(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048783
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】除振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240402BHJP
G05D 3/12 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
F16F15/02 A
F16F15/02 M
G05D3/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154872
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000224994
【氏名又は名称】特許機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 享博
【テーマコード(参考)】
3J048
5H303
【Fターム(参考)】
3J048AA02
3J048AB08
3J048AB11
3J048AD03
3J048BE02
3J048DA01
3J048EA13
5H303AA01
5H303BB02
5H303BB07
5H303CC03
5H303DD01
5H303JJ04
5H303KK27
5H303KK35
5H303LL03
(57)【要約】
【課題】アクティブ方式の除振装置に配置される移動体(ステージ等)の移動により除振装置に生じる振動を抑制する。
【解決手段】除振装置(3)は、ステージ(21)が配置される除振台(30)と、除振台(30)を振動抑制可能に支持する支持装置(40,50)と、支持装置(40,50)の支持特性を制御する除振台制御装置(70)とを備える。除振台制御装置(70)は、ステージ(21)の移動または停止の状態を示す状態信号であるインポジション信号を受信したときに、インポジション信号に基づいて支持装置(40,50)の支持特性を第1特性と第2特性との一方から他方に移行させる。第1特性は、外部から除振台(30)に伝達される振動を第2特性よりも低減する除振特性である。第2特性は、ステージ(21)の移動に起因して発生する除振台(30)の振動を第1特性よりも抑制する制振特性である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動装置が配置される除振台と、
前記除振台を振動抑制可能に支持する支持装置と、
前記支持装置の支持特性を制御する制御装置とを備え、
前記移動装置には、駆動信号に応じて移動または停止される移動体が設けられ、
前記制御装置は、
前記移動体の移動または停止の状態を示す状態信号を受信したときに、前記状態信号に基づいて前記支持特性を第1特性と第2特性との一方から他方に移行させ、
前記第1特性は、外部から前記除振台に伝達される振動を前記第2特性よりも低減する除振特性であり、
前記第2特性は、前記移動体の移動に起因して発生する前記除振台の振動を前記第1特性よりも抑制する制振特性である、除振装置。
【請求項2】
前記状態信号は、インポジション信号である、請求項1に記載の除振装置。
【請求項3】
前記除振台の加速度を検出するセンサをさらに備え、
前記制御装置は、前記状態信号に加えて前記センサの検出結果に基づいて、前記第2特性のばね特性を調整する、請求項1に記載の除振装置。
【請求項4】
前記支持装置は、
空気ばねと、
前記空気ばねの特性を調整する調整機構とを有し、
前記制御装置は、前記調整機構を制御することによって前記支持特性を切り替える、請求項1~3のいずれかに記載の除振装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記支持特性が前記第1特性である状態で、前記状態信号が前記移動体の移動を示す移動信号から前記移動体の停止を示す停止信号へと変化した場合に、前記停止信号に基づいて前記支持特性を前記第1特性から前記第2特性へと移行させる、請求項4に記載の除振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、特性の制御が可能な除振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平11-264444号公報(特許文献1)には、いわゆるアクティブ方式の除振装置が開示されている。この除振装置は、水平方向に動作するステージが配置された除振台と、除振台を設置床に支持する空気ばねと、空気ばねの給気および排気を行なうサーボバルブと、除振台の変位を検出する変位センサと、変位センサの出力に基づいてサーボバルブを制御する制御装置とを備える。特許文献1のアクティブ除振装置は、変位センサの計測値に基づいて作成された補正信号を圧力フィードバック系にフィードフォワード入力することで、除振台の上のステージが移動することによって発生する除振台の傾きを矯正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のアクティブ除振装置は、空気ばねを用いた除振制御が行われ、ステージ移動による重心変化によって傾きが生じる場合には、変位センサによって検出された変位に対応させた補正信号を発生させて傾きを矯正するが、このアクティブ除振装置は、変位センサによって検出された変位に基づいて除振台の傾きを矯正するため、高速で移動したステージにより振動が生じた場合には、変位から加速度などを計算する必要があるため、タイミングやノイズ等の理由により制振制御をするのは難しい。
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、アクティブ方式の除振装置に配置される移動体(ステージ等)の移動により除振装置に生じる振動を抑制できる除振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示による除振装置は、移動装置が配置される除振台と、除振台を振動抑制可能に支持する支持装置と、支持装置の支持特性を制御する制御装置とを備え、移動装置は、駆動信号に応じて移動または停止される移動体が設けられる。制御装置は、移動体の移動または停止の状態を示す状態信号を受信したときに、状態信号に基づいて支持特性を第1特性と第2特性との一方から他方に移行させる。第1特性は、外部から除振台に伝達される振動を第2特性よりも低減する除振特性であり、第2特性は、移動体の移動に起因して発生する除振台の振動を第1特性よりも抑制する制振特性である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、アクティブ方式の除振装置の特性を、除振装置に配置される移動体(ステージ等)の状態に応じて変更することができ、トレードオフの関係にある除振性能と制振性能との両立が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】除振システムの全体構成の一例を概略的に示す図である。
【
図2】支持装置の制御モードおよびステージのインポジション信号の変化態様の一例を模式的に示す図(その1)である。
【
図3】除振台制御装置の処理手順の一例を示すフローチャート(その1)である。
【
図4】支持装置の制御モードおよびステージのインポジション信号の変化態様の一例を模式的に示す図(その2)である。
【
図5】除振台制御装置の処理手順の一例を示すフローチャート(その2)である。
【
図6】支持装置の制御モードおよびステージのインポジション信号の変化態様の一例を模式的に示す図(その3)である。
【
図7】除振台制御装置の処理手順の一例を示すフローチャート(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0010】
[システムの全体構成]
図1は、本実施の形態による除振装置3を備える除振システム1の全体構成の一例を概略的に示す図である。除振システム1は、移動装置2と除振装置3とを備え、除振装置3は振動に対してアクティブ方式の振動制御を行う制御部を含む。
【0011】
移動装置2は、ステージ21と、モータ22と、ステージ位置センサ23と、ステージ制御装置24とを備える。除振装置3は、除振台30と、支持装置40,50と、除振台制御装置70とを備える。移動装置2は、例えば、半導体製造装置のような、ステージやテーブルなどの精密加工に用いる部材を移動させる装置で、移動停止時に振動を生じるような高速で移動する部位を含み、微振動が稼働に影響を与える精密機器である。
【0012】
なお、
図1には、ステージ21、除振台30、支持装置40,50を真横から見た状態が示されている。支持装置40,50は、ステージ21が配置された除振台30を鉛直方向に支持している。
【0013】
ステージ21は、除振台30の上に配置される。ステージ21は、モータ22によって駆動され、除振台30の上で水平方向に移動可能に構成される。ステージ位置センサ23は、ステージ21の水平方向の変位を検出する。
【0014】
ステージ21の変位は、ステージ制御装置24によって制御される。ステージ制御装置24は、ステージ目標値生成器25と、ステージ制御器26と、アンプ27とを備える。
【0015】
ステージ目標値生成器25は、ステージ21を駆動するための目標値(以下「ステージ目標値」ともいう)を生成する。ステージ目標値は、例えば、ステージ21の目標加速度であってもよい。
【0016】
ステージ制御器26は、ステージ目標値と、ステージ位置センサ23の検出結果とに基づいて、ステージ21を移動または停止するための駆動信号を生成する。ステージ制御器26は、移動体であるステージ26の移動または停止の状態を示す状態信号として、インポジション信号を生成する。インポジション信号は、ステージ21が目標位置に対して設定された所定の範囲内となったときに、ON信号が生成され、ステージ21が目標位置に対して設定された所定の範囲から外れた場合にはOFF信号が生成される。インポジション信号のON信号は、移動体の停止についての信号(停止信号)の一例である。また、インポジション信号のOFF信号は、移動体が停止位置に対して許容できる範囲外に位置していることを示す信号であり、移動体が移動していることを示す信号(移動信号)の一例である。インポジション信号は、パルス列の積算値とは異なって、モータドライバからの位置決め完了信号であり、モータを駆動させる信号とは異なる信号である。
【0017】
アンプ27は、ステージ制御器26が生成した駆動信号を増幅してモータ22に出力する。モータ22は、駆動信号に応じて稼働および停止される。具体的には、ステージ21は、駆動信号が目標加速度などの駆動を表す信号により稼働(移動)状態を変え、等速度で移動する場合には目標加速度をゼロとした駆動信号により移動する。なお、加速度がゼロの場合では、加速度でステージの移動状態を評価すると、停止しているのと同じとなってしまう場合がある。本実施の形態の「ステージ21」は、本開示の「移動体」の一例である。
【0018】
除振台30には、上述のようにステージ21が配置される。
支持装置40,50は、床(グラウンド)60に設置され、除振台30を振動抑制可能に支持する。支持装置40,50によって、床60から除振台30に伝達される振動が低減されるとともに、ステージ21の変位に起因して発生する除振台30の振動が減衰される。
【0019】
なお、
図1には支持装置40,50によって除振台30が床60に支持される例が示されているが、除振台30が支持される部材は、必ずしも床60であることに限定されず、除振台30を支持するのに適したものであればよい。また、
図1には2つの支持装置40,50が例示されているが、支持装置の数は2つであることに限定されず、1つであっても、3つ以上であってもよい。
【0020】
支持装置40、50は、空気ばね42と、サーボバルブ43とを備える。なお、バネ要素41、51は予圧用の機械ばねを含めたばね性を表現したものであり、粘弾性要素46、56は、空気ばね42を含めた減衰性を示す部材についての減衰性を表現したものである。
【0021】
サーボバルブ43,53は、除振台制御装置70によって開閉されることによって、それぞれ空気ばね42,52に対して動作流体である空気の給排気を行なう。これにより、空気ばね42,52内の圧力が調整される。
【0022】
除振装置3は、さらに、変位センサ44,54、および加速度センサ45,55,65を備える。変位センサ44は、除振台30における空気ばね42近傍の変位を検出する。加速度センサ45は、除振台30における空気ばね42近傍の加速度を検出する。変位センサ54は、除振台30における空気ばね52近傍の変位を検出する。加速度センサ55は、除振台30における空気ばね52近傍の加速度を検出する。加速度センサ45は、床60における空気ばね42,52近傍の加速度を検出する。なお、加速度センサ45の配置位置は、空気ばね上を剛体とみなしたときに6自由度について加速度を検出できれば特に限定されず、必ずしも空気ばねの近傍でなくてもよい。
【0023】
除振台制御装置70は、サーボバルブ43,53の動作を制御して空気ばね42,52に対する給排気を制御することによって、支持装置40,50の支持特性を制御する。本実施の形態による「サーボバルブ43,53」および「除振台制御装置70」は、本開示の「調整機構」および「制御装置」の一例である。
【0024】
除振台制御装置70は、ポートP1~P9と、アンプA1~A7と、フィードバック制御器71と、GFF(グラウンドフィードフォワード)制御器72と、SFF(ステージフィードフォワード)制御器73と、演算器74と、推力分配器75とを備える。
【0025】
ポートP1には、ステージ目標値生成器25が生成した上述のステージ目標値が入力される。ポートP2には、ステージ制御器26が生成した上述のインポジション信号が入力される。ポートP3,P7には、変位センサ44,54の検出結果がそれぞれ入力される。ポートP4,P5には、加速度センサ45,55の検出結果がそれぞれ入力される。ポートP6には、加速度センサ65の検出結果が入力される。
【0026】
アンプA1,A2は、ポートP3,P7に入力された除振台30の変位を増幅してフィードバック制御器71に出力する。アンプA3,A4は、ポートP4,P5に入力された除振台30の加速度を増幅してフィードバック制御器71に出力する。
【0027】
アンプA5は、ポートP6に入力された床60の加速度を増幅してGFF制御器72に出力する。
【0028】
推力分配器75は、演算器74から入力される制御信号を、空気ばね42用の制御信号と空気ばね52用の制御信号とに分配する。アンプA6,A7は、推力分配器75から入力される制御信号を増幅し、増幅した制御信号をポートP8,P9を介してサーボバルブ43,53にそれぞれ出力する。サーボバルブ43,53は、アンプA6,A7から入力される制御信号に応じてそれぞれ開閉される。これにより、空気ばね42,52内の圧力が各制御信号に応じた値に調整され、支持装置40,50による除振台30の支持特性が調整される。
【0029】
フィードバック制御器71は、除振台30の状態に基づいて除振台30の支持特性をフィードバック制御する。具体的には、フィードバック制御器71は、アンプA1~A4から入力される除振台30の変位および加速度の検出信号にフィードバックゲインを用いたフィードバック処理を施してフィードバック制御信号を生成し、生成したフィードバック制御信号を演算器74に出力する。これにより、制御対象である除振台30の状態に応じた制振力を除振台30に付与させるというフィードバックループ(閉ループ)が形成される。
【0030】
GFF制御器72は、床60の状態に基づいて除振台30の支持特性をフィードフォワード制御する。具体的には、GFF制御器72は、アンプA5から入力される床60の加速度の検出信号にGFFゲインを用いたフィードフォワード処理を施してGFF制御信号を生成し、生成したGFF制御信号を演算器74に出力する。これにより、振動の発生源となり得る床60の状態に応じた制振力を除振台30に作用させるというフィードフォワードループ(開ループ)が形成される。
【0031】
SFF制御器73は、ステージ21の目標値に基づいて除振台30の支持特性をフィードフォワード制御する。具体的には、SFF制御器73は、ポートP1に入力されるステージ目標値にSFFゲインを用いたフィードフォワード処理を施してSFF制御信号を生成し、生成したSFF制御信号を演算器74に出力する。これにより、振動の発生源となるステージ21の目標値に応じた制振力を除振台30に作用させるというフィードフォワードループ(開ループ)が形成される。
【0032】
演算器74は、フィードバック制御器71から入力されるフィードバック制御信号、GFF制御器72から入力されるGFF制御信号、SFF制御器73から入力されるSFF制御信号に対して所定の演算処理を施して制御信号を生成し、生成した制御信号を推力分配器75に出力する。これにより、フィードバック制御器71、GFF制御器72およびSFF制御器73による処理結果が除振台30の支持特性の調整に反映される。
【0033】
[支持装置40,50の支持特性の切替]
上述のような構成を有する除振装置3には、主に2つの性能が求められる。1つは、床60から除振台30に伝達される振動を低減する除振性能である。もう1つは、ステージ21の変位に起因して発生する除振台30の振動を減衰する制振性能である。除振性能と制振性能とは、トレードオフの関係にある。具体的には、空気ばね42,52を硬くすれば、制振性能は良くなるが、除振性能は劣化し得る。反対に、空気ばね42,52を柔らかくすれば、除振性能は良くなるが、制振性能は劣化し得る。したがって、本実施形態のアクティブ方式の除振装置3においては、制振が優位な状態と除振が優位な状態との移行の1例として、除振性能を低下させずに制振性能を向上させるため、ステージ21の状態に応じて支持装置40,50の特性を瞬時にリアルタイムに切り替えることが望ましい。なお、除振装置3についての、制振が優位な状態と除振が優位な状態との移行については、空気ばねを用いた場合の空気圧の調節に限られることなく、制御出力の飽和を緩和するための制御ゲインを低下させることであってもよく、制御ゲインの調節も採用することができる。制振が優位な状態と除振が優位な状態との一方から他方への移行については、状態信号(インポジション信号)が用いられるが、停止信号(ON信号)と移動信号(OFF信号)とのいずれか一方または両方を用いてもよく、タイマ設定による一定時間経過後に移行するようにしてもよい。ここで「優位な状態」とは、制振効果と除振効果とのうちのいずれかの効果が大きい状態をいう。
【0034】
この点に鑑み、本実施の形態による除振装置3には、ステージ制御器26が生成したインポジション信号に基づいて、支持装置40,50による除振台30の支持特性を切り替える機能が備えられる。具体的には、本実施の形態による除振装置3は、制御モードとして除振モードと制振モードとを有しており、除振モードと制振モードとの間で制御モードを切替可能に構成されている。除振モードは、制振性能よりも除振性能を優先するモードである。制振モードは、除振性能よりも制振性能を優先するモードである。言い換えれば、除振台30の支持特性は、除振モード中には制振モード中よりも除振性能が良好な特性となり、制振モード中は除振モード中よりも制振性能が良好な特性となる。本実施の形態による「除振モード中の除振台30の支持特性」および「制振モード中の除振台30の支持特性」は、それぞれ本開示の「第1特性」および「第2特性」の一例である。
【0035】
本実施の形態による除振台制御装置70は、ステージ21のインポジション信号に基づいて、支持装置40,50の制御モードを切り替える。具体的には、本実施の形態による除振台制御装置70においては、
図1に示すように、ステージ制御器26が生成したインポジション信号が、ポートP2を介してフィードバック制御器71およびGFF制御器72に入力される。フィードバック制御器71は、インポジション信号に基づいてたとえばフィードバックゲインの大きさを切り替えることによって、除振モードと制振モードとの切り替えを行なう。また、GFF制御器72は、インポジション信号に基づいてたとえばGFFゲインの大きさを切り替えることによって、除振モードと制振モードとの切り替えを行なう。
【0036】
これにより、支持装置40,50の支持特性を、ステージ21の状態に応じて瞬時にリアルタイムに切り替えることができる。
【0037】
なお、フィードバックゲインの切り替えは、サーボバルブ43,53(制御用アクチュエータ)の出力が飽和するような系に効果的である。GFFゲインの切り替えは、ステージ21の移動により床60あるいは除振台30側が動いてしまうような系に効果的である。ただし、フィードバックゲインの切り替え、およびGFFゲインの切り替えは、あくまで支持装置40,50の支持特性を切り替える手法の一例であって、これに限定されるものではない。
【0038】
図2は、本実施の形態による支持装置40,50の制御モードおよびステージ21のインポジション信号の変化態様の一例を模式的に示す図である。
【0039】
インポジション信号は、上述したように、ON信号とOFF信号とが移動装置2のステージ制御器26によって生成される。ON信号は、ステージ21が停止位置の所定範囲内に位置したことを示す「停止信号」として用いられる。OFF信号は、ステージ21が停止位置の所定範囲外に位置していること、つまり移動状態であることを示す「移動信号」として用いられる。
【0040】
除振台制御装置70は、
図2に示すように、インポジション信号がON信号である場合には除振装置3の制御モードを「除振モード」に設定し、インポジション信号がOFF信号である場合には除振装置3の制御モードを「制振モード」に設定する。このようにインポジション信号の状態に応じて除振装置3の制御モードを切り替えることによって、支持装置40,50の支持特性をステージ21の状態に応じて瞬時にリアルタイムに切り替えることができる。
【0041】
図2には、ステージ21の加速度信号および変位信号の変化態様が合せて示されている。ステージ21の加速度信号あるいは変位信号に基づいてステージ21の状態を判定することも可能ではあるが、ステージ21の状態を瞬時かつリアルタイムに判定することは難しい。
【0042】
たとえば、ステージ21の加速度信号は、ステージ21の停止中に「0」となるが、ステージ21の稼働中であって「0」となる時間帯が存在する。そのため、ステージ21の加速度信号(目標値あるいは検出値)に基づいてステージ21が移動状態なのか停止状態なのかを判定するには、速度情報などの他の情報の参照が必要となるため、瞬時の判断は難しい。
【0043】
また、ステージ21の変位信号は、ステージ21の停止中には一定となりステージ21の稼働中には変化するが、信号の立ち上がりおよび立ち下がりが緩やかである。そのため、ステージ21の変位信号(目標値あるいは検出値)に基づいてステージ21の状態を瞬時かつリアルタイムに判定することも難しい。
【0044】
これに対し、インポジション信号は、ステージ21の停止中にはON信号が送信され、ステージ21の移動中にはOFF信号が送信され、ON信号とOFF信号との間の切替も瞬時に行なわれる。そのため、インポジション信号に基づいてステージ21の状態を容易に判定することができる。
【0045】
なお、本実施の形態による除振装置3には、ステージ21の移動時の制振性能を向上させる手法として、SFF制御器73を備えている。しかしながら、SFF制御器73は、ステージ21の目標値(目標加速度など)に応じた制振力を除振台30に作用させるため、SFF制御器73だけで十分な制振性能を確保することは難しいことが想定される。このような場合に、本実施の形態のように、インポジション信号に基づいて制振モードと除振モードとの間の切替を行なうことで、より制振性能を向上させることが期待できる。特に、ステージ21の加振力やジャークに対してサーボバルブ43,53(制御用アクチュエータ)の出力あるいは応答スピードが十分でないときに大きな効果を得ることが期待できる。
【0046】
図3は、除振台制御装置70が支持装置40,50の制御モードを切り替える際に行なう処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、予め定められた条件が成立する毎(たとえば数msec毎)に繰り返し実行される。
【0047】
まず、除振台制御装置70は、ステージ制御器26が生成したインポジション信号を取得する(ステップS10)。
【0048】
次いで、除振台制御装置70は、ステップS10で取得したインポジション信号がOFF信号であるか否かを判定する(ステップS12)。
【0049】
インポジション信号がOFF信号である場合(ステップS12においてYES)、ステージ21が稼働中でありステージ21の変位に起因して除振台30の振動が発生し易い状況であるため、除振台制御装置70は、制御モードを制振モードに設定する(ステップS14)。これにより、たとえば空気ばね42,52の硬さが硬めに設定され、支持装置40,50の制振性能が向上する。
【0050】
一方、インポジション信号がOFF信号でない場合(ステップS12においてNO)、すなわちインポジション信号がON信号である場合、ステージ21が停止中であり、ステージ21の変位に起因して除振台30の振動が発生し難い状況であるため、除振台制御装置70は、制御モードを除振モードに設定する(ステップS18)。これにより、たとえば空気ばね42,52の硬さが柔らかめに設定され、支持装置40,50の除振性能が向上する。
【0051】
以上のように、本実施の形態による除振台制御装置70は、インポジション信号に基づいて支持装置40,50の制御モードを切り替える。これにより、支持装置40,50の支持特性を、ステージ21の状態に応じて瞬時にリアルタイムに切り替えることができる。
【0052】
<変形例1>
上述の実施の形態においては、インポジション信号に基づいて支持装置40,50の制御モードを切り替える例について説明した。
【0053】
これに対し、本変形例1においては、インポジション信号に加えて、加速度センサ45,55による除振台30の加速度の検出結果に基づいて、支持装置40,50の制御モードを切り替える。
【0054】
図4は、本変形例1による支持装置40,50の制御モードおよびステージ21のインポジション信号の変化態様の一例を模式的に示す図である。
【0055】
本変形例1による除振台制御装置70は、支持装置40,50の制御モードが除振モードである状態でインポジション信号がON信号からOFF信号に変化した場合に、支持装置40,50の制御モードを除振モードから制振モードに切り替える。
【0056】
本変形例1による除振台制御装置70は、支持装置40,50の制御モードが制振モードである状態でインポジション信号がOFF信号からON信号に変化し、かつインポジション信号がOFF信号からON信号に変化した時点から所定の待ち時間T1以上経過し、かつ加速度センサ45,55による除振台30の加速度の検出結果が閾値未満である場合に、支持装置40,50の制御モードを制振モードから除振モードに切り替える。
【0057】
すなわち、本変形例1による除振台制御装置70は、制振モード中にインポジション信号がOFF信号からON信号に変化してステージ21が完全に停止しても、待ち時間T1が経過するまでは制振モードを維持し、待ち時間T1が経過した後の除振台30の振動が小さいことを条件として、除振モードに切り替える。
【0058】
なお、
図4には、待ち時間T1が経過した時点で、加速度センサ45,55の検出結果が閾値未満である(除振台30の振動が小さい)ため、制振モードから除振モードに切り替えられている例が示されている。
【0059】
図5は、本変形例1による除振台制御装置70が支持装置40,50の制御モードを切り替える際に行なう処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートも、予め定められた条件が成立する毎(たとえば数msec毎)に繰り返し実行される。
【0060】
まず、除振台制御装置70は、ステージ制御器26が生成したインポジション信号を取得する(ステップS10)。なお、取得されたインポジション信号の履歴は、除振台制御装置70内のメモリ(図示せず)に記憶されている。
【0061】
次いで、除振台制御装置70は、現在の制御モードが除振モードであるか否かを判定する(ステップS20)。
【0062】
現在の制御モードが除振モードである場合(ステップS20においてYES)、除振台制御装置70は、今回の演算サイクルでインポジション信号がON信号からOFF信号に変化したか否かを判定する(ステップS22)。すなわち、除振台制御装置70は、前回の演算サイクルのステップS10で取得されたインポジション信号がON信号であり、かつ、今回の演算サイクルのステップS10で取得されたインポジション信号がOFF信号であるか否かを判定する。
【0063】
インポジション信号がON信号からOFF信号に変化していない場合(ステップS22においてNO)、除振台制御装置70は、以降の処理をスキップしてリターンへと処理を移す。
【0064】
インポジション信号がON信号からOFF信号に変化した場合(ステップS22においてYES)、除振台制御装置70は、支持装置40,50の制御モードを除振モードから制振モードに切り替える(ステップS24)。その後、除振台制御装置70は、リターンへと処理を移す。
【0065】
一方、現在の制御モードが除振モードでない場合(ステップS20においてNO)、すなわち、現在の制御モードが制振モードである場合、除振台制御装置70は、今回の演算サイクルでインポジション信号がOFF信号からON信号に変化したか否かを判定する(ステップS32)。
【0066】
インポジション信号がOFF信号からON信号に変化していない場合(ステップS32においてNO)、除振台制御装置70は、以降の処理をスキップしてリターンへと処理を移す。
【0067】
インポジション信号がOFF信号からON信号に変化した場合(ステップS32においてYES)、除振台制御装置70は、経過時間のカウントを開始し、インポジション信号がOFF信号からON信号に変化してから所定の待ち時間T1が経過したか否かを判定する(ステップS34)。待ち時間T1が経過していない場合(ステップS34においてNO)、除振台制御装置70は、処理をステップS34に戻し、待ち時間T1が経過するまで待つ。
【0068】
待ち時間T1が経過した場合(ステップS34においてYES)、除振台制御装置70は、加速度センサ45,55によって検出された除振台30の加速度が閾値未満であるか否かを判定する(ステップS36)。除振台30の加速度が閾値未満でない場合(ステップS36においてNO)、除振台制御装置70は、処理をステップS36に戻し、除振台30の加速度が閾値未満になるまで待つ。
【0069】
除振台30の加速度が閾値未満である場合(ステップS36においてYES)、除振台制御装置70は、支持装置40,50の制御モードを制振モードから除振モードに切り替える(ステップS38)。
【0070】
以上のように、インポジション信号と除振台30の加速度の検出結果とに基づいて、支持装置40,50の制御モードを切り替えるようにしてもよい。
【0071】
<変形例2>
インポジション信号と除振台30の加速度の検出結果とに基づいて支持装置40,50の制御モードを切り替える手法は、上述の変形例1に示す手法に限定されるものではなく、以下のように変形してもよい。
【0072】
図6は、本変形例2による支持装置40,50の制御モードおよびステージ21のインポジション信号の変化態様の一例を模式的に示す図である。
【0073】
本変形例2による除振台制御装置70は、支持装置40,50の制御モードが除振モードである状態でインポジション信号がOFF信号からON信号に変化した場合に、支持装置40,50の制御モードを除振モードから制振モードに切り替える。
【0074】
本変形例2による除振台制御装置70は、支持装置40,50の制御モードが制振モードである状態が所定の待ち時間T2以上継続し、かつ加速度センサ45,55による除振台30の加速度の検出結果が閾値未満である場合に、制御モードを制振モードから除振モードに切り替える。
【0075】
なお、
図6には、制振モードである状態が待ち時間T2継続した時点で、加速度センサ45,55の検出結果が閾値未満であるため、制振モードから除振モードに切り替えられている例が示されている。
【0076】
図7は、本変形例2による除振台制御装置70が支持装置40,50の制御モードを切り替える際に行なう処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7のフローチャートは、上述の
図5のフローチャートのステップS22,S34をステップS22A,S34Aに変更し、さらにステップS32を削除したものである。
図7のその他のステップは、上述の
図5のステップと同じであるため、詳細な説明はここでは繰り返さない。
【0077】
現在の制御モードが除振モードである場合(ステップS20においてYES)、除振台制御装置70は、今回の演算サイクルでインポジション信号がOFF信号からON信号に変化したか否かを判定する(ステップS22A)。
【0078】
インポジション信号が稼働指令状態から停止指令状態に変化していない場合(ステップS22AにおいてNO)、除振台制御装置70は、以降の処理をスキップしてリターンへと処理を移す。
【0079】
インポジション信号がOFF信号からON信号に変化した場合(ステップS22AにおいてYES)、除振台制御装置70は、支持装置40,50の制御モードを除振モードから制振モードに切り替える(ステップS24)。その後、除振台制御装置70は、リターンへと処理を移す。
【0080】
一方、現在の制御モードが除振モードでない場合(ステップS20においてNO)、すなわち、現在の制御モードが制振モードである場合、除振台制御装置70は、制御モードが制振モードである状態が所定の待ち時間T2継続したか否かを判定する(ステップS34A)。制振モードである状態が待ち時間T2継続していない場合(ステップS34AにおいてNO)、除振台制御装置70は、処理をステップS34Aに戻し、制振モードである状態が待ち時間T2継続するまで待つ。
【0081】
制振モードである状態が待ち時間T2継続した場合(ステップS34AにおいてYES)、除振台制御装置70は、加速度センサ45,55によって検出された除振台30の加速度が閾値未満であるか否かを判定する(ステップS36)。
【0082】
除振台30の加速度が閾値未満である場合(ステップS36においてYES)、除振台制御装置70は、支持装置40,50の制御モードを制振モードから除振モードに切り替える(ステップS38)。
【0083】
以上のように、インポジション信号と除振台30の加速度の検出結果とに基づいて、支持装置40,50の制御モードを切り替えるようにしてもよい。
【0084】
<変形例3>
上述の実施の形態においては支持装置40,50が空気ばね42,52を備える例について説明したが、支持装置40,50は、空気ばね42,52に代えて、空気以外の流体(たとえばオイル等)を動作流体とする流体ばねを備えるものであってもよい。
【0085】
また、支持装置40,50は、空気ばねあるいは流体ばねだけではなく、空気ばねとリニアアクチュエータとによっての支持特性の調整が可能なように構成されてもよい。この場合、たとえばリニアアクチュエータの制御ゲインをインポジション信号に基づいて切り替えるようにすればよく、支持特性を調整する支持体に対して、インポジション信号に基づいて切り替えを行って、除振モードと制振モードとの切り替えを行うことができる。
【0086】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0087】
1 除振システム、 2 移動装置、 3 除振装置、 40,50 支持装置、 21 ステージ、 22 モータ、 23 ステージ位置センサ、 24 ステージ制御装置、 25 ステージ目標値生成器、 26 ステージ制御器、 27,A1~A8 アンプ、 30 除振台、 41,51 ばね要素、 42,52 空気ばね、 43,53 サーボバルブ、 44,54 変位センサ、 45,55,65 加速度センサ、 46,56 粘弾性要素、 60 床、 70 除振台制御装置、 71 フィードバック制御器、 72 GFF制御器、 73 SFF制御器、 74 演算器、 75 推力分配器、 P1~P9 ポート。