(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048730
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】封止キャップ
(51)【国際特許分類】
E04G 21/24 20060101AFI20240402BHJP
F16B 37/14 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
E04G21/24 B
F16B37/14 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154805
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】390028082
【氏名又は名称】株式会社未来樹脂
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】須加 浩
(57)【要約】
【課題】アンカー孔に確実に固定でき、高い水密性を長期間にわたって維持可能な封止キャップを提供する。
【解決手段】本発明の封止キャップ1は、弾性変形可能な素材からなる封止蓋10と、封止蓋10の底面に付設した係合顎20と、を備え、係合顎20が、封止蓋10の底面と略平行な面状の顎部23と、顎部23を封止蓋10の底面に片持ち状に連結した支持部22と、顎部23の先端中央に設けた切欠部24と、を有し、封止蓋10でアンカー孔Aを被覆し、切欠部24をアンカー孔A内から突起するアンカーピンA2の頭部に係合した状態において、封止蓋10の底面をアンカー孔Aの縁部に押し付け可能に構成したことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製品に設けた吊り上げ用のアンカー孔を封止するための封止キャップであって、
弾性変形可能な素材からなる封止蓋と、前記封止蓋の底面に付設した係合顎と、を備え、
前記係合顎が、前記封止蓋の底面と略平行な面状の顎部と、前記顎部を前記封止蓋の底面に片持ち状に連結した支持部と、前記顎部の先端中央に設けた切欠部と、を有し、
前記封止蓋で前記アンカー孔を被覆し、前記切欠部を前記アンカー孔内から突起するアンカーピンの頭部に係合した状態において、前記封止蓋の底面を前記アンカー孔の縁部に押し付け可能に構成したことを特徴とする、
封止キャップ。
【請求項2】
前記封止蓋が、蓋本体と、前記蓋本体の外周部から前記蓋本体の底面方向に延出するスカート状の封止縁部を備えることを特徴とする、請求項1に記載の封止キャップ。
【請求項3】
前記蓋本体が、2つの円弧部を接続部で接続した略楕円形状を呈し、前記封止縁部が、前記接続部の側縁に対応する折曲縁を備えることを特徴とする、請求項2に記載の封止キャップ。
【請求項4】
前記封止蓋が、前記封止蓋の底面から下方に突出する略円柱形又は略円筒形の封止凸縁と、前記封止凸縁の外周に環設した弾性材料からなるシールリングと、を備えることを特徴とする、請求項1に記載の封止キャップ。
【請求項5】
前記封止蓋が、底面に設けた第1連結部を備え、前記係合顎が、前記支持部に設けた第2連結部を備え、前記第1連結部と前記第2連結部の連結を介して、前記係合顎を前記封止蓋に付設したことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の封止キャップ。
【請求項6】
前記第1連結部が、前記封止蓋の両面を連通する連結管と、前記連結管の内面に設けた複数の第1係合歯と、を備え、前記第2連結部が、前記支持部に突設した連結ロッドと、前記連結ロッドの側面に設けた複数の第2係合歯と、を備え、前記連結ロッドを前記連結管の内部に挿入した状態において、前記第1係合歯と前記第2係合歯とが、前記連結ロッドを前記連結管内に差し込む方向に摺動を許容し、引き抜く方向に摺動を規制するラッチ構造を構成することを特徴とする、請求項5に記載の封止キャップ。
【請求項7】
少なくとも前記封止蓋が透光性材料を含む合成樹脂からなることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の封止キャップ。
【請求項8】
前記封止蓋に把持部を備えることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の封止キャップ。
【請求項9】
前記把持部が、把持片と、前記把持片を前記封止蓋に連結する切断部と、を備え、前記切断部が、前記把持片より破断が容易な構造からなることを特徴とする、請求項8に記載の封止キャップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は封止キャップに関し、特にアンカー孔に確実に固定でき、高い水密性を長期間にわたって維持可能な封止キャップに関する。
【背景技術】
【0002】
補強土壁工法の壁面パネル、コンクリートブロック、ボックスカルバート、プレキャスト床板などのコンクリート製品には、クレーンで吊り上げるためのアンカー孔が設けられている。
アンカー孔は、ボウル状又はなべ底状に凹んだ孔本体と、孔本体の中央に埋設したアンカーピンからなる。コンクリート製品の吊り上げ時には、アンカーピンの拡径したピン頭部にカップラー(吊り具)を係止して、カップラーのリング部にクレーンを引掛けて吊り上げる。
コンクリート製品の保管時や据え付け後、アンカー孔を外気に開放したまま放置すると、孔内に雨水等が溜まり凍結することで、吊り上げに支障をきたしたり、アンカーピンが錆びて膨張することで、コンクリートにクラックを生じさせるおそれがある。また、アンカー孔内が黒ずんだり、苔が生じて変色することで、景観上好ましくない外観となる。
このため、従来は保管時にアンカー孔を封止キャップで被覆し(特許文献1、2)、据え付け後にアンカー孔内をモルタルで埋めるなどして、アンカー孔を封止していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-55833号公報
【特許文献2】特開平8-277634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
いずれの封止キャップも、蓋の下部から突出する突出部の孔内にアンカーピンの頭部を圧入することで、主に孔の内周とアンカーピンの外周との摩擦によって封止キャップをアンカー孔に固定する。
しかし、封止キャップには、蓋の縁部をコンクリート面に押し付けるための、押込みによる反力が働いているため、時間の経過とともにアンカーピンの頭部が孔内から摺動して固定が緩みやすい。これによって、蓋とコンクリート面の間に隙間が生じ、隙間からアンカー孔内に水が侵入するおそれがある。
また、モルタルの充填には手間と時間がかかる上、供用後モルタルの収縮によってアンカーピンの頭部が露出したり亀裂が生じるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の封止キャップは、弾性変形可能な素材からなる封止蓋と、封止蓋の底面に付設した係合顎と、を備え、係合顎が、封止蓋の底面と略平行な面状の顎部と、顎部を封止蓋の底面に片持ち状に連結した支持部と、顎部の先端中央に設けた切欠部と、を有し、封止蓋でアンカー孔を被覆し、切欠部をアンカー孔内から突起するアンカーピンの頭部に係合した状態において、封止蓋の底面をアンカー孔の縁部に押し付け可能に構成したことを特徴とする。
【0006】
本発明の封止キャップは、封止蓋が、蓋本体と、蓋本体の外周部から蓋本体の底面方向に延出するスカート状の封止縁部を備えていてもよい。
【0007】
本発明の封止キャップは、蓋本体が、2つの円弧部を接続部で接続した略楕円形状を呈し、封止縁部が、接続部の側縁に対応する折曲縁を備えていてもよい。
【0008】
本発明の封止キャップは、封止蓋が、封止蓋の底面から下方に突出する略円柱形又は略円筒形の封止凸縁と、封止凸縁の外周に環設した弾性材料からなるシールリングと、を備えていてもよい。
【0009】
本発明の封止キャップは、封止蓋が、底面に設けた第1連結部を備え、係合顎が、支持部に設けた第2連結部を備え、第1連結部と第2連結部の連結を介して、係合顎を封止蓋に付設してもよい。
【0010】
本発明の封止キャップは、第1連結部が、封止蓋の両面を連通する連結管と、連結管の内面に設けた複数の第1係合歯と、を備え、第2連結部が、支持部に突設した連結ロッドと、連結ロッドの側面に設けた複数の第2係合歯と、を備え、連結ロッドを連結管の内部に挿入した状態において、第1係合歯と第2係合歯とが、連結ロッドを連結管内に差し込む方向に摺動を許容し、引き抜く方向に摺動を規制するラッチ構造を構成していてもよい。
【0011】
本発明の封止キャップは、少なくとも封止蓋が透光性材料を含む合成樹脂からなっていてもよい。
【0012】
本発明の封止キャップは、封止蓋に把持部を備えていてもよい。
【0013】
本発明の封止キャップは、把持部が、把持片と、把持片を封止蓋に連結する切断部と、を備え、切断部が、把持片より破断が容易な構造からなっていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の封止キャップは、以上の構成を備えるため次の効果のうち少なくとも一つを備える。
<1>アンカーピンのピン頭部に下方から係合する構造であるため、上方からの圧入による装着と異なり、緩むことがなく、確実に固定することができる。
<2>装着によって、封止蓋が底面側に弾性変形すると共に、片持ち状の係合顎がアンカーピンの頭部を下方から押し上げる構造であるため、封止蓋とアンカーピンの間に常時緊張力が働く。このため、封止蓋の縁部を常にコンクリート面に押し付けることで、高い水密性を長期間にわたって維持することができる。
<3>水密性を長期間にわたって維持できるため、モルタルの充填に替わって、コンクリート製品の供用後の封止にも適用することができる。また、モルタル充填のような手間と時間を必要とせず、簡単な作業で装着することができる。
<4>係止顎が弾性変形するため、アンカー孔の若干の規格の違いにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の封止キャップについて詳細に説明する。
【実施例0017】
[封止キャップ]
<1>全体の構成(
図1、2)
封止キャップ1は、コンクリート製品のアンカー孔Aを封止する部材である。
封止キャップ1は、封止蓋10と、封止蓋10の底面に付設した係合顎20と、を少なくとも備える。
封止キャップ1は、封止蓋10の材料弾性と、係合顎20の形状弾性の組み合わせによって、封止蓋10の底面縁部をアンカー孔Aの孔縁部A1aに常時密着させるため、高い水密性を確保できる。
本例では、封止蓋10と係合顎20を分割構造とする。これによって、同一の封止蓋10に対して、寸法の異なる係合顎20を組み合わせることで、穴の深さやアンカーピンA2の径の異なる複数のアンカー孔Aの規格に適合することができる。
【0018】
<1.1>アンカー孔(
図3)
アンカー孔Aは、コンクリート製品吊り上げ用の孔である。
ここでコンクリート製品とは、補強土壁工法の壁面パネル、コンクリートブロック、ボックスカルバート、プレキャスト床板等のコンクリート二次製品全般を含む。
アンカー孔Aは、ボウル状又はなべ底状に凹んだ孔本体A1と、孔本体A1の中央に埋設したアンカーピンA2からなる。
孔本体A1の周囲にはコンクリート製品の表面と連続した孔縁部A1aが延在する。
アンカーピンA2は、上端に拡径したピン頭部A2aを備える。
【0019】
<2>封止蓋(
図1、4)
封止蓋10は、アンカー孔Aの孔本体A1を封止するための部材である。
封止蓋10は、弾性変形可能な素材からなる。
本例では封止蓋10の素材として、ポリプロピレン(PP)を採用する。ただしこれに限らず、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、その他の合成樹脂等であってもよい。
本例では封止蓋10が、蓋本体11と、蓋本体11の外周に設けた封止縁部12と、蓋本体11の底面中央に設けた第1連結部13と、蓋本体11の天面から突起した把持部14と、を備える。
【0020】
<2.1>蓋本体(
図4)
蓋本体11は、孔本体A1を被覆する部材である。
蓋本体11は、孔本体A1全体を被覆可能な大きさの面状体からなる。
本例では蓋本体11が、2つの円弧部11aを接続部11bで接続した略楕円形状を呈し、蓋本体11の長手方向が後述する係合顎20の延出方向を向く。これによって、封止キャップ1をアンカー孔Aへの装着する際に、蓋本体11が2つの円弧部11aに挟まれた接続部11bで折れ曲がることで、蓋本体11の先端側が孔本体A1内に落ち込むのを防ぐことができる(
図6a)。
本例では蓋本体11が透光性材料からなる。これによって、封止キャップ1の装着後も、蓋本体11を通してアンカー孔A内の様子を目視できるため、係合顎20の係合状態や、浸水の有無を確認することができる。このため、装着不良を防止できると共に、据え付け後のメンテナンスが容易になる。
ただし蓋本体11は上記に限らず、例えば真円形、矩形、多角形その他の形状であってもよい。
【0021】
<2.2>封止縁部
封止縁部12は、アンカー孔Aの孔縁部A1aを支圧して密封する部材である。
封止縁部12は、蓋本体11の外周部から蓋本体11の底面方向に延出するスカート形状を呈する。
本例では、封止縁部12が、蓋本体11における接続部11bの側縁に対応する一対の折曲縁12aを備える。これによって、封止蓋10が、2つの折曲縁12aとその間の接続部11bに沿って折れ曲がりやすくなる。
【0022】
<3>係合顎(
図2)
係合顎20は、アンカーピンA2に係合するための部材である。
係合顎20は、蓋本体11の底面に設けた基部21と、面状の顎部23と、顎部23を基部21に片持ち状に連結した支持部22と、顎部23の先端中央に設けた切欠部24と、を少なくとも備える。本例では更に、基部21に設けた第2連結部25を備える。なお、基部21は必須の構成ではなく、支持部22を蓋本体11の底面に直接付設してもよい。
本例では係合顎20の素材として、封止蓋10と同じポリプロピレン(PP)を採用する。ただしこれに限らず、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、その他の合成樹脂等であってもよい。
係合顎20は、支持部22によって顎部23を基部21に対して片持ち状に連結した構造により、顎部23の先端が蓋本体11底面に対して開いた状態から、基部21方向へ復元しようとする形状弾性を備える。
【0023】
<3.1>顎部
顎部23は、ピン頭部A2aに下方から係止する部材である。
顎部23は、蓋本体11の底面と略平行な面状体である。
顎部23は、先端側の中央にアンカーピンA2を通す切欠部24を備え、先端が切欠部24によって2つに分かれる。
本例では顎部23の2つの先端にそれぞれ、顎部23の天面が底面から後退した形状の傾斜端23aを備える。傾斜端23aによって、顎部23の先端をピン頭部A2aの下方へ挿入するのが容易になる。
【0024】
<4>分割構造(
図5)
封止蓋10と係合顎20は、第1連結部13と第2連結部25によって連結可能な、分割構造からなる。
本例では、第1連結部13が、連結孔13aと、連結孔13aの底部の中央から突起する中央突起13bと、を備える。また、第2連結部25が、外周に凹凸を有する連結突起25aと、連結突起25aの中央に設けた中央溝25bと、を備える。
係合顎20の連結時には、第2連結部25の連結突起25aを、第1連結部13の連結孔13a内に圧入する。すると、連結孔13a内の中央突起13bが、中央溝25b内に割り入ることで、連結突起25aの外周の凹凸を連結孔13aの内周に押し付ける。
このように、本例では連結突起25aを連結孔13a内に圧入するだけで、係合顎20を封止蓋10に確実に連結することができる。
なお、第1連結部13と第2連結部25の構造は上記に限らず、例えば第1連結部13の構造と第2連結部25の構造を入れ替えてもよい。また、ネジによる螺着構造、フック等による係止構造等であってもよい。
【0025】
<5>封止キャップの装着方法
封止キャップ1は、例えば以下の方法でアンカー孔Aに装着する。
係合顎20の切欠部24側を先端にして封止蓋10を持ち、封止蓋10の前方をアンカー孔A周辺のコンクリート面に押し付ける(
図6a)。すると封止蓋10が、2つの折曲縁12aを連結する線(蓋本体11の接続部11b)に沿って曲折し、封止縁部12が孔本体A1内に落ち込むことが防止される。
コンクリート面に沿って封止蓋10を前方にスライドさせながら、係合顎20をアンカー孔A内に挿入し、切欠部24をピン頭部A2aの下方に通して、顎部23の上面をピン頭部A2aに係止する(
図6b)。顎部23を確実に係止したら、蓋本体11から手を外す。
装着後、係合顎20の形状弾性によって、封止蓋10がアンカーピンA2側に引き寄せられ、蓋本体11の中央が底面側に僅かに凹むと共に、これらの反力によって、封止縁部12の外周が孔本体A1のA1a孔縁部に押し付けられる(
図6c)。これによって、封止蓋10とアンカーピンA2の間には常時緊張力が働くことで、高い水密性を長期間にわたって維持することができる。
なお、装着後にメンテナンス等で封止キャップ1を取り外す必要が出た場合には、把持部14を摘まんで封止蓋10の後部を引き上げるだけで、係合顎20の顎部23をピン頭部A2aから外して、容易に取り外すことができる。