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特開2024-48848光導波検出素子、映像レーザーモジュール及びXRグラス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048848
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】光導波検出素子、映像レーザーモジュール及びXRグラス
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/12 20060101AFI20240402BHJP
   H01S 5/026 20060101ALI20240402BHJP
   G02B 6/42 20060101ALI20240402BHJP
   G02B 27/02 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
G02B6/12 301
H01S5/026 618
H01S5/026 612
G02B6/42
G02B27/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154977
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】福澤 英明
(72)【発明者】
【氏名】水野 友人
(72)【発明者】
【氏名】柴田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小巻 壮
【テーマコード(参考)】
2H137
2H147
2H199
5F173
【Fターム(参考)】
2H137BA44
2H137BA45
2H137BA46
2H137BA48
2H137BA52
2H137BA54
2H137BB02
2H137BB12
2H137BB17
2H137BC51
2H137EA02
2H137EA11
2H147AA04
2H147AB04
2H147AB05
2H147AB09
2H147AB10
2H147AB17
2H147AB31
2H147BA05
2H147BD05
2H147BE01
2H147BE13
2H147BE15
2H147BE22
2H147CA13
2H147DA09
2H147EA05A
2H147EA13C
2H147EA14A
2H147EA14C
2H147EA15C
2H147FA01
2H147FA06
2H147FA09
2H147FA16
2H147FC08
2H199CA06
2H199CA29
2H199CA34
2H199CA42
2H199CA70
2H199CA96
5F173MA10
5F173MC01
5F173MD12
5F173MD37
5F173MD82
5F173ME44
5F173MF26
(57)【要約】
【課題】映像のための光源モジュールとアイトラッキングモジュールとを一体化することが可能な光導波検出素子を提供することである。
【解決手段】本発明の光導波検出素子100は、基板10と、基板10上に形成された光導波路層20と、フォトディテクター30と、を備え、光導波路層20は、波長が380nm~800nmの可視光が伝搬する第1光導波路21と波長が801nm~2000nmの近赤外光が伝搬する第2光導波路22とフォトディテクター30の受光面に光を伝搬する第3光導波路23と、を有し、可視光が出射する第1光導波路21の可視光出射口21Aと、近赤外光が出射する第2光導波路22の近赤外光出射口22Aと、近赤外光が反射して戻ってくる第3光導波路23の反射光入射口23Aとは光導波路層20の一端面20Aに配置する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された光導波路層と、
フォトディテクターと、を備え、
前記光導波路層は、
波長が380nm~800nmの可視光が伝搬する第1光導波路と
波長が801nm~2000nmの近赤外光が伝搬する第2光導波路と
前記フォトディテクターの受光面に光を伝搬する第3光導波路と、を有し、
前記可視光が出射する前記第1光導波路の可視光出射口と、前記近赤外光が出射する前記第2光導波路の近赤外光出射口と、前記近赤外光が反射して戻ってくる第3光導波路の反射光入射口とが前記光導波路層の一端面に配置する、光導波検出素子。
【請求項2】
前記可視光出射口と前記近赤外光出射口の中心距離が0mm~5mmである、請求項1記載の光導波検出素子。
【請求項3】
前記近赤外光出射口と前記反射光入射口の中心距離が0mm~5mmである、請求項2記載の光導波検出素子。
【請求項4】
前記近赤外光出射口と前記反射光入射口とが共通する、請求項3記載の光導波検出素子。
【請求項5】
前記フォトディテクターが前記光導波路層内に形成されている、請求項1記載の光導波検出素子。
【請求項6】
前記光導波路層はニオブ酸リチウムを含む材料で形成されている、請求項1に記載の光導波検出素子。
【請求項7】
前記基板はサファイア基板である、請求項1に記載の光導波検出素子。
【請求項8】
前記フォトディテクターは、第1強磁性層と、スペーサ層と、第2強磁性層が積層された磁気抵抗効果機能を有するスピンフォトディテクターである、請求項1に記載の光導波検出素子。
【請求項9】
前記フォトディテクターの受光感度が、前記可視光に対する感度よりも前記近赤外光に対する感度の方が高い、請求項1に記載の光導波検出素子。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の光導波検出素子と、可視光を出力する可視光レーザー光源と、近赤外光を出力する近赤外光レーザー光源と、を備える、映像レーザーモジュール。
【請求項11】
前記可視光レーザー光源は赤、緑、青の3色のレーザーを備え、前記光導波路層内で前3色のレーザー光が合波されて、1つの前記可視光出射口から出射される、請求項10に記載の映像レーザーモジュール。
【請求項12】
前記可視光出射口と前記近赤外光出射口の中心距離が5μm以上、100m以下である、請求項10に記載の映像レーザーモジュール。
【請求項13】
前記近赤外光出射口と前記反射光入射口の中心距離が0μm以上、100m以下である、請求項10に記載の映像レーザーモジュール。
【請求項14】
前記近赤外光レーザー光源の発光と前記フォトディテクターの検出のタイミングを同期させる同期機構を備え、
前記近赤外光レーザー光源はパルス光を照射し、照射してから反射して戻ってくる光を前記フォトディテクターで検知することで反射対象物までの距離を測定する、請求項10に記載の映像レーザーモジュール。
【請求項15】
前記近赤外光レーザー光源のパルス幅は100ナノ秒以下である、請求項14に記載の映像レーザーモジュール。
【請求項16】
請求項10~15のいずれかに記載の映像レーザーモジュールがグラスに搭載されている、XRグラス。
【請求項17】
網膜までの距離と、眼球表面までの距離とを識別可能な、アイトラッキング機構を備える、請求項16に記載のXRグラス。
【請求項18】
前記アイトラッキング機構の情報に基づき、前記映像レーザーモジュールを可動させるアクチュエーター機構を備える、請求項17に記載のXRグラス。
【請求項19】
前記近赤外光レーザー光源から光を照射し、反射対象物に照射してから反射して戻ってくる光の強度を検知し、前記光の強度によって前記反射対象物を検知する、請求項16に記載のXRグラス。
【請求項20】
反射率の違いにより眼球の位置を認識可能とする、請求項16に記載のXRグラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波検出素子、映像レーザーモジュール及びXRグラスに関する。
【背景技術】
【0002】
AR(Augmented Reality:拡張現実)グラス、VR(Virtual Reality:仮想現実)グラス等のXRグラスは小型のウェアラブルデバイスとして期待されている。ARグラス、VRグラスのようなウェアラブルデバイスにおいては通常の眼鏡型のサイズに各機能が収まるように小型化されることが普及に対するカギとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0081530号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/1050428号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来提案されているARグラス、VRグラス等のXRグラスでは、映像のための光源モジュールと、アイトラッキングモジュールとが別体であるため、小型化が進んでいなかった。また、映像のための光源モジュールとアイトラッキングモジュールとが別体であると、光軸合わせが非常に複雑である。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、映像のための光源モジュールとアイトラッキングモジュールとを一体化することが可能な光導波検出素子、映像レーザーモジュール及びXRグラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0007】
本発明の態様1に係る光導波検出素子は、基板と、前記基板上に形成された光導波路層と、フォトディテクターと、を備え、前記光導波路層は、波長が380nm~800nmの可視光が伝搬する第1光導波路と波長が801nm~2000nmの近赤外光が伝搬する第2光導波路と前記フォトディテクターの受光面に光を伝搬する第3光導波路と、を有し、前記可視光が出射する前記第1光導波路の可視光出射口と、前記近赤外光が出射する前記第2光導波路の近赤外光出射口と、前記近赤外光が反射して戻ってくる第3光導波路の反射光入射口とが前記光導波路層の一端面に配置する。
【0008】
本発明の態様2に係る映像レーザーモジュールは、態様1の光導波検出素子と、可視光を出力する可視光レーザー光源と、近赤外光を出力する近赤外光レーザー光源と、を備える。
【0009】
本発明の態様3に係るXRグラスは、態様2の映像レーザーモジュールがグラスに搭載されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光導波検出素子によれば、映像のための光源モジュールとアイトラッキングモジュールとを一体化することが可能な光導波検出素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る光導波検出素子の斜視模式図である。
図2】第1実施形態に係る光導波検出素子を可視光及び近赤外光の出射面から視た平面模式図である。
図3】合波部の例であり、(a)及び(b)はMMI型合波部であり、(c)はY字型合波部であり、(d)は方向性結合器である。
図4】(a)はフォトディテクター及び支持部材の構成例のXZ面で切った断面模式図であり、(b)は他の構成例のXZ面で切った断面模式図である。
図5】第2実施形態に係る光導波検出素子の斜視模式図である。
図6】フォトディテクターがスピンフォトディテクターである構成において、スピンフォトディテクター近傍の斜視模式図である。
図7】フォトディテクターがスピンフォトディテクターである構成において、スピンフォトディテクター近傍の断面模式図である。
図8】フォトディテクターがスピンフォトディテクターである構成において、検出回路の一例である。
図9】フォトディテクターがスピンフォトディテクターである構成において、検出回路の他の例である。
図10】フォトディテクターがスピンフォトディテクターである構成において、スピンフォトディテクター近傍の断面模式図である。
図11】スピンフォトディテクターの第1メカニズムを説明するための図である。
図12】スピンフォトディテクターの第2メカニズムを説明するための図である。
図13】スピンフォトディテクターの他の配置例のスピンフォトディテクター近傍の断面模式図である。
図14】第3実施形態に係る光導波検出素子のスピンフォトディテクター近傍の斜視模式図である。
図15】第3実施形態に係る光導波検出素子のスピンフォトディテクター近傍をXZ面で切った断面模式図である。
図16】第3実施形態に係る光導波検出素子のスピンフォトディテクター近傍をYZ面で切った断面模式図である。
図17】第4実施形態に係る光導波検出素子の斜視模式図である。
図18】第1実施形態に係る映像レーザーモジュールの斜視模式図である。
図19】(a)は近赤外光レーザー光源及び第3光導波路の近傍を拡大した平面模式図であり、(b)は、(a)においてX1-X1線で切断した断面模式図である。
図20】第2実施形態に係る映像レーザーモジュールの斜視模式図である。
図21】第4実施形態に係る映像レーザーモジュールの斜視模式図である。
図22】本実施形態に係る光導波検出素子を備えた映像レーザーモジュールを製造する方法の主な工程を示す概念図である。
図23】本実施形態に係る光導波検出素子を備えた映像レーザーモジュールを製造する方法の主な工程を示す概念図である。
図24】本実施形態に係るXRグラスを説明するための概念図
図25】本実施形態に係る映像レーザーモジュールから出射されたレーザー光によって網膜に直接画像が投影される様子を示す概念図である。
図26】映像レーザーモジュールの制御系の概念図、及び、眼球の模式図である。
図27】眼球の網膜までの距離の測定を行う方法を説明するための模式図である。
図28】眼球の表面までの距離の測定を行う方法を説明するための模式図である。
図29】網膜までの距離と眼球表面までの距離とを飛行時間に基づいて識別できることを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0013】
〔光導波検出素子〕
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る光導波検出素子の斜視模式図である。図2は、第1実施形態に係る光導波検出素子を、可視光及び近赤外光の出射面から視た平面模式図である。
図1に示す光導波検出素子100は、基板10と、基板10上に形成された光導波路層20と、フォトディテクター30と、を備え、光導波路層20は、波長が380nm~800nmの可視光が伝搬する第1光導波路21と波長が801nm~2000nmの近赤外光が伝搬する第2光導波路22とフォトディテクター30の受光面に光を伝搬する第3光導波路23と、を有し、可視光が出射する第1光導波路21の可視光出射口21Aと、近赤外光が出射する第2光導波路22の近赤外光出射口22Aと、近赤外光が反射して戻ってくる第3光導波路23の反射光入射口23Aとは光導波路層20の一端面20Aに配置する。
近赤外光は不可視であるのでアイトラッキングに用いることができる。
図1においては、可視光レーザー光源(R,G,B)、近赤外光レーザー光源(IR)も図示している。それぞれ符号60-1、60-2、60-3、70を付している。光導波検出素子100と、可視光レーザー光源60(60-1、60-2、60-3)と、近赤外光レーザー光源70とを備えることによって、後述する映像レーザーモジュールとなるが、これについては光導波検出素子を説明した後に説明する。
【0014】
光導波検出素子100は、可視光が出射する可視光出射口21Aと、近赤外光が出射する近赤外光出射口22Aと、近赤外光が反射して戻ってくる反射光入射口23Aとが光導波路層20の一端面20Aに配置する構成なので、光導波路層20のサイズに応じて小型化が可能である。また、第1光導波路21、第2光導波路22及び第3光導波路23をリソグラフィで光軸合わせを行うことが可能である。
フォトディテクター30の受光面と第3光導波路23の反射光入射口23Aとの光軸合わせについて後述する。
【0015】
基板10としては例えば、サファイア基板、Si基板、熱酸化シリコン基板などを挙げることができる。
第1光導波路21、第2光導波路22及び第3光導波路23をニオブ酸リチウム(LiNbO)膜で形成する場合、ニオブ酸リチウム膜より屈折率が低いものであれば特に限定されないが、単結晶ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル膜として形成させることができる基板として、サファイア単結晶基板もしくはシリコン単結晶基板が好ましい。単結晶基板の結晶方位は特に限定されないが、例えば、c軸配向のニオブ酸リチウム膜は3回対称の対称性を有しているので、下地の単結晶基板も同じ対称性を有していることが望ましく、サファイア単結晶基板の場合はc面、シリコン単結晶基板の場合は(111)面の基板が好ましい。
【0016】
基板10のサイズはX方向、Y方向、Z方向でそれぞれ例えば、1mm~20mm、1 mm~15mm、0.3mm~1.5mmである。
【0017】
図1に示す例では、光導波路層20は、第1光導波路21、第2光導波路22及び第3光導波路23を有する導波路コア膜24と、第1光導波路21、第2光導波路22及び第3光導波路23を被覆するように導波路コア膜24上に形成される導波路クラッド膜25とを有する。
【0018】
導波路コア膜24としては、ニオブ酸リチウム膜やSiO膜を例示できる。
以下では、導波路コア膜24がニオブ酸リチウム膜の場合を例に説明する。以下、ニオブ酸リチウム膜24と称する場合がある。
ニオブ酸リチウム膜は例えば、c軸配向したニオブ酸リチウム膜である。ニオブ酸リチウム膜は例えば、基板10上にエピタキシャル成長したエピタキシャル膜である。エピタキシャル膜は、下地の基板によって結晶方位が揃えられた単結晶の膜のことである。エピタキシャル膜は、z方向およびxy面内方向に単一の結晶方位をもった膜であり、結晶がx軸、y軸及びz軸方向にともに揃って配向しているものである。基板10上に形成されている膜がエピタキシャル膜かどうかは、例えば、2θ-θX線回折における配向位置でのピーク強度と極点の確認を行うことで証明することができる。
【0019】
具体的には、2θ-θX線回折による測定を行ったとき、目的とする面以外の全てのピーク強度が目的とする面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である。例えば、ニオブ酸リチウム膜がc軸配向エピタキシャル膜である場合には、(00L)面以外のピーク強度が、(00L)面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である。ここで、(00L)は、(001)や(002)などの等価な面を総称する表示である。
【0020】
また、前述の配向位置でのピーク強度の確認の条件においては、一方向における配向性を示しているのみである。よって、前述の条件を得たとしても、面内において結晶配向がそろっていない場合には、特定角度位置でX線の強度が高まることはなく、極点は見られない。例えば、ニオブ酸リチウム膜がニオブ酸リチウム膜の場合、LiNbOは三方晶系の結晶構造であるため、単結晶におけるLiNbO(014)の極点は3つとなる。ニオブ酸リチウムの場合、c軸を中心に180°回転させた結晶が対称的に結合した、いわゆる双晶の状態にてエピタキシャル成長することが知られている。この場合、3つの極点が対称的に2つ結合した状態になるため、極点は6つとなる。また、(100)面のシリコン単結晶基板上にニオブ酸リチウム膜を形成した場合は、基板が4回対称となっているため、4x3=12個の極点が観測される。なお、本開示では、双晶の状態にてエピタキシャル成長したニオブ酸リチウム膜もエピタキシャル膜に含める。
【0021】
ニオブ酸リチウムの組成は、LiNbAである。Aは、Li、Nb、O以外の元素である。xは、0.5以上1.2以下であり、好ましくは0.9以上1.05以下である。yは、0以上0.5以下である。zは1.5以上4.0以下であり、好ましくは2.5以上3.5以下である。Aの元素は、例えば、K、Na、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mo、W、Fe、Co、Ni、Zn、Sc、Ceであり、これらの元素を2種類以上の組み合わせても良い。
【0022】
ニオブ酸リチウム膜の膜厚は例えば、2μm以下である。ニオブ酸リチウム膜の膜厚とは、リッジ部以外の部分の膜厚のことである。ニオブ酸リチウム膜の膜厚が厚いと、結晶性が低下する恐れがある。
またニオブ酸リチウム膜の膜厚は、例えば、使用する光の波長の1/10程度以上である。ニオブ酸リチウム膜の膜厚が薄いと、光の閉じ込めが弱くなり、基板10や導波路クラッド膜25に光が漏れる。
【0023】
第1光導波路21、第2光導波路22及び第3光導波路23は、内部を光が伝搬する光の通路である。第1光導波路21、第2光導波路22及び第3光導波路23は、ニオブ酸リチウム膜24の第1面24Aから突出するリッジである。以下では、第1光導波路21、第2光導波路22及び第3光導波路23をそれぞれ、第1リッジ21、第2リッジ22、第3リッジ23ということがある。第1面24Aは、ニオブ酸リチウム膜24のリッジ部以外の部分(スラブ層)における上面である。ニオブ酸リチウム膜24はリッジ21、22、23とスラブ層とからなる。
図2に示す第1リッジ21、第2リッジ22及び第3リッジ23の断面形状定形部の断面形状は矩形であるが、光を導波できる形状であればよく、例えば、台形、三角形、半円形等であってもよい。3つのリッジ部のy方向の幅Wa、Wbは、0.3μm以上5.0μm以下であることが好ましく、3つのリッジ部の高さ(第1面24Aからの突出高さHa,Hb)は、例えば、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。
【0024】
なお、図1に示す例では、第1リッジ21及び第2リッジ22は同じ高さHaで、かつ、第3リッジ23の高さHbが高さHaより高い構成としているが、3つのリッジすべてが同じ高さである構成や、3つのリッジすべてが異なる高さである構成であってもよい。
第1リッジ21と第2リッジ22が同じ高さで、第3リッジ23が異なる高さである構成の場合には、素子から出射する機能の導波路(第1リッジ21及び第2リッジ22)はシングルモードを形成しやすい低めの高さにして、反射した光を導波する第3リッジ23は外部反射によりマルチモードが発生した光も導波できるというメリットを有する。
第1リッジ21、第2リッジ22及び第3リッジ23の3つのリッジすべてが同じ高さである構成の場合は、製造プロセス上、一括で構成できるので低コスト化が実現できるというメリットを有する。
第1リッジ21、第2リッジ22及び第3リッジ23の3つのリッジすべてが異なる高さである構成の場合は、映像用の赤、緑、青色の低波長の光と、近赤外光の光と、それを反射した光と、それぞれに最適な波長に適した構成となるため、マルチモードの光が発生しづらくシングルモードの光で導波できるため、映像、アイトラッキングの検出感度がそれぞれ高くできるというメリットを有する。
以上のように、それぞれの構成により、目的に応じたメリットがある。
【0025】
また、第1リッジ21及び第2リッジ22は同じ幅Waで、かつ、第3リッジ23の幅Wbが幅Waより高い構成としているが、3つのリッジすべてが同じ幅である構成や、3つのリッジすべてが異なる幅である構成であってもよい。
第1リッジ21と第2リッジ22が同じ幅で、第3リッジ23が異なる幅である構成の場合には、素子から出射する機能の導波路(第1リッジ21及び第2リッジ22はシングルモードを形成しやすい低い幅にして、反射した光を導波する第3リッジ23は外部反射によりマルチモードが発生した光も導波できるというメリットを有する。
第1リッジ21、第2リッジ22及び第3リッジ23の3つのリッジすべてが同じ幅である場合は、製造プロセス管理上、一括で管理できるので低コスト化が実現できるというメリットを有する。
第1リッジ21、第2リッジ22及び第3リッジ23の3つのリッジすべてが異なる幅である場合は、映像用の赤、緑、青色の低波長の光と、近赤外光の光と、それを反射した光と、それぞれに最適な波長に適した構成となるため、マルチモードの光が発生しづらくシングルモードの光で導波できるため、映像、アイトラッキングの検出感度がそれぞれ高くできるというメリットを有する。
以上のように、それぞれの構成により、目的に応じたメリットがある。
【0026】
第1リッジ21、第2リッジ22及び第3リッジ23すなわち、第1光導波路22、第1光導波路22及び第3光導波路23のサイズをレーザー光の波長程度とすることによってシングルモードで伝搬することができる。
【0027】
図1に示す第1光導波路21は、赤(R)、緑(G)、青(G)の3つの可視光レーザー光源から可視光がそれぞれ入射する入射口21-1i、21-2i、21-3iを、面20Bに有し、入射口21-1iに入った赤色レーザー光が伝搬する赤色光入射路21-1、入射口21-2iに入った緑色レーザー光が伝搬する緑色光入射路21-2、入射口21-3iに入った青色レーザー光が伝搬する青色光入射路21-3を有する。第1光導波路21はさらに、赤色光入射路21-1及び緑色光入射路21-2をそれぞれ伝搬してきた光を合波する合波部21g1と、合波された光が伝搬する導波路21-12と、導波路21-12を伝搬してきた光と青色光入射路21-2を伝搬してきた光とが合波する合波部21g2と、合波部21g2で合波された光が伝搬する出射路21-123と、出射路21-123に接続する可視光出射口21Aとを有する。
図1に示す第1光導波路21は一例であって、可視光レーザー光源から入射する入射口と、出射する可視光出射口との間を光が伝搬する光導波路であれば、他の構成でもよい。例えば、赤(R)、緑(G)、青(G)の3つのレーザー光ではなく、それらの1つ又は2つのレーザー光を伝搬する光導波路を備える構成や、赤(R)、緑(G)及び青(G)の1組のレーザー光が伝搬する光導波路ではなく、赤(R)、緑(G)及び青(G)の複数組のレーザー光が伝搬する光導波路を備える構成でもよい。
後述するアイトラッキング機構を有する映像レーザーモジュールに、本実施形態に係る光導波検出素子を適用する場合、光軸合わせの観点で、可視光出射口は1個であることが好ましいが、可視光出射口が複数個ある構成も使用可能である。
図1に示す第1光導波路21は、可視光出射口21A、近赤外光出射口22A及び反射光入射口23Aが配置する一端面20Aの、X方向で対向する面20Bにすべての入射口が配置する構成であるが、入射口のすべて又はその一部が面20C又は20Dに配置する構成であってもよい。
【0028】
合波部としては、MMI(Multi-Mode Interferometer:マルチモード干渉)型合波部(図3(a)(b)参照)、Y字型合波部(図3(c)参照)、及び、方向性結合器(図3(d)参照)、からなる群から選択されたいずれかであってもよいが、MMI型合波部であることが好ましい。それぞれの合波部の作用について図を用いて説明する。
【0029】
図3(a)に示す合波部150Aは、光導波路14E-1を伝搬する光と、光導波路14E-2を伝搬する光と、光導波路14E-3を伝搬する光とを合波する合波部150であり、合波部150から合波された光が出力導波路151へ出力される。
【0030】
また、図3(b)に示す合波部150Bは、まず光導波路14E-1を伝搬する光と、光導波路14E-2を伝搬する光とを合波する合波部150B-1と、次いでその合波された光が合波部150B-1から出力され伝搬する光151-1と、光導波路14E-3を伝搬する光とを合波する合波部150B-2とからなり、合波部150B-2から合波された光が出力導波路151-2へ出力される。
【0031】
また、図3(c)に示す合波部150Cは、まず光導波路14E-1を伝搬する光と、光導波路14E-2を伝搬する光とを合波する合波部150C-1と、次いでその合波された光が合波部150C-1から出力され伝搬する光と、光導波路14E-3を伝搬する光とを合波する合波部150C-2とからなり、合波部150C-2から合波された光が出力導波路51へ出力される。
【0032】
また、図3(d)に示す合波部150Dは、まず光導波路14E-1を伝搬する光が、光導波路14E-2を伝搬する光に結合される方向性結合部150D-1と、次いでその合波された光に、光導波路14E-3を伝搬する光が結合される方向性結合部150D-2とからなり、方向性結合部150D-2から結合合波された光が出力導波路51へ出力される。
【0033】
図1に示す第2光導波路22は、近赤外光レーザー光源から近赤外光が入射する入射口22iと、入射口22iから入射した近赤外光が伝搬する光導波路と、この光導波路を伝搬してきた近赤外光が出射する近赤外光出射口22Aとを有する。
図1に示す第2光導波路22は、1個の近赤外光レーザー光源から入射することを想定して入射口は1個しかないが、例えば、1個の近赤外光レーザー光源から発射する近赤外光の強度が弱い場合や、弱くはないがさらに強度を強くしたい場合などに複数の近赤外光レーザー光源から近赤外光が入射するときはその数に合わせた入射口を備え、その後、それぞれの入射口から入射した近赤外光が伝搬する複数の光導波路が1個又は複数個の合波部で結合して1本の光導波路になり、近赤外光出射口22Aから出射する構成でもよい。
また、図1に示す第2光導波路22では、可視光出射口21A、近赤外光出射口22A及び反射光入射口23Aが配置する一端面20Aの、X方向で対向する面20Bに入射口22iが配置する構成であるが、面20C又は20Dに配置する構成であってもよい。
【0034】
図1に示す第3光導波路23は、近赤外光出射口22Aから出射した近赤外光が反射対象物に照射してから反射して戻ってきた近赤外光が入射する反射光入射口23Aと、反射光入射口23Aから入射した近赤外光が伝搬する光導波路と、この光導波路を伝搬してきた近赤外光が出射する反射光出射口22Bとを有する。
図1に示す第3光導波路23では、可視光出射口21A、近赤外光出射口22A及び反射光入射口23Aが配置する一端面20Aに対して垂直な面20Cに反射光出射口22Bが配置する構成であるが、フォトディレクターが配置する位置に応じて、面20B又は20Dに配置する構成であってもよい。
【0035】
ここで、Y方向で面20Cに対向する面20Dとすると、一端面20A、他端面20B、面20C及び面20Dは光導波路層20の4つの側面であるが、一端面20A及び他端面20Bは共にYZ面に平行な面であって、互いにX方向に対向する面であり、また、面20C及び面20DはXZ面に平行な面であって、互いにY方向に対向する面である。
図1に示す光導波検出素子100では、可視光出射口21A、近赤外光出射口22A及び反射光入射口23Aが一端面20Aに配置し、X方向で一端面20Bに対向する他端面20Bに可視光レーザーの入射口21-1i、21-2i、21-3i及び遠赤外光レーザーの入射口22iが配置し、かつ、反射光入射口23Aから入射した遠赤外線光が出射する反射光出射口23Bが、一端面20A及び他端面20Bに直交する面20Cに配置すする構成である。かかる構成は一例であって、可視光出射口21A、近赤外光出射口22A及び反射光入射口23Aが光導波路層20の一端面に配置する構成であることは必須であるが、可視光レーザーの入射口21-1i、21-2i、21-3iのそれぞれ及び遠赤外光レーザーの入射口22i、並びに、反射光出射口23Bは一端面20A以外の3つの側面すなわち、他端面20B、面20C及び面20Dのいずれに配置することも可能である。
【0036】
図2に示す可視光出射口21Aと近赤外光出射口22Aの中心距離Daは0mm~5mmであることが好ましい。中心距離Daは0.3mm~3mmであることがより好ましく、0.5mm~2mmであることがさらに好ましい。
【0037】
図2に示す近赤外光出射口22Aと反射光入射口23Aの中心距離Dbは0mm~5mmであることが好ましい。中心距離Daは0.3mm~3mmであることがより好ましく、0.5mm~2mmであることがさらに好ましい。
【0038】
フォトディテクター30としては、Siのpn接合を用いた半導体ディテクターやInGaAsのpn接合を用いた半導体ディテクターを例示できるが、第1強磁性層と、スペーサ層と、第2強磁性層が積層された磁気抵抗効果機能を有するスピンフォトディテクターであることが好ましい。
フォトディテクター30は、その受光感度が、可視光に対する感度よりも近赤外光に対する感度の方が高いことが好ましい。
【0039】
図1に示す光導波検出素子100では、フォトディテクター30を支持する支持部材40を有する。
【0040】
図4(a)及び(b)は、フォトディテクター及び支持部材の2つの構成例のXZ面で切った断面模式図である。なお、フォトディテクターとしてはスピンフォトディテクターを用いた場合を示した。
図4(a)に示す例では、支持部材40は、光導波路層20が形成された基板10とは別の部材である。支持部材40と基板10とは、例えば、共通の支持体上に固定されている。支持部材40は基板10と同様の材料からなるものでも異なるものでもよい。図4(a)に示す例では、スピンフォトディテクター30は支持部材40の上又は上方にある。スピンフォトディテクター30は、支持部材40上に形成された絶縁層61内にある。
図4(a)に示す例では、スピンフォトディテクター30のz方向の高さ位置は、第3光導波路23の反射光出射口23Bのz方向の高さ位置に合わせている。この例では、スピンフォトディテクター30と光導波路層20及び基板10上とをそれぞれ別々に作製することが可能であり、製造時の制限が少なくなる。
【0041】
図4(b)に示す例では、基板10Aが上面に段差が形成されている点が基板10と異なる。光導波路層20が形成された上面S1と、フォトディテクター30を支持する支持部材40を備える上面S2とはz方向の高さ位置が異なる。上面S1は、z方向から見て光導波路層20と重なる位置における基板10の上面である。光導波路層20は上面S1上に形成されている。上面S2は、z方向から見てスピンフォトディテクター30と重なる位置における基板10Aの上面である。
【0042】
支持部材40Aは、上面S2に載置されている。スピンフォトディテクター30は、基板10の上方、かつ、支持部材40A上に形成されている。
【0043】
図4に例示するように、フォトディテクター30の受光面と第3光導波路23の反射光出射口23Bとを光軸合わせして光導波検出素子100を作製することで実質的に光軸合わせが不要になる。
【0044】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係る光導波検出素子の斜視模式図である。
第2実施形態に係る光導波検出素子は、フォトディテクターが光導波路層内に形成されている点が第1実施形態に係る光導波検出素子と異なる。
以下では、第1実施形態に係る光導波検出素子で説明した構成要素と実質的に同じ部材については同じ符号を用いて説明を省略する場合がある。
【0045】
図6に、フォトディテクターがスピンフォトディテクターである場合に、第2実施形態に係る光導波検出素子のスピンフォトディテクター近傍の斜視模式図を示す。図7は、第2実施形態に係る光導波検出素子101のスピンフォトディテクター30の近傍の断面図である。
【0046】
スピンフォトディテクター30は、近赤外光が照射される位置にある。スピンフォトディテクター30は、例えば、第3光導波路23の出力端の先にある。近赤外光は、例えば、スピンフォトディテクター30に対してスピンフォトディテクター30の積層方向と交差する方向から照射される。近赤外光は、例えば、スピンフォトディテクター30の側面に照射される。スピンフォトディテクター30は、光導波路層20が形成された基板10と同一基板上に形成されている。すなわち、スピンフォトディテクター30と光導波路層20とは、一つの物品の中に組み込まれ、分離できない。スピンフォトディテクター30は、基板10上又は基板10の上方にある。
【0047】
スピンフォトディテクター30は、例えば、電極41、42と、ビア配線43、44と、入力端子45と、出力端子46と、電気的に接続されている。
【0048】
電極41は、スピンフォトディテクター30の第1面に接続されている。電極42は、スピンフォトディテクター30の第2面に接続されている。第1面と第2面とは、スピンフォトディテクター30の積層方向において互いに対向する。
【0049】
電極41、42は、導電性を有する材料を含む。電極41、42は、例えば、Cu、Al、AuまたはRuなどの金属により構成される。これらの金属の上下にTaやTiを積層してもよい。また電極41、42として、CuとTaの積層膜、TaとCuとTiの積層膜、TaとCuとTaNの積層膜を用いてもよい。また電極41、42として、TiNやTaNを用いてもよい。
【0050】
電極41、42は、スピンフォトディテクター30に照射される光の波長域に対して透過性を有してもよい。例えば、電極41、42は、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO)等の酸化物の透明電極材料を含む透明電極でもよい。また電極41、42は、こられの透明電極材料の中に複数の柱状金属を有する構成としてもよい。
【0051】
ビア配線43は、入力端子45と電極41又は電極42とを繋ぐ。入力端子45は、例えば2つある。入力端子45の一方には電流又は電圧が入力され、入力端子45の他方は基準電位に接続されている。入力端子45は、例えば、クラッド28の上面に露出している。ビア配線44は、出力端子46と電極41又は電極42とを繋ぐ。出力端子46は、例えば2つある。出力端子46の一方からは信号が出力され、出力端子46の他方は基準電位に接続されている。出力端子46は、例えば、クラッド28の上面に露出している。
ビア配線43、44、入力端子45及び出力端子46は、導電性を有する材料を含む。ビア配線43、44、入力端子45及び出力端子46の材料としては、電極41、42の例として挙げたものと同じものを用いることができる。
【0052】
図8及び図9は、第1実施形態に係る光導波検出素子101のスピンフォトディテクター30を用いた光の検出回路の一例である。図8及び図9において、電極41は、例えば、入力端子Pin及び出力端子Poutに接続されている。図8及び図9において、電極42は、例えば、基準電位端子PGに接続されている。入力端子Pinは、図6及び図7における入力端子45の一方に対応する。出力端子Poutは、図6及び図7における出力端子46の一方に対応する。基準電位端子PGは、図6及び図7における入力端子45の他方及び出力端子46の他方に対応する。図8及び図9における基準電位は、グラウンドGである。
グラウンドGは光導波検出素子101の外部に設けられてもよい。基準電位は、グラウンドG以外でもよい。
【0053】
スピンフォトディテクター30は、照射される光(近赤外光L)の状態の変化を電気信号に置き換える。スピンフォトディテクター30からの出力電圧又は出力電流は、照射される光(近赤外光L)の強度によって変化する。
【0054】
入力端子Pinは、電流源PS1又は電圧源PS2に接続されている。電流源PS1及び電圧源PS2は、光導波検出素子101の外部にあってもよい。入力端子Pinが電流源PS1に接続されている場合、出力端子Poutは、スピンフォトディテクター30の積層方向の抵抗値を電圧として出力する。入力端子Pinが電圧源PS2に接続されている場合、出力端子Poutは、スピンフォトディテクター30の積層方向の抵抗値を電流として出力する。スピンフォトディテクター30に外部から電流または電圧を印加する必要が無い場合は、入力端子Pinおよび電流源PS1または電圧源PS2は無くてもよい。
【0055】
図10は、第1実施形態に係るスピンフォトディテクター30の断面図である。図10では、電極41、42を同時に図示し、強磁性体の初期状態における磁化の向きを矢印で表している。
【0056】
スピンフォトディテクター30は、少なくとも第1強磁性層31と第2強磁性層32とスペーサ層33とを有する。スペーサ層33は、第1強磁性層31と第2強磁性層32との間に位置する。
スピンフォトディテクター30は、これらの他に、第3強磁性層34、磁気結合層35、下地層36、垂直磁化誘起層37、キャップ層38、側壁絶縁層39等を有してもよい。スピンフォトディテクター30は、積層方向からの平面視における最長幅が、例えば2000nm以下である。スピンフォトディテクター30は、積層方向からの平面視における最長幅が、例えば10nm以上である。
【0057】
スピンフォトディテクター30は、例えば、スペーサ層33が絶縁材料で構成されたMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子である。この場合、スピンフォトディテクター30は、第1強磁性層31の磁化M31の状態と第2強磁性層32の磁化M32の状態との相対的な変化に応じて、積層方向の抵抗値(積層方向に電流を流した場合の抵抗値)が変化する。このような素子は磁気抵抗効果素子とも呼ばれる。
【0058】
第1強磁性層31は、外部から光が照射されると磁化の状態が変化する光検知層である。第1強磁性層31は、磁化自由層とも呼ばれる。磁化自由層は、所定の外部からのエネルギーが印加された際に磁化の状態が変化する磁性体を含む層である。所定の外部からのエネルギーは、例えば、外部から照射される光(近赤外光L)、スピンフォトディテクター30の積層方向に流れる電流、外部磁場である。第1強磁性層31の磁化M31は、第1強磁性層31に照射される光(近赤外光L)の強度に応じて、状態が変化する。
【0059】
第1強磁性層31は、強磁性体を含む。第1強磁性層31は、例えば、Co、FeまたはNi等の磁性元素のいずれかを少なくとも含む。第1強磁性層31は、上述のような磁性元素と共に、B、Mg、Hf、Gd等の非磁性元素を含んでもよい。第1強磁性層31は、例えば、磁性元素と非磁性元素とを含む合金でもよい。第1強磁性層31は、複数の層から構成されていてもよい。第1強磁性層31は、例えば、CoFeB合金、CoFeB合金層をFe層で挟んだ積層体、CoFeB合金層をCoFe層で挟んだ積層体である。
【0060】
第1強磁性層31は、膜面内方向に磁化容易軸を有する面内磁化膜でも、膜面直方向(スピンフォトディテクター30の積層方向)に磁化容易軸を有する垂直磁化膜でもよい。
【0061】
第1強磁性層31の膜厚は、例えば、1nm以上5nm以下である。第1強磁性層31の膜厚は、例えば、1nm以上2nm以下であることが好ましい。第1強磁性層31が垂直磁化膜の場合、第1強磁性層31の膜厚が薄いと、第1強磁性層31の上下にある層からの垂直磁気異方性印加効果が強まり、第1強磁性層31の垂直磁気異方性が高まる。つまり、第1強磁性層31の垂直磁気異方性が高いと、磁化M31が膜面直方向に(元の状態に)戻ろうとする力が強まる。一方、第1強磁性層31の膜厚が厚いと、第1強磁性層31の上下にある層からの垂直磁気異方性印加効果が相対的に弱まり、第1強磁性層31の垂直磁気異方性が弱まる。
【0062】
第1強磁性層31の膜厚が薄くなると強磁性体としての体積は小さくなり、厚くなると強磁性体としての体積は大きくなる。外部からのエネルギーが加わったときの第1強磁性層31の磁化M31の反応しやすさは、第1強磁性層31の磁気異方性(Ku)と体積(V)との積(KuV)に反比例する。つまり、第1強磁性層31の磁気異方性と体積との積が小さくなると、光に対する反応性が高まる。このような観点から、光に対する反応を高めるためには、第1強磁性層31の磁気異方性を適切に設計したうえで第1強磁性層31の体積を小さくすることが好ましい。
【0063】
第1強磁性層31の膜厚が2nmより厚い場合は、例えばMo,Wからなる挿入層を第1強磁性層31内に設けてもよい。すなわち、強磁性層、挿入層、強磁性層が順に積層された積層体を第1強磁性層31としてもよい。挿入層と強磁性層との界面における界面磁気異方性により第1強磁性層31全体の垂直磁気異方性が高まる。挿入層の膜厚は、例えば、0.1nm~0.6nmである。
【0064】
第2強磁性層32は、磁化固定層である。磁化固定層は、所定の外部からのエネルギーが印加された際に磁化の状態が磁化自由層よりも変化しにくい磁性体からなる層である。
例えば、磁化固定層は、所定の外部からのエネルギーが印加された際に磁化の向きが磁化自由層よりも変化しにくい。また、例えば、磁化固定層は、所定の外部からのエネルギーが印加された際に磁化の大きさが磁化自由層よりも変化しにくい。第2強磁性層32の保磁力は、例えば、第1強磁性層31の保磁力よりも大きい。第2強磁性層32は、例えば第1強磁性層31と同じ方向に磁化容易軸を有する。第2強磁性層32は、面内磁化膜でも、垂直磁化膜でもよい。
【0065】
第2強磁性層32を構成する材料は、例えば、第1強磁性層31と同様である。第2強磁性層32は、例えば、0.4nm~1.0nmの厚みのCo、0.1nm~0.5nmの厚みのMo、0.3nm~1.0nmの厚みのCoFeB合金、0.3nm~1.0nmの厚みのFeが順に積層された積層体でもよい。
【0066】
第2強磁性層32の磁化M32は、例えば、磁気結合層35を介した第3強磁性層34との磁気結合によって固定してもよい。この場合、第2強磁性層32、磁気結合層35及び第3強磁性層34を合わせたものを磁化固定層と称する場合もある。
【0067】
第3強磁性層34は、例えば、第2強磁性層32と磁気結合する。磁気結合は、例えば、反強磁性的な結合であり、RKKY相互作用により生じる。第3強磁性層34を構成する材料は、例えば、第1強磁性層31と同様である。磁気結合層35は、例えば、Ru、Ir等である。
【0068】
スペーサ層33は、第1強磁性層31と第2強磁性層32との間に配置される非磁性層である。スペーサ層33は、導電体、絶縁体もしくは半導体によって構成される層、又は、絶縁体中に導体によって構成される通電点を含む層で構成される。スペーサ層33の膜厚は、後述する初期状態における第1強磁性層31の磁化M31と第2強磁性層32の磁化M32の配向方向に応じて調整できる。
【0069】
例えば、スペーサ層33が絶縁体からなる場合は、スピンフォトディテクター30は、第1強磁性層31とスペーサ層33と第2強磁性層32とからなる磁気トンネル接合(MTJ:Magnetic Tunnel Junction)を有する。このような素子はMTJ素子と呼ばれる。この場合、スピンフォトディテクター30はトンネル磁気抵抗(TMR:Tunnel Magnetoresistance)効果を発現することができる。スペーサ層33が金属からなる場合は、スピンフォトディテクター30は、巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magnetoresistance)効果を発現することができる。このような素子はGMR素子と呼ばれる。スピンフォトディテクター30は、スペーサ層3の構成材料によって、MTJ素子、GMR素子などと呼び名が異なることがあるが、総称して磁気抵抗効果素子とも呼ばれる。
【0070】
スペーサ層33が絶縁材料で構成される場合、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化ケイ素等を含む材料をスペーサ層33に用いることができる。また、スペーサ層33は、これら絶縁材料に、Al、B、Si、Mgなどの元素や、Co、Fe、Niなどの磁性元素を含んだものでもよい。第1強磁性層31と第2強磁性層32との間に高いTMR効果が発現するようにスペーサ層33の膜厚を調整することで、高い磁気抵抗変化率が得られる。TMR効果を効率よく利用するためには、スペーサ層33の膜厚は、0.5~5.0nm程度としてもよく、1.0~2.5nm程度としてもよい。
【0071】
スペーサ層33を非磁性導電材料で構成する場合、Cu、Ag、Au又はRu等の導電材料を用いることができる。GMR効果を効率よく利用するためには、スペーサ層33の膜厚は、0.5~5.0nm程度としてもよく、2.0~3.0nm程度としてもよい。
【0072】
スペーサ層33を非磁性半導体材料で構成する場合、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、酸化ゲルマニウム、酸化ガリウム又はITO等の材料を用いることができる。この場合、スペーサ層33の膜厚は1.0~4.0nm程度としてもよい。
【0073】
スペーサ層33として非磁性絶縁体中の導体によって構成される通電点を含む層を適用する場合、酸化アルミニウムまたは酸化マグネシウムによって構成される非磁性絶縁体中に、Cu、Au、Alなどの非磁性の導体によって構成される通電点を含む構造としてもよい。また、Co、Fe、Niなどの磁性元素によって導体を構成してもよい。この場合、スペーサ層33の膜厚は、1.0~2.5nm程度としてもよい。通電点は、例えば、膜面に垂直な方向からみたときの直径が1nm以上5nm以下の柱状体である。
【0074】
下地層36は、第2強磁性層32と電極42との間にある。下地層36は、シード層又はバッファ層である。シード層は、シード層上に積層される層の結晶性を高める。シード層は、例えば、Pt、Ru、Hf、Zr、NiFeCrである。シード層の膜厚は、例えば1nm以上5nm以下である。バッファ層は、異なる結晶間の格子不整合を緩和する層である。バッファ層は、例えば、Ta、Ti、W、Zr、Hf又はこれらの元素の窒化物である。バッファ層の膜厚は、例えば、1nm以上5nm以下である。
【0075】
キャップ層38は、第1強磁性層31と電極41との間にある。キャップ層38は、プロセス過程で下層へのダメージを防ぐと共に、アニール時に下層の結晶性を高める。キャップ層38の膜厚は、第1強磁性層31に十分な光が照射されるように、例えば3nm以下である。キャップ層38は、例えば、MgO、W、Mo、Ru、Ta、Cu、Crまたはこれらの積層膜などである。
【0076】
垂直磁化誘起層37は、第1強磁性層31が垂直磁化膜の場合に形成される。垂直磁化誘起層37は、第1強磁性層31上に積層される。垂直磁化誘起層37は、第1強磁性層31の垂直磁気異方性を誘起する。垂直磁化誘起層37は、例えば酸化マグネシウム、W、Ta、Mo等である。垂直磁化誘起層37が酸化マグネシウムの場合は、導電性を高めるために、酸化マグネシウムが酸素欠損していることが好ましい。垂直磁化誘起層37の膜厚は、例えば、0.5nm以上2.0nm以下である。
【0077】
側壁絶縁層39は、第1強磁性層31及び第2強磁性層32を含む積層体の周囲を覆う。側壁絶縁層39は、例えば、Si、Al、Mgの酸化物、窒化物、酸窒化物である。
【0078】
スピンフォトディテクター30は、各層の積層工程、アニール工程、加工工程によって作製される。まず基板10上(クラッド28の一部の上)に、電極42、下地層36、第3強磁性層34、磁気結合層35、第2強磁性層32、スペーサ層33、第1強磁性層31、垂直磁化誘起層37、キャップ層38の順に積層する。基板10は、光導波路層20が形成されている基板と同一である。各層は、例えば、スパッタリングにより成膜される。
【0079】
次いで、積層膜をアニールする。アニール温度は、例えば、250℃から450℃である。その後、積層膜をフォトリソグラフィ及びエッチングにより所定の柱状体に加工する。柱状体は、円柱でも角柱でもよい。例えば、柱状体を積層方向から見た際の最短幅は、10nm以上2000nm以下としてもよく、30nm以上500nm以下としてもよい。
【0080】
次いで、柱状体の側面を被覆するように、絶縁層を形成する。絶縁層は、側壁絶縁層39となる。側壁絶縁層39は、複数回に亘って積層してもよい。次いで、化学機械研磨(CMP)により側壁絶縁層39からキャップ層38の上面を露出し、キャップ層38上に、電極41を作製する。上記工程により、スピンフォトディテクター30が得られる。スピンフォトディテクター30は、下地を構成する材料によらず作製できる。そのため、スピンフォトディテクター30は、接着層等を介さずに、光導波路層20が形成された基板10上に直接作製できる。スピンフォトディテクター30は、光導波路層20と共に同じ基板10上のプロセスにより形成することができる。例えば、光導波路層20及びスピンフォトディテクター30は、同一の基板10上に、真空成膜プロセスにより形成することが可能である。
【0081】
図11は、スピンフォトディテクター30の動作の第1メカニズムを説明するための図である。図11の上のグラフは、縦軸が第1強磁性層31に照射される光の強度であり、横軸が時間である。図11の下のグラフは、縦軸がスピンフォトディテクター30の積層方向の抵抗値であり、横軸が時間である。
【0082】
まず第1強磁性層31に第1強度の光が照射された状態(以下、初期状態と称する)において、第1強磁性層31の磁化M31と第2強磁性層32の磁化M32とは平行の関係にあり、スピンフォトディテクター30の積層方向の抵抗値は第1抵抗値R1を示し、スピンフォトディテクター30からの出力電圧又は出力電流の大きさは第1の値を示す。第1強度は、第1強磁性層31に照射される光の強度がゼロの場合でもよい。
【0083】
スピンフォトディテクター30の積層方向の抵抗値は、例えば、スピンフォトディテクター30の積層方向にセンス電流を流すと、スピンフォトディテクター30の積層方向の両端に電圧が発生し、その電圧値からオームの法則を用いて求められる。スピンフォトディテクター30からの出力電圧は、電極41と電極42との間に発生する。図11に示す例の場合、センス電流を第1強磁性層31から第2強磁性層32に向かって流すことが好ましい。この方向にセンス電流を流すことで、第1強磁性層31の磁化M31に対して、第2強磁性層32の磁化M32と同じ方向のスピントランスファートルクが作用し、初期状態において磁化M31と磁化M32とが平行になる。また、この方向にセンス電流を流すことで、第1強磁性層31の磁化M31が動作時に反転することを防止することができる。
【0084】
次いで、第1強磁性層31に照射される光の強度が変化する。光の照射による外部からのエネルギーによって第1強磁性層31の磁化M31は初期状態から傾く。第1強磁性層31に光が照射されていない状態における第1強磁性層31の磁化M31の方向と、光が照射された状態における磁化M31の方向との角度は、いずれも0°より大きく90°より小さい。
【0085】
第1強磁性層31の磁化M31が初期状態から傾くと、磁気抵抗効果素子30の積層方向の抵抗値は変化する。そして、スピンフォトディテクター30からの出力電圧又は出力電流は変化する。例えば、スピンフォトディテクター30に照射される光(近赤外光L)の強度が大きくなるほど、磁化M31の初期状態に対する傾きは大きくなる。例えば、第1強磁性層31の磁化M31の傾きに応じて、スピンフォトディテクター30の積層方向の抵抗値は、第2抵抗値R2、第3抵抗値R3、第4抵抗値R4と変化し、スピンフォトディテクター30からの出力電圧又は出力電流は第2の値、第3の値、第4の値と変化する。第1抵抗値R1、第2抵抗値R2、第3抵抗値R3、第4抵抗値R4の順に抵抗値は大きくなる。第1の値、第2の値、第3の値、第4の値の順にスピンフォトディテクター30からの出力電圧は大きくなる。スピンフォトディテクター30が定電圧源に接続されている場合、第1の値、第2の値、第3の値、第4の値の順にスピンフォトディテクター30からの出力電流は小さくなる。
【0086】
スピンフォトディテクター30は、スピンフォトディテクター30に照射される光(近赤外光L)の強度が変化した際に、スピンフォトディテクター30からの出力電圧又は出力電流(スピンフォトディテクター30の積層方向の抵抗値)が変化する。したがって、スピンフォトディテクター30は、近赤外光Lの強度をスピンフォトディテクター30からの出力電圧又は出力電流(スピンフォトディテクター30の抵抗値)として検出できる。
【0087】
第1強磁性層31の磁化M31には第2強磁性層32の磁化M32と同じ方向のスピントランスファートルクが作用するので、第1強磁性層31に照射される光の強度が第1強度に戻ると、初期状態から傾いた磁化M31は、初期状態に戻る。磁化M31が初期状態に戻ると、スピンフォトディテクター30の積層方向の抵抗値は、第1抵抗値R1に戻り、スピンフォトディテクター30からの出力電圧又は出力電流は第1の値に戻る。
【0088】
ここでは初期状態において磁化M31と磁化M32とが平行な場合を例に説明したが、初期状態において磁化M31と磁化M32とが反平行でもよい。この場合、スピンフォトディテクター30の積層方向の抵抗値は、磁化M31が傾くほど(磁化M31の初期状態からの角度変化が大きくなるほど)小さくなる。磁化M31と磁化M32とが反平行な場合を初期状態とする場合は、センス電流は第2強磁性層32から第1強磁性層31に向かって流すことが好ましい。この方向にセンス電流を流すことで、第1強磁性層31の磁化M31に対して、第2強磁性層32の磁化M32と反対方向のスピントランスファートルクが作用し、初期状態において磁化M31と磁化M32とが反平行になる。
【0089】
図12は、スピンフォトディテクター30の動作の第2メカニズムを説明するための図である。図12の上のグラフは、縦軸が第1強磁性層31に照射される光の強度であり、横軸が時間である。図12の下のグラフは、縦軸がスピンフォトディテクター30の積層方向の抵抗値であり、横軸が時間である。
【0090】
図12に示す初期状態は、図11に示す初期状態と同様である。図12に示す例の場合も、センス電流を第1強磁性層31から第2強磁性層32に向かって流すことが好ましい。この方向にセンス電流を流すことで、第1強磁性層31の磁化M31に対して、第2強磁性層32の磁化M32と同じ方向のスピントランスファートルクが作用し、初期状態が維持される。
【0091】
次いで、第1強磁性層31に照射される光(近赤外光)の強度が変化する。光の照射による外部からのエネルギーによって第1強磁性層31の磁化M31の大きさは初期状態から小さくなる。第1強磁性層31の磁化M31が初期状態から小さくなると、磁気抵抗効果素子30の積層方向の抵抗値は変化する。そして、スピンフォトディテクター30からの出力電圧又は出力電流は変化する。例えば、スピンフォトディテクター30に照射される光(近赤外光L)の強度が大きくなるほど、磁化M31の大きさは小さくなる。例えば、第1強磁性層31の磁化M31の大きさに応じて、スピンフォトディテクター30の積層方向の抵抗値は、第2抵抗値R2、第3抵抗値R3、第4抵抗値R4と変化し、スピンフォトディテクター30からの出力電圧又は出力電流は第2の値、第3の値、第4の値と変化する。第1抵抗値R1、第2抵抗値R2、第3抵抗値R3、第4抵抗値R4の順に抵抗値は大きくなる。第1の値、第2の値、第3の値、第4の値の順にスピンフォトディテクター30からの出力電圧は大きくなる。スピンフォトディテクター30が定電圧源に接続されている場合、第1の値、第2の値、第3の値、第4の値の順にスピンフォトディテクター30からの出力電流は小さくなる。
【0092】
第1強磁性層31に照射される光の強度が第1強度に戻ると、第1強磁性層31の磁化M31の大きさは元に戻り、スピンフォトディテクター30は初期状態に戻る。すなわち、スピンフォトディテクター30の積層方向の抵抗値は、第1抵抗値R1に戻り、スピンフォトディテクター30からの出力電圧又は出力電流は第1の値に戻る。
【0093】
図12においても、初期状態において磁化M31と磁化M32とが反平行としてもよい。
この場合、スピンフォトディテクター30の積層方向の抵抗値は、磁化M31の大きさが小さくなるほど、小さくなる。磁化M31と磁化M32とが反平行な場合を初期状態とする場合は、センス電流は第2強磁性層32から第1強磁性層31に向かって流すことが好ましい。
【0094】
上述の手順を経て、レーザーダイオード60-1から出力される光の強度を、スピンフォトディテクター30からの出力電圧又は出力電流(スピンフォトディテクター30の積層方向の抵抗値)として読み取ることができる。そして、同様の手順で、レーザーダイオード60-2から出力される光の強度及びレーザーダイオード60-3から出力される光の強度を順次測定する。
【0095】
第1光導波路21の可視光出射口21Aから出力される光は、それぞれのレーザーダイオード60-1、60-2、60-3から出力される光を合わせたものである。それぞれのレーザーダイオード60-1、60-2、60-3から出力される光の強度を調整することで、光導波検出素子101からの出力光のホワイトバランスを調整できる。それぞれのレーザーダイオード60-1、60-2、60-3から出力される光の強度は、例えば、スピンフォトディテクター30からの出力の測定結果を、それぞれのレーザーダイオード60-1、60-2、60-3にフィードバックすることで調整できる。
【0096】
また第1強磁性層31の磁化M31は、第1強磁性層31の体積が小さいほど光の照射に対して変化しやすくなる。つまり、第1強磁性層31の磁化M31は、第1強磁性層31の体積が小さいほど光の照射により傾きやすい、又は、光の照射により小さくなりやすい。換言すると、第1強磁性層31の体積を小さくすると、わずかな光量の光でも磁化M31を変化させることができる。すなわち、第1実施形態に係るスピンフォトディテクター30は、高感度に光を検知できる。
【0097】
より正確には、磁化M31の変化しやすさは、第1強磁性層31の磁気異方性(Ku)と体積(V)との積(KuV)の大きさで決定される。KuVが小さいほどより微小な光量でも磁化M31は変化し、KuVが大きいほどより大きな光量でないと磁化M31は変化しない。つまり、アプリケーションで使用する外部から照射する光の光量に応じて、第1強磁性層31のKuVを設計することになる。極めて微小な光量検出のようなことを想定した場合には、第1強磁性層31のKuVを小さくすることで、これらの微小な光量の光の検出が可能となる。このような微小な光量の光の検出は、従来のpn接合の半導体では素子サイズを小さくすると難しくなるため、大きなメリットである。第1強磁性層31の体積を小さくすることで、KuVを小さくできる。
【0098】
上述のように、第2実施形態に係る光導波検出素子101は、スピンフォトディテクター30の出力電圧又は出力電流(スピンフォトディテクター30の積層方向の抵抗値)からレーザーダイオード60-1、60-2、60-3のそれぞれから出力される光の強度を読み取ることができる。第1実施形態に係る光導波検出素子101は、それぞれのレーザーダイオード60-1、60-2、60-3から出力される光の強度を調整することで、第1光導波路21の可視光出射口21Aから出力される光のホワイトバランスを調整できる。
【0099】
以上、第2実施形態について図面を参照して詳述したが、第2実施形態はこの例に限られるものではない。
【0100】
例えば、図13に示すように、スピンフォトディテクター30の積層方向がz方向に対して傾斜していてもよい。この場合、近赤外光は、スピンフォトディテクター30の側面及びスピンフォトディテクター30の電極41側の第1面に照射される。
【0101】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る光導波検出素子は、スピンフォトディテクターの構成が第2実施形態に係る光導波検出素子と異なる。
図14は、第3実施形態に係る光導波検出素子102のスピンフォトディテクター30近傍の斜視図である。図15は、第3実施形態に係る光導波検出素子102のスピンフォトディテクター30近傍の断面図である。図16は、第3実施形態に係る光導波検出素子102のスピンフォトディテクター30近傍の別の断面図である。
第3実施形態において、第1実施形態及び第2実施形態と同様の構成は同様の符号を付し、説明を省く。
【0102】
光導波検出素子102は、リフレクタ50を有する。リフレクタ50は、第3光導波路23から出力される光(近赤外光)をスピンフォトディテクター30に向かって反射する。リフレクタ50は、第3光導波路23の出力端から近赤外光の進行方向の位置にある。リフレクタ50は、近赤外光の進行方向に対して傾斜する傾斜面を有する。
【0103】
リフレクタ50は、光を反射するものである。リフレクタ50は、例えば、反射鏡である。
【0104】
スピンフォトディテクター30は、クラッド28上に形成された絶縁層29内に形成されている。絶縁層29は、例えば、側壁絶縁層39と同様の材料である。スピンフォトディテクター30は、基板10の上方にある。スピンフォトディテクター30は、光導波路層20と異なる高さ位置にあり、光導波路層20より基板10から離れた位置にある。スピンフォトディテクター30は、例えば、リフレクタ50の上方にある。
【0105】
リフレクタ50で反射された光(近赤外光)は、例えば、スピンフォトディテクター30にスピンフォトディテクター30の積層方向から照射される。この場合、電極42は、スピンフォトディテクター30に照射される光の波長域に対して透過性を有する。電極42が近赤外光の一部を透過することで、スピンフォトディテクター30に近赤外光が照射される。ここでは、電極42が電極41よりリフレクタ50側に配置される例を例示したが、電極41が電極42よりリフレクタ50側に配置されてもよい(第1強磁性層31が第2強磁性層32よりリフレクタ50側に配置されてもよい)。この場合、電極41は、スピンフォトディテクター30に照射される光の波長域に対して透過性を有する。電極41が電極42よりリフレクタ50側に配置されると、第1強磁性層31への近赤外光の照射効率が高まる。
【0106】
第3実施形態にかかる光導波検出素子102は、光導波検出素子101と同様の効果を奏する。またリフレクタ50によりスピンフォトディテクター30に対する近赤外光の照射方向を自由に設計できる。例えば、スピンフォトディテクター30に対して積層方向から近赤外光が照射されると、スピンフォトディテクター30の受光面積を広く確保できる。
【0107】
(第4実施形態)
図17は、第4実施形態に係る光導波検出素子の斜視模式図である。
第4実施形態において、第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態と同様の構成は同様の符号を付し、説明を省く。
【0108】
図17に示す光導波検出素子103は、近赤外光出射口22Aと反射光入射口23Aとが共通する。すなわち、第2光導波路zと第3光導波路23-1とが光導波路層20の一端面20Aの近傍で合流して、共通の近赤外光入出射口22A(23A)を有する構成となる。近赤外光出射口22Aと反射光入射口23Aの中心距離Dbはゼロである構成である。
【0109】
この構成では、近赤外光の出射光と近赤外光の反射入射光を分離するために、第2光導波路22-1において、レーザー素子70に反射光が逆流しないように、逆流防止機構を設けてもよい。
【0110】
上記実施形態の光導波路層20が備える第1光導波路21及び第2光導波路22については、一部又はすべてがマッハツェンダー型光導波路であり、変調電圧印加用の電極を備える構成であってもよい。この場合、変調信号に応じた変調電圧Vmが印加される。
【0111】
〔映像レーザーモジュール〕
本実施形態に係る映像レーザーモジュールは、上記実施形態に係る光導波検出素子と、光導波検出素子が備える第1光導波路(可視光導波路)の入射口と同数の可視光レーザー光源と、及び第2光導波路(近赤外光導波路)の入射口と同数の近赤外光レーザー光源とを備える。
本実施形態に係る映像レーザーモジュールを用いて、近赤外光レーザー光源から発せられる近赤外光で目を照射し、目から反射される近赤外光を光導波検出素子が備えるフォトディレクターで検出することによってアイトラッキング(視線追跡)を行うことが可能である。
【0112】
本実施形態に係る映像レーザーモジュールは、映像用の可視光源モジュールとアイトラッキング用の近赤外光源モジュールとがワンモジュールになっているため、大幅な小型化が実現可能である。また、映像用の可視光源モジュール及びアイトラッキング用の近赤外光源モジュールの光軸合わせが不要となる。従って、本実施形態に係る映像レーザーモジュールがグラスに搭載されたXRグラスを製造する際に作業効率が大幅に向上する。
【0113】
(第1実施形態)
図18は、第1実施形態に係る映像レーザーモジュールの斜視模式図である。
図18に示す映像レーザーモジュール1000は、図1に示した光導波検出素子100と、光導波検出素子100が備える第1光導波路21の3個の入射口21-1i、21-2i、21-3iのそれぞれに向けて可視光レーザーを出力する赤色レーザー光源60-1、緑色レーザー光源60-2、青色レーザー光源60-3と、光導波検出素子100が備える第2光導波路22の入射口22iに向けて近赤外光レーザーを出力する近赤外光レーザー光源70とを備える。
【0114】
可視光レーザー光源60及び近赤外光レーザー光源70はそれぞれ、レーザーダイオード(LD)である。赤色レーザー光源60-1は例えば、590nm以上800nm以下の波長域の光を出力するレーザーであり、緑色レーザー光源60-2は例えば、490nm以上590nm未満の波長域の光を出力するレーザーであり、青色レーザー光源60-3は例えば、380nm以上490nm未満の波長域の光を出力するレーザーであり、近赤外光レーザー光源70は例えば、波長780nm~2.0μmの波長域の近赤外光を出力するレーザーである。
【0115】
第1光導波路(可視光導波路)はそれぞれ、レーザーダイオード60-1、60-2、60-3のそれぞれに光学的に接続されている。また、第2光導波路(近赤外光導波路)はレーザーダイオード70に光学的に接続されている。
【0116】
レーザーダイオード(LD)60-1、60-2、60-3、及び、レーザーダイオード(LD)70はそれぞれ、例えば、ベアチップ(パッケージ化されていないチップ)でサブキャリア61-1、61-2、61-3、71に実装可能である。サブキャリア61-1、61-2、61-3、71は、例えば窒化アルミニウム(AlN)や、酸化アルミニウム(Al)、シリコン(Si)等で構成されている。図19に示すように、サブキャリア61-1、61-2、61-3、71とLD60-1、60-2、60-3、及び、LD70との間には、金属層75,76が設けられている。サブキャリア61-1、61-2、61-3、71とLD60-1、60-2、60-3、LD70とは、金属層75,76を介して接続されている。金属層75,76を形成する方法としては、公知の方法が利用可能で特に問わないが、スパッタ、蒸着、ペースト化した金属の塗布等の公知手法が利用可能である。金属層75,76は、例えば金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)及びタンタル(Ta)、タングステン(W)、金(Au)とスズ(Sn)の合金、スズ(Sn)-銀(Ag)-銅(Cu)系はんだ合金(SAC)、SnCu、InBi、SnPdAg、SnBiIn及びPbBiInからなる群から選択される1又は複数の金属を含み、この群から選択される1種又は複数の金属で構成されていてもよい。
【0117】
図19(a)は近赤外光LD70及び第3光導波路22の近傍を拡大した平面模式図であり、 図19(b)は、図19(a)においてX1-X1線で切断した断面模式図である。なお、図19(a)においては、近赤外光LD70及びサブキャリア71と第3光導波路22のみを図示した。
各光導波路21-1、21-2、21-3、22の入射口21-1i、21-2i、21-3i、22iが各LD60-1、60-2、60-3、70の出射口と対向し、各LD60-1、60-2、60-3、70の出射口から出射される光が各入射口21-1i、21-2i、21-3i、22iに入射可能に位置決めされて、各LD60-1、60-2、60-3、70と各光導波路21-1、21-2、21-3、22とが光学的に接続されている。
例えば、入射路22の軸線JX-1は、LD70の出射口70aから出射されるレーザー光LRの光軸AXRと略重なっている。このような構成及び配置によって、各LD60-1、60-2、60-3、70から発せられる赤色光、緑色光、青色光、近赤外光は、各光導波路21-1、21-2、21-3、22の入射路に入射可能である。
【0118】
図19に示すように、サブキャリア71は、金属層93(第1金属層93a,第2金属層93b,第3金属層93c)を介して基板10と直接接合された構成とすることができる。この構成によって、空間結合やファイバ結合をしないことによりさらに小型化が可能となる。
本実施形態では、サブキャリア71において基板10に対向する側面(第1側面)71Aと基板10においてサブキャリア71に対向する側面(第2側面)10AAとは、第1金属層93a、第2金属層93b、第3金属層93c、反射防止膜81を介して接続されている。金属層75の融点は、第3金属層93cの融点よりも高い。
【0119】
第1金属層93aは、スパッタ又は蒸着等によって側面71Aに当接した状態で設けられ、例えば金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)及びタンタル(Ta)からなる群から選択される1又は複数の金属を含み、この群から選択される1又は複数の金属で構成されていてもよい。好ましくは、第1金属層93aが、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1つの金属を含む。第2金属層93bは、スパッタ又は蒸着等によって側面10AAに当接した状態で設けられ、例えばチタン(Ti)、タンタル(Ta)及びタングステン(W)からなる群から選択される1又は複数の金属を含み、この群から選択される1又は複数の金属で構成されていてもよい。好ましくは、第2金属層93bに、タンタル(Ta)が用いられる。第3金属層93cは、第1金属層93aと第2金属層93bとの間に介在し、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、AuSn、SnCu、InBi、SnAgCu、SnPdAg、SnBiIn及びPbBiInからなる群から選択される1又は複数の金属を含み、この群から選択される1又は複数の金属で構成されていてもよい。好ましくは、第3金属層93cに、AuSn、SnAgCu、SnBiInが用いられる。
【0120】
第1金属層93aの厚み、即ち第1金属層93aのy方向の大きさは、例えば0.01μm以上5.00μm以下である。第2金属層93bの厚み、即ち第2金属層93bのy方向の大きさは、例えば0.01μm以上1.00μm以下である。第3金属層93cの厚み、即ちy方向の大きさは、例えば0.01μm以上5.00μm以下である。また、第3金属層93cの厚みは、第1金属層93a及び第2金属層93bの各厚みより大きいことが好ましい。このような構成では、第1金属層93a、第2金属層93b、第3金属層93cの前述の各役割が良好に発現され、基板10に対する第1金属層93aの材料の進入及び各金属層同士の接着強度の低下が抑えられる。第1金属層93a、第2金属層93bおよび第3金属層93cの厚みは、例えば分光エリプソメトリにより測定される。
【0121】
第1金属層93aは、金属層75に接触しない状態で、側面71Aの略全域において基板10又は光導波路層20に対向する側面に設けられている。第2金属層93b及び第3金属層93cのz方向の前端、即ち上端は、例えばz方向の前側では第1金属層93aの上端と同じ位置に達している。第2金属層93b及び第3金属層93cのz方向の後端、即ち下端は、例えばサブキャリア71,第1金属層93a及び基板10の下端と同じ位置に達している。y方向に沿って見たとき、x方向において第1金属層93aはサブキャリア71より大きく形成されている。
【0122】
上述の構成のように、第1金属層93aの面積、即ちx方向及びz方向を含む面内の大きさは、第2金属層93b及び第3金属層93cの面積と略同じであり、かつその下端がサブキャリア61-1、61-2、61-3、71の下端と同じ位置に達していることが好ましい。このような構成では、基板10に対するサブキャリア61-1、61-2、61-3、71の接続強度が最大限に確保される。すなわち、例えばLD60-1、60-2、60-3、70及びサブキャリア61-1、61-2、61-3、71の各々と複数の内部電極のうち各LD60-1、60-2、60-3、70に対応する内部電極パッドとを、ワイヤーボンディングを用いてワイヤーによって接続する場合であっても、サブキャリア61-1、61-2、61-3、71と基板10との接続が解除されることを抑制できる。またサブキャリア71、第1金属層93a、第2金属層93b、第3金属層93c及び基板10の下端が同じ位置に達していることで、サブキャリア61-1、61-2、61-3、71からの放熱パスを増やすことができる。尚、第1金属層93aの面積は第2金属層93b及び第3金属層93cの面積より小さくてもよい。
【0123】
映像レーザーモジュール1000では、LD60-1、60-2、60-3、70と光導波路層20との間に反射防止膜81が設けられている。例えば、反射防止膜81は、基板10の側面10AAと光導波路層20の入射面20Bとに、一体的に形成されている。但し、反射防止膜81は、光導波路層20の入射面20Bのみに形成されていてもよい。
【0124】
反射防止膜81は、光導波路層20への入射光が入射面20Bから進入する方向とは逆向きに反射することを防止し、入射光の透過率を高めるための膜である。反射防止膜81は、例えば複数の種類の誘電体が、入射光である赤色光、緑色光、青色光の波長に応じた所定の厚みで交互に積層されることによって形成される多層膜である。前述の誘電体としては、例えば酸化チタン(TiO)、酸化タンタル(Ta)、酸化シリコン(SiO)、酸化アルミニウム(Al)等が挙げられる。
【0125】
LD70の出射面70Aと光導波路層20の入射面20Bとは、所定の間隔で配置されている。入射面20Bは出射面70Aと対向しており、y方向において出射面70Aと入射面20Bとの間には隙間Sがある。映像レーザーモジュール1000は空気中に露出されているので、隙間Sには空気が満ちている。隙間Sが同じガス(空気)で充填された状態となるため、LD70から出射された各色光を所定の結合効率を満たした状態で入射路に入射させることが容易である。映像レーザーモジュール1000がARグラス、VRグラスに用いられる場合、ARグラス、VRグラスで求められる光量等をふまえると、隙間(間隔)Sのy方向の大きさは、例えば0μmより大きく、5μm以下である。
【0126】
(第2実施形態)
図20は、第2実施形態に係る映像レーザーモジュールの斜視模式図である。
第2実施形態に係る映像レーザーモジュールは、フォトディテクターが光導波路層内に形成されている点が第1実施形態に係る光導波検出素子と異なる。
以下では、第1実施形態に係る映像レーザーモジュールで説明した構成要素と実質的に同じ部材については同じ符号を用いて説明を省略する場合がある。
【0127】
図20に示す映像レーザーモジュール1001は、図5に示した光導波検出素子101と、光導波検出素子101が備える第1光導波路21の3個の入射口21-1i、21-2i、21-3iのそれぞれに向けて可視光レーザーを出力する赤色レーザー光源60-1、緑色レーザー光源60-2、青色レーザー光源60-3と、光導波検出素子100が備える第2光導波路22の入射口22iに向けて近赤外光レーザーを出力する近赤外光レーザー光源70とを備える。
【0128】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る映像レーザーモジュールは、スピンフォトディテクターの構成が第2実施形態に係る映像レーザーモジュールと異なる。
以下では、第1実施形態及び第2実施形態に係る映像レーザーモジュールで説明した構成要素と実質的に同じ部材については同じ符号を用いて説明を省略する場合がある。
【0129】
第3実施形態に係る映像レーザーモジュールは、図14に示したスピンフォトディテクター30を有する光導波検出素子102を備える。
【0130】
(第4実施形態)
図21は、第4実施形態に係る映像レーザーモジュールの斜視模式図である。
第4実施形態において、第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態と同様の構成は同様の符号を付し、説明を省く。
【0131】
図21示す映像レーザーモジュール1003は、図17に示した光導波検出素子103と、光導波検出素子101が備える第1光導波路21の3個の入射口21-1i、21-2i、21-3iのそれぞれに向けて可視光レーザーを出力する赤色レーザー光源60-1、緑色レーザー光源60-2、青色レーザー光源60-3と、光導波検出素子100が備える第2光導波路22-1の入射口22iに向けて近赤外光レーザーを出力する近赤外光レーザー光源70とを備える。
【0132】
上記実施形態に係る映像レーザーモジュールは、近赤外光レーザー光源70とフォトディテクター30のタイミング同期をする同期機構を備え、近赤外光レーザー光源70はパルス光を照射し、照射してから反射して戻ってくる光をフォトディテクター30で検知することで反射対象物までの距離を測定できてもよい。
【0133】
上記実施形態に係る映像レーザーモジュールにおいて、近赤外光レーザー光源70のパルス幅は100ナノ秒以下であってもよい。
【0134】
〔映像レーザーモジュールの製造方法〕
図22及び図23を用いて、本実施形態に係る光導波検出素子を備えた映像レーザーモジュールを製造する方法の主な工程の一例を説明する。
(第1工程)
デバイス作製用基板の準備(図22(a)参照)
デバイス作製用基板を準備する。デバイス作製用基板としては例えば、サファイア基板、Si基板、熱酸化シリコン基板などを挙げることができる。
(第2工程)
光導波路層の形成(550℃以上の高温プロセス)(図22(b)~(d)参照)
LiNbO光導波路を有する光導波路層を形成する。
(2-1)まず、LiNbO膜を成膜する。
(2-2)LiNbO膜をパターニングし、周囲を導波路クラッド材料で埋め込む。
(2-3)マッハツェンダー型光導波路を作製する場合は、LiNbO膜に電界を印加するために、バッファ層、および金属電極層を形成し、パターニングする。
(第3工程)
スピンフォトディテクターの作製(450℃以下のプロセス)(図22(e)~(g)参照)
(3-1)下部電極を形成する
(3-2)MTJを成膜する
(3-3)MTJをパターニングし、周囲に絶縁層を埋め込む。
(3-4)上部電極(ITOなどの透明電極)を形成する
【0135】
(第4工程)
上記で終了したウエハーをバー状に切断(LD接合前の光導波検出素子完成)(図22(h)参照)
(第5工程)
上記バーにLDが搭載されたサブキャリアをアクティブアライメント接合
(5-1)Si基板を準備する。その上にLDに電流を供給するための電極を形成し、サブキャリアを形成する。
(5-2)LDを形成する。そのウェハーをダイシングし、LDをチップ毎に分割する。(5-1)と平行して行う。
(5-3)(5-2)で分割したLDチップを、(5-1)で準備したサブキャリア上に正確に位置決めして接合する。
(5-4)LDが接合されたサブキャリアのバーを一つずつ切断する。
(5-5)サブキャリアに設けられた電極上に電流を供給し、そこからLDに電気的に接続された状態でレーザーを発振させる。その状態で(5-4)のバー状にされたデバイスの入射ポートに位置調整しながら近づける。そして、出射ポートで光センサーで光強度をみて、その強度が最大になる位置をみつけだし、そのポジションで、サブキャリアと(5-4)のデバイスを金属接合する。金属接合はYAGレーザーを照射し、あらかじめ端面に成膜しておいた金属を溶着することで接合する。
(5-6)(5-5)を繰り返し、各色LDについて行う。
(5-7)すべてのLDの接合が終了したら、そのバーを個別デバイスごとに切断する。
(5-8)パッケージされる前の映像レーザーモジュール完成(図23(i)参照)
(第6工程)
ベースとなるパッケージを作製。
(第7工程)
第6工程のベースとなるパッケージに、第5工程で完成した映像レーザーモジュールをいれ、モジュールとパッケージの電極と電気接続を行う(図23(j)参照)。
(第8工程)
蓋をして封止パッケージして、映像レーザーモジュールが完成。
【0136】
〔XRグラス〕
本実施形態に係るXRグラスは、上記実施形態に係る映像レーザーモジュールのいずれかがグラスに搭載されている。
XRグラス(眼鏡)はメガネ型の端末であり、XRは、仮想現実(VR:Virtual Reality)、拡張現実(AR:Augmented Reality)、複合現実(Mixed Reality)の総称である。
【0137】
図24に、本実施形態に係るXRグラスを説明するための概念図に示す。
図24に示すXRグラス10000は、フレーム10010に映像レーザーモジュール1001が搭載されている。符号Lは画像表示光である。
【0138】
図24において、映像レーザーモジュール1001と、光走査ミラー3001と、映像レーザーモジュール1001と光走査ミラー3001とを結ぶ光学系2001とを合わせて光学エンジン5001ということがある。映像レーザーモジュール1001としては、上述の実施形態に係る映像レーザーモジュールを用いる。
【0139】
映像レーザーモジュール1001における光源として例えば、赤色レーザー光源60-1、緑色レーザー光源60-2及び青色レーザー光源60-3のRGBのレーザー光源と、近赤外光レーザー光源70とを有するものを用いることができる。
図25に示すように、メガネフレームに取り付けられた映像レーザーモジュール1001から照射されたレーザー光は光走査ミラー3001で反射されて人の眼球E内に入り、網膜Mに直接画像(映像)を投影できる。
アイトラッキング機構を備えることにより、アイトラッキングを行いながら、網膜に直接画像が投影される。アイトラッキング機構としては公知のものを用いることができる。
【0140】
光走査ミラー3001は例えば、MEMSミラーである。2D画像を投影するためには、水平方向(X方向)および垂直方向(Y方向)に角度を変えてレーザー光を反射するように振動する2軸MEMSミラーであることが好ましい。
【0141】
映像レーザーモジュール1001から出射したレーザー光を光学的に処理する光学系2001として、コリメータレンズ2001aと、スリット2001bと、NDフィルタ2001cとを有する。この光学系は一例であって、他の構成であってもよい。
【0142】
光学エンジン5001は、レーザードライバ1100、光走査ミラードライバ1200、及び、これらのドライバを制御するビデオコントローラ1300を有する。
【0143】
図26に、映像レーザーモジュール1001の制御系の概念図、及び、眼球Eの模式図を示す。
可視光レーザー光源60-1、60-2、60-3、及び、近赤外光レーザー光源70はそれぞれ独立して駆動電流を制御するための電気信号を生成する電気信号生成素子65に接続されている。
また、電気信号生成素子65とフォトディテクター30とは、同期信号発生装置を含むプロセッサ85に接続されている。これによって、近赤外光レーザー光源70からパルス光を発光し、発光してから反射して戻ってくる近赤外光をフォトディテクター30で検知することで反射対象物までの距離を決定することができる。
眼球Eにおいて、符号E1、E2、E3、E4、E5はそれぞれ、瞳孔、虹彩、レンズ(水晶体)、角膜、網膜である。
【0144】
図27図29を用いて、反射対象物である眼球の表面(角膜)や眼球の網膜までの距離の測定について説明する。
映像レーザーモジュール1001は、第2光導波路22の近赤外光出射口22Aから光路OP1に沿って近赤外光レーザーパルス光LP1を眼球Eに向けて出射する。パルス光LP1は、眼球Eの網膜E5や眼球Eの表面E6(例えば、角膜E4、強膜)で反射され、光路ROP1に沿って戻った反射光は反射光入射口23Aから第3光導波路23を伝搬して、映像レーザーモジュール1001のフォトディレクター30で検出される。
【0145】
図27においては、眼球Eは第1の角度を向いている場合である。第2光導波路22の近赤外光出射口22Aから眼球Eに向けて照射された近赤外光レーザーパルス光LP1は光路OP1に沿って伝搬し、瞳孔E1を通って眼球Eに入り、眼球Eの網膜E5で反射される。反射パルス光RLP1は、光路ROP1に沿って戻り、映像レーザーモジュール1001のフォトディレクター30で検出される。
図28においては、眼球Eは第2の角度を向いている。第2光導波路22の近赤外光出射口22Aから眼球Eに向けて照射された近赤外光レーザーパルス光LP2は光路OP2に沿って伝搬し、眼球Eの表面E6で反射される。反射パルス光RLP2は、光路ROP2に沿って戻り、映像レーザーモジュール1001のフォトディレクター30で検出される。
【0146】
図29において、横軸は、眼球Eが第1の角度を向いている場合と、眼球Eは第2の角度を向いている場合のそれぞれで、近赤外光レーザー光源70でのパルス光の発光したとき(時刻t)から、フォトディレクター30で検出されるときまでの時間経過を示したものである。
眼球Eが第1の角度を向いている場合、パルス光LP1は時刻tに眼球Eに向けて出射され、出射時刻tはプロセッサ85に記録される。パルス光LP1は眼球Eの瞳孔E1に入射し、網膜E5で反射される。反射パルス光RLP1は時刻tにおいて映像レーザーモジュール1001によって検出される。ここでt-tがパルス光が出射されてから検出されるまでの飛行時間に対応する。飛行時間t-tに基づいて、映像レーザーモジュール1001とパルス光LP1が反射された網膜E5との間の距離が決定される。
同様に、眼球Eは第2の角度を向いている場合、t-tがパルス光が出射されてから検出されるまでの飛行時間に対応する。飛行時間t-tに基づいて、映像レーザーモジュール1001とパルス光LP2が反射された表面E6との間の距離が決定される。
映像レーザーモジュール1001は、飛行時間t-tおよびt-tに基づいて決定された距離に基づいて、飛行時間が眼球Eの網膜E5から反射されたパルス光の飛行時間に対応するか、または眼球Eの表面E6から反射されたパルス光の飛行時間に対応するかを判定する。
【0147】
飛行時間t-tおよびt-tに基づいて、網膜までの距離と眼球表面までの距離とを識別することができる。
眼球の大きさは20mm程度であるため、飛行時間の差はわずかであるが、スピンフォトディテクターは高速であるため、測距を可能である。
【0148】
本実施形態に係るXRグラスでは、近赤外光レーザー光源70から近赤外光を照射し、反射対象物に照射してから反射して戻ってくる光の強度をフォトディレクター30で検知し、その光の強度に基づいてプロセッサ85でその反射対象物を特定する構成であってもよい。
【0149】
本実施形態に係るXRグラスでは、フォトディレクター30を用いて反射率の違いによる光の強度を検知して、その強度に基づいてプロセッサ85で眼球の位置を決定する構成であってもよい。
例えば、網膜と、眼球の表面の強膜(比較的硬いいわゆる白眼)とでは反射率が異なり、受光する光の強度が変わるので、目の瞳孔の位置を検出することができる。
【0150】
本実施形態に係るXRグラスは、アイトラッキング機構の情報に基づき、映像レーザーモジュールを可動させるアクチュエーター機構を備えることが好ましい。
アクチュエーター機構としては例えば、映像レーザーモジュールを2次元ステージに設置してリニアアクチュエーターで移動する機構を用いることができる。リニアアクチュエーターとしては圧電超音波リニアモータを用いることができる。また、球面モータを用いたアクチュエーターやボイスコイルモータを用いることができる。
【符号の説明】
【0151】
10 基板
20 光導波路層
20A 一端面
21 第1光導波路
21A 可視光出射口
22 第2光導波路
22A 近赤外光出射口
23 第3光導波路
23A 反射光入射口
30 フォトディテクター
100、101、102、103 光導波検出素子
1000、1001、1003 映像レーザーモジュール
10000 XRグラス
図1
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