(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048802
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】モーター装置、ワイパ装置、モーター制御装置、及びモーター制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/62 20160101AFI20240402BHJP
【FI】
H02P29/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154912
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】大堀 竜
(72)【発明者】
【氏名】天笠 俊之
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA20
5H501BB20
5H501DD08
5H501EE08
5H501FF05
5H501LL39
(57)【要約】
【課題】低温時にも、マグネットの減磁を抑制して、必要なトルクを得られるようにしたモーター装置を提供する。
【解決手段】回転自在に支持されたローターと、ローターの周囲を囲むように配置されたステーターと、ローター又はステーターのうちの一方に配置されたフェライトマグネットと、ローター又はステーターのうちの他方に配置されたコイルと、モーターの温度を検出する温度検出部と、電源がオン状態で、モーターが停止している状態において、温度検出部によって検出された温度が基準温度以下の場合、フェライトマグネットを加熱する加熱部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持されたローターと、
前記ローターの周囲を囲むように配置されたステーターと、
前記ローター又は前記ステーターのうちの一方に配置されたマグネットと、
前記ローター又は前記ステーターのうちの他方に配置されたコイルと、
を有するモーターと、
前記モーターの温度を検出する温度検出部と、
電源がオン状態で、前記モーターが停止している状態において、前記温度検出部によって検出された温度が基準温度以下の場合、前記マグネットを加熱する加熱部と、
を備えるモーター装置。
【請求項2】
前記加熱部は、前記コイルに電流を流すことで、前記マグネットを加熱させる
請求項1に記載のモーター装置。
【請求項3】
前記加熱部は、前記温度が低いほど大きな電流をコイルに流す
請求項2に記載のモーター装置。
【請求項4】
前記基準温度は、常温である
請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載のモーター装置。
【請求項5】
前記マグネットは、フェライトマグネットである
請求項4に記載のモーター装置。
【請求項6】
請求項1に記載のモーター装置を用いたワイパモーターと、
前記ワイパモーターにより駆動されるブレードと
を備えたワイパ装置。
【請求項7】
回転自在に支持されたローターと、前記ローターの周囲を囲むように配置されたステーターと、前記ローター又は前記ステーターのうちの一方に配置されたマグネットと、前記ローター又は前記ステーターのうちの他方に配置されたコイルとを有するモーターを駆動するモーター制御装置であって、
前記モーターの温度を検出する温度検出部と、
電源がオン状態で、前記モーターが停止している状態において、前記温度検出部によって検出された温度が基準温度以下の場合、前記マグネットを加熱する加熱部と
を備えたモーター制御装置。
【請求項8】
回転自在に支持されたローターと、前記ローターの周囲を囲むように配置されたステーターと、前記ローター又は前記ステーターのうちの一方に配置されたマグネットと、前記ローター又は前記ステーターのうちの他方に配置されたコイルとを有するモーターを制御するモーター制御方法であって、
電源がオン状態で、モーターが停止している状態であるかを検出する工程と、
温度が基準温度以下であるかを検出する工程と、
前記電源がオン状態で、前記モーターが停止している状態において、前記検出された温度が基準温度以下の場合、前記マグネットを加熱する工程と
を含むモーター制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター装置、ワイパ装置、モーター制御装置、及びモーター制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のワイパモーターとして、例えばフェライトマグネットを用いたブラシレスモーターが使用されている。フェライトマグネットは、低温時に保磁力が低下する。このため、フェライトマグネットを用いたブラシレスモーターでは、マグネットの減磁を防止するために、低温時にモーターに印加する電流を抑制している。特許文献1には、低温時におけるロック電流を低減することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に寒冷地でワイパ装置を使用する場合には、ブレードが凍結や積雪によりフロントガラスに対して拘束された状態で使用されることがある。このような状態では、ワイパモーターを回転させるのに大きなトルクが要求される。ワイパモーターを大きなトルクで回転させるためには、モーターに供給する電流を増大させる必要がある。ところが、上述のように、フェライトマグネットを用いたブラシレスモーターでは、低温時にマグネットの保磁力が低下するため、低温時にモーターに印加できる電流が制限されている。このため、ワイパモーターを十分なトルクで回転させることが難しい。
【0005】
図8は、フェライトマグネットの減磁曲線を示している。縦軸は磁界強度を表し、横軸は磁束密度を表す。ここでは、温度が異なる場合のそれぞれについての減磁曲線(パーミアンス係数)が示されている。
図8に示すように、フェライトマグネットでは、温度が低いほど、保磁力が低下する。また、
図9は、フェライトマグネットを用いたブラシレスモーターの減磁閾値を示している。
図9に示すように、フェライトマグネットを用いたモーターでは、低温になるに従って、低い電流で減磁が生じる。特に、常温である20度付近以下から、コイルに流すことができる電流の閾値の傾きが大きくなっている。このことから、フェライトマグネットを用いたブラシレスモーターでは、常温以下では、マグネットを減磁させないように、モーターに供給する電流を制限する必要があった。
【0006】
上述の課題を鑑み、本発明は、低温時にも、マグネットの減磁を抑制して、モーターを回転させるトルクを高めることができるモーター装置、ワイパ装置、モーター制御装置、及びモーター制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1において、モーター装置は、回転自在に支持されたローターと、前記ローターの周囲を囲むように配置されたステーターと、前記ローター又は前記ステーターのうちの一方に配置されたマグネットと、前記ローター又は前記ステーターのうちの他方に配置されたコイルと、を有するモーターと、前記モーターの温度を検出する温度検出部と、電源がオン状態で、前記モーターが停止している状態において、前記温度検出部によって検出された温度が基準温度以下の場合、前記マグネットを加熱する加熱部とを備える。
このように構成することで、温度が基準温度以下の場合にマグネットが加熱されることで、マグネットの温度を上げることができる。これにより、マグネットの保磁力を増加させることができ、モーターに大きな電流を印加しても減磁が生じにくくすることができ、必要なトルクが得られ易くすることができる。
【0008】
本発明の態様2は、態様2のモーター装置において、前記加熱部は、前記コイルに電流を流すことで、前記マグネットを加熱させる。
この構成にすることで、モーター装置に設けられているコイルを利用してマグネットを加熱することができる。これにより、コイルを加熱するにあたり、モーター装置において既存の部品を利用することができるため、加熱するための新たな部品をモーター装置に設ける必要がない。
【0009】
本発明の態様3は、態様1または態様2のモーター装置において、前記加熱部は、前記温度が低いほど大きな電流をコイルに流す。
このように構成することで、流す電流が大きいほど、コイルから発生する熱の温度を高くすることができ、検出された温度が低いほど、コイルの温度を上昇させやすくなる。
【0010】
本発明の態様4は、態様1から態様3のうちいずれか1つのモーター装置において、前記基準温度は、常温である。
この構成にすることで、マグネットの減磁が生じ易い温度領域において、コイルを加熱することで、マグネットの減磁が生じ易い状況である場合に、加熱することができる。
【0011】
本発明の態様5は、態様1から態様4のうちいずれか1つのモーター装置において、前記マグネットは、フェライトマグネットである。
この構成にすることによって、常温以下の場合に減磁が生じ易い特性があるフェライトマグネットがモーター装置において用いられている場合であっても、コイルにおいて熱を発生させることで、フェライトマグネットを加熱することができ、フェライトマグネットの減磁を低減することができる。
【0012】
本発明の態様6において、ワイパ装置は、態様1から態様5のうちいずれか1つのモーター装置を用いたワイパモーターと、前記ワイパモーターにより駆動されるブレードとを備えたワイパ装置である。
この構成にすることで、マグネットの保磁力を増加させることができ、モーターに大きな電流を印加しても減磁が生じにくくすることができ、必要なトルクが得られ易いワイパ装置を得ることができる。
【0013】
本発明の態様7において、モーター制御装置は、回転自在に支持されたローターと、前記ローターの周囲を囲むように配置されたステーターと、前記ローター又は前記ステーターのうちの一方に配置されたマグネットと、前記ローター又は前記ステーターのうちの他方に配置されたコイルとを有するモーターを駆動するモーター制御装置であって、前記モーターの温度を検出する温度検出部と、電源がオン状態で、前記モーターが停止している状態において、前記温度検出部によって検出された温度が基準温度以下の場合、前記マグネットを加熱する加熱部とを備える。
このように構成することで、温度が基準温度以下の場合にマグネットが加熱されることで、マグネットの温度を上げることができる。これにより、マグネットの保磁力を増加させることができ、モーターに大きな電流を印加しても減磁が生じにくくすることができ、必要なトルクが得られ易いモーター制御装置を提供することができる。
【0014】
本発明の態様8において、モーター制御方法は、回転自在に支持されたローターと、前記ローターの周囲を囲むように配置されたステーターと、前記ローター又は前記ステーターのうちの一方に配置されたマグネットと、前記ローター又は前記ステーターのうちの他方に配置されたコイルとを有するモーターを制御するモーター制御方法であって、電源がオン状態で、モーターが停止している状態であるかを検出する工程と、温度が基準温度以下であるかを検出する工程と、前記電源がオン状態で、前記モーターが停止している状態において、前記検出された温度が基準温度以下の場合、前記マグネットを加熱する工程とを含む。
このように構成することで、温度が基準温度以下の場合にマグネットが加熱されることで、マグネットの温度を上げることができる。これにより、マグネットの保磁力を増加させることができ、モーターに大きな電流を印加しても減磁が生じにくくすることができ、必要なトルクが得られ易いモーター制御方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、周囲の温度が低いときにも、フェライトマグネットの保磁力を保つことができ、モーターを回転させるトルクを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るモーター装置の概要のブロック図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るモーター装置におけるモーターの概要を示す断面図である。
【
図3】コイルに電流を流す時間と温度上昇との関係を示すグラフである。
【
図4】ヒートモード時にコイルに供給する電流の説明に用いるグラフである。
【
図5】本発明の第1の実施形態におけるヒート処理のフローチャートである。
【
図6】電流制限のリミット値の説明に用いるグラフである。
【
図7】本実施形態にかかるモーターを用いて構成したワイパ装置の説明図である。
【
図8】フェライトマグネットの減磁曲線を示すグラフである。
【
図9】フェライトマグネットを用いたブラシレスモーターの減磁閾値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るモーター装置1の概要のブロック図である。
図1に示すように、モーター装置1は、モーター10と、制御基板2とを含む。制御基板2は、制御部20と、駆動部30と、温度検出部40とを有する。制御部20、駆動部30、及び温度検出部40は、制御基板2に実装されている。モーター10は、モーター装置1内に、制御基板2と一体的に組み込まれている。
【0018】
図2は、モーター装置1におけるモーター10の概要を示す断面図である。
図2に示すように、モーター10は、回転軸を中心として回転自在であるローター11と、ローター11の周囲を囲むように配置されたステーター12とを有する。ローター11には、フェライトマグネット16a、フェライトマグネット16b、フェライトマグネット16c、フェライトマグネット16dが配設されている。ステーター12には、コイル15a、コイル15b、コイル15c、コイル15d、コイル15e、コイル15fが巻回されている。なお、この例では、ローター11の極数は、フェライトマグネット16a~16dの4極であり、ステーター12の相の数は、コイル15a~15fの6相であるが、これに限定されるものではなく、他の極数や他の相の数であってもよい。このように、この実施形態では、モーター10としては、フェライトマグネットを用いたブラシレスモーターとして構成されている。
【0019】
図1において、制御部20はCPU(Central Processing Unit)またはMPU(Micro Processor Unit)であり、モーター10の回転制御を行う。また、本実施形態では、制御部20は、検出温度に応じてヒートモードに設定する処理を行っている。
【0020】
駆動部30は、制御部20から出力される制御信号に基づいて、モーター10を駆動する。駆動部30は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のスイッチング素子により構成されている。モーター10を回転させる場合には、駆動部30は、スイッチング素子を順次オン/オフさせる。これにより、スイッチング素子のオン/オフの組み合わせに応じた駆動電流がモーター10のコイル15a~15fに供給され、コイル15a~15fにおいて回転磁界が発生し、ローター11が回転する。
【0021】
駆動部30は、モーター10の各コイル15a~15fに供給す駆動電流(パルス)のデューティ比に応じて、モーター10をPWM(Pulse Width Modulation)制御をすることができる。すなわち、モーター10に供給するパルスのデューティ比を上げると、モーター10に供給される電流が増加し、モーター10のトルクが増大し、ディーティー比を下げると、モーター10に供給される電流が減少し、モーター10のトルクが減少する。
【0022】
また、駆動部30は、ヒートモード設定部31を備えている。ヒートモードは、モーター10が回転しない程度の電流をコイル15a~15fに供給するモードである。コイル15a~15fに電流が供給されると、ジュール熱により、モーター10の内部の温度が上昇する。ヒートモード設定部31は、制御部20から出力される制御信号に応じて、コイル15a~15fに電流を流すことでフェライトマグネット16a~16dを加熱する加熱部として機能する。
ヒートモード設定部31は、駆動部30に設けられているが、制御部20に設けられていてもよい。
【0023】
温度検出部40は、モーター10の温度を検出する。温度検出部40は、モーター10の外周面の温度を検出してもよい。温度検出部40としては、例えばサーミスタが用いられる。温度検出部40の検出値は、制御部20に供給される。
【0024】
上述のように、本実施形態では、モーター10として、フェライトマグネットを用いたブラシレスモーターが使用されている。フェライトマグネットを用いたブラシレスモーターでは、低温時(例えば、常温よりも低い温度の場合)には、減磁が大きくなるため、モーター10に大電流を印加して、十分なトルクを発生させることが難しい。
【0025】
そこで、本実施形態では、電源オン時に、モーター10が回転しておらず、モーター10の温度が基準温度より低い場合には、ヒートモード設定部31により駆動部30をヒートモードに設定し、モーター10の温度を上昇させるようにしている。基準温度は、マグネットの保磁力が低下しやすくなる温度に応じて決めるようにしてもよい。例えば、基準温度は常温である。常温は、20度から25度程度のうちいずれかの温度であればよい。この実施形態では常温が25度である場合を一例として説明する。例えば、常温は、フェライトマグネットの特性に応じて決めるようにしてもよく、例えば、フェライトマグネットの仕様において常温として定められた温度を適用してもよい。
【0026】
すなわち、モーター10に電源を供給しても、トルクが不足してローター11が動かない状態のときには、制御部20は、温度検出部40の検出値から、モーター10の温度が常温(例えば25度)より低いかどうかを判定し、検出温度が常温より低い場合には、駆動部30をヒートモードに設定する。
【0027】
駆動部30は、ヒートモードに設定されると、モーター10が回転しない程度の電流をコイル15a~15fに印加する。これにより、コイル15a~15fからジュール熱が生じ、フェライトマグネット16a~16dの温度を上げることができる。
【0028】
フェライトマグネット16a~16dの温度が上昇すると、フェライトマグネット16a~16dの保磁力が増加するため、モーター10に大きな電流を印加しても減磁は生じない。モーター10に印加する電流を増大させれば、トルクが増大し、モーター10が回転できるようになる。
【0029】
図3は、コイルに電流を流したときの時間と温度上昇との関係の一例を示す。
図3において、横軸は時間を示し、縦軸はコイルの温度を示す。
図3に示すように、コイルに電流を印加すると、印加開始からある程度の時間が経過するまでの間において、電流を流す時間が長くなることに応じて、温度が上昇する。コイル15a~15fに印加する電流が、直流電流または交流電流(例えば矩形波)である場合であっても、概ね同様な特性で、温度は上昇する。
【0030】
図4は、ヒートモード時にコイルに供給する電流の一例を示す。
図4において、横軸は温度であり、縦軸はコイルに供給する電流値を示す。フェライトマグネットは低温になるほど保磁力が低下することから、ヒートモード時の電流は、温度が低くなるほど電流が大きくなるように設定する。
【0031】
図4の例では、ヒートモードにおける電流値は、-40度から常温(例えば25度)の温度環境において、温度が低くなるほど大電流となるような電流値が用いられる。この図の例では、ヒートモード時にコイル15a~15fに印加される電流値は、0A以上であって、0.5Aの程度までの範囲の中から設定される。
【0032】
図5は、本発明の第1の実施形態におけるヒート処理のフローチャートである。
(ステップS1)モーター電源がオンされると、制御部20からの制御信号に基づいて、駆動部30からモーター10に電源が供給(電流が印加)される。駆動部30からモーター10に電源が供給されると、モーター10は駆動部30から供給される駆動信号に応じて回転しようとする。ここで、ワイパのブレードが拘束され、モーター10のトルクが不足しているような場合には、モーター電源がオンされていても、モーター10が回転せずに停止している場合がある。一方、ブレードが拘束されていなければ、モーター10が駆動信号に応じて回転する。
【0033】
(ステップS2)制御部20は、モーター10が停止中か否かを判定する。制御部20は、モーター10が回転していれば、停止中ではないと判定し(ステップS2:No)、そのまま処理をリターンし、モーター10の回転を継続させる。制御部20は、モーター10が停止中であると判定した(ステップS2:Yes)、処理をステップS3に進める。
【0034】
(ステップS3)制御部20は、温度検出部40から検出結果を取得し、その検出結果に基づいて、モーター10の温度が常温である25度以下か否かを判定する。制御部20は、検出温度が25度以下でないなら(ステップS3:No)、処理をリターンし、モーター10の回転処理に戻す。ここでは、検出温度が25度以下ではない、すなわち、25度を超えている場合には、フェライトマグネットの減磁が発生していないものと見なすことができる。
一方、制御部20は、ステップS3において、検出温度が25度以下なら(ステップS3:Yes)、処理をステップS4に進める。
【0035】
(ステップS4)制御部20は、駆動部30をヒートモードに設定する。例えば、制御部20は、通常モードからヒートモードに移行することを指示する制御信号を駆動部30に供給することで、ヒートモードに設定する。駆動部30は、ヒートモードに設定されると、コイル15a~15fにヒートモードに応じた電流を印加する。これにより、コイル15a~15fに熱が発生することで、モーター10の温度が上昇していく。制御部20は、駆動部30をヒートモードに設定した後、処理をリターンする。
なお、制御部20は、ヒートモードに移行した後、モーター10の温度が25度を超えた場合に、ヒートモードから通常モードに移行することを指示する制御信号を駆動部30に供給することで、通常モードに設定するようにしてもよい。通常モードは、ヒートモードではないモードであり、制御部20から出力される制御信号に応じた駆動信号を駆動部30からモーター10に印加するモードである。
【0036】
ステップS1からステップS4の処理により、電源オンであって、モーター10が停止している状態において、検出温度が常温(25度)以下の場合に、駆動部30がヒートモードに設定される。これにより、コイル15a~15fに電流が流され、フェライトマグネット16a~16dの温度が上昇していく。これにより、フェライトマグネットの温度を常温に到達させることができ、駆動部30からモーター10に印加する電流のデューティ比を下げなくてもよい状態とすることができる。そのため、温度に起因する減磁がフェライトマグネットに発生していない状態とすることができるため、モーター10が回転するトルクを増加させることができ、積雪等をブレードによって除去するためのトルクを得ることができる。
【0037】
図6は、温度と電流制限のリミット値との関係の一例を示している。
図6において、横軸は温度であり、縦軸はモーター10に供給するパルスのデューティ比のリミット値である。モーター10に供給するパルスのデューティ比を大きくすれば、モーター10に印加する電流は大きくなる。しかしながら、モーター10に印加する電流を大きくすると、フェライトマグネット16a~16dに対する減磁界が強くなる。フェライトマグネット16a~16dの保磁力は低温になるほど小さくなるため、低温時にモーター10に印加する電流を大きくすると、フェライトマグネット16a~16dの減磁が生じてしまう。このことから、モーター10では、温度が低下するほど、電流値が小さくなるような電流制限が設けられる。
【0038】
図6に示すように、常温(25度)以上では、フェライトマグネット16a~16dの保磁力は大きいので、モーター10に印加する電流のリミット値は大きな電流値となっている。すなわち、
図6に示すように、常温以上では、モーター10に供給するパルスのデューティ比のリミット値は90%に近い。
【0039】
これに対して、常温未満では、フェライトマグネット16a~16dの保磁力は低温になるほど低下するので、モーター10に印加できる電流のリミット値は、温度が低下するほど、小さくなる。すなわち、
図6に示すように、常温未満では、モーター10に供給するパルスのデューティ比のリミット値は、温度が低くなるに従って、90%から60%に近いデューティ比となる。
【0040】
本実施形態にかかるモーター装置1では、低温時には、コイル15a~15fに電流が流され、フェライトマグネット16a~16dの温度が上昇される。これにより、モーターに大きな電流を流すことができる。例えば温度が-20度のときのデューティ比のリミット値は70%であり、デューティ比70%の電流値までしかコイル15a~15fに電流を印加できない。これに対して、駆動部30をヒートモードに設定し、常温の温度(25度)まで上昇できれば、デューティ比90%近辺の電流値までコイル15a~15fに電流を印加して、モーター10のトルクを増大させていくことができる。
【0041】
図7は、本実施形態にかかるモーター装置1を用いて構成した車両用のワイパ100の説明図である。
図7に示すように、この実施形態では、上述のモーター装置1を用いてワイパブレード101を駆動する。
【0042】
例えば、寒冷地では、低温下において、ワイパブレード101がフロントガラス102に対して凍結によって拘束されていることがある。このような状態では、モーター10を大きなトルクで回転させることで拘束状態を解除することが望まれる。そのためには、ワイパモーターに大電流を印加する必要がある。しかしながら、通常のブラシレスモーターでは、低温になるほど、フェライトマグネットの減磁力が大きくなるため、大電流を印加することが制限されてしまい、低温時には、大電流を印加することが難しい。
【0043】
これに対して、ワイパモーターとして本実施形態にかかるモーター装置1を用いた場合には、電源オンであって、モーター10が停止している状態において、温度検出部40の検出温度が常温以下の場合に、コイル15a~15fにヒートモードに応じた電流を印加することで、モーター10の温度を上昇させることができる。これにより、温度に応じて決まる、モーター10に印加することができる電流の上限値が低い状態から高い状態にすることができる。そしてモーター10に印加する電流値をより大きくすることができ、トルクを増大させることができる。このため、寒冷地でワイパブレード101がフロントガラス102に凍結して拘束されている場合であっても、モーター10に大電流を印加し、ワイパブレード101を駆動することができる。
【0044】
以上説明したように、本発明の第1の実施形態では、駆動部30をヒートモードに設定することが可能であり、駆動部30はヒートモードに設定されたことに応じて、コイル15a~15fに電流を印加し、コイル15a~15fのジュール熱により、モーター10の温度を上昇させることができる。電源オン時に、モーター10が回転せず、モーター10の温度が常温(25度)以下のときには、駆動部30をヒートモードに設定することで、周囲の温度が低いときにも、フェライトマグネット16a~16dの減磁を回避して、モーター10を十分なトルクで回転させることができる。
【0045】
なお、ヒートモードでコイル15a~15fに流す電流は、モーター10が回転しないようなレベルの直流電流としている。また、ヒートモードでは、モーター10が回転しないレベルでコイル15a~15fにパルスを供給するようにしても良い。また、全てのコイル15a~15fに電流を流さず、コイル15a~15fのうちの少なくともいずれか1つのコイルに電流を流すようにしてもよい。ヒートモード時には、モーター10を回転させず、フェライトマグネット16a~16dの温度を上昇させるような形態であれば、コイル15a~15fにどのように電流を供給しても良い。
【0046】
また、上述した実施形態において、ステップS1において、モーターの電源がオンの状態であって、ステップS2においてモーターが停止中である場合について説明したが、モーター10の電源がオンの状態とは、バッテリなどの電源からモーター装置1に対して電源が供給された状態であり、モーター10が停止中である場合とは、モーター10を回転させるための制御信号が制御部20から駆動部30に対して供給されていない状態であってもよい。例えば、モーター装置1が搭載された車両のイグニッションがオンの状態であり、モーター10を駆動させる指令が入力されていない状態であってもよい。この状態において、モーター10の温度が常温以下である場合に、ヒートモードに応じた電流を駆動部30からモーター10に印加することにより、モーター10の温度を常温程度に維持することができる。これにより、実際にモーター10を駆動する制御信号が駆動部30に供給された場合に、常温時に応じたモーター10に対する供給可能な上限値が高い状態において、駆動電流をモーター10に印加し、モーター10を駆動させることができる。
【0047】
また、上述の実施形態では、モーター10の温度が常温より低い場合に、モーター10のコイル15a~15fに電流を流し、モーター10の温度を上昇させて、フェライトマグネット16a~16dの保磁力を保つようにしているが、フェライトマグネット16a~16dの近傍に加熱素子を設け、モーター10の温度が常温より低い場合に、この加熱素子を駆動させることで発熱させ、フェライトマグネット16a~16dを加熱し、フェライトマグネット16aから16dの温度を上昇させるようにしても良い。加熱素子としては、抵抗発熱体やペルチェ素子等、どのようなものを用いても良い。
【0048】
また、上述の実施形態では、モーター10は、ブラシレスモーターの構成とされているが、ブラシ付きモーターでも同様に適用できる。ブラシレスモーターの場合には、ローターにマグネットが配設され、ステーターにコイルが巻回されているが、ブラシ付きモーターの場合には、ローターにコイルが巻回され、ステーターにマグネットが配設されている。本発明は、このようなブラシ付きモーターの場合にも、同様に適用できる。
【0049】
また、上述の実施形態では、フェライトマグネットを用いているが、本発明は、アルニコ磁石や希土類磁石等、他のマグネットを用いる場合にも、同様に適用できる。他のマグネットでは、必ずしも、温度が低いほど、保磁力が低下するとは限らないが、金属は、温度が低下するほど、抵抗値が減少する。このため、温度の低下とともに、コイルに流れる電流が増加する。上述のように、モーターの温度を上昇させておくことで、低温時の電流の増加を防ぐことができる。
【0050】
以上説明した実施形態によれば、周囲の温度が低いときにも、マグネットの減磁を抑制しつつ保磁力を保つことができ、大きなトルクでモーターを回転させることができるので、モーターが回転することによる機能を発揮しやすくすることができ、これにより、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標8「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する」、及び目標9「強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの促進を図る」に貢献することが可能となる。
【0051】
また、本発明は、ワイパモーターとしてだけでなく、サンルーフモーター、パワーウィンドウモーター、パワーシートモーター等、各種の用途のモーターとして使用できる。
【符号の説明】
【0052】
10…モーター、11…ローター、12…ステーター、15a~15f…コイル、16a~16d…フェライトマグネット、20…制御部、30…駆動部、31…ヒートモード設定部、40…温度検出部