(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048874
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】断熱材
(51)【国際特許分類】
F16L 59/14 20060101AFI20240402BHJP
C04B 35/83 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
F16L59/14
C04B35/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155009
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 祐介
(72)【発明者】
【氏名】野村 健太
(72)【発明者】
【氏名】折戸 暁則
【テーマコード(参考)】
3H036
【Fターム(参考)】
3H036AB15
3H036AB24
3H036AC01
3H036AC03
3H036AE01
(57)【要約】
【課題】 交換コストの低い断熱材を提供する。
【解決手段】 発熱体の周囲を覆う断熱材であって、炭素繊維からなる断熱部材と、上記断熱部材の発熱体側の面に配置される炭素製フィルムと、を備え、上記炭素製フィルムが、500μm未満の厚さであり、上記断熱部材と上記炭素製フィルムとは、互いに分離可能な状態で配置されている、ことを特徴とする断熱材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体の周囲を覆う断熱材であって、
炭素繊維からなる断熱部材と、前記断熱部材の発熱体側の面に配置される炭素製フィルムと、を備え、
前記炭素製フィルムが、500μm未満の厚さであり、
前記断熱部材と前記炭素製フィルムとは、互いに分離可能な状態で配置されている、ことを特徴とする断熱材。
【請求項2】
前記炭素製フィルムは、発熱体側の表面に、熱分解炭素を含む熱分解炭素層を有する、請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
前記熱分解炭素層は、厚さが2~60μmである、請求項2に記載の断熱材。
【請求項4】
前記炭素製フィルムは、黒鉛シートである、請求項1又は2に記載の断熱材。
【請求項5】
前記炭素製フィルムは前記断熱部材の発熱体側の表面に、カーボンコンポジット製の固定部材で固定されている、請求項1又は2に記載の断熱材。
【請求項6】
前記固定部材は、カーボンコンポジット製の針部を有する、請求項5に記載の断熱材。
【請求項7】
前記断熱部材と前記炭素製フィルムとの間に、補強部材が設けられており、
前記炭素製フィルム及び前記補強部材は、互いに炭素系接着材で接合されており、
前記断熱部材と前記補強部材とは、互いに分離可能な状態で接している、請求項1又は2に記載の断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を用いた断熱材は、耐熱温度が高く断熱性能も優れることから、単結晶引き上げ装置、セラミック焼結炉など、高温炉用断熱材として広く利用されている。
【0003】
炭素繊維を用いた断熱材は、炭素繊維による伝熱を抑制するため、気孔率の高いフェルト、抄造体などの形態で広く利用されている。一般に、フェルトは変形性があるため、空いた空間に充填して当該空間を埋める部材や、他の部品を囲む断熱材として利用される。一方、抄造体は高い形状保持性を有するため、所定の形状に加工し、断熱部品として利用される。なお、フェルトは、圧縮した後、バインダによって固定することにより、形状保持性の良い断熱部品として使用することもできる。
【0004】
炭素繊維を用いた断熱材は、炉内での酸化、機械的な摩擦などにより、繊維の脱落を起こし、パーティクルを発生させることがある。また、このような不具合が、放射に対する断熱性の低下を引き起こすことがある。
【0005】
このような課題を解決するため、特許文献1には、不活性雰囲気中で系内の炭素蒸気圧が10-8atm以上で運転する超高温加熱炉において、炉の外側を炭素繊維を主成分とするカーボンファイバー断熱材等の炭素質断熱材とアルミナ/シリカ系断熱材で覆いつつ、最内層を嵩比重1.0~2.2g/cm3の黒鉛板で囲むことが開示されている。
【0006】
特許文献1に記載の超高温加熱炉では、炉の最内層に配置される黒鉛板と、黒鉛板の外側に配置される断熱材とが一体化していない。そのため、劣化・消耗が進行しやすい黒鉛板だけを交換することでき、交換コストの低減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の黒鉛板は劣化の進行が早く、頻繁に交換する必要が生じる。さらに黒鉛板の交換にも時間を要するという問題もあった。そのため、さらなる交換コストの低減が望まれていた。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされた発明であり、本発明の目的は、交換コストの低い断熱材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の断熱材は、発熱体の周囲を覆う断熱材であって、炭素繊維からなる断熱部材と、上記断熱部材の発熱体側の面に配置される炭素製フィルムと、を備え、上記炭素製フィルムが、500μm未満の厚さであり、上記断熱部材と上記炭素製フィルムとは、互いに分離可能な状態で配置されている、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の断熱材は、断熱材の発熱体側の面に配置される炭素製フィルムを備えているため、炭素製フィルムによって断熱性能を高め、断熱部材の劣化・消耗を抑制することができる。さらに、炭素製フィルムは、断熱部材と分離可能な状態で配置されているため、炭素製フィルムが劣化・消耗した場合であっても、炭素製フィルムだけを交換することができる。そのため、断熱材の交換に要する時間を短縮することができ、さらに、交換する断熱材の量も少なくなる。従って、断熱材の交換コストを低くすることができる。
【0012】
本発明の断熱材において、上記炭素製フィルムは、発熱体側の表面に、熱分解炭素を含む熱分解炭素層を有することが好ましい。
炭素製フィルムの発熱体側の表面に熱分解炭素層を有すると、炭素製フィルムによって、加熱炉内で発生するガスが断熱部材に到達することを遮断する特性(以下、ガス遮断性ともいう)と、放射熱の遮断特性を向上させることができる。
【0013】
本発明の断熱材において、上記熱分解炭素層は、厚さが2~60μmであることが好ましい。
熱分解炭素層の厚さが2~60μmであると、優れたガス遮断性と放射熱の遮断特性とを両立させることができる。
【0014】
本発明の断熱材において、上記炭素製フィルムは、黒鉛シートであることが好ましい。
炭素製フィルムが黒鉛シートであると、耐熱性に特に優れる。
【0015】
本発明の断熱材において、上記炭素製フィルムは上記断熱部材の発熱体側の表面に、カーボンコンポジット製の固定部材で固定されていることが好ましい。
カーボンコンポジット製の固定部材は耐熱性に優れ、かつ、ガスとの反応性も低い。そのため、断熱部材の発熱体側の表面に配置されたとしても、劣化・消耗を起こしにくく、炭素製フィルムを安定的に保持することができる。さらに、カーボンコンポジット製の固定部材は高靱性のため割れや欠けが生じにくい。そのため、固定部材自体が劣化、消耗したとしても、カーボンコンポジット製の固定部材に生じたクラック等の隙間から断熱部材の劣化が進行しにくい。
【0016】
本発明の断熱材において、上記固定部材は、カーボンコンポジット製の針部を有していることが好ましい。
固定部材がカーボンコンポジット製の針部を有していると、該針部を炭素製フィルムを貫通して断熱部材に突き刺すことにより、炭素製フィルムを断熱部材の表面に固定することが容易となる。また針部を抜き取ることにより炭素製フィルムの断熱部材表面に対する固定を解除することも容易となる。そのため、炭素製フィルムの交換が容易となる。
【0017】
本発明の断熱材において、上記断熱部材と上記炭素製フィルムとの間に、補強部材が設けられており、上記炭素製フィルム及び上記補強部材は、互いに炭素系接着材で接合されており、上記断熱部材と上記補強部材とは、互いに分離可能な状態で接していることが好ましい。
断熱部材と炭素製フィルムとの間に補強部材が設けられており、炭素製フィルムと補強部材が、互いに炭素系接着材で接合されていると、補強部材と接合された炭素製フィルムの取り扱い性が向上して、炭素製フィルムの交換が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の断熱材の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の断熱材を用いて構成される加熱装置の一例を模式的に示す一部切り欠き斜視断面図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す加熱装置における、発熱体と断熱材の境界付近の部分拡大断面図である。
【
図6】
図6は、劣化した炭素製フィルムを取り出す様子を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、新しい炭素製フィルムを付ける様子を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の断熱部材の別の一例を模式的に示す断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の断熱部材のさらに別の一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0020】
[断熱材]
本発明の断熱材は、発熱体の周囲を覆う断熱材であって、炭素繊維からなる断熱部材と、上記断熱部材の発熱体側の面に配置される炭素製フィルムと、を備え、上記炭素製フィルムが、500μm未満の厚さであり、上記断熱部材と上記炭素製フィルムとは、互いに分離可能な状態で配置されている、ことを特徴とする。
【0021】
(断熱部材)
断熱部材は、炭素繊維を含む。
炭素繊維の繊維径は、1μm~20μmが好ましい。
炭素繊維の繊維径が20μm以下であると、炭素繊維自体による伝導伝熱の効果を抑制することができる。また炭素繊維の繊維径が1μm以上であると、遮光性に優れ、放射伝熱を抑制することができる。
【0022】
炭素繊維の繊維長は、2mm~10000mmが好ましい。
また、炭素繊維の繊維長は、2mm~8mmであってもよく、10mm~10000mmであってもよい。
【0023】
とくに、炭素繊維の平均繊維長が2mm~8mmであると、強度が高く、また、炭素繊維が配向しにくいため、誘導加熱炉に用いた場合、誘導加熱による発熱を最小限に抑えることができる。
【0024】
炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維のいずれでも利用できるとともに、黒鉛質、炭素質いずれの炭素繊維も利用することができる。
【0025】
断熱部材は、炭素繊維を含む基材を備えることが好ましい。
基材は、炭素繊維のニードルマット、又は、炭素繊維の抄造体であることが好ましい。
炭素繊維のニードルマット及び炭素繊維の抄造体は、ランダムに配置された炭素繊維で構成されるため、高い断熱性を発揮することができ、断熱部材を構成する基材として特に好適である。
【0026】
基材が炭素繊維のニードルマットである場合、炭素繊維の平均繊維長は、10mm~10000mmであることが好ましい。
基材が炭素繊維の抄造体である場合、炭素繊維の平均繊維長は、2mm~8mmであることが好ましい。
【0027】
断熱部材の厚さは、特に限定されないが、3~200mmであることが好ましい。
なお、断熱部材の厚さは、断熱部材の、発熱体側の面と、発熱体側の面とは反対側の面との間の最短距離である。
【0028】
断熱部材は、炭素繊維からなる基材と、その表面に形成される、熱分解炭素からなる熱分解炭素層を備えていてもよい。
炭素繊維からなる基材は炭素繊維間に隙間を有しているため、対流による伝熱を抑制することができ、断熱性能を向上させることができる。
【0029】
断熱部材の表面に熱分解炭素層が形成されることにより、ガス遮断性と放射熱の遮断特性を向上させることができる。
なお、断熱部材の表面に熱分解炭素層が形成されているかどうかは、断熱部材の断面を偏光顕微鏡等で観察することで確認することができる。
【0030】
熱分解炭素層の厚さは特に限定されないが、2μm~60μmであることが好ましい。
熱分解炭素層の厚さは、断熱部材の切断面を偏光顕微鏡等で観察することにより確認することができる。
【0031】
熱分解炭素層は、断熱部材の発熱体側の表面に形成されていてもよく、発熱体側の面とは反対側の面に形成されていてもよく、長手方向の端部に形成されていてもよい。
【0032】
断熱部材は、さらに、熱分解炭素層に対して断熱部材側に設けられる下地層を有していてもよい。
【0033】
下地層は、炭素繊維間に炭素系粒子を含有する層であることが好ましい。
なお、下地層を構成する上記炭素繊維は、断熱部材を構成する炭素繊維と同一である。
【0034】
下地層の厚さは、特に限定されないが、10μm~1000μmであることが好ましい。
下地層の厚さが1000μm以下であると、断熱性能の低下を抑えることができる。
下地層の厚さが10μm以上であると、下地層と熱分解炭素層との接合強度を充分に確保することができる。
【0035】
炭素系粒子は、黒鉛、カーボンブラック、ガラス状カーボン粒子、及び炭素繊維を粉砕した粒子からなる群から選択される少なくとも1つの炭素系粒子であることが好ましい。
黒鉛、カーボンブラック、ガラス状カーボン粒子、及び炭素繊維を粉砕した粒子からなる群から選択される少なくとも1つの炭素系粒子は、不純物が少なく、断熱材を構成する炭素繊維及び熱分解炭素層と同じカーボン系の材料であるため、高温域での耐久性が高い。
【0036】
ガラス状カーボン粒子とは、フェノール樹脂の炭化物などの難黒鉛化性炭素を粉砕したものである。
炭素繊維を粉砕した粒子は、ミルド炭素繊維ともいう。ミルド炭素繊維の平均繊維長は、例えば20μm~500μmであることが好ましい。
【0037】
炭素系粒子は、平均粒子径が10nm~500μmであることが好ましい。
炭素系粒子の平均粒子径が10nm~500μmであると、炭素繊維のすき間に薄く下地層を形成することができ、断熱材において、炭素繊維と熱分解炭素層との接合を高いレベルで確保することができる。また、熱伝導率が高くなりやすい下地層の厚さが厚くなり過ぎることを防止することができる。
【0038】
炭素系粒子と炭素繊維は、互いに炭素系接着材で接合されていることが好ましい。
下地層を構成する炭素系粒子及び炭素繊維が、互いに炭素系接着材で接合されていると、下地層が強固となり、熱分解炭素層との接合強度が高まる。
【0039】
炭素系接着材とは、有機バインダが非酸化性雰囲気下で加熱されることで炭化したものである。詳細は後述する。
【0040】
下地層の表面には、炭素繊維が露出していることが好ましい。
下地層の表面に炭素繊維が露出していると、熱分解炭素層が炭素繊維と直接接合するので、下地層と熱分解炭素層との接合強度を高めることができ、下地層と熱分解炭素層との間の層間剥離を防止することができる。
【0041】
断熱部材の外形形状は、内側に発熱体及び炭素製フィルムを収容するための柱状の空間を有する形状であれば特に限定されず、例えば、円柱形、角柱形等の柱形状が挙げられる。
上記空間の外形形状は特に限定されないが、例えば円柱形、角柱形等の柱形状が挙げられる。
【0042】
断熱部材の内側に形成される空間の、長手方向に直交する方向における断面形状は、特に限定されず、例えば、真円、楕円等の円形であってもよく、四角形、五角形、六角形等の多角形であってもよい。
【0043】
断熱部材の嵩密度は、特に限定されないが、0.05~0.4g/cm3であることが好ましい。
断熱部材の嵩密度は、断熱部材の重量を、断熱部材の外形寸法より求めた体積で除することで測定することができる。
【0044】
断熱部材は、最初から筒形状に成形されたものでなくてもよい。
すなわち、断熱部材は、筒形状を複数個に分割した形状の複数の断熱部材の集合体であってもよい。
また断熱部材は、平面視略矩形形状の炭素繊維からなるシート状成形体を、内側に発熱体及び炭素製フィルムを収容するための柱状の空間が形成されるように筒形状に変形させたものであってもよい。
【0045】
シート状成形体を筒形状に変形させる場合、シート状成形体の端部同士が接触する部分(接触部)は、互いに接しているだけでもよいし、炭素系接着材等により互いに接合されていてもよいし、炭素繊維等で縫合されていてもよい。
【0046】
(炭素製フィルム)
本発明の断熱材は、断熱部材の発熱体側の面に配置される炭素製フィルムを備える。
【0047】
炭素製フィルムは、500μm未満の厚さである。
炭素製フィルムが500μmを超える厚さであると、可撓性が低下してしまい、巻付け性が低下してしまう。
【0048】
炭素製フィルムは、200μm未満の厚さであることが好ましく、100μm未満の厚さであることがより好ましい。
炭素製フィルムの厚さが薄くなるほど、炭素製フィルムの可撓性が向上する。
【0049】
炭素製フィルムは、20μm以上の厚さであることが好ましい。
【0050】
断熱部材と炭素製フィルムとは、互いに分離可能な状態で配置されている。
【0051】
なお、断熱部材と炭素製フィルムが「互いに分離可能な状態」とは、断熱部材の表面からの炭素製フィルムの分離及び再配置(交換)を試みたときに、断熱部材の断熱特性を低下させない方法で分離可能である状態を意味する。
換言すると、断熱部材の再使用を阻害しない方法による炭素製フィルムと断熱部材の一時的な固定は、「互いに分離可能な状態」であるが、分離時に断熱部材が破壊される方法や断熱部材の断熱性能が低下する方法による固定は「互いに分離可能な状態」ではないといえる。
【0052】
炭素製フィルムは、発熱体側の面に、熱分解炭素を含む熱分解炭素層を有することが好ましい。
炭素製フィルムの発熱体側の面に、熱分解炭素層があることにより、炭素製フィルムのガス遮断性と放射熱の遮断特性を向上させることができる。
なお、炭素製フィルムの表面が熱分解炭素層であるかどうかは、炭素製フィルムの断面を偏光顕微鏡等で観察することで確認することができる。
【0053】
熱分解炭素層の厚さは特に限定されないが、2μm~60μmであることが好ましい。
熱分解炭素層の厚さは、炭素製フィルムの切断面を偏光顕微鏡等で観察することにより確認することができる。
【0054】
炭素製フィルムの発熱体側の表面以外の面、すなわち、発熱体側の面とは反対側の面、及び/又は、長手方向の端面も、熱分解炭素層であってもよい。
【0055】
なお、熱分解炭素層の厚さは、炭素製フィルムの厚さに含むものとする。
【0056】
炭素製フィルムは、黒鉛シート等が挙げられる。
炭素製フィルムが黒鉛シートであると、耐熱性に特に優れる。
なお、黒鉛シートとは、酸処理した膨張黒鉛を圧縮し、シート状に成形した成形体である。
【0057】
炭素製フィルムは断熱部材の発熱体側の表面に、固定部材で固定されていることが好ましい。
固定部材は、断熱部材の再使用を妨げることなく、断熱部材の発熱体側の表面に炭素製フィルムを一時的に固定するために用いられるものである。従って、固定部材の使用及び除去によって、断熱部材の破壊や断熱部材の断熱性能の低下を起こさない。
【0058】
断熱部材と炭素製フィルムとを分離する際に、断熱部材が破損してしまうような固定方法、例えば、断熱部材と炭素製フィルムとが炭素系接着材により接着されている場合は、断熱部材と炭素製フィルムとが「互いに分離可能な状態」ではない。従って、炭素系接着材は固定部材ではない。
【0059】
(固定部材)
固定部材は、カーボンコンポジット製であることが好ましい。
固定部材の一部だけがカーボンコンポジットで構成されていてもよいが、固定部材の全部がカーボンコンポジットで構成されていることが好ましい。
【0060】
カーボンコンポジットとは、炭素繊維と樹脂の複合材を高温で焼成・熱処理することにより樹脂成分を炭素化した複合材である。
カーボンコンポジット製の固定部材は耐熱性に優れ、かつ、ガスとの反応性も低い。そのため、断熱部材の発熱体側の表面に配置されたとしても、劣化・消耗を起こしにくく、炭素製フィルムを安定的に保持することができる。
さらに、カーボンコンポジット製の固定部材は高靱性のため割れや欠けが生じにくい。
そのため、固定部材自体が劣化、消耗したとしても、カーボンコンポジット製の固定部材に生じたクラック等の隙間から断熱部材の劣化が進行しにくい。
【0061】
カーボンコンポジット製の固定部材の表面には、熱分解炭素を含む熱分解炭素層が形成されていてもよい。
【0062】
固定部材の形状は、炭素製フィルムを断熱部材の発熱体側の表面に固定できる形状であればよく、例えば、炭素製フィルムを貫通する針部を有する形状、炭素製フィルムを断熱部材ごと把持する把持部を有する形状等が挙げられる。
これらの中では、針部を有している固定部材が好ましい。
【0063】
針部は、炭素製フィルムを厚さ方向に貫通して、炭素製フィルムの発熱体側の表面から断熱部材まで到達することができる形状を意味する。
【0064】
固定部材が針部を有していると、該針部を炭素製フィルムを貫通して断熱部材に突き刺すことにより、炭素製フィルムを断熱部材の表面に固定することが容易となる。断熱部材は炭素繊維からなるため、針部の抜き刺しによって断熱性能は低下しない。
針部の刺し込みにより、断熱部材の表面に僅かな傷が生じることもあるが、断熱部材の発熱体側の表面には炭素製フィルムが配置されるため、実質的に断熱性能を低下させるものではない。
さらに、針部を抜き取ることにより炭素製フィルムの断熱部材の表面に対する固定を解除することも容易となる。そのため、炭素製フィルムの交換が容易となる。
【0065】
針部を有する固定部材としては、例えば、釘、鎹、ステープル等が挙げられる。
これらの中では、釘が一番好ましい。釘の長さや釘頭の形状は問わない。
【0066】
固定部材が断熱部材の内部に侵入する場合、その侵入深さは、断熱部材の厚さの50%以下であることが好ましい。
【0067】
炭素製フィルムは、断熱部材の表面の全部を覆っていてもよいが、炭素製フィルムの交換を迅速に行う観点から、断熱部材の表面のうち発熱体側の面だけに炭素製フィルムが配置されていることが好ましい。
【0068】
(補強部材)
本発明の断熱材では、断熱部材と炭素製フィルムとの間に、補強部材が設けられていてもよい。
炭素製フィルムと補強部材は、炭素系接着材で互いに接合される。
炭素製フィルムが補強部材と接合されることで、炭素製フィルムの形状を安定させることができ、炭素製フィルムの取り扱い性が向上する。
【0069】
補強部材を構成する材料としては、例えば炭素繊維やカーボンコンポジット等が挙げられる。
【0070】
補強部材の嵩密度は、0.05~1.9g/cm3であることが好ましい。
補強部材の嵩密度が上記範囲であると、炭素製フィルムと接合した際の取り扱い性が良好となりやすい。
【0071】
補強部材の形状は、炭素製フィルムよりも一回り大きな筒形状であることが好ましい。
補強部材の厚みは特に限定されないが、0.5~3mmであることが好ましい。
【0072】
補強部材と断熱部材は、互いに分離可能な状態で接している。
補強部材と断熱部材が互いに分離可能な状態で接していれば、炭素製フィルムと補強部材とが互いに炭素系接着材で接合されていたとしても、炭素製フィルムと断熱部材とが互いに分離可能な状態を維持することができる。
【0073】
補強部材と断熱部材は、固定部材により「互いに分離可能な状態」となるよう固定されていてもよいが、固定部材により固定されておらず、ただ接しているだけの状態が好ましい。
【0074】
以下、図面を参照しながら、本発明の断熱材の一例を説明する。
図1は、本発明の断熱材の一例を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1におけるII-II線断面図である。
【0075】
図1に示すように、断熱材1は、炭素製フィルム10と、断熱部材20とを備える。
断熱材1は、発熱体を収容するための円柱形状の空間30を内側に有する。
すなわち、炭素製フィルム10は、断熱部材20よりも発熱体側に配置される。
また、炭素製フィルム10は、長手方向(
図1中、Z方向)に伸びる略円筒形状を有している。長手方向(Z方向)に直交するX方向及びY方向に平行な面に対し、炭素製フィルム10をZ方向から見た上面視形状は、環状である。
【0076】
空間30は発熱体(図示しない)を収容するための空間であるから、断熱材1は発熱体の周囲を覆う断熱材である。
【0077】
図2に示すように、炭素製フィルム10は、発熱体側の面10aと、発熱体側の面とは反対側の面10bと、長手方向の両端部にあたる端面10cを有している。
発熱体側の面とは反対側の面10bは、断熱部材20側の面でもある。
炭素製フィルム10の発熱体側の面10aを第1主面ともいい、発熱体側の面とは反対側の面10bを第2主面ともいう。
【0078】
断熱部材20は、炭素製フィルム10を収容するための略円柱形状の空間を内側に有する。
すなわち、断熱部材20は、炭素製フィルム10の発熱体と反対側に配置される。
【0079】
断熱部材20は、長手方向(
図1中、Z方向)に伸びる略円筒形状を有している。
断熱部材20は、発熱体側の面20aと、発熱体側の面とは反対側の面20bと、長手方向の両端部にあたる端面20cを有している。
【0080】
発熱体側の面20aは、炭素製フィルム10側の面でもある。
発熱体側の面とは反対側の面20bは、炭素製フィルム10側の面とは反対側の面でもある。
【0081】
断熱部材20の略円筒形状は、炭素製フィルム10よりも一回り大きな形状である。
【0082】
断熱部材20の発熱体側の面20aを第1主面ともいい、発熱体側の面とは反対側の面20bを第2主面ともいう。
【0083】
断熱材1が使用される場合、
図2に示す空間30に発熱体が配置される。
このことを、
図3を用いて説明する。
【0084】
図3は、本発明の断熱材を用いて構成される加熱装置の一例を模式的に示す一部切り欠き斜視断面図である。
図3に示す加熱装置100は、断熱材1と、るつぼ50と、るつぼ50を加熱させるための誘導加熱用コイル70と、を備えている。
誘導加熱用コイル70が発生させる誘導電流によりるつぼ50が加熱される。従って、るつぼ50は発熱体である。
るつぼ50は空洞51を有している。従って、加熱装置100は、誘導加熱用コイル70によりるつぼ50を発熱させることで、空洞51に配置した物質を加熱することができる。
【0085】
発熱体であるるつぼ50の周囲は、断熱材1により覆われている。
断熱材1は、発熱体側に配置される炭素製フィルム10と、発熱体と反対側に配置される断熱部材20とを備える。
発熱体であるるつぼ50が配置されている空間は、断熱材1が有する空間30の一部又は全部である。
断熱材1の外周面には、誘導加熱用コイル70が巻きつけられている。
【0086】
加熱装置100では、発熱体であるるつぼ50と断熱材1とは直接接触しているが、発熱体であるるつぼ50と断熱材1との間に隙間が設けられていてもよい。
【0087】
また、断熱材1では、炭素製フィルム10と断熱部材20は、互いに分離可能な状態で接している。
従って、加熱装置100が使用されて、炭素製フィルム10が劣化した場合であっても、炭素製フィルム10だけを容易に交換することができ、交換コストを低減させることができる。
【0088】
図3に示す加熱装置100において、るつぼ50を構成する材料は、導体であれば特に限定されないが、高温(特に2000℃以上)における耐熱性及び耐久性に優れた黒鉛が好ましい。
【0089】
発熱体は上記のような、固体及び液体を加熱するためのものに限定されない。
例えば、発熱体は、黒鉛製の筒形状を有し、内部を通過するガスを加熱するものであってもよい。
また、発熱体は直接通電加熱されるヒーターであってもよく、発熱体と断熱材の間に被加熱体が入る隙間があってもよい。
【0090】
図3に示す加熱装置100においては、炭素製フィルム10が発熱体50側に配置されるように、かつ、発熱体50を覆うように使用されているといえる。
また、
図3に示す加熱装置100においては、炭素製フィルム10の周囲を覆うように、かつ、炭素製フィルム10と分離可能な状態で接するように、炭素繊維を含む断熱部材20が使用されているといえる。
【0091】
図4は、
図3に示す加熱装置における発熱体と断熱材の境界付近の部分拡大断面図である。
図4に示すように、断熱材1のうち、炭素製フィルム10が発熱体50側に配置され、断熱部材20が発熱体50とは反対側に配置される。
【0092】
炭素製フィルム10は、発熱体50から発せられる放射光を反射して放射伝熱を防ぐとともに、ガス遮断性に優れる。
【0093】
なお、
図4では発熱体50と炭素製フィルム10とは直接接しているが、発熱体50と炭素製フィルム10との間の隙間は適宜調整する事ができる。隙間は、
図2に示す空間30に、空間30よりも寸法の小さい発熱体50を収容することで残った空間30の一部でもある。
【0094】
図5は、
図2の破線で囲った領域の部分拡大図である。ただし、
図5では、炭素製フィルム以外の構成を省略している。
図5に示すように、炭素製フィルム10は、発熱体を収容する空間30側に配置される面(第1主面)10aと、発熱体と反対側に配置される面(第2主面)10bと、端面10cと、を有している。
炭素製フィルム10の厚さは、第1主面10aと第2主面10bとの最短距離であり、
図5において、両矢印d
10で示される長さである。
【0095】
炭素製フィルム10は、炭素製フィルム基材11からなり、炭素製フィルム基材11の表面に熱分解炭素層12を有していてもよい。熱分解炭素層12は、熱分解炭素を含む層である。
熱分解炭素層12は、炭素製フィルム10の第1主面10a側に設けられる熱分解炭素層12aと、第2主面10b側に設けられる熱分解炭素層12bと、端面10c側に設けられる熱分解炭素層12cと、を有していてもよい。
【0096】
図5に示すように、炭素製フィルム10の表面のうち、発熱体側の面10a(第1主面)が熱分解炭素層12を有していることが好ましい。
なお、炭素製フィルム10は炭素製フィルム基材11そのものであってもよい。この場合、熱分解炭素層12は存在しない。
【0097】
本発明の断熱材では、炭素製フィルムと断熱部材が、互いに分離可能な状態で接しているため、劣化が進行した炭素製フィルムだけを取り外して交換することが容易となる。
このことを、
図6及び
図7を用いて説明する。
【0098】
図6は、劣化した炭素製フィルムを取り出す様子を模式的に示す図である。
図7は、新しい炭素製フィルムを付ける様子を模式的に示す図である。
本発明の断熱材では、炭素製フィルムと断熱部材が互いに分離可能な状態で接しているため、
図6に示すように、劣化が進行した炭素製フィルム10’を端からめくり、引き抜くことで断熱部材20と分離することが容易である。
そして、
図7に示すように、新たな炭素製フィルム10を断熱部材20の内側に挿入した後、断熱部材20の内側に密着させることで、断熱材1の断熱性能を回復させることができる。
【0099】
上述したように、本発明の断熱材においては、劣化が優先的に進行する炭素製フィルムだけを容易に交換することができるため、交換に係る作業時間を削減できる。さらに、交換にあたって断熱部材を準備する必要がないため、交換に係る材料コストも削減することができる。
【0100】
図8は、本発明の断熱部材の別の一例を模式的に示す断面図である。
図8に示す断熱材2は、炭素製フィルム10と、断熱部材20と、固定部材40と、を備える。
固定部材40によって、炭素製フィルム10が、断熱部材20の第1主面20aに固定されている。
固定部材40は針部41及び釘頭43を有する釘状の形状を有しており、針部41が、炭素製フィルム10を貫通して断熱部材20の厚さ方向に侵入している。
従って、固定部材40が配置されている状態では、炭素製フィルム10は、断熱部材20の表面に固定されている。
【0101】
固定部材40を断熱部材20の厚さ方向(X方向)から見た場合に、釘頭43は針部41と完全に重なり、釘頭43の面積は、針部41の面積よりも大きい。
そのため、釘頭43が炭素製フィルム10に埋没することや、炭素製フィルム10を貫通して断熱部材20に埋没することはない。
また、針部41が炭素製フィルム10を貫通することで形成される炭素製フィルム10の穴の周囲は、釘頭43により覆われているため、炭素製フィルム10の断熱性能にほとんど影響を及ぼさない。
【0102】
固定部材40は、例えば釘頭43を把持して引き抜くことで容易に除去することができる。
断熱部材20は炭素繊維を含んでいるため、針部41が刺さったとしても炭素繊維は破壊されず、断熱性能も低下しない。また固定部材40が除去された後の炭素製フィルム10は断熱部材20に固定されていないため、互いに分離可能である。
従って、
図8に示す炭素製フィルム10及び断熱部材20は、互いに分離可能な状態で配置されているといえる。
【0103】
図9は、本発明の断熱部材のさらに別の一例を模式的に示す斜視図である。
図9に示す断熱材3は、炭素製フィルム10と、断熱部材20と、炭素製フィルム10と断熱部材20との間に配置された補強部材110とを備える。
【0104】
炭素製フィルム10及び補強部材110は互いに炭素系接着材で接合されているが、補強部材110と断熱部材20とは互いに分離可能な状態で接している。
そのため、補強部材110により炭素製フィルム10の取り扱い性が向上し、炭素製フィルムの交換が容易となる。
【0105】
[断熱部材の製造方法]
本発明の断熱材を構成する断熱部材は、例えば、炭素繊維の成形体を準備する成形体準備工程を有する方法により製造することができる。
【0106】
(成形体準備工程)
成形体準備工程では、炭素繊維の成形体を準備する。
【0107】
炭素繊維の成形体を得る方法としては、ニードリング法や抄造法が挙げられる。
【0108】
ニードリング法の場合、例えば、平均繊維長が10mm~10000mmの炭素繊維をシート状に積層し、ニードリングにより無機繊維同士を交絡させることで炭素繊維からなる成形体を得ることができる。
【0109】
抄造法の場合、例えば、平均繊維長が2mm~8mmの炭素繊維を水等の分散媒に分散させた懸濁液を準備し、型を用いて抄造することで、炭素繊維からなる成形体を得ることができる。
【0110】
抄造に用いる型は平面でもよいが、目的の形状の曲面型でもよい。
すなわち、成形体準備工程で得られる成形体は、最初から筒形状であってもよいが、この時点では筒形状ではなく、例えば、平面視略矩形形状であってもよい。
成形体の形状が平面視略矩形形状の場合には、後述する変形工程により筒形状に変形させる。
【0111】
抄造法の場合、懸濁液には有機バインダが含まれていてもよい。
懸濁液に有機バインダが含まれていると、抄造時に炭素繊維同士が固定されて、成形性が向上する。また、炭素繊維からなる成形体に有機バインダが残留して炭素繊維同士を拘束することができるため、後述の下地層形成工程よりも前の段階における成形体のハンドリング性を向上させることができる。
【0112】
なお、懸濁液に含まれていてもよい有機バインダには、後述する任意工程である下地層形成工程で用いてもよい有機バインダと同様のものを好適に用いることができる。
【0113】
成形体準備工程で用いられる炭素繊維としては、断熱部材を構成する炭素繊維を好適に用いることができる。
【0114】
上記手順により、炭素繊維からなる成形体(断熱部材)が得られるが、必要に応じて、後述する下地層形成工程や熱分解炭素層形成工程を行ってもよい。
【0115】
(下地層形成工程)
下地層形成工程では、炭素繊維からなる成形体(以下、単に成形体ともいう)の表面に、炭素系粒子を含有するスラリーを含浸させ、焼成することによって下地層を形成する。
【0116】
焼成条件は特に限定されないが、温度700~2100℃、非酸化性雰囲気で1~12時間焼成を行うことが好ましい。
なお、非酸化性雰囲気には、不活性雰囲気及び還元性雰囲気を含む。
【0117】
不活性雰囲気は、主成分を不活性ガスとする雰囲気である。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0118】
還元性雰囲気は、主成分を還元性ガスとする雰囲気である。
還元性ガスとしては、水素、一酸化炭素、炭化水素、塩素等が挙げられる。
【0119】
下地層形成工程で用いられる炭素系粒子としては、断熱部材を構成し得る炭素系粒子を好適に用いることができる。
【0120】
下地層形成工程では、表面に炭素繊維を露出させることが好ましい。
表面に炭素繊維を露出させる方法としては、下地層形成工程において、成形体に含浸させるスラリー量を、本来成形体に含浸させられる量よりも少し減らす方法が挙げられる。
これにより、成形体の表面にスラリーが含浸されていない部分が生じ、炭素繊維が露出することとなる。
【0121】
下地層形成工程で用いるスラリーには、有機バインダが含まれていてもよい。
スラリーに有機バインダが含まれていると、成形体をスラリーに浸漬した際に、炭素系粒子が成形体の表面近傍に留まりやすくなるため、下地層が厚くなりすぎることを防ぐことができる。
【0122】
有機バインダとしては、非酸化性雰囲気で加熱することにより炭化する有機バインダ、及び、非酸化性雰囲気での加熱により分解するなどして残渣を生じない有機バインダの両方を用いることができる。
また、有機バインダは、溶媒に溶解するものであってもよく、溶媒中に微粒子として分散するものであってもよい。
【0123】
有機バインダが、非酸化性雰囲気で加熱することにより炭化する有機バインダである場合には、炭化した有機バインダが炭素系接着材として機能し、炭素系粒子と炭素繊維とを強固に接合することができる。また、成形体の表面に偏在することとなる下地層を構成する炭素系粒子が炭素繊維から脱落することを防止することができる。
【0124】
炭化する有機バインダとしては、例えば、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)及びピッチ等が挙げられる。
【0125】
スラリーに有機バインダが含まれない場合、成形体をスラリーに浸漬した後に、有機バインダ溶液を成形体の表面に含浸させることが好ましい。
これにより、スラリーに有機バインダが含まれている場合と同様に、有機バインダが炭素系接着材として機能し、炭素系粒子と炭素繊維とを強固に接合することができる。
【0126】
下地層形成工程においては、まず炭素系粒子と溶媒を含有し、かつ有機バインダを含有しないスラリーに成形体を浸漬させ、続いて有機バインダ溶液に成形体を浸漬することで、成形体の内部への有機バインダの浸透を少なくし、断熱性能の低下を抑制することができる。
【0127】
(熱分解炭素層形成工程)
熱分解炭素層形成工程では、下地層形成工程を経た成形体の下地層の上に熱分解炭素を含む熱分解炭素層を形成する。
【0128】
下地層の上に熱分解炭素層を形成する方法は特に限定されないが、例えば、CVD炉を用いて化学気相成長により熱分解炭素層を形成する方法が挙げられる。
CVD炉を用いて熱分解炭素層を形成する工程をCVD工程ともいう。
【0129】
CVD工程の条件は特に限定されない。
原料ガスは炭化水素ガスが利用でき、例えばメタン、エタン、プロパン、エチレンなどが利用できる。
【0130】
CVD工程の温度は例えば800~2000℃が好ましい。
CVD工程の温度が800℃以上であると、原料ガスが容易に分解するので熱分解炭素層を形成しやすい。
CVD工程の温度が2000℃以下であると、炭素繊維の昇華が抑制され変質が防止できる。
【0131】
成形体を構成する炭素繊維が炭素質の場合、CVD工程の温度は1700℃以下であることが望ましい。
炭素質の炭素繊維は高い温度に曝すと黒鉛質に変質し、熱伝導率が高くなるなどの変質が起こるようになる。そのため、1700℃以下の温度でCVD工程を実施することにより、炭素繊維の黒鉛質への変質を抑制し、成形体の断熱性を維持することができる。
【0132】
(変形工程)
なお、成形体準備工程で準備される成形体の外形形状は、最初から円筒形でなくてもよい。
例えば、成形体準備工程で、平面視略矩形形状の成形体(シート状成形体)を作製し、これを変形工程により筒形状に変形させてもよい。
なお、下地層形成工程及び/又は熱分解炭素層形成工程を行う場合、変形工程は下地層形成工程及び熱分解炭素層形成工程よりも前に行うことが好ましい。
【0133】
シート状成形体は、例えば、長手方向に対向する第1端面及び第2の端面と、該長手方向に直交する厚さ方向に対向する第1主面及び第2主面と、該長さ方向及び該厚さ方向に直交する幅方向に対向する第1側面及び第2側面を有する平面視略矩形形状であってもよい。
【0134】
シート状成形体における第1端面と第2端面の間の距離は、シート状成形体の長さであり、断熱部材の内周の長さに相当する。
【0135】
シート状成形体における第1主面と第2主面の間の距離は、シート状成形体の厚さであり、断熱部材の厚さに相当する。
【0136】
シート状成形体における第1側面と第2側面の間の距離は、シート状成形体の幅であり、断熱部材の高さに相当する。
【0137】
シート状成形体を変形させて断熱部材とする際、シート状成形体の第1端面及び第2端面は、互いに分離可能な状態で接していてもよく、炭素系接着材等で接合されていてもよく、糸等で縫合されていてもよい。糸は、焼成により焼失するものであってもよく、焼成により焼失しないものであってもよい。
【0138】
[炭素製フィルムの製造方法]
本発明の断熱材を構成する炭素製フィルムは、例えば、黒鉛を酸処理して得られる膨張黒鉛をフィルム状に圧縮成形して炭素製フィルム基材を得る成形工程を含む方法で得ることができる。
また、市販品を用いてもよい。
【0139】
炭素製フィルムを変形させて円筒形状とする際、炭素製フィルムの第1端面及び第2端面は、互いに分離可能な状態で接していてもよく、炭素製接着材等で接着されていてもよく、糸等で縫合されていてもよい。糸は、焼成により焼失するものであってもよく、焼成により焼失しないものであってもよい。
【0140】
また、炭素製フィルムは、筒形状に変形させた際に、第1端面と第2端面とが重なっていてもよい。
【0141】
炭素製フィルム基材の表面には熱分解炭素層を形成してもよい。
熱分解炭素層を形成しない場合、炭素製フィルム基材が炭素製フィルムとなる。
【0142】
炭素製フィルム基材の表面に熱分解炭素層を形成する方法は特に限定されないが、例えば、CVD炉を用いて化学気相成長により熱分解炭素層を形成する方法が挙げられる。
CVD炉を用いて熱分解炭素層を形成する工程をCVD工程ともいう。
CVD工程は、断熱部材の製造方法において説明したCVD工程と同様の工程である。
【0143】
[断熱材の製造方法]
上記手順により得られた炭素製フィルム及び断熱部材を組み合わせることで、本発明の断熱部材を得ることができる。
具体的には、発熱体を収容するための空間を覆うように断熱部材を配置し、断熱部材の発熱体側の面に炭素製フィルムを配置することで、本発明の断熱材を得ることができる。
【0144】
本発明の断熱材は、例えば、加熱炉等の加熱装置に好適に用いることができる。
本発明の断熱材を構成する断熱部材が炭素繊維の抄造体である場合には、特に、誘導加熱炉に好適に用いることができる。
また本発明の断熱材は、例えば、SiやSiCの単結晶成長装置において、るつぼを保温(断熱)するための断熱材として好適に用いることができる。
【0145】
本明細書には以下の事項が開示されている。
【0146】
本開示(1)は発熱体の周囲を覆う断熱材であって、
炭素繊維からなる断熱部材と、前記断熱部材の発熱体側の面に配置される炭素製フィルムと、を備え、
前記炭素製フィルムが、500μm未満の厚さであり、
前記断熱部材と前記炭素製フィルムとは、互いに分離可能な状態で配置されている、ことを特徴とする断熱材である。
【0147】
本開示(2)は前記炭素製フィルムは、発熱体側の表面に、熱分解炭素を含む熱分解炭素層を有する、本開示(1)に記載の断熱材である。
【0148】
本開示(3)は前記熱分解炭素層は、厚さが2~60μmである、本開示(2)に記載の断熱材である。
【0149】
本開示(4)は前記炭素製フィルムは、黒鉛シートである、本開示(1)~(3)のいずれかとの任意の組合せの断熱材である。
【0150】
本開示(5)は前記炭素製フィルムは前記断熱部材の発熱体側の表面に、カーボンコンポジット製の固定部材で固定されている、本開示(1)~(4)のいずれかとの任意の組合せの断熱材である。
【0151】
本開示(6)は前記固定部材は、カーボンコンポジット製の針部を有する、本開示(5)に記載の断熱材である。
【0152】
本開示(7)は前記断熱部材と前記炭素製フィルムとの間に、補強部材が設けられており、
前記炭素製フィルム及び前記補強部材は、互いに炭素系接着材で接合されており、
前記断熱部材と前記補強部材とは、互いに分離可能な状態で接している、本開示(1)~(6)のいずれかとの任意の組合せの断熱材である。
【0153】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0154】
(実施例1)
[断熱部材の製造]
[成形体準備工程]
炭素繊維(平均繊維径:13μm、平均繊維長:3.3mm)を抄造法により成形し、炭素繊維からなる円筒形状の成形体(内径95mm、高さ190mm、厚さ:10mmの円筒形状)を得た。
この成形体を不活性雰囲気下で2000℃に加熱して、成形体に含まれる有機バインダ(フェノール樹脂)を炭素化して、断熱部材を得た。
なお、断熱部材の嵩密度を測定したところ、0.18g/cm3であった。
【0155】
[炭素製フィルムの準備]
カネカ製グラフィニティ(登録商標)(厚さ:40μm)を長さ300mm×幅190mmの平面視略矩形形状に打ち抜いて炭素製フィルムを準備した。
【0156】
[断熱材の製造]
断熱部材の内側の空間に炭素製フィルムを挿入して、カーボンコンポジット製の固定部材を用いて、炭素製フィルムを断熱部材の内側表面に固定することにより、実施例1に係る断熱材を製造した。
カーボンコンポジット製の固定部材は半鎹状(L字)であり、針部の厚さは1mm、幅3mm、断熱材に侵入させる長さ10mm、炭素製フィルム面に平行な部分の長さ5mmであった。
【0157】
(実施例2)
炭素製フィルムの発熱体側の表面に厚さ20μmの熱分解炭素層を形成したほかは、実施例1と同様の手順で、実施例2に係る断熱材を製造した。
【0158】
(比較例1)
断熱部材の内側表面に炭素製フィルムを配置しなかったほかは、実施例1と同様の手順で、比較例1に係る断熱材を製造した。
【0159】
[消耗試験]
黒鉛製るつぼ(外径95mm、内径90mm、高さ190mmの円筒形状)にSiC粉末を入れ、蓋をした状態で、各実施例及び比較例に係る断熱材の内側の空間に挿入し、還元性雰囲気で、高周波誘導加熱により2400℃で24時間加熱した。
加熱終了後に、断熱材の内側からるつぼを取り出した後、断熱材のるつぼ側の表面を目視で観察した。
実施例1に係る断熱材では、炭素製フィルムの表面が劣化していることを確認できたが、断熱部材の劣化は確認できなかった。実施例2に係る断熱材では、熱分解炭素層の劣化が確認できたが、炭素製フィルム基材及び断熱部材の劣化は確認できなかった。そのため、実施例1については、炭素製フィルムを交換する必要はあるものの、断熱部材の交換は不要と判断した。また、実施例2については、炭素製フィルムの交換が不要と判断した。
一方、比較例1に係る断熱材では、断熱部材が劣化しており、断熱部材の交換が必要と判断した。
【0160】
[交換性の確認]
実施例1に係る断熱材につき、カーボンコンポジット製の固定部材を引き抜いた後は、炭素製フィルムを断熱部材から容易に分離することができた。また、新しい炭素製フィルムを断熱部材の内側に挿入し、カーボンコンポジット製の固定部材で固定することで、炭素製フィルムを断熱部材の表面に容易に固定することができた。
【0161】
以上のことから、本発明の断熱材は、交換コストを低減できることを確認した。
【符号の説明】
【0162】
1、2、3 断熱材
10 炭素製フィルム
10a 炭素製フィルムの発熱体側の面(第1主面)
10b 炭素製フィルムの発熱体側の面とは反対側の面(第2主面)
10c 炭素製フィルムの端面
10’ 劣化が進行した炭素製フィルム
11 炭素製フィルム基材
12 熱分解炭素層
12a 炭素製フィルムの第1主面側に設けられる熱分解炭素層
12b 炭素製フィルムの第2主面側に設けられる熱分解炭素層
12c 炭素製フィルムの端面側に設けられる熱分解炭素層
20 断熱部材
20a 断熱部材の発熱体側の面(第1主面)
20b 断熱部材の発熱体側の面とは反対側の面(第2主面)
20c 断熱部材の端面
30 発熱体を収容する空間
40 固定部材
41 針部
43 釘頭
50 発熱体(るつぼ)
51 空洞
70 誘導加熱用コイル
100 加熱装置
110 補強部材