(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048819
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】推定装置およびその制御方法、データ整形装置およびその制御方法、並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
G06N 3/049 20230101AFI20240402BHJP
H04B 17/391 20150101ALI20240402BHJP
【FI】
G06N3/04 190
H04B17/391
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154934
(22)【出願日】2022-09-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度総務省、「仮想空間における電波模擬システム技術の高度化に向けた研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】599108264
【氏名又は名称】株式会社KDDI総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長尾 竜也
(57)【要約】
【課題】ニューラルネットワークを用いた電波伝搬推定を効率的に行う。
【解決手段】電波伝搬特性を推定する推定装置は、地表および建物に関する第1情報および電波の送信点および受信点の位置に関する第2情報を取得する取得手段と、取得手段が取得する第1情報及び第2情報の地理的範囲を決定する範囲決定手段と、地理的範囲における第1情報及び第2情報に基づいて、地理的範囲において設定されるM個の地理的経路それぞれに沿ったM個の系列データを生成する系列データ生成手段と、M個の系列データを予め学習されたRNNエンコーダにそれぞれ入力しM個の系列データに対応するM個の特徴ベクトルを導出する導出手段と、M個の特徴ベクトルを結合することにより特徴マップを生成する生成手段と、特徴マップを予め学習されたDNNに入力し、電波伝搬特性を推定する推定手段と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表および建物に関する第1情報および電波の送信点および受信点の位置に関する第2情報を取得する取得手段と、
前記取得手段が取得する前記第1情報及び前記第2情報の地理的範囲を決定する範囲決定手段と、
前記取得手段により取得された前記地理的範囲における前記第1情報及び前記第2情報に基づいて、前記地理的範囲において設定されるM個の地理的経路それぞれに沿ったM個の系列データを生成する系列データ生成手段と、
前記M個の系列データを予め学習された回帰型ニューラルネットワーク(RNN)エンコーダにそれぞれ入力し該M個の系列データに対応するM個の特徴ベクトルを導出する導出手段と、
前記M個の特徴ベクトルを結合することにより特徴マップを生成する生成手段と、
前記特徴マップを予め学習された深層ニューラルネットワーク(DNN)に入力し、電波伝搬特性を推定する推定手段と、
を有することを特徴とする推定装置。
【請求項2】
前記系列データ生成手段は、前記範囲決定手段により決定された互いに異なる少なくとも2つの地理的範囲それぞれに対して、M個の系列データを生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記M個の特徴ベクトルは固定長の特徴ベクトルである
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項4】
前記地理的範囲には少なくとも1つの送信点が含まれる
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項5】
前記第1情報は、地表の標高および建物の位置および高さに関する情報を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項6】
前記系列データ生成手段は、
前記地理的範囲を直交座標系に基づいて複数のグリッドに分割し、
前記第1情報から、各グリッドにおける建物高および建物占有率を算出し、
前記第2情報から、各グリッドにおける送信点距離を算出し、
前記M個の地理的経路はそれぞれ前記直交座標系の同じ軸方向に沿った経路であり、
前記M個の系列データの各々は、各グリッドにおける建物高と建物占有率と送信点距離とを含む多次元ベクトルのデータ列として生成される
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項7】
前記系列データ生成手段は、
前記地理的範囲を直交座標系に基づいて複数のグリッドに分割し、
前記第1情報から、各グリッドにおける建物高を算出し、
前記M個の地理的経路はそれぞれ前記直交座標系の同じ軸方向に沿った経路であり、
前記M個の系列データの各々は、対応する地理的経路に沿って連続した複数のグリッドにおける建物高を含む多次元ベクトルのデータ列として生成される
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項8】
前記系列データ生成手段は、
前記地理的範囲を極座標系に基づいて複数のグリッドに分割し、
前記第1情報から、各グリッドにおける建物高を算出し、
前記M個の地理的経路はそれぞれ動径方向に沿った経路であり、
前記M個の系列データの各々は、対応する地理的経路に沿って連続した複数のグリッドにおける建物高を含む多次元ベクトルのデータ列として生成される
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項9】
前記系列データ生成手段は、
前記地理的範囲を、送信点と受信点とを焦点とする楕円座標系に基づいて複数のグリッドに分割し、
前記第1情報から、各グリッドにおける建物高を算出し、
前記M個の地理的経路はそれぞれ動径方向に沿った経路であり、
前記M個の系列データの各々は、対応する地理的経路に沿って連続した複数のグリッドにおける建物高を含む多次元ベクトルのデータ列として生成される
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項10】
電波伝搬特性を推定する推定装置の制御方法であって、
前記推定装置は、地表および建物に関する第1情報および電波の送信点および受信点の位置に関する第2情報を取得可能に構成されており、
前記制御方法は、
取得することになる前記第1情報及び前記第2情報の地理的範囲を決定する範囲決定工程と、
前記地理的範囲における前記第1情報及び前記第2情報を取得する取得工程と、
前記取得工程により取得された前記第1情報及び前記第2情報のデータに基づいて、前記地理的範囲において設定されるM個の地理的経路それぞれに沿ったM個の系列データを生成する系列データ生成工程と、
前記M個の系列データを予め学習された回帰型ニューラルネットワーク(RNN)エンコーダにそれぞれ入力し該M個の系列データに対応するM個の特徴ベクトルを導出する導出工程と、
前記M個の特徴ベクトルを結合することにより特徴マップを生成する生成工程と、
前記特徴マップを予め学習された深層ニューラルネットワーク(DNN)に入力し、電波伝搬特性を推定する推定工程と、
を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項11】
電波伝搬特性を推定する推定装置に入力する特徴マップを生成するデータ整形装置であって、
前記推定装置は、所定サイズの特徴マップを予め学習された深層ニューラルネットワーク(DNN)に入力することにより電波伝搬特性を推定するよう構成されており、
前記データ整形装置は、
地表および建物に関する第1情報および電波の送信点および受信点の位置に関する第2情報を取得する取得手段と、
前記取得手段が取得する前記第1情報及び前記第2情報の地理的範囲を決定する範囲決定手段と、
前記取得手段により取得された前記地理的範囲における前記第1情報及び前記第2情報に基づいて、前記地理的範囲において設定されるM個の地理的経路それぞれに沿ったM個の系列データを生成する系列データ生成手段と、
前記M個の系列データを予め学習された回帰型ニューラルネットワーク(RNN)エンコーダにそれぞれ入力し該M個の系列データに対応するM個の特徴ベクトルを導出する導出手段と、
前記M個の特徴ベクトルを結合することにより前記所定サイズの特徴マップを生成する生成手段と、
を有することを特徴とするデータ整形装置。
【請求項12】
電波伝搬特性を推定する推定装置に入力する特徴マップを生成するデータ整形装置の制御方法であって、
前記推定装置は、所定サイズの特徴マップを予め学習された深層ニューラルネットワーク(DNN)に入力することにより電波伝搬特性を推定するよう構成されており、
前記データ整形装置は、地表および建物に関する第1情報および電波の送信点および受信点の位置に関する第2情報を取得可能に構成されており、
前記制御方法は、
取得することになる前記第1情報及び前記第2情報の地理的範囲を決定する範囲決定工程と、
前記地理的範囲における前記第1情報及び前記第2情報を取得する取得工程と、
前記取得工程により取得された前記第1情報及び前記第2情報のデータに基づいて、前記地理的範囲において設定されるM個の地理的経路それぞれに沿ったM個の系列データを生成する系列データ生成工程と、
前記M個の系列データを予め学習された回帰型ニューラルネットワーク(RNN)エンコーダにそれぞれ入力し該M個の系列データに対応するM個の特徴ベクトルを導出する導出工程と、
前記M個の特徴ベクトルを結合することにより前記所定サイズの特徴マップを生成する生成工程と、
を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項13】
コンピュータに、請求項10または12に記載の制御方法を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波伝搬特性を推定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニューラルネットワーク(NN)を利用して、地図データを入力として電波伝搬特性を推定する技術が知られている。例えば、特許文献1では、電波の障害となり得る構造を表す第1パラメータを地図データから抽出し、抽出された第1パラメータと無線通信システムの構成を表す第2パラメータとに全結合ニューラルネットワーク(FNN)を適用することによって、電波伝搬特性を推定する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1が開示するような手法においては、一定の画像サイズ(例えば64×64画素)とした地図データをNNに入力する必要がある。しかしながら、送受信間距離(送信点と受信点の間の距離)が変わると画像サイズが変わってしまうため、解像度を固定して一定範囲の地図データを抽出する場合、送受信間距離によっては情報の不足もしくは重複が生じることになる。一方、地図の抽出範囲を可変として、一定の画像サイズにスケーリング(解像度変更)する場合、当該スケーリングにより1画素がもつ物理的意味が変わってしまう。このように、NNに入力するデータを用意するのは一般に困難となる。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、ニューラルネットワークを用いた電波伝搬推定を効率的に行う技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の問題点を解決するため、本発明に係る電波伝搬特性を推定する推定装置は以下の構成を備える。すなわち、推定装置は、
地表および建物に関する第1情報および電波の送信点および受信点の位置に関する第2情報を取得する取得手段と、
前記取得手段が取得する前記第1情報及び前記第2情報の地理的範囲を決定する範囲決定手段と、
前記取得手段により取得された前記地理的範囲における前記第1情報及び前記第2情報に基づいて、前記地理的範囲において設定されるM個の地理的経路それぞれに沿ったM個の系列データを生成する系列データ生成手段と、
前記M個の系列データを予め学習された回帰型ニューラルネットワーク(RNN)エンコーダにそれぞれ入力し該M個の系列データに対応するM個の特徴ベクトルを導出する導出手段と、
前記M個の特徴ベクトルを結合することにより特徴マップを生成する生成手段と、
前記特徴マップを予め学習された深層ニューラルネットワーク(DNN)に入力し、電波伝搬特性を推定する推定手段と、
を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ニューラルネットワークを用いた電波伝搬推定を効率的に行う技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】電波伝搬推定装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図3】電波伝搬推定装置の機能構成および処理の流れを示す図である。
【
図4】第1実施形態における多次元ベクトルxを説明する図である。
【
図5】対象領域の建物高データを生成するフローチャートである。
【
図6】異なる送受信間距離の地図データから生成される特徴マップを説明する図である。
【
図7】多次元ベクトルxの他の例を説明する図である(直交座標系)。
【
図8】多次元ベクトルxの他の例を説明する図である(極座標系)。
【
図9】多次元ベクトルxの他の例を説明する図である(楕円座標系)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
(第1実施形態)
本発明に係る電波伝搬推定装置の第1実施形態として、深層ニューラルネットワーク(DNN)を利用する電波伝搬推定装置を例に挙げて以下に説明する。DNNとして、全結合ニューラルネットワーク(FNN)や畳み込みニューラルネットワーク(CNN)などを用いることが出来る。
【0011】
<概要>
課題の欄で述べたように、DNNを利用する電波伝搬推定装置においては、DNNへ入力するデータを用意するのが一般に困難である。すなわち、送受信間距離(送信点と受信点の間の距離)が変わると画像サイズが変わってしまうため、統一性が取れたデータを多数生成するのが困難だからである。
【0012】
ところで、自然言語処理において、RNN(回帰型ニューラルネットワーク)を用いた処理システムが提案されている。特に、文献Aには、RNNを利用して、入力される文章を固定長の特徴ベクトルに変換して処理するシステムが記載されている。
文献A:K. Cho et al., "Learning Phrase Representations using RNN Encoder-Decoder for Statistical Machine Translation",arXiv:1406.1078v1, 2014年6月
【0013】
図1は、文献AのFigure1に示されるRNNエンコーダ・デコーダモデルを説明する図である。RNNエンコーダは、入力された長さTのデータ系列に対して、固定長の特徴ベクトル(入力文章の意味を表すベクトル)を出力する。その後、RNNデコーダは、固定長の特徴ベクトルに基づいて長さT’のデータ系列を生成し出力する。すなわち、RNNエンコーダは、様々な長さ(可変長)のデータ系列を、統一性が取れた固定長データに変換するという特性を有している。
【0014】
そこで、第1実施形態では、このRNNエンコーダの特性を利用して、様々な長さの送受信間距離に対応する地図データを、RNNエンコーダに入力し、統一性が取れた固定長データに変換する。そして、RNNエンコーダから出力された固定長データを結合して、DNNへ入力するデータ(特徴マップ)を生成する。これにより、送受信間距離によって変わる環境情報(距離など)を、物理的意味を維持したまま、固定長データに変換することが出来る。そのため、DNNへ入力する一定サイズのデータ(特徴マップ)を効率的に生成することが可能となる。
【0015】
<ハードウェア構成>
図2は、電波伝搬推定装置200のハードウェア構成を示す図である。電波伝搬推定装置200は、一例において、プロセッサ201、ROM202、RAM203、記憶部204、操作部205、表示部206を含んで構成される。なお、有線/無線の通信部(不図示)などを含む各種インタフェースをさらに含んでもよい。
【0016】
プロセッサ201は、汎用のCPU(中央演算装置)や、ASIC(特定用途向け集積回路)等の、1つ以上の処理回路を含んで構成されるコンピュータであり、ROM202や記憶装置204に記憶されているプログラムを読み出して実行することにより、装置の全体の処理や、後述の各処理を実行する。なお、ニューラルネットワーク(NN)の処理に、GPU(グラフィックスプロセッシングユニット)やNPU(ニューラル)プロセッシングユニット)を用いるよう構成してもよい。
【0017】
ROM202は、UE101が実行する処理に関するプログラムや各種パラメータ等の情報を記憶する読み出し専用メモリである。RAM203は、プロセッサ201がプログラムを実行する際のワークスペースとして機能し、また、一時的な情報を記憶するランダムアクセスメモリである。記憶部204は、例えば着脱可能な外部記憶装置等によって構成される。
【0018】
操作部205は、ユーザからの操作入力を受け付ける機能部である。例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなどの装置により実現される。表示部206は、ユーザに情報を提示する機能部であり、GUI(グラフィカルユーザインタフェース)を表示する。例えば液晶/有機ELディスプレイなどの装置により実現される。なお、操作部205と表示部206が一体化されたタッチパネルディスプレイを用いることも可能である。
【0019】
<機能構成および処理の流れ>
図3(A)は、電波伝搬推定装置200の機能構成を示す図である。電波伝搬推定装置200は、標高・建物データベース(DB)301、送受信点DB302、範囲決定部303、系列データ生成部304、RNNエンコーダ305、統合部306、DNN307を含んで構成される。なお、以下では、
図2に示す1台のハードウェア装置により、上述の全ての機能部を実現するとして説明するが、複数のハードウェア装置で機能分担して全ての機能部を実現するように構成してもよい。例えば、標高・建物DB301および送受信点DB302をデータベース装置、範囲決定部303~統合部306をデータ整形装置、DNN307を電波伝搬推定装置とした3台構成としてもよい。
【0020】
標高・建物DB301は、例えば経度・緯度と関連付けられた地表の標高データおよび建物の形状データ(以下では地図データとも呼ぶ)を格納したデータベースである。送受信点DB302は、送信点および受信点の位置情報(高さなどを含む)を格納したデータベースである。標高・建物DB301および送受信点DB302は、例えば、記憶部204により実現される。ただし、ネットワーク上の外部データベース装置(不図示)により実現してもよい。その場合、電波伝搬推定装置200は、通信部(不図示)を介して、これらのデータを取得可能に構成される。例えば、標高・建物DB301として、国土交通省により提供される3D都市モデルであるPLATEAUを使用してもよい。
【0021】
範囲決定部303は、電波伝搬推定の対象となる地理的範囲を決定する機能部である。範囲決定部303は、決定した範囲(対象領域)をメッシュ状/グリッド状に分割する。
図4では、対象領域の地図データをM行n列の複数のグリッドに分割した例を示している。そして、1つの単位領域(グリッド)毎に複数の環境情報(
図4では「建物高」「建物占有率」「送信点距離」の3つ)を決定する。環境情報の生成方法については、
図5を参照して後述する。
【0022】
系列データ生成部304は、所与の地理的経路(
図4では横軸方向(左から右))に沿った系列データを生成する。ここではM個の系列データ生成部304が用意されており、それぞれが、対象領域の地図データの1行分のデータに対する系列データを生成する。すなわち、系列データは、所与の地理的経路に沿った多次元ベクトルのデータ列である。
【0023】
図4は、第1実施形態における多次元ベクトルxを説明する図である。
図4下段に示す地図データは、範囲決定部303が決定した対象領域に対応する。ここでは、対象領域が、5行n列のグリッドに分割された例を示している。対象領域の1行目(一番上の1行)に対応する系列データが
図4上段に例示的に示されている。上述したように、ここでは、1つのグリッドに対して「建物高」「建物占有率」「送信点距離」の3つの環境情報が含まれ、それを経路に沿ってn個連結したものが1つの系列データ(x
M
1~x
M
n)に相当する。
【0024】
RNNエンコーダ305は、対応する系列データ生成部304により生成され入力された系列データに対して演算を行い、固定長データである隠れ層ベクトルh
M
1~h
M
nを導出する。この処理は、
図3(B)に示されている。
図3(A)に示されるように、系列データ生成部304およびRNNエンコーダ305はMセット用意される。統合部306は、RNNエンコーダ305により生成され入力された隠れ層ベクトルh
M
1~h
M
nを結合し、1つの特徴マップを生成する。特徴マップは、
図3(C)に示されているように、所定サイズの特徴マップ(L行M列のテンソル)である。なお、Lはhの次元である。RNNエンコーダ305の学習処理については、既存の技術(文献Aなど)を利用することが出来るため、詳細な説明は省略する。
【0025】
図6は、異なる送受信間距離の地図データから生成される特徴マップを説明する図である。ここでは、
図6(A)の送受信間距離は
図6(B)の送受信間距離よりも長い。しかしながら、上述したように、RNNエンコーダは、送受信間距離によって変わる環境情報(距離など)を、物理的意味を維持したまま、固定長データ(固定長の特徴ベクトル)に変換することが出来る。そのため、
図6(A)で生成される特徴マップと
図6(B)で生成される特徴マップは、双方とも、同等の物理的意味が維持されたデータとなる。
【0026】
DNN307は、入力された特徴マップに対して電波伝搬特性を出力するように予め学習されたニューラルネットワークである。上述したように、DNN307として、FNN、CNNなどを利用することが出来る。なお、DNN307の学習処理や推定処理については、既存の技術(特許文献1など)を利用することが出来るため、詳細な説明は省略する。
【0027】
<環境情報の生成方法>
図5は、対象領域の建物高データを生成するフローチャートである。この処理は、範囲決定部303により実行される。
【0028】
S501では、範囲決定部303は、標高・建物DB301から3次元データ(建物の形状データ)を読み込む。S502では、範囲決定部303は、対象領域を複数のグリッドに分割する。1つのグリッドの地理的サイズは例えば5m四方、1m四方などである。その後、以下のS503~S504の処理がグリッド毎に実行される。
【0029】
S503では、範囲決定部303は、3次元データ(建物の位置)に基づいて、現在注目しているグリッド内の全ての建物を列挙する。S504では、範囲決定部303は、3次元データ(建物高)に基づいて、現在注目しているグリッド内における最大の建物高を抽出する。全てのグリッドに対して建物高(建物がない場合は標高)を抽出し、
図4上段の「建物高」データが生成されることになる。
【0030】
なお、「建物高」として、最大建物高から、送信アンテナ高(もしくは受信アンテナ高)を減算した「相対建物高」を算出してもよい。
【0031】
また、「建物占有率」データも同様にして生成可能である(S504の処理が、3次元データ(建物の位置)に基づく建物占有率の算出処理になる)。また、「送信点距離」は、送受信点DB302から読み出される対象領域内の送信点の位置情報と各グリッドの位置情報に基づき(例えば直線距離(m)として)算出される。なお、距離の対数値を算出してもよい。また、送信点距離の代わりに受信点距離を算出するよう構成してもよい。
【0032】
以上説明したとおり第1実施形態によれば、様々な長さの送受信間距離に対応する地図データを、RNNエンコーダに入力し、統一性が取れた固定長データに変換する。そして、RNNエンコーダから出力された固定長データを結合して、(電波伝搬推定を行う)DNNへ入力するデータを生成する。これにより、送受信間距離によって変わる環境情報を、物理的意味を維持したまま、固定長データに変換することが出来る。そのため、DNNへ入力する一定サイズのデータ(特徴マップ)を効率的に生成することが可能となり、電波伝搬推定を効率的に行うことが可能となる。また、より多くの特徴マップを利用可能になるため、これらの特徴マップを用いてDNNの学習を行うことにより、電波伝搬特性のモデル化の精度向上が期待できる。
【0033】
(変形例)
上述の第1実施形態では、RNNエンコーダに入力する多次元ベクトル(xM
n)として、1つの単位領域(グリッド)における複数の環境情報(建物高、建物占有率、距離)を含む多次元ベクトルを用いた。しかし、xM
nはこれに限定されない。例えば、経路に沿った複数の単位領域における1つの環境情報(建物高)を含む多次元ベクトルを用いてもよい。
【0034】
図7は、多次元ベクトルxの他の例を説明する図である。具体的には、直交座標系の経路に沿った複数のグリッドにおける建物高を含む多次元ベクトルを用いる例を示している。
【0035】
上述の第1実施形態と同様に、対象領域は縦方向(列方向、緯度方向)、横方向(行方向、経度方向)それぞれに分割され、複数のグリッドに分割される。ただし、第1実施形態とは異なり、横方向に連続した複数(ここでは3つ)のグリッドにおける建物高のデータがxM
nとして設定される。ここでは、xM
1は1行目の1~3列目に相当する3つのグリッドのデータを含み、xM
2は1行目の2~4列目に相当する3つのグリッドのデータを含んでいる。同様に順次3つのグリッドを右方向にスライドさせてn個の多次元ベクトルxを生成している。
【0036】
このように生成されたn個の多次元ベクトルxをRNNエンコーダに入力することにより、固定長のn個の特徴ベクトルhが得られる。n個の特徴ベクトルhを結合し予め学習したDNNに入力することにより、第1実施形態と同様に電波伝搬特性の推定値が得られる。なお、電波伝搬推定装置の構成については第1実施形態(
図2,
図3)と同様であるため説明は省略する。
【0037】
図8は、多次元ベクトルxのさらに他の例を説明する図である。具体的には、極座標系の経路に沿った複数のグリッドにおける建物高を含む多次元ベクトルを用いる例を示している。
【0038】
上述の第1実施形態とは異なり、対象領域は送信点(Tx)を中心とした極座標で規定される複数のグリッドに分割される。ここでは、送信点を中心とし、かつ受信点(Rx)の方向を基準(θ=0)とし反時計回りに偏角θを規定している。動径方向の距離rは送信点からの距離に一致する。ここでは、xM
1は、所与の偏角方向において中心から1~3個目に相当する3つのグリッドのデータを含み、xM
2は2~4個目に相当する3つのグリッドのデータを含んでいる。同様に順次3つのグリッドを外側にスライドさせてn個の多次元ベクトルxを生成している。
【0039】
このように直交座標系のグリッド分割でなくとも、n個の多次元ベクトルxを規定することが可能である。n個の多次元ベクトルxをRNNエンコーダに入力することにより、固定長のn個の特徴ベクトルhが得られる。n個の特徴ベクトルhを結合し、予め学習したDNNに入力することにより、第1実施形態と同様に電波伝搬特性の推定値が得られる。
【0040】
また、様々な座標系に従ったグリッド分割が可能であるが、送信点(Tx)および受信点(Rx)を2つの楕円の焦点として規定される楕円座標系を用いることも可能である。
【0041】
図9は、多次元ベクトルxのさらに他の例を説明する図である。具体的には、楕円座標系の経路に沿った複数のグリッドにおける建物高を含む多次元ベクトルを用いる例を示している。楕円の定義から、楕円上の任意の点Pに関して、(TxとPの間の距離)+(RxとPの間の距離)=一定、である。ここでは、x
M
1は、所与の方向において、r=(TxとPの間の距離)として、中心から1~3個目に相当する3つのグリッドのデータを含んでいる。そして、順次3つのグリッドを外側にスライドさせてn個の多次元ベクトルxを生成している。
【0042】
なお、特徴量として、距離データおよび周波数により計算できる、自由空間伝搬損失(dB)を用いてもよい。あるいは、ITU-R M.2412の伝搬損失モデル式のパラメータ (UMa,UMi,RMaなど)を用いてもよい。
【0043】
なお、本発明により、ニューラルネットワークを用いた電波伝搬特性の推定を効率的に行うことが可能となる。したがって、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献することが可能となる。
【0044】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0045】
200 電波伝搬推定装置; 301 標高・建物DB; 302 送受信点DB; 303 範囲決定部; 304 系列データ生成部; 305 RNNエンコーダ; 306 統合部; 307 DNN