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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048796
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】タイル剥離判定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20240402BHJP
   G01N 29/46 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
G01N29/04
G01N29/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154901
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】田附 遼太
(72)【発明者】
【氏名】林 徹
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 昌洋
(72)【発明者】
【氏名】関 新之介
(72)【発明者】
【氏名】原 英文
(72)【発明者】
【氏名】堀井 規男
(72)【発明者】
【氏名】中野 達也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】新屋 宏政
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA09
2G047BA04
2G047BC04
2G047BC09
2G047CA01
2G047CA03
2G047EA10
2G047GG06
2G047GG10
2G047GG20
2G047GG28
2G047GG32
2G047GG33
(57)【要約】
【課題】点検者の熟練度によらず、外壁タイルの剥離の有無を、安定した精度又は高い精度で判定できるようにする。
【解決手段】タイル剥離判定装置10は、外壁タイルを打診するための打診部11aを有する打診体11と、打診体11に設けられ打診部11aで外壁タイルを打診することにより生じる振動を検出する振動センサ12と、振動センサ12が検出した振動に基づいて外壁タイルの剥離の有無を判定する判定装置13と、を備える。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外壁タイルを打診するための打診部を有する打診体と、
当該打診体に設けられ、前記打診部で外壁タイルを打診することにより生じる振動を検出する振動センサと、
当該振動センサが検出した振動に基づいて外壁タイルの剥離の有無を判定する判定装置と、を備える、タイル剥離判定装置。
【請求項2】
前記打診体は、棒状の支持部を有し、前記打診部は、当該支持部の先端に設けられている、請求項1に記載のタイル剥離判定装置。
【請求項3】
前記振動センサは、前記支持部の先端部に設けられている、請求項2に記載のタイル剥離判定装置。
【請求項4】
前記振動センサは、線状または帯状に形成された圧電素子であり、
当該圧電素子は、棒状の前記支持部の中心軸を回る方向に延びるように、前記支持部に巻き付けられた状態で、前記支持部に取り付けられている、請求項2に記載のタイル剥離判定装置。
【請求項5】
前記振動センサは、線状または帯状に形成された圧電素子であり、
当該圧電素子は、棒状の前記支持部の中心軸に沿って細長く延びるように前記支持部に設けられている、請求項2に記載のタイル剥離判定装置。
【請求項6】
前記打診体は、棒状の前記支持部における根本側部分に設けられた取っ手部を有する、請求項2に記載のタイル剥離判定装置。
【請求項7】
前記判定装置は、前記振動センサが検出した振動に基づいて、当該振動の時間的変化を示す波形データを生成し、当該波形データに基づいて、外壁タイルの剥離の有無を判定する、請求項1~6のいずれか一項に記載のタイル剥離判定装置。
【請求項8】
前記判定装置は、
前記振動センサが検出した振動に基づいて、当該振動の時間的変化を示す波形データを生成する波形データ生成部と、
生成された前記波形データを、各周波数での振動強度を表わすスペクトルデータに変換するスペクトル取得部と、
前記スペクトルデータに基づいて、外壁タイルの剥離の有無に関する指標値を求める指標値取得部と、
前記指標値と基準値との比較に基づいて外壁タイルの剥離の有無を判定する判定部と、を有する、請求項7に記載のタイル剥離判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物(例えば集合住宅)の外壁タイルの剥離の有無を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の外壁を構成しているタイル(以下で単に外壁タイルともいう)の剥離の有無を確認するための検査として打診検査がある。打診検査では、点検者が、打診棒により各外壁タイルを打診し(例えば擦り又は叩き)、その際に生じる打診音を聞いて、音の違いに基づいて外壁タイルの剥離の有無を判定する。上記の打診棒は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-148500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の打診検査での判定精度は、点検者の技能や経験などの熟練度に依存する。例えば、経験の浅い点検者が、上述の打診検査において、実際には剥離している外壁タイルについて剥離していないと判定してしまう可能性がある。また、打診検査に熟練した点検者の数が不足している。
【0005】
更に、外壁タイルが張り付けられる下地がALC(Autoclaved Lightweight aerated Concrete)パネルやECP(Extruded Cement Panel)等の軽量下地である場合や、外壁タイルを弾性接着剤で外壁に貼り付けた場合には、外壁タイルが剥離していなくても、外壁タイルを打診した時の音が剥離している場合の音に近いものになる。そのため、検査者による剥離の有無の判定精度が低下する可能性がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上述の問題の少なくとも一部を解決することにある。すなわち、本発明の目的は、点検者の熟練度によらず、外壁タイルの剥離の有無を、安定した精度又は高い精度で判定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるタイル剥離判定装置は、外壁タイルを打診するための打診部を有する打診体と、当該打診体に設けられ前記打診部で外壁タイルを打診することにより生じる振動を検出する振動センサと、当該振動センサが検出した振動に基づいて外壁タイルの剥離の有無を判定する判定装置と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によるタイル剥離判定装置では、打診体の打診部で外壁タイルを打診することにより生じた振動を、打診体に設けた振動センサで検出し、検出した振動に基づいて判定装置が外壁タイルの剥離の有無を判定する。したがって、点検者の熟練度によらず、安定した精度又は高い精度の判定結果が得られる。
また、外壁タイルを打診する打診体自体に振動センサが設けられているので、検査の現場において、振動センサの取付作業が不要になる。したがって、効率的に、外壁タイルの剥離の有無を検査できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態によるタイル剥離判定装置を示す。
図2A】本発明の実施形態によるタイル剥離判定装置とその判定装置の構成を示す。
図2B】振動センサとしての圧電素子を棒状支持部の中心軸に沿って細長く延びるように設けた場合の構成を示す。
図3A-3E】剥離していない外壁タイルについての波形データを示す。
図4A-4E】剥離している外壁タイルについての波形データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態によるタイル剥離判定装置10を示す。図2Aは、このタイル剥離判定装置10とその判定装置13の構成を示す。タイル剥離判定装置10は、打診体11と振動センサ12と判定装置13を備える。
【0012】
打診体11は、外壁タイル2を打診するための打診部11aを有する。打診部11aは、外壁タイル2を打診するための硬い材料で形成されている。当該硬い材料は、ステンレス又は鉄などの金属であってよい。打診体11は、打診部11aが設けられた支持部11bを有する。すなわち、打診部11aは、支持部11bに支持されている。打診部11aは、支持部11bに固定されていてよい。
【0013】
本願において、「外壁タイル2を打診する」とは、打診部11aで外壁タイル2を擦る(例えば複数枚の外壁タイル2を連続して擦る)ことを意味してもよいし、打診部11aで外壁タイル2を叩くことを意味してもよい。
【0014】
支持部11bは、本実施形態では棒状であるが、他の形状を有するものであってもよい。本実施形態では、打診部11aは、棒状の支持部11bの先端に設けられている。この場合、打診部11aは、球形状、楕円体形状、またはこれらに近い形状を有していてよいが、これらの形状に限定されない。なお、棒状の支持部11bは、伸縮可能に構成されていてもよい。
【0015】
打診体11は、棒状の支持部11bにおける根本側部分に設けられた取っ手部11cを有していてよい。この場合、検査者は、取っ手部11cを手で把持して打診体11を操作することができる。
【0016】
振動センサ12は、打診体11に設けられる。振動センサ12は、支持部11bの先端部に設けられていてよい。この場合、振動センサ12は、支持部11bの根本側から打診部11aに隣接する位置に設けられてよい。振動センサ12は、支持部11bの内部に埋め込まれていてもよいし、支持部11bの外面に取り付けられていてもよい。
【0017】
振動センサ12は、打診部11aで外壁タイル2を打診することにより生じる振動を検出する。振動センサ12は、当該振動に応じた電気信号(例えば電圧信号)を生成して出力するものであってよい。振動センサ12は、例えば圧電素子であってよいが、これに限定されない。
【0018】
振動センサ12としての圧電素子は、線状または帯状に延びる形状を有していてよい。このような線状または帯状の圧電素子12は、図2Aのように(例えば棒状の)支持部11bの中心軸を回る方向に延びるように、支持部11bの外周面に(例えば1周)巻き付けられた状態で、支持部11bに取り付けられてよい。
【0019】
或いは、図2Bに示すように、線状または帯状の圧電素子12が、棒状の支持部11bの中心軸に沿って細長く延びるように支持部11bに設けられてもよい。この場合、圧電素子12は、支持部11bの外面に取り付けられてよい。
【0020】
振動センサ12は、検出した振動(例えば上述の電気信号)を判定装置13に入力する。例えば、振動センサ12は、図1のように、検出した振動(上述の電気信号)を、信号線14を通して判定装置13に入力してよい。信号線14は、検査者による打診体11の動きに追従できるように余分の長さを有し且つ変形可能であってよい。或いは、打診体11には、振動センサ12が検出した振動(上述の電気信号)を無線で判定装置13へ送信して入力する送信部が設けられていてもよい。
【0021】
判定装置13は、振動センサ12が検出した振動(上述の電気信号)に基づいて、当該振動の時間的変化を示す波形データを生成し、当該波形データに基づいて、建物の外壁面1に貼られた外壁タイル2が当該外壁面1から剥離しているか否か(以下で単に剥離の有無ともいう)を判定する。ここで、剥離の有無とは、外壁タイル2の剥離が所定の度合以上進行しているか否かを意味してよい。例えば、外壁タイル2の裏面において、所定割合以上の部分が外壁面1から剥離しているか否かを意味してよい。当該所定割合は、外壁タイル2の裏面の全体面積に対する所定割合であってよい。
【0022】
本実施形態の判定装置13は、波形データ生成部13a、スペクトル取得部13b、指標値取得部13c、判定部13d、および出力部13eを有する。
【0023】
波形データ生成部13aは、振動センサ12が検出した振動(上述の電気信号)に基づいて、当該振動の時間的変化を示す波形データを生成する。この波形データは、経過時間と振動の変位との関係を表わすデータ(例えば後述の図3A図4Eに示すデータ)であってよい。すなわち、波形データは、各時点での振動の変位を表わすデータであってよい。なお、振動の変位は、振動の中心からの正の方向又は負の方向の変位を意味してよい。
【0024】
スペクトル取得部13bは、波形データ生成部13aにより生成された波形データを、各周波数での振動強度(周波数成分)を表わすスペクトルデータに変換する。この時、スペクトル取得部13bは、当該波形データにおいて打診による振動を表わしている部分をスペクトルデータに変換するように構成されていてよい。当該部分は、例えば、振動の変位の大きさ(振幅)が所定値よりも大きくなり始めた時点から、所定時間(例えば0.2秒以上であり0.5秒以内の範囲内の時間)経過する時点までの時間範囲の部分であってもよいし、所定値よりも大きい振幅が生じている時間範囲の部分であってもよい。
【0025】
指標値取得部13cは、スペクトル取得部13bにより求められたスペクトルデータに基づいて、外壁タイル2の剥離の有無に関する指標値を求める。
【0026】
一例では、指標値は、第1の周波数での振動強度(すなわち振動成分)に対する第2の周波数での振動強度の比率であってよい。ここで、第1の周波数は、上記スペクトルデータにおいて、外壁タイル2に剥離が生じても、振動強度が増大しない傾向にある周波数であり、第2の周波数は、外壁タイル2に剥離が生じると振動強度が増大する傾向にある周波数であってよい。
【0027】
別の例では、指標値は、第1の周波数帯での振動強度(すなわち振動成分)に対する第2の周波数帯での振動強度の比率であってよい。ここで、第1の周波数帯は、上記スペクトルデータにおいて、外壁タイル2に剥離が生じても、振動強度が増大しない傾向にある周波数帯であり、第2の周波数帯は、外壁タイル2に剥離が生じると振動強度が増大する傾向にある周波数帯であってよい。この場合、第1の周波数帯での振動強度は、例えば、当該周波数帯での振動強度の平均値または最大値であってよく、第2の周波数帯での振動強度は、同様に、当該周波数帯での振動強度の平均値または最大値であってよい。
【0028】
判定部13dは、指標値取得部13cにより求められた指標値と基準値との比較に基づいて外壁タイル2の剥離の有無を判定する。例えば、判定部13dは、求めた指標値が基準値よりも大きい場合には、外壁タイル2が剥離していると判定する。なお、基準値は、例えば実験により、予め定められた値であってよい。また、基準値は、想定された外壁タイル2の種類と、想定された外壁面1の種類に応じて、予め定められていてよい。
【0029】
出力部13eは、判定部13dによる、外壁タイル2の剥離の有無の判定結果に応じた出力を行う。外壁タイル2が外壁面1から剥離していると判定部13dが判定した場合に、出力部13eは、その旨を示す音を出力する音出力部であってよい。或いは、外壁タイル2が外壁面1から剥離していると判定部13dが判定した場合に、出力部13eは、その旨を示す画像を表示するディスプレイであってもよい。
【0030】
(実施形態の効果)
本実施形態によるタイル剥離判定装置10では、打診体11の打診部11aで外壁タイル2を打診することにより生じた振動を、打診体11の振動センサ12で検出し、検出した振動に基づいて判定装置13が外壁タイル2の剥離の有無を判定する。したがって、点検者の熟練度によらず、安定した精度又は高い精度の判定結果を得ることができる。
【0031】
外壁タイル2を打診する打診体11自体に振動センサ12が設けられているので、振動センサ12の取付作業が不要になる。したがって、効率的に、外壁タイル2の剥離の有無を検査できる。
【0032】
打診体11は、棒状の支持部11bの先端に打診部11aを設けて構成されている。したがって、打診部11aで外壁タイル2を打診した際に、打診体11に振動を効率よく生じさせ、且つ、打診体11の振動センサ12により振動を効率よく検出できる。
【0033】
線状または帯状の圧電素子12が支持部11bに巻き付けられる構成の場合には、支持部11bへの圧電素子12の設置が容易になる。
【0034】
線状または帯状の圧電素子12が棒状の支持部11bの中心軸に沿って細長く延びるように支持部11bに設けられる構成の場合には、棒状の支持部11bの中心軸に沿った広範囲にわたって振動データを精度よく収集することが可能となる。
【0035】
(実施例)
図3A図3Eは、建物の外壁面1から剥離していない外壁タイル2についての波形データを示す。図4A図4Eは、建物の外壁面1から部分的に剥離している外壁タイル2についての波形データを示す。詳しくは、図3A図4Eの各々は、上下方向に連続する4枚の外壁タイル2を打診体11の打診部11aで上から下に打診した(擦った)ことにより波形データ生成部13aが生成した波形データを示す。図3A図4Eの波形データは、これらの図の間で異なる4枚の外壁タイルについてのものである。なお、図3A図4Eの横軸において、打診の開始時点は1秒付近である。
【0036】
図3A図4Eに示すような多数の波形データをスペクトルデータに変換し、これらのスペクトルデータに基づいて、上述した第1および第2の周波数または第1および第2の周波数帯を選定するとともに、上述の基準値を設定してよい。
【0037】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0038】
1 外壁面
2 外壁タイル
10 タイル剥離判定装置
11 打診体
11a 打診部
11b 支持部
11c 取っ手部
12 振動センサ(圧電素子)
13 判定装置
13a 波形データ生成部
13b スペクトル取得部
13c 指標値取得部
13d 判定部
13e 出力部
14 信号線
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E