(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048872
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】断熱材
(51)【国際特許分類】
F16L 59/14 20060101AFI20240402BHJP
C04B 35/83 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
F16L59/14
C04B35/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155006
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 祐介
(72)【発明者】
【氏名】野村 健太
(72)【発明者】
【氏名】折戸 暁則
【テーマコード(参考)】
3H036
【Fターム(参考)】
3H036AB15
3H036AB24
3H036AC01
3H036AE01
(57)【要約】
【課題】 交換コストの低い断熱材を提供する。
【解決手段】 発熱体の周囲を覆う断熱材であって、発熱体側に配置される第1の断熱部材と、発熱体と反対側に配置される第2の断熱部材と、を備え、上記第1の断熱部材及び上記第2の断熱部材は、いずれも、炭素繊維を含み、上記第1の断熱部材と上記第2の断熱部材は、互いに分離可能な状態で接している、ことを特徴とする断熱材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体の周囲を覆う断熱材であって、
発熱体側に配置される第1の断熱部材と、発熱体と反対側に配置される第2の断熱部材と、を備え、
前記第1の断熱部材及び前記第2の断熱部材は、いずれも、炭素繊維を含み、
前記第1の断熱部材と前記第2の断熱部材は、互いに分離可能な状態で接している、ことを特徴とする断熱材。
【請求項2】
前記第1の断熱部材の発熱体側の面は、熱分解炭素を含む熱分解炭素層である、請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
前記熱分解炭素層は、厚さが2μm~60μmである、請求項2に記載の断熱材。
【請求項4】
前記第1の断熱部材の発熱体側の面は、炭素繊維間に炭素系粒子を含有する炭素層である、請求項1に記載の断熱材。
【請求項5】
前記炭素層の前記炭素系粒子及び前記炭素繊維は、互いに炭素系接着材で接合されている、請求項4に記載の断熱材。
【請求項6】
前記炭素系粒子は、黒鉛、カーボンブラック、ガラス状カーボン粒子、及び炭素繊維を粉砕した粒子からなる群から選択される少なくとも1つの炭素系粒子である、請求項4に記載の断熱材。
【請求項7】
前記炭素系粒子は、平均粒子径が10nm~500μmである、請求項4に記載の断熱材。
【請求項8】
前記炭素層は、厚さが10μm~1000μmである、請求項4に記載の断熱材。
【請求項9】
前記第1の断熱部材は、さらに、前記炭素層に対して前記発熱体側の面とは反対側の面に設けられる、前記炭素繊維からなる基材を有する、請求項4に記載の断熱材。
【請求項10】
前記基材が、前記炭素繊維のニードルマット又は前記炭素繊維の抄造体である、請求項9に記載の断熱材。
【請求項11】
前記基材を構成する前記炭素繊維の平均繊維長が、2mm~8mmである、請求項9に記載の断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を用いた断熱材は、耐熱温度が高く断熱性能も優れることから、単結晶引き上げ装置、セラミック焼結炉など、高温炉用断熱材として広く利用されている。
【0003】
炭素繊維を用いた断熱材は、炭素繊維による伝熱を抑制するため、気孔率の高いフェルト、抄造体などの形態で広く利用されている。一般に、フェルトは変形性があるため、空いた空間に充填して当該空間を埋める部材や、他の部品を囲む断熱材として利用される。一方、抄造体は高い形状保持性を有するため、所定の形状に加工し、断熱部品として利用される。なお、フェルトは、圧縮した後、バインダによって固定することにより、形状保持性の良い断熱部品として使用することもできる。
【0004】
炭素繊維を用いた断熱材は、炉内での酸化、機械的な摩擦などにより、繊維の脱落を起こし、パーティクルを発生させることがある。また、このような不具合が、放射に対する断熱性の低下を引き起こすことがある。
【0005】
このような課題を解決するため、特許文献1には、嵩密度0.1~0.4g/cm3の炭素質断熱部材と、嵩密度0.3~2.0g/cm3の炭素質保護層と、炭素質保護層よりも嵩密度の大きい熱分解炭素皮膜と、を有する複合炭素質断熱材において、炭素質断熱部材の表面の少なくとも一部に炭素質保護層を接合して接合体を形成し、接合体の表面のうち少なくとも炭素質断熱部材の面に熱分解炭素皮膜層を形成することで、使用時の炭素繊維の消耗、劣化、粉化を抑制し、断熱特性に優れた複合炭素質断熱材を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の断熱材を、誘導加熱炉等の高温における断熱材として使用した場合、熱分解炭素皮膜層の消耗や劣化は避けられず、熱分解炭素皮膜層の消耗や劣化が進んだ場合には、例え炭素質保護層や炭素質断熱部材が劣化していなくても、断熱材を丸ごと交換する必要が生じる。そのため、断熱材の交換コストが高いという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされた発明であり、本発明の目的は、交換コストの低い断熱材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の断熱材は、発熱体の周囲を覆う断熱材であって、発熱体側に配置される第1の断熱部材と、発熱体と反対側に配置される第2の断熱部材と、を備え、上記第1の断熱部材及び上記第2の断熱部材は、いずれも、炭素繊維を含み、上記第1の断熱部材と上記第2の断熱部材は、互いに分離可能な状態で接している、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の断熱材では、第1の断熱部材と第2の断熱部材が、互いに分離可能な状態で接しているため、第1の断熱部材が劣化・消耗した場合であっても、第1の断熱部材だけを交換することができる。そのため、断熱材の交換に要する時間を短縮することができ、さらに、交換する断熱材の量も少なくなる。従って、断熱材の交換コストを低くすることができる。
【0011】
本発明の断熱材では、第1の断熱部材の発熱体側の面は、熱分解炭素を含む熱分解炭素層であることが好ましい。
第1の断熱部材の発熱体側の面が熱分解炭素層であるため、高温域、特に2000℃を超える高温域において、放射による熱伝導を遮断して、優れた断熱性を発揮する。また発熱体や発熱体の内側から反応性ガスが発生する場合であっても、反応性ガスに対する活性が低く、劣化や消耗が生じにくい。
【0012】
本発明の断熱材において、上記熱分解炭素層は、厚さが2μm~60μmであることが好ましい。
熱分解炭素層の厚さが2μm~60μmであると、優れたガス遮断性と放射熱の遮断特性とを両立させることができる。
【0013】
本発明の断熱材では、第1の断熱部材の発熱体側の面は、炭素繊維間に炭素系粒子を含有する炭素層であることが好ましい。
第1の断熱部材の発熱体側の面が炭素系粒子を含有する炭素層であるため、炭素繊維の劣化によるパーティクルの発生を抑制することができる。
【0014】
本発明の断熱材において、上記炭素層の上記炭素系粒子及び上記炭素繊維は、互いに炭素系接着材で接合されていることが好ましい。
炭素層を構成する炭素系粒子及び炭素繊維が、互いに炭素系接着材で接合されていると、炭素層が強固となる。
【0015】
本発明の断熱材において、上記炭素系粒子は、黒鉛、カーボンブラック、ガラス状カーボン粒子、及び炭素繊維を粉砕した粒子からなる群から選択される少なくとも1つの炭素系粒子であることが好ましい。
黒鉛、カーボンブラック、ガラス状カーボン粒子、及び炭素繊維を粉砕した粒子からなる群から選択される少なくとも1つの炭素系粒子は、不純物が少なく、断熱材を構成する炭素繊維と同じカーボン系の材料であるため、高温域での耐久性が高い。
【0016】
本発明の断熱材において、上記炭素系粒子は、平均粒子径が10nm~500μmであることが好ましい。
炭素系粒子の平均粒子径が10nm~500μmであると、炭素繊維のすき間に薄く被覆層を形成することができ、断熱材において、炭素繊維との接合を高いレベルで確保することができる。また、熱伝導率が高くなりやすい炭素層の厚さが厚くなり過ぎることを防止することができる。
【0017】
本発明の断熱材において、上記炭素層は、厚さが10μm~1000μmであることが好ましい。
炭素層の厚さが1000μm以下であると、断熱性能の低下を抑えることができる。
炭素層の厚さが10μm以上であると、炭素層の強度を充分に確保することができる。
【0018】
本発明の断熱材において、上記第1の断熱部材は、さらに、上記炭素層に対して上記発熱体側の面とは反対側の面に設けられる、上記炭素繊維からなる基材を有することが好ましい。
炭素繊維からなる基材は炭素繊維間に隙間を有しているため、断熱性能を向上させることができる。
【0019】
本発明の断熱材において、上記基材が、上記炭素繊維のニードルマット又は上記炭素繊維の抄造体であることが好ましい。
炭素繊維のニードルマット及び炭素繊維の抄造体は、ランダムに配置された炭素繊維で構成されるため、高い断熱性を発揮することができ、第1の断熱部材を構成する基材として特に好適である。
【0020】
本発明の断熱材において、上記基材を構成する上記炭素繊維の平均繊維長が、2mm~8mmであることが好ましい。
基材を構成する炭素繊維の平均繊維長が上記範囲であると、強度が高く、また、炭素繊維が配向しにくいため、誘導加熱炉に用いた場合、誘導加熱による発熱を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の断熱材の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の断熱材を用いて構成される加熱装置の一例を模式的に示す一部切り欠き斜視断面図である。
【
図6】
図6は、劣化した第1の断熱部材を取り出す様子を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、新しい第1の断熱部材を挿入する様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0023】
[断熱材]
本発明の断熱材は、発熱体の周囲を覆う断熱材であって、発熱体側に配置される第1の断熱部材と、発熱体と反対側に配置される第2の断熱部材と、を備え、上記第1の断熱部材及び上記第2の断熱部材は、いずれも、炭素繊維を含み、上記第1の断熱部材と上記第2の断熱部材は、互いに分離可能な状態で接している、ことを特徴とする。
【0024】
(第1の断熱部材)
第1の断熱部材は、炭素繊維からなる基材を有することが好ましい。
炭素繊維からなる基材は炭素繊維間に隙間を有しているため、断熱性能を向上させることができる。
【0025】
炭素繊維の平均繊維径は、1μm~20μmが好ましい。
炭素繊維の平均繊維径が20μm以下であると、炭素繊維自体による伝導伝熱の効果を抑制することができる。また炭素繊維の平均繊維径が1μm以上であると、遮光性に優れ、放射伝熱を抑制することができる。
【0026】
炭素繊維の平均繊維長は、2mm~10000mmが好ましい。
また、炭素繊維の平均繊維長は、2mm~8mmであってもよく、10mm~10000mmであってもよい。
【0027】
炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維のいずれでも利用できるとともに、黒鉛質、炭素質いずれの炭素繊維も利用することができる。
【0028】
基材は、炭素繊維のニードルマット、又は、炭素繊維の抄造体であることが好ましい。
炭素繊維のニードルマット及び炭素繊維の抄造体は、ランダムに配置された炭素繊維で構成されるため、高い断熱性を発揮することができ、第1の断熱部材を構成する基材として特に好適である。
【0029】
基材が炭素繊維のニードルマットである場合、炭素繊維の平均繊維長は、10mm~10000mmであることが好ましい。
基材が炭素繊維の抄造体である場合、炭素繊維の平均繊維長は、2mm~8mmであることが好ましい。
【0030】
第1の断熱部材は、基材と、基材の表面に形成される炭素繊維間に炭素系粒子を含有する炭素層を有していてもよい。
なお、炭素層を構成する上記炭素繊維は、第1の断熱部材を構成する炭素繊維と同一である。
【0031】
第1の断熱部材の発熱体側の面は、炭素繊維間に炭素系粒子を含有する炭素層であってもよい。
第1の断熱部材の発熱体側の面が炭素系粒子を含有する炭素層であることにより、炭素繊維の劣化によるパーティクルの発生を抑制することができる。
なお、第1の断熱部材の発熱体側の面が炭素層であるかどうかは、第1の断熱部材の断面を偏光顕微鏡等で観察することで確認することができる。
【0032】
炭素層の厚さは、特に限定されないが、10μm~1000μmであることが好ましい。
炭素層の厚さが1000μm以下であると、断熱性能の低下を抑えることができる。
炭素層の厚さが10μm以上であると、炭素繊維の劣化によるパーティクルの発生を充分抑えることができる。
【0033】
第1の断熱部材の発熱体側の面以外の面、すなわち、発熱体側の面とは反対側の面、及び/又は、長手方向の端面も、炭素層であってもよい。
【0034】
炭素系粒子は、黒鉛、カーボンブラック、ガラス状カーボン粒子、及び炭素繊維を粉砕した粒子からなる群から選択される少なくとも1つの炭素系粒子であることが好ましい。
黒鉛、カーボンブラック、ガラス状カーボン粒子、及び炭素繊維を粉砕した粒子からなる群から選択される少なくとも1つの炭素系粒子は、不純物が少なく、断熱材を構成する炭素繊維及び熱分解炭素層と同じカーボン系の材料であるため、高温域での耐久性が高い。
【0035】
ガラス状カーボン粒子とは、フェノール樹脂の炭化物などの難黒鉛化性炭素を粉砕したものである。
炭素繊維を粉砕した粒子は、ミルド炭素繊維ともいう。ミルド炭素繊維の平均繊維長は、例えば20μm~500μmであることが好ましい。
【0036】
炭素系粒子は、平均粒子径が10nm~500μmであることが好ましい。
炭素系粒子の平均粒子径が10nm~500μmであると、炭素繊維のすき間に薄く炭素層を形成することができ、断熱材において、炭素繊維と熱分解炭素層との接合を高いレベルで確保することができる。また、熱伝導率が高くなりやすい炭素層の厚さが厚くなり過ぎることを防止することができる。
【0037】
炭素系粒子と炭素繊維は、互いに炭素系接着材で接合されていることが好ましい。
炭素層を構成する炭素系粒子及び炭素繊維が、互いに炭素系接着材で接合されていると、炭素層が強固となる。
【0038】
炭素系接着材とは、有機バインダが非酸化性雰囲気下で加熱されることで炭化したものである。詳細は後述する。
【0039】
第1の断熱部材は、基材と、基材の表面に形成される熱分解炭素からなる熱分解炭素層を有していてもよい。
【0040】
第1の断熱部材の発熱体側の面は、熱分解炭素からなる熱分解炭素層であってもよい。
第1の断熱部材の発熱体側の面が熱分解炭素層であることにより、ガス遮断性と放射熱の遮断特性を向上させることができる。
なお、第1の断熱部材の発熱体側の面が熱分解炭素層であるかどうかは、第1の断熱部材の断面を偏光顕微鏡等で観察することで確認することができる。
【0041】
熱分解炭素層の厚さは特に限定されないが、2μm~60μmであることが好ましい。
熱分解炭素層の厚さは、第1の断熱部材の切断面を偏光顕微鏡等で観察することにより確認することができる。
【0042】
第1の断熱部材の発熱体側の面以外の面、すなわち、発熱体側の面とは反対側の面、及び/又は、長手方向の端面も、熱分解炭素層であってもよい。
【0043】
第1の断熱部材は、熱分解炭素層と炭素層の両方を有していてもよい。
この場合、熱分解炭素層が表面側に配置されることが好ましい。
換言すると、基材と熱分解炭素層との間に炭素層が配置されることが好ましい。
【0044】
第1の断熱部材は、炭素繊維からなる基材で構成されていてもよいし、該基材と、該基材の表面に形成された熱分解炭素層と、で構成されていてもよいし、該基材と、該基材の表面に形成された炭素層と、で構成されていてもよいし、該基材と、該基材の表面に形成された炭素層と、炭素層の表面に形成された熱分解炭素層と、で構成されていてもよい。
【0045】
第1の断熱部材が熱分解炭素層と炭素層を両方有している場合、炭素層の表面には、炭素繊維が露出していることが好ましい。
炭素層の表面に炭素繊維が露出していると、熱分解炭素層が炭素繊維と直接接合するので、炭素層と熱分解炭素層との接合強度を高めることができ、炭素層と熱分解炭素層との間の層間剥離を防止することができる。
【0046】
第1の断熱部材の厚さは、特に限定されないが、3~50mmであることが好ましい。
なお、第1の断熱部材の厚さは、第1の断熱部材の、発熱体側の面と、発熱体側の面とは反対側の面との間の最短距離である。
【0047】
第1の断熱部材の外形形状は、内側に発熱体を収容するための柱状の空間を有する形状であれば特に限定されず、例えば、円柱形、角柱形等の柱形状が挙げられる。
上記空間の外形形状は特に限定されないが、例えば円柱形、角柱形等の柱形状が挙げられる。
【0048】
第1の断熱部材の内側に形成される空間の、長手方向に直交する方向における断面形状は、特に限定されず、例えば、真円、楕円等の円形であってもよく、四角形、五角形、六角形等の多角形であってもよい。
【0049】
第1の断熱部材の嵩密度は、特に限定されないが、0.05~0.4g/cm3であることが好ましい。
第1の断熱部材の嵩密度は、第1の断熱部材の重量を、第1の断熱部材の外形寸法より求めた体積で除することで測定することができる。
【0050】
第1の断熱部材は、最初から筒形状に成形されたものでなくてもよい。
すなわち、第1の断熱部材は、筒形状を複数個に分割した形状の複数の断熱部材の集合体であってもよい。
また第1の断熱部材は、平面視略矩形形状の炭素繊維からなるシート状成形体を、内側に発熱体を収容するための柱状の空間が形成されるように変形させたものであってもよい。
【0051】
シート状成形体を筒形状に変形させる場合、シート状成形体の端部同士が接触する部分(接触部)は、互いに分離可能な状態で接していてもよいし、炭素系接着材等により互いに接合されていてもよいし、炭素繊維等で縫合されていてもよい。
【0052】
(第2の断熱部材)
第2の断熱部材は、炭素繊維を含む。
第2の断熱部材の形状は、第1の断熱部材よりも一回り大きな略円筒形状であることが好ましい。
また、第2の断熱部材の厚さは、第1の断熱部材の厚さよりも厚いことが好ましい。
【0053】
第2の断熱部材の厚さは、6~500mmであることが好ましい。
なお、第2の断熱部材の厚さは、第2の断熱部材における発熱体側の面と、発熱体側の面とは反対側の面との間の最短距離である。
【0054】
第2の断熱部材の嵩密度は、0.05~0.4g/cm3であることが好ましい。
第2の断熱部材の嵩密度は、第1の断熱部材の嵩密度と同様の方法で測定することができる。
【0055】
第2の断熱部材は、第1の断熱部材と同様の構成を有していてもよい。
すなわち、第2の断熱部材は、炭素繊維からなる基材を有していてもよいし、該基材上に熱分解炭素からなる熱分解炭素層を有していてもよいし、炭素層を有していてもよいし、炭素層及び熱分解炭素層を有していてもよい。
また、第2の断熱部材を構成する炭素繊維の平均繊維径及び平均繊維長は、第1の断熱部材を構成する炭素繊維の平均繊維径及び平均繊維長と同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0056】
第2の断熱部材の外形形状は、第1の断熱部材の周囲を覆うことができるものであればよく、最初から筒形状であってもよいし、筒形状を複数個に分割した形状の複数の断熱部材の集合体であってもよいし、シート状の成形体を筒形状に変形させたものであってもよい。
【0057】
以下、図面を参照しながら、本発明の断熱材の一例を説明する。
図1は、本発明の断熱材の一例を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1におけるII-II線断面図である。
【0058】
図1に示すように、断熱材1は、第1の断熱部材10と、第2の断熱部材20とを備える。
第1の断熱部材10は、発熱体を収容するための円柱形状の空間30を内側に有する。
すなわち、第1の断熱部材10は、第2の断熱部材20よりも発熱体側に配置される。
また、第1の断熱部材10は、長手方向(
図1中、Z方向)に伸びる略円筒形状を有している。長手方向(Z方向)に直交するX方向及びY方向に平行な面に対し、第1の断熱部材10をZ方向から見た上面視形状は、環状である。
【0059】
空間30は発熱体(図示しない)を収容するための空間であるから、断熱材1は発熱体の周囲を覆う断熱材である。
【0060】
図2に示すように、第1の断熱部材10は、発熱体側の面である第1主面10aと、発熱体側の面とは反対側の面である第2主面10bと、長手方向の両端部にあたる端面10cを有している。
発熱体側の面とは反対側の面である第2主面10bは、第2の断熱部材20側の面でもある。
【0061】
第2の断熱部材20は、第1の断熱部材10を収容するための略円柱形状の空間を内側に有する。
すなわち、第2の断熱部材20は、第1の断熱部材10の発熱体と反対側に配置される。
【0062】
第2の断熱部材20は、長手方向(
図1中、Z方向)に伸びる略円筒形状を有している。
第2の断熱部材20は、発熱体側の面である第1主面20aと、発熱体側の面とは反対側の面である第2主面20bと、長手方向の両端部にあたる端面20cを有している。
【0063】
第1主面20aは、第1の断熱部材10側の面でもある。
第2主面20bは、第1の断熱部材10側の面とは反対側の面でもある。
【0064】
第2の断熱部材20の略円筒形状は、第1の断熱部材10よりも一回り大きな形状である。
【0065】
断熱材1が使用される場合、
図2に示す空間30に発熱体が配置される。
このことを、
図3を用いて説明する。
【0066】
図3は、本発明の断熱材を用いて構成される加熱装置の一例を模式的に示す一部切り欠き斜視断面図である。
図3に示す加熱装置100は、断熱材1と、るつぼ50と、るつぼ50を加熱させるための誘導加熱用コイル70と、を備えている。
誘導加熱用コイル70が発生させる誘導電流によりるつぼ50が加熱される。従って、るつぼ50は発熱体である。
るつぼ50は空洞51を有している。従って、加熱装置100は、誘導加熱用コイル70によりるつぼ50を発熱させることで、空洞51に配置した物質を加熱することができる。
【0067】
発熱体であるるつぼ50の周囲は、断熱材1により覆われている。
断熱材1は、発熱体側に配置される第1の断熱部材10と、発熱体と反対側に配置される第2の断熱部材20とを備える。
発熱体であるるつぼ50が配置されている空間は、断熱材1が有する空間30の一部又は全部である。
断熱材1の外周面には、誘導加熱用コイル70が巻きつけられている。
【0068】
加熱装置100では、発熱体であるるつぼ50と断熱材1とは直接接触しているが、発熱体であるるつぼ50と断熱材1の間に適宜隙間が設けられていてもよい。
【0069】
また、断熱材1では、第1の断熱部材10と第2の断熱部材20は、互いに分離可能な状態で接している。
従って、加熱装置100が使用されて、第1の断熱部材10が劣化した場合であっても、第1の断熱部材10だけを容易に交換することができ、交換コストを低減させることができる。
【0070】
図3に示す加熱装置100において、るつぼ50を構成する材料は、導体であれば特に限定されないが、高温(特に2000℃以上)における耐熱性及び耐久性に優れた黒鉛が好ましい。
【0071】
発熱体は上記のような、固体及び液体を加熱するためのものに限定されない。
例えば、発熱体は、黒鉛製の筒形状を有し、内部を通過するガスを加熱するものであってもよい。
また、発熱体は直接通電加熱されるヒーターであってもよく、発熱体と断熱材の間に被加熱体が入る隙間があってもよい。
【0072】
図3に示す加熱装置100においては、炭素繊維を含む第1の断熱部材10が、発熱体50を覆うように使用されているといえる。
また、
図3に示す加熱装置100においては、第1の断熱部材10の周囲を覆うように、かつ、第1の断熱部材10と分離可能な状態で接するように、炭素繊維を含む第2の断熱部材20が使用されているといえる。
【0073】
図4は、
図3の破線で囲った領域の部分拡大図である。
図4に示すように、断熱材1のうち、第1の断熱部材10が発熱体50側に配置され、第2の断熱部材20が発熱体50とは反対側に配置される。
【0074】
第1の断熱部材10の発熱体50側の面(第1主面10a)は、後述する熱分解炭素を含む熱分解炭素層である場合、発熱体50から発せられる放射光を反射して放射伝熱を防ぐとともに、ガス遮断性に優れる。
【0075】
なお、
図4では発熱体50と第1の断熱部材10とは密着しているが、発熱体50と第1の断熱部材10との間を適宜調整して隙間を設けてもよい。隙間は、
図2に示す空間30に、空間30よりも寸法の小さい発熱体50を収容することで残った空間30の一部である。
【0076】
図5は、
図2の破線で囲った領域の部分拡大図である。ただし、
図5では、第1の断熱部材以外の構成を省略している。
図5に示すように、第1の断熱部材10は、発熱体を収容する空間30側に配置される面(第1主面10a)と、第2の断熱部材20側に配置される面(第2主面10b)と、端面10cと、を有している。
第1の断熱部材10の厚さは、第1主面10aと第2主面10bとの最短距離であり、
図5において、両矢印d
10で示される長さである。
【0077】
図5に示すように、第1の断熱部材10は、熱分解炭素層11と、炭素層12と、基材13とを有していてもよい。
【0078】
熱分解炭素層11は、熱分解炭素を含む層である。
図5に示すように、第1の断熱部材10の発熱体側の面(第1主面10a)は、熱分解炭素を含む熱分解炭素層11aであってもよい。この場合、第1の断熱部材10の第1主面10aに熱分解炭素層11aが設けられているといえる。
第1の断熱部材10の発熱体側の面とは反対側の面(第2主面10b)は、熱分解炭素を含む熱分解炭素層11bであってもよい。この場合、第1の断熱部材10の第2主面10bには、熱分解炭素層11bが設けられているといえる。
また、第1の断熱部材10の端面10cは、熱分解炭素を含む熱分解炭素層11cであってもよい。この場合、第1の断熱部材10の端面10cには、熱分解炭素層11cが設けられているといえる。
【0079】
炭素層12は、炭素繊維間に炭素系粒子を含有する層である。
図5に示すように、熱分解炭素層11と基材13との間に炭素層12が設けられていてもよい。
炭素層12は、第1の断熱部材10の第1主面10a側に設けられる炭素層12aと、第2主面10b側に設けられる炭素層12bと、端面10c側に設けられる炭素層12cと、を有していてもよい。
【0080】
炭素層12aは、熱分解炭素層11aに対して発熱体側の面とは反対側の面に設けられている。
なお、熱分解炭素層11aが設けられていない場合には、第1の断熱部材の発熱体側の表面は、炭素層12aであってもよい。
炭素層12bは、熱分解炭素層11bに対して発熱体側の面に設けられている。
なお、熱分解炭素層11bが設けられていない場合には、第1の断熱部材の発熱体側の面とは反対側の面10bが炭素層12bであってもよい。
炭素層12cは、熱分解炭素層11cに対して、第1の断熱部材の長手方向の端部とは反対側の面に設けられている。
【0081】
基材13は、炭素繊維からなる。
基材13は、炭素層12aに対して熱分解炭素層11a側の面とは反対側の面に設けられている。また基材13は、炭素層12bに対して熱分解炭素層11b側の面とは反対側の面に設けられているともいえる。
なお、熱分解炭素層11b及び炭素層12bが設けられていない場合には、第1の断熱部材の発熱体側の面とは反対側の面10bが基材13であってもよい。
【0082】
なお、
図5に示す第1の断熱部材10は一例である。
本発明の断熱材を構成する第1の断熱部材は、基材13そのものであってもよく、基材13上に炭素層12が設けられたものであってもよく、基材13上に熱分解炭素層11が設けられたものであってもよく、基材13上に炭素層12及び熱分解炭素層11がこの順で設けられたものであってもよい。
【0083】
第1の断熱部材が炭素層を有する場合、少なくとも、第1の断熱部材の発熱体側の面が炭素層であることが好ましい。
また、第1の断熱部材が熱分解炭素層を有する場合、少なくとも、第1の断熱部材の発熱体側の面が熱分解炭素層であることが好ましい。
【0084】
第1の断熱部材10と第2の断熱部材20は、互いに分離可能な状態で接している。
なお、互いに分離可能な状態で接しているとは、第1の断熱部材10及び第2の断熱部材20の両方を破壊することなく互いを分離させることができる状態をいう。
【0085】
例えば、第1の断熱部材10と第2の断熱部材20とがただ接触している状態は、互いに分離可能な状態で接しているといえる。
一方で、第1の断熱部材10と第2の断熱部材20とが炭素系接着材により接着されていて、第1の断熱部材10及び/又は第2の断熱部材20を破壊しないと互いを分離できない場合は、第1の断熱部材10と第2の断熱部材20とが互いに分離可能な状態に該当しない。
【0086】
本発明の断熱材では、第1の断熱部材と第2の断熱部材が、互いに分離可能な状態で接しているため、劣化が進行した第1の断熱部材だけを取り外して交換することが容易となる。
このことを、
図6及び
図7を用いて説明する。
【0087】
図6は、劣化した第1の断熱部材を取り出す様子を模式的に示す図である。
図7は、新しい第1の断熱部材を挿入する様子を模式的に示す図である。
本発明の断熱材では、第1の断熱部材と第2の断熱部材が互いに分離可能な状態で接しているため、
図6に示すように、劣化が進行した第1の断熱部材10’を第2の断熱部材20と分離することが容易である。
そして、
図7に示すように、新たな第1の断熱部材10を第2の断熱部材20の内側に挿入することで、断熱材1の断熱性能を回復させることができる。
【0088】
上述したように、本発明の断熱材においては、劣化が優先的に進行する第1の断熱部材だけを容易に交換することができるため、交換に係る作業時間を削減できる。さらに、交換にあたって第2の断熱部材を準備する必要がないため、交換に係る材料コストも削減することができる。
【0089】
[第1の断熱部材の製造方法]
本発明の断熱材を構成する第1の断熱部材は、例えば、炭素繊維の成形体を準備する成形体準備工程により製造することができる。
【0090】
(成形体準備工程)
成形体準備工程では、炭素繊維の成形体を準備する。
【0091】
炭素繊維の成形体を得る方法としては、ニードリング法や抄造法が挙げられる。
【0092】
ニードリング法の場合、例えば、平均繊維長が10mm~10000mmの炭素繊維をシート状に積層し、ニードリングにより無機繊維同士を交絡させることで炭素繊維からなる成形体を得ることができる。
【0093】
抄造法の場合、例えば、平均繊維長が2mm~8mmの炭素繊維を水等の分散媒に分散させた懸濁液を準備し、型を用いて抄造することで、炭素繊維からなる成形体を得ることができる。
【0094】
抄造に用いる型は平面でもよいが、目的の形状の曲面型でもよい。
すなわち、成形体準備工程で得られる成形体は、最初から筒形状であってもよいが、この時点では筒形状ではなく、例えば、平面視略矩形形状であってもよい。
成形体の形状が平面視略矩形形状の場合には、後述する変形工程により筒形状に変形させる。
【0095】
抄造法の場合、懸濁液には有機バインダが含まれていてもよい。
懸濁液に有機バインダが含まれていると、抄造時に炭素繊維同士が固定されて、成形性が向上する。また、炭素繊維からなる成形体に有機バインダが残留して炭素繊維同士を拘束することができるため、後述の炭素層形成工程よりも前の段階における成形体のハンドリング性を向上させることができる。
【0096】
なお、懸濁液に含まれていてもよい有機バインダには、後述する炭素層形成工程で用いてもよい有機バインダと同様のものを好適に用いることができる。
【0097】
成形体準備工程で用いられる炭素繊維としては、第1の断熱部材を構成する炭素繊維を好適に用いることができる。
【0098】
(変形工程)
なお、成形体準備工程で準備される成形体の外形形状は、最初から筒形でなくてもよい。
例えば、成形体準備工程で、平面視略矩形形状の成形体(シート状成形体)を作製し、これを変形工程により筒形状に変形させてもよい。
【0099】
シート状成形体は、例えば、長手方向に対向する第1端面及び第2の端面と、該長手方向に直交する厚さ方向に対向する第1主面及び第2主面と、該長さ方向及び該厚さ方向に直交する幅方向に対向する第1側面及び第2側面を有する平面視略矩形形状であってもよい。
ここで、第1主面及び第2主面のうち、発熱体側となる主面は熱分解炭素層であることが好ましい。
【0100】
シート状成形体における第1端面と第2端面の間の距離は、シート状成形体の長さであり、第1の断熱部材の内周の長さに相当する。
【0101】
シート状成形体における第1主面と第2主面の間の距離は、シート状成形体の厚さであり、第1の断熱部材の厚さに相当する。
【0102】
シート状成形体における第1側面と第2側面の間の距離は、シート状成形体の幅であり、第1の断熱部材の高さに相当する。
【0103】
シート状成形体を変形させて第1の断熱部材とする際、シート状成形体の第1端面及び第2端面は、互いに分離可能な状態で接していてもよく、炭素系接着材等で接着されていてもよく、糸等で縫合されていてもよい。糸は、焼成により焼失するものであってもよく、焼成により焼失しないものであってもよい。
【0104】
第1の断熱部材の製造にあたっては、炭素層を形成するための炭素層形成工程、及び/又は、熱分解炭素層を形成するための熱分解炭素層形成工程を行ってもよい。
【0105】
(炭素層形成工程)
炭素層形成工程では、炭素繊維の成形体の表面に、炭素系粒子を含有するスラリーを含浸させ、焼成することによって炭素層を形成する。
【0106】
焼成条件は特に限定されないが、温度700~2100℃、非酸化性雰囲気で1~12時間焼成を行うことが好ましい。
なお、非酸化性雰囲気には、不活性雰囲気及び還元性雰囲気を含む。
【0107】
不活性雰囲気は、主成分を不活性ガスとする雰囲気である。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0108】
還元性雰囲気は、主成分を還元性ガスとする雰囲気である。
還元性ガスとしては、水素、一酸化炭素、炭化水素、塩素等が挙げられる。
【0109】
炭素層形成工程で用いられる炭素系粒子としては、第1の断熱部材を構成し得る炭素系粒子を好適に用いることができる。
【0110】
炭素層の形成では、表面に炭素繊維を露出させることが好ましい。
表面に炭素繊維を露出させる方法としては、炭素層形成工程において、成形体に含浸させるスラリー量を、本来成形体に含浸させられる量よりも少し減らす方法が挙げられる。
これにより、成形体の表面にスラリーが含浸されていない部分が生じ、炭素繊維が露出することとなる。
【0111】
炭素層形成工程で用いるスラリーには、有機バインダが含まれていてもよい。
スラリーに有機バインダが含まれていると、成形体をスラリーに浸漬した際に、炭素系粒子が成形体の表面近傍に留まりやすくなるため、炭素層が厚くなりすぎることを防ぐことができる。
【0112】
有機バインダとしては、非酸化性雰囲気で加熱することにより炭化する有機バインダ、及び、非酸化性雰囲気での加熱により分解するなどして残渣を生じない有機バインダの両方を用いることができる。
また、有機バインダは、溶媒に溶解するものであってもよく、溶媒中に微粒子として分散するものであってもよい。
【0113】
有機バインダが、非酸化性雰囲気で加熱することにより炭化する有機バインダである場合には、炭化した有機バインダが炭素系接着材として機能し、炭素系粒子と炭素繊維とを強固に接合することができる。また、成形体の表面に偏在することとなる炭素層を構成する炭素系粒子が炭素繊維から脱落することを防止することができる。
【0114】
炭化する有機バインダとしては、例えば、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)及びピッチ等が挙げられる。
【0115】
スラリーに有機バインダが含まれない場合、成形体をスラリーに浸漬した後に、有機バインダ溶液を成形体の表面に含浸させることが好ましい。
これにより、スラリーに有機バインダが含まれている場合と同様に、有機バインダが炭素系接着材として機能し、炭素系粒子と炭素繊維とを強固に接合することができる。
【0116】
炭素層形成工程においては、まず炭素系粒子と溶媒を含有し、かつ有機バインダを含有しないスラリーに成形体を浸漬させ、続いて有機バインダ溶液に成形体を浸漬することで、成形体の内部への有機バインダの浸透を少なくし、断熱性能の低下を抑制することができる。
【0117】
(熱分解炭素層形成工程)
熱分解炭素層形成工程では、成形体の表面に熱分解炭素を含む熱分解炭素層を形成する。
【0118】
成形体の表面に熱分解炭素層を形成する方法は特に限定されないが、例えば、CVD炉を用いて化学気相成長により熱分解炭素層を形成する方法が挙げられる。
CVD炉を用いて熱分解炭素層を形成する工程をCVD工程ともいう。
【0119】
CVD工程の条件は特に限定されない。
原料ガスは炭化水素ガスが利用でき、例えばメタン、エタン、プロパン、エチレンなどが利用できる。
【0120】
CVD工程の温度は例えば800~2000℃が好ましい。
CVD工程の温度が800℃以上であると、原料ガスが容易に分解するので熱分解炭素層を形成しやすい。
CVD工程の温度が2000℃以下であると、炭素繊維の昇華が抑制され変質が防止できる。
【0121】
成形体を構成する炭素繊維が炭素質の場合、CVD工程の温度は1700℃以下であることが望ましい。
炭素質の炭素繊維は高い温度に曝すと黒鉛質に変質し、熱伝導率が高くなるなどの変質が起こるようになる。そのため、1700℃以下の温度でCVD工程を実施することにより、炭素繊維の黒鉛質への変質を抑制し、成形体の断熱性を維持することができる。
【0122】
なお、熱分解炭素層形成工程は、炭素層形成工程を経た成形体に対して行ってもよい。
この場合、炭素繊維からなる基材の表面に炭素層が形成され、炭素層の表面に熱分解炭素層が形成された第1の断熱部材が得られる。
【0123】
[第2の断熱部材の製造方法]
本発明の断熱材を構成する第2の断熱部材は、例えば、炭素繊維からなる成形体を得る成形体準備工程を有する方法により製造することができる。
【0124】
(成形体準備工程)
成形体準備工程としては、第1の断熱部材の製造方法における成形体準備工程と同様の方法が好ましい。
【0125】
第1の断熱部材を製造する方法と第2の断熱部材を製造する方法とが異なっていてもよい。
例えば、第1の断熱部材の製造方法において、炭素繊維の成形体を抄造法により得て、第2の断熱部材の製造方法において、炭素繊維の成形体をニードリング法により得てもよい。
【0126】
第2の断熱部材の製造方法は、第1の断熱部材の製造方法と同様に、炭素層形成工程を有していてもよいし、熱分解炭素層形成工程を有していてもよいし、変形工程を有していてもよい。
【0127】
[断熱材の製造方法]
上記手順により得られた第1の断熱部材及び第2の断熱部材を組み合わせることで、本発明の断熱部材を得ることができる。
具体的には、発熱体を収容するための空間を覆うように第1の断熱部材を配置し、続いて、第1の断熱部材の外側を覆うように第2の断熱部材を配置することで、本発明の断熱材を得ることができる。
【0128】
本発明の断熱材は、例えば、加熱炉等の加熱装置に好適に用いることができる。
また本発明の断熱材は、例えば、SiやSiCの単結晶成長装置において、るつぼを保温(断熱)するための断熱材として好適に用いることができる。
【0129】
本明細書には以下の事項が開示されている。
【0130】
本開示(1)は発熱体の周囲を覆う断熱材であって、発熱体側に配置される第1の断熱部材と、発熱体と反対側に配置される第2の断熱部材と、を備え、前記第1の断熱部材及び前記第2の断熱部材は、いずれも、炭素繊維を含み、前記第1の断熱部材と前記第2の断熱部材は、互いに分離可能な状態で接している、ことを特徴とする断熱材である。
【0131】
本開示(2)は前記第1の断熱部材の発熱体側の面は、熱分解炭素を含む熱分解炭素層である、本開示(1)に記載の断熱材である。
【0132】
本開示(3)は前記熱分解炭素層は、厚さが2μm~60μmである、本開示(2)に記載の断熱材である。
【0133】
本開示(4)は前記第1の断熱部材の発熱体側の面は、炭素繊維間に炭素系粒子を含有する炭素層である、本開示(1)に記載の断熱材である。
【0134】
本開示(5)は前記炭素層の前記炭素系粒子及び前記炭素繊維は、互いに炭素系接着材で接合されている、本開示(4)に記載の断熱材である。
【0135】
本開示(6)は前記炭素系粒子は、黒鉛、カーボンブラック、ガラス状カーボン粒子、及び炭素繊維を粉砕した粒子からなる群から選択される少なくとも1つの炭素系粒子である、本開示(4)又は(5)に記載の断熱材である。
【0136】
本開示(7)は前記炭素系粒子は、平均粒子径が10nm~500μmである、本開示(4)~(6)のいずれか1項に記載の断熱材である。
【0137】
本開示(8)は前記炭素層は、厚さが10μm~1000μmである、本開示(4)~(7)のいずれか1項に記載の断熱材である。
【0138】
本開示(9)は前記第1の断熱部材は、さらに、前記炭素層に対して前記発熱体側の面とは反対側の面に設けられる、前記炭素繊維からなる基材を有する、本開示(4)~(8)のいずれか1項に記載の断熱材である。
【0139】
本開示(10)は前記基材が、前記炭素繊維のニードルマット又は前記炭素繊維の抄造体である、本開示(9)に記載の断熱材である。
【0140】
本開示(11)は前記基材を構成する前記炭素繊維の平均繊維長が、2mm~8mmである、本開示(9)又は(10)に記載の断熱材である。
【0141】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0142】
(実施例1)
[第1の断熱部材の製造]
[成形体準備工程]
炭素繊維(平均繊維径:13μm、平均繊維長:3.3mm)を抄造法により成形し、炭素繊維からなる円筒形状の成形体(内径95mm、高さ190mm、厚さ3mmの円筒形状)を得た。
この成形体を不活性雰囲気下で2000℃に加熱して、成形体に含まれる有機バインダ(フェノール樹脂)を炭素化した。
【0143】
[炭素層形成工程]
成形体の表面を加工して形状を整えた後、有機バインダ及び炭素系粒子を含有するスラリーをシート状成形体の表面の全部に塗布した。
なお、炭素系粒子としては、平均粒子径が10μmの黒鉛粒子を用いた。また有機バインダとしてはフェノール樹脂を用いた。
【0144】
続いて、スラリーを塗布したシート状成形体を還元性雰囲気の炉に入れ、温度2000℃で1時間加熱することで、炭素繊維間に炭素系粒子が配置され、炭素系粒子と炭素繊維とが互いに炭素系接着材で接合されている炭素層を、炭素繊維からなる基材の表面に形成した。
【0145】
この時点で炭素層の表面を偏光顕微鏡で観察したところ、炭素繊維の一部が表面に露出していることを確認した。また、スラリー中の有機バインダが還元性雰囲気下で加熱されることにより炭素化した炭素系接着材によって、炭素系粒子と炭素繊維とが接合されていることを確認した。
【0146】
[CVD工程]
続いて、炭素層が形成されたシート状成形体をCVD炉に入れ、一度炉内を真空引きして炉内の気圧を下げた後、原料ガスを導入して、炭素層の表面に熱分解炭素層を形成して、円筒形状の第1の断熱部材を得た。
シート状成形体は支持ピンの上に載置され、支持ピンにより点支持された状態で熱分解炭素層を形成した。
シート状成形体は点支持されているため、シート状成形体のほぼ全面に、同時に熱分解炭素層が形成される。
【0147】
上記CVD工程において、シート状成形体の表面には炭素層が形成されているため、上記工程では原料ガスが成形体の内部にまで浸透せず、表面に沈積する。このとき、表面に露出した炭素繊維がアンカーとなって、炭素繊維からなる成形体と熱分解炭素層とを強固に接続する。
なお、第1の断熱部材の嵩密度を測定したところ、0.18g/cm3であった。
【0148】
第1の断熱部材を厚さ方向に沿って切断し、切断面のうち表面近傍を偏光顕微鏡で観察したところ、第1の断熱部材の表面には厚さ20μmの熱分解炭素層が形成されており、さらに、熱分解炭素層の直下に厚さ100μmの炭素層が形成されていることを確認した。
【0149】
[第2の断熱部材の製造]
炭素繊維(平均繊維径:13μm、平均繊維長:3.3mm)を抄造法により成形し、炭素繊維からなる円筒形状の成形体(内径101mm、高さ190mm、厚さ10mmの円筒形状)を得た。
この成形体を不活性雰囲気下で2000℃に加熱して、成形体に含まれるバインダを炭素化して円筒形状の第2の断熱部材を得た。
【0150】
[断熱材の製造]
第2の断熱部材の内側の空間に第1の断熱部材を挿入して、実施例1に係る断熱材を製造した。
【0151】
(実施例2)
炭素層形成工程およびCVD工程を行わないこと以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る断熱材を製造した。
よって、実施例2に係る断熱材では、第1の断熱部材に炭素層及び熱分解炭素層が形成されていない。
【0152】
(比較例1)
第1の断熱部材の製造を行わず、第2の断熱部材の製造において、円筒形状の成形体の寸法を内径95mm、高さ190mm、厚さ13mmとなるように成形したほかは、実施例1と同様の手順で第2の断熱部材を得て、比較例1に係る断熱材を製造した。
比較例1に係る断熱材を構成する第2の断熱部材は、炭素繊維からなる成形体であり、表面には、熱分解炭素層及び炭素層が設けられていない。
【0153】
[消耗試験]
黒鉛製るつぼ(外径95mm、内径90mm、高さ190mmの円筒形状)に、SiC粉末を入れ、蓋をした状態で、実施例1、2及び比較例1に係る断熱材を構成する第1もしくは第2の断熱部材の内側の空間に挿入し、還元性雰囲気で、高周波誘導加熱により2400℃で72時間加熱した。
加熱終了後に、第1もしくは第2の断熱部材の内側からるつぼを取り出した後、第1もしくは第2の断熱部材のるつぼ側の表面を目視で観察した。
実施例1に係る断熱材では、熱分解炭素層の劣化が確認できたが、炭素繊維からなる基材の劣化は確認できなかった。また、第2の断熱部材についても劣化を確認できなかった。実施例2に係る断熱材では、第1の断熱部材の炭素繊維からなる基材の劣化は確認できたが、第2の断熱部材については劣化が確認できなかった。
比較例1に係る断熱材では、第2の断熱部材が劣化していることを確認した。
【0154】
[交換性の確認]
実施例1及び実施例2に係る断熱材につき、第2の断熱部材を外周から把持して固定した状態で第1の断熱部材の端部を掴み、長手方向に引っ張ったところ、第2の断熱部材から第1の断熱部材を容易に引き抜くことができた。また、新しい第1の断熱部材を挿入したところ、容易に挿入することができた。
【0155】
一方、比較例1に係る断熱材は、一体成型されているため断熱部材の劣化により、断熱材全体を交換することが必要と判断した。
【0156】
以上のことから、本発明の断熱材は、交換コストを低減できることを確認した。
【符号の説明】
【0157】
1 断熱材
10 第1の断熱部材
10a 第1の断熱部材の発熱体側の面(第1主面)
10b 第1の断熱部材の発熱体側の面とは反対側の面(第2主面)
10c 第1の断熱部材の端面
10’ 劣化が進行した第1の断熱部材
11 熱分解炭素層
11a 第1の断熱部材の第1主面に設けられる熱分解炭素層
11b 第1の断熱部材の第2主面に設けられる熱分解炭素層
11c 第1の断熱部材の端面に設けられる熱分解炭素層
12 炭素層
12a 第1の断熱部材の第1主面側に設けられた炭素層
12b 第1の断熱部材の第2主面側に設けられた炭素層
12c 第1の断熱部材の端面側に設けられた炭素層
13 基材
20 第2の断熱部材
20a 第2の断熱部材の発熱体側の面(第1主面)
20b 第2の断熱部材の発熱体側の面とは反対側の面(第2主面)
20c 第2の断熱部材の端面
30 発熱体を収容する空間
50 発熱体(るつぼ)
51 空洞
70 誘導加熱用コイル
100 加熱装置