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特開2024-48769エンジンにおけるアンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン、及びアンモニア混焼エンジンを搭載した船舶
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  • 特開-エンジンにおけるアンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン、及びアンモニア混焼エンジンを搭載した船舶 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048769
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】エンジンにおけるアンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン、及びアンモニア混焼エンジンを搭載した船舶
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/08 20060101AFI20240402BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20240402BHJP
   F02D 41/40 20060101ALI20240402BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20240402BHJP
   F02M 25/00 20060101ALI20240402BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
F02D19/08 C
F02D19/02 B
F02D41/40
F02M21/02 G
F02M21/02 N
F02M25/00 F
F01N3/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154851
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】390033042
【氏名又は名称】ダイハツディーゼル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】仁木 洋一
(72)【発明者】
【氏名】小林 和之
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇毅
(72)【発明者】
【氏名】猪阪 史典
【テーマコード(参考)】
3G091
3G092
3G301
【Fターム(参考)】
3G091AA04
3G091AA18
3G091AB05
3G091BA14
3G091CB01
3G091EA01
3G091EA08
3G092AA02
3G092AA11
3G092AB03
3G092AB06
3G092AB09
3G092AB12
3G092AB19
3G092AC10
3G092BB06
3G092BB11
3G092BB20
3G092DE01S
3G092DE03S
3G092EA01
3G092EA02
3G092EA03
3G092EA04
3G092FA15
3G092FA17
3G092HE03Z
3G301HA02
3G301HA04
3G301HA19
3G301HA22
3G301HA24
3G301HA26
3G301JA21
3G301JA25
3G301LB11
3G301MA03
3G301MA19
3G301MA26
3G301NE01
3G301NE06
3G301NE11
3G301NE12
3G301PE03Z
(57)【要約】
【課題】アンモニアと液体燃料を混焼するエンジンにおけるアンモニアの混焼率の増大化を図り、排気ガスの性状を従来よりも向上させることのできる、エンジンにおけるアンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン、及びアンモニア混焼エンジンを搭載した船舶を提供する。
【解決手段】エンジンの燃焼室へ空気と、アンモニアと、液体燃料を供給し圧縮着火により着火させて混焼するに当たり、さらに水素を燃焼室に供給して混焼させることにより、液体燃料の供給タイミングを進角する方向へ可変域を拡大させるとともに、燃焼室への液体燃料の供給タイミングを、アンモニアと水素の供給タイミングより遅く設定した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアと液体燃料を混焼するエンジンにおけるアンモニア混焼方法であって、前記エンジンの燃焼室へ空気と、前記アンモニアと、前記液体燃料を供給し圧縮着火により着火させて混焼するに当たり、さらに水素を前記燃焼室に供給して混焼させることにより、前記液体燃料の供給タイミングを進角する方向へ可変域を拡大させるとともに、前記燃焼室への前記液体燃料の前記供給タイミングを、前記アンモニアと前記水素の前記供給タイミングより遅く設定したことを特徴とするエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項2】
前記液体燃料の供給は、多段噴射により供給することを特徴とする請求項1に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項3】
前記液体燃料が軽油であることを特徴とする請求項1に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項4】
前記空気に、前記アンモニアと前記水素を予め混合して前記燃焼室に供給することを特徴とする請求項1に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項5】
液体状態で蓄えた前記アンモニアを気化して供給することを特徴とする請求項1に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項6】
前記アンモニアの一部を分解して前記水素を得ることを特徴とする請求項1に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項7】
前記液体燃料の前記供給タイミングとしての進角をATDC(上死点後)-25度から-70度の範囲に設定することを特徴とする請求項1に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項8】
前記液体燃料と前記アンモニアと前記水素の総供給量に対する前記アンモニアと前記水素の供給量の比率を1%から95%の範囲とすることを特徴とする請求項1に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項9】
前記燃焼室から排出される排気ガス中のNOxを、前記アンモニアを用いてSCR(選択的触媒還元)を利用して浄化することを特徴とする請求項1に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のエンジンにおけるアンモニア混焼方法を用いた圧縮着火式のアンモニア混焼エンジンであって、燃焼室と、前記燃焼室にアンモニアを供給するアンモニア供給手段と、前記燃焼室に空気を供給する給気手段と、前記燃焼室に液体燃料を供給する液体燃料供給手段と、前記燃焼室に水素を供給する水素供給手段と、前記液体燃料と前記アンモニアと前記水素の総供給量に対する前記アンモニアと前記水素の供給量の比率を設定する燃料比率設定手段と、前記燃料比率設定手段の比率の設定に応じて前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給タイミングを制御する供給タイミング制御手段とを備えたことを特徴とするアンモニア混焼エンジン。
【請求項11】
前記供給タイミング制御手段は、前記液体燃料供給手段による前記液体燃料の供給を、多段噴射により供給する制御を行うことを特徴とする請求項2を引用する請求項10に記載のアンモニア混焼エンジン。
【請求項12】
前記アンモニアと前記水素を前記給気手段の給気経路に噴射し、予め前記空気と前記アンモニアと前記水素を混合して前記燃焼室に供給することを特徴とする請求項4を引用する請求項10に記載のアンモニア混焼エンジン。
【請求項13】
液体状態で蓄えた前記アンモニアを気化する気化手段を、前記給気手段の給気経路に備えたことを特徴とする請求項5を引用する請求項10に記載のアンモニア混焼エンジン。
【請求項14】
前記供給タイミング制御手段は、前記液体燃料の前記供給タイミングとしての進角をATDC(上死点後)-25度から-70度に前記液体燃料供給手段の供給タイミングを制御することを特徴とする請求項7を引用する請求項10に記載のアンモニア混焼エンジン。
【請求項15】
前記燃料比率設定手段は、前記液体燃料と前記水素と前記アンモニアの総供給量に対する前記アンモニアと前記水素の供給量の比率を1%から95%の範囲に設定することを特徴とする請求項8を引用する請求項10に記載のアンモニア混焼エンジン。
【請求項16】
前記燃焼室から排出される排気ガス中のNOxを前記アンモニアを用いて浄化するSCR(選択的触媒還元)システムを、前記排気ガスの排気経路に備えたことを特徴とする請求項9を引用する請求項10に記載のアンモニア混焼エンジン。
【請求項17】
請求項10に記載のアンモニア混焼エンジンを船舶に搭載したことを特徴とするアンモニア混焼エンジンを搭載した船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアと液体燃料を混焼するエンジンにおけるアンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン、及びアンモニア混焼エンジンを搭載した船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
舶用ディーゼル機関に関し、アンモニア(NH)を燃料とするための研究開発や、実エンジンの開発が進んでいる。アンモニアはその燃焼性が悪いため、着火のために重油などをパイロット燃料として利用する。
ここで、特許文献1には、アンモニア燃焼内燃機関において、燃焼室内にアンモニアとアンモニア以外の高燃焼性物質としてGTL軽油や水素等を供給可能とした構成が開示されている。
また、特許文献2~4には、アンモニアと該アンモニアの燃焼を促進させるための助燃燃料とを燃料として使用する内燃機関の制御を行う装置が開示されており、助燃燃料として水素を用いてもよいことが記載されている。
また、特許文献5には、尿素水を基に生成したアンモニアを利用して内燃機関の排出ガスに含まれる窒素酸化物を浄化する場合に、さらに生成したアンモニアを基に水素を生成し、燃料としてアンモニア及び水素を有効利用して内燃機関の燃焼効率を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/136151号
【特許文献2】国際公開第2010/109601号
【特許文献3】国際公開第2010/109599号
【特許文献4】特開2009-85168号公報
【特許文献5】特開2009-97419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アンモニアを燃料とすると、未燃アンモニアや温室効果ガスである亜酸化窒素(NO)が排出される。また、アンモニアとパイロット燃料の熱量の比率が重要であるが、アンモニアの比率が高くなると、エンジンの運転が不安定になったり、未燃アンモニアや亜酸化窒素が増加する問題がある。特許文献1~5においても排気ガス中に含まれる未燃アンモニアやNO等の浄化についての言及はあるものの、排気ガスの性状のさらなる向上が求められている。
そこで本発明は、アンモニアと液体燃料を混焼するエンジンにおけるアンモニアの混焼率の増大化を図り、排気ガスの性状を従来よりも向上させることのできる、エンジンにおけるアンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン、及びアンモニア混焼エンジンを搭載した船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載に対応したエンジンにおけるアンモニア混焼方法においては、アンモニアと液体燃料を混焼するエンジンにおけるアンモニア混焼方法であって、エンジンの燃焼室へ空気と、アンモニアと、液体燃料を供給し圧縮着火により着火させて混焼するに当たり、さらに水素を燃焼室に供給して混焼させることにより、液体燃料の供給タイミングを進角する方向へ可変域を拡大させるとともに、燃焼室への液体燃料の供給タイミングを、アンモニアと水素の供給タイミングより遅く設定したことを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、水素を混焼することで液体燃料の供給タイミングを従来よりも進角できるため、アンモニアの混焼率を増大させることや、アンモニアのスリップや亜酸化窒素等の窒素酸化物を低減して排気ガスの性状を向上させることができる。
【0006】
請求項2記載の本発明は、液体燃料の供給は、多段噴射により供給することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、単噴射に比べて排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0007】
請求項3記載の本発明は、液体燃料が軽油であることを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、液体燃料として一般的な軽油を燃料としてアンモニア混焼方法において排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0008】
請求項4記載の本発明は、空気に、アンモニアと水素を予め混合して燃焼室に供給することを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0009】
請求項5記載の本発明は、液体状態で蓄えたアンモニアを気化して供給することを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、供給空気の温度低下を防止して排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0010】
請求項6記載の本発明は、アンモニアの一部を分解して水素を得ることを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、アンモニアから得た水素を混焼して排気ガスの性状を向上させることができ、アンモニアと水素を別々に貯蔵する必要がなくなる。
【0011】
請求項7記載の本発明は、液体燃料の供給タイミングとしての進角をATDC(上死点後)-25度から-70度の範囲に設定することを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、燃焼を安定に維持しつつ、排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0012】
請求項8記載の本発明は、液体燃料とアンモニアと水素の総供給量に対するアンモニアと水素の供給量の比率を1%から95%の範囲とすることを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、アンモニアと水素の混焼率を高めながら排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0013】
請求項9記載の本発明は、燃焼室から排出される排気ガス中のNOxを、アンモニアを用いてSCR(選択的触媒還元)を利用して浄化することを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、排気ガス中に含まれるスリップしたアンモニアや燃焼用と同一の供給源から供給されるアンモニアを利用して、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を低減することができる。
【0014】
請求項10記載に対応したアンモニア混焼エンジンにおいては、エンジンにおけるアンモニア混焼方法を用いた圧縮着火式のアンモニア混焼エンジンであって、燃焼室と、燃焼室にアンモニアを供給するアンモニア供給手段と、燃焼室に空気を供給する給気手段と、燃焼室に液体燃料を供給する液体燃料供給手段と、燃焼室に水素を供給する水素供給手段と、液体燃料とアンモニアと水素の総供給量に対するアンモニアと水素の供給量の比率を設定する燃料比率設定手段と、燃料比率設定手段の比率の設定に応じて液体燃料供給手段による液体燃料の供給タイミングを制御する供給タイミング制御手段とを備えたことを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、水素を混焼することで液体燃料の供給タイミングを従来よりも進角できるため、アンモニアの混焼率を増大させることやアンモニアのスリップや亜酸化窒素等の窒素酸化物を低減して排気ガスの性状を向上させることができる。
【0015】
請求項11記載の本発明は、供給タイミング制御手段は、液体燃料供給手段による液体燃料の供給を、多段噴射により供給する制御を行うことを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、単噴射に比べて排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0016】
請求項12記載の本発明は、アンモニアと水素を給気手段の給気経路に噴射し、予め空気とアンモニアと水素を混合して燃焼室に供給することを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0017】
請求項13記載の本発明は、液体状態で蓄えたアンモニアを気化する気化手段を、給気手段の給気経路に備えたことを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、供給空気の温度低下を防止して排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0018】
請求項14記載の本発明は、供給タイミング制御手段は、液体燃料の供給タイミングとしての進角をATDC(上死点後)-25度から-70度に液体燃料供給手段の供給タイミングを制御することを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、燃焼を安定に維持しつつ、排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0019】
請求項15記載の本発明は、燃料比率設定手段は、液体燃料と水素とアンモニアの総供給量に対するアンモニアと水素の供給量の比率を1%から95%の範囲に設定することを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、アンモニアと水素の混焼率を高めながら排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0020】
請求項16記載の本発明は、燃焼室から排出される排気ガス中のNOxをアンモニアを用いて浄化するSCR(選択的触媒還元)システムを、排気ガスの排気経路に備えたことを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、排気ガス中に含まれるスリップしたアンモニアや燃焼用と同一の供給源から供給されるアンモニアを利用して、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を低減することができる。
【0021】
請求項17記載に対応したアンモニア混焼エンジンを搭載した船舶においては、アンモニア混焼エンジンを船舶に搭載したことを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、アンモニアの混焼率を増大させ、排気ガスの性状を向上させた船舶を実現することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のエンジンにおけるアンモニア混焼方法によれば、水素を混焼することで液体燃料の供給タイミングを従来よりも進角できるため、アンモニアの混焼率を増大させることや、アンモニアのスリップや亜酸化窒素等の窒素酸化物を低減して排気ガスの性状を向上させることができる。
【0023】
また、液体燃料の供給は、多段噴射により供給する場合には、単噴射に比べて排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0024】
また、液体燃料が軽油である場合には、液体燃料として一般的な軽油を燃料としてアンモニア混焼方法において排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0025】
また、空気に、アンモニアと水素を予め混合して燃焼室に供給する場合には、排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0026】
また、液体状態で蓄えたアンモニアを気化して供給する場合には、供給空気の温度低下を防止して排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0027】
また、アンモニアの一部を分解して水素を得る場合には、アンモニアから得た水素を混焼して排気ガスの性状を向上させることができ、アンモニアと水素を別々に貯蔵する必要がなくなる。
【0028】
また、液体燃料の供給タイミングとしての進角をATDC(上死点後)-25度から-70度の範囲に設定する場合には、燃焼を安定に維持しつつ、排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0029】
また、液体燃料とアンモニアと水素の総供給量に対するアンモニアと水素の供給量の比率を1%から95%の範囲とする場合には、アンモニアと水素の混焼率を高めながら排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0030】
また、燃焼室から排出される排気ガス中のNOxを、アンモニアを用いてSCR(選択的触媒還元)を利用して浄化する場合には、排気ガス中に含まれるスリップしたアンモニアや燃焼用と同一の供給源から供給されるアンモニアを利用して排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を低減することができる。
【0031】
また、本発明のアンモニア混焼エンジンによれば、水素を混焼することで液体燃料の供給タイミングを従来よりも進角できるため、アンモニアの混焼率を増大させることや、アンモニアのスリップや亜酸化窒素等の窒素酸化物を低減して排気ガスの性状を向上させることができる。
【0032】
また、供給タイミング制御手段は、液体燃料供給手段による液体燃料の供給を、多段噴射により供給する制御を行う場合には、単噴射に比べて排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0033】
また、アンモニアと水素を給気手段の給気経路に噴射し、予め空気とアンモニアと水素を混合して燃焼室に供給する場合には、排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0034】
また、液体状態で蓄えたアンモニアを気化する気化手段を、給気手段の給気経路に備えた場合には、供給空気の温度低下を防止して排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0035】
また、供給タイミング制御手段は、液体燃料の供給タイミングとしての進角をATDC(上死点後)-25度から-70度に液体燃料供給手段の供給タイミングを制御する場合には、燃焼を安定に維持しつつ、排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0036】
また、燃料比率設定手段は、液体燃料と水素とアンモニアの総供給量に対するアンモニアと水素の供給量の比率を1%から95%の範囲に設定する場合には、アンモニアと水素の混焼率を高めながら排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0037】
また、燃焼室から排出される排気ガス中のNOxをアンモニアを用いて浄化するSCR(選択的触媒還元)システムを、排気ガスの排気経路に備えた場合には、排気ガス中に含まれるスリップしたアンモニアや燃焼用と同一の供給源から供給されるアンモニアを利用して排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を低減することができる。
【0038】
また、本発明のアンモニア混焼エンジンを搭載した船舶によれば、アンモニアの混焼率を増大させ、排気ガスの性状を向上させた船舶を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の実施形態によるアンモニア混焼エンジンの模式図
図2】同噴射タイミングチャート(供給タイミング)
図3】同噴射タイミングチャート(可変域)
図4-1】試験結果を示す図
図4-2】試験結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の実施形態によるエンジンにおけるアンモニア混焼方法、アンモニア混焼エンジン、及びアンモニア混焼エンジンを搭載した船舶について説明する。
図1は本実施形態によるアンモニア混焼エンジンの模式図である。
本実施形態のアンモニア混焼方法に用いるアンモニア混焼エンジンは、ディーゼル機関であり、ピストン10と、シリンダ11と、燃焼室12と、燃焼室12にアンモニアを供給するアンモニア供給手段13と、燃焼室12に空気を供給する給気手段14と、燃焼室12に液体燃料を供給する液体燃料供給手段15と、液体燃料を加圧する液体燃料加圧手段16と、燃焼室12に水素を供給する水素供給手段17と、液体状態で蓄えたアンモニアを気化する気化手段18と、燃焼室12から排出される排気ガスを外部へ導く排気手段19と、燃焼室12から排出される排気ガス中のNOxをアンモニアを用いて浄化するSCR(Selective Catalytic Reduction:選択的触媒還元)システム20と、アンモニア混焼エンジンを制御する制御装置21を備える。
制御装置21は、例えば、プログラム可能なコンピュータと、アンモニア混焼エンジンの各部へ送られる信号を生成するための信号生成回路を含んで構成され、その機能として、液体燃料とアンモニアと水素の総供給量に対するアンモニアと水素の供給量の比率を設定する燃料比率設定手段21aと、燃料比率設定手段21aの比率の設定に応じて液体燃料供給手段15による液体燃料の供給タイミングを制御する供給タイミング制御手段21bを有する。
アンモニア混焼エンジンは、例えば船舶に搭載され、プロペラ等の負荷装置1を駆動する主機用エンジン、又は補機用エンジンとして機能することができる。
【0041】
アンモニア混焼エンジンの各気筒では、ピストン10とシリンダ11とで燃焼室12が構成される。すなわち、シリンダ11は、シリンダブロックとシリンダヘッドを組み合わせて構成され、シリンダブロックのボア内でピストン10が往復運動可能となるように配置され、ピストン10に対向してボアを囲うようにシリンダヘッドが結合される。ピストン10及びシリンダ11により囲まれた空間が燃焼室12となる。
【0042】
給気手段14は給気経路(吸気経路ともいう)14a及び給気弁(吸気弁ともいう)14bを有し、排気手段19は排気経路19a及び排気弁19bを有する。
アンモニア混焼エンジンの各気筒には、給気経路14a及び排気経路19aが設けられる。給気弁14bは給気経路14aのうち燃焼室12との接続部分に設けられ、排気弁19bは排気経路19aのうち燃焼室12との接続部分に設けられる。
気筒には、ピストン10の動きに応じたクランク軸の回転角位置を検出するクランク角センサ(図示略)が設けられており、検出した回転角位置に応じて給気弁14b及び排気弁19bを開閉させる制御が制御装置21によって行われる。すなわち、クランク軸の回転角位置に応じて給気弁14bを開閉させ、気筒への給気のタイミングが制御される。また、クランク軸の回転角位置に応じて排気弁19bを開閉させ、気筒からの排気が制御される。
なお、給気は、アンモニア混焼エンジンによる自然吸気であっても過給機を用いた加圧給気であってもよい。また、実験用としては、図1に示すように、排気経路19aにはFTIR(フーリエ変換赤外分光法)式等の排ガス分析器2を接続することもできる。
【0043】
アンモニア供給手段13は、給気経路14aに設けられる。アンモニア供給手段13には、液化されたアンモニア(NH)が貯蔵されている液化アンモニアボンベ3が接続される。アンモニア供給手段13は、流量計及びインジェクタ(噴射弁)を備え、給気経路14a内にアンモニアを噴射する。アンモニア供給手段13から供給されるアンモニアの流量制御は、制御装置21によって行われる。
気化手段(気化器)18は、給気経路14aにおいてアンモニア供給手段13よりも下流に設けられ、アンモニア供給手段13のインジェクタは、気化手段18の入口付近に設置されている。気化手段18は必須ではないが、気化手段18を設けない場合は温度が下がってアンモニアや亜酸化窒素の排出量が増加してしまうため、本実施形態のように液体状態で蓄えたアンモニアを気化手段18で気化して供給することにより、吸入空気の温度低下を防止して排気ガスの性状をより向上させることができる。
なお、気化手段18は、アンモニア供給手段13の上流側に設けることもできる。また、アンモニア供給手段13から供給されたアンモニアは気化手段18で気化されるので、液化アンモニアではなく、ガスアンモニアを用いることもできる。また、アンモニアの一部を分解して水素を得るように構成することもでき、その場合は、アンモニアから得た水素を混焼して排気ガスの性状を向上させることができ、アンモニアと水素を別々に貯蔵する必要がなくなる。
【0044】
このように、給気経路14aに対してアンモニアを噴射することによって、供給されたアンモニアに酸化剤となる空気を混合して燃焼室12へ供給することができる。なお、空気の代わりに、酸素富化空気や純酸素等の他の酸化剤を用いてもよい。また、例えば水素(H)や天然ガス、LPG等、他の補助燃料を加えてもよい。
燃焼室12へのアンモニアと空気の混合気の供給は、アンモニア混焼エンジンにおける給気(吸気)行程と共に行われ、液体燃料のパイロット噴射よりも前から開始される。
【0045】
アンモニア混焼エンジンの各気筒には、液体燃料供給手段15と液体燃料加圧手段16が接続されている。液体燃料供給手段15は、電子式燃料噴射弁を備え、高圧ポンプ等の液体燃料加圧手段16によって加圧された液体燃料の供給を受けて、燃焼室12内に液体燃料を噴射させる。
液体燃料は、例えば、軽油、A重油、GTL(Gas to Liquids)燃料、又はFAME(Fatty Acid Methyl Ester:脂肪酸メチルエステル)やHVO(Hydrotreated Vegetable Oil:水素化分解油)といったバイオディーゼル燃料等とすることができる。特に、軽油を用いた場合は、液体燃料として一般的な軽油を燃料としてアンモニア混焼方法において排気ガスの性状をより向上させることができる。液体燃料加圧手段16による液体燃料の加圧は、液体燃料が軽油である場合、100MPa程度とすることが好ましい。
液体燃料供給手段15から供給される液体燃料の供給量の制御は、制御装置21によって行われる。また、液体燃料供給手段15による液体燃料の噴射タイミングの制御は、供給タイミング制御手段21bによって行われる。液体燃料のパイロット噴射は、アンモニア混焼エンジンの圧縮行程において上死点(TDC)よりも前のタイミングにおいて行われる。
【0046】
アンモニア混焼エンジンを運転するときの液体燃料のパイロット噴射は多段階とすることもできる。例えばパイロット噴射を2段階とする場合は、エンジンの上死点後(ATDC)においてクランク角度-60度から-10度の間においてサブ噴射の後にメイン噴射を行う。
液体燃料を多段噴射により供給することで、単噴射に比べて排気ガスの性状をより向上させることができる。
【0047】
SCRシステム20は、排気経路19aに設けられ、排気ガス中の窒素酸化物(NO)を低減させるための後処理を行う。SCRシステム20を設けることにより、触媒の作用を利用して排気ガスに含まれるスリップしたアンモニアによって窒素酸化物を窒素(N)と水(HO)に還元して、排気ガスに含まれる窒素酸化物の排出量を抑制することができる。また、液化アンモニアガスボンベ3とアンモニア供給手段13を接続する配管の途中に、排気経路19aのうちSCRシステム20の上流側に一端が接続された還元用アンモニア供給ラインを設け、弁の制御等により液化アンモニアボンベ3からのアンモニアをSCRシステム20へも供給可能な構成とした場合には、燃料として用いられるアンモニア(燃焼用と同一の供給源から供給されるアンモニア)をSCRシステム20における還元反応に用いられるアンモニアとしても利用して排気ガス中の窒素酸化物を低減することができ、さらに、燃焼用と還元用とでアンモニアの供給源や供給系統の一部を共通化することによってアンモニア混焼エンジンの配管や供給源等を簡素化することができる。
なお、アンモニア混焼エンジンに供給される燃料として用いられるアンモニアを増量し、未燃状態のスリップしたアンモニアとしてSCRシステム20に供給し、窒素酸化物の還元に用いることもできる。但しこの場合は微妙な比率制御が必要となるため、排気経路19aにアンモニアの検出手段を設け、制御装置21の供給タイミング制御手段21bでアンモニアの供給量を精密に制御することが好ましい。
【0048】
水素供給手段17は、給気経路14aにおいて気化手段18よりも下流に設けられる。水素供給手段17には、水素(H)が貯蔵されている水素ガスボンベ4が接続される。水素供給手段17は、流量計及びインジェクタ(噴射弁)を備え、給気経路14a内に水素を噴射する。なお、気化手段18をアンモニア供給手段13の上流側に設ける場合やガスアンモニアを用いる場合は、水素供給手段17を給気経路14aの気化手段18の下流側に設ける必要はなくなる。燃焼室12への水素の供給は、アンモニア混焼エンジンにおける給気(吸気)行程と共に行われ、液体燃料のパイロット噴射よりも前から開始される。
本実施形態のように、エンジンの燃焼室12へ空気と、アンモニアと、液体燃料を供給し圧縮着火により着火させて混焼するに当たり、さらに水素を燃焼室12に供給して混焼させることにより、液体燃料の供給タイミングの可変域を進角する方向へ拡大でき、その拡大した運転点で運転することで、アンモニアの混焼率を増大させることや、アンモニアのスリップや亜酸化窒素等の窒素酸化物を低減して排気ガスの性状を向上させることができる。この際、上述のように、燃焼室12への液体燃料の供給タイミングを、アンモニアと水素の供給タイミングよりも遅く設定する。
また、空気に、アンモニアと水素を給気経路14a内において予め混合して燃焼室12に供給することにより、排気ガスの性状をより向上させることができる。なお、アンモニアと水素との混合は、給気経路14a以外で混合して給気経路14a内に供給することもできる。また、アンモニアと水素を直接、エンジンの燃焼室12へ供給することもできる。
【0049】
アンモニア混焼エンジンは、燃料比率設定手段21aによって、燃料として使用されるアンモニアの供給量と水素の供給量の比率が調整され、これにより液体燃料とアンモニアと水素の総供給量に対するアンモニアと水素の供給量の各比率が所望の値に制御される。
液体燃料とアンモニアと水素の総供給量に対するアンモニアと水素の供給量の比率を1%から95%の範囲とすることが好ましい。これにより、アンモニアと水素の混焼率を高めながら排気ガスの性状をより向上させることができる。
なお、液体燃料とアンモニアと水素の総供給量に対するアンモニアと水素の供給量の比率は、運転前に予め一定値に設定してもよいし、アンモニア混焼エンジンの運転状態に応じて設定してもよい。例えば、液体燃料とアンモニアと水素の総供給量に対するアンモニアの供給量の比率は、液体燃料供給量、アンモニア供給量、及び水素供給量をそれぞれ検出するセンサを設けて、各センサの出力値に応じて設定するようにしてもよい。また、アンモニア混焼エンジンにかかる負荷に応じてアンモニア及び水素の供給量の比率を制御してもよい。例えば、負荷が急に増大した場合は、発熱量の大きく燃焼速度も速い液体燃料(軽油)の比率を増すように制御すればよい。
【0050】
供給タイミング制御手段21bは、燃料比率設定手段21aによって設定された液体燃料とアンモニアと水素の総供給量に対するアンモニアと水素の供給量の比率に応じて、液体燃料供給手段15による液体燃料の供給タイミングを制御する他、アンモニア供給手段13によるアンモニアの供給タイミングと、水素供給手段17による水素の供給タイミングを制御する。なお、供給タイミングには、供給開始タイミングと供給期間が含まれる。
【0051】
図2及び図3は噴射タイミングチャートである。図2には、給気経路(給気管)14aへのアンモニアの供給(噴射)タイミング及びその可変域と、給気経路14aへの水素の供給(噴射)タイミング及びその可変域と、シリンダ11内への液体燃料の供給(直噴)タイミング及びその可変域を示している。図2の横軸はエンジンサイクルとクランク角度である。また、図3には各供給タイミングの可変域を示している。図3の横軸はエンジンサイクルである。
経路14aへのアンモニア及び水素の各供給は、アンモニア混焼エンジンにおける給気(吸気)行程において行われる。アンモニア及び水素の各供給タイミングは、クランク角度-360度(上死点)から-180度(下死点)の範囲で可変である。なお、図2では、アンモニアの供給中に水素の供給を開始し、アンモニアの供給終了後に水素の供給を終了しているが、図3に示すように、アンモニアの供給タイミングと水素の供給タイミングの順序は問わない。
燃焼室12への液体燃料のパイロット噴射は、アンモニア混焼エンジンにおける給気(吸気)行程において上死点より前のタイミングで行われる。上述のように、アンモニア混焼エンジンにおいてさらに水素を燃焼室12に供給して混焼させることにより、液体燃料の供給タイミングの可変域を拡大できる。図3の液体燃料噴射タイミングにおける実線矢印は水素を供給しない場合の可変域を示し、点線矢印は水素を供給した場合の可変域を示している。水素を供給することにより、液体燃料の供給タイミングをクランク角度ATDC(上死点後)-70度から-10度の範囲で可変とすることができる。
【0052】
[混合燃焼試験]
以下、アンモニア混焼エンジンを用いた混合燃焼試験について説明する。試験に使用したアンモニア混焼エンジンの主要諸元を下表1に示す。
【表1】
【0053】
試験においては、液化アンモニアボンベ3において約40℃に保温されて液化された状態にあるアンモニアを、アンモニア供給手段13のインジェクタに供給した。アンモニアの凝縮を防ぐため、液化アンモニアボンベ3とアンモニア供給手段13とを結ぶ供給配管は264K以上の温度に維持した。また、インジェクタの開弁時間を調整することで、アンモニアの供給量を調整した。
液体燃料には軽油を使用した。軽油は、液体燃料加圧手段16により燃料蓄圧器内に100MPaに加圧して供給し、液体燃料供給手段15の電子式燃料噴射弁により所望のクランク角度において燃焼室12内に噴射した。
【0054】
試験中は、アンモニア混焼エンジンに接続された電気式負荷装置によって設定した回転速度に保たれるようにトルクを自動で制御した。
また、排気ガス成分について、トータルハイドロカーボン(THC)はFID式の分析器(600HFID CAI)で測定した。一酸化窒素(CO)、二酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、アンモニア(NH)及び水(HO)等のTHC以外のガスはFTIR式排気ガス分析器(FAST2200 岩田電業)を用いて測定した。ガス分析器は、高温の複数成分を同時にサンプリングして測定した。サンプリングラインとサンプリングフィルタは191℃に加熱し、水を含む排気ガス中のアンモニアを正確に検出することができた。
【0055】
試験において、アンモニアのみによる軽油低減と、アンモニアと水素とによる軽油低減の違いを、同混焼率で比較した。
比較例A及び比較例Bは、アンモニアのみを軽油に混焼するものであり、比較例Aの混焼率は68%、比較例Bの混焼率は79%とした。
本実施形態に係る実施例C及び実施例Dは、アンモニアと水素を軽油に混焼するものであり、実施例Cの混焼率は67%(アンモニア43%+水素24%)、実施例Dの混焼率は80%(アンモニア56%+水素24%)とした。
比較例A、B及び実施例C、Dを燃料として用いアンモニア混焼エンジンを運転したときの、低位発熱量画分(LHV fraction)、正味熱効率(Brake thermal efficiency)、最高筒内燃焼圧力の変動値(COV Pmax)、並びに二酸化炭素(CO)、未燃アンモニア(NH)、亜酸化窒素(NO)、温室効果ガス(GHG)、一酸化炭素(CO)、ハイドロカーボン(HC)、及び窒素酸化物(NOx)の排出量について試験を行った。
【0056】
試験において、液体燃料である軽油を液体燃料供給手段15から噴射させた。軽油の噴射は、給気(吸気)行程においてアンモニアと水素を燃焼室12に供給した後、圧縮行程中、クランク角度ATDC(上死点後)-60度から-10度の範囲にてピストンが上死点(TDC)へ到達する前にパイロット噴射として行った。すなわち、燃焼室12への軽油の供給タイミングを、アンモニア及び空気の混合気と水素の供給タイミングよりも遅く設定した。
【0057】
試験中のエンジン回転数は一定に保った。また、軽油とアンモニアと水素の総供給量に対するアンモニアと水素の供給量の比率を燃料比率設定手段21aで設定し維持した。
軽油のパイロット噴射のタイミングは、エンジンの上死点後(ATDC)においてクランク角度で5°の間隔で-10度から-60度まで変化させた(マイナスの角度は上死点前であることを意味する)。
試験中において、アンモニア混焼エンジンにおける燃焼は安定しており、平均有効圧力の変動は所定値未満であった。
【0058】
図4-1及び図4-2は試験結果を示す図であり、軽油のパイロット噴射のタイミングの変化に対する低位発熱量や各種ガスの排出量等を示す。図4-1(a)は低位発熱量画分[%]、図4-1(b)は二酸化炭素[%]、図4-1(c)は最高筒内燃焼圧力の変動値[%]、図4-1(d)は未燃アンモニア[ppm]、図4-1(e)は亜酸化窒素[ppm]、図4-1(f)は温室効果ガス[g/kWh]、図4-2(a)は一酸化炭素[ppm]、図4-2(b)はハイドロカーボン[ppm]、図4-2(c)は窒素酸化物[ppm]、図4-2(d)は正味熱効率[%]である。なお、図4-2(c)の窒素酸化物の排出濃度は、一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO)の合計を示している。
図4-1及び図4-2には、比較例Aの結果を「*」、比較例Bの結果を「●」、実施例Cの結果を「▲」、実施例Dの結果を「■」でプロットしている。横軸は、軽油の供給タイミング(SOI:Start of Injection)[CAD(Crank Angle Degree)])である。
【0059】
図4-1(d)、(e)に示すように、比較例B(アンモニアの混焼率79%)の場合は、-30度までしか進角できず未燃アンモニア及び亜酸化窒素の濃度が比較的高いままであった。これにより、アンモニアのみで混焼率を約80%以上とすると、進角によるアンモニア及び亜酸化窒素の低減効果を得る前に進角できなくなることが分かる。
また、比較例A(アンモニアの混焼率68%)と実施例C(アンモニア及び水素の混焼率67%)、比較例Bと実施例D(アンモニア及び水素の混焼率80%)というように、アンモニアのみを混焼した場合とアンモニア及び水素を混焼した場合とを同等の混焼率で比較すると、水素を供給した場合の方が、図4-1(c)に示すように、進角による平均最高筒内燃焼圧力(Pmax)の変動率の増加が抑制されており、進角できる範囲が広くなった。これにより実施例C及び実施例Dではクランク角度をさらに進角した条件での運転が可能となり、未燃アンモニアや亜酸化窒素が低減された(図4-1(d)、(e)中の円で囲んだ箇所参照)。
【0060】
一酸化炭素及びハイドロカーボンについては、図4-2(a)、(b)に示すように、アンモニアと水素を混焼率80%で混焼した実施例Dの場合、アンモニアのみを混焼率79%で混焼した比較例Bの場合よりも排出の増加が少なかった。
【0061】
試験結果により、液体燃料の供給タイミングとしての進角をATDC(上死点後)-25度から-70度の範囲に設定することが好適である。これにより、燃焼を安定に維持しつつ、排気ガスの性状をより向上させることができる。
また、アンモニアと水素の供給比率は、アンモニア:水素=2:1程度であることが好ましい。さらに、アンモニアと水素を2:1程度で供給し、液体燃料を含めた総供給量に対する混焼率が60~70%の場合は、ATDC(上死点後)-40度から-60度の範囲に設定することが更に好ましく、アンモニアと水素を2:1程度で混焼させ混焼率が71~80%の場合は、ATDC(上死点後)-30度から-40度の範囲に設定することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のエンジンにおけるアンモニア混焼方法を用いたアンモニア混焼エンジンを船舶に搭載することで、アンモニアの混焼率を増大させ、排気ガスの性状を向上させた船舶を実現することができる。
また、本発明は、船舶の主機や補機としての発電機等の動力を必要とする装置のみならず、産業界全体のアンモニア混焼エンジンに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
12 燃焼室
13 アンモニア供給手段
14 給気手段
14a 給気経路
15 液体燃料供給手段
17 水素供給手段
18 気化手段
19a 排気経路
20 SCR(選択的触媒還元)システム
21a 燃料比率設定手段
22b 供給タイミング制御手段
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】