコート層14の厚さで除することにより、オーバーコート層14の軸剛性SOを得る。
【0068】
アンカーコート層12の軸剛性SAを得るには、先ず、上述したフォースカーブの取得を、上記サンプルのアンカーコート層12に対して、測定箇所を20回程度変化させて行う。次いで、測定箇所毎に弾性率を算出し、これらを算術平均する。この算術平均値をアンカーコート層12の厚さで除することにより、アンカーコート層12の軸剛性SOを得る。
【0069】
なお、オーバーコート層14の厚さ及びアンカーコート層12の厚さは、上述した形状測定において取得する形状像から求める。
【0070】
<1.6>効果
一般に、基材にポリプロピレンを用いたバリアフィルムは、基材にポリエチレンテレフタレートを用いたバリアフィルムと比較して、柔軟性に優れている。しかしながら、一般に、基材にポリプロピレンを用いたバリアフィルムは、繰り返しの屈曲やレトルト処理後に、物理衝撃等に起因したガスバリア層の破損を生じ易い。それ故、基材にポリプロピレンを用いた従来のバリアフィルムには、ゲルボフレックス試験後やレトルト処理試験後において、酸素バリア性を低く抑えることができないという問題があった。
【0071】
本発明者らは、鋭意研究の結果、オーバーコート層14の軸剛性SOとアンカーコート層12の軸剛性SAとの比SO/SAが上記範囲内にある積層体10は、繰り返しの屈曲やレトルト処理後であっても高い酸素バリア性を維持することを見出した。即ち、上記の積層体10は、ゲルボフレックス試験やレトルト処理試験の後であっても、酸素バリア性を低く抑えることが可能である。
【0072】
<2>包装材料
上記の積層体10は、包装材料において使用することができる。
【0073】
図2は、
図1の積層体を含んだ包装材料の一例を示す断面図である。
図2に示す包装材料1は、上記の積層体10と、基材層20と、シーラント層30と、接着剤層40A及び40Bとを含んでいる。
【0074】
<2.1>基材層
基材層20は、積層体10の基材11と向き合っている。基材層20は、積層体10のオーバーコート層14と向き合っていてもよい。積層体10のオーバーコート層14がシーラント層30と向き合っている場合、基材層20は省略してもよい。
【0075】
基材層20は、ポリマーフィルムである。包装材料1がモノマテリアル包材である場合、基材層20はポリプロピレンフィルムであることが好ましい。ポリプロピレンフィルムとしては、例えば、基材11について例示したものを使用することができる。
【0076】
<2.2>シーラント層
シーラント層30は、積層体10を間に挟んで基材層20と向き合っている。包装材料1がモノマテリアル包材である場合、シーラント層30は、ポリプロピレンフィルムを含んでいることが好ましく、ポリプロピレンからなることがより好ましい。シーラント層30は、好ましくは無延伸フィルムである。
【0077】
<2.3>接着剤層
接着剤層40Aは、積層体10と基材層20との間に介在しており、それらを貼り合わせている。接着剤層40Bは、積層体10とシーラント層30との間に介在しており、それらを貼り合わせている。なお、接着剤層40A及び40Bの少なくとも一方を省略してもよい。
【0078】
接着剤層40A及び40Bを形成するための接着剤としては、例えば、一般的なドライラミネート用接着剤が用いられる。
【0079】
接着剤層40A及び40Bは、少なくとも1種類の接着剤からなる。接着剤は、一液硬化型接着剤であってもよく、二液硬化型接着剤であってもよく、非硬化型接着剤であってもよい。また、接着剤は、無溶剤型接着剤であってもよく、溶剤型接着剤であってもよい。
【0080】
接着剤としては、ポリエーテル系接着剤、ポリエステル系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリアミン系接着剤等のエポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ゴム系接着剤、ビニル系接着剤、シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、フェノール系接着剤及びオレフィン系接着剤などが挙げられる。バイオマス成分を含む接着剤も好ましく用いることができる。接着剤は、好ましくは、ガスバリア性を有するポリアミン系接着剤、又はウレタン系接着剤である。
【0081】
接着剤層40A及び40Bは、ポリエステルポリオールとイソシアネート化合物とリン酸変性化合物を含む樹脂組成物の硬化物であってもよい。このような接着剤層40A及び40Bは、積層体10A1の酸素バリア性及び水蒸気バリア性を更に改善することができる 。
【0082】
接着剤層40A及び40Bの厚さは、0.1μm乃至20μmの範囲内にあることが好ましく、0.5μm乃至10μmの範囲内にあることがより好ましく、1乃至5μmの範囲内にあることが更に好ましい。
【0083】
接着剤層40A及び40Bは、例えば、ダイレクトグラビアロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法、リバースロールコート法、フォンテン法及びトランスファーロールコート法など従来公知の方法により、基材層20及びシーラント層30の上に塗布し、塗膜を乾燥させることにより形成することができる。
【0084】
<2.4>他の層
包装材料1は、他の1以上の層を更に含むことができる。
例えば、包装材料1は、1以上の印刷層を更に含んでいてもよい。印刷層は、例えば、積層体10と基材層20との間の層間に設けることができる。印刷層は、積層体10とシーラント層30との間の層間に設けてもよく、基材層20のシーラント層30と向き合った面の裏面に設けてもよい。
【0085】
印刷層は、例えば、ウレタン系、アクリル系、ニトロセルロース系、ゴム系、及び塩化ビニル系等の従来から用いられているインキバインダ樹脂に、各種顔料、体質顔料、可塑剤、乾燥剤、及び安定剤等の添加剤を添加してなるインキにより構成される。印刷インキとしては、バイオマス由来のインキを用いることが好ましい。インキとしては、バイオマス由来の材料を含むバイオマスインキも好ましく使用できる。また、遮光性インキも好ましく使用することができる。遮光性インキとしては、例えば、白色インキ、黒色インキ、銀色インキ、セピア色インキ等が挙げられる。
【0086】
印刷方式としては、例えば、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、フレキソ印刷方式、及びシルクスクリーン印刷方式等の周知の印刷方式や、ロールコート、ナイフエッジコート、及びグラビアコート等の周知の塗布方式を用いることができる。
【0087】
<3>包装体
上記の包装材料1は、包装体において使用することができる。
一例によれば、包装体は、平パウチ、スタンディングパウチ及びガゼット型パウチなどの袋である。袋は、包装材料1から切り出した1以上のフィルム片の周縁部を、シーラント層30同士が接触するように重ね合わせてヒートシールすることにより製造することができる。
他の例によれば、包装体は、開口を有する容器本体と、この開口を塞いだ蓋体とを含んでいる。包装材料1から切り出したフィルム片を蓋体として使用することができる。
【0088】
<4>包装物品
包装物品は、上記の包装体と、これに収容された物品とを含んでいる。内容物は、液体、固体及びそれらの混合物の何れであってもよい。内容物は、例えば、食品又は薬剤である。
【実施例0089】
以下に、本発明に関連して行った試験について記載する。
【0090】
(1)積層体の製造
(1.1)例1
図1に示す積層体10を、以下の方法により製造した。
先ず、基材11として、厚さが20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)を用意した。
【0091】
アクリルポリオールにイソシアネート化合物を、アクリルポリオールのOH基に対してイソシアネート基が等量になるように添加し、それらの合計が2質量%となるように,酢酸エチルで希釈した。イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)とヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)とを50:50の質量比で使用した。このようにして調製したアンカーコート層塗液を、グラビアコート法により基材11上へ塗布して、厚さが120nm(乾燥膜厚)のアンカーコート層12を形成した。
【0092】
次に、電子ビーム式真空蒸着法により、アンカーコート層12上へ酸化珪素を堆積させて、酸化珪素からなる厚さが30nmの蒸着層13を形成した。
【0093】
テトラエトキシシランとメタノールと0.1N塩酸とを、45:15:40の質量比で混合して、テトラエトキシシランの加水分解物を含有した溶液を調製した。この溶液とポリビニルアルコール(PVA)の5%水溶液とを、シリコン原子の含有量(a質量部)とPVAの含有量(b質量部)との比a/bが質量比で50/50となるように混合して、オーバーコート層塗液を得た。このオーバーコート層塗液を、グラビアコート法により蒸着層13上へ塗布して、厚さが350nm(乾燥膜厚)のオーバーコート層14を形成した。
以上のようにして、
図1に示す積層体10を得た。
【0094】
(1.2)例2
図1に示す積層体10を、以下の方法により製造した。
先ず、基材11として、厚さが20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)を用意した。
【0095】
アクリルポリオールにイソシアネート化合物を、アクリルポリオールのOH基に対してイソシアネート基が等量になるように添加し、それらの合計が2質量%となるように,酢酸エチルで希釈した。イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)とヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)とを70:30の質量比で使用した。このようにして調製したアンカーコート層塗液を、グラビアコート法により基材11上へ塗布して、厚さが120nm(乾燥膜厚)のアンカーコート層12を形成した。
【0096】
次に、電子ビーム式真空蒸着法により、アンカーコート層12上へ酸化珪素を堆積させて、酸化珪素からなる厚さが30nmの蒸着層13を形成した。
【0097】
テトラエトキシシランとメタノールと0.1N塩酸とを、45:15:40の質量比で混合して、テトラエトキシシランの加水分解物を含有した溶液を調製した。この溶液とポリビニルアルコール(PVA)の5%水溶液とを、シリコン原子の含有量(a質量部)とPVAの含有量(b質量部)との比a/bが質量比で10/90となるように混合して、オーバーコート層塗液を得た。このオーバーコート層塗液を、グラビアコート法により蒸着層13上へ塗布して、厚さが280nm(乾燥膜厚)のオーバーコート層14を形成した。
以上のようにして、
図1に示す積層体10を得た。
【0098】
(1.3)比較例1
基材とアンカーコート層と蒸着層とオーバーコート層とをこの順に含んだ積層体を、以下の方法により製造した。
【0099】
先ず、基材として、厚さが20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)を用意した。
【0100】
アンカーコート剤として、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)系接着剤を用意した。この接着剤を、グラビアコート法により基材上に塗布して、厚さが1μm(乾燥膜厚)のアンカーコート層を形成した。
【0101】
次に、電子ビーム式真空蒸着法により、アンカーコート層上へ酸化珪素を堆積させて、酸化珪素からなる厚さが25nmの蒸着層を形成した。
【0102】
テトラエトキシシランとメタノールと0.1N塩酸とを、45:15:40の質量比で混合して、テトラエトキシシランの加水分解物を含有した溶液を調製した。この溶液とポリビニルアルコール(PVA)の5%水溶液とを、シリコン原子の含有量(a質量部)とPVAの含有量(b質量部)との比a/bが質量比で75/25となるように混合して、オーバーコート層塗液を得た。このオーバーコート層塗液を、グラビアコート法により蒸着層上へ塗布して、厚さが300nm(乾燥膜厚)のオーバーコート層を形成した。
以上のようにして、積層体を得た。
【0103】
(1.4)比較例2
基材とアンカーコート層と蒸着層とオーバーコート層とをこの順に含んだ積層体を、以下の方法により製造した。
【0104】
先ず、基材として、厚さが20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)を用意した。
【0105】
アクリルポリオールにイソシアネート化合物を、アクリルポリオールのOH基に対してイソシアネート基が等量になるように添加し、それらの合計が2質量%となるように,酢酸エチルで希釈した。イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)とヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)とを70:30の質量比で使用した。このようにして調製したアンカーコート層塗液を、グラビアコート法により基材上へ塗布して、厚さが120nm(乾燥膜厚)のアンカーコート層を形成した。
【0106】
次に、電子ビーム式真空蒸着法により、アンカーコート層上へ酸化珪素を堆積させて、酸化珪素からなる厚さが30nmの蒸着層を形成した。
【0107】
テトラエトキシシランとメタノールと0.1N塩酸とを、45:15:40の質量比で混合して、テトラエトキシシランの加水分解物を含有した溶液を調製した。この溶液とポリビニルアルコール(PVA)の5%水溶液とを、シリコン原子の含有量(a質量部)とPVAの含有量(b質量部)との比a/bが質量比で70/30となるように混合して、オーバーコート層塗液を得た。このオーバーコート層塗液を、グラビアコート法により蒸着層上へ塗布して、厚さが750nm(乾燥膜厚)のオーバーコート層を形成した。
以上のようにして、積層体を得た。
【0108】
(1.5)参考例
基材とアンカーコート層と蒸着層とオーバーコート層とをこの順に含んだ積層体を、以下の方法により製造した。
【0109】
先ず、基材として、厚さが20μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)を用意した。
【0110】
アクリルポリオールにイソシアネート化合物を、アクリルポリオールのOH基に対してイソシアネート基が等量になるように添加し、それらの合計が2質量%となるように,酢酸エチルで希釈した。イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)を使用した。このようにして調製したアンカーコート層塗液を、グラビアコート法により基材上へ塗布して、厚さが50nm(乾燥膜厚)のアンカーコート層を形成した。
【0111】
次に、電子ビーム式真空蒸着法により、アンカーコート層上へ酸化アルミニウムを堆積させて、酸化アルミニウムからなる厚さが50nmの蒸着層を形成した。
【0112】
テトラエトキシシランとメタノールと0.1N塩酸とを、45:15:40の質量比で混合して、テトラエトキシシランの加水分解物を含有した溶液を調製した。この溶液とポリビニルアルコール(PVA)の5%水溶液とを、シリコン原子の含有量(a質量部)とPVAの含有量(b質量部)との比a/bが質量比で70/30となるように混合して、オーバーコート層塗液を得た。このオーバーコート層塗液を、グラビアコート法により蒸着層上へ塗布して、厚さが320nm(乾燥膜厚)のオーバーコート層を形成した。
以上のようにして、積層体を得た。
【0113】
(2)測定及び評価
(2.1)弾性率測定
上記積層体の各々について、アンカーコート層及びオーバーコート層の弾性率を、以下の方法で測定した。
【0114】
先ず、積層体の両面へ、0.20kWでコロナ処理を実施した。コロナ処理には、春日電機社製のコロナ処理機CT-0212を用いた。
【0115】
次に、剃刀を使用して、積層体から、底辺の長さが1.00mmであり、高さが5.0mmである短冊形状を有するフィルム片を切り出した。このフィルム片を、包埋樹脂で包埋した。包埋用樹脂としては、東亜合成製の光硬化樹脂D-800を用いた。上記フィルム片を包埋した樹脂は、ハロゲンランプKTX-100Rを用いた光照射によって硬化させた。
【0116】
フィルム片と包埋樹脂の硬化物とからなる複合体は、原子間力顕微鏡(AFM)試料ホルダ用インサートで固定した。次いで、この複合体に対して、常温(25℃)において、ガラスナイフを用いたトリミング及び切削を行った。この切削は、上記フィルム片の断面が露出するように行った。続いて、この複合体に対して、低温(-120℃)において、ダイヤモンドナイフを用いた切削を更に行った。この切削は、切削スピードを1.0mm/sに、切削膜厚を100nmに設定して、先の切削面が鏡面になるまで実施した。断面切削装置としては、ライカ社製のウルトラミクロトームEM UC7及びクライオシステムEM FC7を用いた。また、切削方向は、フィルム片が含む層の界面に対し平行な方向とした。
【0117】
以上のようにして、フォースカーブ測定用のサンプルを得た。フォースカーブ測定用サンプルは、各積層体に対して2つずつ作成した。これらサンプルの各々は、AFM試料ホルダ用インサートで固定した状態で、以下のフォースカーブ測定に用いた。
【0118】
フォースカーブ測定のための装置としては、オックスフォード・インストゥルメンツ社製の原子間力顕微鏡(AFM)であるMFP-3D-SAを用いた。また、カンチレバーには、フォースカーブ測定仕様のnanotools社製のB20-NCHを用いた。
【0119】
弾性率の測定に際しては、先ず、これらを使用して形状測定を行った。次いで、測定箇所を指定してフォースカーブを取得し、フォースカーブの解析により弾性率を算出した。解析ソフトウェアとしては、Igor Pro3.8801を用いた。弾性率算出の計算には、フォースカーブデータのうち押し込み時のインデント深さの下位10%から上位90%までのデータを使用し、Hertzモデルによる解析方法を用いた。
【0120】
ここで、曲率半径には、カンチレバーメーカーであるnanotoolsから提供された値を用いた。ばね定数は、thermal法を用いて算出した。その結果、ばね定数は42.95N/mであった。
【0121】
形状測定は、OxfordInstruments社製AFM及びIgor Pro6.38801を用い、測定条件を以下のように設定して実施した。
Imaging Mode AC mode(tapping mode)
Scan Points 256
Scan Lines 256
Scan Rate 1.0Hz
Scan Size 5.0μm~0.5μm。
【0122】
フォースカーブ測定は、OxfordInstruments社製AFM及びIgor Pro6.38801を用い、測定条件を以下のように設定して実施した。
Imaging Mode Contact mode
Force Distance 0.1μm
Scan Rate 0.25Hz
Velocity 50nm/s
Sample Rate 8kHz(8.333kHz)
LowPass Filter 4kHz(4.167kHz)
Trigger Channel Force200nN
測定時のサンプル設置部位の温度は28℃であった。
【0123】
Hertzモデルにおいてフォースカーブから弾性率算出計算する際に、Igor Pro6.38801において以下の設定を行った。
【0124】
Tip Radius(曲率半径) 21nm
Tip Geometry Sphere
Sample Poisson(ポアソン比) 0.33
Tip Properties Diamond Synthetic
Segment EXT(押し込み時のフォースカーブ)。
【0125】
オーバーコート層の軸剛性SOを得るには、先ず、上述したフォースカーブの取得を、各サンプルのオーバーコート層上の20箇所について行った。次いで、各々のサンプルについて、測定箇所毎に弾性率を算出し、これらを算術平均した。この算術平均値をオーバーコート層の厚さで除することにより、オーバーコート層の軸剛性を得た。なお、オーバーコート層の厚さは、上述した形状測定において取得する形状像から求めた。そして、各積層体について、2つのサンプルについて得られた軸剛性の算術平均を求めた。この算術平均を、オーバーコート層の軸剛性SOとして得た。
【0126】
また、アンカーコート層の軸剛性SAを得るには、先ず、上述したフォースカーブの取得を、各サンプルのアンカーコート層上の20箇所について行った。次いで、各々のサンプルについて、測定箇所毎に弾性率を算出し、これらを算術平均した。この算術平均値をアンカーコート層の厚さで除することにより、アンカーコート層の軸剛性を得た。なお、アンカーコート層の厚さは、上述した形状測定において取得する形状像から求めた。そして、各積層体について、2つのサンプルについて得られた軸剛性の算術平均を求めた。この算術平均を、アンカーコート層の軸剛性SAとして得た。
【0127】
(2.2)評価
(2.2.1)レトルト処理試験後の酸素バリア性
上記積層体の各々から、三方シール袋を製袋し、各袋を水で充填し、その後、開口部をヒートシールして、包装物品を得た。各包装物品をレトルト処理に供し、その後、これからフィルム片を切り出した。そして、各フィルム片について、30℃、相対湿度70%における酸素透過速度(Oxygen Transmission Rate、OTR)を測定した。この測定には、酸素透過度測定装置(MOCON社製 OXTRAN-2/20)を用いた。
【0128】
(2.2.2)ゲルボフレックス試験後の酸素バリア性
上記積層体からフィルム片を切り出し、これらフィルム片の各々を、ゲルボフレックステスタを使用して10回に亘って屈曲させた。その後、各フィルム片について、30℃、相対湿度70%における酸素透過速度(Oxygen Transmission Rate、OTR)を測定した。この測定には、酸素透過度測定装置(MOCON社製 OXTRAN-2/20)を用いた。
【0129】
(3)結果
上記測定の結果を、各積層体の構成とともに、以下の表1に纏める。なお、表1において、「AC層」はアンカーコート層を表し、「OC層」はオーバーコート層を表している。
【0130】
【0131】
表1に示すように、オーバーコート層の軸剛性SOとアンカーコート層の軸剛性SAとの比SO/SAが2乃至13の範囲内にある積層体は、レトルト処理試験後及びゲルボフレックス試験後の何れにおいても、優れた酸素バリア性を有していた。これに対し、比較例に係る積層体は、レトルト処理試験後及びゲルボフレックス試験後の何れかにおいて、酸素バリア性が低かった。
1…包装材料、10…積層体、11…基材、11A…コア層、11B1…スキン層、11B2…スキン層、12…アンカーコート層、13…蒸着層、14…オーバーコート層、20…基材層、30…シーラント層、40A…接着剤層、40B…接着剤層。