(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048844
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】回転角検出装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/04 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
G01D5/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154969
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】柳原 俊太郎
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA20
2F077CC02
2F077CC08
2F077DD05
2F077JJ01
2F077JJ09
2F077JJ23
(57)【要約】
【課題】回転検出対象の回転角度の検出精度を向上させることができる回転角検出装置を提供する。
【解決手段】回転角検出装置10は、シャフト14と一体的に回転する主動歯車11と、主動歯車11に噛合する第1の従動歯車12および第2の従動歯車13とを備えている。第1の従動歯車12と第2の従動歯車13との歯数は異なる。回転角検出装置10は、第1の従動歯車12の回転角度θ
1を検出するための第1の磁気センサ17と、第2の従動歯車13の回転角度θ
2を検出するための第2の磁気センサ18とを備えている。回転角検出装置10は、マイクロコンピュータ19を備えている。マイクロコンピュータ19は、回転角度θ
1に基づき演算される主動歯車11の回転角度θ
mと、回転角度θ
2に基づき演算される主動歯車11の回転角度θ
mとの平均値を、最終的な主動歯車11の回転角度θ
mとして演算する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転検出対象と一体的に回転する主動歯車と、
前記主動歯車に噛合する歯数の異なる複数の従動歯車と、
複数の前記従動歯車の回転角度を検出するための複数のセンサと、
複数の前記センサを通じて検出される複数の前記従動歯車の回転角度に基づき前記主動歯車の回転角度を演算する演算回路と、を備え、
前記演算回路は、複数の前記センサを通じて検出される複数の前記従動歯車の回転角度に基づき演算される前記主動歯車の回転角度の平均値を、最終的な前記主動歯車の回転角度として演算する回転角検出装置。
【請求項2】
複数の前記従動歯車は、第1の従動歯車と、第2の従動歯車とを含み、
前記主動歯車、前記第1の従動歯車、および前記第2の従動歯車の回転中心軸は、軸方向からみて同一の直線上に位置している請求項1に記載の回転角検出装置。
【請求項3】
前記第1の従動歯車の歯数と前記第2の従動歯車の歯数との差である歯数差が、1となるように、前記第1の従動歯車の歯数と前記第2の従動歯車の歯数とが設定されている請求項2に記載の回転角検出装置。
【請求項4】
複数の前記従動歯車は、第1の従動歯車と、第2の従動歯車と、第3の従動歯車とを含んでいる請求項1に記載の回転角検出装置。
【請求項5】
前記回転検出対象は、車両の操舵装置におけるステアリングシャフトあるいはピニオンシャフトである請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の回転角検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転角検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1の回転角検出装置は、シャフトと一体的に回転する主動歯車と、主動歯車に歯合する2つの従動歯車とを備えている。2つの従動歯車の歯数は互いに異なっているため、主動歯車の回転に伴う2つの従動歯車の回転角度も互いに異なる。回転角検出装置の演算回路は、2つの従動歯車にそれぞれ対応して設けられたセンサを通じて2つの従動歯車の回転角度を検出し、これら検出される回転角度に基づいて主動歯車の回転角度を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1を含む従来の回転角検出装置においては、つぎのようなことが懸念される。すなわち、主動歯車の触れ回り、あるいは振動などによって、主動歯車の回転中心軸が本来の位置からずれるおそれがある。この場合、主動歯車の回転中心軸がずれる分だけ、従動歯車の回転角度に誤差が生じる。このため、主動歯車の回転中心軸のずれは、演算される主動歯車の回転角度の誤差を大きくする一因となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決し得る回転角検出装置は、回転検出対象と一体的に回転する主動歯車と、
前記主動歯車に噛合する歯数の異なる複数の従動歯車と、複数の前記従動歯車の回転角度を検出するための複数のセンサと、複数の前記センサを通じて検出される複数の前記従動歯車の回転角度に基づき前記主動歯車の回転角度を演算する演算回路と、を備えている。前記演算回路は、複数の前記センサを通じて検出される複数の前記従動歯車の回転角度に基づき演算される前記主動歯車の回転角度の平均値を、最終的な前記主動歯車の回転角度として演算する。
【0006】
この構成によれば、主動歯車の位置ずれに伴う、主動歯車の回転角度の誤差を低減することができる。したがって、回転検出対象の回転角度の検出精度を向上させることができる。
【0007】
上記の回転角検出装置において、複数の前記従動歯車は、第1の従動歯車と、第2の従動歯車とを含んでいてもよい。この場合、前記主動歯車、前記第1の従動歯車、および前記第2の従動歯車の回転中心軸は、軸方向からみて同一の直線上に位置していてもよい。
【0008】
この構成によれば、第1の従動歯車と第2の従動歯車とが、主動歯車に対して、直線に沿った方向において互いに反対側に位置する。直線に直交する方向に主動歯車の位置がずれることに伴い、第1の従動歯車と第2の従動歯車とが互いに反対方向に回転する。すなわち、主動歯車の位置ずれに伴い発生する、第1の従動歯車の誤差と第2の従動歯車の誤差とが打ち消し合う。したがって、主動歯車の回転角度の誤差を低減することができる。
【0009】
上記の回転角検出装置において、前記第1の従動歯車の歯数と前記第2の従動歯車の歯数との差である歯数差が、1となるように、前記第1の従動歯車の歯数と前記第2の従動歯車の歯数とが設定されていてもよい。
【0010】
この構成によれば、主動歯車の回転角度の誤差を最も低減することができる。第1の従動歯車の歯数と第2の従動歯車の歯数との差が小さくなるほど、主動歯車の回転角度の誤差が小さくなる。
【0011】
上記の回転角検出装置において、複数の前記従動歯車は、第1の従動歯車と、第2の従動歯車と、第3の従動歯車とを含んでいてもよい。
この構成によれば、3つの従動歯車を有する回転角検出装置を構築する場合であれ、主動歯車の位置ずれに伴う、主動歯車の回転角度の誤差を低減することができる。
【0012】
上記の回転角検出装置において、前記回転検出対象は、車両の操舵装置におけるステアリングシャフトあるいはピニオンシャフトであってもよい。
この構成によるように、回転角検出装置は、ステアリングシャフトあるいはピニオンシャフトの回転角度を検出する用途に好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の回転角検出装置によれば、回転検出対象の回転角度の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】回転角検出装置の一実施の形態の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】一実施の形態にかかる主動歯車の位置ずれを説明するための模式図である。
【
図3】一実施の形態にかかる第1の従動歯車および第2の従動歯車の誤差を説明するための模式図である。
【
図4】一実施の形態にかかる第1の従動歯車および第2の従動歯車の誤差を説明するための模式図である。
【
図5】一実施の形態にかかる第1の従動歯車と第2の従動歯車との歯数差と、主動歯車、第1の従動歯車および第2の従動歯車の誤差との関係を示すグラフである。
【
図6】回転角検出装置の他の実施の形態の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、回転角検出装置の一実施の形態を説明する。
図1に示すように、回転角検出装置10は、主動歯車11、第1の従動歯車12,および第2の従動歯車13を有している。主動歯車11は、回転検出対象であるシャフト14に対して一体回転可能に設けられている。第1の従動歯車12および第2の従動歯車13は、主動歯車11と噛み合っている。第1の従動歯車12の歯数と第2の従動歯車13の歯数とは互いに異なっている。このため、シャフト14の回転に連動して主動歯車11が回転した場合、主動歯車11の回転角度θ
mに対する第1の従動歯車12の回転角度θ
1および第2の従動歯車13の回転角度θ
2は互いに異なる値となる。たとえば、主動歯車11の歯数を「z
0」、第1の従動歯車12の歯数を「z
1」、第2の従動歯車13の歯数を「z
2」とした場合、主動歯車11が1回転したとき、第1の従動歯車12は「z
0/z
1」だけ回転する一方、第2の従動歯車13は「z
0/z
2」だけ回転する。
【0016】
主動歯車11、第1の従動歯車12、および第2の従動歯車13は、たとえば、同一の直線L1上に位置する。軸方向からみて、直線L1は、主動歯車11の回転中心軸Ob、第1の従動歯車12の回転中心軸Os、および第2の従動歯車13の回転中心軸Otを通る直線である。すなわち、第1の従動歯車12と第2の従動歯車13とは、主動歯車11に対して、直線L1に沿った方向において互いに反対側に位置している。
【0017】
第1の従動歯車12とおよび第2の従動歯車13は、直線L1に沿った方向に移動可能である。第1の従動歯車12とおよび第2の従動歯車13の直線L1に沿った方向の移動は、図示しないガイド部材によって案内される。また、第1の従動歯車12とおよび第2の従動歯車13は、図示しない付勢部材の付勢力によって、直線L1に沿った方向、かつ主動歯車11に近づく方向に常時付勢されている。
【0018】
回転角検出装置10は、第1の磁石15、第2の磁石16、第1の磁気センサ17、第2の磁気センサ18、および演算回路としてのマイクロコンピュータ19を有している。
第1の磁石15は、第1の従動歯車12に対して一体回転可能に設けられている。第2の磁石16は、第2の従動歯車13に対して一体回転可能に設けられている。第1の磁気センサ17は、第1の磁石15の近傍に設けられていて、第1の磁石15が発生する磁界を検出する。第2の磁気センサ18は、第2の磁石16の近傍に設けられていて、第2の磁石16が発生する磁界を検出する。
【0019】
第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18としては、たとえばホールセンサが採用される。第1の磁気センサ17は、第1の従動歯車12の回転に基づいて電気信号を生成するセンサに対応している。第2の磁気センサ18は、第2の従動歯車13の回転に基づいて電気信号を生成するセンサに対応している。
【0020】
第1の磁気センサ17は、マイクロコンピュータ19に接続されている。第1の磁気センサ17は、第1の磁石15から入力された磁束密度に応じた電気信号S1を生成する。マイクロコンピュータ19は、第1の磁気センサ17によって生成される電気信号S1に基づいて、第1の従動歯車12の回転角度θ1を演算する。第2の磁気センサ18は、マイクロコンピュータ19に接続されている。第2の磁気センサ18は、第2の磁石16から入力された磁束密度に応じた電気信号S2を生成する。マイクロコンピュータ19は、第2の磁気センサ18によって生成される電気信号S2に基づいて、第2の従動歯車13の回転角度θ2を演算する。
【0021】
主動歯車11の回転角度θmの変化に対して第1の従動歯車12の回転角度θ1および第2の従動歯車13の回転角度θ2は、つぎのように変化する。すなわち、主動歯車11の回転角度θmの変化に伴い、第1の従動歯車12の回転角度θ1は、歯数z1に応じて所定の周期で立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。具体的には、回転角度θ1は、第1の従動歯車12が第1の磁気センサ17の検出範囲Ωだけ回転するごとに、換言すれば、主動歯車11が「z1・Ω/z0」だけ回転するごとに、立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。また、第2の従動歯車13の回転角度θ2は、第2の従動歯車13の歯数z2に応じて、所定の周期で立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。具体的には、回転角度θ2は、第2の従動歯車13が第2の磁気センサ18の検出範囲Ωだけ回転するごとに、換言すれば、主動歯車11が「z2・Ω/z0」だけ回転するごとに、立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。
【0022】
第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18の検出範囲Ωにおける第1の従動歯車12の回転角度θ1と第2の従動歯車13の回転角度θ2との位相差は、主動歯車11の回転角度θmが所定値に達したときに無くなる。このため、主動歯車11の360°を超える多回転の回転角度θmの演算範囲(演算できる範囲)は、第1の従動歯車12の歯数z1、第2の従動歯車13の歯数z2、ならびに主動歯車11の歯数z0の比により決まる。
【0023】
マイクロコンピュータ19は、第1の磁気センサ17を通じて検出される第1の従動歯車12の回転角度θ1、および第2の磁気センサ18を通じて検出される第2の従動歯車13の回転角度θ2を使用して、主動歯車11の360°を超える多回転の回転角度θmを絶対値で演算する。主動歯車11の回転角度θmは、シャフト14の回転角度でもある。
【0024】
マイクロコンピュータ19は、主動歯車11の回転角度θmを演算する際、まず第1の従動歯車12の回転角度θ1と第2の従動歯車13の回転角度θ2との差を演算する。主動歯車11の回転角度θmと、2つの回転角度θ1,θ2の差との関係は、つぎの通りである。
【0025】
2つの回転角度θ1,θ2の差の値は、第1の従動歯車12の回転角度θ1が立ち上がりと立ち下がりを繰り返す周期ごとに、主動歯車11の回転角度θmに対して固有の値となる。すなわち、2つの回転角度θ1,θ2の差の値は、第1の従動歯車12の回転角度θ1の周期数に対して固有の値となる。また、2つの回転角度θ1,θ2の差の値は、第2の従動歯車13の回転角度θ2が立ち上がりと立ち下がりを繰り返す周期ごとに、主動歯車11の回転角度θmに対して固有の値となる。すなわち、2つの回転角度θ1,θ2の差の値は、第2の従動歯車13の回転角度θ2の周期数に対して固有の値となる。
【0026】
したがって、マイクロコンピュータ19は、2つの回転角度θ1,θ2の差の値に基づき、第1の従動歯車12の周期数を演算することができる。周期数は、第1の磁気センサ17の検出範囲(1周期)を何回繰り返しているかを示す整数値である。
【0027】
マイクロコンピュータ19は、たとえば、図示しない記憶装置に格納されるテーブルを参照することにより第1の従動歯車12の周期数を演算する。テーブルは、2つの回転角度θ1,θ2の差の値と第1の従動歯車12の周期数との関係を規定するものであって、たとえば、実験あるいはシミュレーションを通じて設定される。
【0028】
マイクロコンピュータ19は、第1の従動歯車12の回転角度θ1および第1の従動歯車12の周期数に基づき、主動歯車11の回転角度θmを絶対値で演算する。主動歯車11の360°を超える多回転の回転角度θmは、たとえば、つぎの数式1に基づき求められる。
【0029】
【0030】
ただし、「z1」は第1の従動歯車12の歯数、「z2」は第2の従動歯車13の歯数、「z0」は主動歯車11の歯数である。「Ω」は、第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18の検出範囲である。「θ1」は、第1の磁気センサ17を通じて検出される第1の従動歯車12の回転角度である。「z1・θ1/z0」は、第1の磁気センサ17の検出範囲Ωにおける第1の従動歯車12の回転角度θ1に対する主動歯車11の回転角度である。「γ1」は、第1の従動歯車12の周期数である。
【0031】
ちなみに、マイクロコンピュータ19は、2つの回転角度θ1,θ2の差の値に基づき、第2の従動歯車13の回転角度θ2の周期数を演算することもできる。周期数は、第2の磁気センサ18の検出範囲(1周期)を何回繰り返しているかを示す整数値である。
【0032】
マイクロコンピュータ19は、たとえば、図示しない記憶装置に格納されるテーブルを参照することにより第1の従動歯車12の周期数を演算する。テーブルは、2つの回転角度θ1,θ2の差の値と第2の従動歯車13の周期数との関係を規定するものであって、たとえば、実験あるいはシミュレーションを通じて設定される。
【0033】
マイクロコンピュータ19は、第2の従動歯車13の回転角度θ2および第2の従動歯車13の周期数に基づき、主動歯車11の回転角度θmを絶対値で演算する。主動歯車11の360°を超える多回転の回転角度θmは、たとえば、つぎの数式2に基づき求められる。
【0034】
【0035】
ただし、「z1」は第1の従動歯車12の歯数、「z2」は第2の従動歯車13の歯数、「z0」は主動歯車11の歯数である。「Ω」は、第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18の検出範囲である。「θ2」は、第2の磁気センサ18を通じて検出される第2の従動歯車13の回転角度である。「z2・θ2/z0」は、第2の磁気センサ18の検出範囲Ωにおける第2の従動歯車13の回転角度θ2に対する主動歯車11の回転角度である。「γ2」は、第2の従動歯車13の周期数である。
【0036】
<主動歯車11の位置ずれについて>
マイクロコンピュータ19は、数式1および数式2のうちいずれか一方に基づき、主動歯車11の回転角度θmを演算することが考えられる。ただし、この場合、つぎのようなことが懸念される。すなわち、主動歯車11は、たとえば軸長がより長いシャフト14に取り付けられる。このため、シャフト14の触れ回り、あるいは振動などに起因して、主動歯車11の位置ずれが発生しやすい。たとえば、主動歯車11の回転中心軸Obが本来の位置からずれるおそれがある。
【0037】
第1の従動歯車12および第2の従動歯車13は、直線L1に沿った方向に移動可能であって、図示しない付勢部材の付勢力によって、直線L1に沿った方向、かつ主動歯車11に近づく方向に常時付勢されている。このため、主動歯車11の直線L1に沿った方向の位置ずれは、第1の従動歯車12と第2の従動歯車13とが主動歯車11の直線L1に沿った方向の移動に追従することにより吸収される。したがって、主動歯車11の直線L1に直交する方向の位置ずれが主動歯車11の回転角度θmに及ぼす影響が懸念される。
【0038】
図2に示すように、主動歯車11の回転中心軸Obが直線L1に直交する方向に距離kだけずれた場合、第1の従動歯車12の回転角度θ
1には、誤差αが生じる。すなわち、主動歯車11が回転していなくても誤差αの分だけ第1の従動歯車12が回転することにより、数式1に示される第1の従動歯車12の回転角度θ
1に基づき演算される主動歯車11の回転角度θ
mが実際の回転角度θ
mとは異なる値になる。
【0039】
また、主動歯車11の回転中心軸Obが、直線L1に直交する方向に距離kだけずれた場合、第2の従動歯車13の回転角度θ2には、誤差βが生じる。すなわち、主動歯車11が回転していなくても誤差βの分だけ第2の従動歯車13が回転することにより、数式2に示される第2の従動歯車13の回転角度θ2に基づき演算される主動歯車11の回転角度θmが実際の回転角度θmとは異なる値になる。
【0040】
<誤差α,βの演算方法>
主動歯車11の回転中心軸Obが直線L1に直交する方向に距離kだけずれた場合に第1の従動歯車12の回転角度θ1に生じる誤差αは、つぎのようにして求めることができる。
【0041】
図3に示すように、ここでは、主動歯車11の回転中心軸Obが直線L1に直交する方向に距離kだけ移動することにより、第1の従動歯車12が誤差αの分だけ主動歯車11の周りを転動すると仮定する。第1の従動歯車12は、
図3に二点鎖線で示される第1の位置から、
図3に実線で示される第2の位置へ移動する。第1の位置は、第1の従動歯車12と主動歯車11とが、点Nで接する位置である。第2の位置は、第1の従動歯車12と主動歯車11とが、点Qで接する位置である。第1の従動歯車12が第2の位置にあるとき、第1の従動歯車12が第1の位置にあるときに主動歯車11と接していた点Pは、点Qから時計方向に誤差αの分だけずれている。
【0042】
さて、第1の従動歯車12の弧PQの長さと、主動歯車11の弧NQの長さとは同じである。このため、つぎの数式3が成立する。
【0043】
【0044】
ただし、「r1」は、第1の従動歯車12の半径である。「α」は誤差である。「R」は、主動歯車11の半径である。「T」は、弧NQの両端と主動歯車11の回転中心軸Obとを結んでできる中心角である。なお、半径は、たとえば歯車のピッチ円の半径である。以下、同様である。
【0045】
数式4を誤差αについて解くと、つぎの数式4が得られる。
【0046】
【0047】
図4に示されるように、直線N-Obを底辺とし、直線Ob-Osを斜辺とする直角三角形を考えると、中心角Tは、つぎの数式5で表される。
【0048】
【0049】
ただし、「k」は、主動歯車11の回転中心軸Obが直線L1に直交する方向に移動した距離である。「R」は、主動歯車11の半径である。「r1」は、第1の従動歯車12の半径である。
【0050】
主動歯車11の半径R、第1の従動歯車12の半径r1、および距離kは既知である。このため、数式5から得られる中心角Tを、数式4に適用することにより、誤差αを求めることができる。
【0051】
主動歯車11の回転中心軸Obが直線L1に直交する方向に距離kだけずれた場合に第2の従動歯車13の回転角度θ2に生じる誤差βについても、誤差αと同様の手順で求めることができる。
【0052】
図3に括弧付きの符号を付して示すように、第1の従動歯車12を第2の従動歯車13に置き換えて考える。すると、誤差βは、つぎの数式6で表される。
【0053】
【0054】
ただし、「R」は、主動歯車11の半径である。「U」は、第1の従動歯車12を第2の従動歯車13に置き換えた場合の弧NQの両端と主動歯車11の回転中心軸Obとを結んでできる中心角である。「r2」は、第2の従動歯車13の半径である。
【0055】
図4に括弧付きの符号を付して示すように、直線N-Obを底辺とし、直線Ob-Otを斜辺とする直角三角形を考えると、中心角Uは、つぎの数式7で表される。
【0056】
【0057】
ただし、「k」は、主動歯車11の回転中心軸Obが直線L1に直交する方向に移動した距離である。「R」は、主動歯車11の半径である。「r2」は、第2の従動歯車13の半径である。
【0058】
主動歯車11の半径R、第2の従動歯車13の半径r2、および距離kは既知である。このため、数式7から得られる中心角Uを、数式6に適用することにより、誤差βを求めることができる。
【0059】
<主動歯車11の回転角度θmの算出方法>
本実施の形態では、主動歯車11の回転角度θmの検出誤差を抑制するために、主動歯車11の回転角度θmを、つぎのようにして算出する。
【0060】
すなわち、マイクロコンピュータ19は、第1の従動歯車12の回転角度θ1に基づき演算される主動歯車11の回転角度θm1と、第2の従動歯車13の回転角度θ2に基づき演算される主動歯車11の回転角度θm2との平均値を、最終的な主動歯車11の回転角度θmとして演算する。第1の従動歯車12の回転角度θ1に基づく主動歯車11の回転角度θm1は、先の数式1を使用して得られる角度である。第2の従動歯車13の回転角度θ2に基づく主動歯車11の回転角度θm2は、先の数式2を使用して得られる角度である。
【0061】
最終的な主動歯車11の回転角度θmは、つぎの数式8で表される。
【0062】
【0063】
ただし、「θm1」は、数式2に示される第1の従動歯車12の回転角度θ1に基づく主動歯車11の回転角度である。「θm2」は、数式3に示される第2の従動歯車13の回転角度θ2に基づく主動歯車11の回転角度である。
【0064】
第1の従動歯車12と第2の従動歯車13とは、主動歯車11に対して、直線L1に沿った方向において互いに反対側に位置している。このため、主動歯車11が直線L1に直交する方向にずれることに伴い、第1の従動歯車12と第2の従動歯車13とは互いに反対方向に回転する。したがって、数式8に基づく最終的な主動歯車11の回転角度θmには、つぎの数式9で表される誤差Δθmが生じる。
【0065】
【0066】
ただし、「α」は、主動歯車11の回転中心軸Obが直線L1に直交する方向に距離kだけずれた場合に第1の従動歯車12の回転角度θ1に生じる誤差である。「β」は、主動歯車11の回転中心軸Obが直線L1に直交する方向に距離kだけずれた場合に第2の従動歯車13の回転角度θ2に生じる誤差である。
【0067】
数式9で示される誤差Δθmは、数式1および数式2のうちいずれか一方のみに基づき演算される主動歯車11の回転角度θmの誤差よりも小さい値となる。
<誤差Δθmの検討>
つぎに、誤差Δθmについて検討する。
【0068】
数式9に、先の数式4と数式6とを適用して整理すると、つぎの数式10が得られる。
【0069】
【0070】
ここで、モジュールmは、つぎの数式11で表される。モジュールmは、歯車の歯の大きさを示す基準である。
【0071】
【0072】
数式11の関係を、先の数式10に適用して整理すると、つぎの数式12が得られる。
【0073】
【0074】
つぎに、主動歯車11の回転角度θmの誤差Δθmの計算例について説明する。ここでは、一例として、モジュールmを「1」、主動歯車11の回転中心軸Obが移動した距離kを「1」、主動歯車11の歯数z0を「40」、第1の従動歯車12の歯数z1を「20」とする。また、第2の従動歯車13の歯数z2を「20」から「45」まで変化させる。このときの主動歯車11の誤差Δθmを検討する。
【0075】
図5のグラフに示すように、第1の従動歯車12の歯数z
1と第2の従動歯車13の歯数z2との差である歯数差Δz(=z
2-z
1)が「1」であるとき、誤差Δθ
mが最も小さくなる。すなわち、関係式「z
2=z
1+1」が成立するとき、誤差Δθ
mが最も小さくなる。歯数差Δzが増加するにつれて、誤差Δθ
mが大きくなる。
【0076】
歯数差Δzが「119」よりも大きいとき、主動歯車11の誤差Δθmは、第2の従動歯車13の誤差から算出される主動歯車11の誤差「(z2/z0)β」よりも大きくなる。第1の従動歯車12の誤差から算出される主動歯車11の誤差「(z1/z0)α」は、歯数差Δzにかかわらず、主動歯車11の誤差Δθm、および第2の従動歯車13の誤差から算出される主動歯車11の誤差「(z2/z0)β」よりも大きい。
【0077】
このため、主動歯車11の誤差Δθmが、第2の従動歯車13の誤差から算出される主動歯車11の誤差「(z2/z0)β」よりも小さければ、第1の従動歯車12の回転角度θ1のみ、または第2の従動歯車13の回転角度θ2のみに基づき演算される主動歯車11の回転角度θmの誤差Δθmよりも小さいといえる。
【0078】
したがって、主動歯車11の誤差Δθmを低減するための有効な条件は、つぎの数式13で示される関係、すなわち、つぎの数式14で表される関係が成立することである。
【0079】
【0080】
【0081】
ここで、先の数式12に基づき、第1の従動歯車12の誤差αは、つぎの数式15で表される。また、先の数式12に基づき、第2の従動歯車13の誤差βは、つぎの数式16で表される。
【0082】
【0083】
【0084】
数式15および数式16を、先の数式14に適用することにより、つぎの数式17が得られる。
【0085】
【0086】
また、数式17を変形することにより、つぎの数式18が得られる。
【0087】
【0088】
数式17または数式18を使用して、主動歯車11の誤差Δθmを低減するための条件の有効性を判別することができる。
なお、「z1=z2」は、回転角検出装置10として成り立たないため考慮しない。
【0089】
<実施の形態の効果>
本実施の形態は、以下の効果を奏する。
(1)マイクロコンピュータ19は、第1の従動歯車12の回転角度θ1に基づき演算される主動歯車11の回転角度θmと、第2の従動歯車13の回転角度θ2に基づき演算される主動歯車11の回転角度θmとの平均値を、最終的な主動歯車11の回転角度θmとして演算する。このため、主動歯車11の回転中心軸Obが直線L1に直交する方向に移動することに伴う、主動歯車11の回転角度θmの誤差Δθmを低減することができる。
【0090】
(2)第1の従動歯車12と第2の従動歯車13とは、主動歯車11に対して、直線L1に沿った方向において互いに反対側に位置している。このため、直線L1に直交する方向に主動歯車11の位置がずれることに伴い、第1の従動歯車12と第2の従動歯車13とが互いに反対方向に回転する。すなわち、主動歯車11の位置ずれに伴い発生する、第1の従動歯車12の誤差から算出される誤差「(z1/z0)α」と第2の従動歯車13の誤差から算出される誤差「(z2/z0)β」とが打ち消し合う。したがって、主動歯車11の回転角度θmの誤差Δθmを低減することができる。
【0091】
(3)第1の従動歯車12の歯数z1と第2の従動歯車13の歯数z2との差である歯数差Δzが、たとえば「1」となるように、第1の従動歯車12の歯数z1と第2の従動歯車13の歯数z2とが設定される。このようにすれば、主動歯車11の回転角度θmの誤差Δθmを最も低減することができる。第1の従動歯車12の歯数z1と第2の従動歯車13の歯数z2との差が小さくなるほど、主動歯車11の回転角度θmの誤差Δθmが小さくなる。「z1≒z2」であるとき、理論上、誤差Δθmは「0」に近似した値となる。
【0092】
<他の実施の形態>
本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・
図6に示すように、回転角検出装置10は、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13に加え、第3の従動歯車20を有していてもよい。第3の従動歯車20の歯数z
3と、第1の従動歯車12の歯数z
1と、第2の従動歯車13の歯数z
2とは、互いに異なっている。第3の従動歯車20の歯数z
3は、たとえば「z
1+2」に設定される。第3の従動歯車20は、第3の磁石21を有している。第3の磁石21が発生する磁界は、第3の磁気センサ22によって検出される。第3の磁気センサ22は、第3の磁石21から発せられる磁束の方向の変化に基づき第3の従動歯車20の回転角度θ3を検出する。
【0093】
マイクロコンピュータ19は、先の数式2または数式3に、第3の従動歯車20にかかる歯数z3、周期数γ3、および回転角度θ3を適用することにより、第3の従動歯車20の回転角度θ3に基づく主動歯車11の回転角度θm3を演算する。マイクロコンピュータ19は、つぎの数式19に基づき主動歯車11の回転角度θmを演算する。
【0094】
【0095】
すなわち、マイクロコンピュータ19は、第1の従動歯車12の回転角度θ1に基づく主動歯車11の回転角度θm1と、第2の従動歯車13の回転角度θ2に基づく主動歯車11の回転角度θm2と、第3の従動歯車20の回転角度θ3に基づく主動歯車11の回転角度θm3との平均値を、最終的な主動歯車11の回転角度θmとして演算する。このようにすれば、3つの従動歯車を有する回転角検出装置10を構築する場合であれ、主動歯車11の位置ずれに伴う、主動歯車11の回転角度θmの誤差Δθmを低減することができる。
【0096】
・マイクロコンピュータ19が、第1の従動歯車12の回転角度θ1と、第2の従動歯車13の回転角度θ2とを演算するようにしてもよい。また、マイクロコンピュータ19が、第3の従動歯車20の回転角度θ3を演算するようにしてもよい。
【0097】
・マイクロコンピュータ19は、カウンタを有していてもよい。カウンタは、第1の従動歯車12の回転数を計数する。回転数は、第1の従動歯車12が何回転したかを示す数値である。カウンタは、第1の磁気センサ17の検出範囲Ωが360°である場合、第1の磁気センサ17により生成されるデジタル信号S1に基づき取得される第1の従動歯車12の回転角度θ1が360°だけ変化する毎にカウント値を一定値(たとえば1,2などの正の整数)ずつ増加または減少させる。カウンタは、第1の従動歯車12の回転方向が正方向であるとき、第1の従動歯車12が1回転する毎にカウント値を一定値ずつ増加させる。また、カウンタは、第1の従動歯車12の回転方向が逆方向であるとき、第1の従動歯車12が1回転する毎にカウント値を一定値ずつ減少させる。
【0098】
第1の磁気センサ17の検出範囲Ωが360°である場合、第1の従動歯車12の1回転は第1の従動歯車12の回転角度θ1の1周期となる。このため、カウンタのカウント値は、第1の従動歯車12の周期数γ1と等しい値となる。第1の磁気センサ17の検出範囲Ωが180°である場合、カウンタは、デジタル信号S1に基づき取得される第1の従動歯車12の回転角度θ1が180°だけ変化する毎にカウント値を一定値ずつ増加または減少させる。ちなみに、カウンタは、第1の従動歯車12の回転数と同様に、第2の従動歯車13の回転数を計数する。先の数式2および数式3において、第1の従動歯車12の周期数γ1および第2の従動歯車13の周期数γ2に代えて、カウンタにより計数される第1の従動歯車12の回転数および第2の従動歯車13の回転数を使用してもよい。
【0099】
・シャフト14の一例としては、車両の操舵装置において、ステアリングホイールの操作に連動して回転するステアリングシャフト、あるいはラックアンドピニオン機構を構成するピニオンシャフトが挙げられる。回転角検出装置10は、ステアリングシャフトあるいはピニオンシャフトの回転角度を検出する用途に好適である。また、回転角検出装置10は、車両の操舵装置以外の種々の機械装置のシャフトの回転角度を検出する用途に好適である。また、回転角検出装置10の回転検出対象は、シャフトに限らない。
【符号の説明】
【0100】
10…回転角検出装置
11…主動歯車
12…第1の従動歯車
13…第2の従動歯車
14…シャフト(回転検出対象)
17…第1の磁気センサ
18…第2の磁気センサ
19…マイクロコンピュータ(演算回路)
20…第3の従動歯車
22…第3の磁気センサ